(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-02
(45)【発行日】2024-05-14
(54)【発明の名称】ミラー及びミラー装置
(51)【国際特許分類】
A47G 1/00 20060101AFI20240507BHJP
G02B 5/02 20060101ALI20240507BHJP
G02B 5/08 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
A47G1/00 D
G02B5/02 B
G02B5/08 A
(21)【出願番号】P 2021008878
(22)【出願日】2021-01-22
【審査請求日】2023-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000241016
【氏名又は名称】NSGインテリア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】武田 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 俊行
【審査官】東 勝之
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-177963(JP,A)
【文献】特開2005-177084(JP,A)
【文献】実開平04-035308(JP,U)
【文献】中国実用新案第212089029(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47G 1/00
G02B 5/00 - 5/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス板と、
前記ガラス板の片面の第1領域に積層された光反射層と、
前記ガラス板とは異なる材料で構成され、前記ガラス板の前記片面において前記第1領域と隣り合う第2領域に積層された屈折率調整層と、を備え、
前記ガラス板の前記第2領域は、前記ガラス板の前記第1領域よりも表面粗さが大きく形成されているミラー。
【請求項2】
前記ガラス板の前記第2領域と前記屈折率調整層とを含む積層領域におけるHAZEが15%以上40%以下である請求項1に記載のミラー。
【請求項3】
前記ガラス板の前記第2領域と前記屈折率調整層とを含む積層領域における拡散透過率が10%以上35%以下である請求項1又は2に記載のミラー。
【請求項4】
前記屈折率調整層がウレタン樹脂によって形成されている請求項1から3のいずれか一項に記載のミラー。
【請求項5】
前記第2領域が前記第1領域の周囲に設けられている請求項1から4のいずれか一項に記載のミラー。
【請求項6】
前記ガラス板の屈折率と前記屈折率調整層の屈折率との差が0.005以上である請求項1から5のいずれか一項に記載のミラー。
【請求項7】
前記屈折率調整層の厚みが1.0μm以上である請求項1から6のいずれか一項に記載のミラー。
【請求項8】
前記ガラス板の前記第2領域の表面粗さとしての算術平均粗さRaが0.1μm以上200μm以下である請求項1から7のいずれか一項に記載のミラー。
【請求項9】
前記ガラス板の前記第2領域と前記屈折率調整層との間に接着層を有する請求項1から8のいずれか一項に記載のミラー。
【請求項10】
前記屈折率調整層が前記光反射層上に亘って積層されている請求項1から9のいずれか一項に記載のミラー。
【請求項11】
前記ガラス板の前記第2領域に積層された前記屈折率調整層上に光拡散層が更に積層されている請求項1から10のいずれか一項に記載のミラー。
【請求項12】
前記ガラス板の前記第2領域と前記屈折率調整層と前記光拡散層とを含む積層領域におけるHAZEが60%以上である請求項11に記載のミラー。
【請求項13】
前記ガラス板の前記第2領域と前記屈折率調整層と前記光拡散層とを含む積層領域における拡散透過率が50%以上である請求項11または12に記載のミラー。
【請求項14】
前記請求項1から13のいずれか一項に記載のミラーと、
前記片面の側から前記第2領域に向けて照明光を照射可能な照明部と、を備えたミラー装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミラー及びミラー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鏡に映し出される顔等の見映えを良好にするため、照明付きのミラー装置が知られている(例えば、特許文献1)。特許文献1に記載のミラー装置では、ミラー本体の全周囲から光透過体を通じて光が散乱し、顔全体が照らされるよう構成されている。これにより、外光による顔の陰等を相殺することができる。しかし、白熱灯等の外光による色味の影響を排除できない問題がある。
