(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-02
(45)【発行日】2024-05-14
(54)【発明の名称】スクライブヘッド及びスクライブ装置
(51)【国際特許分類】
B28D 5/00 20060101AFI20240507BHJP
【FI】
B28D5/00 Z
(21)【出願番号】P 2021207278
(22)【出願日】2021-12-21
【審査請求日】2022-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】390000608
【氏名又は名称】三星ダイヤモンド工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003041
【氏名又は名称】安田岡本弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】岡島 康智
(72)【発明者】
【氏名】阪口 良太
(72)【発明者】
【氏名】竹原 春香
【審査官】堀内 亮吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-260226(JP,A)
【文献】特開2002-130339(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28D 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脆性材料基板にスクライブラインを形成するスクライビングツールと、前記スクライビングツールを着脱自在に保持するホルダージョイントと、前記ホルダージョイントの上方に配備され且つ当該ホルダージョイントを上下方向軸心回りに回転可能に保持するホルダージョイント保持部と、を有するホルダー保持部を備えるスクライブヘッドにおいて、
前記ホルダージョイント保持部には、非通電時に前記ホルダージョイントの回転をロックして保持し且つ、通電時に前記ホルダージョイントを回転可能にする電磁ブレーキ部
と、前記ホルダージョイントを保持する延長部材が設けられて
おり、
前記電磁ブレーキ部は、
通電することで励磁され斥力を発生する電磁体と、
前記電磁体の下方に配備され且つ前記電磁体の斥力により反発する永久磁石と、
前記永久磁石の下方に配備され且つ前記ホルダージョイントを保持する非磁性体と、を有し、
前記非磁性体は、前記延長部材を固定する
ことを特徴とするスクライブヘッド。
【請求項2】
前記電磁体において前記永久磁石に対面する側に強磁性体が配設されていて、
非通電により前記電磁体が無励磁状態となることで、前記永久磁石が前記電磁体の強磁性体に吸着して固定状態となり、前記ホルダージョイントの回転をロックし、
通電することにより前記電磁体が励磁状態となり斥力を発生することで、前記永久磁石が前記電磁体に対して反発して非固定状態となり、前記ホルダージョイントが回転可能となる構成とされている
ことを特徴とする請求項
1に記載のスクライブヘッド。
【請求項3】
前記永久磁石は、前記電磁体が無励磁状態と励磁状態とに変わることよって、前記電磁体と非磁性体の間を上下方向に移動可能とされている
ことを特徴とする請求項
2に記載のスクライブヘッド。
【請求項4】
脆性材料基板にスクライブラインを形成するスクライビングツールと、前記スクライビングツールを着脱自在に保持するホルダージョイントと、前記ホルダージョイントの上方に配備され且つ当該ホルダージョイントを上下方向軸心回りに回転可能に保持するホルダージョイント保持部と、を有するホルダー保持部を備え、前記ホルダージョイント保持部には、非通電時に前記ホルダージョイントの回転をロックして保持し且つ、通電時に前記ホルダージョイントを回転可能にする電磁ブレーキ部
と、前記ホルダージョイントを保持する延長部材が設けられているスクライブヘッドと、
前記スクライブヘッドと対向する位置に配備され且つ前記脆性材料基板が載置されるテーブルと、
前記テーブルを跨ぐように架設され且つ前記スクライブヘッドが取り付けられているビームと、を備え
、
前記電磁ブレーキ部は、
通電することで励磁され斥力を発生する電磁体と、
前記電磁体の下方に配備され且つ前記電磁体の斥力により反発する永久磁石と、
前記永久磁石の下方に配備され且つ前記ホルダージョイントを保持する非磁性体と、を有し、
