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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-02
(45)【発行日】2024-05-14
(54)【発明の名称】バイオマーカーの検出
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/497 20060101AFI20240507BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20240507BHJP
   G01N 33/98 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
G01N33/497 A
G01N33/50 D
G01N33/98
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2020528476
(86)(22)【出願日】2018-11-26
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-15
(86)【国際出願番号】 GB2018053407
(87)【国際公開番号】W WO2019102221
(87)【国際公開日】2019-05-31
【審査請求日】2021-11-25
(31)【優先権主張番号】1719639.5
(32)【優先日】2017-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】505167543
【氏名又は名称】アイピー2アイピーオー イノベ-ションズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ハンナ,ジョージ
(72)【発明者】
【氏名】ボシアー,ピアーズ
(72)【発明者】
【氏名】ベルウォーモ,イラリア
【審査官】三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2004/0077093(US,A1)
【文献】特表2005-501233(JP,A)
【文献】特表2001-506753(JP,A)
【文献】BUSZEWSKI, B. et al.,Identification of volatile organic compounds secreted from cancer tissues and bacterial cultures,Journal of Chromatography B,2008年05月03日,Vol.868,pp.88-94
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/497
G01N 33/50
G01N 33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
食道胃接合部癌、胃癌、食道癌、食道扁平上皮癌(ESCC)、または食道腺癌(EAC)を患っているもしくはその素因がある対象を診断するための、または前記対象の状態の予後を提供するための方法であって、
(i)被検者の生体サンプルにおいて、前記被検者に予め投与された組成物中の少なくとも1つの基質の、癌関連微生物による、代謝から生じる特徴的な化合物の濃度を検出し、この際、前記組成物は、グルコース、ソルビトール、ラクトース、チロシン、グルタミン酸、グリセロール、クエン酸および酢酸を基質として含み;さらに
(ii)前記濃度を、癌を患っていない個体における前記特徴的な化合物の濃度の参照と比較する、
ことを有し、
前記生体サンプルが呼気サンプルであり、
前記特徴的な化合物が、酢酸、酪酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、フェノール、エチルフェノール、またはそれらの任意の組み合わせからなる群から選択され、および
前記参照と比較した前記特徴的な化合物の濃度の増加または減少が、前記被検者が癌を患っている、もしくはその素因があることを示唆する、または被検者の状態の否定的な予後を提供する、
方法。
【請求項2】
記組成物が、被検者により摂取可能である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
記組成物が、(i)胃腸管の特定の位置で分解し、それにより前記少なくとも1つの基質の標的放出を提供するように設計されたカプセルの形態である;または(ii)飲み込まれる、固体、食品、流体(fluid)または液体(liquid)である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記癌関連微生物は細菌である、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記癌関連微生物は微生物叢の一部を形成する、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記癌関連微生物は、Streptococcus、Lactobacillus、Veillonella、Prevotella、Neisseria、Haemophilus、L. coleohominis、Lachnospiraceae、Klebsiella、Clostridiales、Erysipelotrichales、またはそれらの任意の組み合わせである、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記癌関連微生物は、S. pyogenes、Klebsiella pneumoniae、Lactobacillus acidophilus、またはそれらの任意の組み合わせである、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記癌関連微生物は、E. coli、P. mirabili、B. cepacia、Streptococcus salivarius、 Streptococcus anginosus、S. pyogenes、Actinomyces naeslundii、Lactobacillus fermentum、Clostridium bifermentans、Clostridium perfringens、Clostridium septicum、Clostridium sporogenes、Clostridium tertium、Eubacterium lentum、Eubacterium sp.、Fusobacterium simiae、Fusobacterium necrophorum、Lactobacillus acidophilus、Peptococcus niger、Peptostreptococcus anaerobius、Peptostreptococcus asaccharolyticus、Peptostreptococcus prevotii、P. aeruginosa、S. aureus、P. mirabilis、E.faecalis、S. pneumoniae、N. meningitides、Acinetobacter baumannii、Bacteroides capillosus、Bacteroides fragilis、Bacteroides pyogenes、Clostridium difficile、Clostridium ramosum、Enterobacter cloacae、Klebsiella pneumoniae、Nocardia sp.、Propionibacterium acnes、Propionibacterium propionicum、またはそれらの任意の組み合わせである、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記方法は、食道扁平上皮癌の診断を提供する、食道扁平上皮癌の素因を示す、または食道扁平上皮癌の予後を提供するために使用され、前記組成物は、酪酸および/またはカプロン酸から選択される特徴的な化合物に代謝される、酢酸および/またはエタノールから選択される基質を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記特徴的な化合物は、Clostridium spp.の存在を示すために分析される、請求項に記載の方法。
【請求項11】
前記方法は、胃癌の診断を提供する、胃癌の素因を示す、または胃癌の予後を提供するために使用され、前記組成物は、酢酸、1,2-プロパンジオールおよび/またはエタノールから選択される特徴的な化合物に代謝される、乳酸である基質を含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記特徴的な化合物は、Lactobacillus spp.の存在を示すために分析される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記方法は、食道胃癌の診断を提供する、食道胃癌の素因を示す、または食道胃癌の予後を提供するために使用され、前記組成物は、γ-アミノ酪酸である特徴的な化合物に代謝される、グルタミン酸塩である基質を含む、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記特徴的な化合物は、Lactococcus spp.またはClostridium spp.の存在を示すために分析される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記方法は、胃癌の診断を提供する、胃癌の素因を示す、または胃癌の予後を提供するために使用され、前記組成物は、3-ヒドロキシプロピオン酸である特徴的な化合物に代謝される、グリセロールである基質を含む、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記特徴的な化合物は、Klebsiella spp.の存在を示すために分析される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
