(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-02
(45)【発行日】2024-05-14
(54)【発明の名称】医療連携吸入指導システム
(51)【国際特許分類】
G16H 20/10 20180101AFI20240507BHJP
【FI】
G16H20/10
(21)【出願番号】P 2019126747
(22)【出願日】2019-07-08
【審査請求日】2022-07-05
(73)【特許権者】
【識別番号】516159766
【氏名又は名称】大林 浩幸
(74)【代理人】
【識別番号】100143410
【氏名又は名称】牧野 琢磨
(72)【発明者】
【氏名】大林 浩幸
【審査官】梅岡 信幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-163365(JP,A)
【文献】特開2012-174066(JP,A)
【文献】戸田 健、外11,吸入指導病薬連携電子化システム「吸入指導病薬連携クラウド」の試作,電気学会論文誌C,Vol.137, No.2,日本,電気学会,2017年02月01日,pp.360-369
【文献】大林 浩幸,臨床現場における患者吸入指導のコツとそこに潜むピットホール,ファルマシア,Vol.48, No.4,日本,日本薬学会,2012年04月01日,pp.290-295,https://doi.org/10.14894/faruawpsj.48.4_290
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G16H 10/00-80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療機関において処方される吸入デバイスを使用する吸入薬について、患者に当該吸入デバイスの使用方法の指導を行うためのクラウドコンピューティングによる医療連携吸入指導システムであって、
データセンターと、通信回線を介してデータセンターに接続される、吸入薬の処方箋を発行する医療機関の医師が操作する通信手段と、患者が選択し、当該医師から吸入指導の依頼を受けた薬局または医療機関に属する吸入指導者が操作する通信手段と、を備え、
データセンターは、
吸入デバイスを用いた吸入指導を依頼する吸入指導依頼書を作成する吸入指導依頼書作成手段と、
前記吸入指導依頼書作成手段により作成された吸入指導依頼書を確認するための吸入指導依頼書確認手段と、
前記吸入指導依頼書により依頼された吸入指導を実施した内容を吸入指導者が報告する吸入指導報告書を作成する吸入指導報告書作成手段と、
前記吸入指導報告書作成手段により作成された吸入指導報告書を確認するための吸入指導報告書確認手段と、
吸入薬を処方した医師と、吸入指導を行った吸入指導者と、が吸入指導内容について双方向で通信可能な相互情報通信手段と、
を備え、
前記吸入指導依頼書作成手段は、
患者の診察を行った医師が、医師が操作する通信手段により前記処方箋に基づいて選択した吸入デバイスについて、当該吸入デバイスにおける誤操作の典型例を表示し、
当該誤操作の典型例及び当該誤操作の典型例のうち患者の診察を行った医師が選択した注意すべき項目を記載した、患者が選択した薬局または医療機関の吸入指導者に対して当該吸入デバイスを用いた吸入指導を依頼する吸入指導依頼書を作成し、患者IDと関連付けてデータセンターに格納し、
前記吸入指導依頼書確認手段は、
吸入指導者の操作する通信手段からのデータセンターへの患者IDを入力する閲覧要求に応じて、データセンターに格納された、前記患者IDに関連付けられた吸入指導依頼書を吸入指導者の操作する通信手段に表示し、
前記吸入指導報告書作成手段は、
前記吸入指導依頼書により依頼され、吸入指導者が実施した吸入指導について、吸入指導者が、吸入指導者の操作する通信手段により入力した内容を記載した吸入指導報告書を作成し、患者IDと関連付けてデータセンターに格納し、
前記吸入指導報告書確認手段は、
医師が操作する通信手段または吸入指導者が操作する通信手段からのデータセンターへの患者I
Dを入力する閲覧要求に応じて、データセンターに格納された、前記患者IDに関連付けられた吸入指導報告書を医師が操作する通信手段に表示する、
ことを特徴とする医療連携吸入指導システム。
