(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-02
(45)【発行日】2024-05-14
(54)【発明の名称】流下液膜式熱交換器
(51)【国際特許分類】
F28D 3/04 20060101AFI20240507BHJP
F28D 3/02 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
F28D3/04
F28D3/02
(21)【出願番号】P 2020070672
(22)【出願日】2020-04-09
【審査請求日】2023-01-05
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、平成27年度、平成28年度、平成29年度、平成30年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「再生可能エネルギー熱利用技術開発/その他再生可能エネルギー熱利用トータルシステムの高効率化・規格化/温泉熱地域利用のためのハイブリッド熱源水ネットワーク構築技術の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】591124846
【氏名又は名称】株式会社総合設備コンサルタント
(74)【代理人】
【識別番号】100167807
【氏名又は名称】笠松 信夫
(72)【発明者】
【氏名】三毛 正仁
(72)【発明者】
【氏名】道川 新
(72)【発明者】
【氏名】中島 一義
(72)【発明者】
【氏名】澤部 孝一
(72)【発明者】
【氏名】澤田 紗奈
【審査官】古川 峻弘
(56)【参考文献】
【文献】実開昭50-121355(JP,U)
【文献】特表2001-502044(JP,A)
【文献】特開平03-165940(JP,A)
【文献】特開平07-190558(JP,A)
【文献】韓国公開特許第2003-0061575(KR,A)
【文献】特開2000-241044(JP,A)
【文献】特開昭52-136449(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28F 3/00-5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平方向に配置された複数の水平管が鉛直方向に沿って並べられ、各水平管が連通する状態で連結された伝熱管と、
各水平管の間に鉛直方向に沿って配置された板材からなるセパレータと、
を備え、前記伝熱管内を流れる第1の流体と、前記伝熱管の表面及び前記セパレータの表面を流下する第2の流体との間で熱交換をする複数の熱交換ユニットと、
対向して配置された前記熱交換ユニットの間に、鉛直方向の上方から、前記第2の流体を供給する給水部と、
前記対向する熱交換ユニットのそれぞれの上端に、前記水平管の配置方向に沿って配置された拡散部と、
を備え、
前記対向する熱交換ユニットを、一方の熱交換ユニットの水平管と他方の熱交換ユニットの水平管とが対向する状態で配置するとともに、前記給水部による第2の流体の供給流量が予め指定された流量であるときに、前記対向する水平管の間を通過する前記第2の流体の流量が前記給水部より供給される第2の流体の流量よりも小さくなる間隔で配置するとともに、
前記給水部が、前記水平管の配置方向に沿って等間隔で配置された、鉛直方向に沿う軸を有する複数の管体により構成され、当該各管体における第2の流体の吐出口から、当該各管体の上流側で、各管体に第2の流体を供給する共通の流体供給路の特定位置までの距離が全て同一であり、
隣り合う前記拡散部の間の隙間が、
前記各管体における前記第2の流体の吐出口の開口よりも狭い、流下液膜式熱交換器。
【請求項2】
水平方向に配置された複数の水平管が鉛直方向に沿って並べられ、各水平管が連通する状態で連結された伝熱管と、
各水平管の間に鉛直方向に沿って配置された板材からなるセパレータと、
を備え、前記伝熱管内を流れる第1の流体と、前記伝熱管の表面及び前記セパレータの表面を流下する第2の流体との間で熱交換をする複数の熱交換ユニットと、
対向して配置された前記熱交換ユニットの間に、鉛直方向の上方から、前記第2の流体を供給する給水部と、
前記対向する熱交換ユニットのそれぞれの上端に、前記水平管の配置方向に沿って配置された拡散部と、
を備え、
前記対向する熱交換ユニットを、一方の熱交換ユニットの水平管と他方の熱交換ユニットの水平管とが対向する状態で配置するとともに、前記給水部による第2の流体の供給流量が予め指定された流量であるときに、前記対向する水平管の間を通過する前記第2の流体の流量が前記給水部より供給される第2の流体の流量よりも小さくなる間隔で配置するとともに、
