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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-02
(45)【発行日】2024-05-14
(54)【発明の名称】導電配線及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/06 20060101AFI20240507BHJP
【FI】
H01B7/06
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023557199
(86)(22)【出願日】2023-07-03
(86)【国際出願番号】 JP2023024688
【審査請求日】2023-09-21
(31)【優先権主張番号】P 2022130587
(32)【優先日】2022-08-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】505044657
【氏名又は名称】林撚糸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】林 雄太
【審査官】中嶋 久雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-087398(JP,A)
【文献】国際公開第2018/173749(WO,A1)
【文献】特開2019-041458(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0194792(US,A1)
【文献】特開2017-095846(JP,A)
【文献】特表2018-528841(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイル状電線と、チェーンステッチ糸を含む導電配線であって、
前記チェーンステッチ糸は連続して環縫いされており、
前記コイル状電線は前記チェーンステッチ糸の環内に縫い留まっており、前記コイル状電線と前記チェーンステッチ糸は一体化されており、
前記コイル状電線のコイルの内部にさらに芯糸が存在することを特徴とする導電配線。
【請求項2】
前記コイル状電線は前記チェーンステッチ糸の環1~20個当たり1個の割合で連続的又は間欠的に環内に縫い留まっている請求項1に記載の導電配線。
【請求項3】
前記芯糸は伸縮性糸又は非伸縮性糸である請求項1に記載の導電配線。
【請求項4】
前記チェーンステッチ糸はシートに連続して環縫いされている請求項1に記載の導電配線。
【請求項5】
前記シートは、紙、樹脂シート、樹脂フィルム、織物、編み物、不織布からなる群から選ばれる少なくとも一つである請求項4に記載の導電配線。
【請求項6】
前記コイル状電線が、被覆電線を2本撚り合わせたツイストペアケーブル及び導電性素材を含む細幅形状のテープなる群から選ばれる少なくとも一つである請求項1に記載の導電配線。
【請求項7】
前記チェーンステッチ糸は、融点200℃以上の高融点合成繊維糸と、融点200℃未満の低融点合成繊維糸を含み、前記低融点合成繊維糸は融着されている請求項1に記載の導電配線。
【請求項8】
前記導電配線は芯糸及びチェーンステッチ糸を含み、前記芯糸及びチェーンステッチ糸からなる群から選ばれる少なくとも一つの糸はコンジュゲートマルチフィラメント糸である請求項1に記載の導電配線。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の導電配線の製造方法であって、
環縫いミシンにより、チェーンステッチ糸の環がシートの一面に連続して形成するように環縫いし、
前記チェーンステッチ糸の環内にコイル状電線を縫い留めて一体化し、
その際に、前記コイル状電線のコイルの内部にさらに芯糸を配置することを特徴とする導電配線の製造方法。
【請求項10】
