(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-02
(45)【発行日】2024-05-14
(54)【発明の名称】面発光レーザ装置の駆動方法および面発光レーザ装置
(51)【国際特許分類】
H01S 5/062 20060101AFI20240507BHJP
H01S 5/42 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
H01S5/062
H01S5/42
(21)【出願番号】P 2020555980
(86)(22)【出願日】2019-10-29
(86)【国際出願番号】 JP2019042341
(87)【国際公開番号】W WO2020100572
(87)【国際公開日】2020-05-22
【審査請求日】2022-10-24
(31)【優先権主張番号】P 2018215382
(32)【優先日】2018-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】316005926
【氏名又は名称】ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001357
【氏名又は名称】弁理士法人つばさ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前田 修
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 翔太
(72)【発明者】
【氏名】木村 基
(72)【発明者】
【氏名】御友 重吾
【審査官】大和田 有軌
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-209501(JP,A)
【文献】国際公開第2008/041648(WO,A1)
【文献】特開昭55-068686(JP,A)
【文献】国際公開第2018/096949(WO,A1)
【文献】特開2014-075492(JP,A)
【文献】特開2014-075479(JP,A)
【文献】特開2011-216662(JP,A)
【文献】特開2011-071330(JP,A)
【文献】特開2011-222548(JP,A)
【文献】特開2009-069663(JP,A)
【文献】特開2007-329429(JP,A)
【文献】国際公開第2006/106810(WO,A1)
【文献】特開2006-048885(JP,A)
【文献】特開平03-036777(JP,A)
【文献】米国特許第05404367(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00 - 5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
共通の基板上に配置された複数の面発光レーザが複数の区画に分けられた面発光レーザ装置の駆動方法であって、
各前記区画に対して、対応する区画内で発光対象として選択される前記面発光レーザの数と、対応する区画内で発光対象として選択される各前記面発光レーザの発光直前に、対応する区画内
の温度センサにより得られたモニタ温度とに基づいて、
光出力を矩形化するための補正電流パルスを生成し、生成した前記補正電流パルスを矩形状の基本パルスに重畳することにより、対応する区画内で発光対象として選択される各前記面発光レーザに対して連続して出力する駆動パルスを生成することと、
生成した前記駆動パルスを、対応する区画内で発光対象として選択された各前記面発光レーザに対して出力することと
を含む
面発光レーザ装置の駆動方法。
【請求項2】
前記複数の駆動パルスのパルス間隔は、msオーダである
請求項1に記載の面発光レーザ装置の駆動方法。
【請求項3】
前記モニタ温度は、前記温度センサを、各前記面発光レーザの活性層からの熱時定数が前記パルス間隔よりも短くなる位置に配置して計測される
請求項2に記載の面発光レーザ装置の駆動方法。
【請求項4】
共通の基板上に配置された複数の面発光レーザと、
前記複数の面発光レーザを駆動する駆動回路と、
前記複数の面発光レーザの発光直前のモニタ温度を計測する複数の温度センサと
を備え、
前記複数の面発光レーザは、複数の区画に分けられ、
前記複数の温度センサは、前記区画ごとに1つずつ設けられ、
前記駆動回路は、各前記区画に対して、対応する区画内で発光対象として選択される前記面発光レーザの数と、対応する区画内で発光対象として選択される各前記面発光レーザの発光直前に、対応する区画内
の温度センサにより得られたモニタ温度とに基づいて、
光出力を矩形化するための補正電流パルスを生成し、生成した前記補正電流パルスを矩形状の基本パルスに重畳することにより、対応する区画内で発光対象として選択される各前記面発光レーザに対して連続して出力する駆動パルスを生成した後、生成した前記駆動パルスを、対応する区画内で発光対象として選択された各前記面発光レーザに対して出力する
面発光レーザ装置。
【請求項5】
前記複数の駆動パルスのパルス間隔は、msオーダである
請求項4に記載の面発光レーザ装置。
【請求項6】
各前記温度センサは、対応する区画において、各前記面発光レーザの活性層からの熱時定数が前記パルス間隔よりも短くなる位置に配置される
請求項5に記載の面発光レーザ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、上面からレーザ光を出射する面発光型の半導体レーザ(以下、「面発光レーザ」と称する。)を備えた面発光レーザ装置の駆動方法、および面発光レーザを備えた面発光レーザ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、面発光レーザの分野では、同一基板上に複数の面発光レーザを形成したレーザアレイの開発が活発に行われている。このレーザアレイは、例えば、レーザプリンタや、ストラクチャードライトシステムなどの光源として利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-226746号公報
【文献】特開2014-075492号公報
【発明の概要】
【0004】
ところで、上記レーザアレイの分野では、複数の面発光レーザが同時に発光したときの熱クロストークによって、発光強度が低下してしまうという問題があった。従って、熱クロストークに起因する発光強度の低下を抑制することの可能な面発光レーザ装置の駆動方法および面発光レーザ装置を提供することが望ましい。
【0005】
本技術の一実施の形態に係る面発光レーザ装置の駆動方法は、共通の基板上に配置された複数の面発光レーザが複数の区画に分けられた面発光レーザ装置の駆動方法であって、以下の2つのステップを含んでいる。
