(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-02
(45)【発行日】2024-05-15
(54)【発明の名称】脳出血を治療又は予防するための薬剤及び該薬剤を用いて脳出血を治療又は予防する方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/407 20060101AFI20240507BHJP
A61K 31/501 20060101ALI20240507BHJP
A61P 7/04 20060101ALI20240507BHJP
C07D 519/00 20060101ALN20240507BHJP
C07D 491/052 20060101ALN20240507BHJP
【FI】
A61K31/407
A61K31/501
A61P7/04
C07D519/00
C07D491/052
(21)【出願番号】P 2019209932
(22)【出願日】2019-11-20
【審査請求日】2022-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】514198367
【氏名又は名称】バイオジェン・エムエイ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Biogen MA Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】冨永 悌二
(72)【発明者】
【氏名】新妻 邦泰
【審査官】長部 喜幸
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/111203(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/004620(WO,A1)
【文献】国際公開第2004/002488(WO,A1)
【文献】特許第5605659(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/407
A61K 31/501
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)の化合物又はその医薬的に許容され得る塩、エステル若しくは溶媒和物を有効成分として含む、脳出血の治療又は予防に用いられる薬剤
であって
【化1】
式(I)中、Lは、炭素数4~10の脂肪族炭化水素基を表し、Xは、ヒドロキシ基又はカルボキシ基を表し、nは、0~2の整数を表し、Rは水素原子又は分子量1000以下の置換基を表
し、
前記式(I)の化合物又はその医薬的に許容され得る塩、エステル若しくは溶媒和物が、下記SMTP-0、下記SMTP-1、下記SMTP-4、下記SMTP-5D、下記SMTP-6、下記SMTP-7、下記SMTP-8、下記SMTP-11~14、下記SMTP-18~29、下記SMTP-36、下記SMTP-37、下記SMTP-42、下記SMTP-43、下記SMTP-43D、下記SMTP-44、下記SMTP-44D、下記SMTP-46及び下記SMTP-47よりなる群から選択される化合物又はその医薬的に許容され得る塩、エステル若しくは溶媒和物である、前記薬剤。
【化2】
【化3】
式中、*は結合部位を表す。
【請求項2】
前記式(I)の化合物又はその医薬的に許容され得る塩、エステル若しくは溶媒和物が
、SMTP-7又はその医薬的に許容され得る塩、エステル若しくは溶媒和物である、請求項
1に記載の薬剤。
【請求項3】
前記式(I)の化合物又はその医薬的に許容され得る塩、エステル若しくは溶媒和物が、SMTP-7又はその医薬的に許容され得る塩である、請求項1に記載の薬剤。
【請求項4】
前記式(I)の化合物又はその医薬的に許容され得る塩、エステル若しくは溶媒和物が、SMTP-7である、請求項1に記載の薬剤。
【請求項5】
前記脳出血が脳内出血である請求項1~請求項
4のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項6】
脳内投与される、請求項1~請求項
5のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項7】
前記脳出血が脳梗塞を伴わない、請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項8】
前記化合物が血腫を縮小させる又は除去する、請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項9】
前記化合物が浮腫を縮小させる又は除去する、請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項10】
前記化合物が血腫と浮腫の両方を縮小させる又は除去する、請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項11】
SMTP-7又はその医薬的に許容され得る塩を有効成分として含む、血腫又は浮腫の治療又は予防のために用いられる薬剤であって、
【化4】
前記SMTP-7又はその医薬的に許容され得る塩は、脳出血を有する対象に投与される、前記薬剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳出血を治療又は防止するための薬剤及び該薬剤を用いて脳出血を治療又は予防する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脳出血は、脳の血管が破れることで出血を生じる症状の総称であり、出血部位により脳内出血、くも膜下出血などに分けることができる。血管から溢れた血液は血腫を形成し、血腫が直接脳にダメージを与えたり、浮腫が形成されることで脳内の圧力が高まり、脳が圧迫されることで脳にダメージを与えたりする。
脳出血に対してはこれまで有効な薬物的治療方法は確立されておらず、手術により脳内の血腫を除去する等の対処が取られてきた。
【0003】
一方、SMTP(Stachybotrys microspora triprenyl phenol)化合物は、糸状菌が生産するトリプレニルフェノール骨格を有する化合物の一群であり、特開2004-224737号公報、特開2004-224738号公報、及び国際公開第2007/111203号によれば、血栓溶解促進作用や血管新生阻害作用を有することが知られている。血栓溶解促進作用に関しては、FEBS Letter 1997;418:58-62によれば、SMTP化合物がプラスミノーゲンのコンフォメーション変化を導き、その結果、プラスミノーゲンのt-PAに対する感受性と、プラスミノーゲンの血栓などへの結合を増加させ、血栓の溶解を促進する作用機序が示唆されている。さらに、J Biol Chem 2014;289:35826-35838によれば、SMTP化合物は優れた抗炎症作用をもつことも示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-224737号公報
【文献】特開2004-224738号公報
【文献】国際公開第2007/111203号
【非特許文献】
【0005】
【文献】FEBS Letter 1997;418:58-62
【文献】J Biol Chem 2014;289:35826-35838
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、式(I)の化合物又はその医薬的に許容され得る塩、エステル若しくは溶媒和物が、脳出血の治療又は予防に対する効果を有していることを見出した。
これまで、脳出血に対する有効な薬物的治療方法が無かった中で、式(I)の化合物又はその医薬的に許容され得る塩、エステル若しくは溶媒和物が脳出血の治療又は予防における効果を奏することは、驚くべきことである。
【0007】
特許文献1~3及び非特許文献1~2には、式(I)の化合物の脳出血に対する効果については記載も示唆もない。
【0008】
本開示に係る実施形態により解決される課題は、脳出血の治療又は予防効果に優れた薬剤、及び、脳出血の新たな治療方法又は予防方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための手段には、以下の態様が含まれる。
<1> 下記式(I)の化合物又はその医薬的に許容され得る塩、エステル若しくは溶媒和物を有効成分として含む、脳出血の治療又は予防に用いられる薬剤。
【化1】
式(I)中、Lは炭素数4~10の脂肪族炭化水素基を表し、Xはヒドロキシ基又はカルボキシ基を表し、nは0~2の整数を表し、Rは水素原子又は分子量1000以下の置換基を表す。
<2>前記式(I)の化合物又はその医薬的に許容され得る塩、エステル若しくは溶媒和物が、下記式(IA)の化合物又はその医薬的に許容され得る塩、エステル若しくは溶媒和物である、<1>に記載の薬剤。
【化2】
式(IA)中、Xは-CHY-C(CH
3)
2Zであり、Y及びZは、それぞれ独立に、-H若しくは-OHであるか、又は一緒になって単結合を形成し、Rは水素原子又は分子量1000以下の置換基を表す。
<3> 前記式(I)の化合物又はその医薬的に許容され得る塩、エステル若しくは溶媒和物が、下記式(II)又は式(III)の化合物又はその医薬的に許容され得る塩、エステル若しくは溶媒和物である<1>又は<2>に記載の薬剤。
【化3】
式(II)又は式(III)中、X
1、X
2及びX
3は、それぞれ独立に、-CHY-C(CH
3)
2Zであり、Y及びZは、それぞれ独立に、-H若しくは-OHであるか、又は一緒になって単結合を形成し、R
1は、下記(A)から(D)のいずれか1つを表す。
(A)天然アミノ酸、天然アミノ酸のD体、並びに天然アミノ酸又は天然アミノ酸のD体における少なくとも1つのカルボキシ基を水素原子、ヒドロキシ基又はヒドロキシメチル基に置き換えた化合物からなる群より選択されるアミノ化合物から、1個のアミノ基を除いた残基(ただし、-(CH)
2-OHは除く)、
