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特許7482853アフィニティキャピラリ電気泳動のシステム及び方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-02
(45)【発行日】2024-05-14
(54)【発明の名称】アフィニティキャピラリ電気泳動のシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/561 20060101AFI20240507BHJP
   C07K 1/22 20060101ALI20240507BHJP
   C07K 1/26 20060101ALI20240507BHJP
   B01D 57/02 20060101ALI20240507BHJP
   B03C 5/00 20060101ALI20240507BHJP
   G01N 27/447 20060101ALI20240507BHJP
   C07K 14/705 20060101ALN20240507BHJP
【FI】
G01N33/561
C07K1/22
C07K1/26
B01D57/02
B03C5/00 Z
G01N27/447 301B
G01N27/447 301A
G01N27/447 331H
G01N27/447 331K
C07K14/705
【請求項の数】 33
(21)【出願番号】P 2021512606
(86)(22)【出願日】2019-09-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-04
(86)【国際出願番号】 US2019050361
(87)【国際公開番号】W WO2020055832
(87)【国際公開日】2020-03-19
【審査請求日】2022-09-05
(31)【優先権主張番号】62/729,384
(32)【優先日】2018-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】509012625
【氏名又は名称】ジェネンテック, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】デント, ケルシー キャサリン
(72)【発明者】
【氏名】フィッシャー, デーヴィッド ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ミッシェルズ, デーヴィッド エー.
【審査官】北条 弥作子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0045527(US,A1)
【文献】特表2015-500002(JP,A)
【文献】特開平09-171020(JP,A)
【文献】特表2001-523971(JP,A)
【文献】特表2016-530223(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0004168(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0171095(US,A1)
【文献】特表2002-534957(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48~33/98
C07K 1/00~19/00
B03C 3/00~11/00
B01D 57/00
G01N 27/447
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中のマルチサブユニットタンパク質を分離するためのシステムであって、以下:
(a)リガンドの非結合領域がグルタミン酸又はアスパラギン酸で修飾されたリガンドと、
(b)バックグラウンド電解質緩衝液と、
(c)前記試料と、
(d)キャピラリと、
(e)前記キャピラリの一端にある、又は一端の近くのアノードと、
(f)前記キャピラリのもう一方の端にある、又はもう一方の端の近くのカソードと、を備え、
前記試料が、前記リガンドと混合されて少なくとも1つのリガンド-タンパク質複合体を形成し、かつ前記キャピラリの前記アノード端で前記キャピラリ内に装填され、かつ
前記キャピラリが、前記リガンドと混合された前記バックグラウンド電解質緩衝液で満たされている、システム。
【請求項2】
前記キャピラリの前記カソード端の近くに配置された検出器を更に備え、前記検出器が、210nm~220nmの吸光度又はレーザ誘起蛍光を検出する、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記試料が、少なくとも1つのホモダイマー、少なくとも1つのヘテロダイマー、又はそれらの組合せを含む、請求項1又は記載のシステム。
【請求項4】
前記リガンドが、前記少なくとも1つのヘテロダイマーの第1のサブユニットに結合し、かつ前記少なくとも1つのヘテロダイマーの第2のサブユニットに結合しない場合に、第1のリガンド-タンパク質複合体が形成される、請求項に記載のシステム。
【請求項5】
前記リガンドが前記ホモダイマーの少なくとも2つの同一第1のサブユニット又は第2サブユニットに結合する場合に、第2のリガンド-タンパク質複合体が形成される、請求項に記載のシステム。
【請求項6】
前記リガンドが前記マルチサブユニットタンパク質の前記サブユニットに結合する場合に、前記少なくとも1つのリガンド-タンパク質複合体が、変化した電荷、質量、流体力学的サイズ、電気泳動移動度、又はそれらの組合せを有するように構成される、請求項4又は5に記載のシステム。
【請求項7】
2のリガンド-タンパク質複合体が、第1のリガンド-タンパク質複合体よりも低い電気泳動移動度を有する、請求項4又は5に記載のシステム。
【請求項8】
前記リガンドが、ペプチド又はペプチド断片である、請求項1~7のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項9】
前記リガンドが、蛍光標識ペプチド又は蛍光標識ペプチド断片である、請求項1~8のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項10】
前記リガンドが、ヒトCD3ペプチド、マウスCD3ペプチド、ラットCD3ペプチド、ウサギCD3ペプチド、及びカニクイザルCD3ペプチドからなる群から選択される、請求項1~9のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項11】
前記試料が、(A)低pH尿素緩衝液中、又は(B)0.1%ポリソルベート20と組み合わせた高pH HEPES緩衝液中で、前記リガンドと更に混合される、請求項10のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項12】
前記バックグラウンド電解質緩衝液が、アミノ-n-カプロン酸(Amino-n-Caproic Acid:EACA)、トリエチレンテトラミン(Triethylene tetramine:TETA)、及びヒドロキシプロピルメチル-セルロース(Hydroxypropylmethyl-cellulose:HPMC)を含む、請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
試料中のマルチサブユニットタンパク質を分離するための方法であって、
(a)少なくとも1つのリガンド-タンパク質複合体を形成するために、前記試料とリガンドの非結合領域がグルタミン酸又はアスパラギン酸で修飾されたリガンドとの混合物を作製する工程と、
(b)前記混合物をキャピラリに適用する工程であって、前記キャピラリが前記リガンドと混合されたバックグラウンド電解質緩衝液で満たされている、適用する工程と、
(c)前記キャピラリの両端に電圧を印加する工程と、
(d)前記マルチサブユニットタンパク質及び前記少なくとも1つのリガンド-タンパク質複合体が前記キャピラリ内を移動できるようにする工程と、を含み、
前記リガンドが前記マルチサブユニットタンパク質のサブユニットに結合し、それによって前記試料中の前記マルチサブユニットタンパク質を分離する場合に、前記リガンド-タンパク質複合体が、変化した電荷、質量、流体力学的サイズ、電気泳動移動度、又はそれらの組合せを有するように構成される、方法。
【請求項14】
試料混合物中の標的タンパク質を単離する方法であって、
(a)少なくとも1つのリガンド-タンパク質複合体を形成するために、試料とリガンドの非結合領域がグルタミン酸又はアスパラギン酸で修飾されたリガンドとの混合物を作製する工程と、
(b)前記混合物をキャピラリに適用する工程であって、前記キャピラリが前記リガンドと混合されたバックグラウンド電解質緩衝液で満たされている、適用する工程と、
(c)前記キャピラリの両端に電圧を印加する工程と、
(d)マルチサブユニットタンパク質及び前記少なくとも1つのリガンド-タンパク質複合体が前記キャピラリ内を移動できるようにする工程であって、前記リガンドが前記マルチサブユニットタンパク質のサブユニットに結合する場合に、前記リガンド-タンパク質複合体が、変化した電荷、質量、流体力学的サイズ、電気泳動移動度、又はそれらの組合せを有するように構成される、移動できるようにする工程と、
(e)非標的タンパク質から分離された前記標的タンパク質を単離する工程と、
を含む、方法。
【請求項15】
前記キャピラリが、カソード端、アノード端、及び検出器を含む、請求項13又は14に記載の方法。
【請求項16】
前記検出器が、前記キャピラリの前記カソード端の近くにあり、かつ210nm~220nmの吸光度又はレーザ誘起蛍光を検出する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記電圧が、30キロボルトである、請求項1316のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記試料が、少なくとも1つのホモダイマー、少なくとも1つのヘテロダイマー、又はそれらの組合せを含み、前記少なくとも1つのヘテロダイマーが第1のサブユニット及び第2のサブユニットを含み、前記少なくとも1つのホモダイマーが少なくとも2つの同一第1のサブユニット又は第2のサブユニットを含む、請求項1317のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記少なくとも1つのヘテロダイマーが、二重特異性抗体を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記少なくとも1つのホモダイマーが、モノクローナル抗体を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記リガンドが、ペプチド又はペプチド断片である、請求項1320のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記リガンドが、蛍光標識ペプチド又は蛍光標識ペプチド断片である、請求項1321のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記リガンドが、ヒトCD3ペプチド、マウスCD3ペプチド、ラットCD3ペプチド、ウサギCD3ペプチド、及びカニクイザルCD3ペプチドからなる群から選択される、請求項1321のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記リガンドが、前記少なくとも1つのヘテロダイマーの前記第1のサブユニットに結合し、かつ前記少なくとも1つのヘテロダイマーの前記第2のサブユニットに結合しない場合に、第1のリガンド-タンパク質複合体が形成される、請求項18に記載の方法。
【請求項25】
前記リガンドが前記ホモダイマーの少なくとも2つの同一第1のサブユニット又は第2サブユニットに結合する場合に、第2のリガンド-タンパク質複合体が形成される、請求項18又は20に記載の方法。
【請求項26】
以下:(A)低pH尿素緩衝液を前記試料及び前記リガンドの前記混合物混合すること、又は(B)0.1%ポリソルベート20と組み合わせた高pH HEPES緩衝液を前記試料及び前記リガンドの前記混合物混合することを更に含む、請求項1325のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記バックグラウンド電解質緩衝液が、アミノ-n-カプロン酸(EACA)、トリエチレンテトラミン(TETA)、及びヒドロキシプロピルメチル-セルロース(HPMC)を含む、請求項1326のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記試料中の前記標的タンパク質の量を定量することを更に含む、請求項14に記載の方法。