前記非磁性体は、前記延長部材を固定する
ことを特徴とするスクライブ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脆性材料基板をスクライブするスクライブ装置に備えられたスクライブヘッドの技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、脆性材料基板の分断には、その基板にスクライブラインを形成するスクライブ工程と、スクライブラインに沿ってブレード(ブレーク刃)を押し付けて基板を分断するブレーク工程がある。そのうち、スクライブ工程ではスクライブ装置が用いられている。
スクライブ装置には、カッターホイールなどを用いたスクライビングツールがホルダージョイントを介してスクライブヘッドに取り付けられており、そのスクライビングツールにより脆性材料基板にスクライブラインを形成する。
【0003】
スクライブヘッドの中には、ホルダージョイントがベアリングを介して上下方向を向く軸心回りに回動自在とされているものもある。これにより、ホルダージョイントは無負荷のときフリーな状態であるが所定の方向に負荷がかかるとその方向に倣って走行する、すなわち椅子の脚に設けられたキャスターのような効果で、ホルダージョイントがスクライブヘッドに倣って移動することとなり、カッターホイールによって基板にスクライブラインが形成される。
【0004】
しかしながら、ホルダージョイントが回動自在であると、スクライブラインを形成する工程の途中でカッターホイールが揺動する首振り現象を起こしてしまい、スクライブラインが直線状にならずに、うねり状に形成されることがあり、基板分断の加工精度が低下する虞がある。このことより、スクライブラインを形成する工程でホルダージョイントの回転をロックすることが必要となる。
【0005】
ホルダージョイントの回転をロックする機構については、例えば、特許文献1に開示されているものがある。
特許文献1は、ワークを支持するテーブルの上方に可動支持体を装着し、該可動支持体の下端部に対し、軸受機構を介してブラケットを垂直軸線の周りで往復回動可能に装着し、該ブラケットに対し垂直軸線から水平方向に所定距離変位した位置にスクライブ刃を取り付け、テーブル又はスクライブ刃を水平方向に移動してワークの上面にスクライブ溝を形成するスクライブ装置が開示されている。このスクライブ装置は、ブラケットが可動支持体の孔に対し軸受を介して回転可能に支持されている。
【0006】
スクライブ装置には、可動支持体に対しブラケット(ホルダージョイント)及びスクライブ刃が垂直軸線を中心として水平方向に揺動することを阻止するロック機構が設けられている。ロック機構は、支持軸の上端面に押圧されるピストンロッドを備えたエアシリンダーによって構成されている。また、ピストンロッドは、付勢部材により常に退避位置に付勢されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
さて、特許文献1は、エアーを供給することによりホルダージョイント(ブラケット)を固定しているが、停電時など給電が止まって不意にエアーの供給が停止された場合、ホルダージョイントは回動自在になってしまい、スクライブヘッドのツール位置が変わってしまう虞がある。給電が止まってもホルダージョイントを固定できる機構が望ましい。
また、下方向の応力を与えてしまい、給電が止まったときにホルダージョイントを固定することができない。つまり、ホルダージョイントを固定したときの振れや振動が多くなる虞がある。
【0009】
エアー駆動の応答性により、ホルダージョイントの固定とフリー状態の切り替えが遅くなる虞がある。また、エアー供給方式の装置は、ホルダージョイントが一体型となりツー
ル交換が煩雑となる。
すなわち、エアーを用いて支持軸を押し付ける方法は応答性が悪く、また押し付けにより下方向に応力を与えるため、ホルダージョイントを固定したときに振れや振動が生じる虞がある。また、ホルダージョイントに対して下方に押す圧力をかけすぎるとカッターホイールが基板を破損させてしまう虞がある。
【0010】
そこで、本発明は、上記問題点に鑑み、スクライブラインを形成するに際して、ホルダージョイントの上下方向軸心回りの回転をロックしても、スクライビングツールの応答性が高く且つ振れや振動を抑制することができるスクライブヘッド及びスクライブ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するため、本発明においては以下の技術的手段を講じた。
