(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-02
(45)【発行日】2024-05-14
(54)【発明の名称】温度計測装置、機械システム、温度計測方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G01K 11/22 20060101AFI20240507BHJP
G01K 13/06 20060101ALI20240507BHJP
G01K 13/08 20060101ALI20240507BHJP
H02K 11/25 20160101ALI20240507BHJP
【FI】
G01K11/22
G01K13/06
G01K13/08
H02K11/25
(21)【出願番号】P 2020168035
(22)【出願日】2020-10-02
【審査請求日】2023-06-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】河野 将弥
(72)【発明者】
【氏名】杉原 正浩
(72)【発明者】
【氏名】木村 是
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 慎輔
【審査官】平野 真樹
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-215519(JP,A)
【文献】特開2015-102481(JP,A)
【文献】特開2007-212358(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01K 1/00-19/00
H02K 11/25
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多層構造を有する構造体の背面側に取り付けられた超音波センサと、
前記超音波センサを通じて、前記構造体の内部側へ入射された超音波の反射波信号を取得する取得部と、
前記反射波信号のうち、前記構造体の内部側表面にて反射した反射波を含む領域を抽出する抽出部と、
前記抽出された領域における反射波信号に基づいて前記構造体の内部側表面の温度を特定する特定部と、
前記構造体の基準温度計測手段と、
を備え
、
前記特定部は、前記基準温度を取得するとともに、前記反射波信号および前記基準温度の両方に基づいて前記構造体の内部側表面の温度を特定する、
温度計測装置。
【請求項2】
前記特定部は、機械学習によって同定されたモデル関数を用いて、前記反射波信号および前記基準温度の両方に基づいて前記構造体の内部側表面の温度を特定する、
請求項
1に記載の温度計測装置。
【請求項3】
前記超音波センサを通じて、予め定められた周波数帯に属する信号を取得し、当該信号に基づいて、前記構造体における接触判定を行う接触判定部をさらに備える、
請求項1
または2に記載の温度計測装置。
【請求項4】
多層構造を有する構造体の背面側に取り付けられた超音波センサと、
前記超音波センサを通じて、前記構造体の内部側へ入射された超音波の反射波信号を取得する取得部と、
前記反射波信号のうち、前記構造体の内部側表面にて反射した反射波を含む領域を抽出する抽出部と、
前記抽出された領域における反射波信号に基づいて前記構造体の内部側表面の温度を特定する特定部と、
前記超音波センサを通じて、予め定められた周波数帯に属する信号を取得し、当該信号に基づいて、前記構造体における接触判定を行う接触判定部と、
を備える温度計測装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の温度計測装置と、
前記構造体を有する機械と、を備え、
前記構造体は、背面側表面から内部側に向けて設けられた凹部を有し、
前記超音波センサは、前記凹部に取り付けられている、
機械システム。
【請求項6】
多層構造を有する構造体の背面側に取り付けられた超音波センサを用いる温度計測方法であって、
前記超音波センサを通じて、前記構造体の内部側へ入射された超音波の反射波信号を取得するステップと、
前記反射波信号のうち、前記構造体の内部側表面にて反射した反射波を含む領域を抽出するステップと、
前記抽出された領域における反射波信号に基づいて前記構造体の内部側表面の温度を特定するステップと、
前記構造体の基準温度を計測するステップと、
を有
し、
前記構造体の内部側表面の温度を特定するステップは、前記反射波信号および前記基準温度の両方に基づいて前記構造体の内部側表面の温度を特定する、
温度計測方法。
【請求項7】
多層構造を有する構造体の背面側に取り付けられた超音波センサを備える温度計測装置のコンピュータに、
前記超音波センサを通じて、前記構造体の内部側へ入射された超音波の反射波信号を取得するステップと、
前記反射波信号のうち、前記構造体の内部側表面にて反射した反射波を含む領域を抽出するステップと、
