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特許7482793放射性医薬品用のソマトスタチンアナログを含む組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-02
(45)【発行日】2024-05-14
(54)【発明の名称】放射性医薬品用のソマトスタチンアナログを含む組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/08 20190101AFI20240507BHJP
   A61K 51/08 20060101ALI20240507BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20240507BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20240507BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20240507BHJP
   A61K 47/54 20170101ALI20240507BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20240507BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20240507BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240507BHJP
   A61K 103/30 20060101ALN20240507BHJP
【FI】
A61K38/08
A61K51/08 100
A61K47/18
A61K47/22
A61K47/26
A61K47/54
A61K9/08
A61K9/19
A61P35/00
A61K103:30
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2020570842
(86)(22)【出願日】2019-06-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-10-14
(86)【国際出願番号】 EP2019066327
(87)【国際公開番号】W WO2019243487
(87)【国際公開日】2019-12-26
【審査請求日】2022-06-17
(31)【優先権主張番号】18179054.4
(32)【優先日】2018-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】522184453
【氏名又は名称】アリセウム セラピューティクス ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Ariceum Therapeutics GmbH
【住所又は居所原語表記】Robert-Rossle-Str.10,Building 79,13125 Berlin, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100157956
【弁理士】
【氏名又は名称】稲井 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【弁理士】
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(74)【代理人】
【識別番号】100221545
【弁理士】
【氏名又は名称】白江 雄介
(72)【発明者】
【氏名】ロマン・ベジョー
(72)【発明者】
【氏名】ビラル・カラウィ
(72)【発明者】
【氏名】ディディエ・クビアック
(72)【発明者】
【氏名】アンヌ-クレール・ル・マール
(72)【発明者】
【氏名】ディディエ・ヌーリッソン
(72)【発明者】
【氏名】アンヌ・プティ
(72)【発明者】
【氏名】ジョエル・リシャール
(72)【発明者】
【氏名】カミーユ・トゥリス
【審査官】池上 文緒
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-506943(JP,A)
【文献】国際公開第2016/077061(WO,A2)
【文献】特開平08-081498(JP,A)
【文献】J. Nucl. Med. (2012) vol.53, issue 9, p.1481-1489
【文献】Appl. Radiat. Isot. (1997) vol.48, no.3, p.305-309
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/08
A61K 51/08
A61K 47/22
A61K 47/18
A61K 47/26
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
受容体選択的ソマトスタチンペプチドアンタゴニスト組成物であって、
(i)次式のDOTA-ペプチド:
【化1】
又はその塩、
(ii)酸化防止剤、及び
(iii)増量剤であって、増量剤がアルギニンである、増量剤
を含む組成物。
【請求項2】
前記組成物が
(i)DOTA-ペプチド又はその塩、
(ii)酸化防止剤、
(iii)増量剤、
(iv)緩衝剤、及び
(v)界面活性剤
を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
DOTA-ペプチドに対する酸化防止剤の重量比が少なくとも20であり、より好ましくは20~60から構成され、有利には30~50から構成される、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の組成物であって、
記酸化防止剤がアスコルビン酸又はその塩から選択され、そして前記組成物が界面活性剤をさらに含み、前記界面活性剤がポリソルベートである、
前記組成物。
【請求項5】
前記組成物が凍結乾燥形態である、請求項1~4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
前記DOTA-ペプチドが塩の形態であり、前記組成物の総重量に対して0.10重量%~3.00重量%の範囲、好ましくは0.50重量%~2.50重量%の範囲、さらに好ましくは1.00重量%~2.00重量%の範囲で存在する、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記酸化防止剤が前記組成物の総重量に対して40重量%~70重量%の範囲、好ましくは45重量%~65重量%の範囲、より好ましくは50重量%~60重量%の範囲で存在する、請求項5又は6に記載の組成物。
