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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-02
(45)【発行日】2024-05-14
(54)【発明の名称】新設建物の基礎の構築方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 27/08 20060101AFI20240507BHJP
   E02D 27/26 20060101ALI20240507BHJP
   E04G 21/02 20060101ALN20240507BHJP
【FI】
E02D27/08
E02D27/26
E04G21/02 103Z
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021042976
(22)【出願日】2021-03-16
(65)【公開番号】P2022142687
(43)【公開日】2022-09-30
【審査請求日】2023-06-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124084
【弁理士】
【氏名又は名称】黒岩 久人
(72)【発明者】
【氏名】高橋 亮太
(72)【発明者】
【氏名】川田 晃輔
【審査官】湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-034436(JP,A)
【文献】特開2003-147782(JP,A)
【文献】特開平11-350746(JP,A)
【文献】特開2007-170070(JP,A)
【文献】特開昭51-150809(JP,A)
【文献】特開2015-161125(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 27/08
E02D 27/26
E04G 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存躯体の上に新設建物の基礎を構築する方法であって、
前記既存躯体は、下側スラブと、当該下側スラブの上に内部空間を設けて構築された上側スラブと、を備え、
前記上側スラブに、流動化処理土を投入するための投入口および空気抜き孔を形成する工程と、
前記投入口を通して前記下側スラブと前記上側スラブとの間に流動化処理土を約1m毎に複数回に分けて投入し、前記下側スラブと前記上側スラブとの間の内部空間に流動化処理土を充填する工程と、
前記上側スラブの上に型枠材を建て込んで、当該型枠材の内側にコンクリートを打設することで、新設建物の基礎を構築する工程と、を備え
前記流動化処理土は、建設発生土に水を加えて泥水を作成し、前記泥水にセメント系固化材および密度調整材を添加して作製され、
前記流動化処理土を充填する工程では、フロー値が110mm以上、ブリージング率が1.0%未満、密度が1.60t/m 以上、一軸圧縮強さが900kN/cm 以上を前記流動化処理土の品質基準として、1配合毎に前記品質基準を満たすか否かを判定して、前記品質基準を満たすものを充填するとともに、前記上側スラブに接する最上層の流動化処理土については、充填済みの下層の流動化処理土に比べて、セメント系固化材を増量することを特徴とする新設建物の基礎の構築方法。
【請求項2】
前記上側スラブに投入口および空気抜き孔を形成する工程の前に、前記下側スラブと周辺地盤との間に流動化処理土を充填する工程をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の新設建物の基礎の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既存躯体の上に新設建物の基礎を構築する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、既存建物の基礎を残した状態で、新設建物を構築することが提案されている(特許文献1、2参照)。
特許文献1では、既存建物の地下が地下外壁と基礎スラブを残して解体されており、その基礎スラブ上に流動化処理土が打設され、その流動化処理土の上に土砂が埋め戻されて、地下外壁で囲まれた内部に新規地盤が造成され、その新規地盤に流動化処理土まで到達するソイルセメントコラムが造成されている。
特許文献2には、地盤沈下により支持杭で支持された既存のフーチング底面と地盤との間に生じた空隙部に流動化処理土を充填する工法が示されている。具体的には、フーチング上面からフーチングを貫通して空隙部へ到達する注入孔をコアボーリングにより1カ所穿設し、流動化処理土を、前記注入孔を通して空隙部に注入して充填する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-147782号公報
