(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-02
(45)【発行日】2024-05-14
(54)【発明の名称】封止構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/56 20060101AFI20240507BHJP
【FI】
H01L21/56 R
(21)【出願番号】P 2020137441
(22)【出願日】2020-08-17
【審査請求日】2023-06-06
(31)【優先権主張番号】P 2019153104
(32)【優先日】2019-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000214250
【氏名又は名称】ナガセケムテックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大井 陽介
【審査官】正山 旭
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-019503(JP,A)
【文献】特開2009-021344(JP,A)
【文献】特開2000-332034(JP,A)
【文献】特開2000-277547(JP,A)
【文献】特開2003-324115(JP,A)
【文献】特開2018-170316(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、液状の硬化性樹脂組成物と、を準備する第1工程と、
前記硬化性樹脂組成物で前記基板を封止して前記基板と前記硬化性樹脂組成物の硬化物とを含む封止体を形成する第2工程と、を含み、
前記第2工程は、
前記硬化性樹脂組成物を前記基板に印刷して前記基板を前記硬化性樹脂組成物の第1被膜で覆う印刷工程と、
前記硬化性樹脂組成物の第1被膜を金型の押圧面で覆って、前記第1被膜を前記基板とともに圧縮成形して前記第1被膜から第2被膜を形成する成形工程と、を備え、
前記第1被膜の前記基板に対する投影面積S1と、前記第2被膜の前記基板に対する投影面積S2との比:S1/S2が
、0.9≦S1/S2<1を満たす、封止構造体の製造方法。
【請求項2】
基板と、液状の硬化性樹脂組成物と、を準備する第1工程と、
前記硬化性樹脂組成物で前記基板を封止して前記基板と前記硬化性樹脂組成物の硬化物とを含む封止体を形成する第2工程と、を含み、
前記第2工程は、
前記硬化性樹脂組成物を前記基板に印刷して前記基板を前記硬化性樹脂組成物の第1被膜で覆う印刷工程と、
前記硬化性樹脂組成物の第1被膜を
、前記第1被膜に突入する凸形状を有さない金型の押圧面で覆って、
側面が解放された状態の前記第1被膜を前記基板とともに圧縮成形して前記第1被膜から第2被膜を形成する成形工程と、を備え、
前記第1被膜の前記基板に対する投影面積S1と、前記第2被膜の前記基板に対する投影面積S2との比:S1/S2が0.9以上である、封止構造体の製造方法。
【請求項3】
前記第2被膜の最大長L(mm)の前記第2被膜の最大厚みT(mm)に対する比:L/Tが、653より大きい、請求項1
または2に記載の封止構造体の製造方法。
【請求項4】
前記比L/Tは、720以上である、請求項
3に記載の封止構造体の製造方法。
【請求項5】
前記第2被膜の最大厚みTは、0.4mm以下である、請求項1~
4のいずれか1項に記載の封止構造体の製造方法。
【請求項6】
前記印刷工程を、減圧下で行う、請求項1~5のいずれか1項に記載の封止構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、封止構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体製品の薄型化、小型化が求められており、パネルレベルパッケージ(PLP)およびウエハレベルパッケージ(WLP)といわれるパッケージ技術が注目されている。これらのパッケージ技術では、パネルやウエハ上に配置又は形成された複数の半導体素子が、樹脂封止材で一括に封止される。
