(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-02
(45)【発行日】2024-05-14
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H02M 3/155 20060101AFI20240507BHJP
【FI】
H02M3/155 P
(21)【出願番号】P 2020155227
(22)【出願日】2020-09-16
【審査請求日】2023-07-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河野 真吾
【審査官】上野 力
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-096460(JP,A)
【文献】特開2020-108316(JP,A)
【文献】特開2015-111972(JP,A)
【文献】国際公開第2019/234846(WO,A1)
【文献】特開2017-163729(JP,A)
【文献】特開2008-061433(JP,A)
【文献】特開2005-192323(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/155
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力端子と基準電圧端子の間に直列に接続される第1スイッチ及び第2スイッチを含む第1スイッチ群と、
出力端子と前記基準電圧端子の間に直列に接続される第3スイッチ及び第4スイッチを含む第2スイッチ群と、
前記第1スイッチ群の中間ノードと前記第2スイッチ群の中間ノードとの間に接続されるインダクタと、
昇降圧比に相当する制御量を決定する制御部と、
前記制御部から出力された制御量の大きさに応じて前記第1スイッチ群に関する第1デューティ比D
1及び前記第2スイッチ群に関する第2デューティ比D
2を設定し、前記第1デューティ比D
1に基づいて前記第1スイッチ及び前記第2スイッチをオン・オフ制御するとともに、前記第2デューティ比D
2に基づいて前記第3スイッチ及び前記第4スイッチをオン・オフ制御する関数/デューティ比設定部と
を備え、
前記関数/デューティ比設定部は、
制御量Pが0以上で切り替え閾値X未満の場合(Xは1よりも微少量ΔXだけ小さい値)、制御量Pを変数とする第1の関数に従って設定された前記第1デューティ比D
1によって前記第1スイッチ群をオン・オフ制御すると共に、予め定めた第2スイッチ群用固定デューティ比によって前記第2スイッチ群をオン・オフ制御し、
前記制御量Pが切り替え閾値X以上の場合、制御量Pを変数とする前記第1の関数とは異なる第2の関数に従って設定された前記第2デューティ比D
2によって前記第2スイッチ群をオン・オフ制御すると共に、予め定めた第1スイッチ群用固定デューティ比によって前記第1スイッチ群をオン・オフ制御し、
前記第1の関数は、前記制御量Pと前記第1デューティ比D
1が比例する関係を与える関数であり、
前記第2の関数は、前記制御量Pと前記第2デューティ比D
2とに、D
2=1-X/P+α(αは定数)の関係を与える関数である
ことを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
前記切り替え閾値Xと前記第1スイッチ群用固定デューティ比とが同じ値である請求項1に記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマ処理システムは、チャンバ内に一対の電極を備えており、その一対の電極に対し高周波電源から高周波電力を供給してプラズマを発生させるよう構成されている。このような高周波電源には、直流/直流電力変換回路(以下、DC/DCコンバータ)と直流/高周波電力変換回路(以下、DC/RF変換回路)を備え、DC/DCコンバータから出力する直流電力の電圧値を変化させることによって、DC/RF変換回路から出力する高周波電力の電力値を変化させる方式を採用したものがある。なお、本明細書では、電力変換を司る電気回路を電力変換回路と称し、電力変換回路と制御部とを含み電力の変換を司る装置を電力変換装置と称する。
【0003】