前記チェーンステッチ糸の環内にコイル状電線を縫い留めて一体化した後、チェーンステッチ糸に沿ってシートを破り、シートを除去する請求項9に記載の導電配線の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電配線及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から固定電話と受話器を繋ぐカールコードは、螺旋状であることで動きに対しての追従性が良く、導電線が断線され難いことが知られている。また伸縮する芯に導電線や導電繊維を螺旋状に巻き付けることで配線のたるみを少なくし取り回しを良くしたものがある。
しかし、螺旋状配線は、螺旋方向と逆へ捻じれた場合に構造が崩れ、配線が絡まる問題がある。さらに芯となるものに導電線や導電繊維を巻き付けた螺旋構造では、擦れや伸縮で芯と螺旋構造の位置がズレ動いて分離し断線する問題がある為、螺旋構造全体を覆うように外側が樹脂・チューブ・組み物で被覆され、内部構造が露出しないように加工して扱いやすくする必要がある。しかし、これら配線は外径が大きくなり構造が硬くなるので、配線の曲げ難さや捻じり難さ、伸縮率の低下が発生し追従性能を阻害する問題が生じる。
一方、血圧、脈拍等を測定する器具を組み込んだ、いわゆるウエアラブル衣料等には、血圧、脈拍等を測定する器具と、この器具から取り出したデータを外部に送るための通信手段とを導通するための導電糸又は導電材料が使用される。特許文献1には、導電糸としては、カーボン系の導電糸、金属又は合金のめっき糸、導電性樹脂繊維糸、金属繊維糸等が提案されている。特許文献2には、導電性カーボン微粒糸を練り込んだナイロン糸が提案されている。特許文献3には、ポリエステルフィルムの表面に金、銀などの金属を蒸着した金属蒸着フィルムをスリットした糸が提案されている。特許文献4にはウエアラブル衣類に使用する電極として、可撓性電極が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-129115号公報
【文献】特開2017-201063号公報
【文献】特開2009-044439号公報
【文献】特開2015-139506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の金属配線は生地との追従が乏しく、使い勝手が良くないという問題があった。
【0005】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、生地との追従が良好であり、余分なたるみがなく、キンクも起こらず、使い勝手が良い導電配線を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の導電配線は、コイル状電線と、チェーンステッチ糸を含む導電配線であって、前記チェーンステッチ糸は連続して環縫いされており、前記コイル状電線は前記チェーンステッチ糸の環内に縫い留まっており、前記コイル状電線と前記チェーンステッチ糸は一体化されており、前記コイル状電線のコイルの内部にさらに芯糸が存在することを特徴とする。
【0007】
本発明の導電配線の製造方法は、前記の導電配線の製造方法であって、環縫いミシンにより、チェーンステッチ糸の環がシートの一面に連続して形成するように環縫いし、前記チェーンステッチ糸の環内にコイル状電線を縫い留めて一体化し、その際に、前記コイル状電線のコイルの内部にさらに芯糸を配置することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の導電配線は、コイル状電線と、チェーンステッチ糸を含み、チェーンステッチ糸は連続して環縫いされており、コイル状電線はチェーンステッチ糸の環内に縫い留まっており、コイル状電線とチェーンステッチ糸は一体化されていることにより、コイル状電線は生地との追従が良好であり、余分なたるみがなく、キンクも起こらず、使い勝手が良いものとなる。また、本発明の導電配線の製造方法は、環縫いミシンにより、チェーンステッチ糸の環がシートの一面に連続して形成するように環縫いし、その際に、前記チェーンステッチ糸の環内にコイル状電線を縫い留めて一体化することにより、効率よく本発明の導電配線を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は本発明の一実施形態で使用する、シートに環縫いしたチェーンステッチ糸の模式的製造工程図である。