【請求項2】
前記吸入指導依頼書作成手段および/または前記吸入指導報告書作成手段は、医師が操作する通信手段および/または吸入指導者が操作する通信手段において、医師および/または吸入指導者が選択した、吸入指導を有効に行うために必要な、または参考となる患者情報を前記吸入指導依頼書および/または前記吸入指導報告書に記載する患者情報付加手段を備えたことを特徴とする請求項1に記載の医療連携吸入指導システム。
【請求項3】
前記医療連携吸入指導システムには吸入指導が可能な薬局または医療機関が登録されており、
患者が、患者の通信端末の位置情報に基づいて、当該位置情報が示す位置から所定の範囲にある当該薬局または医療機関を抽出し、表示する吸入指導機関検索手段を備えたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の医療連携吸入指導システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療機関及び薬局の医療連携により、吸入薬の吸入デバイス(専用投与器具)の使用方法を患者に指導するための医療連携吸入指導システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医師の処方箋に基づいて、薬局において薬を処方する際に、保険薬剤師が処方薬の説明や服用方法の説明を行ってきた。近年、医師から薬局への処方箋を電子化した電子処方箋による処方情報提供システムも提案されている。(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、気管支喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの呼吸器系疾患に用いる吸入薬では、薬剤の説明だけでなく、吸入薬を正しく吸入して効果を適切に発現させるために、吸入デバイスの使用方法の説明が重要となる。デバイスの使用方法の説明が十分であるか、正しく使用されているかなどをチェックする仕組みがこれまでないという吸入療法特有の課題があった。
【0005】
そこで、本発明では、医療機関及び薬局の医療連携により、吸入薬の吸入デバイスの正しい使用方法を適切に指導することができる医療連携吸入指導システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明では、医療機関において処方される吸入デバイスを使用する吸入薬について、患者に当該吸入デバイスの使用方法の指導を行うためのクラウドコンピューティングによる医療連携吸入指導システムであって、データセンターと、通信回線を介してデータセンターに接続される、吸入薬の処方箋を発行する医療機関の医師が操作する通信手段と、患者が選択し、当該医師から吸入指導の依頼を受けた薬局または医療機関に属する吸入指導者が操作する通信手段と、を備え、データセンターは、吸入デバイスを用いた吸入指導を依頼する吸入指導依頼書を作成する吸入指導依頼書作成手段と、前記吸入指導依頼書作成手段により作成された吸入指導依頼書を確認するための吸入指導依頼書確認手段と、前記吸入指導依頼書により依頼された吸入指導を実施した内容を吸入指導者が報告する吸入指導報告書を作成する吸入指導報告書作成手段と、
前記吸入指導報告書作成手段により作成された吸入指導報告書を確認するための吸入指導報告書確認手段と、吸入薬を処方した医師と、吸入指導を行った吸入指導者と、が吸入指導内容について双方向で通信可能な相互情報通信手段と、を備え、前記吸入指導依頼書作成手段は、患者の診察を行った医師が、医師が操作する通信手段により前記処方箋に基づいて選択した吸入デバイスについて、当該吸入デバイスにおける誤操作の典型例を表示し、当該誤操作の典型例及び当該誤操作の典型例のうち患者の診察を行った医師が選択した注意すべき項目を記載した、患者が選択した薬局または医療機関の吸入指導者に対して当該吸入デバイスを用いた吸入指導を依頼する吸入指導依頼書を作成し、患者IDと関連付けてデータセンターに格納し、前記吸入指導依頼書確認手段は、吸入指導者の操作する通信手段からのデータセンターへの患者IDを入力する閲覧要求に応じて、データセンターに格納された、前記患者IDに関連付けられた吸入指導依頼書を吸入指導者の操作する通信手段に表示し、前記吸入指導報告書作成手段は、前記吸入指導依頼書により依頼され、吸入指導者が実施した吸入指導について、吸入指導者が、吸入指導者の操作する通信手段により入力した内容を記載した吸入指導報告書を作成し、患者IDと関連付けてデータセンターに格納し、前記吸入指導報告書確認手段は、医師が操作する通信手段または吸入指導者が操作する通信手段からのデータセンターへの患者IDを入力する閲覧要求に応じて、データセンターに格納された、前記患者IDに関連付けられた吸入指導報告書を医師が操作する通信手段に表示する、という技術的手段を用いる。
