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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-02
(45)【発行日】2024-05-14
(54)【発明の名称】作業機械
(51)【国際特許分類】
   F02D 45/00 20060101AFI20240507BHJP
   E02F 9/20 20060101ALI20240507BHJP
   E02F 9/26 20060101ALI20240507BHJP
   F01N 3/023 20060101ALI20240507BHJP
   F01N 3/18 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
F02D45/00 369
E02F9/20 N
E02F9/26 B
F01N3/023 K ZAB
F01N3/18 C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021039785
(22)【出願日】2021-03-12
(65)【公開番号】P2022139411
(43)【公開日】2022-09-26
【審査請求日】2023-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】弁理士法人武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】尾形 厚
(72)【発明者】
【氏名】糸賀 健太郎
【審査官】佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-052297(JP,A)
【文献】特開2018-141454(JP,A)
【文献】特開2015-190325(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0201532(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 45/00
E02F 9/20
E02F 9/26
F01N 3/023
F01N 3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
前記エンジンの排気ガスに含まれる粒子状物質を捕集するフィルタを内部に備えた後処理装置と、
前記フィルタの前後における排気ガスの差圧を検知する差圧センサと、
前記差圧センサによって検知された差圧が所定圧力以上の場合に燃料のポスト噴射によって前記フィルタを再生させる差圧再生処理、及び予め定められた時間が経過した場合に燃料のポスト噴射によって前記フィルタを再生させる時間再生処理を実行可能なコントローラとを備える作業機械において、
前記コントローラは、
実行された前記差圧再生処理及び前記時間再生処理を、再生処理として記憶するメモリを備え、
前記差圧センサによって検知された差圧が前記所定圧力以上であって、前記メモリに記憶された最新の再生処理が前記差圧再生処理であることを示す第1条件、及び前記メモリに記憶された最新の前記差圧再生処理が実行された時刻を基点とした経過時間が所定時間以上であることを示す第2条件の両方を満たす場合に、新たな差圧再生処理を実行し、
前記差圧センサによって検知された差圧が前記所定圧力以上であって、前記第1条件を満たし、前記第2条件を満たさない場合に、前記エンジンに粗悪な燃料が供給されている可能性を報知する第1報知処理を実行することを特徴とする作業機械。
【請求項2】
請求項1に記載の作業機械において、
排気ガスの温度を検知する温度センサを備え、
前記コントローラは、
前記第1条件、前記第2条件、及び前記経過時間の間に前記温度センサによって検知された温度が所定温度未満であることを示す第3条件の全てを満たす場合に、前記差圧再生処理を実行し、
前記第1条件を満たし、前記第2条件及び前記第3条件の少なくとも1つを満たさない場合に、前記第1報知処理を実行することを特徴とする作業機械。
【請求項3】
請求項2に記載の作業機械において、
前記メモリは、前記フィルタが清掃された最新の時刻を示すメンテナンス情報を記憶し、
前記コントローラは、前記第1条件を満たし、前記第2条件及び前記第3条件の少なくとも1つを満たさない場合において、
前記メンテナンス情報で示される時刻から現在までの使用時間がメンテナンス時間未満である第4条件を満たす場合に、前記第1報知処理を実行し、