食道胃接合部癌、胃癌、食道癌、食道扁平上皮癌(ESCC)、または食道腺癌(EAC)の、診断または予後提供の方法に使用するための、特徴的な化合物への癌関連微生物による代謝に適する少なくとも1つの基質を含む組成物であって、
前記特徴的な化合物が、酢酸、酪酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、フェノール、エチルフェノール、またはそれらの任意の組み合わせからなる群から選択され、
前記組成物は、グルコース、ソルビトール、ラクトース、チロシン、グルタミン酸、グリセロール、クエン酸および酢酸を基質として含む、組成物。
【請求項18】
請求項1~16のいずれか1項に記載の方法に使用するための、特徴的な化合物への癌関連微生物による代謝に適する少なくとも1つの基質を含む組成物であって、
前記組成物は、グルコース、ソルビトール、ラクトース、チロシン、グルタミン酸、グリセロール、クエン酸および酢酸を基質として含む、組成物。
【請求項19】
前記組成物は、
(i)7000mg/100mL~20000mg/100mLの間、または9000mg/100mL~17000mg/100mLの間、または11000mg/100mL~15000mg/100mLの間の濃度のグルコース;
(ii)7000mg/100mL~20000mg/100mLの間、または9000mg/100mL~17000mg/100mLの間、または11000mg/100mL~15000mg/100mLの間の濃度のラクトース;
(iii)1000mg/100mL~6000mg/100mLの間、または2000mg/100mL~5000mg/100mLの間、または3000mg/100mL~4000mg/100mLの間の濃度のソルビトール;
(iv)25mg/100mL~500mg/100mLの間、または50mg/100mL~400mg/100mLの間、または100mg/100mL~300mg/1
00mLの間の濃度のチロシン;
(v)500mg/100mL~5000mg/100mLの間、または1000mg/100mL~3500mg/100mLの間、または1500mg/100mL~2500mg/100mLの間の濃度のグルタミン酸;
(vi)10000mg/100mL~30000mg/100mLの間、または14000mg/100mL~25000mg/100mLの間、または17000mg/100mL~22000mg/100mLの間の濃度のグリセロール;
(vi)500mg/100mL~3000mg/100mLの間、または1000mg/100mL~2000mg/100mLの間、または1200mg/100mL~1700mg/100mLの間の濃度のクエン酸;および
(vii)200mg/100mL~1500mg/100mLの間、または400mg/100mL~1000mg/100mLの間、または600mg/100mL~800mg/100mLの間の濃度の酢酸
を含む、請求項17または18に記載の組成物。
【請求項20】
食道胃接合部癌、胃癌、食道癌、食道扁平上皮癌(ESCC)、または食道腺癌(EAC)を患っているもしくはその素因がある対象を診断するための、または前記対象の状態の予後を提供するためのキットであって、前記キットは、
(a)グルコース、ソルビトール、ラクトース、チロシン、グルタミン酸、グリセロール、クエン酸および酢酸を基質として含む、特徴的な化合物への癌関連微生物による代謝に適した少なくとも1つの基質を含む組成物;
(b)被検者のサンプルにおける特徴的な化合物の濃度を測定するための手段;および
(c)癌を患っていない個体のサンプルにおける前記特徴的な化合物の濃度の参照
を含み、
前記特徴的な化合物が、酢酸、酪酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、フェノール、エチルフェノール、またはそれらの任意の組み合わせからなる群から選択され、
前記キットは、前記参照と比較して、前記被検者の生体サンプルにおける前記特徴的な化合物の濃度の増加または減少を特定し、それにより前記被検者が癌を患っている、もしくはその素因があることを示唆する、または前記被検者の状態の否定的な予後を提供するために使用され、
前記サンプルは呼気サンプルである、
キット。
【請求項21】
前記キットは請求項1~16のいずれか1項に記載の方法を実施するためである、請求項20に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマーカーの検出に関し、特に以下に限定されるものではないが、癌などの様々な状態を診断するための生物学的マーカーを検出するための方法、組成物およびキットに関する。特に、本発明は、食道胃癌などの癌を検出するための診断および予後提供マーカー(prognostic marker)としての化合物の検出に関する。
【背景技術】
【0002】
食道腺癌は、最も一般的な5つの癌の1つであり、西洋人の癌の発生率が最も速く上昇している。英国は食道腺癌の発生率が世界で最も高い。胃癌は、世界中で3番目に多い癌の死因である。英国での食道癌および胃癌の5年生存率は非常に低く(それぞれ13%および18%)、ヨーロッパで最悪である。癌の生存率を改善するための鍵は早期診断である。しかし、症状は非特異的であり、一般的に良性疾患と共通している。症状が癌に特異的になるまでに、疾患はしばしば進行期にあり、予後は不良である。癌の負担や非特異的症状のある患者の不必要な調査により、かなりの費用が発生する。ゆえに、内視鏡検査や他の診断モダリティを持つ患者を効果的に選別するための非特異的な胃腸症状のある患者に対する非侵襲的検査が緊急に必要とされている。
【0003】
以前の研究で、食道胃癌と揮発性有機化合物(VOC)との間に関連があることが示され、その診断のためのアプローチは呼気検査である。ガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)を使用した研究者らは、特定の癌に特有の呼気揮発性有機化合物(VOC)プロファイルの存在を示唆した[4]。GC-MSは、VOC同定に適した手法であるが、安定した検量線(robust calibration curves)を使用しない限り、本質的に半定量的であるため、研究知見が異なる研究グループによって再現できるのには限界がある。さらに、各サンプルにはかなりの分析時間がかかるが、これは当然それ自体ハイスループット分析には向いていない。選択イオンフローチューブ質量分析(selected ion flow tube mass spectrometry)(SIFT-MS)やプロトン移動反応飛行時間型質量分析(proton transfer reaction time of flight mass spectrometry)(PTR-TOF-MS)等の直接注入質量分析は、定量的であり、リアルタイム分析が可能であるという利点がある[5,6]。
【0004】
必要なのは、食道胃癌などの癌に罹っている患者を特定するための信頼性の高い非侵襲的診断テストである。これらの癌患者を特定する診断方法は、患者にとって計り知れない恩恵をもたらし、早期治療および予後の改善の可能性を高めるであろう。
【0005】
本発明者らは、呼気中の、揮発性有機化合物(VOC)等の、特徴的な化合物の検出に基づいた癌の非侵襲的検査を開発した。このテストの精度の向上は、癌やそれに関連する微生物叢(microbiome)を一時的に誘導または「刺激」して独特の特徴的な化合物(例えば、VOC)をより大量に生成して、これによりテスト性能および診断精度を向上させる、経口刺激食品(例えば、飲み物、カプセル、または固形食品)を投与することで達成される。これにより、非特異的症状でありながら食道胃癌のリスクが高い患者を早期に特定し、さらなる検査や治療を勧めることができる。
【0006】
本発明の第一の態様では、癌を患っているもしくはその素因がある対象を診断するための、または前記対象の状態の予後を提供するための方法であって、
(i)被検者の生体サンプル(bodily sample)において、前記被検者に予め投与された組成物中の少なくとも1つの基質の、癌関連微生物(cancer-associated microorganism)による、代謝から生じる特徴的な化合物の濃度を検出し;さらに
(ii)前記濃度を、癌を患っていない個体における前記特徴的な化合物の濃度の参照と比較する、
ことを有し、
前記参照と比較した前記特徴的な化合物の濃度の増加または減少が、前記被検者が癌を患っている、もしくはその素因があることを示唆する、または被検者の状態の否定的な予後(prognosis)を提供する、
方法が提供される。
【0007】
第二の態様では、被検者における特徴的な化合物の検出方法であって、
