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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-02
(45)【発行日】2024-05-14
(54)【発明の名称】コイル
(51)【国際特許分類】
   H01F 5/06 20060101AFI20240507BHJP
【FI】
H01F5/06 T
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020197897
(22)【出願日】2020-11-30
(65)【公開番号】P2022086082
(43)【公開日】2022-06-09
【審査請求日】2023-09-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】弁理士法人真明センチュリー
(72)【発明者】
【氏名】村田 朋来
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼岡 勝哉
【審査官】古河 雅輝
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-303517(JP,A)
【文献】特開平04-303901(JP,A)
【文献】特開昭57-050714(JP,A)
【文献】特開昭57-011413(JP,A)
【文献】特開2007-181814(JP,A)
【文献】特開平03-202476(JP,A)
【文献】特開2020-017430(JP,A)
【文献】特開平04-112506(JP,A)
【文献】特開2019-140094(JP,A)
【文献】国際公開第2007/010988(WO,A1)
【文献】特表2007-524977(JP,A)
【文献】特開2015-147845(JP,A)
【文献】特開平04-332405(JP,A)
【文献】特開平04-242013(JP,A)
【文献】特開平05-290644(JP,A)
【文献】特開昭62-206706(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/00- 7/02
H01B 7/38- 7/40
H01F 5/00- 5/06
H01F 27/28
H01F 27/32
H01F 41/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、前記導体を覆う絶縁体と、を備える線材が巻かれたコイルであって、
前記絶縁体は、セラミック粒子、セラミック繊維および非晶質酸化物からなり、
前記絶縁体の平均の厚さは5μm以上50μm以下であり、
前記絶縁体の切断面において、前記絶縁体の面積に対する前記セラミック粒子の面積は40%以上65%以下であり、前記絶縁体の面積に対する前記セラミック繊維の面積は10%以上22%以下であるコイル。
【請求項2】
前記セラミック繊維の主成分は、炭化珪素、アルミナ又はアルミナ-シリカであり、
前記絶縁体の切断面における空隙率は5%以下である請求項1記載のコイル。
【請求項3】
前記セラミック粒子の材料は、窒化アルミニウム、炭化珪素および窒化珪素から選ばれる少なくとも1種である請求項1又は2に記載のコイル。
【請求項4】
前記非晶質酸化物の主成分は、Bi又はTeである請求項1から3のいずれかに記載のコイル。
【請求項5】
前記導体の材料は、Cu又はAlである請求項1から4のいずれかに記載のコイル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導体と導体を覆う絶縁体とを備える線材が巻かれたコイルに関する。
【背景技術】
【0002】
コイルに好適な線材を得る技術として、特許文献1には、ポリイミド樹脂やポリアミドイミド樹脂とシロキサン系化合物とが含まれる塗料を導体に塗布し、焼付けによって導体に絶縁体を設ける技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-132393号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
コイルは、導体の温度が上がり導体の電気抵抗が大きくなると、抵抗成分によって消費される電力損失(銅損)が大きくなる。銅損を低減するため、導体の放熱を促進して導体の抵抗の上昇を抑える目的で、導体を覆う絶縁体の熱伝導性向上の要求がある。
