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特許7482826ヤーン、グランドパッキン、およびそれらの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-02
(45)【発行日】2024-05-14
(54)【発明の名称】ヤーン、グランドパッキン、およびそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/22 20060101AFI20240507BHJP
   D02G 3/16 20060101ALI20240507BHJP
   D02G 3/36 20060101ALI20240507BHJP
   D04B 1/22 20060101ALI20240507BHJP
   D04C 1/06 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
F16J15/22
D02G3/16
D02G3/36
D04B1/22
D04C1/06 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021072459
(22)【出願日】2021-04-22
(65)【公開番号】P2022166984
(43)【公開日】2022-11-04
【審査請求日】2023-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000229737
【氏名又は名称】日本ピラー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087653
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴江 正二
(72)【発明者】
【氏名】橘 政志
(72)【発明者】
【氏名】井上 広大
(72)【発明者】
【氏名】林 洋樹
【審査官】鵜飼 博人
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-191803(JP,A)
【文献】特開2007-138316(JP,A)
【文献】特開平06-279753(JP,A)
【文献】特開平11-279531(JP,A)
【文献】米国特許第05370405(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0108534(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/22
D02G 3/16
D02G 3/36
D04B 1/22
D04C 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状に編まれ、または組まれた繊維材を含む筒状部材と、
短冊状の膨張黒鉛材と、
潤滑剤を含み、融点が常温よりも高く、グランドパッキンの最高使用温度よりも低い材料から成り、前記繊維材が成す編み目の長さと幅とのいずれよりもサイズが大きい潤滑部材と
を有し、
前記筒状部材の中に、前記膨張黒鉛材と共に、前記潤滑部材が充填されている
ことを特徴とするヤーン。
【請求項2】
前記潤滑部材が短冊状である、請求項1に記載のヤーン。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のヤーンを含むグランドパッキン。
【請求項4】
ヤーンを製造する方法であって、
繊維材を筒状に編み、または組むことにより、筒状部材を作製する第1工程と、
膨張黒鉛シートを切断することにより、短冊状の膨張黒鉛材を作製する第2工程と、
潤滑剤を含み、融点が常温よりも高く、グランドパッキンの最高使用温度よりも低い材料を、前記繊維材が成す編み目の長さと幅とのいずれよりも大きいサイズに成形することにより、潤滑部材を作製する第3工程と、
前記筒状部材の中へ前記膨張黒鉛材を送り込む作業と、前記筒状部材の中へ前記潤滑部材を送り込む作業とを並行させる第4工程と
を有する方法。
【請求項5】
前記第4工程では、前記膨張黒鉛材と前記潤滑部材とを同じ漏斗へ投入し、前記漏斗の脚から前記筒状部材の中へ落下させる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載の方法によって複数のヤーンを製造する工程と、
前記複数のヤーンをひねり加工または編組加工によって紐状または環状に成形する工程と
を有するグランドパッキンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヤーンと、それを含むグランドパッキンとに関し、特に、それらの構造と製造方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