【0003】
特許文献2には、複数のLEDと、色温度感知センサーと、昼間、夜間、室内の複数のシーン別切替接点を有するシーン切替スイッチと、色温度感知センサーの検出値に基づきシーン切替スイッチによる切替シーンに応じてLEDを調色する制御部と、を備えるミラー装置が開示されている。特許文献2に記載のミラー装置では、色温度感知センサーの検出値に基づいてLEDを調色することで、昼間、夜間、室内等に応じた照明効果を得た状態で鏡に顔等を良好に映し出すことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-330685号公報
【文献】特開2012-148029号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2に記載のミラー装置では、色温度感知センサー、シーン切り替えスイッチ、LEDを調色する制御部等が必要になるため、ミラー装置の構成が複雑になる。また、LEDを調色する構成では、ミラー装置において自然な照明効果を得ることは難しい。したがって、自然な照明効果を得るうえで、ミラー及びミラー装置には改善の余地があった。
【0006】
上記実情に鑑み、簡単な構成によって自然な照明効果を得ることができるミラー及びミラー装置が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るミラーの特徴構成は、ガラス板と、前記ガラス板の片面の第1領域に積層された光反射層と、前記ガラス板とは異なる材料で構成され、前記ガラス板の前記片面において前記第1領域と隣り合う第2領域に積層された屈折率調整層と、を備え、前記ガラス板の前記第2領域は、前記ガラス板の前記第1領域よりも表面粗さが大きく形成されている点にある。
【0008】
本構成によれば、ガラス板の一方面において鏡面となる光反射層を有しない第2領域がガラス板の第1領域よりも表面粗さが大きく形成されている。このため、第2領域はHAZEが高まるとともに表面に形成された凹凸によって光拡散効果を高めることができる。さらに、第2領域にはガラス板とは異なる材料の屈折率調整層が積層されているので、屈折率調整層によって第2領域におけるHAZEの調整が可能になる。これにより、ミラーにおいて光反射層を有しない第2領域は、ガラス板の表面の凹凸と屈折率調整層とによって適正な光散乱機能を付加することができる。その結果、ミラーの裏側(凹凸が形成された片面側)から照明光を照射することでミラーは第2領域から自然な照明効果を得ることができる。
【0009】
他の特徴構成は、前記ガラス板の前記第2領域と前記屈折率調整層とを含む積層領域におけるHAZEが15%以上40%以下である点にある。
【0010】
本構成のように、ミラーにおいてガラス板の第2領域と屈折率調整層とを含む積層領域のHAZEが15%以上40%以下であると、ミラーの第2領域においてミラーの裏側から照射される照明光を広く拡散させることができる。
【0011】
他の特徴構成は、前記ガラス板の前記第2領域と前記屈折率調整層とを含む積層領域における拡散透過率が10%以上35%以下である点にある。
【0012】
本構成によれば、ミラーにおいてガラス板の第2領域と屈折率調整層とを含む積層領域の拡散透過率が10%以上35%以下であると、ミラーの第2領域においてミラーの裏側から照射される照明光を広く拡散させることができる。
【0013】
他の特徴構成は、前記屈折率調整層がウレタン樹脂によって形成されている点にある。
【0014】
本構成によれば、屈折率調整層がウレタン樹脂によって形成されているので、第2領域の凹凸部分に積層する屈折率調整層を簡単に構成することができる。また、ウレタン樹脂は、防水性能が高く、従来の保護層であるアルキド樹脂に比べて耐薬品性が高い。このため、ミラーは繰り返し洗浄したとしても耐久性を維持することができる。また、ウレタン樹脂は変色し難く耐候性が高い。
【0015】
他の特徴構成は、前記第2領域が前記第1領域の周囲に設けられている点である。
【0016】
ミラーにおいて、第1領域は鏡として機能する部分である。本構成のように、第2領域が第1領域の周囲に設けられることで、第1領域を広く確保することができる。
【0017】
他の特徴構成は、前記ガラス板の屈折率と前記屈折率調整層の屈折率との差が0.005以上である点にある。
【0018】
ガラス板と屈折率調整層とを含む積層領域のHAZEは、両者の屈折率の差に比例して大きくなる。当該積層領域はHAZEが所定値以上になることで適正な光拡散効果を得ることができる。ただし、両者の屈折率の差が小さすぎると、ガラス板と屈折率調整層とを含む積層領域は、HAZEを所定値以上まで高めることができない。そのため、ガラス板の屈折率と屈折率調整層の屈折率との差は、0.005以上であることが好ましい。両者の屈折率の差が0.005以上であることで、ミラーの積層領域のHAZEを所定値以上に高め易くなる。ここで、両者の屈折率の差は、屈折率を例えばd線(波長587.6nm)における屈折率として定義して計測することで算出することができる。
