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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-02
(45)【発行日】2024-05-14
(54)【発明の名称】工作機械
(51)【国際特許分類】
   B23Q 5/04 20060101AFI20240507BHJP
   B23B 41/02 20060101ALI20240507BHJP
   B23Q 17/00 20060101ALI20240507BHJP
   B23B 43/00 20060101ALI20240507BHJP
   B23Q 11/10 20060101ALN20240507BHJP
【FI】
B23Q5/04 520C
B23B41/02
B23Q17/00 A
B23B43/00
B23Q11/10 D
B23Q17/00 D
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020151224
(22)【出願日】2020-09-09
(65)【公開番号】P2022045563
(43)【公開日】2022-03-22
【審査請求日】2023-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003458
【氏名又は名称】芝浦機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】市岡 大志
(72)【発明者】
【氏名】杉山 武史
(72)【発明者】
【氏名】加藤 孝一
【審査官】山本 忠博
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-037025(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 5/04,11/10,17/00;
B23B 41/02,43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ツールホルダを介して工具が装着された主軸と、前記主軸を回転自在に支持する主軸ヘッドと、前記主軸を三次元移動させる機構部と、前記機構部および前記主軸を制御する制御装置と、を有し、
前記ツールホルダは、前記主軸ヘッドに接続可能な固定ケースと、前記固定ケースに回転自在に保持されかつ前記主軸に接続可能なシャンク部と、前記固定ケースに回転自在に接続されかつ前記シャンク部の回転軸と交差する回動軸まわりに回動可能な回動ケースと、前記回動ケースに回転自在に保持されかつ工具を装着可能なチャック部と、前記チャック部と前記シャンク部とを連結しかつ中間が屈曲可能なジョイント部と、前記回動ケースと前記固定ケースとの角度位置を検出する角度センサと、前記回動ケースを前記固定ケースに対して回動させる角度調整モータと、を有し、
前記制御装置は、穴開け加工時に前記機構部から穴深さを取得するとともに、前記角度センサから前記穴深さごとの傾斜角度を検出して記録する角度記録部と、前記角度記録部による傾斜角度の記録に基づいて前記角度調整モータを操作して前記工具の傾斜角度を調整する角度調整部と、を有する工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
3軸移動の工作機械を用いてワークに任意の角度の傾斜穴を加工する技術が、本願出願人により開発されている(特許文献1参照)。
特許文献1の方法では、3軸移動の工作機械に、自在継手部を有する専用のツールホルダを介してドリルを装着し、ワーク表面の穴開け位置にドリルで凹部を形成したのち、ツールホルダを回転軸と交差方向へ平行移動させ、自在継手部を屈曲させて凹部との間でツールを傾斜状態とし、その傾斜方向にドリルを送って傾斜した穴を加工する。
この加工方法によれば、3軸移動の工作機械に専用のツールホルダを追加するだけで、従来は多軸工作機械に限られていた任意角度の傾斜穴開け加工が可能となる。
【0003】
ワークに対する穴開け加工として深穴加工がある。深穴加工には、長尺のガンドリルおよび専用の深穴加工機が用いられる(特許文献2参照)。さらに、汎用の工作機械にガンドリルを装着して深穴加工を行うことも行われている。
前述した特許文献1の加工方法にガンドリルを併用することで、ワークに傾斜した深穴加工が可能である。
【0004】
多くの工作機械では、主軸の軸心に形成されたセンタースルーホールを通してクーラントおよびエアを供給可能である。主軸から供給されるクーラントは、センタースルー対応のツールホルダおよびツールを通してツールの刃先へと供給される(特許文献3参照)。