【0007】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の医療連携吸入指導システムにおいて、前記吸入指導依頼書作成手段および/または前記吸入指導報告書作成手段は、医師が操作する通信手段および/または吸入指導者が操作する通信手段において、医師および/または吸入指導者が選択した、吸入指導を有効に行うために必要な、または参考となる患者情報を前記吸入指導依頼書および/または前記吸入指導報告書に記載する患者情報付加手段を備えた、という技術的手段を用いる。
【0008】
請求項3に記載の発明では、請求項1または請求項2に記載の医療連携吸入指導システムにおいて、前記医療連携吸入指導システムには吸入指導が可能な薬局または医療機関が登録されており、患者が、患者の通信端末の位置情報に基づいて、当該位置情報が示す位置から所定の範囲にある当該薬局または医療機関を抽出し、表示する吸入指導機関検索手段を備えた、という技術的手段を用いる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の医療連携吸入指導システムによれば、医師は、吸入指導者(保険薬剤師または看護師)による吸入指導時に、吸入デバイスの操作手順の説明だけでなく、患者の実像にあったオーダーメイドの吸入指導内容を依頼でき、注意すべき吸入デバイスの誤操作の典型例などを項目毎に選んで指定することで、より効果的な吸入指導が可能となる。
【0010】
吸入指導者は、疾患名などの患者情報や吸入指導時に参考となる患者情報などの、従来の処方箋からでは得られない情報を把握でき、それに基づき、患者の適性に応じたより正確な吸入指導を行うことができる。その他、疾患のコントロール状態、患者質問票データ、検査データなどの情報を得ることにより、患者の状態をより詳細に把握することができ、よりきめ細かな吸入指導を行うことができる。
【0011】
報告書を受理した医師は、吸入指導報告書により吸入指導の効果を確認し、次回の診療に役立てることができる。また、医師が作成した一つの吸入指導依頼を基に、相互情報通信手段によるコメントのやりとりが記録され、患者が正しく使用できない吸入デバイスの誤操作の部分を十分に解消するまで、吸入指導者が再度繰り返し吸入指導を行い、同じ吸入指導依頼書に対し、複数の報告書を作成し格納するなど、何度でも双方向性のやり取りでき、情報の蓄積ができる。更に、この双方向性のやりとりの中で、従来、医師、保険薬剤師、看護師の各々が断片的に所有していた患者情報を経時的かつ組織的に収集、蓄積、共有することができ、患者実像がより明確化し、的確な医療連携に基づいた吸入指導が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の医療連携吸入指導システムの構成を示す説明図である。
【
図2】医療連携吸入指導システムを用いた吸入指導の一連の流れを示す模式図である。
【
図3】医療連携吸入指導システムを用いた吸入指導の一連の流れを示す模式図である。
【
図4】医療連携吸入指導システムを用いた吸入指導の一連の流れを示す模式図である。
【
図5】医療連携吸入指導システムを用いた吸入指導の一連の流れを示す模式図である。
【
図6】医療連携吸入指導システムを用いた吸入指導の一連の流れを示す模式図である。
【
図7】医療連携吸入指導システムを用いた吸入指導の一連の流れを示す模式図である。
【
図8】医療連携吸入指導システムの操作画面例を示す説明図である。(吸入指導依頼書作成画面)
【
図9】医療連携吸入指導システムの操作画面例を示す説明図である。(吸入指導依頼書作成画面)
【
図10】医療連携吸入指導システムの操作画面例を示す説明図である。(吸入指導依頼書作成画面)