前記給水部が前記第2の流体が充填される箱体により構成され、当該箱体が、前記水平管の配置方向の一端に設けられた導入口と、前記水平管の配置方向に沿って設けられた、前記導入口からの距離が離れるにつれて開口幅が広くなる導出口を備える底面と、を備え、
隣り合う前記拡散部の間の隙間が、
前記箱体における導出口の最大開口幅よりも狭い、流下液膜式熱交換器。
【請求項3】
前記拡散部が部分円筒面により構成される、請求項
1又は請求項2記載の流下液膜式熱交換器。
【請求項4】
前記給水部から供給される第2の流体の供給流量が単位長さ1mあたり毎分15リットル以上の値である、請求項1から請求項
3のいずれか1項に記載の流下液膜式熱交換器。
【請求項5】
前記対向する熱交換ユニットの間隔が25mm以下である、請求項
4記載の流下液膜式熱交換器。
【請求項6】
水平方向に配置された複数の水平管が鉛直方向に沿って並べられ、各水平管が連通する状態で連結された伝熱管と、
各水平管の間に鉛直方向に沿って配置された板材からなるセパレータと、
を備え、前記伝熱管内を流れる第1の流体と、前記伝熱管の表面及び前記セパレータの表面を流下する第2の流体との間で熱交換をする複数の熱交換ユニットと、
対向して配置された前記熱交換ユニットの間に、鉛直方向の上方から、前記第2の流体を供給する給水部と、
を備え、
前記対向する熱交換ユニットを、一方の熱交換ユニットの水平管と他方の熱交換ユニットの水平管とが対向する状態で配置するとともに、前記給水部による第2の流体の供給流量が予め指定された流量であるときに、前記対向する水平管の間を通過する前記第2の流体の流量が前記給水部より供給される第2の流体の流量よりも小さくなる間隔で配置するとともに、
前記給水部が前記第2の流体が充填される箱体により構成され、当該箱体が、前記水平管の配置方向の一端に設けられた導入口と、前記水平管の配置方向に沿って設けられた、前記導入口からの距離が離れるにつれて開口幅が広くなる
等脚台形状の導出口を備える底面と、を備える、流下液膜式熱交換器。
【請求項7】
水平方向に配置された
外形が同一形状の複数の水平管が鉛直方向に沿って並べられ、各水平管が連通する状態で連結された伝熱管と、
各水平管の間に鉛直方向に沿って配置された板材からなるセパレータと、
を備え、前記伝熱管内を流れる第1の流体と、前記伝熱管の表面及び前記セパレータの表面を流下する第2の流体との間で熱交換をする複数の熱交換ユニットと、
対向して配置された前記熱交換ユニットの間に、鉛直方向の上方から、前記第2の流体を供給する給水部と、
を備え、
前記水平管の断面において、表面の形状は水平管の配置方向の全体にわたって同一であり、
前記対向する熱交換ユニットを、一方の熱交換ユニットの水平管と他方の熱交換ユニットの水平管とが対向する状態
かつ同一の対向間隔で配置するとともに、前記給水部による第2の流体の供給流量が予め指定された流量であるときに、前記対向する水平管の間を通過する前記第2の流体の流量が前記給水部より供給される第2の流体の流量よりも小さくなる間隔で配置した、流下液膜式熱交換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流下液膜式熱交換器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、熱交換器として、伝熱管の外表面に流下された液体が形成する液膜と伝熱管内を流れる液体との間で熱エネルギーを交換する流下液膜式熱交換器が広く使用されている。流下液膜式熱交換器では、一方の液体が伝熱管の外表面という開放された領域を流下する構成であるため、例えば、当該流下される液体が夾雑物を含む液体であっても液体流路が閉塞することがなく熱交換を継続して実施することができる。
【0003】
流下液膜式熱交換器では、例えば、水平方向に沿う複数の直管伝熱管が鉛直方向に並べて配置され、当該伝熱管群に対して鉛直上方から液体が流下される。このような構成の流下液膜式熱交換器では、鉛直方向に並べられる伝熱管数が多くなると、伝熱管外表面を流下する液体が、表面張力や伝熱管表面における局所的な濡れ性の差異等に起因して、水平方向に沿う伝熱管の一部分に集まるというようになる。すなわち、最上位の伝熱管に対して水平方向の全体に行き渡るように流下液体を供給しても、下位の伝熱管では流下液体が供給される部分と、流下液体が供給されない部分とが発生する。すなわち、下方に位置する伝熱管では伝熱管全体を使用した熱交換が実施されない。このように伝熱面積が低下する結果、熱交換効率(温度効率)が低下する。