本発明にかかるスクライブヘッドは、脆性材料基板にスクライブラインを形成するスクライビングツールと、前記スクライビングツールを着脱自在に保持するホルダージョイントと、前記ホルダージョイントの上方に配備され且つ当該ホルダージョイントを上下方向軸心回りに回転可能に保持するホルダージョイント保持部と、を有するホルダー保持部を備えるスクライブヘッドにおいて、前記ホルダージョイント保持部には、非通電時に前記ホルダージョイントの回転をロックして保持し且つ、通電時に前記ホルダージョイントを回転可能にする電磁ブレーキ部と、前記ホルダージョイントを保持する延長部材が設けられており、
前記電磁ブレーキ部は、
通電することで励磁され斥力を発生する電磁体と、
前記電磁体の下方に配備され且つ前記電磁体の斥力により反発する永久磁石と、
前記永久磁石の下方に配備され且つ前記ホルダージョイントを保持する非磁性体と、を有し、
前記非磁性体は、前記延長部材を固定することを特徴とする。
【0012】
好ましくは、前記電磁ブレーキ部は、通電することで励磁され斥力を発生する電磁体と、前記電磁体の下方に配備され且つ前記電磁体の斥力により反発する永久磁石と、前記永久磁石の下方に配備され且つ前記ホルダージョイントを保持する非磁性体と、を有しているとよい。
好ましくは、前記電磁体において前記永久磁石に対面する側に強磁性体が配設されていて、非通電により前記電磁体が無励磁状態となることで、前記永久磁石が前記電磁体の強磁性体に吸着して固定状態となり、前記ホルダージョイントの回転をロックし、通電することにより前記電磁体が励磁状態となり斥力を発生することで、前記永久磁石が前記電磁体に対して反発して非固定状態となり、前記ホルダージョイントが回転可能となる構成とされているとよい。
【0013】
好ましくは、前記永久磁石は、前記電磁体が無励磁状態と励磁状態とに変わることよって、前記電磁体と非磁性体の間を上下方向に移動可能とされているとよい。
本発明にかかるスクライブ装置は、上記のスクライブヘッドと、前記スクライブヘッドと対向する位置に配備され且つ前記脆性材料基板が載置されるテーブルと、前記テーブルを跨ぐように架設され且つ前記スクライブヘッドが取り付けられているビームと、を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、スクライブラインを形成するに際して、ホルダージョイントの上下方向軸心回りの回転をロックしても、スクライビングツールの応答性が高く且つ振れや振動を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明のスクライブヘッドを示した斜視図である。
【
図2】本発明のスクライブヘッドを示した正面図である。
【
図3】本発明のスクライブヘッドを示した側面図である。
【
図4】本発明のスクライブヘッドのホルダー保持部を示した側面図である。
【
図5】本発明のスクライブヘッドのホルダー保持部を構成する電磁ブレーキ部の拡大図である。
【
図6】本発明のスクライブ装置の概略を模式的に示した正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明にかかるスクライブヘッド及びスクライブ装置の実施形態を、図を参照して説明する。
なお、以下に説明する実施形態は、本発明を具体化した一例であって、その具体例をも
って本発明の構成を限定するものではない。また、図面に関して、見やすくするため、構成部品の一部を省略して描いている。また、スクライブ装置51におけるX軸方向、Y軸方向、Z軸方向等については、図面に示す通りである。
【0017】
まず、本発明のスクライブヘッド1が備えられたスクライブ装置51の概略について説明する。
図6は、本発明のスクライブヘッド1が備えられたスクライブ装置51の概略を模式的に示した正面図である。なお、スクライブラインを形成する方向については、
図6に示すように左側から右側へと向かうX軸方向である。
【0018】
図6に示すように、スクライブ装置51は、脆性材料基板Fが載置されるテーブル52(載置台)と、脆性材料基板Fの表面上にスクライブラインを形成するスクライブヘッド1と、を有している。