前記抽出された領域における反射波信号に基づいて前記構造体の内部側表面の温度を特定するステップと、
前記構造体の基準温度を計測するステップと、
を実行させるプログラム
であって、
前記構造体の内部側表面の温度を特定するステップは、前記反射波信号および前記基準温度の両方に基づいて前記構造体の内部側表面の温度を特定する、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、温度計測装置、機械システム、温度計測方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、媒体内に超音波を伝播することにより該媒体内の温度分布を測定できる超音波を用いた温度測定方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4843790号公報
【文献】特開2003-42857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的な回転機械設備の軸受では、高周速・高面圧化により運転条件が過酷化する中、軸受内部側の表面に耐荷重性・耐摩耗性の高い複合材を積層してなる多層構造軸受の適用が進んでいる。
【0005】
一般的に、軸受の温度は、軸受内部側の表面(複合材の表面)から数ミリメートル程度深い位置にある母材(バックメタル)内に設置した熱電対や測温抵抗体で計測・監視される。しかし、多層構造軸受の場合、軸受内部側の表面にある複合材の熱伝導率が低いため、上記手法では、異常の発生に伴い軸受内部側の表面に温度変化が生じた場合であっても、当該温度変化に対する感度が低くなってしまう。つまり、上記手法では多層構造を有する軸受の表面温度をタイムリーに監視することができない。
【0006】
本開示の目的は、多層構造を有する構造体の内部側の表面温度をタイムリーに監視可能な温度計測装置、機械システム、温度計測方法およびプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様によれば、温度計測装置は、多層構造を有する構造体の背面側に取り付けられた超音波センサと、前記超音波センサを通じて、前記構造体の内部側へ入射された超音波の反射波信号を取得する取得部と、前記反射波信号のうち、前記構造体の内部側表面にて反射した反射波を含む領域を抽出する抽出部と、前記抽出された領域における反射波信号に基づいて前記構造体の内部側表面の温度を特定する特定部と、を備える。
【0008】
本開示の一態様によれば、温度計測方法は、多層構造を有する構造体の背面側に取り付けられた超音波センサを用いる温度計測方法であって、前記超音波センサを通じて、前記構造体の内部側へ入射された超音波の反射波信号を取得するステップと、前記反射波信号のうち、前記構造体の内部側表面にて反射した反射波を含む領域を抽出するステップと、前記抽出された領域における反射波信号に基づいて前記構造体の内部側表面の温度を特定するステップと、を有する。
【0009】
本開示の一態様によれば、プログラムは、多層構造を有する構造体の背面側に取り付けられた超音波センサを備える温度計測装置のコンピュータに、前記超音波センサを通じて、前記構造体の内部側へ入射された超音波の反射波信号を取得するステップと、前記反射波信号のうち、前記構造体の内部側表面にて反射した反射波を含む領域を抽出するステップと、前記抽出された領域における反射波信号に基づいて前記構造体の内部側表面の温度を特定するステップと、を実行させる。
【発明の効果】
【0010】
上述の各態様によれば、多層構造を有する軸受の表面温度をタイムリーに監視できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本開示の少なくとも一実施形態に係る機械システムの全体構成を示す図である。
【
図2】本開示の少なくとも一実施形態に係る超音波センサの設置方法を示す図である。
【
図3】本開示の少なくとも一実施形態に係る温度計測装置の機能構成を示す図である。
【
図4】本開示の少なくとも一実施形態に係る界面温度テーブルの例を示す図である。
【
図5】本開示の少なくとも一実施形態に係る温度計測装置の処理フローを示す図である。
【
図6】本開示の少なくとも一実施形態に係る温度計測装置の処理の説明図である。
【
図7】本開示の少なくとも一実施形態に係る温度計測装置の処理の説明図である。
【
図8】本開示の少なくとも一実施形態に係る超音波センサの設置方法を示す図である。
【
図9】本開示の少なくとも一実施形態に係る超音波センサの設置方法を示す図である。
【
図10】本開示の少なくとも一実施形態に係る超音波センサの設置方法を示す図である。
【
図11】本開示の少なくとも一実施形態に係る機械システムの構成の一部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<第1の実施形態>