【0005】
本発明はこの要求に応えるためになされたものであり、絶縁体の熱伝導性を向上できるコイルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために本発明のコイルは、導体と、導体を覆う絶縁体と、を備える線材が巻かれたものであって、絶縁体は、セラミック粒子、セラミック繊維および非晶質酸化物からなり、絶縁体の平均の厚さは5μm以上50μm以下である。絶縁体の切断面において、絶縁体の面積に対するセラミック粒子の面積は40%以上65%以下であり、絶縁体の面積に対するセラミック繊維の面積は10%以上22%以下である。
【発明の効果】
【0007】
第1の態様によれば、導体を覆う絶縁体はセラミック粒子、セラミック繊維および非晶質酸化物からなり、絶縁体の平均の厚さは5μm以上50μm以下である。絶縁体の切断面において、絶縁体の面積に対するセラミック粒子の面積は40%以上65%以下であり、絶縁体の面積に対するセラミック繊維の面積は10%以上22%以下である。これにより導体と絶縁体との付着性を確保し、さらに絶縁体の耐熱性を確保しつつ熱伝導性を向上できる。
【0008】
第2の態様によれば、セラミック繊維の主成分は、炭化珪素、アルミナ又はアルミナ-シリカであり、絶縁体の切断面における空隙率は5%以下である。第1の態様の効果に加え、絶縁体の熱伝導性をさらに向上できる。
【0009】
第3の態様によれば、セラミック粒子の材料は、窒化アルミニウム、炭化珪素および窒化珪素から選ばれる少なくとも1種である。第1又は第2の態様の効果に加え、熱伝導性をさらに向上できる。
【0010】
第4の態様によれば、非晶質酸化物の主成分はBi又はTeである。第1から第3の態様のいずれかの効果に加え、絶縁体の付着性を向上できる。
【0011】
第5の態様によれば、導体の材料はCu又はAlである。第1から第4の態様のいずれかの効果に加え、導体の熱伝導性および電気伝導性を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】一実施の形態におけるコイルの斜視図である。
図2】線材の断面図である。
図3図2のIIIで示す部分を拡大した線材の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい実施の形態について添付図面を参照して説明する。図1は一実施の形態におけるコイル10の斜視図である。コイル10は、軸Cの周りに線材11が螺旋状に巻かれている。本実施形態におけるコイル10は、線材11にエッジワイズ曲げ加工が施された巻線である。コイル10は角筒型であり、コイル10の外形は、軸Cからコイル10を見た軸方向視において、隣り合う辺が円弧でつながった矩形状である。コイル10の用途はモータや発電機(回転電気機械)、リアクトル、トランスが例示されるが、用途に制限はない。コイル10は磁心が配置されない空芯コイルであっても良い。
【0014】
図2はコイル10の軸Cを含む線材11の断面図である。線材11は、導体12と、導体12を覆う絶縁体13と、を備える絶縁電線である。導体12の材料はCu、Al、CuやAlの合金が例示される。本実施形態における導体12は、角に丸みを付した平角線(単線)である。導体12は、単線を複数集めた集合線でも良い。集合線は、単線を複数積層したものが例示される。
【0015】
図3図2のIIIで示す部分を拡大した線材11の断面図である。絶縁体13は、セラミック粒子14、セラミック繊維15及び非晶質酸化物16からなる。非晶質酸化物16(ガラス)は導体12に付着している。絶縁体13は、セラミック粒子14及びセラミック繊維15が作る隙間を非晶質酸化物16が埋めている。非晶質酸化物16に固定されたセラミック粒子14及びセラミック繊維15は、非晶質酸化物16の熱伝導性、靭性および強度を向上させる。
【0016】
絶縁体13の熱劣化を低減するため、絶縁体13は樹脂を含まない。樹脂材料の熱伝導率は一般に0.25-0.30W/mKであり、非晶質酸化物16の熱伝導率は0.60W/mK以上である。樹脂の熱伝導率に比べ、一般に非晶質酸化物16の熱伝導率は高いので、絶縁体13の熱伝導性を向上できる。絶縁体13が樹脂を含まないことは、絶縁体13の断面に現出する物質の外観、及び、その物質の電子線マイクロアナライザー(EPMA)を用いた波長分散型X線分析(WDS)により、物質に含まれる炭素が検出限界未満であることによって判定できる。