グランドパッキンは、断面が角形または丸形である紐状または環状の部材であり、ポンプまたはバルブ等の可動軸の外周面に密着することにより、可動軸の周囲の隙間をシールするのに利用される。最も一般的なグランドパッキンはその主要な構成要素として、ヤーンの束を含む。ヤーンは、膨張黒鉛等、耐熱性の高い材料から成る線材である。グランドパッキンに含まれるヤーンの束は、ひねり加工または編組加工により、紐状または環状に成形されている。ヤーンの構造は様々であり、たとえば、紐状に丸められた1本の細長い膨張黒鉛製のテープをコアとして含むもの(特許文献1参照。)、金属製の繊維材で編まれた筒状部材の中に、繊維状または短冊状の膨張黒鉛材が充填されているもの(特許文献2、3参照。)が知られている。
【0003】
グランドパッキンが膨張黒鉛を含む場合、可動軸との摩擦によってグランドパッキンから膨張黒鉛の粉末が剥がれて可動軸に付着する結果、グランドパッキンが可動軸に与える抵抗(摺動抵抗)が増大しやすい。この増大を防ぐ目的で、グランドパッキンには一般に潤滑剤が組み込まれている。潤滑剤の種類は様々であり、常温で液体のもの(潤滑油)、半固体のもの(グリース)、固体のものがある。可動軸と接触するグランドパッキンの表面(摺動面)が摩耗すると、その摺動面へグランドパッキンの内部から潤滑剤が供給される。これにより、可動軸に対するグランドパッキンの摺動抵抗が低く抑えられる。潤滑剤をグランドパッキンへ組み込む方法も様々であり、たとえば、潤滑剤を成形後のグランドパッキンに含浸するもの(特許文献4参照。)、繊維状の潤滑剤を膨張黒鉛製のテープに接着し、そのテープを紐状にねじってヤーンのコアにするもの(特許文献5参照。)、潤滑剤の粉末を膨張黒鉛の粉末に混合し、それらからグランドパッキンを成形するもの(特許文献6参照。)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5205184号公報
【文献】特許第4340647号公報
【文献】特許第4378351号公報
【文献】特許第3578625号公報
【文献】特開2006-349070号公報
【文献】特開2012-246973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
膨張黒鉛からヤーンを作製し、それらの束からグランドパッキンを製造する場合、製造コストの削減には、既製の膨張黒鉛シートを利用することが有利である。しかし、既製の膨張黒鉛シートは一般に、特許文献6に開示された膨張黒鉛の粉末とは異なり、潤滑剤を含まない。したがって、潤滑剤を、膨張黒鉛シート、それから切り出された膨張黒鉛材、それらから成形されたヤーン、または、それらの束から成形されたグランドパッキンのいずれかへ組み込む必要がある。しかし、潤滑剤を組み込む従来の方法はいずれも煩雑であり、特に、その方法に従った作業は、組み込み先を成形する作業から、場所的に、または時間的に分離されなければならない。たとえば、特許文献4に開示された方法では、グランドパッキンへの潤滑剤の含浸または塗布をグランドパッキンの成形と同じ場所で行うことができない。特許文献5に開示された方法では、膨張黒鉛製のテープへ潤滑剤を接着し終えた後でなければ、そのテープを丸めてヤーンとして成形することができない。したがって、潤滑剤の組み込み工程はグランドパッキンの製造方法の更なる簡単化を困難にしている。これは、グランドパッキンの製造コストの削減には不利である。
【0006】
本発明の目的は上記の課題を解決することであり、特に、潤滑剤の組み込みが簡単なグランドパッキン、およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の1つの観点によるヤーンは、筒状部材、膨張黒鉛材、および、潤滑部材を有する。筒状部材の中に、膨張黒鉛材と共に、潤滑部材が充填されている。筒状部材は、筒状に編まれ、または組まれた繊維材を含む。膨張黒鉛材は短冊状である。潤滑部材は、潤滑剤を含み、融点が常温よりも高く、グランドパッキンの最高使用温度よりも低い材料から成り、筒状部材の繊維材が成す編み目の長さと幅とのいずれよりもサイズが大きい。潤滑部材は短冊状であってもよい。
【0008】
本発明の1つの観点によるグランドパッキンは、本発明による上記のヤーンを含む。
【0009】
本発明の1つの観点によるヤーンの製造方法は次の4つの工程を含む。第1工程では、繊維材を筒状に編み、または組むことにより、筒状部材を作製する。第2工程では、膨張黒鉛シートを切断することにより、膨張黒鉛材を作製する。第3工程では、潤滑剤を含み、融点が常温よりも高く、グランドパッキンの最高使用温度よりも低い材料を、筒状部材の繊維材が成す編み目の長さと幅とのいずれよりも大きいサイズに成形することにより、潤滑部材を作製する。第4工程では、筒状部材の中へ膨張黒鉛材を送り込む作業と、筒状部材の中へ潤滑部材を送り込む作業とを並行させる。第4工程では、膨張黒鉛材と潤滑部材とを同じ漏斗へ投入し、その漏斗の脚から筒状部材の中へ落下させてもよい。