(B)カルボキシ基、ヒドロキシ基、スルホン酸基及び第二アミノ基からなる群より選択される少なくとも1つを置換基として若しくは置換基の一部として有する芳香族基、又は第二アミノ基を含み且つ窒素原子を含んでいてもよい芳香族基、
(C)下記式(II-1)の芳香族アミノ酸残基(式中、R
3はそれぞれ独立に、あってもなくてもよい置換基であって、存在する場合は、ヒドロキシ基、カルボキシ基又は炭素数1~5のアルキル基を表し、nは0又は1の整数を表し、mは0~5の整数を表し、*は結合部位を表す。)、
【化4】
(D)-L
1-L
2-R
4で表される置換基(式中、L
1はカルボキシ基を有する炭素数1~4のアルキレン基である連結基を表し、L
2は-NH-C(=O)-又は-NH-C(=S)-NH-で示される連結基を表し、R
4は炭素数1~3のアルキルオキシ基を有する9-フルオレニルアルキルオキシ基又は下記式(II-2)の多複素環基(式(II-2)中、*は結合部位を表す。)を表す。)。
【化5】
R
2は、2個のアミノ基を有する天然アミノ酸、2個のアミノ基を有する天然アミノ酸のD体、2個のアミノ基を有する天然アミノ酸及び2個のアミノ基を有する天然アミノ酸のD体における少なくとも1つのカルボキシ基を水素原子、ヒドロキシ基又はヒドロキシメチル基に置き換えた化合物、H
2N-CH(COOH)-(CH
2)
n-NH
2(nは0~9の整数)、並びにH
2N-CH(COOH)-(CH
2)
m-S
p-(CH
2)
q-CH(COOH)-NH
2(m、p及びqはそれぞれ独立に0~9の整数)で示される化合物からなる群より選択されるアミノ化合物から、2個のアミノ基を除いた残基を表す。
<4> 前記式(I)の化合物又はその医薬的に許容され得る塩、エステル若しくは溶媒和物が、下記SMTP-0、下記SMTP-1、下記SMTP-4、下記SMTP-5D、下記SMTP-6、下記SMTP-7、下記SMTP-8、下記SMTP-11~14、下記SMTP-18~29、下記SMTP-36、下記SMTP-37、下記SMTP-42、下記SMTP-43、下記SMTP-43D、下記SMTP-44、下記SMTP-44D、下記SMTP-46及び下記SMTP-47よりなる群から選択される化合物又はその医薬的に許容され得る塩、エステル若しくは溶媒和物である、<1>~<3>のいずれか1つに記載の薬剤。
【化6】
【化7】
式中、*は結合部位を表す。
<5> 前記式(I)の化合物又はその医薬的に許容され得る塩、エステル若しくは溶媒和物が、前記SMTP-7又はその医薬的に許容され得る塩、エステル若しくは溶媒和物である、<4>に記載の薬剤。
<6> 前記脳出血が脳内出血である、<1>~<5>のいずれか1つに記載の薬剤。
<7> 脳内投与される、<1>~<6>のいずれか1つに記載の薬剤。
【0010】
<8> 脳出血の治療に有効な量の下記式(I)の化合物又はその医薬的に許容され得る塩、エステル若しくは溶媒和物を、脳出血を有する対象に投与することを含む、対象における脳出血を治療する方法。
【化8】
式(I)中、Lは炭素数4~10の脂肪族炭化水素基を表し、Xはヒドロキシ基又はカルボキシ基を表し、nは0~2の整数を表し、Rは水素原子又は分子量1000以下の置換基を表す。
<9> 脳出血の予防に有効な量の下記式(I)の化合物又はその医薬的に許容され得る塩、エステル若しくは溶媒和物を、脳出血を発症するリスクを有する対象に投与することを含む、対象における脳出血を予防する方法。
【化9】
式(I)中、Lは炭素数4~10の脂肪族炭化水素基を表し、Xはヒドロキシ基又はカルボキシ基を表し、nは0~2の整数を表し、Rは水素原子又は分子量1000以下の置換基を表す。
<10>前記式(I)の化合物又はその医薬的に許容され得る塩、エステル若しくは溶媒和物が、下記式(IA)の化合物又はその医薬的に許容され得る塩、エステル若しくは溶媒和物である、<8>又は<9>に記載の方法。
【化10】
式(IA)中、Xは-CHY-C(CH
3)
2Zであり、Y及びZは、それぞれ独立に、-H若しくは-OHであるか、又は一緒になって単結合を形成し、Rは水素原子又は分子量1000以下の置換基を表す。
<11> 前記式(I)の化合物又はその医薬的に許容され得る塩、エステル若しくは溶媒和物が、下記式(II)又は式(III)の化合物又はその医薬的に許容され得る塩、エステル若しくは溶媒和物である<8>~<10>のいずれか1つに記載の薬剤。
【化11】
式(II)又は式(III)中、X
1、X
2及びX
3は、それぞれ独立に、-CHY-C(CH
3)
2Zであり、Y及びZは、それぞれ独立に、-H若しくは-OHであるか、又は一緒になって単結合を形成し、R
1は、下記(A)から(D)のいずれか1つを表す。
(A)天然アミノ酸、天然アミノ酸のD体、並びに天然アミノ酸又は天然アミノ酸のD体における少なくとも1つのカルボキシ基を水素原子、ヒドロキシ基又はヒドロキシメチル基に置き換えた化合物からなる群より選択されるアミノ化合物から、1個のアミノ基を除いた残基(ただし、-(CH)
2-OHは除く)、
(B)カルボキシ基、ヒドロキシ基、スルホン酸基及び第二アミノ基からなる群より選択される少なくとも1つを置換基として若しくは置換基の一部として有する芳香族基、又は第二アミノ基を含み且つ窒素原子を含んでいてもよい芳香族基、
(C)下記式(II-1)の芳香族アミノ酸残基(式中、R
3はそれぞれ独立に、あってもなくてもよい置換基であって、存在する場合は、ヒドロキシ基、カルボキシ基又は炭素数1~5のアルキル基を表し、nは0又は1の整数を表し、mは0~5の整数を表し、*は結合部位を表す。)、
【化12】
(D)-L
1-L
2-R
4で表される置換基(式中、L
1はカルボキシ基を有する炭素数1~4のアルキレン基である連結基を表し、L
2は-NH-C(=O)-又は-NH-C(=S)-NH-で示される連結基を表し、R
4は炭素数1~3のアルキルオキシ基を有する9-フルオレニルアルキルオキシ基又は下記式(II-2)の多複素環基(式(II-2)中、*は結合部位を表す。)を表す。)。
【化13】
R
2は、2個のアミノ基を有する天然アミノ酸、2個のアミノ基を有する天然アミノ酸のD体、2個のアミノ基を有する天然アミノ酸及び2個のアミノ基を有する天然アミノ酸のD体における少なくとも1つのカルボキシ基を水素原子、ヒドロキシ基又はヒドロキシメチル基に置き換えた化合物、H
2N-CH(COOH)-(CH
2)
n-NH
2(nは0~9の整数)、並びにH
2N-CH(COOH)-(CH
2)
m-S
p-(CH
2)
q-CH(COOH)-NH
2(m、p及びqはそれぞれ独立に0~9の整数)で示される化合物からなる群より選択されるアミノ化合物から、2個のアミノ基を除いた残基を表す。
<12> 前記式(I)の化合物又はその医薬的に許容され得る塩、エステル若しくは溶媒和物が、下記SMTP-0、下記SMTP-1、下記SMTP-4、下記SMTP-5D、下記SMTP-6、下記SMTP-7、下記SMTP-8、下記SMTP-11~14、下記SMTP-18~29、下記SMTP-36、下記SMTP-37、下記SMTP-42、下記SMTP-43、下記SMTP-43D、下記SMTP-44、下記SMTP-44D、下記SMTP-46及び下記SMTP-47よりなる群から選択される化合物又はその医薬的に許容され得る塩、エステル若しくは溶媒和物である、<8>~<11>のいずれか1つに記載の方法。
【化14】
【化15】
式中、*は結合部位を表す。
<13> 前記式(I)の化合物又はその医薬的に許容され得る塩、エステル若しくは溶媒和物が、前記SMTP-7又はその医薬的に許容され得る塩、エステル若しくは溶媒和物である、<12>に記載の方法。
<14> 前記脳出血が脳内出血である、<8>~<13>のいずれか1つに記載の方法。
<15> 前記式(I)の化合物又はその医薬的に許容され得る塩、エステル若しくは溶媒和物が脳内投与される、<8>~<14>のいずれか1つに記載の方法。
【0011】
<16> 脳出血の治療又は予防に用いるための、前記式(I)の化合物又はその医薬的に許容され得る塩、エステル若しくは溶媒和物。
<17> 前記式(I)の化合物又はその医薬的に許容され得る塩、エステル若しくは溶媒和物が、前記式(IA)の化合物又はその医薬的に許容され得る塩、エステル若しくは溶媒和物である、<16>に記載の使用のための化合物又はその医薬的に許容され得る塩、エステル若しくは溶媒和物。
<18> 前記式(I)の化合物又はその医薬的に許容され得る塩、エステル若しくは溶媒和物が、前記式(II)又は式(III)の化合物又はその医薬的に許容され得る塩、エステル若しくは溶媒和物である、<16>又は<17>に記載の使用のための化合物又はその医薬的に許容され得る塩、エステル若しくは溶媒和物。
<19> 前記式(I)の化合物又はその医薬的に許容され得る塩、エステル若しくは溶媒和物が、前記SMTP-0、前記SMTP-1、前記SMTP-4、前記SMTP-5D、前記SMTP-6、前記SMTP-7、前記SMTP-8、前記SMTP-11~14、前記SMTP-18~29、前記SMTP-36、前記SMTP-37、前記SMTP-42、前記SMTP-43、前記SMTP-43D、前記SMTP-44、前記SMTP-44D、前記SMTP-46及び前記SMTP-47よりなる群から選択される化合物又はその医薬的に許容され得る塩、エステル若しくは溶媒和物である、<16>~<18>のいずれか1つに記載の使用のための化合物又はその医薬的に許容され得る塩、エステル若しくは溶媒和物。
<20> 前記式(I)の化合物又はその医薬的に許容され得る塩、エステル若しくは溶媒和物が、前記SMTP-7又はその医薬的に許容され得る塩、エステル若しくは溶媒和物である、<19>に記載の使用のための化合物又はその医薬的に許容され得る塩、エステル若しくは溶媒和物。
<21> 前記脳出血が脳内出血である、<16>~<20>のいずれか1つに記載の使用のための化合物又はその医薬的に許容され得る塩、エステル若しくは溶媒和物。
<22> 前記式(I)の化合物又はその医薬的に許容され得る塩、エステル若しくは溶媒和物が脳内投与される、<16>~<21>のいずれか1つに記載の使用のための化合物又はその医薬的に許容され得る塩、エステル若しくは溶媒和物。