【0019】
他の特徴構成は、前記屈折率調整層の厚みが1.0μm以上である点にある。
【0020】
ガラス板と屈折率調整層とを含む積層領域のHAZEは、屈折率調整層の厚みに比例して大きくなる。ただし、屈折率調整層の厚みが小さすぎると、ガラス板と屈折率調整層とを含む積層領域は、HAZEを所定値以上まで高めることができない。そのため、屈折率調整層の厚みは、1.0μm以上であることが好ましい。屈折率調整層の厚みが1.0μm以上であることで、ミラーの積層領域のHAZEを所定値以上に高め易くなる。また、屈折率調整層の厚みが大きくすることで、屈折率調整層及びミラーの耐久性が向上する。
【0021】
他の特徴構成は、前記ガラス板の前記第2領域の表面粗さとしての算術平均粗さRaが0.1μm以上200μm以下である点にある。
【0022】
ガラス板と屈折率調整層とを含む積層領域のHAZEは、ガラス板の第2領域の当該表面粗さの指標となる算術平均粗さRaに比例して大きくなる。ただし、算術平均粗さRaが小さすぎると、ガラス板と屈折率調整層とを含む積層領域は、HAZEを所定値以上まで高めることができない。そのため、ガラス板の第2領域の表面粗さとしての算術平均粗さRaが0.1μm以上であることが好ましい。第2領域における算術平均粗さRaが0.1μm以上であることで、ミラーの積層領域のHAZEを所定値以上に高め易くなる。ただ、算術平均粗さRaが大きすぎる場合には、ガラス板の第2領域において表面粗さの差が広がり易くなるため、程良い光散乱効果が得られない可能性があり、ミラーの強度が低下するおそれもある。そのため、ガラス板の第2領域の表面粗さとしての算術平均粗さRaは200μm以下であることが好ましい。
【0023】
前記ガラス板の前記第2領域と前記屈折率調整層との間に接着層を有する点にある。
【0024】
本構成によれば、接着層によって第2領域に対して屈折率調整層を確実に固定することができる。
【0025】
他の特徴構成は、前記屈折率調整層が前記光反射層上に亘って積層されている点にある。
【0026】
ガラス板に積層されて鏡面を構成する光反射層は例えば銀膜等で形成される。ガラス板において第1領域と第2領域とは表面粗さが異なるうえ、ミラーを清掃する際に用いられる酸性やアルカリ性の薬品が第1領域と第2領域との間の境界部分に浸入する可能性がある。また、銀膜は酸性や清掃用薬品に触れることで腐食する可能性がある。そこで、本構成では、屈折率調整層が光反射層上に亘って積層されている。すなわち、屈折率調整層は、第2領域から第1領域に亘って設けられている。本構成により、ミラーは第2領域のみならず光反射層を有する第1領域についても屈折率調整層によって保護することができる。また、第1領域と第2領域との間の境界部分が屈折率調整層によって被覆されるので、当該境界部分からの薬品の浸入を阻止して光反射層の腐食を抑制することができる。
【0027】
他の特徴構成は、前記ガラス板の前記第2領域に積層された前記屈折率調整層上に光拡散層が更に積層されている点にある。
【0028】
本構成によれば、光拡散層によってミラーの第2領域においてミラーの裏側から照射される照明光の拡散透過率を高めることができる。
【0029】
他の特徴構成は、前記ガラス板の前記第2領域と前記屈折率調整層と前記光拡散層とを含む積層領域におけるHAZEが60%以上である点にある。
【0030】
本構成のように、ミラーにおいてガラス板の第2領域、屈折率調整層、及び光拡散層を含む積層領域のHAZEが60%以上であると、ミラーの第2領域においてミラーの裏側から照射される照明光をより広く拡散させることができる。
【0031】
他の特徴構成は、前記ガラス板の前記第2領域と前記屈折率調整層と前記光拡散層とを含む積層領域における拡散透過率が50%以上である点にある。
【0032】
本構成によれば、ミラーにおいてガラス板の第2領域、屈折率調整層、及び光拡散層を含む積層領域の拡散透過率が50%以上であると、ミラーの第2領域においてミラーの裏側から照射される照明光をより広く拡散させることができる。
【0033】
本発明に係るミラー装置の特徴構成は、上記構成のミラーと、前記片面の側から前記第2領域に向けて照明光を照射可能な照明部と、を備えた点にある。
【0034】
本構成によれば、ミラー装置において自然な照明効果を発揮することができ、鏡に映し出される顔等の見映えを良好にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下に、本発明に係るミラー及びミラー装置の実施形態について、図面に基づいて説明する。ただし、以下の実施形態に限定されることなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の変形が可能である。
