(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-02
(45)【発行日】2024-05-14
(54)【発明の名称】航空機の制御システム、航空機、航空機の制御方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
B64D 45/04 20060101AFI20240507BHJP
B64C 13/18 20060101ALI20240507BHJP
G05B 11/36 20060101ALI20240507BHJP
G08G 5/02 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
B64D45/04 B
B64C13/18 C
G05B11/36 501B
G08G5/02 A
(21)【出願番号】P 2020189570
(22)【出願日】2020-11-13
【審査請求日】2023-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小島 徹
(72)【発明者】
【氏名】森 智史
【審査官】諸星 圭祐
(56)【参考文献】
【文献】特許第6667590(JP,B1)
【文献】特表2017-504881(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0190964(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第110045748(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0157239(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64C 13/18
B64D 45/04
G05B 11/36
G08G 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機を目標の状態にするための目標指令値を取得する目標指令値算出部と、
入力値に応じて、航空機の速度の参照値である参照速度を出力値として一義的に設定する参照モデルに、前記入力値として前記目標指令値に基づく値を入力することで、前記参照速度を算出する参照速度算出部と、
前記航空機の制御に用いる、目標位置に対する前記航空機の相対速度を算出する相対速度算出部と、
前記相対速度と前記参照速度との差分に基づき、航空機に作用する推定外乱量を算出する推定外乱量算出部と、
前のタイミングにおいて算出された前記推定外乱量に基づき、前記目標指令値を補正する補正目標指令値算出部と、
を含む、
航空機の制御システム。
【請求項2】
前記相対速度算出部は、前記目標位置に対する前記航空機の相対位置に基づき、前記相対速度を算出する、請求項1に記載の航空機の制御システム。
【請求項3】
前記参照モデルは、前記入力値の変化に対する前記出力値の変化のむだ時間の要素が含まれている、請求項1又は請求項2に記載の航空機の制御システム。
【請求項4】
前記推定外乱量算出部は、前記相対速度を前記航空機の速度に換算して、換算した前記速度と前記参照速度との差分に基づき、前記推定外乱量を算出する、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の航空機の制御システム。
【請求項5】
前記推定外乱量を、前記目標指令値と同じパラメータに換算して補正コマンドを算出する補正コマンド算出部をさらに含み、
前記補正目標指令値算出部は、前記補正コマンドで前記目標指令値を補正する、請求項4に記載の航空機の制御システム。
【請求項6】
前記目標指令値は、前記航空機の姿勢の目標値である、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の航空機の制御システム。
【請求項7】
前記参照モデルは、前記目標指令値に基づく値を入力値として、航空機の姿勢の参照値を一義的に設定する第1参照モデルと、前記第1参照モデルで設定された前記航空機の姿勢の参照値を入力値として、前記航空機の参照速度を一義的に設定する第2参照モデルと、を含む、請求項6に記載の航空機の制御システム。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の航空機の制御システムを備えた、航空機。
【請求項9】
航空機を目標の状態にするため目標指令値を取得するステップと、
入力値に応じて、航空機の速度の参照値である参照速度を出力値として一義的に設定する参照モデルに、前記入力値として前記目標指令値に基づく値を入力することで、前記参照速度を算出するステップと、
前記航空機の制御に用いる、目標位置に対する前記航空機の相対速度を算出するステップと、
前記相対速度と前記参照速度との差分に基づき、航空機に作用する推定外乱量を算出するステップと、
前のタイミングにおいて算出された前記推定外乱量に基づき、前記目標指令値を補正するステップと、
を含む、
航空機の制御方法。
【請求項10】
航空機を目標の状態にするための目標指令値を取得するステップと、
入力値に応じて、航空機の速度の参照値である参照速度を出力値として一義的に設定する参照モデルに、前記入力値として前記目標指令値に基づく値を入力することで、前記参照速度を算出するステップと、
前記航空機の制御に用いる、目標位置に対する前記航空機の相対速度を算出するステップと、
前記相対速度と前記参照速度との差分に基づき、航空機に作用する推定外乱量を算出するステップと、
前のタイミングにおいて算出された前記推定外乱量に基づき、前記目標指令値を補正するステップと、
を、コンピュータに実行させる、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機の制御システム、航空機、航空機の制御方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、航空機を目標地点へと誘導するための技術が知られている。例えば、特許文献1には、ステレオカメラで取得した目標地点の画像情報を画像処理して目標地点までの距離を求め、距離と機体の姿勢角とに基づいて目標地点に対する機体の相対位置を算出し、相対位置を用いて航法情報を生成する航法装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
航空機が飛行する際には例えばガストなどの外乱が作用し、例えば特許文献1の方法では、航空機を適切に制御できなくなるおそれがある。
【0005】
本開示は、上述した課題を解決するものであり、外乱が作用する場合にも航空機を適切に制御可能な航空機の制御システム、航空機、航空機の制御方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示に係る航空機の制御システムは、航空機を目標の状態にするための目標指令値を取得する目標指令値算出部と、入力値に応じて、航空機の速度の参照値である参照速度を出力値として一義的に設定する参照モデルに、前記入力値として前記目標指令値に基づく値を入力することで、前記参照速度を算出する参照速度算出部と、前記航空機の制御に用いる、目標位置に対する前記航空機の相対速度を算出する相対速度算出部と、前記相対速度と前記参照速度との差分に基づき、航空機に作用する推定外乱量を算出する推定外乱量算出部と、前のタイミングにおいて算出された前記推定外乱量に基づき、前記目標指令値を補正する補正目標指令値算出部と、を含む。
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示に係る航空機は、前記航空機の制御システムを備える。
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示に係る航空機の制御方法は、航空機を目標の状態にするための目標指令値を取得するステップと、入力値に応じて、航空機の速度の参照値である参照速度を出力値として一義的に設定する参照モデルに、前記入力値として前記目標指令値に基づく値を入力することで、前記参照速度を算出するステップと、前記航空機の制御に用いる、目標位置に対する前記航空機の相対速度を算出するステップと、前記相対速度と前記参照速度との差分に基づき、航空機に作用する推定外乱量を算出するステップと、前のタイミングにおいて算出された前記推定外乱量に基づき、前記目標指令値を補正するステップと、を含む。