とくに、深穴加工を行う際には、切削加工がワークの深い部位で行われるため、ガンドリルを通してのクーラント供給を行うことが好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許4063460号公報
【文献】特開平04-111708号公報
【文献】特開2005-246546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述した特許文献1のツールホルダにガンドリルを装着することで、通常の3軸移動の工作機械を用いて、ワークの表面から任意の傾斜角度の深穴加工を行うことができる。
特許文献1のツールホルダを用いた傾斜穴開け加工では、工作機械側の送り制御により、穴開け軸線の精度を確保している。
しかし、ガンドリルを用いる場合、長尺のガンドリルの先端側がワークの加工反力などにより回転軸線交差方向に変位し、ツールホルダに支持された基端側に対して振れを生じ、傾斜角度の変動が生じる可能性があった。
【0007】
本発明の目的は、ワークの表面から任意の傾斜角度の深穴加工を高精度に行うことができる工作機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のツールホルダは、主軸を回転自在に支持する主軸ヘッドを有する工作機械に装着可能なツールホルダであって、前記主軸ヘッドに接続可能な固定ケースと、前記固定ケースに回転自在に保持されかつ前記主軸に接続可能なシャンク部と、前記固定ケースに回転自在に接続されかつ前記シャンク部の回転軸と交差する回動軸まわりに回動可能な回動ケースと、前記回動ケースに回転自在に保持されかつ工具を装着可能なチャック部と、前記チャック部と前記シャンク部とを連結しかつ中間が屈曲可能なジョイント部と、を有する。
【0009】
このような本発明では、深穴加工用のガンドリルなどの工具をチャック部に装着するとともに、シャンク部を主軸に装着し、固定ケースを主軸ヘッドに接続させる。この状態で、主軸ヘッドに対して主軸を回転させることで、シャンク部からジョイント部およびチャック部を経て工具が回転される。
チャック部は回動ケースに保持され、回動ケースを固定ケースに対して回動させて任意の角度で配置できる。この回動ケースの角度により、チャック部とシャンク部とが互いに傾斜角度に配置される。これらのチャック部とシャンク部とは、任意の傾斜角度であっても、ジョイント部により回転が伝達され、傾斜穴開け加工が可能である。
加工の際には、とくにガンドリルによる深穴加工など、工具の軸線方向を曲げるようなワークの反力が生じる。しかし、チャック部は回動ケースによって保持され、回動軸線が安定に維持される。その結果、深穴加工を行う際にも高精度を確保することができる。
【0010】
本発明のツールホルダにおいて、前記ジョイント部を貫通して前記シャンク部から前記チャック部まで連通するクーラント通路を有することが好ましい。
このような本発明では、主軸のセンタースルーホールからのクーラントをシャンク部で受け、ジョイント部を経てチャック部へ通し、ガンドリルに供給することができ、深穴加工におけるクーラント供給を確保することができる。
【0011】
本発明のツールホルダにおいて、前記回動ケースおよび前記固定ケースのいずれか一方に外部から視認可能な角度目盛を有し、前記回動ケースおよび前記固定ケースのいずれか他方に前記角度目盛に沿って移動する指示部を有することが好ましい。
このような本発明では、指示部から角度目盛の数値を読み取ることで、回動ケースと固定ケースとの角度位置、つまりシャンク部とチャック部との各軸線の傾斜角度を把握することができる。
【0012】
本発明のツールホルダにおいて、前記回動ケースおよび前記固定ケースのいずれか一方に、前記回動ケースと前記固定ケースとの角度位置を検出する角度センサを有することが好ましい。
このような本発明では、角度センサの出力値から、回動ケースと固定ケースとの角度位置、つまりシャンク部とチャック部との各軸線の傾斜角度を検出することができる。そして、工作機械の制御装置に角度センサを接続すれば、制御装置から工具の回転軸線の傾斜を検出可能となる。
【0013】
本発明のツールホルダにおいて、前記回動ケースおよび前記固定ケースのいずれか一方に、前記角度センサで検出した前記回動ケースと前記固定ケースとの角度位置を表示する角度表示器を有することが好ましい。
このような本発明では、角度表示器の表示を読み取ることで、角度センサで検出された回動ケースと固定ケースとの角度位置、つまりシャンク部とチャック部との各軸線の傾斜角度を把握することができる。