テーブル52は、スクライブヘッド1と対向する位置に配備されている。テーブル52は、モータが内蔵された支持部53により下方から支持されている。テーブル52は、当該テーブル52上に載置された脆性材料基板Fを保持する真空吸引手段(図示せず)を備えている。
【0019】
支持部53の内部には、モータ(図示せず)が格納されている。このモータは、テーブル52のXY平面で回転させて所定角度に位置決めするものである。支持部53は、移動台54上に載置されている。
移動台54は、一対の案内レール55に沿って、Y軸方向に移動自在に保持されている。この移動台54は、ボ-ルネジ56と螺合しており、モータの駆動によりボ-ルネジ56が回転することにより、案内レール55に沿ってY軸方向に移動する。
【0020】
また、スクライブ装置51には、ビーム57(ブリッジ)が一対の支柱58により架設されている。ビーム57は、移動台54とその上部のテーブル52を跨ぐようにX軸方向に沿って配備されている。支柱58は、X軸方向に一対配備されていて、ビーム57を下方から支持する。ビーム57には、スクライブヘッド1をX軸方向に案内するガイドレール59が取り付けられている。
【0021】
ガイドレール59とスクライブヘッド1は、移送部60を介して接続されている。その移送部60がモータの駆動によりガイドレール59に沿ってスライド移動することにより、ホルダー保持部2が取り付けられたスクライブヘッド1はX軸方向に移動可能となっている。また、スクライブヘッド1は、Z軸方向にも移動可能となっている。
図1に、本発明のスクライブヘッド1の斜視図を示す。
図2に、本発明のスクライブヘッド1の正面図を示す。
図3に、本発明のスクライブヘッド1の側面図を示す。
【0022】
図1~
図3などに示すように、スクライブヘッド1は、ホルダー保持部2と、ホルダー保持部2を格納するケース体3と、ケース体3を上下方向に移動させる上下移動機構(図示せず)と、上下移動機構が取り付けられ且つ上下方向に移動可能なスライド部材4と、上下移動機構を囲いダストなどの侵入を防いで保護する保護部材5と、ホルダー保持部2などを保持し且つ移送部60に取り付けられるステー部材6と、を有している。
【0023】
ケース体3は、内部にホルダー保持部2を格納する空間が確保された筐体である。ケース体3内にホルダー保持部2を格納し、ケース体3の上部において取り付けネジ31によりホルダー保持部2の上部を固定することで、ホルダー保持部2はケース体3内で保持される。
また、ケース体3には、X軸方向を向く貫通孔3aが複数設けられている。貫通孔3aには、取り付けネジ32が挿入される。ケース体3は、取り付けネジ32によりスライド部材4に取り付けられている。これにより、ケース体3とスライド部材4はともに、上下方向に移動可能となる。
【0024】
ケース体3の底部には、ホルダージョイント12が取り付けられる取り付け部3bが形成されている。取り付け部3bは、上下方向に貫通した孔部であって、径が異なる(下部より上部が小径の)段差部が形成されている。その段差部にホルダージョイント12を保持するリング部材7が取り付けネジ33を介して取り付けられることにより、ホルダージョイント12がケース体3の底部に取り付けられる。つまり、ホルダー保持部2は、ケース体3からホルダージョイント12及びスクライビングツール11が下方に突出するように配備される。
【0025】
リング部材7は、内周の大きさがホルダージョイント12の外周より大きい周囲(ホルダージョイント12が若干回転可能な大きさ)の空間が形成されている。本実施形態では、リング部材7の内周形状は略四角形状とされている。リング部材7の内周の範囲において、ホルダージョイント12は少し回転する。
上下移動機構はスライド部材4に取り付けられていて、本実施形態ではリニアガイドを採用している。リニアガイドは案内レールに沿ってスライダーが移動するものであり、案内レールは軸心が上下(垂直)方向を向くように配備され、スライダーは案内レールに沿って上下(垂直)方向を移動する。
【0026】
スライド部材4は、ケース体3を取り付け可能にする広さを有する板部材である。スライド部材4には、リニアガイドのスライダーが取り付けられている。スライダーが垂直方向を移動することにより、スライド部材4とケース体3は垂直方向を移動する。ただし、保護部材5とステー部材6は、移送部60を介してビーム57に固定されている。