【請求項29】
リガンドの非結合領域がグルタミン酸又はアスパラギン酸で修飾された、結合領域を含むアフィニティキャピラリ電気泳動リガンドであって、前記結合領域が、目的のタンパク質に結合するか又は目的のタンパク質によって結合され、グルタミン酸又はアスパラギン酸での修飾が前記目的のタンパク質の単離を促進する、アフィニティキャピラリ電気泳動リガンド。
【請求項30】
前記目的のタンパク質が、ホモダイマーである、請求項29に記載のリガンド。
【請求項31】
前記目的のタンパク質が、ヘテロダイマーである、請求項29に記載のリガンド。
【請求項32】
前記結合領域が、ポリペプチドである、請求項29に記載のリガンド。
【請求項33】
前記結合領域が、小分子である、請求項29に記載のリガンド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年9月10日に出願された米国特許出願第62/729,384号に対する優先権を主張するものであり、それらの内容は参照によりその全体が組み込まれている。
【0002】
本開示の主題は、ポリペプチドの複合体混合物中の1種以上のポリペプチドをスクリーニングする組成物、システム及び方法に関する。特に、本明細書に開示の主題は、アフィニティキャピラリ電気泳動に関連して使用されるリガンド、並びに、例えば二重特異性抗体などの多重特異性抗体を含むマルチマーの混合物中におけるポリペプチドを検出するための方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0003】
二重特異性抗体(Bispecific antibody:BsAb)は、2つの異なる抗原標的を認識するそれらのユニークな能力のため、近年広く治療的関心を集めている。BsAbの治療的使用への関心にも関わらず、従来の製造法は望ましくない副産物をもたらし、複雑な精製プロセスを必要とする可能性があるため、それらの商業的生産は困難である。例えば、ある種のBsAbsは、ノブ・イントゥ・ホール技術を介して生成され、これにより、重鎖のCH3ドメインにおいて相補的な突然変異が行われ、「ノブ」及び「ホール」構造を形成する。同一の重鎖/軽鎖サブユニットの二量体化に依存し得る従来の抗体の産生とは対照的に、ノブ・イントゥ・ホール技術を用いる場合、大きなアミノ酸側鎖は重鎖の1つのCH3ドメインに導入され、これらの側鎖は別の重鎖のCH3ドメインの適切に設計された空洞に適合する。鎖の誤対合(例えば、同一の重鎖ペプチドのホモ二量体化、又は不適切な重鎖/軽鎖結合)が観察され、これはノブ-ノブ及びホール-ホールホモダイマー(homodimer:HD)種の両方を含む生成物関連不純物のユニークなセットを生じ得る。これらのホモダイマー変異体は、低レベルで存在することができ、意図されたBsAb生成物及び他のBsAb分子バリアントと高度に類似した物理化学的特性を有し得るため、定量することは困難である。
【0004】
したがって、望ましくないタンパク質産生から標的BsAbを精製及び定量するためのシステム及び技術の必要性が残っている。
【発明の概要】
【0005】
本開示の主題は、ポリペプチドの複合体混合物中の1種以上のポリペプチドをスクリーニングする組成物、システム及び方法に関する。特に、本明細書に開示の主題は、アフィニティキャピラリ電気泳動に関連して使用されるリガンド、並びに、例えば二重特異性抗体などの多重特異性抗体を含むマルチマーの混合物中におけるポリペプチドを検出するための方法及びシステムに関する。
【0006】
特定の実施形態では、本開示は、(a)リガンド、(b)バックグラウンド電解質緩衝液、(c)試料、(d)キャピラリ、(e)キャピラリの一端にある、又は一端の近くのアノード、及び(f)キャピラリのもう一方の端にある、又はもう一方の端の近くのカソードを備える、試料中のマルチサブユニットタンパク質を分離するシステムに関する。該試料は、リガンドと混合されて少なくとも1つのリガンド-タンパク質複合体を形成し、かつキャピラリのアノード端でキャピラリ内に装填され、かつ該キャピラリは、リガンドと混合されたバックグラウンド電解質緩衝液で満たされている。
【0007】
特定の実施形態では、本開示のシステムは、キャピラリのカソード端の近くに配置された検出器を更に備え、検出器は、210nm~220nmの吸光度又はレーザ誘起蛍光を検出する。
【0008】
特定の実施形態では、本開示のシステムは、試料が少なくとも1つのホモダイマー、少なくとも1つのヘテロダイマー、又はそれらの組合せを含む、試料を含む。特定の実施形態では、本開示のシステムは、リガンドが、少なくとも1つのヘテロダイマーの第1のサブユニットに結合し、かつ少なくとも1つのヘテロダイマーの第2のサブユニットに結合しない場合に形成される、第1のリガンド-タンパク質複合体を含む。特定の実施形態では、本開示のシステムは、リガンドがホモダイマーの少なくとも2つの同一な第1又は第2サブユニットに結合した場合に形成される、第2のリガンド-タンパク質複合体を含む。特定の実施形態では、リガンドがマルチサブユニットタンパク質のサブユニットに結合する場合に、少なくとも1つのリガンド-タンパク質複合体が、蛍光(又は他の方法で検出可)標識、又は変化した電荷、質量、流体力学的サイズ、電気泳動移動度、若しくはそれらの組合せを有するように構成される。特定の実施形態では、第2のリガンド-タンパク質複合体は、第1のリガンド-タンパク質複合体よりも低い電気泳動移動度を有する。
【0009】
特定の実施形態では、本開示のシステムは、ポリペプチド又はポリペプチド断片である、リガンドを含む。特定の実施形態では、リガンドは、蛍光標識ポリペプチド又は蛍光標識ポリペプチド断片である。特定の実施形態では、リガンドは、ヒトCD3ポリペプチド、マウスCD3ポリペプチド、ラットCD3ポリペプチド、ウサギCD3ポリペプチド、及びカニクイザルCD3ポリペプチドからなる群から選択される。特定の実施形態では、リガンドは、リガンドの非結合領域に1つ以上のアミノ酸を加えることによって修飾される。特定の実施形態では、1つ以上のアミノ酸は、グルタミン酸、アスパラギン酸、及びそれらの組合せからなる群から選択される。特定の実施形態では、加えられた1つ以上のアミノ酸は、リガンドの電荷及び質量を変化させるように構成される。
【0010】
特定の実施形態では、本開示のシステムは、低pH尿素緩衝液中でリガンドと更に混合される試料を含む。特定の実施形態では、本開示は、高pH HEPES緩衝液及び0.1%PS20を、試料及びリガンドの混合物へ混合することを更に含む方法に関する。特定の実施形態では、本開示のシステムは、アミノ-n-カプロン酸(Amino-n-Caproic Acid:EACA)、トリエチレンテトラミン(Triethylene tetramine:TETA)、及びヒドロキシプロピルメチル-セルロース(Hydroxypropylmethyl-cellulose:HPMC)を含む、バックグラウンド電解質緩衝液を含む。特定の実施形態では、バックグラウンド電解質緩衝液は、上記方法の少なくとも1つのヘテロダイマーの第1のサブユニットに結合し、かつ少なくとも1つのヘテロダイマーの第2のサブユニットに結合しない、リガンドを含む。
【0011】
特定の実施形態では、本開示は、試料中のマルチサブユニットタンパク質を分離するための方法であって、(a)少なくとも1つのリガンド-タンパク質複合体を形成するために、試料とリガンドとの混合物を作製する工程と、(b)混合物をキャピラリに適用する工程であって、キャピラリがリガンドと混合されたバックグラウンド電解質緩衝液で満たされている、適用する工程と、(c)キャピラリの両端に電圧を印加する工程と、(d)マルチサブユニットタンパク質及び少なくとも1つのリガンド-タンパク質複合体がキャピラリを通して移動できるようにする工程と、を含み、リガンドがマルチサブユニットタンパク質のサブユニットに結合し、それによって試料中のマルチサブユニットタンパク質を分離する場合に、リガンド-タンパク質複合体が、蛍光(又は他の方法で検出可)標識、変化した電荷、質量、流体力学的サイズ、電気泳動移動度、若しくはそれらの組合せを有するように構成される、方法に関する。
【0012】
特定の実施形態では、本開示は、試料混合物中の標的タンパク質を単離する方法であって、(a)少なくとも1つのリガンド-タンパク質複合体を形成するために、試料とリガンドとの混合物を作製する工程と、(b)混合物をキャピラリに適用する工程であって、キャピラリがリガンドと混合されたバックグラウンド電解質緩衝液で満たされている、適用する工程と、(c)キャピラリの両端に電圧を印加する工程と、(d)マルチサブユニットタンパク質及び少なくとも1つのリガンド-タンパク質複合体がキャピラリを通して移動できるようにする工程であって、リガンドがマルチサブユニットタンパク質のサブユニットに結合する場合に、リガンド-タンパク質複合体が、蛍光(又は他の方法で検出可)標識、変化した電荷、質量、流体力学的サイズ、電気泳動移動度、若しくはそれらの組合せを有するように構成される、移動できるようにする工程と、(e)非標的タンパク質から分離された標的タンパク質を単離し、これを非標的タンパク質から分離する工程と、を含む、方法に関する。
【0013】
特定の実施形態では、本開示は、キャピラリを使用する方法に関し、該キャピラリは、カソード端、アノード端、及び検出器を備える。特定の実施形態では、キャピラリは、内径が約50μmである。特定の実施形態では、キャピラリは、検出器までの距離が約20cmである。特定の実施形態では、キャピラリは、全長が約30cmである。特定の実施形態では、検出器は、キャピラリのカソード端の近くにあり、かつ210nm~220nmの吸光度又はレーザ誘起蛍光を検出する。特定の実施形態では、電圧は、30キロボルトである。
【0014】
特定の実施形態では、本開示は、試料が、少なくとも1つのホモダイマー、少なくとも1つのヘテロダイマー、又はそれらの組合せを含み、少なくとも1つのヘテロダイマーが第1のサブユニット及び第2のサブユニットを含み、かつ少なくとも1つのホモダイマーが少なくとも2つの同一な第1又は第2のサブユニットを含む、試料を使用する方法に関する。特定の実施形態では、少なくとも1つのヘテロダイマーは、二重特異性抗体を含む。特定の実施形態では、少なくとも1つのホモダイマーは、モノクローナル抗体を含む。
【0015】
特定の実施形態では、本開示は、リガンドがペプチド又はペプチド断片である、リガンドを利用する方法に関する。特定の実施形態では、リガンドは、蛍光標識ペプチド又は蛍光標識ペプチド断片である。特定の実施形態では、リガンドは、ヒトCD3ペプチド、マウスCD3ペプチド、ラットCD3ペプチド、ウサギCD3ペプチド、及びカニクイザルCD3ペプチドからなる群から選択される。特定の実施形態では、リガンドは、リガンドの非結合領域に1つ以上のアミノ酸を加えることによって修飾されるように構成される。特定の実施形態では、1つ以上のアミノ酸は、グルタミン酸、アスパラギン酸、及びそれらの組合せからなる群から選択される。特定の実施形態では、加えられた1つ以上のアミノ酸は、リガンドの電荷及び質量を変化させるように構成される。
【0016】
特定の実施形態では、本開示は、リガンドが、少なくとも1つのヘテロダイマーの第1のサブユニットに結合し、かつ少なくとも1つのヘテロダイマーの第2のサブユニットに結合しない場合に、第1のリガンド-タンパク質複合体が形成される、方法に関する。特定の実施形態では、本開示は、リガンドがホモダイマーの少なくとも2つの同一な第1又は第2サブユニットに結合した場合に、第2のリガンド-タンパク質複合体が形成される、方法に関する。
【0017】
特定の実施形態では、本開示は、低pH尿素緩衝液を、試料及びリガンドの混合物へ混合することを更に含む、方法に関する。特定の実施形態では、本開示は、高pH HEPES緩衝液及び0.1%PS20を、試料及びリガンドの混合物へ混合することを更に含む方法に関する。特定の実施形態では、本開示は、バックグラウンド電解質緩衝液が、アミノ-n-カプロン酸(EACA)、トリエチレンテトラミン(TETA)、及びヒドロキシプロピルメチル-セルロース(HPMC)を含む、方法に関する。特定の実施形態では、バックグラウンド電解質緩衝液は、上記方法の少なくとも1つのヘテロダイマーの第1のサブユニットに結合し、かつ少なくとも1つのヘテロダイマーの第2のサブユニットに結合しない、リガンドを含む。
【0018】
特定の実施形態では、本開示は、試料中の標的タンパク質の量を定量することを更に含む、方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、従来の分析方法による検出を困難にする、類似の物理化学的性質を有する例示的な二重特異性抗体及び生成物関連不純物(ハーフ抗体及びホモダイマーを含む)を図示する。
