(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-02
(45)【発行日】2024-05-14
(54)【発明の名称】血液脳脊髄液関門の透過性の調節
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20240507BHJP
A61K 31/197 20060101ALI20240507BHJP
A61K 38/08 20190101ALI20240507BHJP
A61K 45/06 20060101ALI20240507BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20240507BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20240507BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
A61K45/00
A61K31/197
A61K38/08
A61K45/06
A61P31/00
A61P35/04
G01N33/53 R
(21)【出願番号】P 2018526573
(86)(22)【出願日】2016-11-18
(86)【国際出願番号】 US2016062880
(87)【国際公開番号】W WO2017087869
(87)【国際公開日】2017-05-26
【審査請求日】2019-11-18
【審判番号】
【審判請求日】2022-01-28
(32)【優先日】2015-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500213834
【氏名又は名称】メモリアル スローン ケタリング キャンサー センター
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】ボワール, エイドリアン
(72)【発明者】
【氏名】マッサーグ, ジョアン
【合議体】
【審判長】冨永 みどり
【審判官】岡山 太一郎
【審判官】齋藤 恵
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0135656(US,A1)
【文献】ZUO,Shilun et al.,Protective effects of Ephedra sinica extract on blood-brain barrier integrity and neurological function correlate with complement C3 reduction after subarachnoid hemorrhage in rats,Neuroscience Letters,2015年10月27日,Vol.609,pp.216-222
【文献】AMES,Robert S.et al.,Identification of a Selective Nonpeptide Antagonist of the Anaphylatoxin C3a Receptor That Demonstrates Antiinflammatory Activity in Animal Models,The Journal of Immunology,2001年,Vol.166,pp.6341-6348
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 45/00
A61K 31/00
A61K 38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液/脳脊髄液関門の透過性を低下させる処置を必要とする被験体において、血液/脳脊髄液関門の透過性を低下させるための組成物であって、C3またはC3aRのアンタゴニストを含む、組成物。
【請求項2】
前記被験体が、がんを有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記被験体が、軟膜転移を発症する危険性がある、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記被験体が、感染性因子に曝露されている、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記被験体が、毒素に曝露されている、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記アンタゴニストが、C3のアンタゴニストである、請求項1から5のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
前記アンタゴニストが、C3aRのアンタゴニストである、請求項1から5のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
前記C3aRのアンタゴニストが、
【化10A】
からなる群より選択され、式中、-O-に結合したRは、アリール、ヘテロアリール、フェニル、ジフェニル、ジフェニル低級(C1~C4)アルキル、低級アルキルジフェニル、ナフチル、ナフチル低級アルキル、低級アルキルナフチル、キノリン、キノリン低級アルキル、低級アルキルキノリン、プリン、低級アルキルプリン、プリン低級アルキルであってよく、上記のいずれかは、非置換であっても、または低級アルキル、ハロゲン、ヒドロキシもしくは低級アルコキシで置換されていてもよい、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記C3またはC3aRのアンタゴニストが、Phe-Leu-Thr-Cha-Ala-Argペプチドである、請求項1から7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
前記組成物が第2の治療剤と組み合わせて投与されることを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
前記第2の治療剤が、化学療法剤または免疫調節剤である、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
軟膜転移の危険性を低下させる処置を必要とする被験体において、軟膜転移の危険性を低下させるための組成物であって、C3またはC3aRのアンタゴニストを含む、組成物。
【請求項13】
前記被験体が、がんと診断されている、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
前記がんが、乳がん、肺がんまたは黒色腫である、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
前記アンタゴニストが、C3のアンタゴニストである、請求項12から14のいずれかに記載の組成物。
【請求項16】
前記アンタゴニストが、C3aRのアンタゴニストである、請求項12から14のいずれかに記載の組成物。
【請求項17】
前記C3aRのアンタゴニストが、
【化10B】
からなる群より選択され、式中、-O-に結合したRは、アリール、ヘテロアリール、フェニル、ジフェニル、ジフェニル低級(C1~C4)アルキル、低級アルキルジフェニル、ナフチル、ナフチル低級アルキル、低級アルキルナフチル、キノリン、キノリン低級アルキル、低級アルキルキノリン、プリン、低級アルキルプリン、プリン低級アルキルであってよく、上記のいずれかは、非置換であっても、または低級アルキル、ハロゲン、ヒドロキシもしくは低級アルコキシで置換されていてもよい、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
前記C3またはC3aRのアンタゴニストが、Phe-Leu-Thr-Cha-Ala-Argペプチドである、請求項12から16のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項19】
前記組成物が第2の治療剤と組み合わせて投与されることを特徴とする、請求項12から18のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項20】
前記第2の治療剤が、化学療法剤または免疫調節剤である、請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
がんを有する、またはがんを有する疑いがある被験体において、
軟膜転移の危険性を低減させるための、C3またはC3aRアンタゴニストを含む組成物であって、前記組成物が、第2の治療剤と併用してC3またはC3aRアゴニストで交互の様式で該被験体に投与されることを特徴とする、組成物。
【請求項22】
前記がんが、乳がん、肺がんまたは黒色腫である、請求項21に記載の組成物。
【請求項23】
前記アンタゴニストが、C3のアンタゴニストである、請求項21または22に記載の組成物。
【請求項24】
前記アンタゴニストが、C3aRのアンタゴニストである、請求項21または22に記載の組成物。
【請求項25】
前記C3aRのアンタゴニストが、
【化10C】
からなる群より選択され、式中、-O-に結合したRは、アリール、ヘテロアリール、フェニル、ジフェニル、ジフェニル低級(C1~C4)アルキル、低級アルキルジフェニル、ナフチル、ナフチル低級アルキル、低級アルキルナフチル、キノリン、キノリン低級アルキル、低級アルキルキノリン、プリン、低級アルキルプリン、プリン低級アルキルであってよく、上記のいずれかは、非置換であっても、または低級アルキル、ハロゲン、ヒドロキシもしくは低級アルコキシで置換されていてもよい、請求項24に記載の組成物。
【請求項26】
前記C3またはC3aRのアンタゴニストが、Phe-Leu-Thr-Cha-Ala-Argペプチドである、請求項21から24のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項27】
前記第2の治療剤が、化学療法剤または免疫調節剤である、請求項21から26のいずれかに記載の組成物。
【請求項28】
がんを有する、またはがんを有する疑いがある被験体において、
軟膜転移の危険性を低減させる方法において使用するための、C3またはC3aRアンタゴニストを含む組成物であって、該方法は、被験体のCSFにおけるC3のレベルが、健常な対照被験体のCSFにおけるレベルと比較して上昇していると決定することにより、該被験体における軟膜転移を診断するステップと、次いで、該組成物、および任意選択で第2の治療剤で該被験体を処置するステップとを含む、組成物。