(i)特徴的な化合物への癌関連微生物による代謝に適した少なくとも1つの基質を含む組成物を被検者に提供し;さらに
(ii)前記被検者の生体サンプルにおける前記特徴的な化合物の濃度を検出する、
ことを有する、方法が提供される。
【0008】
第三の態様では、好ましくは癌の、診断または予後提供(prognosis)の方法に使用するための、特徴的な化合物への癌関連微生物による代謝に適する少なくとも1つの基質を含む組成物が提供される。
【0009】
第四の態様では、第一または第二の態様の方法に使用するための、特徴的な化合物への癌関連微生物による代謝に適する少なくとも1つの基質を含む組成物が提供される。
【0010】
第五の態様では、癌を患っているもしくはその素因がある対象を診断するための、または前記対象の状態の予後を提供するためのキットであって、前記キットは、
(a)特徴的な化合物への癌関連微生物による代謝に適した少なくとも1つの基質を含む組成物;
(b)被検者のサンプルにおける特徴的な化合物の濃度を測定するための手段;および
(c)癌を患っていない個体のサンプルにおける前記特徴的な化合物の濃度の参照
を含み、
前記キットは、前記参照と比較して、前記被検者の生体サンプルにおける前記特徴的な化合物の濃度の増加または減少を特定し、それにより前記被検者が癌を患っている、もしくはその素因があることを示唆する、または前記被検者の状態の否定的な予後を提供するために使用される、キットが提供される。
【0011】
第一および第二の態様の方法は、前記被検者に、治療剤を投与するもしくは予め投与するまたは前記被検者に特殊食(specialised diet)を与えることを含んでもよく、この際、前記治療剤または特殊食は癌を予防する、癌を軽減する、または癌の進行を遅延させる。
【0012】
ゆえに、第六の態様では、癌を患っている対象の治療方法であって、前記方法は、
(i)特徴的な化合物への癌関連微生物による代謝に適した少なくとも1つの基質を含む組成物を前記対象に提供し;
(ii)被検者の生体サンプルにおける前記特徴的な化合物の濃度を分析し、癌を患っていない個体における前記特徴的な化合物の濃度の参照と比較し、この際、前記参照と比較した前記被検者の生体サンプルにおける前記特徴的な化合物の濃度の増加または減少が、前記被検者が癌を患っている、またはその素因がある、または否定的な予後(prognosis)であることを示唆するものであり;さらに
(iii)前記被検者に、治療剤を投与するもしくは予め投与するまたは前記被検者に特殊食を与え、この際、前記治療剤または特殊食は癌を予防する、癌を軽減する、または癌の進行を遅延させるものである、
ことを有する、方法が提供される。
【0013】
第七の態様では、治療剤または特殊食による癌を患っている対象の治療の有効性を決定する方法であって、前記方法は、
(i)特徴的な化合物への癌関連微生物による代謝に適した少なくとも1つの基質を含む組成物を前記対象に提供し;さらに
(ii)被検者の生体サンプルにおける前記特徴的な化合物の濃度を分析し、癌を患っていない個体における前記特徴的な化合物の濃度の参照と比較する、
ことを有し、
前記参照と比較した前記被検者の生体サンプルにおける前記特徴的な化合物の濃度の増加または減少が、前記治療剤または特殊食による治療レジメが有効であるまたは有効でないことを示唆するものである、方法が提供される。
【0014】
好適には、癌患者の利益には、漠然としたまたは検出不可能な症状を有する集団における早期検出がある。本発明の診断または予後提供の方法は、通常の血液検査と同様の方法で医療専門家によって直ちに提供され、ゆえに、患者の症状が悪化するかどうかを確認する「成り行きを見守る(watch-and-wait)」必要を回避できる。より早期の検出により、生存率が大幅に向上する。「診断」は、疾患または状態の性質の特定を意味し、「予後(prognosis)」は、状態の進行もしくは改善の速度および/または持続期間を予測することを意味すると理解されるであろう。予後提供(prognosis method)方法は、最初の診断に続いて、最初の診断とは別に実行されてもよい。
【0015】
さらに、本方法により、内視鏡検査を受けるプライマリーケアの適切な紹介の割合を増加して、紹介ガイドラインが改善される可能性がある。本方法はまた、紹介のためのNICE年齢のしきい値より若い患者を検査する機会を提供するであろう。癌のない患者は、侵襲的な検査や内視鏡検査を待つ間の不安を避けることができるであろう。不要な調査を避けられれば、命を救うために使用できるリソースが確保される(free up)。診断経路を強化することで患者の体験が向上するであろう。
【0016】
好ましくは、本発明の方法は、特徴的な化合物への癌関連微生物による代謝に適した少なくとも1つの基質を含む組成物を被検者に提供する最初の工程を含む。
【0017】
好ましくは、本発明の方法は、被検者の生体サンプルにおける特徴的な化合物の濃度を分析し、この濃度を、癌を患っていない個体における上記特徴的な化合物の濃度の参照と比較することを有する。
【0018】
一実施形態では、癌関連微生物は、食道胃接合部癌(oesophago-gastric junction cancer)、胃癌、食道癌、食道扁平上皮癌(ESCC)、または食道腺癌(EAC)に関連する。したがって、好ましい実施形態では、本診断は、食道胃接合部癌(oesophago-gastric junction cancer)、胃癌、食道癌、食道扁平上皮癌(ESCC)、または食道腺癌(EAC)を診断することを目的とする。最も好ましくは、上記微生物は、この状態を診断できるまたは予後提供できる(prognosing)ように、食道胃癌(oesophago-gastric cancer)に関連する。
【0019】
一実施形態では、癌関連微生物は、膵癌または大腸癌に関連する。したがって、本診断は、膵癌または大腸癌を診断することを目的とするものであってもよい。
【0020】
本発明の方法は、関連する癌の推定治療の有効性をモニターするのに有用である。例えば、切除可能な食道胃癌の治療としては、ネオアジュバント化学療法、または化学放射線療法後の手術および補助化学療法がある。非常に初期段階の食道胃癌の治療は、内視鏡的切除を含み得る。進行食道胃癌の治療は、緩和的化学療法を含み得る。近年、癌関連微生物叢(cancer-associated microbiome)が肝臓への転移を促進することが示された(Bullman et al., Science, 2017)。ゆえに、本明細書に記載される発明は、癌関連微生物叢に関する治療のレスポンスをモニターするために使用することができる。
【0021】
癌が膵臓癌である場合には、治療は、化学療法剤の投与、外科手術を伴うまたは伴わない化学放射線療法を含みうる。例えば、癌が結腸直腸癌である場合には、治療は、化学療法剤の投与、外科手術を伴うまたは伴わない化学放射線療法、または内視鏡的切除を含みうる。
【0022】
特徴的な化合物への癌関連微生物による代謝に適した、少なくとも1つの基質を含む組成物は、被検者によって摂取される。組成物は、固体または液体であってもよく、食べたりまたは飲み込んだりしてもよい。一実施形態では、組成物は、チュアブルであってよく、これにより、基質が放出されて、腸に取り込まれる。一実施形態では、少なくとも1つの基質を含む組成物は、胃腸管の特定の位置で分解して、それにより上記少なくとも1つの基質の標的放出を提供するように設計されたカプセルの形態であってもよい。しかしながら、組成物は、好ましくは、液体(すなわち、飲料)であり、それは飲み込むことができ、経口刺激飲料(oral stimulant drink)(OSD)と呼ばれることがある。
【0023】
上記少なくとも1つの基質は、癌関連微生物によって直接的または間接的に特徴的な化合物に代謝され得る分子または化合物であってもよい。上記少なくとも1つの基質は、チロシン、酢酸、エタノール、乳酸、乳酸塩、グルタミン酸、グルタミン酸塩、グリセロール、D-グルコース、D-スクロース、D-ラクトース、D-フルクトース、D-マンノース、D-グロース、D-ガラクトース、D-キシロース、D-アラビノース、D-リキソース、D-リボース、L-アラビノース、L-ラムノース、L-キシルロース、ジ-、トリ-オリゴおよび多糖類、ソルビトール、c4、c7および>c8の単糖類、ピルビン酸、アスコルビン酸、リンゴ酸、クエン酸、コハク酸、フマル酸、シュウ酸、タンニン酸、酒石酸、ソルビトール、マンニトール、マルチトール、ラクチトール、エリスリトール、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、アラキドン酸、トリグリセリド、糖脂質、20種類のタンパク質構成アミノ酸(proteinogenic amino acids)のいずれかまたはすべて、2-アミノ酪酸、オルニチン、カナバニン、ホモアルギニン、人工甘味料(例えば、ステビア、アスパルテーム、スクラロース)、保存料(例えば、E番号(E numbers)、硝酸塩)、および低分子インデューサーからなる群から選択されてもよい。
【0024】
組成物は、前述の基質の任意の組み合わせを含んでもよい。好ましくは、組成物は、グルコース、ソルビトール、ラクトース、チロシン、グルタミン酸、グリセロール、クエン酸および酢酸、またはこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される1以上の基質を含むまたは前記1以上の基質から構成される。
【0025】
