(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-02
(45)【発行日】2024-05-14
(54)【発明の名称】セラミックス多孔質体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/28 20230101AFI20240507BHJP
C01B 39/20 20060101ALI20240507BHJP
B01J 20/18 20060101ALI20240507BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20240507BHJP
C01B 39/46 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
C02F1/28 N
C01B39/20
B01J20/18 B
B01J20/30
C01B39/46
(21)【出願番号】P 2019203764
(22)【出願日】2019-11-11
【審査請求日】2022-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】391066490
【氏名又は名称】日本ゼトック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】濱本 祥吾
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 みずき
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-523424(JP,A)
【文献】特開2007-083181(JP,A)
【文献】特表2010-540215(JP,A)
【文献】特開昭50-046631(JP,A)
【文献】特開2014-113525(JP,A)
【文献】特表2014-521494(JP,A)
【文献】Environmental Science & Technology,2013年,vol.47,pp.5843-5850
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/28
C01B 39/46
C01B 39/20
B01J 20/18
B01J 20/30
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化ケイ素及び酸化アルミニウムを含む結晶性化合物を焼成してなる、セラミックス多孔質体を含む、水面上に浮遊する汚染物質の浄化用又は該汚染物質による汚染の予防用
の水浮上性水質浄化剤であって、
前記汚染物質が油であり、前記二酸化ケイ素及び酸化アルミニウムを含む結晶性化合物が、炭素数6~18のアルキル置換基を有し、前記二酸化ケイ素及び酸化アルミニウムを含む結晶性化合物が、ゼオライト13Xを除く、SiO
2/Al
2O
3のモル比2~6で、構造コードFAU又はLTAのゼオライトである、
水浮上性水質浄化剤。
【請求項2】
前記アルキル置換基が、
前記二酸化ケイ素及び酸化アルミニウムを含む結晶性化合物のケイ素原子を介して前記結晶性化合物に結合している、請求項1に記載の
水浮上性水質浄化剤。
【請求項3】
前記二酸化ケイ素及び酸化アルミニウムを含む結晶性化合物が、レーザー回折・散乱法で測定した平均粒径0.01~100μmのゼオライト粉体である、請求項1又は2に記載の
水浮上性水質浄化剤。
【請求項4】
前記アルキル置換基の炭素数が8である、請求項1~3のいずれかに記載の
水浮上性水質浄化剤。
【請求項5】
前記SiO
2/Al
2O
3のモル比が、2~3.8である、請求項1~4のいずれかに記載の
水浮上性水質浄化剤。
【請求項6】
前記二酸化ケイ素及び酸化アルミニウムを含む結晶性化合物が、Y型かつ構造コードFAUのゼオライトである、請求項1~5のいずれかに記載の
水浮上性水質浄化剤。
【請求項7】
(1)式(II):
R
1-Si-(R
2)
4-n(R
3)
n-1 (II)
(式(II)中、R
1は、直鎖又は分岐鎖の、飽和又は不飽和の、炭素数6~18を有する1価のアルキル基であり、R
2は、それぞれ独立して炭素数1~2を有する1価のアルコキシ基又はハロゲン基のいずれかであり、R
3は、それぞれ独立して水素又はメチル基のいずれかであり、nは1~3の整数である)
を有するケイ素含有化合物と、二酸化ケイ素及び酸化アルミニウムを含む結晶性化合物とを混合する工程、及び
(2)得られた混合物を空気中又は酸化性雰囲気中で焼成してセラミックス多孔質体を得る工程、
を含む、請求項1~6のいずれかに記載の
水浮上性水質浄化剤の製造方法。
【請求項8】
前記結晶性化合物が、式(I):
M
z+[(SiO
2)
x(Al
2O
3)
y]
z- (I)
(式(I)中、Mは1A~7A、8、及び1B~3B族から選択される金属原子であり、zは金属原子Mの原子価であり、x/yは2~6である)で示される、請求項