スライド部材4は、上方に設けられたエアシリンダー8に連結されている。スライド部材4とケース体3は、エアシリンダー8の駆動とリニアガイドにより上下方向に移動することできる。なお、エアシリンダー8の本体は支持部材9を介して、ステー部材6の第2取り付け壁6bに取り付けられている。
【0027】
保護部材5は、リニアガイドを囲うことができる大きさの環状の部材である。保護部材5には、内部に空気を送り込む孔部5aが設けられている。孔部5aには、空気を供給するエアホース10が接続されている。この保護部材5は、内部に空気を送り込むことでダストなどの侵入を防いで保護するパージ部材となっている。
また、保護部材5とスライド部材4のX軸方向における位置については、若干の隙間を設けて配備されている。この隙間は、スライド部材4が上下方向に移動するために空けられたものである。またこの隙間は、保護部材5の内部に送り込まれた空気により壁ができた状態(シールされた状態)となっており、ダストなどの侵入を防いでいる。
【0028】
ステー部材6は、平面視で(Z軸方向から見て)L字形状に形成された部材である。ステー部材6は、移送部60に取り付けられる第1取り付け壁6aと、その第1取り付け壁6aの直交方向に立設され且つスクライブヘッド1が取り付けられる第2取り付け壁6bと、を有している。
第1取り付け壁6aには、Y軸方向を向く貫通孔6cが複数設けられている。貫通孔6cには、取り付けネジ34が挿入される。第1取り付け壁6aは、取り付けネジ34により移送部60に取り付けられている。これにより、ステー部材6は移送部60に取り付けられる。
【0029】
第2取り付け壁6bは、第1取り付け壁6aの一方縁から直交方向に立設されている。第2取り付け壁6bには、Y軸方向を向く貫通孔6dが複数設けられている。貫通孔6dには、取り付けネジ35が挿入される。第2取り付け壁6bは、取り付けネジ35により移送部60に取り付けられている。これにより、ステー部材6は移送部60に取り付けられる。また、第2取り付け壁6bには、スライド部材4とリニアガイドの案内レールが取り付けられている。
【0030】
図3に示すように、X軸方向において、第2取り付け壁6b、保護部材5(リニアガイド)、スライド部材4、ケース体3(ホルダー保持部2)の順に、積層するように配備されている。
スクライブヘッド1には、ホルダー保持部2が取り付けられている。ホルダー保持部2は、スクライブヘッド1全体のZ軸方向の移動とは別に、ホルダー保持部2もZ軸方向(垂直方向)に移動可能となっている。
【0031】
図4に、本発明のホルダー保持部2の側面図を示す。
図4に示すように、ホルダー保持部2は、脆性材料基板Fの表面上にスクライブラインを形成するスクライビングツール11と、スクライビングツール11を着脱自在に保持するホルダージョイント12と、ホルダージョイント12を上下方向軸心回りに回転可能に
保持するホルダージョイント保持部13と、を有している。
【0032】
スクライビングツール11は、脆性材料基板Fにスクライブラインを形成するカッターホイール11a(スクライビングホイール11a)と、カッターホイール11aを支持するホルダーである本体部11bと、を有している。
カッターホイール11aは、円板形状の部材であって、円周部分の断面が尖った三角形状に形成され、円板の中心には貫通した孔部が形成されている。カッターホイール11aは、孔部に挿入されたピンの軸心(Y軸方向)回りに回転自在に支持されている。つまり、カッターホイール11aは、X軸方向に走行可能となっている。
【0033】
本体部11bは、磁性材料からなる略円柱形状の部材であって、先端(下端)においてカッターホイール11aを回転自在に支持する。
このように、カッターホイール11aとホルダーである本体部11bが一体となったものが、スクライビングツール11である。カッターホイール11aを備えたスクライビングツール11は、ホルダージョイント12に取り付けられる。
【0034】
ホルダージョイント12は、スクライブヘッド1の下部に取り付けられている。ホルダージョイント12は、平面視で(Z軸方向から見て)略四角形状の部材であって、下部が開口され且つ上部が閉塞された有底筒状の部材である。ホルダージョイント12は、外周の大きさがリング部材7の内周より小さい周囲とされている。ホルダージョイント12は、リング部材7の内周において回転する。
【0035】