【0010】
本発明の1つの観点によるグランドパッキンの製造方法は、本発明による上記の方法によって複数のヤーンを製造する工程と、それらのヤーンをひねり加工または編組加工によって紐状または環状に成形する工程とを有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明による上記のヤーンでは、筒状部材の中に、膨張黒鉛材と共に、潤滑部材が充填されている。潤滑部材の材料は潤滑剤を含み、融点が常温よりも高く、グランドパッキンの最高使用温度よりも低い。したがって、このヤーンの束で構成されたグランドパッキンでは、可動軸との摩擦で発生する熱、または、高温の流体から伝わる熱により、温度が上昇して潤滑部材の融点に達すると、潤滑部材が溶融して周囲の膨張黒鉛材へ拡散し、それらの表面を覆う。その結果、潤滑剤がグランドパッキンの内部に行き渡るので、グランドパッキンの摺動面には、その摩耗がかなり進んでも、グランドパッキンの内部から十分な量の潤滑剤が供給される。こうして本発明による上記のヤーンは、グランドパッキンの摺動抵抗を長期にわたって抑えることができる。
【0012】
本発明による上記のヤーンは本発明による上記の製造方法によって製造される。特にこのヤーンへの潤滑剤の組み込みは、第4工程のとおり、筒状部材の中へ膨張黒鉛材を送り込む作業と、筒状部材の中へ潤滑部材を送り込む作業とを並行させることで達成される。これは、ヤーンへ潤滑剤を組み込む従来の方法のいずれよりも簡単であり、特に、ヤーンの成形と同時に行うことができる。したがって、このヤーンを使ってグランドパッキンを製造することは、グランドパッキンの製造コストの削減に有利である。
【0013】
第4工程では、膨張黒鉛材の形状に潤滑部材の形状が似ているほど、膨張黒鉛材に潤滑部材が混ざりやすい。したがって、潤滑部材は短冊状である場合、膨張黒鉛材によく混ざる。その結果、グランドパッキンの内部における潤滑剤の均一度を高め、グランドパッキンの摺動抵抗が抑えられる期間を延長することができる。
【0014】
第4工程に漏斗が利用される場合、膨張黒鉛材に潤滑部材が簡単に混ざる。その上、潤滑部材の混合度が高いので、グランドパッキンの内部における潤滑剤の均一度を高め、グランドパッキンの摺動抵抗が抑えられる期間を延長することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】(a)は、本発明の実施形態によるグランドパッキンの外観を模式的に示す斜視図である。(b)は、そのグランドパッキンの横断面とその近傍との外観を模式的に示す斜視図である。(c)は、本発明の実施形態によるヤーンの構造を模式的に示す斜視図である。
図2図1のグランドパッキンを利用する軸封装置の断面図である。
図3】本発明の実施形態によるグランドパッキンの製造方法の工程図である。
図4】本発明の実施形態によるヤーンの製造装置の構造を模式的に示す斜視図である。
図5】筒状部材の中へ同時に送り込まれる膨張黒鉛材と潤滑部材とを模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1の(a)は、本発明の実施形態によるグランドパッキン100の外観を模式的に示す斜視図である。グランドパッキン100は横断面が角形の紐であり、幅と厚みとが、たとえば数mm~数十mmである。
【0017】
図2は、グランドパッキン100を利用する軸封装置500の断面図である。軸封装置500は、ポンプの回転軸510の周囲の隙間をシールするための装置であり、スタフィングボックス520とパッキン押さえ530とを含む。スタフィングボックス520は、回転軸510を同軸に囲む円筒部材であり、軸方向の一端部(図2では左端部)521がポンプ室540に面し、他端部(図2では右端部)522がポンプのケーシング550の外側へ露出している。スタフィングボックス520の一端部521から内周方向へはリブ523が突出している。リブ523とスタフィングボックス520の他端部522との間では、スタフィングボックス520の内周面524と回転軸510の外周面511との隙間にグランドパッキン100が詰め込まれている。グランドパッキン100は5つの円環に切り分けられ、回転軸510へ同軸に巻きつけられている。パッキン押さえ530は、回転軸510を同軸に囲む円環部材であり、スタフィングボックス520の他端部522と回転軸510の外周面511との隙間を閉じている。パッキン押さえ530の軸方向の一端面(図2では左端面)531はグランドパッキン100と接触している。パッキン押さえ530の軸方向の他端部(図2では右端部)から外周方向へはフランジ532が張り出しており、スタフィングボックス520の他端部522に複数のボルト533で固定されている。ボルト533の軸圧により、パッキン押さえ530はグランドパッキン100をリブ523へ押し付ける。これにより、グランドパッキン100は軸方向に圧縮されるので、径方向に膨張する。その結果、グランドパッキン100が回転軸510の外周面511に密着するので、回転軸510とリブ523との隙間がシールされる。