7に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセラミックス多孔質体及びその製造方法に関する。より具体的には、二酸化ケイ素及び酸化アルミニウムを含む結晶性化合物を焼成してなるセラミックス多孔質体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックス多孔質体は、多数の細孔を有する特殊な構造を利用して、触媒、吸着剤、乾燥剤、排水処理、及び肥料などの分野で利用されている。特に水面には、人の健康に被害を生ずる恐れがある油や有害有機物が浮上している場合があり、それらを除去する有効な吸着剤を提供することは今後必須の技術である。
近年、タンカーの海難事故や油井の事故による油流出は依然世界各地において発生しており、大量の重油が海沿岸各地に漂着し、自然環境や地域住民の生活に深刻な影響を及ぼしている。油の回収作業には、油ゲル化剤や油処理剤を用いた方法もあるが、油ゲル化剤や油処理剤は、利水や生態系等への影響が懸念される。油吸着材を用いた油の回収は、流出した油をオイルフェンスで包囲または集めた後、油吸着材を水面に投入し、油を吸着させて回収する方法である。現状のマット状のものは(特許文献1等)、風の影響を受けやすく、オイルフェンスは(特許文献2等)、狭くて展張できない場所では使用しにくい等の問題がある。また、特許文献3には、ゼオライトにパ─ライトを混合し、焼成して活性化した物で、水面に浮遊する油面に散布することで流出油を処理することを開示するが、油吸収後回収しにくい、又は、物理的にすぐに壊れやすく回収しにくい等の問題がある。さらに特許文献4~6は水に浮く特性を有するゼオライトに関する開示はない。従って、油を回収しやすいように、油吸着後、水面から沈みにくく、水に対する浮上性が高く、凝集しやすい新規な吸着剤が求められる。
また、水難溶性の有害有機物を分解するために、酸化チタンなどの光触媒が広く用いられている。酸化チタンによる光触媒は、光エネルギーにより得られた活性を利用することで大気浄化、脱臭、抗菌および防汚効果を発揮する。さらに水難溶性の有害有機物を含有する水を処理するためには、光触媒だけでは効率が悪いことから、オゾンや紫外線との併用が実用化されており、循環式の有害有機物分解装置などに利用されている。しかし、酸化チタンは、流水中では、粉末が固定化されず機能が発揮できない、或いは剥離が生じるという問題があった。水面に存在する水難溶性の有害有機物を回収しやすいように、有害有機物吸着前後で水面から沈みにくく、水に対する浮上性が高く、凝集しやすい新規な吸着剤が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-179222号公報
【文献】特開2003-221823号公報
【文献】特開昭48-83089号公報
【文献】特表2013-523424号公報
【文献】特表2004-536669号公報
【文献】特表2009-509053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の一つの課題は、優れた吸着性を有するセラミックス多孔質体を提供することにある。より具体的には、水面に浮上した油及び有害有機物等の汚染物質を簡便、迅速、かつ確実に吸着、回収し、除去することで、早期の環境汚染を防ぐ対策を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決すべく、本発明者らは鋭意研究を積み重ねた。その結果、炭素数6~18のアルキル鎖(アルキル置換基)を結合した二酸化ケイ素及び酸化アルミニウムを含む結晶性化合物を焼成してなるセラミックス多孔質体により、油及び有機有害物等を有意に吸着し、及び/又は、水に沈みにくい等の性質が得られることを発見し、本発明に至った。具体的には、本発明は以下の態様であり得る。
〔1〕
炭素数6~18のアルキル置換基を有し、二酸化ケイ素及び酸化アルミニウムを含む結晶性化合物を焼成してなる、セラミックス多孔質体。
〔2〕
前記アルキル置換基が、ケイ素原子を介して前記結晶性化合物に結合している、前記〔1〕に記載のセラミックス多孔質体。
〔3〕
前記二酸化ケイ素及び酸化アルミニウムを含む結晶性化合物が、ゼオライトである、前記〔1〕又は〔2〕に記載のセラミックス多孔質体。
〔4〕
前記アルキル置換基の炭素数が8である、前記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のセラミックス多孔質体。
〔5〕
前記セラミックス多孔質体中のSi/Alの原子比が、0.1~100である、前記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のセラミックス多孔質体。
〔6〕
前記二酸化ケイ素及び酸化アルミニウムを含む結晶性化合物が、構造コードFAUのゼオライトである、前記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のセラミックス多孔質体。
〔7〕
前記〔1〕~〔6〕のいずれかに記載のセラミックス多孔質体を含む、水浮上性水質浄化剤。
〔8〕
前記〔1〕~〔6〕のいずれかに記載のセラミックス多孔質体を含む、油吸着剤。
〔9〕
(1)式(II):
R1-Si-(R2)4-n(R3)n-1 (II)
