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特許7482658電気炉の操業支援方法及び電気炉による製鋼方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-02
(45)【発行日】2024-05-14
(54)【発明の名称】電気炉の操業支援方法及び電気炉による製鋼方法
(51)【国際特許分類】
   F27B 3/28 20060101AFI20240507BHJP
   F27B 3/24 20060101ALI20240507BHJP
   F27D 21/00 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
F27B3/28
F27B3/24
F27D21/00 N
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020046603
(22)【出願日】2020-03-17
(65)【公開番号】P2021148337
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2022-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】503378420
【氏名又は名称】日鉄ステンレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】献上 剛広
(72)【発明者】
【氏名】兼川 賢
(72)【発明者】
【氏名】松並 忠則
(72)【発明者】
【氏名】小林 英明
【審査官】村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-194926(JP,A)
【文献】特開平09-133468(JP,A)
【文献】特開平11-293326(JP,A)
【文献】特開2016-090139(JP,A)
【文献】特開昭61-259082(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27B 3/00-3/28
F27D 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉底部及び側壁部を有する炉本体と電極とを備えた電気炉の操業支援方法であって、
前記側壁部の炉内側に、冷却水によって水冷される複数の水冷パネルを配置しておき、
前記水冷パネル毎に、前記冷却水の冷却給水と冷却排水との温度差または前記各水冷パネルによる抜熱量を測定する測定段階と、
少なくとも1以上の水冷パネルにおいて、前記測定段階によって得た温度差または抜熱量が閾値を超えたことを判定する判定段階と、
を備え、
前記複数の水冷パネルは、前記側壁部の炉内側の高さ方向に1列以上、周方向に3列以上の格子状に配置されており、
前記判定段階は、前記水冷パネルのうち、溶け落ち直前の原料高さと同じか若しくは低い位置にある少なくとも1以上の水冷パネルにおいて、温度差または抜熱量が閾値を超えたことを判定することを特徴とする電気炉の操業支援方法。
【請求項2】
前記測定段階は、
前記冷却給水及び前記冷却排水の水温をそれぞれ前記水冷パネル毎に測定する測温ステップと、
前記冷却給水と前記冷却排水の温度差を前記水冷パネル毎に算出する計算ステップとを有することを特徴とする請求項に記載の電気炉の操業支援方法。
【請求項3】
前記測定段階は、
前記冷却給水及び前記冷却排水の水温をそれぞれ前記水冷パネル毎に測定する測温ステップと、
前記冷却給水または前記冷却排水の流量を前記水冷パネル毎に測定する流量測定ステップと、
前記冷却給水の水温、前記冷却排水の水温及び冷却給水または冷却排水の流量に基づき前記水冷パネルによる抜熱量を前記水冷パネル毎に算出する計算ステップと、を有することを特徴とする請求項に記載の電気炉の操業支援方法。
【請求項4】
前記判定段階が温度差または抜熱量が閾値を超えたことを判定した場合に、アラートを発するか、または、前記電気炉における投入電力を低下させる出力段階を更に備えることを特徴とする請求項乃至請求項の何れか一項に記載の電気炉の操業支援方法。
【請求項5】
前記判定段階が発する前記アラートは、原料の溶け落ちが起きたことを知らせるアラートである請求項に記載の電気炉の操業支援方法。
【請求項6】
前記判定段階が発する前記アラートは、原料の追装が可能になったことを知らせるアラートである請求項に記載の電気炉の操業支援方法。
【請求項7】
炉底部及び側壁部を有する炉本体と電極とを備えた電気炉による製鋼方法であって、
原料の溶け落ち判定または原料の追装を行う際に、
請求項乃至請求項の何れか一項に記載の電気炉の操業支援方法を行うことを特徴とする電気炉による製鋼方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気炉の操業支援方法及び電気炉による製鋼方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ステンレス鋼は、フェロクロム、フェロニッケルといった合金や、鉄くず(スクラップ)等を原料とし、アーク溶解炉において溶解することにより製造される場合がある。原料を溶解するアーク溶解炉、即ち電気炉において、投入電力は、原料の溶解過程の進展に伴い制御される。具体的には、初期の投入電力に対して、原料の溶け落ち後の投入電力を低下させる。この理由は、溶け落ち前では、原料を早期に溶解させたいという要求から、大きな投入電力が必要になるが、原料の溶け落ち後は、既に溶解した溶鋼中に未溶解の原料が浸漬されて溶解が進むため、溶け落ち後の投入電力は、初期の投入電力よりも少なくて済むためである。従って、スクラップを含む原料の溶け落ちを正確に判定することは、効率良く電力を用いるために必須である。なお、「投入電力」は電気炉に対する電力の出力を意味し、「投入電力量」は投入電力を時間積分したものを意味する。
【0003】
また、原料の一種であるスクラップは、板状のものや塊状のものなど様々な形態を有している。そのため、電気炉における原料の溶解速度は原料毎に異なる場合がある。このようなことから、電気炉における操業開始から原料が溶け落ちるまでの所要時間は、原料毎に変動する。従って、原料の溶け落ち判定は、原料のチャージ毎に行う必要がある。
【0004】
電気炉において投入電力を低下させる時期が、実際の原料の溶け落ち時よりも早すぎると、未溶解の原料が電気炉内に残存してしまい、狙いの鋼成分に調整できなくなったり、残存した原料が次チャージの溶鋼成分に影響するおそれもある。また、投入電力を低下させる時期が原料の溶け落ち時よりも遅すぎると、原料が溶け落ちて電気炉の内壁が露出したところにアーク放電による熱が直接放射され、内壁を損傷させる場合があり、更には電力の無駄にもなる。従って、電気炉の操業においては、原料の溶け落ち判定を正確に行う必要がある。