ホルダージョイント12の下部の軸心中央には、円筒形状の挿入部12aが形成されている。その挿入部12aは、スクライビングツール11を保持する保持部12aとなっている。その保持部12aの上端には、マグネット(図示せず)が設けられている。
ホルダージョイント12の保持部12aにスクライビングツール11の本体部11bを挿入すると、本体部11bの上端(基端)がマグネットによって吸引されて、スクライビングツール11がホルダージョイント12に固定される。
【0036】
ホルダージョイント12の上部には、上方向に突出状の軸部材12bが設けられている。軸部材12bは、軸心が上下方向を向いた長尺のものであり、ホルダージョイント12の上面中央から突設されている。軸部材12bの上部は、延長部材14の挿入部14aに挿入される。
軸部材12bには、ベアリング15が外嵌して取り付けられている。本実施形態では、ベアリング15は2個配備され、軸部材12bの上下方向中央から基端(下端)にかけて外嵌している。ホルダージョイント12は、軸部材12bに外嵌したベアリング15により、上下方向の軸心回りに回動自在に支持されている。なお、
図1~3においては、ベアリング15はベアリングケースに格納されている。
【0037】
本実施形態では、ホルダー保持部2に延長部材14が備えられており、その延長部材14は電磁ブレーキ部16(詳細は後述)の下部に取り付けられている。延長部材14は、平面視で(Z軸方向から見て)円形状の部材であって、下部が開口され且つ上部が閉塞された有底筒状の部材である。
延長部材14の下部の軸心中央には、円筒形状の挿入部14aが形成されている。その挿入部14aは、ホルダージョイント12を保持する保持部14aとなっている。延長部材14の保持部14aにホルダージョイント12の軸部材12bを挿入し側方からネジ36を締め付けることにより、軸部材12bが保持部14a内で固定され、ホルダージョイント12が延長部材14に固定される。
【0038】
延長部材14の上部には、上方向に突出状の軸部材14bが設けられている。軸部材14bは、軸心が上下方向を向いた長尺のものであり、延長部材14の上面中央から突設されている。軸部材14bは、電磁ブレーキ部16を構成する非磁性体19の挿入部19aに挿入される。
図5に、ホルダー保持部2を構成する電磁ブレーキ部16の拡大図を示す。
【0039】
図5に示すように、ホルダー保持部2は、電磁ブレーキ部16を備えることにより、無励磁時においてはホルダージョイント12を固定して回転させないようにし、励磁(通電)時においてはホルダージョイント12を回転できるようにする。つまり、本発明は、ホルダー保持部2の内部に、無励磁時にブレーキが作動してホルダージョイント12を固定する電磁ブレーキ部16を設けている。本発明のスクライブヘッド1は、磁気式キャスターロックヘッドと呼べるものでもある。
【0040】
具体的には、ホルダージョイント保持部13には、非通電時に無励磁状態にしてホルダージョイント12(スクライビングツール11)の回転をロックして保持し且つ、通電時に励磁状態にさせてホルダージョイント12(スクライビングツール11)を回転可能にする電磁ブレーキ部16が設けられている。
電磁ブレーキ部16は、電源ONにして電磁コイルに通電することで励磁され斥力を発生する電磁体17と、電磁体17の下方に配備され且つ電磁体17の斥力により反発する永久磁石18と、永久磁石18の下方に配備され且つホルダージョイント12を保持する非磁性体19と、を有している。上下方向(Z軸方向)に積層されるように上から順に、電磁体17、永久磁石18、非磁性体19が配備されている。
【0041】
電磁体17においては、永久磁石18に対面する側に強磁性体(電磁コイル)が配設されている。すなわち、本実施形態の電磁体17は、リング状の電磁コイル(図示せず)と、電磁コイルを内蔵する円筒形状の筐体17aと、を有している。
筐体17aは、ステンレススチール製(鉄製)の部材とされており、磁性を有する。筐体17aは、所定の外径とされ且つ高さは所定のものとされている。また、筐体17aの内部は、電磁コイルが収納することができる広さを有している。
【0042】
また、電磁体17の電磁コイルは、通電することで励磁されることにより斥力を発生する。
永久磁石18は、電磁体17の下方に配備され且つリング状のものとされている。永久磁石18の外径は、電磁体17の筐体17aの外径と略同じ外径とされている。なお、永久磁石18の厚みは所定のものとされている。また、永久磁石18は、ステンレススチール製(鉄製)の筐体にカバーされていてもよい。