【0012】
<23> 前記式(I)の化合物又はその医薬的に許容され得る塩、エステル若しくは溶媒和物の、脳出血の治療又は予防のための医薬の製造における使用。
<24> 前記式(I)の化合物又はその医薬的に許容され得る塩、エステル若しくは溶媒和物が、前記式(IA)の化合物又はその医薬的に許容され得る塩、エステル若しくは溶媒和物である、<23>に記載の使用。
<25> 前記式(I)の化合物又はその医薬的に許容され得る塩、エステル若しくは溶媒和物が、前記式(II)又は式(III)の化合物又はその医薬的に許容され得る塩、エステル若しくは溶媒和物である、<23>又は<24>に記載の使用。
<26> 前記式(I)の化合物又はその医薬的に許容され得る塩、エステル若しくは溶媒和物が、前記SMTP-0、前記SMTP-1、前記SMTP-4、前記SMTP-5D、前記SMTP-6、前記SMTP-7、前記SMTP-8、前記SMTP-11~14、前記SMTP-18~29、前記SMTP-36、前記SMTP-37、前記SMTP-42、前記SMTP-43、前記SMTP-43D、前記SMTP-44、前記SMTP-44D、前記SMTP-46及び前記SMTP-47よりなる群から選択される化合物又はその医薬的に許容され得る塩、エステル若しくは溶媒和物である、<23>~<26>のいずれか1つに記載の使用。
<27> 前記式(I)の化合物又はその医薬的に許容され得る塩、エステル若しくは溶媒和物が、前記SMTP-7又はその医薬的に許容され得る塩、エステル若しくは溶媒和物である、<26>に記載の使用。
<28> 前記脳出血が脳内出血である、<23>~<27>のいずれか1つに記載の使用。
<29> 前記医薬は脳内投与用医薬である、<23>~<28>のいずれか1つに記載の使用。
【発明の効果】
【0013】
本開示に係る実施形態によれば、脳出血の治療又は予防効果に優れた薬剤、並びに式(I)の化合物又はその医薬的に許容され得る塩、エステル若しくは溶媒和物の医薬としての新規用途を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1A】脳出血モデル動物を用いた試験における、脳切片の写真である。
【
図1B】脳出血モデル動物を用いた試験における、脳切片の写真である。
【
図1C】脳出血モデル動物を用いた試験における、脳切片の写真である。
【
図2】脳出血モデル動物を用いた試験における、脳全体の体積に対する血腫の体積の割合を示すグラフである。
【
図3A】脳出血モデル動物を用いた試験における、脳切片のエバンスブルー染色の写真である。
【
図3B】脳出血モデル動物を用いた試験における、脳切片のエバンスブルー染色の写真である。
【
図3C】脳出血モデル動物を用いた試験における、脳切片のエバンスブルー染色の写真である。
【
図3D】脳出血モデル動物を用いた試験における、脳切片のエバンスブルー染色の写真である。
【
図4】脳出血モデル動物を用いた試験における、脳サンプル全体におけるエバンスブルー染色で染まった領域の面積を示すグラフである。
【
図5】脳出血モデル動物を用いた試験における、脳サンプル全体におけるエバンスブルー染色の濃度を示すグラフである。
【
図6】脳出血モデル動物を用いた試験における、血腫を示す脳のMRI画像である。
【
図7】脳出血モデル動物を用いた試験における、MRI画像中の血腫の体積割合を百分率で示すグラフである。
【
図8】脳出血モデル動物を用いた試験における、MRI画像中の血腫の体積割合(%)の時系列的変化を示すグラフである。
【
図9】脳出血モデル動物を用いた試験における、浮腫を示す脳のMRI画像である。
【
図10】脳出血モデル動物を用いた試験における、MRI画像中の浮腫の体積割合を百分率で示すグラフである。
【
図11】脳出血モデル動物を用いたバーンズ迷路試験におけるラットの軌跡を示す図である。
【
図12】脳出血モデル動物を用いたバーンズ迷路試験におけるラットが退避ボックスにたどり着くまでの所要時間を示すグラフである。
【
図13】脳出血モデル動物を用いたバーンズ迷路試験におけるラットが退避ボックスにたどり着くまでに間違って滞在した穴の数を示すグラフである。
【
図14】脳出血モデル動物を用いたバーンズ迷路試験におけるラットが退避ボックスにたどり着くまでの所要時間の時系列的変化を示すグラフである。
【
図15】脳出血モデル動物を用いたバーンズ迷路試験におけるラットが退避ボックスにたどり着くまでに間違って滞在した穴の数の時系列的変化を示すグラフである。
【
図16】脳出血モデル動物を用いたLANケーブル歩行試験における、各群のラットのスコアを示すグラフである。
【
図17】脳出血モデル動物を用いた試験における、脳切片のヘマトキシリン・エオジン(HE)染色画像である。
【
図18】脳出血モデル動物を用いた試験における、脳切片のヘマトキシリン・エオジン(HE)染色画像中の血腫面積を示すグラフである。
【
図19】脳出血モデル動物を用いた試験における、脳切片のルクソールファーストブルー及びクレシルバイオレットでの二重染色画像である。
【
図20】脳出血モデル動物を用いた試験における、脳切片のルクソールファーストブルー及びクレシルバイオレットでの二重染色画像中のミエリン密度(白質の、コラゲナーゼ注射部位と同側及び対側のそれぞれにおける平均値)を示すグラフである。
【
図21】脳出血モデル動物を用いた試験における、脳切片のルクソールファーストブルー及びクレシルバイオレットでの二重染色画像中のミエリン密度(白質中央における個体毎の値)を示すグラフである。
【
図22】脳出血モデル動物を用いた試験における、切断型カスパーゼ-3に対する抗体による脳切片の抗体染色画像である。
【
図23】脳出血モデル動物を用いた試験における、切断型カスパーゼ-3に対する抗体による脳切片の抗体染色画像である。
【
図24】脳出血モデル動物を用いた試験における、切断型カスパーゼ-3に対する抗体による脳切片の抗体染色画像中の100μm
2当たりの免疫陽性の細胞の数を表すグラフである。
【
図25】脳出血モデル動物を用いた試験における、抗GFAP抗体による脳切片の抗体染色画像である。
【
図26】脳出血モデル動物を用いた試験における、抗GFAP抗体による脳切片の抗体染色画像である。
【
図27】脳出血モデル動物を用いた試験における、抗GFAP抗体による脳切片の抗体染色画像中の100μm
2当たりの免疫陽性の細胞の数を表すグラフである。
【
図28】脳出血モデル動物を用いた試験における、抗Iba-1抗体による脳切片の抗体染色画像である。
【
図29】脳出血モデル動物を用いた試験における、抗Iba-1抗体による脳切片の抗体染色画像である。
【
図30】脳出血モデル動物を用いた試験における、抗Iba-1抗体による脳切片の抗体染色画像中の100μm
2当たりの免疫陽性の細胞の数を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下において、本開示の内容について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本開示の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本開示はそのような実施態様に限定されるものではない。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、1つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0016】
更に、本開示において薬剤等の組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する該当する複数の物質の合計量を意味する。
また、本明細書における基(原子団)の表記において、置換及び無置換を記していない表記は、置換基を有さないものと共に置換基を有するものをも包含するものである。
【0017】
また、本明細書中の「工程」の用語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても、その工程の所期の目的が達成されれば本用語に含まれる。
また、本開示において、「質量%」と「重量%」とは同義であり、「質量部」と「重量部」とは同義である。
【0018】
更に、本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
【0019】
以下、本開示を詳細に説明する。
(薬剤)
本開示に係る薬剤は、上記式(I)の化合物又はその医薬的に許容され得る塩、エステル若しくは溶媒和物を有効成分として含む、脳出血の治療又は予防に用いられる薬剤である。ここで、上記式(I)の化合物の医薬的に許容され得る塩、エステル若しくは溶媒和物は、式(I)の化合物から常法により得ることができる。このため、以降の説明においては特に断りの無い限り塩、エステル若しくは溶媒和物をそのたびに記載することは省略し、「式(I)の化合物」の記載は「式(I)の化合物の医薬的に許容され得る塩、エステル若しくは溶媒和物」に対しても同様に適用されるものとする。
【0020】
<式(I)の化合物>
本開示に係る薬剤は、式(I)の化合物又はその医薬的に許容され得る塩、エステル若しくは溶媒和物を含有する。
【0021】
【化16】
式(I)中、Lは炭素数4~10の脂肪族炭化水素基を表し、Xはヒドロキシ基又はカルボキシ基を表し、nは0~2の整数を表し、Rは、水素原子又は分子量1000以下の置換基を表す。
【0022】
Lで示される炭素数4~10の脂肪族炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれであってもよい。また不飽和結合を含んでいてもよい。中でも直鎖状又は分岐鎖状の不飽和結合を含んでもよい脂肪族炭化水素基であることが好ましい。Lはn+1価の基である。
式(I)において、-L-Xnで表される基は、下記式(V)及び式(Y1)~(Y4)からなる群から選択される基であることが好ましい。式(V)及び式(Y1)~(Y4)において、*は式(I)中の含酸素環に隣接する炭素原子(Lが結合している炭素原子)への結合部位を表す。