(A)各区画に対して、対応する区画内で発光対象として選択される面発光レーザの数と、対応する区画内で発光対象として選択される各面発光レーザの発光直前に、対応する区画内の温度センサにより得られたモニタ温度とに基づいて、光出力を矩形化するための補正電流パルスを生成し、生成した補正電流パルスを矩形状の基本パルスに重畳することにより、対応する区画内で発光対象として選択される各面発光レーザに対して連続して出力する駆動パルスを生成すること
(B)生成した駆動パルスを、対応する区画内で発光対象として選択された各面発光レーザに対して出力すること
【0006】
本技術の一実施の形態に係る面発光レーザ装置は、同一基板上に配置された複数の面発光レーザと、複数の面発光レーザを駆動する駆動回路と、複数の面発光レーザの発光直前のモニタ温度を計測する複数の温度センサとを備えている。複数の面発光レーザは、複数の区画に分けられる。複数の温度センサは、区画ごとに1つずつ設けられる。駆動回路は、各区画に対して、対応する区画内で発光対象として選択される面発光レーザの数と、対応する区画内で発光対象として選択される各面発光レーザの発光直前に、対応する区画内の前記温度センサにより得られたモニタ温度とに基づいて、光出力を矩形化するための補正電流パルスを生成し、生成した補正電流パルスを矩形状の基本パルスに重畳することにより、対応する区画内で発光対象として選択される各面発光レーザに対して連続して出力する駆動パルスを生成した後、生成した駆動パルスを、対応する区画内で発光対象として選択された各面発光レーザに対して出力する。
【0007】
本技術の一実施の形態に係る面発光レーザ装置の駆動方法および面発光レーザ装置では、発光対象の面発光レーザの数と、モニタ温度とに基づいて、発光対象として選択される各面発光レーザに対して連続して出力する複数の駆動パルスが生成される。これにより、複数の面発光レーザが同時に発光したときの熱クロストークを考慮した駆動パルスが生成される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本技術の一実施の形態に係る面発光レーザ装置の平面構成例を表す図である。
【
図2】
図1のA-A線での断面構成例を表す図である。
【
図3】
図1のエミッタの断面構成例を表す図である。
【
図4】
図1の面発光レーザ装置の回路構成例を表す図である。
【
図5】
図1のレーザドライバICをプリント配線基板上に実装したときの平面構成例を表す図である。
【
図6】
図5のA-A線での断面構成例を表す図である。
【
図7】(A)全てのエミッタが発光している様子を表す図である。(B)全てのエミッタが発光しているときの補正係数を表す図である。
【
図8】(A)一部のエミッタが発光している様子を表す図である。(B)一部のエミッタが発光しているときの補正係数を表す図である。
【
図9】(A)一部のエミッタが発光している様子を表す図である。(B)一部のエミッタが発光しているときの補正係数を表す図である。
【
図10】熱時定数を用いた補正電流モデルにおけるジャンクション温度のシミュレーション結果を表す図である。
【
図11】
図10の補正電流モデルにおける時定数の一例を表す図である。
【
図12】
図10の補正電流モデルにおける光出力波形のシミュレーション結果を表す図である。
【
図13】
図10の補正電流モデルにおける補正電流のシミュレーション結果を表す図である。
【
図14】
図10の補正電流モデルにおける補正電流のシミュレーション結果を表す図である。
【
図15】
図10の補正電流モデルにおける補正電流適用後の光出力波形のシミュレーション結果を表す図である。
【
図16】
図10の補正電流モデルにおける補正収束後の光出力波形のシミュレーション結果を表す図である。
【
図17】
図10の補正電流モデルにおける第1波目の補正電流波形のシミュレーション結果を表す図である。
【
図18】
図10の補正電流モデルにおける第30波目の補正電流波形のシミュレーション結果を表す図である。
【
図19】
図10の補正電流モデルにおける第1波目の補正電流波形のシミュレーション結果を表す図である。
【
図20】
図10の補正電流モデルにおける第30波目の補正電流波形のシミュレーション結果を表す図である。
【
図21】動作時のジャンクション温度とモニタ温度の一例を表す図である。
【
図22】エミッタ数によって変化する係数の一例を表す図である。
【
図23】補正電流式を用いたときの光出力波形の一例を表す図である。
【
図24】補正電流式を用いたときの光出力波形の一例を表す図である。
【
図25】補正電流式を用いたときの補正電流パルスの補正精度の一例を表す図である。
【
図26】補正電流式を用いたときの補正電流パルスの補正精度の一例を表す図である。
【
図27】温度センサ部上にレーザチップを配置したときの平面構成例を表す図である。
【
図29】温度センサ部上にレーザチップを配置したときの平面構成例を表す図である。
【
図31】上記実施の形態に係る面発光レーザ装置の平面構成の一変形例を表す図である。
【
図32】
図31の面発光レーザ装置のA-A線での断面構成の一例を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本技術の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0010】
スマートフォンなどに搭載されるストラクチャードライト(Structured Light)方式の顔認証システムでは、人の顔に向けて照射されるドットプロジェクターの光源として、主に、マルチエミッタタイプの面発光レーザ(VCSEL)が採用されている。面発光レーザの動作は、ストラクチャードライトというアプリケーションの性格上、次の特徴を持っている。
・同時発光数 : N=数10~数100エミッタ
・光出力 : Po=数mW/エミッタ
・パルス幅 : Tpw=数ms
・パルス数 : 数10回(例えば30回程度)
【0011】
また、この顔認証システムにおけるセキュリティー対策(誤検知防止策)として、ドット投影パターンを可能な限り増やすこと、且つ、認証の組み合わせをユーザー各様にすることが有効であると言われている。これを実現するために、エミッタ(面発光レーザ)とそれを動作させるレーザドライバには、各エミッタを独立駆動させる機能が求められる。同時に発光するエミッタの数を増やせば、ドット投影の組み合わせを増やすことができる。しかし、それと同時に熱クロストークの問題が発生するので、面内の各エミッタの光出力にはムラが発生する。ここで言う「光出力のムラ」とはエミッタアレイの中央部が暗く、周辺部が明るいと言った面内分布だけでなく、msのパルス幅の中で発生するドループ現象を含んでいる。ドループ現象とは、初期の光パルスの波高値は大きいが、時間経過とともに光パルスの波高値が低下していく現象を指している。
【0012】