【0005】
特許文献1には、アーク炉の炉内発生音を検出し、検出された音の強度に応じた音信号を出力し、音信号の周波数を解析して周波数-強度信号を得て、周波数-強度信号のうち、基本周波数の偶数倍の周波数を中心とした領域の信号成分の強度が、当該領域に近い低周波側および高周波側の各領域の信号成分の強度に比して一定時間以上持続して所定量以上高くなった時にスクラップの溶解完了と判定するアーク炉の溶解状態判定方法が記載されている。
【0006】
また、特許文献2には、電気炉の炉壁内部及び炉壁外面のうち複数の位置で温度検出端により温度を測定する温度測定手順と、温度検出端で測定した温度に基づいて炉壁の内周面における熱流束を算出する熱流束算出手順と、熱流束算出手順で算出した炉壁の内周面における熱流束に基づいてスクラップの溶け落ちの開始を判定する判定手順とを有し、複数の温度検出端は、電気炉の中心軸に直交する直線であって、アーク電極の中心軸上を通る直線の近傍、且つ、スクラップが全て溶け落ちた場合に溶鋼の湯面より上の位置に配置され、熱流束算出手順では、電気炉の炉体を含む領域の熱伝導を記述する非定常熱伝導方程式を用いた非定常伝熱逆問題解析により炉壁の内周面における熱流束を算出するスクラップ溶け落ち判定方法が記載されている。
【0007】
しかし、特許文献1に記載の方法では、工場内の他の騒音の影響による精度低下が否めない問題がある。
また、特許文献2に記載の方法では、温度検出端の設置位置が数ヶ所に限定されるため、温度検出端の設置位置以外の位置において原料の溶け落ちが起きた場合は、溶け落ち判定を精度よく行えない可能性がある。
【0008】
更に、電気炉の操業においては、原料の装入を複数回に分けて行う場合がある。すなわち、最初に装入した原料がある程度溶解すると、原料の嵩が減少し、電気炉上部に原料を装入可能なスペースが生じるようになる。この空いたスペースに、新たな原料を追加装入する場合がある。本明細書では新たな原料の追加装入を「追装」という場合がある。新たな原料を追装するタイミングは、原料の溶け落ちの場合と同様に原料毎に変動することから、追装のタイミングを正確に知りたいという要望がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2013-170748号公報
【文献】特開2017-226864号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、電気炉の操業を適切に行うことができるようにした電気炉の操業支援方法及び電気炉による製鋼方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を採用する。
[1] 炉底部及び側壁部を有する炉本体と電極とを備えた電気炉の操業支援装置であって、
前記側壁部の炉内側に備えられ、冷却水によって水冷される複数の水冷パネルと、
前記水冷パネル毎に、前記冷却水の冷却給水と冷却排水との温度差または前記各水冷パネルによる抜熱量を測定する測定部と、
少なくとも1以上の水冷パネルにおいて、前記測定部による温度差または抜熱量が閾値を超えたことを判定する判定部と、
を備えることを特徴とする電気炉の操業支援装置。
[2] 前記測定部は、
前記冷却給水の水温を測定する給水温度計と、
前記冷却排水の水温を前記水冷パネル毎に測定する排水温度計と、
前記給水温度計及び前記排水温度計の測定結果に基づき前記冷却給水と前記冷却排水の温度差を前記水冷パネル毎に算出する計算部とを有することを特徴とする[1]に記載の電気炉の操業支援装置。
[3] 前記測定部は、
前記冷却給水の水温を測定する給水温度計と、
前記冷却排水の水温を前記水冷パネル毎に測定する排水温度計と、
前記冷却給水または前記冷却排水の流量を前記水冷パネル毎に測定する流量計と、
前記給水温度計、前記排水温度計及び前記流量計の測定結果に基づき前記水冷パネルによる抜熱量を前記水冷パネル毎に算出する計算部と、を有することを特徴とする[1]に記載の電気炉の操業支援装置。
[4] 前記複数の水冷パネルは、前記側壁部の炉内側の高さ方向に1列以上、周方向に3列以上の格子状に配置されており、
前記判定部は、前記水冷パネルのうち、溶け落ち直前の原料高さと同じか若しくは低い位置にある少なくとも1以上の水冷パネルにおいて、温度差または抜熱量が閾値を超えたことを判定することを特徴とする[1]乃至[3]の何れか一項に記載の電気炉の操業支援装置。
[5] 前記判定部が温度差または抜熱量が閾値を超えたことを判定した場合に、アラートを発するか、または、前記電気炉における投入電力を低下させる出力部を更に備えることを特徴とする[1]乃至[4]の何れか一項に記載の電気炉の操業支援装置。
[6] 前記判定部が発する前記アラートは、原料の溶け落ちが起きたことを知らせるアラートである[5]に記載の電気炉の操業支援装置。
[7] 前記判定部が発する前記アラートは、原料の追装が可能になったことを知らせるアラートである[5]に記載の電気炉の操業支援装置。
[8] [1]乃至[7]の何れか一項に記載の電気炉の操業支援装置を備えた電気炉。
【0012】
[9] 炉底部及び側壁部を有する炉本体と電極とを備えた電気炉の操業支援方法であって、
前記側壁部の炉内側に、冷却水によって水冷される複数の水冷パネルを配置しておき、
前記水冷パネル毎に、前記冷却水の冷却給水と冷却排水との温度差または前記各水冷パネルによる抜熱量を測定する測定段階と、
少なくとも1以上の水冷パネルにおいて、前記測定段階によって得た温度差または抜熱量が閾値を超えたことを判定する判定段階と、
を備えることを特徴とする電気炉の操業支援方法。
[10] 前記測定段階は、
前記冷却給水及び前記冷却排水の水温をそれぞれ前記水冷パネル毎に測定する測温ステップと、
前記冷却給水と前記冷却排水の温度差を前記水冷パネル毎に算出する計算ステップとを有することを特徴とする[9]に記載の電気炉の操業支援方法。
[11] 前記測定段階は、
前記冷却給水及び前記冷却排水の水温をそれぞれ前記水冷パネル毎に測定する測温ステップと、
前記冷却給水または前記冷却排水の流量を前記水冷パネル毎に測定する流量測定ステップと、
前記冷却給水の水温、前記冷却排水の水温及び冷却給水または冷却排水の流量に基づき前記水冷パネルによる抜熱量を前記水冷パネル毎に算出する計算ステップと、を有することを特徴とする[9]に記載の電気炉の操業支援方法。
[12] 前記複数の水冷パネルは、前記側壁部の炉内側の高さ方向に1列以上、周方向に3列以上の格子状に配置されており、
前記判定段階は、前記水冷パネルのうち、溶け落ち直前の原料高さと同じか若しくは低い位置にある少なくとも1以上の水冷パネルにおいて、温度差または抜熱量が閾値を超えたことを判定することを特徴とする[9]乃至[11]の何れか一項に記載の電気炉の操業支援方法。