【0023】
【0024】
式(V)中、Z1及びZ2は、それぞれ独立して、水素原子若しくはヒドロキシ基であるか、又は一緒になって単結合を形成する。
【0025】
式(I)のRにおける分子量1,000以下の置換基としては、後述する血腫及び浮腫を縮小させる観点からは、分子量900以下の置換基が好ましく、分子量800以下の置換基がより好ましく、分子量700以下の置換基が更に好ましい。
【0026】
式(I)のRとしては、α-アミノ酸が挙げられる(この場合、Rに結合する窒素原子が、α-アミノ酸のα-アミノ基にあたる)。α-アミノ酸は特に制限されず、天然アミノ酸であっても、非天然アミノ酸であってもよい。また天然アミノ酸に置換基が導入されたアミノ酸誘導体であってもよい。さらにα-アミノ酸が2以上のアミノ基を有する場合、いずれのアミノ基が取り除かれてもよい。また、Rとしては、アミノ糖、複素環基なども挙げられる。
【0027】
中でもα-アミノ酸は、天然アミノ酸、天然アミノ酸のD体、又は、ヒドロキシ基、カルボキシ基及び炭素数1~5のアルキル基からなる群より選ばれる少なくとも1種の置換基を有してもよいフェニルアラニン若しくはフェニルグリシンであることが好ましく、天然アミノ酸、天然アミノ酸のD体、又は、ヒドロキシ基、カルボキシ基及び炭素数1~5のアルキル基からなる群より選ばれる少なくとも1種の置換基を有してもよいフェニルグリシンであることがより好ましい。ここで、「天然アミノ酸のD体」とは、天然アミノ酸(基本的にL型である)のD型光学異性体を意味する。
【0028】
天然アミノ酸は、天然に存在し得るアミノ酸であれば特に制限されない。例えば、グリシン、アラニン、スレオニン、バリン、イソロイシン、チロシン、システイン、シスチン、メチオニン、ヒスチジン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン、アルギニン、リシン、ヒドロキシリシン、オルニチン、シトルリン、ホモシステイン、3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン、ホモシスチン、ジアミノピメリン酸、ジアミノプロピオン酸、セリン、ロイシン、フェニルアラニン、トリプトファン等が挙げられる。
【0029】
天然アミノ酸に置換基が導入されたアミノ酸誘導体における置換基としては、例えば、ニトロ基、ヒドロキシ基、炭素数7~16のアリールアルキル基、ウレイド基、チオウレイド基、カルボキシ基、フルオレサミンから水素原子を1つ取り除いて構成される基等が挙げられる。前記アミノ酸誘導体における置換基は可能な場合にはさらに置換基を有していてもよい。置換基が有する置換基はアミノ酸誘導体における置換基と同様である。
【0030】
式(I)のRにおけるアミノ糖は、アミノ基を少なくとも1つ有する糖誘導体であれば特に制限されない。具体的には例えば、グルコサミン、ガラクトサミン、マンノサミン、ノイラミン酸等を挙げることができる。
【0031】
式(I)のRにおける複素環基としては、ヘテロ原子を含む環状基であれば特に制限されず、脂肪族複素環基及び芳香族複素環基のいずれであってもよい。またヘテロ原子としては窒素原子、酸素原子、硫黄原子等を挙げることができる。
中でも、ヘテロ原子として窒素原子を含む含窒素複素環基であることが好ましく、プリン、ピリジン、ピリダジン、ピロール、イミダゾール、ピラゾール、及びピラゾロンからなる群より選ばれる複素環化合物から水素原子を一つ取り除いて構成される複素環基であることがより好ましく、プリン、ピリジン、及びピラゾロンからなる群より選ばれる複素環化合物から水素原子を一つ取り除いて構成される複素環基であることがさらに好ましい。なお、複素環化合物から水素原子を取り除く位置は特に制限されない。中でも複素環化合物の炭素原子上から取り除かれることが好ましい。
【0032】
Rにおける複素環基は置換基を有していてもよい。複素環基における置換基としては、例えば、炭素数1~5のアルキル基、炭素数14以下のアリール基、カルボキシ基、カルバモイル基、スルホン酸基等を挙げることができる。中でもフェニル基及びカルバモイル基から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
複素環基における置換基の数は特に制限されないが、3以下であることが好ましい。
【0033】
式(I)のRはアルキル基であってもよく、例えば、炭素数2~8のアルキル基であってもよい。炭素数2~8のアルキル基としては、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれであってもよい。なかでも直鎖状又は分岐鎖状であることが好ましく、直鎖状であることがより好ましい。また炭素数は2~6であることが好ましい。なお、アルキル基の炭素数にはアルキル基上の置換基の炭素数は含まれない。
【0034】
Rにおけるアルキル基は置換基を有していてもよい。アルキル基における置換基としては、炭素数1~5のアルキル基、炭素数14以下のアリール基、炭素数16以下のアリールアルキル基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、カルバモイル基、スルホン酸基、アミノ基、カルバモイルオキシ基、ウレイド基、チオウレイド基、アルキルスルフィド基、アルキルジスルフィド基、式(I)の化合物からRを取り除いて構成される基、フルオレサミンから水素原子を1つ取り除いて構成される基等を挙げることができる。中でも、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、カルバモイルオキシ基、炭素数7~14のアリールアルキル基、チオウレイド基、式(I)の化合物からRを取り除いて構成される基、及びフルオレサミンから水素原子を1つ取り除いて構成される基からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0035】
アルキル基における置換基の数は特に制限されないが、3以下であることが好ましい。
またアルキル基における置換基は可能な場合にはさらに置換基を有していてもよい。置換基が有する置換基はアルキル基における置換基と同様である。
【0036】
式(I)のRはアリール基であってもよい。アリール基は、炭素数6~14のアリール基であることが好ましく、炭素数6~10のアリール基であることがより好ましく、フェニル基であることがさらに好ましい。
【0037】
Rにおけるアリール基は置換基を有していてもよい。アリール基における置換基としては、炭素数1~5のアルキル基、炭素数14以下のアリール基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホン酸基、カルバモイル基、アリールカルボニル基等を挙げることができる。中でも、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホン酸基、カルバモイル基及びアリールカルボニル基からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0038】
アリール基における置換基の数は特に制限されないが、3以下であることが好ましい。
またアリール基における置換基は可能な場合にはさらに置換基を有していてもよい。置換基が有する置換基はアリール基における置換基と同様である。さらにアリール基における置換基は可能な場合には、置換基同士が結合して環状構造を形成してもよい。
【0039】
〔式(I)の化合物の製造方法〕
本開示に用いられる式(I)の化合物は、化学合成によって得たものでもよく、糸状菌、例えば、スタキボトリス・ミクロスポラ(Stachybotrys microspora)の培養物から精製して得たものでもよい。式(I)の化合物を糸状菌の培養物から精製して得る方法としては、例えば、スタキボトリス・ミクロスポラの培養液に所定の添加有機アミノ化合物を添加したときに得られた培養物から目的の化合物を精製することを含む方法が挙げられる。これらの方法は、例えば、特開2004-224737号公報、特開2004-224738号公報、及び国際公開第2007/111203号等に記載されている。
【0040】
本開示に用いられる式(I)の化合物は、鏡像異性体、ジアステレオマー、及び鏡像異性体どうし又はジアステレオマーどうしの混合物でもよい。鏡像異性体、ジアステレオマー、及び鏡像異性体どうし又はジアステレオマーどうしの混合物は、化学合成によって得たものでもよく、糸状菌の培養物から精製して得たものでもよい。糸状菌の培養物から精製して得る場合には、糸状菌の培地に、添加有機アミノ化合物のD体又はL体を添加して糸状菌を培養することで、前記D体又はL体に対応した異性体を得ることができる。
【0041】
<式(IA)の化合物>
前記式(I)の化合物は、下記式(IA)の化合物であることが好ましい。
【0042】
【0043】
式(IA)中、Xは-CHY-C(CH3)2Zであり、Y及びZはそれぞれ独立に、-H若しくは-OHであるか、又は一緒になって単結合を形成する。Rは、水素原子又は分子量1,000以下の置換基を表す。
式(IA)中のRは式(I)中のRと同義であり、好ましい態様も同様である。
【0044】
〔式(II)の化合物〕
本開示に用いられる式(I)の化合物の具体例の一つは、下記式(II)の化合物である。
【0045】
【0046】
式(II)中、X1は-CHY-C(CH3)2Zであり、Y及びZはそれぞれ独立に、-H若しくは-OHであるか、又は一緒になって単結合を形成し、R1は、下記(A)から(D)のいずれか1つを表す。
(A)天然アミノ酸、天然アミノ酸のD体、並びに天然アミノ酸又は天然アミノ酸のD体における少なくとも1つのカルボキシ基を水素原子、ヒドロキシ基又はヒドロキシメチル基に置き換えた化合物よりなる群から選択されるアミノ化合物から、1個のアミノ基を除いた残基(ただし、-(CH)2-OHは除く)、