以下、第1の実施形態に係る温度計測装置、およびこれを有する機械システムについて、
図1~
図6を参照しながら説明する。
【0013】
(画像追跡装置の構成)
図1は、第1の実施形態に係る機械システムの全体構成を示す図である。
図1に示すように、機械システム9は、温度計測装置1と、回転機械2とを有してなる。
回転機械2は、例えばタービンなどである。
図1は、回転機械2の軸受B、ロータR及び油層Oを回転軸線方向に見た様子を図示している。
図1に示すように、回転機械2の構造体である軸受Bは、背面側に位置するバックメタルBM、および、内部側に位置する複合材Cの多層構造とされている。複合材Cは、軸受Bにおける耐荷重性・耐摩耗性の向上を目的として設けられているものであり、例えばPEEK材などである。複合材Cの厚さは例えば3mm程度とされる。
【0014】
温度計測装置1は、回転機械2の運転中における軸受内部側の表面の温度を常時監視する。温度計測装置1は、後述する構成に基づき、回転機械2の軸受内部側の表面(以下、「内部側表面H」とも表記する。)の温度をタイムリーに監視可能とされる。これにより、機械システム9は、回転機械2における早期の異常検知および緊急停止を実現する。
【0015】
図1に示すように、温度計測装置1は、コンピュータ1Aと、超音波センサS1と、基準温度センサ(後述)として機能する熱電対S2とを備えている。超音波センサS1及び熱電対S2は、軸受Bの背面側表面に設置される。
【0016】
超音波センサS1は、一定周期で、軸受Bの内部側へ超音波を入射し、その反射波を観測する。以下の説明において、超音波センサS1から出力される超音波を入射波W0とも表記する。また、バックメタルBMと複合材Cとの界面で生じた反射波を第1反射波W1とも表記する。また、複合材Cと油層Oとの界面(つまり、軸受Bの内部側表面)で生じた反射波を第2反射波W2とも表記する。
【0017】
(超音波センサの設置)
図2は、第1の実施形態に係る超音波センサの設置方法を示す図である。
図2に示すように、本実施形態においては、超音波センサS2は、接着剤及びモールド剤により、軸受Bの背面側表面に固定設置される。
【0018】
(温度計測装置の機能構成)
図3は、第1の実施形態に係る温度計測装置の機能構成を示す図である。
図3に示すように、温度計測装置1のコンピュータ1Aは、CPU10と、メモリ11と、出力デバイス12と、入力デバイス13と、接続インタフェース14a、14bと、ストレージ15とを有している。
【0019】
CPU10は、温度計測装置1の処理全体を司るプロセッサであって、予め用意されたプログラムに従って動作することで種々の機能を有する。CPU10の具体的な処理については後述する。
【0020】
メモリ11は、いわゆる主記憶装置であって、CPU10の動作に必要な命令やデータが展開される。
【0021】
出力デバイス12は、ディスプレイモニタ(液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ)やスピーカ等の出力装置である。
【0022】
入力デバイス13は、マウス、キーボードやタッチセンサ等の入力装置である。
【0023】
接続インタフェース14a、14bは、それぞれ、回転機械2の軸受Bに取り付けられた超音波センサS1、熱電対S2との接続インタフェースである。なお、接続インタフェース14aは、超音波センサS1に対し、超音波入射のためのパルス制御部、および、反射波取り込みのためのA/D変換部を有する。
【0024】
ストレージ15は、いわゆる補助記憶装置であって、例えばHDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)等であってよい。本実施形態において、ストレージ15には、予め用意されている界面温度テーブルT(後述)が記憶されている。
【0025】
次に、CPU10の機能について説明する。
図3に示すように、CPU10は、取得部100、抽出部101、特定部102、接触判定部103としての機能を有する。
【0026】
取得部100は、超音波センサS1を通じて、軸受Bの内部側へ入射された超音波(入射波W0)の反射波信号を取得する。ここで反射波信号とは、入射波W0の反射波(第1反射波W1および第2反射波W2)の信号強度の時系列情報である。
【0027】
抽出部101は、取得部100が取得した反射波信号のうち、軸受Bの内部側表面Hにて反射した反射波(つまり第2反射波W2)を含む時間領域を抽出する。
【0028】
特定部102は、抽出部101によって抽出された時間領域における反射波信号(第2反射波W2の強度を示す信号)に基づいて軸受Bの内部側表面Hの温度(以下、「内部側表面温度」とも表記する。)を特定する。
【0029】