[13] 前記判定段階が温度差または抜熱量が閾値を超えたことを判定した場合に、アラートを発するか、または、前記電気炉における投入電力を低下させる出力段階を更に備えることを特徴とする[9]乃至[12]の何れか一項に記載の電気炉の操業支援方法。
[14] 前記判定段階が発する前記アラートは、原料の溶け落ちが起きたことを知らせるアラートである[13]に記載の電気炉の操業支援方法。
[15] 前記判定段階が発する前記アラートは、原料の追装が可能になったことを知らせるアラートである[13]に記載の電気炉の操業支援方法。
[16] 炉底部及び側壁部を有する炉本体と電極とを備えた電気炉による製鋼方法であって、
原料の溶け落ち判定または原料の追装を行う際に、
[9]乃至[15]の何れか一項に記載の電気炉の操業支援方法を行うことを特徴とする電気炉による製鋼方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る電気炉の操業支援装置には、炉本体の側壁部の炉内側に配置された複数の水冷パネルと、水冷パネル毎に冷却水の冷却給水と冷却排水との温度差または抜熱量を測定する測定部と、測定部による温度差または抜熱量が閾値を超えたことを判定する判定部とを備えている。電気炉の操業開始時に、水冷パネルと電極との間にある原料は、水冷パネルを遮蔽しているが、原料の溶解が進んで水冷パネルが炉内に露出されると、炉内の熱が水冷パネルに直接作用して、水冷パネル内を流通する冷却水の水温が上昇する。そこで、本発明の操業支援装置は、冷却水の温度上昇を冷却水の給排水の温度差または抜熱量として捉え、温度差または抜熱量が閾値を超えたことを判定することで、電気炉内部の原料の状態を推測できるようになり、これにより、電気炉の操業を支援できる。また、水冷パネルが側壁部の炉内側に複数備えられており、それぞれの水冷パネルにおける温度差または抜熱量を常時測定するので、温度差または抜熱量が閾値を超えたことを見逃すことなく検知でき、電気炉の操業支援を適切に行うことができる。また、特に抜熱量を指標とすることで、電気炉内部の原料の状態をより精度よく推測できるようになる。
【0014】
また、本発明に係る操業支援装置によれば、測定部が、給水温度計と排水温度計と計算部とを備えており、冷却給水と冷却排水の水温をそれぞれ温度計で測定することで温度差を取得するので、構成を単純にすることができ、かつ、冷却水の温度上昇に伴う温度差を精度よく検出できる。
【0015】
また、本発明に係る操業支援装置によれば、測定部が、給水温度計と排水温度計と流量計と計算部とを備えており、冷却給水と冷却排水の水温をそれぞれ温度計で測定するとともに冷却水の流量を流量計で測定することで抜熱量を取得するので、構成を単純にすることができ、かつ、冷却水の温度上昇に伴う抜熱量の上昇を精度よく検出できる。
【0016】
また、本発明に係る操業支援装置によれば、複数の水冷パネルが格子状に配置されており、判定部は、溶け落ち直前の原料高さと同じか若しくは低い位置にある少なくとも1以上の水冷パネルにおいて、温度差または抜熱量が閾値を超えたことを判定するので、電気炉内における原料の状態の変化を早期に検知できる。
【0017】
また、本発明に係る操業支援装置によれば、判定部が温度差または抜熱量が閾値を超えたことを判定した場合に、アラートを発するか、または、電気炉における投入電力を低下させる出力部を備えている。出力部がアラートを発した場合は、オペレータに原料の状態変化を認識させて、投入電力の制御や原料の追装などの電気炉の操業に必要な操作の実施を促すことができる。また、出力部が電極用電源に信号を送り、電極用電源によって投入電力を自動で低下させることもできる。これにより、電気炉において電力を効率よく用いることができる。また、原料の溶解が進んで電気炉内に水冷パネルが露出した場合に、投入電力を低下させることで、水冷パネルの破損を防止できる。
【0018】
また、本発明に係る操業支援装置によれば、判定部が発するアラートが、原料の溶け落ちが起きたことを知らせるアラートであるので、オペレータに原料の溶け落ちが起きたことを認識させて、投入電力の制御を促すことができる。
【0019】
また、本発明に係る操業支援装置によれば、判定部が発するアラートが、原料の追装が可能になったことを知らせるアラートであるので、オペレータに原料の追装が可能になったことを認識させて、原料の追装を促すことができる。
【0020】
また、本発明に係る電気炉によれば、本発明の操業支援装置を備えているので、電気炉の操業を適切に行うことができる。
【0021】
次に、本発明に係る電気炉の操業支援方法には、炉本体の側壁部の炉内側に複数の水冷パネルを配置し、水冷パネル毎に冷却水の冷却給水と冷却排水との温度差または抜熱量を測定する測定段階と、測定段階による温度差または抜熱量が閾値を超えたことを判定する判定段階とを備えている。電気炉の操業開始時に、水冷パネルと電極との間にある原料は、水冷パネルを遮蔽しているが、原料の溶解が進んで水冷パネルが炉内に露出されると、炉内の熱が水冷パネルに直接作用して、水冷パネル内を流通する冷却水の水温が上昇する。そこで、本発明の操業支援方法は、冷却水の温度上昇を冷却水の給排水の温度差または抜熱量として捉え、温度差または抜熱量が閾値を超えたことを判定することで、電気炉内部の原料の状態を推測できるようになり、これにより、電気炉の操業を支援できる。また、水冷パネルが側壁部の炉内側に複数備えられており、それぞれの水冷パネルにおける温度差または抜熱量を常時測定するので、温度差または抜熱量が閾値を超えたことを見逃すことなく検知でき、電気炉の操業支援を適切に行うことができる。また、特に抜熱量を指標とすることで、電気炉内部の原料の状態をより精度よく推測できるようになる。
【0022】
また、本発明に係る操業支援方法によれば、測定段階において、測温ステップ及び計算ステップにより、冷却給水と冷却排水の水温をそれぞれ測温することで温度差を取得するので、構成を単純にすることができ、かつ、冷却水の温度上昇に伴う温度差を精度よく検出できる。
【0023】
また、本発明に係る操業支援方法によれば、測定部段階において、測温ステップ、流量測定ステップ及び計算ステップにより、冷却給水と冷却排水の水温をそれぞれ測温するとともに冷却水の流量を測定して抜熱量を取得するので、構成を単純にすることができ、かつ、冷却水の温度上昇に伴う抜熱量の上昇を精度よく検出できる。
【0024】
また、本発明に係る操業支援方法によれば、複数の水冷パネルが格子状に配置されており、判定段階は、溶け落ち直前の原料高さと同じか若しくは低い位置にある少なくとも1以上の水冷パネルにおいて、温度差または抜熱量が閾値を超えたことを判定するので、電気炉内における原料の状態の変化を早期に検知できる。
【0025】