【0037】
[第1実施形態]
図1及び
図2に示されるように、ミラー装置1は、ミラー10と、照明部30と、を備える。ミラー10は、ガラス板11に、鏡面層12(光反射層の一例)が積層された第1領域21と、鏡面層12が積層されていない第2領域22とを有する。ガラス板11は、表面11A及び裏面11B(片面の一例)を有する。第1領域21及び第2領域22は、ガラス板11の裏面11Bに配置され、互いに隣り合っている。
【0038】
第2領域22は、ガラス板11の第1領域21よりも表面粗さが大きく形成されている。第2領域22には、プライマー層13(接着層の一例)、屈折率調整層14が順に積層されている。屈折率調整層14は、ガラス板11とは異なる材料で構成されている。
【0039】
ガラス板11としては、鏡用の公知のガラスを用いることができ、例えば、ソーダライムガラス等が挙げられる。
図1に示されるように、本実施形態のガラス板11は矩形状に形成されている。鏡面層12は、銀又は銀合金と銅からなる金属膜である。銅膜は銀膜の腐食を防ぐために設けられる。ただし、本実施形態では、鏡面層12の上面に屈折率調整層14が積層されているため、銀膜の上に銅膜を積層しなくてもよい。鏡面層12を形成する方法としては、例えば、無電解メッキ法、真空蒸着法、スパッタ法等が挙げられる。ガラス板11の厚みは、1mm以上15mm以下であることが好ましく、3mm以上8mm以下であるとより好ましい。
【0040】
第2領域22の表面の凹凸は、例えばショットブラストの一種であるサンドブラストによって形成することができる。ガラス板11の第2領域22は、表面に凹凸が形成されることで白みが増すようになる。
【0041】
プライマー層13は、シランカップリング剤等であって屈折率調整層14の密着性を向上させるために塗布される。
【0042】
屈折率調整層14は、例えばウレタン樹脂を塗布したりスパッタリング転写したりすることで形成される。屈折率調整層14がウレタン樹脂によって形成されていると、第2領域22に積層する屈折率調整層14を簡単に構成することができる。また、ウレタン樹脂は、防水性能が高く、従来の保護層であるアルキド樹脂に比べて耐薬品性が高い。このため、ミラー10は繰り返し洗浄したとしても耐久性を維持することができる。屈折率調整層14は、フタル酸樹脂、アクリル樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂等を用いて形成してもよい。
【0043】
ガラス板11の第2領域22と屈折率調整層14とを含む積層領域におけるHAZE(曇り度)が15%以上40%以下であると好ましい。これにより、ミラー10において所定のHAZEが確保されるので、ミラー10の第2領域22においてミラー10の裏側から照射される照明光を広く拡散させることができる。
【0044】
ガラス板11の第2領域22と屈折率調整層14とを含む積層領域における拡散透過率が10%以上35%以下である。これにより、所定の拡散透過率が確保されるので、ミラー10の第2領域22においてミラー10の裏側から照射される照明光を適正に拡散させることができる。HAZEと全光線透過率(TT)とは、拡散透過率(DIF)及び平行線透過率(PT)を測定することで、以下の数1式及び数2式から算出することができる。
(数1)
HAZE(%)=(DIF/TT)×100
DIF:拡散透過率(%)
TT:全光線透過率(%)
(数2)
TT=PT+DIF
PT:平行線透過率(%)
【0045】
本実施形態では、ミラー10において第2領域22は第1領域21に囲まれており、第1領域21がガラス板11の中央の大部分及び周囲に亘って配置され、第2領域22がガラス板11の左右側方側に配置されている。第2領域22の形状はガラス板11の側辺に沿う矩形状である。
【0046】
ガラス板11の第2領域22と屈折率調整層14との間にプライマー層13を有する。これにより、プライマー層13によって凹凸のある第2領域22に対して屈折率調整層14を確実に固定することができる。
【0047】
屈折率調整層14は、ガラス板11の裏面11B全体に積層されている。すなわち、屈折率調整層14は第2領域22のみならず第1領域21の鏡面層12上に亘って積層されている。ガラス板11の鏡面層12は銀膜等で形成される。ここで、銀膜は酸性やアルカリ性の薬品に触れることで腐食する可能性がある。そこで、本実施形態では、屈折率調整層14が鏡面層12上に亘って積層されている。これにより、ガラス板11の鏡面層12は屈折率調整層14によって保護することができるので、鏡面層12の腐食を抑制することができる。
【0048】