【0003】
樹脂封止材としては、封止方法に応じて、タブレット状、粒状、シート状、液状などの封止材が選択される。中でも、薄型化や小型化が容易で、様々な実装形態に適用し易い観点から、液状の樹脂封止材(硬化性樹脂組成物など)が広く利用されている。液状の樹脂封止材は、一般に、塗布または印刷などを利用して基板に適用される(特許文献1~3など)。また、液状の樹脂封止材を用いて圧縮成形により封止が行われることもある(特許文献4など)。
【0004】
なお、タブレット状の封止材は、通常、トランスファー成形によって任意の形態を有するキャビティ内に充填されるが、成形部を薄くする場合、流動圧によって内部素子の破壊や、金属ワイヤーの変形もしくは断線を生じることがあり、問題となっていた。また、粒状の封止材は一般に圧縮成形されるが、成形部を薄くする場合に顆粒サイズを小さくする必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-118189号公報
【文献】特開2018-170316号公報
【文献】特開2006-13274号公報
【文献】特開2015-5611号公報
【文献】特開2002-76034号公報
【文献】特開2005-19503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
液状の硬化性樹脂組成物を基板上で圧縮成形すると、基板上に広がる際に硬化性樹脂組成物に含まれる成分の分布に偏りが生じ、フローマークが発生することがある。また、印刷により硬化性樹脂組成物を基板上に塗布すると、硬化性樹脂組成物の被膜の厚みのばらつきが大きくなることがある。
【0007】
中でもフローマークは、基板の面積が広く、かつ基板を覆う硬化性樹脂組成物の被膜の厚みが薄いほど発生しやすい。これは、基板の面積が広いほど硬化性樹脂組成物の流動長が長くなり、硬化性樹脂組成物の被膜の厚みが薄いほど硬化性樹脂組成物の流動性が制限されやすいからである。被膜の薄型化を図りつつフローマークの問題を解消するには一旦厚みのある被膜を形成した後で研磨工程に供する方法も考えられるが、研磨工程に手間とコストを要し、問題がある。
【0008】
硬化性樹脂組成物の被膜の厚みのばらつきが大きくなる問題に対して、塗布または印刷で形成した樹脂封止材の層を、平板で押さえて表面を平滑化する技術も検討されている(特許文献5および6)。しかしながら、印刷または塗布により形成した被膜を平板で押圧する場合でも、押圧により硬化性樹脂組成物が広がる間に成分の分布の偏りが生じ、フローマークが生じ得る。特に、基板の面積が広く、かつ基板を覆う硬化性樹脂組成物の被膜の厚みが薄い場合には、フローマークの発生が顕著になり得る。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一側面は、基板と、液状の硬化性樹脂組成物と、を準備する第1工程と、前記硬化性樹脂組成物で前記基板を封止して前記基板と前記硬化性樹脂組成物の硬化物とを含む封止体を形成する第2工程と、を含み、前記第2工程は、前記硬化性樹脂組成物を前記基板に印刷して前記基板を前記硬化性樹脂組成物の第1被膜で覆う印刷工程と、前記硬化性樹脂組成物の第1被膜を金型の押圧面で覆って、前記第1被膜を前記基板とともに圧縮成形して前記第1被膜から第2被膜を形成する成形工程と、を備え、前記第1被膜の前記基板に対する投影面積S1と、前記第2被膜の前記基板に対する投影面積S2との比:S1/S2が0.9以上である、封止構造体の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
液状の硬化性樹脂組成物を用いる基板の封止において、研磨工程に供さずとも、硬化性樹脂組成物の被膜の厚みのばらつきおよび硬化性樹脂組成物の成分の分布のばらつきを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る実装構造体の製造方法の印刷工程のフロー図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る実装構造体の製造方法の成形工程のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