また、本発明に係る操業支援方法によれば、判定段階が温度差または抜熱量が閾値を超えたことを判定した場合に、出力段階において、アラートを発するか、または、電気炉における投入電力を低下させる。出力段階でアラートを発した場合は、オペレータに原料の状態変化を認識させて、投入電力の制御や原料の追装などの電気炉の操業に必要な操作の実施を促すことができる。また、出力段階において電極用電源によって投入電力を自動で低下させることもできる。これにより、電気炉において電力を効率よく用いることができる。また、原料の溶解が進んで電気炉内に水冷パネルが露出した場合に、投入電力を低下させることでの水冷パネルの破損を防止できる。
【0026】
また、本発明に係る操業支援方法によれば、判定段階において発するアラートが、原料の溶け落ちが起きたことを知らせるアラートであるので、オペレータに原料の溶け落ちが起きたことを認識させて、投入電力の制御を促すことができる。
【0027】
また、本発明に係る操業支援方法によれば、判定段階において発するアラートが、原料の追装が可能になったことを知らせるアラートであるので、オペレータに原料の追装が可能になったことを認識させて、原料の追装を促すことができる。
【0028】
また、本発明に係る電気炉による製鋼方法によれば、本発明の操業支援方法を行うことで、電気炉の操業を適切に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、本発明の実施形態である操業支援装置を備えた電気炉を示す図であって、(a)は側断面模式図であり、(b)は(a)のA-A’線における閉断面模式図である。
図2図2は、本発明の実施形態である操業支援装置を備えた電気炉の動作を示す断面模式図である。
図3図3は、本発明の実施形態である操業支援装置を備えた電気炉の動作を示す断面模式図である。
図4図4は、本発明の実施形態である操業支援装置を備えた電気炉の動作を示す断面模式図である。
図5図5は、本発明の実施形態である操業支援装置を備えた電気炉の動作を示す断面模式図である。
図6図6は、本発明の実施形態である操業支援方法を説明するグラフである。
図7図7は、投入電力を低下させるタイミングと出鋼時の溶鋼温度との関係を示すグラフであって、(a)は従来例であり、(b)及び(c)は本発明例である。
図8図8は、投入電力を低下させるタイミングと耐火物からのMgO溶出量との関係を示すグラフであって、(a)は従来例であり、(b)及び(c)は本発明例である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
上述のように、ステンレス鋼は、フェロクロム、フェロニッケルといった合金や鉄くず(スクラップ)等の様々な原料を、アーク溶解炉において溶解することで製造される場合がある。電気炉における操業開始から原料が溶け落ちるまでの所要時間は、原料毎に変動する。電気炉において投入電力を低下させる時期が、実際の原料の溶け落ち時よりも早すぎると、未溶解の原料が電気炉内に残存してしまい、狙いの鋼成分に調整できなくなったり、残存した原料が次チャージの溶鋼成分に影響するおそれもある。また、投入電力を低下させる時期が原料の溶け落ち時よりも遅すぎると、原料が溶け落ちて電気炉の側壁部が露出したところにアーク放電による熱が直接放射されて、側壁部を損傷させる場合があり、更には、電力の無駄にもなる。従って、電気炉の操業においては、原料の溶け落ち判定を正確に行う必要がある。
【0031】
なお、本明細書では、「投入電力」は電気炉に対する電力の出力を意味し、「投入電力量」は投入電力を時間積分したものを意味する。
【0032】
また、電気炉の操業においては、原料の装入を複数回に分けて行う場合がある。すなわち、最初に装入した原料がある程度溶解すると、原料の嵩が減少して、電気炉上部に原料を装入可能なスペースが生じるようになる。そこで、空いたスペースに、新たな原料を追加装入する場合がある。本明細書では新たな原料の追加装入を「追装」という場合がある。新たな原料を追装するタイミングは、原料の溶け落ちの場合と同様に原料毎に変動することから、追装のタイミングを正確に知りたいという要望がある。
【0033】
本発明者らが電気炉内部における原料の状態を把握する手段について鋭意検討し、側壁部の保護のために設置した水冷パネルに着目した。そして、水冷パネルにおける冷却水の給排水の温度差または水冷パネルによる抜熱量を監視することで、原料の状態を精度よく判定できることを見出した。
【0034】
以下、本発明の実施形態である電気炉の操業支援装置及び操業支援装置を備えた電気炉について、図面を参照して説明する。なお、以下の説明では、操業支援装置によって原料の溶け落ち判定を行う場合について説明する。また、以下の説明では、溶け落ち判定の指標として水冷パネルの冷却水の温度差を利用する場合について説明する。抜熱量を指標とする実施形態については後述する。
【0035】
図1(a)及び図1(b)には、本実施形態に係る電気炉を示す。この電気炉1はアーク溶解炉とも呼ばれるものであり、炉本体2と、電極3とを備えている。炉本体2は、図1に示すように、側壁部21と炉底部22とを有している。側壁部21の炉内面側には複数の水冷パネル4が設置されている。炉底部22には図示しない耐火物が内張りされている。
【0036】
また、電気炉1には測定部5が備えられており、測定部5は判定部6に接続されている。判定部6は出力部7に接続されている。出力部7は電極用電源8に接続されている。そして、水冷パネル4、測定部5及び判定部6によって、操業支援装置が構成されている。また、操業支援装置には、出力部7を含めてもよい。
【0037】
また、図1(a)及び図1(b)に示す炉本体2には、炉本体2の開口部2aを覆う蓋体23が配置されている。蓋体23には電極3を装入するための装入孔23aが設けられている。電極3は電極用電源8に接続されている。図1(a)及び図1(b)に示す電気炉1においては、電極用電源8から電極3に投入電力を供給して原料に対して放電を行うことで原料を溶解させる。
【0038】
水冷パネル4は、炉本体2の側壁部21の炉内面側に複数設置されている。水冷パネル4は、側壁部21の炉内側の高さ方向に1列以上、周方向に3列以上の格子状に配置されている。図1(a)に示す例では、水冷パネル4が、側壁部21の高さ方向に沿って3列に並べられている。本明細書では、水冷パネル4の説明の便宜上、炉底部22側から順に上に向かってそれぞれ、下部水冷パネル41、中間水冷パネル42、上部水冷パネル43と称する場合がある。また、図1(b)に示すように、それぞれの水冷パネル41~43は、側壁部21の炉内面の周方向に沿って全周に渡って並べられている。図1(b)に示す例では、12個の中間水冷パネル42が周方向に沿って並べられている。図1(b)では図示されない下部水冷パネル41及び上部水冷パネル43も周方向に沿ってそれぞれ12個ずつ並べられている。
【0039】
