(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-02
(45)【発行日】2024-05-14
(54)【発明の名称】アレルギー疾患を治療又は予防するための食品用ブチレート
(51)【国際特許分類】
A61K 31/22 20060101AFI20240507BHJP
A61K 31/07 20060101ALI20240507BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20240507BHJP
A61P 3/02 20060101ALI20240507BHJP
A61P 11/02 20060101ALI20240507BHJP
A61P 11/06 20060101ALI20240507BHJP
A61P 17/04 20060101ALI20240507BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20240507BHJP
A61P 17/06 20060101ALI20240507BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20240507BHJP
A61P 1/12 20060101ALI20240507BHJP
A61P 1/08 20060101ALI20240507BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240507BHJP
A23L 33/115 20160101ALI20240507BHJP
A23D 9/00 20060101ALI20240507BHJP
A23K 20/158 20160101ALI20240507BHJP
A23K 50/40 20160101ALI20240507BHJP
【FI】
A61K31/22
A61K31/07
A61P37/08
A61P3/02
A61P11/02
A61P11/06
A61P17/04
A61P27/02
A61P17/06
A61P1/04
A61P1/12
A61P1/08
A61P17/00
A23L33/115
A23D9/00 516
A23K20/158
A23K50/40
(21)【出願番号】P 2021533676
(86)(22)【出願日】2019-12-19
(86)【国際出願番号】 EP2019086178
(87)【国際公開番号】W WO2020127642
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-12-06
(32)【優先日】2018-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】590002013
【氏名又は名称】ソシエテ・デ・プロデュイ・ネスレ・エス・アー
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100140453
【氏名又は名称】戸津 洋介
(72)【発明者】
【氏名】ブランチャード, カリーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ブルドー, トリスタン
(72)【発明者】
【氏名】デスタイラッツ, フレデリック
(72)【発明者】
【氏名】フォーブス-ブロム, エリザベス
(72)【発明者】
【氏名】ヌッテン, ソフィー エレーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ウルトリング, ヘイコー
(72)【発明者】
【氏名】パティン, アマウリー
【審査官】鶴見 秀紀
(56)【参考文献】
【文献】Pharm.Pharmacol.Commun.,1999年,Vol.5,pp.311-313
【文献】Food Chemistry,2014年,Vol.143,pp.199-204
【文献】The Journal of the American Oil Chemists' Society,1954年,Vol.32,pp.316-318
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A23L 33/115
A23D 9/00
A61P 37/08
A61P 3/02
A61P 11/02
A61P 11/06
A61P 17/04
A61P 27/02
A61P 17/06
A61P 1/04
A61P 1/12
A61P 1/08
A61P 17/00
A23K 20/158
A23K 50/40
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アレルギー性疾患の治療又は予防に使用するための、式
【化1】
[式中、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、及びR
6が独立して、16~20個の炭素を有する長鎖脂肪酸である。]を有する化合物又はこれらの組み合わせを含む、組成物。
【請求項2】
前記組成物が、式(1)を有する前記化合物、式(2)を有する前記化合物、式(3)を有する前記化合物、及び式(4)を有する前記化合物を含む、請求項
1に記載の使用のための組成物。
【請求項3】
式(1)を有する前記化合物、式(2)を有する前記化合物、式(3)を有する前記化合物、及び式(4)を有する前記化合物が、前記組成物のトリグリセリド全量の少なくとも50重量%、60重量%、70重量%、80重量%、90重量%、95重量%、又は99重量%を構成する、請求項
1又は2に記載の使用のための組成物。
【請求項4】
前記組成物中に主なブチレート部分含有トリグリセリドとして式(4)を有する前記化合物を含み、
式(4)の前記化合物が、前記組成物中の前記ブチレート部分含有トリグリセリドの少なくとも20重量%、少なくとも30重量%、少なくとも40重量%、少なくとも50重量%
、少なくとも60重量%、少なくとも70重量%、少なくとも80重量%、又は少なくとも90重量%を提供する、請求項
1~3のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項5】
式(1)を有する前記化合物、式(2)を有する前記化合物、式(3)を有する前記化合物、及び式(4)を有する前記化合物が、前記組成物中のブチレート部分含有トリグリセリド全量の少なくとも50重量%、60重量%、70重量%、80重量%、90重量%、95重量%、又は99重量%を構成する、請求項
1~4のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項6】
トリブチリンが、前記組成物中のトリグリセリド全量の10重量%未
満、8重量%未満
又は5重量%未満を構成する、請求項
1~5のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項7】
前記組成物が、ビタミンA及び/又は食物繊維を更に含む、請求項
1~6のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項8】
前記組成物が栄養組成物であ
る、請求項
1~7のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項9】
前記栄養組成物が、ダイエタリーサプリメント、乳児用フォーミュラ、フォローオンフォーミュラ、飲料、又はペットケア製品である、請求項8に記載の使用のための組成物。
【請求項10】
R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、及び/又はR
6が不飽和脂肪酸であ
る、請求項
1~9のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項11】
R
1
、R
2
、R
3
、R
4
、R
5
、及び/又はR
6
が一価不飽和脂肪酸である、請求項1~10のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項12】
R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、及び/又はR
6が、オレイン酸、パルミチン酸、
及びリノール酸からなる群から選択され
る、請求項
1~11のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項13】
R
1
、R
2
、R
3
、R
4
、R
5
、及びR
6
のそれぞれがオレイン酸である、請求項1~12のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項14】
前記アレルギー疾患が、食物アレルギー、食物不耐性、呼吸器系アレルギー、及び皮膚アレルギーからなる群のうちの1つ以上から選択される
、請求項
1~13のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項15】
前記アレルギー疾患が、鼻炎、喘息、皮疹、花粉症、アレルギー性結膜炎、皮膚炎、アトピー性皮膚炎、接触皮膚炎、湿疹、アトピー性湿疹、蕁麻疹、乾癬、好酸球性食道炎、及び他の好酸球関連胃腸疾患、アレルギー性下痢、嘔吐、腹部痛、
並びに膨満からなる群のうちの1つ以上から選択され
る、請求項
1~14のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項16】
前記アレルギー疾患におけるアレルゲンが、食物アレルゲン、チリダニ、花粉、カビ又はカビ胞子、雑草の花粉、樹木の花粉、牧草の花粉、ノミ、ペットの毛、羽毛、
及びペットのふけのうちの1つ以上から選択され
る、請求項
1~15のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項17】
前記アレルギー疾患におけるアレルゲンが食物アレルゲンであ
る、請求項
1~16のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項18】
前記食物アレルゲンが、ナッツ、種実類、ピーナッツ、魚介類、貝類、軟体動物、甲殻類、乳、卵、大豆、グルテン、穀物、小麦、オート麦、大麦、ライ麦、セロリ、トウモロコシ、ルピナス、亜硫酸塩、ゴマ、マスタード、米、家禽肉、及び肉から選択される、請求項17に記載の使用のための組成物。
【請求項19】
アレルギー疾患の治療又は予防が、アレルゲンに反応するアレルギー症状の軽減又は予防を含
む、請求項
1~18のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項20】
アレルギー疾患の治療又は予防が、経口寛容を増強することを含
む、請求項
1~19のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項21】
アレルギー疾患の治療又は予防が、アレルギー患者における、さらなるアレルゲンに対するアレルギー反応の軽減又は予防を含
む、請求項
1~20のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アレルギー疾患の治療又は予防に使用するための、改善された官能特性を有するブチレートの食品素材(dietary source)に関する。