【文献】特開2010-180633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、既存建物を解体した後に新設建物の基礎を構築する際に、新設建物の地盤を短工期で形成できる、新設建物の基礎の構築方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の発明の新設建物の基礎の構築方法は、既存躯体(例えば、後述の既存地下躯体2)の上に新設建物の基礎(例えば、後述の新設建物の基礎1)を構築する方法であって、前記既存躯体は、下側スラブ(例えば、後述の耐圧盤11、地下2階床スラブ13)と、当該下側スラブの上に内部空間(例えば、後述のピット14、内部空間S)を設けて構築された上側スラブ(例えば、後述の地下2階床スラブ13、地下1階床スラブ23)と、を備え、前記上側スラブに、流動化処理土を投入するための投入口(例えば、後述の投入口40)および空気抜き孔(例えば、後述の空気抜き孔41)を形成する工程(例えば、後述のステップS2、S4)と、前記投入口を通して前記下側スラブと前記上側スラブとの間に流動化処理土(例えば、後述の流動化処理土M)を複数回に分けて投入し、前記下側スラブと前記上側スラブとの間の内部空間に流動化処理土を充填する工程(例えば、後述のステップS3、S5)と、前記上側スラブの上に型枠材(例えば、後述の型枠材42)を建て込んで、当該型枠材の内側にコンクリートを打設することで、新設建物の基礎を構築する工程(例えば、後述のステップS8)と、を備えることを特徴とする。
【0006】
この発明によれば、上側スラブに投入口および空気抜き孔を形成し、投入口を通して下側スラブと上側スラブとの間の内部空間に流動化処理土を充填したので、上側スラブや下側スラブを撤去しなくても、既存躯体の下側スラブ、上側スラブ、および流動化処理土が一体となって、新設地盤となる。よって、既存建物を解体した後に新設建物の基礎を構築する場合に、この既存躯体の一部を存置した状態で、その既存躯体内部のスラブで区切られた内部空間に流動化処理土を充填することで、既存躯体の解体範囲を最小限にできるから、新設建物の地盤を短工期で形成できる。
【0007】
第2の発明の新設建物の基礎の構築方法は、前記上側スラブに投入口および空気抜き孔を形成する工程の前に、前記下側スラブと周辺地盤(例えば、後述の周辺地盤3)との間に流動化処理土を充填する工程(例えば、後述のステップS1)をさらに備えることを特徴とする。
【0008】
この発明によれば、下側スラブと周辺地盤との間に流動化処理土を充填したので、流動化処理土を介して下側スラブと周辺地盤とを一体化でき、新設地盤がより強固となる。
【0009】
第3の発明の新設建物の基礎構造は、既存躯体(例えば、後述の既存地下躯体2)の上に構築される新設建物の基礎(例えば、後述の新設建物の基礎1)の構造であって、前記既存躯体は、下側スラブ(例えば、後述の耐圧盤11、地下2階床スラブ13)と、当該下側スラブの上に内部空間(例えば、後述のピット14、内部空間S)を設けて構築された上側スラブ(例えば、後述の地下2階床スラブ13、地下1階床スラブ23)と、を備え、前記下側スラブと前記上側スラブとの間の内部空間には、流動化処理土(例えば、後述の流動化処理土M)が充填されることを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、既存躯体の下側スラブと上側スラブとで区切られた内部空間に流動化処理土を充填したので、上側スラブや下側スラブを撤去しなくても、既存躯体の下側スラブ、上側スラブ、および流動化処理土が一体となって、新設地盤となる。よって、既存建物を解体した後に新設建物の基礎を構築する場合に、この既存躯体の一部を存置した状態で、その既存躯体内部のスラブで区切られた内部空間に流動化処理土を充填することで、既存躯体の解体範囲を最小限にできるから、新設建物の地盤を短工期で形成できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、既存建物を解体した後に新設建物の基礎を構築する際に、新設建物の地盤を短工期で形成できる、新設建物の基礎の構築方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係る新設建物の基礎が構築される既存地下躯体の縦断面図である。
図2】実施形態に係る新設建物の基礎の縦断面図である。
図3】実施形態に係る流動化処理土の使用材料を示す図である。
図4】実施形態に係る新設建物の基礎の構築手順のフローチャートである。