ミラー10の製造方法は、例えば以下の通りである。ガラス板11の裏面11Bにおいて、予め設定された領域である第1領域21に鏡面層12を形成する。ガラス板11において第1領域21以外には第2領域22として鏡面層12を有しない領域が形成される。次に、第2領域22にサンドブラスト加工を施す。これにより、ガラス板11の第2領域22は表面が粗化し、ガラス板11に白みが付加される。すなわち、ミラー10において第2領域22を含む板厚部分においてHAZEが大きくなる。第2領域22の表面を粗面化することで第2領域22のHAZEは例えば90%程度まで高めることができる。次に、ガラス板11の裏面11Bの全体(第1領域21及び第2領域22)に、プライマー層13及び屈折率調整層14を順に積層する。具体的には、ガラス板11の裏面11Bにシランカップリング剤等で形成されるプライマー層13を塗布し、プライマー層13の上にウレタン樹脂等で形成される透明な屈折率調整層14を塗布する。これにより、ガラス板11の第2領域22のHAZEを調整させることができる。すなわち、屈折率調整層14が積層される前の第2領域22のHAZEが大きさに応じ、屈折率調整層14の屈折率及び厚みを変更することにより、第2領域22のHAZEを適正な値に調整することができる。ミラー10の他の製造方法として、ガラス板11の裏面11Bの全面に銀膜の鏡面層12を形成し、第2領域22は鏡面層12に対してサンドブラスト加工することで形成してもよい。第2領域22は、他の機械的研磨によりガラス板11から鏡面層12を剥離して形成してもよいし、エッチングや電解研磨等の化学的研磨によりガラス板11から鏡面層12を剥離してもよい。
【0049】
本実施形態では、ガラス板11の裏面11Bにおいて鏡面層12を有しない第2領域22がガラス板11の第1領域21よりも表面粗さが大きく形成されている。これにより、第2領域22は表面の凹凸によってHAZEが高まるため、ミラー10は第2領域22において光拡散効果を高めることができる。さらに、第2領域22にはガラス板11とは異なる材料の屈折率調整層14が積層されているので、屈折率調整層14によって第2領域22におけるHAZEの調整が可能になる。また、屈折率調整層14によって第2領域22を保護することもできる。これにより、ミラー10において鏡面層12を有しない第2領域22に適正な光散乱機能を付加することができる。その結果、ミラー10の裏側から照明光を照射することでミラー10は第2領域22から自然な照明効果を得ることができる。
【0050】
通常、ガラス板11と屈折率調整層14とを含む積層領域のHAZEは、両者の屈折率の差に比例して大きくなる。当該積層領域はHAZEが所定値以上になることで適正な光拡散効果を得ることができる。ただし、両者の屈折率の差が小さすぎると、ガラス板11と屈折率調整層14とを含む積層領域は、光拡散のための白みが不足し、HAZEを所定値以上まで高めることができない。そのため、ガラス板11の屈折率と屈折率調整層14の屈折率との差は、0.005以上であることが好ましい。両者の屈折率の差が0.005以上であることで、ミラー10の積層領域のHAZEを所定値以上に高め易くなる。なお、屈折率は、同じ物質でも光の波長によって変化する。そこで、ここでは、屈折率をd線(波長587.6nm)での値と定め、そのときのガラス板11の屈折率と屈折率調整層14の屈折率との差を、0.005以上とする。ガラス板11の屈折率と屈折率調整層14の屈折率との差は、0.010以上であるとより好ましく、0.050以上であるとさらに好ましい。
【0051】
また、ガラス板11と屈折率調整層14とを含む積層領域のHAZEは、屈折率調整層14の厚みに比例して大きくなる。ただし、屈折率調整層14の厚みが小さすぎると、ガラス板11と屈折率調整層14とを含む積層領域は、光拡散のための白みが不足し、HAZEを所定値以上まで高めることができない。そのため、屈折率調整層14の厚みは、1.0μm以上であることが好ましい。屈折率調整層14の厚みが1.0μm以上であることで、ミラー10の積層領域のHAZEを所定値以上に高め易くなる。屈折率調整層14の厚みは、2.0μm以上であるとより好ましく、5.0μm以上であるとさらに好ましい。屈折率調整層14の厚みの上限は、ミラー10の積層領域において所望されるHAZEの値に基づいて決定する。
【0052】