【0018】
図1の(b)は、グランドパッキン100の横断面とその近傍との外観を模式的に示す斜視図である。グランドパッキン100は1本の芯材110と8本のヤーン120とを含む。芯材110は、膨張黒鉛材が紐状に成形されたものである。ヤーン120は、筒状部材121の中に膨張黒鉛材122が充填され、紐状に成形されたものである。8本のヤーン120は芯材110のまわりで八つ編みにされている。図示されてはいないが、芯材110とヤーン120とはいずれも、編み組みされる前の状態では、横断面が直径数mmの円形である。一方、図1の(b)が示すように編み組みされた後の状態では、編み組み時とグランドパッキン100の成形時とにおいて加圧されたことにより、横断面が円形から大きく歪んでいる。
【0019】
図1の(c)は、ヤーン120の構造を模式的に示す斜視図である。筒状部材121は筒状に編まれた繊維材123を含む。繊維材123はインコネルまたはステンレス等の金属製であり、横断面が、たとえば直径0.1mmの円形である。繊維材123が成す編み目124は、たとえば、それぞれの長さと幅とが数mmであり、筒状部材121の軸方向に沿って螺旋状に並んでいる。筒状部材121は、ヤーン120が編み組みされる際にその形状を保持すると共に、グランドパッキン100の機械的強度を向上させる。膨張黒鉛材122は、短冊状に成形された膨張黒鉛である。ここで、「短冊状」とは、幅と厚みとのそれぞれに対して長さが、たとえば1桁~3桁、大きい形状を意味する。具体的には、膨張黒鉛材122の横断面は、幅0.5mm~2.5mm、厚み0.2mm~1.0mmの角形であり、長さが100mm~300mmである。膨張黒鉛材122の重量は、たとえば数g/mである。
【0020】
ヤーン120では更に、複数の潤滑部材125が複数の膨張黒鉛材122の間に混在している。潤滑部材125のそれぞれは、筒状部材121の編み目124の長さと幅とのいずれよりもサイズが大きい。好ましくは潤滑部材125が短冊状であり、特に膨張黒鉛材122と同様、幅と厚みとのそれぞれに対して長さが1桁~3桁大きい。具体的には、横断面が角形であり、幅と厚みとが10分の数mm~数mmである一方、長さが数百mmである。
【0021】
潤滑部材125の材料は、好ましくはパラフィンである。このパラフィンは、融点が常温よりも高く、グランドパッキン100の最高使用温度、たとえば数百℃よりも低い。したがって、グランドパッキン100が、たとえば、回転軸510との摩擦で発生する熱、またはポンプ室540内の高温の流体から伝わる熱により、自身の温度をパラフィンの融点以上、すなわち数百℃まで上昇させると、溶融によって流動化したパラフィンが潤滑部材125から周囲の膨張黒鉛材122へ拡散する。流動化したパラフィンは更に、拡散先の膨張黒鉛材122の表面を覆うことにより、潤滑剤として機能する。すなわち、それらの膨張黒鉛材122がグランドパッキン100の摺動面に露出した際、それらの膨張黒鉛材122と回転軸510との間の摩擦を抑える。
【0022】
ヤーン120に対する潤滑部材125の重量比は、好ましくは5%~15%である。この重量比の下限は、「グランドパッキン100の摺動面の焼き付きが十分に防止される」という条件で決まり、上限は、「潤滑部材125の溶融に伴うヤーン120の変形(フロー)にかかわらず、グランドパッキン100の締付圧力が十分に高く維持される」という条件で決まる。
[グランドパッキンの製造方法]
【0023】
図3は、グランドパッキン100の製造方法の工程図である。この製造方法は5つの工程201、202、203、204、205を含む。第1工程201から第4工程204までは、ヤーン120の製造方法である。第1工程201では、繊維材123を筒状に編むことにより、筒状部材121を作製する。第2工程202では、膨張黒鉛シートを切断することにより、膨張黒鉛材122を作製する。第3工程203では、シート状に成形された潤滑部材125、たとえばパラフィンシートを繊維状に切断する。第4工程204では、筒状部材121の中へ膨張黒鉛材122と潤滑部材125とを同時に送り込む。こうして、1本のヤーン120が完成する。第5工程205では、ヤーン120の束をグランドパッキン100に成形する。具体的には、まず、膨張黒鉛材の束を紐状に成形して芯材110を作製する。次に、芯材110のまわりで8本のヤーン120を八つ編みにすることにより、芯材110とヤーン120との束を紐状に成形する。さらに、その束を加圧してその横断面を角形に成形する。こうして、グランドパッキン100が完成する。
