IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ デシマドックス, エルエルシーの特許一覧

特許7482862口腔液収集および分析のための洗口液ならびにそれらの使用方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-02
(45)【発行日】2024-05-14
(54)【発明の名称】口腔液収集および分析のための洗口液ならびにそれらの使用方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20210101AFI20240507BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20240507BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
G01N27/62 V
G01N33/50 P
G01N33/68
G01N33/50 G
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2021526277
(86)(22)【出願日】2019-11-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-18
(86)【国際出願番号】 US2019062010
(87)【国際公開番号】W WO2020102808
(87)【国際公開日】2020-05-22
【審査請求日】2022-11-11
(31)【優先権主張番号】62/768,501
(32)【優先日】2018-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514100441
【氏名又は名称】デシマ・ダイアグノスティクス・エル・エル・シー
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ギブズ, フィリップ
【審査官】伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-148855(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0136208(US,A1)
【文献】特表2002-505737(JP,A)
【文献】特開2004-219418(JP,A)
【文献】特開2016-006420(JP,A)
【文献】特表2008-516201(JP,A)
【文献】特表2013-519876(JP,A)
【文献】特表2009-532675(JP,A)
【文献】WYLIE F M; ET AL,DRUGS IN ORAL FLUID: PART I. VALIDATION OF AN ANALYTICAL PROCEDURE FOR LICIT AND ILLICIT DRUGS IN ORAL FLUID,FORENSIC SCIENCE INTERNATIONAL,NL,ELSEVIER B.V,2005年06月10日,VOL:150, NR:2-3,PAGE(S):191-198,http://dx.doi.org/10.1016/j.forsciint.2005.02.024
【文献】CONCHEIRO M; ET AL,DEVELOPMENT AND VALIDATION OF A METHOD FOR THE QUANTITATION OF [DELTA]9TETRAHYDROCANNABINOL IN ORAL FLUID BY LIQUID CHROMATOGRAPHY ELECTROSPRAY-MASS-SPECTROMETRY,JOURNAL OF CHROMATOGRAPHY B,NL,ELSEVIER,2004年10月25日,VOL:810, NR:2,PAGE(S):319-324,http://dx.doi.org/10.1016/j.jchromb.2004.08.017
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/60-G01N 27/70
G01N 33/48-G01N 33/98
G01N 1/00-G01N 1/44
A61K 8/00-A61K 8/99
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗口液組成物であって、前記組成物は、唾液分泌刺激剤および質量分析法による検出に適切な内部トレーサーを含み、前記内部トレーサーは、分析物の重い同位体で標識された改変体または重い同位体で標識されたカフェインであり、前記洗口液組成物は、前記内部トレーサーおよび前記分析物を定量する方法における使用のためのものである、組成物。
【請求項2】
唾液および1またはこれより多くの分析物をさらに含む、請求項1に記載の洗口液組成物。
【請求項3】
前記1またはこれより多くの重い同位体は、13C、15N、H、およびこれらの組み合わせから選択される、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記内部トレーサーは、カフェイン-13である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記内部トレーサーは、前記分析物の前記重い同位体で標識された改変体である、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記内部トレーサーは、タートラジンではない、請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
菌/真菌増殖を防止する活性薬剤、色素、風味増強剤、および甘味剤からなる群より選択される1またはこれより多くの薬剤をさらに含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物は、約3.0~約6.2の間のpHを有する、請求項1~7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
前記組成物は、約3.0~約4.6の間のpHを有する、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
被験体の唾液中の分析物を定量するための方法であって、前記方法は、
(a)唾液生成を刺激するために有効な期間にわたって、前記被験体の口腔を、請求項1~9のいずれか1項に記載の洗口液組成物ですすぐ工程;
(b)工程(a)から得られた口腔液を容器の中に集める工程であって、ここで前記口腔液は、前記洗口液組成物および前記被験体の唾液を含む、工程;ならびに
(c)前記口腔液を質量分析の機器に供して、前記分析物および前記内部トレーサー定量する工程、
を包含する方法。
【請求項11】
前記分析物は、乱用薬物である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記乱用薬物は、アルコール、カンナビノイド、オピオイド、アンフェタミン、コカイン、ベンゾジアゼピン、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記分析物は、リチウム化合物である、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記分析物は、がんの生体マーカーである、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記生体マーカーは、タンパク質である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記生体マーカーは、核酸である、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記質量分析の機器は、LC-MS、GC-MS、CE-MS、HPLC-MS/MS、HPLC-TOFまたはMALDI-TOFである、請求項10~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記方法は、光度測定のいかなる工程をも含まない、請求項10~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記被験体の前記唾液中の前記分析物の定量が、前記洗口液組成物の既知の体積および前記洗口液組成物中の前記内部トレーサーの既知の濃度に基づく、請求項11~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記唾液分泌刺激剤は、リン酸、乳酸、クエン酸、およびアスコルビン酸からなる群から選択される、請求項1~6のいずれか1項に記載の組成物。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年11月16日出願の米国仮出願第62/768,501号(これは、これによりその全体において参考として援用される)の利益および優先権を主張する。