(式(II)中、R1は、直鎖又は分岐鎖の、飽和又は不飽和の、炭素数6~18を有する1価のアルキル基であり、R2は、それぞれ独立して炭素数1~2を有する1価のアルコキシ基又はハロゲン基のいずれかであり、R3は、それぞれ独立して水素又はメチル基のいずれかであり、nは1~3の整数である)
を有するケイ素含有化合物と、二酸化ケイ素及び酸化アルミニウムを含む結晶性化合物とを混合する工程、及び
(2)得られた混合物を空気中又は酸化性雰囲気中で焼成する工程、
を含む、前記〔1〕~〔6〕のいずれかに記載のセラミックス多孔質体の製造方法。
〔10〕前記結晶性化合物が、式(I):
Mz+[(SiO2)x(Al2O3)y]z- (I)
(式(I)中、Mは1A~7A、8、及び1B~3B族から選択される金属原子であり、zは金属原子Mの原子価であり、x/yは2~6である)で示される、前記〔9〕に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、油及び有機有害物等を有意に吸着しつつ、水に沈みにくく、かつ水に対する浮上性が高い、水面に分散させた後でも回収しやすい水浮上性水質浄化剤、或いは油吸着剤を提供することができる。また、本発明により、油及び有害有機物等の汚染物質を簡便、迅速、かつ確実に吸着、回収し、除去することで、早期の環境汚染を防ぐことができる。さらに、本発明は、好ましくは粒状で流動性があり、散布しやすい形状となり得るため、広範囲から狭範囲の場所でも使用でき、風の影響も受けにくく、また、油や有害有機物を吸着後に凝集して塊となり、回収しやすいとの特性を有する。加えて、本発明は、上記のような特性を有するセラミックス多孔質体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】一般的なLTA型ゼオライトの骨格を示す化学構造式である。
【
図2】一般的なLTA型ゼオライトの骨格構造である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[セラミックス多孔質体]
本発明の一態様は、炭素数6~18のアルキル置換基を有し、二酸化ケイ素及び酸化アルミニウムを含む結晶性化合物を焼成してなる、セラミックス多孔質体である。当該セラミックス多孔質体について、以下詳説する。
二酸化ケイ素及び酸化アルミニウムを含む結晶性化合物としては、例えば、シリカ(フュームドシリカ若しくは沈降シリカ)、粘土(モンモリロナイト、カオリン)、ゼオライト(合成ゼオライト、天然ゼオライト)、及びパーライト等を挙げることができる。当該結晶性化合物として、好ましくは、シリカ、合成ゼオライト、天然ゼオライトからなる群より選ばれる少なくとも1種を選択でき、更に好ましくは合成ゼオライトである。
ここで、当該結晶性化合物中の二酸化ケイ素及び酸化アルミニウムのSi/Al原子比は、例えば0.1~200、好ましくは1~100、より好ましくは、2~6である。
二酸化ケイ素及び酸化アルミニウム以外にも、他の金属又は金属化合物が結晶性化合物に含まれていてもよい。他の金属又は金属化合物中の金属としては、4A~7A、8、及び1B~3B族から選択される金属原子であり、より好ましくはAg、Cu、Zn、Snである。金属化合物としては、酸化物、窒化物、炭化物、ホウ化物等を挙げることができる。結合性化合物中に含まれる他の金属又は金属化合物の質量割合は、当該結晶性化合物を100質量%とした場合、0.1~30質量%、好ましくは1~20質量%であってもよい。
【0009】
ここで「ゼオライト」とは、二酸化ケイ素(シリカ)及び/又は酸化アルミニウム(アルミナ)を含有する、結晶性アルミノケイ酸塩であって、酸化物セラミックス系多孔質材料とも呼ばれる多孔質結晶である。一般に、ゼオライトが有する結晶構造(骨格構造ともいう。)の基本的な単位は、ケイ素原子又はアルミニウム原子を取り囲んだ4個の酸素原子からなる四面体(TO4四面体構造、TはSi及び/又はAl)であり、これらが3次元方向に連なって結晶構造を形成している。ゼオライトの一般的な組成は、以下の式(I):
Mz+[(SiO2)x(Al2O3)y]z- (I)
(式(I)中、Mはイオン交換可能なカチオン種であって、通常、1価又は2価の金属を表し、zはMの原子価であり、x及びyは任意の整数である)
で示すことができる。好ましくは、Mは1A~7A、8、及び1B~3B族から選択される金属原子であり、より好ましくは水素イオンリチウムイオン、カルシウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン及びバリウムイオンであり、x/y(SiO2/Al2O3モル比)は、例えば0.1~200、好ましくは1~100、より好ましくは、2~6である。なお、上記式(I)で示されるゼオライトは、さらに水和物を含む一般式として表現してもよい。
【0010】