【請求項29】
前記がんが、乳がん、肺がんまたは黒色腫である、請求項28に記載の組成物。
【請求項30】
前記アンタゴニストが、C3のアンタゴニストである、請求項28または29に記載の組成物。
【請求項31】
前記アンタゴニストが、C3aRのアンタゴニストである、請求項28または29に記載の組成物。
【請求項32】
前記C3aRのアンタゴニストが、
【化10D】
からなる群より選択され、式中、-O-に結合したRは、アリール、ヘテロアリール、フェニル、ジフェニル、ジフェニル低級(C1~C4)アルキル、低級アルキルジフェニル、ナフチル、ナフチル低級アルキル、低級アルキルナフチル、キノリン、キノリン低級アルキル、低級アルキルキノリン、プリン、低級アルキルプリン、プリン低級アルキルであってよく、上記のいずれかは、非置換であっても、または低級アルキル、ハロゲン、ヒドロキシもしくは低級アルコキシで置換されていてもよい、請求項31に記載の組成物。
【請求項33】
前記C3またはC3aRのアンタゴニストが、Phe-Leu-Thr-Cha-Ala-Argペプチドである、請求項28から31のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項34】
前記第2の治療剤が、化学療法剤または免疫調節剤である、請求項28から33のいずれかに記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権主張
本願は、米国仮出願第62/258,044号の優先権を主張し、その内容全体が本明細書に参照によって組み込まれる。
【0002】
本発明は、血液/脳脊髄液関門(「B-CSF-B」)を調節するための、ならびに、軟膜転移および/または感染性疾患を診断する、防止する、および処置するための方法と組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
軟膜は、脳および脊髄を取り巻き、脳脊髄液(CSF)を含有する。がんは、CSF区画内に広がり、これは軟膜転移といわれ、厄介な臨床的課題を提示する。この流体で満たされた空間への転移は、中枢神経系中に急速に広まり、脳、脊髄、頭蓋および脊髄神経に定着および侵襲し、迅速な神経障害および死亡を引き起こす。処置していない患者は、診断後6~8週間の軟膜腫瘍負荷(tumor burden)で死亡し(20、7)、現行の処置は、この厳しい予後に対して改善をほとんど示さない(21、22)。任意の全身性のがんは、軟膜に播種し得るが、固形悪性腫瘍からの軟膜転移の大多数は、原発性乳がんおよび肺がんから生じる(22)。固形腫瘍を有する患者のほぼ5~10%は、軟膜転移を抱え、この数は、上昇すると予想される(23、25)。この病的な、ますます蔓延しているがんの合併症の分子基盤は、不明なままである。
【0004】
脈絡叢は、分極した分泌上皮であり、これは、脳室内にあり、CSFを分泌し、細胞および血漿成分の軟膜腔への進入を制限する。軟膜腔内では、転移性派生物が、懸濁液中で、ならびに薄い間葉組織層である軟膜(pia matter)と接触して存在する。軟膜転移は、一旦確立されたら、実質を浸潤し、脊髄および脊髄根を含む神経軸索全体を被覆する場合がある。
【0005】
CSFは、無細胞であり、タンパク質、グルコースおよびサイトカインの含有量が少ない(18)。この組成のため、軟膜腔は、他の主な転移器官部位、例えば脳、骨髄、肝臓または肺の実質と比較して、転移微小環境として著しく異なる。間葉細胞、免疫細胞および上皮細胞、血管系、細胞外マトリックス構造物を含むこうした他の部位の間質成分、ならびに局所および全身的シグナルは、転移性派生物を支える源を提供し、これらの部位における細胞および分子の転移決定因子について、多くのことが研究されている(24、26)。それに反して、どのようにしてCSFの組成的に単純な環境で軟膜腔を浸潤するがん細胞が増殖できるのかについて、ほとんどわかっていない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、血液/脳脊髄液関門(「B-CSF-B」)を調節するための、ならびに、軟膜転移(がん性髄膜炎または軟膜癌腫症としても公知である)を診断する、防止する、および/または処置するための、方法および組成物に関する。これは、遺伝子「シグネチャー」という、軟膜内で播種し、成長する細胞成分によって差次的に発現する別個の遺伝子セットの発見に少なくとも部分的に基づく。その「シグネチャー」セットにおいての、遺伝子の非限定的な一例は、補体成分3(「C3」または「C3」)である。
【0007】
本発明のある非限定的な実施形態は、(i)循環がん細胞が補体C3を生成する;(ii)細胞学的に、またはMRIで証明された軟膜転移を有する患者からのCSF中で、C3が検出可能である;(iii)C3またはその受容体C3aR(あるいはC3aRと称される)のアゴニストが、血液-CSF-関門のがん細胞および他の作用剤に対する透過性を増加させる;ならびに(iv)C3またはC3aRのアンタゴニストは、血液-CSF-関門のがん細胞および他の作用剤に対する透過性を低下させ、この空間内のがん細胞の成長を阻害するという発見に、少なくとも部分的に基づく。
【0008】
したがって、本発明は、B-CSF-Bそれ自体を操作するので、中枢神経系に関与する広範囲の髄膜の病変および状態に適用可能である。B-CSF-Bを強制的に閉じると、がん細胞の髄膜への到達および/または髄膜内の生存を低減させることができる。反対に、B-CSF-Bを開くと、全身化学療法のCSF中への進入を改善できる。感染性髄膜炎の場合では、B-CSF-Bを開くと、抗菌剤のCSF中への透過が改善され得る。
【0009】
したがって、ある特定の実施形態では、本発明は、そのような処置を必要とする被験体において、B-CSF-Bの透過性を増加させる方法であって、有効量のC3またはC3aRのアゴニストを被験体に投与するステップを含む、方法を提供し;ここで、例えば、限定されないが、被験体は、CSF中に治療剤または診断剤が存在することから利益を得られる状態に罹患していることがある。そのような状態の例は、髄膜炎を含むが、それに限定されない細菌性、ウイルス性、真菌性、原虫性、もしくは寄生生物性(例えば、寄生虫の)感染症を含むが、それらに限定されない中枢神経系の感染性疾患;軟膜性髄膜炎を含むが、それに限定されない乳がん、肺がん、もしくは黒色腫を含むが、それらに限定されない中枢神経系の悪性疾患;神経系の変性疾患、例えば、以下に限定されないが、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン舞踏病、もしくはピック病;脳血管疾患;ならびに/または例えば脳血管事故、手術もしくは外傷によるCNSへの急激な損傷を含むが、それらに限定されない。様々な実施形態では、本発明は、有効量のC3またはC3aRのアゴニストを投与することにより、これらの状態を処置する方法を提供する。
【0010】
さらにある特定の実施形態では、本発明は、そのような処置を必要とする被験体において、B-CSF-Bの透過性を低下させる方法であって、有効量のC3またはC3aRのアンタゴニストを被験体に投与するステップを含む、方法を提供し;ここで、例えば、限定されないが、被験体は、(i)悪性疾患に罹患していることがあり、したがって、がん細胞がB-CSF-B関門を透過する危険性があり得る;(ii)軟膜疾患の存在と一致する所見を有し得る;(iii)乳がん、肺がん、または黒色腫に罹患していることがある;および/または(v)代謝性疾患もしくは毒素により媒介される疾患に罹患していることがある。
【0011】
さらにある特定の実施形態では、本発明は、被験体において軟膜転移を診断する方法であって、被験体のCSFにおけるC3のレベルが、健常な対照被験体のCSFにおけるレベルと比較して上昇していると決定するステップを含む、方法を提供する。関連した非限定的な実施形態では、本発明は、前記方法を実践するためのキットを提供し、前記キットは、以下に限定されないが、抗C3抗体もしくは抗体断片または単鎖抗体などC3を検出するための手段、ならびに任意選択で、キットの使用およびCSFにおけるC3のレベルおよび軟膜転移性疾患とそれの関連を決定することにおけるその使用のための指示または指示へのアクセス;二次抗体および/もしくは検出剤、ならびに/または腰椎穿刺を行うための材料もしくはリザーバータップ(reservoir tap)を含む。前記キットは、CSF中の乳がん細胞、肺がん細胞、または黒色腫細胞の検出に適している抗体をさらに含み得る。前記キットは、CSFにおけるグルコースのレベルを決定するための手段をさらに含み得る。
【0012】
さらにある特定の実施形態では、本発明は、がんを有する、またはがんを有する疑いがある被験体を処置する方法であって、C3もしくはC3aRアンタゴニスト、および/または第2の治療剤と併用したC3もしくはC3aRアンタゴニストで被験体を処置するステップを含む、方法を提供する。例えば、限定されないが、本発明は、がんを有する、またはがんを有する疑いがある被験体を処置する方法であって、被験体において、被験体のCSFにおけるC3のレベルが、健常な対照被験体のCSFにおけるレベルと比較して上昇していると決定することにより、軟膜転移を診断するステップと、次いで、C3もしくはC3aRアンタゴニスト、および/または第2の治療剤と併用したC3もしくはC3aRアンタゴニストで被験体を処置するステップとを含む、方法を提供する。
【0013】
さらにある特定の実施形態では、本発明は、軟膜転移のモデル系であって、第1のジェネレーター動物(generator animal)のくも膜下腔中に親がん細胞を接種し、次いで、一定期間後、第1のジェネレーター動物の髄膜からがん細胞を収集するステップと、前記収集した細胞を、第2のジェネレーター動物のくも膜下腔中に接種し、次いで、一定期間後、第2のジェネレーター動物の髄膜からがん細胞を収集するステップと、任意選択で前記選択ステップを1回または複数回を繰り返すステップとを含み、それによりモデル動物を生成するために使用される軟膜転移細胞(「Int」細胞)の集団を得る方法により調製される、軟膜転移細胞を接種したモデル動物を含む、モデル系を提供する。ある特定の非限定的な実施形態では、軟膜転移細胞の前記集団は、宿主動物の全身循環中にさらに注入され得、次いで、一定期間後、宿主動物の髄膜から、「LeptoM」細胞といわれるがん細胞が収集できる。髄膜中に検出可能なLeptoM細胞を有する動物は、本発明によるモデル系である(Int細胞の接種後、髄膜での成長が確立された宿主動物を含む)。非限定的な実施形態では、モデル動物および/またはジェネレーター動物は、非ヒト動物、例えば、非ヒト霊長類、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、モルモット、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ブタ、またはヒツジであってよいが、それらに限定されない。