【0002】
発明の分野
本発明は、一般に、質量分析法ベースの分析法(例えば、HPLC-MS/MSまたはHPLC-TOF)を使用するその後の分析物検出のための口腔液収集のための洗口液に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
唾液は、ストレスを引き起こすことなく容易に集められ、一連のあらゆる分析目的に使用され得るサンプル材料である。とりわけ、唾液検査は、診断目的のために、および多くの疾患の処置を制御するために、価値ある情報を提供する。それは、タンパク質、ホルモン、代謝産物(metabolic metabolite)、電解質および種々の薬学的物質を試験することを可能にする。
【0004】
診断検査において使用される口腔液を集めるために使用される収集法は、偽陰性の割合および分析に必要とされるサンプル洗浄の量に関して顕著な関わり合いがある。いくつかの解決法が利用可能である(例えば、米国特許第7883724号、QuantisalTMを参照のこと)が、これらの製品は、収集の容易さにとっては最適ではない(あまりに扱いづらい/遅すぎる)および/またはHPLC-MSで利用される場合に、色素/界面活性剤を除去するためにかなりの分析前処理を要する。さらに、十分な口腔液が集められた場合に知らせるインジケーター色素は、高い偽陰性率をもたらす。なぜなら収集器が収集用緩衝液へと一旦落ちて入ってしまったら、そのインジケーター色素は、適切に集められたサンプルを無効なサンプルから区別できないからである。刺激された唾液生成からの口腔液収集器に伴う別の問題は、その集められた口腔液の洗口液/すすぎ液での希釈を正規化する方法である。以前の方法は、内部トレーサー色素を利用して光度測定およびその後の計算を行い、希釈補正係数を決定する(米国特許第7,883,724号を参照のこと)。しかし、このアプローチは、口腔液中の薬物/代謝産物を分析するために高速液体クラマトグラフィー-タンデム質量分析法(HPLC-MS/MS)、HPLC-TOFまたはMALDI-TOFを利用する方法において標準的なワークフローから理想的ではない。なぜならそれは、希釈係数を決定するために別個の測定を要するからである。
【0005】
口腔からのサンプル収集およびLC-MS、GC-MS、CE-MS、HPLC-MS/MS、HPLC-TOFまたはMALDI-TOFのような機器を使用するその後の分析物同定を単純化する洗口液組成物が未だに必要である。
【0006】
従って、本発明の目的は、LC-MS、GC-MS、CE-MS、HPLC-MS/MS、HPLC-TOFまたはMALDI-TOFによって検出可能なトレーサーを含む洗口液組成物を提供することである。
【0007】
質量分析法ベースの分析法(例えば、LC-MS、GC-MS、CE-MS、HPLC-MS/MS、HPLC-TOFまたはMALDI-TOF)を使用して、口腔からのサンプルにおける分析物の存在を検出する方法を提供することもまた本発明の目的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】米国特許第7,883,724号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明の要旨
口腔液サンプルにおける分析物を集めるための洗口液組成物が開示される。上記洗口液は、質量分析法ベースの分析法(例えば、LC-MS、GC-MS、CE-MS、HPLC-MS/MS、HPLC-TOFまたはMALDI-TOFアッセイ)によって、集めた口腔液における試験される全ての他の分析物とともに直接検出され得る内部トレーサーを含む。あるいは、上記洗口液は、いかなる内部トレーサーをも含まない。
【0010】
好ましい実施形態において、上記内部トレーサーは、安定な標識された重い同位体である。より好ましい実施形態において、上記内部トレーサーは、カフェイン-13である。必要に応じて、上記内部トレーサーは、目的の分析物の安定な重い同位体で標識された改変体である。開示される洗口液組成物は、好ましくは、タートラジンを含まない。上記洗口液は、必要に応じて、唾液分泌を誘導する、室温において洗口液完全性を維持する(細菌/真菌増殖を防止する)、および集めた口腔液を安定化する薬剤、ならびに1またはこれより多くの色素を含む。開示される洗口液は、唾液中の分析物の存在を検出するために使用される。上記洗口液組成物は、口腔から唾液を集めるために使用され、これは、唾液中の分析物の存在を決定するために、質量分析法ベースの分析法(例えば、LC-MS、GC-MS、CE-MS、HPLC-MS/MS、HPLC-TOFまたはMALDI-TOF)にその後供される。上記方法は、唾液生成を刺激するために有効な期間にわたって、口腔を、開示される洗口液ですすぐこと、上記得られた流体(洗口液+唾液)を容器の中に集め、上記得られた流体を質量分析法ベースの分析法(例えば、LC-MS、GC-MS、CE-MS、HPLC-MS/MS、HPLC-TOFまたはMALDI-TOF)に供して、上記サンプル中の分析物の存在を検出することを包含する。
【0011】
血液ベースのまたは尿ベースの検出および診断法と比較すると、口腔サンプルの使用は、特に、用量のタイトレーションが重要である場合に、サンプル収集のための容易なアプローチを提供する。尿ベースの検出および診断法は、用量タイトレーションには有用でない。洗口液の使用は、小児からサンプルを集めるために有益である。それは、収集の容易さを提供し、信頼性の懸念を最小限にする。
本発明の実施形態において、例えば以下の項目が提供される。
(項目1)
洗口液組成物であって、前記組成物は、集めた口腔液において試験される1またはこれより多くの分析物とともに質量分析法による検出に適切な内部トレーサーを含む、組成物。
(項目2)
前記内部トレーサーは、1またはこれより多くの重い同位体を含む、項目1に記載の組成物。
(項目3)
前記1またはこれより多くの重い同位体は、 13 C、 15 N、 H、およびこれらの組み合わせから選択される、項目2に記載の組成物。
(項目4)
前記内部トレーサーは、カフェイン- 13 である、項目1に記載の組成物。
(項目5)
前記内部トレーサーは、前記分析物の重い同位体で標識された改変体である、項目1に記載の組成物。
(項目6)
前記内部トレーサーは、タートラジンではない、項目1~5のいずれか1項に記載の組成物。
(項目7)
唾液分泌刺激剤、細菌/真菌増殖を防止する活性薬剤、色素、風味増強剤、および甘味剤からなる群より選択される1またはこれより多くの薬剤をさらに含む、項目1~6のいずれか1項に記載の組成物。
(項目8)
前記組成物は、約3.0~約6.2の間のpHを有する、項目1~7のいずれか1項に記載の組成物。
(項目9)
前記組成物は、約3.0~約4.6の間のpHを有する、項目8に記載の組成物。
(項目10)
被験体の唾液中の分析物を同定するための方法であって、前記方法は、
(a)唾液生成を刺激するために有効な期間にわたって、前記被験体の口腔を、項目1~9のいずれか1項に記載の洗口液組成物ですすぐ工程;
(b)工程(a)から得られた口腔液を容器の中に集める工程であって、ここで前記口腔液は、前記洗口液および前記被験体の唾液を含む、工程;ならびに
