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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-02
(45)【発行日】2024-05-14
(54)【発明の名称】蓄熱装置
(51)【国際特許分類】
   F28D 20/00 20060101AFI20240507BHJP
   B60H 1/22 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
F28D20/00 G
B60H1/22 671
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020569652
(86)(22)【出願日】2020-01-28
(86)【国際出願番号】 JP2020003002
(87)【国際公開番号】W WO2020158740
(87)【国際公開日】2020-08-06
【審査請求日】2023-01-18
(31)【優先権主張番号】P 2019013407
(32)【優先日】2019-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100173934
【弁理士】
【氏名又は名称】久米 輝代
(72)【発明者】
【氏名】小林 敬幸
(72)【発明者】
【氏名】市瀬 篤博
(72)【発明者】
【氏名】清水 琢久哉
【審査官】小川 悟史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/151612(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0141724(US,A1)
【文献】特開2009-138984(JP,A)
【文献】特許第6440267(JP,B2)
【文献】国際公開第2012/063838(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/050269(WO,A1)
【文献】特開2013-124823(JP,A)
【文献】特開平05-017760(JP,A)
【文献】特開2016-050681(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28D 20/00
B60H 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度調節操作によって酸化反応および還元反応を実現する蓄熱材と、
前記蓄熱材を加熱するための伝熱素材と、
電源に接続することにより前記伝熱素材を加熱する少なくとも一対の電極と、
前記蓄熱材と前記伝熱素材と前記少なくとも一対の電極とを内包する容器と、
前記容器の上流側入口に設けられ、前記容器の内部と外部とを遮断する上流側弁と、
前記容器の下流側出口に設けられ、前記容器の内部と外部とを遮断する下流側弁と
を備え、
前記上流側弁および前記下流側弁の開閉を制御するとともに、
前記上流側弁および前記下流側弁が開けられると、外部から前記容器に空気を導入して、空気中の酸素と前記蓄熱材とを酸化反応させ、
前記上流側弁および前記下流側弁が閉じられると、外部から前記容器に侵入する空気によって前記蓄熱材が酸化しないように維持する
ことを特徴とする蓄熱装置。
【請求項2】
前記伝熱素材が前記蓄熱材を担持していることを特徴とする請求項1記載の蓄熱装置。
【請求項3】
前記蓄熱材には空気が一方向に流されており、
前記少なくとも一対の電極は、第1の電極および第2の電極であり、前記第1の電極は、前記蓄熱材に流される空気の上流側端部に配置され、前記第2の電極は、前記蓄熱材に流される空気の下流側端部に配置されている
ことを特徴とする請求項1または請求項2記載の蓄熱装置。
【請求項4】
前記少なくとも一対の電極には、さらに第3の電極も含まれており、
前記第3の電極は前記第1の電極に近い位置に配置されており、かつ、前記第2の電極は前記第1の電極よりは前記第3の電極に近い位置に配置されており、
蓄熱時には、前記第1の電極と前記第2の電極とを電源に接続し、放熱時には、前記第1の電極と前記第3の電極とを電源に接続する
ことを特徴とする請求項3記載の蓄熱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、空気と電力で動作する蓄熱装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、エンジン自動車では通常、機械圧縮式空調装置(エアコン)として作動しているのは冷房用のクーラーのみで、暖房用についてはエンジンの冷却水の熱を利用して暖めている。これは、冬になると着霜のためエアコンが使えなくなってしまうからであり、たとえ使用していたとしても10°Cくらいまでで、それ以下の外気温で暖める際にはエンジンの排熱を利用するヒーターを使っていた。