【背景技術】
【0002】
アレルギー疾患は、現在、世界保健機関(WHO)により、流行しているものとして認識されている。欧州及び北米では、食物アレルギーは、大人のほぼ5%及び子供の8%に影響していると推定される(Sicherer,S.H.and Sampson,H.A.,2014.Journal of Allergy and Clinical Immunology,133(2),pp.291-307)。食物アレルギー及びアナフィラキシーの有病率は着実に増加しており、食物アレルギー又はアトピー性湿疹を持つ乳児において最も増加が観察される(Koplin,J.J.,et al.,2015.Current opinion in allergy and clinical immunology,15(5),pp.409-416)。
【0003】
腸内細菌叢の組成の変化は、アレルギー疾患の発病率を高める原因の一つであると指摘されている。腸内細菌叢は、これまでにアレルゲンに対する免疫寛容の維持において重要な役割を果たすことが示されている、制御性T(Treg)細胞を促進する(Rivas,M.N.and Chatila,T.A.,2016.Journal of Allergy and Clinical Immunology,138(3),pp.639-652)。特に、食物繊維由来代謝産物は、腸内恒常性及びTreg細胞の動態に関与する(Tan,J.,et al.,2016.Cell reports,15(12),pp.2809-2824)。酪酸は、食品に含まれる難消化性食物繊維にヒト腸内細菌叢が応答することで産生される、最も一般的な短鎖脂肪酸(SCFA)のうちの1つである。酪酸の塩及びエステルは、ブチレート又はブタノエートと呼ばれる。
【0004】
前臨床データでは、ブチレートを直接経口投与することで、食物アレルギーの発症を十分に防ぐことができ(Tan,J.,et al.,2016.Cell reports,15(12),pp.2809-2824)、アレルギー性肺炎が改善されたことが示されている(Thio,C.L.P.,et al.2018.Journal of Allergy and Clinical Immunology,142(6),pp.1867-1883.e12)。さらに、糞中ブチレート濃度が増加していると、乳児における牛乳アレルギーの進展が早められていることと関連し(Canani,R.B.,et al.,2016.The ISME journal,10(3),p.742)、ブチレートを産生する腸内細菌叢が豊かになるほど、アトピー性湿疹を持つ乳児の症状が軽度となることと関連していた(Nylund,L.,et al.,2015.Allergy,70(2),pp.241-244)。したがって、ブチレートは、Treg細胞を促進することにより食物アレルギー反応を調節する強力な候補である。
【0005】
ブチレートは、Treg応答に対する効果が証明されているだけでなく、マスト細胞の活性にも作用することが明らかになっている。マスト細胞は、ヒスタミン、ロイコトリエン、サイトカイン、ケモカイン、及び中性プロテアーゼなどのメディエーターの放出を通じて、様々な免疫疾患において、重要な炎症機能及び潜在的な免疫調節機能を発揮すると考えられている(Amin,K.,2012.Respiratory medicine,106(1),pp.9-14)。マウスマスト細胞株MC/9は、ブチレートに曝露されたときに、増殖の低下を示し(Galli,S.J.,et al.,1982.The Journal of cell biology,95(2),pp.435-444)、また更なる研究により、ブチレートが、マスト細胞の活性化、メディエーターの放出の阻害、及びマスト細胞における炎症性サイトカインTNFαの産生、を抑制することが示されている(Diakos,C.,et al.,2006.Biochemical and biophysical research communications,349(2),pp.863-868)。ブチレートはまた、in vivoでのマスト細胞の活性化及び炎症メディエーターの産生を阻害するのにも有効であった(Wang,C.C.,et al.,2018.Innate immunity,24(1),pp.40-46)。
【0006】
ブチレートの存在下でのB細胞の抗原特異的刺激により、形質細胞への分化は制御性B細胞(Breg)の発達とIL-10産生へと切り替わり、これと同時に、in vivoにおけるBreg誘導は、食物アレルギーの実験的誘導後の腸内マスト細胞の細胞数の減少と関連していた(Shi,Y.,et al.,2015.Scientific reports,5,p.17651)。ブチレートはまた、2型先天性リンパ球(ILC2)の活性化及び/又はサイトカイン応答に作用することによって、マスト細胞の応答に影響し得る。アセテート又はプロピオネートではなくブチレートが、ILC2により惹起されるアレルギー性炎症(好酸球性炎症を含む)を十分に改善し、ヒトILC2細胞のサイトカイン産生を減少させた(Thio,C.L.P.,et al.2018.Journal of Allergy and Clinical Immunology,142(6),pp.1867-1883.e12)。ILC2応答は、IgE-マスト細胞により介在される実験的食物アレルギーの促進に関与している(Chen,C.Y.,et al.,2015.Immunity,43(4),pp.788-802)。
【0007】
ブチレートの一般的な供給源は、酪酸及びトリブチリンであり、トリブチリンは、3つのブチレート部分を持つ3つのエステル官能基とグリセロール骨格とからなるトリグリセリドである。酪酸及びトリブチリンは両方とも、安全(GRAS)であると一般的にみなされる食品添加物(それぞれ、21CFR582.60及び21CFR184.1903)であり、多くの乳製品の天然成分である。しかしながら酪酸は、嘔吐物、糞便、及びチーズのような匂い特性などの、ネガティブな官能品質を伴う。トリブチリンはまた、ネガティブな官能品質、特に高度の苦味も有する。これらの不快な味覚及び臭気特性により、特に小児集団において、これらの化合物を含む組成物の経口投与を行うことが、特に困難になることがある。乳製品のブチレート成分は富化することができないため、かなりの量の乳脂肪を摂取する必要があるが、特に動物性脂肪に由来の不要なカロリーを大量に摂取することになることから、これは実際上及び栄養上の理由から実現不可能である。
【0008】
したがって、アレルギー疾患の治療又は予防に利用可能な解決策と比較して、改善された官能特性を有する食品等級のブチレート供給源を提供することが有益となる。
【0009】
[発明の概要]
本発明は、アレルギー疾患の治療又は予防に使用するための、改良された官能特性を有するブチレートの供給源である化合物を提供する。特に、化合物は、酪酸、ブチレート塩、及び/又はトリブチリンと比較して、臭気及び/又は味が改善されている。化合物は、酪酸の食品素材として使用することができる。化合物は、例えば、栄養組成物、ダイエタリーサプリメント、乳児用フォーミュラ、フォローオンフォーミュラ、飲料、及びペットケア製品に使用することができる。
【0010】
本発明の第1の態様によれば、アレルギー疾患の治療又は予防に使用するための、以下の式
【化1】
[式中、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、及びR
6は独立して、16~20個の炭素を有する長鎖脂肪酸である。]を有する化合物、又はこれらの組み合わせを提供する。
【0011】
本発明の別の態様によると、アレルギー疾患の治療又は予防に使用するための、式(1)を有する化合物、式(2)を有する化合物、式(3)を有する化合物、若しくは式(4)を有する化合物又はこれらの組み合わせを含む組成物を提供し、式中、R1、R2、R3、R4、R5、及びR6は独立して、16~20個の炭素を有する長鎖脂肪酸である。
【0012】
一実施形態では、組成物は、式(1)を有する化合物、式(2)を有する化合物、式(3)を有する化合物、及び式(4)を有する化合物を含む。
【0013】
組成物は、式(1)を有する化合物及び式(2)を有する化合物を含み得る。
【0014】
組成物は、式(1)を有する化合物及び式(3)を有する化合物を含み得る。
【0015】
組成物は、式(1)を有する化合物及び式(4)を有する化合物を含み得る。
【0016】
組成物は、式(2)を有する化合物及び式(3)を有する化合物を含み得る。
【0017】
組成物は、式(2)を有する化合物及び式(4)を有する化合物を含み得る。
【0018】
組成物は、式(3)を有する化合物及び式(4)を有する化合物を含み得る。
【0019】
組成物は、式(1)を有する化合物、式(2)を有する化合物、及び式(3)を有する化合物を含み得る。
【0020】
組成物は、式(1)を有する化合物、式(2)を有する化合物、及び式(4)を有する化合物を含み得る。
【0021】
組成物は、式(1)を有する化合物、式(3)を有する化合物、及び式(4)を有する化合物を含み得る。
【0022】
組成物は、式(2)を有する化合物、式(3)を有する化合物、及び式(4)を有する化合物を含み得る。
【0023】
組成物は、式(1)を有する化合物、式(2)を有する化合物、式(3)を有する化合物、及び式(4)を有する化合物を含み得る。
【0024】
一実施形態では、式(1)を有する化合物、(2)を有する化合物、(3)を有する化合物及び(4)を有する化合物は、組成物のトリグリセリド全量の少なくとも50重量%、60重量%、70重量%、80重量%、90重量%、95重量%、又は99重量%を構成する。
【0025】
一実施形態では、式(1)を有する化合物、式(2)を有する化合物、式(3)を有する化合物及び式(4)を有する化合物は、組成物中のブチレート部分含有トリグリセリド全量の少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%又は99重量%を構成する。
【0026】
一実施形態では、式(4)を有する化合物は、組成物中の主なブチレート部分含有トリグリセリドである。
【0027】
一実施形態では、式(4)の化合物は、組成物中のブチレート部分含有トリグリセリド全量の少なくとも20重量%、少なくとも30重量%、少なくとも40重量%、少なくとも50重量%、又は少なくとも60重量%、少なくとも70重量%、少なくとも80重量%、又は少なくとも90重量%を構成する。
【0028】
一実施形態では、組成物は、式(1)の化合物と式(4)の化合物とを含み、式(1)を有する化合物と式(4)を有する化合物との組み合わせは、組成物中のブチレート部分含有トリグリセリド全量の少なくとも30重量%、40重量%、50重量%、60重量%、70重量%、80重量%、又は90重量%の量で存在する。
【0029】
一実施形態では、トリブチリンは、組成物中のトリグリセリド全量の10重量%未満、好ましくは組成物中のトリグリセリド全量の8重量%未満、より好ましくは5重量%未満のトリグリセリドを構成する。
【0030】
一実施形態では、組成物は、ビタミンA及び/又は食物繊維及び/又はプロバイオティクスを更に含む。