【請求項8】
前記酸化防止剤がアスコルビン酸である、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記アルギニンが前記組成物の総重量に対して25重量%~55重量%の範囲、好ましくは30重量%~50重量%の範囲、より好ましくは35重量%~45重量%の範囲で存在する、請求項5~8のいずれかに記載の組成物。
【請求項10】
前記界面活性剤が前記組成物の総重量に対して0.01重量%~0.10重量%の範囲、好ましくは0.02重量%~0.08重量%の範囲で存在する、請求項5~のいずれかに記載の組成物。
【請求項11】
前記界面活性剤がポリソルベート80である、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記組成物が、
(i)0.10重量%~3.00重量%の範囲のDOTA-ペプチド酢酸塩、
(ii)40重量%~70重量%の範囲のアスコルビン酸、
(iii)25重量%~55重量%の範囲のアルギニン、及び
(iv)0.01重量%~0.10重量%の範囲のポリソルベート
を含み、ここで、DOTA-ペプチド酢酸塩、アスコルビン酸、アルギニン及びポリソルベートは、合わせて、前記凍結乾燥組成物の総重量の少なくとも98%を占める、請求項5~11のいずれかに記載の組成物。
【請求項13】
前記組成物が水性液体形態である、請求項1~4のいずれかに記載の組成物。
【請求項14】
前記組成物が、
塩の形態のDOTA-ペプチド、
(i)アスコルビン酸、
(ii)アルギニン、
(iii)ポリソルベート、及び
(iv)注射用水
を含む、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
前記塩形態のDOTA-ペプチドが0.1~2.0mg/mLの濃度、好ましくは0.25~1.75mg/mLの濃度、より好ましくは0.5~1.5mg/mLの濃度、さらに好ましくは0.75~1.25mg/mLの濃度である、請求項13又は14に記載の組成物。
【請求項16】
前記組成物が放射性標識組成物である、請求項1~4のいずれかに記載の組成物。
【請求項17】
前記組成物が、
(i)177Lu3+放射性標識DOTA-ペプチド、
(ii)アスコルビン酸とその塩、
(iii)アルギニン、
(iv)ポリソルベート、DTPA、及び
(v)注射用水
を含む、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
放射性医薬品組成物を製造するためのキットであって、請求項1~15のいずれかに記載の組成物、好ましくは請求項5~12のいずれかに記載の凍結乾燥組成物を含有する少なくとも1個の適切な容器を含むキット。
【請求項19】
前記キットが、
(i)請求項5~12のいずれかに記載の凍結乾燥組成物を含有する第1バイアル、及び
(ii)酸化防止剤を含む滅菌安定化溶液を含有する第2バイアル
を含む、請求項18に記載のキット。
【請求項20】
前記滅菌安定化溶液が、注射用水、アスコルビン酸ナトリウム、DTPA及びポリソルベート80を含む、請求項19に記載のキット。
【請求項21】
哺乳動物の腫瘍、好ましくは神経内分泌腫瘍(NET)、特に胃腸膵臓神経内分泌腫瘍(GEP NET)又は前立腺癌、乳癌、肺癌若しくはリンパ腫の腫瘍などのSSTR2受容体陽性腫瘍を治療するために使用される、請求項16又は17に記載の放射性標識組成物。
【請求項22】
ヒトの体内のSSTR2受容体陽性腫瘍の治療のための医薬の製造のための、請求項16又は17に記載の放射性標識組成物の使用であって、前記治療することは、有効量の前記放射性標識組成物を前記ヒトに投与することを含む、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性医薬品用途、特に診断用又は治療用のソマトスタチンアナログ組成物に関する。特に、ソマトスタチンアナログは、受容体選択的ソマトスタチンペプチドアンタゴニストである。
【背景技術】
【0002】
環状テトラデカペプチドソマトスタチン-14(SRIF)は複数の細胞プロセスに影響を及ぼすものであり、また、所定の腫瘍の増殖を阻害することも知られている。SRIFは、膜に結合した構造的に類似する受容体のファミリーと相互作用することによって、その生物学的効果を誘導する。クローン化されかつSSTR1-5と呼ばれる5種のSRIF受容体のうち、SSTR2は成長ホルモン、グルカゴン、胃酸分泌の阻害を仲介すると考えられている。ソマトスタチン受容体は、特に胃腸管の神経内分泌腫瘍において病理学的状態で発現し、試験管内結合法又は生体内イメージング技術を使用して同定できる。この生体内イメージング技術は、患者における腫瘍及びそれらの転移の正確な局在化を可能にする。胃腸膵臓腫瘍内のソマトスタチン受容体は機能的であるため、それらの同定を使用して、患者において過剰なホルモン放出を阻害するアナログの治療効果を評価することができる。
【0003】
SSTR2選択性が高くかつソマトスタチンのアンタゴニストであるが、SSTR2受容体を有する細胞には内在化されていないソマトスタチンペプチドアナログの部類が国際公開第2008/048942号に記載されている。このようなペプチドは、受容体を活性化することなくクローン化SSTR2に選択的に結合し、これらのペプチド類似体は、ヨウ素化その他の方法で放射性標識された場合には、望ましい生物学的特性を保持する。したがって、これらのペプチドは、受容体SSTR2の組織での位置及び細胞発現を決定するのに有用である。
【0004】
したがって、これらのペプチドは容易に放射性標識できるため、薬物スクリーニング、イメージング、診断、及び/又は放射性核種療法で効果的に使用できる。例えば、治療用放射性核種を運ぶこれらのペプチドは、放射線療法、特に神経内分泌腫瘍の治療に有用である。
【0005】
しかしながら、当該ペプチドには適切な製剤が必要である。特に、投与前に当該ペプチドの放射性核種による効率的な放射性標識も可能にする、貯蔵及び発送の取り扱いをするために貯蔵寿命の長い製剤が必要である。放射性核種からの放射線放射による放射線分解にもかかわらず、当該ペプチドが放射性標識後に安定な状態を維持することができる製剤も必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2008/048942号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本出願人は、放射性標識の前後(すなわち、放射性核種の錯化後)に当該ペプチドを安定な状態に維持することができる、キレート剤と結合した当該ペプチドを含む製剤を見出した。放射性標識後の製剤の役割は、放射性核種の放射性崩壊によって引き起こされる劣化を最小限に抑えることである。
