(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-02
(45)【発行日】2024-05-14
(54)【発明の名称】スピーカー
(51)【国際特許分類】
H04R 9/04 20060101AFI20240507BHJP
H04R 31/00 20060101ALI20240507BHJP
H04R 1/06 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
H04R9/04 103
H04R31/00 B
H04R1/06 310
(21)【出願番号】P 2021074362
(22)【出願日】2021-04-26
【審査請求日】2023-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000223182
【氏名又は名称】TOA株式会社
(72)【発明者】
【氏名】内林 一郎
(72)【発明者】
【氏名】石原 弘之
(72)【発明者】
【氏名】山田 朗博
(72)【発明者】
【氏名】松元 孝弥
(72)【発明者】
【氏名】阿部 寛
【審査官】中嶋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】実開昭55-127500(JP,U)
【文献】実開昭55-127499(JP,U)
【文献】実開昭62-112297(JP,U)
【文献】特開平11-113085(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 9/04
H04R 31/00
H04R 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動板と、当該振動板の略中央に設けられた開口部に挿入されるボイスコイルと、当該ボイスコイルの周囲に配置されるマグネットと
、錦糸線とを有するスピーカーにおいて、
前記ボイスコイルから引き出し線が、前記振動板に沿って引き出され、
前記引き出し線と前記錦糸線とが半田付けされ、
前記錦糸線において、前記半田付けされた部分よりも振動板の外側方向に位置する所定の部分が前記振動板に接着剤で接着され、
前記錦糸線において前記接着剤が塗布される部分に予め半田が塗布されているスピーカー。
【請求項2】
請求項1に記載のスピーカーにおいて、
前記引き出し線は、前記振動板の内側に沿って引き出され、
前記錦糸線は、前記振動板の振動面上に設けられた孔を介して、前記振動板の外から内側に挿入され、
前記振動板の内側で、前記引き出し線と前記錦糸線とが半田付けされ、
前記振動板の外側であって前記孔周辺において、前記錦糸線が前記振動板に接着されるスピーカー。
【請求項3】
振動板と、当該振動板の略中央に設けられた開口部に挿入されるボイスコイルと、当該ボイスコイルの周囲に配されるマグネットと
、錦糸線とを有するスピーカーの製造方法であって、
前記ボイスコイルから引き出し線を、前記振動板に沿って引き出す工程と、
前記引き出し線と前記錦糸線とを半田付けする工程と、
前記錦糸線のうち、前記半田付けされた部分よりも振動板の外側方向に位置する所定の部分を、接着剤を用いて前記振動板に接着する工程と、
前記接着の工程より前に、前記錦糸線のうち前記接着剤が塗布される部分に半田を塗布する工程とを含むスピーカーの製造方法。
【請求項4】
振動板と、当該振動板の略中央に設けられた開口部に挿入されるボイスコイルと、当該ボイスコイルの周囲に配されるマグネットと
、錦糸線とを有するスピーカーの製造方法であって、
前記ボイスコイルから引き出し線を、前記振動板に沿って引き出す工程と、
前記引き出し線と前記錦糸線とを半田付けする工程と、
前記錦糸線のうち、前記半田付けされた部分よりも振動板の外側方向に位置する所定の部分を、接着剤を用いて前記振動板に接着する工程と、
前記半田付けと前記接着の工程の前に、前記錦糸線に予め半田を塗布する予備ハンダ工程であって、前記半田付け工程で前記錦糸線が半田付けされる部分から前記接着工程で前記接着剤が塗布される部分に渡って前記錦糸線に予め半田を塗布する予備ハンダ工程とを含むスピーカーの製造方法。
【請求項5】
ダイナミックスピーカーに用いられる、振動板とボイスコイルと錦糸線とを有する振動板ユニットであって、