図2図2は同、チェーンステッチ糸の模式的説明図である。
図3図3は本発明の一実施形態のコイル状電線をチェーンステッチ糸の環内に縫い留めてチェーンステッチ糸を一体化した模式的説明図である。
図4図4は本発明の一実施形態のコイル状電線のコイルの内部にさらに芯糸を存在させた模式的説明図である。
図5図5はチェーンステッチ糸を環縫いする際に環内にコイル状電線を縫い留めている側面写真である。
図6図6図5の拡大側面写真である。
図7図7図6の状態から台紙の下部を除去した側面写真である。
図8図8図7の状態から台紙を全部除去した側面写真である。
図9図9はコイル状電線のコイルの内部にさらに芯糸を配置した側面写真である。
図10図10は台紙とともに環縫いし、コイル状電線のコイルの内部にさらに芯糸を配置した状態から、台紙の下半分を除去した側面写真である。
図11図11図10の状態から台紙を全部除去した側面写真である。
図12図12図11の状態から加熱処理し、芯とチェーンステッチの伸縮性を発現させた状態の写真である。
図13図13は生地に縫い留められたコイル状部分(生地オモテ面)の状態の平面写真である。
図14図14は生地に縫い留められたチェーンステッチ状部分(生地ウラ面)の状態の平面写真である。
図15図15は生地より配線を分離した状態の側面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、コイル状電線と、チェーンステッチ糸を含む導電配線である。コイル状電線は、例えば固定電話の本体と受話器の間に接続されているカールコードとして使われている。本発明のコイル状電線は、カールコードだけでなく、これより太くてもよいし細くてもよく、コイル形状も任意のものを使用できる。チェーンステッチは、環縫いによって形成でき、経編みの基本である鎖編みも含む。前記チェーンステッチ糸は連続して環縫いされており、導電線はチェーンステッチ糸の環内に縫い留まっており、前記導電線と前記チェーンステッチ糸は一体化されている。チェーンステッチ糸の環内に縫い留まっているとは、コイル状電線はチェーンステッチ糸に包含され組み込まれていることをいう。これにより、コイル状電線は生地との追従が良好であり、余分なたるみがなく、キンクも起こらず、使い勝手が良い導電配線となる。
【0011】
コイル状電線は前記チェーンステッチ糸の環1~20個当たり1個の割合で連続的又は間欠的に環内に縫い留まっているのが好ましい。これにより、コイル状電線は生地との追従性を制御できる。
【0012】
コイル状電線のコイルの内部にさらに芯糸を存在させてもよい。芯糸の太さは直径0.01~20mmが好ましい。芯糸は伸縮性糸又は非伸縮性糸が好ましい。芯糸に伸縮性糸を使用した場合は、導電配線に伸縮性を付与できる。この伸縮性は、チェーンステッチ糸の引張限度の長さを上限とし、コイル状電線のコイルの圧縮限度の長さを下限とした範囲の制御された伸縮性である。コイル状電線のコイルの圧縮限度の長さを100%としたとき、概ね、101~300%の範囲で伸ばすことが可能である。芯糸に非伸縮性糸を使用した場合は、コイル状電線の寸法安定性を高めることができるほか、コイル状電線の補強効果を高めることができる。伸縮性糸の材料は、ゴム、ウレタン、シリコーン、熱可塑性エラストマー、合成繊維からなるコンジュゲートマルチフィラメント糸などが好ましい。芯糸の材料は後に説明するチェーンステッチ糸の材料と同様なものも使用できる。
【0013】
チェーンステッチ糸はシート(被縫製物)に連続して環縫いされていることが好ましい。シート(被縫製物)は、紙、樹脂シート、樹脂フィルム、織物、編み物、不織布などいかなるものであってもよい。ウエアラブル衣料の場合は、衣料又はその副資材(例えばベルト、補強布、保護布など)の生地にチェーンステッチ糸を縫製してもよい。あるいは、チェーンステッチ糸はシート(被縫製物)に沿ってシート(被縫製物)を破り、導電配線を取り出してもよい。
【0014】