好ましくは、組成物は、好ましくは、約7000mg/100mL~20000mg/100mL、より好ましくは9000mg/100mL~17000mg/100mL、最も好ましくは11000mg/100mL~15000mg/100mLの濃度で、グルコースを含む。
【0026】
好ましくは、組成物は、好ましくは、約7000mg/100mL~20000mg/100mL、より好ましくは9000mg/100mL~17000mg/100mL、最も好ましくは11000mg/100mL~15000mg/100mLの濃度で、ラクトースを含む。
【0027】
好ましくは、組成物は、好ましくは、約1000mg/100mL~6000mg/100mL、より好ましくは2000mg/100mL~5000mg/100mL、最も好ましくは3000mg/100mL~4000mg/100mLの濃度で、ソルビトールを含む。
【0028】
好ましくは、組成物は、好ましくは、約25mg/100mL~500mg/100mL、より好ましくは50mg/100mL~400mg/100mL、最も好ましくは100mg/100mL~300mg/100mLの濃度で、チロシンを含む。
【0029】
好ましくは、組成物は、好ましくは、約500mg/100mL~5000mg/100mL、より好ましくは1000mg/100mL~3500mg/100mL、最も好ましくは1500mg/100mL~2500mg/100mLの濃度で、グルタミン酸を含む。
【0030】
好ましくは、組成物は、好ましくは、約10000mg/100mL~30000mg/100mL、より好ましくは14000mg/100mL~25000mg/100mL、最も好ましくは17000mg/100mL~22000mg/100mLの濃度で、グリセロールを含む。
【0031】
好ましくは、組成物は、好ましくは、約500mg/100mL~3000mg/100mL、より好ましくは1000mg/100mL~2000mg/100mL、最も好ましくは1200mg/100mL~1700mg/100mLの濃度で、クエン酸を含む。
【0032】
好ましくは、組成物は、好ましくは、約200mg/100mL~1500mg/100mL、より好ましくは400mg/100mL~1000mg/100mL、最も好ましくは600mg/100mL~800mg/100mLの濃度で、酢酸を含む。
【0033】
好ましくは、組成物は、チロシン、グルタミン酸、グルコース、ソルビトール、ラクトース、グリセロール、クエン酸および酢酸からなる群から選択される少なくとも2つ、3つもしくは4つの基質を含むまたは前記基質から構成される。好ましくは、組成物は、チロシン、グルタミン酸、グルコース、ソルビトール、ラクトース、グリセロール、クエン酸および酢酸からなる群から選択される少なくとも5つ、6つ、7つもしくは8つの基質を含むまたは前記基質から構成される。
【0034】
本発明者らは、グルコース、ラクトースおよびソルビトールが、特徴的な化合物への癌関連微生物による代謝のための組成物における基質として特に有用であると考える。したがって、最も好ましくは、組成物は、グルコース、ラクトースおよびソルビトールから選択される少なくとも1つの基質を含む。しかしながら、チロシン、グルタミン酸、グリセロール、クエン酸および/または酢酸もまた、上記の濃度のいずれかで組成物に含まれてもよいと解されるであろう。
【0035】
組成物は、前述の構成成分のいずれか1つを含む、既存の組成物、食料品または飲料であってよい。
【0036】
癌関連微生物は細菌であり得る。腸内に存在する微生物および細菌は、いわゆる「微生物叢(microbiome)」を形成することは理解されるであろう。したがって、癌を診断する本発明の方法において検出および/または分析される、少なくとも1つの基質を特徴的な化合物に代謝する癌関連微生物は、好ましくは微生物叢(microbiome)の一部を形成する。
【0037】
癌関連微生物は、連鎖球菌(Streptococcus)、ラクトバチルス(Lactobacillus)、ヴェイロネラ(Veillonella)、プレボテラ(Prevotella)、ナイセリア(Neisseria)、ヘモフィルス(Haemophilus)、L.コレオホミニス(L. coleohominis)、ラクノスピラ(Lachnospiraceae)、クレブシエラ(Klebsiella)、クロストリディア(Clostridiales)、エリスロペトリケレス(Erysipelotrichales)、またはそれらの任意の組み合わせであり得る。
【0038】
癌関連微生物は、S. pyogenes、Klebsiella pneumoniae、Lactobacillus acidophilus、またはそれらの任意の組み合わせであり得る。
【0039】
癌関連微生物は、E. coli、P. mirabili、B. cepacia、S. pyogenes、Streptococcus salivarius、Actinomyces naeslundii、Lactobacillus fermentum、Streptococcus anginosus、Clostridium bifermentans、Clostridium perfringens、Clostridium septicum、Clostridium sporogenes、Clostridium tertium、Eubacterium lentum、Eubacterium sp.、Fusobacterium simiae、Fusobacterium necrophorum、Lactobacillus acidophilus、Peptococcus niger、Peptostreptococcus anaerobius、Peptostreptococcus asaccharolyticus、Peptostreptococcus prevotii、P. aeruginosa、S. aureus、P. mirabilis、E. faecalis、S. pneumoniae、N. meningitides、Acinetobacter baumannii、Bacteroides capillosus、Bacteroides fragilis、Bacteroides pyogenes、Clostridium difficile、Clostridium ramosum、Enterobacter cloacae、Klebsiella pneumoniae、Nocardia sp.、Propionibacterium acnes、Propionibacterium propionicum、またはそれらの任意の組み合わせであり得る。好ましくは、癌関連微生物は、E. coli、L. fermentum、S. salivarius、S. anginosusまたはK. pneumoniaeである。
【0040】
対象は、獣医学的に関心のある任意の動物、例えば、ネコ、イヌ、ウマなどであってよい。しかしながら、対象は、男または女の、ヒトなどの、哺乳動物であることが好ましい。
【0041】
好ましくは、対象からサンプルが採取された後、生体サンプルにおける特徴的な化合物を検出する。実施形態によっては、特徴的な化合物の濃度が測定される。
【0042】
特徴的な化合物は、微生物の存在を示すまたは微生物の存在と相関し得る化合物であってもよい。検出される、特徴的な化合物は、発酵プロファイルにつながる、揮発性有機化合物(VOC)であってもよく、様々な手法によって生体サンプルで検出されてもよい。一実施形態では、これらの化合物は、それらが溶解する液体または半固体サンプル内で検出されてもよい。しかしながら、好ましい実施形態では、化合物はガス(gas)または蒸気(vapor)から検出される。例えば、特徴的な化合物はVOCであるため、サンプルから放出される、またはサンプルの一部を形成してもよく、ゆえにガス形態または蒸気形態で検出されてもよい。
【0043】
好ましくは、揮発性有機化合物(VOC)は、酪酸、ガンマアミノ酪酸、カプロン酸、硫化水素、ペンタノール、プロパン酸、酢酸、1,2-プロパンジオール、エタノール、および3-ヒドロキシプロピオン酸、またはそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。
【0044】
VOCは、アルデヒド、脂肪酸、アルコール、またはそれらの任意の組み合わせであってもよい。
【0045】
VOCは、C-Cアルデヒド、C-Cアルコール、最初の炭素原子が=O基で置換されかつ2番目の炭素原子が-OH基で置換されるC-C10アルカン、C-C20アルカン、C-C10アルコール、C-Cカルボン酸、C-C20アルデヒド、Cアルデヒド、Cアルデヒド、Cアルデヒド、Cアルデヒド、C10アルデヒド、C11アルデヒド、前述の物質の類似体もしくは誘導体、またはそれらの任意の組み合わせであってもよい。VOCは、プロパナール、ノナナール、デカナール、ホルムアルデヒド、メタノール、ペンタン、イソプロピルアルコール、n-ヘキサン、1-ブタノール、アセトイン、プロパン酸、ウンデカナール、テトラデカン、またはそれらの任意の組み合わせであってもよい。別の実施形態では、VOCは、アセトン、酢酸、酪酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、フェノール、エチルフェノール、アセトアルデヒド、またはそれらの任意の組み合わせであってもよい。さらなる別の実施形態では、VOCは、ヘキサン酸、ペンタン酸、酢酸、2-エチルフェノール、またはそれらの任意の組み合わせであってもよい。