前記ボイスコイルは、前記振動板の略中央に設けられた開口部に挿入され、
前記ボイスコイルから引き出し線が、前記振動板に沿って引き出され、
前記引き出し線と前記錦糸線とが半田付けされ、
前記錦糸線において、前記半田付けされた部分よりも振動板の外側方向に位置する所定の部分が前記振動板に接着剤で接着され、
前記錦糸線において前記接着剤が塗布される部分に予め半田が塗布されている振動板ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピーカーに関し、特に、スピーカーの製造工程の改善に関する。
【背景技術】
【0002】
典型的なダイナミックスピーカーは、コーン紙等から成る振動板と、ボイスコイルと、マグネットとを有する。
図1~
図3は、典型的なスピーカーの一例を示す。
図1では、スピーカー1を側面から見た図である。
図2は、スピーカー1を上面(振動板側)から見た図である。
図3は、
図1中の点線円Cで囲んだ部分を拡大した図である。スピーカー1は、コーン紙等から成る振動板2と、ボイスコイル3と、マグネット4とを備える。ボイスコイル3は、振動板2の中心に開けられた開口部2aに下方から挿入され、固定される。ボイスコイル3の周りにはマグネット4が置かれる。振動坂2には、外部からスピーカーの駆動信号が伝達される錦糸線5を通すための孔2bが設けられている。振動坂2の内側を沿わせて引き出されたボイスコイル3の引き出し線3aと、孔2bを介して振動坂2の外側から内側に通した錦糸線5とが、半田6によって半田付け固定される。
【0003】
上記したような典型的なスピーカーの構造が、特許文献1~4に開示されている。
【文献】特開平10-13995号
【文献】特開2000-69589号
【文献】特開昭59-141900号
【文献】実開昭62-6795号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図3に示すように、錦糸線5が引き出される振動坂2の外側では、錦糸線5に接着剤7が塗布されて、錦糸線5と振動板2とが接着される。ところが、多くの接着剤には塩素が含有されており、接着剤で錦糸線5を接着している部分に水分が入り込むことが多い環境下では、接着剤に含まれる塩素と水分とが反応して、錦糸線に腐食を生じさせることがある。
【0005】
本発明は、ダイナミックスピーカーにおいて、接着剤で振動板に接着される錦糸線が腐食するのを防ぐことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態に係るスピーカーは、振動板と、当該振動板の略中央に設けられた開口部に挿入されるボイスコイルと、当該ボイスコイルの周囲に配置されるマグネットとを有するスピーカーにおいて、前記ボイスコイルから引き出し線が、前記振動板に沿って引き出され、前記引き出し線と前記錦糸線とが半田付けされ、前記錦糸線において、前記半田付けされた部分よりも振動板の外側方向に位置する所定の部分が前記振動板に接着剤で接着され、前記錦糸線において前記接着剤が塗布される部分に予め半田が塗布されている。また、本発明の実施形態に係る振動板ユニットは、上記のスピーカーに用いられる振動板とボイスコイルと錦糸線とを含む振動板ユニットである。
【0007】
本発明の実施形態に係るスピーカーの製造方法は、振動板と、当該振動板の略中央に設けられた開口部に挿入されるボイスコイルと、当該ボイスコイルの周囲に配されるマグネットとを有するスピーカーの製造方法であって、前記ボイスコイルから引き出し線を、前記振動板に沿って引き出す工程と、前記引き出し線と前記錦糸線とを半田付けする工程と、前記錦糸線のうち、前記半田付けされた部分よりも振動板の外側に向かって延びる所定の部分を、接着剤を用いて前記振動板に接着する工程と、前記接着の工程より前に、前記錦糸線のうち前記接着剤が塗布される部分に半田を塗布する工程とを含む。