【0003】
また、近年では電気自動車の開発が進んでおり、例えば特許文献1には、低温時でも充分な暖房能力を確保できるとともにバッテリーへの負担を低減させることができる電気自動車用空調装置として、ヒートポンプ式の空調システムと、蓄熱式の空調システムと、燃焼式の空調システムとにより構成されている電気自動車用空調装置が開示されている。
【0004】
しかし、例えば特許文献1に示すような従来の電気自動車用空調装置では、大きな装置であるため場所をとるだけでなく、複雑な制御も必要になるため、全体として大がかりなシステムになってしまうという問題があった。そこで、このような問題に対処するために、化学蓄熱を用いて、電力により蓄熱して暖房装置に利用することが考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平6-143973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、電力により蓄熱して暖房装置に利用する際に、化学蓄熱などを用いる場合には蒸発器や凝縮器が必要になり、場所をとり重量が増大するだけでなく、それらの制御も必要になるため、結局のところ大がかりなシステムになってしまう、という課題があった。また、反応媒体として水系を用いると凍ってしまうため、凍らないフロンやアンモニア等を用いることが多いが、容積あたりの蓄熱量が小さいので大型化してしまう、という課題もあった。
【0007】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、電気自動車に搭載する際に場所をとらないようなシンプルで小型の形状であり、かつ、暖房装置として利用するために水を使わず、効率よく蓄熱および放熱ができる蓄熱装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、この発明の蓄熱装置は、温度調節操作によって酸化反応および還元反応を実現する蓄熱材と、前記蓄熱材を加熱するための伝熱素材と、電源に接続することにより前記伝熱素材を加熱する少なくとも一対の電極と、前記蓄熱材と前記伝熱素材と前記少なくとも一対の電極とを内包する容器と、前記容器の上流側入口に設けられ、前記容器の内部と外部とを遮断する上流側弁と、前記容器の下流側出口に設けられ、前記容器の内部と外部とを遮断する下流側弁とを備え、前記上流側弁および前記下流側弁の開閉を制御するとともに、前記上流側弁および前記下流側弁が開けられると、外部から前記容器に空気を導入して、空気中の酸素と前記蓄熱材とを酸化反応させ、前記上流側弁および前記下流側弁が閉じられると、外部から前記容器に侵入する空気によって前記蓄熱材が酸化しないように維持することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
この発明の蓄熱装置によれば、空気と電力だけで動作するため、シンプルで小型の形状とすることができ、空気中で電力を化学反応熱に変換して高密度に蓄え、熱を必要とする任意の時に、その蓄えた熱を高い速度で取り出すことが可能なため、効率よく蓄熱および放熱ができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】酸化還元反応を用いる化学蓄熱の反応系の例を示す表である。
図2】実施の形態1における蓄熱装置の概要構成の一例を模式的に示した図である。
図3】実施の形態1における蓄熱装置の概要構成の別の例を模式的に示した図である。
図4】実施の形態1における蓄熱装置の蓄熱時および放熱時の操作の一例を示すフローチャートである。
図5】酸素と窒素の混合気体中において、一酸化コバルト(CoO)と四酸化三コバルト(Co)が存在する状態を、温度と酸素濃度の関係で表したグラフである。
図6】熱天秤を用いて、空気流通条件下で、四酸化三コバルトから一酸化コバルトへの還元挙動、および、一酸化コバルトから四酸化三コバルトへの酸化挙動を示す説明図である。
図7】高温空気流通による蓄熱(還元)挙動の一例を示す説明図である。
図8】高温空気流通による放熱(酸化)挙動の一例を示す説明図である。
図9】実施の形態2における蓄熱装置の概要構成の一例を模式的に示した図である。
図10】実施の形態2における蓄熱装置の実験用デモ機の部分概要を示した図である。
図11】実施の形態2における蓄熱装置の蓄熱時および放熱時の操作の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
この発明は、電気自動車に搭載する際に場所をとらないようなシンプルで小型の形状であり、かつ、暖房装置として利用するために水を使わず、効率よく蓄熱および放熱ができる蓄熱装置を提供することを目的とするものであり、空気と電力で動作する蓄熱装置に関するものである。
以下、この発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0012】
実施の形態1.