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示に係るプログラムは、航空機を目標の状態にするための目標指令値を取得するステップと、入力値に応じて、航空機の速度の参照値である参照速度を出力値として一義的に設定する参照モデルに、前記入力値として前記目標指令値に基づく値を入力することで、前記参照速度を算出するステップと、前記航空機の制御に用いる、目標位置に対する前記航空機の相対速度を算出するステップと、前記相対速度と前記参照速度との差分に基づき、航空機に作用する推定外乱量を算出するステップと、前のタイミングにおいて算出された前記推定外乱量に基づき、前記目標指令値を補正するステップと、を、コンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、外乱が作用する場合にも航空機を適切に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本実施形態にかかる航空機の制御システムの一例を示す概略構成図である。
【
図2】
図2は、本実施形態にかかる航空機が目標着地点に向かう様子を示す説明図である。
【
図3】
図3は、目標着地点に設けられるマーカーの一例を示す説明図である。
【
図4】
図4は、本実施形態に係る誘導演算部の模式的なブロック図である。
【
図5】
図5は、画像処理部および航空機情報取得部により実行される相対位置演算処理の一例を示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、航空機が目標着地点に誘導される様子を示す説明図である。
【
図7】
図7は、相対速度算出部により実行される相対速度演算処理の一例を示すブロック図である。
【
図8A】
図8Aは、制御量算出部により航空機の制御量を算出する構成の一例を示すブロック図である。
【
図8B】
図8Bは、相対位置および相対速度を直交軸とする座標平面を示す説明図である。
【
図8C】
図8Cは、多値制御において設定される加算値を規定するマップの一例を示す説明図である。
【
図8D】
図8Dは、多値制御において設定される加算値を規定するマップの他の例を示す説明図である。
【
図9】
図9は、補正目標指令値の算出方法を説明する模式的なブロック図である。
【
図10】
図10は、補正目標指令値の算出フローを説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態を詳細に説明する。なお、この実施形態により本発明が限定されるものではなく、また、実施形態が複数ある場合には、各実施形態を組み合わせて構成するものも含むものである。
【0013】
図1は、本実施形態にかかる航空機の制御システムの一例を示す概略構成図であり、
図2は、本実施形態にかかる航空機が目標着地点に向かう様子を示す説明図である。本実施形態にかかる航空機1は、回転翼機としての飛行体(例えばヘリコプタ、ドローン等)である。本実施形態において、航空機1は、無人機である。なお、航空機1は、例えば、前進、後進、横進、旋回、ホバリングなどが可能な飛行体であり、有人機であってもよい。航空機1は、制御システム100を搭載しており、制御システム100により飛行が制御され、
図2に示す目標着地点2に着地する。
【0014】
(目標着地点)
本実施形態において、目標着地点2は、
図2に示すように、船舶5上に設けられている。したがって、航空機1は、水上を移動する移動体としての船舶5に着地(着艦)する。なお、船舶5には、図示省略するが、目標着地点2に航空機1を着地させた際に、航空機1を拘束するための拘束装置が設けられている。ただし、目標着地点2は、船舶5に限らず、地上を移動する移動体としての車両等に設けられてもよいし、移動しない設備、地面に設けられてもよい。また、目標着地点2は、航空機1が着地する地点であることに限られず、例えば航空機1が通過する目標となる場所などであってもよい。すなわち、目標着地点2は、航空機1の飛行先の目標位置であるともいえる。
【0015】
目標着地点2には、航空機1が目標着地点2の位置を捕捉するためのマーカー7が設けられている。
図3は、目標着地点に設けられるマーカーの一例を示す説明図である。図示するように、マーカー7は、例えば白黒の2色で色分けされたARマーカーであり、正方形状のマーカーである。なお、マーカー7は、ARマーカーに限らず、画像処理により目標着地点2の位置を捕捉することができるマーカーであればよく、例えばヘリポートの着地点を示すHマーク、Rマーク等であってもよい。また、マーカー7は、船舶5に異なる形状のマーカーが複数設けられてもよく、航空機1は、異なるマーカー7のいずれかに対応した目標着地点2に誘導されるものであってもよい。
【0016】
(制御システム)
本実施形態にかかる航空機の制御システム100は、航空機1の飛行を制御するシステムであり、例えば、飛行中の航空機1を目標着地点2に着地させたり、目標着地点2に追従してホバリングさせたりするように、航空機1を制御するシステムである。制御システム100は、例えばコンピュータを含み、航空機1に搭載される。制御システム100は、
図1に示すように、カメラ10と、航法装置20と、制御部30と、高度センサ25とを備える。
【0017】
(カメラ)
カメラ10は、航空機1に図示しないジンバルを介して搭載された撮影装置である。カメラ10は、マーカー7を撮影することができれば、単眼カメラ、複眼カメラ、赤外線カメラ等であってもよい。カメラ10は、航空機1から目標着地点2に設けられたマーカー7を撮影するために設けられる。カメラ10は、図示しないジンバルを介して撮影方向を調整可能とされている。本実施形態において、カメラ10は、その撮影範囲B(
図2、
図6参照)が、一例として、鉛直方向の真下を向くように制御部30によって制御される。なお、カメラ10は、撮影範囲Bが、鉛直方向に対して斜め前方側を向くように制御部30によって制御されてもよい。また、カメラ10は、ジンバルを省いてもよく、撮影方向が鉛直方向の下方側を向くように、航空機1の機体直下に固定してもよい。
【0018】
(航法装置)
航法装置20は、例えば、慣性航法装置(INS:Inertial Navigation System)である。なお、本実施形態において、航法装置20は、慣性航法装置に適用して説明するが、特に限定されず、いずれの航法装置20を用いてもよい。また、航法装置20は、位置の計測精度を向上させるために、GPS(Global Positioning System)を含んだ慣性航法装置となっている。本実施形態では、GPSを含んだ慣性航法装置に適用して説明するが、GPSに特に限定されず、精度よく位置を計測可能な位置計測部であればよく、例えば、準天頂衛星システムを用いたものであってもよいし、航法装置20のみで精度よく位置を計測可能であれば、GPS等の位置計測部を省いた構成であってもよい。GPSを含んだ航法装置20は、航空機1のロール方向、ヨー方向およびピッチ方向の姿勢角、航空機1の機体速度(Vx、Vy)(
図8A参照)、機体加速度(ax、ay)(
図8A参照)、機首方位ψh(
図6参照)および位置座標を取得する。なお、航法装置20は、航空機1の姿勢角を検出する姿勢角センサ、航空機1の機体速度(Vx、Vy)を検出する速度検出センサ、航空機1の機体加速度(ax、ay)を検出する加速度検出センサ、航空機1の機首方位ψhを検出するセンサを有するものであってもよい。航法装置20は、取得した航空機1の姿勢角、機体速度(Vx、Vy)、機体加速度(ax、ay)および位置座標を制御部30に出力する。
【0019】
(高度センサ)