前記第4条件を満たさない場合に、前記フィルタの清掃を促すことを報知する第2報知処理を実行することを特徴とする作業機械。
【請求項4】
請求項1に記載の作業機械において、
前記所定時間は、予め定められた性状の燃料を用いて前記エンジンを駆動した場合に、前記差圧センサによって検知される差圧が0から前記所定圧力まで上昇するのに要する時間であることを特徴とする作業機械。
【請求項5】
請求項1に記載の作業機械において、
前記コントローラは、前記差圧センサによって検知された差圧が前記所定圧力以上で、且つ前記エンジンが正常に駆動している場合に、前記第1条件及び前記第2条件を満たすか否かを判定することを特徴とする作業機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子状物質を捕集する装置を備えた油圧ショベル等の作業機械に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、エンジンの排気ガスに含まれる粒子状物質(以下、「PM」と表記する。)の捕集装置としてCSF(Catalyzed Soot Filter)を内部に有する後処理装置を搭載した油圧ショベルが知られている。
【0003】
CSFを搭載した油圧ショベルが示された特許文献1には、燃料をポスト噴射することによって、CSFに堆積したPMを燃焼させる再生処理を実行し、再生処理を実行した後のCSFの前後の差圧の変動に基づいて、エンジンに供給される燃料の良否を判定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-52297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、CSFの前後の差圧が変動する要因としては、燃料の良否だけでなく、作業機械の稼働条件やCSFにアッシュが堆積することも挙げられる。そのため、特許文献1では、燃料の良否を正確に判定できない可能性がある。
【0006】
本発明は、上記した実状に鑑みてなされたものであり、その目的は、エンジンに供給される燃料の良否をより正確に判定することができる作業機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、エンジンと、前記エンジンの排気ガスに含まれる粒子状物質を捕集するフィルタを内部に備えた後処理装置と、前記フィルタの前後における排気ガスの差圧を検知する差圧センサと、前記差圧センサによって検知された差圧が所定圧力以上の場合に燃料のポスト噴射によって前記フィルタを再生させる差圧再生処理、及び予め定められた時間が経過した場合に燃料のポスト噴射によって前記フィルタを再生させる時間再生処理を実行可能なコントローラとを備える作業機械において、前記コントローラは、実行された前記差圧再生処理及び前記時間再生処理を、再生処理として記憶するメモリを備え、前記差圧センサによって検知された差圧が前記所定圧力以上であって、前記メモリに記憶された最新の再生処理が前記差圧再生処理であることを示す第1条件、及び前記メモリに記憶された最新の前記差圧再生処理が実行された時刻を基点とした経過時間が所定時間以上であることを示す第2条件の両方を満たす場合に、新たな差圧再生処理を実行し、前記差圧センサによって検知された差圧が前記所定圧力以上であって、前記第1条件を満たし、前記第2条件を満たさない場合に、前記エンジンに粗悪な燃料が供給されている可能性を報知する第1報知処理を実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、粒子状物質を捕集するフィルタを備える作業機械において、エンジンに供給される燃料の良否をより正確に判定することができる。なお、上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】油圧ショベルの側面図である。
図2】油圧ショベルの駆動回路を示す図である。
図3】油圧ショベルのハードウェア構成図である。
図4】メモリに記憶された各種情報のデータ構造の例を示す図である。
図5】再生制御処理のフローチャートである。
図6】条件判定処理のフローチャートである。
図7】所定圧力と所定時間との関係の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係る油圧ショベル1(作業機械)の実施形態について、図面を用いて説明する。なお、作業機械の具体例は油圧ショベル1に限定されず、ホイールローダ、クレーン、ダンプトラック等でもよい。また、本明細書中の前後左右は、特に断らない限り、油圧ショベル1に搭乗して操作するオペレータの視点を基準としている。