【0031】
一実施形態では、組成物は栄養組成物であり、好ましくは栄養組成物は、ダイエタリーサプリメント、乳児用フォーミュラ、フォローオンフォーミュラ、飲料又はペットケア製品である。
【0032】
一実施形態では、R1、R2、R3、R4、R5、及び/又はR6は、不飽和脂肪酸、好ましくは一価不飽和脂肪酸である。
【0033】
一実施形態では、R1、R2、R3、R4、R5、及び/又はR6は、オレイン酸、パルミチン酸、又はリノール酸からなる群から選択され、好ましくは、R1、R2、R3、R4、R5、及びR6のそれぞれはオレイン酸である。
【0034】
一実施形態では、アレルギー疾患は、食物アレルギー、食物不耐性、呼吸器系アレルギー、及び皮膚アレルギーからなる群のうちの1つ以上から選択される。
【0035】
一実施形態では、アレルギー疾患は、鼻炎、喘息、皮疹(hives)又は花粉症、アレルギー性結膜炎、皮膚炎、アトピー性皮膚炎、接触皮膚炎、湿疹、アトピー性湿疹、蕁麻疹(urticaria)、乾癬、好酸球性食道炎、及び好酸球関連胃腸疾患、アレルギー性下痢、嘔吐、腹部痛、又は膨満からなる群のうちの1つ以上から選択される。
【0036】
一実施形態では、アレルギー疾患におけるアレルゲンは、食物アレルゲン、チリダニ、花粉、カビ若しくはカビ胞子、雑草の花粉、樹木の花粉、牧草の花粉(grass pollen)、ノミ、ペット若しくは動物の毛、羽毛、又はペットのふけのうちの1つ以上から選択される。
【0037】
一実施形態では、アレルギー疾患におけるアレルゲンは食物アレルゲンであり、好ましくは食物アレルゲンは、ナッツ(nut)、種実類(tree nut)、ピーナッツ、魚介類、貝類、軟体動物、甲殻類、乳、卵、大豆、グルテン、穀物、小麦、オート麦、大麦、ライ麦、セロリ、トウモロコシ、ルピナス、亜硫酸塩、ゴマ、マスタード、米、家禽肉、及び肉から選択される。
【0038】
一実施形態では、化合物又はこれらの組み合わせは、酪酸、トリブチリン及び/又はブチレート塩に対して改善された官能特性を有する。
【0039】
一実施形態では、化合物は、幼若又は成体哺乳動物、好ましくは乳児、幼児、若者又は成人、ペット又は家畜に提供される。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】乳タンパク質β-ラクトグロブリン(BLG)で感作したマウス及び対照群マウスにおけるBLG特異性免疫グロブリンE(IgE)応答のグラフを示す。
【
図2】乳タンパク質β-ラクトグロブリン(BLG)で感作したマウス及び対照群マウスにおけるBLG特異性免疫グロブリンG1(IgG1)応答のグラフを示す。
【
図3】「対照群」(陰性対照)、「アレルギー群1」(BLG感作陽性対照)、「酪酸ナトリウムで処置したアレルギー群2」、及び「嗜好性ブチレートで処置したアレルギー群3」のマウスにおけるOVAの経口負荷後の累積臨床スコアのグラフを示す。
【
図4】アレルギーマウス及び対照群マウス、すなわち「対照群」(陰性対照)、「アレルギー群1」(BLG感作陽性対照)、「酪酸ナトリウムで処置したアレルギー群2」、及び「嗜好性ブチレートで処置したアレルギー群3」のマウスにおいてOVAを経口負荷した際のOVA特異的IgE応答のグラフを示す。
【
図5】アレルギーマウス及び対照群マウス、すなわち「対照群」(陰性対照)、「アレルギー群1」(BLG感作陽性対照)、「酪酸ナトリウムで処置したアレルギー群2」、及び「嗜好性ブチレートで処置したアレルギー群3」のマウスにおいてOVAを経口負荷した際のOVA特異的IgG1応答のグラフを示す。
【
図6】アレルギーマウス及び対照群マウス、すなわち「対照群」(陰性対照)、「アレルギー群1」(BLG感作陽性対照)、「酪酸ナトリウムで処置したアレルギー群2」及び「嗜好性ブチレートで処置したアレルギー群3」のマウスにおいてOVAを経口負荷した際のマスト細胞プロテアーゼ-1(MCPT-1)のグラフを示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本明細書で使用する場合、用語「含む(comprising)」、「含む(comprises)」、及び「から構成される(comprised of)」は、「含む(including)」又は「含む(動物、特にペットなどの小動物、特にイヌ)」又は「含有する(containing)」又は「含有する(contains)」と同義であり、他を包含し得るもの、すなわちオープンエンドであり、かつ追加の、列挙されていない構成、要素、又は工程を除外しない。用語「含む(comprising)」、「含む(comprises)」、及び「から構成される(comprised of)」はまた、用語「からなる(consisting of)」を含む。
【0042】
トリグリセリド
トリグリセリド(トリアシルグリセロールとも呼ばれる)は、グリセロール及び3つの脂肪酸から誘導されたトリエステルである。消化などの加水分解条件下では、トリグリセリドは脂肪酸の供給源であり得る。例えば、トリブチリンは、トリブチリン1モル当たり3モルの酪酸の供給源となり得る。
【0043】
脂肪酸は、長い尾部(鎖)を有するカルボン酸である。脂肪酸は、不飽和又は飽和のいずれであってもよい。他の分子に結合していない脂肪酸は、遊離脂肪酸(FFA)と呼ばれる。
【0044】
用語「脂肪酸部分」は、グリセロールとのエステル化反応において脂肪酸に由来するトリグリセリドの部分を指す。本発明で使用されるトリグリセリドは、少なくとも1つの酪酸部分及び少なくとも1つの長鎖脂肪酸部分を含む。
【0045】
本発明での使用に好ましい長鎖脂肪酸は、16~20個の炭素原子を有する脂肪酸である。長鎖脂肪酸の例としては、オレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、及びリノール酸が挙げられる。好ましくは、長鎖脂肪酸はオレイン酸である。例えば、本発明は、アレルギー疾患の治療又は予防に使用するための、次式
【化2】
を有する化合物又はこれらの組み合わせを提供する。
【0046】
本発明で使用することができるトリグリセリドの他の例としては、1,3-ジブチリル-2-リノレオイルグリセロール、1,3-ジブチリル-2-ステアロイルグリセロール、1-ブチリル-2-オレオイル-3-パルミトイルグリセロール、1-パルミトイル-2-オレオイル-3-ブチリルグリセロール、1-ブチリル-2-オレオイル-3-リノレオイルグリセロール、1-リノレオイル-2-オレオイル-3-ブチリルグリセロール、1-オレオイル-2-ブチリル-3-リノレオイルグリセロール、1-リノレオイル-2-ブチリル-3-オレオイルグリセロール、1-ブチリル-2-リノレオイル-3-オレオイルグリセロール、1-オレオイル-2-リノレオイル-3-ブチリルグリセロール、1-ブチリル-2-ステアロイル-3-オレオイルグリセロール、1-オレオイル-2-ステアロイル-3-ブチリルグリセロール、1-ブチリル-2-オレオイル-3-ステアロイルグリセロール、1-ステアロイル-2-オレオイル-3-ブチリルグリセロール、1,2-ジオレオイル-3-パルミトイルグリセロール、1-パルミトイル-2,3-ジオレオイルグリセロール、1,2-ジオレオイル-3-リノレオイルグリセロール、及び1-リノレオイル-2,3-ジオレオイルグリセロールが挙げられる。
【0047】
本発明のトリグリセリドは、例えば、長鎖脂肪酸及び酪酸の、グリセロールとのエステル化反応によって合成することができる。
【0048】
本発明のトリグリセリドは、例えば、トリブチリンと、長鎖脂肪酸を含有する別のトリグリセリドとの間のエステル交換によって合成することができる。一実施形態では、高オレイン酸ヒマワリ油が、長鎖脂肪酸の原料である。これにより、主としてブチレート部分及びオレエート部分を含有する、トリグリセリドを作製する。この化合物は、乳成分不含有、コレステロール不含有、及び動物由来成分不含有である。脂肪酸は、胃腸管において天然に存在するリパーゼにより、トリグリセリドから脱離する。ブチレート塩と比較すると、当該化合物が、最終的な配合物に更なるミネラル塩を添加することはない。
【0049】
トリグリセリド合成の代替的な方法は、当業者によって通常の手順の一環として決定することができる。
【0050】
例として、1,3-ジブチリル-2-パルミトイルグリセロール(BPB)を得る方法について、以下に示す。
【0051】
【0052】
別の例として、トリグリセリドは、長鎖脂肪酸モノアシルグリセロール(MAG)と酪酸(BA)とのエステル化反応によって合成され得る。
【0053】
例えば、長鎖脂肪酸モノアシルグリセロール(MAG)と酪酸(BA)とがエステル化反応し、水が除去されることによって合成され得る。例として、1,2-ジブチリル-3-オレオイルグリセロールを得る方法を以下に示す。
【0054】
【0055】
エステル化反応は、好ましくは、酪酸(BA):モノアシルグリセロール(MAG)のモル比2以上で、すなわち、モル過剰の酪酸下で実施する。水の除去は、当該技術分野において日常的に使用される従来法によって実施することができる。
【0056】
単一のブチレート部分含有トリグリセリドを、本明細書で使用することができる。あるいは、異なるブチレート部分含有トリグリセリドの混合物を使用することができる。
【0057】
トリグリセリドは、当該技術分野において従来のものである及び当業者に周知である脱色及び/又は脱臭工程に更に供され得る。例えば、植物油の製造に従来使用されているような工程が挙げられる。
【0058】
組成物
本発明の化合物は、組成物の形態で投与することができる。したがって、本発明は、アレルギー疾患の治療又は予防に使用するための、本明細書で言及されるブチレート部分含有トリグリセリドを含む組成物を提供する。
【0059】
一実施形態では、本明細書に定義される組成物中には、式(1)を有する化合物と式(2)を有する化合物との組み合わせが存在する。
【0060】
一実施形態では、式(1)を有する化合物は、組成物中のトリグリセリド全量の少なくとも10重量%の量で存在し、式(2)を有する化合物は、組成物中のトリグリセリド全量の少なくとも10重量%の量で存在する。
【0061】
一実施形態では、式(1)を有する化合物は、組成物中のトリグリセリド全量の少なくとも15重量%の量で存在し、式(2)を有する化合物は、組成物中のトリグリセリド全量の少なくとも15重量%の量で存在する。
【0062】
一実施形態では、式(1)を有する化合物は、組成物中のトリグリセリド全量の少なくとも20重量%の量で存在し、式(2)を有する化合物は、組成物中のトリグリセリド全量の少なくとも20重量%の量で存在する。
【0063】
一実施形態では、式(1)を有する化合物は、組成物中のトリグリセリド全量の少なくとも20重量%の量で存在し、式(2)を有する化合物は、組成物中のトリグリセリド全量の少なくとも30重量%の量で存在する。
【0064】
一実施形態では、式(1)を有する化合物は、組成物中のトリグリセリド全量の約20重量%~約40重量%を構成し、及び/又は式(2)を有する化合物は、組成物中のトリグリセリド全量の約30%~約40重量%を構成する。
【0065】