図2図2は、アフィニティキャピラリ電気泳動による特異的抗体試料の理論的分離機構を図示する。
図3図3は、ホモダイマー検出のための例示的なアフィニティキャピラリ電気泳動を図示する。分離前にリガンドを試料と混合すると、不完全かつ断続的な複合体形成が観察された。
図4図4は、過剰なリガンドをバックグラウンド電解質に加えたアフィニティ電気泳動の例示的性能を図示する。
図5A図5Aは、アフィニティ電気泳動の性能を改善するための例示的修飾リガンドを図示する。
図5B図5Bは、修飾リガンドを用いたアフィニティ電気泳動の例示的性能を図示する。
図6図6は、CD3+Eペプチドの例示的性能を図示する。
図7図7は、抗CD3ホモダイマーのpH依存性配座異性体を図示する。低pH試料処理は単一確認に対して行い、高pH処理によって本明細書に概説されるようにまた達成される、信号対雑音比を改善する。
図8図8は、試料中の0.1%PS20による経時的な抗CD3ホモダイマー回収の改善を図示する。
図9】9は、例示的なオリゴマー相互作用機構を図示する。
図10A図10Aは、スパイクした不純物を介した抗CD3領域における間接的ピーク同定を図示する。
図10B図10Bは、スパイクした不純物を介した抗CD3領域における間接的ピーク同定を図示する。10AはHEPES緩衝液との初回混合後の結果を図示し、10Bは高pH立体配座への完全な変換後の結果を図示する。
図11図11は、2つのホモダイマーの相互作用による例示的オリゴマー形成を図示する。
図12図12は、低pH及び尿素による例示的オリゴマー解離を図示する。試料緩衝液はpH3.5であり、尿素を含む。尿素及び低pHは、抗CD3及び抗CD20 HDの相互作用を妨げる(SECによって確認)。
図13図13は、BsAb標準試料中のオリゴマーを明らかにする、例示的なアフィニティキャピラリ電気泳動分析を図示する。
図14図14は、例示的な低pHアフィニティキャピラリ電気泳動法を図示する。
図15図15は、インタクトな質量分析方法と比較した、アフィニティキャピラリ電気泳動分析の例示的性能を図示する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本開示の主題は、ポリペプチドの複合体混合物中の1種以上のポリペプチドをスクリーニングするための、組成物、システム及び方法に関する。例えば、限定するものではないが、本明細書に開示される主題は、例えば二重特異性抗体などの多重特異性抗体を含む、マルチマーの混合物中の標的抗体を検出するためのアフィニティキャピラリ電気泳動(affinity capillary electrophoresis:ACE)の方法に適用可能である。本開示の主題はまた、そのような標的抗体を検出及び単離するために使用されるリガンド及び電気泳動システムに関する。本明細書に開示される電気泳動方法は、単独で使用することができ、又は、例えば治療及び/又は診断用途のために、特定のレベルの二重特異性抗体の純度を達成するために、当該技術分野で公知の従来の精製プロセス及びユニット操作と更に組み合わせることができる。
【0021】
限定するためではなく、開示を明確にするために、詳細な説明を以下のサブセクションに分ける。
1.定義
2.標的マルチサブユニットタンパク質を単離及び定量するためのリガンド
3.標的マルチサブユニットタンパク質を単離及び定量するためのシステム
4.標的マルチサブユニットタンパク質を単離及び定量するための方法
【0022】
1.定義
本開示の実施は、別段の記載がない限り、分子生物学(組換え技術を含む)、微生物学、細胞生物学、及び生化学の従来の技術を使用し、これらは当業者の技術範囲内である。このような技術は、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」第2版(Sambrookら、1989年);「Oligonucleotide Synthesis」(M.J.Gait編、1984年);「Animal Cell Culture」(R.I.Freshney編、1987年);「Methods in Enzymology」(Academic Press,Inc.);「Handbook of Experimental Immunology」第4版(D.M.Weir&C.C.Blackwell編、Blackwell Science Inc.、1987年);「Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells」(J.M.Miller&M.P.Calos編、1987年);「Current Protocols in Molecular Biology」(F.M.Ausubelら編、1987年);、及び「PCR:The Polymerase Chain Reaction」(Mullisら編、1994年)などの文献で充分に説明されている。
【0023】
別段の定義がない限り、本明細書で使用される全ての技術用語、表記、及び他の科学用語は、本開示が関係する当業者によって一般的に理解される意味を有することを意図する。いくつかの場合において、一般的に理解される意味を有する用語は、明確性及び/又は容易な参照のために本明細書に定義され、本明細書にそのような定義を含めることは、必ずしも、当技術分野において一般的に理解されるものに対する実質的な相違を表すと解釈されるべきではない。必要に応じて、市販のキット及び試薬の使用を含む手順は、別段明記されない限り、一般に、製造業者が定義したプロトコル及び/又はパラメータに従って実施される。したがって、本方法、キット、及び使用を記載する前に、本開示の主題は、特定の方法論、プロトコル、細胞株、動物種又は属、構築物、及びそのように記載された試薬に限定されず、当然ながら、変化してもよいことを理解されたい。本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的とし、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される本開示の範囲を限定することを意図しないことも理解されるべきである。
【0024】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用されるとき、単数形「a(1つの)」、「or(又は)」、及び「the(その)」は、文脈が別途明確に指示しない限り、複数の指示対象を含む。
【0025】
用語「約」又は「およそ」とは、本明細書で使用される場合、当業者によって決定される特定の値の許容できる誤差範囲を指し、これは、その値がどのように測定又は決定されるか、例えば、測定システムの限界に部分的に依存する。例えば、「約」とは、所与の値の1実施当たり1つ又は1つよりも多くの標準偏差以内を意味し得る。特定の値が本願及び本特許請求の範囲に記載されている場合、別段の記載がない限り、用語「約」は、特定の値の許容される誤差範囲、例えば用語「約」によって修正された値の±10%などを意味することができる。
【0026】
用語「親和性」とは、分子(例えば、抗体)の単一の結合部位とその結合パートナー(例えば、抗原)との間の、合計の非共有性相互作用の強度を指す。別段の記載がない限り、「結合親和性」とは、本明細書で使用される場合、結合対のメンバ間の1:1相互作用を反映する固有の結合親和性(例えば、抗体及び抗原)を指すが、特定の文脈においては、相互作用は異なる相互作用比を含むことができ、例えば抗CD3ホモダイマーの文脈においては、2つの抗原がそれぞれ抗CD3ホモダイマーに結合するので、相互作用は2:1であり得る。分子Xの、そのパートナYに対する親和性は、一般に、解離定数(K)によって表すことができる。親和性は、本明細書に記載される方法を含む、当技術分野で公知の一般的な方法によって測定することができる。結合親和性を測定するための具体的な例証的説明及び例示的な実施形態が、以下に記載される。
【0027】
本明細書中の用語「抗体」は、最も広い意味で使用され、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、及び抗体断片を含むがこれらに限定されない種々の抗体構造を、それらが所望の抗原結合活性を示す限り包含し、並びに、脱免疫化抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、及び/又は任意の適切な動物源(例えば、マウス、ラット、ハムスタ、モルモット、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ウマ、ウシ、サル、類人猿、及び/又はニワトリ)に由来する抗体、免疫コンジュゲート、合成抗体、一本鎖Fv(scFv)、一本鎖抗体、Fab断片、F(ab’)断片、F(ab’)2断片、ジスルフィド結合Fv(sdFv)、細胞内抗体、並びに上記のいずれかのエピトープ結合断片を包含する。
【0028】
「抗体断片」とは、インタクト抗体が結合する抗原を結合するインタクト抗体の一部を含むインタクト抗体以外の分子を指す。抗体断片の例として、Fv、Fab、Fab’、Fab’-SH、F(ab’);ダイアボディ;線状抗体;一本鎖抗体分子(例えば、scFv);及び抗体断片から形成される多重特異性抗体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0029】
目的とする抗原に「結合する抗体」は、その抗体が、アッセイ試薬、例えば、捕捉抗体又は検出抗体として有用であるように充分な親和性で抗原に結合するものである。典型的には、かかる抗体は、他のポリペプチドと有意に交差反応しない。標的分子へのポリペプチドの結合に関して、特定のポリペプチド標的上の特定のポリペプチド又はエピトープの「特異的結合」、又はそれに「特異的に結合する」、又はそれに「特異的な」という用語は、非特異的相互作用とは測定可能な程度に異なる結合を意味する。特異的結合は、例えば、一般に結合活性を有しない同様の構造を有する分子である対照分子の結合と比較して標的分子の結合を決定することによって測定され得る。
【0030】
用語「抗CD20抗体」とは、抗体が、例えば本明細書に記載のアッセイにおける作用物質としてCD20を標的とする際の作用物質として有用であるような充分な親和性で、CD20に結合することができる抗体を指す。ある特定の実施形態では、抗CD20抗体が関係のない非CD20タンパク質に結合する程度は、例えば、放射免疫アッセイ(radioimmunoassay:RIA)によって測定される、抗体のCD20との結合の約10%未満である。ある特定の実施形態では、CD20に結合する抗体は、1M以下、100mM以下、10mM以下、1mM以下、100μM以下、10μM以下、1μM以下、100nM以下、10nM以下、1nM以下、0.1nM以下、0.01nM以下、又は0.001nM以下の解離定数(K)を有する。ある特定の実施形態では、本明細書で開示されるCD20に結合する抗体のKは、10-3M以下又は10-8M以下、例えば10-8M~10-13M、例えば10-9M~10-13Mであり得る。ある特定の実施形態では、本明細書で開示されるCD20に結合する抗体のKは、10-10M~10-13Mであり得る。ある特定の実施形態では、抗CD20抗体は、異なる種のCD20間で保存されているCD20のエピトープに結合する。
【0031】
用語「抗CD3抗体」とは、抗体が、例えば本明細書に記載のアッセイにおける作用物質としてCD3を標的とする際の作用物質として有用であるような充分な親和性で、CD3に結合することができる抗体を指す。ある特定の実施形態では、抗CD3抗体が関係のない非CD3タンパク質に結合する程度は、例えば、放射免疫アッセイ(RIA)によって測定される、抗体のCD3との結合の約10%未満である。ある特定の実施形態では、CD3に結合する抗体は、1M以下、100mM以下、10mM以下、1mM以下、100μM以下、10μM以下、1μM以下、100nM以下、10nM以下、1nM以下、0.1nM以下、0.01nM以下、又は0.001nM以下の解離定数(K)を有する。ある特定の実施形態では、本明細書で開示されるCD3に結合する抗体のKは、10-3M以下又は10-8M以下、例えば10-8M~10-13M、例えば10-9M~10-13Mであり得る。ある特定の実施形態では、本明細書で開示されるCD3に結合する抗体のKは、10-10M~10-13Mであり得る。ある特定の実施形態では、抗CD3抗体は、異なる種のCD3間で保存されているCD3のエピトープに結合する。
【0032】