特定の実施形態において、例えば以下の項目が提供される:
(項目1)
血液/脳脊髄液関門の透過性を低下させる処置を必要とする被験体において、血液/脳脊髄液関門の透過性を低下させる方法であって、有効な阻害量のC3またはC3aRのアンタゴニストを該被験体に投与するステップを含む、方法。
(項目2)
前期被験体が、がんを有する、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記被験体が、軟膜転移を発症する危険性がある、項目1に記載の方法。
(項目4)
前記被験体が、感染性因子に曝露されている、項目1に記載の方法。
(項目5)
前記被験体が、毒素に曝露されている、項目1に記載の方法。
(項目6)
前記アンタゴニストが、C3のアンタゴニストである、項目1から5のいずれかに記載の方法。
(項目7)
前記アンタゴニストが、C3aRのアンタゴニストである、項目1から5のいずれかに記載の方法。
(項目8)
血液/脳脊髄液関門の透過性を低下させる処置を必要とする被験体において、血液/脳脊髄液関門の透過性を低下させることにおいて使用するための、C3またはC3aRのアンタゴニスト。
(項目9)
前期被験体が、がんを有する、項目8に記載のアンタゴニスト。
(項目10)
前記被験体が、軟膜転移を発症する危険性がある、項目8に記載のアンタゴニスト。
(項目11)
前記被験体が、感染性因子に曝露されている、項目8に記載のアンタゴニスト。
(項目12)
前記被験体が、毒素に曝露されている、項目8に記載のアンタゴニスト。
(項目13)
C3のアンタゴニストである、項目8から12のいずれかに記載のアンタゴニスト。
(項目14)
C3aRのアンタゴニストである、項目8から12のいずれかに記載のアンタゴニスト。
(項目15)
軟膜転移の危険性を低下させる処置を必要とする被験体において、軟膜転移の危険性を低下させる方法であって、有効な阻害量のC3またはC3aRのアンタゴニストを該被験体に投与するステップを含む、方法。
(項目16)
前記被験体が、がんと診断されている、項目15に記載の方法。
(項目17)
前記がんが、乳がん、肺がんまたは黒色腫である、項目16に記載の方法。
(項目18)
前記アンタゴニストが、C3のアンタゴニストである、項目15から17のいずれかに記載の方法。
(項目19)
前記アンタゴニストが、C3aRのアンタゴニストである、項目15から17のいずれかに記載の方法。
(項目20)
がんを有する、またはがんを有する疑いがある被験体を処置する方法であって、C3またはC3aRアンタゴニストで該被験体を処置するステップを含む、方法。
(項目21)
第2の治療剤で前記被験体をさらに処置するステップを含む、項目20に記載の方法。
(項目22)
前記がんが、乳がん、肺がんまたは黒色腫である、項目20に記載の方法。
(項目23)
前記アンタゴニストが、C3のアンタゴニストである、項目20から22のいずれかに記載の方法。
(項目24)
前記アンタゴニストが、C3aRのアンタゴニストである、項目20から22のいずれかに記載の方法。
(項目25)
前記第2の治療剤が、化学療法剤である、項目21から24のいずれかに記載の方法。
(項目26)
がんを有する、またはがんを有する疑いがある被験体を処置する方法であって、(i)C3またはC3aRアンタゴニスト、および(ii)治療剤と併用したC3またはC3aRアゴニストで該被験体を交互に処置するステップを含む、方法。
(項目27)
前記がんが、乳がん、肺がんまたは黒色腫である、項目26に記載の方法。
(項目28)
前記アンタゴニストが、C3のアンタゴニストである、項目26または27に記載の方法。
(項目29)
前記アンタゴニストが、C3aRのアンタゴニストである、項目26または27に記載の方法。
(項目30)
前記第2の治療剤が、化学療法剤である、項目26から29のいずれかに記載の方法。
(項目31)
軟膜転移の危険性を低減させる処置を必要とする被験体において、軟膜転移の危険性を低減させることにおいて使用するための、C3またはC3aRのアンタゴニスト。
(項目32)
前記被験体が、がんと診断されている、項目31に記載のアンタゴニスト。
(項目33)
前記がんが、乳がん、肺がんまたは黒色腫である、項目31に記載のアンタゴニスト。
(項目34)
C3のアンタゴニストである、項目31から33のいずれかに記載のアンタゴニスト
(項目35)
C3aRのアンタゴニストである、項目31から33のいずれかに記載のアンタゴニスト。
(項目36)
がんを有する、またはがんを有する疑いがある被験体を処置する方法であって、被験体のCSFにおけるC3のレベルが、健常な対照被験体のCSFにおけるレベルと比較して上昇していると決定することにより、該被験体における軟膜転移を診断するステップと、次いで、C3またはC3aRアンタゴニスト、および任意選択で第2の治療剤で該被験体を処置するステップとを含む、方法。
(項目37)
前記がんが、乳がん、肺がんまたは黒色腫である、項目36に記載の方法。
(項目38)
前記アンタゴニストが、C3のアンタゴニストである、項目36または37に記載の方法。
(項目39)
前記アンタゴニストが、C3aRのアンタゴニストである、項目36または37に記載の方法。
(項目40)
前記第2の治療剤が、化学療法剤である、項目36から39のいずれかに記載の方法。
(項目41)
代謝性疾患、または毒素により媒介される疾患に罹患した被験体もしくは毒素に曝露された被験体を処置する方法であって、有効な阻害量のC3またはC3aRのアンタゴニストを該被験体に投与するステップを含む、方法。
(項目42)
前記アンタゴニストが、C3のアンタゴニストである、項目41に記載の方法。
(項目43)
前記アンタゴニストが、C3aRのアンタゴニストである、項目41に記載の方法。
(項目44)
血液/脳脊髄液関門の透過性を増加させる処置を必要とする被験体において、血液/脳脊髄液関門の透過性を増加させる方法であって、有効量のC3またはC3aRのアゴニストを該被験体に投与するステップを含む、方法。
(項目45)
第2の治療剤を投与するステップをさらに含む、項目44に記載の方法。
(項目46)
前記被験体が、感染性疾患に罹患している、項目44に記載の方法。
(項目47)
前記被験体が、がんに罹患している、項目44に記載の方法。
(項目48)
前記被験体が、変性障害に罹患している、項目44に記載の方法。
(項目49)
前記アンタゴニストが、C3のアンタゴニストである、項目44に記載の方法。
(項目50)
前記アンタゴニストが、C3aRのアンタゴニストである、項目44に記載の方法。
(項目51)
中枢神経系の障害に罹患した被験体を処置する方法であって、有効量の(i)C3またはC3aRのアゴニスト、および(ii)第2の治療剤を該被験体に投与するステップを含む、方法。
(項目52)
前記被験体が、感染性疾患に罹患している、項目51に記載の方法。
(項目53)
前記被験体が、がんに罹患している、項目51に記載の方法。
(項目54)
前記被験体が、変性障害に罹患している、項目51に記載の方法。
(項目55)
前記アンタゴニストが、C3のアンタゴニストである、項目51に記載の方法。
(項目56)
前記アンタゴニストが、C3aRのアンタゴニストである、項目51に記載の方法。
(項目57)
第1のジェネレーター動物に親がん細胞を接種し、次いで、一定期間後、該第1のジェネレーター動物の髄膜からがん細胞を収集するステップと、該収集した細胞を第2のジェネレーター動物中に接種し、次いで、一定期間後、前記第2のジェネレーター動物の髄膜からがん細胞を収集するステップであって、該収集した細胞が「Int」細胞である、ステップと、任意選択で該選択ステップを繰り返し、次いで、Int細胞を宿主動物中に全身に導入するステップとを含み、それによって該宿主動物の髄膜に局在する導入された細胞が軟膜転移細胞である方法により調製される、1つまたは複数の導入されたレポーター構築物を含有する、軟膜転移細胞の精製された集団。
(項目58)
前記軟膜転移細胞が、細胞培養で維持される、項目57に記載の集団。
(項目59)
前記軟膜転移細胞が、レポーター構築物を発現する、項目57または58に記載の集団。
(項目60)
前記レポーター構築物が、蛍光タンパク質をコードする、項目59に記載の集団。
(項目61)
前記レポーター構築物が、ルシフェラーゼをコードする、項目59に記載の集団。
(項目62)
項目57に記載の細胞を接種した宿主動物を含む、軟膜転移のモデル系。
(項目63)
被験体において軟膜転移を診断する方法であって、該被験体のCSFにおけるC3のレベルが、健常な対照被験体のCSFにおけるレベルと比較して上昇していると決定するステップを含む、方法。
(項目64)
被験体において軟膜転移性疾患の存在を検出するためのキットであって、C3を検出するための手段と、以下:(i)該キットの使用およびCSFにおけるC3レベルを決定することにおけるその使用のための指示または指示へのアクセス;(ii)二次抗体および/または検出剤;(iii)腰椎穿刺を実施するための材料もしくはCSFリザーバータップ;(iv)CSFにおける乳がん細胞、肺がん細胞もしくは黒色腫細胞の検出に適している抗体;(v)CSFにおけるグルコースのレベルを決定するための手段;ならびに/または(vi)軟膜転移性疾患の存在下および/もしくは非存在下における、CSFに存在するC3について陽性および/もしくは陰性の対照試料の1つまたは複数を含む、キット。
(項目65)