この発明の実施の形態1における蓄熱装置は、温度調節操作による酸化還元反応を用いる化学蓄熱を応用し、空気と電力で動作するものである。
ここで、図1は、酸化還元反応を用いる化学蓄熱の反応系の例を示す表であり、温度調節操作によって酸化/還元する物質の反応式や反応温度、各物質の融点などを示している。この実施の形態1では、図1に示す表のNo.9の反応「2Co(四酸化三コバルト)→6CoO(一酸化コバルト)+O(酸素)」を利用する場合を例に説明する。
【0013】
図2は、この発明の実施の形態1における蓄熱装置の概要構成の一例を模式的に示した図である。この図2において、図の左方向から右方向へ、つまり、蓄熱材14に空気が一方向に流されているものとする。この蓄熱装置10は、温度調節操作によって酸化/還元する蓄熱材14、蓄熱材14を加熱するための伝熱素材15、電源に接続することにより伝熱素材15を加熱する少なくとも一対の電極11,12(この実施の形態1では、少なくとも一対の電極は第1の電極11および第2の電極12)、蓄熱材14と伝熱素材15と少なくとも一対の電極11,12とを内包する容器16、容器16の内部と外部とを遮断する上流側弁17と下流側弁18を備えている。この上流側弁17は容器16の上流側入口に設けられ、下流側弁18は容器16の下流側出口に設けられている。なお、この蓄熱装置10には、温度計や温度調節ユニットなど、温度調節操作に関する装置が接続されているが、これについては図示および説明を省略する。
【0014】
図3は、この発明の実施の形態1における蓄熱装置の概要構成の別の例を模式的に示した図である。図3に示す蓄熱装置10’は、温度調節操作によって酸化/還元する蓄熱材14、蓄熱材14を加熱するための伝熱素材15、電源に接続することにより伝熱素材15を加熱する少なくとも一対の電極11,12を備えている。この図3においても、図の左方向から右方向へ、つまり、蓄熱材14に空気が一方向に流されているものとする。
【0015】
図2図3において、斜め格子部分が伝熱素材15を示しており、網点部分が蓄熱材14を示している。すなわち、図2に示す例では、容器16の入口付近から出口付近にかけて、容器16の内部ほぼ全体に伝熱素材15が配設されており、その伝熱素材15に蓄熱材14が充填されて担持されている。また、図3に示す例においても、伝熱素材15に蓄熱材14が充填されて担持されていることは同じである。
【0016】
また、図2に示す例では、少なくとも一対の電極(この実施の形態1では、第1の電極11と第2の電極12)のうち、第1の電極11は、容器16の内部であって入口に近い位置(上流側弁17に近い位置)、すなわち、蓄熱材14に流される空気の上流側端部に配置され、第2の電極12は、容器16の内部であって出口に近い位置(下流側弁18に近い位置)、すなわち、蓄熱材14に流される空気の下流側端部に配置されている。一方、図3に示す例では、一対の電極11,12は上流側でも下流側でもない位置に配置されているが、蓄熱材14全体を均一に加熱できる位置であれば、一対の電極11,12は図3のような位置に配置されていてもよい。
【0017】
そして、蓄熱材14を加熱するための伝熱素材15と少なくとも一対の電極11,12とにより電気ヒーターが構成され、少なくとも一対の電極11,12を電源に接続することにより伝熱素材15が加熱される。すなわち、電気ヒーターとは、伝熱素材15と少なくとも一対の電極11,12とにより構成されるものであり、少なくとも一対の電極に電源を接続することにより、伝熱素材15を加熱するものである。
また、この実施の形態1では前述のとおり、図1に示す表のNo.9の反応を利用するので、蓄熱材14は四酸化三コバルト(または一酸化コバルト)である。
【0018】
伝熱素材15は、この実施の形態1ではSiC(炭化ケイ素、シリコンカーバイド)多孔体を用いることとし、前述のとおり、容器16の入口付近(上流側)から出口付近(下流側)まで、容器16の内部ほぼ全体に、すなわち、第1の電極11と第2の電極12に挟まれた部分に、SiC多孔体である伝熱素材15が配設されて電気ヒーターを構成している。そして、伝熱素材15の多孔体部分に蓄熱材14を充填することにより、伝熱素材15を加熱すれば蓄熱材14も加熱される。このように、伝熱素材15が蓄熱材14を担持していることにより、蓄熱材14全体を急速かつ均一に加熱することができるので、わずか数分で蓄放熱することが可能となる。