【0017】
セラミック粒子14は、材料として、アルミナ、ジルコニア、ムライト、チタニア等の酸化物;窒化アルミニウム、窒化珪素、窒化ジルコニウム、窒化チタン等の窒化物;炭化珪素、炭化チタン等の炭化物;硼化チタン等の硼化物が例示される。セラミック粒子14は、特に窒化アルミニウム、酸化珪素および窒化珪素から選ばれる少なくとも1種を材料とするものが、絶縁体13の熱伝導性の向上に好適である。セラミック粒子14は、材料の異なるものが混ざっていても良い。セラミック粒子14は、粒子の短径に対する粒子の長径の比率(アスペクト比)が、例えば3以下である。
【0018】
セラミック粒子14の平均粒径は、0.4μm以上10μm以下が好適である。絶縁体13の強度を確保するためである。セラミック粒子14の平均粒径は以下のようにして求められる。まず、50個以上のセラミック粒子14が現出する絶縁体13の断面の画像を取得する。次いで、画像解析によって50個以上のセラミック粒子14の各々の面積の円相当径(直径)を求める。セラミック粒子14の平均粒径は、得られた円相当径の平均値(n≧50)である。
【0019】
セラミック繊維15は、セラミック製の繊維の太さに対する繊維の長さの比率(アスペクト比)が30以上のものをいう。セラミック繊維15は、ウィスカー(針状単結晶)やガラス繊維を含む。セラミック繊維15は、単繊維を束ねた繊維束や単繊維が採用され得る。セラミック繊維15は、材料として、アルミナ、シリカ、アルミナ-シリカ、ジルコニア等を主成分とする非晶質の酸化物や結晶質の酸化物;炭化珪素、炭化硼素、窒化珪素などの非酸化物が例示される。セラミック繊維15の主成分とは、物質量が90mol%以上のものをいう。セラミック繊維15は、特に炭化珪素、アルミナ又はアルミナ-シリカを主成分とするものが、絶縁体13の熱伝導性の向上に好適である。セラミック繊維15は、材料の異なるものが混ざっていても良い。
【0020】
非晶質酸化物16は、材料として、Si,B,P,Te及びBiのうちから選択される1種を主成分とするものが例示される。非晶質酸化物16の主成分とは、酸素(O)以外の元素のうち非晶質酸化物16に最も多く含まれる元素(物質量が最も多いもの)をいう。非晶質酸化物16は、O及び主成分となる元素以外に、Li,Na,K等のアルカリ金属;Mg,Ca,Ba等のアルカリ土類金属;Al等の貧金属;Ti,Zn等の遷移金属から選択される1種以上の元素が含まれ得る。
【0021】
絶縁体13は、セラミック粒子14、セラミック繊維15及び非晶質酸化物16以外に不純物が含まれることがある。不純物は、金属元素や非金属元素の酸化物やCが例示される。酸化物(不純物)は、例えば導体12と絶縁体13との間の界面17に存在する。C(不純物)は、例えばセラミック粒子14及びセラミック繊維15の少なくとも一方と非晶質酸化物16との間の境界や非晶質酸化物16の中に存在する。
【0022】
酸化物(不純物)を構成する金属元素は、Cr,Cu等の遷移金属;Si等の半金属、Al等の貧金属が例示される。酸化物(不純物)を構成する非金属元素はCが例示される。不純物の含有量は、絶縁体13に対して酸化物換算で1wt%以下である。不純物の分析は、EPMAを用いたWDS、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析、又は、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いたエネルギー分散型X線分析(EDS)により行うことができる。
【0023】
絶縁体13は、コイル10の軸Cを含む線材11の断面において、導体12の全周に亘って設けられている。少なくとも、互いに隣り合う導体12間の絶縁を確保するためである。絶縁体13は、平均の厚さが5μm以上50μm以下である。導体12と絶縁体13との付着性を確保するためである。導体12と絶縁体13との間の界面17には、導体12の表面に形成された酸化被膜が存在することがある。
【0024】
絶縁体13の厚さは、界面17の法線方向の、界面17と絶縁体13の表面との間の距離である。絶縁体13の厚さは、コイル10の軸Cに垂直な平面で切断した線材11の断面の画像解析によって求められる。断面観察に適した大きさにコイル10を分割した後、画像を取得することができる。絶縁体13の平均の厚さは、絶縁体13のうち断面に現出する界面17の長さが3mm以上の範囲における、界面17と絶縁体13の表面との間の平均の距離である。界面17に酸化被膜が存在する場合には、絶縁体13の厚さに酸化被膜の厚さが含まれないようにする。