【0008】
本発明において、「安定」とは、ペプチド中の含有量が経時的に維持されることを意味する。放射性標識の前に、当該製剤は、ペプチドが適切な貯蔵条件下で少なくとも3ヶ月、好ましくは少なくとも12ヶ月間安定な状態を維持することを可能にする。放射性標識後に、当該製剤は、ペプチドが適切な保存条件下で少なくとも7日間安定した状態を維持することを可能にする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、放射性医薬品用の組成物であって、少なくとも1種の受容体選択的ソマトスタチンペプチドアンタゴニスト、特に以下に示されるアミノ酸配列を有するペプチド(INN:サトレオチド)を含む組成物に関する:
【化1】
【0010】
このペプチドは、そのN末端でキレート剤、特にキレート剤DOTA(1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸)と直接結合できる。一般に、DOTA-ペプチドのパーセンテージ又は濃度が示されている場合には、製剤において塩の形態であっても、その値は同等の遊離塩基として示される。
【0011】
キレート剤DOTAとN末端で結合したペプチド(以下「DOTA-ペプチド」、INN:サトレオチドテトラキセタンという)は、次の構造を有する:
【化2】
DOTA-ペプチドは、塩又は遊離塩基の形態であることができる。
【0012】
DOTA-ペプチドは、放射性標識化合物の前駆体として使用できるため、177Lu3+陽イオンなどの適切な放射性核種とさらに錯体形成又は結合できる。
【0013】
本発明は、受容体選択的ソマトスタチンペプチドアンタゴニスト組成物を提供し、該組成物は、次のものを含む:
・DOTA-ペプチド、又はその塩、及び
・酸化防止剤、及び
・増量剤。
【0014】
より好ましくは、本発明の組成物は、次のものを含む:
・DOTA-ペプチド、又はその塩、
・酸化防止剤、
・増量剤、
・緩衝剤、及び
・界面活性剤。
本発明の組成物において、増量剤は、緩衝特性も有することが好ましい。すなわち、増量剤及び緩衝剤は、好ましくは同じ賦形剤である。アルギニン、リジン、ヒスチジンなどの塩基性アミノ酸は、同時に増量剤と緩衝剤である場合に好適である。
本発明の組成物において、酸化防止剤は緩衝特性も有することができる。これは特にアスコルビン酸又はその塩の場合である。
【0015】
特に明記しない限り、以下の定義は、本明細書で本発明を説明するために使用される様々な用語の意味及び範囲を説明及び定義するために示される。
【0016】
特に明記しない限り、本発明で言及される全てのパーセンテージは、重量%(w/w)である。
【0017】
用語「有効成分」とは、最終的に放射性核種と錯体形成する(すなわち、放射性標識される)上記DOTA-ペプチド化合物をいう。
【0018】
用語「酸化防止剤」とは、特に放射線放射下で、活性成分及び/又は賦形剤の酸化還元プロセスなどの酸化分解反応を防止するために抗酸化特性を有する化合物を意味する。特に、水の放射線分解から生じる酸素含有フリーラジカルなどの反応性の高いフリーラジカルを捕捉するフリーラジカルスカベンジャーである。
【0019】
本明細書で使用するときに、用語「増量剤」とは、凍結乾燥プロセス中の材料の取り扱いを容易にし、規則的な表面を有する固体ケークの形成を可能にする化合物又は賦形剤をいう。
【0020】
本明細書で使用するときに、用語「界面活性剤」とは、有効成分の水溶性を改善し、固体表面及び界面での吸着を制限し、有効成分を分解から保護するのを助け、及び/又は試験管内での有効成分の沈殿を制限するために主として本発明の組成物で使用される、表面活性特性を有する化合物又は賦形剤をいう。
【0021】
本明細書で使用するときに、用語「緩衝剤」とは、弱酸又は弱塩基であって、別の酸又は塩基の添加後に溶液のpHを選択された値の近くに維持するために使用されるものをいう。緩衝剤の機能は、放射性核種の酸性水溶液を放射性標識プロセス中にDOTA-ペプチドの溶液に添加した場合など、酸又は塩基を溶液に添加したときや希釈時にpHの急激な変化を防ぐことである。また、緩衝剤は、組成物のpHを適切な範囲に維持して安定性を確保し、処理及び貯蔵中にDOTA-ペプチドが分解するのを回避する。
【0022】
本明細書で使用するときに、用語「緩衝液」とは、弱酸とその共役塩基(又はその逆)との混合物を含む水溶液をいう。緩衝液に少量の強酸又は強塩基を加えても、緩衝液のpHはほとんど変化しない。凍結乾燥すると、緩衝液は緩衝剤又は緩衝剤系を生じる。
【0023】
本明細書で使用するときに、用語「等張化剤」とは、緩衝液に浸透圧を付与する等張改変剤又は浸透圧調整剤(又は浸透圧調節剤)をいう。浸透圧とは、イオン及び非イオン化分子が溶液に与える総浸透圧活性をいう。
【0024】
本明細書で使用するときに、用語「可溶化剤」とは、有効成分の溶媒への、特に水への溶解度を与える又は増加させるために使用される医薬賦形剤を意味する。
【0025】
酸化防止剤は、酸化防止剤又はそれらの混合物とすることができる。酸化防止剤は、アスコルビン酸又はその塩、ゲンチジン酸又はその塩、メチオニン、レチノール、又はエタノールから選択できる。好ましい実施形態では、酸化防止剤は、アスコルビン酸又はその塩、及びメチオニンから選択される。より好ましくは、酸化防止剤はアスコルビン酸又はその塩である。
【0026】
増量剤は、増量剤又はその混合物とすることができる。増量剤は、マンニトールなどの糖ポリオール;ショ糖、トレハロース又はマルトースなどの二糖類;デキストランなどの多糖類;シクロデキストリン;グリシン、アルギニン、リジン、ヒスチジンなどのアミノ酸;及びそれらの混合物から選択できる。好ましい実施形態では、増量剤は、アルギニン、リジン又はヒスチジンなどの塩基性アミノ酸であり、より好ましくはアルギニンである。
【0027】
等張化剤は、等張化剤又はその混合物とすることができる。等張化剤は、塩化ナトリウム及び塩化カリウムなどの無機塩、マンニトール、デキストロース、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール、グリシン、グリセロール及びそれらの混合物から選択できる。
【0028】
可溶化剤は、可溶化剤又はそれらの混合物とすることができる。可溶化剤は、ポリエチレングリコール、特にポリエチレングリコール300又はポリエチレングリコール400、エタノール、プロピレングリコール、グリセリン、ポリソルベート、特にポリソルベート20又はポリソルベート80及びそれらの混合物から選択できる。
【0029】