【
図11】医療連携吸入指導システムの操作画面例を示す説明図である。(吸入指導依頼書作成画面)
【
図12】医療連携吸入指導システムの操作画面例を示す説明図である。(吸入指導依頼書確認画面)
【
図13】医療連携吸入指導システムの操作画面例を示す説明図である。(吸入指導依頼書確認画面)
【
図14】医療連携吸入指導システムの操作画面例を示す説明図である。(吸入指導依頼書確認画面)
【
図15】医療連携吸入指導システムの操作画面例を示す説明図である。(吸入指導報告書作成画面)
【
図16】医療連携吸入指導システムの操作画面例を示す説明図である。(吸入指導報告書作成画面)
【
図17】医療連携吸入指導システムの操作画面例を示す説明図である。(吸入指導報告書確認画面)
【
図18】医療連携吸入指導システムの操作画面例を示す説明図である。(吸入指導報告書内、相互情報通信画面)
【
図19】吸入指導機関検索手段による薬局または医療機関の検索例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の医療連携吸入指導システムについて、図を参照して説明する。
【0014】
医療連携吸入指導システムS(以下、略して「吸入指導システムS」という。)は、医療機関において、呼吸器系疾患の治療に用いられる、吸入デバイスを使用する吸入薬を処方した際に、薬局・医療機関内などにおいて患者に当該吸入デバイスの適確な手技操作方法の指導を行うための、クラウドコンピューティングによる医療連携システムである。
【0015】
図1に示すように、吸入指導システムSには、処方箋が発行される複数の医療機関の医師M1,M2・・・・MX(以下、代表してMとする)、医師と同じ医療機関内の看護師K1,K2・・・・KX(以下、代表してKとする)及び複数の保険薬剤師Y1,Y2・・・・YX(以下、代表してYとする)が登録して参加する。
吸入指導システムSは、データセンター1、通信回線5を介してデータセンター1に接続される、処方箋を発行する医師が操作する通信手段2と、患者が選択し、当該医師から吸入指導の依頼を受けた薬局または医療機関に属する吸入指導者(保険薬剤師Yまたは看護師K)が操作する通信手段と、を備えている。ここで、吸入指導者が医師と同じ医療機関内の看護師であるときには当該看護師が通信手段3を操作し、吸入指導者が薬局の保険薬剤師であるときには当該保険薬剤師が通信手段4を操作する。ここで、通信手段2-4として、各機関に設置されるパーソナルコンピューターやタブレット型通信端末、スマートフォンなど各種通信手段を採用することができる。また、吸入指導者が看護師Kである場合などには、通信手段2と通信手段3とが同一である場合も含む。
【0016】
データセンター1は、吸入指導依頼書作成手段10、吸入指導依頼書確認手段11、吸入指導報告書作成手段12、吸入指導報告書確認手段13、相互情報通信手段14、吸入指導機関検索手段15を備えている。
【0017】
ここで、医師Mにおいては、吸入指導依頼書作成手段10、吸入指導依頼書確認手段11、吸入指導報告書作成手段12、吸入指導報告書確認手段13、相互情報通信手段14、吸入指導機関検索手段15を操作可能である。また、保険薬剤師Yまたは医師と同じ医療機関の看護師Kは、吸入指導依頼書確認手段11、吸入指導報告書作成手段12、吸入指導報告書確認手段13、相互情報通信手段14、吸入指導機関検索手段15を操作可能である。
【0018】
吸入指導依頼書作成手段10は、患者の診察を行った医療機関の医師Mが、吸入薬とともに処方した吸入デバイスの適確な手技操作方法を含む吸入指導を、患者が選んだ薬局または同じ医療機関内の吸入指導者(保険薬剤師Yまたは看護師K)に対して依頼するための吸入指導依頼書を、データセンター1に接続された通信手段2を用い、患者IDと関連付けてデータセンター1内の吸入指導システムSで作成し格納する。吸入指導依頼書作成手段10は、吸入デバイスの誤操作の典型例(以下、「ピットホール」(登録商標)、という。)を表示するとともに、当該ピットホールのうち、特に注意すべき項目を選択し、吸入指導依頼書により指示することが可能に構成されている。
【0019】
吸入指導依頼書作成手段10は、吸入指導を有効に行うために必要な、または参考となる患者情報を選択し、入力可能である患者情報付加手段10aを備えている。
