(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-02
(45)【発行日】2024-05-14
(54)【発明の名称】乳化組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 8/31 20060101AFI20240507BHJP
A61K 8/55 20060101ALI20240507BHJP
A61K 8/92 20060101ALI20240507BHJP
A61K 8/34 20060101ALI20240507BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20240507BHJP
A61K 8/81 20060101ALI20240507BHJP
A61K 8/06 20060101ALI20240507BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
A61K8/31
A61K8/55
A61K8/92
A61K8/34
A61K8/73
A61K8/81
A61K8/06
A61Q19/00
(21)【出願番号】P 2019117927
(22)【出願日】2019-06-25
【審査請求日】2022-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】501296380
【氏名又は名称】コスメディ製薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】権 英淑
(72)【発明者】
【氏名】田中 弘
(72)【発明者】
【氏名】神山 文男
【審査官】田中 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-201691(JP,A)
【文献】特開2016-222544(JP,A)
【文献】特開2009-256377(JP,A)
【文献】特開2009-046472(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
A61P 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ワセリン、
(B)水素添加レシチン、
(C)固形油、
(D)水、及び
(E)水溶性高分子
を含有し、
(A)ワセリンの含有量は45~65質量%であり、
(B)水素添加レシチンの含有量は0.5~5質量%であり、(C)固形油の含有量は0.1~5質量%であり、(D)水の含有量は30
質量%以上45質量%未満であり、W/O型である乳化組成物。
【請求項2】
前記(B)水素添加レシチンの含有量が1~3.5質量%であることを特徴とする請求項1に記載の乳化組成物。
【請求項3】
前記(C)固形油が、セレシンおよびパラフィンから選択される炭化水素、キャンデリラロウ、カルナウバロウおよびマイクロクリスタリンワックスから選択されるロウ、セタノール、ステアリルアルコールおよびベヘニルアルコールから選択される飽和高級アルコールからなる群より選択される少なくとも1種であり、(C)固形油の総含有量が0.5~5質量%であることを特徴とする請求項1又は2に記載の乳化組成物。
【請求項4】
前記(D)水の含有量が30~40質量%であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の乳化組成物。
【請求項5】
前記(E)水溶性高分子が、セルロース系高分子、ビニル系高分子、アクリル酸系高分子、微生物系高分子、及びムコ多糖類からなる群より選択される少なくとも1種の高分子であることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の乳化組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワセリンを主成分とする乳化組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚の乾燥に起因する症状の治療、予防又は改善において、従来、皮膚の閉塞性を向上させ、皮膚からの水分蒸散を低減するために、ワセリンが基剤として使用されてきた。しかしながら、ワセリンは水を含有できないため、皮膚への水分の供給ができず、さらに、ワセリンは半固形状であるので、乾燥症状を示す皮膚に広範囲に塗布しづらく、塗布後のべたつき感が顕著であるため、使用感の点でも問題があった。
【0003】