界面活性剤は、界面活性剤又はその混合物とすることができる。好ましくは、界面活性剤は非イオン性界面活性剤である。界面活性剤は、ポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60、ポリソルベート80、又はそれらの混合物などのポリソルベート;ポロキサマー188又はその混合物などのポロキサマーから選択できる。好ましい実施形態では、界面活性剤は、脂肪酸のエトキシル化ソルビタンエステルとも呼ばれるポリソルベートである。より好ましくは、界面活性剤は、ポリソルベート80(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート)である。
【0030】
本発明に使用できるDOTA-ペプチドの塩は、好ましくは、酢酸、フマル酸、グルコン酸、アルギン酸、マレイン酸、クエン酸、リンゴ酸、パモ酸、アスコルビン酸、コハク酸、酒石酸、又は安息香酸などの有機酸の薬学的に許容される塩、又は塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、又はリン酸などの無機酸の薬学的に許容される塩である。好ましい実施形態において、DOTA-ペプチドは塩の形態であり、好ましくはDOTA-ペプチド酢酸塩である。
【0031】
用語「放射性医薬品」とは、核医学の当業者に周知の用語であり、悪性疾患の検出又は治療に適した放出を有する放射性核種を含む任意の化学的又は生物学的薬剤をいう。放射性医薬品は、生体内イメージング又は放射線療法、好ましくは受容体標的放射線療法に使用できる。
【0032】
本発明の組成物は、好ましくは医薬組成物であり、これは、本明細書に記載の賦形剤及び塩が生体適合性の賦形剤及び生体適合性の塩であることを意味する。
【0033】
好ましくは、本発明の組成物は、次のものを含む:
・DOTA-ペプチド、又はその塩、
・アスコルビン酸又はその塩から選択される酸化防止剤;
・アルギニン及びヒスチジンから選択される増量剤、及び
・ポリソルベートから選択される界面活性剤。
上記の組成物において、増量剤は同時に緩衝剤でもある。
【0034】
より好ましくは、本発明の組成物は、次のものを含む:
・DOTA-ペプチド、又はその塩、
・アスコルビン酸又はその塩から選択される酸化防止剤、
・アルギニンである増量剤、及び
・ポリソルベートから選択される界面活性剤。
【0035】
好ましくは、本発明の組成物において、DOTA-ペプチドに対する酸化防止剤の重量比は、少なくとも20であり、より好ましくは、20~60、有利には、30~50から構成される。
【0036】
好ましくは、本発明の組成物において、DOTA-ペプチドに対する増量剤の重量比は、少なくとも15であり、より好ましくは15~45、有利には20~35から構成される。
【0037】
凍結乾燥組成物
第1の実施形態によれば、本発明に係る組成物は凍結乾燥形態であり、これを「凍結乾燥組成物(I)」ともいう。
【0038】
この実施形態に係る凍結乾燥組成物(I)は、凍結乾燥組成物の総重量に対して5重量%未満、好ましくは4重量%未満、好ましくは3重量%未満、好ましくは2重量%未満、好ましくは1重量%未満の水を含む。
【0039】
放射性医薬品にすぐに使用できる放射性標識製剤を得るために、この実施形態に係る凍結乾燥組成物(I)は、溶液状の放射性核種を添加する前に、適切な再構成溶液(水又は緩衝液など)で再構成できる。
【0040】
好ましくは、この第1の実施形態によれば、本発明の凍結乾燥組成物(I)は、次のものを含む:
・塩の形態のDOTA-ペプチド、
・アスコルビン酸又はその塩、
・アルギニン、及び
・ポリソルベート。
【0041】
好ましくは、凍結乾燥組成物(I)において、DOTA-ペプチドは塩の形態であり、組成物の総重量に対して0.10重量%~3.00重量%の範囲、好ましくは0.50重量%~2.50重量%の範囲、より好ましくは、1.00重量%~2.00重量%の範囲で存在する。
【0042】
好ましくは、塩の形態のDOTA-ペプチドは、組成物の総重量に対して1.20重量%~1.60重量%の範囲で存在する。
【0043】
好ましくは、DOTA-ペプチドは酢酸塩であり、組成物の総重量に対して1.20重量%~1.60重量%の範囲で凍結乾燥組成物(I)中に存在する。
【0044】
好ましくは、凍結乾燥組成物(I)は、組成物の総重量に対して40重量%~70重量%の範囲、好ましくは45重量%~65重量%の範囲、より好ましくは50重量%~60重量%の範囲で存在する酸化防止剤を含む。
【0045】
好ましくは、凍結乾燥組成物(I)は、組成物の総重量に対して40重量%~70重量%の範囲、好ましくは45重量%~65重量%の範囲、より好ましくは50重量%~60重量%の範囲で存在するアスコルビン酸を含む。
【0046】
好ましくは、凍結乾燥組成物(I)は、組成物の総重量に対して25重量%~55重量%の範囲、好ましくは30重量%~50重量%の範囲、より好ましくは35重量%~45重量%の範囲で存在する増量剤を含む。
【0047】
好ましくは、凍結乾燥組成物(I)は、組成物の総重量に対して25重量%~55重量%の範囲、好ましくは30重量%~50重量%の範囲、より好ましくは35重量%~45重量%のアルギニンを含む。
【0048】
より好ましくは、アルギニンは、組成物の総重量に対して37重量%~43重量%の範囲で存在する。
【0049】
好ましくは、凍結乾燥組成物(I)は、組成物の総重量に対して0.01重量%~0.10重量%の範囲、好ましくは0.02重量%~0.08重量%の範囲で存在する界面活性剤を含む。
【0050】
好ましくは、凍結乾燥組成物(I)は、組成物の総重量に対して0.01重量%~0.10重量%の範囲、好ましくは0.02重量%~0.08重量%の範囲で存在するポリソルベートを含む。
【0051】
より好ましくは、ポリソルベートは、組成物の総重量に対して0.05重量%~0.07重量%の範囲で存在し、より好ましくは、ポリソルベートは、ポリソルベート80である。
【0052】
好ましくは、DOTA-ペプチド、酸化防止剤、増量剤及び界面活性剤は、合わせて、凍結乾燥組成物(I)の総重量の少なくとも95重量%、好ましくは少なくとも98重量%、より好ましくは少なくとも99重量%を占める。
【0053】
好ましくは、本発明の凍結乾燥組成物(I)において、酸化防止剤に対するDOTA-ペプチドの重量比は、1:100~1:10、より好ましくは1:80~1:20、さらに好ましくは1:60~1:30から構成される。
【0054】
この比率により、組成物が放射性標識されているときに放射線分解に対するDOTA-ペプチドの効率的な保護が可能になる。
【0055】
好ましくは、この第1の実施形態によれば、本発明の凍結乾燥組成物(I)は、
・塩の形態のDOTA-ペプチド、
・アスコルビン酸、
・アルギニン、及び
・ポリソルベート
を含み、ここで、塩の形態のDOTA-ペプチド、アスコルビン酸、アルギニン、及びポリソルベートは、合わせて、凍結乾燥組成物の総重量の少なくとも98%を占める。