図5】実施形態に係る新設建物の基礎の構築手順の説明図(その1:既存建物を解体した状態を示す図)である。
図6】実施形態に係る新設建物の基礎の構築手順の説明図(その2:地下2階床スラブの投入口および空気抜き孔の配置を示す図)である。
図7】実施形態に係る新設建物の基礎の構築手順の説明図(その3:ピット内に流動化処理土を投入した状態を示す図)である。
図8】実施形態に係る新設建物の基礎の構築手順の説明図(その4:地下2階部分に流動化処理土を投入した状態を示す図)である。
図9】実施形態に係る新設建物の基礎の構築手順の説明図(その4:新設建物の基礎を構築した状態を示す図)である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る新設建物の基礎1が構築される既存地下躯体2の縦断面図である。
新設建物の基礎1は、既存躯体としての既存地下躯体2の上に構築される。
既存地下躯体2は、基礎10と、基礎10の上に設けられた地下2階躯体20と、地下2階躯体20の上に設けられた地下1階躯体30と、を備える。
基礎10は、耐圧盤11、基礎梁12、および、地下2階床スラブ13を備えている。耐圧盤11、基礎梁12、地下2階床スラブ13で囲まれた空間は、ピット14となっており、これにより、基礎10には、複数のピット14が設けられている。つまり、各ピット14において、下側スラブとしての耐圧盤11と上側スラブとしての地下2階床スラブ13との間は、内部空間Sとなっている。
【0014】
地下2階躯体20は、地下外壁21、地下1階床梁22、および地下1階床スラブ23を備えている。下側スラブとしての地下2階床スラブ13と上側スラブとしての地下1階床スラブ23との間には、内部空間Sが設けられている。地下1階躯体30は、地下外壁31、1階床梁32、および1階床スラブ33を備えている。
【0015】
図2は、新設建物の基礎1の縦断面図である。
既存地下躯体2の各ピット14(内部空間S)には、流動化処理土Mが充填されている。また、地下2階床スラブ13と地下1階床スラブ23との間の内部空間Sにも、流動化処理土Mが充填されている。これにより、既存地下躯体2と流動化処理土Mとが一体となって、新設地盤となっている。また、地下1階躯体30は、地下外壁31を残して撤去されており、新設建物の基礎1は、新設地盤の地下1階床スラブ23の上面に構築されている。
【0016】
流動化処理土Mは、例えば、図3に示す材料を用いて作製する。具体的には、建設発生土に水を加えて泥水を作製し、この泥水にセメント系固化材および密度調整材を添加することで、流動化処理土Mを作製する。このとき、泥水および流動化処理土Mについて、濃度を調整しながら比重を管理する。この流動化処理土Mの品質基準は、以下のようになる。
フロー値 :110mm以上
ブリージング率:1.0%未満
密度 :1.60t/m以上
一軸圧縮強さ :設計基準強度以上 Fc=900kN/cm
【0017】
以下、既存地下躯体2の上に新設建物の基礎1を構築する手順について、図4のフローチャートを参照しながら説明する。
ステップS1では、図5に示すように、既存建物の地上躯体を解体して撤去する。また、既存地下躯体2と周辺地盤3との間に隙間(内部空間)がある場合には、流動化処理土Mを充填する。
ステップS2では、図5に示すように、各ピット14の上側スラブである地下2階床スラブ13に、人通孔15、流動化処理土Mを投入するための投入口40、および空気抜き孔41を形成する。具体的には、図6に示すように、ピット14の中央部に人通孔15を設け、この人通孔15の周囲の4箇所に投入口40を形成し、さらに、ピット14の四隅に空気抜き孔41を形成する。
【0018】
ステップS3では、図7に示すように、投入口40を通して各ピット14に流動化処理土Mを投入する。具体的には、各ピット14の耐圧盤11と地下2階床スラブ13との間に、複数回に分けて流動化処理土Mを投入し、各ピット14内に流動化処理土Mを充填する。この流動化処理土Mの投入は、投入口40および空気抜き孔41から流動化処理土Mが溢れるまで行う。なお、図7中の破線は、一回で投入する流動化処理土Mの上端面の高さ位置を示す。
ステップS4では、図8に示すように、上側スラブである地下1階床スラブ23に、流動化処理土Mを投入するための投入口40を形成する。具体的には、例えば、地下1階床スラブ23の1スパンにつき、投入口40を1つ形成する。なお、地下1階床スラブ23には、図示しない階段や設備スペースなどの開口があるため、これらの開口を空気抜き孔として用いる。
【0019】
