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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-02
(45)【発行日】2024-05-14
(54)【発明の名称】衝撃吸収装置及び車両
(51)【国際特許分類】
   F16F 7/00 20060101AFI20240507BHJP
   F16F 9/00 20060101ALI20240507BHJP
   F16F 9/02 20060101ALI20240507BHJP
   F16F 15/06 20060101ALI20240507BHJP
   B60R 19/24 20060101ALI20240507BHJP
   B62D 21/15 20060101ALI20240507BHJP
   B62D 25/08 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
F16F7/00 K
F16F9/00 A
F16F9/02
F16F15/06 G
B60R19/24 G
B62D21/15 Z
B62D25/08 D
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021067872
(22)【出願日】2021-04-13
(65)【公開番号】P2022162842
(43)【公開日】2022-10-25
【審査請求日】2023-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000135209
【氏名又は名称】株式会社ニフコ
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100164688
【弁理士】
【氏名又は名称】金川 良樹
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 靖広
(72)【発明者】
【氏名】坂本 茂樹
【審査官】田村 佳孝
(56)【参考文献】
【文献】実開昭48-026642(JP,U)
【文献】特開2013-245807(JP,A)
【文献】実開昭50-002041(JP,U)
【文献】特開平10-109605(JP,A)
【文献】特開2000-142279(JP,A)
【文献】実開昭63-096337(JP,U)
【文献】特開昭60-246974(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 7/00
F16F 9/00
F16F 9/02
F16F 15/06
B60R 19/24
B62D 21/15
B62D 25/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両外装部品を介して車体外方から伝わる力により収縮し、収縮時の復元力により前記車両外装部品を車体外方へ復帰させる弾性部材と、
前記復元力により前記車両外装部品が復帰する際の速度を減衰させる減衰装置と、を備え、
前記減衰装置は、シリンダとピストンとの間に空気室を形成し、前記空気室が、前記シリンダ内に収容される前記ピストンのピストン本体を挟んで一端側に位置する第1空気室と前記ピストン本体を挟んで他端側に位置する第2空気室とを含むエアダンパであり、
前記減衰装置は、車両外方からの力により前記弾性部材が収縮する際、前記ピストンの移動により前記第1空気室内から前記第2空気室に流れる空気の量を制限することで生じる抵抗による減衰力を発生させ、前記復元力により前記車両外装部品が復帰する際、前記ピストンの移動により前記第2空気室内から前記第1空気室に流れる空気の量を制限することで生じる抵抗による減衰力で、前記車両外装部品が復帰する際の速度を減衰させ、前記復元力により前記車両外装部品が復帰する際の前記減衰力を、前記車両外方からの力により前記弾性部材が収縮する際の前記減衰力よりも大きくする、衝撃吸収装置。
【請求項2】
前記弾性部材は、前記シリンダ内に収容される、請求項1に記載の衝撃吸収装置。
【請求項3】
前記車両外装部品を介して車体外方から伝わる力が所定値未満である際に、前記弾性部材の収縮動作を制限し、前記力が前記所定値を越えた際に、前記弾性部材の収縮動作を許容する作動調整部をさらに備える、請求項1又は2に記載の衝撃吸収装置。