従って、図1(a)及び図1(b)に示す水冷パネル4は、高さ方向に3列、周方向に12列の合計36枚が設置されている。各水冷パネル41~43を炉の中心から見た場合、その形状は平面視矩形状とされている。
【0040】
側壁部21における各水冷パネル4の設置面積について、本実施形態では、中間水冷パネル42の設置面積が、下部水冷パネル41及び上部水冷パネル43の設置面積の2倍になっている。ただし、各水冷パネル4の設置面積はこの関係に限定されるものではなく、例えば設置面積は各水冷パネル4毎に均等であってもよい。
【0041】
各水冷パネル4にはそれぞれ、パネル本体4aと、パネル本体4aに冷却水を送る給水管4bと、パネル本体4aを流通した冷却水が排出される排水管4cとが備えられている。説明の便宜上、給水管4bからパネル本体4aに流入する冷却水を冷却給水と称し、パネル本体4aから排水管4cに流出する冷却水を冷却排水と称する。パネル本体4aには冷却水が流通されることでパネル本体4aが冷却される。パネル本体4aは、炉本体2の側壁部21を覆うように配置されており、炉内の輻射熱によって側壁部21が過熱されることを防止する。パネル本体4aを通過する冷却水は、炉内の熱によって水温が上昇する場合がある。すなわち、冷却排水の水温は冷却給水の水温よりも高くなる場合がある。
【0042】
測定部5は、水冷パネル4毎に、冷却水の冷却給水と冷却排水との温度差を測定するものである。測定部5は、冷却給水の水温を水冷パネル4毎に測定する給水温度計5aと、冷却排水の水温を水冷パネル4毎に測定する排水温度計5bと、給水温度計5a及び排水温度計5bの測定結果に基づき冷却給水と冷却排水の温度差を水冷パネル4毎に算出する計算部5cとを有する。給水温度計5a及び排水温度計5bは水冷パネル4毎に設置されている。図1(a)には、一部の水冷パネル4のみに給水温度計5a及び排水温度計5bを設置した状態を示しているが、本実施形態では全部の水冷パネル4に給水温度計5a及び排水温度計5cが設置され、各給水温度計5a及び排水温度計5bの測定結果が計算部5cに出力されるようになっている。
【0043】
給水温度計5aは、給水管4bを流れる冷却給水の水温を測定してその結果を計算部5cに送信する。また、排水温度計5bは、排水管4cを流れる冷却排水の水温を測定してその結果を計算部5cに送信する。給水温度計5a及び排水温度計5bはともに、パネル本体4aにおける冷却水の温度変化を精度よく検知するために、パネル本体4aの近い位置に設置されるとよい。また、計算部5cは、給水温度計5a及び排水温度計5bから送信された測定値に基づき、各水冷パネル4毎に冷却給水と冷却排水の温度差を算出し、その結果を判定部6に送信する。
【0044】
なお、図1には、測定部5には、水冷パネル4毎に給水温度計5aを設置する例を示しているが、本発明はこれに限定されない。たとえば、水冷パネル4への給水系統として、給水本管と、給水本管から複数に枝分かれした分岐管とを有し、各分岐管がそれぞれ水冷パネルに接続された給水系統を備えた電気炉の場合は、冷却給水の水温が各水冷パネル毎にほぼ同じ水温になる。従ってこの場合は、例えば、給水本管に給水温度計を設置してもよく、また、いずれかの分岐管の一つに給水温度計を設置してもよい。そして、給水温度計の測定結果を計算部5cに出力させればよい。なお、この場合であっても、排水温度計5bは、パネル本体4aにおける冷却水の温度変化を精度よく検知するために、パネル本体4aの近い位置に設置されるとよい。
【0045】
判定部6は、少なくとも1以上の水冷パネル4において、測定部5によって求められた温度差が所定の閾値を超えたことを判定する。また、判定部6は、水冷パネル4のうち、溶け落ち直前の原料高さと同じか若しくは低い位置にある少なくとも1以上の水冷パネル4において、温度差が閾値を超えたことを判定してもよい。例えば、下部水冷パネル41または中間水冷パネル42のうちのいずれか1つ以上の水冷パネル4において温度差が所定の閾値を超えたことを判定してもよい。
【0046】
判定部6は、測定部5によって求められた温度差が所定の閾値を超えた場合に、原料の溶け落ちが起きたと判定してもよい。例えば、判定部6に対して、電気炉の操業全体を管理するプロセスコンピュータから、電気炉の操業状態に関する情報が送られている場合は、当該情報に基づき、測定部5によって求められた温度差が所定の閾値を超えた場合に、原料の溶け落ちが起きたと判定してもよい。
【0047】
また、出力部7は、測定部5によって求められた温度差が所定の閾値を超えたと判定部6が判定した場合に、アラートを発するか、または、電気炉1への投入電力を低下させる。出力部7がアラートを発する場合は、音声等により周囲のオペレータに通知するか、表示装置に溶け落ちが起きたことを表示させるなどして、アラートを発する。この場合のアラートは、原料が溶け落ちたことをアラートすることが好ましい。また、出力部7が電気炉1への投入電力を低下させる場合は、制御信号を電極用電源8に送信する。
【0048】
判定部6及び出力部7の動作は、操業支援方法の説明において詳細に述べる。
【0049】
測定部5の計算部5c、判定部6及び出力部7は、例えば、コンピュータに備えられた中央演算装置の機能として実現されてもよい。この場合、計算部5c、判定部6及び出力部7を含むコンピュータには、例えば、入力インターフェースと、中央演算装置と、メモリと、記憶装置と、出力インターフェースと、表示装置と、スピーカ等が備えられる。入力インターフェースを介して給水温度計5a及び排水温度計5bにおいて測定した測定値が受信され、中央演算装置において計算部5c、判定部6及び出力部7としての機能が実現される。そして、判定部6において溶け落ち判定がされた場合は、出力インターフェースを介して、スピーカからアラート音声等を発する、表示装置にアラートを表示させる、あるいは、電極用電源8に制御信号を送るといった処理が行われる。上記した計算部5c、判定部6及び出力部7の構成は一例であり、これ以外の構成であってもよい。
【0050】
電極用電源8は、電極3に対する投入電力を制御する。投入電力の制御方法は後述する。
【0051】
次に、本実施形態の電気炉1の操業支援方法および電気炉1による製鋼方法について説明する。本実施形態の操業支援方法は、水冷パネル4毎に、冷却水の冷却給水と冷却排水との温度差を測定する測定段階と、少なくとも1以上の水冷パネル4において、測定段階によって得た温度差が閾値を超えたことを判定する判定段階とを備える。また、判定段階後に出力段階を行ってもよい。更に、本実施形態の電気炉1による製鋼方法は、本実施形態の操業支援方法を行いつつ、原料を溶解させて製鋼を得る。以下、図1図6を参照して、本実施形態の操業支援方法及び製鋼方法を説明する。
【0052】
まず、図2に示すように、電気炉1の炉本体2の内部に原料Rを装入する。また、水冷パネル4に冷却水を流通させて水冷パネル4の冷却を開始する。更に、蓋体23の装入孔23aから電極3を装入し、電極用電源8から電極3に投入電力を供給して原料Rの溶解を開始する。投入電力は、M(W)の一定値とする。