(c)前記口腔液を質量分析の機器に供して、前記分析物を検出する工程、
を包含する方法。
(項目11)
前記分析物は、乱用薬物である、項目10に記載の方法。
(項目12)
前記乱用薬物は、アルコール、カンナビノイド、オピオイド、アンフェタミン、コカイン、ベンゾジアゼピン、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、項目11に記載の方法。
(項目13)
前記分析物は、リチウム化合物である、項目10に記載の方法。
(項目14)
前記分析物は、がんの生体マーカーである、項目10に記載の方法。
(項目15)
前記生体マーカーは、タンパク質である、項目14に記載の方法。
(項目16)
前記生体マーカーは、核酸である、項目14に記載の方法。
(項目17)
前記質量分析の機器は、LC-MS、GC-MS、CE-MS、HPLC-MS/MS、HPLC-TOFまたはMALDI-TOFである、項目10~16のいずれか1項に記載の方法。
(項目18)
前記方法は、光度測定のいかなる工程をも含まない、項目10~17のいずれか1項に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
発明の詳細な説明
I.定義
「唾液サンプル」とは、唾液を生成する動物からの唾液に由来するサンプルをいう。唾液は、大部分の動物において生成される口腔液の構成要素である。
【0013】
「濾過済みサンプル(filtered sample)」とは、唾液の細胞相と流体相とを分離することによって、細胞を除去するために処理された唾液サンプルをいう。濾過済みサンプルは、細胞の50%超、75%超、95%超、または100%が除去されていてもよい。サンプルは、無細胞相において望ましくない分析物の検出の原因となり得る細胞要素の機械的破断を回避するために濾過される。濾過済みサンプルは、外因性の物質(食べかすが挙げられるが、これらに限定されない)をさらに排除し得る。HPLC-MS分析の前に上記サンプルを濾過することは、実際に、口腔から口腔液中に集められ得る任意の粒状物(食品、ごみ、細菌など…)を除去する。頬からの上皮細胞のような「細胞」は、おそらく、濾過して除去する必要がある構成要素の小さな一因である。さらに、除去は、質量分析に直接的に干渉することとは対照的に、主に、これらの大きな粒状物がHPLCを詰まらせないようにする。なぜならHPLCカラム+ガードは、いずれにしてもそれらを濾過して除去するからである。
【0014】
II.組成物
開示される洗口液は、質量分析法ベースの技術(例えば、LC-MS、GC-MS、CE-MS、HPLC-MS/MS、HPLC-TOFまたはMALDI-TOFアッセイ)によって、集めた口腔液における試験される全ての他の分析物とともに直接検出され得る内部トレーサーを含む。開示される洗口液は、洗口液中の内部標準を検出するために、質量分析法ベースの技術以外のさらなる機器の必要性を排除する。例えば、光度測定に、および例えば、希釈補正係数を決定するために、その後の計算に依拠する内部トレーサー色素を使用する洗口液(米国特許第7,883,724号)。開示される洗口液に含まれる内部トレーサーは、開示される洗口液を使用して、集められた口腔サンプル中の目的の分析物を検出するために使用される同じ機器によって、および目的の分析物と同時に検出され得ることから、さらなる機器および別個のサンプル調製物は必要とされない。
【0015】
必要に応じて、上記洗口液のpH範囲は、約3.0~約6.2の間である。上記洗口液のpHは、シトレートのような緩衝化剤を添加することを介して維持され得る。いくつかの実施形態において、上記洗口液のpHは、貯蔵寿命を改善する(細菌増殖を阻害する)ため、および唾液分泌を促進するために、4.6にまたは4.6未満に調節される。洗口液が酸性のpHを有することはまた、弱塩基の形態にある分析物をイオン化し得、それによって、分析物の合計口腔液濃度を増大させる。
【0016】
a.内部トレーサー
好ましい実施形態において、上記内部トレーサーは、安定な標識された重い同位体である。上記内部トレーサーは、希釈補正(正規化)、有効性の確認(validity conformation)(偽陰性結果の防止)を促進し得る、および/または吸着喪失を軽減し得る。
【0017】
安定な重い同位体で標識された内部トレーサーを使用する利点は、このような内部トレーサーが、存在量が最も多いモノアイソトピック質量(monoisotopic mass)のシグナルに寄与できない/干渉できないことである。好ましいトレーサーは、検出および潜在的なバックグラウンド干渉物質(interferant)からの区別が容易になされ得る市販の分析物の安定な標識された重い同位体である。
【0018】
安定な標識された同位体は、洗口液溶液における長期貯蔵の際の水素交換の問題に起因して重水素化分析物より好ましい(Davisonら, Annals of Clin Biochem., 560:274 (2013))。C13およびN15の安定な標識された同位体は、最も好ましく、市販されている。
【0019】
より好ましい実施形態において、上記内部トレーサーは、重い同位体で標識されたカフェイン(例えば、カフェイン-13C、カフェイン-13、およびカフェイン-13C,D)である。カフェインは、集団の中に遍在し、HPLC-MS法でよく機能し(鋭いピーク、大きなS/N)、市販の重い標識された同位体に関して多くの選択肢を有する。
【0020】
カフェイン-13は、低濃度(100ng/ml)で、例えば、100~1000ng/mlの間で、洗口液の中に含まれる場合に危険性を全く示さない、一般的な分析物の容易に入手可能な重い標識された同位体であることが見出された。さらに、3種のC13があることにより、頻繁にカフェインを摂取するユーザーにとって高レベルで存在し得る内因性のカフェインからのバックグラウンド干渉を回避するために、分析物を天然の分析物から十分に遠く離れて(+3 Da)配置する。バックグラウンドの存在は、口腔液の中に集められる内因性カフェインを定量的に測定し、希釈係数補正を決定するために使用されるカフェイン-13値に補正を適用することによって対処され得る。カフェイン-13C,D-はまた、内因性カフェインから区別するための、m/zにおける大きなシフトを提供し得る。それは、カフェイン-13のものと同じ濃度範囲において洗口液に添加され得る。
【0021】
カフェインはまた、分析物の安定な標識されかつ重水素化されたバージョンを有し、これは、内部標準の収集後添加が、マトリクス効果に起因するイオン増強/抑制に対してカフェインおよびカフェイン-13の両方の測定値を補正することを可能にする。いくつかの実施形態において、上記内部標準は、[13C, 2H3]-カフェイン、カフェイン-13C-D3重水素化標準、および/または単一C13安定な標識されたカフェインである。これは、安定な標識されたカフェイン-13とは別個でありかつ区別可能である。
【0022】
いくつかの実施形態において、上記内部トレーサーは、目的の分析物の安定な標識された重い同位体である。例えば、上記分析物が低分子薬物(例えば、THC、メタドン、EDDP、アリピプラゾールおよび代謝産物(例えば、デヒドロ-アリピプラゾールまたはOPC-3373)である場合、上記内部トレーサーは、上記分析物の重い同位体で標識された改変体であり得る。重い同位体での標識は、上記のように、上記分析物の炭素および/もしくは窒素原子のうちの1個もしくはこれより多く、ならびに/または上記分析物の水素原子のうちの1個もしくはこれより多くに対するものであり得る。
【0023】
必要に応じて、洗口液は、いかなる内部トレーサーをも含まない。例えば、水の中で高い拡散係数(diffusion constant)を有する分析物(例えば、アルコール)は、洗口液が口腔と接触した後に、素早く分布平衡に達し得る。このような分析物は、希釈補正または有効性の確認のために、洗口液において何らかの内部トレーサーを使用する必要がないこともある。
【0024】
b.唾液分泌剤(Salivation Agent)