【0019】
なお、伝熱素材15としては、容器16の内部に充填した蓄熱材14を加熱できるものであれば、どのようなものであってもよく、加熱温度が低くてもよい場合にはステンレスなどの材質であってもよいし、形状としても例えば棒状の伝熱素材15’を容器16の中心軸に沿って配置し、その伝熱素材15’の周りを取り囲むように蓄熱材14を容器16の内部に充填するようにしてもよい。
【0020】
図4は、この発明の実施の形態1における蓄熱装置10の蓄熱時および放熱時の操作の一例を示すフローチャートであり、図4(a)が蓄熱時の操作、図4(b)が放熱時の操作を示している。
【0021】
蓄熱時には、図4(a)に示すとおり、まず初めに上流側弁17および下流側弁18が開いているかをチェックする(ステップST0)。通常であれば、後述する放熱操作の後は上流側弁17も下流側弁18も開いているため、そのまま開いている状態で蓄熱操作を開始すればよいが、開いていなければ(ステップST0がNOの場合)には下流側弁18および上流側弁17をあけて容器16に空気を導入し(ステップST1)、第1の電極11と第2の電極12を電源につないで(図2におけるスイッチSW1をつないで)直流あるいは交流電力を供給し、蓄熱材14が充填されている伝熱素材15を加熱する(ステップST2)ことにより、蓄熱材14を加熱する。
【0022】
蓄熱材14がある一定の温度(所定の温度)に達すると(ステップST3のYESの場合)、蓄熱材14は酸素を放出して元の状態より還元された状態の物質に変化し、蓄熱状態の物質に変化する。そして、酸素の放出が終了した後に(ステップST4のYESの場合)、遮断弁である上流側弁17および下流側弁18を閉じる(ステップST5)ことにより、蓄熱材14が外部から侵入する空気によって再び酸化しないように維持する。なお、酸素の放出が終了したかどうか(ステップST4)の判断は、吸熱反応が終了したかどうかを温度を計測することによって判断する。
【0023】
放熱時には、図4(b)に示すとおり、まず初めに上流側弁17が閉じているかをチェックする(ステップST10)。通常であれば、蓄熱操作の後(ステップST5の後)は上流側弁17も下流側弁18も閉じているが、上流側弁17が閉じていなければ(ステップST10がNOの場合)には上流側弁17を閉じてから、下流側弁18を開ける(ステップST11)。そして、放熱時にも第1の電極11と第2の電極12を電源につないで(図2におけるスイッチSW1をつないで)直流あるいは交流電力を供給し、伝熱素材15を加熱する(ステップST12)ことにより、蓄熱材14を加熱する。
【0024】
蓄熱材14がある一定の温度(所定の温度)に達したら(ステップST13のYESの場合)、第1の電極11に近い上流側の遮断弁である上流側弁17を開けて(ステップST14)、外部から容器16に空気を導入して(ステップST15)、空気中の酸素と蓄熱材14を酸化反応させ、発熱させる。発生した熱は流通する空気を加熱し、加熱された空気は下流側へ伝わり、蓄熱材14の温度を上昇させて酸化反応を開始させる。このように、蓄熱装置10全体で酸化反応させて放熱、熱供給させる。
【0025】
図5は、酸素と窒素の混合気体中において、一酸化コバルト(CoO)と四酸化三コバルト(Co)が存在する状態を、温度と酸素濃度の関係で表したグラフであり、横軸が温度、縦軸が酸素分圧(Oxygen Pressure)である。図5中の実線で示した曲線より左側の領域では四酸化三コバルトとして存在し、この曲線より右側の領域では一酸化コバルトとして存在する。また、図5中の一点鎖線で示した直線は、酸素濃度20.9%を示すラインであり、この一点鎖線の直線は実線で示した曲線と温度約850°Cで交差している。
【0026】
すなわち、空気と同じ酸素濃度20.9%の条件下では、温度が約850°Cより低い温度では四酸化三コバルトであり、850°Cより高い温度では一酸化コバルトとして存在する。そのため、一酸化コバルトを温度850°C未満の空気中に置くと酸化され、反応熱を放出して四酸化三コバルトに変化し、四酸化三コバルトを温度850°C以上の空気中に置くと還元され、吸熱して一酸化コバルトに変化する。これらの化学平衡的特性を用いて、空気共存下で材料の温度を操作することによって四酸化三コバルトの還元と一酸化コバルトの酸化を可逆的に繰り返し、蓄熱と放熱を行なわせる。
【0027】