「結合ドメイン」とは、標的エピトープ、抗原、リガンド、又は受容体に特異的に結合する化合物又は分子の一部を意味する。結合ドメインは、抗体(例えば、モノクローナル、ポリクローナル、組換え、ヒト化、及びキメラ抗体)、抗体断片又はその部分(例えば、Fab断片、Fab’2、scFv抗体、SMIP、ドメイン抗体、ダイアボディ、ミニボディ、scFv-Fc、アフィボディ、ナノボディ、並びに抗体のVH及び/又はVLドメイン)、受容体、リガンド、アプタマー、及び特定された結合パートナを有する他の分子を含むが、これらに限定されない。
【0033】
用語「キメラ」抗体とは、重鎖及び/又は軽鎖の一部が特定の供給源又は種に由来し、重鎖及び/又は軽鎖の残りの部分が異なる供給源又は種に由来する抗体を指す。
【0034】
本明細書で使用される場合、「分化クラスタ3」又は「CD3」という用語は、別段の記載がない限り、霊長類(例えば、ヒト)及びげっ歯類(例えば、マウス及びラット)のような哺乳類を含む、任意の脊椎動物由来の任意のネイティブCD3を指し、例えば、CD3ε、CD3γ、CD3α、及びCD3β鎖を含む。
【0035】
抗体の「クラス」とは、抗体の重鎖が持つ定常ドメインや定常領域の種類を指す。5つの主要なクラスの抗体、つまり:IgA、IgD、IgE、IgG、及びIgMが存在し、これらのいくつかは、サブクラス(アイソタイプ)、例えば、IgG、IgG、IgG、IgG、IgA、及びIgAに更に分けられてもよい。免疫グロブリンの異なるクラスに対応する重鎖定常ドメインは、それぞれα、δ、ε、γ、又はμと呼ばれる。
【0036】
本明細書及び特許請求の範囲を通じて、単語「含む(comprise)」、又は「含む(comprises)」若しくは「含むこと(comprising)」のような変形は、記載された整数又は整数のグループの包含を意味するが、いかなる他の整数又は整数のグループの除外をも意味しないことが理解されるであろう。
【0037】
用語「相関する」又は「相関すること」とは、任意の方法で、第1の分析又はプロトコルの性能及び/又は結果を第2の分析又はプロトコルの性能及び/又は結果との比較を指す。例えば、第1の分析若しくはプロトコルの結果を、第2のプロトコルを行う際に使用してもよいし、及び/又は、第1の分析若しくはプロトコルの結果を使用して、第2の分析若しくはプロトコルを行うべきかどうかを決定してもよい。遺伝子発現分析又はプロトコルの実施形態に関して、遺伝子発現分析又はプロトコルの結果を使用して、特定の治療レジメンが行われるべきかを決定することができる。
【0038】
用語「検出すること」とは、本明細書では、標的分子、例えばCD20又はその処理形態の定性的測定と定量的測定との両方を含むように使用される。ある特定の実施形態では、検出は、単に試料中の標的分子の存在を特定することと、標的分子が検出可能なレベルで試料中に存在するかを決定することとを含む。
【0039】
用語「検出手段」とは、本明細書で使用される場合、あるアッセイで後に読み取られるシグナル報告により検出可能な抗体の存在を検出するために使用される部分又は技法を指す。典型的には、検出手段は、例えば、マイクロタイタプレート上で捕捉される標識などの固定化標識を増幅する検出試薬、例えば、アビジン、ストレプトアビジン-HRP、又はストレプトアビジン-β-D-ガラクトピラノースを使用する。
【0040】
用語「Fc領域」とは、本明細書では定常領域の少なくとも一部分を含有する免疫グロブリン重鎖のC末端領域を定義するために使用される。この用語は、天然配列Fc領域及びバリアントFc領域を含む。ある特定の実施形態では、ヒトIgG重鎖Fc領域は、Cys226又はPro230から、重鎖のカルボキシル末端に及ぶ。しかしながら、Fc領域のC末端のリジン(Lys447)は、存在する場合もあれば、しない場合もある。本明細書で特に指示がない限り、Fc領域又は定常領域のアミノ酸残基の番号付けは、Kabatら、「Sequences of Proteins of Immunological Interest」、第5版、Public Health Service、National Institutes of Health、メリーランド州ベセスダ(1991年)に記載されている、EUインデックスとも呼ばれるEU番号付けシステムに従う。
【0041】
「フレームワーク」又は「FR」は、超可変領域(hypervariable region:HVR)残基以外の可変ドメイン残基を指す。可変ドメインのFRは、一般に4つのFRドメイン:FR1、FR2、FR3、及びFR4からなる。したがって、HVR及びFR配列は、一般的に、VH(又はVL)中において以下の配列で現れる。FR1-H1(L1)-FR2-H2(L2)-FR3-H3(L3)-FR4。
【0042】
用語「完全長抗体」、「インタクトな抗体」、及び「全抗体」とは、本明細書で、天然抗体構造と実質的に同様の構造を有するか、又は本明細書に定義されるFc領域を含有する重鎖を有する抗体を指すように同義に使用される。
【0043】
「ヘテロマルチマー」、「ヘテロマルチマー複合体」、又は「ヘテロマルチマータンパク質」とは、少なくとも第1のヒンジ含有ポリペプチド及び第2のヒンジ含有ポリペプチドを含む分子を指し、該第2のヒンジ含有ポリペプチドは、少なくとも1つのアミノ酸残基によって第1のヒンジ含有ポリペプチドとアミノ酸配列が異なる。ヘテロマルチマーは、第1及び第2のヒンジ含有ポリペプチドによって形成される「ヘテロダイマー」を含むことができるか、又は第1及び第2のヒンジ含有ポリペプチドに加えてポリペプチドが存在する高次三次構造を形成することができる。ヘテロマルチマーのポリペプチドは、非ペプチド、共有結合(例えば、ジスルフィド結合)及び/又は非共有結合(例えば、水素結合、イオン結合、ファンデルワールス力、及び/又は疎水性相互作用)によって相互作用し得る。
【0044】
本明細書で使用される場合、「ヘテロ多量体化ドメイン」とは、ヘテロ多量体形成促進し、かつホモ多量体形成を妨害するような生物学的分子への改変又は付加を指す。ホモダイマーよりもヘテロダイマーの形成を断然好む任意のヘテロ二量体化ドメインは、本開示の主題の範囲内である。例示的な例としては、例えば、米国特許出願第20030078385号(Arathoonら、Genentech、ノブ・イントゥ・ホールについて説明)、国際公開第WO2007147901号(Kjaergaardら、Novo Nordisk、イオン相互作用について説明)、国際公開第2009089004号(Kannanら、Amgen、静電ステアリング効果について説明)、米国仮特許出願第61/243,105号(Christensenら、Genentech、コイルドコイルについて説明)が挙げられるが、これらに限定されない。例えば、Pack,P.及びPlueckthun,A.、「Biochemistry」第31巻第1579~1584号(1992)(ロイシンジッパーについて説明)、又はPackら、「Bio/Technology」第11巻第1271~1277頁(1993年)(ヘリックスターンヘリックスモチーフについて説明)も参照されたい。語句「ヘテロ多量体化ドメイン」及び「ヘテロ二量体化ドメイン」とは、本明細書では互換的に使用される。
【0045】
用語「宿主細胞」、「宿主細胞株」、及び「宿主細胞培養」とは、本明細書で同義に使用され、かかる細胞の子孫を含む、外因性核酸が導入された細胞を指す。宿主細胞としては、初代形質転換細胞、及び継代の数にかかわらずそれに由来する子孫を含む、「形質転換体」及び「形質転換細胞」が含まれる。子孫は、親細胞と完全に同一の核酸含量でない場合があるが、突然変異を含んでもよい。元々形質転換された細胞においてスクリーニング又は選択されたものと同じ機能又は生物学的活性を有する変異体の子孫は、本明細書に含まれる。
【0046】
「ヒト抗体」とは、ヒト又はヒト細胞が産生した抗体、又はヒト抗体レパートリなどのヒト抗体をコードする配列を利用した非ヒト由来の抗体に対応するアミノ酸配列を有するものを指す。ヒト抗体のこの定義は、非ヒト抗原結合残基を含むヒト化抗体を明確に除外する。
【0047】
「ヒトコンセンサスフレームワーク」は、ヒト免疫グロブリンVL又はVHフレームワーク配列の選択において最も一般的に生じるアミノ酸残基を表すフレームワークである。一般に、ヒト免疫グロブリンVL又はVH配列の選択は、可変ドメイン配列のサブグループからである。一般に、配列のサブグループは、Kabatら、「Sequences of Proteins of Immunological Interest」第5版、NIH Publication、第91~3242頁、メリーランド州ベセスダ(1991年)、第1~3巻にあるようなサブグループである。ある特定の実施形態では、VLの場合、サブグループは、Kabatら(上記参照)に見られるようなサブグループカッパIである。ある特定の実施形態では、VHの場合、サブグループは、Kabatら(上記参照)に見られるようなサブグループIIIである。
【0048】
「ヒト化」抗体は、非ヒトHVRからのアミノ酸残基及びヒトFRからのアミノ酸残基を含むキメラ抗体を指す。ある特定の実施形態では、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインの実質的に全てを含むものであり、それにおいて、HVR(例えば、HVR)の全て又は実質的に全てが非ヒト抗体のものに相当し、FRの全て又は実質的に全てがヒト抗体のものに相当する。ヒト化抗体は、任意に、ヒト抗体に由来する抗体定常領域の少なくとも一部を含んでいてもよい。抗体、例えば非ヒト抗体の「ヒト化形態」とは、ヒト化を受けた抗体を意味する。
【0049】
用語「超可変領域」又は「HVR」とは、本明細書で使用される場合、配列が超可変であり(「相補性決定領域」又は「HVR」)、かつ/又は構造的に定義されたループ(「超可変ループ」)を形成し、かつ/又は抗原接触残基(「抗原接触体」)を含有する、抗体可変ドメインの領域の各々を指す。別段の記載がない限り、HVR残基及び可変ドメイン内の他の残基(例えば、FR残基)は、本明細書において、上述のKabatらに準じて番号付けされている。一般的に、抗体は、6個のHVRを含み、VHに3個(H1、H2、H3)、VLに3個(L1、L2、L3)含む。本明細書における例示的なHVRとしては、以下が挙げられる:
(a)アミノ酸残基26~32(L1)、50~52(L2)、91~96(L3)、26~32(H1)、53~55(H2)、及び96~101(H3)で生じる超可変ループ(Chothia及びLesk、「J.Mol.Biol.」、第196巻第901~917頁(1987年));
(b)アミノ酸残基24~34(L1)、50~56(L2)、89~97(L3)、31~35b(H1)、50~65(H2)、及び95~102(H3)で生じるHVR(Kabatら、「Sequences of Proteins of Immunological Interest」、第5版、Public Health Service、National Institutes of Health、メリーランド州ベセスダ(1991年));
(c)アミノ酸残基27c~36(L1)、46~55(L2)、89~96(L3)、30~35b(H1)、47~58(H2)、及び93~101(H3)で生じる抗原接触体(MacCallumら、「J.Mol.Biol.」、第262巻:第732~745頁(1996年));並びに、
(a)、(b)及び/又は(c)の組合せ、HVRアミノ酸残基46-56(L2)、47-56(L2)、48-56(L2)、49-56(L2)、26-35(H1)、26-35b(H1)、49-65(H2)、93-102(H3)及び94-102(H3)を含む。
【0050】
「免疫複合体」とは、細胞毒性薬を含むが、これに限定されない1つ以上の異種分子(複数可)にコンジュゲートされる抗体を指す。
【0051】
「単離された」抗体は、その自然環境の構成成分から分離された抗体である。ある特定の実施形態では、抗体は、例えば、電気泳動(例えば、SDS-PAGE、等電点電気泳動(isoelectric focusing:IEF)、キャピラリ電気泳動)、又はクロマトグラフ(例えば、イオン交換又は逆相HPLC)によって決定される、95%超又は99%超の純度まで精製される。抗体純度の評価のための方法の総説については、例えば、Flatmanら、「J.Chromatogr.B」、第848巻第79~87頁(2007年)を参照されたい。
【0052】
本明細書で同義に使用される「個体」又は「対象」は、哺乳動物である。哺乳動物には、家畜(例えば、ウシ、ヒツジ、ネコ、イヌ、及びウマ)、霊長類(例えば、ヒト、及びサル等の非ヒト霊長類)、ウサギ、及び齧歯類(例えば、マウス及びラット)が含まれるが、これらに限定されない。ある特定の実施形態では、個体又は対象は、ヒトである。
【0053】