本発明の導電配線の製造方法は、ミシンにより、チェーンステッチ糸の環がシートの一面に連続して形成するように環縫いする。ミシンは、例えばタジマ工業社販売、環縫いハンドル刺繍機、商品名TCMXシリーズがある。但し、チェーンステッチ糸の環に、コイル状電線を縫い留めて一体化すること、及びコイル状電線のコイルの内部にさらに芯糸を配置することは、本発明者の着想である。
【0015】
チェーンステッチ糸としては、例えばコットン、麻、ウール、シルク等の天然繊維、ポリエステル、ナイロン、アクリル、ビニロン、ポリオレフィン、パラ系アラミド、メタ系アラミド、ポリアリレート、ポリベンズオキサゾール等の合成繊維、レーヨン等の再生繊維や、ゴム、ウレタン、シリコーン、熱可塑性エラストマーが好ましい。チェーンステッチ部分に導電性を付与する場合の線材や糸は、銅線、アルミニウム線、ステンレス線、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、金属めっき繊維などいかなる導電素材であってもよい。チェーンステッチ糸は、フィラメント糸でもよいし紡績糸でもよい。一例として、ポリエチレンテレフタレートとポリテトラメチレンテレフタレート等の異種のポリエステルを複合紡糸したポリエステルコンジュゲートマルチフィラメント糸も使用できる。市販品として、東レ社製、商品名"T400"がある。また、コイル状の芯へ、ゴム糸に組み物で被覆した手芸用の伸縮紐を使用したり、組み物や撚糸物などの加工物も使用できる。チェーンステッチ糸の好ましい直径は10μm~3mmである。
前記チェーンステッチ糸は、融点200℃以上の高融点合成繊維糸と、融点200℃未満の低融点合成繊維糸を含み、前記融点合成繊維糸は融着されていることが好ましい。これにより、チェーンステッチ構造だけでは耐えられない引っ張りや擦れによるコイル状電線素材の位置ずれを、チェーンステッチ素材を溶解させて芯糸や生地と接着することで防止することができる。高融点合成繊維糸としては例えば融点が約260℃のポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント糸があり、低融点合成繊維糸としては融点が約70℃の共重合ナイロン糸がある。
【0016】
コイル状電線の太さは、直径0.005~10mmが好ましい。コイルの直径は0.02~40mmが好ましい。コイル状電線は、銅線、アルミニウム線、ステンレス線、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、金属めっき繊維などいかなるものであってもよい。電線は、裸糸電線又は被覆電線を使用できる。被覆電線の場合、被覆物は、ゴム、樹脂、補強繊維入りゴム、補強繊維入り樹脂などいかなるものであってもよい。コイル状電線材料は直線状が好ましい。直線状の電線は、チェーンステッチ糸の環内に縫い留めてチェーンステッチ糸を一体化すると、所定の距離(例えば2~20mm)ごとにチェーンステッチ糸の環内に固定され、それ以外はフリーとなるので、コイル状になる。コイル状電線素材として、被覆電線を2本撚り合わせたツイストペアケーブルを使用することが好ましい。この理由は、電気信号伝達の為の電線が平行である場合、飛来ノイズの電磁波によって磁場が発生すると、それに伴う起電力が発生し、誘導電流が発生しノイズ源となる。この対策として、2本以上電線をねじり合わせることで、ねじれ毎に起電力が逆向きに働き、起電力がノイズを打ち消しあうようになり、飛来ノイズからの影響を低減できる。このツイスト電線をコイル電線素材に使用することで、追従性が良く、且つノイズを低減したコイル状電線ができる。
またフレキシブルプリント回路基板やフレキシブルプリント配線板(FPC)と呼ばれるポリイミド等の絶縁性を持った薄く柔らかいベースフィルムと銅箔等の導電性金属を貼り合わせた基材に1本~複数線の電気回路を形成した基板を、細幅形状に加工した長尺FPCと呼ばれるものや、樹脂シートや樹脂フィルムなどに導電性インクをプリントした配線を細幅形状に加工したもの、導電性の箔や不織布、紙、樹脂シート、樹脂フィルムなどを細幅形状にスリットしたテープを導電線として使用できる。これら細幅形状の導電線の幅は0.05~15mm、厚み0.01~3mmが好ましい。
【0017】