半導体素子または電子部品などを備える基板の封止において、印刷法により液状の硬化性樹脂組成物を用いる場合、まず、スキージなどにより基板上に硬化性樹脂組成物が塗り広げられる。次いで、形成された硬化性樹脂組成物の被膜を硬化することにより封止が行われる。しかし、印刷法では、硬化性樹脂組成物がスキージなどにより塗り広げられる際の抵抗や流動の乱れにより、被膜の厚みのばらつきが大きくなる。
【0013】
一方、印刷により形成された硬化性樹脂組成物の被膜を、平板で押圧すると、被膜の厚みのばらつきをある程度抑制できる。しかし、硬化性樹脂組成物が押圧により基板の表面に広がる間に、被膜中の固形成分の分布にばらつきが生じることがある。このような固形成分の偏在はフローマークとして観察される。フローマークは、例えば、被膜の周縁部にフィラーなどの固形成分が偏在することで形成される。フローマークは、被膜もしくは封止体の外観を損なうとともに、封止体の反り等の原因にもなる。
【0014】
以上に鑑み、本発明の実施形態に係る封止構造体の製造方法は、基板と、液状の硬化性樹脂組成物とを準備する第1工程と、硬化性樹脂組成物で基板を封止して基板と硬化性樹脂組成物の硬化物とを含む封止体を形成する第2工程とを含み、第2工程は、基板を硬化性樹脂組成物の第1被膜で覆う印刷工程と、第1被膜を基板とともに圧縮成形して第1被膜から第2被膜を形成する成形工程とを備え、かつ第1被膜の基板に対する投影面積S1と、第2被膜の基板に対する投影面積S2との比:S1/S2が0.9以上に制限されている。なお、封止構造体とは、封止体を更に加工したものでもよいが、封止体も包含する概念である。
【0015】
なお、第1もしくは第2被膜の基板に対する投影面積S1もしくはS2とは、各被膜を基板の表面に対して投影したときの面積である。基板の表面において複数の被膜が形成されている場合には、全ての被膜の基板の表面に対する投影面積の合計をS1もしくはS2とする。
【0016】
このように、印刷工程と成形工程とを組み合わせるとともに、S1/S2比を0.9以上とすることにより、第2被膜の厚みのばらつきを抑制できるとともに、圧縮成形により硬化性樹脂組成物が基板の表面に広がる間に硬化性樹脂組成物中の固形成分の分布にばらつきが生じることを抑制できる。これは、主に第1被膜を構成する硬化性樹脂組成物の流動長が短くなるためと考えられる。よって、第2被膜において固形成分の偏在によるフローマークの発生を抑制できる。
【0017】
例えば、第2被膜の最大長Lが212mmより大きい場合でもフローマークの発生を抑制できる。このような効果は、最大長Lが、250mm以上または280mm以上と大きくても得られる。最大長Lは、特に限定されないが、例えば、294mm未満であってもよい。
【0018】
第2被膜の最大長Lの第2被膜の最大厚みTに対する比(=L/T)は、653より大きいことが好ましく、720以上がより好ましい。固形成分の偏在およびそれに伴うフローマークの発生は、特に、硬化性樹脂組成物を薄く塗布したり、広範囲に塗布したりする際に顕著になりやすい。L/T比が上記のような範囲である場合、従来の圧縮成形により封止を行うと、硬化性樹脂組成物に含まれる成分の偏在およびそれに伴うフローマークの発生が顕著になる。これに対し、本発明の実施形態に係る製造方法によれば、成分の偏在が生じ易い条件下であっても、S1/S2比を上記範囲とすることで、成分の偏在が抑制され、フローマークの発生を効果的に抑制できる。S1/S2比は、より大きくてもよく、例えば0.95以上であってもよい。ただし、S1/S2比が1に近すぎると、成形時に樹脂漏れが発生することがあるため、S1/S2比を0.99以下に設定してもよく、0.98以下に設定してもよい。
【0019】