接触判定部103は、超音波センサS1を通じて、予め定められた周波数帯であって超音波センサS1自らが出力する入射波W0とは異なる周波数帯に属する超音波信号を取得する。そして、接触判定部103は、当該超音波信号に基づいて、ロータRと軸受Bとの接触判定を行う。
【0030】
(界面温度テーブル)
図4は、第1の実施形態に係る界面温度テーブルの例を示す図である。
図4に示すように、界面温度テーブルTは、第2反射波W2の「振幅」と熱電対S2から取得される「基準温度」との組み合わせから、軸受Bの内部側表面温度を一意に特定可能とする情報テーブルである。このような界面温度テーブルTは、別途実施されたシミュレーション結果などに基づいて事前に用意される。
【0031】
一般に、ある界面における超音波の反射率は、その界面温度が高くなるほど大きくなることが知られている。つまり、第2反射波W2の振幅は、界面温度(軸受Bの内部側表面温度)が高くなるほど大きくなる。よって、温度計測装置1は、第2反射波W2の振幅を参照すれば、軸受Bの内部側表面温度を一意に特定できるようにも思える。しかしながら、反射波の強度は、界面温度のみならず、その超音波が伝搬する材料の温度にも大きく依存する。即ち、入射波W0及び第2反射波W2は、バックメタルBM内で徐々に減衰しながら伝搬しているところ、この減衰の度合いは、バックメタルBMの温度に依存して増減する。
例えば、ある時刻tに軸受B及びロータRに接触異常が発生して軸受Bの内部側表面温度が上昇したとする。異常が発生した瞬間(時刻t)は、バックメタルBMの内部は標準温度(通常運転時の温度)となっているが、時間の経過とともに、異常発生箇所から徐々にバックメタルBM背面側の方向に向けて高温領域が広がっていく。そうすると、入射波W0及び第2反射波W2は、時間の経過に伴いバックメタルBM内の高温領域を伝搬する割合が高くなるため、伝搬中に減衰する度合いが大きくなる。これにより、実際に超音波センサS1で観測される第2反射波W2の振幅は、異常発生から時間が経過するにつれて、徐々に、内部側表面温度に理想的に対応する振幅よりも小さくなってしまう。
そこで、本実施形態に係る温度計測装置1は、バックメタルBM内の温度上昇における減衰の度合いを考慮するため、熱電対S2にて計測される基準温度に基づいて内部側表面温度の観測値を補正することとしている。
【0032】
このように、温度計測装置1は、超音波センサS1と同じく軸受Bの背面側に取り付けられた熱電対S2(基準温度センサ)を更に備えている。そして、特定部102は、熱電対S2による軸受Bの背面側表面の温度(基準温度)を取得するとともに、反射波信号および背面側表面の温度の両方に基づいて軸受Bの内部側表面温度を特定する。なお、基準温度は熱電対S2による計測ではなく、例えば、超音波の伝搬時間から温度分布を計測するなどの、その他の手法により計測しても構わない。
【0033】
(温度計測装置の処理フロー)
図5は、第1の実施形態に係る温度計測装置の処理フローを示す図である。
また、
図6は、第1の実施形態に係る温度計測装置の処理の説明図である。
以下、
図5、
図6を参照しながら温度計測装置1の処理の流れについて詳しく説明する。なお、
図5に示す処理フローは、回転機械2の運転中において、一定周期で繰り返し実施される。
【0034】
まず、温度計測装置1の取得部100は、超音波センサS1を通じて反射波信号を取得する(ステップS01)。上述した通り、この反射波信号は、超音波センサS1自身が出力する入射波W0の反射波の強度の時系列情報である。入射波W0は、例えば数MHzオーダの周波数の超音波として出力される。
【0035】
ここで
図6は、取得部100が取得する反射波信号の例を図示している。
図6に示すように、超音波センサS1は、入射波W0の出力後、まずバックメタルBMと複合材Cとの界面で反射する第1反射波W1を観測し、次いで複合材Cと油層Oとの界面で反射する第2反射波W2を観測する。また、第1反射波W1の観測と第2反射波W2との観測に時間差があるのは、複合材Cの厚さ分の行路差によるものである。なお、入射波W0は、バックメタルBMと複合材Cとの界面、複合材Cと油層Oとの界面のみならず、油層OとロータRとの界面でも生じる(これを第3反射波とも表記する)が、この第3反射波は、一般的に油層Oが数十μmと非常に薄いため第2反射波W2との分離はできず、一体となった反射波W2として扱う。
【0036】
図5に戻り、次に、温度計測装置1の抽出部101は、ステップS1で取得された反射波信号から、第2反射波の振幅を含む時間領域を抽出する(ステップS2)。ここで、
図6に示すように、例えば、抽出部101は、第2反射波W2の振幅のみが時間領域である時刻t1~t2の領域を抽出する。時刻t1~t2の時間領域は、例えば過去の観測結果などから事前に定められる。
【0037】