高度センサ25は、航空機1の地表面または水面からの高度を検出するセンサである。高度センサ25は、例えば、レーザ高度計、電波高度計、または気圧高度計を用いてもよく、いずれの高度計を用いてもよい。また、これらの高度計を、使用環境に応じて、すなわち地表面からの高度、海面からの高度を計測するために、適宜組み合わせて適用してもよい。高度センサ25は、検出した航空機1の高度を制御部30に出力する。ただし、制御システム100は、高度センサ25に限らず、後述する画像処理部32において、カメラ10で撮影したマーカー7を含む画像に画像処理を施すことで、航空機1と船舶5との相対高度を算出するものであってもよい。
【0020】
(制御部)
制御部30は、演算装置、すなわちCPU(Central Processing Unit)である。制御部30は、画像処理部32と、誘導演算部34と、飛行制御部36とを含む。制御部30は、図示しない制御システム100の記憶部からプログラム(ソフトウェア)を読み出して実行することで、画像処理部32と誘導演算部34と飛行制御部36とを実現して、それらの処理を実行する。なお、制御部30は、1つのCPUによってこれらの処理を実行してもよいし、複数のCPUを備えて、それらの複数のCPUで、処理を実行してもよい。また、画像処理部32と誘導演算部34と飛行制御部36との少なくとも一部を、ハードウェア回路で実現してもよい。なお、制御部30は、航空機1に設けられた図示しないジンバルを介して、カメラ10の撮影方向を制御する図示しない撮影制御部を備えている。本実施形態では、上述したように、カメラ10の撮影範囲Bが鉛直方向の真下を向くように調整される。
【0021】
(画像処理部)
画像処理部32は、カメラ10で撮影された画像に画像処理を施して、マーカー7すなわち目標着地点2の中心(Cx、Cy)(
図3参照)を算出する。ここでの中心(Cx、Cy)は、カメラ10で撮影された画像の中心を原点Oc(
図6参照)とするカメラ固定座標系における座標点であり、画像中心からの画素数により算出することができる。中心(Cx、Cy)の算出手法については、後述する。画像処理部32は、算出したマーカー7の中心(Cx、Cy)を誘導演算部34に出力する。なお、目標着地点2は、マーカー7の中心(Cx、Cy)に限定されず、マーカー7の四隅のいずれかであってもよいし、マーカー7の中心からオフセットした位置であってもよい。
【0022】
また、画像処理部32は、カメラ10で撮影したマーカー7を含む画像に画像処理を施すことで、マーカー7の向きを特定し、航法装置20で取得される航空機1の機首方位φhと対応づけることで、船舶5の船首方位ψs(
図6参照)を算出する。また、画像処理部32は、例えば、船舶5に設けられたセンサにより検出された値をアップリンクすることで、船首方位ψsを取得してもよい。なお、画像処理部32は、上述したように、カメラ10で撮影したマーカー7を含む画像に画像処理を施すことで、航空機1と船舶5との相対高度を算出するものであってもよい。
【0023】
(誘導演算部)
誘導演算部34は、航空機1の目標指令値θ0を算出する。目標指令値θ0は、航空機1の機体速度(Vx、Vy)、姿勢角、姿勢角の変化レート等を調整するための制御量である。目標指令値θ0は、例えば、航空機1を目標着地点2に誘導したり、目標着地点2に追従してホバリングしたりする際の制御量である。
図4は、本実施形態に係る誘導演算部の模式的なブロック図である。
図4に示すように、誘導演算部34は、目標指令値θ0を設定する目標指令値設定部50と、目標指令値θ0を補正して補正目標指令値θを設定する補正目標指令値設定部60とを含む。
【0024】
(目標指令値設定部)
目標指令値設定部50は、目標指令値θ0を取得する。目標指令値θ0は、航空機1を目標の状態にするための指令値であり、目標コマンドともいえる。目標指令値θ0は、例えば、航空機1の姿勢の指令値であり、例えば航空機1のピッチ方向の姿勢角、ロール方向の姿勢角、ヨー方向の姿勢角、コレクティブ方向の高度などの指令値であってよい。また、目標指令値θ0は、航空機1の速度の指令値であってもよい。
【0025】
図4に示すように、目標指令値設定部50は、航空機情報取得部52と、相対速度算出部54と、目標指令値算出部56とを含む。目標指令値設定部50は、航空機情報取得部52によって、航空機1の相対位置を算出し、相対速度算出部54によって、航空機1の相対位置などから航空機1の相対速度を算出し、目標指令値算出部56によって、航空機1の相対速度などから目標指令値θ0を算出する。
【0026】
(航空機情報取得部)
航空機情報取得部52は、航法装置20が取得した航空機1の姿勢角、機体速度(Vx、Vy)、機体加速度(ax、ay)および位置座標や、高度センサ25が取得した航空機1の高度や、画像処理部32が取得した目標着地点2の中心(Cx、Cy)の位置情報などを取得する。すなわち、航空機情報取得部52は、航空機1の現在の状態の情報と、目標着地点2の位置情報とを取得する。
【0027】
(相対位置の算出)
航空機情報取得部52は、航空機1と目標着地点2との相対位置(Xhg、Yhg)(
図6参照)を算出する。航空機情報取得部52は、画像処理部32で算出されたマーカー7の中心(Cx、Cy)と、航空機1と船舶5との相対方位と、航空機1の高度とに基づいて、相対位置(Xhg、Yhg)を算出する。したがって、画像処理部32および航空機情報取得部52は、航空機1と目標着地点2との相対位置(Xhg、Yhg)を取得する相対位置取得部として機能する。なお、以降では、ピッチ軸の方向となるX方向の成分と、ロール軸の方向となるY方向の成分とを併記して示しており、誘導演算部34により各成分の制御量をそれぞれ算出している。なお、航空機1と船舶5との相対方位とは、航空機1の機首方位ψhと、船舶5の船首方位ψsとに基づき算出できる。
【0028】
航空機情報取得部52は、航空機1と目標着地点2との相対位置(Xhg、Yhg)を算出する相対位置演算処理を実行する。相対位置演算処理は、画像処理部32および誘導演算部34により、
図5に示す手順にしたがって実行される。
図5は、画像処理部および航空機情報取得部により実行される相対位置演算処理の一例を示すフローチャートである。
図5に示すフローチャートは、画像処理部32と航空機情報取得部52とにより所定時間ごとに繰り返し実行される。また、
図6は、航空機が目標着地点に誘導される様子を示す説明図である。なお、以下の説明では、カメラ10によりマーカー7を捕捉できている状態において、水平方向における航空機1と目標着地点2との相対位置の算出について説明する。航空機1の目標着地点2に対する相対高度は、高度センサ25で検出される航空機1の高度に基づいて算出され、航空機1と目標着地点2との相対位置等に応じて適宜制御される。また、カメラ10によりマーカー7を捕捉できない程度に航空機1と船舶5とが離れている場合には、例えば互いのGPSによる位置情報等を利用して、航空機1を船舶5に向けて飛行させる。
【0029】
制御部30は、画像処理部32において、カメラ10により撮影された画像を取得する(ステップS1)。次に、制御部30は、画像処理部32において、カメラ固定座標系におけるマーカー7の中心(Cx、Cy)を算出する(ステップS2)。具体的には、画像処理部32は、
図3に示すように、画像処理によってマーカー7の角部同士の間を延びる対角線Ldを2つ特定し、特定した2つの対角線Ldの交点をマーカー7の中心(Cx、Cy)とする。なお、画像処理部32は、対角線Ldを1つのみ特定し、特定した対角線Ldの長さの中心位置をマーカー7の中心(Cx、Cy)としてもよい。また、画像処理部32は、対角線Ldを2つ以上特定し、特定した対角線Ldの長さの中心位置の平均となる位置をマーカー7の中心(Cx、Cy)としてもよい。さらに、画像処理部32は、正方形状のマーカー7を射影変換による関数を用いて台形補正するとき、関数に基づいて正方形の中心(Cx、Cy)を算出してもよい。その際、マーカー7の四隅の座標点、またはマーカー7の白黒に色分けされた境界の各点の座標点を用いて台形補正を行い、他の座標点は内挿補間により算出してもよい。
【0030】