第2被膜の最大長Lとは、第2被膜の基板に対する投影形状における最大長(mm)である。すなわち、最大長Lは、第2被膜を上面から見たときに最も長い部分の長さである。例えば、第2被膜を上面から見たときの形状が長方形の場合には、対角線の長さが最大長Lである。また、第2被膜を上面から見たときの形状が楕円や円に類似する形状の場合には、最大径が最大長Lである。
【0020】
なお、基板の表面において複数の第2被膜が形成されている場合には、全ての第2被膜を基板の表面に対して投影したときに、投影された複数の第2被膜全体を囲むとともに最小面積を囲む1つの仮想枠線の形状における最大長(mm)をLとする。
【0021】
第2被膜の最大厚みTとは、封止体において、基板の表面に形成された硬化性樹脂組成物の硬化物(もしくは半硬化物(Bステージ))の基板表面からの厚み(すなわち最大値)である。基板上の複数箇所(例えば10箇所)で第2被膜の基板表面からの厚みを測定し、平均値を求めればよい。
【0022】
第2被膜の最大厚みTは、例えば、0.4mm以下(すなわち400μm以下)であってもよい。このように薄い被膜を形成する場合、通常は、液状の硬化性樹脂組成物の流動性は制限されやすく、印刷と圧縮成形とを組み合わせる場合でも、第2被膜において固形成分の偏在によるフローマークが発生しやすくなる。一方、S1/S2比を0.9以上に制限する場合には、非常に薄い第2被膜を形成する場合でもフローマークを顕著に抑制できるようになる。
【0023】
印刷工程では、空気の巻き込みにより、第1被膜中にボイドが形成されることがある。よって、印刷工程は、減圧下(例えば300hPa以下)で行うことが望ましい。
【0024】
圧縮成形を減圧下(例えば10hPa以下)で行ってもよい。これにより、印刷工程で第1被膜にボイドが形成された場合でも、圧縮成形の際にボイドを減少させ、ボイドのほとんどを消失させることができる。
【0025】
以下、本発明の一実施形態に係る実装構造体の製造方法について、更に具体的に説明する。
【0026】
(第1工程)
第1工程では、電子部品等を備える基板を準備するとともに、液状の硬化性樹脂組成物を準備する。
【0027】
基板とは、例えば、半導体素子、電子部品などを備える基板をいう。基板には、ウエハ、パネル、ガラス基板、樹脂基板、プリント配線基板等が包含される。ウエハとしては、シリコンウエハ、サファイアウエハ、化合物半導体ウエハなどが挙げられる。樹脂基板としては、ビスマレイミドトリアジン基板、ポリイミド基板、フッ素樹脂基板などが挙げる。
【0028】
基板は、電子部品の集合体であってもよい。電子部品の集合体は、例えば、複数に個片化される前の半導体チップの集合体が挙げられる。本発明に係る製造方法で製造される封止構造体には、例えば、ウエハレベルパッケージ(WLP)もしくはパネルレベルパッケージ(PLP)といったパッケージも包含される。
【0029】
特に、PLP、WLPといったパッケージ用途では、液状の硬化性樹脂組成物を大面積のウエハやパネルの表面に薄く均一に塗布することが求められる。本発明の実施形態に係る製造方法によれば、このようなパッケージ用途に用いても、第2被膜の厚みのばらつきを抑制できるとともに、広い面積でフローマークの発生を効果的に抑制することができる。
【0030】
(硬化性樹脂組成物)
硬化性樹脂組成物としては、液状のものが用いられる。液状の硬化性樹脂組成物は、室温(20~35℃)で流動性を有する。硬化性樹脂組成物には、通常、固形成分が含まれる。固形成分が硬化性樹脂組成物に含まれる場合、固形成分の分布のばらつきが生じやすく、フローマークが発生し易い。
【0031】
固形成分は、無機材料および有機材料のいずれであってもよい。硬化性樹脂組成物中に分散した固形成分は、粒子状、板状および繊維状などのいずれであってもよい。通常、封止構造体に用いる液状の硬化性樹脂組成物には、無機粉体がフィラーとして含まれている。
【0032】
硬化性樹脂組成物は、例えば、硬化性樹脂と、フィラーと、硬化剤および/または硬化促進剤などとを含む。硬化性樹脂組成物は、熱硬化性および光硬化性のいずれであってもよいが、以下では主に熱硬化性樹脂組成物について説明する。
【0033】