また、本発明の実施形態に係るスピーカーの製造方法は、振動板と、当該振動板の略中央に設けられた開口部に挿入されるボイスコイルと、当該ボイスコイルの周囲に配されるマグネットとを有するスピーカーの製造方法であって、前記ボイスコイルから引き出し線を、前記振動板に沿って引き出す工程と、前記引き出し線と前記錦糸線とを半田付けする工程と、前記錦糸線のうち、前記半田付けされた部分よりも振動板の外側に向かって延びる所定の部分を、接着剤を用いて前記振動板に接着する工程と、前記半田付けと前記接着の工程の前に、前記錦糸線に予め半田を塗布する予備ハンダ工程であって、前記半田付け工程で前記錦糸線が半田付けされる部分から前記接着工程で前記接着剤が塗布される部分に渡って前記錦糸線に予め半田を塗布する予備ハンダ工程とを含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、ダイナミックスピーカーにおいて、接着剤で振動板に接着される錦糸線が腐食するのを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、従来の典型的なスピーカーの構造を示す側面図である。
【
図2】
図2は、従来の典型的なスピーカーの構造を示す上面図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施形態に係るスピーカーの構造を示す側面図である。
【
図5】
図5は、本発明の実施形態に係るスピーカーの構造を示す上面図である。
【
図7】
図7は、錦糸線を半田でコーティングする様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図4は、本発明の実施形態に係るスピーカー10の構成を示す図であり、スピーカー10を側面から見た図である。
図5は、スピーカー10を上面(振動板側)から見た図である。
図6は、
図4中の点線円Cで囲んだ部分を拡大した図である。スピーカー10は、コーン紙等から成る振動板12と、ボイスコイル13と、マグネット14とを備えるダイナミックスピーカーである。ボイスコイル13は、振動板12の中心に開けられた開口部12aに下方から挿入され、固定される。ボイスコイル13の周りにはマグネット14が配置される。振動坂12の振動面には、外部からスピーカーの駆動信号が伝達される錦糸線15を通すための孔12bが設けられている。スピーカーの駆動信号に対応して錦糸線は15は一対の(2本の)リード線であり、これに対応して、2つの孔12bが設けられる。
【0011】
スピーカー10において、ボイスコイルの13と錦糸線15とが接続され、錦糸線15を介して伝達されるスピーカー駆動信号を受けてボイスコイル13が上下に駆動(振動)し、これと一体的に振動板12が上下に駆動(振動)することで音声が発せられる。ボイスコイル13と錦糸線15との接続にあたっては、ボイスコイル13から引き出された引き出し線13aと、錦糸線15とが、振動板12の内側で半田付けされる。より具体的には、錦糸線15が孔12bを介して振動板12の外側から内側に挿入される一方、ボイスコイル13から引き出された引き出し線13aが振動板12の内側に沿って孔12b付近まで引き出される。振動板12の内側の孔12b付近において、引き出し線13aと錦糸線15とが半田6によって半田付けされ互いに接合される。振動板12の内側において、引き出し線13aと錦糸線15とが半田付けされた部分は、接着剤(図示しない)が塗布されて接着される。また、振動板12の外側においても、錦糸線15に接着剤17が塗布されて、錦糸線15が振動板12に接着される。
【0012】
接着剤17は、例えば、ゴム系接着剤である。ゴム系接着剤は、自然乾燥により硬化し、熱硬化型のエポキシ系接着剤やシリコーン系接着剤と比べて扱いやすい。ただし、接着剤17には塩素が含まれることがある。例えば、スピーカー10が高温多湿な環境下で設置されているような場合、空気中の水分が接着剤17に含まれる塩素と反応し、接着剤17に触れている錦糸線15を腐食させてしまう恐れがある。そこで、本実施形態では、接着剤17が塗布される錦糸線15の部分に予め半田20を塗布してコーティングする。
【0013】
図7は、錦糸線15を半田でコーティングする様子を示す図である。錦糸線15において、接着剤17が塗布される部分に予め半田20が塗布される。すなわち、接着剤17が塗布される部分は、引き出し線13aと接合する部分ではなく半田付けの必要がない部分であるにも関わらず、接着剤17が塗布される前にあえて半田20が塗布される。これにより、振動板12の外側において、錦糸線15は、半田20が塗布された上から接着剤17が塗布される状態となる。錦糸線15は半田20によっていわばコーティングされた状態となり、接着剤17と直接触れないため、腐食から守られる。