【0020】
吸入指導依頼書確認手段11は、吸入指導を行う看護師Kが操作する通信手段3または保険薬剤師Yが操作する通信手段4から、ユーザーID及び患者IDを入力し、データセンター1への閲覧要求により、吸入指導依頼書を確認できるように構成されている。
【0021】
吸入指導報告書作成手段12は、データセンター1に接続された看護師Kが操作する通信手段3または保険薬剤師Yが操作する通信手段4により、吸入指導依頼書により依頼された吸入指導を実施した内容を吸入指導報告書として作成し、データセンター1に格納できるように構成されている。吸入指導報告書作成手段12は、吸入指導を有効に行うために必要な、または参考となる患者情報を選択、入力可能である患者情報付加手段12aを備えている。
【0022】
吸入指導報告書確認手段13は、医師M及び吸入指導者によるデータセンター1への閲覧要求により、吸入指導報告書作成手段12により患者IDと関連付けられた吸入指導報告書を確認できるように構成されている。
【0023】
相互情報通信手段14は、吸入薬を処方した医師Mと、吸入指導者と、が、吸入指導内容について双方向で通信可能に構成されている。
【0024】
吸入指導システムSを用いた吸入指導の一連の流れを
図2-
図7の模式図、
図8-
図18の操作画面例を参照して説明する。ここでは、吸入指導者が保険薬剤師Yである場合を例に説明する。ここで、
図8-
図18は、操作画面の一部を切り出して示したものである。また、図中の吹き出し、矢印などは、記載項目の説明のために付したものであって、実際の操作画面では表示されない。
【0025】
吸入指導システムSの利用に先立ち、吸入指導システムSを利用する医師M、保険薬剤師Y、看護師Kは、各医療者の個人特定をするユーザーIDを取得するため、登録する必要がある。医師については、所属する医療機関の施設情報、専門領域、吸入指導経験の有無、などがユーザーIDとともに登録される。また、吸入指導を行う保険薬剤師や看護師については、ユーザーIDとともに所属する施設情報が登録される。ユーザーIDには、吸入指導依頼書作成手段10、吸入指導依頼書確認手段11、吸入指導報告書作成手段12、吸入指導報告書確認手段13、相互情報通信手段14、吸入指導機関検索手段15の操作権限が関連付けられる。
【0026】
図2に示すように、患者が医療機関で診察を受け、医師Mが吸入薬の処方を行うときに、医師Mは吸入指導について患者と相談する。吸入指導を行うことに関する同意が取得されると、医師Mは、通信手段2によりユーザーIDを入力し、吸入指導依頼書を作成する。ここで、患者からの同意書は、通信手段2において、吸入指導依頼書を作成する前に吸入指導システムSを用いて作成することができる。
【0027】
図8-
図12に示すように、通信手段2から吸入指導依頼書作成手段10を操作して吸入指導依頼書を作成する。吸入指導依頼書は、患者ID(例えば、医療機関名及び診察券番号)と関連付けて作成される。
【0028】
まず、患者から同意書を取得した後に、
図8に示す画面にて処方薬に応じた吸入デバイスを選択する。
【0029】
例えば、吸入デバイスとして「ディスカス」(登録商標)を選択すると、
図9に示すように、ディスカスのピットホールが、操作手順に沿って表示される。医師Mは、これらピットホールに注意した一連の吸入指導を行うことを希望する場合には、チェックボックスをチェックせずに次に進む。また、特に注意して指導をすることを依頼したい項目がある場合には、当該項目のチェックボックスをチェックして指定することができる。
【0030】
また、この画面では、選択された吸入デバイスに対応したピットホールを示す動画を閲覧可能に構成されている
【0031】
続いて、吸入指導依頼書作成手段10の患者情報付加手段10aにより、
図10に示すように、患者情報を選択、入力する。ここでは、患者情報として、気管支喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの疾患名、初回指導か継続指導か、疾患のコントロール状態、患者質問票データ、検査データなどを選択、入力する例を示している。なお、
図10に示す画面では、吸入指導の依頼をする理由・目標設定や次回の医療機関受診予定なども入力することができる。
【0032】