【0046】
一実施形態では、酢酸および/またはエタノール(すなわち、癌関連微生物によって代謝される基質)を含む組成物は、特徴的な化合物である、酪酸および/またはカプロン酸の濃度を増加させるために、対象に提供されてもよい。次に、クロストリジウム属(Clostridium spp.)の存在を示して、これにより例えば食道扁平上皮癌の診断を提供する、食道扁平上皮癌に対する素因を示す、または食道扁平上皮癌の予後を提供するために、これらの特徴的な化合物の濃度を分析してもよい。上記関連の証拠は、以下の実施例3に示される。ゆえに、好ましくは、本方法は、食道扁平上皮癌の診断を提供する、食道扁平上皮癌に対する素因を示す、または食道扁平上皮癌の予後を提供するために使用され、この際、組成物は、好ましくはクロストリジウム属(Clostridium spp.)の存在を示すために分析される、好ましくは酪酸および/またはカプロン酸から選択される特徴的な化合物に代謝される、酢酸および/またはエタノールから選択される基質を含む。
【0047】
他の実施形態では、乳酸(すなわち、基質)を含む組成物は、特徴的な化合物である、酢酸、1,2-プロパンジオール、および/またはエタノールの濃度を増加させるために、対象に提供されてもよい。次に、ラクトバチルス属(Lactobacillus spp.)の存在を示して、これにより例えば胃癌の診断を提供する、胃癌に対する素因を示す、または胃癌の予後を提供するために、これらの特徴的な化合物の濃度を分析してもよい。上記関連の証拠は、以下の実施例3に示される。したがって、好ましくは、本方法は、胃癌の診断を提供する、胃癌に対する素因を示す、または胃癌の予後を提供するために使用され、この際、組成物は、好ましくはラクトバチルス属(Lactobacillus spp.)の存在を示すために分析される、好ましくは酢酸、1,2-プロパンジオール、および/またはエタノールから選択される特徴的な化合物に代謝される、乳酸である基質を含む。
【0048】
さらなる他の実施形態では、グルタミン酸塩(すなわち、基質)を含む組成物は、特徴的な化合物である、ガンマアミノ酪酸の濃度を増加させるために、対象に提供されてもよい。次に、ラクトコッカス属(Lactococcus spp.)、クロストリジウム属(Clostridium spp.)などの存在を示して、これにより食道胃癌の診断を提供する、食道胃癌に対する素因を示す、または食道胃癌の予後を提供するために、この特徴的な化合物の濃度を分析してもよい。上記関連の証拠は、以下の実施例3に示される。ゆえに、好ましくは、本方法は、食道胃癌の診断を提供する、食道胃癌に対する素因を示す、または食道胃癌の予後を提供するために使用され、この際、組成物は、好ましくはラクトコッカス属(Lactococcus spp.)またはクロストリジウム属(Clostridium spp.)の存在を示すために分析される、好ましくはガンマアミノ酪酸である特徴的な化合物に代謝される、グルタミン酸塩である基質を含む。
【0049】
さらなる他の実施形態では、グリセロール(すなわち、基質)を含む組成物は、特徴的な化合物である、3-ヒドロキシプロピオン酸の濃度を増加させるために、対象に提供されてもよい。次に、クレブシエラ属(Klebsiella spp.)の存在を示して、これにより胃癌の診断を提供する、胃癌に対する素因を示す、または胃癌の予後を提供するために、この特徴的な化合物の濃度を分析してもよい。上記関連の証拠は、以下の実施例3に示される。したがって、好ましくは、本方法は、胃癌の診断を提供する、胃癌に対する素因を示す、または胃癌の予後を提供するために使用され、この際、組成物は、好ましくはクレブシエラ属(Klebsiella spp.)の存在を示すために分析される、好ましくは3-ヒドロキシプロピオン酸である特徴的な化合物に代謝される、グリセロールである基質を含む。
【0050】
第5の態様のキットは、被検者からサンプルを入手するためのサンプル抽出手段を含んでもよい。サンプル抽出手段は、針またはシリンジなどを含んでもよい。キットは、液体、気体または半固体であり得る、抽出されたサンプルを入れるためのサンプル収集容器を含んでもよい。キットは、使用説明書をさらに含んでもよい。
【0051】
好ましくは、サンプルは、特徴的な化合物が存在するまたは分泌される生体サンプル(bodily sample)である。したがって、好ましくは、検出または診断方法はインビトロで行われる。例えば、サンプルは、尿、便、髪、汗、唾液、血液、または涙を含み得る。一実施形態では、サンプルは、特徴的な化合物の量について直ちにアッセイされてもよい。あるいは、サンプルを例えば冷蔵庫で低温で保存する、または特徴的な化合物の濃度を測定するまで凍結してさえよい。生体サンプル中の特徴的な化合物の測定は、サンプル全体または処理されたサンプル、例えば全血または処理された血液で行ってもよい。
【0052】
一実施形態では、サンプルは尿サンプルであってよい。生体サンプル中の特徴的な化合物の濃度は、対象から採取した尿サンプルからインビトロで測定されることが好ましい。尿サンプルから発生するガスまたは蒸気から化合物を検出してもよい。尿から排出された気相中の化合物の検出が好ましいことは理解されるであろう。
【0053】
「新鮮な」生体サンプルを対象から採取した直後に分析してもよいことも理解されよう。あるいは、サンプルを凍結・保存してもよい。その後、サンプルは解凍され、後日分析されてもよい。
【0054】
しかしながら、最も好ましくは、生体サンプルは、被検者からの呼気サンプルであり得る。サンプルは、好ましくは経鼻吸入後に、口からの呼吸(exhalation through the mouth)を行う被検者によって収集されてもよい。好ましくは、サンプルは、被検者の肺胞気(alveolar air)を含む。好ましくは、肺胞気は、呼気終末呼気(end-expiratory breath)を捕捉することによりデッドスペース空気に(over dead space air)集められる。次に、呼吸バッグからのVOCは、チューブに呼気を移動させることにより、熱脱着チューブに事前に濃縮されることが好ましい。
【0055】
被検者の癌またはその素因を示すであろう、特徴的な化合物の濃度の差は、参照と比較した増加または減少であってもよい。疾患を患っている患者における特徴的な化合物の濃度は、多くの要因、例えば、疾患がどこまで進行しているか、被検者の年齢や性別などに大きく依存していることは理解されるであろう。疾患に罹患していない個体における特徴的な化合物の参照濃度はある程度変動する可能性はあるが、一定の期間にわたって平均して、濃度は実質的に一定である傾向があることも理解されるであろう。加えて、疾患に罹患している個体の一群における特徴的な化合物の濃度は、その疾患に罹っていない個体の別群における当該化合物の濃度とは異なる場合があることを理解すべきである。しかしながら、癌に罹患していない個体における特徴的な化合物の平均濃度を決定することは可能であり、これは特徴的な化合物の参照または「正常な」濃度と称される。正常な濃度は、上記の参照値に対応する。
【0056】
一実施形態では、本発明の方法は、好ましくは、呼気内の化学物質の比率を決定し(すなわち、その中の他の成分を参照として使用し)、これらのマーカーを疾患と比較して、それらが上昇または減少するかどうかを示すことを含む。
【0057】
特徴的な化合物は、プロファイルを提供する揮発性有機化合物(VOC)であることが好ましく、それは、様々な技術によって生体サンプル内でまたは生体サンプルから検出してもよい。ゆえに、これらの化合物は、ガス分析器を使用して検出してもよい。特徴的な化合物を検出するための適切な検出器の例としては、好ましくは、電気化学センサー、半導体金属酸化物センサー、水晶微量天秤センサー、光学色素センサー、蛍光センサー、導電性ポリマーセンサー、複合ポリマーセンサー、または発光分析(optical spectrometry)がある。
【0058】
本発明者らは、特徴的な化合物がガスクロマトグラフィー、質量分析、GCMSまたはTOFを使用して正確に検出できることを示した。専用センサーを検出ステップに使用してもよい。
【0059】
参照値は、統計的に有意な数の対照サンプル(すなわち、疾患に罹患していない被検者からのサンプル)をアッセイすることによって得てもよい。したがって、本発明の第5の態様のキットによる参照(ii)は、(アッセイのための)対照サンプルであり得る。
【0060】
装置は、好ましくは、特徴的な化合物に対応する、陽性対照(最も好ましくは容器に提供される)を含む。装置は、好ましくは、陰性対照(好ましくは容器に提供される)を含む。好ましい実施形態では、キットは、参照、陽性対照および陰性対照を含み得る。キットはまた、必要に応じて、濃度の参照を提供するための「スパイクイン(spike-in)」対照などのさらなる対照、および各特徴的な化合物、またはその類似体もしくは誘導体のさらなる陽性対照を含み得る。
【0061】
したがって、本発明者らは、参照正常(すなわち対照)とレベルの増加/減少との特徴的な化合物の濃度の差が生理学的マーカーとして使用でき、被検者における疾患の存在を示唆することを知得した。被検者が、1つまたは複数の特徴的な化合物の濃度の増加/減少が参照、対照値における当該化合物の「正常な」濃度よりもかなり高い/低い場合には、当該化合物の濃度が「正常な」濃度よりわずかに高い/低い場合よりも、疾患を有するまたは状態がより進行しているリスクがより高いと解されるであろう。