【0056】
好ましくは、この第1の実施形態によれば、本発明の凍結乾燥組成物(I)は、
・0.10重量%~3.00重量%の範囲のDOTA-ペプチド酢酸塩、
・40重量%~70重量%の範囲のアスコルビン酸、
・25重量%~55重量%の範囲のアルギニン、及び
・0.01重量%~0.10重量%の範囲のポリソルベート
を含み、ここで、DOTA-ペプチド酢酸塩、アスコルビン酸、二糖及びポリソルベートは、合わせて、凍結乾燥組成物の総重量の少なくとも98%を占める。
【0057】
より好ましくは、本発明の凍結乾燥組成物(I)は、
・0.50重量%~2.50重量%の範囲のDOTA-ペプチド酢酸塩、
・45重量%~65重量%の範囲のアスコルビン酸、
・30重量%~50重量%の範囲のアルギニン、及び
・0.02重量%~0.08重量%の範囲のポリソルベート
を含み、ここで、DOTA-ペプチド酢酸塩、アスコルビン酸、アルギニン、及びポリソルベートは、合わせて、凍結乾燥組成物の総重量の少なくとも98%を占める。
【0058】
より好ましくは、この第1の実施形態によれば、本発明の凍結乾燥組成物(I)の乾燥成分は、
・1.20重量%~1.60重量%の範囲のDOTA-ペプチド酢酸塩、
・50重量%~60重量%の範囲のアスコルビン酸、
・35重量%~45重量%の範囲のアルギニン、
・0.02重量%~0.08重量%の範囲のポリソルベート80
からなる。
【0059】
本発明の凍結乾燥組成物(I)は、非常に良好な安定性を有するという利点を有するところ、これは、DOTA-ペプチドの含有量が経時的に維持されることを意味する。延長された貯蔵寿命(少なくとも3ヶ月、好ましくは少なくとも12ヶ月)を有する当該凍結乾燥組成物は、対応する放射性医薬品が患者に投与される前に再構成及び放射性標識できる放射性医薬品に分類される点で特に有利である。
【0060】
この第1の実施形態の変形例によれば、凍結乾燥組成物(I)は、緩衝剤、等張化剤、及び可溶化剤から選択される1種以上の添加剤をさらに含み、これらも乾燥又は凍結乾燥形態である。
【0061】
放射性医薬品にすぐに使用できる放射性標識組成物を得るために、本発明による凍結乾燥組成物(I)を、注射用水などの適切な再構成溶液で再構成した後、適切な条件下で、EndolucinBeta(登録商標)という名称でITM社が販売するもの、又はPh.Eur.Monography 2798:「Lutetium(177Lu) solution for radiolabelling」に記載されているものなど、酸性塩化177ルテチウム溶液であってよい放射性標識溶液と混合することができる。
【0062】
好ましくは、凍結乾燥組成物(I)の再構成後、混合物のpHは、3.5~5、好ましくは4.0~4.5の間で構成される。このpHは、177LuによるDOTA-ペプチドの放射性標識に特に好適である。
【0063】
液体組成物
第2の実施形態によれば、本発明による組成物は水性液体形態であり、これを「液体組成物(II)」という。
【0064】
液体組成物(II)の液相は主として水から構成される。液体組成物(II)は、有効成分及び賦形剤が可溶化されている水溶液として特徴付けることもできる。
【0065】
本発明に係る液体組成物(II)は、典型的には、本発明に係る凍結乾燥組成物(I)を、注射用水又は緩衝液であってよい再構成溶液で再構成することによって得ることができる。
【0066】
好ましくは、この第2の実施形態によれば、本発明の液体組成物(II)は、
・DOTA-ペプチド、又はその塩、
・酸化防止剤、
・増量剤、及び
・注射用水
を含む。
【0067】
好ましくは、この第2の実施形態によれば、本発明の液体組成物(II)は、
・塩の形態のDOTA-ペプチド、
・酸化防止剤、
・増量剤、
・緩衝剤、
・界面活性剤、及び
・注射用水
を含む。
【0068】
好ましくは、この第2の実施形態によれば、本発明の液体組成物(II)は、
・塩の形態のDOTA-ペプチド、
・アスコルビン酸、
・アルギニン、
・ポリソルベート、及び
・注射用水
を含む。
【0069】
以下のmg/mL濃度は、液体組成物(II)の総量に対する重量で示される。
【0070】
好ましくは、本発明に係る液体組成物(II)は、塩形態のDOTA-ペプチドを、0.1~2.0mg/mLの濃度、好ましくは0.25~1.75mg/mLの濃度、より好ましくは0.5~1.5mg/mLの濃度、さらに好ましくは0.75~1.25mg/mLの濃度で含む。
より好ましくは、塩形態のDOTA-ペプチドは、0.9~1.1mg/mLの濃度である。
有利には、DOTA-ペプチドは、0.1~2.0mg/mL、0.25~1.75mg/mL、0.5~1.5mg/mL、0.75~1.25mg/mL又は0.9~1.1mg/mLの濃度の酢酸塩である。
【0071】
好ましくは、本発明に係る液体組成物(II)は、酸化防止剤を、20~100mg/mLの濃度、好ましくは25~70mg/mLの濃度、より好ましくは30~50mg/mLの濃度で含む。
【0072】
好ましくは、本発明に係る液体組成物(II)は、アスコルビン酸を、20~100mg/mLの濃度、好ましくは25~70mg/mLの濃度、より好ましくは30~50mg/mLの濃度で含む。好ましい実施形態において、アスコルビン酸は、35~45mg/mLの濃度である。
【0073】
好ましくは、本発明に係る液体組成物(II)は、増量剤を、5~50mg/mLの濃度、好ましくは10~40mg/mLの濃度、より好ましくは20~30mg/mLの濃度で含む。
【0074】
好ましくは、本発明による液体組成物(II)は、アルギニンを、5~50mg/mLの濃度、好ましくは10~40mg/mLの濃度、より好ましくは20~30mg/mLの濃度で含む。好ましい実施形態において、アルギニンは、25~30mg/mLの濃度である。
【0075】
好ましくは、本発明に係る液体組成物(II)は、界面活性剤を、0.01~0.2mg/mLの濃度、好ましくは0.02~0.1mg/mLの濃度、より好ましくは0.03~0.05mg/mLの濃度で含む。
【0076】
好ましくは、本発明による液体組成物(II)は、ポリソルベートを、0.01~0.2mg/mLの濃度、好ましくは0.02~0.1mg/mLの濃度、より好ましくは0.03~0.05mg/mLの濃度で含む。好ましい実施形態では、界面活性剤は、0.03~0.05mg/mLの濃度のポリソルベート80である。
【0077】
好ましくは、本発明の液体組成物(II)において、酸化防止剤に対するDOTA-ペプチドの重量比は、1:100~1:10、より好ましくは1:80~1:20、さらにより好ましくは1:60~1:30から構成される。
【0078】
この比率によって、組成物が放射性標識される際に放射線分解に対するDOTA-ペプチドの効率的な保護が可能になる。