【0004】
このような課題を解決するために、一部又は全部の伝熱管の外表面に、コーティング層を形成したり、凹凸を設けたりする構成が採用されている(例えば、特許文献1-5等)。このような構成により、伝熱管外表面における流下液体の濡れ性を向上させることで、下位の伝熱管において流下液体がまばらに分布することを抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000-283662号公報
【文献】特開2004-360945号公報
【文献】特開平5-340646号公報
【文献】特開平9-318286号公報
【文献】特開平9-61080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の特許文献が開示する技術では、伝熱管の外表面を加工する必要があるため、流下液膜式熱交換器の製造コストを増大させる一因となる。一方、外表面を加工していない伝熱管を使用する構成であっても、鉛直方向に並べる伝熱管数を少なくすれば下位の伝熱管において流下液体がまばらに分布する程度を緩和することができる。しかしながら、このような構成では、所望の熱交換容量を得るために流下液膜式熱交換器を設置するためによい広い面積を確保することが必要になる。鉛直方向に並べる伝熱管数を少なくした流下液膜式熱交換器を鉛直方向に配置することで、所望の熱交換容量を得るための熱交換器の設置面積を小さくすることはできるが、それぞれ熱交換器に流下液体を供給するための配管構成が複雑になってしまう。
【0007】
本発明はこのような従来技術の課題を鑑みてなされたものであって、外表面に特別な加工を施さない伝熱管を使用する場合であっても、熱交換器の設置に必要な占有面積を増大
させることなく、熱交換効率(温度効率)を高めることができる流下液膜式熱交換器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の目的を達成するために、本発明は以下の技術的手段を採用している。すなわち、本発明に係る流下液膜式熱交換器は、伝熱管及びセパレータを有し、当該伝熱管内を流れる第1の流体と、伝熱管の表面及びセパレータの表面を流下する第2の流体との間で熱交換をする熱交換ユニットを備える。伝熱管は、水平方向に配置された外形が同一形状の複数の水平管が鉛直方向に沿って並べられ、各水平管が連通する状態で連結された構成を有する。セパレータは、各水平管の間に鉛直方向に沿って配置された板材により構成される。また、本発明に係る流下液膜式熱交換器は、対向する状態で配置された熱交換ユニットの間に、鉛直方向の上方から、第2の流体を供給する給水部を備える。そして、当該流下液膜式熱交換器では、水平管の断面において、表面の形状は水平管の配置方向の全体にわたって同一であり、対向する熱交換ユニットが、一方の熱交換ユニットの水平管と他方の熱交換ユニットの水平管とが対向する状態かつ同一の対向間隔で配置されるとともに、対向する熱交換ユニットの配置間隔が、給水部による第2の流体の供給流量が予め指定された流量であるときに、対向する水平管の間を通過する第2の流体の流量が給水部より供給される第2の流体の流量よりも小さくなる間隔に設定されている。
【0009】
この流下液膜式熱交換器では、一方の熱交換ユニットの水平管と他方の熱交換ユニットの水平管との間で構成される狭窄部分の上方に第2の流体が一時的に滞留する状態になる。このような状況下では、狭窄部分の上方に滞留した第2の流体は、水平管の配置方向に沿って均一化された状態で狭窄部分を通過し、下方に流下することになる。その結果、流下液体の分布がまばらになることを抑制することができる。
【0010】
この流下液膜式熱交換器において、給水部は、水平管の配置方向に沿って等間隔で配置された、鉛直方向に沿う軸を有する複数の管体により構成することができる。また、当該各管体における第2の流体の吐出口から、当該各管体の上流側で、各管体に第2の流体を供給する共通の流体供給路の特定位置までの距離が全て同一である構成を採用することができる。この構成では、複数の管体から吐出される第2の流体の流速を均一化することができ、各管体における熱交換ユニットへの第2の流体の供給状態を均一化することができる。その結果、熱交換ユニットの上端において、第2の流体をより均一に供給することができる。
【0011】