続いて、吸入指導時に参考となる患者情報があれば該当項目をチェックして、
図11の画面に進む。
【0033】
図11に示すように、患者情報付加手段10aにより、吸入指導時に参考となる患者情報を入力する画面において、吸入指導時に参考となる患者情報が列挙されており、医師Mはそれぞれの項目を選択、入力することができる。
図11では、患者情報として、症状、吸入療法に影響するハンディキャップが示されているが、他に、アドヒアランス低下、タバコの喫煙状況などの生活状況(ライフスタイル、ライフサイクル)、呼吸療法に影響するパーソナリティなどを選択、入力することができる。
【0034】
以上の情報を入力した後にデータセンター1への作成完了操作を行うことにより、データセンター1にユーザーID及び患者IDと関連付けられた吸入指導依頼書が格納される。
【0035】
図3に示すように、患者は希望する薬局に行き、保険薬剤師Yに吸入薬の処方箋を渡す際に、医師Mから吸入指導の指示があることを保険薬剤師Yに伝える、または保険薬剤師Yが吸入指導の指示の有無を患者に聞いて、吸入指導の指示があることを把握すると、保険薬剤師Yは、
図4に示すように、患者から吸入指導に関する同意を取得した後に、薬局の通信手段4からユーザーID及び患者IDを入力する。ここで、患者からの同意書は、吸入指導を行う前に、薬局の通信手段4から吸入指導システムSを用いて作成することができる。
【0036】
通信手段4でユーザーID及び患者IDが正しく入力されると、吸入指導依頼書確認手段11により、データセンター1から患者IDと関連付けられた吸入指導依頼書が呼び出され、通信手段4に表示される。ここで確認される吸入指導依頼書は、医師が選択、入力し、チェックボックスでチェックした項目で構成される。
図12-
図14に一例を示す。また、
図3に示すように、医師の指示の下、医療機関の看護師Kが吸入指導を行う場合がある。看護師Kは
図4に示すように、通信手段3からユーザーID及び患者IDを入力し、同様に依頼書を確認することができる。吸入指導者(保険薬剤師や看護師)は、吸入指導依頼書を確認し、医師の指示内容に基づいた吸入指導を行う。
【0037】
保険薬剤師Yは、疾患名などの吸入指導時に必要な患者情報や吸入指導時に参考となる患者情報など従来の処方箋のみからでは得られない情報が把握でき、それに基づき、患者の適性に応じたより正確な吸入指導を行うことができる。その他、疾患のコントロール状態、患者質問票データ、検査データなどの情報を得ることにより、患者の状態をより詳細に把握することができ、よりきめ細かな吸入指導を行うことができる。
【0038】
保険薬剤師Yは、例えば、吸入療法に影響するハンディキャップの項目では、視力、聴力などが低下している場合には、それを考慮した吸入指導を行うことができる。また、手指力が低下している場合には、的確なデバイス操作を行うことができない可能性があるので、吸入補助器具を用いる、など、より有効な吸入手段を採用した吸入指導を行うことができる。
【0039】
また、吸入療法に影響するパーソナリティの項目では、怒りっぽい、飽きっぽいなどの性格を考慮した吸入指導ができ、より効果的な吸入指導を行う糸口になる。
【0040】
保険薬剤師Yは、吸入指導の終了後に、
図5に示すように、処方薬を患者に渡し、薬局の通信手段4から吸入指導報告書作成手段12により吸入指導報告書を作成する。
【0041】
吸入指導報告書では、
図15に示すように、吸入指導の結果は、ピットホール項目をチェックすることで簡便に示され、一連の手技操作全体に対する到達度も評価する。
【0042】
また、
図16に示すように、患者の到達度、アドヒアランス状況など、吸入指導の総括をチェックして報告する。ここで、医師に対して、相互情報通信欄による指示を求めることもできる。
【0043】
また、吸入指導依頼書作成手段10と同様に、吸入指導報告書作成手段12も患者情報付加手段12aを備えている。これにより、吸入指導者が、吸入指導時に気づいた患者の疾患状態やハンディキャップ、パーソナリティなど、吸入指導を有効に行うために必要な、または参考となる患者情報を選択し入力することができ、当該患者情報を医師Mに伝達することができる。
【0044】
その他、吸入指導の際に気付いた患者情報などを入力した後に、作成完了操作を行うことにより、データセンター1にユーザーID及び患者IDと関連付けられた吸入指導報告書が格納される。