図6は、熱天秤を用いて、空気流通条件下で、四酸化三コバルトから一酸化コバルトへの還元挙動(図6(a))および一酸化コバルトから四酸化三コバルトへの酸化挙動(図6(b))を示す説明図である。
図6(a)は、熱天秤を用いて、空気流通条件下で、四酸化三コバルト粒子(数ミリグラム)から一酸化コバルトへの還元挙動を、温度を変えて分析した結果であり、横軸が時間、縦軸が反応率である。また、図6(b)は、熱天秤を用いて、空気流通条件下で、一酸化コバルトから四酸化三コバルト粒子への酸化挙動を分析した結果であり、同じく横軸が時間、縦軸が反応率である。
【0028】
図6(a)では、温度915°C、921°C、930°C、936°C、945°Cの5種類について示しており、実線Aが温度915°Cの場合、実線Bが温度921°Cの場合、一点鎖線Cが温度930°Cの場合、一点鎖線Dが温度936°Cの場合、実線Eが温度945°Cの場合を示している。この図6(a)を見ると、還元反応は、空気共存下でも温度915°C以上で進行していることがわかる。また、より高温になるほど、反応は早くなり、温度936°C以上では約60秒以内で反応が終了することも確認できた。
【0029】
図6(b)では、温度750°C、773°C、795°C、815°C、825°Cの5種類について示しており、実線Fが温度750°Cの場合、実線Gが温度773°Cの場合、一点鎖線Hが温度795°Cの場合、実線Jが温度815°Cの場合、一点鎖線Kが温度825°Cの場合を示している。この図6(b)を見ると、酸化反応は、空気共存下において、温度773°C以上で進行していることがわかる。また、反応開始後約200秒までは急速に酸化反応が進行し、その後は反応速度が減速して1000秒まで反応が持続したことも確認できた。
なお、図6(a)と図6(b)の酸化還元操作は、可逆的に繰り返し可能であることも確認できた。
【0030】
図7は、高温空気流通による蓄熱(還元)挙動の一例を示す説明図であり、横軸が時間、縦軸が温度である。前述の図6において、熱天秤を用いて、空気流通条件下で還元(蓄熱)と酸化(放熱)を可逆的に繰り返し可能であることを確認したことをもとに、装置化を想定して約1グラムの四酸化三コバルト(蓄熱材14)をシリコンカーバイド多孔体(伝熱素材15)に担持し、これを電気加熱炉中に設置して、熱天秤実験と同様に、還元(蓄熱)と酸化(放熱)の操作の可逆性と反応速度について検討した。
【0031】
図7中、実線で示すグラフは、充填層中心、すなわち、図2に示す蓄熱装置10において蓄熱材14が充填された容器16の中心付近における蓄熱材14の温度が、時間とともに変化する様子を示しており、一点鎖線で示すグラフは、充填層外壁近傍、すなわち、図2に示す蓄熱装置10において蓄熱材14が充填された容器16の内壁に近い部分における蓄熱材14の温度が、時間とともに変化する様子を示している。
【0032】
そして、まず、酸素のみを0.47リットル/分の速度で供給しつつ四酸化三コバルトを温度938°Cに保った後、窒素を1.88リットル/分の速度で加えて酸素濃度を空気中濃度とほぼ同じ21%(空気の酸素濃度:20.9%)に変えたところ、四酸化三コバルト充填層内の温度が急速に低下して、吸熱反応が進行し、約200秒でおよそ反応が終了する、ということが確認できた。
【0033】
図8は、高温空気流通による放熱(酸化)挙動の一例を示す説明図であり、横軸が時間、縦軸が温度変化量である。シリコンカーバイド多孔体(伝熱素材15)に担持した四酸化三コバルト(蓄熱材14)を還元し一酸化コバルトに変化させた蓄熱材14が、再度、四酸化三コバルトに酸化して放熱する操作の可逆性と反応速度について検討した。
【0034】
図7と同様に、図8中、実線で示すグラフは、充填層中心付近における放熱(酸化)温度が、時間とともに変化する様子を示しており、一点鎖線で示すグラフは、充填層外壁近傍における放熱(酸化)温度が、時間とともに変化する様子を示している。また、図8では、実線、一点鎖線ともに符号Lのラインは、一酸化コバルトの初期温度を720°C、空気の供給速度を2.35リットル/分とした場合、符号Mのラインは、一酸化コバルトの初期温度を720°C、空気の供給速度を1.9リットル/分とした場合、符号Nのラインは、一酸化コバルトの初期温度を770°C、空気の供給速度を1.9リットル/分とした場合を示している。
【0035】