入力直流電圧を異なる値の出力直流電圧に昇圧又は降圧する電力変換回路(DC/DCコンバータ)として、入力直流電圧を異なる値の出力直流電圧に昇圧又は降圧する昇降圧チョッパが知られている。昇降圧チョッパは様々な形式のものが提案されているが、そのうち、直列接続された2つのスイッチング素子からなる昇圧用スイッチング回路と、直列接続された2つのスイッチング素子からなる降圧用スイッチング回路と、両者の中間ノードの間にインダクタを含んだ昇降圧チョッパが、例えば特許文献1により知られている。
【0004】
このような昇降圧チョッパでは、昇圧動作時には、出力端子側に接続された昇圧用スイッチング回路中の上側トランジスタと下側トランジスタがパルス幅変調(PWM(Pulse Width Modulation)動作)により交互に導通する。また、入力端子側に接続された降圧用スイッチング回路中の上側トランジスタが常に導通状態とされ、下側トランジスタは常に非導通状態とされる。一方、降圧動作時には、降圧用スイッチング回路中の上側トランジスタと下側トランジスタがPWM制御されて交互に導通する。また、昇圧用スイッチング回路中の上側トランジスタが常に導通状態とされ、下側トランジスタは常に非導通状態とされる。このような昇降圧チョッパでは、上側トランジスタと下側トランジスタのデューティ比を調整することにより、昇圧比及び降圧比(出力電圧/入力電圧)を調整することができる。
【0005】
このような昇降圧チョッパにおいては、昇降圧比に相当する制御量が0(0%)から2(200%)の間で変化し、制御量が0~1では降圧動作を行ない、制御量が1~2では昇圧動作を行うように構成されている。しかし、昇降圧比(制御量)が1付近では、出力が安定しないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明に係る電力変換装置は、昇降圧比(制御量)が1付近であっても出力電圧の制御を安定的に行うことを可能にした電力変換装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明に係る電力変換装置は、入力端子と基準電圧端子の間に直列に接続される第1スイッチ及び第2スイッチを含む第1スイッチ群と、出力端子と前記基準電圧端子の間に直列に接続される第3スイッチ及び第4スイッチを含む第2スイッチ群と、前記第1スイッチ群の中間ノードと前記第2スイッチ群の中間ノードとの間に接続されるインダクタと、昇降圧比に相当する制御量を決定する制御部と、前記制御部から出力された制御量の大きさに応じて前記第1スイッチ群に関する第1デューティ比D1及び前記第2スイッチ群に関する第2デューティ比D2を設定し、前記第1デューティ比D1に基づいて前記第1スイッチ及び前記第2スイッチをオン・オフ制御するとともに、前記第2デューティ比D2に基づいて前記第3スイッチ及び前記第4スイッチをオン・オフ制御する関数/デューティ比設定部とを備える。
【0009】
前記関数/デューティ比設定部は、制御量Pが0以上で切り替え閾値X未満の場合(Xは1よりも微少量ΔXだけ小さい値)、制御量Pを変数とする第1の関数に従って設定された前記第1デューティ比D1によって前記第1スイッチ群をオン・オフ制御すると共に、予め定めた第2スイッチ群用固定デューティ比によって前記第2スイッチ群をオン・オフ制御し、前記制御量Pが切り替え閾値X以上の場合、制御量Pを変数とする前記第1の関数とは異なる第2の関数に従って設定された前記第2デューティ比D2によって前記第2スイッチ群をオン・オフ制御すると共に、予め定めた第1スイッチ群用固定デューティ比によって前記第1スイッチ群をオン・オフ制御する。前記第1の関数は、前記制御量Pと前記第1デューティ比D1が比例する関係を与える関数であり、前記第2の関数は、前記制御量Pと前記第2デューティ比D2とに、D2=1-X/P+α(αは定数)の関係を与える関数である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、昇降圧比が1付近であっても、制御量に対する出力電圧の関係を線形にすることができ、これにより出力電圧の制御を安定的に行うことを可能にした昇降圧型の電力変換装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施の形態に係る電力変換回路(昇降圧チョッパ)を含む、プラズマ処理システムの全体構成を示すブロック図である。