また、給水部は第2の流体が充填される箱体により構成することもできる。この場合、当該箱体は、水平管の配置方向の一端に設けられた導入口と、当該導入口からの距離が離れるにつれて開口幅が広くなる等脚台形状の導出口が水平管の配置方向に沿って設けられた底面とを備える。この構成では、導出口から熱交換ユニットへの第2の流体の供給状態を均一化することができる。その結果、熱交換ユニットの上端において、第2の流体をより均一に供給することができる。
【0012】
以上の構成において、対向する熱交換ユニットのそれぞれの上端に、水平管の配置方向に沿って配置された拡散部をさらに備える構成を採用することができる。この場合、隣り合う拡散部の間の隙間が、各管体における第2の流体の吐出口の開口又は前記箱体における導出口の最大開口幅よりも狭い構成を採用することができる。前者の構成では、管体から吐出された流下液体の一部が隣り合う拡散部の間の隙間を通過できずに拡散部に衝突した際に、拡散部に衝突した流下液体の拡散具合を各管体間で均一化することができる。また、後者の構成では、導出口から導出され、熱交換ユニットの対向方向に広がった流下液体を熱交換ユニットの間に効率よく供給することができる。なお、拡散部は、部分円筒面により構成することができる。
【0013】
以上の構成において、給水部から供給される第2の流体の供給流量は、単位長さ1mあたり毎分15リットル以上の値にすることができる。また、対向する熱交換ユニットの間
隔は、25mm以下にすることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、外表面に特別な加工を施さない伝熱管を使用する場合であっても、熱交換器の設置に必要な占有面積を増大させることなく、熱交換効率(温度効率)を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態における流下液膜式熱交換器が備える熱交換ユニットの一例を模式的に示す図で正面図である。
【
図2】本発明の一実施形態における流下液膜式熱交換器が備える熱交換ユニットの一例を模式的に示す図で縦断面図である。
【
図3】本発明の一実施形態における流下液膜式熱交換器が備える熱交換ユニットの一例を拡大して示す図である。
【
図4】本発明の一実施形態における流下液膜式熱交換器の一例を模式的に示す正面図である。
【
図5】本発明の一実施形態における流下液膜式熱交換器の一例を模式的に示す縦断面図である。
【
図6】本発明の一実施形態における流下液膜式熱交換器が備える拡散部の一例を示す図である。
【
図7】本発明の一実施形態における流下液膜式熱交換器が備える熱交換ユニットの狭窄部分を示す図である。
【
図8】対向する熱交換ユニットの間隔が広い場合の流下液体の分布を示す図である。
【
図9】対向する熱交換ユニットの間隔が狭い場合の流下液体の分布を示す図である。
【
図10】対向する熱交換ユニットの間隔が狭い場合の流下液体の分布を示す図である。
【
図11】本発明の一実施形態における流下液膜式熱交換器が備える給水部の他の例を模式的に示す正面図である。
【
図12】本発明の一実施形態における流下液膜式熱交換器が備える給水部の他の例を模式的に示す平面図である。
【
図13】本発明の一実施形態における流下液膜式熱交換器が備える給水部の他の例を模式的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながらより詳細に説明する。本実施形態に係る流下液膜式熱交換器は、互いに対向して配置された複数の熱交換ユニットを備える。まず、熱交換ユニットの構造について説明する。ここでは、流下液膜式熱交換器において、他の2つの熱交換ユニットに挟まれる中間部に配置される熱交換ユニットについて説明する。
【0017】
図1から
図3は、本発明の一実施形態における流下液膜式熱交換器が備える熱交換ユニットの一例を示す図である。
図1は熱交換ユニットを模式的に示す正面図である。
図2は
図1に示す熱交換ユニットを模式的に示す縦断面図である。
図3は
図2に示す矢指部Aを拡大して示す図である。なお、
図1から
図3において、図中の上下方向が鉛直方向に対応する。
【0018】
図1に示すように、熱交換ユニット10は、伝熱管11及びセパレータ12を備える。伝熱管11は水平方向に配置された複数の水平管11aが鉛直方向に沿って並べられ、それぞれの水平管11aが連通する状態で連結された構成を有する。
図1の例では、22本の水平管11aを備える事例を示している。本実施形態では、水平管11aの一方側の端
部において隣り合う水平管11aがU字状の湾曲管11bで連結されるとともに、水平管11aの他方側の端部において一方側の端部とは反対方向で隣り合う水平管11aがU字状の湾曲管11bで連結されることで、各水平管11aが連通する状態で連結されている。後述のように、本実施形態の熱交換ユニット10では、水平管11a及び湾曲管11bは一体に構成されている。