【0025】
絶縁体13の切断面において、絶縁体13の面積に対するセラミック粒子14の面積は40%以上65%以下であり、絶縁体13の面積に対するセラミック繊維15の面積は10%以上22%以下である。絶縁体13の耐熱性を確保しつつ熱伝導性を向上するためである。絶縁体13の面積、セラミック粒子14の面積、及び、セラミック繊維15の面積は、線材11の断面の画像解析によって求められる。これらの面積を求める画像の範囲(面積)の最小値は、精度を高めるため、絶縁体13の切断面上の2500μmとする。絶縁体13の3か所以上から画像を取得し、各画像からセラミック粒子14及びセラミック繊維15の面積の割合を求め、その平均値を絶縁体13の面積に対するセラミック粒子14及びセラミック繊維15の面積とする。
【0026】
絶縁体13の切断面における空隙率は5%以下が好適である。絶縁体13の熱伝導性の向上のためである。絶縁体13の空隙率は以下のようにして求められる。絶縁体13の切断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、絶縁体13の断面の画像を取得する。画像処理によって求めた空隙の面積を画像の面積で除した値(%)を空隙率とする。空隙の面積を求める画像の範囲(面積)の最小値は、精度を高めるため、絶縁体13の切断面上の2500μmとする。絶縁体13の3か所以上から画像を取得し、各画像から空隙率を求め、その平均値を絶縁体13の空隙率とする。
【0027】
コイル10は、例えば以下の方法によって製造される。まず、コイル10の形状に導体12を成形した巻線、及び、電荷を帯びたセラミック粒子14及びセラミック繊維15が分散した液体を準備する。液体の中に巻線を沈め、電着によりセラミック粒子14及びセラミック繊維15の膜を導体12の表面に作る。導体12の表面の膜には、液体に分散した樹脂も含まれるので、液体から取り出した巻線を洗浄した後、巻線を加熱して、膜に含まれる樹脂を焼失させる。電着の前処理で使われた薬品の残渣や樹脂の炭化物が、不純物として残る可能性がある。
【0028】
次に、導体12の表面に非晶質酸化物16を作り、非晶質酸化物16によってセラミック粒子14及びセラミック繊維15を導体12に固定する。導体12の表面に非晶質酸化物16(ガラス)を作る方法は、溶融法、気相法、ゾルゲル法などが例示される。これによりセラミック粒子14、セラミック繊維15及び非晶質酸化物16からなる絶縁体13が導体12を覆うコイル10が得られる。必要に応じて絶縁ワニスをコイル10に付着しても良い。
【0029】
コイル10は、導体12を覆う絶縁体13が、セラミック粒子14、セラミック繊維15及び非晶質酸化物16からなる。絶縁体13の平均の厚さは5μm以上50μm以下である。絶縁体13の切断面において、絶縁体13の面積に対するセラミック粒子14の面積は40%以上65%以下であり、絶縁体13の面積に対するセラミック繊維15の面積は10%以上22%以下である。これにより導体12と絶縁体13との付着性を確保し、さらに絶縁体13の耐熱性を確保しつつ熱伝導性を向上できる。
【0030】
絶縁体13は樹脂を含まないので、樹脂に起因する絶縁体13の熱劣化を低減できる。よって絶縁体13の熱伝導性の経時劣化を低減できる。
【0031】
セラミック繊維15の主成分は、炭化珪素、アルミナ又はアルミナ-シリカであり、絶縁体13の切断面における空隙率は5%以下が好ましい。絶縁体13の熱伝導性をさらに向上できるからである。
【0032】
セラミック粒子14の材料は、窒化アルミニウム、炭化珪素および窒化珪素から選ばれる少なくとも1種が好ましい。絶縁体13の熱伝導性をさらに向上できるからである。
【0033】
非晶質酸化物16の主成分はBi又はTeが好ましい。絶縁体13の付着性を向上できるからである。
【0034】
導体12の材料はCu(電気用銅材)又はAl(電気用硬アルミニウム)が好ましい。導体12の熱伝導性および電気伝導性を確保できるからである。
【実施例
【0035】
本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0036】