C3を検出するための前記手段が、抗C3抗体もしくは抗体断片または単鎖抗体の群から選択される、項目64に記載のキット。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、軟膜転移マウスモデルを開発するための方法論を示す概略図である。細胞は、生物発光マーカー(ルシフェラーゼ)を発現し、生物発光イメージング(「BLI」)により検出できる。ルシフェリンおよびGFPを発現する親細胞を、大槽中に注入する。腫瘍成長を生物発光イメージング(BLI)によりモニターする。細胞を頭蓋底髄膜(basilar meninges)から収集し、培養で維持する。これを3回繰り返して、「Int」細胞を作り出す。次いで、Int細胞を心臓内に注入し、腫瘍負荷をBLIによりモニターする。細胞を上記と同様に収集し、「LeptoM」と称する。心臓内に注入され、続いて脳転移を生じる親細胞を、「BrM」細胞と称する。
【0015】
【
図2】
図2A~Cは、軟膜転移マウスモデル:MDA231モデルのバリデーションである。(A)大槽に注入した、ルシフェリンおよびGFPを発現する2×10
4個の親細胞を、BLIにより経時的にモニターし、in vivo選択の連続する各ラウンドが示されている。(B)軟膜の腫瘍細胞を抱えるマウスの、経時的な代表的BLI画像。頭蓋底髄膜および脳の死亡後のBLIは、「体腔」および「脳」としてそれぞれ示されている。(C)軟膜腔における細胞の蓄積を実証する、5×10
4個のInt細胞を心臓内に注入した後の代表的マウス。
【0016】
【
図3ABC】
図3A~Eは、軟膜転移マウスモデルが表現型で実質転移モデルと異なることを示す。(A)親細胞株の特性。B~E.5×10
4個の親BrM細胞またはLeptoM細胞を、レシピエントマウス中の心臓内に注入し、腫瘍成長をBLIによりモニターし、最終的な頭蓋内の局在は、組織の病的変化により決定した。転移なしの生存率、代表的組織の病的変化およびBLIが、各モデル系に対して示されている。
【
図3DE】
図3A~Eは、軟膜転移マウスモデルが表現型で実質転移モデルと異なることを示す。(A)親細胞株の特性。B~E.5×10
4個の親BrM細胞またはLeptoM細胞を、レシピエントマウス中の心臓内に注入し、腫瘍成長をBLIによりモニターし、最終的な頭蓋内の局在は、組織の病的変化により決定した。転移なしの生存率、代表的組織の病的変化およびBLIが、各モデル系に対して示されている。
【0017】
【
図4】
図4は、軟膜転移マウスモデルが実質転移モデルとトランスクリプトーム的に(transcriptomally)異なることを示す。各モデル系に対して、RNASeqを、BrM細胞(それぞれ3回の技術的反復)、Int細胞(それぞれ2回の生物学的反復)およびLeptoM細胞(それぞれ3回の生物学的反復)で実施した。さらなる解析に対して、倍率変化>2または<0.05、塩基平均>50、p<0.05の遺伝子を収集した。主成分分析が描かれた。
【0018】
【
図5】
図5A~Cは、補体C3が軟膜転移マウスモデルにおいて、上方制御することを示す。RNASeqは、
図4に記載されているように着手した。(A)各モデル系から差次的に発現した遺伝子を、一般的にはベン図にプロットする。552は、MDA231およびHCC1954に共有され;241は、PC9およびLLCに共有され;20は、4つすべてに共有される。(B)DAVID経路解析による、差次的に(diffrentially)発現した遺伝子の遺伝子オントロジー解析により、補体および凝固カスケードの上方制御が明らかになる。PC9モデルの代表的解析が示されている。(C)すべてのモデルにおける遺伝子の差次的発現を、補体および凝固カスケードのダイアグラムにプロットする。
【0019】
【
図6ABC】
図6A~Dは、C3遺伝子のバリデーションである。A~C.C3に対してショートヘアピンを発現するPC9細胞、LLC細胞およびMDA231-LeptoM細胞を、レシピエントマウス中の大槽内に注入した;腫瘍成長をBLIによりモニターした。D.LLC-LeptoM細胞を、C3 wt(+/+)またはC3ノックアウト(-/-)遺伝的背景を有するレシピエントマウス中の大槽内に注入した;腫瘍成長を、BLIによりモニターした。
【
図6D】
図6A~Dは、C3遺伝子のバリデーションである。A~C.C3に対してショートヘアピンを発現するPC9細胞、LLC細胞およびMDA231-LeptoM細胞を、レシピエントマウス中の大槽内に注入した;腫瘍成長をBLIによりモニターした。D.LLC-LeptoM細胞を、C3 wt(+/+)またはC3ノックアウト(-/-)遺伝的背景を有するレシピエントマウス中の大槽内に注入した;腫瘍成長を、BLIによりモニターした。
【0020】
【
図7AB】
図7A~Eは、C3aR活性化がB-CSF-関門の完全性を変更することを示す。(A)C3aR(赤)および先端に発現したSPAK(緑)に対するマウス脈絡叢の免疫蛍光。(B)ヒト脈絡叢上皮細胞(HuCPEpi)を用いた、B-CSF-Bのin vitroモデルにおけるC3aに応答する経上皮抵抗。(C)組換えマウスC3a(白丸)またはビヒクル(黒丸)を補充したMDA231親細胞(緑)からの馴化培地を使用して、TEER測定の前に単層を処理した。(D)MDA231 LeptoM細胞からの馴化培地は、TEER測定前に、抗体で処理しなかった(黒丸)、または抗C3(白丸)もしくはIgG対照(黒四角)で、免疫枯渇させた。(E)マウス(C3aR
+/+または
-/-)は、混合した蛍光標識デキストランの心臓内注入前に、組換えマウスC3aまたはビヒクルで非経口的に前処理した。30分後、CSFおよび血液をサンプリングし、蛍光光度法で分析した。棒グラフでは、各デキストランの大きさに対して、rmC3aで処理した動物の蛍光は、右側の棒で表されている(ビヒクルは左側の棒で表されている)。(F)ZO-1およびクローディンについて固定および染色前に、C3aまたはビヒクルで2時間処理したマウス脈絡叢。
【
図7CDE】
図7A~Eは、C3aR活性化がB-CSF-関門の完全性を変更することを示す。(A)C3aR(赤)および先端に発現したSPAK(緑)に対するマウス脈絡叢の免疫蛍光。(B)ヒト脈絡叢上皮細胞(HuCPEpi)を用いた、B-CSF-Bのin vitroモデルにおけるC3aに応答する経上皮抵抗。(C)組換えマウスC3a(白丸)またはビヒクル(黒丸)を補充したMDA231親細胞(緑)からの馴化培地を使用して、TEER測定の前に単層を処理した。(D)MDA231 LeptoM細胞からの馴化培地は、TEER測定前に、抗体で処理しなかった(黒丸)、または抗C3(白丸)もしくはIgG対照(黒四角)で、免疫枯渇させた。(E)マウス(C3aR
+/+または
-/-)は、混合した蛍光標識デキストランの心臓内注入前に、組換えマウスC3aまたはビヒクルで非経口的に前処理した。30分後、CSFおよび血液をサンプリングし、蛍光光度法で分析した。棒グラフでは、各デキストランの大きさに対して、rmC3aで処理した動物の蛍光は、右側の棒で表されている(ビヒクルは左側の棒で表されている)。(F)ZO-1およびクローディンについて固定および染色前に、C3aまたはビヒクルで2時間処理したマウス脈絡叢。
【
図7F】
図7A~Eは、C3aR活性化がB-CSF-関門の完全性を変更することを示す。(A)C3aR(赤)および先端に発現したSPAK(緑)に対するマウス脈絡叢の免疫蛍光。(B)ヒト脈絡叢上皮細胞(HuCPEpi)を用いた、B-CSF-Bのin vitroモデルにおけるC3aに応答する経上皮抵抗。(C)組換えマウスC3a(白丸)またはビヒクル(黒丸)を補充したMDA231親細胞(緑)からの馴化培地を使用して、TEER測定の前に単層を処理した。(D)MDA231 LeptoM細胞からの馴化培地は、TEER測定前に、抗体で処理しなかった(黒丸)、または抗C3(白丸)もしくはIgG対照(黒四角)で、免疫枯渇させた。(E)マウス(C3aR
+/+または
-/-)は、混合した蛍光標識デキストランの心臓内注入前に、組換えマウスC3aまたはビヒクルで非経口的に前処理した。30分後、CSFおよび血液をサンプリングし、蛍光光度法で分析した。棒グラフでは、各デキストランの大きさに対して、rmC3aで処理した動物の蛍光は、右側の棒で表されている(ビヒクルは左側の棒で表されている)。(F)ZO-1およびクローディンについて固定および染色前に、C3aまたはビヒクルで2時間処理したマウス脈絡叢。
【0021】
【
図8A】
図8A~Bは、臨床的バリデーションである。(A)軟膜転移の疑いがある患者、n=69例の試料から得られた脳脊髄液からELISAにより測定したC3。(B)軟膜転移が疑われる患者からの原発腫瘍の免疫組織化学。C3が低いおよび高い染色病変n=31例の試料の代表的画像が示されている。(C)臨床的転帰は、生存率曲線として提示されている。C3に対する原発および脳転移の免疫組織化学。マッチしていない(D)、およびマッチした(E)対の試料が提示されている。
【
図8BCD】
図8A~Bは、臨床的バリデーションである。(A)軟膜転移の疑いがある患者、n=69例の試料から得られた脳脊髄液からELISAにより測定したC3。(B)軟膜転移が疑われる患者からの原発腫瘍の免疫組織化学。C3が低いおよび高い染色病変n=31例の試料の代表的画像が示されている。(C)臨床的転帰は、生存率曲線として提示されている。C3に対する原発および脳転移の免疫組織化学。マッチしていない(D)、およびマッチした(E)対の試料が提示されている。
【
図8E】
図8A~Bは、臨床的バリデーションである。(A)軟膜転移の疑いがある患者、n=69例の試料から得られた脳脊髄液からELISAにより測定したC3。(B)軟膜転移が疑われる患者からの原発腫瘍の免疫組織化学。C3が低いおよび高い染色病変n=31例の試料の代表的画像が示されている。(C)臨床的転帰は、生存率曲線として提示されている。C3に対する原発および脳転移の免疫組織化学。マッチしていない(D)、およびマッチした(E)対の試料が提示されている。
【0022】
【
図9】
図9は、がん細胞により産生された補体C3であるが、血液-CSF-関門の完全性を低減させ、血漿内容物をCSF中へと通過させ、転移がん細胞についてのさらに快適な環境を作り出すことを示す。
【0023】
【
図10ABC】
図10A~Dは、血液-CSF-関門を開くことによりC3で馴化したCSFである。(A)商用のドットブロットアレイを用いて、軟膜転移がなく、その後軟膜転移を発症した患者2名のCSFに存在するタンパク質を測定した。有意に上方制御された検体が提示されている。(B)LLC-LeptoM細胞を、C3aR野生型(
+/+)またはノックアウト(