【請求項4】
レーダ装置及び/又はセンサが設けられた前記車両外装部品と、車体との間に取り付けられる、請求項1乃至3のいずれかに記載の衝撃吸収装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の衝撃吸収装置を備える、車両。
【請求項6】
複数の前記衝撃吸収装置を備え、
複数の前記衝撃吸収装置が発生させる減衰力が、対応する前記車両外装部品の種類又は前記車両外装部品に対する位置に応じて変えられている、請求項5に記載の車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両外装部品等に加わった衝撃を吸収する衝撃吸収装置及びこれを備える車両に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、フロントグリルやバンパ等の車両外装部品にADAS(Advanced Driver Assist System)等のレーダ装置が設けられることがある。
【0003】
レーダ装置には種々の形式があり、例えばミリ波を利用するレーダ装置は、ミリ波の送信部と、ミリ波の反射波の受信部とを有する。
【0004】
上記のような車両外装部品がリジッドに車体に固定され、且つレーダ装置が車両外装部品にリジッドに固定される場合には、衝撃を受けた際に、車両外装部品が変形し易くなるとともに、車両外装部品に対するレーダ装置の相対的な位置もずれ易くなる。
【0005】
そして、仮に、車両外装部品が変形したり、レーダ装置がずれたりした場合には、レーダ装置による適正な検出が困難になる虞がある。
【0006】
車両外装部品の変形等は、車両外装部品に対する衝撃を緩和することで抑制できる。このような衝撃緩和に関する技術として、特許文献1は、コイルばねによりバンパに加わった衝撃を緩和する装置を開示する。特許文献2は、バンパに加わった衝撃をばねで緩和する一方、衝撃によって押し込まれたばねの復元動作をラチェットで制限する装置を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】実全昭58-032042号公報
【文献】実全昭62-000451号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、ばねのみで衝撃を緩和する特許文献1の装置では、ばねが復元する際に車両外装部品が勢いよく元の位置に戻る虞がある。これに起因して、車両外装部品が強めの衝撃を再度受け得る。そして、この再度の衝撃によって、車両外装部品及びこれに取り付けられたレーダ装置の状態が損なわれる虞がある。
【0009】
一方、特許文献2の装置では、衝撃を吸収したばねの復帰がラチェットによって制限されるため、再度の衝撃が緩和され得る。しかしながら、車両外装部品を元の位置に戻すためには、ラチェットの係止状態を解除する必要があり手間がかかる。
【0010】
普通のドライバーでは、上記ラチェットの解除作業を適正に実施するのは困難と考えられる。この際、車両外装部品にレーダ装置が取り付けられている場合にあっては、ドライバーは、レーダ装置が適正に機能しない状態で車両を移動させざるを得ない。
【0011】
本発明は上記事情を考慮してなされたものであり、車両外装部品及び/又は車両外装部品の付属品を衝撃から効果的に保護できる衝撃吸収装置及びそれを備えた車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
一実施の形態にかかる衝撃吸収装置は、車両外装部品を介して車体外方から伝わる力により収縮し、収縮時の復元力により前記車両外装部品を車体外方へ復帰させる弾性部材と、前記復元力により前記車両外装部品が復帰する際の速度を減衰させる減衰装置と、を備える。
【0013】
前記減衰装置は、シリンダとピストンとの間に空気室を形成するエアダンパであり、前記ピストンの移動により前記空気室内から前記空気室側に流れる空気の量を制限することで生じる抵抗による減衰力で、前記車両外装部品が復帰する際の速度を減衰させてもよい。
【0014】
前記弾性部材は、前記シリンダ内に収容されてもよい。
【0015】