【0043】
電磁体17と非磁性体19の間隔は、永久磁石18の上下方向の厚みより広いものとされている。すなわち、永久磁石18は、電磁体が無励磁状態と励磁状態とに切り替わることよって、電磁体17と非磁性体19の間を上下方向に移動可能とされている。
永久磁石18は、電磁体17の電磁コイルが通電され励磁されることにより反発する。つまり、永久磁石18がS極とすると、電磁体17の電磁コイルは励磁されてS極(斥力)となり、永久磁石18は反発して下方に移動し非固定状態となる。
【0044】
非磁性体19は、永久磁石18の下方に配備されている。非磁性体19は、平面視で(Z軸方向から見て)円形状の部材であって、下部が開口され且つ上部が閉塞された有底筒状の部材である。非磁性体19は、アルミニウム製のフランジ形状の部材である。非磁性体19は、上部の外径が永久磁石18の外径と略同じ径とされている。なお、非磁性体19の下部は、上部の外径より小さい外径とされている。
【0045】
その非磁性体19の下部の軸心中央には、円筒形状の挿入部19aが形成されている。その挿入部19aは、延長部材14を保持する保持部19aとなっている。非磁性体19の保持部19aに延長部材14の軸部材14bを挿入し側方からネジ37を締め付けることにより、軸部材14bが保持部19a内で固定され、延長部材14が非磁性体19に固定される。
[電磁ブレーキ部の作動]
電磁ブレーキ部16は、非通電(電源OFF)により電磁体17が無励磁状態となることで、永久磁石18が電磁体17の筐体17aに吸着して固定状態となり、ホルダージョイント12の回転をロックする構成である。なお、永久磁石18と非磁性体19との間に隙間Aができる(
図5を参照)。
【0046】
また、電磁ブレーキ部16は、通電(電源ON)することにより電磁体17が励磁状態となり斥力を発生することで、永久磁石18が電磁体17に対して反発して下方の非磁性体19側に移動して非固定状態となり、ホルダージョイント12が回転可能となる構成である。なお、電磁体17と永久磁石18との間に隙間Bができる(
図5を参照)。
詳しくは、電磁体17のコイルに通電しない状態では、永久磁石18が電磁体17の筐
体17aに吸着することにより、電磁ブレーキ部16はブレーキの作用を発現させている。
【0047】
電磁体17の電磁コイルに通電すると、その電磁コイルの磁束は永久磁石18側に働く永久磁束の磁束と反発するように逆方向の磁路を形成する。すると、永久磁石18が電磁体17の筐体17aからリリースされて電磁ブレーキ部16によるブレーキが解放される。
すなわち、通電OFFのとき(無励磁時)は、永久磁石18が電磁体17の筐体17aに吸着されることで制動・保持している。また、通電ONでは、電磁体17内においてコイル磁束が永久磁石18に反発して、電磁ブレーキ部16によるブレーキが解放される。
【0048】
本発明のスクライブヘッド1に備えられた電磁ブレーキ部16は、無励磁時においてホルダージョイント12を保持するためのブレーキや、スクライブ装置51の電源をOFFしたとき(停電も含む)などの制動ブレーキ(ホルダージョイント12の解放(回転可能)から瞬時ロック)に最適となる。
また、電磁ブレーキ部16は、制動状態から励磁することにより、磁束の相乗効果で強制的に反発(解放)することができるようになる。
【0049】
まとめると、本実施形態の電磁ブレーキ部16は、鉄製の筐体17aを備えた電磁体17と、鉄製の筐体に覆われた永久磁石18と、非磁性体19と、を有している。なお、本実施形態では、非磁性体19は、アルミニウム製の部材である。
電磁体17内の電磁コイルに通電しないとき、電磁体17は無励磁状態となって、永久磁石18は電磁体17の鉄製の筐体17aに吸着して電磁ブレーキ部16のブレーキがかかり、ホルダージョイント12はロック状態となるので、ホルダージョイント12を回転させることはできない。この状態が通常時である。
【0050】
一方、電磁体17内の電磁コイルに通電すると電磁コイルは励磁され、永久磁石18は電磁体17(電磁コイル)に対して反発することとなり、ホルダージョイント12はフリー状態となり回転可能となる。
スクライブヘッド1に電磁ブレーキ部16を備えた理由については、以下の通りである。