次に、制御部30は、航空機情報取得部52において、マーカー7の中心(Cx、Cy)と、カメラ10の方位すなわち航空機1の機首方位ψhと、航空機1の高度(目標着地点2に対する相対高度)とに基づいて、航空機1と目標着地点2との相対位置(Xhg、Yhg)を演算する(ステップS3)。相対位置(Xhg、Yhg)は、水平方向における航空機1と目標着地点2との距離となる。なお、ステップS3の処理は、画像処理部32で行ってもよい。具体的には、航空機情報取得部52は、まず、画像処理部32で算出されたマーカー7の中心(Cx、Cy)を、カメラ固定座標系における目標座標点(Ximg、Yimg)に座標変換する。
【0031】
次に、航空機情報取得部52は、下記の式(1)、(2)に基づいて、船慣性系Sg(
図6参照)における航空機1と目標着地点2との相対位置(Xsg、Ysg)(
図6参照)を算出する。船慣性系Sgは、目標着地点2を原点Osg(0、0)として、船舶5の船首方位ψsに沿った方向をX軸、船首方位ψsと水平方向で直交する方向をY軸、鉛直方向をZ軸とした座標系である。
【0032】
【0033】
【0034】
次に、航空機情報取得部52は、下記の式(3)、(4)に基づいて、航空機慣性系Hg(
図6参照)における航空機1と目標着地点2との相対位置(Xhg、Yhg)(
図6参照)を算出する。航空機慣性系Hgは、航空機1を原点Ohg(0、0)として、航空機1の機首方位ψhに沿った方向をX軸、機首方位ψhと水平方向で直交する方向をY軸、鉛直方向をZ軸とした座標系である。これにより、水平方向において、航空機慣性系における航空機1と目標着地点2との相対位置(Xhg、Yhg)が算出される。相対位置(Xhg、Yhg)は、航空機1から目標着地点2までの距離である。航空機情報取得部52は、以上のような方法で航空機1と目標着地点2との相対位置を算出するが、相対位置の算出方法はこれに限られない。
【0035】
【0036】
【0037】
(相対高度の算出)
また、航空機情報取得部52は、航空機1の高度に基づいて、目標着地点2までの相対高度を算出する。したがって、高度センサ25および航空機情報取得部52は、航空機1と目標着地点2との相対高度を取得する相対高度取得部として機能する。なお、画像処理部32において、カメラ10で撮影したマーカー7を含む画像に画像処理を施すことで、航空機1と船舶5との相対高度を算出する場合は、画像処理部32が相対高度取得部となる。
【0038】
(相対速度算出部)
図4に示す相対速度算出部54は、目標着地点2すなわち船舶5に対する航空機1の相対速度(ΔVx、ΔVy)を算出する。相対速度(ΔVx、ΔVy)は、航空機1の制御に用いるパラメータである。
図7は、相対速度算出部により実行される相対速度演算処理の一例を示すブロック図である。なお、
図7でも、ピッチ軸の方向となるX方向の成分と、ロール軸の方向となるY方向の成分とを併記して図示している。具体的には、相対速度算出部54は、航空機1と目標着地点2との相対位置(Xhg、Yhg)と、航法装置20で検出された航空機1の機体速度(Vx、Vy)と、に基づいて相対速度(ΔVx、ΔVy)を算出する。
【0039】
相対速度算出部54は、まず、
図7に示すように、航空機1と目標着地点2との相対位置(Xhg、Yhg)を微分することで、航空機1と目標着地点2と相対速度(ΔV1x、ΔV1y)を算出する。本実施形態では、擬似微分フィルタF1を用いて相対位置(Xhg、Yhg)に擬似微分を施す。擬似微分フィルタの伝達関数G1(S)は、下記の式(5)で表される。式(5)中の“s”は、演算子であり、“τ1”は、時定数である。
【0040】
G1(S)=s/(τ1・s+1) …(5)
【0041】
式(5)のような擬似微分フィルタF1により算出された相対速度(ΔV1x、ΔV1y)を後の制御に用いた場合、遅れにより制御性が悪化する可能性がある。そのため、相対速度算出部54は、
図7に示すように、相補フィルタF2を用いて相対速度(ΔVx、ΔVy)を算出する。相補フィルタF2は、ローパスフィルタF2Lと、ハイパスフィルタF2Hとを含んでいる。
【0042】
相対速度算出部54は、擬似微分フィルタF1により算出された相対速度(ΔV1x、ΔV1y)に、ローパスフィルタF2Lを施して、所定のカットオフ周波数以上の周波数を減衰させた相対速度(ΔV2x、ΔV2y)を算出する。ローパスフィルタF2Lの伝達関数G2(s)は、式(6)により表される。式(6)中の“s”は、演算子であり、“τ2”は、時定数である。所定のカットオフ周波数は、“1/τ2”となる。これにより、相対速度(ΔV1x、ΔV1y)のうち、比較的に信頼性の高い穏やかな変化、すなわち所定のカットオフ周波数以下の低周波数域の値を反映させた相対速度(ΔV2x、ΔV2y)を得ることができる。
【0043】
G2(S)=1/(τ2・s+1) …(6)
【0044】
また、相対速度算出部54は、航法装置20で検出された航空機1の機体速度(Vx、Vy)に、ハイパスフィルタF2Hを施して、所定のカットオフ周波数未満の周波数を減衰させた相対速度(ΔV3x、ΔV3y)を算出する。ハイパスフィルタF2Hの伝達関数G3(s)は、式(7)により表される。式(7)中の“s”は、演算子であり、“τ2”は、ローパスフィルタF2Lと共通の時定数である。したがって、ハイパスフィルタF2Hにおいても、所定のカットオフ周波数は、“1/τ2”となる。すなわち、短期的な相対速度(ΔVx、ΔVy)の変化は、航空機1の機体速度(Vx、Vy)自体の変化により生じたものであると推定し、機体速度(Vx、Vy)にハイパスフィルタF2Hを施して得た値を相対速度(ΔVx、ΔVy)の高周波数域の値であると推定する。そして、誘導演算部34は、相対速度(ΔV2x、ΔV2y)と相対速度(ΔV3x、ΔV3y)とを加算した値を、相対速度(ΔVx、ΔVy)として算出する。これにより、高周波数域の値をカットオフして信頼性を高めた相対速度(ΔV2x、ΔV2y)に、当該高周波数域の値と推定した相対速度(ΔV3x、ΔV3y)を加味して、相対速度(ΔVx、ΔVy)を精度良く算出することが可能となる。
【0045】
G3(S)=τ2・s/(τ2・s+1) …(7)
【0046】
相対速度(ΔVx、ΔVy)は、以上のように、航空機1と目標着地点2との相対位置(Xhg、Yhg)に基づき算出される。相対位置は、航空機1に設けられたセンサ(カメラ10など)の検出値に基づき検出されるため、相対速度も、航空機1に設けられたセンサ(カメラ10など)の検出値に基づき検出されるといえる。
【0047】
(目標指令値の算出)
図4に示す目標指令値算出部56は、航空機情報取得部52が算出した相対位置(Xhg、Yhg)や、相対速度算出部54が算出した相対速度(ΔVx、ΔVy)に基づいて、目標指令値θ0を算出する。目標指令値θ0は、航空機1の制御量であるともいえる。
【0048】
(PID制御)
図8Aは、制御量算出部により航空機の制御量を算出する構成の一例を示すブロック図である。
図8Aに示すように、目標指令値算出部56は、相対位置(Xhg、Yhg)と相対速度(ΔVx、ΔVy)とにカルマンフィルタF3を施して、ノイズを除去して誤差を低減させた相対位置(Xhgf、Yhgf)を算出する。なお、カルマンフィルタF3は、省略されてもよい。そして、目標指令値算出部56は、相対位置(Xhgf、Yhgf)、相対速度(ΔVx、ΔVy)および機体加速度(ax、ay)を用いて、PID制御部70(フィードバック制御部)によりPID制御を実行して目標指令値θ0’を算出する。具体的には、目標指令値算出部56は、航空機1と目標着地点2との水平方向における距離としての相対位置(Xhgf、Yhgf)が値0となるように、PID制御により航空機1の目標指令値θ0’を算出する。それにより、航空機1を目標着地点2に誘導させ、目標着地点2の直上で航空機1が船舶5に対して相対的に静止した状態となるように、目標指令値θ0’を決定することができる。また、目標指令値算出部56は、相対速度(ΔVx、ΔVy)および機体加速度(ax、ay)が値0となるように、PID制御により航空機1の目標指令値θ0’を算出する。それにより、航空機1の目標着地点2への誘導に関する精度向上を図ることができる。なお、本実施形態において、PID制御は、機体加速度(ax、ay)を用いるものとしたが、少なくとも航空機1と目標着地点2との相対位置および相対速度に基づいて実行されればよい。