こういった熱による光出力の不安定化は、認証エラーを引き起こすので、動作環境が変わろうが、発光エミッタ―数や照射されるドットパターンが変わろうが、一個一個のエミッタからの光出力は一定であることが望ましい。そこで、本開示では、スマートフォンなどによる顔認証システムの高機能化を目的とした、面発光レーザの安定動作手法を提案する。
【0013】
<1.実施の形態>
[構成]
本技術の一実施の形態に係る面発光レーザ装置1について説明する。
図1は、本実施の形態に係る面発光レーザ装置1の平面構成例を表したものである。
図2は、
図1のA-A線での断面構成例を表したものである。面発光レーザ装置1は、レーザチップ10と、レーザドライバIC20とを備えている。本実施の形態では、レーザチップ10は、レーザドライバIC20上に配置されている。レーザチップ10は、例えば、後述のバンプ15を介して、レーザドライバIC20と電気的に接続されている。レーザチップ10とレーザドライバIC20との間には接合層23が設けられている。接合層23は、レーザチップ10とレーザドライバIC20とを互いに固定している。接合層23は、例えば、絶縁性を有する樹脂材料によって構成されており、レーザチップ10とレーザドライバIC20との間の間隙を埋め込むように形成されている。
【0014】
レーザチップ10は、例えば、基板14と、基板14の、レーザドライバIC20側の面に形成されたエミッタアレイ11と、基板14の、レーザドライバIC20側の面に形成された複数のバンプ15とを有している。エミッタアレイ11は、例えば、
図1、
図2に示したように、同一の基板14上に配置された複数のエミッタ12によって構成されている。複数のエミッタ12は、例えば、基板14上に行方向に等間隔で配置されるとともに、列方向にも等間隔で配置されている。なお、複数のエミッタ12は、同一の基板14上にランダムに配置されていてもよい。各エミッタ12は、積層方向にレーザ光を出射する面発光型の半導体レーザによって構成されている。本実施の形態では、各エミッタ12は、基板14を介して、レーザドライバIC20とは反対側にレーザ光を出射する。基板14は、例えば、n型半導体基板を含んで構成されている。
【0015】
各エミッタ12は、例えば、
図3に示したように、コンタクト層12A、DBR層12B、スペーサ層12C、活性層12D、スペーサ層12E、電流狭窄層12FおよびDBR層12Gを、レーザドライバIC20側から順に積層してなる柱状の垂直共振器構造となっている。なお、
図3は、
図2に記載のレーザチップ10のうち、破線で囲まれた箇所の断面構成例を表したものである。本実施の形態では、各エミッタ12は、例えば、基板14のn型半導体基板を、結晶成長基板として形成されたものである。
【0016】
コンタクト層12Aは、例えばp型Alx1Ga1-x1As(0≦x1<1)からなる。DBR層12Bは、低屈折率層(図示せず)および高屈折率層(図示せず)を交互に積層して構成されたものである。低屈折率層は例えば光学厚さがλ1/4(λ1は発振波長)のp型Alx2Ga1-x2As(0<x2<1)からなり、高屈折率層は例えば光学厚さがλ1/4のp型Alx3Ga1-x3As(0≦x3<x2)からなる。スペーサ層12Cは、例えばp型Alx4Ga1-x4As(0≦x4<1)からなる。コンタクト層12A、DBR層12Bおよびスペーサ層12Cには、例えばカーボン(C)などのp型不純物が含まれている。
【0017】
活性層12Dは、例えば、アンドープのInx5Ga1-x5As(0<x5<1)からなる井戸層(図示せず)およびアンドープのInx6Ga1-x6As(0<x6<x5)からなる障壁層(図示せず)を交互に積層してなる多重量子井戸構造となっている。なお、活性層12Dのうち電流注入領域12F-2(後述)との対向領域が発光領域となる。
【0018】
スペーサ層12Eは、例えばn型Alx7Ga1-x7As(0≦x7<1)からなる。DBR層12Gは、低屈折率層(図示せず)および高屈折率層(図示せず)を交互に積層して構成されたものである。低屈折率層は例えば光学厚さがλ1/4のn型Alx8Ga1-x8As(0<x8<1)からなり、高屈折率層は例えば光学厚さがλ1/4のn型Alx9Ga1-x9As(0≦x9<x8)からなる。DBR層12Gは、基板14に接しており、例えば、基板14のn型半導体基板と電気的に接続されている。スペーサ層12EおよびDBR層12Gには、例えばケイ素(Si)などのn型不純物が含まれている。
【0019】
電流狭窄層12Fは、電流注入領域12F-2の周辺領域に電流狭窄領域12F-1を有するものである。電流注入領域12F-2は、例えばp型Alx10Ga1-x10As(0<x10≦1)からなる。一方、電流狭窄領域12F-1は、例えば、Al2O3(酸化アルミニウム)を含んで構成され、例えば、電流狭窄層12Fに含まれる高濃度のAlを、側面から酸化することにより得られるものである。従って、電流狭窄層12Fは電流を狭窄する機能を有している。
【0020】
各エミッタ12は、さらに、例えば、
図3に示したように、コンタクト層12Aに接する電極層12Hを有している。電極層12Hは、コンタクト層12Aと電気的に接続されている。電極層12Hは、バンプ15にも接しており、バンプ15を介してレーザドライバIC20と電気的に接続されている。電極層12Hは、レーザドライバIC20内のスイッチ素子Tr1(後述)に接続されている。電極層12Hは、例えば、Ti層,Pt層およびAu層をこの順に積層して構成されたコンタクト層12H1と、Ti層,Pt層およびAu層をこの順に積層して構成されたパッド層12H2とを、コンタクト層12A側からこの順に有している。
【0021】
各エミッタ12は、さらに、例えば、
図3に示したように、エミッタ12を保護する絶縁層17,18を有している。絶縁層17は、エミッタ12の側面を覆っており、エミッタ12のうち電極層12Hと対向する部分に開口を有している。絶縁層17は、後述の接続パッド16の台座を構成する部分も覆っている。絶縁層17は、例えば、SiNによって形成されている。絶縁層18は、絶縁層17の表面に接しており、エミッタ12のうち電極層12Hと対向する部分に開口を有している。絶縁層18は、後述の接続パッド16のうち、台座の側面に形成されている部分を覆っている。絶縁層18は、例えば、SiNによって形成されている。
【0022】
レーザチップ10は、例えば、
図2、