-/-)同系マウスの大槽に点滴注入した。腫瘍成長をBLIによりモニターした。(C)軟膜転移(metatasis)の疑いがあるものからのCSFのアンフィレグリンに対するELISA。最終的な臨床的診断が指し示されている。(D)マウスは、
図7Eに記載されているように、組換えマウスC3(紫色)またはビヒクル(緑色)で非経口的に前処理した。アンフィレグリンを、CSFおよび血漿中でELISAにより測定した。
【
図10D】
図10A~Dは、血液-CSF-関門を開くことによりC3で馴化したCSFである。(A)商用のドットブロットアレイを用いて、軟膜転移がなく、その後軟膜転移を発症した患者2名のCSFに存在するタンパク質を測定した。有意に上方制御された検体が提示されている。(B)LLC-LeptoM細胞を、C3aR野生型(
+/+)またはノックアウト(
-/-)同系マウスの大槽に点滴注入した。腫瘍成長をBLIによりモニターした。(C)軟膜転移(metatasis)の疑いがあるものからのCSFのアンフィレグリンに対するELISA。最終的な臨床的診断が指し示されている。(D)マウスは、
図7Eに記載されているように、組換えマウスC3(紫色)またはビヒクル(緑色)で非経口的に前処理した。アンフィレグリンを、CSFおよび血漿中でELISAにより測定した。
【0024】
【
図11AB】
図11A~Cは、軟膜転移における治療標的としてのC3aRである。(A)2,000個のMDA231-LeptoM細胞を、0日目に大槽中に導入した。マウスを、10mg/kg C3aRアゴニスト(Ag)、10mg/kgアンタゴニスト(Ant)またはビヒクル(Veh)で1週間に2回I.P.処置し、腫瘍細胞の成長をBLIによりモニターした。1群当たりn=10のマウス。****p<0.0001(B)(A)において処置したマウスの生存率分析。(C)2,000個のMDA231-LeptoM細胞、PC9-LeptoM細胞、HCC1954-LeptoM細胞またはLCC-LeptoM細胞を、0日目にCSF中に導入し、(A)に記載されているようにVehまたはAntで処置した。1群当たりn=10のマウス。14日目のBLIが例証されている。*p<0.05;**p<0.01;***p<0.001。
【
図11C】
図11A~Cは、軟膜転移における治療標的としてのC3aRである。(A)2,000個のMDA231-LeptoM細胞を、0日目に大槽中に導入した。マウスを、10mg/kg C3aRアゴニスト(Ag)、10mg/kgアンタゴニスト(Ant)またはビヒクル(Veh)で1週間に2回I.P.処置し、腫瘍細胞の成長をBLIによりモニターした。1群当たりn=10のマウス。****p<0.0001(B)(A)において処置したマウスの生存率分析。(C)2,000個のMDA231-LeptoM細胞、PC9-LeptoM細胞、HCC1954-LeptoM細胞またはLCC-LeptoM細胞を、0日目にCSF中に導入し、(A)に記載されているようにVehまたはAntで処置した。1群当たりn=10のマウス。14日目のBLIが例証されている。*p<0.05;**p<0.01;***p<0.001。
【発明を実施するための形態】
【0025】
説明を明確にするために、詳細な説明は、これらに限定されないが、以下の項に分けられる:
(i)軟膜転移性疾患のモデル;
(ii)C3またはC3aRのアゴニスト;
(iii)C3またはC3aRのアンタゴニスト;
(iv)C3またはC3aRのアゴニストを使用した方法;
(v)C3またはC3aRのアンタゴニストを使用した方法;ならびに
(vi)診断方法および関連処置。
【0026】
5.1 軟膜疾患のモデル
ある特定の非限定的な実施形態では、本発明は、軟膜転移細胞(「LeptoM」細胞)を接種した宿主動物を含む、軟膜転移のためのモデル系であって、第1のジェネレーター動物に親がん細胞を接種し、次いで、一定期間後、第1のジェネレーター動物の髄膜からがん細胞を収集するステップと、前記収集した細胞を第2のジェネレーター動物中に接種し、次いで、一定期間後、第2のジェネレーター動物の髄膜からがん細胞を収集するステップであって、前記収集した細胞が「Int」細胞である、ステップと、任意選択で前記選択ステップを繰り返し、次いで、Int細胞を宿主動物中に全身に導入するステップとを含み、それによって宿主動物の髄膜に局在する導入された細胞が「LeptoM」細胞であり、1つまたは複数のさらなる宿主動物において、全身的にまたはくも膜下腔中に接種するために収集および使用でき、それにより、その後の宿主動物(複数可)において軟膜のがん細胞成長を形成させることができる方法により、前記LeptoM細胞が調製される、モデル系を提供する。Int細胞およびLeptoM細胞は、収集後および再導入の前に、任意選択で、培養で拡大させてもよく、かつ/またはさらなる使用のために保存してもよい。ある特定の非限定的な実施形態では、細胞の表現型は、培養中に選択して、本質的に均一な細胞集団を生成できる。ある特定の非限定的な実施形態では、親細胞、Int細胞、および/またはLeptM細胞は、構成的に、または誘導的に、1つまたは複数の検出可能なマーカー(すなわち、導入レポーター構築物)、例えば、以下に限定されないが、GFP(もしくは別の蛍光(fluoresent)タンパク質(27))および/またはルシフェラーゼを含有し、発現するように操作できる。
【0027】
ある特定の非限定的な実施形態では、本発明は、軟膜転移のモデル系であって、第1のジェネレーター動物のくも膜下腔中(例えば脳槽(a cistern in the brain)中)に親がん細胞を接種し、次いで、一定期間後、第1のジェネレーター動物の髄膜からがん細胞を収集するステップと、前記収集した細胞を、第2のジェネレーター動物のくも膜下腔中に接種するステップと、任意選択で前記選択ステップを1回または複数回繰り返すステップとを含み、それにより軟膜転移性「Int」細胞の集団を得る方法により調製される、軟膜転移細胞を接種したモデル動物を含む、モデル系を提供する。Int細胞は、収集後および再導入の前に、任意選択で、培養で拡大させてもよく、かつ/またはさらなる使用のために保存してもよい。ある特定の非限定的な実施形態では、細胞の表現型は、培養中に選択して、本質的に均一な細胞集団を生成できる。ある特定の非限定的な実施形態では、Int細胞は、構成的に、または誘導的に1つまたは複数の検出可能なマーカー、例えば、以下に限定されないが、GFP(または別の蛍光タンパク質(27))および/またはルシフェラーゼを含有し、発現することができる。前記Int細胞は、次いで、上記のように宿主動物中に導入して、LeptoM細胞を生成できる。
【0028】
様々な非限定的な実施形態では、本発明は、Int細胞またはLeptoM細胞の、任意選択で、保存液または培地中の精製した集団を提供する。上記のように、前記細胞は、1つまたは複数の検出可能なマーカーをコードする、導入された遺伝子を含有し得る。ある実施形態では、本発明は、前記細胞を含有するキットを提供する。
【0029】
例えば、限定されないが、モデル系は、以下のように調製され得る。任意選択で、1つまたは複数の検出可能なマーカー(例えば蛍光マーカーおよび/または生物発光マーカー、例えば、以下に限定されないが、緑色蛍光タンパク質およびルシフェラーゼ)で標識したがん細胞株、例えば、以下に限定されないが、乳がん細胞株、肺がん細胞株、または黒色腫細胞株の細胞が、第1のジェネレーター動物に接種され得る。非限定的な具体例として、GFPおよびルシフェラーゼを安定的に発現する20,000個の親細胞が、マウスの大槽中に注入され得る(17)。次いで、細胞の成長が、例えば、生物発光イメージングにより1日おきにモニターされ得、マウスの健康状態が、定期的にモニターされ得る。軟膜転移の(metastasic)成長がCNS全体に影響を与える場合、または有意な病的状態が現れた場合、マウスは、安楽死させてよく、検出可能なマーカー(複数可)(例えば、生物発光)を保有するがん細胞の存在を確認するために、脳を取り出し頭蓋底髄膜を撮像できる。がん細胞が存在する場合、頭蓋底髄膜は、次いで、PBSですすいで、この空間にある細胞を収集できる。収集した細胞は、次いで、例えば、存在する細胞の大多数または本質的にすべてが、レポーター構築物(例えばGFP)を有する細胞になるまで、培養で成長させてよい。本質的に純粋な集団が得られたら、培養した細胞は、次いで、第2のジェネレーターマウスの大槽に注入でき、成長させて収集することができる。ある特定の実施形態では、そのような選択を、少なくとも3ラウンド実施する。生じた細胞は、本明細書において「Int」細胞と呼ばれる。Int誘導物は、軟膜内の生存能力について選択された細胞を表す。モデル動物を形成するために、有効な数のInt細胞を全身循環に注入してよく、例えば、50,000個のInt細胞を、宿主マウス中の心臓内に注入してよく、転移を形成することが可能である。軟膜内のがん細胞(「LeptoM」)は、次いで、上記と同様に収集できる。「LeptoM」といわれるこれらの細胞は、全身循環から軟膜に巧みに入り、CSF内で生存した、血行性に播種したがん細胞を表す(
図1を参照されたい)。
【0030】
5.2 C3またはC3aRのアゴニスト
C3またはC3aRのアゴニストは、補体系におけるその機能、C3aRへのその結合親和性、および/またはアナフィラトキシンとしてのその活性を含むが、それらに限定されないC3またはC3aの生物学的活性を増加させる、または促進する作用剤である。
【0031】
C3aR受容体アゴニストの非限定的な一例は、Sigma Chemicals製の化合物C4494である、ベンゼンアセトアミド,α-シクロヘキシル-N-[1-[1-オキソ-3-(3-ピリジニル)プロピル]-4-ピペリジニル]-、a-シクロヘキシル-N-[1-[1-オキソ-3-(3-ピリジニル)プロピル]-4-ピペリジニル]-ベンゼンアセトアミド、CAS番号944997-60-8、以下に示されている構造を有するC
27H
35N
3O
2である。
【化1】
【0032】
使用できるC3およびC3aRアゴニストの他の非限定的な例は、Singhら、2015年、Bioor. Med. Chem. Lett.25巻:5604~5608頁に記載されているもの、例えば、式Iの化合物:
【化2】
(式中、Rは、フェニル、置換フェニル、アリール、ヘテロアリール、ピリジン、もしくは置換ピリジン、低級アルキルアルコキシ、または
【化3】
であってよい);
または式IIの化合物:
【化4】