硬化性樹脂組成物は、必須成分(主材)として硬化性樹脂を含む。硬化性樹脂は、特に限定されないが、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタンなどを主剤として含むことができる。これらのうちでは、特にエポキシ樹脂が耐熱性やコストの点で優れている。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
エポキシ樹脂としては、特に限定されないが、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ポリエーテル型エポキシ樹脂、シリコーン変性エポキシ樹脂等を用いることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらのうちでは、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂が好ましく、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂がより好ましく、ナフタレン型エポキシ樹脂が耐湿性の点でさらに好ましい。
【0035】
フェノール樹脂としては、特に限定されないが、フェノールノボラック樹脂が好ましい。フェノールノボラック樹脂は、フェノール類またはナフトール類(例えば、フェノール、クレゾール、ナフトール、アルキルフェノール、ビスフェノール、テルペンフェノール、ナフトール等)と、ホルムアルデヒドとを、縮合重合させたものである。より具体的には、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、アラルキルフェノールノボラック樹脂、ビフェニルフェノールノボラック樹脂、テルペンフェノールノボラック樹脂、α-ナフトールノボラック樹脂、β-ナフトールノボラック樹脂等が挙げられる。これらのうち耐水性の観点からは、ナフトールノボラック樹脂が好ましい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0036】
エポキシ樹脂の硬化剤としては、上記のフェノール樹脂の他に、酸無水物、アミン化合物などを用いることができる。酸無水物としては、特に限定されないが、例えば、ヘキサヒドロ無水フタル酸、アルキルヘキサヒドロ無水フタル酸、アルキルテトラヒドロ無水フタル酸、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、メチルノルボルナン-2,3-ジカルボン酸を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0037】
アミン化合物としては、特に限定されないが、例えば、テトラメチルジアミノジフェニルメタン、テトラエチルジアミノジフェニルメタン、ジエチルジメチルジアミノジフェニルメタン、ジメチルジアミノトルエン、ジアミノジブチルトルエン、ジアミノジプロピルトルエン、ジアミノジフェニルスルホン、ジアミノジトリルスルホン、ジエチルジアミノトルエン、ビス(4-アミノー3-エチルフェニル)メタン、ポリテトラメチレンオキシド-ジ-p-アミノベンゾエート等を用いることができる。
【0038】
硬化促進剤としては、特に限定されないが、イミダゾール系促進剤、リン系硬化促進剤、ホスホニウム塩系硬化促進剤、双環式アミジン類とその誘導体、有機金属錯体、ポリアミンの尿素化物等が挙げられる。硬化促進剤は、潜在性を有することが好ましく、潜在性硬化促進剤としては、例えば、イミダゾール系促進剤、リン系促進剤等が挙げられる。潜在性硬化促進剤の中でも、カプセル化されたイミダゾール変性物(マイクロカプセル型硬化促進剤)が特に好ましい。
【0039】
フィラーとしては、シリカ(例えば、溶融シリカ、結晶シリカ)、石英ガラス粉末、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウムなどを用いることができる。これらのうちでは、シリカが好ましく、溶融シリカがより好ましい。
【0040】