図3に示したように、エミッタアレイ11の周囲に、接続パッド16を有している。接続パッド16は、エミッタ12内の垂直共振器構造と共通の構造を有する台座部19の、レーザドライバIC20側の面上に形成されている。接続パッド16は、台座部19の側面から基板14の表面に渡って延在しており、例えば、基板14のn型半導体基板と電気的に接続されている。つまり、接続パッド16は、基板14を介して、各エミッタのDBR層12Gと電気的に接続されている。接続パッド16は、バンプ15にも接しており、バンプ15を介してレーザドライバIC20と電気的に接続されている。接続パッド16は、例えば、レーザドライバIC20の基準電位と同電位となっている。接続パッド16は、例えば、Ti層,Pt層およびAu層をこの順に積層して構成されたパッド層16Aと、Au層からなる配線層16Bとを、台座部19側からこの順に有している。配線層16Bは、基板14と接する箇所において、例えば、AuGe層、Ni層およびAu層をこの順に積層して構成された金属層を有していてもよい。
【0023】
レーザドライバIC20は、レーザチップ10に設けられた複数のエミッタ12を独立駆動することにより、複数のエミッタ12のうちの一部、または全部を発光させる。レーザドライバIC20は、例えば、複数のエミッタ12のうち、後述のシステムコントローラ30によって選択された一部、または全部のエミッタ12を駆動する。レーザドライバIC20は、例えば、Si基板21と、Si基板21上に形成された配線層22と、Si基板21に形成された複数の温度センサ24とを有している。
【0024】
Si基板21には、レーザチップ10に設けられた複数のエミッタ12の発光・消光を行う駆動パルスPdを生成する駆動回路と、複数の温度センサ24とが形成されている。この駆動回路は、配線層22を介して、レーザチップ10(各エミッタ12)と電気的に接続されている。この駆動回路は、さらに、複数の温度センサ24とも電気的に接続されている。
【0025】
配線層22は、例えば、絶縁層22b内に、複数の金属層22aと、複数の接続パッド22cと、複数の接続パッド22dとを有している。複数の金属層22aは、Si基板21内の駆動回路と、複数の接続パッド22dとを互いに電気的に接続している。複数の金属層22aは、さらに、Si基板21内の複数の温度センサ24と電気的に接続されている。複数の接続パッド22dは、配線層22のうち、レーザチップ10と対向する位置に配置されており、レーザチップ10に設けられた複数のバンプ15と電気的に接続されている。複数の接続パッド22cは、配線層22のうち、レーザチップ10とは非対向の位置に配置されており、例えば、後述のボンディングワイヤ54と電気的に接続されている。なお、レーザチップ10とレーザドライバIC20との電気的な接続態様は、
図2の記載に限定されるものではない。
【0026】
各温度センサ24は、例えば、フォトダイオード、または、ポリシリコン抵抗によって構成されている。各温度センサ24は、Si基板21のうち、レーザチップ10と対向する位置に配置されている。各温度センサ24は、さらに、各エミッタ12の活性層12D(後述)と各温度センサ24との間の熱時定数τがパルス間隔t1(後述)よりも短くなる位置に配置されている。熱時定数τとは、例えば、各エミッタ12の活性層12Dと各温度センサ24との温度差が1/eになるのに要する時間を指している。各温度センサ24は、さらに、熱時定数τがt1-t2よりも短くなる位置に配置されている。なお、t2は発光直前に温度センサ24からモニタ温度Tsiを読み出す期間t2である。これにより、各温度センサ24は、各エミッタ12の発光直前のジャンクション温度Tj(t)(活性層温度)と等しいか、もしくはほぼ等しい温度を計測することができる。
【0027】
図4は、面発光レーザ装置1の回路構成例を表したものである。面発光レーザ装置1において、レーザチップ10は、例えば、複数のエミッタ12と、エミッタ12ごとに1つずつ設けられた複数のスイッチ素子Tr1とを有している。各スイッチ素子Tr1は、対応するエミッタ12に直列に接続されている。各スイッチ素子Tr1において、ゲートにはDAC21d(後述)が接続され、ソースにはエミッタ12が接続され、ドレインには2値(VDD,VSS)の電圧が印加される電圧線SRCが接続されている。VDDはエミッタ12に駆動電流を供給するのに必要な大きさの電圧値となっている。VSSはスイッチ素子Tr1をオフに保つのに必要な大きさの電圧値となっている。各スイッチ素子Tr1は、DAC21d(後述)からゲートに入力される駆動電流Pdと、電源線SRCからドレインに入力される電圧とによってオンオフし、それによって、対応するエミッタ12に流れる電流を制御する。
【0028】
面発光レーザ装置1において、レーザドライバIC20は、例えば、補正計算部21a、補正係数記憶部21b、タイミング生成部21c、DAC21dおよびADC21eを、上述の駆動回路として有している。
【0029】
補正計算部21aは、発光対象として選択されるエミッタ12の数Nと、発光対象として選択される各エミッタ12の発光直前のモニタ温度Tsiとに基づいて、発光後にモニタ温度Tsiとジャンクション温度Tj(t)(活性層温度)とが一致するのに必要な時間以上のパルス間隔t1で、発光対象として選択される各エミッタ12に対して連続して出力する複数の駆動パルスPcを生成する。具体的には、補正計算部21aは、後述の式に基づいて、補正電流パルスを生成し、生成した補正電流パルスを、パルス生成部40で生成された矩形状の基本電流パルスPaに重畳することにより、駆動パルスPcを生成する。補正計算部21aは、補正係数記憶部21bから入力される各種補正係数の値を用いて補正電流パルスを生成する。補正計算部21aは、各温度センサ24から入力されるモニタ温度Tsiを用いて補正電流パルスを生成する。つまり、モニタ温度Tsiは、各温度センサ24によって計測される。補正計算部21aは、生成した複数の駆動パルスPcを、パルス間隔t1で、DAC21dを介して、発光対象として選択された各エミッタ12に対して出力する。補正計算部21aは、生成した複数の駆動パルスPcを、パルス間隔t1で、アナログの駆動パルスPdに変換した上で、発光対象として選択された各エミッタ12に対して出力する。パルス間隔t1は、1ms以上999ms以下の範囲内の値(つまり、msオーダの値)であり、例えば、数十μmである。
【0030】
補正係数記憶部21bは、後述の式に用いられる各種補正係数を記憶している。補正係数記憶部21bは、システムコントローラ30から、発光させるエミッタ12の数Nが入力されると、その数Nに対応する値の各種補正係数を補正計算部21aに出力する。
【0031】
タイミング生成部21cは、温度センサ24で計測されたモニタ温度Tsiを読み出すタイミングや、電源線SRCに2値(VDD,VSS)の電圧を印加する電圧源における電圧切り換えタイミングを制御する。タイミング生成部21cは、例えば、ADC21eに対して発光直前に制御パルスPbを出力し、それにより、発光直前のデジタルのモニタ温度Tsiを補正計算部21aに出力させる。
【0032】