一実施形態では、式(1)を有する化合物及び式(2)を有する化合物は、組成物中のトリグリセリド全量の少なくとも20重量%、30重量%、40重量%、50重量%、60重量%、又は70重量%、好ましくは組成物中のトリグリセリド全量の約40重量%~約80重量%、又は約50重量%~約75重量%を構成する。
【0066】
一実施形態では、組成物は、式(3)を有する化合物を更に含み、好ましくは、式(3)を有する化合物は、組成物中のトリグリセリド全量の少なくとも2重量%、3重量%、4重量%、又は5重量%を構成し、及び/又は組成物は、式(4)を有する化合物を更に含み、好ましくは、式(4)を有する化合物は、組成物中のトリグリセリド全量の少なくとも1重量%、2重量%、又は3重量%を構成する。
【0067】
一実施形態では、式(1)を有する化合物は、組成物中の全酪酸含有トリグリセリドの少なくとも20重量%の量で存在し、式(2)を有する化合物は、組成物中の全酪酸含有トリグリセリドの少なくとも30重量%の量で存在する。
【0068】
一実施形態では、式(1)を有する化合物は、組成物中の全酪酸含有トリグリセリドの約30重量%~約50重量%を構成し、及び/又は式(2)を有する化合物は、組成物中の全酪酸含有トリグリセリドの約40重量%~約60重量%を構成する。
【0069】
一実施形態では、式(1)を有する化合物及び式(2)を有する化合物は、組成物中の全酪酸含有トリグリセリドの少なくとも20重量%、30重量%、40重量%、50重量%、60重量%、70重量%、又は80重量%を構成し、好ましくは組成物中の全酪酸含有トリグリセリドの約60重量%~約90重量%を構成する。
【0070】
一実施形態では、式(4)を有する化合物は、組成物中の主なブチレート部分含有トリグリセリドである。
【0071】
一実施形態では、式(4)の化合物は、組成物中のブチレート部分含有トリグリセリド全量の少なくとも20重量%、少なくとも30重量%、少なくとも40重量%、少なくとも50重量%、又は少なくとも60重量%、少なくとも70重量%、少なくとも80重量%、又は少なくとも90重量%を構成する。
【0072】
一実施形態では、組成物は、式(1)の化合物と式(4)の化合物とを含み、式(1)を有する化合物と式(4)を有する化合物との組み合わせは、組成物中のブチレート部分含有トリグリセリド全量の少なくとも30重量%、40重量%、50重量%、60重量%、70重量%、80重量%、又は90重量%の量で存在する。
【0073】
一実施形態では、式(5)を有する化合物は、組成物中のトリグリセリド全量の少なくとも10重量%を構成し、及び/又は式(6)を有する化合物は、組成物中のトリグリセリド全量の少なくとも10重量%を構成する。
【0074】
一実施形態では、式(5)を有する化合物は、組成物中のトリグリセリド全量の少なくとも15重量%を構成し、及び/又は式(6)を有する化合物は、組成物中のトリグリセリド全量の少なくとも15重量%を構成する。
【0075】
一実施形態では、式(5)を有する化合物は、組成物中のトリグリセリド全量の少なくとも15重量%を構成し、及び/又は式(6)を有する化合物は、組成物中のトリグリセリド全量の少なくとも20重量%を構成する。
【0076】
一実施形態では、式(5)を有する化合物は、組成物中のトリグリセリド全量の少なくとも20重量%を構成し、及び/又は式(6)を有する化合物は、組成物中のトリグリセリド全量の少なくとも20重量%を構成する。
【0077】
一実施形態では、式(5)を有する化合物は、組成物中のトリグリセリド全量の約15重量%~約30重量%を構成し、及び/又は式(6)を有する化合物は、組成物中のトリグリセリド全量の約20重量%~約30重量%を構成する。
【0078】
一実施形態では、式(5)を有する化合物及び式(6)を有する化合物は、組成物中のトリグリセリド全量の少なくとも20重量%、30重量%、又は40重量%、好ましくは組成物中のトリグリセリド全量の約30重量%~約60重量%、又は約40重量%~約50重量%を構成する。
【0079】
一実施形態では、組成物は、式(7)を有する化合物を更に含み、好ましくは、式(7)を有する化合物は、組成物中のトリグリセリド全量の少なくとも2重量%又は3重量%を構成し、及び/又は組成物は、式(8)を有する化合物を更に含み、好ましくは、式(8)を有する化合物は、組成物中のトリグリセリド全量の少なくとも2重量%又は3重量%を構成する。
【0080】
一実施形態では、式(5)を有する化合物は、組成物中のブチレート部分含有トリグリセリド全量の少なくとも10重量%を構成し、式(6)を有する化合物は、組成物中のブチレート部分含有トリグリセリド全量の少なくとも10重量%を構成する。
【0081】
一実施形態では、式(5)を有する化合物は、組成物中のブチレート部分含有トリグリセリド全量の少なくとも15重量%を構成し、式(6)を有する化合物は、組成物中のブチレート部分含有トリグリセリド全量の少なくとも15重量%を構成する。
【0082】
一実施形態では、式(5)を有する化合物は、組成物中のブチレート部分含有トリグリセリド全量の少なくとも15重量%を構成し、式(6)を有する化合物は、組成物中のブチレート部分含有トリグリセリド全量の少なくとも20重量%を構成する。
【0083】
一実施形態では、式(5)を有する化合物は、組成物中のブチレート部分含有トリグリセリド全量の少なくとも20重量%を構成し、式(6)を有する化合物は、組成物中のブチレート部分含有トリグリセリド全量の少なくとも20重量%を構成する。
【0084】
一実施形態では、式(5)を有する化合物は、組成物中のブチレート部分含有トリグリセリド全量の約15重量%~約30重量%を構成し、式(6)を有する化合物は、組成物中のブチレート部分含有トリグリセリド全量の約20重量%~約30重量%を構成する。
【0085】
一実施形態では、組成物は、式(7)を有する化合物を更に含み、好ましくは、式(7)を有する化合物は、組成物中のブチレート部分含有トリグリセリド全量の少なくとも2重量%又は3重量%を構成し、及び/又は組成物は、式(8)を有する化合物を更に含み、好ましくは、式(8)を有する化合物は、組成物中のブチレート部分含有トリグリセリド全量の少なくとも2重量%又は3重量%を構成する。
【0086】
別の実施形態では、式(8)を有する化合物は、組成物中の主なブチレート部分含有トリグリセリドである。
【0087】
一実施形態では、式(8)の化合物は、組成物中のブチレート部分含有トリグリセリド全量の少なくとも20重量%、少なくとも30重量%、少なくとも40重量%、少なくとも50重量%、又は少なくとも60重量%、少なくとも70重量%、少なくとも80重量%、又は少なくとも90重量%を構成する。
【0088】
一実施形態では、式(8)を有する化合物は、組成物中のブチレート部分含有トリグリセリド全量の約20重量%~約95重量%、例えば、組成物中のブチレート部分含有トリグリセリド全量の約30重量%~約90重量%、又は約40重量%~約80重量、例えば、組成物中のブチレート部分含有トリグリセリド全量の約50重量%~約70重量%を構成する。
【0089】
一実施形態では、式(8)を有する化合物は、組成物中のブチレート部分含有トリグリセリド全量の約50重量%~約90重量%、例えば、組成物中のブチレート部分含有トリグリセリド全量の約60重量%~約80重量%を構成する。
【0090】
一実施形態では、組成物は、式(8)の化合物と式(5)の化合物とを含み、式(8)を有する化合物と式(5)を有する化合物との組み合わせは、組成物中のブチレート部分含有トリグリセリド全量の少なくとも30重量%、40重量%、50重量%、60重量%、70重量%、80重量%、又は90重量%の量で存在する。
【0091】
一実施形態では、本発明の組成物は、1,3-ジブチリル-2-リノレオイルグリセロール、1,3-ジブチリル-2-ステアロイルグリセロール、1-ブチリル-2-オレオイル-3-パルミトイルグリセロール、1-パルミトイル-2-オレオイル-3-ブチリルグリセロール、1-ブチリル-2-オレオイル-3-リノレオイルグリセロール、1-リノレオイル-2-オレオイル-3-ブチリルグリセロール、1-オレオイル-2-ブチリル-3-リノレオイルグリセロール、1-リノレオイル-2-ブチリル-3-オレオイルグリセロール、1-ブチリル-2-リノレオイル-3-オレオイルグリセロール、1-オレオイル-2-リノレオイル-3-ブチリルグリセロール、1-ブチリル-2-ステアロイル-3-オレオイルグリセロール、1-オレオイル-2-ステアロイル-3-ブチリルグリセロール、1-ブチリル-2-オレオイル-3-ステアロイルグリセロール、1-ステアロイル-2-オレオイル-3-ブチリルグリセロール、1,2-ジオレオイル-3-パルミトイルグリセロール、1-パルミトイル-2,3-ジオレオイルグリセロール、1,2-ジオレオイル-3-リノレオイルグリセロール及び/又は1-リノレオイル-2,3-ジオレオイルグリセロールを更に含み得る。
【0092】
一実施形態では、トリブチリンは、組成物中のブチレート部分含有トリグリセリド全量の10重量%未満、好ましくは組成物中のブチレート部分含有トリグリセリド全量の8重量%未満、より好ましくは5重量%未満を構成する。
【0093】
本発明の組成物は、例えば、固体(例えば、粉末)、液体、又はゼラチン状の形態であってもよい。
【0094】
本発明の組成物は、例えば、錠剤、糖衣錠、カプセル、ゲルキャップ、粉末、顆粒、溶液、エマルジョン、懸濁液、被覆粒子、噴霧乾燥粒子、又は丸剤であってもよい。
【0095】
組成物は、医薬組成物の形態であってもよく、1つ以上の好適な医薬的に許容される担体、希釈剤、及び/又は賦形剤を含んでもよい。本明細書に記載される組成物に好適な、このような賦形剤の例は、「Handbook of Pharmaceutical Excipients」,2nd Edition,(1994),(A Wade and PJ Weller編)に見ることができる。治療用途のための許容可能な担体又は希釈剤もまた、医薬分野において周知であり、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences,Mack Publishing Co.(A.R.Gennaro edit.1985)に記載されている。
【0096】
医薬組成物は、担体、賦形剤、若しくは希釈剤として、又はそれに加え、任意の好適な結合剤、潤滑剤、懸濁化剤、コーティング剤、及び/若しくは可溶化剤を含んでもよい。好適な結合剤の例としては、デンプン、ゼラチン、天然糖、例えばグルコース、無水ラクトース、流動性ラクトース、β-ラクトースなど、コーン甘味料、天然及び合成ガム、例えばアカシア、トラガカント、又はアルギン酸ナトリウムなど、カルボキシメチルセルロース、及びポリエチレングリコールが挙げられる。好適な潤滑剤の例としては、オレイン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウムなどが挙げられる。
【0097】
防腐剤、安定剤、染料、及び更には香味剤を組成物に含ませてもよい。防腐剤の例としては、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸、及びp-ヒドロキシ安息香酸のエステルが挙げられる。酸化防止剤及び懸濁剤もまた、使用することができる。
【0098】
組成物は、栄養組成物であってもよい。
【0099】