硬化性樹脂組成物中のフィラーの含有量は、特に制限されないが、例えば、50質量%以上(または60質量%以上)、特に70質量%以上(または80質量%以上)になると、従来の方法では、フローマークが特に顕著になり易い。本発明の実施形態に係る製造方法では、フィラーなどの固形成分の含有量がこのように多くても、フローマークの発生を効果的に抑制することができる。硬化性樹脂組成物中の固形成分の含有量の上限は、特に制限されないが、例えば、95質量%以下であってもよく、93質量%以下であってもよく、90質量%以下であってもよい。
【0041】
フィラーの平均粒子径は、例えば、1μm以上であり、5μm以上であってもよい。フィラーの平均粒子径が10μm以上または15μm以上と比較的大きい場合には、通常、広い面積においてフローマークの発生を抑制することは難しい。本発明の実施形態に係る製造方法によれば、フィラーの平均粒子径が大きい場合であっても、被膜の広い面積でフローマークの発生を抑制できる。フィラーの平均粒子径は、例えば、75μm以下であればよく、50μm以下でもよく、30μmでもよく、25μm以下でもよい。
【0042】
平均粒子径は、体積粒度分布の累積体積50%における粒径(D50)である。平均粒子径(D50)は、レーザー回折式の粒度分布測定装置を用いて、レーザー回折散乱法によって測定することができる。
【0043】
硬化性樹脂組成物には、さらに添加剤が含まれていてもよい。添加剤としては、例えば、シランカップリング剤、カーボンブラック、消泡剤、レベリング剤、顔料、応力緩和剤、プレゲル化剤、イオンキャッチャーなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0044】
硬化性樹脂組成物の25℃における粘度は、例えば、10Pa・s以上であり、1000Pa・s以上であってもよいが、比較的高い粘度の場合、固形成分が凝集し易く、従来の方法では、フローマークが特に顕著になり易い。本発明の実施形態に係る製造方法では、このような場合であっても固形成分の分布のばらつきを抑制できる。硬化性樹脂組成物の粘度は、例えば、1000Pa・s以下であり、800Pa・s以下であり、300Pa・s以下であってもよく、100Pa・s以上であってもよく、250Pa・s以上であってもよい。これらの上限と下限は任意に組み合わせ得る。
【0045】
上記粘度は、例えば、コーンプレート型のE型粘度計を用いて、10rpmの回転速度で測定したものとすることができる。
【0046】
なお、硬化性樹脂組成物の組成は、上記に限定されるものではない。また、硬化性樹脂組成物は、一液硬化型であってもよく、二液硬化型であってもよい。
【0047】
(第2工程)
図1、2を参照しながら、第2工程について説明する。第2工程は、基板を硬化性樹脂組成物の第1被膜で覆う印刷工程と、第1被膜を基板とともに圧縮成形して、第1被膜から第2被膜を形成する成形工程とを備える。
【0048】
(印刷工程)
印刷工程では、硬化性樹脂組成物20が、複数の半導体素子11を具備する基板10に印刷される。例えば、
図1(a)に示すように、孔版30とスキージ40を用いる孔版印刷(スクリーン印刷など)により第1被膜21を形成することができる。第1被膜21は、
図1(b)に示すように、半導体素子11とともに基板10の表面の大半を覆うことが望ましく、基板10の表面の全体を覆ってもよい。また、
図1(c)に示されるように、基板の外周部に第1被膜21を有さない非塗布領域10aを設けてもよい。第1被膜21が形成された基板10は、
図1(c)に示すように、孔版30から外されて、次の成形工程へ送られる。
【0049】
印刷工程では、固形成分の凝集を抑制しながら大面積の基板に硬化性樹脂組成物20を塗り広げることができる。ただし、印刷工程では、硬化性樹脂組成物20をスキージ40で塗り広げるため、第1被膜21の厚みのばらつきは大きくなる。
【0050】
スキージ40の速度は、例えば、10mm/秒以上であり、20mm/秒以上または30mm/秒以上であってもよい。スキージの速度がこのような範囲である場合、固形成分の凝集をより効果的に抑制することができ、より広い面積においてもフローマークの発生を抑制しやすくなる。