【0045】
吸入指導報告書が作成されると、吸入指導依頼書を作成した医師Mが、通信手段2から自己のユーザーIDをデータセンター1に送信し、吸入指導報告書確認手段13により、その内容を確認することができる。
【0046】
図17には、吸入指導報告書のうち、ピットホールが発生した手技操作部分とその程度を一連の手技操作手順の流れで指摘し、吸入指導結果の総括と、吸入指導者が指導時に気付いた点を報告する例を示す。
【0047】
これにより医師Mは、患者が吸入デバイスを的確に使用できるようになったか、ピットホールのうち、更に指導の継続が必要な項目がないか、などを把握することができる。次回診察時に、患者の病状に合わせて、吸入指導者の行った吸入指導結果報告書に基づく患者情報を有効に活用することができる。
【0048】
図18に示すように、吸入指導報告書の末尾には、相互情報通信欄が設けられている。医師Mと吸入指導者とは、必要に応じて相互情報通信手段14を用いて、吸入指導結果に関する気付いた点、疑問点やコメント、再指導のポイントなどを双方向でやり取りすることができる。このように双方向で情報を共有し、吸入手技操作一つ一つに対して相互チェックが可能となるため、ピットホールが解消され、適確な吸入手技操作が可能になるまで患者の吸入指導を継続して行うことができる。一方、吸入指導を繰り返し行っても、その吸入デバイスの使用が根本的に困難な場合、薬剤処方の無駄な継続を避けるために、他の吸入デバイスへの変更、吸入補助器具の装着などの対策を、医師Mと吸入指導者間で連携して協議でき、より迅速な対応が可能となる。
【0049】
吸入指導システムSは、データセンター1に吸入指導機関検索手段15を備える構成を採用することもできる。吸入指導機関検索手段15は、患者が、データセンター1にアクセスすることにより、吸入指導システムSに登録された吸入指導が可能な薬局または医療機関を検索可能、または、患者の通信端末の位置情報に基づいて所定の範囲の当該薬局または医療機関を表示可能に構成されている。
図19に、薬局または医療機関の検索例を示す。このように、患者自身が、医師と連携して適確な吸入指導を継続的に受けることが可能な薬局または医療機関を検索し、選択することができ、利便性が高い対応が可能となる。
【0050】
上述した吸入指導システムSを用いた吸入指導の一連の流れは、吸入指導者が看護師Kである場合も同様である。また、吸入指導者は医師Mである場合もある。
【0051】
(実施形態の効果)
本発明の医療連携吸入指導システムSによれば、医師Mは、吸入指導者による吸入指導時に、吸入デバイスの手技操作の手順説明だけでなく、患者の実像にあったオーダーメイドの吸入指導を依頼でき、注意すべきピットホールなどを項目毎に選んで指定することで、目的に合ったより効果的かつ効率的な吸入指導の依頼が可能となる。
【0052】
吸入指導者は、本発明の医療連携吸入指導システムSを用い、医師からの吸入指導依頼書を受けることで、従来の処方箋からでは得られない、吸入指導を効果的に行う上で必要あるいは参考となる様々な患者情報を得ることができる。疾患名やそのコントロール状態、患者質問票データ、検査データなどの新たな情報を得ることにより、患者の現在の状態をより詳細に事前に把握することができ、その患者に合わせた適切な吸入指導を行うための受入れ準備ができあがる。吸入指導時には、医師からの吸入指導依頼書により、吸入指導を行う理由や到達目標などのポイントがより明確化されていることで、目的に応じた効率的かつ効果的な、きめ細かなオーダーメイドの吸入指導が対応可能となる。
【0053】
医療連携吸入指導システムSを用い、吸入指導者から戻ってきた報告書は、医師の依頼書の内容に則したものとなり、従来しばしば認められている、医師の目的や診療方針から焦点がずれた有効性に乏しい吸入指導内容となることを回避でき、医師は吸入指導の効果を確認し、次回の診療に役立てることができる。さらに、ここに相互情報通信手段14を備えることで、双方向性の意思疎通手段により、再確認や是正などの微調整が簡便かつ迅速に可能となり、より目的に合ったオーダーメイドの吸入指導が行われるようになることを特徴とする。一つの吸入指導依頼書の基、相互情報通信手段14によるコメントのやりとりや、再度の吸入指導報告書などがシステム内に経時的に積み重ねられていくことで、その患者が正しくできない、そのピットホールが解消され、患者が吸入薬を有効に吸入することができるようになる。