【0011】
図1は、油圧ショベル1の側面図である。図1に示すように、油圧ショベル1は、下部走行体2と、下部走行体2により支持された上部旋回体3とを備える。下部走行体2及び上部旋回体3は、車体の一例である。
【0012】
下部走行体2は、無限軌道帯である左右一対のクローラ8を備える。そして、走行モータ(図示省略)の駆動により、左右一対のクローラ8が独立して回転する。その結果、油圧ショベル1が走行する。但し、下部走行体2は、クローラ8に代えて、装輪式であってもよい。
【0013】
上部旋回体3は、旋回モータ(図示省略)によって旋回可能に下部走行体2に支持されている。上部旋回体3は、ベースとなる旋回フレーム5と、旋回フレーム5の前方中央に上下方向に回動可能に取り付けられたフロント作業機4(作業装置)と、旋回フレーム5の前方左側に配置されたキャブ(運転席)7と、旋回フレーム5の後部に配置されたカウンタウェイト6とを主に備える。
【0014】
フロント作業機4は、上部旋回体3に起伏可能に支持されたブーム4aと、ブーム4aの先端に回動可能に支持されたアーム4bと、アーム4bの先端に回動可能に支持されたバケット4cと、ブーム4aを駆動させるブームシリンダ4dと、アーム4bを駆動させるアームシリンダ4eと、バケット4cを駆動させるバケットシリンダ4fとを含む。カウンタウェイト6は、フロント作業機4との重量バランスを取るためのもので、上面視円弧形状を成す重量物である。
【0015】
キャブ7には、油圧ショベル1を操作するオペレータが搭乗する内部空間が形成されている。そして、キャブ7の内部空間には、オペレータが着席するシートと、シートに着席したオペレータにより操作される操作装置が配置されている。
【0016】
操作装置は、油圧ショベル1を動作させるためのオペレータの操作を受け付ける。オペレータによって操作装置が操作されることによって、下部走行体2が走行し、上部旋回体3が旋回し、フロント作業機4が動作する。なお、操作装置の具体例としては、レバー、ステアリングホイール、アクセルペダル、ブレーキペダル、スイッチ等が挙げられる。
【0017】
また、キャブ7には、モニタ9(図3参照)が設置されている。モニタ9は、コントローラ20の制御に従って、情報(文字、映像)を表示する。モニタ9は、キャブ7のオペレータに情報を報知する報知装置の一例である。但し、報知装置の具体例はモニタ9に限定されず、スピーカ、LEDランプ等でもよい。
【0018】
図2は、油圧ショベル1の駆動回路を示す図である。図2に示すように、油圧ショベル1は、エンジン10と、油圧ポンプ11と、排気管12と、フィルタの一例であるCSF(Catalyzed Soot Filter)13を内部に備え、消音器としての機能を合わせ持った後処理装置130と、差圧センサ14と、温度センサ15とを主に備える。
【0019】
エンジン10は、油圧ショベル1の外部から取り込んだ空気と、インジェクタ16(図3参照)から噴射された燃料とを混合して燃焼させることによって、油圧ポンプ11を回転させる駆動力を発生させると共に、排気管12に排気ガスを排出する。エンジン10は、例えば、軽油を燃料とするディーゼルエンジンである。
【0020】
より詳細には、エンジン10は、ピストンが下降してシリンダ内に空気を吸い込む吸引行程と、ピストンが上死点まで上昇してシリンダ内の空気を圧縮する圧縮行程と、圧縮された高温高圧の空気中にインジェクタ16から燃料を噴射して自着火燃焼させる燃焼行程と、燃焼による空気の膨張によってピストンを下死点まで押し下げて排気管12に排気ガスを排気する排気行程とを繰り返すことによって、駆動力を発生させる。
【0021】
油圧ポンプ11は、エンジン10の出力軸に接続されている。そして、油圧ポンプ11は、エンジン10が発生させる駆動力によって、作動油タンク(図示省略)に貯留された作動油を、油圧アクチュエータ(走行モータ、旋回モータ、ブームシリンダ4d、アームシリンダ4e、バケットシリンダ4f)に供給する。
【0022】
排気管12は、エンジン10から油圧ショベル1の外部にまで延設されている。排気管12は、エンジン10から排出された排気ガスを、油圧ショベル1の外部に排出する通路を形成する。CSF13を内部に備えた後処理装置130は、排気管12の途中に配置されている。CSF13は、排気管12を通過する排気ガスからPMを捕集する。また、CSF13は、排気管12に着脱可能に構成されている。
【0023】