本発明で用いることができるゼオライトの結晶構造は、特に制限はなく、例えば、国際ゼオライト学会(International Zeolite Association)が定めるアルファベット3文字からなる構造コードにて表される各種の結晶構造が挙げられる。構造コードの例としては、例えば、LTA、FER、MWW、MFI、MOR、LTL、FAU、BEAの構造コードが挙げられる。また、本発明で用いる当該結晶構造の好適な一態様を結晶構造の名称で示すと、好ましくはA型、X型、β型、Y型、L型、ZSM-5型、MCM-22型、フェリエライト型及びモルデナイト型からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくはA型、X型及びY型からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、更に好ましくはX型又はY型である。
一般に合成ゼオライトは、その結晶構造中に、陽イオンを有しており、当該陽イオンが、アルミノケイ酸塩から構成される上記結晶構造中の負電荷を補償して、正電荷の不足を補っている。
【0011】
本発明で用いることができるゼオライトは、特に制限はないが、当該陽イオンとして、好ましくは、水素イオンリチウムイオン、カルシウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン及びバリウムイオンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有するゼオライトであってもよい。そして、より好ましくは、当該陽イオンとして、水素イオン、リチウムイオン、カルシウムイオン、ナトリウムイオン及びカリウムイオンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有するゼオライト、更に好ましくは水素イオン、カルシウムイオン及びナトリウムイオンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有するゼオライトであってもよい。
また、ゼオライト骨格のシリコン元素全部または一部をリン(P)などの他の元素に置換したもの及びゼオライト骨格のアルミニウム元素をボロン(B)、ガリウム(Ga)、チタン(Ti)などの他の元素に全部または一部を置換したものであってもよい。
【0012】
ゼオライトは固有の細孔径、表面電場、イオン交換能、固体酸性質、吸着能などを有し、乾燥剤、吸着剤、分子ふるい型分離剤、イオン交換剤、触媒等の用途に用いられる。ここで使用されるゼオライトの細孔径(ガス吸着法で測定)は、例えば、0.01~100Åであり、好ましくは0.1~50Åであり、より好ましくは1~10Åである。ゼオライトの粉末を使用する場合、当該ゼオライトの平均粒径は、d50%メジアン径、レーザー回折・散乱法で測定した場合、例えば、0.01~100μm、好ましくは、0.1~50μm、より好ましくは、1~10μmである。
【0013】
本発明において、炭素数6~18のアルキル置換基は、二酸化ケイ素及び酸化アルミニウムを含む結晶性化合物に結合する側鎖である。炭素数は6~18であるが、さらに、例えば炭素数6~14が好ましく、炭素数6~12がより好ましく、炭素数8~10がさらに好ましく、炭素数8が特に好ましい。当該アルキル置換基としては、炭素数が6~18であれば、直鎖でも分岐鎖であってもよく、飽和でも不飽和であってもよく、さらに置換基としてハロゲン、シクロヘキシル基、フェニル基を有していてもよいが、直鎖でかつ更なる置換基を有していないアルキル置換基が好ましい。
当該アルキル置換基は、好ましくは、上記結晶性化合物のケイ素原子を介して結合している。具体的には、結晶性化合物中の水酸基(未反応部分)にケイ素含有化合物等が結合することにより、当該アルキル置換基が結合することが好ましい。ケイ素含有化合物としては、炭素数6~18のアルキル鎖を有するシランカップリング剤が好ましく、例えば化学式(II):
R
1-Si-(R
2)
4-n(R
3)
n-1 (II)
(式(II)中、R
1は、直鎖又は分岐鎖の、飽和又は不飽和の、炭素数6~18を有する1価のアルキル基、好ましくは直鎖で不飽和の、炭素数6~14、又は炭素数8~12、又は炭素数8~10を有するアルキル基であり;R
2は、それぞれ独立して炭素数1~2を有する1価のアルコキシ基又はハロゲン基、好ましくはクロロ(Cl)基のいずれかであり;R
3は、それぞれ独立して水素又はメチル基のいずれかであり;且つ、nは1~3、好ましくは1~2である。)で示される化合物であり得る。ケイ素含有化合物として、より好ましくは、以下のような炭素数8のアルキル鎖を有するシランカップリング剤を挙げることができる。
(炭素数8シランカップリング剤の例)
【0014】
本発明のセラミックス多孔質体は、上記炭素数6~18のアルキル置換基を有し、二酸化ケイ素及び酸化アルミニウムを含む結晶性化合物を焼成してなる。ここで、焼成条件は、例えば、空気中又は酸化性雰囲気中、例えば80~300℃、好ましくは100~200℃、より好ましくは100~150℃で、例えば30分~48時間、好ましくは1時間~36時間、より好ましくは2~24時間の条件とすることができる。より具体的な本発明のセラミックス多孔質体の製造方法は、以下に述べるとおりである。
【0015】