【0079】
好ましくは、この第2の実施形態によれば、本発明の液体組成物(II)は、
・0.1~2.0mg/mLの濃度のDOTA-ペプチド酢酸塩、
・20~100mg/mLの濃度のアスコルビン酸、
・5~50mg/mLの濃度のアルギニン、
・0.01~0.2mg/mLの濃度のポリソルベート、及び
・注射用水
を含み、ここで、DOTA-ペプチド酢酸塩、アスコルビン酸、アルギニン、ポリソルベート及び注射用水は、合わせて、組成物の総重量の少なくとも98重量%を占める。
【0080】
より好ましくは、この第2の実施形態によれば、本発明の液体組成物(II)は、
・0.5~1.5mg/mLの濃度のDOTA-ペプチド酢酸塩、
・30~50mg/mLの濃度のアスコルビン酸、
・20~30mg/mLの濃度のアルギニン、
・0.03~0.05mg/mLの濃度のポリソルベート、及び
・注射用水
を含み、ここで、DOTA-ペプチド酢酸塩、アスコルビン酸、アルギニン、ポリソルベート及び注射用水は、合わせて、組成物の総重量の少なくとも98重量%を占める。
【0081】
より好ましくは、この第2の実施形態によれば、本発明の液体組成物(II)は、
・0.9~1.1mg/mLの濃度のDOTA-ペプチド酢酸塩、
・35~45mg/mLの濃度のアスコルビン酸、
・25~30mg/mLの濃度のアルギニン、
・0.03~0.05mg/mLの濃度のポリソルベート80、及び
・注射用水
からなる。
【0082】
放射性標識組成物
第3の実施形態によれば、本発明による組成物は、放射性医薬品に使用する準備ができている放射性標識組成物(III)である。
【0083】
本発明の放射性標識組成物(III)は、好ましくは、哺乳動物への注射に適した放射性医薬品組成物である。
【0084】
本発明に係る放射性標識組成物(III)において、DOTA-ペプチドは、放射性標識されている、すなわち、放射性核種陽イオンと錯体を形成している。
【0085】
本発明に係る放射性標識組成物(III)は、本発明に係る液体組成物(II)を放射性標識することによって得ることができる。
【0086】
あるいは、本発明に係る放射性標識組成物(III)は、本発明に係る凍結乾燥組成物(I)の放射性標識によって直接得ることができる。
【0087】
放射性標識プロセスは当業者に周知であり、典型的には、液体組成物(II)又は凍結乾燥組成物(I)と、溶液状の放射性核種カチオン性塩とを混合することによって実施される。通常、DOTAキレート剤による放射性核種陽イオンの錯化を最大化するために、DOTA-ペプチドは放射性核種陽イオンに対してモル過剰量である。
【0088】
適切な放射性核種としては、イメージング技術及び/又は治療適応症に有用な放射性核種が挙げられる。
【0089】
イメージングに有用な好適な放射性核種としては、単一光子放射断層撮影(SPECT)用のγ線放出放射性核種及び陽電子放出断層撮影(PET)用の陽電子放出放射性核種が挙げられるが、これらに限定されない。γ線放出放射性核種としては、67Ga、111In、177Lu、99mTc、及び123Iが挙げられるが、これらに限定されない。陽電子放出放射性核種としては、64Cu、18F、44Sc、及び68Gaが挙げられるが、これらに限定されない。
【0090】
治療適応症に有用な好適な核種としては、β線放出放射性核種が挙げられるが、これらに限定されない。当該β線放出放射性核種は、90Y、177Lu、及び188Reから選択できる。
【0091】
DOTA-ペプチド有効成分のための好ましい放射性核種は、治療用放射性核種であり、より好ましくは、治療用β線放出放射性核種である。より好ましい治療用放射性核種陽イオンは177Lu3+である。
【0092】
放射性標識プロセス後に、好ましくは、凍結乾燥組成物(I)又は液体組成物(II)に既に存在する酸化防止剤と同じ(又はその塩)であることができる酸化防止剤を含有する安定化溶液を添加することからなる安定化工程を行う。当該安定化溶液を添加すると、患者に投与されるまで、放射性標識組成物(III)の安定性が数日間延長される。このような安定化溶液は、放射線分解を防ぐために177Luを放射性核種として使用する場合に特に有用である。
【0093】
好ましくは、この第3の実施形態によれば、放射性標識及び任意に安定化の後に得られる本発明の放射性標識組成物(III)は、
・放射性標識DOTA-ペプチド、
・少なくとも1種の酸化防止剤、
・増量剤、
・界面活性剤、
・注射用水
を含む。
【0094】
好ましくは、この第3の実施形態によれば、DOTA-ペプチドは、好ましくは治療に有用なβ線放出放射性核種と錯体を形成している。
【0095】
好ましくは、放射性標識組成物(III)において、DOTA-ペプチドは、177Lu3+と錯体を形成している。
【0096】
好ましくは、この第3の実施形態によれば、本発明の放射性標識組成物(III)は、アスコルビン酸ナトリウムなどの追加の酸化防止剤をさらに含む。追加の酸化防止剤は、安定化溶液に含まれていてよい。
【0097】
好ましくは、この第3の実施形態によれば、本発明の放射性標識組成物(III)は、好ましくはアミノカルボン酸、エデト酸二ナトリウム、リン酸塩及びホスホン酸塩、ポリカルボン酸塩、アミノポリカルボン酸塩、ヒドロキシカルボン酸塩、糖アクリレート、及びそれらの混合物から選択される封鎖剤も含む。より好ましくは、封鎖剤は、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)である。
【0098】
好ましくは、この第3の実施形態によれば、本発明の放射性標識組成物(III)は、
177Lu3+放射性標識DOTA-ペプチド、
・アスコルビン酸とその塩、
・アルギニン、
・ポリソルベート、
・DTPA、及び
・注射用水
を含む。
【0099】
より好ましくは、この第3の実施形態によれば、本発明の放射性標識組成物(III)は、次のものを含み、さらには次のものからなる:
177Lu3+放射性標識DOTA-ペプチド、
・アスコルビン酸とアスコルビン酸ナトリウム、
・アルギニン、
・ポリソルベート、
・DTPA、及び
・注射用水。
【0100】
本発明に係る放射性標識組成物(III)において、DOTA-ペプチドの放射性標識は定量的ではない場合がある。したがって、放射性標識された形態のDOTA-ペプチド及び非放射性標識された形態のDOTA-ペプチドは、本発明に係る放射性標識された組成物(III)中に共存することがある。
【0101】
好ましくは、本発明に係る放射性標識組成物(III)において、177Lu3+放射性標識及び非放射性標識DOTA-ペプチド(合わせて)は、1~100μg/mLから構成される濃度であり、好ましくは10~100μg/mLの濃度である。
【0102】