【0014】
本発明のツールホルダにおいて、前記回動ケースおよび前記固定ケースのいずれか一方に、前記回動ケースを前記固定ケースに対して回動させる角度調整モータを有することが好ましい。
このような本発明では、角度調整モータを用いて回動ケースと固定ケースとの角度位置、つまりシャンク部とチャック部との各軸線の傾斜角度を調整することができる。したがって、工作機械の制御装置に角度調整モータを接続すれば、制御装置から工具の回転軸線の傾斜を操作可能となる。
【0015】
本発明の工作機械は、本発明のツールホルダを介して工具が装着された主軸と、前記主軸を三次元移動させる機構部と、前記機構部および前記主軸を制御する制御装置と、を有し、前記ツールホルダは、前記回動ケースと前記固定ケースとの角度位置を検出する角度センサを有し、前記制御装置は、穴開け加工時に前記機構部から穴深さを取得するとともに、前記角度センサから前記穴深さごとの傾斜角度を検出して記録する角度記録部を有する。
このような本発明では、前述した本発明のツールホルダとしての効果が得られるとともに、角度センサおよび角度記録部により、ワークの穴開け加工の深さ位置に応じた工具の傾斜角度を角度履歴として記録することができ、次回以降の穴開け加工時に前回の角度履歴を参照することで、ツールホルダの角度設定を適切に行い、高精度を確保できる。
【0016】
本発明の工作機械は、本発明のツールホルダを介して工具が装着された主軸と、前記主軸を三次元移動させる機構部と、前記機構部および前記主軸を制御する制御装置と、を有し、前記ツールホルダは、前記回動ケースを前記固定ケースに対して回動させる角度調整モータを有し、前記制御装置は、穴開け加工時に前記機構部から取得した穴深さに応じて、前記角度調整モータを操作して前記工具の傾斜角度を調整する角度調整部を有する。
このような本発明では、前述した本発明のツールホルダとしての効果が得られるとともに、角度調整モータおよび角度調整部により、ワークの穴開け加工ごとに工具の振れを補正することができ、ツールホルダの傾斜角度を適切に維持し、高精度を確保できる。
【0017】
本発明の工作機械は、本発明のツールホルダを介して工具が装着された主軸と、前記主軸を三次元移動させる機構部と、前記機構部および前記主軸を制御する制御装置と、を有し、前記ツールホルダは、前記回動ケースと前記固定ケースとの角度位置を検出する角度センサと、前記回動ケースを前記固定ケースに対して回動させる角度調整モータと、を有し、前記制御装置は、穴開け加工時に前記機構部から穴深さを取得するとともに、前記角度センサから前記穴深さごとの傾斜角度を検出して記録する角度記録部と、前記角度記録部による傾斜角度の記録に基づいて前記角度調整モータを操作して前記工具の傾斜角度を調整する角度調整部と、を有する。
このような本発明では、前述した本発明のツールホルダとしての効果が得られるとともに、角度センサおよび角度記録部により、ワークの穴開け加工の深さ位置に応じた工具の傾斜角度を角度履歴として記録しておき、角度調整モータおよび角度調整部により、ワークの穴開け加工ごとに工具の振れを補正することができ、次回以降の穴開け加工時に前回の角度履歴を参照することで、ツールホルダの傾斜角度を適切に維持し、高精度を確保できる。
【0018】
本発明の工作機械は、本発明のツールホルダを介して工具が装着された主軸と、前記主軸を三次元移動させる機構部と、前記機構部および前記主軸を制御する制御装置と、を有し、前記ツールホルダは、前記回動ケースと前記固定ケースとの角度位置を検出する角度センサを有し、前記制御装置は、前記角度センサから検出した傾斜角度と、予め設定された前記工具の傾斜角度との角度差を計算し、前記角度差を減らすように前記機構部を制御して前記工具の傾斜角度を調整する角度補正部と、を有する。
このような本発明では、前述した本発明のツールホルダとしての効果が得られるとともに、加工の際に、角度センサで工具の傾斜角度を検出するとともに、角度補正部により、検出される傾斜角度と予め設定されていた工具の傾斜角度との角度差を計算し、この角度差を減らすように機構部を制御することで、工具の傾斜角度を補正することができ、ツールホルダの傾斜角度を適切に維持し、高精度を確保できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ワークの表面から任意の傾斜角度の深穴加工を高精度に行うことができる工作機械が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の第1実施形態である工作機械を示す斜視図。
図2】前記第1実施形態のツールホルダを示す平面図。