一実施の形態にかかる衝撃吸収装置は、前記車両外装部品を介して車体外方から伝わる力が所定値未満である際に、前記弾性部材の収縮動作を制限し、前記力が前記所定値を越えた際に、前記弾性部材の収縮動作を許容する作動調整部をさらに備えてもよい。
【0016】
また、一実施の形態にかかる衝撃吸収装置は、レーダ装置及び/又はセンサが設けられた前記車両外装部品と、車体との間に取り付けられてもよい。
【0017】
また、一実施の形態にかかる車両は、上記の衝撃吸収装置を備える。
当該車両は、複数の前記衝撃吸収装置を備え、複数の前記衝撃吸収装置が発生させる減衰力は、対応する前記車両外装部品の種類又は前記車両外装部品に対する位置に応じて変えられてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、車両外装部品及び/又は車両外装部品の付属品を衝撃から効果的に保護できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】一実施の形態にかかる衝撃吸収装置を車両外装部品であるフロントグリルと車体との間に取り付けた車両の部分的な斜視図である。
図2】一実施の形態にかかる衝撃吸収装置及びフロントグリルを図1とは異なる視点から見た際の斜視図である。
図3】一実施の形態にかかる衝撃吸収装置の側面図である。
図4図3に示す一実施の形態にかかる衝撃吸収装置に対応する縦断面図である。
図5A】一実施の形態にかかる衝撃吸収装置を構成するピストンの斜視図である。
図5B図4の拡大図であり、一実施の形態にかかる衝撃吸収装置を構成するピストン及びシール部材を示す図である。
図5C図4とは異なる方向で切断された一実施の形態にかかる衝撃吸収装置の断面の要部拡大図である。
図6】一実施の形態にかかる衝撃吸収装置の動作を説明する図であり、車体外方からの力を衝撃吸収装置が吸収する際の様子を示す図である。
図7】一実施の形態にかかる衝撃吸収装置の動作を説明する図であり、車体外方からの力により生じた復元力で衝撃吸収装置が力を受ける前の状態に復帰する際の様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の一実施の形態について説明する。なお、本件明細書に添付する図面においては、理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺および縦横の寸法比等を、実物のそれらから変更し誇張している場合がある。
【0021】
<車両>
図1及び図2は、一実施の形態にかかる衝撃吸収装置10を備える車両1の部分的な斜視図である。本実施の形態では、フロントグリル2と車体3との間に複数の衝撃吸収装置10が取り付けられている。
【0022】
図示の例では、衝撃吸収装置10が5個設けられるが、その設置数は特に限られるものではない。また、衝撃吸収装置10が取り付けられる車両外装部品も特に限られない。衝撃吸収装置10は、例えばバンパやフェンダ等に取り付けられてもよい。
【0023】
車体3は、車両外装部品、動力源(エンジン、モータ等)、車輪4等を支持する骨格部分であり、主に複数のフレームで構成される。図1及び図2には、車体3を構成するフロントクロスメンバ3Aと、左右一対のフロントサイドメンバ3L,3Rとが示されている。
【0024】
フロントクロスメンバ3Aは、車体前部で左右方向に延びている。一対のフロントサイドメンバ3L,3Rのうちの一方のフロントサイドメンバ3Lは、車体前方の左下側部分で前後方向に延びている。一対のフロントサイドメンバ3L,3Rのうちの他方のフロントサイドメンバ3Rは、車体前方の右下側部分で前後方向に延びている。
【0025】
図示の例では、フロントクロスメンバ3Aとフロントグリル2の上部との間、フロントサイドメンバ3Lとフロントグリル2の左下側部分との間、及びフロントサイドメンバ3Rとフロントグリル2の右下側部分との間に衝撃吸収装置10が取り付けられている。
【0026】
詳細は後述するが、衝撃吸収装置10は、車両外装部品を介して車体外方から伝わる力により収縮することで、この力を吸収し、力を吸収した後の収縮時の復元力により伸長することで、車両外装部品を元の位置に戻すように動作する。
【0027】
図示の衝撃吸収装置10は、収縮及び伸長する方向における一端部をフロントグリル2に接続し、収縮及び伸長する方向における他端部をブラケット5を介して車体3に接続する。これにより、本実施の形態にかかる衝撃吸収装置10は、フロントグリル2を介して車体外方から伝わる力を吸収するように構成される。