そして、図7で説明したような還元操作終了後、入口(上流側)の上流側弁17と出口(下流側)の下流側弁18を閉じて、一酸化コバルトの温度を初期温度として720°Cあるいは770°Cに降下させ、再度、入口(上流側)の上流側弁17と出口(下流側)の下流側弁18を開けて空気を供給したところ、急速に充填層内温度が昇温し、充填層内温度が昇温し酸化反応が進行する(20秒ほどで放熱する)ということが確認できた。
【0036】
このように、蓄熱装置10は、空気と電力だけで動作し、蓄熱材14、蓄熱材14を加熱するための伝熱素材15、少なくとも一対の電極11,12、蓄熱材14と伝熱素材15と少なくとも一対の電極11,12とを内包する容器16、容器16の内部と外部とを遮断する上流側弁17、下流側弁18とにより構成されるシンプルな構造で小型にすることができる。
【0037】
この結果、この実施の形態1における蓄熱装置を電気自動車に搭載する際にも場所をとらず、さらに、空気中で電力を化学反応熱に変換して高密度に蓄え、熱を必要とする任意の時に、その蓄えた熱を高い速度で取り出すことが可能なため、効率よく蓄熱および放熱ができるので、暖房装置として利用するために水を使う必要もなく、冬であっても問題なく使用できる。
【0038】
以上のように、この発明の実施の形態1における蓄熱装置によれば、空気と電力だけで動作するため、シンプルで小型の形状とすることができ、特殊な環境中ではなく空気中で電力を化学反応熱に変換して高密度に蓄え、熱を必要とする任意の時に、その蓄えた熱を高い速度で取り出すことが可能なため、効率よく蓄熱および放熱ができる。
【0039】
実施の形態2.
この発明の実施の形態2における蓄熱装置は、実施の形態1と同様に、温度調節操作による酸化還元反応を用いる化学蓄熱を応用し、空気と電力で動作するものであり、この実施の形態2においても、図1に示す表のNo.9の反応「2Co(四酸化三コバルト)→6CoO(一酸化コバルト)+O(酸素)」を利用する場合を例に説明する。
【0040】
図9は、この発明の実施の形態2における蓄熱装置の概要構成の一例を模式的に示した図である。なお、実施の形態1において説明したものと同様の構成には、同一の符号を付して重複する説明を省略する。この実施の形態2における図9に示す蓄熱装置20と、実施の形態1における図2に示す蓄熱装置10とでは、電極をいくつ備えているか、という違いがある。
【0041】
図9に示すとおり、この実施の形態2における蓄熱装置20は、温度調節操作によって酸化/還元する蓄熱材14、蓄熱材14を加熱する伝熱素材15、電源に接続することにより伝熱素材15を加熱する少なくとも一対の電極21,22,23(この実施の形態2では、少なくとも一対の電極は第1の電極21、第2の電極22、および、第3の電極23)、蓄熱材14と伝熱素材15と少なくとも一対の電極21,22,23とを内包する容器26、容器26の内部と外部とを遮断する上流側弁17と下流側弁18を備えている。この上流側弁17は容器26の上流側入口に設けられ、下流側弁18は容器26の下流側出口に設けられている。なお、実施の形態1における蓄熱装置10と同様に、この蓄熱装置20には、温度計や温度調節ユニットなど、温度調節操作に関する装置が接続されているが、これについては図示および説明を省略する。
【0042】
実施の形態1における蓄熱装置10は、少なくとも一対の電極として、容器16の内部であって入口に近い位置(上流側弁17に近い位置)、すなわち、蓄熱材14に流される空気の上流側端部に第1の電極11、容器16の内部であって出口に近い位置(下流側弁18に近い位置)、すなわち、蓄熱材14に流される空気の下流側端部に第2の電極12を備えていたが、この実施の形態2における蓄熱装置20は、少なくとも一対の電極として、容器26の内部であって入口に近い位置(上流側弁17に近い位置)、すなわち、蓄熱材14に流される空気の上流側端部に第1の電極21、容器26の内部であって出口に近い位置(下流側弁18に近い位置)、すなわち、蓄熱材14に流される空気の下流側端部に第2の電極22を備えている上に、さらにもう1つ、第1の電極21に近い位置に設置された第3の電極23を備えている。
【0043】