(式中、Rは、フェニル、置換フェニル、アリール、ヘテロアリール、ピリジン、または置換ピリジン、例えば
【化5】
または
【化6】
であってよい)を含むが、それらに限定されず;
例えば、限定されないが、芳香族環に含有される2個の炭素によりアミドカルボニル基から分離されるヘテロ環式窒素を有する、式Iまたは式IIの化合物を含む。
【0033】
使用できるC3およびC3aRアゴニストの他の非限定的な例は、Scullyら、2010年、J. Med. Chem.53巻:4938~4948頁に記載されているもの、例えば、限定されないが、ヘキサペプチドPhe-Ile-Pro-Leu-Ala-Arg、Phe-Trp-Pro-Leu-Ala-Arg;Trp-Trp-Thr-Leu-Ala-Arg;Phe-Tyr-Thr-Leu-Ala-Arg;Phe-Trp-Thr-Leu-Ala-Arg;Phe-Leu-Thr-Leu-Ala-Arg;Phe-Leu-Gly-Leu-Ala-Arg;およびPhe-Leu-Thr-Leu-Arを含み得る。
【0034】
他の非限定的な例では、アゴニストは、Jinmaaら、2001年、Peptides 22巻(1号):25~32頁に記載されている配列Tyr-Pro-Leu-Pro-Argを含むペプチドであってよい。
【0035】
5.3 C3またはC3aRのアンタゴニスト
C3またはC3aRのアンタゴニストは、補体系におけるC3の機能および/またはアナフィラトキシンとしてのその活性を含むが、それらに限定されない、C3またはC3aの生物学的活性を低減させる、または阻害する作用剤である。
【0036】
C3aRアンタゴニストの非限定的な一例は、SB 290157(28)であり、化学名N2-[2-(2,2-ジフェニルエトキシ)アセチル]-L-アルギニン,2,2,2-トリフルオロアセテート、化学式C
22H
28N
4O
4・CF
3COOH、および以下の化学構造を有する:
【化7】
【0037】
C3aRアンタゴニストの別の非限定的な例は、SK&F 63649(28)であり、以下の構造を有する:
【化8】
【0038】
C3aRアンタゴニストの他の非限定的な例は、RBL-2H3細胞におけるC3aが誘導するカルシウム動員を阻害する(参考文献28に記載されている)以下の式III:
【化9】
(式中、-O-に結合したRは、アリール、ヘテロアリール、フェニル、ジフェニル、ジフェニル低級(C1~C4)アルキル、低級アルキルジフェニル、ナフチル、ナフチル低級アルキル、低級アルキルナフチル、キノリン、キノリン低級アルキル、低級アルキルキノリン、プリン、低級アルキルプリン、プリン低級アルキルであってよく、上記のいずれかは、非置換であっても、または低級アルキル、ハロゲン、ヒドロキシもしくは低級アルコキシで置換されていてもよい)の化合物、または、IC50が5から75nMの間の等価の細胞株を含む。
【0039】
使用できるC3およびC3aRアンタゴニストの他の非限定的な例は、Scullyら、2010年、J. Med. Chem.53巻:4938~4948頁に記載されているもの、例えば、限定されないが、Phe-Leu-Thr-Cha-Ala-Argを含む。
【0040】
5.4 C3またはC3ARのアゴニストを使用する方法
ある特定の非限定的な実施形態では、本発明は、そのような処置を必要とする被験体において、B-CSF-Bの透過性を増加させる方法であって、有効量のC3またはC3aRのアゴニスト、および任意選択で第2の治療剤を被験体に投与するステップを含む、方法を提供し、ここで、アゴニストでの処置は、CSF中の第2の治療剤の量を増加させ、それにより、その効力を増強させる。アゴニストおよび第2の治療剤は、アゴニストが第2の治療剤の有効性を増強させ得るような手段で被験体に投与され、その結果、例えば、限定されないが、一緒に、または同時に、または逐次的に投与できる。
【0041】
ある特定の非限定的な実施形態では、本発明は、中枢神経系の障害を有する被験体を処置する方法であって、有効量の(i)C3またはC3aRのアゴニストおよび(ii)第2の治療剤を被験体に投与するステップを含む、方法を提供し、ここで、アゴニストでの処置は、CSF中における第2の治療剤の量を増加させ、それにより、その効力を増強させる。
【0042】
例えば、限定されないが、そのような処置を必要とする被験体は、感染性髄膜炎を含むが、それに限定されない細菌性、ウイルス性、真菌性、原虫性、もしくは寄生生物性(例えば、寄生虫の)感染症を含むが、それらに限定されない中枢神経系の感染性疾患(ここで、第2の治療剤は、例えば、抗微生物剤、抗菌剤、抗ウイルス剤、抗真菌剤、抗原虫剤、抗寄生虫剤、または駆虫剤であってよい)に罹患していることがある。
【0043】
別の例として、被験体は、軟膜の髄膜炎を含むが、それに限定されない乳がん、肺がん、黒色腫、リンパ腫、または膠芽腫を含むが、それらに限定されない中枢神経系のがん/悪性疾患(ここで、第2の治療剤は、抗がん剤であってよい)に罹患していることがある。
【0044】
別の例として、被験体は、神経系の変性疾患、例えば、以下に限定されないが、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン舞踏病、またはピック病(ここで、第2の治療剤は、その状態の処置であってよい)に罹患していることがある。別の例として、被験体は、多発性硬化症に罹患していることがある。
【0045】
他の例として、被験体は、脳血管疾患;および/または例えば脳血管事故、手術もしくは外傷によるCNSへの急激な損傷に罹患していることがあり、第2の治療剤は、凝血を調節し、血管収縮、活性酸素種などを調節する作用剤であってよい。
【0046】
ある特定の実施形態では、第2の治療剤は、遺伝子改変細胞である。ある特定の実施形態では、第2の治療剤は低分子である;他の実施形態では、これは生物製剤である。
【0047】
したがって、本発明を使用して、全身的に投与される治療剤のCSF、髄膜およびCNSへの到達を改善できる。
【0048】
非限定的な実施形態では、被験体は、ヒトまたは非ヒト動物被験体、例えば、非ヒト霊長類、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、モルモット、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ブタ、またはヒツジであってよいが、それらに限定されない。
【0049】
非限定的な実施形態では、C3またはC3aRアゴニストは、経口、静脈内、動脈内、髄腔内、経鼻、腹膜、皮下、筋肉内、直腸などを含むが、それらに限定されない、当技術分野で公知の任意の経路により被験体に投与され得る(may be adminstered)。
【0050】
非限定的な実施形態では、C3またはC3aRアゴニストは、約0.05から100mg/kgの間、または約0.5から50mg/kgの間、または約0.1から10mg/kgの間または約0.5から2mg/kgの間、または0.5mg/kg未満の用量で投与され得る。非限定的な実施形態では、前記用量は、1日1回、1日2回、1週間1回、1週間2回、1ヶ月1回、1ヶ月2回、1ヶ月おきに1回、または3ヶ月に1回、投与され得る。非限定的な実施形態では、処置の期間は、少なくとも1日、少なくとも1週間、少なくとも1ヶ月、少なくとも2ヶ月、または少なくとも3ヶ月であってよい。
【0051】
5.5 C3またはC3aRのアンタゴニストを使用する方法
ある特定の非限定的な実施形態では、本発明は、そのような処置を必要とする被験体において、B-CSF-Bの透過性を低下させる方法であって、有効な阻害量(inhibitory amount)のC3またはC3aRのアンタゴニストを被験体に投与するステップを含む、方法を提供する(ここで、「阻害」は、血液中のある物質(例えば、分子量、大きさ、電荷、疎水性の程度などに基づく)に対する、および/または転移がん細胞に対するB-CSF-Bの透過性の低下を指す)。
【0052】
ある特定の非限定的な実施形態では、本発明は、そのような処置を必要とする被験体において、軟膜転移の危険性を低下させる方法であって、有効な阻害量のC3またはC3aRのアンタゴニストを被験体に投与するステップを含む、方法を提供する(ここで、「阻害」は、転移がん細胞に対するB-CSF-Bの透過性の低下を指す)。
【0053】
例えば、限定されないが、被験体は、悪性疾患に罹患していることがあり、がん細胞がB-CSF-B関門を透過する危険性があり;被験体が軟膜疾患を有する疑念を裏付ける所見を有し;または、軟膜疾患の診断を裏付ける所見を有し;かつ/または前記がんは、例えば、乳がん、肺がん、または黒色腫であるが、それらに限定されない。
【0054】
別の非限定的な例として、被験体は、内因系もしくは外因系毒素、または感染性因子に曝露されている可能性があり、その結果、中枢神経系を感染性因子または毒素の到達から保護することが望ましい。例えば、本発明は、代謝性疾患、または毒素(例えばボツリヌス中毒)により媒介される疾患に罹患した被験体もしくは毒素に曝露された被験体を処置する方法であって、有効な阻害量のC3またはC3aRのアンタゴニストを被験体に投与するステップを含む、方法を提供する。処置の前記方法は、感染性因子、代謝性疾患または毒素に向けられた第2の治療剤を投与するステップをさらに含み得る。
【0055】
ある特定の非限定的な実施形態では、本発明は、がんを有する、またはがんを有する疑いがある被験体を処置する方法であって、有効量のC3またはC3aRアンタゴニスト、および任意選択で第2の治療剤で被験体を処置するステップを含む、方法を提供する。例えば、限定されないが、前記治療剤は、化学療法剤または免疫調節剤であってよい。
【0056】
ある特定の非限定的な実施形態では、本発明は、がんを有する、またはがんを有する疑いがある被験体を処置する方法であって、(i)C3またはC3aRアンタゴニスト、および(ii)C3またはC3aRアゴニストおよび第2の治療剤で、被験体を交互に処置するステップを含む、方法を提供する。例えば、C3および/またはC3aR受容体アンタゴニストで、一定期間被験体を処置して、CNSを転移性疾患から保護するが、次いで、C3またはC3aRアゴニストおよび第2の治療剤を投与して、第2の治療剤がB-CSF-Bへと透過するのを補助することが望ましいことがある。
【0057】