【0019】
セパレータ12は、隣り合う水平管11aの間に鉛直方向に沿って配置された板材により構成されている。セパレータ12は、熱交換ユニット10の第1面側と第2面側との境界面として機能する。
【0020】
なお、本実施形態では、熱交換ユニット10は、さらに小さい2つの熱交換ユニット10a、10bを湾曲管10cでそれぞれの熱交換ユニット10a、10bが備える伝熱管11を連通する状態で連結することにより構成されている。
【0021】
図2及び
図3に示すように、熱交換ユニット10は、平面状の板材12aの第1面及び第2面のそれぞれに、水平管11a及び湾曲管11bに対応する凹部12cを形成した板材12bを固着することで構成される。なお、流下液膜式熱交換器において中間部ではなく端部に配置される熱交換ユニットについては第1面及び第2面の一方側のみに板材12bを固着する構成を採用することができる。板材12a及び板材12bには、銅、銅合金、ステンレス、アルミニウム等、熱伝導率の高い材質を使用することができる。本実施形態では、板材12a及び板材12bとしてステンレスを使用している。
【0022】
板材12bの凹部12cは、板材12bにおいて水平管11a及び湾曲管11bに対応する部分を平面状の底面を有する断面略U字状に、かつ、板材12bの一方面側に突出させることで構成されている。当該凹部12cの開放端を板材12aで閉塞し、当該状態で板材12aと板材12bとを固着することで、伝熱管11が構成されている。また、本構成では、各伝熱管11の間に存在する板材12a及び板材12bがセパレータ12として機能することになる。
【0023】
特に限定されないが、本実施形態の熱交換ユニット10は、板材12aの鉛直方向のサイズ及び幅方向のサイズがそれぞれ約1150mmである。また、水平管11a及び湾曲管11bに対応する凹部12bは、管内液体の流路側である内壁間で、開口端幅が約20mmであり、深さが約10mmである。
【0024】
板材12bにおける凹部12cは、例えば、板材12bをプレス加工等することで形成することができる。なお、熱交換ユニット10の全体を1つの熱交換ユニットとして構成することも可能であるが、本実施形態では、2つの熱交換ユニット10a、10bを連結することにより熱交換ユニット10を構成している。このように、小さな熱交換ユニットを鉛直方向に並べて配置することでより大きな熱交換ユニットを構成することで、上述の板材12bに凹部12cを形成する際の板材12bのサイズを小さくすることができ、比較的容易に加工することが可能になる。
【0025】
また、板材12aと板材12bとの固着方法は、特に限定されない。凹部12cと板材12aとにより囲まれた空間内に液体を流通可能な状態を実現可能であればよく、例えば、溶接、ロウ付、溶着、接着等、公知の任意の手法を採用することができる。なお、
図2及び
図3に示す例では、熱交換ユニット10の第1面側と第2面側とで、互いに重なる位置に水平管11a及び湾曲管11bを配置した例を示しているが、第1面側と第2面側とで、互いに異なる位置に水平管11a及び湾曲管11bを配置してもよい。
【0026】
以上のような構成では、板材12aに板材12bを固着することで熱交換ユニット10
(10a、10b)を構成できるため比較的容易に熱交換ユニット10を組み立てることができる。
【0027】
なお、熱交換器ユニット10は、円管を使用して構成することも可能である。この場合、真直ぐな円管により構成される水平管11a及びU字状の円管により構成される湾曲管11bが、
図1に示す伝熱管11と同様の態様に連結される。そして、隣り合う水平管11aとの間の隙間の形状に整合した板材からなるセパレータ12が水平管11aに固定される。このような固定には、例えば、溶接、ロウ付、溶着、接着等、公知の任意の手法を採用することができる。この構成では、上述の構成に比べて、水平管11aと湾曲管11bとを連結し、さらに、形状を加工したセパレータ12を水平管11aに固定する必要があるため、製造工程が複雑になるが、本実施形態の流下液膜式熱交換器の熱交換ユニットとして使用可能である。
【0028】
以上のような構成を有する熱交換ユニット10は、伝熱管11内を流れる管内液体(第1の流体)と、伝熱管11の表面及びセパレータ12の表面を流下する流下液体(第2の流体)との間で熱交換をする。なお、本実施形態では、熱交換ユニット10の最下位の水平管11aに管内液体を導入するとともに、最上位の水平管11aから熱交換後の管内液体を導出する構成を採用している。