【0049】
また、目標指令値算出部56は、相対速度(ΔVx、ΔVy)が所定値以上のとき、PID制御の積分動作を実行しないものとしてもよい。本実施形態では、航空機1が目標着地点2に対して相対的に静止状態であるとき、航空機1が周囲の風から受ける力を打ち消すことを考慮し、PID制御の積分動作のゲインを比較的に高く設定する。ここで、航空機1が受ける風の力が弱まったとき、航空機1は、一時的に相対的な静止状態から移動し、いずれかの位置で風の力に対して釣り合って再び静止状態となることがある。このとき、航空機1を目標着地点2へと戻すための目標指令値θ0’は、PID制御の積分動作により算出される。したがって、PID制御の積分動作は、必要な構成ではあるものの、上述したように、ゲインが比較的に高く設定されることから、相対速度(ΔVx、ΔVy)が大きい場合には、積分動作により算出される値が大きくなりすぎ、航空機1が目標着地点2を通り過ぎてしまうオーバーシュートが発生する可能性がある。そこで、相対速度(ΔVx、ΔVy)が所定値以上のとき、PID制御の積分動作を実行しないことで、積分ゲインを比較的に大きく設定した場合にも、オーバーシュートを抑制することができる。
【0050】
なお、目標指令値算出部56は、このようにPID制御により目標指令値θ0’を算出するが、PID制御に限らず、P制御、PI制御、PD制御等によって目標指令値θ0’を算出してもよい。
【0051】
(多値制御)
さらに、目標指令値算出部56は、PID制御と並行して、多値制御部72において、PID制御部70で算出した目標指令値θ0’に加算する加算値Dを設定する多値制御を実行する。多値制御部72には、相対位置(Xhgf、Yhgf)および相対速度(ΔVx、ΔVy)が入力される。多値制御部72は、入力された相対位置(Xhgf、Yhgf)および相対速度(ΔVx、ΔVy)に基づいて、加算値Dを算出する。
【0052】
図8Bは、相対位置および相対速度を直交軸とする座標平面を示す説明図である。横軸に相対位置(Xhgf、Yhgf)、縦軸に相対速度(ΔVx、ΔVy)をとっている。なお、
図8Bでも、ピッチ軸の方向となるX方向の成分と、ロール軸の方向となるY方向の成分とを併記して図示している。ここでの相対位置(Xhgf、Yhgf)は、航空機1から目標着地点2までの距離であり、航空機1が目標着地点2よりも航空機1の前進方向において前方にいる場合を正(右方向)とし、航空機1が目標着地点2よりも航空機1の前進方向において後方にいる場合を負(左方向)として考える。また、ここでの相対速度(ΔVx、ΔVy)は、航空機1の機体速度(Vx、Vy)が船舶5の速度よりも大きいときを正(上方向)とし、航空機1の機体速度(Vx、Vy)が船舶5の速度よりも小さいときを負(下方向)として考える。したがって、座標平面上の原点は、航空機1が目標着地点2の直上で、目標着地点2に対して相対的に静止状態となる座標点を示す。なお、相対位置(Xhgf、Yhgf)および相対速度(ΔVx、ΔVy)は、正負を逆にして考えてもよい。また、
図8Bには、現在の相対位置(Xhgf、Yhgf)および相対速度(ΔVx、ΔVy)の座標点Pを例示している。
【0053】
座標平面上には、原点を通り、相対速度(ΔVx、ΔVy)を増加させる増速領域A1(
図8Bで斜線を付した範囲)と相対速度(ΔVx、ΔVy)を減少させる減速領域A2(
図8Bで斜線を付していない範囲)とに区分けする切替線L1が予め設定されている。切替線L1は、座標平面上で、原点を通り、航空機1の機体速度(Vx、Vy)が船舶5の速度(目標着地点2の速度)よりも速く、かつ、航空機1が目標着地点2よりも前進方向において後方となる象限と、航空機1の機体速度(Vx、Vy)が船舶5の速度よりも遅く、かつ、航空機1が目標着地点2よりも前進方向において前方となる象限とを延びる直線である。したがって、本実施形態においては、切替線L1は、
図8Bに示すように、原点を通り、第2象限と第4象限とを延びる。切替線L1の角度は、
図8Bに示すものに限られず、ユーザーにより適宜設定される。例えば、切替線L1の角度を大きくする(相対速度側に近づくように傾ける)と、目標着地点2へ戻る航空機1の機体速度(Vx、Vy)は大きくなるが、オーバーシュートが発生し易くなるため、適切な傾きとなるように設定される。
【0054】
図8Cは、多値制御において設定される加算値を規定するマップの一例を示す説明図である。
図8Cにおいて、横軸は、
図8Bの座標平面上での切替線L1から現在の座標点Pまでの距離を示し、縦軸は、設定される加算値Dを示す。切替線L1から現在の座標点Pまでの距離は、現在の座標点Pが増速領域A1に位置するときに正とし、現在の座標点Pが減速領域A2に位置するときに負とする。本実施形態において、加算値Dは、正の値をとる場合、相対速度(ΔVx、ΔVy)を大きくする傾向、すなわち航空機1の速度を前進方向において増加させる傾向に設定される。また、本実施形態において、加算値Dは、負の値をとる場合、相対速度(ΔVx、ΔVy)を小さくする傾向、すなわち航空機1の速度を前進方向において減少させる傾向または後進方向において増加させる傾向に設定される。また、図中の実線に示すように、加算値Dは、座標点Pと切替線L1との距離が遠いほど絶対値が大きく、座標点Pと切替線L1との距離が近いほど絶対値が小さくなるように、階段状に設定されている。
【0055】
多値制御部72は、現在の相対位置(Xhgf、Yhgf)および相対速度(ΔVx、ΔVy)の座標点Pと、切替線L1との距離に応じて、
図8Cに示す加算値Dを設定し、
図8Aに示すように、加算回路74で、PID制御部70で算出された目標指令値θ0’に加算値Dを加算して、目標指令値θ0とする。
【0056】
それにより、座標点Pが増速領域A1に位置するとき、相対速度(ΔVx、ΔVy)を増加させる傾向の加算値Dが加算された目標指令値θ0で、航空機1の飛行が制御される。その結果、
図8Bに実線で例示するように、
図8Bに破線で例示する加算値Dが加算されていない目標指令値θ0’で航空機1が飛行する場合に比べて、相対速度(ΔVx、ΔVy)が大きくなる。つまり、航空機1の機体速度(Vx、Vy)が速やかに増加し、同じ距離を移動するまでに必要な時間が短くなる。一方、座標点Pが切替線L1を跨いで減速領域A2に至ると、相対速度(ΔVx、ΔVy)を減少させる傾向の加算値Dが加算された目標指令値θ0で、航空機1の飛行が制御される。その結果、
図8Bに実線で例示するように、実線の相対速度(ΔVx、ΔVy)は、増速領域A1から切替線L1を超えて減速領域A2に移行した直後において、破線の相対速度に比して大きくなるものの、目標着地点2に近づくにつれて、破線よりも小さくなる。つまり、航空機1の機体速度(Vx、Vy)が速やかに減少し、航空機1が座標平面上の原点を通り過ぎてオーバーシュートすることが抑制される。
【0057】
また、加算値Dは、航空機1の高度(目標着地点2に対する相対高度)に応じて複数設定されてもよい。例えば、航空機1が目標着地点2の直上に位置し、高度が所定高度(例えば、目標着地点2に対して3m以上8m以下の範囲)にあるとき(例えば、後述の低高度ホバリングモード時)、加算値Dは、
図8Cに破線で示すように、実線で示す通常時(例えば、後述の高高度ホバリングモード時)の値よりも絶対値が大きく設定されてもよい。このとき、高度の値に応じて、加算値Dの設定を徐々に変化させてもよい。これにより、航空機1が目標着地点2に着地する近傍において、航空機1の目標指令値θ0をより高精度に算出することができ、目標着地点2に精度良く着地させることが可能となる。
【0058】