【0028】
本実施の形態では上述のように衝撃吸収装置10が取り付けられた状態において、フロントグリル2の荷重が車体3で支持される。すなわち、衝撃吸収装置10は、車体外方から伝わる力を吸収する機能と、車両外装部品を車体3に支持する機能と、を有している。また、本実施の形態では、衝撃吸収装置10が収縮及び伸長する方向が前後方向に沿う状態になるが、衝撃吸収装置10の向きは特に限られるものではなく、対応する車両外装部品に応じて適宜変更されてよい。
【0029】
また、図1に示すように、フロントグリル2の中央にはレーダ装置6が設けられる。レーダ装置6は、例えばADASのレーダ装置でもよい。図示のレーダ装置6は、検出波を送出する送信部6Aと、検出波の反射波を受信する受信部6Bとを有する。検出波は、ミリ波、超音波、レーザ光等でもよい。また、レーダ装置6に代えて又は加えてセンサや、撮像装置等が設けられてもよい。
【0030】
<衝撃吸収装置>
以下、図3に示す衝撃吸収装置10の側面図及び図4に示す衝撃吸収装置10の縦断面図を参照しつつ、衝撃吸収装置10について詳述する。
【0031】
図3及び図4に示すように、衝撃吸収装置10は、弾性部材20と、減衰装置30と、作動調整部40と、を備えている。
【0032】
弾性部材20は、フロントグリル2を介して車体外方から伝わる力により収縮し、収縮時の復元力によりフロントグリル2を車体外方へ復帰させるものである。減衰装置30は、主として、弾性部材20の復元力によりフロントグリル2が復帰する際の速度を減衰させるものである。また、作動調整部40は、衝撃吸収装置10の作動を制限するものである。
【0033】
本実施の形態における減衰装置30は、一例として、シリンダ31とピストン32との間に空気室30A,30Bを形成するエアダンパとして構成されている。
【0034】
減衰装置30では、一端が閉鎖され且つ他端が開放する筒状のシリンダ31内にピストン32が挿入され、ピストン32は、シリンダ31の軸方向に往復動自在になっている。図3及び図4における符号31Aは、シリンダ31の一端を閉鎖した閉鎖板を示す。なお、以下で単に軸方向と称する場合は、シリンダ31の軸方向を意味する。
【0035】
ピストン32は、シリンダ31内に収容されるピストン本体33と、シリンダ31の他端側を向くピストン本体33の面から軸方向に延びるピストンロッド34と、を有している。ピストンロッド34は、シリンダ31の他端の開放部分から外部へ延び出し、その一部をシリンダ31の外部に露出させている。
【0036】
図3に示すように、ピストンロッド34におけるシリンダ31の外部から露出した部分には上述のブラケット5が取り付けられ、減衰装置30は、ピストンロッド34を介して車体3に取り付けられる。一方、閉鎖板31Aは円板状であり、シリンダ31から径方向外側に張り出し、この張り出し部分に締結部材を通すための軸方向の貫通孔31Bを有する。減衰装置30は、フロントグリル2に対しては貫通孔31Bに通した締結部材により取り付けられるようになっている。
【0037】
ピストン本体33には、そのシリンダ31の一端側(図3,4の左側)の面から他端側(図3、4の右側)に向けて軸方向にへこむ凹部33Aが形成され、ピストンロッド34には、凹部33Aの底の中央からピストンロッド34の内部にわたって軸方向に延びる断面円形のガイド孔34Aが形成されている。
【0038】
シリンダ31の閉鎖板31Aは、シリンダ31内で軸方向に延びる円柱状のガイドバー31Cを有しており、ガイドバー31Cは、ピストン本体33の凹部33Aを介してガイド孔34Aに摺動自在に挿入されている。これにより、ピストン32の軸方向の移動がガイドバー31Cによってガイドされる。
【0039】
ここで、本実施の形態における弾性部材20は、一例としてコイルスプリングであり、ガイドバー31Cに外嵌されている。すなわち、弾性部材20は、その内側にガイドバー31Cが通るようにガイドバー31Cに取り付けられている。そして、弾性部材20は、その一端が閉鎖板31Aに接し、且つ、その他端が凹部33Aの底に接する状態で、閉鎖板31Aとピストン本体33との間に設けられている。この状態で、弾性部材20はシリンダ31内に収容される。
【0040】