洗口液は、必要に応じて、唾液分泌を誘導する薬剤を含む。例としては、無機および/または有機の食用の酸および/もしくは塩またはこれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。例えば、リン酸、乳酸、クエン酸、およびアスコルビン酸。唾液分泌刺激剤(salivary stimulant)の例は、例えば、米国特許第4,820,506号に開示される。口腔乾燥症の状況で有用な組成物もまた、使用され得る。例えば、栄養素として受容可能なかつ化学的に定義される化合物は、種々の組成物において、米国特許出願公開番号2007/0128284(イオウ含有抗酸化剤(例えば、N-アセチルシステイン)が、ポリマー基剤と合わされる)または米国特許出願公開番号2004/0076695(ω-3脂肪酸が使用される)において記載されるように投与され得る。なおさらなる公知の組成物では、過酸化脂質(代表的には、植物性油)およびシリカが、米国特許出願公開番号2006/0078620において教示されるように、口腔乾燥症を緩和するために使用される。なお他の公知の方法では、グリセロールが、米国特許出願公開番号2009/0263467において注記されるように、ドライマウス状態を改善するために使用され得る。米国特許第9,5972,287号は、1もしくはこれより多くの植物パルプ生成物および/またはプロアントシアニジンを使用して、唾液を刺激し、ドライマウスを低減する組成物を開示する。
【0025】
唾液刺激特性を有する物質の濃度は、洗口液組成物の0.0005%~10%の間、好ましくは、0.01%~5%の間、およびより好ましくは1%~2%の間であるように選択される。
【0026】
c.活性薬剤
上記組成物は、室温において洗口液の完全性を維持するための1またはこれより多くの活性薬剤、好ましくは、細菌/真菌増殖を防止する薬剤、および/または集めた口腔液を安定化する薬剤を含む。例としては、食品グレードの保存剤(conservative)(例えば、安息香酸カリウム)が挙げられるが、これらに限定されない。唾液は、いくつかの細菌プロテアーゼを含み、これは、いくつかの技術に影響を与える唾液のタンパク質を分解し得る。この分析前の問題を回避するために、プロテアーゼインヒビターおよび安定化物質(例えば、アプロチニン、ロイペプチン、アンチパイン、ペプスタチンA、フェニルメチルスルホニルフルオリド、EDTA、チメロサール)を含めることが有用である。
【0027】
d.さらなる構成要素
審美性のために含められる洗口液の1つのさらなる構成要素は、FDA承認の食用色素である(これらはまた、合成色素であり、本質的には、混合物の不均質な性質に起因してあまり理想的ではない天然の供給源とは対照的に、均質な1つの構成要素である)。この場合、アルラレッドACは、洗浄液の中に組み込まれ得、目的の分析物を検出するために使用される質量分析法ベースの方法で検出され得る、容易に入手可能な色素であることが見出された。いくつかの好ましい実施形態において、上記組成物は、内部トレーサーとしてアルラレッドACを含まない。
【0028】
審美的な理由で洗口液組成物において使用され得る他の色素としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:リボフラビン、リボフラビン-5’-ホスフェート、クロロフィルおよびクロロフィリン、クロロフィルおよびクロロフィリンの銅含有錯体、カラメル色素、単糖ベースの色素、亜硫酸パルプ廃液-カラメル色素(sulphite lye-caramel die)、アンモニア-カラメル色素、亜硫酸アンモニウム-カラメル色素(ammonium sulphite-caramel die)、植物性炭素(vegetable carbon)、パプリカ抽出物、カプサンチン、カプソルビン、ビーツの根(beetroot)、ベタニン、アントシアン(antho-cyan)、酸化鉄および水酸化鉄、アゾルビン、カルモイシン(carmoisin)、Ponceau 4R、コチニールレッドA、アルラレッドAC、パテントブルーV、インディゴチン(indigotin)、インディゴカルミン、ブリリアントブルーFCF、グリーンS、ブリリアントブラックBN、ブラックPN、ブラウンHT、リコピン、β-アポ-8’-カロチナル(C30)、β-アポ-8’-カロチン酸(C30)-エチルエステル(beta-apo-8'-carotinic acid (C30)-ethyl ester)、ルテイン、メイラード化合物の物質、タートラジン、クルクミン、サフラン、キノリンイエロー、サンセットイエローFCF、イエローオレンジS、コチニール、カルミン酸、カルミン、およびカロチン。いくつかの好ましい実施形態において、洗口液溶液は、タートラジン、クルクミン、サフラン、キノリンイエロー、サンセットイエローFCF、イエローオレンジS、コチニール、カルミン酸、カルミン、またはカロチンのような色素を含まない。
【0029】
開示される洗口液中の色素の濃度は、洗口液の0.0001%~5%の間、好ましくは0.005%~1%の間であり得る。
【0030】
上記洗口液はまた、洗浄液の風味を改善するために矯味矯臭剤または風味増強剤を含み得る。有用な矯味矯臭剤としては、糖および/もしくは糖代用品、例えば、サッカロース、マルトース、フルクトース、または甘味料(例えば、サッカリン、アスパルテーム、および/またはこれらの混合物など)が挙げられ得る。任意の経口的に受容可能な天然のまたは合成のフレーバー物質(flavorant)が使用され得、これらとしては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:バニリン、セージ、マジョラム、パセリ油、スペアミント油、シナモン油、冬緑油(サリチル酸メチル)、ペパーミント油、クローブ油、月桂樹油、アニス油、ユーカリ油、柑橘類の油、レモン、オレンジ、ライム、グレープフルーツ、アンズ、バナナ、ブドウ、リンゴ、イチゴ、サクランボ、パイナップルなどに由来するものを含む果実の油およびエッセンス、豆類および堅果類に由来するフレーバー(例えば、コーヒー、カカオ、コーラ、ラッカセイ、アーモンドなど)、吸着および被包化されたフレーバー物質など。口の中で芳香および/または他の感覚的な効果(冷やすまたは温める効果を含む)を提供する成分もまた、本明細書中のフレーバー物質に包含される。このような成分としては、例証として、メントール、酢酸メンチル、乳酸メンチル、カンファー、ユーカリ油、ユーカリプトール、アネトール、オイゲノール、カシア(cassia)、オキサノン(oxanone)、a-イリソン(irisone)、プロペニルグアエトール(propenyl guaiethol)、チモール、リナロール、ベンズアルデヒド、シンナムアルデヒド、N-エチル-p-メンタン-3-カルボキサミン、N,2,3-トリメチル-2-イソプロピルブタンアミド、3-(1-メトキシ)-プロパン-1,2-ジオール、シンナムアルデヒドグリセロールアセタール(CGA)、メントングリセロールアセタール(MGA)などが挙げられる。ある特定の実施形態において、上記組成物は、必要に応じて、例えば、上記組成物の味を高めるために有用な少なくとも1種の甘味料をさらに含む。任意の経口的に受容可能な天然または人工の甘味料が使用され得、これらとしては、デキストロース、スクロース、マルトース、デキストリン、乾燥転化糖、マンノース、キシロース、リボース、フルクトース、レブロース、ガラクトース、スクラロース、コーンシロップ(高フルクトースコーンシロップおよびコーンシロップ固形分(corn syrup solids)を含む)、部分加水分解デンプン、水素化デンプン加水分解物、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、マルチトール、イソマルト、アスパルテーム、ネオテーム、サッカリンおよびその塩、ジペプチドベースの高甘味度甘味料、シクラメートなどが挙げられるが、これらに限定されない。1もしくはこれより多くの甘味料は、必要に応じて、総量において、選択される特定の甘味料に強く依存して存在するが、代表的には、組成物の0.01重量%~15重量%、または0.1重量%~10重量%である。