(B)カルボキシ基、ヒドロキシ基、スルホン酸基及び第二アミノ基よりなる群から選択される少なくとも1つを置換基として若しくは置換基の一部として有する芳香族基、又は第二アミノ基を含み且つ窒素原子を含んでいてもよい芳香族基、
(C)下記式(II-1)の芳香族アミノ酸残基(式中、R3はそれぞれ独立に、あってもなくてもよい置換基であって、存在する場合は、ヒドロキシ基、カルボキシ基又は炭素数1~5のアルキル基を表し、nは0又は1の整数を表し、mは0~5の整数を表し、*は式(II)中の含窒素5員環中の窒素原子(R1が結合している窒素原子)への結合部位を表す。)、
【0047】
【0048】
(D)-L1-L2-R4で表される置換基(式中、L1はカルボキシ基を有する炭素数1~4のアルキレン基である連結基を表し、L2は-NH-C(=O)-又は-NH-C(=S)-NH-で示される連結基を表し、R4は炭素数1~3のアルキルオキシ基を有する9-フルオレニルアルキルオキシ基又は下記式(II-2)の多複素環基を表す。)。式(II-2)において、*はL2への結合部位を表す。
【0049】
【0050】
式(II)において、R1が前記(A)の場合の化合物について説明する。
前記(A)は、天然アミノ酸、天然アミノ酸のD体、並びに天然アミノ酸又は天然アミノ酸のD体における少なくとも1つのカルボキシ基を水素原子、ヒドロキシ基又はヒドロキシメチル基に置き換えた化合物からなる群より選択されるアミノ化合物から、1個のアミノ基を除いた残基(ただし、-(CH)2-OHは除く)である。
【0051】
天然アミノ酸は、天然に存在し得るアミノ酸であれば、特に制限されず、例えば、α-アミノ酸、β-アミノ酸、γ-アミノ酸及びδ-アミノ酸などがある。このようなアミノ酸は、天然物から得られるものであってもよく、又は人為的に有機合成などの手法により得られるものでもよい。
【0052】
天然アミノ酸としては、以下のようなものが挙げられる。例えば、α-アミノ酸の例として、グリシン、アラニン、スレオニン、バリン、イソロイシン、チロシン、システイン、シスチン、メチオニン、ヒスチジン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン、アルギニン、リシン、ヒドロキシリシン、オルニチン、シトルリン、ホモシステイン、3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン、ホモシスチン、ジアミノピメリン酸、ジアミノプロピオン酸、セリン、ロイシン、フェニルアラニン及びトリプトファンなどが挙げられ、β-アミノ酸の例として、β-アラニンなどが挙げられ、γ-アミノ酸の例として、γ-アミノ酪酸及びカルニチンなどが挙げられ、δ-アミノ酸の例として、5-アミノレブリン酸及び5-アミノ吉草酸などが挙げられる。
【0053】
上記の天然アミノ酸若しくは天然アミノ酸のD体において、少なくとも1つのカルボキシ基を水素原子、ヒドロキシ基又はヒドロキシメチル基に置き換えた化合物として、例えばアミノアルコール及びアミンが挙げられる。このようなアミノアルコールとして、例えば2-アミノエタノールなどが挙げられる。
【0054】
式(II)においてR1が前記(A)の場合の化合物の具体例としては、下記の表1に示す化合物が挙げられる。なお、表中の「添加有機アミノ化合物」は、目的の化合物を得るためにスタキボトリス・ミクロスポラの培養液に添加される添加有機アミノ化合物を示す(以下、同様)。表中、*は表の上部に記載された構造式中の含窒素5員環中の窒素原子(Rが結合している窒素原子)への結合部位を表す(以下、同様)。
【0055】
【0056】
上記の表1に示す化合物は、本開示に用いられる式(I)の化合物として、好適に用いることができる。
【0057】
式(II)において、R1が前記(B)の場合の化合物について説明する。
前記(B)は、カルボキシ基、ヒドロキシ基、スルホン酸基及び第二アミノ基からなる群より選択される少なくとも1つを置換基として若しくは置換基の一部として有する芳香族基、又は第二アミノ基を含み且つ窒素原子を含んでいてもよい芳香族基である。
前記芳香族基としては、例えば、下記構造式で表される基が挙げられる。各構造式中、*は式(II)中の含窒素5員環中の窒素原子(R1が結合している窒素原子)への結合部位を表す。
【0058】
【0059】
式(II)においてR1が前記(B)の場合の化合物の具体例としては、下記の表2に示す化合物が挙げられる。表中、*は表の上部に記載された構造式中の含窒素5員環中の窒素原子(Rが結合している窒素原子)への結合部位を表す。
【0060】
【0061】
上記の表2に示す化合物は、本開示に用いられる式(I)の化合物として、好適に用いることができる。
【0062】
式(II)において、R1が前記(C)の場合の化合物について説明する。
前記(C)は、下記式(II-1)の芳香族アミノ酸残基(式中R3はあってもなくてもよい置換基であって、存在する場合は、ヒドロキシ基、カルボキシ基及び炭素数1~5のアルキル基からなる群より選択される少なくとも1つの置換基を表し、nは0又は1の整数を表し、mは0~5の整数を表し、*は結合部位を表す。上記アルキル基は更に置換基を有してもよく、置換基としては、ヒドロキシ基、アルケニル基、アミノ基、カルボキシル基、スルフヒドリル基等が挙げられる。)である。
【0063】
【0064】
前記式(II-1)の芳香族アミノ酸残基としては、例えば、下記構造式で表される基が挙げられる。*は式(II)中の含窒素5員環中の窒素原子(R1が結合している窒素原子)への結合部位を表す。
【0065】
【0066】
式(II)においてR1が前記(C)の場合の化合物の具体例としては、下記の表3に示す化合物が挙げられる。表中、*は表の上部に記載された構造式中の含窒素5員環中の窒素原子(Rが結合している窒素原子)への結合部位を表す
【0067】
【0068】
上記の表3に示す化合物は、本開示に用いられる式(I)の化合物として好適に用いることができる。
【0069】
式(II)において、R1が前記(D)の場合の化合物について説明する。
前記(D)は、-L1-L2-R4で表される置換基(式中、L1はカルボキシ基を有する炭素数1~4のアルキレン基である連結基を表し、L2は-NH-C(=O)-又は-NH-C(=S)-NH-で示される連結基を表し、R4は炭素数1~3のアルキルオキシ基を有する9-フルオレニルアルキルオキシ基又は下記式(II-2)の多複素環基を表す。)である。下記式中、*は式(II)中の含窒素5員環中の窒素原子(R1が結合している窒素原子)への結合部位を表す。
【0070】
【0071】
式(II)においてR1が前記(D)の場合の化合物の具体例としては、下記の表4に示す化合物が挙げられる。表中、*は表の上部に記載された構造式中の含窒素5員環中の窒素原子(Rが結合している窒素原子)への結合部位を表す
【0072】
【0073】
上記の表4に示す化合物は、本開示に用いられる式(I)の化合物として好適に用いることができる。
【0074】
〔式(III)の化合物〕
本開示に用いられる式(I)の化合物の具体例の一つは、下記式(III)の化合物である。
【0075】
【0076】
式(III)中、X2及びX3はそれぞれ独立に、-CHY-C(CH3)2Zであり、Y及びZは、それぞれ独立に-H若しくは-OHであるか、又は一緒になって単結合を形成する。R2は、2個のアミノ基を有する天然アミノ酸、2個のアミノ基を有する天然アミノ酸のD体、2個のアミノ基を有する天然アミノ酸及び2個のアミノ基を有する天然アミノ酸のD体における少なくとも1つのカルボキシ基を水素原子、ヒドロキシ基又はヒドロキシメチル基に置き換えた化合物、H2N-CH(COOH)-(CH2)n-NH2(nは0~9の整数)、並びにH2N-CH(COOH)-(CH2)m-Sp-(CH2)q-CH(COOH)-NH2(m、p及びqはそれぞれ独立に0~9の整数)で示される化合物からなる群より選択されるアミノ化合物から、2個のアミノ基を除いた残基を表す。
【0077】
前記nは、0~9の整数を表し、好ましくは0~6の整数、より好ましくは1~5の整数、更に好ましくは1~4の整数である。
前記mは、0~9の整数を表し、好ましくは0~4の整数、より好ましくは1~3の整数、更に好ましくは1又は2である。
前記pは、0~9の整数を表し、好ましくは0~4の整数、より好ましくは1~3の整数、更に好ましくは1又は2である。
前記qは、0~9の整数を表し、好ましくは0~4の整数、より好ましくは1~3の整数、更に好ましくは1又は2である。
前記pが0の場合、m+qとしては、0~9の整数が好ましく、より好ましくは0~6の整数、更に好ましくは1~5の整数、特に好ましくは1~4の整数である。
【0078】
2個のアミノ基を有する天然アミノ酸として、例えば、α-アミノ酸として、ヒドロキシリシン、シトルリン、シスチン、ホモシスチン、ジアミノピメリン酸、ジアミノプロピオン酸、リシン及びオルニチンなどが挙げられる。
2個のアミノ基を有する天然アミノ酸及び2個のアミノ基を有する天然アミノ酸のD体における少なくとも1つのカルボキシ基を水素原子、ヒドロキシ基又はヒドロキシメチル基に置き換えた化合物としては、H2N-(CH2)k-NH2(kは1~10の整数、好ましくは1~6の整数、より好ましくは1~4の整数である)が挙げられる。
【0079】
式(III)の化合物の具体例としては、下記の表5に示す化合物が挙げられる。表中、*は表の上部に記載された構造式中の含窒素5員環中の窒素原子(Rが結合している窒素原子)への結合部位を表す
【0080】
【0081】
上記の表5に示す化合物は、本開示に用いられる式(I)の化合物として好適に用いることができる。
【0082】
前記式(II)又は(III)の化合物のほかに、前記式(I)の化合物の具体例としては、下記の表6~表8に示す化合物が挙げられる。表7中、*は表の上部に記載された構造式((Ib)又は(Ic))中の含窒素5員環中の窒素原子(Rb又はRcが結合している窒素原子)への結合部位を表す。表8中、*は表の上部に記載された構造式((Id)又は(Ie))中の含窒素5員環中の窒素原子(Rd又はReが結合している窒素原子)への結合部位を表す。