【0029】
続いて、本発明の一実施形態における流下液膜式熱交換器の全体構成について説明する。
図4及び
図5は、本発明の一実施形態における流下液膜式熱交換器の一例を示す図である。
図4は流下液膜式熱交換器を模式的に示す正面図である。
図5は
図4に示す流下液膜式熱交換器を模式的に示す縦断面図である。なお、
図4及び
図5において、図中の上下方向が鉛直方向に対応する。
【0030】
図5に示すように、本実施形態の流下液膜式熱交換器1は、複数の熱交換ユニット10を備える。各熱交換ユニット10は、伝熱管11が配置された面が互いに対向する状態で配置されている。
図5では、3つの熱交換ユニット10を備える流下液膜式熱交換器1を例示している。なお、
図6に示すように、本実施形態では、対向する熱交換ユニット10において、一方の熱交換ユニット10の水平管11aのそれぞれは他方の熱交換ユニット10の水平管11aのそれぞれと対向する状態で配置されている。
【0031】
図4及び
図5に示すように、対向して配置された熱交換ユニット10の間の鉛直方向上方には、給水部21が設けられている。給水部21は、鉛直方向の上方から、流下流体(第2の流体)を熱交換ユニット10の間に供給する。
図4に示すように、給水部21は、水平管11aの配置方向に沿って等間隔で配置された、鉛直方向に沿う軸を有する複数の管体(ここでは3つの円管)により構成される。特に限定されないが、本実施形態では、各管体の中心間距離は350mmであり、真中の管体が、熱交換ユニット10の水平管11aの配置方向の中央に位置している。なお、各管体の流下液体吐出口の開口径は約20mmである。
【0032】
図5に示すように、各熱交換ユニット10の鉛直方向の上端には、給水部21から供給された流下液体を水平管11aの配置方向に沿う方向に拡散させる拡散部31を備える。本実施形態では、拡散部31は、水平管11aの配置方向に沿って配置された円筒部材により構成されている。すなわち、拡散部31は部分円筒面により構成されている。
【0033】
図6は、本発明の一実施形態における流下液膜式熱交換器が備える拡散部の近傍を拡大して模式的に示す図である。
図6に示すように、拡散部31を構成する円筒部材の径は、熱交換ユニット10を所定の間隔で配置した際に、隣り合う熱交換ユニット10の拡散部31との間の隙間が、給水部21を構成する上述の管体21aの径よりも狭くなる状態に
設定される。このような構成によれば、管体21aから吐出された流下液体の一部が、隣り合う拡散部31の間の隙間を通過できずに拡散部31に衝突する。このとき、拡散部31に衝突した流下液体は、衝突位置から拡散部31の表面に沿って放射状に拡散される結果、拡散部31に沿う方向(水平管11aに沿う方向)に広がる。拡散された流下液体は、その後、拡散部31の間の隙間を通じて、拡散部31の表面に沿って下方に流下し、水平管11a及びセパレータ12の表面を順に流下していく。
【0034】
なお、上述した複数の管体21aの水平管11aに沿う方向の間隔は、隣り合う管体21aから吐出される流下液体によって拡散部31表面に形成される上述の放射状の拡散における水平管11aに沿う方向の端部が重なる間隔に設定される。これにより、熱交換ユニット10の上端において、流下液体は、熱交換ユニット10の幅方向(水平管11aに沿う方向)の全体に拡がった状態で分布することになる。
【0035】
また、複数の管体21aから吐出される流下液体の流速を均一化し、各管体21aに対応する上述の放射状の拡散の程度を均一化する観点では、各管体21aにおける流下液体の吐出口から、当該各管体21aの上流側で、各管体21aに流下液体を供給する共通の流体供給路の特定位置までの距離が全て同一であることが好ましい。このような構成は、例えば、円管をトーナメント状に配置することで実現することができる。このようなトーナメント状の配管構成を採用する場合、配管分岐後の同一階層に属する円管の管径は全て同一であることが好ましい。
【0036】
以上のような構成を有する流下液膜式熱交換器1において、対向する熱交換ユニット10は、給水部21による流下液体の供給流量が予め指定された流量であるときに、対向する水平管11aの間を通過する流下液体の流量が給水部21より供給される流下液体の流量よりも小さくなる間隔で配置されている。
【0037】
図7は、対向して配置された熱交換ユニット10において、それぞれが備える水平管11aが対向する部分の近傍を拡大して示す模式図である。