【0053】
また、原料Rの溶解開始とともに、測定段階を開始する。測定段階は、給水温度計5a及び排水温度計5bにおいて、冷却給水及び冷却排水の水温をそれぞれ水冷パネル4毎に測定する測温ステップと、計算部5cにおいて冷却給水と冷却排水の温度差を水冷パネル4毎に算出する計算ステップとを行う。測温ステップ及び計算ステップの頻度は特に制限はないが、例えば10秒~1分の頻度で行うとよい。測定段階は、少なくとも、溶け落ち判定がなされるまで継続するとよい。
【0054】
原料Rは、図2に示すように、例えば上部水冷パネル43の設置位置の高さまで充填してもよい。図2では、上部水冷パネル43は、その一部が、原料Rによって遮蔽されずに、電極3に対して露出された状態にある。一方、中間水冷パネル42及び下部水冷パネル41は、原料Rによって遮蔽され、電極3に対して露出されていない状態にある。
【0055】
図3には、原料Rを溶解させている途中の状態を示す。投入電力はMH(W)のまま維持されている。原料Rの溶解が進むにつれて電極3は炉本体2の内部に向けて徐々に深く装入される。図3では、電極3同士の間、及び電極3の下方に位置する原料Rが先に溶解され、電極3と水冷パネル4との間にある原料Rは溶解が進まず残存した状態にある。残存している原料Rの高さは、図2の場合に比べてあまり変化していない。このため、中間水冷パネル42及び下部水冷パネル41は、原料Rによって遮蔽されたままで、電極3に対して露出されていない状態が続いている。一方、上部水冷パネル43は、その一部が電極3に対して露出した状態にある。
【0056】
ここで、水冷パネル4の冷却水の水温に着目すると、図3に示す状態では、中間水冷パネル42及び下部水冷パネル41が電極3に対して露出していないので、これらの水冷パネル41、42においては、冷却排水と冷却給水との温度差が小さく、温度差はほぼ一定である。一方、上部水冷パネル41では、その一部が電極3に対して露出しているため、炉内温度の上昇の影響を受けて、冷却排水の温度が徐々に上昇し、冷却給水との温度差が徐々に広がりつつある。
【0057】
次に、図4には、原料Rの溶解が進み、原料Rの溶け落ちが起きた直後の状態を示す。溶け落ちた原料は、炉底部22に貯留されている溶鋼Sに落下し、溶鋼S内で溶解が進む。また、原料Rの溶け落ちによって、それまで原料Rによって電極3から遮蔽されていた下部水冷パネル41及び中間水冷パネル42が露出された状態になる。
【0058】
中間水冷パネル42及び下部水冷パネル41が電極3に対して露出したことで、これらの水冷パネル41、42においては、冷却排水の水温が急上昇し、冷却給水との温度差が大きく広がる。このように、溶け落ち直前まで原料Rによって覆われていた下部水冷パネル41及び中間水冷パネル42は、原料Rの溶け落ちにより、その冷却給水と冷却排水との温度差が急に大きくなる。本実施形態では、このような冷却水の水温の挙動を測定部5を通じて判定部6が検知する。判定段階では、冷却排水と冷却給水の温度差が閾値を超えるかどうかを判定する。
【0059】
判定段階において判定部6が判定する際に参照する温度差の閾値は、電気炉1の容積、水冷パネル4の設置状況、原料の種類、電気炉1の操業条件等に応じて適宜設定すればよい。例えば、複数個の下部水冷パネル41のうちいずれか1つの水冷パネルにおいて温度差が3℃を超えるか、または、複数個の中間水冷パネル42のうちいずれか1つの水冷パネルにおいて温度差が6℃を超えた場合のいずれかを検知した場合に、冷却排水と冷却給水の温度差が閾値を超えるかどうかを判定できる。
【0060】
判定段階では、測定部5によって求められた冷却排水と冷却給水との温度差が所定の閾値を超えた場合に、原料の溶け落ちが起きたと判定してもよい。例えば、判定部6に対して、電気炉の操業全体を管理するプロセスコンピュータから、電気炉の操業状態に関する情報が送られている場合は、当該情報に基づき、測定部5によって求められた温度差が所定の閾値を超えた場合に、原料の溶け落ちが起きたと判定してもよい。
【0061】
判定段階において、いずれの水冷パネル4を判定対象とするかについては、原料Rの装入状態や、電気炉1における原料Rの溶解状況によるので、電気炉1の操業状況に基づき電気炉毎に最適な判定対象を選択すればよい。例えば、上部水冷パネル43については、本実施形態の場合、溶け落ち直前の段階ですでにその一部が電極3に対して露出されており、溶け落ち前から冷却水の水温の温度差が上昇していたため、溶け落ちの判定を検知することは難しい。よって、本実施形態では、中間水冷パネル42及び下部水冷パネル41を判定対象とする。
【0062】
また、閾値自体についても、電気炉1毎に決定するとよい。本実施形態においては、下部水冷パネル41における冷却水の温度差の閾値を3℃超とし、中間水冷パネル42における冷却水の温度差の閾値を6℃超とした。下部水冷パネル41と中間水冷パネル42の閾値が異なる理由は、本実施形態の場合、中間水冷パネル42の設置面積が下部水冷パネルの設置面積の2倍なので、その設置面積比に応じて、中間水冷パネル42における温度差を、下部水冷パネル41における温度差(3℃)の2倍の数値の6℃としたが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0063】
判定段階において溶け落ちを判定した場合、判定部6はその信号を出力部7に送信して出力段階に進む。出力段階では、判定部6が原料の溶け落ちが起きたと判定した場合に、出力部7がアラートを発するか、または、出力部7が電気炉1に対する投入電力を低下させる。出力部7がアラートを発する場合は、音声等により周囲のオペレータに通知するか、コンピュータディスプレイ等の表示装置に溶け落ちが起きたことを表示させるなどして、アラートを発する。アラートによって、原料の溶け落ちがあったことを認識したオペレータは、電極3への投入電力を低下させるために必要な操作を行う。
【0064】
また、出力部7が電気炉1への投入電力を低下させる場合は、制御信号を電極用電源8に送信する。電極用電源8は、出力部7からの信号を受けて、電極3への投入電力を低下させる。
【0065】
溶け落ち判定後に電極3に供給する投入電力は、MH(W)よりも低いML(W)とするとよい。ML(W)は電気炉1による原料の溶解完了まで継続するとよい。このようにして、溶け落ち判定後直ちに、電極3に供給する投入電力をMH(W)からML(W)に変更できる。
【0066】
次に、図5には、原料溶解の最終段階を示す。電極3への投入電力はML(W)のまま維持されている。原料溶解の最終段階では、投入電力をML(W)に維持することで、装入した原料全てを溶解させるとともに、溶鋼Sの温度を調整する。そして、原料Rの溶解が完了したならば、電極3を引き上げるとともに、炉本体2から溶鋼Sを出鋼することで、操業を完了させる。そして、次の原料装入に備える。