【0051】
スクライブ装置51の電源を切ったとき又は、停電でスクライブ装置51が停止したとき、スクライブヘッド1の状態を維持したいためである。すなわち、回転可能なホルダージョイント12を固定し、スクライビングツール11の状態(例えば、スクライビングツール11の傾きなど)を維持するためである。言い換えれば、スクライブヘッド1の状態の維持は、椅子のキャスターを固定するようなイメージである。
【0052】
ホルダージョイント12を固定していないと、スクライブ装置51の電源をONにした(稼働させた)ときに、スクライビングツール11の調整が毎回必要となるためである。
また、電磁体17内の電磁コイルに通電させると電磁コイルが発熱するため、長時間通電させた場合、冷却装置が必要となる。本発明では、電磁ブレーキ部16の通電はスクライビングツール11の調整や交換など短時間であるので、冷却装置を備える必要は無い。
【0053】
なお、通常では、電磁ブレーキ部16に通電しない状態(無励磁状態)とし、ホルダージョイント12を固定する。つまり、スクライブ装置51の電源をOFFにしたとき(停電を含む)及び、スクライブ装置51を稼働させたとき、ホルダー保持部2を固定しておくことで、スクライビングツール11が揺動する首振り現象を防ぎ、直線状のスクライブラインを形成する。また、通電させて電磁ブレーキ部16を起動して励磁状態にし、ホルダー保持部2を回転可能とすることで、スクライビングツール11の調整や交換を行うことができる。
【0054】
本発明は、無励磁式電磁ロックの構造を採用しており、停電時など不意に給電が止まった場合でも、非通電時には電磁ブレーキ部16は無励磁としているのでホルダージョイント12は固定され、ホルダー保持部2のスクライビングツール11の位置が変わらず維持される。
また、スクライビングツール11に下方向の応力を与えないので、ホルダージョイント12を固定することができる。ホルダージョイント12を固定したときの振れや振動が少
ない。
【0055】
また、電磁ブレーキ部16の応答性により、ホルダージョイント12の固定とフリー状態の切り替えが早くなる。
また、電磁式のホルダー保持部2は、ホルダージョイント12が先端部分のみとなり、スクライビングツール11の入れ替え(交換)や調整などが簡単にできる。
電磁ブレーキ部16は、ホルダージョイント12の軸部材12bを直接固定していないため、ホルダージョイント12部分をスクライビングツール11の形状に合わせて交換することが可能となっている。
【0056】
以上、本発明によれば、電磁ブレーキ部16を用いることで、ホルダージョイント12の軸部材12bを押圧しないため、下方向の応力を与えずにホルダージョイント12を固定することが可能であり、固定時の振れや振動が少なく、スクライビングツール11の応答性を高めることができる。
また、非通電時には電磁ブレーキ部16は無励磁状態となってホルダージョイント12がロックされるため、スクライブ装置51を停止させたとき(停電も含む)でも固定可能となる。また、通電により電磁ブレーキ部16は励磁状態となってホルダージョイント12が回転可能になるため、ホルダー保持部2の調整が可能となる。
【0057】
なお、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。
特に、今回開示された実施形態において、明示されていない事項、例えば、作動条件や操作条件、構成物の寸法、重量などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な事項を採用している。
【符号の説明】
【0058】
1 スクライブヘッド
2 ホルダー保持部
3 ケース体
3a 貫通孔
3b 取り付け部
4 スライド部材
5 保護部材
5a 孔部
6 ステー部材
6a 第1取り付け壁
6b 第2取り付け壁
6c 貫通孔
6d 貫通孔
7 リング部材
8 エアシリンダー
9 支持部材
10 エアホース
11 スクライビングツール
11a カッターホイール
11b 本体部
12 ホルダージョイント
12a 挿入部(保持部)
12b 軸部材
13 ホルダージョイント保持部
14 延長部材
14a 挿入部(保持部)
14b 軸部材
15 ベアリング
16 電磁ブレーキ部
17 電磁体(電磁コイル)
18 永久磁石(マグネット)
19 非磁性体
19a 挿入部(保持部)
F 脆性材料基板