好ましくは、本発明に係る放射性標識組成物(III)は、10~200mg/mLの濃度、より好ましくは50~150mg/mLの総濃度の酸化防止剤又は酸化防止剤の混合物を含む。
【0103】
好ましくは、本発明に係る放射性標識組成物(III)において、酸化防止剤に対するDOTA-ペプチドの重量比は、1:1500~1:10000から構成される。
【0104】
本発明に係る放射性標識組成物(III)は、好ましくは次のものを含み、より好ましくは次のものからなる:
177Lu3+放射性標識DOTA-ペプチド、
・非放射性標識DOTA-ペプチド、
・酸化防止剤、
・増量剤、
・界面活性剤、
・緩衝剤、
・封鎖剤、及び
・任意に1種以上の薬学的に許容されるキャリア又は希釈剤。
【0105】
放射性標識組成物(III)は、好ましくは次のものを含み、さらに好ましくは次のものからなる:
177Lu3+放射性標識DOTA-ペプチド、
・非放射性標識DOTA-ペプチド、
・アスコルビン酸とアスコルビン酸ナトリウムの混合物、
・アルギニン、
・ポリソルベート、及び
・封鎖剤。
【0106】
製造方法
凍結乾燥組成物(I)の製造は、好ましくは、典型的には注射用水に全ての賦形剤を溶解させることからなるDOTA-ペプチド溶液の製造から始まる。次に、DOTA-ペプチドを、完全に溶解するまで攪拌しながら、予め調製しておいた賦形剤溶液に溶解させる。バルクDOTA-ペプチド溶液を、通常、滅菌ろ過(例えば、0.22μmメンブレンフィルター)によって滅菌し、無菌バイアルに無菌的に充填する。
【0107】
次に、凍結乾燥を以下の手順に従って実施することができる。充填されたバイアルを凍結乾燥機にロードし、定義された凍結乾燥サイクルに従って凍結乾燥させる。次に、凍結乾燥機内において、窒素下でバイアルに栓をし、最後にアルミニウムシールで圧着する。
【0108】
液体組成物(II)の製造は、単純な従来のプロセス単位操作を使用する。典型的には、再構成のために注射用水を凍結乾燥組成物(I)に添加する。
【0109】
放射性標識組成物(III)の製造方法は、DOTA-ペプチドと溶液状の放射性核種との錯体形成(放射性標識ともいう)、及び任意に安定化溶液の添加を含む。
【0110】
錯体形成は、放射性核種陽イオン、好ましくは177Lu3+の溶液と液体組成物(II)とをpH3.5~5、好ましくは4.0~4.5で混合させることによって、室温又は高温で実施できる。放射性核種陽イオン、好ましくは177Lu3+の錯化は、DOTA-ペプチドのキレート剤部分によって急速に生じる。
【0111】
放射性核種の錯化後、最終混合物は、酸化防止剤と、任意に封鎖剤及び界面活性剤とを含む安定化溶液を添加することによって安定化できる。また、酸化防止剤は緩衝特性を有していてもよい。
【0112】
この方法の間に、DOTA-ペプチドは一般に放射性核種に対して過剰である。特に、放射性核種陽イオン177Lu3+との錯体形成プロセスの間に、DOTA-ペプチドは過剰であり、これは、177Lu3+放射性標識DOTA-ペプチド対非放射性標識DOTA-ペプチドの比を好ましくは1:4未満にする。
【0113】
キット
本発明の別の態様は、放射性医薬品組成物の製造用キットであり、前記キットは、少なくとも上で定義された組成物を含む適切な容器を含む。
【0114】
好ましい実施形態では、本発明のキットは、
・上で定義された凍結乾燥組成物(I)を含む第1バイアル、及び
・滅菌安定化溶液を含む第2バイアル
を含む。
【0115】
安定化溶液は、注射用水と酸化防止剤とを含む。酸化防止剤は、アスコルビン酸又はその塩、ゲンチジン酸又はその塩、メチオニン、レチノール、及びそれらの混合物から選択できる。
【0116】
安定化溶液は、好ましくは、酢酸及びその塩、クエン酸又はその塩、アスコルビン酸及びその塩、及びそれらの混合物から選択できる緩衝剤も含む。緩衝剤は、放射性医薬品組成物のpHがヒトへの投与のための許容範囲内にあることを確実にするために適切なpHに達するように選択される。緩衝剤は同時に酸化防止剤であってもよい。
【0117】
安定化溶液は、好ましくは、50~150mg/mL、より好ましくは80mg/mL~140mg/mL、さらにより好ましくは90mg/mL~130mg/mLから構成される濃度(当量アスコルビン酸中)に従って、アスコルビン酸ナトリウムなどの酸化防止剤を含む。
【0118】
任意に、安定化溶液は、混合物中の任意の遊離放射性核種陽イオンをキレート化することができる封鎖剤も含む。封鎖剤は、放射性核種の錯体形成についてDOTA-ペプチドと拮抗してはならない。DTPA(ジエチレントリアミン五酢酸又はペンテト酸)を好適な封鎖剤として使用できる。
【0119】
封鎖剤は、0.01mg/mL~1mg/mL、好ましくは0.05mg/mL~0.5mg/mLから構成される濃度で含まれていてよい。
【0120】
任意に、安定化溶液は、ポリソルベート、例えばポリソルベート80などの界面活性剤も含む。
【0121】
安定化溶液は、好ましくは、0.01mg/mL~1mg/mL、より好ましくは0.1mg/mL~0.5mg/mLから構成される濃度の界面活性剤を含む。
【0122】
好ましい実施形態では、安定化溶液は、注射用水、アスコルビン酸ナトリウム(緩衝剤及び酸化防止剤として作用する)、DTPA及びポリソルベート80を含む。
【0123】
安定化溶液は、好ましくは生理学的pHを有し、より好ましくは6.0~8.0、さらに好ましくは6.2~7.2から構成されるpHを有する。
【0124】
安定化溶液は、第1バイアルの凍結乾燥組成物(I)から得られた放射性標識組成物(III)を少なくとも7日間にわたって有利に安定化することが示された。
【0125】
安定化溶液の役割は、本発明の放射性標識組成物が177Lu3+で放射性標識された薬物である場合に特に有益である。実際に、ルテチウム放射性核種を扱うことができる放射性医薬品はほとんどないため、患者のベッドの横にある177Lu3+でDOTA-ペプチドを放射性標識することが常に可能であるとは限らない。したがって、放射性標識薬は、放射性医薬品で一元的に調製されてから、放射性標識薬の投与によって患者が治療される様々な臨床現場に出荷される必要がある。ただし、出荷は数日間続くことがあり、その後、177Luからの放射性放出により、放射性標識薬が放射線分解によって分解されることがある。
【0126】
このように、安定化溶液は、放射性標識DOTA-ペプチドの放射化学的安定性を改善するため、放射性標識組成物の貯蔵寿命を延ばし、適切な用量の放射性標識ペプチドを患者に送達することができる。
【0127】
好ましい実施形態では、本発明のキットは、
・上で定義された凍結乾燥組成物(I)を含む第1バイアル、及び
・注射用水、アスコルビン酸ナトリウム、DTPA及びポリソルベート80を含む滅菌安定化溶液を含む第2バイアル
を含む。