DAC21dは、補正計算部21aで得られたデジタルの駆動パルスPcをアナログの駆動パルスPdに変換する。DAC21dは、変換により得られたアナログの駆動パルスPdを各スイッチ素子Tr1のゲートに出力する。DAC21dは、共通の電源線SRCが接続されている各スイッチ素子Tr1のゲートに対しては、スイッチ素子Tr1ごとに生成した駆動パルスPdを出力する。
【0033】
ADC21eは、温度センサ24で計測されたアナログのモニタ温度Tsiをデジタルのモニタ温度Tsiに変換する。ADC21eは、タイミング生成部21cから入力される制御パルスPbに基づいて、モニタ温度Tsiを補正計算部21aに出力する。ADC21eは、タイミング生成部21cから入力される制御パルスPbに基づいて、発光直前のアナログのモニタ温度Tsiをデジタルのモニタ温度Tsiに変換し、補正計算部21aに出力する。
【0034】
図5は、レーザドライバIC20をプリント配線基板50上に実装したときの平面構成例を表したものである。面発光レーザ装置1において、プリント配線基板50には、例えば、レーザドライバIC20の他に、システムコントローラ30やパルス生成部40が設けられている。
図6は、
図5のA-A線での断面構成例を表したものである。レーザドライバIC20とプリント配線基板50との間には接合層53が設けられている。接合層53は、レーザドライバIC20とプリント配線基板50とを互いに固定している。接合層53は、例えば、絶縁性を有する樹脂材料によって構成されている。
【0035】
レーザドライバIC20とプリント配線基板50とは、ボンディングワイヤ54によって電気的に接続されている。ボンディングワイヤ54の一端が、レーザドライバIC20の接続パッド22cに対して半田25によって固定されており、ボンディングワイヤ54の他端が、プリント配線基板50の接続パッド51に対して半田52によって固定されている。
【0036】
図7(A)、
図8(A)、
図9(A)は、エミッタアレイ11を構成する複数のエミッタ12が9つの区画に分けられ、さらに、その区画ごとに1つずつ温度センサ24が設けられている様子を表したものである。
図7(A)には、全てのエミッタ12が発光している様子が例示されている。
図8(A)、
図9(A)には、一部のエミッタ12だけが発光している様子が例示されている。
図7(B)、
図8(B)、
図9(B)は、
図7(A)、
図8(A)、
図9(A)の区画ごとに補正係数Ckが割り当てられている様子を表したものである。補正係数Ckは、上述の駆動パルスPcを生成する際に用いられる。補正係数Ckは、例えば、区画ごとに(つまり位置に応じて)異なった値となっており、さらに、区画内で発光しているエミッタ12の数に応じて異なった値となっている。従って、補正係数Ckは、区画(位置)と、区画内で発光しているエミッタ12の数とを変数とする関数で表される。
【0037】
(電流補正アルゴリズム)
次に、レーザドライバIC20における電流補正アルゴリズムについて説明する。まず、ジャンクション温度Tj(t)(活性層温度)について説明し、その後、比較例として、熱時定数を用いた補正電流モデル(理想的な補正電流モデル)と、本実施の形態に係る補正電流モデル(簡易な補正電流モデル)とを説明する。
【0038】
図10は、ジャンクション温度Tj(t)(活性層温度)のシミュレーション結果を表したものである。
図10には、全800エミッタ(20×40、20μmピッチ)のうち、400エミッタをおおよそ等間隔に選出し、選出した400エミッタに対して、パルス幅4ms、デューティ比30%の6mAの電流パルスを印加したときのジャンクション温度Tj(t)(活性層温度)の経時変化が例示されている。
【0039】
図10に示したジャンクション温度Tj(t)(活性層温度)の変化は、熱時定数を用いて表すことが可能である。例えば、
図11に示したような複数の熱時定数を用いることにより、
図10に示したジャンクション温度Tj(t)(活性層温度)の変化を記述することができる。
【0040】
光出力は、エミッタに流す電流と、ジャンクション温度Tj(t)(活性層温度)とによって一義的に決定される。例えば、
図11に示した各熱時定数を用いた電流補正アルゴリズムにおいて、全800エミッタのうち、400エミッタに対して、パルス幅4ms、デューティ比30%の6mAの電流パルス(基本電流パルス)を印加したときの光出力Po(t)の経時変化は、例えば、
図12に表される。
【0041】
光出力を矩形化するためには、光出力の不足分を補うだけの補正電流パルスを基本電流パルスに重畳する必要がある。エミッタの構造(エピ構造やOA径)にもよるが、熱負荷が小さく単独発光する状態の場合には、6mAの電流パルスを印加したときには、光出力が4mW出力となる。従って、マルチ発光時に必要な補正電流パルスは、4mW-Po(t)/SEO(t)で表される。ここで、SEO(t)は、補正電流パルスがないときのエミッタの時刻tにおけるスロープ効率である。これを計算した結果が、
図13となる。
【0042】
図13のような補正電流パルスを基本電流パルスに重畳したものをエミッタに印加すると、補正電流パルスによって、例えば、
図14に示したように、ジャンクション温度Tj(活性層温度)がさらに上昇してしまう。このときの光出力は、
図15に矢印(a)で示したように、まだ、矩形化していない。そのため、さらに、追加の補正電流が必要となる。しかし、何度か補正電流を追加していくと、
図15に矢印(b)で示したように、光出力が矩形化する。このときの補正電流パルスは、例えば、
図16に示したようになる。
【0043】
このようにして、光出力を矩形化するための補正電流パルス(以下、「理想的な補正電流パルス」と称する。)が求められる。しかし、理想的な補正電流パルスを得るためには、膨大な計算が必要となるので、レーザドライバIC20に、そのような計算を行う回路を設けることは難しい。そのため、理想的な補正電流パルスを導出する過程を単純化することが必要となる。そこで、以下に、理想的な補正電流パルスを導出する過程を単純化する手法について説明する。
【0044】
図17、
図18は、全800エミッタ(20×40、20μmピッチ)のうち、200エミッタをおおよそ等間隔に選出し、選出した200エミッタに対して、パルス幅4ms、デューティ比30%の6mAの電流パルスを印加したときの、理想的な補正電流パルスの第1波目、第30波目の波形を示したものである。
図19、
図20は、全800エミッタ(20×40、20μmピッチ)のうち、400エミッタをおおよそ等間隔に選出し、選出した400エミッタに対して、パルス幅4ms、デューティ比30%の6mAの電流パルスを印加したときの、理想的な補正電流パルスの第1波目、第30波目の波形を示したものである。
【0045】
これらの波形は、定性的には、以下のことが言える。
1.熱時定数モデルで説明した熱時定数に近い“1-exp”で波形が変化している。