図3】前記第1実施形態のツールホルダの直線姿勢を示す側面図。
図4】前記第1実施形態のツールホルダの傾斜姿勢を示す側面図。
図5】前記第1実施形態のツールホルダおよび制御装置を示す図。
図6】前記第1実施形態の角度履歴を示すグラフ。
図7】本発明の第2実施形態のツールホルダおよび制御装置を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
〔第1実施形態〕
図1には、本発明の第1実施形態としての工作機械1が示されている。
工作機械1は、ベッド2の上面にテーブル3およびコラム4を有する。
テーブル3は、加工対象のワークWを載置するものであり、X軸移動機構5およびZ軸移動機構6により、水平かつ互いに交差するX軸方向およびZ軸方向へ移動可能である。
コラム4には主軸ヘッド8が昇降自在に支持され、主軸ヘッド8はコラム4に内蔵されたY軸移動機構7により昇降つまりY軸方向へ移動可能である。
主軸ヘッド8には主軸9が回転自在に支持され、主軸9は主軸ヘッド8に内蔵された主軸モータ(図5の主軸モータ81)により所期の回転速度で駆動可能である。
【0022】
これらのX軸移動機構5、Z軸移動機構6、Y軸移動機構7により機構部1Mが構成され、この機構部1Mにより主軸ヘッド8および主軸9をテーブル3に対して三次元移動可能である。
工作機械1には制御装置20が接続され、この制御装置20により機構部1Mおよび主軸9の回転が制御される。
主軸9には、本発明に基づくツールホルダ10を介してドリルD(深穴加工用のガンドリル)が装着される。
【0023】
図2図3および図4には、本発明に基づくツールホルダ10が示されている。
ツールホルダ10は、主軸ヘッド8に接続可能な固定ケース11と、固定ケース11に回転自在に保持されかつ主軸9に接続可能なシャンク部12と、固定ケース11に回転自在に接続されかつシャンク部12の回転軸Asと交差する回動軸Afまわりに回動可能な回動ケース13と、回動ケース13に回転自在に保持されかつドリルDを装着可能なチャック部14と、チャック部14とシャンク部12とを連結しかつ中間が屈曲可能なジョイント部15と、を有する。
【0024】
固定ケース11は、円盤状の基部111を有し、基部111から延びるサポート112で主軸ヘッド8の端面に接続可能である(図3参照)。
基部111には、サポート112と反対側に、回動ケース13と接続するための一対の支持部113が形成されている。
【0025】
シャンク部12は、回転軸Asに沿って延びる軸部121を有し、軸部121は軸受122を介して固定ケース11に回転自在に支持されている。
シャンク部12には、JISB6339規格に準拠したテーパーシャンク123が形成され、このテーパーシャンク123により主軸9と着脱可能である。
シャンク部12には、その中心軸線に沿ってスルーホール124が形成されている。
【0026】
回動ケース13は、一対の支持部113の間に配置された筐体131を有し、筐体131の両側にはそれぞれ軸部132が形成されている。
軸部132は支持部113に支持されて回動軸Afを中心に回動自在とされ、これにより回動ケース13は固定ケース11に対して回動軸Afまわりに回動可能である。
【0027】
チャック部14は、回転軸Acに沿って延びる軸部141を有し、軸部141は軸受142を介して回動ケース13に回転自在に支持されている。
チャック部14には、軸部141の先端にコレットチャック143が形成され、このコレットチャック143によりドリルDを着脱可能である。
チャック部14には、その中心軸線に沿ってスルーホール144が形成されている。
【0028】
ジョイント部15は、交差方向のピンを有するクロススパイダ151を用いたカルダンジョイントであり、チャック部14とシャンク部12とを連結して回転力を伝達可能、かつ各々の回転軸Acと回転軸Asとが同一線上にある直線姿勢(図3参照)から両軸が屈曲した傾斜姿勢(図4参照)まで変化しても回転力の伝達を維持可能である。
ジョイント部15のクロススパイダ151には貫通孔が形成され、この貫通孔には可撓性のチューブ152が挿通されている。
【0029】
チューブ152は、チャック部14のスルーホール144とシャンク部12のスルーホール124とを連通しており、シャンク部12を主軸9に装着した際に、主軸9のセンタースルーホールからクーラントを供給することで、クーラントがスルーホール124からチューブ152およびスルーホール144を経てドリルDのクーラント通路161へと供給される。
これらのスルーホール124、チューブ152、およびスルーホール144により、ツールホルダ10のクーラント通路16が構成される。