同様に、加算値Dは、航空機1の制御モードに応じて複数設定されてもよい。例えば、航空機1の制御モードとして、目標着地点2の直上で、目標着地点2に対する相対高度を第一相対高度(例えば8m)で維持させる高高度ホバリングモードと、高高度ホバリングモードの状態から、目標着地点2の直上で、目標着地点2に対する相対高度を第二相対高度(例えば3m)まで下降させる低高度ホバリングモードとが設定されている場合を考える。なお、高高度ホバリングモードから低高度ホバリングモードへの移行は、相対位置(Xhgf、Yhgf)が予め定められた閾値以下であり、かつ、オペレータがモード移行の指示を行ったことを条件とすることができる。また、高高度ホバリングモードから低高度ホバリングモードへの移行は、オペレータがモード移行の指示を行ったことに代えて、航空機1の姿勢角の変化レート、姿勢角、相対速度(ΔVx、ΔVy)、目標着地点2の水平方向における角度、目標着地点2に対する航空機1の高度、目標着地点2に対する相対高度等が予め定められた値以下であることを条件としてもよい。
【0059】
このような高高度ホバリングモードと低高度ホバリングモードとが設定されている場合に、高高度ホバリングモードから低高度ホバリングモードへの移行が開始された後、第一所定時間(例えば5秒)の経過後、加算値Dの設定を切り替える。すなわち、加算値Dを
図8Cに実線で示す値から、
図8Dに破線で示す値へと切り替える。このとき、加算値Dは、第二所定時間(例えば3秒)をかけて徐々に変化するように設定されてもよい。これにより、航空機1が目標着地点2に着地する近傍において、航空機1の目標指令値θ0をより高精度に算出することができ、目標着地点2に精度良く着地させることが可能となる。
【0060】
なお、加算値Dの設定手法は、これに限られない。
図8Dは、多値制御において設定される加算値を規定するマップの他の例を示す説明図である。図示するように、加算値Dは、現在の座標点Pと切替線L1との距離に関わらず、増速領域A1で正の値の一定値、減速領域A2で負の値の一定値とされてもよい。
【0061】
以上説明したように、目標指令値算出部56は、PID制御部70によって算出した目標指令値θ0’に、多値制御部72で算出した加算値Dを加えて、目標指令値θ0を算出する。ただし、目標指令値θ0の算出方法はこれに限られない。例えば、目標指令値算出部56は、加算値Dを用いずに、PID制御部70によって算出した目標指令値θ0’を、目標指令値θ0として用いてもよい。
【0062】
(補正目標指令値)
以上のように算出される目標指令値θ0を用いて航空機1を制御した場合、例えばガストなどの外乱が航空機1に作用することにより、航空機1を適切に制御できなくなるおそれがある。それに対し、本実施形態においては、
図4に示す補正目標指令値設定部60により、外乱の推定量を示す推定外乱量を算出し、補正目標指令値算出部66により、推定外乱量に基づいて目標指令値θ0を補正して、補正目標指令値θを算出し、補正目標指令値θを実際の制御量として、航空機1を制御する。これにより、外乱が作用する場合にも航空機1を適切に制御することが可能となる。以下、推定外乱量、及び補正目標指令値θの算出方法について説明する。
【0063】
(補正目標指令値設定部)
図4に示すように、補正目標指令値設定部60は、参照速度算出部62と推定外乱量算出部64と補正コマンド算出部65と補正目標指令値算出部66とを含む。
図9は、補正目標指令値の算出方法を説明する模式的なブロック図である。以下、
図9に基づき、補正目標指令値θの算出方法を説明する。以降では、補正目標指令値θ(目標指令値θ0)がピッチ方向の姿勢角の目標値である場合を例にして説明する。なお、
図9の符号は、それぞれの処理を実行する主体を示したものである。
【0064】
(補正目標指令値の算出)
図9に示すように、補正目標指令値算出部66は、上述の方法で算出された目標指令値θ0を、補正コマンド算出部65によって前に算出された補正コマンドd’(s)で補正して、補正目標指令値θを算出する。補正コマンドd’(s)については後述するが、推定外乱量に基づき算出される値である。補正目標指令値算出部66は、取得した目標指令値θ0を、直前に算出された補正コマンドd’(s)で補正する。また、本実施形態では、補正目標指令値算出部66は、目標指令値θ0に補正コマンドd’(s)を加算して補正目標指令値θを算出するが、目標指令値θ0を補正コマンドd’(s)で補正する方法は、加算することに限られず、例えば、目標指令値θ0を補正コマンドd’(s)で減算して補正目標指令値θを算出してもよいし、補正コマンドd’(s)にゲインやフィルタをかけて、目標指令値θ0を、ゲインやフィルタをかけた補正コマンドd’(s)で加算や減算をして、補正目標指令値θを算出してもよい。また、前に算出された補正コマンドd’(s)が存在しない場合には、すなわち最初に補正コマンドd’(s)を算出する場合には、例えば目標指令値θ0を補正目標指令値θとして取り扱ってよい。
【0065】
(参照速度の算出)
参照速度算出部62は、補正目標指令値θと当初目標指令値θF0との差分値Δθを算出する。当初目標指令値θF0は、今回のタイミングで補正コマンドd’(s)を算出するよりも前に算出されて、記憶部(図示略)に記憶された補正目標指令値θの値であり、補正目標指令値θの記憶量であるともいえる。当初目標指令値θF0は、最初に補正コマンドd’(s)を算出した際の補正目標指令値θである。すなわち本例では、差分値Δθは、今回のピッチ方向の姿勢の目標値と、最初に補正コマンドd’(s)を算出した際のピッチ方向の姿勢の目標値との差分値である。差分値Δθは、このように算出される値であるため、目標指令値θ0に基づく値であるといえる。なお、当初目標指令値θF0は、最初に補正コマンドd’(s)を算出した際の補正目標指令値θであることに限られず、今回より前の任意のタイミングにおける補正目標指令値θであってもよいし、予め設定された一定の値であってもよい。
【0066】
差分値Δθは、参照モデルMの入力値として用いられる。参照速度算出部62は、予め設定された参照モデルMに、入力値としての差分値Δθを入力することで、航空機1の機体速度(慣性速度)の参照値である参照速度を算出する。ただし、参照モデルMの入力値は、差分値Δθであることに限られない。参照モデルMの入力値は、例えば、航空機1の実際の制御量として用いられる、補正目標指令値θなどであってもよい。
【0067】
参照モデルMは、本実施形態では航空機の内部制御則や運動モデルを未知のまま取り扱ったモデルであり、入力値である差分値Δθに応じて、出力値である参照速度を一義的に設定するモデルである。さらに言えば、参照モデルMは、補正目標指令値θ(差分値Δθ)が設定された場合の航空機1の機体速度の観測値(予測値)を、参照速度として算出するモデルである。本実施形態では、参照モデルMは、外乱のない状態における、目標指令値θ0(差分値Δθ)と航空機1の機体速度との関係の実測値に基づき設定される。実測値に基づいて参照モデルMを構築することで、内部制御則や運動モデルを未知としても、実際の挙動を高精度に再現できる。
【0068】
本実施形態では、参照モデルMとして、第1参照モデルM1と第2参照モデルM2とが用いられる。第1参照モデルM1は、差分値Δθを、ここではピッチ方向の姿勢の目標値の差分値を入力値として、航空機1の姿勢の参照値Δθaを出力値として一義的に設定するモデルである。航空機1の姿勢の参照値Δθaとは、差分値Δθが設定された際に航空機1が実際にとる姿勢の予測値を指し、より詳しくは、補正目標指令値θを設定した場合の機体姿勢と、当初目標指令値θF0を設定した場合の機体姿勢との差分に、第1参照モデルM1をかけたものを指す。すなわち、第1参照モデルM1は、目標指令値θ0(差分値Δθ)が設定された場合の航空機1の姿勢の観測値(予測値)を、航空機1の姿勢の参照値Δθaとして算出するモデルである。
【0069】
第1参照モデルM1は、差分値Δθの変化に対する参照値Δθaの変化の、むだ時間の要素を含む。ここでのむだ時間は、差分値Δθが変化してから、その変化に応じて航空機1の姿勢の変化が開始するまでの時間を指す。すなわち、入力値である差分値Δθを第1参照モデルM1に入力した場合、むだ時間に基づいて、差分値Δθの変化に対して航空機1の姿勢の参照値Δθaの変化が遅れるように、参照値Δθaが算出される。航空機1が実際にとり得る姿勢や機体速度は、姿勢の目標値の変化に対して遅れるため、むだ時間の要素を含めることで、参照速度を高精度に算出できる。このように、第1参照モデルM1にむだ時間の要素が含まれているため、参照モデルMは、入力値の変化に対する出力値の変化のむだ時間の要素が含まれるものであるといえる。