「単離された」核酸とは、核酸分子が自然環境の構成要素から分離されたものを指す。単離核酸には、通常核酸分子を含む細胞内に含まれる核酸分子が、染色体外に存在するか、又は本来の染色体位置とは異なる染色体位置に存在する核酸分子が含まれる。
【0054】
用語「抗体をコードする単離された核酸」(特異的抗体への言及を含む)とは、抗体重鎖及び軽鎖(又はその断片)をコードする1つ以上の核酸分子、例えば、単一のベクタ又は別個のベクタ中の核酸分子(複数可)及び宿主細胞内の1つ以上の位置に存在する核酸分子(複数可)を指す。
【0055】
用語「モノクローナル抗体」とは、本明細書で使用される場合、実質的に均一な抗体の集合から得られる抗体を指す。すなわち、集合に含まれる個々の抗体が、同一であり、及び/又は同じエピトープに結合するが、但し、例えば、天然に存在する変異又はモノクローナル抗体製剤の製造中に生じる変異を含む、可能なバリアント抗体は除く。このようなバリアントは、一般的に、少量存在する。異なる決定基(エピトープ)に対して指向される異なる抗体を典型的に含むポリクローナル抗体調製物とは対照的に、モノクローナル抗体調製物の各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基に対して指向される。したがって、修飾語「モノクローナル」とは、実質的に同種の抗体集団から得られるという抗体の特徴を示し、任意の特定の方法による抗体の産生を必要とするものと解釈されるべきではない。例えば、本願で開示された主題に従って使用されるモノクローナル抗体は、ハイブリドーマ法、組換えDNA法、ファージディスプレイ法、及びヒト免疫グロブリン遺伝子座の全て又は一部を含有するトランスジェニック動物を利用する方法を含むが、これらに限定されない様々な技法によって作製することができ、かかる方法及び他の例示のモノクローナル抗体の作製方法は、本明細書に記載されている。
【0056】
用語「多重特異性」及び「二重特異性」とは、抗原結合分子が、少なくとも2つの別個の抗原決定基に特異的に結合することができることを意味する。典型的には、二重特異性抗原結合分子は、2つの抗原結合部位を含み、それぞれが異なる抗原決定基に対して特異的である。特定の実施形態では、二重特異性抗原結合分子は、2つの抗原決定基(特に、2つの別個の細胞で発現する2つの抗原決定基)に同時に結合することができる。一実施形態では、二重特異性抗体は、CD3に結合する第1の抗原結合部位、及び細胞表面抗原に結合する第2の抗原結合部位を含む、T細胞依存性二重特異性(T-cell dependent bispecific:TDB)抗体である。いくつかの実施形態では、細胞表面抗原は、腫瘍抗原、例えば、CD20、FcRH5、HER2、CEA、LYPD1、LY6G6D、PMEL17、LY6E、CD19、CD33、CD22、CD79A、CD79B、EDAR、GFRA1、MRP4、RET、Steap1、TenB2等である。国際公開第WO/2015/095392号を参照されたい。TDBはCD3結合アームを介してT細胞と結合して活性化し、抗CD3ホモダイマー(CD3 HD)不純物の存在は、TCRの二価結合及び二量体化を介して望ましくないオフターゲットT細胞活性化を潜在的に誘発し得る。特定の実施形態では、二重特異性抗体は、2%、1%、0.5%、0.25%、0.1%、0.05%、又は0.01%未満のホモダイマーを含む。非限定的な実施形態では、二重特異性抗体はTDB抗体であり、ホモダイマーはCD3ホモダイマーである。
【0057】
用語「タンパク質」とは、本明細書で使用される場合、別段の記載がない限り、霊長類(例えば、ヒト)及びげっ歯類(例えば、マウス及びラット)のような哺乳類を含む、任意の脊椎動物源からの任意のネイティブタンパク質を指す。この用語は、「完全長」、未処理のタンパク質、及び細胞内での処理から生じるタンパク質のあらゆる形態を包含する。この用語はまた、タンパク質の自然に発生する変異体、例えば、スプライスバリアント又は対立遺伝子変異体を包含する。
【0058】
「精製された」タンパク質又はポリペプチド(例えば、抗体)とは、本明細書で使用される場合、ポリペプチドがその天然環境下で存在するよりも純粋な形態で存在するように、及び/又は実験室条件下で最初に合成及び/又は増幅されたときに、ポリペプチドの純度が増加することを指す。純度は、相対用語であり、必ずしも絶対純度を意味しない。
【0059】
用語「ポリペプチド」とは、本明細書で使用される場合、任意の長さのアミノ酸のポリマーを指す。ポリマーは、直鎖状であっても分岐状であってもよく、修飾アミノ酸を含んでもよく、非アミノ酸によって中断されていてもよい。これらの用語はまた、自然に、又は介入、例えば、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、脂質化、アセチル化、リン酸化、若しくは任意の他の操作又は修飾、例えば、標識成分とのコンジュゲーションにより修飾されたアミノ酸ポリマーも包含する。例えば、アミノ酸(例えば、非天然アミノ酸等を含む)の1つ以上の類似体を含有するポリペプチド、及び当該技術分野で既知の他の修飾もまたこの定義に含まれる。用語「ポリペプチド」及び「タンパク質」とは、本明細書で使用される場合、抗体を具体的に包含する。
【0060】
「試料」とは、本明細書で使用される場合、より大量の材料のわずか一部を指す。ある特定の実施形態では、試料は、培養中の細胞、細胞上清、細胞溶解物、血清、血漿、生体体液(例えば、血液、血漿、血清、便、尿、リンパ液、腹水、管洗浄液、唾液、及び脳脊髄液)、及び組織試料を含むが、これらに限定されない。試料の供給源は、固形組織(例えば、新鮮、凍結、及び/又は保存臓器、組織試料、生検材料、若しくは穿刺液)、血液若しくは任意の血液成分、体液(例えば、尿、リンパ液、脳脊髄液、羊水、腹腔液、若しくは間質液)、又は順肝細胞を含む個体由来の細胞であり得る。
【0061】
「混合物」とは、2つ以上の成分の混合物を指すときに、この混合物中の各成分が1つ以上の分析アッセイによって評価される場合に、その物理的、かつ化学的安定性を混合物中で本質的に保持することを意味する。この目的のための例示的な分析アッセイは、色、外観及び透明度(appearance and clarity:CAC)、濃度及び濁度分析、微粒子分析、サイズ排除クロマトグラフィ(size exclusion chromatography:SEC)、イオン交換クロマトグラフィ(ion-exchange chromatography:IEC)、キャピラリゾーン電気泳動(capillary zone electrophoresis:CZE)、イメージキャピラリ等電点電気泳動(image capillary isoelectric focusing:iCIEF)、並びに効力アッセイを含む。一実施形態では、混合物は、最大約8時間、又は最大約12時間、又は最大約24時間、5℃又は30℃で安定であることが示されている。別の実施形態では、混合物は、少なくとも約8時間、又は少なくとも約12時間、又は少なくとも約24時間、5℃又は30℃で安定であることが示されている。
【0062】
用語「サブユニット」とは、本明細書で使用される場合、マルチマー(例えば、ホモダイマー及びヘテロダイマー)の成分を指す。サブユニットは、3アミノ酸~数千アミノ酸長までの任意のサイズであり得るポリペプチドであってもよい。
【0063】
用語「可変領域」又は「可変ドメイン」とは、抗体の抗原への結合に関与する抗体重鎖又は軽鎖のドメインを指す。ネイティブ抗体の重鎖及び軽鎖の可変ドメイン(それぞれ、VH及びVL)は、一般的に類似した構造を有しており、各ドメインは4つの保存フレームワーク領域(FR)と3つの超可変領域(HVR)を含む。(例えば、Kindtら、「Kuby Immunology」、第6版、W.H.Freeman and Co.、第91頁(2007年)を参照されたい。)単一のVH又はVLドメインは、抗原結合特異性を付与するために充分であり得る。更に、特定の抗原に結合する抗体は、抗原に結合する抗体のVH又はVLドメインを使用し、それぞれ、相補的VL又はVHドメインのライブラリをスクリーニングして、単離してもよい。例えば、Portolanoら、「J.Immunol.」、第150巻:第880~887頁(1993年);Clarksonら、「Nature」、第352巻:第624~628頁(1991年)を参照されたい。
【0064】
用語「価数」とは、本明細書で使用される場合、抗原結合分子内の特定数の抗原結合部位の存在を示す。この場合、用語「抗原に対する一価の結合」とは、抗原結合分子内の抗原に特異的な1つ(及び1つを超えない)抗原結合部位の存在を示す。
【0065】
本明細書で使用される場合、「治療」は、治療されている個体又は細胞の自然経過を改変することを目的とした臨床介入を指し、臨床病理過程の前又は最中に行うことができる。治療の望ましい効果には、疾患又はその状態若しくは症状の発生又は再発の予防、疾患の状態又は症状の軽減、疾患の直接的又は間接的な病理学的結果の減少、疾患進行率の低下、疾患状態の改善又は緩和、及び寛解又は予後改善が含まれる。特定の実施形態では、本開示の方法及び組成物は、疾患又は障害の発症を遅らせる試みにおいて有用である。
【0066】
ある薬剤の「有効量」は、その薬剤が投与される細胞又は組織において、ある生理学的変化を引き起こすのに必要な量を指す。
【0067】
2.標的マルチサブユニットタンパク質を単離及び定量するためのリガンド
本開示の主題は、特定の実施形態では、1つ以上の分析アッセイにおいて使用することができるリガンドに関する。本開示の分析アッセイは、特定の実施形態では、標的タンパク質を分離、単離、及び/又は定量することができる。例示的な分析アッセイとして、イオン交換クロマトグラフィ(IEC)、キャピラリゾーン電気泳動(CZE)、イメージキャピラリ等電点電気泳動(iCIEF)、及びアフィニティキャピラリ電気泳動(ACE)アッセイを挙げることができる。
【0068】
特定の実施形態では、本開示のリガンドは、標的タンパク質に結合することができる(これは、本明細書において、標的タンパク質に結合するか、又は標的タンパク質によって結合されるかのいずれかを指すように使用される)。例えば、リガンドは、標的タンパク質がその天然立体配座にある場合、部分的に折りたたまれていない場合、又は完全に折りたたまれていない場合に、標的タンパク質に結合することができる。本開示によれば、リガンドは、標的タンパク質の認識された機能的領域、例えば、酵素の活性部位、抗体の抗原結合部位、受容体のホルモン結合部位、又は補因子結合部位に結合する薬剤に限定されない。特定の実施形態では、リガンドは、標的タンパク質の立体配座ドメインだけでなく、表面又は内部配列に結合する薬剤であり得る。更に、リガンドは、標的タンパク質の1つ以上のサブユニット(例えば、第1のサブユニット若しくは第2のサブユニット、又はその両方)に結合することができる。したがって、本開示のリガンドは、それ自体では、上記の様式で標的タンパク質に結合するそれらの能力を超えて、明らかな生物学的機能を有しない可能性がある薬剤を包含する。
【0069】
特定の実施形態では、リガンドは、ポリペプチド又はポリペプチド断片である。特定の実施形態では、リガンドは、標的タンパク質(例えば、抗体)によって結合されたエピトープを含む。
【0070】
特定の実施形態では、リガンドが、変化したリガンドと比較して、蛍光(又は他の方法で検出可)標識、変化した電荷、質量、流体力学的サイズ、電気泳動移動度、若しくはそれらの組合せを有するように構成される。特定の実施形態では、リガンドは、蛍光標識ポリペプチド又は蛍光標識ポリペプチド断片である。特定の実施形態では、リガンドは、リガンドの非結合領域に1つ以上のアミノ酸を加えることによって修飾される。特定の実施形態では、1つ以上のアミノ酸は、グルタミン酸、アスパラギン酸、及びそれらの組合せからなる群から選択される。特定の実施形態では、加えられた1つ以上のアミノ酸は、リガンドの電荷及び質量を変化させるように構成される。
【0071】
特定の実施形態では、リガンドは、ヒトCD3ポリペプチド、マウスCD3ポリペプチド、ラットCD3ポリペプチド、ウサギCD3ポリペプチド、及びカニクイザルCD3ポリペプチドからなる群から選択される。特定の実施形態では、リガンドは、CD3ペプチドである。特定の実施形態では、リガンドは、配列:Pyr DGNEEMGGITQTPYKE酸を有するCD3ペプチドである。いくつかの実施形態では、CD3ペプチドは、配列:Pyr DGNEEMGGITQTPYKD酸、Pyr DGNEEMGGITQTPYKDD酸、又はPyr DGNEEMGGITQTPYKDDD酸を有し得る。非限定的な実施形態では、リガンドは、標的ホモダイマーによって認識され得る任意のリガンドを含み得る。