【0067】
図6には、操業開始から終了までの下部水冷パネルにおける冷却水の温度差と、中間水冷パネルにおける冷却水の温度差と、電極3への投入電力の推移とを示している。横軸は操業時間である。
【0068】
図6では、開始時から電極3への投入電力をMH(W)に維持して操業し、中間水冷パネルにおける冷却水の温度差が閾値である6℃を超えたときに溶け落ちが起きたと判定し、その直後のAの時点において、投入電力をMH(W)からML(W)に低下させたことを示している。従来は、常にBの時点において、投入電力をMH(W)からML(W)に低下させていた。従来の場合は、溶け落ち時からだいぶ遅れて投入電力を低下させていたので、過剰に電力を消費し、また、炉本体2や水冷パネル4に過剰に熱を与えてこれらを劣化させてしまう場合があった。本実施形態の溶け落ち判定方法を用いた溶鋼の製造方法では、溶け落ちを正確に判定し、判定から直ちに投入電力を低下させることができるので、電力の過剰な消費や、炉本体2または水冷パネル4の劣化は起きるおそれはなくなる。
【0069】
以上説明したように、本実施形態の操業支援装置によれば、冷却水の温度上昇を冷却水の給排水の温度差として捉え、温度差が閾値を超えた場合に原料の溶け落ちがあったと判定することで、原料の溶け落ちを精度よく判定できる。また、水冷パネル4が側壁部21の炉内側に複数備えられており、それぞれの水冷パネル4における温度差を常時測定するので、原料の溶け落ちを見逃すことなく検知でき、電気炉1の操業を適切に行うことができる。
【0070】
また、本実施形態の操業支援装置によれば、測定部5が、給水温度計5aと排水温度計5bと計算部5cとを備えており、冷却給水と冷却排水の水温をそれぞれ温度計5a、5bで測定することで温度差を取得するので、構成を単純にすることができ、かつ、原料の溶け落ちを精度よく判定できる。
【0071】
また、本実施形態の操業支援装置によれば、複数の水冷パネル4が格子状に配置されており、判定部6は、溶け落ち直前の原料高さと同じか若しくは低い位置にある下部水冷パネル41または中間水冷パネル42のうちの少なくとも1以上において、温度差が閾値を超えた場合に原料の溶け落ちが起きたと判定するので、原料の溶け落ちを確実に判定できる。
【0072】
また、本実施形態の操業支援装置によれば、判定部6が原料の溶け落ちが起きたと判定した場合に、アラートを発するか、または、電気炉1における投入電力を低下させる出力部7を備えており、出力部7がアラートを発した場合は、オペレータが溶け落ちたことを認識し、溶け落ちとほぼ同じタイミングで投入電力を低下できる。また、出力部7が電極用電源8に信号を送り、電極用電源8によって投入電力を自動で低下させることもできる。これにより、電気炉1において電力を効率よく用いることができる。
【0073】
また、本実施形態の電気炉1によれば、操業支援装置を備えているので、原料の溶け落ちを見逃すことなく検知でき、電気炉1の操業を適切に行うことができる。
【0074】
次に、本実施形態の操業支援方法は、冷却水の温度上昇を冷却水の給排水の温度差または抜熱量として捉え、温度差が閾値を超えた場合に原料の溶け落ちがあったと判定することで、原料の溶け落ちを精度よく判定することができる。また、水冷パネル4が側壁部21の炉内側に複数備えられており、それぞれの水冷パネル4における温度差を常時測定するので、原料の溶け落ちを見逃すことなく検知でき、電気炉1の操業を適切に行うことができる。
【0075】
また、本実施形態の操業支援方法によれば、測定段階において、測温ステップ及び計算ステップにより、冷却給水と冷却排水の水温をそれぞれ測温することで温度差を取得するので、構成を単純にすることができ、かつ、原料の溶け落ちを精度よく判定できる。
【0076】
また、本実施形態の操業支援方法によれば、複数の水冷パネルが格子状に配置されており、判定段階は、溶け落ち直前の原料高さと同じか若しくは低い位置にある下部水冷パネル41または中間水冷パネル42のうちの少なくとも1以上において、温度差が閾値を超えた場合に原料の溶け落ちが起きたと判定するので、原料の溶け落ちを確実に判定できる。
【0077】
また、本実施形態の操業支援方法によれば、判定段階が原料の溶け落ちが起きたと判定した場合に、出力段階において、アラートを発するか、または、電気炉1における投入電力を低下させる。判定段階でアラートを発した場合は、オペレータが溶け落ちたことを認識し、溶け落ちとほぼ同じタイミングで投入電力を低下できる。また、出力段階において電極用電源8によって投入電力を自動で低下させることもできる。これにより、電気炉1において電力を効率よく用いることができる。
【0078】
また、本実施形態の電気炉1による製鋼方法によれば、操業支援方法を行うことで、原料の溶け落ちを見逃すことなく検知でき、電気炉1の操業を適切に行うことができる。
【0079】
上記の実施形態では、冷却給水と冷却排水の温度差を指標として溶け落ち判定を行う例について説明したが、本発明はこれに限らず、水冷パネルにおける抜熱量を指標として溶け落ち判定を行うこともできる。
【0080】
水冷パネルにおける抜熱量を指標とする場合は、上記の溶け落ち判定装置の測定部において各水冷パネル4毎に抜熱量を測定する構成とする。具体的には、測定部に、冷却給水または冷却排水の流量を水冷パネル毎に測定する流量計を設置する。また、測定部の計算部は、給水温度計、排水温度計及び流量計の測定結果に基づき水冷パネルによる抜熱量を前記水冷パネル毎に算出するようにする。更に、判定部は、少なくとも1以上の水冷パネル4において、抜熱量が閾値を超えたことを判定する。抜熱量が閾値を超えた場合に、原料の溶け落ちが起きたと判定してもよい。
【0081】
そして、操業支援方法においては、測定段階として、水冷パネル4毎に、各水冷パネル4による抜熱量を測定し、また、判定段階として、少なくとも1以上の水冷パネルにおいて、測定段階によって得た抜熱量が閾値を超えた場合に、原料の溶け落ちが起きたと判定する。
【0082】
測定段階では、冷却給水及び冷却排水の水温をそれぞれ水冷パネル毎に測定する測温ステップと、冷却給水または冷却排水の流量を水冷パネル毎に測定する流量測定ステップと、冷却給水の水温、冷却排水の水温及び冷却給水または冷却排水の流量に基づき水冷パネルによる抜熱量を前記水冷パネル毎に算出する計算ステップと、を行う。
【0083】
抜熱量を溶け落ち判定の指標とすることで、溶け落ち判定をより精度よく実施することができるようになる。
【0084】
更に、本実施形態によれば、溶け落ち判定を精度よく行うことにより、水冷パネルへの熱負荷を低下でき、水冷パネルの寿命を延ばすことができる。また、耐火物の溶損が低減するため、耐火物の補修量が低減することに加えてスラグの発生量を低減することができる。更に、耐火物の補修時間が低減することにより、非稼働時間が低減することで、生産性を向上できる。更にまた、投入電力量の低減、電極使用量の低減、補修材使用量の低減によるコスト削減効果が得られる。