2.発光直後の時定数の小さな補正電流は、200エミッタと400エミッタとで大きな違いはない。
これは、発光初期において、周辺での発光により発生した熱がまだ伝わっていないことを意味する。
3.エミッタ数を変えたときに、主に変化するのは、時定数の大きな補正電流成分である。
4.第1波目から第30波目への変化においては、全ての時定数成分が大きくなっている。
これは、活性層温度の上昇によってより多くの補正電流が必要なことを表す。
【0046】
以上のことから、補正電流モデルは、次のように表すことができる。
【数1】
TAk:k番目の電流補正時定数
N:発光エミッタ数
Ck(N):発光エミッタ数によって補正量を変える係数
Tj:発光直前のジャンクション温度(活性層温度)
Fk(Tj):Tjによって補正量を変える係数
【0047】
上の式から分かるように補正電流は発光エミッタ―数、ジャンクション温度Tj(活性層温度)によって、その初期値が決まり、熱上昇の式と同様に、“1-exp(-t/TAk)”に従って補正電流が上昇する。
【0048】
ところで、本実施の形態では、温度センサ24は、レーザドライバIC20の表層に設置されており、各エミッタ12から温度センサ24への熱伝達時間(熱時定数)は、パルスオフ期間(パルス間隔t1)よりも小さい。従って、パルスオフの時間(パルス間隔t1)が数ms経過することで、例えば、
図21に示したように、ジャンクション温度Tj(t)(活性層温度)は、モニタ温度Tsiにまで低下する。また、80msの熱時定数の包絡線に従って緩やかにジャンクション温度Tj(t)(活性層温度)の最小値が増加していく様子がわかるが、この変化はひとつのパルスに対しては静的であるため、80msの熱時定数に従う光量変化を、補正電流式内で扱う必要はない(
図11参照)。
【0049】
筐体内温度変化についても同様に、パルス動作に対して静的であるため補正電流式に含める必要はない。結局温度に関しては、そのときの筐体内温度に関わらず、発光直前のモニタ温度Tsiが判っていれば良いということになるので、補正電流式は次の様に書き換えられる。
【数2】
【0050】
補正電流式の時定数は、熱時定数と同じか、それに近い数値になるものと考えられる。しかし、これらの時定数成分を細かく細分化するのは煩雑である。そこで、動作上考慮すべき最小の時定数をμsオーダと見なす。よって、以下で導く補正電流係数や時定数に関しては、k=1,2,3までしか扱わない。
【0051】
次に、補正電流式の係数の決定について説明する。できるだけシンプルな構成にするためにいくつかの前提をおく必要がある。まず、モニタ温度Tsiがユースケースで想定される最大温度において、以下の式のような前提をおく。そうすることで、C(N)(アクティブエミッタ―数によって変化する係数)は、熱飽和に到達した後の(ここでは第30波目以降と定義)、各時定数に対する補正電流量と言える。各Nに対して、補正電流式から導き出される数値と、上の手法で求めた理想電流波形が一致するようにパラメータを調整すると、
図22の数値が得られる。
【数3】
【0052】
上で述べたようにF(Tsi)を1に固定すると、何発目かのパルスによらず補正電流が一定になるので、熱飽和状態でのみ(後半のパルスでのみ)、矩形光波形が得られる。ジャンクション温度Tj(t)(活性層温度)が低いパルス前半部分では過補正になってしまう(
図23参照)。この問題に対し、パルス入力開始から熱飽和するまでの間の光波形を補正するのがF(Tsi)関数であり、理想補正電流に近づけるためのF(Tsi)関数は近似的に2次関数で表せる。動作中の最大温度(ここではTsi=75℃)で、すべての時定数(k=1,2,3)に対応するFk(Tsi)は1を通る放物線になっている。また、ある温度以下になるとドループは発生しなくなり、Fk(Tsi)は一定値になる。ここまでの議論をまとめると、補正電流式およびそれを構成する係数は以下のように一般化することができる。以下の式において、Fk(Tsi)を調整することで、例えば、
図24に示したような矩形光波形が得られる。
【数4】
【数5】
【0053】
[駆動方法]
このような構成の面発光レーザ装置1では、レーザドライバ1C20は、例えば、
図8、または、
図9に記載の発光プロファイルとなるよう、エミッタアレイ11に含まれる一部のエミッタ12を同時に駆動する。
【0054】
このとき、レーザドライバ1C20は、発光対象として選択されるエミッタ12の数Nと、発光対象として選択される各エミッタ12の発光直前のモニタ温度Tsiとに基づいて、発光後にモニタ温度Tsiとジャンクション温度Tj(t)(活性層温度)とが一致するのに必要な時間以上のパルス間隔t1で、発光対象として選択される各エミッタ12に対して連続して出力する複数の駆動パルスPcを生成する。具体的には、レーザドライバ1C20は、2つ前の段落に記載の式に基づいて、補正電流パルスを生成し、生成した補正電流パルスを、パルス生成部40で生成された矩形状の基本パルスPaに重畳することにより、駆動パルスPcを生成する。レーザドライバ1C20は、生成した複数の駆動パルスPcを、DAC21dを介して、パルス間隔t1で、発光対象として選択される各エミッタ12に対して出力する。レーザドライバ1C20は、生成した複数の駆動パルスPcを、アナログの複数の駆動パルスPdに変換した上で、パルス間隔t1で、発光対象として選択される各エミッタ12に対して出力する。
【0055】
[効果]
次に、本実施の形態に係る面発光レーザ装置1の効果について説明する。
【0056】
同一基板上に複数の面発光レーザを形成したレーザアレイの分野では、複数の面発光レーザが同時に発光したときの熱クロストークによって、発光強度が低下してしまうという問題があった。
【0057】
一方、本実施の形態では、発光対象のエミッタ12の数Nと、モニタ温度Tsiとに基づいて、発光対象として選択される各エミッタ12に対して連続して出力する複数の駆動パルスPdが生成される。これにより、複数のエミッタ12が同時に発光したときの熱クロストークを考慮した複数の駆動パルスPdが生成される。ここで、複数の駆動パルスPdは、発光後にモニタ温度Tsiとエミッタ12のジャンクション温度Tj(t)(活性層温度)とが一致するのに必要な時間以上のパルス間隔t1で、発光対象として選択された各エミッタ12に対して出力される。これにより、駆動パルスPdを生成する際に、1つ前の駆動パルスPdに起因する熱履歴を考慮する必要がない。また、例えば、各エミッタ12の活性層12Dからの熱時定数τがパルス間隔t1よりも短くなる位置に配置された温度センサ24によってモニタ温度Tsiを計測することで、実質的にエミッタ12のジャンクション温度Tj(t)を計測することができる。従って、正確にエミッタ12のジャンクション温度Tj(t)を計測することができる。その結果、熱クロストークに起因する発光強度の低下を抑制することができる。
【0058】