このような問題を解決するために、ワセリンを含有する基剤として、乳剤、クリーム等の乳化組成物も使用されている。このような乳化組成物の製造においては、界面活性剤の使用が必須であるが、汎用されている界面活性剤には皮膚刺激性を示すものが少なくない。さらに、十分な皮膚の閉塞性と皮膚からの水分蒸散の低下効果を得るには、ワセリンの配合量を増やす必要があるが、それに伴って乳化に必要な界面活性剤の量が増加する。
【0004】
乾燥症状を示す皮膚は、そのバリア機能が低下し、外からの刺激等に対して敏感な状態にある。このような皮膚が敏感な状態の消費者の使用に供するには、乳化組成物の皮膚刺激性を低減する必要がある。そのためには、皮膚刺激性が低い界面活性剤を用いるか、或いは界面活性剤の使用量を低減することが有効であると考えられる。しかしながら、皮膚刺激性が低い界面活性剤は乳化力の弱いものが多いため安定な乳化系が得られないことが多く、また界面活性剤の使用量を低減した場合にも、同様に乳化安定性の低下といった問題が生じていた。
【0005】
従来、W/O型乳化組成物の安定性を向上する方法として、液状油性基剤に液状油性成分のゲル化剤を加えてゲル化させ、特定の油中水型界面活性剤により水と混合して乳化させる方法が知られている(特許文献1)。しかし、上記W/O型乳化組成物はゲル化剤としてデキストリン脂肪酸エステルのような油性ゲル化剤を用いるため、べたつきが生じ、使用感の面で課題があった。
【0006】
また、特許文献2及び3にも、高配合量のワセリン、グリセリン、皮膚刺激性の低いレシチンなどの界面活性剤を使用して得られる乳化組成物が開示されている。特許文献2及び3の乳化組成物に関しては、ワセリンの含有量が高配合になるため、べたつき感が強く、使用上の観点から望ましくない。特許文献3にも記載されているように、過酷な条件下での保存安定性に問題がある。
【0007】
特許文献4には流動パラフィン、スクワラン及び白色ワセリンからなる油性成分と、セレシンを乳化組成物全質量に対し高含有するW/O型乳化組成物が記されているが、セレシンなどの固形油類が多くなると、乳化組成物の安定性は増すが、乳化物が滑らかでなくなり、かつ使用感的にも好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第3509108号
【文献】特開2001-72581号公報
【文献】特開2003-95956号公報
【文献】国際公開第2014/171507号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、皮膚の閉塞性を向上させ、皮膚からの水分蒸散を低減するために十分な量のワセリンを含有しながらも使用感に優れ、皮膚に十分な水分を与えることが可能で、かつ持続的で良好な保湿性を有し、さらに低刺激性と保存安定性とを兼ね備えた乳化組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、皮膚からの水分蒸散を低減するために十分な量の(A)ワセリンを含有し、皮膚刺激性の低い界面活性剤として(B)水素添加レシチンを含有し、また使用感触および組成物の安定性向上のために(C)固形油、(D)水、(E)水溶性高分子を含有するW/O型の乳化組成物を提供することにより、上記課題を解決することを見出した。
【0011】
すなわち本発明は、(A)ワセリン、(B)水素添加レシチン、(C)固形油、(D)水、及び(E)水溶性高分子を含有するW/O型の乳化組成物で、かつ乳化組成物中で(A)ワセリンの含有量が最も多いことを特徴とする乳化組成物である。さらに、(B)水素添加レシチンの配合量が0.5~5質量%であり、(C)固形油の含有量が0.1~5質量%であり、(D)水の含有量が30~45質量%未満であることを特徴とする乳化組成物である。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、皮膚の閉塞性を向上させ、皮膚からの水分蒸散を低減するために十分な量のワセリンを含有しながらも使用感に優れ、皮膚に十分な潤いを与えることができ、かつ持続的で良好な保湿性を有し、低刺激性と保存安定性とを兼ね備える乳化組成物が提供される。また、本発明の乳化組成物は、保湿性にも優れるので、皮膚の乾燥に起因する症状、及び/又は皮膚の乾燥に起因する症状を示す疾患の治療、予防又は改善のための乳化組成物等として有用である。さらに、アトピー性皮膚炎等の症状の治療、予防又は改善のための組成物としても有用である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明で用いられるワセリンとしては、通常軟膏用途に広く用いられている、例えば、Sonneborn社のPerfectaなどの市販品ワセリンが挙げられる。