【0128】
キットには、2個のバイアルの内容物を混合し、溶液中の放射性核種と錯体を形成するための説明書も含まれていてよい。
【0129】
凍結乾燥組成物(I)を有する本発明のキットは、放射性医薬品組成物の製造中にさらなる賦形剤又は添加物を添加することなく放射性核種と共に使用できるため、有利には即時使用可能なキットである。
【0130】
治療のための使用
本発明の別の態様は、哺乳動物の腫瘍を治療するための治療薬を製造するための、上で定義された放射性医薬品組成物の使用である。
【0131】
上で定義されたペプチドはSSTR2受容体に対して選択的な親和性を持っているため、上で定義された放射性医薬品組成物は、神経内分泌腫瘍(NET)、特に胃腸膵臓神経内分泌腫瘍(GEP NET)などのSSTR2受容体陽性腫瘍又は前立腺癌、乳癌、肺癌若しくはリンパ腫の腫瘍の治療に特に有用である。好ましい実施形態では、上で定義された放射性医薬品組成物は、哺乳動物におけるGEP NETの治療薬の製造に有用である。
【0132】
治療方法
本発明の別の態様は、ヒトの体内のSSTR2受容体陽性腫瘍の治療方法であって、上で定義された放射性標識組成物の有効量を前記ヒトに投与することを含む治療方法である。
【0133】
上で定義された放射性医薬品組成物は、非経口的に、好ましくは静脈内に、注射可能な溶液又は懸濁液の状態で、好ましくは単回注射で投与できる。また、放射性医薬品組成物は、注入によって投与できる。適切な活性は、3.0GBq~7.4GBqの範囲であり、DOTA-ペプチドの用量は200μg~1500μgである。
【図面の簡単な説明】
【0134】
図1図1は、本発明に係る放射性標識組成物(III)の製造方法を概略的に表す。本発明に係る凍結乾燥組成物(I)を注射用水で再構成して、液体組成物(II)を得る。次に、このようにして得られた液体組成物(II)に放射性核種溶液を添加し、続いて安定化溶液を添加して、放射性標識組成物(III)を得る。
図2図2は、本発明に係る放射性標識組成物(III)の好ましい実施形態を製造するための方法を概略的に表す。本発明に係る凍結乾燥組成物(I)を注射用水で再構成して、液体組成物(II)を得る。次に、このようにして得られた液体組成物(II)に177Luの溶液を添加し、続いて安定化溶液を添加して、放射性標識された組成物(III)を得る。
【発明を実施するための形態】
【0135】
[実施例]
実験の部
例1:凍結乾燥組成物(I)の製造
71gのアルギニン、100gのアスコルビン酸、及び0.1gのポリソルベート80を、900mLの注射用水(WFI)を含むフラスコに添加した。溶解後、注射用水を1Lまで添加した。500mgの純粋DOTA-ペプチド(INN:サトレオチドテトラキセタン)を秤量し、予め調製しておいた200mLの溶液に溶解させた。DOTA-ペプチドが完全に均質化及び可溶化するまで混合物を撹拌した。このようにして得られた溶液をバイアルに分注し(バイアル当たり約10mgのDOTA-ペプチド)、適切な凍結乾燥サイクルに従って凍結乾燥して、凍結乾燥組成物(I)を得た。
【0136】
例2:液体組成物(II)の製造
例1においてバイアル中で製造された凍結乾燥組成物(I)を10mLの注射用水で再構成して、約1mg/mLのDOTA-ペプチドの濃度を有する液体組成物(II)に到達させた。溶液のpHは4.0~4.5の間であった。
【0137】
例3:安定化組成物の製造
61.87gのアスコルビン酸ナトリウム(55.00gのアスコルビン酸に相当)、0.05gのDTPA(ペンテト酸)、及び0.15gのポリソルベート80を500mLの注射用水に溶解して溶液を製造した。この溶液を蒸気滅菌により滅菌した。
【0138】
例4:放射性標識組成物(III)の製造
例2に従って製造された液体組成物(II)を、塩酸において希釈された塩化177ルテチウム水溶液で放射性標識した。
【0139】
放射性標識を、塩化177ルテチウム溶液を80℃で少なくとも15分間予熱した後、例2の液体組成物(II)を添加し、80℃で10分間即時加熱することによって達成した。放射性標識を、0.25mg/mLのDOTA-ペプチド濃度で実施した。
【0140】
次に、この混合物を例3の安定化組成物で希釈して、約1GBq/mLの濃度の177Lu-DOTA-ペプチドのストック溶液を得た。このストック溶液は、患者への投与のために個々の単位用量に分割できる。
【0141】
例5:凍結乾燥組成物の安定性研究
本発明に係る医薬凍結乾燥組成物1~6を、1個のバイアル当たりの溶媒として総量4mLのWFI(その後、凍結乾燥によって除去した)を使用して、例1に記載の方法に従って製造した。以下の表1に示されるバイアル当たりのAPIの量(すなわち、塩基の形態のDOTA-ペプチド)をmgで表す。界面活性剤のパーセンテージを、乾燥材料の総重量に対する重量で示す。
【0142】
これらの凍結乾燥組成物(I)の安定性を、40℃/75%RH(RH:相対湿度)、25℃/60%RH、及び5℃の様々な条件下で研究した。安定性研究では、APIの量の経時変化と、不純物の量の経時変化を測定する。APIの初期量が長期間維持され、不純物の量が大幅に増加しない場合に、医薬組成物は安定しているといえる。
【0143】
【表1】
【0144】
これらの様々な条件で、2週間(2W)、1ヶ月(1M)、2ヶ月(2M)、3ヶ月(3M)、5ヶ月(5M)、6ヶ月(6M)又は12ヶ月(12M)後の安定性データを以下の表2~4にまとめる。不純物のパーセンテージは、UPLC(Ultra Performance Liquid Chromatography:超高性能液体クロマトグラフィー)によって検出された全ての不純物のパーセンテージの合計であり、0.1%(検出限界)を超えるパーセンテージである。含水率は、電量計を使用して決定した。
【0145】
【表2-1】
【0146】
【表2-2】
【0147】
【表3-1】
【0148】
【表3-2】
【0149】
【表4-1】
【0150】
【表4-2】
【0151】
例6:放射性標識組成物の安定性研究
本発明に係る医薬放射性標識組成物7を、例4に記載の方法に従って製造した。
安定化溶液で希釈した後、放射性標識組成物7は、20μg/mLのDOTA-ペプチド(0.6GBq/mL)、100mg/mLのアスコルビン酸、0.6mg/mLのアルギニン、0.03重量%のポリソルベート80及び0.05mg/mLのDTPAを含有していた。界面活性剤のパーセンテージを、乾燥物の総重量に対する重量で示す。
放射性標識組成物7の安定性を室温で研究した。不純物の総質量含有量及び2種の主要な不純物(A及びB)の質量含有量が、製造終了時(T0)、1日後(1D)、2日後(2D)、4日後(4D)、及び7日(7D)後にHPLCによって得られた。以下の表5にまとめる。
【0152】
【表5】
図1
図2