【0024】
図4は、ヤーン120の製造装置300の構造を模式的に示す斜視図である。この製造装置300は、第1供給部310、第1切断部320、第2供給部330、第2切断部340、充填部350、および制御部(図示せず。)を含む。
【0025】
第1供給部310は、第1リール311、第1搬送ローラー対312、および第1駆動機構313を含む。第1リール311は、中心軸のまわりで回転可能に支持されている円筒状の枠であり、周囲に膨張黒鉛シート314が巻きつけられている。膨張黒鉛シート314は、たとえば、幅が数十mm~数百mmであり、厚みが0.2mm~1.0mmである。搬送ローラー対312は、中心軸が互いに平行に支持されている1対の円柱部材であり、膨張黒鉛シート314の厚みと同程度に狭い隙間を隔てて、互いの外周面を対向させている。その隙間には、第1リール311から引き出された膨張黒鉛シート314の先端部分が挟まれている。第1駆動機構313は第1搬送ローラー対312をそれぞれの中心軸のまわりで回転可能に支持すると共に、内蔵のモーター(図示せず。)の回転力を使って第1搬送ローラー対312を互いに逆方向へ回転させる。これにより、第1搬送ローラー対312の隙間から第1切断部320へ膨張黒鉛シート314の先端部が送出されると共に、膨張黒鉛シート314の後続部分が第1リール311から第1搬送ローラー対312の隙間へ引き出される。
【0026】
第1切断部320は、第1受け台321と第1平刃322とを含む。第1受け台321は、上面が矩形状の水平面であり、直線状のスリット323を含む。第1受け台321の上面には、第1供給部310から送出された膨張黒鉛シート314の先端部分が載せられて、スリット323と交差している。第1平刃322は、一辺に刃が付いた板状部材であり、第1リニアアクチュエーター(図示せず。)により、受け台321の上方で、刃先が下に向き、かつ、板面が受け台321の板面に対して垂直であるように支持されている。第1リニアアクチュエーターは第1平刃322を上下に移動させ、その刃先を第1受け台321のスリット323に出し入れさせる。これにより、スリット323の上方に位置する膨張黒鉛シート314の部分が切断される。膨張黒鉛シート314から切り離された短冊状の切片、すなわち膨張黒鉛材122は、第1供給部310から第1受け台321へ搬送される膨張黒鉛シート314の後続部分により、第1受け台321から押し出されて落下する。
【0027】
第2供給部330は、第2リール331、第2搬送ローラー対332、および第2駆動機構333を含む。第2リール331は、中心軸のまわりで回転可能に支持されている円筒状の枠であり、周囲にパラフィンシート334が巻きつけられている。パラフィンシート334は、たとえば、幅が数十mm~数百mmであり、厚みが10分の数mm~数mmである。第2搬送ローラー対332は、中心軸が互いに平行に支持されている1対の円柱部材であり、パラフィンシート334の厚みと同程度に狭い隙間を隔てて、互いの外周面を対向させている。その隙間には、第2リール331から引き出されたパラフィンシート334の先端部分が挟まれている。第2駆動機構333は第2搬送ローラー対332をそれぞれの中心軸のまわりで回転可能に支持すると共に、内蔵のモーター(図示せず。)の回転力を使って第2搬送ローラー対332を互いに逆方向へ回転させる。これにより、第2搬送ローラー対332の隙間から第2切断部340へパラフィンシート334の先端部が送出されると共に、パラフィンシート334の後続部分が第2リール331から第2搬送ローラー対332の隙間へ引き出される。
【0028】
第2切断部340は、第2受け台341と第2平刃342とを含む。第2受け台341は、上面が矩形状の水平面であり、直線状のスリット343を含む。第2受け台341の上面には、第2供給部330から送出されたパラフィンシート334の先端部分が載せられて、スリット343と交差している。第2平刃342は、一辺に刃が付いた板状部材であり、第2リニアアクチュエーター(図示せず。)により、第2受け台341の上方で、刃先が下に向き、かつ、板面が第2受け台341の板面に対して垂直であるように支持されている。第2リニアアクチュエーターは第2平刃342を上下に移動させ、その刃先を第2受け台341のスリット343に出し入れさせる。これにより、スリット343の上方に位置するパラフィンシート334の部分が切断される。パラフィンシート334から切り離された短冊状の切片、すなわち潤滑部材125は、第2供給部330から第2受け台341へ搬送されるパラフィンシート334の後続部分により、第2受け台341から押し出されて落下する。