好ましくは、特殊な水素化反応技術により精製された高品質のワセリンで、ワセリン中に微量含まれる不飽和化合物、芳香族化合物、硫黄化合物などの不純物が除去され、紫外線吸収の影響をほとんど受けず、物理的、化学的変化に対して安定で皮膚刺激がほとんどない、安全性に優れているワセリンとして、例えば、サンホワイトP-150(日興リカ株式会社)等が挙げられる。さらに好ましくは、ワセリン中に含まれる不純物をカラム吸着精製で処理した、無色で優れた酸化安定性と耐光性、軽い感触で優れた延びをし、従来のワセリンのべたつきを改善するとともに極性物質を除去することにより安全性の高いワセリンとして、例えばクロラータムV(クローダジャパン株式会社)のようなワセリンが挙げられる。
【0014】
さらに、本発明におけるワセリンは、石油から得た炭化水素類の混合物を脱色して精製したもので、分岐鎖を有するパラフィン(イソパラフィン)および脂環式炭化水素(シクロパラフィン、ナフテン)を含む半固形状の炭化水素類の混合物である。石油から得られる炭化水素類には常温で液体の流動パラフィンや、常温で固形の直鎖状炭化水素(ノルマルパラフィン)が主成分であるパラフィンワックス、分岐炭化水素(イソパラフィン)や飽和環状炭化水素(シクロパラフィン)が主成分であるマイクロクリスタリンワックスなどが存在する。本発明で用いるワセリンは、石油から得た炭化水素類の混合物を脱色して精製したもので、常温で半固形状のものであり、融点が40~65℃の、石油から得た炭化水素類の混合物である。
【0015】
本発明におけるワセリンの含有量は、乳化組成物中の水の量より多く、通常、乳化組成物全量に対して45~65質量%であり、好ましくは45~60質量%であり、最も好ましくは45~55質量%である。
【0016】
本発明における皮膚刺激性の低い界面活性剤の水素添加レシチンとしては、通常、大豆リン脂質や卵黄レシチンを水素添加したものが用いられる。例えば、水素添加大豆リン脂質としては、NIKKOLレシノールS-10(PC含量25~30%)、NIKKOLレシノールS-10M(PC含量55~65%)、NIKKOLレシノールS-10E(PC含量75~85%)(日光ケミカルズ株式会社製)、またベイシスLP-20H(日清オイリオグループ株式会社製)、COATSOME NC-21(日油株式会社)なども利用することができる。
水素添加卵黄レシチンとしては、例えば卵黄レシチンPL-100P(キューピー株式会社)を利用することができる。
好ましくはNIKKOLレシノールS-10(PC含量25~30%)、ベイシスLP-20H(日清オイリオグループ株式会社製)、卵黄レシチンPL-100P(キューピー株式会社)を利用することができる。さらに好ましくは、NIKKOLレシノールS-10(PC含量25~30%)、卵黄レシチンPL-100P(キューピー株式会社)を利用することができる。
【0017】
水素添加レシチンの含有量は、乳化組成物全量に対して0.5~5質量%が好ましく、さらに好ましくは1~3.5質量%であり、最も好ましいのは1.5~2.5質量%である。界面活性剤の含有量が少ない場合は乳化組成物の保存安定性が悪くなり、また逆に多すぎる場合は、乳化の状態が悪く滑らかな組成物が得られない。
【0018】
本発明で用いられる固形油としては、常温で固形状の油性成分であればいずれでもよい。例えば、パラフィンワックス、セレシンワックス、マイクロクリスタリンワックス、モクロウ、モンタンワックスなどの炭化水素類、キャンデリラワックス、ミツロウ、ラノリンワックス、カルナウバワックスなどのロウ類、トリベヘン酸グリセリルなどの油脂類、ステアリン酸、ミリスチン酸、ベヘニン酸などの高級脂肪酸類、ステアリルアルコール、セチルアルコール、ベヘニルアルコールなどの高級アルコール類などが挙げられ、これらを1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。本発明には好ましくは、セレシンワックス、マイクロクリスタリンワックス、キャンデリラワックス、カルナウバワックス、セチルアルコール、ベヘニルアルコールが利用でき、さらに好ましくはセレシンワックス、マイクロクリスタリンワックス、キャンデリラワックス、セチルアルコールが利用できる。
【0019】
固形油の含有量は、乳化組成物全量に対して、通常は0.1~5質量%、好ましくは0.5~5質量%、より好ましくは1~3質量%である。固形油の含有量が少ない場合は、乳化組成物が軟らかくなりすぎるとともに、保存安定性も悪くなる。また固形油の含有量が多くなりすぎると、乳化組成物の滑らかさがなくなり、使用感触的に悪い状態の乳化組成物になる。
【0020】