【0083】
【0084】
【0085】
【0086】
上記の表6~表8に示す化合物は、薬剤に含まれる式(I)の化合物として好適に用いることができる。
【0087】
上述の化合物の中でも、式(I)の化合物としては、SMTP-0、SMTP-1、SMTP-4、SMTP-5D、SMTP-6、SMTP-7、SMTP-8、SMTP-11~14、SMTP-18~29、SMTP-36、SMTP-37、SMTP-42、SMTP-43、SMTP-43D、SMTP-44、SMTP-44D、SMTP-46及びSMTP-47が好ましく、SMTP-7、SMTP-19、SMTP-22、SMTP-43、及びSMTP-44Dがより好ましく、SMTP-7が更に好ましい。これらの化合物は一種単独で用いても、二種以上を任意の組み合わせで用いてもよい。
【0088】
本開示に用いられる式(I)の化合物は、遊離形態、医薬的に許容され得る塩若しくはエステルの形態、及び溶媒和物の形態のうちいずれであってもよい。塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、またはクエン酸、ギ酸、フマル酸、リンゴ酸、酢酸、コハク酸、酒石酸、メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸等の無機酸または有機酸が、本開示に用いられる式(I)の化合物の医薬的に許容され得る塩の形成に好適である。また、例えばナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ金属またはアルカリ土類金属を含む化合物、塩基性アミン、または塩基性アミノ酸も、本開示に用いられる式(I)の化合物の医薬的に許容され得る塩の形成に好適である。また、炭素数1~10個のアルコールまたはカルボン酸など、好ましくは、メチルアルコール、エチルアルコール、酢酸、又はプロピオン酸などが、本開示に用いられる式(I)の化合物の医薬的に許容され得るエステルの形成に好適である。また、水などが、本開示に用いられる式(I)の化合物の医薬的に許容され得る溶媒和物の形成に好適である。
上述したSMTP-7等の式(I)の化合物の具体例の記載は、これらの塩、エステル、溶媒和物等の形態をも含むものである。
【0089】
(式(I)の化合物の用途)
式(I)の化合物の用途としては、脳出血を治療又は予防するため使用が挙げられる。言い換えれば、本開示によれば、脳出血の治療又は予防に用いるための、前記式(I)の化合物又はその医薬的に許容され得る塩、エステル若しくは溶媒和物も提供される。この場合の用法等の詳細は、後述の脳出血の治療方法又は予防方法における用法等の詳細と同様であり、好ましい態様も同様である。式(I)の化合物は、例えば後述する脳出血の治療方法又は予防方法において使用することができる。式(I)の化合物は、脳出血により生じた血腫の縮小又は除去だけでなく、浮腫の縮小又は除去についても効果を奏する。血腫と浮腫とは異なる現象であるため、式(I)の化合物によって血腫と浮腫との両方に対して効果を奏することは驚くべき効果である。
本開示によれば、前記式(I)の化合物又はその医薬的に許容され得る塩、エステル若しくは溶媒和物の、脳出血の治療又は予防のための医薬の製造における使用も提供される。
一実施形態においては、式(I)の化合物又はその医薬的に許容され得る塩、エステル若しくは溶媒和物は脳梗塞を伴わない(言い換えれば、脳梗塞に関連しない)脳出血の治療又は予防のために対象に投与される。
【0090】
(脳出血の治療方法又は予防方法)
本開示に係る脳出血の治療方法又は予防方法は、脳出血の治療又は予防に有効な量の式(I)の化合物又はその医薬的に許容され得る塩、エステル若しくは溶媒和物を、脳出血を有する又は脳出血を発症するリスクを有する対象に投与することを含む、前記対象における脳出血を治療又は予防する方法である。
本開示に係る治療方法又は予防方法により、例えば、脳出血の重症化の抑制、脳出血の症状の軽減若しくは緩和、又は、脳出血の発症の阻害、発症リスクの低減若しくは発症の遅延等の効果が得られる。より具体的にいうと、脳内において、一旦生じた血腫の縮小又は消失、一旦生じた浮腫の縮小又は消失、脳機能の回復等の効果が得られる。なお、ここで「脳出血を有する対象」とは、脳出血が続いている対象だけでなく、脳出血は止まっているものの、脳出血に起因する何らかの傷害(例えば、血腫の存在、浮腫の存在、脳機能の損傷等)を有している対象も含まれる。
【0091】
本開示において、「治療」とは、症状の改善又は抑制であればよく、重症化の抑制や症状の軽減若しくは緩和もこの用語に包摂される。
本開示において、「予防」とは、発症の阻害、発症リスクの低減または発症の遅延などを意味する。
式(I)の化合物(その医薬的に許容され得る塩、エステル若しくは溶媒和物も含む:以下同様)は、脳出血の症状が見出されている対象(上述のとおり出血自体は止まっていても脳出血によるダメージを有している対象も含む)を治療するために用いることも、現に脳出血を発症しているわけではないものの脳出血が発症するリスクを有する対象(特に、脳発症が発症することが予見されている対象)に対して脳出血を予防するために用いることもできる。
式(I)の化合物は、脳出血による症状を除去する、上記症状の進行を抑制する、又は上記症状を緩和するために用いることができる。ただし、使用時期又は使用の際の症状によってはこれらの効果は複合的なものとなるため、限定的に解釈されるものではない。
【0092】
脳出血による症状が見出されている場合、又は、脳出血による症状が発現することが予見されている場合としては、脳内出血、くも膜下出血等の治療中、又は治療後を挙げることができる。あるいは、アルテプラーゼ、ウロキナーゼなどの血栓溶解剤は、一般に、出血を副作用として有するが、これらの血栓溶解剤の投与に起因する脳出血が予見される、上記血栓溶解剤投与後の時期等を挙げることができる。これらの時期においては、予防的に用いることもできる。脳出血を発症するリスクについては、脳の画像診断、血液検査などの生理学的指標の検査などによっても、判定することができる。このようなリスクが存在すると判定された対象に対しては、実際に脳出血が発現する前であっても、予防的に式(I)の化合物を投与してよい。
【0093】
脳出血は、脳の血管が破れることで脳の中に出血を生じる疾患である。血管から溢れた血液は血腫を形成する他、出血の周辺領域には浮腫も形成される。血腫及び浮腫により正常な脳組織が圧迫され、脳の機能に障害を生じる。式(I)の化合物は、血腫の縮小又は除去だけでなく、浮腫の縮小又は除去についても効果を奏する。血腫と浮腫とは異なる現象であるため、式(I)の化合物によって血腫と浮腫との両方に対して効果を奏することは驚くべき効果である。
【0094】
脳出血は、出血の生じる部位に基づいて脳内出血とくも膜下出血に大きく分けられる。くも膜下出血は、基本的に脳動脈瘤の破裂により生じる。脳内出血は脳の様々な部位における出血を指すが、その例としては被殻出血、視床出血、皮質下出血、小脳出血、橋出血などが挙げられる。式(I)の化合物は、これらの脳内出血及びくも膜下出血のいずれに対しても有効である。
従来、くも膜下出血に対してはネッククリッピング、血管内手術といった外科的な対処が採られ、脳内出血に対しては血腫除去手術などの外科的な対処がとられてきた。式(I)の化合物により、投薬による脳出血の治療又は予防ができることは、驚くべきことである。
【0095】
脳出血は基本的に脳梗塞とは異なる疾患であり、一実施形態においては、式(I)の化合物は脳梗塞を伴わない(言い換えれば、脳梗塞に関連しない)脳出血の治療又は予防のために対象に投与される。本開示に係る治療方法又は予防方法は、脳内出血及びくも膜下脳出血のいずれにも適用可能である。
【0096】
式(I)の化合物は、共存する化合物の種類、及び脳出血の重傷度等にもよるが、成人1回当たりの有効量(式(I)の化合物の総量)として0.001~100mg/kgの投与が好ましく、0.01~30mg/kgの投与がより好ましい。式(I)の化合物の投与回数に特に制限はなく、1回投与で用いてもよく、反復投与で用いてもよく、持続投与で用いてもよい。投与間隔および投与期間は、臨床所見、画像所見、血液所見、併存する疾患、既往歴などに応じて、当業者が選択できる。
【0097】
式(I)の化合物を反復投与で用いる場合、患部が持続的に式(I)の化合物に接触する観点から、1日当たり1時間~24時間の持続投与をする態様も好ましい。
【0098】
投与する方法は、特に制限されず、静脈内投与、動脈内投与、腹腔内投与、皮下投与、筋肉内投与、経口投与、脳内投与など種々の投与経路の選択が可能である。
脳内投与は、例えば、マイクロニードルを装着したマイクロシリンジを用いて、マイクロニードルを脳内に埋め込んだガイドカニューレに挿入し、所定の脳部位に薬液を注入することで行うことができる。脳内投与は、投与量低減の観点から好ましい。
【0099】
本開示に係る薬剤は、ヒトでの使用に限定されずに用いてもよい。他の適用対象としては、非ヒト動物、例えば、ウシ、ウマ、ヒツジ等の家畜や、イヌ、ネコ、サル等のペット等に用いてもよい。
【0100】
<他の薬剤との併用>
式(I)の化合物は、単独で用いてもよく、少なくとも1種以上の他の薬剤(例えば降圧剤)とともに用いてもよい。
【0101】
<医薬組成物>
式(I)の化合物は医薬組成物中で用いてもよい。つまり、式(I)の化合物と、医薬的に許容可能な担体及び製剤用添加物のうち少なくとも1つとを含む医薬組成物が提供される。該医薬組成物の用途、投与量、投与方法等は、本開示に係る薬剤の用途と同様であり、例えば本開示に係る脳出血の治療方法又は予防方法において用いることができる。つまり、
・脳出血の治療に有効な量の本開示に係る医薬組成物を、脳出血を有する対象に投与することを含む、対象における脳出血を治療する方法、並びに、
・脳出血の予防に有効な量の本開示に係る医薬組成物を、脳出血を発症するリスクを有する対象に投与することを含む、対象における脳出血を予防する方法
が提供される。