【0029】
充填部350は漏斗351と丸編機352とを含む。漏斗351の円錐部353は第1受け台321と第2受け台341との両方の下方に広がっている。円錐部353には、第1受け台321から落下した膨張黒鉛材122と、第2受け台341から落下した潤滑部材125とが投入される。投入された膨張黒鉛材122と潤滑部材125とは、それぞれの一端が漏斗351の円錐部353の内面に衝突することにより、他端が下方へ傾いた姿勢となり、その姿勢で円錐部352の内面に沿って滑落する。漏斗351の脚354は円筒形状であり、下端部が丸編機352の内部へ挿入されている。脚354の内側では膨張黒鉛材122と潤滑部材125とがいずれも上下方向に対してほぼ平行となり、丸編機352の内部へ落下する。丸編機352は繊維材123から筒状部材121を作製する(図1の(c)参照)。丸編機352の内部では筒状部材121は、その中心軸が上下方向に対して平行であるように支持されている。漏斗351の脚354の下端は筒状部材121の空洞の真上に配置され、脚354の下端の内径は筒状部材121の内径以下に設計されている。これにより、脚354を通過した膨張黒鉛材122と潤滑部材125とは、上下方向に対してほぼ平行な姿勢のまま、筒状部材121の内側へ落下する。
【0030】
制御部は、搬送ローラー対312、332、平刃322、342、および丸編機352の動作を制御する電子回路系統であり、制御回路と駆動回路とを含む。制御回路は、マザーボード、パーソナルコンピューター等の産業用コンピューターであり、各種ソフトウェアを実行することにより、駆動回路へ指示を送る。駆動回路は、マイクロプロセッサー(MPU/CPU)、特定用途向け集積回路(ASIC)、またはプログラム可能な集積回路(FPGA)等の論理回路と、スイッチングコンバーター等の電源回路との組み合わせであり、供給部310、330の駆動機構313、333、切断部320、340のリニアアクチュエーター、および丸編機352のそれぞれに設置されている。論理回路は、制御回路からの指示に応じ、モーター、ソレノイド等のアクチュエーターの出力の目標値を設定する。電源回路は、アクチュエーターへの供給電力を調節して、アクチュエーターの出力を目標値に維持する。
【0031】
以上の機能部310-350を利用して、製造装置300は、図3が示す第1工程201から第4工程204までの作業を、以下のように行う。
(第1工程201)
【0032】
制御回路が丸編機352の駆動回路へ編成開始の指示を送る。この指示に応じ、その駆動回路が丸編機352を起動させ、筒状部材121を作製させる。その後、筒状部材121が所定長まで、たとえば膨張黒鉛材122の長さまで伸びるのに必要な時間が経過したとき、制御回路が丸編機352の駆動回路へ編成中断の指示を送る。この指示に応じ、その駆動回路が丸編機352を停止させる。
(第2工程202と第3工程203)
【0033】
制御回路が供給部310、330の駆動機構313、333の駆動回路へ搬送開始の指示を送る。この指示に応じ、それらの駆動回路が駆動機構313、333のモーターを起動し、搬送ローラー対312、332を断続的に回転させる。これにより膨張黒鉛シート314は、膨張黒鉛材122の幅だけ進む度に所定時間停止するという動作を繰り返し、パラフィンシート334は、潤滑部材125の幅だけ進む度に所定時間停止するという動作を繰り返す。
【0034】
上記の搬送開始の指示を送るタイミングに合わせて、制御回路が切断部320、340のリニアアクチュエーターの駆動回路へ切断開始の指示を送る。この指示に応じ、それらの駆動回路がリニアアクチュエーターを起動させ、平刃322、342に往復運動を一定の時間間隔で繰り返させる。
【0035】
制御回路が搬送開始の指示と切断開始の指示とを送る時刻、搬送ローラー対312、332が回転する時間と停止する時間、および、平刃322、342が往復運動を行う時間間隔は、次のように設計されている。第1平刃322は、膨張黒鉛シート314が移動している間は第1受け台321の上方で待機し、膨張黒鉛シート314が停止している間に一往復して膨張黒鉛シート314を切断する。第2平刃342は、パラフィンシート334が移動している間は第2受け台341の上方で待機し、パラフィンシート334が停止している間に一往復してパラフィンシート334を切断する。
(第4工程204)
【0036】
膨張黒鉛シート314から切り離された膨張黒鉛材122は、第1搬送ローラー対312が回転する度に1本ずつ、第1受け台321から漏斗351へ投入される。パラフィンシート334から切り離された潤滑部材125は、第2搬送ローラー対332が回転する度に1本ずつ、第2受け台341から漏斗351へ投入される。第2工程202と第3工程203とは同時に進行するので、漏斗351の脚354の内側では複数の膨張黒鉛材122に複数の潤滑部材125が混合される。