【
図2】
図1の高周波電源100のより詳細な構造を説明するブロック図である。
【
図3】DC/DCコンバータ102としての昇降圧チョッパ10の回路構成図である。
【
図4】nMOSトランジスタの寄生容量(Ciss)の影響による、入力信号(Input)とゲート電圧(Gate voltage)との関係を説明するための図である。
【
図5】デューティ比Dが1又は0に近い場合の入力信号とゲート電圧との関係を示す図である。
【
図6】制御量Pが1(100%)の近傍である場合の制御量Pと昇降圧比の関係を示すグラフである。
【
図7】実施の形態の昇降圧チョッパの動作を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して本実施形態について説明する。添付図面では、機能的に同じ要素は同じ番号で表示される場合もある。なお、添付図面は本開示の原理に則った実施形態と実装例を示しているが、これらは本開示の理解のためのものであり、決して本開示を限定的に解釈するために用いられるものではない。本明細書の記述は典型的な例示に過ぎず、本開示の特許請求の範囲又は適用例を如何なる意味においても限定するものではない。
【0013】
本実施形態では、当業者が本開示を実施するのに十分詳細にその説明がなされているが、他の実装・形態も可能で、本開示の技術的思想の範囲と精神を逸脱することなく構成・構造の変更や多様な要素の置き換えが可能であることを理解する必要がある。従って、以降の記述をこれに限定して解釈してはならない。
【0014】
図1は、本発明の実施の形態に係る電力変換装置を含む、プラズマ処理システムの全体構成を示すブロック図である。このプラズマ処理システムは、高周波電源100、インピーダンス整合器200、及びプラズマ処理装置300を備えている。
【0015】
高周波電源100は、商用電源から供給される電力を高周波電力に変換する。インピーダンス整合器200は、高周波電源100とプラズマ処理装置300の間のインピーダンス整合を行う回路である。プラズマ処理装置300は、図示しない一対の電極と、該一対の電極を内部に含みエッチングガス等を封入されるチャンバを備えている。この一対の電極に対し、高周波電源100で発生させた高周波電力が印加される。
【0016】
図2は、高周波電源100のより詳細な構造を説明するブロック図である。この高周波電源100は、AC/DCコンバータ101、DC/DCコンバータ102、高周波生成部103、フィルタ回路104、電力検出部105、制御部106、及び関数/デューティ比設定部107を備えている。DC/DCコンバータ102、制御部106、及び関数/デューティ比設定部107により、直流電力を異なる直流電力に変換する電力変換装置が提供される。
【0017】
AC/DCコンバータ101は、商用電源の交流電力を直流電力に変換するための回路である。AC/DCコンバータ101は、例えば複数個の半導体素子をブリッジ接続してなる整流回路(図示せず)と、整流された電流(脈流)を平滑化する平滑化回路とを備えることができる。
【0018】
また、DC/DCコンバータ102は、AC/DCコンバータ101が出力した直流電圧を、更に異なる電圧値の直流電圧に変換する回路である。後述するように、DC/DCコンバータ102は、関数/デューティ比設定部107で定められた関数に従って定まるデューティ比D1、D2に従い昇降圧比を変化させて入力直流電圧を降圧又は昇圧する昇降圧チョッパである。なお、デューティ比D1は、本発明の第1デューティ比の一例であり、デューティ比D2は、本発明の第2デューティ比の一例である。
【0019】
高周波生成部103は、DC/DCコンバータ102から出力される直流電力を高周波電力に変換する。高周波電力の基本波成分の周波数は、例えば2.0MHzや13.56MHzなどプラズマ処理装置300で使用される周波数である。この基本波成分の周波数は、例えば、図示しない内蔵の発振部の発振信号の周波数によって定まる。また、高周波生成部103は、後述する制御部106から出力される制御信号φに基づいて、出力する高周波電力の電力値を調整する機能を有する。例えば、高周波生成部103には、複数の増幅部と少なくとも1つの合成部とが内蔵されており、各増幅部から出力する高周波電力の電圧波形の位相差を制御することによって、合成部における合成度合を調整することができる。このような調整機能は公知である(例えば、特開2015-144505号公報、特開2017-201630号公報を参照)。もちろん、このような調整機能が不要であれば、制御部106から制御信号φを入力する必要は無い。