厚さ5mmで幅が一定の平角線からなる導体の全ての面を絶縁体が覆う、表1に示すNo.1-28のサンプルを作製した。No.1-28のサンプルは、導体の材料、絶縁体に含まれるセラミック粒子、セラミック繊維および非晶質酸化物の材料および割合、絶縁体の空隙率および絶縁体の平均の厚さを異ならせた。
【0037】
【表1】
No.1-20,23-28のサンプルの絶縁体は、セラミック粒子、セラミック繊維および非晶質酸化物の面積(%)の合計に空隙率(%)を加えると100%である。No.21,22のサンプルの絶縁体には非晶質酸化物が含まれていない。No.21のサンプルの絶縁体は、非晶質酸化物の代わりにエポキシ樹脂を16vol%含む。No.22のサンプルの絶縁体は、非晶質酸化物の代わりにエポキシ樹脂を23vol%含む。
【0038】
No.1-6,21-28のサンプルの絶縁体に含まれるセラミック繊維は、SiO-Al系ガラスからなる。No.7-20のサンプルの絶縁体に含まれるセラミック繊維は結晶質である。
【0039】
No.1,23-28のサンプルの非晶質酸化物はSi(主成分),Li,Na,K,Mg,Caを含む。No.2のサンプルの非晶質酸化物はB(主成分),Na,K,Mgを含む。No.3のサンプルの非晶質酸化物はP(主成分),Li,Na,Ca,Znを含む。No.4のサンプルの非晶質酸化物はSi(主成分),Li,Na,Mg,Ba,Znを含む。No.5-14のサンプルの非晶質酸化物はSi(主成分),Li,K,Ba,Zn,Tiを含む。No.15のサンプルの非晶質酸化物はTe(主成分),Zn,Ba,Alを含む。No.16,19,20のサンプルの非晶質酸化物はBi(主成分),Zn,Ba,Alを含む。No.17のサンプルの非晶質酸化物はTe(主成分),Zn,Mg,Ba,Alを含む。No.18のサンプルの非晶質酸化物はTe(主成分),Zn,Mg,Alを含む。
【0040】
表1に記されているセラミック粒子、セラミック繊維および非晶質酸化物の面積(%)、絶縁体の空隙(%)及び絶縁体の厚さ(μm)は、5か所の断面の平均値(小数第1位を四捨五入した値)である。No.1-28のサンプルについて絶縁体の付着性、熱伝導性および耐熱性の各特性を測定し、評価した。
【0041】
(付着性)
JIS R3255:1997に規定されたマイクロスクラッチ試験に準拠して、絶縁体の付着性試験を行った。試験は、サンプルの絶縁体の平坦な面に圧子針を押し付け、圧子針を水平に微小振動させながら、その面に平行かつ直線的にサンプルを移動させ、試験領域の絶縁体の100%に剥離が生じた完全損傷荷重を測定した。圧子針は、材料がダイヤモンド、先端の円錐角は120°、先端の曲率半径は0.2mmであった。完全損傷荷重が大きいほど、導体に対する絶縁体の付着力が大きい。完全損傷荷重が60N以上のサンプルはA、完全損傷荷重が40N以上60N未満のサンプルはB、完全損傷荷重が40N未満のサンプルはCと評価した。結果は表1に記した。
【0042】
(熱伝導性)
サンプルの導体の厚さ方向の片面に、5mmの大きさの表面の温度が80℃のヒーターを配置し、サンプルの片面を加熱した。サンプルの片面とヒーターの表面との間の距離は3mmとした。サンプルの厚さ方向のもう片方の面の温度を放射温度計で測定し、サンプルの片面の加熱を開始した時から放射温度計が示す温度が50℃に到達するまでの時間を測定する試験を行った。試験は気温20℃の室内で行った。50℃に到達するまでの時間が短いほど、絶縁体の熱伝導性が優れている。その時間が15秒未満のサンプルはS、時間が15秒以上20秒未満のサンプルはA、時間が20秒以上30秒未満のサンプルはB、時間が30秒以上のサンプルはCと評価した。結果は表1に記した。
【0043】
(耐熱性)
サンプルを25℃の恒温槽に1分保管した後、直ちに175℃の恒温槽に1分保管し、再びサンプルを25℃にする温度変化を1サイクルとして、500サイクルの温度変化による熱ストレスをサンプルに与えた。500サイクルの熱ストレスを与える前のサンプルの完全損傷荷重(以下「荷重A」と称す)と、500サイクルの熱ストレスを与えた後のサンプルの完全損傷荷重(以下「荷重B」と称す)と、を測定した。完全損傷荷重は、絶縁体の付着性試験(マイクロスクラッチ試験)において試験領域の絶縁体の100%に剥離が生じた荷重である。変化率(%)=(荷重A-荷重B)/荷重Aとすれば、変化率が小さいほど、絶縁体の耐熱性が優れている。変化率が10%未満のサンプルはA、変化率が10%以上20%未満のサンプルはB、変化率が20%以上のサンプルはCと評価した。結果は表1に記した。
【0044】