以上のように弾性部材20が減衰装置30に組み込まれることで、ピストン32がシリンダ31の一端側(閉鎖板31A側)へ相対的に移動する際、弾性部材20は収縮することが可能となる。さらに、弾性部材20は、収縮による復元力によりピストン32をシリンダ31の他端側(開放側)へ相対的に移動させることも可能となる。
これにより、弾性部材20は、フロントグリル2を介して車体外方から伝わる力により収縮してフロントグリル2の車体3側への移動を許容するとともに、収縮時の復元力により車体3側に移動したフロントグリル2を車体外方へ復帰させることが可能となる。
【0041】
なお、本実施の形態では弾性部材20がシリンダ31内に収容されることにより、減衰装置30の大型化を抑制できるという利点がある。ただし、弾性部材20は減衰装置30の外側に設けられてもよい。
【0042】
ピストン32がシリンダ31内に挿入された状態では、図4に示すように、シリンダ31内に第1空気室30Aと第2空気室30Bとが形成され、第1空気室30Aは、ピストン本体33を挟んでシリンダ31の一端側に位置し、第2空気室30Bは、ピストン本体33を挟んでシリンダ31の他端側に位置する。なお、本実施の形態では、第1空気室30Aが密閉され、第2空気室30Bが図示省略する例えば流路を介してシリンダ31の外部に開放している。ただし、第2空気室30Bは開放されていてもよいし、密閉されていてもよい。
【0043】
第1空気室30A及び第2空気室30Bは、ピストン本体33の軸方向の移動に伴って容積が増減する。本実施の形態では、ピストン本体33がシリンダ31の一端側(閉鎖板31A側)へ相対的に移動する際、第1空気室30Aの容積が減少し、第2空気室30Bの容積が増加する。このとき、第1空気室30A内の空気が第2空気室30B側に流れる。一方で、ピストン本体33がシリンダ31の他端側(開放側)へ相対的に移動する際には、第1空気室30Aの容積が増加し、第2空気室30Bの容積が減少する。このとき、第2空気室30B内の空気が第1空気室30A側に流れる。
【0044】
上述のようにピストン本体33が移動される場合には、第1空気室30Aと第2空気室30Bとの間で空気が流動する。ここで、減衰装置30は、ピストン本体33がシリンダ31の一端側(閉鎖板31A側)へ相対的に移動する際には、第1空気室30A内から第1空気室30A外(第2空気室30B側)に流れる空気の量を制限し、これによりピストン本体33の移動に対する抵抗を発生させて減衰力を発生させる。また、減衰装置30は、ピストン本体33がシリンダ31の他端側(開放側)へ相対的に移動する際には、第2空気室30B内から第2空気室30B外(第1空気室30A側)に流れる空気の量を制限し、これによりピストン本体33の移動に対する抵抗を発生させて減衰力を発生させる。本実施の形態では、フロントグリル2が復帰する際に、ピストン本体33がシリンダ31の他端側(開放側)へ相対的に移動する。したがって、フロントグリル2が復帰する際には、減衰装置30は、第2空気室30B内から第2空気室30B外(第1空気室30A側)に流れる空気の量を制限することで、フロントグリル2が復帰する際の速度を減衰させるようになっている。
【0045】
以上のような空気室内外に流れる空気の量の制限は、ピストン本体33に形成される後述の第1空気通流路38及び第2空気通流路38’によって行われる。以下、これについて詳述する。図5Aは、ピストン32、特にピストン本体33の斜視図である。図5Bは、図4において二点鎖線で囲んだ領域Aの拡大図である。図5A及び図5Bに示すように、ピストン本体33の外周部分には、周方向の全域にわたって延びる環状の溝部35が形成される。そして、溝部35には、例えば合成樹脂性のゴム等の弾性材料で形成されたシール部材としてのOリング36が嵌め込まれている。
【0046】
溝部35は、底壁35Aと、シリンダ31の一端側で底壁35Aから径方向外側に延びる第1側壁35Bと、シリンダ31の他端側で底壁35Aから径方向外側に延びる第2側壁35Cと、を有する。そして、Oリング36は、底壁35Aに接するとともに、シリンダ31の内周面に接する状態で取り付けられている。また、Oリング36は、第1側壁35Bと第2側壁35Cとの間で軸方向に移動可能となるように溝部35に配置されている。一方で、ピストン本体33の外周部分はシリンダ31の内周面には接していない。
【0047】