図5に戻り、次に、温度計測装置1の特定部102は、抽出部101によって抽出された反射波信号の振幅を計測し、さらに、熱電対S2を通じて基準温度を取得する。そして、特定部102は、界面温度テーブルT(
図4)を参照し、第2反射波W2の振幅および基準温度に対応する界面温度(軸受Bの内部側表面温度)を特定し、出力する(ステップS3)。
【0038】
次に、温度計測装置1の接触判定部103は、軸受BとロータRとの接触判定を行う(ステップS4)。軸受BとロータRとの接触があった場合、機械の構造的特徴から定まる周波数帯(例えば数百kHz程度)の超音波が発生する。接触によって発生する周波数帯は、超音波センサS1が出力する超音波の周波数帯とは重複しない。したがって、接触判定部103は、数百kHzの周波数帯に属する超音波の有無を、超音波センサS1を通じて監視する。そして、接触判定部103ある判定閾値を上回る、数百kHz帯の超音波を観測した場合には、軸受BとロータRとが接触したものと判定し、その結果を出力する。
【0039】
(作用効果)
以上、第1の実施形態に係る温度計測装置1は、多層構造を有する軸受Bの背面側に取り付けられた超音波センサS1と、超音波センサS1を通じて、軸受Bの内部側へ入射された超音波の反射波信号を取得する取得部100と、取得部100が取得した反射波信号のうち軸受Bの内部側表面Hにて反射した反射波(第2反射波W2)を含む領域を抽出する抽出部101と、抽出部101によって抽出された領域における反射波信号に基づいて軸受Bの内部側表面温度を特定する特定部102とを有する。
このようにすることで、多層構造を有する軸受Bの内部側表面温度を、超音波の反射波の振幅をもって精度よく推定することができる。したがって、第1の実施形態に係る温度計測装置1によれば、多層構造を有する軸受の内部側の表面温度をタイムリーに監視できる。
【0040】
また、第1の実施形態に係る温度計測装置1は、軸受Bの背面側に取り付けられた基準温度センサ(熱電対S2)を更に備える。そして、特定部102は、熱電対S2による軸受Bの背面側表面の温度(基準温度)を取得するとともに、反射波信号の強度(第2反射波W2の振幅)および背面側表面の温度の両方に基づいて軸受Bの内部側表面の温度を特定する。
このようにすることで、軸受B(バックメタルBM)内部で生じる超音波の減衰の影響も加味した上で、内部側表面温度を特定することができる。
【0041】
また、第1の実施形態に係る温度計測装置1は、超音波センサS1を通じて、予め定められた周波数帯(数百kHz帯)に属する超音波信号を取得し、当該超音波信号に基づいて、ロータRと軸受Bとの接触判定を行う接触判定部103をさらに備える。
このようにすることで、温度による異常検知と接触判定による異常検知の両方を同時に行うことができるので、より安全性の高い機械システムを提供することができる。
【0042】
(第1の実施形態の変形例)
以下、第1の実施形態の変形例について説明する。
【0043】
第1の実施形態では、特定部102は、界面温度テーブルTを参照して、第2反射波の振幅と基準温度との組み合わせから内部側表面温度を特定するものとして説明したが、他の実施形態においてはこれに限定されない。
【0044】
例えば、第1の実施形態の変形例に係る特定部102は、第2反射波の振幅と基準温度とを説明変数(X1,X2)とし、内部側表面温度を目的変数(Y)とするモデル関数fを用いて、Y=f(X1、X2)を計算し、内部側表面温度を特定するものとしてもよい。また、この場合において、モデル関数fのパラメータは、機械学習により学習されて同定されるものとしてもよい。
【0045】
図7は、第1の実施形態の変形例に係る温度計測装置の処理の説明図である。
次に、第1の実施形態の他の変形例について
図7を参照しながら説明する。
【0046】
バックメタルBMの内部の温度変化に伴い、超音波の伝搬速度も変化することが知られている。そのため、バックメタルBMの温度変化とともに入射波W0の出力時間に対する第2反射波W2の到達時間も変化する。そこで、本変形例に係る抽出部101は、熱電対S2による基準温度に応じて、第2反射波W2を抽出する時間領域(時刻t1~t2)を変更してもよい。また、基準温度に対する時間領域の変更の度合いは機械学習によって同定されるパラメータの一つであってよい。
【0047】
<第2の実施形態>
以下、第2の実施形態の変形例に係る機械システムについて
図8を参照しながら説明する。
【0048】
図8は、第2の実施形態に係る超音波センサの設置方法を示す図である。
図8に示すように、第2の実施形態に係る回転機械2の軸受Bは、背面側表面から内側に向けて設けられた凹部Kを有している。そして、温度計測装置1の超音波センサS1は、凹部Kに取り付けられている。なお、図示を省略するが、熱電対S2も超音波センサS1と同様に凹部Kに取り付けられている。
【0049】