【0020】
フィルタ回路104は、高周波生成部103から出力される高周波電力に含まれる高調波成分を除去し、基本波成分を含む低周波部分を抽出する機能を有する。フィルタ回路104としては、所謂ローパスフィルタが用いられる。バンドパスフィルタを用いることも可能である。
【0021】
電力検出部105は、高周波電源100が出力する進行波電力を検出する機能を有する。電力検出部105は、方向性結合器を含み、その方向性結合器から高周波電力中に含まれる進行波電圧を検出し、進行波電力に変換して制御部106に出力する。なお、電力検出部105は、進行波電力に加えて反射波電力も検出し、これを反射波電力に変換して出力するよう構成することも可能である。
【0022】
制御部106は、上述したように、高周波生成部103における出力電力値の調整を行うための制御信号φを出力する。また、制御部106は、電力検出部105での検出結果に従い、昇降圧比に相当する制御量Pを決定し、その制御量Pのデータを関数/デューティ比設定部107に供給する。制御量Pは、0(0%)から2(200%)の間で変化し、P=0~1では、DC/DCコンバータ102は降圧動作を行ない、P=1~2では昇圧動作を行う。
【0023】
関数/デューティ比設定部107は、制御部106から出力された制御量Pの大きさに応じて、後述する降圧用スイッチング回路11中のnMOSトランジスタQ1及びQ2に関するデューティ比D1及び昇圧スイッチング回路12中のnMOSトランジスタQ3及びQ4に関するデューティ比D2を設定する。また、関数/デューティ比設定部107は、設定したデューティ比D1及びデューティ比D2に基づいて、DC/DCコンバータ102に含まれるスイッチング素子をオン・オフ制御する。これにより、制御量Pの変化に対して出力電圧Voutを線形に変化させることができる。この点は後述する。
【0024】
図3は、DC/DCコンバータ102としての昇降圧チョッパ10の回路構成図である。この昇降圧チョッパ10は、入力端子T1に入力された直流の入力電圧Vinを昇圧又は降圧して、出力端子T2から直流の出力電圧Voutを出力する回路である。昇降圧チョッパ10は、制御部106から出力される制御量Pに基づいて関数/デューティ比設定部107で関数を選択し、更に決定されるデューティ比D
1、D
2が変化することにより、出力電圧Voutを変化させることができる。
【0025】
昇降圧チョッパ10は、一例として、降圧用スイッチング回路11と、昇圧用スイッチング回路12と、インダクタ13と、キャパシタ14(キャパシタンスC)とを備える。出力端子T2には、一例として、負荷15(抵抗R)が接続される。
【0026】
降圧用スイッチング回路11は、スイッチング素子であるnMOSトランジスタQ1及びQ2を有する。nMOSトランジスタQ1及びQ2は、入力端子T1と基準電圧端子T3(基準電圧端子T3は、通常は接地端子)との間に直列に、中間ノードN1を介して接続される。なお、nMOSトランジスタQ1は、本発明の第1スイッチの一例であり、nMOSトランジスタQ2は、本発明の第2スイッチの一例である。また、nMOSトランジスタQ1及びQ2は、本発明の第1スイッチ群の一例である。
【0027】
昇圧用スイッチング回路12は、スイッチング素子であるnMOSトランジスタQ3及びQ4を有する。nMOSトランジスタQ3及びQ4は、出力端子T2と基準電圧端子T3との間に直列に、中間ノードN2を介して接続される。なお、MOSトランジスタに代えて、バイポーラトランジスタ等の他のスイッチング素子を用いることもできる。なお、nMOSトランジスタQ3は、本発明の第3スイッチの一例であり、nMOSトランジスタQ4は、本発明の第4スイッチの一例である。また、nMOSトランジスタQ3及びQ4は、本発明の第2スイッチ群の一例である。
【0028】