当該セラミックス多孔質体の細孔径(ガス吸着法で測定)は、例えば、0.01~100Åであり、好ましくは0.1~50Åであり、より好ましくは1~10Åである。また、セラミックス多孔質体は、三次元網目構造を有し、(a)表面の一部又は全部に形成された酸化物系セラミックス層と、(b)前記セラミックス層以外の部分に形成された非酸化物系セラミックス部分と、を含むことが好ましい。特に、上記セラミックス多孔質体中の細孔が貫通孔(連通孔)であることが好ましい。さらに本発明のセラミックス多孔質体の平均粒径は、d50%メジアン径、レーザー回折・散乱法で測定した場合、例えば、0.01~100μm、好ましくは、0.1~50μm、より好ましくは、1~10μmである。
【0016】
[セラミックス多孔質体の特性]
本発明のセラミックス多孔質体は、水面に浮上して、水面に存在する油や有害有機物等の汚染物質を吸着・除去する性質を有する。本発明のセラミックス多孔質体は、汚染物質等を吸着する前後において、水面に浮上していることが好ましい。吸着後に水面に浮上していることで、汚染物質等を吸着したセラミックス多孔質体を容易に回収することが可能になる。
ここで、汚染物質等を吸着した後の水に対する浮上性は、汚染物質等の吸着後の浮上率で示すことができる。例えばオリーブ油等の油を回収する場合、油の吸着後、水に浮上しているセラミックス多孔質体の体積割合が使用したセラミックス多孔質体全体に対して10体積%以上であることが好ましく、より好ましくは30体積%以上、さらに好ましくは50体積%以上、特に好ましくは80体積%以上、殊更好ましくは90体積%以上であることが適当である。当該体積割合の上限は100体積%が好ましいが、90体積%以下であってもよく、80体積%以下であってもかまわない。当該体積割合の好ましい範囲は、これら下限と上限を組み合わせたものであり得る。
【0017】
油や有害有機物等の汚染物質を吸着・除去する能力は、汚染物質等の吸着量で評価することができる。当該吸着量は、例えば、所定量のセラミックス多孔質体(例えば0.5g)にオリーブ油等の汚染物質を加え、当該多孔質体へのオリーブ油等の汚染物質の吸着が終了した時点、例えば、加えたオリーブ油にセラミックス多孔質体が凝集せずに分散するようになった時点のオリーブ油添加量を当該吸着量の指標として使用することができる。例えば、本発明のセラミックス多孔質体0.5gに対し、加えられた汚染物質等の質量(吸着量の指標)が0.05g以上であることが好ましく、より好ましくは0.1g以上、さらに好ましくは0.3以上であることが適当である。当該吸着量の指標の上限は特に定める必要はないが、通常0.5g程度であり、0.3g以下であってもかまわない。当該吸着量の指標の好ましい範囲は、これら下限と上限を組み合わせたものであり得る。
【0018】
また、本発明のセラミックス多孔質体は、水面に浮上して汚染物質等を吸着/除去した後、凝集して固まりとなる性質を有し、凝集したセラミックス多孔質体を簡便に除去できる性質を有する。これにより汚染物質等を確実に吸着、回収し、除去するとともに、汚染の拡大を防ぐことができる。例えばオリーブ油等の油を回収する場合、油の吸着後、水面には当該凝集した固まり1つと、オリーブ油を吸着せずに残存している複数の試料粉末が混在している。この凝集した固まり1つを網杓子等ですくい上げて回収し、その体積を測定する。当該測定した体積は、当初使用したセラミックス多孔質体の体積に対して10体積%以上であることが好ましく、より好ましくは30体積%以上、さらに好ましくは50体積%以上、特に好ましくは80体積%以上、殊更好ましくは90体積%以上であることが適当である。当該体積割合の上限は100体積%が好ましいが、90体積%以下であってもよく、80体積%以下であってもかまわない。当該体積割合の好ましい範囲は、これら下限と上限を組み合わせたものであり得る。
【0019】
[セラミックス多孔質体の用途]
本発明のセラミックス多孔質体は、汚染の浄化又は予防用の組成物として有用である。特に、水面上に浮遊する油、有機物等の(汚染)物質を吸着、回収、除去できる組成物として有用である。上述の通り理論に縛られないが、本発明の多孔質体は、主に多孔質部分に汚染物質等を取り込むことによって、汚染の浄化又は予防を行うことができると考えられる。油としては、例えば、重油、軽油、ガソリン及び石油等の石油原料、植物油、ごま油、油脂、オリーブ油、綿実油、ピーナッツ油、大豆油、ココナッツ油等の食用油脂類等を挙げることができる。有機物としては、ヘキサン、トルエン、フェノール、ベンゼン、シクロヘキサン、農薬、殺虫剤、殺鼠剤、抗菌剤、環境ホルモン等の水難溶性又は不溶性有機物を挙げることができる。これらの除去対象となる汚染物質は通常液体であるが、液体に溶解又は懸濁した固体の汚染物質であってもよい。固体の汚染物質としては、農薬、殺虫剤、殺鼠剤、抗菌剤、環境ホルモン、排気ガス等の化学物質等を挙げることができる。
ここで言う汚染の浄化には、有害有機物等の汚染を吸着、除去することが含まれる。また、汚染の予防には、有害有機物等で汚染されないように抑制・防止し、又は汚染を遅延することが含まれる。
【0020】