また、ガラス板11の第2領域22の表面粗さにおいても、ガラス板11と屈折率調整層14とを含む積層領域のHAZEは、当該表面粗さに指標となる算術平均粗さRaに比例して大きくなる。ただし、算術平均粗さRaが小さすぎると、ガラス板11と屈折率調整層14とを含む積層領域は、光拡散のための白みが不足し、HAZEを所定値以上まで高めることができない。そのため、ガラス板11の第2領域22の表面粗さとしての算術平均粗さRaが0.1μm以上であることが好ましい。第2領域22における算術平均粗さRaが0.1μm以上であることで、ミラー10の積層領域のHAZEを所定値以上に高め易くなる。ただ、算術平均粗さRaが大きすぎる場合には、ガラス板11の第2領域22において表面粗さの差が広がり易くなるため、程良い光散乱効果が得られない可能性があり、ミラー10の強度が低下するおそれもある。そのため、ガラス板11の第2領域22の表面粗さとしての算術平均粗さRaは200μm以下であることが好ましい。算術平均粗さRaは、0.5μm以上100μ以下であるとより好ましく、1.0μm以上50μm以下であるとさらに好ましい。
【0053】
ミラー装置1は、ミラー10と、裏面11Bの側から第2領域22に向けて照明光を照射可能な照明部30と、を備えている。照明部30は、例えば、発光ダイオード(LED)、液晶ディスプレイ(LCD)、蛍光表示管(VFD)、又は有機EL(OLED)等を用いて構成することができる。
【0054】
[第2実施形態]
図3に示されるように、本実施形態のミラー装置1におけるミラー10は、ガラス板11の第2領域22に積層され、屈折率調整層14上に光拡散層15が更に積層されている。ミラー装置1の他の構成については、第1実施形態と同じであるので説明を省略する。
【0055】
光拡散層15は、例えば光拡散材料としての水酸化アルミニウムを透明液剤(例えば透明塗料)に混入させることによって構成することができる。透明液剤に用いられる樹脂としては、例えばウレタン樹脂、フタル酸樹脂、アクリル樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。屈折率調整層14の上に光拡散層15が積層されることで、ミラー10の第2領域22における積層領域のHAZE及び照明光の拡散透過率を高めることができる。光拡散層15に含まれる光拡散材料として、タルク(例えば、富士タルク(株)製のRL119)、ガラスビーズ(例えば、ポッターズ・バロティーニ(株)製のGB-T20)、酸化チタン、水酸化カルシウム等を用いてもよい。光拡散材料として他の白色系の無機粉体を用いることもできる。光拡散層15における光拡散材料の量は少なすぎると第2領域22の積層領域におけるHAZE又は拡散透過率が高まらず、反対に光拡散層15における光拡散材料の量が多すぎると、第2領域22の積層領域における透光性が低くなり過ぎる。そのため、光拡散層15における光拡散材料の量は、0.1重量%以上40重量%以下であると好ましい。
【0056】
また、ミラー10の第2領域22の積層領域のHAZEは、光拡散層15の厚みに比例して大きくなる。ただし、光拡散層15の厚みが小さすぎると、当該積層領域は、光拡散のための白みが不足し、HAZEを所定値以上まで高めることができない。そのため、光拡散層15の厚みは、1.0μm以上であることが好ましい。光拡散層15の厚みが1.0μm以上であることで、ミラー10の積層領域のHAZEを所定値以上に高め易くなる。光拡散層15の厚みは、2.0μm以上であるとより好ましく、5.0μm以上であるとさらに好ましい。光拡散層15の厚みの上限は、ミラー10の積層領域において所望されるHAZEの値に基づいて決定する。
【0057】
ミラー10は、第2領域22の積層領域におけるHAZE又は拡散透過率が大きいほど第2領域22における照明光の拡散性が高まり自然光に第2領域22の表面11A側から照射される照明光は自然光により近づくことになる。ただし、第2領域22の積層領域におけるHAZE又は拡散透過率が小さすぎる場合には、第2領域22において照明光の拡散性を十分に得られない可能性がある。そのため、ガラス板11の第2領域22と屈折率調整層14と光拡散層15とを含む積層領域において、HAZEは60%以上であることが好ましく、拡散透過率は50%以上であることが好ましい。第2領域22の当該積層領域おけるHAZEが60%以上、または拡散透過率が50%以上であることで、ミラー10の第2領域22においてミラー10の裏側から照射される照明光の拡散性を十分に確保することができる。
【0058】
ミラー10の第2領域22における積層領域において、HAZEは70%以上であることがより好ましく、HAZEが80%以上であるとさらに好ましい。また、当該積層領域において、拡散透過率は60%以上であることがより好ましく、拡散透過率が70%以上であるとさらに好ましい。
【0059】
〔実施例〕
以下、本発明をより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0060】