【0062】
当業者は、統計的に有意な数の対照個体における特徴的な化合物の濃度、および被検者における化合物の濃度を測定する方法を理解し、これらのそれぞれの数値を使用して被検者で統計的に化合物の濃度の有意な増加/減少があるかどうかを決定し、したがって、被検者がスクリーニングされた疾患に罹患しているかどうかを推測するであろう。
【0063】
本明細書(添付の請求項、要約および図面を含む)に記載されるすべての特徴、および/または開示される方法もしくはプロセスのすべてのステップは、このような特徴および/またはステップの少なくとも一部が互いに排反する組み合わせ以外は、上記態様のいずれかと任意の組み合わせで組み合わせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
本発明をよりよく理解するために、および本発明の実施形態をどのように実施することができるかを示すために、例として、以下の添付の図面を参照する。
図1図1は、VOCをスチール製ブレスバッグから熱脱着チューブに濃縮するために使用される装置および方法の一実施形態を示す。
図2図2は、非癌対照と比較した患者の癌組織における物質ごとのVOC生成を示す。
図3図3は、高スループットインビトロ培養刺激およびVOCサンプリングプロトコルを示す。
図4図4は、(A)グルコース培地中の大腸菌(Escherichia coli)、(B)グルコース培地中のクレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumonia)、(C)グリセロール培地中のストレプトコッカス・サリヴァリウス(Streptococcus salivarius)、および(D)グリセロール培地中のラクトバチルス・ファーメンタス(Lactobacillus fermentum)のヘッドスペースにおけるVOCの上昇の例を示す。刺激物を含まない(stimulant-free)細菌培養物(SFC)および細菌培養物を含まない刺激物組成物(CFC)を含む対照と比較したアクティブな生体内変化(Active biotransformation)(AB)。スパイクAおよびBは、品質手段として内部化合物標準として3-エチルフェノールおよびヘキサン酸を含んだ。-Pが付いたサンプルは、生体内変換容器のヘッドスペースを熱脱着チューブにサンプリングするために真空ポンプを使用したことを示す。データは、GC-MSによるVOC分析から得られたものである。
【発明を実施するための形態】
【0065】
実施例
実施例1-食品に含まれる特定の刺激物質に応答して生成される微生物VOC
表1は、特定の細菌の存在を示すために検出できるVOC、およびこの関連を示す研究を示す。
【0066】
【表1】
【0067】
以下では、その存在が特徴的化合物の検出によって示され得る細菌の例、および特徴的な化合物の濃度を増加させるために細菌に供給され得る基質の例が提供される。
【0068】
クロストリジウム属(Clostridium spp.)は、最初に、細菌に、基質化合物である、酢酸および/またはエタノールを与えると、酢酸および/またはエタノールが代謝されて検出可能な特徴的な化合物になることによって検出できる。過剰な酢酸は酪酸を生成し、過剰なエタノールはカプロン酸を生成する。これらの特徴的な化合物を測定することにより、クロストリジウム属(Clostridium spp.)の存在を検出することができる。
【0069】
ラクトバチルス属(Lactobacillus spp.)も、同様にして、最初に、基質である乳酸を与えると、乳酸が酢酸、1,2-プロパンジオール、およびエタノールに変換されることによって検出できる。これらの特徴的な化合物を測定することにより、ラクトバチルス属(Lactobacillus spp.)の存在を検出できる。
【0070】
ラクトバチルス菌(Lactobacillus)、クロストリジウム菌(Clostridia)などの細菌は、グルタミン酸塩を供給することによって検出できる。グルタミン酸塩は、ガンマアミノ酪酸に変換される。この特徴的な化合物は、ラクトバチルス属(Lactobacillus spp.)、クロストリジウム属(Clostridium spp.)などの存在を検出するために測定できる。
【0071】
クレブシエラ属(Klebsiella spp.)は、グリセロールを供給することによって検出できる。グリセロールは3-ヒドロキシプロピオン酸に代謝され、この特徴的な化合物を測定することによりクレブシエラ属(Klebsiella spp.)の存在を検出できる。
【0072】
実施例2-食道胃癌の早期診断のための増強された微生物叢を介した呼気検査(Augmented Microbiome-mediated Breath Test for the Earlier Diagnosis of Oesophago-gastric Cancer)(AMBEC)
本発明者らは、呼気中の揮発性有機化合物(VOC)の検出に基づいて食道胃腺癌の非侵襲的検査(特異性81%/感度80%)を開発した。本発明者らは、癌関連微生物叢(cancer-associated microbiome)がより多くの特徴的なVOCを生成するのを誘導し、これにより非特異的症状でありながら食道胃癌のリスクの高い患者をより迅速にかつより早く治療のために紹介できる経口飲料によるこの試験の精度を向上した。経口飲料(経口刺激飲料(oral stimulant drink)-OSD)は、癌関連微生物叢(microbiome)に基質を選択的に「供給」して、優先的に代謝させ、量的に高いレベルの特徴的なVOCを生成させるであろう。簡単に言うと、患者は少なくとも4時間絶食した後、20分間の休む間に、バッグ中にまたは揮発性化合物を熱脱着チューブに濃縮する呼気収集装置(ReCIVAなど-下記参照)を用いて呼気を集める(breathe)。呼気サンプルを分析する。
【0073】
本発明の検査は、通常の血液検査と同様の方法で医療専門家が直ちに提供できるため、患者の症状が悪化するかどうかを確認するために「成り行きを見守る(watch-and-wait)」必要がない。
【0074】
検査は医療専門家が実施することを意図しており、医療専門家は次に分析のために呼気サンプルを実験室に送る。陽性の結果であれば、内視鏡検査を即座に紹介する正当な理由となる。陰性の結果であれば、医療専門家は患者を安心させて、症状が持続する場合には再検査を提案する。
【0075】
本発明の一例は、AMBEC(食道胃癌の早期診断のための増強された微生物叢を介した呼気検査(Augmented microbiome-mediated Breath Test for the Earlier Diagnosis of Oesophago-gastric Cancer))と呼ばれる。AMBECを用いた検査の被検者集団は、GP診療に通う上部消化管症状のある患者である。AMBECは、早期診断と高速診断との両方を可能にし、中央診断内視鏡検査への高まる圧力を大幅に軽減するであろう患者に優しい非侵襲的検査である。
【0076】
食道胃癌関連微生物叢によるVOC産生を刺激するために、患者に経口飲料(経口刺激飲料-OSD)を与える。OSDを投与し、30分間隔で2時間、呼吸検査を行う。
【0077】
呼気は低コストの装置によって収集され、図1に示す装置などの自動化された標準質量分析装置を使用して地域の研究所で分析される。
【0078】
図1を参照すると、本発明による呼気サンプリングに使用されるReCIVA装置が示される。ReCIVA装置は、熱脱着チューブに直接息を集めることができる再現性のあるシステムであり、未来の多施設研究で使用されるシステムである。
【0079】
サンプリングの前に合成空気で予め洗い流した500mlの不活性アルミニウムバッグを用いて呼気を集める。患者は深く鼻孔吸入を行った後、口から頑丈な(secure)GastroCHECKスチール製ブレスバッグに完全に吐き出すように求められる。肺胞の空気は、エンド呼気(end-expiratory breath)を捕集することによってデッドスペースの空気よりも優先的に集められる。次に、直径10mmのチューブおよび手持ち型空気ポンプ(hand-held air pump)(210-1002MTX, SKC ltd., Dorset,UK)を介して250mlの呼気を50ml/秒で移すことによって、ブレスバッグのVOCを熱脱着チューブで予め濃縮した(図1を参照)。
【0080】
患者は、呼気サンプルを採取する前最低4時間は絶食する。すべての呼気サンプルは内視鏡検査または手術の前に集められる。
【0081】
呼気分析(Exhaled breath analysis)は、GC-MSを標準の識別手法として使用し、PTR-TOF-MSを定量的手法として飛行時間型分析装置とともに使用して行うことにより、質量および時間分解能の観点から最先端の性能を保証できる。
【0082】
実施例3-癌と細菌との関連を示す研究
表2に示される研究は、特定の癌の種類に関連することが示されている細菌を示す。ゆえに、例えば患者の微生物叢で、これらの細菌を検出することにより、これらの癌の診断が可能になる。
【0083】
【表2】
【0084】
実施例3-食道胃癌の早期診断のための増強された微生物叢(microbiome)を介した呼気検査(AMBEC)の開発
(i)経口刺激飲料(OSD)の製造