【0072】
特定の実施形態では、標的タンパク質は、マルチサブユニットタンパク質を含み得る。サブユニットは1つ以上の分子間結合(例えば、共有結合及び非共有結合)を介して結合して、マルチサブユニットタンパク質を形成することができる。非限定的な実施形態では、マルチサブユニットタンパク質は、抗体であり得る。例示的なマルチサブユニットタンパク質としては、モノクローナル抗体、免疫コンジュゲート、合成抗体、一本鎖Fv(scFv)、一本鎖抗体、Fab断片、F(ab’)断片、F(ab’)2断片、ジスルフィド結合Fv(sdFv)、細胞内抗体、及び上記のいずれかのエピトープ結合断片を挙げることができる。いくつかの実施形態では、抗体は、アゴニスト、アンタゴニスト、及び中和抗体、並びに脱免疫抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、及びヒト抗体、並びに/又は任意の適切な動物源(例えば、マウス、ラット、ハムスタ、モルモット、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ウマ、ウシ、サル、類人猿、及び/又はニワトリ)に由来する抗体を含むことができる。
【0073】
特定の実施形態では、マルチサブユニットタンパク質は、ヘテロダイマータンパク質であり得る。ヘテロダイマータンパク質は、少なくとも第1のヒンジ含有ポリペプチド及び第2のヒンジ含有ポリペプチドを含むことができ、該第2のヒンジ含有ポリペプチドは、少なくとも1つのアミノ酸残基によって第1のヒンジ含有ポリペプチドとアミノ酸配列が異なる。ヘテロダイマーは、第1及び第2のヒンジ含有ポリペプチドによって形成され得るか、又は第1及び第2のヒンジ含有ポリペプチドに加えてポリペプチドが存在する高次三次構造を形成することができる。ヘテロマルチマーのポリペプチドは、非ペプチド、共有結合(例えば、ジスルフィド結合)及び/又は非共有結合(例えば、水素結合、イオン結合、ファンデルワールス力、及び/又は疎水性相互作用)によって相互作用してもよい。特に、ヘテロダイマータンパク質は、当業者によって理解されるように、及び特定の実施形態において、少なくとも2つ以上の異なる抗体由来のドメインを含み得る、二重特異性抗体であってもよい。非限定的な実施形態では、二重特異性抗体は、2つの異なる重鎖(それぞれ異なる抗体に由来する)及び2つの異なる軽鎖(それぞれ異なる抗体に由来する)を含むことができ、及び/又は、各々が2つ以上の異なる抗体由来の断片を含む重鎖及び軽鎖を含むことができる。更に、二重特異性抗体は、脱免疫抗体、マウス抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体及びヒト抗体由来の重鎖及び/又は軽鎖、並びに脱免疫抗体、マウス抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体由来の重鎖及び/又は軽鎖並びにその断片(例えば、その可変及び/又は定常ドメイン)の組合せを含むことができる。本開示の二重特異性抗体はまた、抗体(例えば、一本鎖Fv(scFv)、一本鎖抗体、Fab断片、F(ab’)断片、F(ab’)2断片、及びジスルフィド結合Fv(sdFv))のエピトープ結合断片を含んでもよく、特に、1つ以上の重鎖又は軽鎖定常ドメイン、例えば重鎖CH1/CH2/CH3ドメインに結合したscFvに結合している。いくつかの実施形態では、本開示の二重特異性抗体は、Fcドメインを含む。当業者には理解されるように、Fcドメインの存在は、二重特異性抗体をFc結合部分を用いて精製しやすくする。当技術分野でよく認識されているように、重鎖のCH1-ヒンジ-CH2-CH3ドメインの特定の構造及びアミノ酸配列が、免疫グロブリン型及びサブクラスを決定する。本開示の二重特異性抗体は、いかなる様式においても特定の重鎖構造又はアミノ酸配列に限定されず、したがって、本開示の二重特異性抗体は、任意の型(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD、IgA、及びIgY)、クラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、及びIgA2)、又はサブクラスであり得る。
【0074】
特定の実施形態では、マルチサブユニットタンパク質は、ホモダイマータンパク質を含み得る。ホモダイマータンパク質は、同一又は機能的に等価である少なくとも2つのポリペプチド鎖を有し得る。例えば、CD20又はCD3モノクローナル抗体は、2つの同一な重鎖及び軽鎖を含むことができる。特定の実施形態では、リガンドは、マルチサブユニットタンパク質に結合して、リガンド-タンパク質複合体を形成することができる。リガンドは、Fcドメイン、κドメイン又はλドメインなどのマルチサブユニット分子の結合ドメインに対して特異性を有し得る。リガンド-タンパク質複合体は、マルチサブユニットタンパク質と比較して、少なくとも1つの改変された特性を有し得る。いくつかの実施形態では、改変された特性は、電荷、質量、流体力学的サイズ、電気泳動移動度、及びそれらの組合せを含むことができる。
【0075】
3.標的マルチサブユニットタンパク質を単離及び定量するためのシステム
本開示は、特定の実施形態では、試料中のタンパク質、例えばマルチサブユニットタンパク質を分離するためのシステムに関する。特定の実施形態では、システムは、(a)リガンド、(b)バックグラウンド電解質緩衝液、(c)試料、(d)キャピラリ、(e)キャピラリの一端にある、又は一端の近くのアノード、及び(f)キャピラリのもう一方の端にある、又はもう一方の端の近くのカソードを備える。特定の実施形態では、システムは、リガンドと混合されて少なくとも1つのリガンド-タンパク質複合体を形成する、試料を含む。特定の実施形態では、システムは、キャピラリのアノード端でキャピラリに負荷されたそのようなリガンド-タンパク質複合体を含む。特定の実施形態では、システムは、リガンドと混合されているバックグラウンド電解質緩衝液でキャピラリが充填されたキャピラリを備える。
【0076】
特定の実施形態では、本開示のシステムは、キャピラリのカソード端の近くに配置された検出器を更に備える。例えば、限定するものではないが、検出器は、210nm~280nmの吸光度又はレーザ誘起蛍光を検出する。非限定的な実施形態では、検出器は、蛍光検出器及び/又は化学発光検出器を備え得る。蛍光検出器は蛍光タグでタグ付けされたリガンドを検出することができる。蛍光検出器は蛍光タグでタグ付けされた抗体を検出することができる。
【0077】
上述のように、本開示のシステムはまた、試料も含む(又は試料を受け取るように構成される)。特定の実施形態では、試料は、少なくとも1つのホモダイマー、少なくとも1つのヘテロダイマー、又はそれらの組合せを含む。特定の実施形態では、本開示のシステムは、リガンドが、少なくとも1つのヘテロダイマーの第1のサブユニットに結合し、かつ少なくとも1つのヘテロダイマーの第2のサブユニットに結合しない場合に形成される、第1のリガンド-タンパク質複合体を含む。特定の実施形態では、本開示のシステムは、リガンドがホモダイマーの少なくとも2つの同一な第1又は第2サブユニットに結合した場合に形成される、第2のリガンド-タンパク質複合体を含む。特定の実施形態では、リガンドが該マルチサブユニットタンパク質の該サブユニットに結合する場合に、該少なくとも1つのリガンド-タンパク質複合体は、変化した電荷、質量、流体力学的サイズ、電気泳動移動度、又はそれらの組合せを有するように構成される。特定の実施形態では、第2のリガンド-タンパク質複合体は、第1のリガンド-タンパク質複合体よりも低い電気泳動移動度を有することができ、又はその逆も可能である。
【0078】
特定の実施形態では、本開示のシステムは、アミノ-n-カプロン酸(Amino-n-Caproic Acid:EACA)、トリエチレンテトラミン(Triethylene tetramine:TETA)、及びヒドロキシプロピルメチル-セルロース(Hydroxypropylmethyl-cellulose:HPMC)を含む、バックグラウンド電解質緩衝液を含む。非限定的な実施形態では、本開示のシステムは、キャピラリ電気泳動緩衝液を含む。例えば、キャピラリ電気泳動緩衝液は、リン酸塩、ギ酸塩、クエン酸塩、酢酸塩、ピペラジン-N、N’-ビス(2-エタンスルホン酸)(PIPES)、リン酸塩、トリシン、フィチン酸、ホウ酸塩/ホウ酸、トリス,2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)、4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)、3-(N-モルホリノ)プロパンスルホン酸(MOPS)、N-シクロヘキシル-3-アミノプロパンスルホン酸(CAPS)、グリシン、及びビシンを含む。「Handbook of capillary and microchip electrophoresis and associated microtechniques」第3版表1.3「commonly used CE buffers and their associated properties」(第25頁)を参照されたい。いくつかの実施形態では、本開示のシステムは、キャピラリ電気泳動添加物を含む。例えば、キャピラリ電気泳動添加物としては、メチルセルロース、ドデシル硫酸ナトリウム(sodium dodecyl sulfate:SDS)、ポリエチレングリコール(Polyethylene Glycol:PEG)/ポリエチレンオキシド(Polyethylene oxide:PEO)、及び/又はアセトニトリルが挙げられる。特定の実施形態では、本開示のシステムは、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、0.25%、0.1%、0.05%、又は0.01%未満のホモダイマーを含む、二重特異性抗体を含む組成物を含む。非限定的な実施形態では、二重特異性抗体はT細胞依存性二重特異性(TDB)抗体であり、ホモダイマーはCD3ホモダイマーである。いくつかの実施形態では、TDB抗体は、CD3に結合する第1の抗原結合部位、及び細胞表面抗原に結合する第2の抗原結合部位を含む。TDBはCD3結合アームを介してT細胞と結合して活性化し、抗CD3ホモダイマー(CD3 HD)不純物の存在は、TCRの二価結合及び二量体化を介して望ましくないオフターゲットT細胞活性化を潜在的に誘発し得る。
【0079】
4.標的マルチサブユニットタンパク質を単離及び定量するための方法
本開示は、特定の実施形態では、試料中のタンパク質、例えばマルチサブユニットタンパク質を分離するための方法に関する。特定の実施形態では、本方法は、以下の工程:(a)少なくとも1つのリガンド-タンパク質複合体を形成するために、少なくとも1つのタンパク質とリガンドとを含む試料の混合物を作製する工程と、(b)混合物をキャピラリに適用する工程であって、キャピラリがリガンドと混合されたバックグラウンド電解質緩衝液で満たされている、適用する工程と、(c)キャピラリの両端に電圧を印加する工程と、(d)タンパク質(例えば、マルチサブユニットタンパク質)及び少なくとも1つのリガンド-タンパク質複合体がキャピラリを通して移動できるようにする工程と、を含む。特定の実施形態では、リガンド-タンパク質複合体は、リガンド結合時に、変化した電荷、質量、流体力学的サイズ、電気泳動移動度、又はそれらの組合せを有するように構成される。特定の実施形態では、そのような改変は、試料中のタンパク質の分離を促進する。
【0080】
本開示は、特定の実施形態では、以下の工程:(a)少なくとも1つのリガンド-タンパク質複合体を形成するために、タンパク質とリガンドとを含む試料の混合物を作製する工程と、(b)混合物をキャピラリに適用する工程であって、キャピラリがリガンドと混合されたバックグラウンド電解質緩衝液で満たされている、適用する工程と、(c)キャピラリの両端に電圧を印加する工程と、(d)タンパク質及び少なくとも1つのリガンド-タンパク質複合体がキャピラリを通して移動できるようにする工程と、を含む試料混合物中の標的タンパク質を単離する方法に関する。特定の実施形態では、リガンド-タンパク質複合体は、タンパク質へのリガンド結合時に、変化した電荷、質量、流体力学的サイズ、電気泳動移動度、又はそれらの組合せを有するように構成される。特定の実施形態では、本方法は、試料中に存在する非標的タンパク質から分離されている標的タンパク質を単離することを更に含む。
【0081】