上述のようにOリング36が軸方向に移動可能であることで、本実施の形態では、Oリング36が、第1側壁35Bと軸方向で接する第1の位置(図5Bで示す位置)と、第2側壁35Cと軸方向で接する第2の位置(図6(B)参照)との間を移行可能となっている。第1の位置は、ピストン本体33がシリンダ31の他端側(開放部分側)に相対的に移動する際に形成され、第2の位置は、ピストン本体33がシリンダ31の一端側(閉鎖板31A側)に相対的に移動する際に形成される。
【0048】
ここで本実施の形態では、図5Aに示すように底壁35Aと第2側壁35Cとに連なるL字状の第1空気通流路38が溝部35に形成されるとともに、底壁35Aと第1側壁35Bと第2側壁35Cとに連なるコ字状の第2空気通流路38’が溝部35に形成されている。
図5A及び図5Bに示すように、第1空気通流路38は、底壁35Aから径方向内側にへこみ且つ軸方向に延びる軸方向路38Aと、第2側壁35Cから軸方向にへこみ且つ径方向に延びる径方向路38Bとで構成されている。第1空気通流路38の数は特に限られるものではないが、本例では4つ形成され、図5Aに示される2つの第1空気通流路38が形成されたピストン本体33の一部分の反対側にさらに2つの第1空気通流路38が形成されている。
また、図5Cは、図4とは異なる方向で切断された衝撃吸収装置10の断面の要部拡大図であって、具体的には第2空気通流路38’上で軸方向に切断した場合の図である。
図5A及び図5Cに示すように、第2空気通流路38’は、底壁35Aから径方向内側にへこみ且つ軸方向に延びる軸方向路38A’と、第1側壁35Bから軸方向にへこみ且つ径方向に延びる第1径方向路38B1と、第2側壁35Cから軸方向にへこみ且つ径方向に延びる第2径方向路38B2とで構成されている。第2空気通流路38’の数は特に限られるものではないが、本例では4つ形成され、図5Aに示される2つの第2空気通流路38’が形成されたピストン本体33の一部分の反対側にさらに2つの第2空気通流路38’が形成されている
【0049】
上述のような第1空気通流路38及び第2空気通流路38’が形成されることで、第1空気室30Aと第2空気室30Bとの間の空気連通状態は、第1空気通流路38及び第2空気通流路38’によって絞られる。これにより、ピストン本体33が移動した際、ピストン本体33の移動に対する減衰力が生じる。
【0050】
また、本実施の形態では、図5Bに示すようにOリング36が第1の位置にあるときには、第1空気通流路38を介した第2空気室30Bから第1空気室30Aへの空気の流れが遮断される。この際、図5Cに示すように、第2空気通流路38’を介した第2空気室30Bから第1空気室30Aへの空気の流れは遮断されない。一方で、Oリング36が第2の位置にあるときには、第1空気通流路38を介した第1空気室30Aから第2空気室30Bへの空気の流れが許容される。また、第2空気通流路38’を介した第2空気室30Bから第1空気室30Aへの空気の流れは、第1の位置の場合と同様に、遮断されない。
【0051】
これにより、Oリング36が第1の位置にあるときには、第1空気室30Aと第2空気室30Bとを接続させる空気流路の面積が、Oリング36が第2の位置にある場合の空気流路の面積よりも小さくなる。すなわち、本実施の形態における減衰装置30では、Oリング36の位置に応じて第1空気室30Aと第2空気室30Bとを接続させる空気流路の面積を変えることにより、ピストン32がシリンダ31の一端側(閉鎖板31A側)に相対的に移動しようとする際に発生させる減衰力と、ピストン32がシリンダ31の他端側(開放部分側)に相対的に移動しようとする際に発生させる減衰力とを変えている。
詳しく説明すると、シリンダ31の他端側(開放部分側)に相対的に移動しようとするピストン本体33は、Oリング36が第1の位置になり、第1空気室30Aと第2空気室30Bとを接続させる空気流路の面積が小さくなることで、空気が流れ難くなって大きい減衰力を受ける。一方、シリンダ31の一端側(閉鎖板31A側)に相対的に移動しようとするピストン本体33が受ける減衰力は、Oリング36が第2の位置になることで第1の位置の場合よりも小さくなる。
【0052】