【0037】
図5は、筒状部材121の中へ同時に送り込まれる膨張黒鉛材122と潤滑部材125とを模式的に示す斜視図である。丸編機352の内部では、漏斗351の脚354の下端355から筒状部材121の中へ膨張黒鉛材122と潤滑部材125とが落下する。図5には示されていないが、筒状部材121の下端は、たとえば丸編機352の部材によって閉じられているので、落下した膨張黒鉛材122と潤滑部材125とは筒状部材121の中に蓄積される。膨張黒鉛材122と潤滑部材125とは筒状部材121の編み目124の長さと幅とのいずれよりもサイズが大きいので、編み目124から筒状部材121の外へ抜け出すことがない。
【0038】
搬送開始の指示を送った時刻から第1所定時間が経過したとき、制御回路が供給部310、330の駆動機構313、333の駆動回路へ搬送中断の指示を送る。この指示に応じ、それらの駆動回路が駆動機構313、333のモーターを停止させる。さらに、切断開始の指示を送った時刻から第2所定時間が経過したとき、制御回路が切断部320、340のリニアアクチュエーターの駆動回路へ切断中断の指示を送る。この指示に応じ、それらの駆動回路がリニアアクチュエーターを停止させる。第1所定時間と第2所定時間とは、それらが経過したとき、所定長の筒状部材121の空洞を埋めるのに必要な量の膨張黒鉛材122と潤滑部材125とが作製されるように設定されている。したがって、搬送ローラー対312、332と平刃322、342とが停止したとき、筒状部材121の中には膨張黒鉛材122と潤滑部材125とが充填されている。
【0039】
以上に述べた第1工程201から第4工程204までの作業を、製造装置300は繰り返す。これにより、丸編機352が筒状部材121を所定長ずつ伸ばす度に、伸びた部分の中に膨張黒鉛材122と潤滑部材125とが充填される。こうして、製造装置300は1本のヤーン120を完成させる。
[実施形態の利点]
【0040】
ヤーン120の製造方法の第4工程204では、膨張黒鉛材122が漏斗351へ投入され、その脚354から筒状部材121の中へ落下する。さらに、それと同時に潤滑部材125が同じ漏斗351へ投入され、その脚354から筒状部材121の中へ落下する。その結果、筒状部材121の中に膨張黒鉛材122が充填されてヤーン120が成形されると同時に、ヤーン120の中へ潤滑部材125が組み込まれる。このように、ヤーン120への潤滑剤、すなわちパラフィンの組み込みは簡単であり、特にヤーン120の成形と同時に行われる。これは、グランドパッキン100の製造コストの更なる削減に有利である。
【0041】
漏斗351の中では、膨張黒鉛材122に潤滑部材125が簡単に混ざる。さらに、潤滑部材125は膨張黒鉛材122と同様な短冊状であるので、潤滑部材125の混合度が高い。したがって、グランドパッキン100の使用温度の上昇に伴って溶融したパラフィンが、グランドパッキン100の内部に行き渡る。その結果、グランドパッキン100の摺動面には、その摩耗がかなり進んでも、グランドパッキン100の内部から十分な量のパラフィンが供給される。こうしてヤーン120は、グランドパッキン100の摺動抵抗を長期にわたって抑えることができる。
【0042】
ヤーン120に対する潤滑部材125の重量比は、主に、1本の膨張黒鉛材122に対する1本の潤滑部材125の重量比と、ヤーン120が含む膨張黒鉛材122の本数に対する潤滑部材125の本数の比とで決まる。したがって、重量比は、潤滑部材125の幅にも、単位時間あたりに漏斗351へ落下する潤滑部材125の本数にも依存する。潤滑部材125の幅は、第2搬送ローラー対332が回転する速度または時間によって調節可能であり、単位時間あたりに漏斗351へ落下する潤滑部材125の本数は、第2搬送ローラー対332が回転を断続させる周期によって調節可能である。こうして、製造装置300は、それが組み立てられた後でも、ヤーン120に対する潤滑部材125の重量比を比較的自由に変更することができる。これは、グランドパッキン100の製造コストの更なる削減に有利である。
[変形例]
【0043】
(1)グランドパッキン100は紐状であり、横断面が角形である。しかし、その形状の他に、本発明によるグランドパッキンは環状であってもよく、横断面が丸形であってもよい。
【0044】
(2)グランドパッキン100に含まれるヤーン120の束は八つ編みにされている。しかし、本発明によるグランドパッキンではヤーンの束が、袋編み、格子編み等の他の編組加工、またはひねり加工により、紐状または環状に成形されていてもよい。