この第3の電極23は、図9に示すとおり、第1の電極21と同様に容器26の内部であって入口に近い位置(上流側弁17に近い位置)、すなわち、蓄熱材14に流される空気の上流側に配置されており、かつ、第1の電極21よりは第2の電極22に近い位置に配置されている。また、第2の電極22は、前述のとおり、容器26の内部であって出口に近い位置(下流側弁18に近い位置)、すなわち、蓄熱材14に流される空気の下流側端部に配置されている。
【0044】
そして、蓄熱材14を加熱するための伝熱素材15と少なくとも一対の電極21,22,23とにより電気ヒーターが構成され、少なくとも一対の電極21,22,23のうちのいずれか2つを電源に接続することにより伝熱素材15が加熱される。すなわち、電気ヒーターとは、伝熱素材15と少なくとも一対の電極21,22,23とにより構成されるものであり、少なくとも一対の電極21,22,23のうちのいずれか2つに電源を接続することにより、伝熱素材15を加熱するものである。
また、この実施の形態2においても、図1に示す表のNo.9の反応を利用するので、蓄熱材14は四酸化三コバルトである。
【0045】
伝熱素材15は、この実施の形態2においてもSiC(炭化ケイ素、シリコンカーバイド)多孔体を用いることとし、容器26の入口付近(上流側)から出口付近(下流側)まで、容器26の内部ほぼ全体に、すなわち、第1の電極21と第2の電極22に挟まれた部分に、SiC多孔体である伝熱素材15が配設されて電気ヒーターを構成している。そして、伝熱素材15の多孔体部分に蓄熱材14を充填することにより、伝熱素材15を加熱すれば蓄熱材14も加熱される。このように、伝熱素材15が蓄熱材14を担持していることにより、蓄熱材14全体を急速かつ均一に加熱することができるので、わずか数分で蓄放熱することが可能となる。
【0046】
なお、伝熱素材15としては、容器26の内部に充填した蓄熱材14を加熱できるものであれば、どのようなものであってもよく、加熱温度が低くてもよい場合にはステンレスなどの材質であってもよいし、形状としても例えば棒状の伝熱素材15’を容器26の中心軸に沿って配置し、その伝熱素材15’の周りを取り囲むように蓄熱材14を容器26の内部に充填するようにしてもよい。
【0047】
図10は、この発明の実施の形態2における蓄熱装置20の実験用デモ機の部分概要を示す図である。図10(a)は、蓄熱装置20のデモ機の容器26と電極21,22,23の概要を示す斜視図、図10(b)は電極21の詳細断面図、図10(c)は、蓄熱材14が充填された伝熱素材15(SiC多孔体)部分と電極21,22,23の位置関係とを模式的に示した容器26内部の断面図である。なお、電極21の材質はSiC(シリコンカーバイド)であり、図10(b)中の斜線部分に絶縁塗料が塗られている。また、電極22,23も、図10(b)に示す電極21と同じ材料および構造である。
【0048】
図10に示すように、この蓄熱装置20の容器26は、直径50mm(5cm)、高さ(長さ)200mm(20cm)の円筒形のもので、SiC多孔体からなる伝熱素材15が容器26の内部の約4分の3(長さ20cm中の15cm分)に配設され、その伝熱素材15(SiC多孔体)に蓄熱材14が充填されているので、蓄熱材14も容器26の内部の約4分の3に配設されている。なお、大きさや形状については、これに限定されるものではないが、これより小さい長さ10cmの円筒形の容器での実験も行なっており、シンプルで小さいものである。
【0049】
図11は、この発明の実施の形態2における蓄熱装置20の蓄熱時および放熱時の操作の一例を示す説明図であり、図11(a)が蓄熱時の操作、図11(b)が放熱時の操作である。なお、この一例におけるフローチャートは実施の形態1における図4に示すものと同じであるため、図示を省略する。
【0050】
蓄熱時には、図11(a)に示すとおり、上流側弁17をあけて容器26に空気を導入し、第1の電極21と第2の電極22を電源につないで(図9におけるスイッチSW1をつなぎ、スイッチSW2を第2の電極22側につないで、図11(a)に示す接続状態にして)直流あるいは交流電力を供給し、蓄熱材14が充填されている伝熱素材15を加熱することにより、蓄熱材14を加熱する。蓄熱材14がある一定の温度(所定の温度)に達すると蓄熱材14は酸素を放出して元の状態より還元された状態の物質に変化し、蓄熱状態の物質に変化する。そして、酸素の放出が終了した後に、遮断弁である上流側弁17および下流側弁18を閉じ、蓄熱材14が外部から侵入する空気によって再び酸化しないように維持する。なお、酸素の放出が終了したかどうかの判断は、吸熱反応が終了したかどうかを温度を計測することによって判断する。