図4の表に示される実施例1~10を用いてHAZE、拡散透過率(DIF)等を計測した。実施例1~10は、ミラー10の第2領域22を含む積層領域を想定したサンプルであり、比較例はガラス板単体である。実施例1~9では、ガラス板の片面に屈折率調整層14のみが積層されている。実施例10では、ガラス板の片面に屈折率調整層14及び光拡散層15が積層されている。実施例1~10及び比較例におけるガラス板は、いずれも100mm×150mmの矩形であって厚みが5mmである。実施例1~10では、プライマー層13として、シランカップリング剤KBE-903(信越化学(株)製)を1μm塗布し、屈折率調整層14として、レタンPG80(ウレタン樹脂塗料、関西ペイント(株)製)を塗布した。実施例10において、光拡散層15として、レタンPG80(関西ペイント(株)製)に20重量%の水酸化アルミニウム(C-310、住友化学(株)製)を混入させたものを15μm塗布した。
【0061】
屈折率は分光エリプソメータを用いて計測した。ここで、屈折率はd線(波長587.6nm)の光線を用いたときの値である。屈折率差(|n1-n2|)は夫々の屈折率の計測値から算出した。HAZEと全光線透過率(T.T)とは、HAZEメーター(NDH-5000、日本電色工業(株)製)を用いて計測した。平行線透過率(P.T)及び拡散透過率(DIF)は、HAZE及び全光線透過率(T.T)の計測値を用いて算出した。表面粗さは、表面粗さ測定器(SJ-500、株式会社ミツトヨ製)を用いて計測した。計測結果は、
図4の表に示す通りである。なお、屈折率調整層14の屈折率については、
図4に示される計測結果から厚みの大小による影響はほとんどなく、値のばらつきが小さいことが理解できる。
【0062】
〔計測結果について〕
実施例1と実施例4とを比較した場合、屈折率差(|n1-n2|)、及び、算術平均粗Raについては値に大きな差がないが、屈折率調整層14の厚みが実施例1に比べて30倍以上の値である実施例4の方がHAZEの値が大きい。実施例2と実施例3とを比較した場合、屈折率差、及び、屈折率調整層14の厚みについては値に大きな差はないが、算術平均粗さRaが実施例2に比べて170倍以上の値である実施例3の方がHAZEの値が大きい。実施例1と実施例3とを比較した場合、算術平均粗さRa、及び、屈折率調整層14の厚みについては値に大きな差はないが、屈折率差が実施例1に比べて5倍の値である実施例3の方がHAZEの値が大きい。すなわち、実施例1~4において、ミラー10における第2領域22を含む積層領域のHAZEは、屈折率差、算術平均粗さRaの大きさ、及び、屈折率調整層14の厚みに比例して大きくなることが立証された。
【0063】
実施例1~10のHAZEは、比較例のHAZE(0.24%)よりも高い。したがって、実施例1~10の全ては、比較例よりも光拡散性が向上している。ただし、実施例1~4については、HAZEが15%未満であることから、光拡散性は低い。実施例5は、算術平均粗さRaは小さいが、屈折率差及び屈折率調整層14の厚みが大きいため、HAZEが18.1%(15%以上)まで高められている。実施例6~9では、屈折率差が0.005以上、算術平均粗さRaが0.1μm以上、屈折率調整層14の厚みが1μm以上であり、HAZEが20%以上まで高められている。したがって、実施例5~9においては、光拡散性が向上している。実施例10についても、屈折率差が0.01以上、算術平均粗さRaが0.1μm以上、屈折率調整層14の厚みが1μm以上であり、更に光拡散層15を有することで、HAZEが90%以上まで高められている。したがって、実施例10においては、光拡散性がさらに向上している。
【0064】
ミラー10の耐候性については、以下の耐薬品性試験(鏡の耐薬品性プレ試験)を行って検証した。試験対象品として、100mm×150mm、厚さ5mmのガラス板を用い、ガラス板の一方面の半分に鏡面層12が積層された試料を用いた。鏡面層12として、70nm~120nmの銀膜を用いた。試料は、ガラス板に一方面において鏡面層12を有しない領域(第2領域22に相当)に、サンドブラスト加工を施し、プライマー層13、屈折率調整層14、光拡散層15として以下を用い、ガラス板11の鏡面層12が存在する側の面全体に積層した。プライマー層13として、シランカップリング剤KBE-903(信越化学(株)製)を用いた。屈折率調整層14として、15μmのレタンPG80(ウレタン樹脂塗料、関西ペイント(株)製)を用いた。光拡散層15として、レタンPG80に20重量%の水酸化アルミニウム(C-310、住友化学(株)製)を混入させたものを15μm塗布した。
【0065】
耐薬品性試験として、酸性薬品である10%希釈サンポール(大日本除虫菊(株)製)と、アルカリ性薬品であるカビキラー原液(ジョンソン(株)製)に対して上記試料を浸漬して24時間経過後の状態を確認した。24時間経過後の試料は、第2領域22に相当する部分に若干白みが増した程度であり、腐食する箇所は全く見られなかった。したがって、本薬品性試験において、上記の実施形態のミラー10について耐候性が向上したことが確認された。