差圧センサ14は、CSF13より排気ガスの流れの上流側と、CSF13より排気ガスの流れの下流側とにおいて、排気管12に接続されている。そして、差圧センサ14は、CSF13の前後の圧力差(差圧ΔP)を検知し、検知結果を示す差圧信号をコントローラ20に出力する。
【0024】
温度センサ15は、CSF13より排気ガスの流れの上流側において、排気管12に設置されている。そして、温度センサ15は、排気管12を流れる排気ガスの温度を検知し、検知結果を示す温度信号をコントローラ20に出力する。
【0025】
図3は、油圧ショベル1のハードウェア構成図である。図4は、メモリ22に記憶された情報(稼働情報23、再生履歴情報24、メンテナンス情報25)のデータ構造の例を示す図である。
【0026】
図3に示すように、油圧ショベル1は、コントローラ20を備える。コントローラ20は、例えば、CPU(Central Processing Unit)21と、メモリ22と含む。コントローラ20は、メモリ22に格納されたプログラムコードをCPU21が読み出して実行することによって、後述する処理を実現する。
【0027】
但し、コントローラ20の具体的な構成はこれに限定されず、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)などのハードウェアによって実現されてもよい。
【0028】
また、コントローラ20は、エンジン10の動作を制御するエンジンコントローラと、油圧ショベル1のその他の構成要素(例えば、油圧ポンプ11,モニタ9など)を制御する制御用コントローラとを含んでもよい。但し、本実施形態では、エンジンコントローラ及び制御用コントローラを区別せずに、「コントローラ20」と表記する。
【0029】
コントローラ20は、油圧ショベル1の全体動作を制御する。より詳細には、コントローラ20は、差圧センサ14から出力される差圧信号と、温度センサ15から出力される温度信号とを取得し、取得した各種信号に基づいてモニタ9及びインジェクタ16を制御する。また、コントローラ20は、現在時刻を出力するシステムクロックを備えている。さらに、メモリ22は、稼働情報23と、再生履歴情報24と、メンテナンス情報25とを記憶している。
【0030】
図4(A)に示すように、稼働情報23は、互いに対応付けられた検知時刻及び排気温度を複数セット含む。コントローラ20は、温度センサ15によって検知された温度(排気温度)と、温度センサ15による排気温度の検知時刻とを対応付けて稼働情報23に追加する処理を、所定の時間間隔毎に繰り返し実行する。
【0031】
稼働情報23は、油圧ショベル1の稼働状況を示す。すなわち、排気温度が相対的に高い時間帯は、油圧ショベル1が高負荷の動作(例えば、高速走行、フロント作業機4の駆動)を行っている時間帯である。一方、排気温度が相対的に低い時間帯は、油圧ショベル1が低負荷の動作(例えば、アイドリング)を行っている時間帯である。
【0032】
図4(B)に示すように、再生履歴情報24は、互いに対応付けられた再生時刻及び再生種別を含む。コントローラ20は、後述する差圧再生処理または時間再生処理(以下、これらを総称して、「再生処理」と表記する。)を実行した場合に、再生処理を実行した時刻(再生時刻)と、差圧再生処理及び時間再生処理のどちらを実行したか(再生種別)とで、再生履歴情報24を更新する。すなわち、再生履歴情報24は、差圧再生処理及び時間再生処理のうち、直前に実行された再生処理を示す情報である。換言すれば、再生履歴情報24は、最新の再生処理を示す情報である。なお、本実施形態では、後述するステップS14、S26で再生履歴情報24が更新(上書き)される例を説明するが、再生処理が実行される度にレコードが追加される構成でもよい。
【0033】
図4(C)に示すように、メンテナンス情報25は、CSF13が清掃された最新の時刻である清掃時刻を含む。すなわち、コントローラ20は、CSF13の清掃を実行したことを示す操作が操作装置になされた時刻(清掃時刻)で、メンテナンス情報25を更新する。なお、本実施形態では、CSF13が清掃されたタイミングでメンテナンス情報25が更新(上書き)される例を説明するが、CSF13が清掃される度にレコードが追加される構成でもよい。
【0034】
次に、図5図7を参照して、コントローラ20の処理を説明する。図5は、再生制御処理のフローチャートである。図6は、条件判定処理のフローチャートである。図7は、所定圧力Pthと所定時間tDPRとの関係の例を示す図である。コントローラ20は、エンジン10が駆動している間、所定の時間間隔毎に再生制御処理を繰り返し実行する。
【0035】