ある特定の非限定的な実施形態では、本発明は、がんを有する、またはがんを有する疑いがある被験体を処置する方法であって、被験体において、被験体のCSFにおけるC3のレベルが、健常な対照被験体のCSFにおけるレベルと比較して上昇していると決定することにより、軟膜転移を診断するステップと、次いで、C3もしくはC3aRアンタゴニスト、および/または任意選択で第2の治療剤と併用したC3もしくはC3aRアンタゴニストで被験体を処置するステップとを含む、方法を提供する。
【0058】
非限定的な実施形態では、被験体は、ヒトまたは非ヒト動物被験体、例えば、非ヒト霊長類、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、モルモット、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ブタ、またはヒツジであってよいが、それらに限定されない。
【0059】
非限定的な実施形態では、C3またはC3aRアンタゴニストは、経口、静脈内、動脈内、髄腔内、経鼻、腹膜、皮下、筋肉内、直腸などを含むが、それらに限定されない、当業界で公知の任意の経路により被験体に投与され得る。
【0060】
非限定的な実施形態では、C3またはC3aRアンタゴニストは、約0.05から100mg/kgの間、または約0.5から50mg/kgの間、または約0.1から10mg/kgの間または約0.5から2mg/kgの間、または0.5mg/kg未満の用量で投与され得る。非限定的な実施形態では、前記用量は、1日1回、1日2回、1週間1回、1週間2回、1ヶ月1回、1ヶ月2回、1ヶ月おきに1回、または3ヶ月に1回、投与され得る。非限定的な実施形態では、処置の期間は、少なくとも1日、少なくとも1週間、少なくとも1ヶ月、少なくとも2ヶ月、または少なくとも3ヶ月であってよい。
【0061】
5.6 診断方法および関連処置
ある特定の非限定的な実施形態では、本発明は、被験体において、軟膜転移を診断する方法であって、被験体のCSFにおけるC3のレベルが、健常な対照被験体のCSFにおけるレベルと比較して上昇していると決定するステップを含む、方法を提供する。
【0062】
ある特定の非限定的な実施形態では、本発明は、前記方法を実践するためのキットを提供し、前記キットは、以下に限定されないが、抗C3抗体もしくは抗体断片または単鎖抗体などのC3を検出するための手段、任意選択で、キットの使用およびCSFにおけるC3のレベルおよび軟膜転移性疾患とそれの関連を決定することにおけるその使用のための指示または指示へのアクセス;二次抗体および/または検出剤、および/または腰椎穿刺を実施するための材料もしくはCSFリザーバータップを含む。前記キットは、CSF中の乳がん細胞、肺がん細胞、または黒色腫細胞の検出に適している抗体をさらに含み得る。前記キットは、CSFにおけるグルコースのレベルを決定するための手段をさらに含み得る。前記キットは、軟膜疾患の存在下および/または非存在下における、CSFに存在するC3について陽性および/または陰性の対照試料をさらに含み得る。
【実施例】
【0063】
(6.実施例1)
軟膜転移の遺伝子「シグネチャー」
軟膜転移は、播種性がんの、まれであるが致命的な転帰を表す。そのため、本発明者らは、CSF内におけるがん細胞生存に必要とされる分子特性から、軟膜腔に到達するがん細胞に必要とされる分子特性を分離する、調べることが可能な(interrogable)乳がんおよび肺がんマウスモデルを創製した。これらのモデルは、いずれも組織学的、およびトランスクリプトーム的に実質転移と異なる。異種移植系および同系の(syngeneic)系の両方における乳がんおよび肺がんを表すこれらの多様なモデルのトランスクリプトーム的プロファイリングは、軟膜内において播種し、成長する細胞成分によって差次的に発現される別個の遺伝子セット、または「シグネチャー」により同定された。このシグネチャーは、がん細胞の循環により補体C3が生成される証拠を提供する。C3は、細胞学的に、またはMRIで証明された軟膜転移を有する患者からのCSF中で検出可能である。このタンパク質は、C3a+C3bに自発的に加水分解する。いかなる特定の理論にも束縛されないが、本発明者らは、がんに由来するC3aは、脈絡叢におけるG-タンパク質共役受容体であるC3aRに結合し、血液-CSF-関門の機能停止および血漿内容物のCSF中への進入を引き起こし、これにより、軟膜腔が、CSFをがん細胞成長にさらに快適な環境にするように整えられると仮定している。したがって、C3またはC3aRのいずれかの遺伝的または薬理学的遮断を使用して、この空間内のがん細胞の成長を阻害できる。反対に、本発明者らは、C3aRアゴニスト作用は、血液-CSF-関門を妨害し、その透過性を増加させることを見出した。C3-C3aR軸の操作は、軟膜転移、また、潜在的な感染性髄膜炎のいずれに対しても、同様に、治療手段としての大いなる有用性を示す。
【0064】
6.1 軟膜転移のマウスモデル化
Massague研究室でのこれまでの調査によれば、マウスモデルは、転移がんの試験に強力なツールに相当することが示されている(8~13)。このアプローチでは、ヒトまたはマウスの悪性細胞株が、特定の標的臓器に転移させるためにin vivoで選択される。まず、がん細胞株は、血行性に播種され、転移を形成ことが可能になる。次いで、転移性腫瘍が標的部位(例えば脳)にて収集される。これらの細胞は、培養で拡張し、集団が、標的臓器への確実な転移を生じるまでマウス中に再接種される(14)。親細胞株と転移細胞株を比較するトランスクリプトーム解析により、器官に特異的な転移遺伝子の同定が可能になる(12、15、16)。
【0065】
この系を軟膜転移に適応させるために、本発明者らは、主に2つの障壁に直面した。第1に、複数の解剖学的経路が、軟膜播種をもたらし得ると提起されている。血行性の播種は、乳がんおよび肺がんがCSF空間へ到達する最も可能性のある経路であるが、唯一の可能な進入経路ではない。第2に、軟膜転移は、がん患者においてまれな臨床的事象(5~10%)である。
【0066】
こうした障害を乗り越えるために、本発明者らは、後続する血行性の播種の前に、軟膜腔内におけるがん細胞を選択することから始めた(
図1)。
【0067】
最初のステップとして、GFPおよびルシフェラーゼを安定的に発現する親細胞を、マウスの大槽中に注入した(17)。細胞の成長を生物発光イメージングにより1日おきにモニターし、マウスの健康状態を毎日モニターした。軟膜の転移性(metastasic)成長がCNS全体に関与する場合、または有意な病的状態が現れた場合、マウスは、安楽死させ、脳を取り出し頭蓋底髄膜を生物発光により撮像した。頭蓋底髄膜は、次いで、PBSですすいで、この空間にある細胞を収集した。存在する細胞が、レポーター構築物(GFP)を有する細胞のみとなるまで、培養で細胞を成長させた。純粋な集団が得られたら、これらの細胞は、次いで、第2のマウスの大槽中に再注入し、成長させて収集した。3ラウンドの選択後、収集した細胞を「Int」と称した。Int誘導物は、軟膜内での生存能力について選択された細胞を表す。50,000個のInt細胞を、心臓内に注入し、転移を形成させた。軟膜内のがん細胞を、上記と同様に収集した。「LeptoM」といわれるこれらの細胞は、全身循環から軟膜に巧みに入り、CSF内で生存した、血行性に播種したがん細胞を表す(
図1)。
【0068】
このin vivo選択プロセスの効率をアッセイするために、LeptoM細胞を1つの群のマウス中の心臓内に注入した。第2の群には親細胞を施し、第3の群にはBrM細胞(本発明者らの研究室で以前に創製した、脳転移を優先的に生じさせる転移誘導物、
図1を参照されたい)を施した(12)。全体の転移負荷をBLIによりモニターした。軟膜転移および実質転移は、いずれも生物発光シグナルを頭部領域において示すため、これらの動物において、転移の神経解剖学的な局在を、組織の病的変化によりアッセイした。
【0069】
乳がんおよび非小細胞性肺がん(NSCLC)は、軟膜疾患を引き起こす最も一般的な原発腫瘍である(2)ため、本発明者らは、上の方法論を用いて、軟膜転移の乳がんモデル(すなわち、MDA231およびHCC1954)および肺がんモデル(すなわち、ルイス肺癌(「LLC」)およびPC9)の両方を創製した(
図3A)。このモデル化系の目立った特徴は、代表的モデル、MDA231の検査で明らかである(
図2A~C)。
【0070】
最初の大槽内の細胞接種により、選択の証拠が示された。
図2Bに示されているように、最初に細胞消失(2日目にBLIシグナルが低下したことにより証拠だてられた)、続いて細胞成長があった。さらに、後続する選択の各ラウンドでは、細胞は、軟膜における生存においてさらに秀でるようになった(
図2A)。これらのあらかじめ選択されたInt細胞を血行性に播種した後で、
図2Cで取り上げた代表的マウスにより例証されているように、注入されたマウスのうち71%において、上記細胞が軟膜に到達した。
【0071】
in vivo選択の効率をアッセイするために、20匹のマウスに、MDA231親(非選択)細胞、MDA-BrM(実質転移細胞)、またはMDA-LeptoM細胞のいずれかを注入した(
図3B)。エンドポイントでは、軟膜転移は、LeptoM細胞を注入したマウスの86%に存在し;がん細胞は、BRMまたは親細胞株では軟膜腔に達しなかった。反対に、LeptoM細胞は、実質転移を生じなかった。これらのデータから、このモデル化系の2つの重要な特徴が強調される。第1に、圧倒的多数のin vivo選択が、最初の大槽内接種ラウンド中に起こり、これは、軟膜内の生存が、がん細胞にとって乗り越えるべき大きな関門を表すことを示唆している。第2に、実質転移および軟膜転移を生じる傾向に必要とされる形質は、独立して選択され得(
図3B~Eを参照されたい)、実質転移および軟膜転移は、生物学的に別個の実体(entity)であるという仮説が裏付けられる。重要なことには、これらのモデルは、軟膜転移に特有な組織の病的変化の特徴を示した。がん細胞は、大脳半球の軟膜上に層を形成し、小脳回を覆い、Virchow-Robin腔を満たし、そこに浸潤した。
【0072】
6.2 軟膜転移のトランスクリプトーム解析