【0066】
耐薬品性試験に用いられた試料は、上記の第1実施形態及び第2実施形態のミラー10と同じく、ガラス板11の第2領域22から第1領域21に亘って屈折率調整層14が積層されている。これにより、鏡面層12を有する第1領域21と鏡面層12を有しない第2領域22との境界部分は、屈折率調整層14によって密閉された状態になる。その結果、屈折率調整層14によって当該境界部分からの薬品の浸入が阻止されることで、試料において耐候性が向上したものと考えられる。したがって、試料と同じ構成を有するミラー10においても耐候性を向上させることができる。また、屈折率調整層14として用いられたウレタン樹脂は、防水性能も高く、硬化剤を含むことから耐薬品性が高い樹脂でもある。
【0067】
〔別実施形態〕
(1)上記の実施形態では、ミラー10において、第2領域22をガラス板11の板面の左右端側に夫々配置する例を示したが、第2領域22の位置は特に限定されない。例えば
図5に示されるように、ガラス板11の板面において第2領域22は第1領域21の周囲に隣接して配置されてもよい。ミラー10において、第1領域21は鏡として機能する部分である。本形態のように、第2領域22が第1領域21の周囲に設けられることで、ミラー10において第1領域21を広く確保することができる。
図6に示されるように、第2領域22が第1領域21の周囲に隣接し、第2領域22の周囲にも第1領域21が隣接して設けられてもよい。
図7に示されるように、第1領域21と第2領域22との間に、第1領域21及び第2領域22とは異なる第3領域23が存在してもよい。第3領域23は、例えばガラス板11の裏面11Bに鏡面層12を有さず平坦な表面を有する部分である。つまり、
図7に示される例は、ミラー10において、第1領域21と第2領域22とが隣接していないが、第1領域21と第2領域22が隣り合う形態である。第3領域23は光が透過しないように構成された領域であってもよい。
【0068】
(2)上記の実施形態では、ガラス板11が矩形状である例を示したが、ガラス板11の形状はこれに限定されるものではない。ガラス板11の形状は、正方形状や、三角形、五角形、六角形などの多角形状でもよいし、円形状や楕円状でもよい。
【0069】
(3)上記の実施形態では、接着層としてプライマー層13を配置する例を示したが、ガラス板11の第2領域22に接着層を介さずに屈折率調整層14を積層してもよい。
【0070】
(4)上記の実施形態では、ミラー10において、第2領域22のみならず、鏡面層12を有する第1領域21についても屈折率調整層14や光拡散層15を積層する例を示した。屈折率調整層14及び光拡散層15は第2領域22のみに積層されていてもよく、屈折率調整層14及び光拡散層15の少なくとも一方を第1領域21に積層してもよい。また、ミラー10において鏡面層12の外面には、屈折率調整層14に代えてアルキド樹脂を積層してもよい。
【0071】
(5)ミラー10は、裏面11Bの外縁部分にエポキシ樹脂等によって構成されるエッジコート材を塗布してもよい。ミラー10にエッジコート材が配置されることで、ミラー10は耐食性を向上させることができる。
【0072】
(6)上記の実施形態では、ガラス板11の裏面11Bにおいて第2領域22がガラス板11の外縁に沿って連続して配置される例を示したが、第2領域22の配置はガラス板11の裏面11Bにおいて点在してもよく、第2領域22の形状及び配置はミラー10の用途に応じて適宜設定することができる。また、上記の実施形態では、ガラス板11における第2領域22の形状が矩形状や矩形枠状である例を示したが、第2領域22の形状はこれに限定されるものではない。第2領域22の形状は、正方形状や、三角形、五角形、六角形などの多角形状でもよいし、円形状や楕円状でもよい。
【0073】
(7)上記の実施形態では、ミラー10の裏面11Bの側の最外層が、屈折率調整層14または光拡散層15である例を示した。ミラー10は、屈折率調整層14または光拡散層15の上に、さらにシリカコーティング等のシールド層を積層してもよい。シリカコーティングは、例えばシリカコーティング剤を塗布することで実現される。ミラー10は、シリカコーティングによって防汚性や防食性等を向上させることできる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、ミラー及びミラー装置に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0075】
1 :ミラー装置
10 :ミラー
11 :ガラス板
11A :表面
11B :裏面(片面)
12 :鏡面層
13 :プライマー層(接着層)
14 :屈折率調整層
15 :光拡散層
21 :第1領域
22 :第2領域
23 :第3領域
30 :照明部