上述の通り、本発明のセラミックス多孔質体は、水に浮く性質を有するので、水浮上性水質浄化剤としても利用できる。水面上に浮遊できることにより、同じく水面上に漂っている油や汚染物質等を効率的に回収/除去できる吸着剤(油吸着剤や汚染物質吸着剤)として利用できる。「水に浮く」又は「水面上に浮遊(浮上)する」ことは、セラミックス多孔質体に結合している炭素数6~18のアルキル置換基が、水より疎水性が高いことによるために起こる現象である。水としては真水や淡水の他、海水も含む。また、油に溶解している汚染物質及び油面上に浮遊する汚染物質等を除去する場合は、油と汚染物質の両方を回収/除去できる吸着剤であってもよい。従って、本発明のセラミックス多孔質体は、水に浮上していない油及び汚染物質の吸着剤としても利用することができる。
【0021】
本発明のセラミックス多孔質体に含まれる他の添加剤としては、トリメチルクロロシラン、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン及びヘキサメチルジシラザン等のエンドキャッピング剤を挙げることができる。他の添加剤は、本発明のセラミックス多孔質体の表面、細孔内部の部分等に結合されていてもよい。
【0022】
[セラミックス多孔質体の製造方法]
本発明のセラミックス多孔質体は、以下の工程:
(1)上記ケイ素含有化合物(シランカップリング剤)、好ましくは式(II):
R1-Si-(R2)4-n(R3)n-1 (II)
(式(II)中、R1は、直鎖又は分岐鎖の、飽和又は不飽和の、炭素数6~18を有する1価のアルキル基であり、R2は、それぞれ独立して炭素数1~2を有する1価のアルコキシ基又はハロゲン基のいずれかであり、R3は、それぞれ独立して水素又はメチル基のいずれかであり、nは1~3の整数である)
を有するケイ素含有化合物と、上記二酸化ケイ素及び酸化アルミニウムを含む結晶性化合物とを混合する工程、及び
(2)得られた混合物を空気中又は酸化性雰囲気中で焼成する工程、
を含む。
ここで、「ケイ素含有化合物」及び「二酸化ケイ素及び酸化アルミニウムを含む結晶性化合物」の詳細は上述したとおりである。これらの混合は、ミキサー及びミル等を利用することができる。
【0023】
上記で得られた混合物は、焼成前に更に成形して成形体としてもよい。ここで、上記成形体の成形方法は、上記特許文献1に記載された方法のような、公知のセラミックスの成形法に従って実施することができ、例えば、プレス成形、鋳込み成形、射出成形、静水圧成形等の成形法が挙げられる。成形の際の圧力等の成形条件は、用いる原材料の種類、最終製品の用途等に応じて適宜決定すればよいが、例えば、0.01~400MPa、好ましくは0.05~100MPa、より好ましくは0.1~10MPa等の条件を挙げることができる。また、成形体の形状も限定的でなく、柱状体、筒状体(パイプ状)、球状体、直方体、板状体等のいずれであっても良い。成形体の形状として好ましくは、直径10~30mm、高さ10~30mm程度の円柱形が適当である。
【0024】
混合物及び成形体の空気中又は酸化性雰囲気中での焼成は、例えば80~300℃、好ましくは100~200℃、より好ましくは100~150℃で、例えば30分~48時間、好ましくは1時間~36時間、より好ましくは2~24時間の条件で行うことができる。より好ましくは、まず特定のゼオライトに溶媒を混合し、上記ケイ素含有化合物(シランカップリング剤)を加えて室温(25℃±10℃)で1~3時間程度浸漬させる。その後、80~120℃程度で12~36時間、より好ましくは100℃±10℃で24時間±2時間程度、加熱する(第1加熱工程)。その後、温度を10~20℃程度上げ、120~180℃程度で30分~3時間、より好ましくは140℃±10℃で1時間±20分程度、加熱する(第2加熱工程)。その後溶媒で洗浄し、ろ過し、残渣を80~100℃程度で1~3時間程度加熱して溶媒を除去し、目的のセラミックス多孔質体を得ることができる。
ここで、溶媒としては、例えばトルエン、アセトン、イソプロパノール等を利用することができる。酸化性雰囲気とは酸素・オゾン・二酸化窒素を主として含む雰囲気を言う。
上記混合物(又は成形体)の焼成反応及び/又は縮合反応は、公知のセラミックスの焼成法及び/又は合成法に従って実施することができる。例えば、まず、ホットプレート、マッフル炉、放電、レーザー照射、カーボンヒーター等による熱によって混合物(又は成形体)を加熱することで反応を開始させることができる。加熱により反応が進行し、最終的に目的とする多孔質体を得ることができる。
【0025】
ここで言う縮合反応のより具体的な例としては、シランカップリング剤としてアルキルメトキシシランを使用し、二酸化ケイ素及び酸化アルミニウムを含む結晶性化合物としてゼオライトを使用した場合、以下のようにシランカップリング剤が、ゼオライト中に部分的に存在する水酸基と化学的に反応し、メタノールが副生成してシランカップリング剤とゼオライトとが結合する反応(縮合反応又はシランカップリング反応)を挙げることができる。なお、シランカップリング剤としてクロロシランを使用すると、メタノールの代わりに塩素が副生成する(スキーム1参照)。
【0026】
【0027】
以下、本発明の具体的な実施例について説明するが、当該実施例は本発明の範囲を限定する意図ではないことを確認的に明記しておく。
【実施例】
【0028】
(試薬)