【0031】
必要に応じて、上記洗口液は、比色分析用色素よりむしろ蛍光色素を含む。上記蛍光色素は、希釈補正のための内部トレーサーとして使用され得る。好ましい実施形態において、上記蛍光色素は、口腔サンプル中の目的の分析物の質量分析に干渉しない。
【0032】
必要に応じて、上記洗口液は、口腔サンプル収集、移送、貯蔵、および/または分析の間の表面吸収に起因する分析物の喪失を最小限にするように、1またはこれより多くのタンパク質を含む。好ましくは、上記タンパク質は、非ヒト供給源に由来する。例示的なタンパク質としては、オボアルブミン、アルブミン、およびリゾチーム(例えば、ニワトリリゾチーム)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0033】
必要に応じて、上記洗口液は、1またはこれより多くの、質量分析法に適合する界面活性剤および/または乳化剤を含む。例示的な質量分析法に適合した界面活性剤および乳化剤としては、3-(4-(1,1-ビス(ヘキシルオキシ)エチル)ピリジニウム-1-イル)プロパン-1-スルホン酸ナトリウム(PPS SILENT(登録商標)界面活性剤)、INVITROSOL(登録商標)、3-((1-(フラン-2-イル)ウンデシルオキシ)カルボニルアミノ)プロパン-1-スルホン酸ナトリウム(PROTESEMAX(登録商標)界面活性剤)、および3-[(2-メチル-2-ウンデシル-1,3-ジオキソラン-4-イル)メトキシ]-1-プロパンスルホン酸ナトリウム(RAPIGEST(登録商標)界面活性剤)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0034】
上記洗口液は、好ましくは、先行技術から公知の方法(例えば、滅菌濾過またはオートクレーブ)を使用して滅菌される。
【0035】
III.使用方法
開示される洗口液は、口腔から唾液を集めるために使用され、これは、その後、唾液中の分析物の存在を決定するために、質量分析法ベースの技術(例えば、LC-MS、GC-MS、CE-MS、HPLC-MS/MSまたはHPLC-TOF)を使用する分析に供される。開示される方法は、洗口液中の内部トレーサーを検出するさらなる機器(質量分析以外)の必要性を排除する。対照的に、内部トレーサー色素に依拠する洗口液は、光度測定(例えば、分光光度計を使用する)およびその後の計算を、例えば、希釈補正係数を決定するために必要とする。従って、好ましい実施形態において、開示される方法は、光度測定の工程を含まない。
【0036】
唾液サンプル中で測定され得る分析物としては、カルシウム、マグネシウム コルチゾール、アルコール、薬物および薬物代謝産物、がんの生体マーカー、薬物療法モニタリング用の分析物、ウイルスRNAまたはRNA、ならびに微生物RNAまたはDNAが挙げられるが、これらに限定されない。さらなる分析物は、表1に列挙される。
【0037】
いくつかの実施形態において、上記洗口液は、内部トレーサーとして上記分析物の重い同位体で標識された改変体を含む。いくつかの実施形態において、上記洗口液は、内部トレーサーとして重い同位体で標識されたカフェインを含む。いくつかの実施形態において、上記洗口液は、いかなる内部トレーサーをも含まない。
【0038】
【表1】
【0039】
開示される洗口液は、臨床、職場、薬物の影響下での運転(DUID)、薬物処置、および刑事司法状況において乱用薬物を試験するために有用である。口腔液収集の主な利点は、サンプル収集の単純さおよび非侵襲性であり、これは、容易に観察され得るので、特別なトイレ施設および同性の回収者の必要性を不要にし、混ぜ物をすることをより困難にする。米国では、口腔液(OF)検査は、不定期な職場検査、処置、および薬物影響下での運転(DUID)プログラムにおいて急速なペースで拡大しつつある。2004年には、Substance Abuse and Mental Health Services Administration(SAMHSA)が、委託された連邦政府職場OF検査の推奨ガイドライン(表2)を提唱した。
【0040】
【表2】
【0041】
開示される方法は、目的の分析物および内部トレーサーを検出するために同じ機器(例えば、LC-MS、GC-MS、CE-MS、HPLC-MS/MS、HPLC-TOFまたはMALDI-TOF)を使用するという利点を提供する。口腔サンプル中の分析物を同定するために使用される同じ機器によって検出可能な内部トレーサーを使用することで、集めた口腔液の希釈のための正規化(内部標準正規化)という問題が解決されるが、内部トレーサーを定量する別個の方法を必要としない。言い換えると、内部トレーサーの定量は、洗口液の出発体積および内部トレーサーの出発濃度が既知であることを考慮すれば、収集された口腔液の量を逆算することを可能にする。
【0042】
現行の洗口液-研究室ワークフロー組み合わせの別の局面は、分析前に最小限のサンプル調製のためにフィルターバイアルを使用することである。LC-MS、GC-MS、CE-MS、HPLC-MS/MS、HPLC-TOFまたはMALDI-TOF分析に関して特に問題となる洗口液の構成要素が存在しない(大部分は、分析前に溶離する塩、バルブ切り替えを介して廃棄物になる)ことから、内部トレーサー(通常はMeOH中)の添加後に、単純なバイアル内濾過が行われ得る(Thomson濾過バイアル)。これは、色素および界面活性剤を除去するために他の方法に必要とされる固相抽出または液体/液体抽出と比較した場合に、サンプル調製に必要とされる時間および費用を大いに低減する。
【0043】
唾液は、もっぱら、3つの大唾液腺および多くの小唾液腺によって生成され、口腔において主に生成される。口腔に存在する全流体は、3つの唾液腺:耳下腺、顎下腺および舌下腺に主に由来する。口腔に位置する小唾液腺(頬部、口唇、口蓋、口蓋舌、舌)、細菌、上皮細胞、赤血球、白血球および食べかすを有する歯肉溝滲出液は、「口腔液(oral fluid)」または「全唾液(whole saliva)」と称されるものの形成に少量寄与し得る。
【0044】
上記方法は、唾液生成を刺激するために有効な期間にわたって、口腔を、開示される洗口液ですすぐこと、その得られた流体(洗口液+唾液)を容器に集めることおよびその得られた流体を質量分析の機器(例えば、LC-MS、GC-MS、CE-MS、HPLC-MS/MS、HPLC-TOFまたはMALDI-TOF)に供して、サンプル中の分析物の存在を検出することを包含する。口腔をすすぐ前に水(好ましくは蒸留水)で口をきれいにすることは、分析を妨害し得る残渣を除去するために好ましい。
【0045】
口腔をすすぐために使用される洗口液組成物の体積は、0.5ml~10mlの間、例えば、1ml~7mlの間、例えば、1ml、2ml、3ml、4ml、5ml、6mlまたは7mlであり得る。上記洗口液は、唾液生成を刺激するために有効な期間にわたって、口腔の中に留められる。その時間は、20秒間~10分間、例えば、30秒間、45秒間、1分間、2分間、3分間、4分間などであり得る。洗口液を口腔の中に1分以下(nor more than 1 minute)の時間にわたって留めておくことは、特に好ましい。
【0046】
次いで、洗口液+唾液の得られた混合物は、集めた唾液中の分析物を検出するために、質量分析の機器(例えば、LC-MS、GC-MS、CE-MS、HPLC-MS/MS、HPLC-TOFまたはMALDI-TOF)に供される。唾液サンプルは、収集後3~6時間以内に処理するために4℃において冷蔵されるべきであるか、もしくは4℃においては24時間より長く冷蔵すべきでなく、または上記サンプルは、-20℃においてより長期間貯蔵され得る。
【0047】