【0051】
印刷で形成される第1被膜の最大厚みtは、例えば、0.5mm以下であり、0.4mm以下であってもよく、0.3mm以下、0.2mm以下または0.15mm以下であってもよい。第1被膜の最大厚みtの下限は、例えば、0.01mm以上である。第1被膜の最大厚みtとは、印刷された塗膜の基板表面からの厚み(すなわち最大値)である。基板上の複数箇所(例えば10箇所)で第1被膜の基板表面からの厚みを測定し、平均値を求めればよい。
【0052】
印刷工程は、大気圧下で行ってもよく、減圧下(300hPa未満、更には100hPa未満の気圧下)で行ってもよい。減圧下で行うことにより、被膜中のボイドの形成を抑制できる。
【0053】
基板の片面あたり、硬化性樹脂組成物により封止される領域の面積は、基板の投影面積の例えば90%以上であればよく、例えば98%以下であってもよい。また、封止体は、基板の片面だけを封止した片面封止体であってもよく、両面を封止した両面封止体であってもよい。
【0054】
(成形工程)
図2(d)に示すように、成形工程では、第1被膜21を有する基板10が圧縮成形機50にセットされる。圧縮成形機50は、上金型51と、下金型52と、上金型51にバネなどの弾性部材を介して固定されたフランジ部53とを有し、上金型51は、第1被膜21を押圧する平坦な押圧面51aを有する。
図2(e)に示すように、第1被膜21を押圧面51aで覆い、第1被膜21を基板10とともに圧縮することで、第1被膜21が圧縮され、第2被膜22(
図2(f))が形成される。このとき、第1被膜21を有さない基板10の非塗布領域10aにフランジ部53を押し当ててもよい。この場合、第1被膜21を形成する硬化性樹脂組成物20は、フランジ部53に達するまで濡れ広げられる。その際、押圧面51aが平坦であるため、第1被膜21の厚みのばらつきは改善される。すなわち、厚みのばらつきの小さい第2被膜22が得られる。なお、ここでは図示しないが、上金型51およびフランジ部53を剥離フィルムで覆った状態で成形工程を行ってもよい。
【0055】
ここで、第1被膜21の圧縮の程度を制御することが重要である。第1被膜21の基板10に対する投影面積S1と、第2被膜22の基板10に対する投影面積S2との比:S1/S2を0.9以上に制限することで、第1被膜21を構成する硬化性樹脂組成物20の流動長が短くなり、固形成分の偏在が抑制される。よって、第2被膜22においてフローマークの発生を抑制できる。なお、S1/S2比が0.9未満では、例えば、第1被膜21が0.4mm以下と薄い場合や、硬化性樹脂組成物の粘度が高い場合、もしくは硬化性樹脂組成物中のフィラー含有量が高い場合には、フローマークを抑制することが困難となり得る。
【0056】
成形工程は、大気圧下で行ってもよく、減圧下(10hPa未満の気圧下)で行ってもよい。減圧下で行うことにより、第2被膜中のボイドの形成を抑制できる。成形工程を減圧下で行う場合、
図2(d)に示されるように圧縮成形機50の内部が開放された状態で、圧縮成形機50が設置されている空間から空気を吸引すればよい。
【0057】
第2被膜の最大厚みTは、例えば、0.4mm以下であり、0.3mm以下であってもよく、0.2mm以下、0.15mm以下または0.1mm以下であってもよい。第2被膜の最大厚みの下限は、例えば、0.01mm以上である。
【0058】
成形工程は、金型を加熱しながら行ってもよい。すなわち、硬化性樹脂組成物の硬化反応を進行させつつ圧縮成形を行ってもよい。これにより、基板10が硬化物(もしくは半硬化物)の第2被膜22で封止された封止体(もしくは封止構造体)100が得られる。加熱温度は、例えば、80~200℃であり、100~180℃であってもよい。加熱時間は、例えば、30秒~30分であり、2分~10分であってもよい。また、圧縮成形機50から搬出された封止体100に対し、さらに、ポストモールドキュア(後硬化)を行ってもよい。ポストモールドキュアは、例えば、100~180℃で、30分~2時間程度行えばよい。
【0059】
[実施例]