本発明は、被覆絶縁されていない金属ワイヤーや金属メッキ繊維、細幅形状の導電性テープ等の裸導電線を、コイル状部分に用いることで、脈拍や筋電位を測定するウエアラブル衣料や、電気刺激治療器具において肌へ接する電極として使用可能である。またコイル状部分は1本もしくは複数本同時に引きそろえて巻き付けることが出来、この裸導電線同士が接するように巻き付けた場合や、生地に縫い留めた場合、電路が増えて電流がより流れやすくなる。さらにコイル状部分に加えチェーンステッチ部分も同様に被覆絶縁されていない金属ワイヤーや金属メッキ繊維等を用いた場合も、裸導電線同士が接するので電路が増えて電流が流れやすくなる。生地に縫い留めた場合は表面にコイル状部分、裏面にチェーンステッチが配置されるので、表面から裏面への電路も確保できる。この導電配線は生地に縫い付けたまま使用してもよいし、生地を破る、溶解させるなどして分離し使用してもよい。例えば、コイル状部分に撚糸物を使用する、あるいはコイル状部分とチェーンステッチ部分へ、導電性の金属線や繊維と水溶性ビニロンの撚糸物を使用し、配線製造後に水溶性ビニロンを溶解除去して導電素材を露出させ、導電素材同士の接点を増やし電路を多くすることができる。
【0018】
以下、図面を用いて説明する。以下の図面において、同一符号は同一物を示す。図1は本発明の一実施形態で使用する、シートに環縫いしたチェーンステッチ糸4の模式的工程説明図である。1はチェーンステッチ糸4を形成するためのチェーンステッチ製造装置である。送り方向Pに対して鉤針2及びルーパ5の向きを180度反転させた場合を示している。すなわち、説明のため上下を逆転させている。この場合、鉤針2が最上点に達して、下向きの移動に切り替わっても、鉤針2の鉤部2aの向きとシート(被縫製物)Aの送り方向Pと逆になっているため、供給糸Bは鉤針2の鉤部2aに係合されたまま、鉤針2とともに移動し、環3は送り方向Pと反対方向に押し倒される。
そして、鉤針2がシート(被縫製物)Aを下向きに貫通する際に、鉤針2の鉤部2aから外れる。この時、鉤針2は供給糸Bの環3の内部3aに位置しているので、次の供給糸Bが環状に引き上げられて形成される環3は、前の環3の内部3aから引き上げられる。これを繰り返すことによって、シート(被縫製物)Aの上面A1には、連続する環3が鎖状に連結されて、チェーンステッチ糸4が形成される。シート(被縫製物)Aは、環3と裏側の糸3bとの間に位置し、縫製穴6が形成される。シート(被縫製物)Aが紙の場合は、この縫製穴6に沿って破ることが容易であり、シート(被縫製物)Aを除去できる。このようにして、環縫いされたチェーンステッチ糸4単体を取り出しできる。次に説明するコイル状電線をチェーンステッチ糸の環内に縫い留めてチェーンステッチ糸を一体化した場合、あるいはコイル状電線のコイルの内部にさらに芯糸を存在させた場合も、同様にしてシート(被縫製物)Aを除去できる。
図2は本発明の一実施形態で使用する、シートに環縫いしたチェーンステッチ糸4の模式的説明図である。
【0019】
図3は本発明の一実施形態のコイル状電線7をチェーンステッチ糸の環内に縫い留めてチェーンステッチ糸4を一体化した模式的説明図である。
【0020】
図4は本発明の一実施形態のコイル状電線7のコイルの内部にさらに芯糸8を存在させ、チェーンステッチ糸4を一体化した模式的説明図である。
【0021】
図5はチェーンステッチ糸を環縫いする際に環内にコイル状電線を縫い留めている側面写真である。図5の写真中、右端は被覆電線を供給する治具である。図6図5の拡大側面写真、図7図6の状態からミシン目に沿って台紙の下部を除去した側面写真、図8図7の状態からミシン目に沿って台紙を全部除去した側面写真である。このようにして、被覆電線とチェーンステッチ糸が一体化した配線を作成する。
【実施例
【0022】
以下実施例を用いて、さらに本発明を具体的に説明する。本発明は以下の実施例に限定して解釈されるものではない。
以下実施例において、環縫いミシンはタジマ工業社販売、環縫いハンドル刺繍機、商品名TCMX-600を使用した。
【0023】
(実施例1)
(1)チェーンステッチ糸