いくつかの好ましい実施形態において、上記唾液サンプルは、細胞を含まずかつあらゆる「粒状物(particulate matter)」が除去された唾液サンプルを提供するために濾過される。遠心分離もまた、この目的で使用され得る。語句「細胞を含まない(free of cell)」とは、サンプル溶液が完全にまたは実質的に細胞を含まないように本発明の方法に従って濾過されたサンプル溶液をいう。例示的なフィルターとしては、セルロース繊維マトリクス、親水性フィルター(例えば、ポリビニリデンフルオリド膜に基づくもの)、またはポリプロピレン膜に基づくフィルターが挙げられ得るが、これらに限定されない。フィルターは、広く種々のサイズ(0.22μm、0.45μmおよび5.0μmが挙げられるが、これらに限定されない)である微細孔を有し得る。用語「濾過(filtering)」とは、膜フィルターへの、細胞を含む液体サンプル(例えば、唾液サンプル)の適用をいう。濾過は、液体サンプルを微細孔膜フィルターに通過させることによって、液体サンプル中の過剰な流体から細胞および/または細胞の一部を除去するプロセスである。
【0048】
質量分析法ベースの技術(例えば、LC-MS、GC-MS、CE-MS、HPLC-MS/MS、HPLC-TOFまたはMALDI-TOF)によって検出可能な内部トレーサーを使用することから、分析する前に、上記サンプルのいかなる広範な調製も実際に存在しない。上記サンプルは、HPLC-MS/MS分析のために、製造業者の説明書に従ってフィルターバイアルに入れられる(loaded I the filter vial)(最大450μL、例えば、430μLの収集した口腔液+内部標準(代表的には、MeOHにおいては交換が問題ではなく、希釈後の時間枠はこれが懸念となるためには短すぎることから、重水素化される)を有する20μLのMeOH。その比は、その調製したサンプルのMeOH含有量を、クロマトグラフィー用の出発MeOH%(この場合は5%、調製したサンプルは、約4.5%を有する)未満に保持するために重要である。そのフィルターバイアルの一番上の部分は、サンプルをフィルターの中に押し込み、次いで、これは、分析用の質量分析器に載せられる。これは、固相または液/液抽出が、分析前にサンプルをきれいにするためおよび/または濃縮するために利用されなければならない、Quantisalのような他の口腔用収集キットから必要とされるサンプル調製より遙かに容易かつ安価である。そうでなければ、希釈および投入方法(dilute and shoot method)は、質量分析計を非常に直ぐに汚し、質量分析計の頻繁なクリーニングを必要とする。
【0049】
好ましい内部トレーサーは、カフェイン-13である。極めて高レベルの内因性カフェインが、検出された内部標準レベルに潜在的に寄与し得る実施形態において、バックグラウンド補正は、収集した口腔液におけるカフェインレベルを定量することによって容易に適用され得る。
【0050】
実験室においてその方法適用を単純化するこのアプローチのさらなる特徴は、LC-MS、GC-MS、CE-MS、HPLC-MS/MS、HPLC-TOFまたはMALDI-TOFデータから分析物報告を生成するソフトウェアにおいて直接、希釈計算を実行するLaboratory Information Management System(LIMS)を有する。このアルゴリズムは、サンプルごとのベースで任意の必要なカフェインバックグラウンド補正を作製し得、希釈していない内部トレーサーレベルを、バッチで走らせたQCから決定し、その計算された希釈係数を使用して、報告された濃度レベルを補正し得る。これは、計算プロセスを自動化し、実験技師の立場からワークフローを単純化する。
【0051】
a.がん診断
開示される洗口液は、がん診断のために使用され得る。従来のがん診断法と比較すると、口腔サンプルの使用は、非侵襲性であり、かつ/または1回のサンプル収集後に一定範囲のがん関連生体マーカーの検出を可能にし得る。いくつかの実施形態において、上記方法は、単一のがん関連生体マーカーの検出を含む。いくつかの実施形態において、上記方法は、がん関連生体マーカーのパネルの検出を含む。
【0052】
いくつかの実施形態において、上記洗口液は、内部トレーサーとして上記分析物の重い同位体で標識された改変体を含む。いくつかの実施形態において、上記洗口液は、内部トレーサーとして重い同位体で標識されたカフェインを含む。いくつかの実施形態において、上記洗口液は、いかなる内部トレーサーをも含まない。
【0053】
がんの唾液生体マーカーは、当該分野で一般に公知である。例えば、Ngamchueaら, Analyst, 2018, 143, 81-99; Castagnolaら, Acta Otorhinolaryngologica Italica, 2017;37:94-101; AI-Tarawnehら, OMICS, 2011, 15(6):353-61;およびSaxenaら, Adv Biomed Res. 2017; 6: 90。
【0054】
上記がん関連生体マーカーとしては、低分子、例えば、硝酸塩および亜硝酸塩、尿酸、バリン、乳酸、フェニルアラニン、プロピオニルコリン、N-アセチル-L-フェニルアラニン、スフィンガニン、フィトスフィンゴシンおよびS-カルボキシメチル-L-システイン、またはこれらの組み合わせが挙げられる。
【0055】
上記がん関連生体マーカーとしてはまた、大きな分子(large molecule)、例えば、タンパク質および核酸(DNAおよびRNA、特にmRNA)が挙げられる。例示的なタンパク質および核酸ベースの唾液生体マーカーは、表3~5に示される。さらなるタンパク質ベースの唾液生体マーカーとしては、インターロイキン(例えば、インターロイキン6、8および1b)、サイクリンD1 チオレドキシン、プロファイリング1(profiling 1)、レジスチン(resistin)、トロンボスポンジン-2、S100A8、α1-アンチトリプシン(AAT)、ハプトグロビンβ鎖(HAP)、補体C3、4B、B因子、ロイシンリッチα-2-糖タンパク質、ガレクチン-7,2-マクログロブリン、セルロプラスミン、シスタチンB、トリオース-ホスフェートイソメラーゼおよび「deleted in malignant tumor 1 protein」といわれるタンパク質、ケラチン10、ならびにヘモペキシンおよびトランスサイレチンが挙げられる。
【0056】
【表3】
【0057】
【表4】
【0058】
【表5】
【0059】
上記洗口液は、口腔がん、胃がん、乳がん、卵巣がん、唾液腺腫瘍、肝細胞癌、膵臓がん、および腺癌膵臓)が挙げられるが、これらに限定されない、異なるタイプのがんを検出、診断またはモニターするために使用され得る。好ましい実施形態において、上記洗口液は、口腔扁平上皮癌のような口腔がんを検出、診断またはモニターするために使用され得る。
【0060】
b.薬物および薬物代謝産物の検出
上記洗口液は、薬物および薬物代謝産物を検出するために使用され得る。血液ベースの検出法と比較すると、口腔サンプルの使用は、非侵襲性であるおよび/または迅速、安全、かつ容易なサンプル収集を、特に、現場適用を可能にし得る。尿ベースの検出法と比較すると、口腔サンプルの使用は、薬物消費についてのより正確な時間関連情報を提供し得る。
【0061】
いくつかの実施形態において、上記洗口液は、内部トレーサーとして上記分析物の重い同位体で標識された改変体を含む。いくつかの実施形態において、上記洗口液は、内部トレーサーとして重い同位体で標識されたカフェインを含む。いくつかの実施形態において、上記洗口液は、いかなる内部トレーサーをも含まない。
【0062】
オピオイド
定量的なポイントオブケアアッセイ(point-of-care assay)を使用して検出され得る例示的なオピオイドとしては、モルヒネ、コデイン、テバイン、ヘロイン、ヒドロモルフォン、ヒドロコドン、オキシコドン、オキシモルフォン、デソモルヒネ(desomorphine)、ニコモルヒネ、プロポキシフェン、ジプロパノイルモルヒネ、ベンジルモルヒネ、エチルモルヒネ、ブプレノルフィン、フェンタニル、ペチジン、メペリジン、メタドン、トラマドール、デクストロプロポキシフェン、またはこれらのアナログもしくは誘導体が挙げられる。例えば、オキシコドン(OxyContin(登録商標))は、オピウム由来のテバインから合成されるオピオイド鎮痛薬薬物である。Percocetは、オキシコドンおよびアセトアミノフェン(パラセタモール)の組み合わせである。Vicodinは、ヒドロコドンおよびアセトアミノフェン(パラセタモール)の組み合わせである。好ましい実施形態において、上記アッセイは、オキシコドン、ヒドロコドン、またはこれらの組み合わせを定量的に測定する。