表現「栄養組成物」とは、対象に栄養を与える組成物を意味する。この栄養組成物は、好ましくは経口で摂取され、脂質、又は脂肪源及びタンパク質源を含んでもよい。かかる組成物はまた、炭水化物源を含有してもよい。一実施形態では、栄養組成物は、脂質又は脂肪源のみを含有する。他の特定の実施形態では、栄養組成物は、脂質(又は脂肪)源を、タンパク質源、炭水化物源、又はこれらのいずれもとともに含有する。
【0100】
いくつかの特定の実施形態では、本発明による栄養組成物は、「経腸栄養組成物」、すなわち、当該組成物の投与に胃腸管が関わる食料品である。胃への導入は、口腔/鼻道又は腹部内を通って胃に直接導く管の使用を伴ってもよい。このような管は、特に病院又は診療所において使用することができる。
【0101】
本発明による組成物は、ダイエタリーサプリメントであり得る。
【0102】
用語「ダイエタリーサプリメント」は、個体の栄養を補完するものとして使用することができる(典型的には栄養の補完のために使用するものであるが、それだけでなく摂取が意図される任意の種類の組成物に添加することもできる)。これは、例えば、錠剤、カプセル、トローチ、又は液体の形態であってもよい。ダイエタリーサプリメントは、保護親水コロイド(ガム、タンパク質、加工デンプンなど)、結合剤、膜形成剤、カプセル化剤/材料、壁/シェル材料、マトリックス化合物、コーティング、乳化剤、表面活性剤、可溶化剤(油、脂肪、ワックス、レシチンなど)、吸着剤、担体、充填剤、共化合物、分散剤、湿潤剤、加工助剤(溶媒)、流動剤、味覚マスキング剤、増量剤、ゼリー化剤、及びゲル形成剤を更に含有してもよい。ダイエタリーサプリメントはまた、従来の医薬添加剤及び補助剤、賦形剤、及び希釈剤を含有してもよく、これには、水、任意の由来のゼラチン、植物ガム、リグニンスルホネート、タルク、糖、デンプン、アラビアガム、植物油、ポリアルキレングリコール、風味剤、防腐剤、安定剤、乳化剤、緩衝液、潤滑剤、着色剤、湿潤剤、充填剤などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0103】
組成物は、栄養補給剤である場合、単位用量の形態で提供することができる。
【0104】
本発明による組成物は、乳児用フォーミュラ(例えば、乳児用スターターフォーミュラ)、フォローアップ又はフォローオンフォーミュラ、グローイングアップミルク、ベビーフード、乳児用シリアル組成物、又は母乳強化剤などの強化剤であり得る。
【0105】
本明細書で使用するとき、表現「乳児用フォーミュラ」は、出生後1ケ月の間の乳児の特定の栄養補給用途を意図する食品であって、当該乳そのものによって、このカテゴリーに該当する乳児の栄養要件(例えば、乳児用フォーミュラ及びフォローオンフォーミュラに対する、Article 2(c)of the European Commission Directive 91/321/EEC 2006/141/EC of 22 December 2006)を満たす、食品を指す。
【0106】
一般的に、スターターフォーミュラは、出生以降の乳児用の母乳代用品である。フォローアップフォーミュラ又はフォローオンフォーミュラは、6ケ月目以降から与えられる。これらのフォーミュラは、このカテゴリーに該当する乳児の、次第に多様となっていく食生活において主要な液体要素を構成する。「グローイングアップミルク」(又はGUM)は、1年目以降から与えられる。このミルクは、一般的に、特に小児の栄養必要量に合わせて調整された乳系飲料である。
【0107】
用語「強化剤」は、母乳(人乳)又は乳児用フォーミュラと混合するのに好適な、液体又は固体栄養組成物を指す。用語「母乳」は、母親の乳若しくは母親の初乳、又はドナーの乳、若しくはドナーの乳のうちの初乳として理解されたい。
【0108】
本発明による組成物は、乳製品、液体飲料、飲料粉末、乾燥スープ、ダイエタリーサプリメント、食事代替物、栄養バー、シリアル、菓子製品、又は乾燥ペットフードであり得る。
【0109】
組成物は、食物繊維を更に含み得る。食物繊維は、経口寛容を強化し、食物アレルギーから保護することが示されている(Tan,J.,et al.,2016.Cell reports,15(12),pp.2809-2824)。「食物繊維」は、少なくとも1つの難消化性オリゴ糖(例えば、プレバイオティクス)を含み得る。プレバイオティクスは、組成物の0.3~10重量%の量で存在してもよい。食物繊維及び/又はプレバイオティクスは、腸内細菌叢による内因性ブチレートの産生を促進することができ、したがって更なる有益な効果を提供することができる。
【0110】
プレバイオティクスは通常、胃又は小腸において分解されず吸収されないという意味で難消化性である。したがって、プレバイオティクスは大腸に入る際にインタクトのままであり、大腸で有益な細菌により選択的に発酵される。プレバイオティクスの例としては、フラクトオリゴ糖(FOS)、イヌリン、キシロオリゴ糖(XOS)、ポリデキストロース、又はこれらの任意の混合物といったある種のオリゴ糖が挙げられる。特定の実施形態では、プレバイオティクスは、フラクトオリゴ糖及び/又はイヌリンであってもよい。特定の実施形態では、プレバイオティクスは、FOSとイヌリンとの組み合わせ、例えば、BENEO-Oraftiにより商標名Orafti(登録商標)オリゴフルクトース(以前にはRaftilose(登録商標))で販売されている製品における組み合わせ、又はBENEO-Oraftiにより商標名Orafti(登録商標)イヌリン(以前にはRaftiline(登録商標))で販売されている製品における組み合わせである。別の例は、70%の短鎖フラクトオリゴ糖と30%のイヌリンとの組み合わせであり、これはNestleによって商標名「Prebio 1」として登録されている。本発明の栄養組成物はまた、少なくとも1種の乳オリゴ糖を含んでもよく、当該オリゴ糖は、BMO(ウシ乳オリゴ糖)及び/又はHMO(ヒト乳オリゴ糖)であり得る。特定の実施形態では、本発明による栄養組成物は、0.1~4.0重量%のN-アセチル化オリゴ糖(複数可)と、92.0~98.5重量%のガラクトオリゴ糖(複数可)と、0.3~4.0重量%のシアリル化オリゴ糖(複数可)とを含むオリゴ糖混合物を含む。
【0111】
本発明の組成物は、プロバイオティクス菌株などの少なくとも1種のプロバイオティクス(すなわち、プロバイオティクス菌株)を更に含んでもよい。プロバイオティクス株の摂取はまた、腸内細菌叢による内在性ブチレートの産生を促進し得、したがって更なる有益な効果を提供することができる。
【0112】
最も一般的に使用されるプロバイオティクス微生物は、主に以下の属の細菌及び酵母である:ラクトバチルス属の菌種(Lactobacillus spp.)、ストレプトコッカス属の菌種(Streptococcus spp.)、エンテロコッカス属の菌種(Enterococcus spp.)、ビフィドバクテリウム属の菌種(Bifidobacterium spp.)及びサッカロミセス属の菌種(Saccharomyces spp.)。
【0113】
いくつかの特定の実施形態において、プロバイオティクスは、プロバイオティクス菌株である。いくつかの特定の実施形態では、プロバイオティクス菌株は、ビフィズス菌及び/又はラクトバチルスである。
【0114】
本発明による栄養組成物は、乾燥重量基準で、組成物1g当たり10e3~10e12cfuのプロバイオティクス株、より好ましくは10e7~10e12cfu、例えば10e8~10e10cfuのプロバイオティクス株を含有してもよい。
【0115】
一実施形態では、プロバイオティクスは生菌である。別の実施形態では、プロバイオティクスは、複製しないか又は不活性化される。プロバイオティクスはまた、プロバイオティクスの部分、例えば細胞壁成分、又はプロバイオティクスの代謝産物であってもよい。いくつかの他の実施形態では、生存可能なプロバイオティクス及び不活性化したプロバイオティクスの両方が存在していてもよい。本発明の栄養組成物は、好ましくは病原性連鎖球菌、ヘモフィルス属、モラクセラ及びブドウ球菌に対する、少なくとも1つのファージ(バクテリオファージ)又はファージの混合物を更に含んでもよい。
【0116】
本発明の栄養組成物、特に乳児用フォーミュラは、概ね、タンパク質源、炭水化物源、及び脂質源を含有する。しかし、いくつかの実施形態では、特に本発明の栄養組成物が栄養補給剤又は強化剤である場合、脂質(又は脂質源)のみが存在していてもよい。
【0117】
本発明による栄養組成物は、タンパク質源を含有してもよい。タンパク質は、1.6~3g/100kcalの量であってもよい。いくつかの実施形態では、特に組成物が早産の乳児/幼児を対象とする場合、タンパク質量が、2.4~4g/100kcal、又は3.6g超/100kcalであってもよい。いくつかの他の実施形態では、タンパク質量は、2.0g未満/100kcal、例えば1.8~2g/100kcal、又は1.8g未満/100kcalの量であってもよい。
【0118】
例えば、大豆をベースとしたタンパク質源のみでなく、ホエイ、カゼイン、及びこれらの混合物をベースとしたタンパク質源を使用してもよい。ホエイタンパク質に関して言えば、タンパク質源は酸性ホエイ若しくは甘性ホエイ又はこれらの混合物をベースとしたものであってよく、任意の所望の割合でα-ラクトアルブミン及びβ-ラクトグロブリンを含有し得る。いくつかの実施形態では、主たるタンパク質源はホエイである(すなわち、50%超、例えば60%超又は70%超のタンパク質がホエイタンパク質から生じたものである)。タンパク質は、インタクトなタンパク質若しくは加水分解されたタンパク質、又はインタクトなタンパク質と加水分解されたタンパク質との混合物であってもよい。いくつかの実施形態では、タンパク質源はまた、アミノ酸を追加する方法で一部が又は全部が提供されてもよい。
【0119】
用語「インタクト」とは、タンパク質の主要部分がインタクトであること、すなわち、分子構造が変化していないこと、例えば、タンパク質の少なくとも80%が変化していないこと、例えば、タンパク質の少なくとも85%が変化していないこと、好ましくは、タンパク質の少なくとも90%が変化していないこと、更により好ましくは、タンパク質の少なくとも95%が変化していないこと、例えば、タンパク質の少なくとも98%が変化していないことを意味する。特定の実施形態では、タンパク質は全く変化していない。
【0120】
用語「加水分解された」とは、本発明との関連において、タンパク質が加水分解されていること、又はその構成要素であるアミノ酸まで分解されていることを意味する。
【0121】
タンパク質は、完全に加水分解されるか、又は部分的に加水分解されるかのいずれかであってよい。加水分解されたタンパク質が必要である場合、加水分解プロセスを、所望に応じて、当該技術分野において既知のように行うことができる。例えば、ホエイタンパク質の加水分解物は、1つ以上のステップでホエイ画分を酵素により加水分解することにより調製することができる。出発物質として使用されたホエイ画分が実質的にラクトースを含まないものである場合、加水分解プロセス中にタンパク質が受けるリジンブロック(lysine blackage)が大幅に少なくなることが判明した。これにより、リジン全量の約15重量%から、リジン全量の約10重量%未満まで、リジンブロックの程度を低減することができ、例えば、約7重量%のリジンにより、タンパク質源の栄養価は大幅に改善される。