【0054】
医療連携吸入指導システムSの特徴は、従来からありがちな、吸入デバイスの手技操作の手順を説明するのみの吸入指導、あるいは患者に誤った操作部分を指摘するのみ吸入指導法を脱却し、医療連携の中でピットホールが発生する原因を究明し、その発生原因のアプローチから、最終的にピットホール解消までに至る可能性があることである。ピットホールが発生する原因の多くは、加齢現象、癖、性格、個性、生活スタイルなどの患者側の要因で生じるため、ピットホールの是正はいずれの医療機関でも難しい課題であり続けている。患者の疾患状態やハンディキャップ、パーソナリティなど患者情報は、医師・看護師・保険薬剤師がこれまで個々に断片的に持っており、互いに情報共有や蓄積の手段や機会がなかったため、これら貴重な情報は看過されてきたのが現状である。医療連携吸入指導システムSの入力項目に採用されている、患者の疾患状態やハンディキャップ、薬剤に対するアドヒアランス、喫煙状況、患者の個性や性格などのパーソナリティの項目は、従来、医師、保険薬剤師、看護師が、断片的に所有していた患者情報を経時的かつ組織的に収集、蓄積、共有することができ、患者実像がより明確となるのみならず、ピットホール発生原因の究明にもつながり、解消できる可能性が見いだせる。
【0055】
患者は、医療連携吸入指導システムSにより、医師が処方した吸入薬を使用する際に、より的確な吸入デバイス操作が可能となり、吸入薬の効果をより実感することができるようになる。これにより、患者が自ら進んで吸入療法を受ける、アドヒアランス向上とその維持が期待できる。また、患者は、日常的に吸入療法に対する疑問点や不安点などが生じた場合、医療連携吸入指導システムSで連携し情報共有する医師や保険薬剤師、看護師のいずれにも気軽に相談できるようになり、いわゆる「かかりつけ医」、「かかりつけ薬剤師」としての役割と機能が期待できる。その結果、患者による吸入薬の自己中断や使用法変更などにより生じる残薬や過量投与の防止、使用していない吸入薬を医師が知らずに無駄に処方し続けることなどが避けられると期待でき、しいては医療費の削減につながる。医療連携吸入指導システムSによる医療連携で経時的に蓄積されていく患者情報は、常に進歩する医学と変化する医療の変革の中で、その時にその患者に最も適した治療を選択する上で、有益な情報源となり、患者自身の財産となる。
【0056】
ひとりの患者のため、効果的な吸入療法の達成を目指して、医師、保険薬剤師、看護師が相互連携し、一つの吸入指導依頼書の基、双方向のやり取りが経時的かつ継続的に行われることで、情報の収集、蓄積、共有していく医療連携吸入指導システムSは、地域内に医療連携の輪を構築する基盤となりうる。また、このシステムが拡がることで、例えば、患者が転居等により他地域に移動した場合でも、システムに登録されている薬局同士が、蓄積された情報を適切に共有し利用することで、効果的な吸入療法がそのまま引き継がれ、継続して行うことができ、患者を長期的な展望をもってフォローすることができる。
【0057】
医療連携吸入指導システムSにより、患者情報とともに、その際に行われた吸入指導内容もシステム内に経時的に蓄積される。医師Mのみならず、吸入指導者も相互連携によって、これらの吸入指導内容を適宜閲覧することができる。この情報は吸入指導を行った吸入指導者の吸入療法の知識や技量を評価する資料にもなり、医師のみならず、吸入指導者が自己研鑽を継続していく動機付けとなり、しいては吸入指導法そのものの進歩にも貢献するものとなる。
【符号の説明】
【0058】
1…データセンター
10…吸入指導依頼書作成手段
10a…患者情報付加手段
11…吸入指導依頼書確認手段
12…吸入指導報告書作成手段
12a…患者情報付加手段
13…吸入指導報告書確認手段
14…相互情報通信手段
15…吸入指導機関検索手段
2、3、4…通信手段
5…通信回線
S…医療連携吸入指導システム
M…医療連携吸入指導システムに登録している医療機関の医師
K…医療連携吸入指導システムに登録している医療機関の看護師
Y…医療連携吸入指導システムに登録している薬局の保険薬剤師