なお、再生制御処理の開始時点の時刻をtxとし、図4に示す稼働情報23、再生履歴情報24、及びメンテナンス情報25がメモリ22に記憶されているものとする。また、直前に再生処理が実行されたタイミングで、予め定められた時間を設定したタイマが設定されているものとする(S14、S26)。
【0036】
まず、コントローラ20は、タイマがタイムアウトするか、または差圧センサ14によって検知された差圧ΔPが所定圧力Pth以上になるまで、以降の処理の実行を待機する(S11:No&S12:No)。タイマがタイムアウトするのは、直前に再生処理が実行されてから予め定められた時間が経過したことを示す。差圧ΔPが所定圧力Pth以上になるのは、CSF13の表面にPMが堆積して、CSF13を通過する排気ガスの流量が低下(CSF13の性能低下)していることを指す。
【0037】
そして、コントローラ20は、差圧ΔPが所定圧力Pth以上になる前に(S12:No)、タイマがタイムアウトした場合に(S11:Yes)、時間再生処理を実行する(S13)。時間再生処理とは、予め定められた時間が経過する度に、CSF13を再生させる処理である。
【0038】
「CSF13の再生」とは、排気温度を上昇させることによって、CSF13に堆積したPMを燃焼させる処理である。コントローラ20は、インジェクタ16にポスト噴射を実行させることによって、排気ガスの温度を強制的に上昇させる。より詳細には、コントローラ20は、時間再生処理の期間中において、燃焼行程に加えて排気行程でもインジェクタ16に燃料を噴射(ポスト噴射)させる。
【0039】
次に、コントローラ20は、再生時刻を「現在時刻」とし、再生種別を「時間再生」として再生履歴情報24を更新すると共に、予め定められた時間を設定したタイマをセットして(S14)、再生制御処理を終了する。
【0040】
一方、コントローラ20は、タイマがタイムアウトする前に(S11:No)、差圧センサ14によって検知された差圧ΔPが所定圧力Pth以上になった場合に(S12:Yes)、エンジン10に異常が発生しているか否かを判定する(S15)。コントローラ20は、複数のセンサ(例えば、温度センサ15、回転数センサなど)の検知結果が正常範囲を超えている場合に、エンジン10に異常が発生していると判定する。ステップS15の処理は既に周知なので、詳細な説明は省略する。
【0041】
そして、コントローラ20は、エンジン10に異常が発生していると判定した場合に(S15:Yes)、エンジン10の異常をモニタ9に表示させる(S16)。モニタ9への表示は、報知の一例である。但し、報知の具体的な方法は、モニタ9に情報を表示することに限定されず、LEDランプの点灯、スピーカからのガイド音声の出力、通信ネットワークを通じた外部装置への情報の送信などであってもよい。後述するステップS27、S28についても同様である。
【0042】
一方、コントローラ20は、エンジン10に異常が発生していない(すなわち、エンジン10が正常に駆動している)と判定した場合に(S15:No)、図6に示す条件判定処理を実行する(S17)。条件判定処理は、差圧再生処理の実行条件を満たしているか否かを判定する処理である。
【0043】
図6に示すように、コントローラ20は、第1条件(S21)、第2条件(S22)、第3条件(S23)、及び第4条件(S24)を満たすか否かを判定する。第1~第4条件は、差圧再生処理(S25)、第1報知処理(S27)、第2報知処理(S28)のいずれを実行するかを決定するための条件である。
【0044】
第1条件は、再生履歴情報24が差圧再生処理を示す(換言すれば、最新の再生処理が差圧再生処理である)という条件である。すなわち、コントローラ20は、再生履歴情報24を参照して、再生種別に「差圧再生」が設定されているか否かを判定する(S21)。そして、コントローラ20は、再生種別に「差圧再生」が設定されている場合に、第1条件を満たすと判定する(S21:Yes)。一方、コントローラ20は、再生種別に「時間再生」が設定されている場合に、第1条件を満たさないと判定する(S21:No)。
【0045】
第2条件は、最新の差圧再生処理が実行された時刻を基点とした経過時間Δtが所定時間tDPR以上であるという条件である。すなわち、コントローラ20は、システムクロックから取得した現在時刻txと、再生履歴情報24の再生時刻tnとの差を経過時間Δtとして算出し、所定時間tDPRと比較する(S22)。そして、コントローラ20は、算出した経過時間Δtが所定時間tDPR以上の場合に、第2条件を満たすと判定する(S22:Yes)。一方、コントローラ20は、算出した経過時間Δtが所定時間tDPR未満の場合に、第2条件を満たさないと判定する(S22:No)。