【0070】
本実施形態では、第1参照モデルM1は、目標指令値θ0と航空機1の姿勢の観測値との関係の実測値に基づき設定される。
図8の例では、第1参照モデルM1は、G
θM(s)e
-sLとして表されている。例えば、第1参照モデルM1のうちのむだ時間要素であるe
-sLを除いた部分であるG
θM(s)は、例えば以下の式(8)のように設定される。式(8)において、sは演算子であり、ω
θは固有値である固有周波数[rad/s]を指し、例えば4[rad/s]とされ、ζ
θは減衰係数であり、例えば0.7とされる。
【0071】
GθM(s)=ωθ
2/(s2+2ζθωθs+ωθ
2) ・・・(8)
【0072】
第1参照モデルM1は、式(8)のように設定されたGθM(s)に、むだ時間要素であるe-sLを加味したものとなる。ただし、式(8)に示した第1参照モデルM1は一例であり、第1参照モデルM1は、差分値Δθが入力された場合に航空機1の姿勢の参照値Δθaを出力するように、任意の方法でモデル化されたものであってよい。
【0073】
第2参照モデルM2は、
図8の例ではG
θ-Vx(s)として表されている。第2参照モデルM2は、第1参照モデルM1の出力値である航空機1の姿勢の参照値Δθaを入力値として、航空機1の機体速度の参照値、すなわち参照速度を一義的に設定するモデルである。すなわち、第2参照モデルM2は、航空機1の姿勢を機体速度に換算する式であるといえる。第2参照モデルM2は、任意の方法で設定されてよい。
【0074】
参照速度算出部62は、このように設定される第1参照モデルM1及び第2参照モデルM2を用いて、参照速度を算出する。第1参照モデルM1及び第2参照モデルM2は、例えば制御システム100に予め記憶されており、参照速度算出部62は、第1参照モデルM1及び第2参照モデルM2を読み出して、参照速度を算出する。具体的には、参照速度算出部62は、補正目標指令値θと当初目標指令値θF0との差分値Δθを、第1参照モデルM1に入力して、航空機1の姿勢の参照値Δθaを出力値として算出する。そして、参照速度算出部62は、第1参照モデルM1の出力値である航空機1の姿勢の参照値Δθaを、第2参照モデルM2に入力することで、参照速度を算出する。以下、参照速度算出部62によって算出される参照速度を、適宜、参照速度ΔyM(s)と記載する。
【0075】
(相対速度の算出)
一方、相対速度算出部54は、相対速度y0を算出する。相対速度y0は、上述で説明した航空機1の相対速度(ΔVx、ΔVy)に相当する。相対速度算出部54は、上述で説明した相対速度の算出方法を用いて、相対速度y0(相対速度(ΔVx、ΔVy))を算出する。
【0076】
推定外乱量算出部64は、相対速度y0を、ある時点を基準とした航空機1の機体速度に換算する。すなわち、航空機1の目標着地点2に対する相対速度y0を、航空機1の慣性速度に換算する。本実施形態では、推定外乱量算出部64は、相対速度y0と当初相対速度yF0との差分値を、機体速度Δyとして算出することで、相対速度を、ある時点を基準とした機体速度に換算する。当初相対速度yF0は、最初に補正コマンドd’(s)を算出した際の相対速度y0であり、今回のタイミングで補正コマンドd’(s)を算出するよりも前に算出されて、記憶部(図示略)に記憶された相対速度y0の値であり、相対速度y0の記憶量であるともいえる。推定外乱量算出部64は、例えば、最初に補正コマンドd’(s)を算出した際の航空機1の姿勢及び速度は安定しており、かつ、目標着地点2(船舶5)の速度が一定であると判断して、相対速度y0と当初相対速度yF0との差分値を、機体速度Δyとする。すなわち、相対速度y0は、現在の航空機1の機体速度と船舶5の速度の差分値であり、当初相対速度yF0は、当初(ある時点)の航空機1の機体速度と船舶5の速度の差分値となるため、上記のように判断することで船舶5の速度の項を打ち消して、機体速度Δyを、現在の航空機1の機体速度と当初の航空機1の機体速度との差分として算出できる。
【0077】
(推定外乱量の算出)
以上のように参照速度ΔyM(s)と機体速度Δyとを算出したら、推定外乱量算出部64は、参照速度ΔyM(s)と機体速度Δyとの差分に基づき、航空機1に作用する推定外乱量ΔyN(s)を算出する。すなわち、推定外乱量算出部64は、航空機1の機体速度の予測値である参照速度ΔyM(s)に対する、航空機1の実際の機体速度である機体速度Δyのずれ量が、外乱によるものであるとして、参照速度ΔyM(s)と機体速度Δyとの差分に基づき推定外乱量ΔyN(s)を算出する。なお、機体速度Δyは、相対速度y0から算出されるため、推定外乱量算出部64は、参照速度ΔyM(s)と相対速度y0との差分に基づき推定外乱量ΔyN(s)を算出するともいえる。
【0078】
具体的には、推定外乱量算出部64は、参照速度ΔyM(s)と機体速度Δyとの差分値を、推定外乱量ΔyN(s)として算出する。推定外乱量ΔyN(s)は、機体速度の予測値と実際の機体速度との差分値であるともいえる。
【0079】
(補正コマンドの算出)
補正コマンド算出部65は、推定外乱量Δy
N(s)に基づき、補正コマンドd’(s)を算出する。そのため、補正コマンドd’(s)は、航空機1に作用する推定外乱量を示す値であるといえる。補正コマンド算出部65は、推定外乱量Δy
N(s)を、モデルM3に入力することで、補正コマンドd’(s)を算出する。モデルM3は、推定外乱量Δy
N(s)のパラメータを、機体速度から目標指令値θ0のパラメータ(ここではピッチ方向の姿勢角)に変換するモデルである。すなわち、補正コマンド算出部65は、推定外乱量Δy
N(s)のパラメータを目標指令値θ0のパラメータに換算して、補正コマンドd’(s)を算出する。
図9の例では、モデルM3は、F(s)G
θM
-1(s)G
θ-Vx
-1(s)として表されている。すなわち、モデルM3は、参照モデルMの逆関数であり、参照モデルMによって機体速度に変換されたパラメータを、目標指令値θ0のパラメータに戻す式であるといえる。
【0080】
補正コマンド算出部65は、このようにして、目標指令値θ0のパラメータに換算された推定外乱量である補正コマンドd’(s)を算出する。そして、補正目標指令値算出部66は、次に目標指令値θ0を算出する際には、前回算出された補正コマンドd’(s)で目標指令値θ0を補正して、すなわち目標指令値θ0から外乱の影響を除外し、補正コマンド算出部65は、補正コマンドd’(s)を更新する。このように補正コマンドd’(s)を更新し続けることで、外乱を早く修正しつつ制御を行うことが可能となる。
【0081】
なお、以上の例では、目標指令値θ0のパラメータをピッチ方向の姿勢角として説明したが、目標指令値θ0のパラメータはピッチ方向の姿勢角に限られない。また、補正コマンドd’(s)にリミッタを設けてもよい。すなわち、補正コマンドd’(s)に上限値を設定して、算出された補正コマンドd’(s)が上限値以上となる場合には、設定した上限値を補正コマンドd’(s)としてもよい。
【0082】
(飛行制御部)
飛行制御部36は、以上のように算出された補正目標指令値θにしたがって、すなわち補正目標指令値θを制御量として、航空機1の各構成要素を制御して航空機1を飛行させる。飛行制御部36は、補正目標指令値θにしたがって各回転翼のブレードピッチ角、回転数等を制御し、航空機1の機体速度(Vx、Vy)、姿勢角、姿勢角の変化レート等を調整する。それにより、航空機1は、目標着地点2へと誘導される。なお、本実施形態では、画像処理部32および誘導演算部34を飛行制御部36とは別の機能部として説明するが、飛行制御部36、画像処理部32および誘導演算部34は、一体の機能部であってもよい。すなわち、飛行制御部36において画像処理部32および誘導演算部34の処理を行ってもよい。
【0083】
(補正目標指令値の算出フロー)
次に、以上説明した補正目標指令値θの算出フローを説明する。
図10は、補正目標指令値の算出フローを説明するフローチャートである。