水の含有量は、乳化組成物全量に対して30~45質量%未満であり、かつワセリンの含有量が水より多いことを特徴とする。このため、通常は、30~45質量%未満、好ましくは30~40質量%、より好ましくは35~40質量%である。乳化組成物中の水の含有量が少なくなると、滑らかな使用感が無くなり、ワセリンのべたつき感が強くなり、良好な使用感の乳化組成物が出来なくなる。
【0021】
本発明で用いられる水溶性高分子としては、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース系高分子;ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルメチルエーテル等のビニル系高分子;ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸部分中和物、アクリル酸・メタクリル酸アルキルエステル共重合体等のアクリル酸系高分子;キサンタンガム、デキストラン、プルラン等の微生物系高分子;コンドロイチン硫酸、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸ナトリウム等のムコ多糖類;等が挙げられる。これらの水溶性高分子は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0022】
本発明で用いられる水溶性高分子は、セルロース系高分子ではカルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースが好ましく、ビニル系高分子ではポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマーが好ましく、アクリル酸系高分子ではポリアクリル酸ナトリウム、アクリル酸・メタクリル酸アルキルエステル共重合体等が好ましく、微生物系高分子ではキサンタンガム、プルランが好ましく、ムコ多糖類ではヒアルロン酸、ヒアルロン酸ナトリウムが好ましい。中でも、カルボキシビニルポリマー、アクリル酸・メタクリル酸アルキルエステル共重合体、キサンタンガム、ヒアルロン酸ナトリウムが特に好ましい。
【0023】
本発明における水溶性高分子の含有量は、本発明の効果を奏する限り特に制限されないが、乳化組成物全量に対して、通常0.01~3質量%、好ましくは0.05~1.5質量%であり、最も好ましいのは0.1~1質量%である。
【0024】
本発明の乳化組成物には、上記成分の他に、本発明の目的・効果を損なわない限りにおいて、通常化粧品に用いられる他の成分を必要に応じて適宜配合することができる。このような成分としては、油溶性高分子、高分子粉末、アルコール類、液体油脂、エステル油、炭化水素油、脂肪酸エステル、各種薬剤、有機変性粘土鉱物等が挙げられる。また、美白剤、抗シワ剤、保湿剤、抗炎症剤、酸化防止剤、防腐剤、ビタミン類などの有用成分を必要に応じて適宜配合することができるが、これら例示に限定されるものではない。
【0025】
例えば美白剤としては、プラセンタ、アルブチン、コウジ酸、ハイドロキノン、エチルアスコルビン酸、アスコルビン酸リン酸ナトリウム、アスコルビン酸リン酸マグネシウム塩、アスコルビン酸グルコシドなどのビタミンC類や、カンゾウエキス、ソウハクヒエキス等の植物に由来する成分;抗シワ剤としては、コエンザイムQ10等のユビキノン、カイネチン、アルジルリン、アセチルグルコサミン、コラーゲン、レチノール、パルミチン酸レチノール、レチナール、レチノイン酸、レチノイン酸トコフェリル、β-カロチン、酢酸トコフェロール;保湿剤としては、ポリエチレングリコール、トレハロース、ヘパリン類似物質、コラーゲン、エラスチン、尿素、ピロリドンカルボン酸ナトリウム等の天然保湿因子、セラミド1、セラミド2、セラミド3、セラミド4、セラミド5、セラミド6I、セラミド6II、セラミド7等のセラミド類;抗炎症剤としては、カンゾウ抽出物、グリチルリチン酸ステアリル、グリチルリチン酸二カリウム、グリチルリチン酸モノアンモニウム等のグリチルリチン酸誘導体;グリチルレチン酸又はその誘導体;アラントイン又はその誘導体;抗酸化剤としては、トコフェロール、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム・二水和物、ソルビン酸、亜硫酸ナトリウム等;防腐剤としては、パラベン、安息香酸、デヒドロ酢酸ナトリウム、フェノキシエタノール、サリチル酸、プロパンジオール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、カプリリルグリコール、エチルヘキシルグリセリン等;ビタミン類としては、リボフラビン、フラビンモノヌクレオチド、フラビンアデニンジヌクレオチドなどのビタミンB2誘導体、ニコチン酸メチル、ニコチン酸、ニコチン酸アミドなどのニコチン酸類;チアミン塩酸塩、チアミンモノリン酸塩等のビタミンB1類、塩酸ピリドキシン、塩酸ピリドキサール、ピリドキシン環状リン酸、塩酸ピリドキサミン等のビタミンB6類、シアノコバラミン、デオキシアデノシルコバラミン等のビタミンB12類などが例示される。