【0046】
所定時間tDPRは、例えば図7に示すように、予め定められた性状の燃料を用いてエンジン10を駆動した場合に、差圧センサ14によって検知される差圧ΔPが0から所定圧力Pthまで上昇するのに要する時間に設定される。この所定時間tDPRは、実験やシミュレーションによって決定され、予めメモリ22に記憶されている。
【0047】
第3条件は、経過時間Δtの間に温度センサ15によって検知された排気温度Tが所定温度TPM未満であるという条件である。すなわち、コントローラ20は、稼働情報23に含まれる複数の排気温度のうち、現在時刻txから経過時間Δtだけ過去に遡った比較期間に含まれる排気温度Tそれぞれと、所定温度TPMとを比較する(S23)。そして、コントローラ20は、比較期間に含まれる全ての排気温度Tが所定温度TPM未満の場合に、第3条件を満たすと判定する(S23:Yes)。一方、コントローラ20は、比較期間に含まれる排気温度Tの一部が所定温度TPM未満の場合に、第3条件を満たさないと判定する(S23:No)。
【0048】
所定温度TPMは、CSF13に堆積したPMを燃焼させるのに十分な排気ガスの温度(例えば、250℃)に設定される。そして、エンジン10から排出される排気ガスの温度は、油圧ショベル1が負荷の高い動作を行っているほど高くなり、油圧ショベル1が負荷の低い動作を行っているほど低くなる。
【0049】
そして、油圧ショベル1が負荷の高い動作を継続すると、その結果として排出される高温の排気ガスでCSF13が自然に再生する(自己再生)。以下、ポスト噴射を行ってCSF13を強制的に再生させる時間再生処理及び差圧再生処理を「強制再生」として、自己再生と区別する。
【0050】
第4条件は、CSF13を直前に清掃してからの使用時間tUSEがメンテナンス時間tREC未満であるという条件である。すなわち、コントローラ20は、システムクロックから取得した現在時刻txと、メンテナンス情報25の清掃時刻taの差を使用時間tUSEとして算出し、メンテナンス時間tRECと比較する(S24)。そして、コントローラ20は、算出した使用時間tUSEがメンテナンス時間tREC未満の場合に、第4条件を満たすと判定する(S24:Yes)。一方、コントローラ20は、算出した使用時間tUSEがメンテナンス時間tREC以上の場合に、第4条件を満たさないと判定する(S24:No)。
【0051】
メンテナンス時間tRECは、例えば、再生処理では除去できない不純物(例えば、金属由来のアッシュ等)が堆積して、CSF13の性能が低下するまでの時間に設定される。換言すれば、メンテナンス時間tRECは、再生処理でCSF13を再生させることができる限界時間に設定される。
【0052】
そして、コントローラ20は、第1条件を満たさないと判定した場合に(S21:No)、第2~第4条件の判定結果に拘わらず、差圧再生処理を実行する(S25)。差圧再生処理は、時間再生処理と同様にポスト噴射を実行する。すなわち、時間再生処理及び差圧再生処理は、ポスト噴射を実行する点で共通する。一方、差圧再生処理は、差圧ΔPが所定圧力Pth以上になったタイミングで実行される点で、予め定められた時間が経過したタイミングで実行される時間再生処理と相違する。
【0053】
次に、コントローラ20は、再生時刻を「現在時刻」とし、再生種別を「差圧再生」として再生履歴情報24を更新すると共に、予め定められた時間を設定したタイマをリセット設定して(S26)、条件判定処理を終了する。すなわち、ステップS26では、タイマが一旦キャンセルされて、再びスタートされる。また、コントローラ20は、第1条件、第2条件、及び第3条件の全てを満たすと判定した場合にも(S21:Yes&S22:Yes&S23:Yes)、ステップS25、S26の処理を実行する。
【0054】
第2条件及び第3条件の両方を満たすのは、油圧ショベル1が負荷の低い動作を継続していて、自己再生が行われていないと推定される場合である。このような場合はCSF13へのPMも堆積が進むので、タイマがタイムアウトする前に差圧ΔPが所定圧力Pth以上になる(S11:No&S12:Yes)ことは十分に考えられる。そのため、最新の再生処理が差圧再生処理だとしても(S21:Yes)、差圧再生処理を実行するのが望ましい(S25)。
【0055】
また、コントローラ20は、第1条件を満たし、第2条件及び第3条件の少なくとも一方を満たさないと判定した場合に(S21:Yes&S22:No/S23:No)、差圧再生処理(S25)に代えて、第4条件を満たすか否かを判定する(S24)。