特定の実施形態では、本開示の方法は、キャピラリを使用し、該キャピラリは、カソード端、アノード端、及び検出器を含む。特定の実施形態では、検出器は、キャピラリのカソード端の近くにあり、かつ210nm~280nmの吸光度又はレーザ誘起蛍光を検出する。特定の実施形態では、電圧は、最大30キロボルトであり得る。非限定的な実施形態では、キャピラリの長さを増大させて、試料中の標的分子の分離を改善することができる。
【0082】
特定の実施形態では、本開示は、分析される試料が少なくとも1つのホモダイマー、少なくとも1つのヘテロダイマー、又はそれらの組合せを含む、方法に関する。特定の実施形態では、少なくとも1つのヘテロダイマーは、第1のサブユニット及び別個の第2のサブユニットを含む。特定の実施形態では、少なくとも1つのホモダイマーは、少なくとも2つの同一の第1又は第2サブユニットを含む。特定の実施形態では、少なくとも1つのヘテロダイマーは、二重特異性抗体である。特定の実施形態では、少なくとも1つのホモダイマーは、モノクローナル抗体である。
【0083】
特定の実施形態では、本開示は、リガンドが上記方法の少なくとも1つのヘテロダイマーの第1のサブユニットに結合し、かつリガンドが少なくとも1つのヘテロダイマーの第2のサブユニットに結合しない、第1のリガンド-タンパク質複合体が形成される、方法に関する。特定の実施形態では、本開示は、上記のリガンドがホモダイマーの少なくとも2つの同一な第1又は第2サブユニットに結合した場合に、第2のリガンド-タンパク質複合体が形成される、方法に関する。
【0084】
特定の実施形態では、本開示は、バックグラウンド電解質緩衝液が、アミノ-n-カプロン酸(EACA)、トリエチレンテトラミン(TETA)、及びヒドロキシプロピルメチル-セルロース(HPMC)を含む、方法に関する。特定の実施形態では、バックグラウンド電解質緩衝液は、上記方法の少なくとも1つのヘテロダイマーの第1のサブユニットに結合し、かつ少なくとも1つのヘテロダイマーの第2のサブユニットに結合しない、リガンドを含む。
【0085】
特定の実施形態では、本開示の方法は、望ましくないタンパク質オリゴマー化を最小限に抑えるための特定の緩衝液及び/又は他の工程の使用を含んでもよい。例えば、限定するものではないが、分析される試料中に存在する特定のタンパク質、例えば、以下の実施例に記載される抗CD3及び抗CD20ホモダイマー種は、高分子量オリゴマー種を形成し得る。特定の実施形態では、そのようなオリゴマー種は目的のタンパク質と共移動し得るか、又はそうでなければ、アッセイの有用性を妨げ得る。特定の実施形態では、例えば溶液中の全てのホモダイマーを測定することが望ましい場合、そのようなオリゴマー種は、分離の前に解離され得る。これは、特定の実施形態では、低pH緩衝液又は高pH緩衝液中で試料を調製することによって達成することができる。非限定的な実施形態では、尿素を溶液に加えて、分離前に高分子量オリゴマー種を解離させることができる。いくつかの実施形態では、溶液の濃度(例えば、バックグラウンド緩衝液、キャピラリ電気泳動緩衝液、及び/又はキャピラリ電気泳動添加物)を増加させて、望ましくないタンパク質オリゴマー化を最小限にすることができる。これらの条件はオリゴマーを解離させるのに充分であるが、リガンド-タンパク質複合体形成を維持するのに充分穏やかであり、タンパク質、例えばBsAbの構造を変性させることがないことが示されている。
【0086】
特定の実施形態では、本開示の方法は、望ましくない目的のタンパク質の荷電バリアントを最小限に抑えるための特定の緩衝液及び/又は他の工程の使用を含んでもよい。例えば、限定するものではないが、分析される試料中に存在する特定のタンパク質、例えば、以下の実施例に記載の抗CD3 HDは、電荷変動を示し得る。特定の実施形態では、そのような電荷変動は、pH依存性である。特定の実施形態では、特定の緩衝液の使用は、流体力学的サイズの観察可能な差異をもたらす立体配座変化を誘導することができる。したがって、特定の実施形態では、そのような電荷変動又は立体配座変動を最小にする緩衝液中で試料を調製することが望ましい。例えば、限定するものではないが、特定の実施形態では、pH3.5緩衝液を使用して、タンパク質種を単一の低pH状態にすることができる。特定の実施形態では、これは信号対雑音比を改善し、それによりアッセイの定量限界を低下させることができるので、望ましい。特定の実施形態では、しかしながら、pH7.5のHEPES緩衝液、例えば10mMのHEPEs緩衝液(pH7.5)を0.1%PS20と共に使用して、タンパク質種を単一の状態にすることができる。特定の実施形態では、これは信号対雑音比を改善し、それによりアッセイの定量限界を低下させることができるので、望ましい。
【0087】
特定の実施形態では、本開示の方法は、望ましくないタンパク質表面吸収を最小限に抑えるための特定の緩衝液及び/又は他の工程の使用を含んでもよい。例えば、限定するものではないが、分析される試料中に存在する特定のタンパク質、例えば、以下の実施例に記載の抗CD3 HDは、望ましくない表面吸収を示し得る。このような表面吸収、例えばバイアル壁への吸収は、より低い回収率の抗CD3ホモダイマーピーク面積をもたらし得る。このような吸収を制御し回収率を改善するために、本開示の方法は、試料中に、洗浄剤、例えば約0.1%~約0.4%ポリソルベート20(PS20)を含んでもよい。特定の実施形態では、本開示の方法は、界面活性剤が、ツイーン80、ポロキサマー188(p188)、トリトン、SDS、Brij、PEO/PEG及び/又はグリセロールを含み得る界面活性剤を含んでもよい。非限定的な実施形態では、本開示の方法は、スクロース、グアニジンHCl、及び/又はシクロデキストリン(例えば、種々のアイソタイプ)などのカオトロープを含んでもよい。
【0088】
特定の実施形態では、本開示は、試料中の標的タンパク質の量を定量することを更に含む、方法に関する。
【0089】
描写され、特許請求される様々な実施形態に加えて、本開示の主題は、本明細書に開示され、特許請求される特徴の他の組合せを有する他の実施形態も対象とする。したがって、本明細書に提示される特徴は、本開示の主題が本明細書に開示される特徴の任意の好適な組合せを含むように、本開示の主題の範囲内において他の様式で互いに組み合わせられても良い。本開示の主題の特定の実施形態の前述の説明は、例証及び説明目的のために提示されている。包括的であるようにも本開示の主題を開示される実施形態に限定するようにも意図されていない。
【0090】
本開示の主題の趣旨又は範囲から逸脱することなく、本開示の主題の組成物及び方法に様々な修正及び変形を加えることができることは、当業者には明らかである。したがって、本開示の主題が添付の特許請求の範囲及びそれらの等価物の範囲内の修正及び変形を含むよう意図されている。
【0091】
様々な刊行物、特許、及び特許出願が本明細書に引用されており、それらの内容は、参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる。
【0092】
本開示の実施形態
以下は本開示の非限定的な実施形態である。
【0093】
1.試料中のマルチサブユニットタンパク質を分離するためのシステムであって、以下:(a)リガンド、(b)バックグラウンド電解質緩衝液、(c)試料、(d)キャピラリ、(e)キャピラリの一端にある、又は一端の近くのアノード、及び(f)キャピラリのもう一方の端にある、又はもう一方の端の近くのカソードを備え、該試料は、リガンドと混合されて少なくとも1つのリガンド-タンパク質複合体を形成し、かつキャピラリのアノード端でキャピラリ内に装填され、かつ該キャピラリは、リガンドと混合されたバックグラウンド電解質緩衝液で満たされている、システム。
【0094】
2.該キャピラリの該カソード端の近くに配置された検出器を更に備え、該検出器が、210nm~220nmの吸光度又はレーザ誘起蛍光を検出する、実施形態1に記載のシステム。
【0095】
3.該試料が、少なくとも1つのホモダイマー、少なくとも1つのヘテロダイマー、又はそれらの組合せを含む、実施形態1~2のいずれか1つに記載のシステム。
【0096】
4.該リガンドが、該少なくとも1つのヘテロダイマーの該第1のサブユニットに結合し、かつ該少なくとも1つのヘテロダイマーの該第2のサブユニットに結合しない場合に、第1のリガンド-タンパク質複合体が形成される、実施形態1~3のいずれか1つに記載のシステム。
【0097】
5.該リガンドが該ホモダイマーの該少なくとも2つの同一な第1又は第2サブユニットに結合する場合に、第2のリガンド-タンパク質複合体が形成される、実施形態1~4のいずれか1つに記載のシステム。
【0098】
6.該リガンドが該マルチサブユニットタンパク質の該サブユニットに結合する場合に、該少なくとも1つのリガンド-タンパク質複合体が、変化した電荷、質量、流体力学的サイズ、電気泳動移動度、又はそれらの組合せを有するように構成される、実施形態1~5のいずれか1つに記載のシステム。
【0099】
7.該第2のリガンド-タンパク質複合体が、該第1のリガンド-タンパク質複合体よりも低い電気泳動移動度を有する、実施形態1~6のいずれか1つに記載のシステム。
【0100】
8.該リガンドが、ペプチド又はペプチド断片である、実施形態1~7のいずれか1つに記載のシステム。
【0101】
9.該リガンドが、蛍光標識ペプチド又は蛍光標識ペプチド断片である、実施形態1~8のいずれか1つに記載のシステム。
【0102】
10.該リガンドが、ヒトCD3ペプチド、マウスCD3ペプチド、ラットCD3ペプチド、ウサギCD3ペプチド、及びカニクイザルCD3ペプチドからなる群から選択される、実施形態1~9のいずれか1つに記載のシステム。
【0103】
11.該リガンドが、該リガンドの非結合領域に1つ以上のアミノ酸を加えることによって修飾される、実施形態1~10のいずれか1つに記載のシステム。
【0104】
12.該1つ以上のアミノ酸が、グルタミン酸、アスパラギン酸、及びそれらの組合せからなる群から選択される、実施形態11に記載のシステム。
【0105】
13.該加えられた1つ以上のアミノ酸が、該リガンドの電荷及び質量を変化させるように構成される、実施形態11~12のいずれか1つに記載のシステム。
【0106】
14.該試料が、(A)低pH尿素緩衝液中、又は(B)0.1%ポリソルベート20と組み合わせた高pH HEPES緩衝液中で、該リガンドと更に混合される、実施形態11~13のいずれか1つに記載のシステム。
【0107】
15.該バックグラウンド電解質緩衝液が、アミノ-n-カプロン酸(EACA)、トリエチレンテトラミン(TETA)、及びヒドロキシプロピルメチル-セルロース(HPMC)を含む、実施形態11~14のいずれか1つに記載のシステム。
【0108】
16.試料中のマルチサブユニットタンパク質を分離するための方法であって、以下の工程:(a)少なくとも1つのリガンド-タンパク質複合体を形成するために、試料とリガンドとの混合物を作製する工程と、(b)混合物をキャピラリに適用する工程であって、キャピラリがリガンドと混合されたバックグラウンド電解質緩衝液で満たされている、適用する工程と、(c)キャピラリの両端に電圧を印加する工程と、(d)マルチサブユニットタンパク質及び該少なくとも1つのリガンド-タンパク質複合体がキャピラリを通して移動できるようにする工程と、を含み、リガンドがマルチサブユニットタンパク質のサブユニットに結合し、それによって試料中のマルチサブユニットタンパク質を分離する場合に、リガンド-タンパク質複合体が、変化した電荷、質量、流体力学的サイズ、電気泳動移動度、若しくはそれらの組合せを有するように構成される、方法。
【0109】
17.試料混合物中の標的タンパク質を単離する方法であって、以下の工程:(a)少なくとも1つのリガンド-タンパク質複合体を形成するために、試料とリガンドとの混合物を作製する工程と、(b)混合物をキャピラリに適用する工程であって、キャピラリがリガンドと混合されたバックグラウンド電解質緩衝液で満たされている、適用する工程と、(c)キャピラリの両端に電圧を印加する工程と、(d)マルチサブユニットタンパク質及び少なくとも1つのリガンド-タンパク質複合体がキャピラリを通して移動できるようにする工程であって、リガンドがマルチサブユニットタンパク質のサブユニットに結合する場合に、リガンド-タンパク質複合体が、変化した電荷、質量、流体力学的サイズ、電気泳動移動度、若しくはそれらの組合せを有するように構成される、移動できるようにする工程と、(e)非標的タンパク質から分離された標的タンパク質を単離する工程と、を含む、方法。
【0110】
18.該キャピラリが、カソード端、アノード端、及び検出器を含む、実施形態16又は17に記載の方法。
【0111】
19.該検出器が、該キャピラリの該カソード端の近くにあり、かつ210nm~220nmの吸光度又はレーザ誘起蛍光を検出する、実施形態18に記載の方法。