【0063】
開示される定量的ラテラルフローイムノアッセイを使用して検出され得る例示的なオピオイド代謝産物は、表6に示される。
【表6】
【0064】
マリファナおよびカンナビノイド
大麻植物体において、THCは、テトラヒドロカンナビノールカルボン酸(THC-COOH)として主に生じる。ゲラニルピロホスフェートおよびオリベトール酸(olivetolic acid)は、酵素によって触媒されて反応して、カンナビゲロール酸(cannabigerolic acid)を生成する。これは、酵素THC酸シンターゼによって環化されて、THC-COOHを与える。経時的に、または加熱されると、THC-COOHは、脱カルボキシル化されて、THCを生成する。THCは、ヒトの身体によって、主に、11-OH-THC(11-ヒドロキシ-THC(HTHCと示される))に代謝される。この代謝産物は、なおも向精神性であり、11-ノル-9-カルボキシ-THC(THC-COOH)へとさらに酸化される。ヒトおよび動物において100より多くの代謝産物を同定し得るが、11-OH-THCおよびTHC-COOHは、優勢な代謝産物である。代謝は、シトクロムP450酵素であるCYP2C9、CYP2C19、およびCYP3A4によって肝臓において主に起こる。THCのうちの55%超が糞便中に、そしておよそ20%が尿中に排出される。尿中の主な代謝産物は、グルクロン酸のエステル、ならびにTHC-COOHおよび遊離THC-COOHである。糞便中では、主に11-OH-THCが検出される。
【0065】
THC、11-OH-THC(HTHC)、およびTHC-COOHは、血液、尿、毛、口腔液または汗において検出および定量され得る。次いで、このような分析から得られる濃度は、積極的使用を受動的使用から、または処方によるものを不正使用から、投与経路(経口 対 喫煙)を、使用から経過した時間を、および使用の程度または持続時間を区別するにあたってしばしば有用であり得る。
【0066】
リチウム
リチウム化合物(リチウム塩としても公知)は、精神病薬として主に使用される。これは、他の抗鬱薬の使用後に改善しない大うつ病性障害、および双極性障害の処置を含む。リチウム化合物は、概して口から服用される。例示的なリチウム化合物としては、炭酸リチウム、クエン酸リチウム、オロチン酸リチウム、臭化リチウム、塩化リチウム、フッ化リチウム、およびヨウ化リチウムが挙げられるが、これらに限定されない。
【0067】
ニコチン
ニコチンが身体に入るにつれて、それは血流を経て迅速に分配され、血液脳関門を越えて、吸入後10~20秒以内に脳に達する。身体におけるニコチンの排出半減期は、およそ2時間である。喫煙から身体によって吸収されるニコチンの量は、煙草のタイプ、煙を吸入するか否か、およびフィルターを使用するか否かを含む多くの要因に依存する。口中で口唇と歯茎との間に保持されるか、または鼻の中で摂取されるかみタバコ煙草(chewing tobacco)、ディッピング煙草(dipping tobacco)、スヌースおよびスナッフに関しては、身体へと放出される量は、喫煙された煙草よりも遙かに多い傾向がある。
【0068】
ニコチンは、シトクロムP450酵素(大部分はCYP2A6、およびCYP2B6によっても)によって肝臓で代謝される。尿中に排泄されるニコチンの主な代謝産物はコチニンであり、これは、ニコチン使用の信頼性の高いかつ必要なインジケーターである。他の主な代謝産物としては、ニコチンN’-オキシド、ノルニコチン、ニコチンイソメトニウムイオン(nicotine isomethonium ion)、2-ヒドロキシニコチンおよびニコチングルクロニドが挙げられる。グルクロン抱合およびニコチンからコチニンへの酸化的代謝は、ともにメントール(メントール煙草に対する添加物)によって阻害されるので、インビボでニコチンの半減期が増大する。
【0069】
ニコチン(コチニン)は、血液、血漿、または尿中で定量されて、中毒の診断が確定され得るか、または疑われるニコチン過剰投与関連死の調査が容易になり得る。尿または唾液のコチニン濃度は、雇用前および医療保険の健診プログラムの目的で頻繁に測定される。結果の注意深い解釈が重要である。なぜなら煙草の煙への受動的曝露は、ニコチンの有意な蓄積、続いて、種々の体液においてその代謝産物の出現を生じ得るからである。
【0070】
CYP2A6酵素は、遺伝的に多型であり、ある特定のアレルは変化した代謝活性を予測する。ニコチン代謝の主な酵素であるので、CYP2A6の代謝活性におけるバリエーションは、個人のタバコ消費レベルに顕著な影響を有する。代謝が低下した表現型は、より高い血液/ニコチンレベルをもたらし、喫煙者は、喫煙を減らすことによってこれを補償する傾向にある。逆に、代謝速度が増大した個体は、より多く喫煙する傾向にある。CYP2A6改変体に伴う低いニコチン代謝はまた、禁煙に対して影響を有し、低代謝者(slow metabolizer)は、経皮的ニコチン治療の試みにおいてより高い禁煙レベルを示す。これは、低代謝者の下位群が、匹敵するレベルの経皮的ニコチン処置から得るニコチンの治療的用量がより高いことに起因し得る。通常代謝者は、おそらく現行の処置の結果として、血中ニコチン補充の十分高いレベルを提供できないことから、禁煙率はより低い。これらの通常代謝者は、障害されたニコチン代謝を有する者において有害効果を潜在的に生じ得る、より高い用量のニコチン補充の候補であり得る。
【0071】
開示される組成物および方法は、患者のニコチン代謝を評価するために使用され得る。例えば、ニコチンレベルは、制御されたニコチン投与量を患者に投与した後に、開示される組成物および方法を使用して定量され得る。これは、いくつかの実施形態において、被験体に煙草を喫煙させることを含み得る。好ましい実施形態において、ニコチンパッチまたはニコチンガムが、処方された時間量にわたって被験体に与えられる。次いで、被験体の生物学的サンプル中のニコチンまたはその代謝産物(例えば、コチニン)の量は、変化率に関してモニターされ得る。
【0072】
刺激薬
刺激薬(しばしば精神刺激薬と、または俗にアッパー系ともいわれる)は、中枢神経系および身体の活動を増大させるもの、快感および爽快にさせる薬物、または交感神経への影響を有する薬物を含む多くの薬物を網羅する包括的な用語である。刺激薬は、処方薬として、および能力向上薬物またはレクリエーショナルドラッグとして処方なしで(合法的にまたは不正にいずれでも)、全世界で広く使用されている。
【0073】
アンフェタミンは、アンフェタミン構造に基づく刺激薬のクラスである。アンフェタミンとしては、アンフェタミンコア構造の中に1個またはこれより多くの水素原子を置換基で置き換える(すなわち置換する)ことによって形成される全ての誘導体化合物が挙げられる。置換されたアンフェタミンの例としては、アンフェタミン(そのもの)、メタンフェタミン、エフェドリン、カチノン、フェンテルミン、メフェンテルミン、ブプロピオン、メトキシフェナミン、セレギリン、アンフェプラモン、ピロバレロン、MDMA(エクスタシー)、およびDOM(STP)が挙げられる。このクラスの多くの薬物は、微量アミン関連レセプター1(trace amine-associated receptor 1)(TAAR1)を活性化することによって主に働く;次に、これは、ドパミン、ノルレピネフリン、およびセロトニンの再取り込み阻害および溢出(effluxion)(すなわち放出)を引き起こす。いくつかのアンフェタミンのさらなる機構は、VMAT2を経る、小胞貯蔵のモノアミン神経伝達物質の放出であり、それによって、シナプス前ニューロンのサイトゾル(すなわち細胞内液)におけるこれらの神経伝達物質の濃度を増大させる。
【0074】