チェーンステッチ糸として、ポリエステルコンジュゲートマルチフィラメント糸(東レ社製、商品名”T400”)総繊度330decitex、フィラメント数68本(直径約0.3mm)を1本使用した。
(2)電線
被覆電線として、導体直径0.08mm/本×7本、導体素材:錫めっき銅線、被覆樹脂:塩化ビニル樹脂、外径0.65mmを使用した。
(3)芯素材
芯素材として、ポリエステルコンジュゲートマルチフィラメント糸(社製、商品名”T400”)総繊度330decitex、フィラメント数68本を10本引き揃えて使用した。
(4)導電配線の作成
台紙として厚さ50μmのクラフト紙を使用し、図9に示すようにコイル状電線のコイルの内部にさらに芯糸を存在させ、チェーンステッチ糸を一体化した。図10は台紙とともに環縫いし、コイル状電線のコイルの内部にさらに芯糸を配置した状態から、ミシン目に沿って台紙の下半分を除去した側面写真である。図11図10の状態からミシン目に沿って台紙を全部除去した側面写真である。
その後、導電配線を100℃、2分間熱処理し、前記チェーンステッチ糸と芯素材のポリエステルコンジュゲートマルチフィラメント糸(東レT400)の伸縮性を発現させた。加熱の方法は湿式ではアイロンの蒸気、乾式ではヒートガンを用いた。これにより、被覆電線のループを作製後に加熱させて縮め、長さあたりのコイルの密度を高めて追従性を向上させた配線を作製した。図12は加熱処理後の芯とチェーンステッチの伸縮性を発現させた状態の写真である。
得られた導電配線は、ウエアラブル衣料に好適であった。
【0024】
(実施例2)
(1)チェーンステッチ糸
チェーンステッチ糸として、タングステン33μm(被覆無し)とポリエステル(PET)マルチフィラメント糸:総繊度155decitex、フィラメント数48本を芯、ポリエステル(PET) マルチフィラメント糸:総繊度83decitex、フィラメント数36本を鞘としてタングステンが露出するようにカバーリング撚糸した糸(直径約0.2mm)を使用した。
(2)電線
電線として、タングステン33μm(被覆無し)とポリエステル(PET) マルチフィラメント糸:総繊度165decitex、フィラメント数48本を芯、ポリエステル(PET) マルチフィラメント糸:総繊度83decitex、フィラメント数36本を鞘としてタングステンが露出するようにカバーリング撚糸した糸を使用した。
(3)芯素材
芯素材として、シリコンチューブ(内径0.5mm、外径1mm)を使用した。
(4)導電配線の作成
縫い付け生地として、ポリエステルフェルト生地を使用した。この導電配線は、生地に縫い付けたまま使用してもよいし、生地を破る、溶解させるなどして分離し使用してもよい。
図13は生地に縫い留められたコイル状部分(生地オモテ面)の状態の平面写真であり、図14は生地に縫い留められたチェーンステッチ状部分(生地ウラ面)の状態の平面写真であり、図15は生地より配線を分離した状態の側面写真であり、表裏が無くなりコイル状部分とチェーンステッチ部分が交差している様子が芯の表面に観察できる。
得られた導電配線は、ウエアラブル衣料に好適であった。
本実施例の導電配線は、被覆絶縁されていない金属ワイヤー裸導電線を、コイル状部分に用いることで、脈拍や筋電位を測定するウエアラブル衣料や、電気刺激治療器具において肌へ接する電極として使用可能である。またコイル状部分は1本もしくは複数本同時に引きそろえて巻き付けることができ、この裸導電線同士が接するように巻き付けた場合や、生地に縫い留めた場合、電路が増えて電流がより流れやすくなる。さらにコイル状部分に加えチェーンステッチ部分も同様に被覆絶縁されていない金属ワイヤー裸線を用いているので、裸導電線同士が接触し、電路が増えて電流が流れやすくなる。生地に縫い留めた場合は表面にコイル状部分、裏面にチェーンステッチが配置されるので、表面から裏面への電路も確保できる。この導電配線は生地に縫い付けたまま使用してもよいし、生地を破る、溶解させるなどして分離し使用してもよい。
【0025】
(実施例3)
(1)チェーンステッチ糸
チェーンステッチ糸として、ポリエステルコンジュゲート糸(東レ社製、商品名”T400”) 、総繊度330decitex、フィラメント数68本を1本使用した。