【0056】
第1条件を満たし且つ第2条件を満たさないのは、直前に差圧再生処理を実行してから差圧ΔPが所定圧力Pth以上になるまでの経過時間Δtが極めて短い場合である。また、第3条件を満たさないのは、前回の再生処理から現在までの間に負荷の高い動作が実行されて、CSF13の自己再生が行われていると推定される場合である。
【0057】
このような場合、粗悪な燃料がエンジン10に供給されているために排気ガス内のPM含有量が非常に多いか、再生処理では除去できない不純物(例えば、アッシュ)がCSF13に堆積している可能性があり、差圧再生処理を実行してもCSF13が再生されないと考えられる。
【0058】
そして、第4条件を満たすのは、メンテナンス時間tRECが経過する前にCSF13にPMが堆積している場合なので、粗悪な燃料がエンジン10に供給されている可能性がある。そこで、コントローラ20は、第4条件を満たす場合に(S24:Yes)、エンジン10に粗悪な燃料が供給されている可能性を示すメッセージをモニタ9に表示して(S27)、条件判定処理を終了する。ステップS27の処理は、第1報知処理の一例である。
【0059】
一方、第4条件を満たさないのは、メンテナンス時間tRECが経過した後なので、再生処理では除去できない不純物がCSF13に堆積している可能性がある。そこで、コントローラ20は、第4条件を満たさない場合に(S24:No)、CSF13の清掃を促すメッセージをモニタ9に表示して(S28)、条件判定処理を終了する。ステップS28の処理は、第2報知処理の一例である。
【0060】
そして、ステップS28で表示されたメッセージを見たオペレータは、CSF13を取り外して清掃(例えば、水洗い)し、清掃後のCSF13を再び装着し、CSF13を清掃したことを示す操作を操作装置に対して実行する。また、コントローラ20は、オペレータからの操作が実行された時刻で、メンテナンス情報25の清掃時刻を更新する。
【0061】
上記の実施形態によれば、所定時間tDPRが経過する前に差圧再生処理が繰り返し実行されるような場合に(S21:Yes&S22:No)、粗悪燃料が使用されている可能性があると判定する。このように、第1条件及び第2条件を組み合わせることによって、エンジン10に供給される燃料の良否をより正確に判定することができる。
【0062】
また、上記の実施形態によれば、自己再生が行われているにも拘わらず、差圧再生処理が繰り返し実行されるような場合に(S21:Yes&S23:No)、粗悪燃料が使用されている可能性があると判定する。このように、第1条件及び第2条件に第3条件を組み合わせることによって、エンジン10に供給される燃料の良否をさらに正確に判定することができる。
【0063】
また、上記の実施形態によれば、第4条件を満たすか否かによって、粗悪な燃料が使用されているか、CSF13にアッシュ等が堆積しているかを判定する。これにより、エンジン10に供給される燃料の良否をさらに正確に判定することができる。
【0064】
さらに、上記の実施形態によれば、第1~第4条件を判定するのに先立って、エンジン10が正常に駆動しているか否かを判定することによって(S15)、エンジン10に供給される燃料の良否をさらに正確に判定することができる。
【0065】
なお、ステップS23において、比較期間に含まれる全ての排気温度Tに代えて、比較期間の排気温度Tの平均値と所定温度TPMとを比較してもよい。また、条件判定処理において、ステップS22、S23の一方を省略してもよい。さらに、条件判定処理において、ステップS24、S28を省略してもよい。
【0066】
上述した実施形態は、本発明の説明のための例示であり、本発明の範囲をそれらの実施形態にのみ限定する趣旨ではない。当業者は、本発明の要旨を逸脱することなしに、他の様々な態様で本発明を実施することができる。
【符号の説明】
【0067】
1 油圧ショベル
2 下部走行体
3 上部旋回体
4 フロント作業機
4a ブーム
4b アーム
4c バケット
4d ブームシリンダ
4e アームシリンダ
4f バケットシリンダ
5 旋回フレーム
6 カウンタウェイト
7 キャブ
8 クローラ
9 モニタ
10 エンジン
11 油圧ポンプ
12 排気管
14 差圧センサ
15 温度センサ
16 インジェクタ
20 コントローラ
22 メモリ
23 稼働情報
24 再生履歴情報
25 メンテナンス情報
130 後処理装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7