軟膜の微小環境は、隣接した脳実質を含む他の転移部位と実質的に異なる。軟膜は、脈絡叢により分泌される循環脳脊髄液(CSF)で満たされている。この生物学的流体は、識別可能な組成を有し、とりわけタンパク質、成長因子およびグルコースが血清または組織のいずれかより少ない(18)。したがって、そのような環境で育つように適合したがん細胞は、別個の表現型を有する可能性がある。表現型の変化は、遺伝的変化またはトランスクリプトーム的変化のいずれかから生じ得る。しかし、Massague研究室で作り出されたマウスモデルの以前の網羅的なエクソームシーケンシングでは、対応する親集団からの転移誘導細胞株の遺伝的多様性がほとんどないことが見出された。したがって、親細胞株に由来する転移細胞株は、主に、それらの遺伝子発現プロファイルに関して互いに異なる(19)。したがって、本発明者らは、軟膜の誘導物は、脳実質への転移性の細胞、すなわち「BrM」細胞によって発現される遺伝子と異なる遺伝子のセットを発現すると仮定した(12、16、19)。
【0073】
「軟膜のシグネチャー」遺伝子を同定するために、親細胞株、およびそれらに対応する軟膜転移誘導細胞株および脳実質転移誘導細胞株(PAR、LeptoASおよびBRM)の細胞を、培養で成長させ、全RNAを収集し、mRNAの配列を決定し、分析した(Prepease、Affymetrix、Santa Clara、CA)。同じ初代のモデル間で保存された、同じ方向(上方制御または下方制御)で差次的に発現した遺伝子を収集した。実質(BrM)モデルおよび軟膜(LeptoM)モデルの両方で、上方制御した遺伝子を、推定される「軟膜のシグネチャー」のリストから除外した。
【0074】
MSK IGOコア施設と協力し、軟膜転移(metasasis)の4種のマウスモデルからのPAR細胞、BRM細胞およびLeptoM細胞において、RNASeqを、上で詳述されているように実施した(
図3A)。後続の差次的発現の解析は、バイオインフォマティクスコア施設が行った。解析用の標準パラメーターを用いた(倍率変化>2、塩基平均>50、p<0.05)。主成分分析により、PAR細胞、BrM細胞およびLeptoM細胞が、別個の発現プロファイルを有することが明らかである(
図4)。これは、軟膜転移が、脳実質転移と生物学的に異なるという仮説と一致する。
【0075】
親モデルとBrMモデルとの間で差次的に発現した遺伝子を差し引くことを含めて、上のパラメーターを適用した後で、モデル4種すべてで、20種の遺伝子が差次的に発現した(
図5A)。この遺伝子リストの遺伝子オントロジー解析により、補体および凝固カスケードの上方制御が明らかになった(
図5B)。経路の上方制御以降、遺伝子の補体C3は、すべての軟膜転移モデルにおいて、上方制御していた(
図5C)。この分泌されたタンパク質は、補体カスケードの重要な成分である。
【0076】
軟膜転移におけるこの遺伝子の重要性は、まずin vivoで検証された。2つの独立したshRNAを用いて、LeptoM細胞において、C3発現をノックダウンした(
図6A~C)。これらのノックダウン細胞、またはその対照ノックダウンカウンターパートを、レシピエントマウス中に接種して、CNSの生物発光シグナルをモニターした。LeptoM細胞におけるこの遺伝子のほぼ完全なノックダウンにより、軟膜転移を発症する傾向の大幅な低下がもたらされた。同系C3ノックアウトマウスは、それらの野生型のカウンターパートと同等に、軟膜転移の宿主であった(
図6D)。
【0077】
6.3 B-CSF-Bの透過性を変更するためのC3ARの操作
既存のC3aRアンタゴニストおよびアゴニストを、多彩なin vitro、ex vivoおよびin vivoモデルで用いて、B-CSF-Bの完全性を維持する際における、このシグナル伝達経路の関連性を実証した。
【0078】
脈絡叢は、分極した上皮細胞で構成され、タイトジャンクションにより互いに積層している。これらのタイトジャンクションは、血液-CSF-関門を含む。下層にある血管内皮細胞は有窓性であり、高分子、ならびに一部の循環細胞の自由な通過が可能である。
【0079】
C3aRは、Gタンパク質共役受容体である。これは、多彩な細胞型で存在する。とりわけ、腎細管細胞ならびに一部の肺細胞で存在する。これらの状況のいずれにおいても、受容体の活性化により、タイトジャンクション(tight juction)がゆるくなり、関門完全性の機能が低下する。腎細管では、これにより蛋白尿が生じることが示されており;肺では、これにより浮腫がもたらされることが示されている。脈絡叢の関門機能は、PKCシグナル伝達を必要とすることが以前に実証されている(ホルボールエステル処置が関門機能を低下させる)。
【0080】
C3aRが脈絡叢において同様に機能できるという仮説に対処するために、本発明者らは、まず、脈絡叢上皮においてC3aRの存在を確立した(
図7A)。C3aRは、がん細胞で検出不可能であった。次に、本発明者らは、B-CSFのin vitroモデルでのC3aに対するこれらの細胞の反応を検査した(
図7B)。以前に実証されているように、HuCP上皮細胞(HuCPEpithelial cell)は、ラミニンコートトランスウェルで十分成長し、タイトジャンクションを確立させ、経上皮電気抵抗(TEER)測定により測定されるように関門機能を確立させる。組換えC3aを添加した後で、単層を通した抵抗は低減した(
図7C);C3aの免疫枯渇により、この効果は取り除かれた(
図7D)。したがって、C3a活性化は、関門を通したイオンの通過を増加させる。
【0081】
蛍光標識したデキストランを使用して、in vivoで通過させることにより、大きい分子の通過を評価した。野生型マウスまたはC3aRに対するノックアウトマウスを、蛍光誘導体化した10、40および500kDaのデキストランの心臓内注入前に、C3aRアゴニストで腹腔内処置した。この処置の30分後、CSFを大槽タップによりサンプリングし、誘導体化したデキストランの存在を、蛍光によりアッセイした。40kDaおよびそれより小さいデキストランの、血液からCSFへの通過は、C3aR依存的様式で、C3aによる処置後に増加した(
図7E)。組換えC3aによる処置で、クローディン免疫蛍光により測定されるように、脈絡叢上皮細胞間のタイトジャンクションの組織崩壊が引き起こされた(
図7F)。
【0082】
6.4 バリデーションおよびモデル
ヒトCSFにおけるC3のレベルの増加は、軟膜転移の診断と相関することが見出された(
図8A)。軟膜転移を抱えている疑いがある患者からの原発腫瘍を、抗C3抗体で染色し、低いC3の染色および高いC3の染色カテゴリーに患者を分類した(
図8B)。軟膜転移の臨床的転帰は、原発腫瘍におけるC3発現の上昇と相関した(
図8C)。対照的に、脳実質転移を有する患者の原発腫瘍におけるC3発現の間に相関は明らかでなかった(
図8D~E)。
【0083】
軟膜転移の促進におけるC3の役割の概略図は、
図9に示されている。いかなる理論にも束縛されないが、がん細胞により生成される補体C3は、B-CSF-B関門の完全性を低減させ、血漿内容物のCSFへの通過を可能にし、それにより、転移がん細胞にさらに快適な環境が作り出されると考えられる。がん細胞により生成されたC3は、C3aおよびC3bへと加水分解される。C3aは、次いで、その同系受容体である、脈絡叢上皮上のGPCRに結合する。この受容体の活性化により、2つの別個の変化が生じる。1つめは、PKCおよびMLCKを介したシグナル伝達により、クローディンに基づくタイトジャンクションの弛緩がもたらされる。これにより、血漿内容物の傍細胞輸送が可能となる。2つめは、C3a受容体の活性化により、多彩な成長因子およびケモカインの上方制御がもたらされる。これらもまた、CSF中に放出される。このように、がん細胞は、脈絡叢の関門機能を乗り越えて、必要な成長因子および代謝中間体を自ら供給する。C3およびC3aRは、このパラクリンシグナル伝達経路の中心である。
【0084】
軟膜転移は、成長因子アンフィレグリン(
図10C)を含むCSFの組成を変更する(
図10A)。軟膜腔内のがん細胞成長は、本発明者らの軟膜転移モデルでは、C3aの非経口投与後、C3aRの存在下で改善し(
図10B)、血清アンフィレグリンは、マウスモデルにおいてCSF内で上昇する。
【0085】
(7.実施例2)
C3aRによる調節の効果
軟膜腔内の成長に関してC3に依存したがん細胞、ならびにCP関門機能の維持におけるC3aRの重要性を踏まえ、本発明者らは、軟膜転移モデルにおいてC3aRアンタゴニストならびにアゴニストをアッセイすることを選択した。まず、2,000個のMDA LeptoMをレシピエントマウスの大槽に注入した。次に、ビヒクル、C3aRアゴニストまたはアンタゴニストでの処置を開始した。腫瘍成長に続いて、生物発光イメージングを行った、
図11A。予想通り、軟膜内の腫瘍成長はC3aRアンタゴニストでの処置により遅くなり、C3aRアゴニスト処置で速くなり、C3aRアンタゴニストで処置したマウスの生存利益に一致していた、
図11B。
【0086】
これらの結果を、単一のモデル以外に拡張するために、アンタゴニスト処置アプローチを軟膜転移モデル4種:MDA231、Hcc1954、PC9およびLLCで試験した。これらのモデルのそれぞれに対応する細胞を、0日目にレシピエントマウスの軟膜腔中に接種した。C3aRアンタゴニストSB290157での毎日の全身処置を1日目に始めた。腫瘍細胞の成長を定量するための生物発光イメージングは、モデルのそれぞれについて示されている、
図11C。C3aRアンタゴニストは、各モデルで、軟膜の腫瘍成長の抑制に関連していた。これらの結果は、軟膜転移を処置する方法としてのC3aRのアンタゴニスト作用の使用を裏付ける。このアプローチでは、B-CSF-Bの完全性を維持すると、がん細胞が、タンパク質、成長因子および代謝中間体を含む血漿成分に到達することを阻害することにより、がん細胞生存が阻害される。
【0087】
反対に、軟膜転移の処置における主な問題は、軟膜腔への治療剤の到達を確保することである。これは、感染性髄膜炎を含む他の軟膜の病変にも当てはまる。これらのシナリオでは、C3aRアゴニスト処置を用いてB-CSF-Bを開き、これを、抗生物質、抗ウイルス剤、抗真菌剤または抗寄生虫剤などの全身処置に対して透過性にすることができる。このように、C3aRアゴニスト作用を使用して、軟膜病変に対する治療レパートリーを効率的に拡張できる。
【0088】
8.参考文献
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【0089】
様々な参考文献が本明細書において引用されており、その内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。