【0026】
本発明の乳化組成物の製造方法は、特段限定されることはなく、常用される方法で行えば良い。油相および水相を加温溶解し、撹拌を加えながら油相と水相を混合し、乳化する。乳化後、撹拌しながら室温まで冷却し、乳化組成物を得る。混合は、乳化剤の種類や量、また、製剤の使用目的等によってホモミキサー,コロイドミル,ホモジナイザー,プロペラ型ミキサーの乳化機を使用して行う。
【0027】
本発明について以下に実施例を挙げてさらに詳述するが、本発明はこれによりなんら限定されるものではない。含有量は特記しない限り質量%で示す。
【0028】
実施例の説明に先立ち、本発明で用いた評価試験の方法について説明する。
【0029】
(1)乳化組成物の状態
10名の専門パネラーによる実使用性試験を行った。各乳化組成物を塗布した時、乳化組成物の状態が滑らかで、艶があることを以下の基準により判定した。
◎:10名中、8名以上が滑らかで艶があると回答した。
○:10名中、4~7名が滑らかで艶があると回答した。
×:10名中、3名以下が滑らかで艶があると回答した。
【0030】
(2)乳化組成物を塗布したときの肌の閉塞性
10名の専門パネラーによる実使用性試験を行った。各乳化組成物を塗布した時、乳化組成物が皮膚の閉塞性があることを以下の基準により判定した。
◎:10名中、8名以上が皮膚の閉塞性が高いと回答した。
〇:10名中、4~7名が皮膚の閉塞性が高いと回答した。
×:10名中、3名以下が皮膚の閉塞性が高いと回答した。
【0031】
(3)保存安定性
50℃恒温器に放置し、乳化組成物の状態を観察し評価を行った。
◎:2週間以上放置しても良好な乳化状態を保った。
〇:1週間以上放置しても良好な乳化状態を保った。
×:良好な乳化状態を保てたのは1週間以下であった。
【実施例】
【0032】
(表1に示した実施例1~5、比較例1~2の各乳化組成物の調製方法)
表1に示すアクリレーツ/アクリル酸アルキル(C10-30)クロスポリマー(Pemulen TR-2 Lubrizol Advanced Materials社)、プロパンジオール(Zemea Select DuPont Tate & Lyle Bio Products社)、L-アルギニン(味の素株式会社)に精製水を加えてよく分散し、約80℃に加熱した。水素添加レシチン(NIKKOL レシノール S-10 日光ケミカル株式会社)、キャンデリラワックス(精製キャンデリラワックスMK-4 横関油脂工業株式会社)、マイクロクリスタリンワックス(Multiwax W-835 Sonneborn社)、ワセリン(クロラータムV クローダジャパン株式会社)からなる油相原料を約80℃に加熱溶解し、水相に添加しホモミキサー処理をして乳化した。その後、冷却してW/O型の各乳化組成物を得た。
【0033】
【0034】
表1から明らかなように、水素添加レシチンを乳化組成物全体に対して0.5~5質量%含有した組成物は、乳化状態の評価が高かったが、0.5質量%より含有量が低いものや、5質量%を超えて含有する場合は、乳化の状態が悪く滑らかで艶のある組成物が得られなかった。
【0035】
(実施例6~10、比較例3~4の各乳化組成物の調製方法)
表2に示すアクリレーツ/アクリル酸アルキル(C10-30)クロスポリマー(Pemulen TR-2 Lubrizol Advanced Materials社)、プロパンジオール(Zemea Select DuPont Tate & Lyle Bio Products社)、L-アルギニン(味の素株式会社)に精製水を加えてよく分散し、約80℃に加熱した。水素添加レシチン(NIKKOL レシノール S-10 日光ケミカル株式会社)、キャンデリラワックス(精製キャンデリラワックスMK-4 横関油脂工業株式会社)、マイクロクリスタリンワックス(Multiwax W-835 Sonneborn社)、セレシン(日興リカ株式会社)、セタノール(高級アルコール工業株式会社)、ベヘニルアルコール(高級アルコール工業株式会社)、パラフィン(日興リカ株式会社)、ワセリン(クロラータムV クローダジャパン株式会社)からなる油相原料を約80℃に加熱溶解し、水相に添加しホモミキサー処理をして乳化した。その後、冷却してW/O型の各乳化組成物を得た。