【0030】
図5には、本発明に基づくツールホルダ10の他の構成および制御装置20に追加されている構成が示されている。
ツールホルダ10は、固定ケース11の支持部113の辺縁が円弧状に形成され、この辺縁に沿って角度目盛31が表示されている。回動ケース13の筐体131の角度目盛31に臨む表面には指示部32が表示されている。指示部32が示す角度目盛31を読み取ることで、回動ケース13が固定ケース11に対して回動した際、回転軸Acと回転軸Asとのなす傾斜角度Sを目視で認識することができる。
【0031】
ツールホルダ10は、固定ケース11に角度センサ33および角度調整モータ34を備えている。
角度センサ33は、固定ケース11の支持部113に設置され、回動ケース13の軸部132の回動角度を検出し、回転軸Acと回転軸Asとのなす傾斜角度Sを示す信号として出力可能である。
角度調整モータ34は、固定ケース11の支持部113に設置された電動モータであり、図示しない伝達機構を介して回動ケース13の軸部132を回動させ、これにより回動ケース13を回動可能である。
【0032】
制御装置20は、工作機械1の動作制御を行うコンピュータシステムで構成され、前述した機構部1Mおよび主軸9を駆動する主軸モータ81の動作制御を行うものである。制御装置20における様々な機能はパートプログラムなどで提供され、その1つとしてドリルDでワークWに深穴加工を制御する深穴加工制御部21が設けられるとともに、本発明に基づいて角度記録部22および角度調整部23が設けられる。
【0033】
角度記録部22は、穴開け加工時に機構部1Mから穴深さdを取得するとともに、角度センサ33から穴深さdごとの傾斜角度Sを検出して記録する。
角度調整部23は、穴開け加工時に機構部1Mから取得した穴深さdに応じて、角度調整モータ34を操作してドリルDの傾斜角度Sを調整する。
【0034】
図6には、穴開け加工時に機構部1Mから取得される穴深さdと、角度センサ33で検出される穴深さdごとの傾斜角度Sを示す。
図6において、基本的に傾斜角度Sを所期の目標値(基準角度Sr)に設定した状態で深穴加工を行う場合、ドリルDの角度は基準角度Srで一定である。しかし、実際の深穴加工においては、ワークWからの反力などによりドリルDが振れ、実角度Saは穴深さdごとに変動し、例えば穴深さd1で許容値を超えるなどの可能性がある。
これに対し、前回の深穴加工における傾斜角度Sの履歴(図6の実角度Saと穴深さdとの関係)を角度記録部22で記録しておき、次回の深穴加工の際に傾斜角度Sの履歴データを参照して角度調整部23で角度調整モータ34を動作させてドリルDの傾斜角度Sを適切に補正することができる。
これらの角度記録部22および角度調整部23の連携は、深穴加工の際に深穴加工制御部21が制御することができる。
【0035】
以上に説明した本実施形態によれば、以下の通りの効果が得られる。
本実施形態では、ドリルDをチャック部14に装着するとともに、シャンク部12を主軸9に装着し、固定ケース11を主軸ヘッド8に接続させる。この状態で、主軸ヘッド8に対して主軸9を回転させることで、シャンク部12からジョイント部15およびチャック部14を経てドリルDが回転される。
チャック部14は回動ケース13に保持され、回動ケース13を固定ケース11に対して回動させることで任意の角度(傾斜角度S)で配置できる。この回動ケース13の角度により、チャック部14とシャンク部12とが互いに所期の傾斜角度Sに配置される。これらのチャック部14とシャンク部12とは、任意の傾斜角度Sであっても、ジョイント部15により回転が伝達され、傾斜したドリルDによる傾斜穴開け加工が可能である。
加工の際には、とくにガンドリルによる深穴加工など、ドリルDの回転軸Ac方向を曲げるようなワークWの反力が生じる。しかし、チャック部14は回動ケース13によって保持され、回転軸Acが安定に維持される。その結果、深穴加工を行う際にも高精度を確保することができる。
【0036】
本実施形態では、ジョイント部15を貫通してシャンク部12からチャック部14まで連通するクーラント通路16を設けた。
このため、主軸9のセンタースルーホールからのクーラントをシャンク部12で受け、ジョイント部15を経てチャック部14へ通し、ドリルDに供給することができ、深穴加工におけるクーラント供給を確保することができる。
【0037】
本実施形態では、固定ケース11に外部から視認可能な角度目盛31を設け、回動ケース13に角度目盛31に沿って移動する指示部32を設けた。
このため、指示部32から角度目盛31の数値を読み取ることで、回動ケース13と固定ケース11との角度位置、つまりシャンク部12とチャック部14との各回転軸As,Acの傾斜角度Sを把握することができる。