コカインおよびそのアナログは、別のクラスの刺激薬である。それらは通常、トロパンの炭素3に接続されたベンジルオキシを維持する。種々の改変としては、ベンゼン環上の置換、ならびにトロパン2炭素上の通常のカルボキシレートに代わる付加または置換が挙げられる。技術的には類似でないコカインに類似の構造-活性関連性を有する種々の化合物が、同様に開発されてきた。例示的なコカインアナログとしては、コカインの立体異性体、コカインの3β-フェニル環置換アナログ、2β-置換アナログ、N-改変アナログ、3β-カルバモイルアナログ、3β-アルキル-3-ベンジルトロパン、6/7-置換されたコカイン、6-アルキル-3-ベンジルトロパン、ならびにコカインのピペリジンホモログが挙げられる。コカインアナログの例は、Singh, Chemistry, Design, and Structure-Activity Relationship of Cocaine Antagonists, Chem. Rev., 2000, 100, 925-1024に見出され得る。
【0075】
中枢神経系抑制薬
中枢神経系(CNS)抑制薬は、代表的には、脳の活動を鈍らせる。このことは、この抑制薬を不安および睡眠の問題の処置に有用にする。
【0076】
一般的なCNS抑制薬としては、バルビツレート(例えば、ペントバルビタール(NEMBUTAL(登録商標))、ベンゾジアゼピン、および睡眠薬(例えば、エスゾピクロン(LUNESTA(登録商標))、ザレプロン(SONATA(登録商標))、およびゾルピデム(AMBIEN(登録商標)))が挙げられる。
【0077】
ベンゾジアゼピン(BZD、BDZ、BZs)は、ときおり「ベンゾ類(benzos)」といわれ、そのコア化学構造が、ベンゼン環およびジアゼピン環の縮合物である向精神薬のクラスである。ベンゾジアゼピンは、GABAレセプターにおいて神経伝達物質であるγアミノ酪酸(GABA)の効果を増強し、鎮静、催眠(睡眠導入)、不安寛解(抗不安)、抗痙攣、および筋弛緩特性を生じる。多くの短時間作用性ベンゾジアゼピンの高用量はまた、前向性健忘および解離を引き起こし得る。これらの特性は、不安、不眠症、動揺、発作(seizure)、筋スパスム、アルコール離脱症状の処置にあたって、および医学的または歯科的な手順のための麻酔前投薬として、ベンゾジアゼピンを有用にしている。例示的なベンゾジアゼピンとしては、ブロチゾラム、ミダゾラム、トリアゾラム、アルプラゾラム、エスタゾラム、フルニトラゼパム、クロナゼパム、ロルメタゼパム、ロラゼパム、ニトラゼパム、テマゼパム、ジアゼパム、クロラゼペート(clorazepate)、クロルジアゼポキシド、フルラゼパム、ハラゼパム、プラゼパム、オキサゼパム、ニメタゼパム、アジナゾラム、クリマゾラム(climazolam)、ロプラゾラム、およびこれらの誘導体が挙げられる。
【0078】
他の薬物および薬物代謝産物
幻覚剤(hallucinogen)は、向精神薬剤であり、幻覚、知覚異常(perceptual anomalies)、ならびに思考、感情、および意識における他の実質的な主観的変化を引き起こし得る。幻覚剤の一般的なタイプは、幻覚薬(psychedelics)、解離性麻酔薬(dissociatives)、およびせん妄誘発薬(deliriants)である。幻覚は、アンフェタミン精神異常の一般的な症状であるが、アンフェタミンは、幻覚剤とはみなされない。なぜならそれらは、その薬物自体の主な効果ではないからである。例示的な幻覚剤としては、ケタミン、LSDおよび他のエルゴタミン誘導体、メスカリンおよび他のフェネチルアミン、PCP、シロシビン(psilocybin)、サルビア、DMTおよび他のトリプタミン、ならびにアヤワスカ(ayahuasca)が挙げられる。幻覚薬としては、セロトニン作動薬およびカンナビノイド作動薬(cannabinoidergics)が挙げられる。セロトニン作動薬は、インドール系/トリプタミン系(例えば、シロシビン、LSDのようなエルゴリン、β-カルボリン、およびイボガインのような複雑に置換されたトリプタミン)、およびフェネチルアミン(例えば、メスカリン)にさらに細分され得る。
【0079】
γ-ヒドロキシ酪酸(GHB)は、4-ヒドロキシ酪酸としても公知であり、天然に存在する神経伝達物質および向精神薬である。それは、ある特定の脳領域において、GABA、グルタメート、およびグリシンへの前駆体である。それは、GHBレセプターに対して作用し、GABAレセプターにおける弱いアゴニストである。そのプロドラッグおよびアナログとしては、3-メチル-GHB、4-メチル-GHB、4-フェニル-GHB、4-ヒドロキシ-4-メチルペンタン酸(UMB68)、γ-バレロラクトン(GVL)、1,4-ブタンジオールジアセテート(BDDA/DABD)、メチル-4-アセトキシブタノエート(MAB)、エチル-4-アセトキシブタノエート(EAB)、およびγ-ヒドロキシブチルアルデヒド(GHBAL)が挙げられる。
【0080】
さらなる薬物としては、ミトラギニン(mitragynine)、7-ヒドロキシミトラギニン、およびその誘導体が挙げられる。
【0081】
さらなる薬物としてはまた、ステロイド(例えば、ナンドロロン(OXANDRIN(登録商標))、オキサンドロロン(ANADROL(登録商標))、オキシメトロン(ANADROL-50(登録商標))、およびシピオン酸テストステロン(testosterone cypionate)(DEPO-TESTOSTERONE(登録商標))が挙げられる。
【0082】
さらなる薬物としてはまた、メチルフェニデート、エチルフェニデート、およびリタリン酸(ritalinic acid)が挙げられる。メチルフェニデートは、注意欠陥多動障害(ADHD)およびナルコレプシーを処置するために使用される刺激薬物である。エチルフェニデートは、ドパミン再取り込みインヒビターおよびノルエピネフリン再取り込みインヒビターの両方として作用し、このことは、シナプス間隙からそれらモノアミンを通常は除去する輸送体タンパク質に結合し、輸送体タンパク質を部分的に遮断することによって、脳におけるノルエピネフリンおよびドパミン神経伝達物質のレベルをそれが効果的に押し上げることを意味する。リタリン酸は、置換されたフェネチルアミンであり、かつ精神刺激薬であるメチルフェニデートおよびエチルフェニデートの不活性な主要代謝産物である。
【0083】
アリピプラゾールは、非定型抗精神病薬である。それは、統合失調症および双極性障害の処置において主に使用される。他の使用としては、大うつ病性障害、チック障害および自閉症と関連する過敏性における追加処置として、が挙げられる。アリピプラゾールの代謝産物であるOPC-3373は、遙かにより水溶性であり、親化合物およびより一般的にアッセイされる代謝産物であるデヒドロアリピプラゾールより良好に、口腔液へと分配され得る。前述の3種の化合物は全て、分析物であり得る。
【0084】
c.アルコール検出
GC-MSと結びつけられる場合、上記洗口液は、アルコール検出のために使用され得る。推定の結果を提供し得るに過ぎない従来のアルコール呼気測定器(breathometer)と比較して、口腔サンプルの使用は、標準的な血液検査と直接相関し得る、はるかにより強い検査結果を生じる。さらに、口腔サンプルの使用は、不必要な時間の遅れを排除する現場検査を可能にし得る。いくつかの実施形態において、上記洗口液は、内部トレーサーとして13Cおよび/またはH標識されたアルコールを含む。いくつかの実施形態において、上記洗口液は、内部トレーサーとして重い同位体で標識されたカフェインを含む。いくつかの実施形態において、上記洗口液は、いかなる内部トレーサーをも含まない。
【0085】
別段定義されなければ、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、開示される発明が属する分野の当業者に拠って一般に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書で引用される刊行物およびそれらが引用される資料は、具体的に参考として援用される。
【0086】
当業者は、本明細書で記載される発明の具体的実施形態に対する多くの均等物を認識するか、または単なる慣用的な実験法を使用してこれらを確認し得る。このような均等物は、以下の請求項によって包含されることが意図される。