インダクタ13は、中間ノードN1とN2の間に接続される。また、キャパシタ14は、出力端子T2と基準電圧端子T3との間に接続される。
【0029】
次に、本実施の形態の昇降圧チョッパ10の動作について説明する。この昇降圧チョッパ10は、制御量Pに従って動作し、制御量Pが0~1.0の間では降圧動作を実行し、制御量Pが1.0~2.0の間では昇圧動作を行うよう構成されている。
【0030】
[比較例の動作説明]
比較のため、最初に特許文献1に記載の技術を比較例とし、比較例の昇降圧チョッパの動作を説明する。この比較例の昇降圧チョッパは、本実施の形態と同様に、制御量Pに従って動作し、制御量Pが0~1.0の間では降圧動作を実行し、制御量Pが1.0~2.0の間では昇圧動作を行うよう構成されている。降圧動作においては、デューティ比D1は制御量Pに正比例する値、例えば制御量Pと等しい値に設定され(D1=P)、デューティ比D2は0に設定される(すなわち、昇圧スイッチング回路12はPWM制御の対象とされない)。
【0031】
また、昇圧動作においては、デューティ比D2は制御量Pから1を減算した値に設定され(D2=P-1)、デューティ比D1は1に設定される(すなわち、降圧スイッチング回路11はPWM制御の対象とされない)。
【0032】
図3の昇降圧チョッパ10の降圧動作時の伝達関数Gd(s)は、キャパシタ14の容量C、インダクタ13のインダクタンスL、及びデューティ比D
1を用いて下記の[数1]によって表現される。また、昇降圧チョッパ10の昇圧動作時の伝達関数Gb(s)は、キャパシタ14の容量C、インダクタ13のインダクタンスL、及びデューティ比D
2を用いて以下の[数2]によって表される。
【0033】
【0034】
直流成分のみを考慮して[数1]、[数2]でs=0とすると、[数1]、[数2]は次の[数3]、[数4]のように表現される。
【0035】
【0036】
すなわち、[数3]、[数4]に基づいて制御量Pに応じたデューティ比D1とデューティ比D2とを算出することができるので、PWM制御によって出力電圧Voutを制御することができる。しかし、後述する不感領域の問題が生じてしまう。
【0037】
<不感領域について>
矩形波の入力信号が”H”か”L”かにより、nMOSトランジスタ(FET)Q1~Q4は導通状態(オン)と非導通状態(オフ)との間で切り替えられる。しかし、
図4に示すように、nMOSトランジスタの寄生容量(Ciss)により、ゲート電圧(Gate voltage)は入力信号(Input)のような矩形波ではなく、寄生容量に応じた鈍った波形となる。nMOSトランジスタQ1~Q4の導通/非導通は、ゲート電圧が閾値電圧(Vth)を超えたか否かで決まる。しかし、
図5(a)(b)に示すように、デューティ比Dが1(100%)に近いか、又は0(0%)に近い場合、入力信号は極端に太い(または細い)パルスとなるため、
図5(a)に示すように、ゲート電圧が閾値電圧Vth未満に落ち込まない、又は
図5(b)に示すように、閾値電圧Vth以上にならないため、nMOSトランジスタQ1~Q4のオン/オフが意図通りに切り替わらないことが生じ得る(不感領域)。
【0038】
これにより、比較例では、
図6に示すように、制御量Pが1(100%)の近傍である場合、制御量Pと昇降圧比の関係が線形とならないことが生じ得る。
【0039】
[本実施の形態の動作説明]
これに対して本実施の形態では、不感領域の問題を回避又は不感領域の影響を低減する対策が取られている。比較例との違いを、関数/デューティ比設定部107を中心に説明する。
【0040】
上述したように、関数/デューティ比設定部107は、制御部106から出力された制御量Pの大きさに応じて、後述する降圧スイッチング回路11中のnMOSトランジスタQ1及びQ2に関するデューティ比D1及び昇圧スイッチング回路12中のnMOSトランジスタQ3及びQ4に関するデューティ比D2を設定する。また、関数/デューティ比設定部107は、設定したデューティ比D1及びデューティ比D2に基づいて、DC/DCコンバータ102に含まれるスイッチング素子をオン・オフ制御(例えばPWM制御)する。
【0041】