図10に示すように、制御システム100は、目標指令値θ0を算出する(ステップS10)。そして、制御システム100は、目標指令値θ0と参照モデルMとに基づき、参照速度Δy
M(s)を算出する(ステップS12)。制御システム100は、目標指令値θ0と前回算出された補正コマンドd’(s)とから、補正目標指令値θを算出し、補正目標指令値θと当初目標指令値θF0との差分値Δθを算出する。制御システム100は、差分値Δθを参照モデルMに入力して、参照速度Δy
M(s)を算出する。
【0084】
一方、制御システム100は、航空機1の相対速度y0を算出し(ステップS14)、相対速度y0から、機体速度Δyを算出する(ステップS16)。制御システム100は、相対速度y0と当初相対速度yF0との差分値を、機体速度Δyとして算出する。
【0085】
そして、制御システム100は、参照速度ΔyM(s)と機体速度Δy(s)とから推定外乱量ΔyN(s)を算出し(ステップS18)、推定外乱量ΔyN(s)から、補正コマンドd’(s)を算出する(ステップS20)。制御システム100は、推定外乱量ΔyN(s)のパラメータを目標指令値θ0のパラメータに変換することで、補正コマンドd’(s)を算出する。そして、制御システム100は、次に目標指令値θ0を算出したら、算出済みの補正コマンドd’(s)を用いて、その目標指令値θ0を補正して、補正目標指令値θを算出する(ステップS22)。制御システム100は、補正目標指令値θを制御量として、航空機1を制御する。なお、制御システム100は、算出した補正コマンドd’(s)を記憶して、次に目標指令値θ0を取得したら、算出済みの補正コマンドd’(s)を用いて、次の補正コマンドd’(s)を算出する。すなわち、制御システム100は、補正コマンドd’(s)を更新して算出し続ける。
【0086】
(効果)
以上説明したように、本実施形態に係る航空機1の制御システム100は、目標指令値算出部56と、参照速度算出部62と、相対速度算出部54と、推定外乱量算出部64と、補正目標指令値算出部66とを含む。目標指令値算出部56は、航空機1を目標の状態にするための目標指令値θ0を取得する。参照速度算出部62は、参照モデルMに、入力値として目標指令値θ0に基づく値を入力することで、参照速度ΔyM(s)を算出する。相対速度算出部54は、航空機1の制御に用いる、目標位置に対する航空機1の相対速度y0を算出する。推定外乱量算出部64は、相対速度y0と参照速度ΔyM(s)との差分に基づき、航空機1に作用する推定外乱量ΔyN(s)を算出する。補正目標指令値算出部66は、前のタイミングにおいて算出された推定外乱量ΔyN(s)に基づき、目標指令値θ0を補正する。
【0087】
ここで、航空機1が飛行する際には、例えばガストなどの外乱が作用して、航空機を適切に制御できなくなるおそれがある。それに対し、本実施形態に係る制御システム100は、参照モデルMを用いて算出した推定外乱量ΔyN(s)で目標指令値θ0を補正することで、目標指令値θ0から外乱の影響を除去して、航空機1を適切に制御することが可能となる。特に、参照モデルMを予め構築しておくことで、外乱の影響を早く除去することが可能となる。また、参照モデルMにおいては、目標指令値θ0のパラメータを機体速度に変換して推定外乱量ΔyN(s)を算出するため、例えば1回積分とすることで計算負荷を低減することが可能となる。
【0088】
また、相対速度算出部54は、目標位置に対する航空機1の相対位置(Xhg、Yhg)に基づき、相対速度y0(相対速度(ΔVx、ΔVy))を算出する。制御システム100によると、推定外乱量ΔyN(s)で補正した補正目標指令値θから相対速度を算出するため、外乱の影響を除去して、航空機1を適切に制御することが可能となる。
【0089】
参照モデルMは、入力値の変化に対する出力値の変化のむだ時間の要素が含まれている。制御システム100は、参照モデルMにむだ時間の要素を含めることで、実際の挙動に近づけて、推定外乱量ΔyN(s)を高精度に算出することが可能となる。
【0090】
推定外乱量算出部64は、相対速度y0を航空機1の速度(機体速度)に換算して、換算した機体速度と参照速度との差分に基づき、推定外乱量ΔyN(s)を算出する。制御システム100によると、相対速度y0を機体速度に換算することで、相対速度y0のパラメータを参照モデルMで算出された参照速度に合わせることが可能となり、推定外乱量ΔyN(s)を高精度に算出することが可能となる。
【0091】
制御システム100は、推定外乱量ΔyN(s)を目標指令値θ0と同じパラメータに換算して補正コマンドd’(s)を算出する補正コマンド算出部65をさらに含む。そして、補正目標指令値算出部66は、この補正コマンドd’(s)で目標指令値θ0を補正する。制御システム100によると、補正コマンドd’(s)を目標指令値θ0と同じパラメータに換算することで、目標指令値θ0から外乱の影響を適切に除去できる。
【0092】
目標指令値θ0は、航空機1の姿勢の目標値である。制御システム100によると、航空機1の姿勢の目標値から外乱の影響を適切に除去することができる。
【0093】
参照モデルMは、目標指令値に基づく値を入力値として、航空機の姿勢の参照値を一義的に設定する第1参照モデルM1と、第1参照モデルM1で設定された航空機の姿勢の参照値を入力値として、航空機の参照速度を一義的に設定する第2参照モデルM2と、を含む。このように第1参照モデルM1と第2参照モデルM2を設定することで、推定外乱量ΔyN(s)を高精度に算出することが可能となる。
【0094】
本実施形態に係る航空機1は、制御システム100を備える。そのため、航空機1は、外乱が作用する場合にも適切に飛行可能となる。
【0095】
本実施形態に係る航空機1の制御方法は、航空機を目標の状態にするための目標指令値θ0を取得するステップと、入力値に応じて、航空機の速度の参照値である参照速度を出力値として一義的に設定する参照モデルMに、入力値として目標指令値θ0に基づく値を入力することで、参照速度を算出するステップと、航空機1の制御に用いる、目標位置に対する航空機1の相対速度を算出するステップと、相対速度と参照速度との差分に基づき、航空機1に作用する推定外乱量ΔyN(s)を算出するステップと、前のタイミングにおいて算出された推定外乱量ΔyN(s)に基づき目標指令値θ0を補正するステップと、を含む。本方法によると、目標指令値θ0から外乱の影響を除去して、航空機1を適切に制御することが可能となる。
【0096】
本実施形態に係るプログラムは、航空機を目標の状態にするための目標指令値θ0を取得するステップと、入力値に応じて、航空機の速度の参照値である参照速度を出力値として一義的に設定する参照モデルMに、入力値として目標指令値θ0に基づく値を入力することで、参照速度を算出するステップと、航空機1の制御に用いる、目標位置に対する航空機1の相対速度を算出するステップと、相対速度と参照速度との差分に基づき、航空機1に作用する推定外乱量ΔyN(s)を算出するステップと、前のタイミングにおいて算出された推定外乱量ΔyN(s)に基づき目標指令値θ0を補正させるステップと、をコンピュータに実行させる。本プログラムによると、目標指令値θ0から外乱の影響を除去して、航空機1を適切に制御することが可能となる。
【0097】
以上、本発明の実施形態を説明したが、この実施形態の内容により実施形態が限定されるものではない。また、前述した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、前述した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。さらに、前述した実施形態の要旨を逸脱しない範囲で構成要素の種々の省略、置換又は変更を行うことができる。
【符号の説明】
【0098】
1 航空機
2 目標着地点
5 船舶
30 制御部
32 画像処理部
34 誘導演算部
36 飛行制御部
50 目標指令値設定部
52 航空機情報取得部
54 相対速度算出部
56 目標指令値算出部
60 補正目標指令値設定部
62 参照速度算出部
64 推定外乱量算出部
65 補正コマンド算出部
66 補正目標指令値算出部