【0051】
放熱時には、図11(b)に示すとおり、下流側弁18を開けてから第1の電極21と第3の電極23を電源につないで(図9におけるスイッチSW1をつなぎ、スイッチSW2を第3の電極23側につないで、図11(b)に示す接続状態にして)直流あるいは交流電力を供給し、伝熱素材15の一部を加熱して、残りの部分は伝熱により徐々に伝熱素材15全体を加熱することにより、蓄熱材14を加熱する。蓄熱材14がある一定の温度(所定の温度)に達したら、第1の電極21に近い上流側の遮断弁である上流側弁17を開けて、外部から容器26に空気を流通させ、空気中の酸素と蓄熱材14を酸化反応させ、発熱させる。発生した熱は流通する空気を加熱し、加熱された空気は下流側へ伝わり、蓄熱材14の温度を上昇させて酸化反応を開始させる。この酸化反応を下流側へ徐々に開始させ、蓄熱装置20全体で酸化反応させて放熱、熱供給させる。
【0052】
このように、実施の形態2においては、放熱時には容器26の入口付近(上流側)に配置された第1の電極21と第3の電極23とを接続して蓄熱材14を加熱するようにしたので、蓄熱してから放熱を開始するまでの時間が短い場合など、少ない電力で、容器26の入口付近から出口付近にかけて徐々に蓄熱材14を加熱することができるので、省エネになるというメリットがある。
【0053】
そして、この実施の形態2における蓄熱装置20も、実施の形態1における蓄熱装置10と同様に、空気と電力だけで動作し、蓄熱材14、蓄熱材14を加熱する伝熱素材15、少なくとも一対の電極21,22,23、蓄熱材14と伝熱素材15と少なくとも一対の電極21,22,23とを内包する容器26、容器26の内部と外部とを遮断する上流側弁17、下流側弁18とにより構成されるシンプルな構造で小型にすることができる。
【0054】
この結果、この実施の形態2における蓄熱装置を電気自動車に搭載する際にも場所をとらず、さらに、空気中で電力を化学反応熱に変換して高密度に蓄え、熱を必要とする任意の時に、その蓄えた熱を高い速度で取り出すことが可能なため、効率よく蓄熱および放熱ができるので、暖房装置として利用するために水を使う必要もなく、冬であっても問題なく使用できる。
【0055】
以上のように、この発明の実施の形態2における蓄熱装置によれば、実施の形態1における蓄熱装置と同様に、空気と電力だけで動作するため、シンプルで小型の形状とすることができ、特殊な環境中ではなく空気中で電力を化学反応熱に変換して高密度に蓄え、熱を必要とする任意の時に、その蓄えた熱を高い速度で取り出すことが可能なため、効率よく蓄熱および放熱ができる。
【0056】
なお、上記の実施の形態1,2の蓄熱装置10,20においては、伝熱素材15と容器16,26は別のものとして記載したが、伝熱素材15が容器16,26を兼ねるような一体型のものであってもよい。
【0057】
また、上記のとおり、この発明の蓄熱装置は、空気中で電力を化学反応熱に変換して高密度に蓄え、熱を必要とする任意の時に、その蓄えた熱を高い速度で取り出すことが可能であるため、電気自動車だけでなく、例えば、電動車の急速暖房や、高温バッチ炉の熱回収などに応用することも可能である。また、この発明の蓄熱装置における蓄熱操作時にのみ、すなわち、蓄熱材を還元するときには、伝熱素材を加熱する熱源として、例えば900°Cの高温排気を導入することにより伝熱素材が加熱されるように操作する(運用する)ことも可能である。
【0058】
なお、本願発明はその発明の範囲内において、各実施の形態の自由な組み合わせ、あるいは各実施の形態の任意の構成要素の変形、もしくは各実施の形態において任意の構成要素の省略が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0059】
この発明の蓄熱装置は、電気自動車だけでなく、電動車の急速暖房や、高温バッチ炉の熱回収などに適用することができる。
【符号の説明】
【0060】
10,10’,20 蓄熱装置
11,21 第1の電極
12,22 第2の電極
14 蓄熱材
15,15’ 伝熱素材
16,26 容器
17 上流側弁
18 下流側弁
23 第3の電極
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11