この際、関数/デューティ比設定部107は、制御部106から出力された制御量Pの大きさに応じて、デューティ比D1及びデューティ比D2のそれぞれを変動値にするか固定値にするかを決定する。具体的には、制御量Pが切り替え閾値X未満の場合は、デューティ比D1を変動値とし、デューティ比D2は固定値とする。制御量Pが切り替え閾値X以上の場合は、デューティ比D1は固定値とし、デューティ比D2は変動値とする。なお、切り替え閾値Xは、例えば1よりも微小量ΔXだけ小さい値(1-ΔX)である。また、微小量ΔXは、特定の値には限定されない。一例として、微小量ΔXは、0.03(3%)程度の値に設定され得る。この場合、切り替え閾値Xは、0.97(97%)になる。微小量ΔXについては、後述する。
【0042】
また、固定値の場合のデューティ比D1又はデューティ比D2は、予め定められた値である。固定値は、図示しない記憶部に記憶し、それを読み出して取得するか、外部から入力する等の方法によって設定すればよい。変動値の場合のデューティ比D1又はデューティ比D2は、制御量Pを変数とする所定の関数に、上記の固定値等を入力することによって取得する。以降では、固定値のデューティ比D1を固定デューティ比Dfix1、固定値のデューティ比D2を固定デューティ比Dfix2として表す。
また、本実施の形態では、固定デューティ比Dfix1は、制御量Pの大小に拘わらず一定値であり、例えばDfix1=0.97(97%)あるが、特定の値には限定されない。また、固定デューティ比Dfix2は、制御量Pの大小に拘わらず一定値であり、例えばDfix2=0.005(0.5%)であるが、特定の値には限定されない。
なお、固定デューティ比Dfix1は、本発明の第1スイッチ群用固定デューティ比の一例であり、固定デューティ比Dfix2は、本発明の第2スイッチ群用固定デューティ比の一例である。
【0043】
次に、制御量Pを変数とする所定の関数について説明する。
本実施の形態の昇降圧チョッパ10の伝達関数Gdb(0)は、降圧スイッチング回路11の伝達関数及び昇圧スイッチング回路12の伝達関数の積として、[数5]のように表される。
【0044】
【0045】
[数5]から分かるように、上記の調整値αは、制御量Pに対する昇降圧比の関係における傾き(昇降圧比/制御量P)を微調整する役割を果たす。すなわち、調整値αによって、実際の傾きが所望の傾き(例えば1)に近づくように微調整することができる。そのため、例えば、実験を行い、実際の傾きが所望の傾きに近づくような調整値αを定めればよい。調整値αは、特定の値には限定されないが、一例として、α=0.005程度に設定され得る。また、制御量Pの値に応じて、調整値αを変更してもよい。例えば、制御量Pが切り替え閾値X未満であるか、切り替え閾値X以上であるかによって、調整値αを変更してもよい。
【0046】
制御量Pが切り替え閾値X未満(本実施形態では切り替え閾値X=0.97)である場合には、[数5]に示した伝達関数Gdb(0)に制御量Pを代入する。また、デューティ比D2として固定デューティ比Dfix2を代入するとともに、調整値αを代入することによって、[数6]に示すように、デューティ比D1を算出することができる。なお、[数6]は、本発明の第1の関数の一例である。
【0047】
【0048】
本実施の形態では、固定デューティ比D
fix2=0.005(0.5%)、調整値α=0.005なので、D
1=Pとなる。そのため、
図7に示すように、制御量Pが0.97(97%)未満では、降圧スイッチング回路11中のnMOSトランジスタQ1及びQ2は、制御量Pに比例するデューティ比D
1に従って交互に導通状態となっていわゆるPWM制御(Pulse Width Modulation)される。また、昇圧スイッチング回路12中のnMOSトランジスタQ3及びQ4は、固定のデューティ比D
fix2でPWM制御される。
【0049】
制御部106から出力される制御量Pが切り替え閾値X以上である場合、[数5]に示した伝達関数Gdb(0)に制御量Pを代入する。また、デューティ比D1として固定デューティ比Dfix1を代入するとともに、調整値αを代入することによって、[数7]に示すように、デューティ比D2を算出することができる。なお、[数7]は、本発明の第2の関数の一例である。
【0050】
【0051】
本実施の形態では、固定デューティ比D
fix1=0.97(97%)、調整値α=0.005なので、D