以下の実施例及び比較例で使用した試薬の詳細は以下の通りである。
(合成ゼオライト)
・LTA型ゼオライト(構造コード:LTA、ゼオライトタイプ:A型)
SiO2/Al2O3モル比:2.0、ゼオライトの細孔径(ガス吸着法で測定):4.1Å、ゼオライトの平均粒径(レーザー回折・散乱法による):2.6μm、下記式(I):
Mz+[(SiO2)x(Al2O3)y]z- (I)
で示す場合、式(I)中、MはNa、zは1、x/yは2.0
・FAU型ゼオライト(構造コード:FAU、ゼオライトタイプ:Y型)
SiO2/Al2O3モル比:3.8、ゼオライトの細孔径(ガス吸着法で測定):7.4Å、ゼオライトの平均粒径(レーザー回折・散乱法による):1.6μm下記式(I):
Mz+[(SiO2)x(Al2O3)y]z- (I)
で示す場合、式(I)中、MはNa、zは1、x/yは3.8
【0029】
(シランカップリング剤)
炭素数2のアルキル鎖を有するシランカップリング剤:エチルトリクロロシラン(C2H5Cl3Si)東京化成工業(株) 製品コード:E0188
炭素数6のアルキル鎖を有するシランカップリング剤:トリクロロヘキシルシラン(C6H13Cl3Si)東京化成工業(株) 製品コード:H0547
炭素数8のアルキル鎖を有するシランカップリング剤:n-オクチルトリクロロシラン(C8H17Cl3Si)東京化成工業(株) 製品コード:O0168
炭素数12のアルキル鎖を有するシランカップリング剤:ドデシルトリクロロシラン(C12H25Cl3Si)東京化成工業(株) 製品コード:D1509
炭素数18のアルキル鎖を有するシランカップリング剤:トリクロロオクタデシルシラン(C18H37Cl3Si)東京化成工業(株) 製品コード:O0079
【0030】
(他溶媒)
トルエン:C7H8 特級 富士フイルム和光純薬(株)
ヘキサン:C6H14 特級 富士フイルム和光純薬(株)
アセトン:C3H6O 特級 富士フイルム和光純薬(株)
(使用機器)
磁性るつぼ:50mL アズワン(株)
ホットプレート:型式:HP88854200 サーモフィッシャーサイエンティフィック
マッフル炉:型式:FP32 ヤマト株式会社
撹拌棒:アズワン(株)
ろ紙:定量濾紙No.5C アドバンテック東洋(株)
【0031】
(浮上性水質浄化剤の合成方法)
(比較例1~3)
比較例1としてLTA型ゼオライトのみを、比較例2としてFAU型ゼオライトのみを、比較例3としてゼオライト+パーライトの焼成乾燥物を使用した。
【0032】
比較例4(LTA型ゼオライト-C2)
磁性るつぼ中、LTA型ゼオライト10gにトルエン20mLを混合し、液がこぼれないように磁性るつぼを揺らして、上記ゼオライトの塊がなくなるまで混ぜ合わせた。これに炭素数2のアルキル鎖を有するシランカップリング剤(エチルトリクロロシラン)1gを加え、液が透明になるまで混ぜ合わせ、室温(25℃)で1時間浸漬した。浸漬後、ホットプレートに移し、100℃で24時間加熱した。更に140℃のマッフル炉に移し、1時間保持した。得られた粉末をアセトン200mLに入れ、撹拌棒で混ぜ合わせた後、ろ紙を用いてろ過した。ろ過残渣を磁性るつぼにとり、80℃のマッフル炉に移し、2時間保持して、アセトンを揮発させ、試料粉末1を得た。試料粉末1の質量は8gであった。また、得られた試料粉末1のSiO2/Al2O3モル比、細孔径、平均粒径の値は、原料として使用した上記LTA型ゼオライトの値と同じである。
【0033】
実施例1(LTA型ゼオライト-C6)
シランカップリング剤として炭素数6のアルキル鎖を有するシランカップリング剤(トリクロロヘキシルシラン)を使用した以外は、比較例4と同一の製造工程を経て試料粉末2を得た。試料粉末2の質量は8gであった。また、得られた試料粉末2のSiO2/Al2O3モル比、細孔径、平均粒径の値は、原料として使用した上記LTA型ゼオライトの値と同じである。
【0034】
実施例2(LTA型ゼオライト-C8)
シランカップリング剤として炭素数8のアルキル鎖を有するシランカップリング剤(n-オクチルトリクロロシラン)を使用した以外は、比較例4と同一の製造工程を経て試料粉末3を得た。試料粉末3の質量は8gであった。また、得られた試料粉末3のSiO2/Al2O3モル比、細孔径、平均粒径の値は、原料として使用した上記LTA型ゼオライトの値と同じである。
【0035】
実施例3(LTA型ゼオライト-C12)
シランカップリング剤として炭素数12のアルキル鎖を有するシランカップリング剤(ドデシルトリクロロシラン)を使用した以外は、比較例4と同一の製造工程を経て試料粉末4を得た。試料粉末4の質量は8gであった。また、得られた試料粉末4のSiO2/Al2O3モル比、細孔径、平均粒径の値は、原料として使用した上記LTA型ゼオライトの値と同じである。
【0036】
実施例4(LTA型ゼオライト-C18)
シランカップリング剤として炭素数18のアルキル鎖を有するシランカップリング剤(トリクロロオクタデシルシラン)を使用した以外は、比較例4と同一の製造工程を経て試料粉末5を得た。試料粉末5の質量は8gであった。また、得られた試料粉末5のSiO2/Al2O3モル比、細孔径、平均粒径の値は、原料として使用した上記LTA型ゼオライトの値と同じである。