なお、回動ケース13に外部から視認可能な角度目盛31を設け、固定ケース11に角度目盛31に臨む指示部32を設けてもよい。
【0038】
本実施形態では、固定ケース11に、回動ケース13と固定ケース11との角度位置を検出する角度センサ33を設けた。
このため、角度センサ33の出力値から、回動ケース13と固定ケース11との角度位置、つまりシャンク部12とチャック部14との各回転軸As,Acの傾斜角度Sを検出することができる。そして、工作機械1の制御装置20に角度センサ33を接続すれば、制御装置20からツールホルダ10の傾斜角度Sを検出することができる。
なお、角度センサ33は、回動ケース13に設けてもよい。
【0039】
本実施形態では、固定ケース11に、回動ケース13を固定ケース11に対して回動させる角度調整モータ34を設けた。
このため、角度調整モータ34を用いて回動ケース13と固定ケース11との角度位置、つまりシャンク部12とチャック部14との各回転軸As,Acの傾斜角度Sを調整することができる。したがって、工作機械1の制御装置20に角度調整モータ34を接続すれば、制御装置20からツールホルダ10の傾斜角度Sを操作することができる。
【0040】
本実施形態では、制御装置20に、穴開け加工時に機構部1Mから穴深さdを取得するとともに、角度センサ33から穴深さdごとの傾斜角度Sを検出して記録する角度記録部22と、角度記録部22による傾斜角度Sの記録に基づいて角度調整モータ34を操作してドリルDの傾斜角度Sを調整する角度調整部23とを設けた。
このため、角度センサ33および角度記録部22により、ワークWの穴開け加工時の穴深さdに応じたドリルDの傾斜角度S(実角度Sa)を角度履歴として記録しておき、角度調整モータ34および角度調整部23により、ワークWの穴開け加工ごとにドリルDの振れを補正することができ、次回以降の穴開け加工時に前回の角度履歴を参照することで、ツールホルダ10の傾斜角度Sを適切に維持し、高精度を確保できる。
【0041】
〔第2実施形態〕
図7には、本発明の第2実施形態としての工作機械1Aが示されている。
工作機械1Aは、前記第1実施形態と同様な機構部1Mおよび主軸9を有する。これらの機構部1Mおよび主軸9の主軸モータ81の動作を制御するために、工作機械1Aには制御装置20Aが接続されている。そして、主軸9には、本発明に基づくツールホルダ10Aを介してドリルD(深穴加工用のガンドリル)が装着されている。
【0042】
ツールホルダ10Aは、前述した第1実施形態のツールホルダ10と同様な構成、すなわち、図2図3および図4に示す固定ケース11、シャンク部12、回動ケース13、チャック部14、およびジョイント部15を有する。
前述した第1実施形態のツールホルダ10では、図5に示す角度センサ33および角度調整モータ34が固定ケース11に設置されていた。これに対し、本実施形態のツールホルダ10Aでは、角度センサ33および角度調整モータ34に代えて、回動ケース13の上面に角度センサ35が設置され、固定ケース11の側面に角度表示器36が設置されている。
【0043】
角度センサ35は、いわゆる電子式水準器で構成され、重力に基づいて水平方向または垂直方向を検出し、これらの水平方向または垂直方向に対する回動ケース13の上面の傾斜角度を検出し、角度信号として外部出力可能である。
角度表示器36は、汎用のデジタル式数値表示器で構成され、外部入力された信号値を所定の数値形式で表示可能である。例えば「22.50度」を示す角度信号に対して、整数部2桁の「22」および小数点以下2桁の「.50」などの4桁のデジタル表示が可能である。
【0044】
角度センサ35の出力信号は、一部が角度表示器36に接続され、角度センサ35で検出される現在の回動ケース13の傾斜角度、つまりドリルDの回転軸Acの傾斜角度を角度表示器36に表示することができる。この際、シャンク部12の回転軸Asは水平方向であることが前提となる。
角度センサ35の出力信号の一部は、制御装置20Aに入力されている。
【0045】
制御装置20Aは、前述した第1実施形態の制御装置20と同様な深穴加工制御部21を有する。前述した第1実施形態の制御装置20では、図5に示す角度記録部22および角度調整部23が設置されていた。これに対し、本実施形態の制御装置20Aでは、角度記録部22および角度調整部23に代えて角度補正部24が設置されている。
角度補正部24は、角度センサ35で検出された傾斜角度と、予め設定されたドリルDの傾斜角度との角度差を計算し、この角度差を減らすように機構部1Mを制御する。