ステップS5では、図8に示すように、投入口40を通して地下2階部分に流動化処理土Mを投入する。具体的には、投入口40を通して地下2階躯体20の地下2階床スラブ13と地下1階床スラブ23との間に、高さ1m毎に複数回に分けて流動化処理土Mを投入し、地下2階躯体20内の内部空間Sに流動化処理土Mを充填する。この流動化処理土Mの投入は、投入口40および空気抜き孔から流動化処理土Mが溢れるまで行う。なお、図8中の破線は、一回で投入する流動化処理土Mの上端面の高さ位置を示す。
ステップS6では、図9に示すように、地下1階部分に流動化処理土Mを投入する。具体的には、地下2階躯体20の地下1階床スラブ23の上に、高さ1m毎に複数回に分けて流動化処理土Mを投入する。なお、図9中の破線は、一回で投入する流動化処理土Mの上端面の高さ位置を示す。また、図示しないが、この投入した流動化処理土Mの上に、墨出し用のコンクリート(t=100mm程度)を打設する。
ステップS7では、図9に示すように、1階床躯体(1階床梁32および1階床スラブ33)を解体する。
ステップS8では、図9に示すように、地下2階躯体20の上に新設建物の基礎1を構築する。具体的には、ステップS6で投入した流動化処理土Mの上に型枠材42を建て込んで、この型枠材42の内側にコンクリートを打設することで、新設建物の基礎1を構築する。
【0020】
なお、上述のステップS2、S4において、例えば、投入口40は、φ300mmのコア抜きにより形成し、空気抜き孔41は、φ100mmのコア抜きにより形成する。
また、ステップS3、S5、S6において、流動化処理土Mの投入前に、投入箇所に水が溜まっている場合には、この溜まっている水を水中ポンプなどで除去する。また、流動化処理土Mの投入時に、投入口40からバイブレータを挿入して流動化処理土Mに振動を加えて、投入した流動化処理土Mの表面が極力水平となるようにする。
また、流動化処理土Mについては、充填する前に、1配合ごとに1回フロー値と比重を測定し、上述の流動化処理土の品質基準を満足しているか否かの合否判定を行い、合格したものを充填した。ブリージング率については、1配合ごとに3本の試験体を採取し、試験体採取24時間後に、各試験体の平均値が品質基準値以上であることを確認した。また、一軸圧縮強さについては、1配合ごとに3本の試験体を採取し、試験体作成後28日後に、各試験体の平均値が品質基準値以上であることを確認した。
また、上側スラブ13、23に接する流動化処理土M(つまり最上層の流動化処理土M)については、充填後の流動化処理土Mの沈下を防止する目的で、充填済みの下層の流動化処理土Mと比べて、セメント系固化材を図3に示す配合量3.05g/cmを上回る配合とした。また、流動化処理土Mを使用した新設建物の基礎の品質管理として、下側スラブと上側スラブとの間に流動化処理土Mを充填した後、投入口40、人通孔15、および空気抜き孔41(図6参照)の他に、新たな貫通孔を上側スラブに設けて、この新たな貫通孔を通して下側スラブと流動化処理土Mとの間に隙間が発生していないことを目視で再確認した。
【0021】
本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(1)既存地下躯体2の耐圧盤11と地下2階床スラブ13との内部空間S、および、地下2階床スラブ13と地下1階床スラブ23との内部空間Sに流動化処理土Mを充填した。よって、既存地下躯体2を全て撤去しなくても、既存地下躯体2と流動化処理土Mとが一体となって、新設地盤となる。よって、既存建物を解体した後に新設建物の基礎1を構築する場合に、新設建物の地盤を短工期で形成できる。
(2)ステップS1において、既存地下躯体2と周辺地盤3との間に流動化処理土Mを充填したので、流動化処理土Mを介して既存地下躯体2と周辺地盤3とを一体化でき、新設地盤がより強固となる。
【0022】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
また、上述の実施形態では、上側スラブに接する最上層の流動化処理土についてのみ、下層の流動化処理土と異なり、セメント系固化材を図3に示す配合量よりも増量したが、これに限らず、全ての層について、セメント系固化材を図3に示す配合量よりも増量してもよい。
【符号の説明】
【0023】
1…新設建物の基礎 2…既存地下躯体(既存躯体) 3…周辺地盤
10…基礎 11…耐圧盤(下側スラブ) 12…基礎梁
13…地下2階床スラブ(上側スラブ、下側スラブ) 14…ピット 15…人通孔
20…地下2階躯体 21…地下外壁 22…地下1階床梁
23…地下1階床スラブ(上側スラブ)
30…地下1階躯体 31…地下外壁 32…1階床梁 33…1階床スラブ
40…投入口 41…空気抜き孔 42…型枠材
M…流動化処理土 S…内部空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9