【0085】
また、本実施形態によれば、溶け落ち判定を精度よく行うことにより、未溶解の原料が電気炉内に残存するおそれがなく、狙いの鋼成分に調整できるようになり、また、残存した原料が次チャージの溶鋼成分に影響するおそれも低減できる。
【0086】
また、以上の説明では、操業支援装置及び操業支援方法によって、原料の溶け落ちが起きたことを判定したが、本発明に係る操業支援装置及び操業支援方法は、原料の追装のタイミングを把握するために用いられてもよい。
【0087】
すなわち、電気炉の操業においては、最初に装入させた原料をある程度溶解させると、原料の嵩が減少して電気炉上部に新たな原料を装入できるスペースが生じるようになるので、空いたスペースに、新たな原料を追装する場合がある。原料の嵩が減少すると、それまで原料によって遮蔽されていた水冷パネルの一部が、電気炉内に露出されるようになる。このとき、露出された水冷パネルにおいては、冷却排水と冷却給水との温度差が所定の閾値を超えるか、あるいは、水冷パネルによる抜熱量が所定の閾値を超える。従って、判定部6または判定段階において温度差または抜熱量が閾値を超えたときに、原料の追装が可能になったと判定することができる。
【0088】
この場合、オペレータは、操業支援装置及び操業支援方法によって、原料の追装が可能になったことを認識することができ、原料の追装を行うことができるようになる。
【0089】
原料の追装と溶解を繰り返した後に、原料の溶け落ち判定を行ってもよい。この場合の原料の溶け落ち判定は、上述した手順で行えばよい。
【実施例
【0090】
図1に示す電気炉によって、SUS304相当の溶鋼の製造を、複数回に渡って行った。すなわち、原料の装入から溶鋼の出鋼までの一連の操作を1チャージとし、31~826チャージほど行った。
【0091】
従来例1として、原料の溶解中に、電極への投入電力をMH(W)からML(W)に低下させる操業を行った。投入電力を低下させるタイミングは、過去の操業実績に基づき、原料の溶解開始から所定時間経過時とした。投入電力を低下させるタイミングは、各チャージにおいて同じタイミングとした。従来例1は合計で826チャージを実施した。投入電力量は、各チャージにおいて同一量になるようにした。
【0092】
また、発明例1として、原料の溶解中に、下部水冷パネルにおける冷却水の温度差が3℃超になるか、または中間水冷パネルにおける冷却水の温度差が6℃超になった場合に、溶け落ちが起きたと判定した。そして、判定直後に、電極への投入電力をMH(W)からML(W)に低下させる操業を行った。発明例1は合計で31チャージを実施した。投入電力量は、各チャージにおいて同一量になるようにした。
【0093】
更に、発明例2として、原料の溶解中に、下部水冷パネルにおける冷却水の温度差が3℃超になるか、または中間水冷パネルにおける冷却水の温度差が6℃超になった場合に、溶け落ちが起きたと判定した。そして、判定直後に、電極への投入電力をMH(W)からML(W)に低下させる操業を行った。発明例2は合計で81チャージを実施した。投入電力量は、原則として、各チャージにおいて同一量になるようにした。ただし、投入電力の切替タイミングが従来例1の切替タイミングよりも早い時点で行ったチャージについては、切替タイミング後の操業時間を短縮することで、投入電力量を削減させた。
【0094】
図7には、投入電力を低下させるタイミングと、出鋼時の溶鋼温度との関係を示す。図7(a)は従来例1であり、図7(b)は発明例1であり、図7(c)は発明例2である。
また、図8には、投入電力を低下させるタイミングと、耐火物のMgO溶出量との関係を示す。図8(a)は従来例1であり、図8(b)は発明例1であり、図8(c)は発明例2である。なお、図7及び図8の右側のグラフにおける縦軸に「出力」とあるのは、投入電力を意味する。
【0095】
従来例1では、全チャージにおける出鋼時の溶鋼温度の平均値は1590℃となり、ほぼ目標通りの温度になったが、図7(a)に示すように、出鋼時の溶鋼温度は1500℃~1670℃程度と大きくばらついた。また、図8(a)に示すように、MgOの溶出量もばらつきが大きかった。従来例1では、投入電力を低下させるタイミングを全てのチャージにおいて同一のタイミングとしたが、これにより、投入電力を低下させるタイミングが、原料の溶け落ちのタイミングに対して早すぎる場合や遅すぎる場合が生じ、そのため、投入電力の低下後の操業時間が大きくばらつき、その結果、溶鋼の温度がばらついたためと考えられる。また、溶鋼温度のばらつきに伴って、MgOの溶出量もばらつきが大きくなった。また、従来例1では、投入電力量が全チャージ平均で469kWhとなった。
【0096】
発明例1では、原料の溶け落ちを判定してから投入電力を低下させたため、投入電力を低下させるタイミングが適切なタイミングとなった。そのため、図7(b)に示すように、出鋼時の溶鋼温度が1550℃~1650℃程度となり、従来例1に比べてばらつきの幅が小さくなった。また、図8(b)に示すように、MgOの溶出量もばらつき幅も従来例1に比べて小さくなった。ただし、全チャージにおける出鋼時の溶鋼温度の平均値が1607℃となり、目標温度からやや高くなった。これは、比較的早い段階で溶け落ちが起きたために、従来例1のタイミングよりも早い時点で投入電力を低下させたチャージがあり、これらのチャージにおいて出鋼時の溶鋼温度が高くなり、そのため、平均温度を押し上げたためと推測された。また、発明例1では、投入電力量が全チャージ平均で465kWhとなり、従来例1に比べて投入電力量が低減した。
【0097】
発明例1の結果を受けて、発明例2では、従来例1のタイミングよりも早い時点で投入電力を低下させたチャージにおいては、切替タイミング後の操業時間を短縮した。その結果、図7(c)に示すように、出鋼時の溶鋼温度が1520℃~1650℃程度となり、従来例1に比べてばらつきの幅が小さくなった。また、図8(c)に示すように、MgOの溶出量もばらつき幅も従来例1に比べて小さくなった。更に、全チャージの溶鋼温度の平均値が1589℃となり、ほぼ目標通りの温度になった。また、発明例2では、投入電力量が全チャージ平均で459kWhとなり、従来例1に比べて投入電力量が低減した。更に、MgO溶出量も全チャージ平均で524kg/chとなり、従来例1の591kg/chに比べて低減した。
【符号の説明】
【0098】
1…電気炉、2…炉本体、3…電極、4…水冷パネル、5…測定部、5a…給水温度計、5b…排水温度計、5c…計算部、6…判定部、7…出力部、8…電極用電源、21…側壁部、22…炉底部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8