2=1-0.97/P+0.005となる。そのため、
図7に示すように、制御量Pが0.97(97%)以上になると、昇圧スイッチング回路12中のnMOSトランジスタQ3及びQ4は、制御量Pを関数に与えて得られるデューティ比D
2に従って交互に導通状態となっていわゆるPWM制御(Pulse Width Modulation)される。また、降圧スイッチング回路11中のnMOSトランジスタQ1及びQ2は、固定のデューティ比D
fix1でPWM制御される。
【0052】
[数6]及び[数7]に示した関数は、いずれも[数5]に示した伝達関数Gdb(0)に制御量Pを代入することによって得られたものである。そのため、制御量Pが切り替え閾値X未満では、デューティ比D1と固定デューティ比Dfix2とを用いて降圧スイッチング回路11及び昇圧スイッチング回路12のスイッチング素子(nMOSトランジスタQ1~Q4)をPWM制御することによって、制御量Pに対する昇降圧比の関係を線形にすることができる。
また、制御量Pが切り替え閾値X以上では、固定デューティ比Dfix1とデューティ比D2とを用いて降圧スイッチング回路11及び昇圧スイッチング回路12のスイッチング素子(nMOSトランジスタQ1~Q4)をPWM制御することによって、制御量Pに対する昇降圧比の関係が線形性を示すようになる。
そのため、制御量Pが0(0%)から2(200%)の間の範囲において、制御量Pに対する昇降圧比の関係を線形にすることができる。
【0053】
<不感領域の改善について>
上述したように、比較例では
図6に示すように、制御量Pが1(100%)の近傍である場合、制御量Pに対する昇降圧比の関係が線形とならない場合が生じ得る。換言すれば、制御量Pに対する出力電圧Voutの関係が線形とならない場合が生じ得る。
図6の例では、制御量Pが0.982程度から1.003程度まで非線形になっている。そのため、デューティ比D
1は0.982程度よりも小さい値にすることが望ましい。これを踏まえて、本実施の形態ではデューティ比D
1は0.97としている。また、デューティ比D
2は0.003程度以上にすることが望ましい。これを踏まえて、本実施の形態ではデューティ比D
2は0.005としている。このようにすることで、不感領域を回避し、線形性を改善することができる。なお、切り替え閾値X=(1-ΔX)なので、本実施の形態の場合は、微小量ΔXを0.3程度に設定すれば、切り替え閾値を0.97程度にすることができる。また、固定デューティ比D
fix1を0.97程度、固定デューティ比D
fix2を0.005程度にすれば、不感領域を回避したオン・オフ制御をすることができる。また、上記から分かるように、切り替え閾値Xと固定デューティ比D
fix1とは同じ値にすることが望ましい。
【0054】
また、不感領域を完全に回避しなくても、その影響が小さい場合は、切り替え閾値Xを上記よりも大きくすることができる。例えば、切り替え閾値Xを0.98(98%)程度にしても、線形性が許容できるのであれば、この値を切り替え閾値Xとしてもよい。固定デューティ比Dfix2についても、同様に不感領域を完全に回避しなくても、その影響が小さく、線形性が許容できるのであれば、固定デューティ比Dfix2の値を小さくしてもよい。
上記のようにすれば、上記の不感領域を回避する、又は不感領域の影響を低減することができる。ひいては、制御量Pに対する昇降圧比(又は出力電圧Vout)の関係の線形性を向上させることができる。
【0055】
以上説明したように、本実施の形態の電力変換装置によれば、制御量に対する出力電圧の関係の線形性を向上させることができる。これにより出力電圧の制御を安定的に行うことを可能にした電力変換装置を提供することができる。
【0056】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0057】
11…降圧用スイッチング回路、 12…昇圧用スイッチング回路、 13…インダクタ、 14…キャパシタ、 15…負荷、 Q1~Q4…nMOSトランジスタ、 T1、T2、T3…端子、 101…AC/DCコンバータ、 102…DC/DCコンバータ、 103…高周波生成部、 104…フィルタ回路、 105…電力検出部、 106…制御部、 107…関数/デューティ比設定部。