【0122】
特定の一実施形態では、組成物のタンパク質は、加水分解されるか、広範に加水分解されるか、又は部分的に加水分解される。タンパク質の加水分解度(DH)は、2~20、又は8~40、又は20~60、又は20~80、又は10超、20超、40超、60超、80超、又は90超であってもよい。例えば、約15%未満の加水分解度を有する加水分解物を含有する栄養組成物は、Nestle社から商標名Peptamen(登録商標)で市販されている。
【0123】
いくつかの実施形態では、タンパク質は、広範に加水分解されている。例えば、広範にわたり加水分解されたタンパク質を含有する乳児用フォーミュラ製品は、Nestle社から商標名Althera(登録商標)、Alfare(登録商標)で市販されている。
【0124】
タンパク質の少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、又は97%が、加水分解されてもよい。特定の実施形態では、タンパク質の100%が加水分解される。
【0125】
特定の一実施形態では、タンパク質はアミノ酸として提供される。例えば、タンパク質源としてのアミノ酸をベースとする乳児用フォーミュラは、Nestle社から商標名Alfamino(登録商標)で市販されている。
【0126】
特定の一実施形態では、組成物のタンパク質は、植物系タンパク質である。
【0127】
本発明による栄養組成物は、炭水化物源を含有してもよい。炭水化物源を含有することは、本発明の栄養組成物が乳児用フォーミュラである場合に、特に好ましい。この場合、乳児用フォーミュラにおいて通常見られる任意の炭水化物源、例えば、ラクトース、スクロース、マルトデキストリン、デンプン、及びこれらの混合物を使用することができるが、乳児用フォーミュラに好ましい炭水化物源の1つは、ラクトースである。
【0128】
本発明の栄養組成物はまた、毎日の食生活において及び栄養的に有意な量で必須であると理解されている全てのビタミン及びミネラルを含有してもよい。特定のビタミン及びミネラルに対する最小必要量が確立されている。本発明の組成物中に任意選択的に存在する、ミネラル、ビタミン、及び他の栄養素の例としては、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB3、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンE、ビタミンK、ビタミンC、ビタミンD、葉酸、イノシトール、ナイアシン、ビオチン、パントテン酸、コリン、カルシウム、リン、ヨウ素、鉄、マグネシウム、銅、亜鉛、マンガン、塩素、カリウム、ナトリウム、セレン、クロム、モリブデン、タウリン、及びL-カルニチンが挙げられる。ミネラルは、通常、塩形態で添加される。特定のミネラル及び他のビタミンの存在及び量は、対象とする集団に応じて異なる。
【0129】
特定の一実施形態では、組成物は、ビタミンA及び/又はレチノールを更に含んでもよい。ブチレートは、CD103発現樹状細胞(CD103+DC)によるビタミンAのレチノイン酸への変換を促進することができ、この変換により、ナイーブT細胞のTreg細胞への分化が促進される(Tan,J.,et al.,2016.Cell reports,15(12),pp.2809-2824)。具体的には、Tanらは、ビタミンAを含む食物繊維が、CD103+DCの寛容原性を増強させることが示されている。
【0130】
必要な場合、本発明の栄養組成物は、乳化剤及び安定剤、例えば、大豆、レシチン、モノ及びジグリセリドのクエン酸エステルなどを含有してもよい。本発明の栄養組成物はまた、例えばラクトフェリン、オステオポンチン、TGFβ、slgA、グルタミン、ヌクレオチド、ヌクレオシドなどの、有益な効果を有することができる他の物質を含有してもよい。
【0131】
本発明による栄養組成物は、任意の好適な方法で調製することができる。例えば、組成物は、適切に分けた成分を合わせて混合することにより調製でき、任意選択的には、1種以上の担体と混合した後、当該乾燥混合物を液体成分(liquefier)と混合して液体混合物を形成することによって調製することができる。最終製品が粉末である場合、当該液体混合物を次に均質化し、低温殺菌し、任意選択的に噴霧乾燥させることができる。組成物は、低温殺菌前又は低温殺菌後に均質化されてもよい。
【0132】
例えば、乳児用フォーミュラなどのフォーミュラは、タンパク質源、炭水化物源、及び脂肪源を、適切な割合で一緒にブレンドすることによって調製することができる。使用する場合、乳化剤は、この時点で含めることができる。ビタミン及びミネラルは、この時点で添加されてもよいが、通常、熱分解を回避するために後で添加される。任意の親油性ビタミン、及び乳化剤などをブレンド前に脂肪源に溶解することができる。次いで、好ましくは逆浸透処理した水を混合して、液体混合物を形成することができる。水の温度は、成分の分散を補助するために、適宜、約50℃~約80℃の範囲とする。市販の液化装置を用いて液体混合物を形成することができる。特に最終製品を液体形態とする場合、この段階で任意のオリゴ糖を添加することができる。最終製品が粉末である場合、所望により、同様にこの段階で任意のオリゴ糖を添加することができる。次いで、液体混合物を、例えば2段階で均質化する。
【0133】
アレルギー疾患
本明細書に定義される化合物は、ブチレート/酪酸の供給源であり、したがって、アレルギー疾患を予防又は治療するために使用され得る。化合物は、乳児、小児、又は成人において使用され得る。
【0134】
「アレルギーの表現型」又は「アトピー」の成立は、それ以降の他のアレルゲンに対する感作を促進することが示されていることから、小児期におけるアレルギー感作、特に小児期早期における、及び特に食物アレルゲンに対する感作は、極めて重要な意味を有しており、最も関心を集めている。乳児期の湿疹も、それ以降の食物アレルギー又は他の種類のアレルギーの発症の素因となる。したがって、小児期におけるアレルギーは、それ以降の人生でアレルギーを複数種類発症してしまうアレルギーカスケードの第一歩となる可能性があり、このプロセスは一般に「アレルギー・マーチ」と呼ばれる。例えば、幼少期に慢性的に食物過敏症を示している子供は、小児期後期にアレルギー性鼻炎(花粉症)又は喘息を発症するリスクが劇的に高まる(Ostblom,E.et al.(2008);Phenotypes of food hypersensitivity and development of allergic diseases during the first 8 years of life,Clinical and Experimental Allergy,38(8):1325-1332)。重症度のより低い食物過敏症を示す子供でも呼吸器系のアレルギーの発症リスクが高まるが、慢性的に食物過敏症を示している子供よりも程度が低い。したがって、食物過敏症の重症度を減弱させることは、「アレルギー・マーチ」の進行を抑えるために重要であり得る。これに関連して、小児期及び乳児期には、アレルギー症状の発現の管理及びアレルギーの予防が最も重要である。
【0135】
乳児の免疫系は、生後数年の間に活発に発達する。このような若年患者においてアレルギー反応に働きかける、予防する、回避する、管理する、低減する、又は調節することは、短期的に作用することはもちろんのこと、長期的にも、以降のアレルギープロファイルに作用し得る。一実施形態では、アレルギー疾患の予防又は治療は、一次予防によるものである。「一次予防」は、アレルゲンに対する患者の感作リスクを予防又は低減する効果であり、アレルゲン特異的なIgE抗体が存在しないこと又はその値が低減されていることを特徴とする。感作を予防又は低減することにより、同じアレルゲンへの曝露時のアレルギー症状が存在しなくなる又は減少することになる。1つのアレルゲン又は1群のアレルゲンに対する患者の感作方法を調整することで(一次予防)、その後のアレルギー反応を調整することができる。そのため一実施形態では、アレルギー疾患の予防又は治療は、アレルギー患者(アレルギーの既往歴のある患者)における、更なるアレルゲン又は複数のアレルゲンに対するアレルギー反応の低減又は予防を含む。
【0136】
食物アレルゲンは、乳児が出生後早期に出会う最初のアレルゲンであり、典型的には、母乳だけで育てられているのではない乳児は牛乳タンパク質に出会う可能性がある。乳タンパク質は、実際に、乳児の食物アレルギーの中で最も高い頻度で観察される原因の1つであり、卵、大豆、及び小麦のタンパク質がそれに続く。一般に、食物アレルギーは、乳児及び小児において、皮膚症状(発疹、湿疹、その他)及び胃腸症状(腹部痙攣;疼痛、特に腹部の疼痛;嘔吐)として現れる可能性がある。食物アレルギーは、生命を脅かすアナフィラキシーにつながり得る重度のアレルギー反応の、最も一般的な誘因である。
【0137】
更にアレルギーの感作及び発現はまた、乳児/小児が、穀物、野菜、果物、ナッツ又は魚などの初めて出会う食品に曝露された場合、また、花粉、イエダニ、及び動物のふけなどの空中アレルゲンに曝露された場合にも出現し得る。成人では、接触アレルギー及び呼吸器系アレルギーによって受ける影響が大きい。WHOの最近のデータ(Clark,M.J.and.Million,R.P(2009)Allergic rhinitis:market evolution,Nature Reviews,Drug Discovery,8,p.271-272)には、世界人口の最大30~40%が何らかの呼吸器系アレルギーに罹患していることが示されている。
【0138】
動物、特にペットなどの小動物、特にイヌ及びネコなどのコンパニオンアニマルも、食物アレルギー及び食物不耐性、並びに環境アレルゲンに悩まされ得る。これらは、典型的には、例えば、下痢、嘔吐及び腹部不快感などの胃腸障害、並びに皮膚炎又は掻痒などの、ヒトと同様の症状となって現れる。小動物、特にイヌでは、慢性下痢の主な原因は、食物応答性腸疾患(食事反応性腸症又は食物応答性下痢)である。
【0139】
本発明の化合物及び組成物は、アレルゲンに対する対象の感作のリスクを予防又は低減することにより、食物アレルギー、食物不耐性、呼吸器系アレルギー、及び皮膚アレルギーを予防又は治療するために使用され得る。
【0140】
いくつかの実施形態では、アレルギー反応は、特異的IgE関連の免疫応答及び/又はT細胞依存性過敏性応答である。したがって、一部の実施形態では、アレルギーを低減又は予防することは、特異的IgE関連の免疫応答及び/又はT細胞依存性過敏性応答を低減又は予防することを含む。いくつかの実施形態では、アレルギー性炎症が低減され、及び/又は経口寛容が増強される。
【0141】
本明細書で使用するとき、「食物アレルギー」は、1つ以上の食物アレルゲンに対する異常な免疫応答を指し、典型的にはヒスタミンの放出によって生じるIgE応答を指すが、非IgE型の免疫応答も包含する。食物アレルギーの症状としては、そう痒、湿疹、蕁麻疹、舌の腫脹、嘔吐、下痢、皮疹、呼吸困難、又は低血圧を挙げることができる。症状が重度であり、かつ身体の2つ以上のシステムに関与する場合には、アナフィラキシーとして知られている。
【0142】