【0014】
上記構造を実現するための、スピーカー10の製造工程について説明する。スピーカー10の製造工程は、振動板12の内側に沿わせてボイスコイル13から引き出し線13aを引き出す引き出し工程を含む。スピーカー10の製造工程は、孔12bを介して振動板12の外側から内側に錦糸線15を挿入する挿入工程を含む。スピーカー10の製造工程は、引き出し工程で引き出した引き出し線13aと、挿入工程で挿入した錦糸線15とを、振動板12の内側で接合する接合工程を含む。接合工程では、引き出し線13aと錦糸線15に半田16を塗布して両者を接合する。スピーカー10の製造工程は、振動板12の内側において、半田16で引き出し線13aと錦糸線15とが半田付けされた部分に、接着剤を塗布して振動板12に接着する内側接着工程を含む。スピーカー10の製造工程は、振動板12の外側において、孔12bを介して振動板12の内側から外側に出ている錦糸線15に接着剤17を塗布して振動板12に接着する外側接着工程を含む。すなわち、外側接着工程では、錦糸線15のうち、接合工程で引き出し線13aと半田付けされる部位よりも振動板12の外側方向に位置する部位に接着剤17を塗布して、振動板12と接着する。また、スピーカー10の製造工程は、少なくとも外側接着工程の前に、接着剤17が塗布される錦糸線15の部分に半田10を塗布する半田コーティング工程を含む。
【0015】
半田コーティング工程は、予備ハンダ工程に含まれる。予備ハンダ工程は、接合工程で錦糸線15に半田16を塗布する際に半田16の乗りを良くするため、予め錦糸線15に半田を塗布する工程である。予備ハンダ工程では、挿入工程の前に、孔12bを介して振動板12の外側から挿入する錦糸線15の先端に半田20を塗布する。すなわち、錦糸線15において先端から所定の範囲内に半田20を塗布する。ここで、その後挿入工程、接合工程、外側接着工程と進んだときに接着剤17が塗布される錦糸線15の部分に半田20が塗布されるように、錦糸線15の先端から所定の範囲にわたって半田20を塗布する。より具体的には、
図7に示すように、予備ハンダ工程において、錦糸線15の先端からL1の範囲とL2の範囲が含まれるように半田20を塗布する。L1は、振動板12の内側で錦糸線15が引き出し線13aと接合される(半田16が塗布される)部分に対応する範囲(部位)である。L2は、L1よりも振動板12の外側方向に位置する範囲(部位)であり、振動板12の外側で錦糸線15に接着剤17が塗布される範囲(部位)である。これにより、予備ハンダ工程後、接合工程では、半田20がすでに塗布された上から半田16を塗布して引き出し線13aと錦糸線15とが接合され、外側接着工程では、半田20がすでに塗布された上から接着剤17を塗布して錦糸線15が振動板12に接着される。外側接着工程において接着剤17は直接錦糸線15に塗布されず、半田20でコーティングされた上から塗布されるため、接着剤17に含まれる塩素と空気中の水分とが反応することに起因する錦糸線15の腐食を防ぐことができる。また、半田20でのコーティングは、半田付けのため半田16が塗布される部分(L1の範囲)に予め半田を塗布しておく予備ハンダ工程を利用し、半田20を塗布する範囲をL1からL2にまで延長することによって実現できているため、スピーカー10の製造工程において多大な追加コストをかけることなく簡易な工程改善で実現できている。
【0016】
具体的な一例として、L1は錦糸線15の先端から2~2.5mm程度の範囲であるとよい。また、具体的な一例として、L2は錦糸線15のL1の終端から5mm程度の範囲であるとよい。
【0017】
以上、
図1~
図7を用いて本発明の実施形態を説明したが、これは限定的ではなく例示的なものである。特許請求の範囲に記載する本発明の精神を逸脱することなく、実施形態に対して様々な修正や変更がなされ得ることは明らかである。
【符号の説明】
【0018】
10 スピーカー
12 振動板
13 ボイスコイル
14 マグネット
15 錦糸線
20 半田