このように、各エミッタ12から出射されたレーザ光では、熱による光出力の不安定性が抑えられている。従って、例えば、各エミッタ12から出射されたレーザ光を、人の顔で反射させ、人の顔で反射された光をCMOSイメージセンサで検出することで、認証エラーの少ない安定した顔認証を行うことができる。
【0059】
また、本実施の形態において、パルス間隔t1は、msオーダである。これにより、駆動パルスPdを生成する際に、1つ前の駆動パルスPdに起因する熱履歴を考慮する必要がない。また、例えば、各エミッタ12の活性層12Dからの熱時定数τがパルス間隔t1よりも短くなる位置に配置された温度センサ24によってモニタ温度Tsiを計測することで、実質的にエミッタ12のジャンクション温度Tj(t)を計測することができる。これにより、正確にエミッタ12のジャンクション温度Tj(t)を計測することができる。従って、認証エラーの少ない安定した顔認証を行うことができる。
【0060】
また、本実施の形態において、モニタ温度Tsiは、各エミッタ12の活性層12Dからの熱時定数τがパルス間隔t1よりも短くなる位置に配置された温度センサ24によって計測される。これにより、実質的にエミッタ12のジャンクション温度Tj(t)を計測することができる。その結果、正確にエミッタ12のジャンクション温度Tj(t)を計測することができる。従って、認証エラーの少ない安定した顔認証を行うことができる。
【0061】
また、本実施の形態では、上で示した補正電流モデルがレーザドライバIC20に実装されているので、さまざまモニタ温度Tsi、さまざまな発光エミッタ―数で正しく駆動パルスPdが出力される。例えば、
図25は、レーザドライバIC20のバックサイド温度Tbsを-10℃~40℃まで変え、且つそれぞれの温度条件に対して、発光エミッタ―数を200、300、400と変えた時の光波形の補正精度を表している。横軸は一つのパルス(Pw=4ms/Duty30%)に注目した時の時間を示しており、縦軸は、理想的な光出力4mWに対する誤差を示している。この図が示すとおり、モニタ温度Tsiがどんなに変わろうと、また発光エミッタ―数が変わろうと、補正電流精度は2%程度に抑えられていることがわかる。また、
図26は、同様の評価を周辺部のエミッタ12に対して行った結果である。微調整したのはCk(N)のパラメータだけであるが、同様に補正精度は2%程度に抑えられている。従って、どのような温度環境下であろうと、どのような発光エミッタ―数が設定されようと、認証エラーの少ない安定した顔認証を行うことができる。
【0062】
<2.変形例>
次に、上記実施の形態に係る面発光レーザ装置1の変形例について説明する。
【0063】
[変形例A]
図27は、温度センサ部60上にレーザチップ10を配置したときの平面構成例を表したものである。
図28は、
図27のA-A線での断面構成例を表したものである。上記実施の形態に係る面発光レーザ装置1において、例えば、
図27、
図28に示したように、レーザドライバIC20の代わりに、温度センサ部60上にレーザチップ10が配置されていてもよい。このとき、レーザドライバIC20は、プリント配線基板50の表面のうち、レーザチップ10とは非対向の位置に実装されている。温度センサ部60は、例えば、Si基板61と、Si基板61上に設けられた配線層62とを有している。Si基板61には、複数の温度センサ24が形成されている。配線層62は、上記実施の形態に係る配線層22と同様の構成を有している。
【0064】
各温度センサ24は、Si基板61のうち、レーザチップ10と対向する位置に配置されている。各温度センサ24は、さらに、各エミッタ12の活性層12Dと各温度センサ24との間の熱時定数τがパルス間隔t1よりも短くなる位置に配置されている。各温度センサ24は、さらに、熱時定数τがt1-t2よりも短くなる位置に配置されている。従って、本変形例に係る面発光レーザ装置1では、上記実施の形態と同様の効果が得られる。
【0065】
[変形例B]
図29は、温度センサ部70上にレーザチップ10を配置したときの平面構成例を表したものである。
図30は、
図29のA-A線での断面構成例を表したものである。上記実施の形態に係る面発光レーザ装置1において、例えば、
図29、
図30に示したように、レーザドライバIC20の代わりに、温度センサ部70上にレーザチップ10が配置されていてもよい。このとき、レーザドライバIC20は、プリント配線基板50の表面のうち、レーザチップ10とは非対向の位置に実装されている。温度センサ部70は、例えば、ヒートシンク71(構造物)と、ヒートシンク71上に設けられた配線層72とを有している。配線層72には、複数の温度センサ24が形成されている。各温度センサ24は、例えば、サーミスタなどの温度デバイスによって構成されている。
【0066】
各温度センサ24は、配線層72のうち、レーザチップ10と対向する位置に配置されている。各温度センサ24は、さらに、各エミッタ12の活性層12Dと各温度センサ24との間の熱時定数τがパルス間隔t1よりも短くなる位置に配置されている。各温度センサ24は、さらに、熱時定数τがt1-t2よりも短くなる位置に配置されている。従って、本変形例に係る面発光レーザ装置1では、上記実施の形態と同様の効果が得られる。
【0067】
[変形例C]
図31は、第1の実施の形態に係る面発光レーザ装置1の平面構成の一変形例を表したものである。
図32は、
図31のA-A線での断面構成例を表したものである。
【0068】
第1の実施の形態では、エミッタアレイ11は、基板14の、プリント配線基板50側の面に形成されていた。しかし、例えば、
図32に示したように、エミッタアレイ11は、基板14の、プリント配線基板50とは反対側の面に形成されていてもよい。このとき、レーザチップ10は、プリント配線基板50上に実装されていてもよい。このとき、レーザチップ10は、例えば、
図32に示したように、接合層55によってプリント配線基板50に固定されている。接合層55は、例えば、導電性の半田によって構成されている。この場合、基板14のn型半導体基板は、例えば、プリント配線基板50を介して、レーザドライバIC20の基準電位と同電位となっている。
【0069】
本変形例では、各エミッタ12は、例えば、
図33に示したように、コンタクト層12A、DBR層12B、スペーサ層12C、活性層12D、スペーサ層12E、電流狭窄層12F、DBR層12Gおよびコンタクト層12Jをこの順に積層してなる柱状の垂直共振器構造となっている。本変形例では、各エミッタ12は、例えば、別途用意した半導体基板上での結晶成長により上記垂直共振器構造を形成したものから半導体基板を除去したものである。コンタクト層12Aは、例えば、基板14のn型半導体基板と電気的に接続されている。
【0070】
各エミッタ12は、さらに、例えば、