本明細書で使用するとき、用語「食物アレルゲン」は、異常な免疫応答を引き起こすタンパク質又はその誘導体を指す。精製された食物アレルゲンは、世界保健機関及び国際免疫学会連合のAllergen Nomenclature Sub-Committeeの体系的な命名法を使用して命名することができる。アレルゲン名は、その供給源の学名の省略表記(属名:3~4文字;種名:1~2文字)及びアラビア数字で構成されており、例えば、Der p 1は、イエダニDermatophagoides pteronyssinusから初めて報告されたアレルゲンである。食物アレルゲンは、プロテアーゼ、リガンド結合タンパク質、構造タンパク質、病原性関連タンパク質、脂質伝達タンパク質、プロフィリン、及びカルシウム結合タンパク質を含む様々な生物学的機能を有するタンパク質から誘導される。食物アレルゲンのリストは、WHO/IUIS Allergen Nomenclature Database,http://www.allergen.org/index.php.(Radauer,C.,et al.,2014.Allergy,69(4),pp.413-419 and Pomes,A.,et al.,2018.Molecular immunology)の公式ウェブサイトに提供されている。
【0143】
一実施形態では、食物アレルゲンは、ナッツ、種実類、ピーナッツ、魚介類、貝類、軟体動物、甲殻類、乳、卵、大豆、グルテン、穀物、小麦、オート麦、大麦、ライ麦、セロリ、トウモロコシ、ルピナス、亜硫酸塩、ゴマ、マスタード、米、家禽肉、及び肉からなる1つ以上のリストから選択される。
【0144】
本明細書で使用するとき、「食物不耐性」は、1つ以上の身体器官及びシステムに各種症状を引き起こす、食品、飲料、食品添加物、又は食品に含まれる化合物に対する有害な反応(多くの場合、遅延性)を指し、一般的に食物アレルギー以外の反応を指す。「食物過敏症」は、食物不耐性及び食物アレルギーの両方を広く指し得る。
【0145】
本明細書で使用するとき、「呼吸器系アレルギー」は、1種以上の空中アレルゲンに対する異常な免疫応答を指す。空中アレルゲンとしては、花粉、カビ又はカビ胞子、雑草の花粉、樹木の花粉、牧草の花粉、及びふけを挙げることができる。呼吸器系アレルギーとしては、例えばアレルギー性鼻炎及びアレルギー性喘息が挙げられ得る。アレルギー性鼻炎(花粉症)の症状としては、鼻炎又は鼻づまり、くしゃみ、目の充血、痒み、及び涙目、並びに目の周囲の腫れが挙げられる。アレルギー性喘息の症状としては、喘鳴、咳、胸部圧迫感、及び息切れの発現が挙げられる。
【0146】
本明細書で使用するとき、「皮膚アレルギー」は、1種以上の環境アレルゲンとの接触又はアレルギー誘発性食品の摂取によって引き起こされる異常な免疫応答を指す。環境アレルゲンとしては、食物アレルゲン、チリダニ、花粉、カビ又はカビ胞子、雑草の花粉、樹木の花粉、牧草の花粉、ノミ、ペットの毛、羽毛、又はペットのふけを挙げることができる。皮膚アレルギーとしては、例えば、皮膚炎、アトピー性皮膚炎、接触皮膚炎、湿疹、アトピー性湿疹、蕁麻疹、及び乾癬を挙げることができる。これらは典型的には皮膚の炎症をもたらす疾患群であり、症状としては、そう痒、皮膚の発赤、及び発疹が挙げられる。
【0147】
アレルギー疾患はまた、他のアレルギー性炎症状態、例えば好酸球性食道炎及び他の好酸球性の胃腸疾患を含んでもよい。好酸球性食道炎は、白血球の一種である好酸球を伴う、食道のアレルギー性炎症状態である。症状は、嚥下困難、食物嵌入、嘔吐、及び胸焼けである。
【0148】
ブチレート、したがって、本発明の化合物及び組成物は、1つ以上の機序によるアレルギー反応を予防又は低減することができる。
【0149】
本発明の化合物及び組成物は、Treg細胞の分化を調節及び/又は促進することができる。制御性T(Treg)細胞は、寛容の誘導に極めて重要であり、経口寛容の誘導を調整及び/又は促進することにより、2型アレルギー反応を制御し、IgEの産生を減少させることによって食物アレルギーを予防することができ、又は食物アレルギーをより速く発達させる場合がある。乾癬、アレルギー、及び炎症性腸疾患などの多くの慢性炎症性疾患は、免疫寛容の破綻により発症すると考えられる。前臨床データは、ブチレートの直接経口送達がTreg細胞の分化を増加させたことを実証した(Tan,J.,et al.,2016.Cell reports,15(12),pp.2809-2824)。Treg活性の誘導に失敗すると、Th2の異常応答及びアレルギー疾患の発症につながることが実証されている。2型ヘルパーT(Th2)細胞の異常応答はアレルギー性炎症を生じ得る。2型自然リンパ球(ILC2s)は、喘息の急性増悪を引き起こすTh2サイトカインIL-5及びIL-13の重要な産生源である。ブチレートは、ILC2増殖の重要な調節因子であり、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害活性を介して機能することが実証されている(Thio,C.L.P.,et al.2018.Journal of Allergy and Clinical Immunology,142(6),pp.1867-1883.e12)。さらに、ブチレートの存在下でB細胞を抗原特異的に刺激すると、形質細胞への分化が制御性B細胞(Breg)の発生とそれによるIL-10の産生に切り替わる(Shi,Y.,et al.,2015.Scientific reports,5,p.17651)。
【0150】
本発明の化合物及び組成物は、1つ以上の抗炎症性サイトカインの産生及び/若しくは発現を増加させ、かつ/又は1つ以上の炎症性サイトカインの産生及び/若しくは発現を低減し、したがって組織炎症を低減させることができる。ブチレートはまた、抗炎症性サイトカイン、例えば、IL-10の産生を変化させることも実証されている(Shi,Y.,et al.,2015.Scientific reports,5,p.17651)。ブチレートはまた、多くの抗炎症性サイトカイン、例えば、TNFα、IL-5、IL-13、IL-17の産生を変化させることが示されている(Diakos,C.,et al.,2006.Biochemical and biophysical research communications,349(2),pp.863-868;Thio,C.L.P.,et al.2018.Journal of Allergy and Clinical Immunology,142(6),pp.1867-1883.e12;and Singh,N.,et al.,2014.Immunity,40(1),pp.128-139.)。
【0151】
本発明の化合物及び組成物は、マスト細胞の活性、及び下痢又は皮疹などのマスト細胞が介在する全てのアレルギー症状を調節及び/又は低減することができる。ブチレートは、in vivoでのマスト細胞の活性化及び炎症メディエーターの産生を阻害するのに有効であることが実証されている(Wang,C.C.,et al.,2018.Innate immunity,24(1),pp.40-46)。
【0152】
本発明の化合物及び組成物は、GATA-3発現を改善することができる。GATA-3は、2型ヘルパーT細胞(Th2細胞)で特異的に発現し、コミットされていないCD4+リンパ球からのTh2細胞の分化において重要な役割を果たす転写因子である。したがって、化合物は、アレルギー反応の成立を抑制することができる。加えて、GATA-3は、アレルギー性炎症を介在するサイトカインIL-4、IL-5、及びIL-13の遺伝子発現に必須である(Barnes,P.J.,2008.Current molecular medicine,8(5),pp.330-334)。in vitroでの酪酸ナトリウムの多量投与(1mM)は、IFNγへの転化と共にTh2偏向CD4+T細胞のGata3発現を改善するのに十分であった(Kespohl,M.,et al.,2017.Frontiers in immunology,8,p.1036)。他の研究によると、0.1mMの酪酸ナトリウムでは、Th2に偏向しているCD4+T細胞におけるGATA-3又はFoxP3発現に影響を与えるには不十分だった(Furusawa,Y.,et al.,2013.Nature,504(7480),p.446)。
【0153】
投与
好ましくは、本明細書に記載される化合物及び組成物は、経腸投与される。
【0154】
経腸的投与は、経口、経胃、及び/又は経直腸投与であってよい。
【0155】
一実施形態では、投与は、経口又は経胃である。好ましい実施形態では、投与は経口である。
【0156】
一般論として、本明細書に記載される組み合わせ又は組成物の投与は、例えば、経口経路又は別の経路による胃腸管への投与であってもよく、例えば、投与は経管栄養によるものであってもよい。
【0157】
対象は、ヒト、イヌ、ネコ、ウマ、ヤギ、ウシ、ヒツジ、ブタ、シカ、及び霊長類などの哺乳動物であってもよい。好ましくは、対象は、ヒトである。
【0158】
官能特性
本発明は、改善された官能特性を有し、酪酸の供給源である化合物を提供する。特に、化合物は、酪酸、ブチレート塩、及び/又はトリブチリンと比較して、臭気及び/又は味が改善されている。一実施形態では、化合物は、トリブチリンと比較して改善された味を有する。一実施形態では、化合物は、ブチレート塩(例えば、酪酸ナトリウム)と比較して改善された匂いを有する。
【0159】
一実施形態では、改善された官能特性は、改善された臭気である。一実施形態では、改善された官能特性は、改善された味覚である。一実施形態では、改善された官能特性は、改善された臭気及び改良された味覚である。一実施形態では、改善された味は、低減された苦味である。
【実施例】
【0160】
実施例1-ブチレート化(butyrated)トリグリセリド(TAG)の調製
ナトリウムメトキシドなどの触媒の存在下で、トリブチリンと高オレイン酸ヒマワリ油との間で化学的にエステル交換することにより、ブチレート化TAGを含む組成物を生成した。高オレイン酸ヒマワリ油に対してモル過剰のトリブチリンを使用した。
【0161】
3つの試薬、すなわち、トリブチリン、高オレイン酸ヒマワリ油、及び触媒を、窒素雰囲気下で反応器内で混ぜ合わせ、次いで撹拌しながら80℃で3時間、加熱した。反応が完了したところで、生成物を水で数回洗浄した後、真空下で乾燥させた(25mBar、60℃で2時間)。次いで、得られた油生成物を漂白土(bleaching earth)の作用による脱色工程に供し、ショートパス蒸留(130℃,0.001~0.003mbar)又は蒸気水の注入による脱臭(160℃,2mbar,2h)のいずれかにより精製した。
【0162】
得られた油組成物の構成成分(大部分がトリグリセリドである)を以下の表1に示す。これらのトリグリセリドは、これらが含有する3つの脂肪酸によって表される。これらの脂肪酸は、その脂質数によって表され、ブチレートでは4:0、パルミテートでは16:0、ステアレートでは18:0、オレエートでは18:1、リノレエートでは18:2である。中央の脂肪酸は、トリグリセリドのsn-2位に位置している。例として、16:0-4:0-18:1は2種類の異なるトリグリセリドを表し、当該トリグリセリドは、sn2位のブチレートと、sn-1位のパルミテート及びsn-3位のオレエート又はsn-1位のオレエート及びsn-3位のパルミテートとを有する分子のいずれをも含む。