医薬組成物中に任意に含まれる担体および製剤用添加物の種類は、特に制限されない。本開示に係る医薬組成物は、本開示に係る式(I)の化合物と、医薬的に許容される固体担体(例えば、ゼラチン、乳糖)あるいは液体担体(例えば、水、生理食塩水、ブドウ糖水溶液)を用い、製剤化できる。
【0102】
以下に本発明の実施例について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」は質量基準である。
【実施例】
【0103】
以下に本発明の実施例について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」は質量基準である。
【0104】
<SMTP-7の準備>
SMTP-7は、特開2004-224738号公報に記載された方法を用いて、スタキボトリス・ミクロスポラ IFO30018株の培地に添加有機アミノ化合物としてL-オルニチンを添加した場合に得られる培養物から精製して得た。精製して得たSMTP-7の乾固物に0.3N(0.3mol/L) NaOH水溶液及び生理食塩水(0.9%NaCl)を加えて、50mg/mL溶液を調製した。その後0.3N(0.3mol/L) HCl水溶液と生理食塩水を用いて、SMTP-7の濃度が10mg/mL、pHが弱アルカリとなるように調整し、濾過滅菌を行い小分けにして-30℃に凍結保存した。SMTP-7は、必要に応じて、生理食塩水で稀釈して使用した。
SMTP-7は、上記の凍結保存したものを試験直前に生理食塩水で2mg/mLに溶解し、以下の実験で試験溶液として使用した。
実験で用いた各薬物は必要に応じて生理食塩水で稀釈した。
【0105】
<実施例1>
ラットの準備
8~10週齢の雄のSDラット(体重250~300g)を12時間の明暗サイクル、22℃±1℃の温度条件で維持した。ラットはプラスチックケージ中で飼育し、水及び餌は自由に摂取させた。各実験で用いたラットの数については、特に明示の無い限りn=4で行った。また、注射液は、記載されている成分以外の部分は生理食塩水である。
【0106】
ラットをイソフルラン(1.5%イソフルラン+66%NO+33%O2)で麻酔後、脳の正中から側方に3mm、前後方向はブレグマレベル、血管条より5mm背側の位置にClostridium histolyticum由来コラゲナーゼ(typeIV、Sigma-Aldrich製)を0.25U/μLの濃度で、シリンジを用いて0.2μL/分の速度で5分間注射し、その位置でシリンジの針を10分間保持し、さらに10分かけてゆっくり(1分当たり0.5mmずつ)引き抜いた。なお、注射中はバックフローが生じないように注意した。以降の説明では、このコラゲナーゼ注射の日を0日目とする。このコラゲナーゼ注射により脳内出血が生じ、血腫が形成される。
【0107】
コラゲナーゼ注射の24時間後(つまりコラゲナーゼ注射後1日目)に、試験溶液(生理食塩水、SMTP-7の2mg/mL溶液)をコラゲナーゼ注射と同じ注射痕を通して0.2μL/分の速度で10分かけて注射した。試験溶液の注射を行わない試験群も含めた。注射中はバックフローが生じないように注意した。コラゲナーゼ注射の際と同様に、注射後もその位置でシリンジの針を10分間保持し、さらに10分かけてゆっくり(1分当たり0.5mmずつ)引き抜いた。
コラゲナーゼ注射後7日目に、ラットを屠殺し、脳の3mm厚切片を作成した。切片作製の際の固定には、0.1M PBS(pH7.4)中の4%パラホルムアルデヒドを用いた。この切片の顕微鏡写真を
図1A~
図1Cに示す。
図1A~
図1Cにおいて「ICH」はコラゲナーゼ注射をしたが試験溶液の注射は行わなかった個体の切片を、「Vehicle」はコラゲナーゼ注射の代わりに生理食塩水を注射した個体の切片を、「Treatment」はSMTP-7を含む試験溶液を注射した個体の切片を表す。この表記は以下の図においても同様である。
【0108】
また、脳全体の容積に対する血腫の体積の割合を、ImageJを用いて測定した。結果を
図2に示す。なお、本開示のグラフ中において、縦軸は脳サンプル全体の体積に対する血腫の体積の割合を百分率で表した値であり、**は有意差に関するt検定によるp値が0.01未満であることを示し、***は有意差に関するt検定によるp値が0.001未満であることを示す(**及び***の意味については以下同様)。また、グラフ中のバーは標準偏差を表す。
図1A~
図1C及び
図2に示すように、SMTP-7を含む試験溶液を注射した個体では、血腫の顕著な縮小が見られた。
【0109】
<実施例2>
実施例1と同様の実験を再び行った。ただし、実施例2では、屠殺(7日目)の1時間前にエバンスブルーを2%含む生理食塩水を、体重1kg当たり4mLの量で、尾静脈に注射した。エバンスブルーは血中のアルブミンと結合する性質があり、コラゲナーゼ注射の結果として血液脳関門が破壊されているため、血腫が染色される。脳全体及び3mm厚切片の顕微鏡写真を
図3A~
図3Dに示し、切片からImageJを用いて求めたエバンスブルー染色領域の総面積(mm
2)及び染色濃度を
図4及び
図5に示す。
図3Dには、血餅のエバンスブルー染色の様子も示した。
図4において縦軸は、脳サンプル全体におけるエバンスブルー染色で染まった領域の面積(mm
2)を示す。また、*は有意差に関するt検定におけるp値が0.05未満であることを示し、**は有意差に関するt検定によるp値が0.01未満であることを示す(*及び**の意味については以下同様)。
図5において縦軸は、波長620nmでの吸光度で示したエバンスブルーの濃度値を表す。
図3A~
図3D、
図4、及び
図5に示すように、SMTP-7を含む試験溶液を注射した個体では、血腫の顕著な縮小が見られた。
【0110】
<実施例3>
実施例1と同様にコラゲナーゼ注射及び試験溶液の注射を行い、コラゲナーゼ注射後1日目及び7日目のラットの脳を小動物用MRIで測定した(PharmaScan, Bruker BioSpin社製)。条件は 磁場7T、エコー時間(TE)=4m秒、繰り返し時間(TR)=800m秒、256×256マトリクス、スライス厚0.8mm、スキャン時間平均約5分7秒で測定を行い、T2強調画像を得た。MRI測定は、ラットを2.5%~3%イソフルラン+NO+O
2で麻酔し、生きた状態で測定を行った。結果を
図6に示す。
図6中で、「ICH Baseline 24hrs」は、コラゲナーゼ注射後1日目のラットの脳の画像を、「TTT 1week」はSMTP-7を含む試験溶液の注射をしたラットの脳の7日目の画像を、「No TTT 1week」は試験溶液の注射をしなかったラットの脳の7日目の画像を、「Vehicle 1week」は試験溶液の代わりに生理食塩水の注射をしたラットの脳の7日目の画像を表す。
図6に示すように、「TTT 1week」は4検体を、「No TTT 1week」及び「Vehicle 1week」はそれぞれ3検体を示している。このMRI測定結果に基づいて、血腫の体積をImageJを用いて測定した。コラゲナーゼ注射後7日目の血腫体積を
図7に、コラゲナーゼ注射後1日目の血腫体積からの血腫体積の変化を
図8に示した。
図7において、縦軸はMRIのT2強調画像中における血腫の体積割合を百分率で示す。また、「ICH Baseline」はコラゲナーゼ注射後1日目のラットを、「ICH」はコラゲナーゼ注射後に試験溶液の注射をしなかった7日目のラットを、「Vehicle」は試験溶液の代わりに生理食塩水の注射をした7日目のラットを、「Treatment」はSMTP-7を含む試験溶液の注射をした7日目のラットを指している。
図8において、横軸はコラゲナーゼ注射後の経過日数を表し、縦軸は各時点での脳体積における血腫体積の割合(%)を示す。さらに、血腫周囲浮腫及びそれによる腫瘤効果(mass effect)を観察した。結果を
図9に示す。
図9において、「ICH Baseline 24hrs」は、コラゲナーゼ注射後1日目のラットの脳の画像を、「TTT 1week」はSMTP-7を含む試験溶液の注射をしたラットの脳の7日目の画像を、「No TTT 1week」は試験溶液の注射をしなかったラットの脳の7日目の画像を、「Vehicle 1week」は試験溶液の代わりに生理食塩水の注射をしたラットの脳の7日目の画像を表す。
図9に示すように、「TTT 1week」は4検体を、「No TTT 1week」及び「Vehicle 1week」はそれぞれ3検体を示している。また、これらの観察結果に基づいて脳浮腫の体積をImageJを用いて求めた。コラゲナーゼ注射後7日目の脳浮腫体積を
図10に示す。
図10において、縦軸は脳体積における脳浮腫体積の割合(%)を示し、「ICH Baseline」はコラゲナーゼ注射後1日目のラットを、「ICH」はコラゲナーゼ注射後に試験溶液の注射をしなかった7日目のラットを、「Vehicle」は試験溶液の代わりに生理食塩水の注射をした7日目のラットを、「Treatment」はSMTP-7を含む試験溶液の注射をした7日目のラットを指している。
図6~
図10に示すように、SMTP-7を含む試験溶液を注射した個体では、脳における血腫及び浮腫の両方について顕著な縮小が見られた。
【0111】
<実施例4>
実施例1と同様にコラゲナーゼ注射及び試験溶液の注射を行い、コラゲナーゼ注射後7日目に、バーンズ迷路試験(Barnes Maze Test)を行った。この試験により、空間学習及び記憶の評価ができる。試験は、直径122cmのグレーのアクリルプラットフォームを用いて行い、該アクリルプラットフォームは、外周上に配置された18穴を有していた。ラットの行動はラットの頭上にカメラを設置して観察した。退避ボックスの位置を探し当てるまでの時間を基に評価を行った。1日2回の試験を行うことでトレーニングを行い、コラゲナーゼ注射後10日目まで試験を行った。各試験において、ラットは迷路の中心に設けられたスタートボックスからスタートし、最初30秒はスタートボックスの中に滞在させ、それから迷路を自由に探索させた。ラットが退避ボックスにたどり着いたら、ラットを退避ボックスに30秒滞在させ、飼育ケージに戻した。ラットが最大300秒の試験時間内に退避ボックスに到達しない場合には、ラットをつまみ上げて退避ボックス内に30秒滞在させ、飼育ケージに戻した。退避ボックスにたどり着くまでの時間、及びラットが誤って滞在した穴の数を評価した。なお、実施例4においては、何ら処置を受けていないラットも対照として試験した。コラゲナーゼ注射後7日目(図中のTrainingDay1)及び10日目(図中のTrainingDay4)のラットの軌跡を