(評価)
付着性は、No.1-20の評価がA又はBであったが、No.21-28の評価がCであった。No.1-20のサンプルは、絶縁体がセラミック粒子、セラミック繊維および非晶質酸化物からなり、絶縁体が樹脂を含まず、絶縁体の平均の厚さは5μm以上50μm以下であり、絶縁体の切断面において、絶縁体の面積に対するセラミック粒子の面積は40%以上65%以下であり、絶縁体の面積に対するセラミック繊維の面積は10%以上22%以下であった。これによりNo.1-20のサンプルは、No.21-28のサンプルに比べ、導体に対する絶縁体の付着性が向上したと推察される。
【0045】
付着性は、No.15-20の評価がAであったが、No.1-14の評価がBであった。No.15-20のサンプルは、絶縁体に含まれる非晶質酸化物の主成分がTe又はBiであったから、No.1-14のサンプルに比べ、導体に対する絶縁体の付着性がさらに向上したと推察される。
【0046】
No.1-20のサンプルは、熱伝導性および耐熱性の評価がS,A又はBだから、絶縁体の耐熱性および熱伝導性も確保できたことが判明した。熱伝導性の評価は、No.7-20がS又はAであったが、No.1-6の評価がBであった。No.7-20のサンプルは、絶縁体に含まれるセラミック繊維の主成分が炭化珪素、アルミナ又はアルミナ-シリカであり、絶縁体の切断面における空隙率は5%以下であったから、No.1-6のサンプルに比べ、絶縁体の熱伝導性が向上したと推察される。
【0047】
熱伝導性は、No.11-20の評価がSであったが、No.7-10の評価がAであった。No.11-20のサンプルは、絶縁体に含まれるセラミック粒子の材料が、窒化アルミニウム、炭化珪素または窒化珪素であったから、No.7-10のサンプルに比べ、絶縁体の熱伝導性がさらに向上したと推察される。
【0048】
耐熱性は、No.11-20の評価がAであったが、No.1-10の評価がBであった。No.11-20のサンプルは、絶縁体に含まれるセラミック粒子の材料が、窒化アルミニウム、炭化珪素または窒化珪素であったから、No.1-10のサンプルに比べ、絶縁体の耐熱性がさらに向上したと推察される。
【0049】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0050】
実施形態では、平角線からなる導体12にエッジワイズ曲げ加工が施されたコイル10について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。エッジワイズ曲げ加工に代えて、フラットワイズ曲げ加工を導体12に施したコイル10にすることは当然可能である。導体12は平角線に限られるものではなく、他の導体を採用することは当然可能である。他の導体は、断面が方形の角線、断面が円形の丸線が例示される。
【0051】
実施形態では、軸方向視における外形が矩形の角筒型のコイル10について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。コイル10の形状を、軸方向視における外形が方形や扇形である角筒型とすることは当然可能である。コイル10の形状を、軸方向視における外形が円形(楕円形や長円形を含む)である円筒型とすることは当然可能である。
【0052】
実施形態では、軸Cの周りに1本の導体12が螺旋状に巻かれたコイル10について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。軸Cの周りに複数本の導体が螺旋状に巻かれたコイル10にすることは当然可能である。
【0053】
実施形態では、軸Cに沿って導体12が螺旋状に巻かれたコイル10について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。軸Cと導体12との間の距離が次第に長くなるように、軸Cを中心として導体12が渦巻状に巻かれたコイル10にすることは当然可能である。
【0054】
実施形態では、径方向に導体12が1層巻かれたコイル10について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。径方向に導体12が複数層巻かれたコイル10にすることは当然可能である。
【符号の説明】
【0055】
10 コイル
11 線材
12 導体
13 絶縁体
14 セラミック粒子
15 セラミック繊維
16 非晶質酸化物
図1
図2
図3