具体的には、フロントグリル2を介して車体外方からの力を受ける際には、減衰装置30による減衰力が大きく作用しないようにし、車体外方からの力で収縮した弾性部材20の復元力によりフロントグリル2を車両前方に復帰させる際には、減衰装置30による減衰力が大きく作用するようにする。これにより、フロントグリル2を緩やかに復帰させることを図っている。
【0053】
一方で、作動調整部40は、フロントグリル2を介して車体外方から伝わる力が所定値未満である際に、弾性部材20及び減衰装置30の収縮動作を制限し、上記力が所定値を越えた際に、弾性部材20及び減衰装置30の収縮動作を許容する。なお、減衰装置30の収縮動作とは、本実施の形態では、ピストン32がシリンダ31の一端側に相対的に移動する動作のことを意味する。
【0054】
図4に示すように、本実施の形態における作動調整部40は、シリンダ31の開放部分側に固定されてピストンロッド34の径方向外側に位置するハウジング41と、ハウジング41に保持されるとともにピストンロッド34に係止された係止部材42と、を有している。
【0055】
係止部材42は、ピストンロッド34側の端部42Aをピストンロッド34の外周面に形成された窪み部34Bに挿入することで、ピストンロッド34に係止されている。係止部材42の端部42Aは先細りに形成され、径方向外側(ピストンロッド34から離れる側)に後退可能になっている。これにより、係止部材42は、一体化されたシリンダ31及びハウジング41を車体3側へ向けて移動させる力を受けた際に、言い換えると、ピストン32をシリンダ31の一端側に相対的に移動させる力を受けた際に、径方向外側への成分の力を受ける。
【0056】
そして、シリンダ31及びハウジング41を車体3側へ向けて移動させる力が所定値を越えた際に、係止部材42が窪み部34Bから離脱する。これにより、シリンダ31及びハウジング41の車体3側への移動が許容される。この場合、弾性部材20及び減衰装置30の収縮動作が許容されることになる。以上のような作動調整部40によれば、フロントグリル2が軽い力で移動してしまうことを抑制することが可能となる。
【0057】
なお、係止部材42は、ボールプランジャや、樹脂材料からなる一体物でもよい。ボールプランジャの場合には、ボール部分が後退することで係止状態が解除され、樹脂材料からなる場合には変形によって係止状態が解除される。
【0058】
<動作>
次に、以上のような構成を備える衝撃吸収装置10の動作について図6及び図7を用いて説明する。
【0059】
図6及び図7においては、上段に衝撃吸収装置10が示され、下段には、上段の衝撃吸収装置10の状態に対応するOリング36周辺の状態が示されている。
【0060】
例えばフロントグリル2が物体に当たった際には、図6(A)の符号Fに示すように、フロントグリル2を介して車体外方から衝撃吸収装置10に力が伝わる。この力Fが、所定値を越えた場合、図6(A)に示すように、作動調整部40の係止部材42とピストンロッド34との係止状態が解除され、力Fに応じた弾性部材20及び減衰装置30の収縮動作が許容される。
【0061】
弾性部材20及び減衰装置30の収縮動作が許容された場合、図6(B)に示すように、本実施の形態ではシリンダ31が車体3側に押し込まれ、このとき、ピストン本体33は、シリンダ31の一端側(閉鎖板31A側)に相対的に移動する。このピストン本体33の相対移動に伴い、弾性部材20は収縮することで、力Fを吸収する。
【0062】
また、この際、図6(B)に示すようにOリング36は第2の位置となり、矢印a1に示すように、第1空気通流路38を介した第1空気室30Aから第2空気室30Bへの空気の流れが許容される。また、図示しないが、第2空気通流路38’を介した第1空気室30Aから第2空気室30Bへの空気の流れが許容される。そのため、力Fに対する減衰装置30による減衰力は大きくは作用しない。この場合、フロントグリル2が衝撃吸収装置10から大きい反力を受けることを回避でき、早い段階でフロントグリル2が破損するような状況が回避され得る。
【0063】
そして、弾性部材20が力Fを吸収した後、弾性部材20は収縮動作を停止する。その後、図7(A)に示すように、弾性部材20は、収縮により生じた復元力によりシリンダ31を車体外方に移動させる。これにより、矢印Bの方向に向けてフロントグリル2が元の位置に向けて復帰される。このとき、ピストン本体33は、シリンダ31の他端側(開放部分側)に相対的に移動され、図7(A)に示すようにOリング36は第1の位置となる。