【0046】
前述した図6に示した通り、ドリルDによる穴開け加工の際に、予め設定されたドリルDの傾斜角度の目標値(基準角度Sr)に対して、ワークWからの反力などによりドリルDが振れ、実角度Saは穴深さdごとに変動する。角度センサ35では穴開け加工の進捗に伴って、現在の傾斜角度S(実角度Sa)が検出され、基準角度Srとの角度差が得られる。
【0047】
角度補正部24は、得られた角度差を参照しつつ機構部1Mで主軸9の上下位置を制御するY軸移動機構7を制御し、ドリルDの回転軸Acが基準角度Srより下向きである場合、主軸9を下方へ変位させ、ドリルDの回転軸Acを僅かに上に向くように補正し、基準角度Srに復帰させる。
逆に、ドリルDの回転軸Acが基準角度Srより下向きである場合、主軸9を上方へ変位させ、ドリルDの回転軸Acが僅かに下に向くように補正し、基準角度Srに復帰させる。
【0048】
このような本実施形態によれば、前述した第1実施形態と同様な効果が得られるほか、加工の際に、角度センサ35でドリルDの回転軸Asの傾斜角度を検出し、角度表示器36で読み取ることができる。
また、角度センサ35で検出したドリルDの傾斜角度に基づいて、角度補正部24により、検出されるドリルDの実角度Saと予め設定されていたドリルDの基準角度Srとの角度差を計算し、この角度差を減らすように機構部1MのY軸移動機構7を制御することで、ワークWからの反力などによりドリルDが振れることがあっても、ドリルDの傾斜角度Sを補正して高精度を確保できる。
【0049】
なお、本発明は前述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形などは本発明に含まれる。
前記実施形態では、ツールホルダ10に角度センサ33および角度調整モータ34を設け、制御装置20に角度記録部22および角度調整部23を設けたが、これらは一部を省略してもよい。
【0050】
本発明の他の実施形態としては、ツールホルダ10の角度センサ33を省略し、制御装置20の角度記録部22を省略してもよい。
このような他の実施形態では、ツールホルダ10での傾斜角度Sの検出は行えないが、別途準備した角度履歴などを準備することで、これを参照してツールホルダ10の角度調整モータ34および制御装置20の角度調整部23により、ツールホルダ10の傾斜角度Sを適切に維持することができる。
【0051】
本発明の他の実施形態としては、ツールホルダ10の角度調整モータ34を省略し、制御装置20の角度調整部23を省略してもよい。
このような他の実施形態では、ツールホルダ10の傾斜角度Sの補正は行えないが、ツールホルダ10の角度センサ33および制御装置20の角度記録部22により、深穴加工時の傾斜角度Sの角度履歴を記録することができ、機構部1Mによる補正などに利用することができる。
【0052】
前記実施形態では、工具として深穴加工用のドリルDを用いたが、長尺のガンドリルに限らず他の形式のドリルであってもよく、あるいは穴開け用以外の工具であってもよい。さらに、ワークWの材質などによる高負荷穴開けを行うために工具の傾斜角度Sの変動を生じ易い工作機械1に適用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は工作機械に利用できる。
【符号の説明】
【0054】
1,1A…工作機械、1M…機構部、2…ベッド、3…テーブル、4…コラム、5…X軸移動機構、6…Z軸移動機構、7…Y軸移動機構、8…主軸ヘッド、81…主軸モータ、9…主軸、10,10A…ツールホルダ、11…固定ケース、111…基部、112…サポート、113…支持部、12…シャンク部、121…軸部、122…軸受、123…テーパーシャンク、124…スルーホール、13…回動ケース、131…筐体、132…軸部、14…チャック部、141…軸部、142…軸受、143…コレットチャック、144…スルーホール、15…ジョイント部、151…クロススパイダ、152…チューブ、16…クーラント通路、161…クーラント通路、20,20A…制御装置、21…深穴加工制御部、22…角度記録部、23…角度調整部、24…角度補正部、31…角度目盛、32…指示部、33…角度センサ、34…角度調整モータ、35…角度センサ、36…角度表示器、Ac…回転軸、Af…回動軸、As…回転軸、D…ドリル、S…傾斜角度、Sa…実角度、Sr…基準角度、W…ワーク。
図1
図2
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図5
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図7