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0060】
《実施例1》
熱硬化性樹脂(主材)であるナフタレン型エポキシ樹脂100質量部と、硬化剤である酸無水物120質量部と、硬化促進剤であるイミダゾール変性物25質量部と、フィラーである球状溶融シリカ(平均粒径21μm)2060質量部と、シランカップリング剤2質量部とを混合することにより熱硬化性樹脂組成物を調製した。
【0061】
コーンプレート型のE型粘度計(TVE-20H、東機産業(株))を用いて、25℃にて、10rpmの回転速度で熱硬化性樹脂組成物の粘度を測定したところ、600Pa・sであった。
【0062】
(印刷工程)
直径300mm、厚み775μmのシリコンウエハ基板に、厚みT=0.1~0.4mmの第2被膜が得られるように計量した上記熱硬化性樹脂組成物を印刷し、表1に示す投影面積S1を有する第1被膜を形成した。
【0063】
(成形工程)
次に、圧縮成形機の圧力を制御しながら第1被膜を圧縮し、表1に示す投影面積S2を有し、かつ表1に示すL/T比を有する第2被膜を成形した。圧縮成形の際、金型を125℃に加熱し、10分かけて熱硬化性樹脂組成物を硬化させた。
【0064】
なお、第2被膜の最大長Lは294mmである。また、第2被膜は圧縮成形機の押圧面の全体に広がるように設計されており、押圧面の基板への投影面積(678.8cm)と第2被膜の投影面積S2とは一致する。
【0065】
(外観観測)
第2被膜のフローマークの有無を観察し、フローマークによる外観不良の無い良好な部位の最大長(流動長)Mを求めた。フローマークが観測されない場合には、最大長M=最大長L=294mmとした。結果を表1に示す。なお、S1/S2比が0.7または0.8の例は比較例である。
【0066】
【0067】
表1の結果より、フローマークが観測されない外観の良好な第2被膜を得るには、S1/S2比を0.9以上とすることが重要であることが理解できる。また、第2被膜の厚みTが小さいほど、S1/S2比が0.9未満の場合に、外観不良の無い良好な部位の最大長(流動長)Mが短くなることが理解できる。
【0068】
《実施例2》
次に、S1/S2比を0.95に固定したこと以外、実施例1と同様に、印刷により第1被膜を形成し、続いて、圧縮成形により、表2に示す厚みTとL/T比を有する第2被膜を成形した。ただし、ここでは、第2被膜の厚みTを10箇所で厳密に測定し、厚みTの標準偏差σを求めた。結果を表2に示す。
【0069】
【0070】
《比較例1》
印刷を行わず、ポッティングにより、熱硬化性樹脂組成物を基板に塗布し、その後、圧縮成形を行ったこと以外、実施例2と同様に、第2被膜を成形し、同様に評価した。結果を表2に示す。
【0071】
《比較例2》
圧縮成形を行わず、印刷により形成した第1被膜をそのまま加熱し、硬化させたこと以外、実施例2と同様に、第2被膜(第1被膜の硬化物)を成形し、同様に評価した。結果を表2に示す。
【0072】
表2において、実施例2と比較例1とを対比すると、印刷を行わなかった比較例1では、実施例2に比べ、外観不良の無い良好な部位の最大長(流動長)Mが非常に短くなることがわかる。また、実施例2と比較例2とを対比すると、圧縮成形を行わなかった比較例2では、実施例2に比べ、厚みTの標準偏差σが顕著に大きくなることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明に係る封止構造体の製造方法は、液状の硬化性樹脂組成物を用いて基板(特に、PLPやWLPなどのパッケージ)を封止する実装構造体の製造方法において有用であり、基板に厚みが均一でフローマークのない外観の良好な硬化性樹脂組成物の硬化物の被膜を形成することができるようになる。
【符号の説明】
【0074】
10:基板、10a:非塗布領域、11:半導体素子、20:硬化性樹脂組成物、21:第1被膜、22:第2被膜、30:孔版、40:スキージ、50:圧縮成形機、51:上金型、51a:押圧面、52:下金型、53:フランジ部、100:封止体