【0163】
TAGプロファイル及び位置異性体を、高分解能質量分析計に接続した液体クロマトグラフィによって分析した。各脂質の割合を、蒸発光散乱検出器(ELSD)に接続した液体クロマトグラフィによって評価した。
【0164】
【0165】
組成物試料において、最も豊富であった2種類のTAGは4:0-18:1-4:0及び18:1-18:1-4:0であり、これらは合わせて約40~50g/100gであった。
【0166】
実施例2-ブチレート部分含有トリグリセリドの臭気特性
ブチレート部分含有TAGを含む溶液(主にオレイン酸脂肪酸及び酪酸脂肪酸で構成される)の臭気比較を、酪酸ナトリウムを含有する溶液と比較した。
【0167】
試料調製
ブチレート部分含有TAG(実施例1を参照)又は酪酸ナトリウムを含む溶液を調製し、官能パネルに渡すまで4℃で保存した。250mLの各溶液には、酸性脱イオン水中に、酪酸600mg(栄養補給剤として市販の酪酸ナトリウム1カプセルに相当:濃度2.4mg/mL)及び1重量/体積%のBEBA Optipro 1乳児用フォーミュラが含まれていた。
【0168】
試料は、試験前日に各溶液(TAG酪酸溶液;酪酸ナトリウム溶液)4mLをAgilent社製バイアルに入れて調製した。
【0169】
方法
「2対5点試験」を行った。この試験では、パネリストに5つの試料を提示する。パネリストに、他の3つと異なる2つの試料を特定するよう指示する。提示順序によるバイアスを回避するために、試料の提示順序を無作為化する。
【0170】
2対5点試験に加えて、コメント欄をパネリストに示し、知覚された差の性質(例えば、臭気強度、臭気の質)についてコメントさせた。
【0171】
結果
5つの試料を、パネリストに同時に提示した。パネリストには、所定の順序でキャップを外し、匂いを嗅ぎ、次いで各々のバイアル瓶にキャップすることを依頼した。結果を表2に示す。
【0172】
【0173】
P値については、Fizzソフトウェア(Biosystems,France)により行った二項検定を用いて計算した。
【0174】
正しい返答(ナトリウムブチレートとは異なるブチレート部分含有TAG)の区別のついたパネリストによると、ナトリウムブチレートは「チーズ」の匂いがした一方で、ブチレート部分含有TAG試料については、この「チーズ」の匂いは大きく減少しており、臭気にはほとんど癖がないと説明された。
【0175】
実施例3.ブチレート部分含有トリグリセリドの味覚特性
主にオレイン酸及び酪酸脂肪酸で構成されるブチレート部分含有TAG(実施例1を参照)を含む溶液の官能ベンチマーキングを、トリブチリンを含有する溶液と比較して実施した。
【0176】
試料調製
最終体積が150mLになるよう、大さじ1杯(4.6g)のBEBA Optipro 1乳児用フォーミュラを、温水(説明書のとおりに冷ました沸騰水)に添加した(約3重量/体積%の溶液)。各TAG形態のブチレートを別々に秤量して600mgのブチレートを準備し、各溶液の最終体積が50mLになるよう乳児用フォーミュラを添加した。
【0177】
溶液Aには、ブチレート部分含有TAG(実施例1を参照)を含有させた。溶液Bには、トリブチリンを含有させた。
【0178】
方法
パネリストのグループは、内容を伏せたテイスティングを反復して行った。
【0179】
予備的苦味評価の直前に試料を調製し、それぞれの溶液を激しく振盪した。A及びBと表記したテイスティング用カップに、それぞれの溶液を同時に少量で充填した。
【0180】
この2つの試料をパネリストに同時に提示した。パネリストには、口に含んでは吐き出すという様式で溶液をテイスティングし、知覚した苦味を0~10のスケール[0では苦味を知覚せず、10では想像可能な中で最大の苦味に類するように感じられる]で評価するよう依頼した。
【0181】
結果
溶液Aの苦味について、パネリストは、平均±SDで、4.33±1.52であると評価した。
【0182】
溶液Bの苦味について、パネリストは、平均±SDで、8.33±1.52であると評価した。
【0183】
これらのデータは、乳児用フォーミュラ中のブチレート部分含有TAG組成物は、乳児用フォーミュラ中のトリブチリンと比較して、苦味が顕著に低かったことを示す。
【0184】
実施例4.1,3-ジブチリル-2-パルミトイルグリセロールの味覚特性
1,3-ジブチリル-2-パルミトイルグリセロール(BPB)を、以下の合成を用いて単一の化合物として合成した。
【0185】
【0186】
BPBを記述型官能パネル評価で評価したところ、味及び臭気においてクセがないことが判明した。
【0187】
実施例5-ブチレート化トリグリセリド(TAG)の調製
モノオレイン(ヒマワリ油由来)と、モル過剰(合計5当量)に添加した酪酸とのエステル化反応によって、ブチレート部分含有トリグリセリドを含む組成物を生成した。これらの2つの試薬をフラスコ内で一緒に混合し、加熱して還流させた(酪酸の沸点は163.5℃)。水を除去するために、凝縮器(「colorne de Vigreux」)を使用した。反応をTLCによりモニターし、全てのモノアシルグリセロールがトリアシルグリセロールに変換されたところで停止させた。
【0188】
得られた油組成物の成分(主にトリグリセリド)を以下の表3に示す。実施例1と同様に、トリグリセリドは、それらに含まれる3つの脂肪酸により表される。これらの脂肪酸は、脂質の数によって表され、ブチレートでは4:0、パルミテートでは16:0、ステアレートでは18:0、オレエートでは18:1、リノレエートでは18:2である。中央の脂肪酸は、トリグリセリドのsn-2位に位置している。
【0189】
【0190】
この組成物では、4:0-4:0-18:1が、最も豊富なトリグリセリドであることが確認された。
【0191】
次いで、得られた油生成物を漂白土の作用による脱色工程に供し、ショートパス蒸留(130℃,0.001~0.003mbar)及び/又は蒸気水の注入による脱臭(160℃,2mbar,2h)により精製し、残留試薬及び中間体、例えば酪酸、MAG及び副生成物(例えば、DAG及びトリブチリン)を除去した。
【0192】
得られた油生成物を記述型官能評価において評価したところ、油生成物がトリブチリン及び酪酸よりも良好な臭気及び味を有することが判明した。
【0193】
実施例6-乳児用フォーミュラとしてのブチレート化トリグリセリド(TAG)の投与及びアレルギーの既往歴のある哺乳動物におけるアレルギー反応の減少
8週齢の雌性BALB/cマウスの皮膚に乳タンパク質のβ-ラクトグロブリン(BLG)を適用して感作させ、乳に対するアレルギーを誘導した(「アレルギー群」)。この段階では、3つの「アレルギー群」(アレルギー群
1、アレルギー群2、及びアレルギー群3)は全て、乳タンパク質β-ラクトグロブリン(BLG)を皮膚に適用することによる同じ感作を受けた。アレルギーのない陰性対照群では、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)のみを塗布した(「対照群」)。合計3つのパッチを適用し、それぞれの適用の間にパッチを貼らない期間を1週間設けた。最後の皮膚パッチの6日後、当業者に既知の従来の手順に従って、マウスにBLGを経口負荷した。血清をELISA用に処理し、BLG特異的免疫グロブリンE(IgE)及びBLG特異的免疫グロブリンG1(IgG1)を測定した(それぞれ
図1及び
図2)。
図1及び
図2からわかるように、アレルギー群1、アレルギー群2及びアレルギー群3の3群全てのマウスは、BLG経口負荷に対してアレルギー反応を示し、マウスが乳タンパク質β-ラクトグロブリン(BLG)に感作されたことを証明した。
【0194】
牛乳アレルギーの誘導後、「対照群」及び「アレルギー群1」には、牛乳アレルギーの栄養管理用の乳児用フォーミュラ(本実施例では、商標名Althera(登録商標)で市販されている広範囲に加水分解された乳児用フォーミュラを使用)を飲用水で再構成したものを3週間にわたり投与した。「アレルギー群2」及び「アレルギー群3」には、3週間にわたり、牛乳アレルギーの栄養管理用の乳児用フォーミュラを飲用水で再構成したものの存在下で、ブチレートを自由摂取させた。アレルギー群2には酪酸ナトリウムの形態でブチレートを投与し、アレルギー群3には実施例1に従って調製したブチレート化TAG組成物(本明細書では「嗜好性ブチレート」と呼ぶ)の形態でブチレートを投与した。酪酸ナトリウム又は嗜好性ブチレートは、ブチレートの最終濃度が乳児用フォーミュラ1mL当たり600μgになるよう調製した。その後、「アレルギー群1」において、卵に対するアレルギーを誘導した。「酪酸ナトリウムで処置したアレルギー群2」及び「嗜好性ブチレートで処置したアレルギー群3」には、水酸化アルミニウムをアジュバントとして卵タンパク質オボアルブミン(OVA)を腹腔内投与した。「対照群」には、アジュバントのみを腹腔内投与した。最後の腹腔内投与から2週間後、マウスにOVAを週3回、計12回経口負荷した。全ての群には、卵アレルギーへの曝露を通して乳児用フォーミュラ+/-ブチレートを継続して投与した。各経口OVA負荷後にマウスを観察して、臨床スコアを特定した。アレルギー症状は、以下のように定義した:0=正常な便;1=軟便/べたつき便(sticky stools);2=緩い便;3=液状の便/下痢;4=少なくとも2回の液状の下痢;5=試験の終了時にスコア4。これらのデータを組み合わせて、試験中の各マウスの累積臨床スコアを算出した(
図3)。
図3から、「酪酸ナトリウムで処置したアレルギー群2」及び「嗜好性ブチレートで処置したアレルギー群3」は、ブチレート処置を行わなかった「アレルギー群1」と比較して、アレルギー症状の軽減を示したことがわかる。血清をELISA用に処理し、OVA特異的IgE、OVA特異的IgG1、マスト細胞プロテアーゼ-1(MCPT-1)を測定した(それぞれ
図4、5、及び6)。3つのアレルギー群で観察されたOVA特異的IgE及びOVA特異的IgG1のレベルが類似していることから、OVAの経口負荷後のアレルギー反応の減少は、アレルゲンに対するアレルギー感作の減少に起因するものではないことがわかる。
図6は、「酪酸ナトリウムで処置したアレルギー群2」及び「嗜好性ブチレートで処置したアレルギー群3」においてマスト細胞プロテアーゼ-1が減少していることを示しており、ブチレートで処置した群においてマスト細胞の反応が調節されていることが示される。
【0195】
本実施例は、乳タンパク質アレルギーの既往歴のある哺乳類にブチレートを経口投与することで、卵アレルゲンに対するアレルギー反応が軽減されることを示している。
【0196】
上記明細書で言及した全ての刊行物は、本明細書に参照により組み込まれる。開示された本発明の方法、細胞、組成物、及び使用の、本発明の範囲及び趣旨から逸脱することのない様々な修正及び変更が、当業者には明白であろう。本発明は、特定の好ましい実施形態に関連して開示されているが、特許請求される本発明は、このような特定の実施形態に過度に限定されるべきではないことを理解されたい。実際、当業者には自明であり、本発明を実施するために開示された様式の種々の改変は以下の特許請求の範囲の範囲内であることを意図している。