【0037】
実施例5(FAU型ゼオライト-C6)
LTA型ゼオライトの代わりにFAU型ゼオライトを使用し、かつ、シランカップリング剤として炭素数6のアルキル鎖を有するシランカップリング剤(トリクロロヘキシルシラン)を使用した以外は、比較例4と同一の製造工程を経て試料粉末6を得た。試料粉末6の質量は8gであった。また、得られた試料粉末6のSiO2/Al2O3モル比、細孔径、平均粒径の値は、原料として使用した上記FAU型ゼオライトの値と同じである。
【0038】
実施例6(FAU型ゼオライト-C8)
シランカップリング剤として炭素数8のアルキル鎖を有するシランカップリング剤(n-オクチルトリクロロシラン)を使用した以外は、実施例5と同一の製造工程を経て試料粉末7を得た。試料粉末7の質量は8gであった。また、得られた試料粉末7のSiO2/Al2O3モル比、細孔径、平均粒径の値は、原料として使用した上記FAU型ゼオライトの値と同じである。
【0039】
実施例7(FAU型ゼオライト-C12)
シランカップリング剤として炭素数12のアルキル鎖を有するシランカップリング剤(ドデシルトリクロロシラン)を使用した以外は、実施例5と同一の製造工程を経て試料粉末8を得た。試料粉末8の質量は8gであった。また、得られた試料粉末8のSiO2/Al2O3モル比、細孔径、平均粒径の値は、原料として使用した上記FAU型ゼオライトの値と同じである。
【0040】
実施例8(FAU型ゼオライト-C18)
シランカップリング剤として炭素数18のアルキル鎖を有するシランカップリング剤(トリクロロオクタデシルシラン)を使用した以外は、実施例5と同一の製造工程を経て試料粉末9を得た。試料粉末9の質量は8gであった。また、得られた試料粉末9のSiO2/Al2O3モル比、細孔径、平均粒径の値は、原料として使用した上記FAU型ゼオライトの値と同じである。
【0041】
[試験例]
試験1(油回収試験)
浮上性水質浄化剤としての効果を、オリーブ油を汚染物質として用いて試験した。
(吸着量)
シャーレに比較例及び実施例で得た試料粉末0.5gを計りとり、これにオリーブ油(カネダ(株)製)を0.05gずつ滴下し、薬さじで混ぜ合わせた。試料粉末とオリーブ油が混ぜ合わさるとき、初めはダマになって凝集を形成するが、オリーブ油の滴下量が増大すると液状のオリーブ油も出現した。試料粉末が十分にオリーブ油に分散し、ダマ(凝集)がなくなった時点を終点とし、その時点のオリーブ油滴下量を試料粉末が吸着したオリーブ油の吸着量の指標として記録した。オリーブ油の滴下量(油吸着量)は、以下の基準に基づいて評価した。
オリーブ油滴下量(吸着量)
A:0.3g超~0.5g
B:0.1g超~0.3g以下
C:0.05g超~0.1g以下
D:0.01g超~0.05g以下
【0042】
(吸着後の浮上率及び回収の簡便さ)
容量200mLのビーカーに水150mL、オリーブ油(カネダ(株)製)0.5gを入れ、次に比較例及び実施例で得た試料粉末1gを水の上に浮いたオリーブ油を覆うように投入した。試料粉末はオリーブ油を吸着すると半透明になり、凝集した固まりになった。このとき、水面には当該凝集した固まり1つと、オリーブ油を吸着せずに残存している複数の試料粉末が混在していた。この固まりが水の入ったビーカーの底部に固まり全体の何体積%が水中に移行しないかどうかを目視で確認して、浮上率を算出した(全て水面に浮いている場合は浮上率100%)。更に水面に浮上しているこの凝集した固まり1つをすくい上げて回収して体積を測定し、これが当初使用した試料粉末1gの体積に対して何体積%であるかを凝集率として算出した。これら浮上率及び凝集率は、以下の基準に基づいて評価した。
<オリーブ油吸着後の浮上率>
A:オリーブ油吸着後、浮上率は90%超~100%
B:オリーブ油吸着後、浮上率は80%超~90%以下
C:オリーブ油吸着後、浮上率は50%超~80%以下
D:オリーブ油吸着後、浮上率は10%超~50%以下
E:オリーブ油吸着後、浮上率は0%~10%以下
<回収の簡便さ(凝集率)>
A:オリーブ油吸着後、凝集率は90%超~100%
B:オリーブ油吸着後、凝集率は80%超~90%以下
C:オリーブ油吸着後、凝集率は50%超~80%以下
D:オリーブ油吸着後、凝集率は30%超~50%以下
E:オリーブ油吸着後、凝集率は0%~30%以下
各比較例及び実施例の、上記オリーブ油の吸着量、浮上率及び凝集率は以下の表1及び2にまとめた。
【0043】
【0044】
【0045】
比較例1~4と比較して、実施例1~8にオリーブ油除去能としての効果が認められた。
【0046】
試験2(トルエン回収試験)
浮上性水質浄化剤としての効果を、トルエンを汚染物質として用いて試験した。具体的には、オリーブ油の代わりにトルエンを使用した以外は上記試験1と同様にして、滴下量(吸着量)、吸着後の浮上率及び回収の簡便さを測定した。各比較例及び実施例の、上記トルエンの滴下量(吸着量)、浮上率及び凝集率は以下の表3にまとめた。
【0047】
【0048】
表3に示すとおり、比較例2と比較して、実施例6及び8にトルエン除去能としての効果が認められた。