【0045】
(3)グランドパッキン100は芯材110として、膨張黒鉛材の束を含む。芯材はその他に、膨張黒鉛製のテープが積層され、紐状に成形されたものであってもよい。なお、芯材は必須の構成要素ではないので、本発明によるグランドパッキンから省略されてもよい。
【0046】
(4)ヤーン120の主要な材料は、膨張黒鉛である。しかし、その他にも、耐熱性、シール対象の流体等に対する耐腐食性とシール性、加工性、機械的強度等が膨張黒鉛と同等な材料であれば、本発明によるヤーンの主要な材料として採用可能である。
【0047】
(5)図1の(c)が示す筒状部材121の編み目124の形状と寸法とは一例に過ぎず、その他の形状または寸法であってもよい。また、本発明によるヤーンの筒状部材は、複数の繊維材が組まれたものであってもよい。
【0048】
(6)潤滑部材125の材料はパラフィンである。しかし、その他にも、次の性質(A)、(B)を備えた物質であれば、本発明による潤滑部材の材料として採用可能である。(A)融点が常温よりも高く、グランドパッキンの最高使用温度よりも低い。(B)溶融状態では、潤滑部材から周囲の膨張黒鉛材へ拡散してそれらの表面を覆うことにより、潤滑剤として機能する。そのような材料としてはたとえば、酸化ホウ素、三酸化二ホウ素、亜鉛、臭化亜鉛、臭化銀、臭化セシウム、臭化銅、炭酸リチウム、マグネシウム、リチウムアミドが挙げられる。また、本発明による潤滑部材は、融点が常温よりも高く、グランドパッキンの最高使用温度よりも低い基材、たとえばパラフィンの中に、潤滑油、グリース、または固体潤滑剤の粉末が分散されたものであってもよい。グランドパッキンの使用温度の上昇に伴い、溶融によって流動化した基材が周囲の膨張黒鉛材へ拡散し、それらの表面に、潤滑油、グリース、または固体潤滑剤の粉末を付着させればよい。
【0049】
(7)ヤーン120の製造方法の第3工程203では、パラフィンシート334を切断することにより、潤滑部材125を短冊状に成形する。この場合、パラフィンシート334として既製品を利用することができる。これは、グランドパッキン100の製造コストの削減に有利である。しかし、潤滑部材は、筒状部材121の編み目124の長さと幅とのいずれよりもサイズが大きければよく、潤滑部材が短冊状であることは本発明にとって必須ではないので、第3工程では、たとえば材料の粉末等を所望の形状に固めてもよい。
【0050】
(8)ヤーン120の製造方法の第4工程204では、膨張黒鉛材122と潤滑部材125とが同時に漏斗351へ投入され、その脚354の内側で混合され、その脚354の下端355から筒状部材121の中へ落下する。しかし、ここでいう「同時」は過度に厳格に解釈されるべきではない。本発明による第4工程では、筒状部材の中へ膨張黒鉛材を送り込む作業と、筒状部材の中へ潤滑部材を送り込む作業とを並行させさえすればよい。たとえば、膨張黒鉛材122だけが漏斗351を通して筒状部材121の中へ落下する期間と、潤滑部材125だけが漏斗351を通して筒状部材121の中へ落下する期間とが交互に小刻みに切り換えられてもよい。この場合、膨張黒鉛材122と潤滑部材125とは筒状部材121の中で混合される。また、膨張黒鉛材122が筒状部材121の中へ落下する経路と、潤滑部材125が筒状部材121の中へ落下する経路とが別であってもよい。この場合も、膨張黒鉛材122と潤滑部材125とは筒状部材121の中で混合される。その他に、膨張黒鉛シート314から切り離された直後の膨張黒鉛材122と、パラフィンシート334から切り離された直後の潤滑部材125とが、一旦同じ場所に集められて混合され、その後、一緒に筒状部材121の中へ送り込まれてもよい。
【符号の説明】
【0051】
100 グランドパッキン
110 芯材
120 ヤーン
121 筒状部材
122 膨張黒鉛材
123 繊維材
124 編み目
125 潤滑部材
201 グランドパッキンの製造方法の第1工程
202 グランドパッキンの製造方法の第2工程
203 グランドパッキンの製造方法の第3工程
204 グランドパッキンの製造方法の第4工程
205 グランドパッキンの製造方法の第5工程
300 ヤーンの製造装置
310 第1供給部
311 第1リール
312 第1搬送ローラー対
313 第1駆動機構
314 膨張黒鉛シート
320 第1切断部
321 第1受け台
322 第1平刃
323 第1受け台のスリット
330 第2供給部
331 第2リール
332 第2搬送ローラー対
333 第2駆動機構
334 パラフィンシート
340 第2切断部
341 第2受け台
342 第2平刃
343 第2受け台のスリット
350 充填部
351 漏斗
352 丸編機
353 漏斗の円錐部
354 漏斗の脚
355 漏斗の脚の下端
図1
図2
図3
図4
図5