(2)電線
コイル状電線として、被覆電線を2本撚り合わせたツイストペアケーブルを使用した。このツイストペアケーブルは、導体直径0.08mm/本を7本、導体素材:錫めっき銅線、被覆樹脂:塩化ビニル樹脂、外径0.65mmを2本ねじり合わせたツイストペアケーブルである。
(3)芯素材
芯素材として、ポリエステルコンジュゲート糸(東レ社製、商品名”T400”)、総繊度330decitex、フィラメント数68本を9本引き揃えた糸を使用した。
(4)導電配線の作成
縫い付けシートとして、紙を使用し、縫い付け後に破り取った。この紙は、厚さ50μmのクラフト紙を使用し、前記ツイスト電線を台紙とともに環縫いし、コイル状電線に加工した。コイルの内部にさらに芯糸を配置した。その後、ミシン目に沿って紙を全部除去し、導電配線を100℃、2分間熱処理し、チェーンステッチ糸と芯素材のポリエステルコンジュゲートマルチフィラメント糸の伸縮性を発現させた。
得られた導電配線は、追従性が良く、且つノイズを低減したコイル状電線であり、ウエアラブル衣料に好適であった。
【0026】
(実施例4)
(1)チェーンステッチ糸
チェーンステッチ糸として、ポリエステル(PET)マルチフィラメント糸、総繊度165decitex、フィラメント数
48本を1本と低融点ナイロン(融点又は軟化点70℃)、総繊度110decitex、フィラメント数12本を1本、芯に配置し、低融点(融点又は軟化点70℃)ナイロン、総繊度110decitex、フィラメント数12本を1本、鞘に配置したカバーリング撚糸した糸を使用した。
(2)電線
コイル状電線として、タングステン、直径11μm(被覆無し)4本を芯に、水溶性ビニロン糸132decitex、1本を鞘として、タングステンが露出するようにカバーリング撚糸した糸を使用した。
(3)芯素材
芯素材として、ポリエステルコンジュゲート糸(東レ社製、商品名”T400”)、総繊度330decitex、フィラメント数68本を6本引き揃え糸を使用した。
(4)導電配線の作成
縫い付けシートとして、厚み100μm、質量(目付)20g/mのポリエステル繊維の不織布を使用した。不織布とともに電線のカバーリング撚糸を環縫いし、コイル状電線のコイルの内部にさらに芯糸を配置した。その後、100℃の熱水に浸し、コイル状糸の水溶性ビニロンを溶解し、ポリエステルコンジュゲート糸の伸縮性を発現させ、且つチェーンステッチの低融点ナイロンを溶融させた。次に、ミシン目に沿って不織布を破り除去した。
得られた導電配線は、チェーンステッチ構造だけでは耐えられない引っ張りや擦れによるコイル状電線素材の位置ずれを、チェーンステッチ素材を溶解させて芯糸や生地と接着することで防止することができ、ウエアラブル衣料に好適であった。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の導電配線は、ウエアラブル衣料、その副資材(例えばベルト、補強布、保護布など)、ロボットの配線、電話配線、医療器械、物流機械、その他電機・電子装置に好適である。
【符号の説明】
【0028】
1 チェーンステッチ製造装置
2 鉤針
2a 鉤部
3 環
3a 環の内部
3b 環の裏側糸
4 チェーンステッチ糸
5 ルーパ
6 縫製穴
7 コイル状電線
8 芯糸
A シート(被縫製物)
A1 シート(被縫製物)の上面
P シート(被縫製物)の送り方向
【要約】
コイル状電線7と、チェーンステッチ糸4を含み、チェーンステッチ糸4は連続して環縫いされており、コイル状電線7はチェーンステッチ糸4の環3内に縫い留まっており、コイル状電線7とチェーンステッチ糸4は一体化されている。この導電配線の製造方法は、環縫いミシンにより、チェーンステッチ糸4の環3がシートの一面に連続して形成するように環縫いし、その際に、チェーンステッチ糸の環内にコイル状電線7を縫い留めて一体化する。コイル状電線7のコイルの内部にさらに芯糸を存在させてもよい。これにより、生地との追従が良好であり、余分なたるみがなく、キンクも起こらず、使い勝手が良い導電配線を提供する。
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