目的は、本発明者らが臨床導入のための新しいトリアージ検査の用量応答、再現性およびロバスト性を完全に最適化できるようにする強化されたOSD製剤を開発することである。OSDの製造は以下に基づく:(i)癌組織に最も一般的に関連する胃微生物叢細菌のデータセット、(ii)鍵となる細菌種における酵素経路調節および生化学的フラックスの広範なバイオインフォマティクスのレビュー、(iii)特定の一次代謝産物から特定のVOCへの変換を記載する科学文献、および(iv)通常の食事の存在、推奨される1日の摂取量(RDA)、おいしさなど、OSD成分の倫理、安全性、許容性に関する考慮事項。糖、有機酸、アミノ酸が優先化合物として特定される。したがって、特定の刺激が最初のOSDのために選択された。いくつかの脂肪酸刺激は、水性OSD製剤内での不溶性のために考慮されなかった。OSD製造に適した業務用キッチンが特定された。すべてのOSD成分および消耗品は、汚染の可能性がなく、飲料が人間の消費に適していることを保証するために、「食品」または「医療」グレードのいずれかで調達された。
【0085】
結果:表3にOSDの一実施形態の組成物を要約する。
【0086】
【表3】
【0087】
一実施形態では、OSDは、胃腸管の特定の位置で分解して、それにより少なくとも1つの基質の標的放出を提供するように設計されたカプセルの形態である。他の実施形態では、OSDは液体飲料である。グルコース、ラクトース、およびソルビトールは、微生物叢を増強して特徴的なVOCを生成するために最も重要であると考えられる。
【0088】
(ii)患者の癌の種類に関連する微生物叢によるVOCの生産
目的は、食道胃癌に関連する優勢な微生物叢(dominant microbiome)(細菌種)を同定することである。食道胃癌に関連する優勢な微生物叢は、下記:(i)文献検索、(ii)癌および正常組織サンプルの16S分析、ならびに(iii)食道胃癌患者および対照患者から得られた食道癌および胃癌ならびに非癌の組織の微生物叢培養物から同定した。
【0089】
(A)癌および正常組織サンプルの16S分析
方法:手術中に採取された胃および食道胃組織のサンプルに対して16S RNAシーケンス分析を行った。サンプルを、イルミナMiSeqプラットフォーム(Illumina MiSeq platform)でメタタキソノミー分析(metataxonomic analysis)にかけ、この際、OG癌微生物叢のV3/V4領域を高多重化アプローチ(multiplexing approach)でターゲットにして、これにより微生物多様性の高い適用範囲に得た。アンプリコンシーケンスからの読み取りの分類学による分析(Taxonomic-dependent analysis)を、Mothurソフトウェアを使用して行った。単変量統計分析を使用して、癌および非癌サンプル内の優勢な細菌門(bacterial phyla)の比較を行った。教師ありおよび教師なし統計モデリング(Supervised and unsupervised statistical modelling)を、臨床メタデータを組み込んで行った。
【0090】
結果:本発明者らは、表4に示されるように、癌に関連する多くの細菌の存在を確認した。
【0091】
【表4】
【0092】
表4に示されるように、対照サンプルと比較して、食道胃癌組織では、Firmicutes (Lactobacillus fermentum, Streptococcus salivarius, Streptococcus anginosus, Klebsiella pneumoniae, Escherichia coli)の量が多いことが分かった。優勢な食道胃癌関連微生物叢の同定により、最適な増強された応答を引き出すために、OSDによって刺激される標的微生物叢が提供される。
【0093】
(B)患者の癌組織サンプルおよび正常な組織サンプルの微生物叢培養
目的は、胃の微生物叢が癌の存在のマーカーを生成できるという全体的な仮説を支持するために、患者から得られた癌組織または正常組織に関連する細菌に由来するVOCの違いを説明することである。
【0094】
方法:グリセロール凍結培地中の癌組織および非癌対照組織の凍結サンプルを、シーケンシング(16S/ショットガン)およびヘッドスペース分析(Sequencing (16S/Shotgun) and headspace analysis)に使用した。組織サンプルを解凍し、PBS(滅菌、pH 5)100μLに再懸濁し、60秒間激しくボルテックスした。次に、100μLの上澄みをペトリ皿に予め調製したFAA(Fastidious Anaerobe Agar+7% ウマ血液)培地に広げ、嫌気性ES-ガスポーチ内で37℃で24時間インキュベートした。翌日、プレートをインキュベーターから取り出し、以下の2つの方法で処理した:(A)優勢な(Predominant)種:各FAAプレートで最も頻繁に発生する個々の細菌コロニーを拾い、シーケンシングおよびヘッドスペース分析のためにバイアル中の100μL PBSに再懸濁した;(B)全体的な種の組成:1.5ml PBSを使用して、個々のプレートからすべての細菌を再懸濁した。次に、再懸濁物をエッペンドルフチューブにピペットで移し、14800で5分間微量遠心分離した(micro-centrifuge)。上清を除去し、固体ペレットを100μL PBSに再懸濁し、カルボキセン(carboxen)/ポリジメチルシロキサンSPMEファイバーを用いた固相マイクロ抽出によるシーケンシングおよびヘッドスペース分析(SPME-GC-MS)のために、バイアルに分割した。500rpmで断続的に撹拌しながら60℃でSPME抽出を行った。48時間のインキュベーションの後、揮発性物質を気流のない状態で収集し、その後、加熱されたガスクロマトグラフィーインジェクターに直接放出した。
【0095】
結果:様々な量の(abundances)揮発性アルデヒドおよび脂肪酸が、癌および非癌サンプルに関連する優勢な細菌種および全培養細菌種のヘッドスペースで検出された。優勢な細菌(A)では、ベンズアルデヒドやメチルフェノールなどのVOCが、正常組織対照に比して癌組織のサンプルで有意に高かった。組織サンプルに存在する全細菌(B)では、酢酸及びブタン酸が、正常対照に比して癌組織で有意に高かった(図2参照)。
【0096】
(iii)OSDに応答する異なる微生物叢によるインビトロでのVOC生産
A)OSD成分のRDAに応答する標準的な細菌培養およびVOC生産
目的は、ヒトで推奨される1日当たりの許容濃度(human recommended daily allowance concentrations)で、関連する微生物叢を培養し、OSDで使用される刺激に応答して生成されたVOCを分析する可能性を検討することであった。
【0097】
方法:VODCAによって提供された上記予備的な臨床データ、および胃癌との微生物叢との関連を説明する参照文献を使用して、適切な菌株をNCIMB(アベルディーン(Aberdeen))およびATCC(米国)などの培養コレクションから得た。表4を参照。確立されたIngenzaプロトコルを用いた英国の微生物規制ガイドラインに従って、Cat1またはCat2実験室で可能な限り天然の胃環境を模倣する条件下(例えば、嫌気性、pH5.5)で、すべてのインビトロ培養作業を実施した。関連するすべての品質管理テストを全体にわたって実行した。細胞増殖、培養サンプリング、およびVOC分析を促進できるように、作業中にいくつかの研究パラメーターを最適化した。
【0098】
結果:大腸菌培養は十分に成長し、検出可能なVOCを生成したが、他のすべての培養では、最初のプロトコルでは、満足のいく成長が得られなかった、または使用した刺激物(stimuli)の濃度では検出可能なVOCが生成されなかった。
【0099】
B)異なるヒト微生物叢細菌によるVOC生産のハイスループット分析
目的は、(i)微生物叢の培養ならびにVOCの生産および分析を最大限にするハイスループットシステムを開発すること、および(ii)様々な既知の癌関連微生物叢のものによって生産されたVOCを調べることであった。
【0100】
本発明者らは、様々なOSD組成及び濃度に対する微生物叢の応答を効率的にテストするためのプラットフォームとしてハイスループットシステムの開発に着手し、その後の患者の用量研究の設計に情報を提供して、多くの食品や一般的な栄養サプリメント(例えば、ビタミン、ミネラル、アミノ酸)がOSDに潜在的に適した化合物のRDAをしばしば大幅に超えることを認識した。
【0101】
初期の培養プロトコルを改訂する理由:(i)実験(iii)Aの初期プロトコルでの微生物叢の成長が不十分であること、(ii)実験(iii)AにおけるOSD化合物のRDAに応答したVOCレベルが不十分であること、(iii)多くの癌関連細菌の低い増殖速度等のOmniLogの使用による困難さが発見されたこと、および高揮発性化合物のヘッドスペースサンプリング中に効率的な容器の密閉を維持できないこと、ならびに(iv)本発明者のVOC分析機能がIngenzaの機器よりもはるかに高感度であること。したがって、インビトロでの作業が患者の安全性の制約に拘束されないため、より大きな培養バイオマスおよび潜在的なVOC刺激物の濃度の増加を可能にする増殖培地及び条件を使用することを決めた。
【0102】
方法:
増殖培地:評価被検者の胃の微生物の遺伝的および生化学的調節のメカニズムが、バイオマスを得るために使用される実験用増殖培地および炭素源の組成を決定する際に重要であると考えられた。また、グルコースを介した異化代謝産物抑制は、代替炭素源を異化するために必要な酵素を阻害できる。アミノ酸などのサプリメントまたは代謝中間体が豊富な培地は、これらの条件下では必須ではないが、VOCの生産に必要な活性を有する可能性のある酵素によるこれらの化合物の細菌生合成を抑制する。したがって、非必須成分を補充しない(lacking non-essential supplementation)規定された最小塩培地を使用した。
【0103】
刺激物(stimuli):刺激物成分の濃度を大幅に増やしたことで、個々の刺激閾値、時間プロファイル、および微生物のVOC生成に対する刺激物の協調効果(concerted effects)をより幅広く評価できるようになった。
【0104】
微生物叢:5種の優勢細菌種(Lactobacillus fermentum、Streptococcus salivarius、Streptococcus anginosus、Klebsiella pneumoniae、E. coli)をグルコースまたはグリセロール炭素源を用いて培養した。
【0105】
方法(Procedure):振盪フラスコ培養でバイオマスを得た後、50mlファルコンチューブでVOC刺激するプロトコルを確立した。ヘッドスペースバイアルでの最終的な窒素散布(sparging) およびハイスループットVOCサンプリングにより、スループットを損なうことなく必要な精度および再現性を得た(図3参照)。
【0106】
VOCの捕捉および輸送:ヘッドスペースVOCを、条件付けされた熱脱着(conditioned thermal desorption)(TD)チューブで捕捉し、50~100本のチューブのバッチでImperialにアイスパックで出荷した。TDチューブにより、室温で72時間および-20℃で4週間、ターゲットVOCを安定して保管および輸送できる。
【0107】
VOC分析:標準ガスクロマトグラフィー質量分析(TD/GC-MS)及びプロトン移動反応-飛行時間型質量分析(Proton transfer reaction time-of-flight mass-spectrometry)(TD/PTR-TOF-MS)を使用して、セントメアリーのVOC研究所で分析を行った。
【0108】
結果:すべての培養物についてサンプルを収集したところ、特定のVOCが特定の培養物で対照より2~10倍高く検出された(表4および図4参照)。データから、特定の細菌の脂肪酸、フェノール及びアルデヒドのVOCが培養液に含まれる刺激物に応答して生成することが示された。鍵となるVOCの上昇は、ペンタン酸、ヘキサン酸、酪酸、酢酸、アセトアルデヒド、ヘキサナール、オクタナール、ヘプタナール、フェノールおよびエチルフェノールであった。
【0109】
(iv)臨床研究
倫理的承認:RECリファレンス(REC Reference)(18/LO/0078)。
【0110】
仮説:癌細胞およびそれに関連する細菌は、VOCの生成に関与する規定された代謝経路内で投与された基質を利用できるであろう。このように固有の代謝経路を活用することにより、我々は、癌に関連するVOCの一時的な上昇を観察できると予想する。
【0111】
方法:食道癌または胃癌の患者および上部消化管が正常な患者を、通常の外来患者の評価時に募集した。患者は呼気サンプリングの前に一晩絶食する必要があった。研究期間開始時に、参加者に2倍の厚さのNalophan(登録商標)バッグ(double thickness Nalophan bag)(Kalle UK Ltd, 英国)に直接息を吐くように依頼して、ベースラインの呼吸サンプルを収集した。次に、参加者にOSDを消費するように依頼した。OSDの消費後、OSDの口内残留物を除去するために、参加者に口を水ですすぐように依頼した。次に、OSDを摂取してから30分及び60分後に、別の呼気サンプルを収集した。精密な手持ち型ポンプ(handheld pump)(SKC Ltd, 英国)を使用して、呼気サンプルをNalophan(登録商標)バッグから熱脱着チューブに移した。
【0112】
VOC分析:癌バイオマーカー:脂肪酸(酢酸、酪酸、ペンタン酸及びヘキサン酸) フェノール、エチルフェノールならびにアルデヒドの標的定量を目的として、呼気サンプルをPTR-TOF-MSおよびGC-MS技術で分析した。栄養刺激物の投与を検証するために、ケトーシス(エネルギー枯渇の状態)のマーカーである呼気中のアセトンを評価した。厳格な品質管理措置がとられた。
【0113】
結果:胃食道癌の患者30人および対照被検者30人を募集した。すべての参加者がOSDを消費することができ、有害事象の観察または報告はなかった。OSD摂取後、癌患者及び対照被検者双方のアセトンレベルが低下し、栄養刺激が生じたことが確認された。OSDの摂取後、癌患者のターゲットVOC(ペンタン酸、ヘキサン酸、酪酸、酢酸、フェノール、エチルフェノール)が、30および60分のVOC濃度の平均変化率で示される際のレベルでより高く検出された。酪酸(30分の時点)を除いて、対照被検者は、OSDの摂取後、ターゲットVOCレベルで10%以下の変動を示した。呼気中のヘキサン酸及びペンタン酸の平均変化率の変動を示す(表5及び図4を参照)。以前に化学放射線療法OSDを受けていた癌患者では、ペンタン酸に対する応答は、対照被検者と同様、抑制されているように見えた。
【0114】
【表5】
【0115】
データはPTR-TOF-MSで分析された呼気サンプルのものである(表3に列挙された濃度でのOSD組成:チロシン、グルタミン酸、グルコース、ラクトース、ソルビトール、グリセロール、クエン酸、酢酸。
【0116】
【表6】
【0117】
最終サンプルサイズは、症例と対照との予想される最大差に基づいて双方の時間の間の最小サンプルサイズとして選択した。本発明者らは、母集団分散推定の不正確さを調整し、同数の症例及び対照と仮定して、並行研究で2つの平均値を比較するために、第3章の式(3.31)(Julious, SA. Sample sizes for clinical trials. 2010 - Chapman and Hall)を使用した。
【0118】
脂肪酸、フェノール及びアルデヒドに属するVOCが、市販株および食道胃腺癌の患者から得られた癌組織から培養された癌関連微生物叢によって生成した。異なる微生物叢が注目すべきVOCプロファイルを作成した。表5および表6に示されるように、鍵となる上昇したVOCには、ペンタン酸、ヘキサン酸、酪酸、酢酸、ブタン酸、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、ヘキサナール、オクタナール、ヘプタナール、フェノール、メチルフェノール及びエチルフェノールがある。
【0119】
結論:予備調査から、食道癌の呼気バイオマーカーがOSDによって増強される可能性があることの「証明または原則」が示された。インビトロでの細菌培養実験の知見から、癌関連細菌が、少なくとも部分的に、ターゲットVOCで観察された変化に応答するという証拠が提供される。また、この知見から、この応答が、腸内の微生物叢を変化させることが知られている、以前の化学放射線療法によって抑制されるかもしれないことが示された。
【0120】
次に、様々な癌関連微生物叢によって生成されたVOCプロファイルの知見は、下記に使用できる:
-GC-MS定性分析用のVOC検量線を作成する、
-ハイスループットの微生物叢培養システムでOSD成分の様々な組み合わせや濃度に対する微生物叢の応答を試験する。
【0121】
要約
本発明者らは、経口刺激飲料(OSD)に応答した非癌被検者と比較した食道胃癌患者におけるVOC生成の増加を明確に示した。主要な発見としては、既知の癌関連細菌の臨床研究およびインビトロでの微生物叢の培養の双方において共通の刺激物誘導VOCが得られたことがある。したがって、複数の分析プラットフォーム(つまり、GC-MSとPTR-TOF-MS)を使用したVOC同定の一貫性により、本発明者らは結果に非常に高い信頼を寄せている。
【0122】
加えて、AMBECで発見されたVOCは、初期の非拡張呼気検査臨床試験(initial non-augmented breath test clinical studies)(Ann Surg. 2015 Dec;262(6):981-90. JAMA Oncol. 2018 May 17)で食道胃癌患者と対照患者とを区別することが判明した揮発性バイオマーカーに含まれる。これらの知見は、以前の非拡張呼吸分析研究で示されている85%よりも高い診断精度を達成するAMBECプロトコルを確立することを主な目的とするさらなる作業の基礎を提供する。
【0123】
本作業の新規性は、診断用の増強されたVOC応答を引き出すために、癌関連微生物叢を使用したことである。この新規性を実現するために、本発明者らは以下を達成した:
-癌関連微生物叢を刺激する経口飲料の製造、
-インビボで最も重要な癌依存性応答を達成するための手段として、OSDに応答する微生物叢由来培養のヘッドスペースでのVOC生成のインビトロ試験、
-OSDに応答した非癌被検者と比較した食道胃癌患者のVOCの生成の増加を示した臨床試験の実施、
-癌関連微生物叢の最適な培養および試験ならびに生成VOCの捕捉、さらにはVOCの輸送および分析のためのハイスループットシステムの技術および詳細なプロトコルの開発。このハイスループットシステムは、微生物叢拡張診断応答(microbiome augmented diagnostic responses)を探索するために、他の癌に転用可能である。
【0124】
【化1】
図1
図2
図3
図4