図7に示すように、一方の熱交換ユニット10の水平管11aと他方の熱交換ユニット10の水平管11aとが対向する部分は、一方の熱交換ユニット10のセパレータ12と他方の熱交換ユニット10のセパレータ12とが対向する部分よりも対向する熱交換ユニット10間の間隔が狭くなっている。このような構成では、水平管11aが対向する部分を通過できる流下液体の流量は、対向して配置された凹部12cの底部12dが構成する狭窄部分14により規定される。そのため、熱交換ユニット10を極めて近接させた状態(例えば、狭窄部分14の間隔が数十mm)で対向配置すると、上述のように、対向する水平管11aの間を通過する流下液体の流量が給水部21より供給される流下液体の流量よりも小さくなる状態を実現することができる。このような状態では、狭窄部分14の上方(具体的には、凹部12cの鉛直方向上方の傾斜面が対向する部分15)に流下液体が一時的に滞留する状態になる。
【0038】
狭窄部分14の上方に滞留した流下液体は、仮に、当該位置に流下してくるまでの間に水平管11aの配置方向においてまばらな分布になりそうな状態になっていたとしても、当該滞留によって水平管11aの配置方向における分布が均一化される。本実施形態の流下液膜式熱交換器1では、特に限定されないが、対向する熱交換ユニット10のすべての水平管11aが対向して配置されているため、例えば、熱交換ユニット10を下部に向けて流下する過程において流下液体の分布がまばらになりそうになった場合でも、上述の狭窄部分14の機能により流下液体の分布がまばらになることを抑制することができる。
【0039】
本実施形態では、伝熱管11は、熱交換ユニット10において1m四方の領域に配置されている。この場合、上述の滞留を確実に発生させる観点では、流下液体の供給流量は、単位長さ1mあたり毎分15リットル以上、より好ましくは単位長さ1mあたり毎分18
リットル以上の値であることが好ましい。また、この流量である場合、対向する熱交換器10の間隔(狭窄部分14の間隔)は、25mm以下、より好ましくは22mm以下であることが好ましい。例えば、対向する熱交換器10の間隔が17.5mm、流下液体の単位長さ1mあたりの流量が毎分18リットル、管内液体の流量が毎分9リットルである条件下では、流下液体として65℃の温泉水を使用すると、5℃の管内液体(水)を35℃まで昇温させることができ、25℃の管内液体(水)を38℃まで昇温させることができる。
【0040】
ここで流下液体の分布を公知の有限要素法を使用してシミュレーションした結果を例示する。
図8は対向する熱交換ユニット10の間隔が広い場合の例として、熱交換ユニット10を単体で配置した状態の流下液体の分布を示す図である。
図9、
図10は対向する熱交換ユニット10の間隔が狭い場合の流下液体の分布を示す図である。
図8、
図9、
図10では、熱交換ユニット10の外形を実線の四角で表示している。流下液体の流量は単位長さ1mあたり毎分18リットルであり、熱交換ユニット10の上端から水平管11aの配置方向において均一な分布で流下液体を供給している。本シミュレーションでは流下液体の流下速度を濃淡で表示しており、当該濃淡が流下液体自体の分布に対応することになる。また、
図9(a)、
図9(b)、
図10(a)、
図10(b)では、上述のように対向する熱交換ユニット10においてすべての水平管11aがそれぞれ対向して配置されるとともに、ユニット狭窄部分14の間隔がそれぞれ22.0mm、20.0mm、17.5mm、15.0mmになっている。
【0041】
図8から理解できるように、熱交換ユニット10の間隔が広い場合、熱交換ユニット10の下方側の全体にわたって鉛直方向に濃い縞模様が表れており、流下液体の分布が不均一になっている。一方、
図9(a)、
図9(b)、
図10(a)、
図10(b)に示す例では、上述のように各狭窄部分14において流下液体が滞留するため。
図8に示すような鉛直方向の明確な縞模様は発生しておらず、熱交換ユニット10の全体にわたって、流下液体が均一に分布していることが理解できる。
【0042】
なお、上述の実施形態では、水平管11aの配置方向に沿って等間隔で配置された、鉛直方向に沿う軸を有する複数の管体により構成した給水部21を例示したが、この給水部21では、熱交換ユニット10の間隔が極めて狭くなった場合、流下液体の流量を確保しつつ熱交換ユニット10の間へ配置することが困難になる可能性がある。
図11及び
図12は、本発明の一実施形態における流下液膜式熱交換器が備える給水部の他の例を模式的に示す図である。
図11が正面図に対応し、
図12(a)が平面図に対応する。また、
図12(b)が
図12(a)におけるA-A線に沿う断面を模式的に示す拡大図であり、