図11に示す。
図11中、「ICH」はコラゲナーゼ注射後に試験溶液の注射をしなかったラットを、「Vehicle」は試験溶液の代わりに生理食塩水の注射をしたラットを、「Treatment」はSMTP-7を含む試験溶液の注射をしたラットを指す。コラゲナーゼ注射後10日目における、退避ボックスにたどり着くまでの所要時間、及び滞在した間違った穴の数を、
図12及び
図13に示す。
図12~
図15において、「ICH」はコラゲナーゼ注射後に試験溶液の注射をしなかったラットを、「Vehicle」は試験溶液の代わりに生理食塩水の注射をしたラットを、「Treatment」はSMTP-7を含む試験溶液の注射をしたラットを、「control」はコラゲナーゼ注射をしていない健常なラットを指す。また、コラゲナーゼ注射後7日目~10日目までの各日における所要時間及び間違った穴の数の時系列的変化、つまり学習度合いを
図14及び
図15に示す。
図14及び
図15におけるDay1とは、コラゲナーゼ注射後7日目を指している。
図11~
図15に示すように、SMTP-7を含む試験溶液を注射した個体では、学習能力における顕著な改善が見られた。
【0112】
<実施例5>
実施例1と同様にコラゲナーゼ注射及び試験溶液の注射を行い、ラットの運動機能をローカルエリアネットワーク(LAN)ケーブル上にラットを歩行させることによって評価した。ラットを床からの高さ60cmのLANケーブル上にLANケーブルの長さに沿って載せ、片麻痺、ケーブル上での姿勢、活動性及び強靱さを60秒にわたり観察した。各項目について以下の基準で配点し、その合計点(0点~10点)を求めた。
【0113】
<右側麻痺>
[前足]
0点 右側麻痺がある場合
1点 右側麻痺が無い場合
[後足]
0点 右側麻痺がある場合
1点 右側麻痺が無い場合
【0114】
<ケーブル上での姿勢>
0点 10秒ぶら下がることすらできない
1点 10秒以上ぶら下がっていられるが、LANケーブルに交差する向きの姿勢を30秒続けることはできない
2点 LANケーブルに交差する向きの姿勢を30秒以上続けることができるが、LANケーブルに沿った姿勢を30秒続けることはできない
3点 LANケーブルに沿った姿勢を30秒以上続けることができる
【0115】
<活動性>
[活動の継続性]
0点 10秒活動し続けることができない
1点 10秒以上活動し続けることができる
[姿勢の回復]
0点 バランスを失った姿勢を回復できない
1点 バランスを失った姿勢を回復できる
[移動距離]
0点 10cm移動することができない
1点 10cm以上移動することができる
【0116】
<強靱さ>
0点 LANケーブルから落下する
2点 LANケーブルから落下しない
【0117】
結果を
図16に示す。
図16の縦軸が上記の合計点を示している。なお、実施例5においては、何ら処置を受けていないラットも対照として試験した。
図16において、「ICH」はコラゲナーゼ注射後に試験溶液の注射をしなかったラットを、「Vehicle」は試験溶液の代わりに生理食塩水の注射をしたラットを、「Treatment」はSMTP-7を含む試験溶液の注射をしたラットを、「control」はコラゲナーゼ注射をしていない健常なラットを指す。
図16に示すように、SMTP-7を含む試験溶液を注射した個体では、運動能力における顕著な改善が見られた。
【0118】
<実施例6>
実施例1と同様にコラゲナーゼ注射及び試験溶液の注射を行い、コラゲナーゼ注射後7日目における脳組織標本を得た。具体的には、ラットをイソフルランで深く麻酔し、生理食塩水で灌流し、さらに0.1Mリン酸緩衝食塩水(PBS;pH7.4)中の4%ホルムアルデヒドで灌流した。脳を取り出し、4%ホルムアルデヒド含有上記PBS溶液を固定液として4℃で一晩、後固定し、組織が沈降するまで、PBS中の10%、20%及び30%スクロースに保存した。ブレインスライサー(Harvard Apparatus社製)で冠状面で切断することにより、約2mm厚の切片を得て、最適切断温度(OCT)化合物中に包埋し、液体窒素で凍らせ、クリオスタットミクロトームで10μm~12μm厚の切片に切断した。ブレグマレベルで正中線-3mmに相当する切片をヘマトキシリン・エオジン(HE)染色した。その顕微鏡写真を
図17に示す。表示スケールは100μmである(以降の顕微鏡写真においても同様)。
図17において、「ICH」はコラゲナーゼ注射後に試験溶液の注射をしなかったラットを、「Vehicle」は試験溶液の代わりに生理食塩水の注射をしたラットを、「SMTP-7」はSMTP-7を含む試験溶液の注射をしたラットを指す。この切片上でImageJを用いて測定された血腫面積(mm
2)を
図18に示す。
図18における縦軸は、HE染色により同定された血腫領域の面積(mm
2)を表す。また、「ICH」はコラゲナーゼ注射後に試験溶液の注射をしなかったラットを、「Vehicle」は試験溶液の代わりに生理食塩水の注射をしたラットを、「Treatment」はSMTP-7を含む試験溶液の注射をしたラットを指す。
図17及び
図18に示すように、SMTP-7を含む試験溶液を注射した個体では、血腫の顕著な縮小が見られた。
【0119】
<実施例7>
実施例6と同様にして作成した10μm厚の切片を、ルクソールファーストブルー及びクレシルバイオレットで二重染色し、白質病変(脱ミエリン化)を脳梁内側部で観察した。その顕微鏡写真を
図19に示す。
図19において、「ICH」はコラゲナーゼ注射後に試験溶液の注射をしなかったラットを、「Vehicle」は試験溶液の代わりに生理食塩水の注射をしたラットを、「SMTP-7」はSMTP-7を含む試験溶液の注射をしたラットを指す。また、白質におけるミエリン密度をコラゲナーゼ注射位置と同側の部位、対側の部位及び中央の部位で測定した。結果を
図20及び
図21に示す。
図20において、縦軸は白質におけるミエリン密度(平均値)を示す。
図20において、「Ipsilateral」はコラゲナーゼ注射と同側を、「Contralateral」はコラゲナーゼ注射と対側を表す(以下同様)。
図21において、縦軸は白質中央におけるミエリン密度(固体毎の値)を示す。
図20及び
図21において、「ICH」はコラゲナーゼ注射後に試験溶液の注射をしなかったラットを、「Vehicle」は試験溶液の代わりに生理食塩水の注射をしたラットを、「Treatment」はSMTP-7を含む試験溶液の注射をしたラットを指す。
図19~
図21に示すように、SMTP-7を含む試験溶液を注射した個体では、白質病変の顕著な抑制が見られた。
【0120】
<実施例8>
実施例6と同様にして作成した10μm~12μm厚の切片(ブレグマレベルで正中線-3mm)を、10%ウシ血清アルブミン(BSA)溶液で室温で2時間処理して非特異的結合サイトをブロッキングし、ブロッキング後の切片を切断型カスパーゼ-3(Asp175)に対する抗体(Cell Signaling Technology社の9661)とインキュベートした。さらに、切片をビオチン化二次抗体(1:200;Vector Laboratory社)に曝し、50mmol/LのTris-HCl(pH=7.6)中の0.01%ジアミノベンジジンテトラヒドロクロリド及び0.005%過酸化水素で可視化した。顕微鏡写真を
図22及び
図23に示す。
図22及び
図23において、「ICH」はコラゲナーゼ注射後に試験溶液の注射をしなかったラットを、「Vehicle」は試験溶液の代わりに生理食塩水の注射をしたラットを、「Treatment」はSMTP-7を含む試験溶液の注射をしたラットを指す。
さらに、100μm
2の関心領域(ROI)を2箇所、大脳皮質中でランダムに選択し、各ROI中の免疫陽性の細胞の数をカウントし、平均値を算出した。
図24における縦軸は、ROIの100μm
2当たりの免疫陽性の細胞の数を表し、「ICH」はコラゲナーゼ注射後に試験溶液の注射をしなかったラットを、「Vehicle」は試験溶液の代わりに生理食塩水の注射をしたラットを、「Treatment」はSMTP-7を含む試験溶液の注射をしたラットを指す。結果を
図24に示す。
図22~
図24に示すように、アポトーシスの指標となるカスパーゼ-3が発現している細胞数は、SMTP-7を含む試験溶液を注射した個体では、同側(Ipsilateral)でも対側(Contralateral)でも顕著に減少している。
【0121】
<実施例9>
切断型カスパーゼ-3(Asp175)に対する抗体に代えて抗GFAP抗体(axtrocyte; mouse mAb 3670; Cell Signaling Technology)を用いた以外は、実施例8と同様にして抗体染色試験を行った。顕微鏡写真を
図25及び
図26に、免疫陽性細胞の数を
図27に示す。アストロサイトマーカーであるGFAPに対する抗体での免疫染色の結果から、
図25~
図27に示すように、SMTP-7を含む試験溶液を注射した個体では神経細胞の損傷が顕著に抑制されていることが分かる。
【0122】
<実施例10>
切断型カスパーゼ-3(Asp175)に対する抗体に代えて抗Iba-1抗体(019-19741; Wako; Cell Signaling Technology)を用いた以外は、実施例8と同様にして抗体染色試験を行った。顕微鏡写真を
図28及び
図29に、免疫陽性細胞の数を
図30に示す。マクロファージ/ミクログリア特異的なマーカーであるIba-1に対する抗体での免疫染色の結果から、
図28~
図30に示すように、SMTP-7を含む試験溶液を注射した個体では炎症も顕著に抑制されていることが分かる。
【0123】
以上の結果から、式(I)の化合物は、脳出血に対する治療効果及び予防効果に優れていることがわかる。