【0112】
20.該電圧が、30キロボルトである、実施形態16~19のいずれか1つに記載の方法。
【0113】
21.試料が、少なくとも1つのホモダイマー、少なくとも1つのヘテロダイマー、又はそれらの組合せを含み、少なくとも1つのヘテロダイマーが第1のサブユニット及び第2のサブユニットを含み、少なくとも1つのホモダイマーが少なくとも2つの同一な第1又は第2のサブユニットを含む、実施形態16~20のいずれか1つに記載の方法。
【0114】
22.該少なくとも1つのヘテロダイマーが、二重特異性抗体を含む、実施形態21に記載の方法。
【0115】
23.該少なくとも1つのホモダイマーが、モノクローナル抗体を含む、実施形態21に記載の方法。
【0116】
24.該リガンドが、ペプチド又はペプチド断片である、実施形態16~23のいずれか1つに記載の方法。
【0117】
25.該リガンドが、蛍光標識ペプチド又は蛍光標識ペプチド断片である、実施形態16~24のいずれか1つに記載の方法。
【0118】
26.該リガンドが、ヒトCD3ペプチド、マウスCD3ペプチド、ラットCD3ペプチド、ウサギCD3ペプチド、及びカニクイザルCD3ペプチドからなる群から選択される、実施形態16~24のいずれか1つに記載の方法。
【0119】
27.該リガンドが、該リガンドの非結合領域に1つ以上のアミノ酸を加えることによって修飾されるように構成される、実施形態16~24のいずれか1つに記載の方法。
【0120】
28.該1つ以上のアミノ酸が、グルタミン酸、アスパラギン酸、及びそれらの組合せからなる群から選択される、実施形態27に記載の方法。
【0121】
29.該加えられた1つ以上のアミノ酸が、該リガンドの電荷及び質量を変化させるように構成される、実施形態27~28のいずれか1つに記載の方法。
【0122】
30.該リガンドが、該少なくとも1つのヘテロダイマーの該第1のサブユニットに結合し、かつ該少なくとも1つのヘテロダイマーの該第2のサブユニットに結合しない場合に、第1のリガンド-タンパク質複合体が形成される、実施形態16~29のいずれか1つに記載の方法。
【0123】
31.該リガンドが該ホモダイマーの該少なくとも2つの同一な第1又は第2サブユニットに結合する場合に、第2のリガンド-タンパク質複合体が形成される、実施形態16~30のいずれか1つに記載の方法。
【0124】
32.以下:(A)低pH尿素緩衝液を該試料及び該リガンドの該混合物へと混合すること、又は(B)0.1%ポリソルベート20と組み合わせた高pH HEPES緩衝液を該試料及び該リガンドの該混合物へと混合することを更に含む、実施形態16~31のいずれか1つに記載の方法。
【0125】
33.該バックグラウンド電解質緩衝液が、アミノ-n-カプロン酸(EACA)、トリエチレンテトラミン(TETA)、及びヒドロキシプロピルメチル-セルロース(HPMC)を含む、実施形態16~32のいずれか1つに記載の方法。
【0126】
34.該試料中の該標的タンパク質の量を定量することを更に含む、実施形態16~33のいずれか1つに記載の方法。
【0127】
35.結合領域を含むアフィニティキャピラリ電気泳動リガンドであって、該結合領域が、目的のタンパク質及び修飾に結合するか又はこれらによって結合され、該修飾が該目的のタンパク質の単離を促進する、アフィニティキャピラリ電気泳動リガンド。
【0128】
36.該目的のタンパク質が、ホモダイマーである、実施形態35に記載のリガンド。
【0129】
37.該目的のタンパク質が、ヘテロダイマーである、実施形態35に記載のリガンド。
【0130】
38.該結合領域が、ポリペプチドである、実施形態35に記載のリガンド。
【0131】
39.該結合領域が、小分子である、実施形態35に記載のリガンド。
【0132】
40.該修飾が、蛍光標識の該付加、又は該リガンドへの1つ以上のアミノ酸の該付加である、実施形態35に記載のリガンド。
【0133】
41.該リガンドが該標的タンパク質に結合した場合に、該修飾が、蛍光標識、変化した電荷、質量、流体力学的サイズ、電気泳動移動度、又はそれらの組合せを提供する、実施形態35に記載のリガンド。
【実施例
【0134】
以下の実施例は、本明細書にて開示する主題を単に示すものであり、いかなる方法においても、限定するものとみなされるべきではない。
【0135】
実施例1:二重特異性生成物中のホモダイマーを検出するための高特異的アフィニティキャピラリ電気泳動(ACE)法
この実施例では、BsAb標的の抗原に対する特異性及び親和性を利用して、キャピラリゾーン電気泳動(CZE)を用いた電気泳動移動度の差に基づく分離を達成した。
【0136】
材料及び方法
最終試料が、3g/Lのタンパク質、50mMのギ酸塩、2Mの尿素、0.1%のPS20、及び50μMのCD3ペプチド、pH3.5(「低pH下調製」)、又は3g/Lのタンパク質、10mMのHEPES、0.1%のPS20、及び50μMのCD3ペプチド、pH7.5(高pH調製」)のいずれかを含むように、タンパク質試料を調製した。
【0137】
UV検出器及び214nmフィルタを備えたSciex PA800 Plus装置を用いて、CZEによりタンパク質を分離した。分離は20/30cmカートリッジ(検出器までのキャピラリ長/全長)のキャピラリカートリッジを用いて行った。キャピラリ自体は内径50μmの裸溶融シリカキャピラリであった。
【0138】
試料は、本明細書に概説する以外は、従来のCZEプロセス戦略に従って分離した。簡単に述べると、加圧注入を用いて20秒間0.5psiで試料を注入する。30kVの電圧を30分間印加して、試料を分離した。バックグラウンド電解質は、400mMアミノ-n-カプロン酸(EACA)緩衝液と共に、2mMトリエチレンテトラミン(TETA)、0.5%ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、及び50μM CD3ペプチドをpH5.7で含有する。
【0139】
結果
CZE法の性能:古典的なキャピラリゾーン電気泳動では、種は電場印加の影響下で速度差に基づいて移動し、分離する。ホモダイマー及び二重特異性種(図1)は電荷及び流体力学的サイズ特性の両方において非常に類似しているので、これらのCZE法によるこれらの種の分離は、不充分である可能性がある(図2及び図3)。
【0140】
CD3ペプチドによるACE:アフィニティCZEの原理を応用して、CD3ペプチドを試料混合物に加え、これらの種の間の更なる分離を達成した(図2)。ペプチドを分離前に試料と混合すると、CD3結合種の移動時間は電荷若しくは流体力学的サイズのいずれか、又は両者の組合せの見かけの変化に応じてシフトした。しかしながら、得られた分離プロファイルは、不完全な結合と一致する貧弱なピーク形状を示した。これはまた、抗CD3-CD3ペプチド複合体に対するより高い解離定数に起因する可能性がある。
【0141】
ピーク形状を改善し、CD3ペプチドの完全かつ持続的な結合に向けた駆動を行うために、ペプチドを、50μM濃度で試料及びバックグラウンド電解質の両方に含めた(図4)。
【0142】
CD3ペプチドの修飾:図4に示すように、CD3ペプチドの使用は、抗CD3 HDと二重特異性抗体との間の分離をもたらした。しかし、これらの種は完全には(又はベースライン)分離されなかった。抗CD3ホモダイマーの低レベルで正確な定量が望まれたため、両種間の更なる分離を追求した。これを達成するため、CD3ペプチドを、ペプチドの非結合N末端への種々の低等電点(pI)アミノ酸(例えば、グルタミン酸及びアスパラギン酸)の添加によって修飾した。このプロセスは、ペプチドに電荷及び質量を効果的に付加し、最終的に、結合したペプチド-抗体複合体に対する電荷及び質量を変化させる。
【0143】
CD3ペプチドを、1つのグルタミン酸、並びに1つ、2つ、及び3つのアスパラギン酸の付加を含む、いくつかのアミノ酸タグを用いて修飾した(図5A)。次いで、これらのペプチドを図5Bに示すACE分離に使用した。CD3ペプチドの電荷及び質量の寄与が大きいほど、種間の分離度は大きくなる。しかしながら、これらの修飾CD3ペプチドはまた、ホモダイマー及び二重特異性種の荷電バリアント内において、より大きな分離を提供した。ホモダイマーの異なる荷電バリアント内におけるこの増大した分解能は、ホモダイマーピークの全体的な信号対雑音比を低減させ、この領域の統合をより困難にし、最終的にアッセイの感度及び定量限界を低下させる。このように、ペプチドへの修飾によって、二重特異性の干渉を最小化するのに充分な分解能を達成することと、抗CD3ホモダイマー種のシグナルを最大化することとの間の釣り合いが得られた。例えば、限定するものではないが、1つのグルタミン酸タグ(すなわち、CD3-E)は、感度を低下させることなく、抗CD20と抗CD3種との間の適切な分離を提供し、そのようなものとしてこのアッセイのために選択された(図6)。
【0144】
低pH及び尿素試料処理:抗CD3及び抗CD20ホモダイマー種は、溶液中で一緒に存在する場合、高分子量オリゴマー種を形成することが発見された(図9)。このオリゴマーはBsAbと共移動し、定量可能な方法でこのアフィニティアッセイでは検出できなかった。具体的には、高分子量オリゴマーは、抗CD20 HDが試料中にスパイクされる際、抗CD3 HDの消失を通じて間接的に検出された。高分子量オリゴマーとBsAbとは混ざり合うので、高分子量オリゴマー種はBsAbの存在下では定量できなかった。溶液中の全てのホモダイマー種を測定するには、これらのオリゴマーを分離する前に解離させる必要がある。これは2M尿素を含む低pH緩衝液中で試料を調製することによって達成された。これらの条件は、オリゴマーを解離させるが、ペプチド-抗体複合体形成を維持し、かつBsAb構造を変性させることなく、充分に穏やかであることが示された。
【0145】
その上、抗CD3 HDの荷電バリアントはpH依存性であることが示された。BsAb(及び関連する電荷バリアント)の電荷は、pHの関数について、異なる全体的な電荷状態及び電荷分布を有し得る。全体的な電荷状態(例えば、電荷の合計数)及び電荷位置(例えば、電荷パッチ、埋設、曝露した溶媒)は、高pHと低pH条件との間で異なり得る。pH3.5の緩衝液中で試料を調製することによって、種は単一の低pH立体配座に対して駆動される。これにより信号対雑音が改善され、アッセイの定量限界が低下する(図7)。
【0146】
抗CD3 HD回収を改善するための試料マトリックス中における高pH及び0.1%PS20:抗CD3 HDが経時的にバイアルへ吸着することで、抗CD3ホモダイマーピーク面積のより低い回収率がもたらされることが示された。吸着を制御し、抗CD3 HDの回収を改善するために、0.1%ポリソルベート20(PS20)を試料マトリックスに加えた(図8)。
【0147】
スパイクした不純物による抗CD3領域の間接ピーク同定(図10A図10B)。10mM HEPES試料緩衝液、pH7.5及び0.1%PS20を用いて、BsAb、抗BハーフmAb、及びホモダイマー(図10A)の間で、高pH立体配座(図10B)への完全な変換のための時間を与えた後も含めて、分解能の向上が観察された。
【0148】
2つのホモダイマーの相互作用によるオリゴマー形成をACE及びサイズ排除クロマトグラフィ(SEC)で観察した。例えば、ACEは、抗CD3及び抗CD20 HDが相互作用し、BsAbと共移動する新しいピークを形成し得ることを示した(図11)。近接ピーク「HD複合体」又は「オリゴマー」は、ACE中でBsAbと共移動するが、SECでは高分子量形態で移動する。したがって、SECではBsAbと共移動せず、他の高分子量の形態又は凝集体と一緒にBsAb以前に移動する。SECでは、しかしながら、HD複合体は他のBsAb関連凝集体と区別できない。このような相互作用は低pH及び尿素により阻害された。例えば、抗CD3及び抗CD20 HDの相互作用は、低pH(例えば、pH3.5)及び尿素により阻害され、解離された(図12)。低pH処理は、以前にオリゴマー化され、他の方法によって検出不能であったホモダイマーを明らかにする(図13)。
【0149】
更に、アフィニティキャピラリ電気泳動の性能を改善するために種々の修飾を行うことができる。例えば、図14に示されるように、バックグラウンド緩衝液の濃度は、試料改変(例えば、pH調整、ps20処理、リガンドの添加、尿素処理等)の有無にかかわらず増加し得る。図14は、例示的な低pHアフィニティキャピラリ電気泳動法を図示する。開示されたシステム及び方法により、ACEの性能が改善した(図15)。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図11
図12
図13
図14
図15