このようにすることで、入射波W0及び第2反射波W2がバックメタルBMを伝搬する距離が物理的に短くなる。そうすると、入射波W0及び第2反射波W2の、バックメタルBM伝搬中における減衰の度合いが低減されるため、超音波センサS1で観測される第2反射波W2の信号強度を高めることができる。よって、内部側表面温度の変化に応じた第2反射波W2の振幅の変化を鮮明に捉えることができ、内部側表面温度の検出精度を高めることができる。
【0050】
(第2の実施形態の変形例)
図9、
図10は、それぞれ、第2の実施形態の変形例に係る超音波センサの設置方法を示す図である。
第2の実施形態の変形例に係る機械システム9では、例えば、
図9、
図10に示すように、取付治具Jを介して凹部Kの内部に取り付けられる態様であってもよい。
具体的には、凹部Kの内側表面にネジ溝が設けられ、取付治具J自身が固定ネジとして凹部Kに取り付けられる態様とされる。
これにより、超音波センサS1の交換作業の負荷を軽減することができる。
【0051】
また、上述の各実施形態及び変形例においては、温度計測装置1は、熱電対S2(基準温度センサ)を有するものとして説明したが、他の実施形態においては熱電対S2を具備しなくともよい。即ち、他の実施形態に係る温度計測装置1は、超音波センサS1による第2反射波W2の信号強度(振幅)のみで軸受2の内部側表面温度を計測するものであってよい。この場合において、例えば、温度計測装置1は、発熱とともにバックメタルBM内部に徐々に高温領域が広がり、第2反射波W2が時々刻々と減衰していく経時的な振る舞い、即ち、初期温度からの振幅変化を累積的に計測することにより、内部側表面温度を特定するものとしてもよい。
【0052】
<第3の実施形態>
次に、第3の実施形態に係る機械システムについて
図11を参照しながら説明する。
【0053】
(機械システムの構成)
図11は、本開示の少なくとも一実施形態に係る機械システムの構成を示す図である。
本実施形態に係る機械システム9は、
図11に示すように、エンジンである内燃機関3を含むシステムである。温度計測装置1は、この内燃機関3の構造体であるシリンダライナL及び油層Oの多層構造を温度計測対象とする(本実施形態においては、シリンダライナL及び油層Oの組が「多層構造を有する構造体」に相当する。)。温度計測装置1は、シリンダライナL及び油層Oの内部側に配されるピストンPのピストンリングPRの表面(内部側表面H)を計測対象とする。
【0054】
回転機械システム9の超音波センサS1は、シリンダライナLの背面側に設置される。超音波センサS1は、シリンダライナLの内部側に向けて入射波W0を出力し、第1反射波W1、第2反射波W2をそれぞれ観測する。本実施形態においては、
図11に示すように、第1反射波W1は、シリンダライナLと油層Oとの界面での反射波である。また、第2反射波W2は、油層OとピストンリングPRとの界面での反射波である。本実施形態に係る温度計測装置1は、第2反射波W2の振幅の観測結果に基づいて、ピストンリングPRの表面温度をタイムリーに計測可能とする。
【0055】
上述の実施形態においては、温度計測装置1の各種処理の過程は、プログラムの形式でコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記憶されており、このプログラムをコンピュータが読み出して実行することによって上記各種処理が行われる。また、コンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリ等をいう。また、このコンピュータプログラムを通信回線によってコンピュータに配信し、この配信を受けたコンピュータが当該プログラムを実行するようにしてもよい。
【0056】
上記プログラムは、上述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。更に、上述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
【0057】
以上のとおり、本開示に係るいくつかの実施形態を説明したが、これら全ての実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態及びその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0058】
1 温度計測装置
1A コンピュータ
10 CPU
100 取得部
101 抽出部
102 特定部
103 接触判定部
11メモリ
12 出力デバイス
13 入力デバイス
14 接続インタフェース
15 ストレージ
2 回転機械(機械)
3 内燃機関(機械)
9 機械システム
B 軸受(構造体)
L シリンダライナ
R ロータ
BM バックメタル
C 複合材
O 油層
S1 超音波センサ
S2 熱電対(基準温度センサ)
T 界面温度テーブル