【0064】
第1の位置では、第2空気通流路38’を介した第1空気室30Aから第2空気室30Bへの空気の流れが許容されるが、図7(A)における矢印a2に示すように、第1空気通流路38を介した第2空気室30Bから第1空気室30Aへの空気の流れが遮断される。そのため、空気流路の面積が押し込みのときよりも更に絞られ、その結果、弾性部材20の復元力に対しては、減衰装置30による大きい減衰力が作用する。これにより、フロントグリル2が復帰する際の速度を大きい減衰力で減衰させて、フロントグリル2を緩やかに復帰させることが可能となる。
【0065】
その後、図7(B)に示すように弾性部材20が伸びきり、作動調整部40の係止部材42とピストンロッド34との係止状態も復帰する。これにより、フロントグリル2が元の位置に復帰する。
【0066】
以上に説明した本実施の形態にかかる衝撃吸収装置10によれば、フロントグリル2を介して車体外方から伝わる力を弾性部材20の収縮によって吸収することで、力を受けた直後のフロントグリル2を効果的に保護できる。また、弾性部材20の収縮による復元力でフロントグリル2を元の位置に向けて復帰させる際に減衰装置30による減衰力が作用することで、フロントグリル2が復帰する際の速度を減衰できる。これにより、フロントグリル2が急激に復帰することにより再度衝撃を受ける状況を回避でき、フロントグリル2を効果的に保護できる。また、弾性部材20の復元力でフロントグリル2が正常な位置又はこれに近い位置に戻るため、フロントグリル2及び付属のレーダ装置6も正常又は正常に近い状態で機能し得る。したがって、車両外装部品及び/又は車両外装部品の付属品を衝撃から効果的に保護できる。
【0067】
なお、本実施の形態ではフロントグリル2と車体3との間に複数の衝撃吸収装置10が取り付けられている。この場合、複数の衝撃吸収装置10が発生させる減衰力を、フロントグリル2に対する位置に応じて変えてもよい。例えば、図1及び図2に示すように、フロントグリル2の上部側に取り付けられる衝撃吸収装置10の数と、下部側に取り付けられる衝撃吸収装置10の数とが異なる場合に、上部側に取り付けられる衝撃吸収装置10の減衰力と、下部側に取り付けられる衝撃吸収装置10の減衰力とが変えられてもよい。
【0068】
また、フロントグリル2と車体3との間に衝撃吸収装置10を取り付けるとともに、バンパと車体3との間に衝撃吸収装置10を取り付ける態様も考えられる。この場合に、対応する車両外装部品の種類(フロントグリル2又はバンパ)に応じて、より詳しく言うと、部品の堅さや重さに応じて、衝撃吸収装置10の減衰力が変えられてもよい。
【0069】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、これらの実施の形態は、例として提示したものであり、上述の実施の形態では、種々の置き換え、変更等を行うことができる。このような変形例も、発明の範囲に含まれる。
【0070】
例えば、上述の実施の形態における減衰装置30は、弾性部材20が収縮される際及び復元力により伸長する際の両方で減衰力を発生させる。しかしながら、減衰装置30は、弾性部材20が復元力により伸長する際のみに、減衰力を発生させる構成でもよい。また、上述の実施の形態における減衰装置30はエアダンパであるが、例えばオイルダンパや、磁気ダンパ等でもよい。ただし、エアダンパは、環境に優しく且つ信頼性が高い点で有益である。
【符号の説明】
【0071】
1…車両
2…フロントグリル
3…車体
3A…フロントクロスメンバ
3L,3R…フロントサイドメンバ
4…車輪
5…ブラケット
10…衝撃吸収装置
20…弾性部材
30…減衰装置
30A…第1空気室
30B…第2空気室
31…シリンダ
31A…閉鎖板
32…ピストン
33…ピストン本体
33A…凹部
34…ピストンロッド
34A…ガイド孔
34B…窪み部
35…溝部
35A…底壁
35B…第1側壁
35C…第2側壁
36…Oリング
38…第1空気通流路
38A…軸方向路
38B…径方向路
38’…第2空気通流路
38A’…軸方向路
38B1…第1径方向路
38B2…第2径方向路
40…作動調整部
41…ハウジング
42…係止部材
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図6
図7