図33に示したように、コンタクト層12Jの上面に環状の電極層12Kを有している。各エミッタ12は、コンタクト層12Jの上面のうち、電極層12Kの開口内に露出している箇所から、レーザ光を出射する。電極層12Kは、例えば、Ti層,Pt層およびAu層をこの順に積層して構成されたものであり、コンタクト層12Jと電気的に接続されている。電極層12Kは、例えば、金属配線を介して、接続パッド26に接続されている。接続パッド26、および接続パッド26に接続された金属配線は、基板14の、プリント配線基板50とは反対側の面に形成されており、基板14のn型半導体基板とは絶縁分離されている。接続パッド26は、例えば、ボンディングワイヤ27に接続されている。ボンディングワイヤ27の一端は、接続パッド26に接続されており、ボンディングワイヤ27の他端は、レーザドライバIC20に設けられた接続パッド22Cに接続されている。電極層12Kは、レーザドライバIC20内のスイッチ素子Tr1に接続されている。
【0071】
本変形例では、1または複数の温度センサ24がレーザチップ10に設けられている。1または複数の温度センサ24は、例えば、フォトダイオード、または、ポリシリコン抵抗によって構成されている。1または複数の温度センサ24は、例えば、基板14の、プリント配線基板50とは反対側の面に形成されている。1または複数の温度センサ24は、例えば、基板14の、プリント配線基板50とは反対側の面のうち、エミッタアレイ11の周囲に配置されている。なお、1または複数の温度センサ24は、基板14の、プリント配線基板50とは反対側の面のうち、エミッタアレイ11の内部に配置されていてもよい。1または複数の温度センサ24は、例えば、金属配線を介して、接続パッド26に接続されている。
【0072】
1または複数の温度センサ24は、各エミッタ12の活性層12Dと温度センサ24との間の熱時定数τがパルス間隔t1よりも短くなる位置に配置されている。熱時定数τとは、例えば、各エミッタ12の活性層12Dと1または複数の温度センサ24との温度差が1/eになるのに要する時間を指している。1または複数の温度センサ24は、さらに、熱時定数τがt1-t2よりも短くなる位置に配置されている。なお、t2は発光直前に温度センサ24からモニタ温度Tsiを読み出す期間t2である。これにより、1または複数の温度センサ24は、各エミッタ12の発光直前のジャンクション温度Tj(t)(活性層温度)と等しいか、もしくはほぼ等しい温度を計測することができる。
【0073】
本変形例では、エミッタアレイ11の配置変更に伴って、エミッタアレイ11と温度センサ24との位置関係が、熱時定数τの観点で上記の実施の形態と同様の位置関係になるように、温度センサ24の配置が変更されている。また、本変形例では、各エミッタ12を独立駆動させることができるように、各エミッタ12の構成や、各エミッタ12とレーザドライバIC20との接続態様が変更されている。従って、本変形例では、上記の実施の形態と同様の効果が得られる。
【0074】
[変形例D]
上記実施の形態およびその変形例に係る面発光レーザ装置1では、エミッタアレイ11を構成する複数のエミッタ12が9つの区画に分けられていたが、複数のエミッタ12を区画する数は、9つに限定されるものではない。また、上記実施の形態およびその変形例に係る面発光レーザ装置1では、区画ごとに1つずつ温度センサ24が設けられていたが、温度センサ24が面発光レーザ装置1に対して1つだけ設けられていてもよい。この場合、レーザドライバIC20、温度センサ部60および温度センサ部70のうち、エミッタアレイ11と対向する箇所の温度が、電流補正において無視できるほどに均一になっていることが好ましい。
【0075】
以上、実施の形態を挙げて本技術を説明したが、本技術は上記実施の形態に限定されるものではなく、種々変形が可能である。なお、本明細書中に記載された効果は、あくまで例示である。本技術の効果は、本明細書中に記載された効果に限定されるものではない。本技術が、本明細書中に記載された効果以外の効果を持っていてもよい。
【0076】
また、例えば、本技術は以下のような構成を取ることができる。
(1)
同一基板上に配置された複数の面発光レーザのうち、発光対象として選択される前記面発光レーザの数と、発光対象として選択される各前記面発光レーザの発光直前のモニタ温度とに基づいて、発光対象として選択される各前記面発光レーザに対して連続して出力する複数の駆動パルスを生成することと、
生成した複数の前記駆動パルスを、発光対象として選択された各前記面発光レーザに対して出力することと
を含む
面発光レーザの駆動方法。
(2)
前記複数の駆動パルスのパルス間隔は、msオーダである
(1)に記載の面発光レーザの駆動方法。
(3)
前記モニタ温度は、各前記面発光レーザの活性層からの熱時定数が前記パルス間隔よりも短くなる位置に配置された温度センサによって計測される
(1)または(2)に記載の面発光レーザの駆動方法。
(4)
同一基板上に配置された複数の面発光レーザと、
前記複数の面発光レーザを駆動する駆動回路と
を備え、
前記駆動回路は、前記複数の面発光レーザのうち、発光対象として選択される前記面発光レーザの数と、発光対象として選択される各前記面発光レーザの発光直前のモニタ温度とに基づいて、発光対象として選択される各前記面発光レーザに対して連続して出力する複数の駆動パルスを生成した後、生成した複数の前記駆動パルスを、発光対象として選択された各前記面発光レーザに対して出力する
面発光レーザ装置。
(5)
前記複数の駆動パルスのパルス間隔は、msオーダである
(4)に記載の面発光レーザ装置。
(6)
各前記面発光レーザの活性層からの熱時定数が前記パルス間隔よりも短くなる位置に配置され、前記モニタ温度を計測する温度センサを更に備えた
(4)または(5)に記載の面発光レーザ装置。
【0077】
本技術の一実施の形態に係る面発光レーザの駆動方法および面発光レーザ装置によれば、発光対象の面発光レーザの数と、モニタ温度とに基づいて、発光対象として選択される各面発光レーザに対して連続して出力する複数の駆動パルスを生成するようにしたので、熱クロストークに起因する発光強度の低下を抑制することができる。なお、本開示の効果は、ここに記載された効果に必ずしも限定されず、本明細書中に記載されたいずれの効果であってもよい。
【0078】
本出願は、日本国特許庁において2018年11月16日に出願された日本特許出願番号第2018-215382号を基礎として優先権を主張するものであり、この出願のすべての内容を参照によって本出願に援用する。
【0079】
当業者であれば、設計上の要件や他の要因に応じて、種々の修正、コンビネーション、サブコンビネーション、および変更を想到し得るが、それらは添付の請求の範囲やその均等物の範囲に含まれるものであることが理解される。