【0036】
【0037】
表2から明らかなように、本発明における固形油の含有量は、乳化組成物全量に対して1~3質量%の範囲内である実施例1、実施例6-8では乳化組成物の状態が非常に良好、実施例9-10では良好であったが、比較例3のように固形油を含まない場合は、乳化組成物が軟らかくなりすぎるとともに、保存安定性も悪くなった。また比較例4のように固形油の含有量が多くなりすぎると、乳化組成物の滑らかさがなくなり、状態の悪い乳化組成物になった。
【0038】
(実施例1、11~12、比較例5~7の各乳化組成物の調製方法)
表3に示すアクリレーツ/アクリル酸アルキル(C10-30)クロスポリマー(Pemulen TR-2 Lubrizol Advanced Materials社)、プロパンジオール(Zemea Select DuPont Tate & Lyle Bio Products社)、L-アルギニン(味の素株式会社)に精製水を加えてよく分散し、約80℃に加熱した。水素添加レシチン(NIKKOL レシノール S-10 日光ケミカル株式会社)、キャンデリラワックス(精製キャンデリラワックスMK-4 横関油脂工業株式会社)、マイクロクリスタリンワックス(Multiwax W-835 Sonneborn社)、ワセリン(クロラータムV クローダジャパン株式会社)からなる油相原料を約80℃に加熱溶解し、水相に添加しホモミキサー処理をして乳化した。その後、冷却してW/O型の各乳化組成物を得た。
【0039】
【0040】
表3から明らかなように、本発明における水の含有量は、乳化組成物全量に対して30~45質量%未満の範囲内である実施例1、実施例11-12では乳化組成物の皮膚の閉塞性、乳化組成物の状態、保存安定性とも良好であったが、比較例5のように水の量が45質量%より多い場合は、乳化組成物を皮膚に塗布したときの閉塞性が十分でなく、また、乳化組成物の保存安定性の評価も悪くなった。また、比較例6、7のように水の含有量が少なく、ワセリンの含有量が多い場合は、皮膚の閉塞性は高いが乳化組成物の状態、保存安定性とも悪い乳化組成物しかできなかった。
【0041】
(実施例13~18の各乳化組成物の調製方法)
表4に示すアクリレーツ/アクリル酸アルキル(C10-30)クロスポリマー(Pemulen TR-2 Lubrizol Advanced Materials社)、カルボキシビニルポリマー(ハイビスワコー104 富士フイルム和光純薬株式会社)、キサンタンガム(ノムコートZ 日清オイリオグループ株式会社)、ヒアルロン酸Na(ヒアルロン酸FCH-200 キッコーマンバイオケミファ株式会社)、カルボキシメチルセルロース(CMC 1160 ダイセルファインケム株式会社)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC CF-W 住友精化株式会社)、プルラン(株式会社林原)、プロパンジオール(Zemea Select DuPont Tate & Lyle Bio Products社)と精製水、また必要に応じてL-アルギニン(味の素株式会社)を加えてよく分散し、約80℃に加熱した。水素添加レシチン(NIKKOL レシノール S-10 日光ケミカル株式会社)、キャンデリラワックス(精製キャンデリラワックスMK-4 横関油脂工業株式会社)、マイクロクリスタリンワックス(Multiwax W-835 Sonneborn社)、ワセリン(クロラータムV クローダジャパン株式会社)からなる油相原料を約80℃に加熱溶解し、水相に添加しホモミキサー処理をして乳化した。その後、冷却してW/O型の各乳化組成物を得た。
【0042】
【0043】
表4から明らかなように、本発明に用いる水溶性高分子としては、アクリル酸・メタクリル酸アルキルエステル共重合体、カルボキシビニルポリマー、キサンタンガム、ヒアルロン酸ナトリウムを0.1~1質量%用いることで非常に良好な状態の乳化組成物が得られることが明らかとなった。また、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、プルランを用いることによっても良好な状態の乳化組成物が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明により、ワセリンを高含有する乳化組成物において、皮膚安全性が高く、かつ乳化状態が良く、保存安定性に優れた乳化組成物の提供が可能となった。本乳化組成物は、肌荒れにより水分保持能が低下した皮膚や、アトピー性皮膚炎の患者にも有用な乳化組成物である。