図12(c)が
図12(a)におけるB-B線に沿う断面を模式的に示す拡大図である。なお、ここでは、2つの熱交換ユニット10を備える流下液膜式熱交換器1において、対向する熱交換ユニット10の間に流下液体を供給する給水部22について説明する。
【0043】
図11、
図12(a)に示すように、この給水部22は、流下液体(第2の流体)が充填される箱体22aにより構成される。箱体22aは、水平管11aの配置方向の一端に設けられた導入口22bと、水平管11aの配置方向に沿って設けられた、導入口22bからの距離が離れるにつれて開口幅が広くなる導出口22eを備える底面22dとを備える。なお、
図12(a)では、箱体22の上面22cが存在しているため箱体22aの底面22dや導出口22eは露出していないが、説明のため導出口22eの端部を破線で表示している。
【0044】
特に限定されないが、この例では、箱体22aは、
図12(a)、
図12(b)、
図12(c)に示すように、上底が下底よりも短い等脚台形状の断面形状を有し、導入口22bから離れるにしたがって箱体22aの上面22cが低くなる(箱体の高さが低くなる)
形状を有している。なお、導入口22bには、箱体22aに流下液体を供給する給水管24が連結される。この例では、導入口22bの形状と給水管24の形状とが一致していないためこれらを滑らかに接続する連結部23を導入口22bと給水管24との間に介在させている。
【0045】
また、この例では箱体22aの底面22dが備える導出口22eは、導入口22bからの距離が離れるにつれて、対向する熱交換ユニット10のそれぞれの方向に広がる等脚台形状の開口部になっている(
図12(b)の距離d1<
図12(c)の距離d2)。この導出部22eの開口形状と箱体22aの形状は、
図12(a)に示すA-A線やB-B線と平行な面における箱体22a内の流下液体の通過断面流速が同一となるように設計される。このような設計とすることで、導出部22eから供給される流下液体の、水平管11aの配置方向に沿う分布を均一にすることができる。特に必須ではないが、この例においても、上述の拡散部31を配置している。ここでは、拡散部31は、導出口22eの最大開口幅(箱体22aの導入口22bとは反対側における導出口22eの開口幅)よりも狭い間隔で配置されている。これにより、導出口22eから導出され、熱交換ユニット10の対向方向に広がった流下液体を、熱交換ユニット10の間に効率よく供給することができる。なお、流下液体が夾雑物を含む場合、この給水部22では、導出口22eに夾雑物が詰まってしまう可能性がある。そのため、夾雑物を含む流下液体を供給する場合は、導入口22bよりも上流側で、ストレーナ等により夾雑物を除去しておくことが好ましい。
【0046】
なお、
図12では、2つの熱交換ユニット10を備える流下液膜式熱交換器1に適用した給水部22について説明したが、3以上の熱交換ユニット10を備える流下液膜式熱交換器に対しても応用可能である。この場合、単に上述の箱体22を熱交換ユニット10の数に応じて並べた構成を採用することも可能であるが、
図13に示すように、1つの箱体22aが、熱交換ユニット10の数に応じた複数の導出口22eを備える底面22dを備える構成を採用してもよい。
【0047】
以上説明したとおり、本発明によれば、外表面に特別な加工を施さない伝熱管を使用する場合であっても、熱交換器の設置に必要な占有面積を増大させることなく、熱交換効率(温度効率)を高めることができる。
【0048】
なお、上述した実施形態は本発明の技術的範囲を制限するものではなく、既に記載したもの以外でも、本発明の範囲内で種々の変形や応用が可能である。例えば、上記実施形態では、拡散部を円筒(部分円筒面)で構成したが、給水部から供給された流下液体を拡散できれば任意の形状を使用することができる。また、流下液膜式熱交換器が備える熱交換ユニットの数やサイズは、任意に変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明によれば、外表面に特別な加工を施さない伝熱管を使用する場合であっても、熱交換器の設置に必要な占有面積を増大させることなく、熱交換効率(温度効率)を高めることができ、流下液膜式熱交換器として有用である。
【符号の説明】
【0050】
1 流下液膜式熱交換器
10、10a、10b 熱交換ユニット
11 伝熱管
11a 水平管
11b 湾曲管
12 セパレータ補助熱源
12a、12b 板材
12c 凹部
15 屈曲面
21、22 給水部
22a 箱体
22b 導入口
22d 底面
22e 導出口
31 拡散部