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特許7482902ラインスタート同期リラクタンスモータの回転子の構造、モータ、および圧縮機
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  • 特許-ラインスタート同期リラクタンスモータの回転子の構造、モータ、および圧縮機 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-02
(45)【発行日】2024-05-14
(54)【発明の名称】ラインスタート同期リラクタンスモータの回転子の構造、モータ、および圧縮機
(51)【国際特許分類】
   H02K 19/14 20060101AFI20240507BHJP
   H02K 19/10 20060101ALI20240507BHJP
   H02K 1/26 20060101ALI20240507BHJP
   F04B 39/00 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
H02K19/14
H02K19/10 A
H02K1/26 Z
F04B39/00 106D
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2021567019
(86)(22)【出願日】2019-12-24
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-13
(86)【国際出願番号】 CN2019128073
(87)【国際公開番号】W WO2020253195
(87)【国際公開日】2020-12-24
【審査請求日】2021-11-10
(31)【優先権主張番号】201910533726.4
(32)【優先日】2019-06-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】516164151
【氏名又は名称】珠海格力▲電▼器股▲分▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】GREE ELECTRIC APPLIANCES, INC. OF ZHUHAI
(74)【代理人】
【識別番号】110002262
【氏名又は名称】TRY国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】史 進飛
(72)【発明者】
【氏名】余 欽宏
(72)【発明者】
【氏名】肖 勇
(72)【発明者】
【氏名】陳 彬
(72)【発明者】
【氏名】李 霞
【審査官】谿花 正由輝
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-523759(JP,A)
【文献】特開2018-061404(JP,A)
【文献】特開2005-006416(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0226848(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 19/14
H02K 19/10
H02K 1/26
F04B 39/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラインスタート同期リラクタンスモータの回転子の構造であって、
回転子鉄心(10)を備え、
前記回転子鉄心(10)の外縁付近にはq軸かご形溝が設けられ、前記q軸かご形溝と前記回転子鉄心(10)のシャフト穴(14)との間には複数のスリット溝(20)が設けられ、各前記スリット溝(20)の両端にはいずれも1つのかご形溝(30)が設けられ、
前記かご形溝(30)は前記シャフト穴(14)から前記回転子鉄心(10)の外縁に向かいながらd軸に漸次近づき、前記d軸の一側に位置する前記かご形溝(30)の側壁は、前記d軸に対して第1の夾角をなすように設けられ、前記第1の夾角の角度は、前記回転子鉄心(10)の径方向に沿って外側に向かって漸次に大きくなるように設けられ、
前記かご形溝(30)は複数であり、複数の前記かご形溝(30)は前記回転子鉄心(10)の周方向に沿って離間して設けられ、
複数の前記かご形溝(30)の端部から前記回転子鉄心(10)の外縁までの距離はすべて等しく且つ0より大きい
ことを特徴とするラインスタート同期リラクタンスモータの回転子の構造。
【請求項2】
前記q軸かご形溝は複数であり、隣接する2つの前記q軸かご形溝の間には第1の補強リブ(11)が設けられ、複数の前記q軸かご形溝は導電性の非磁性材料が充填されるように用いられる
ことを特徴とする請求項1に記載のラインスタート同期リラクタンスモータの回転子の構造。
【請求項3】
複数の前記q軸かご形溝は、前記回転子鉄心(10)のq軸に関して対称に設けられる
ことを特徴とする請求項2に記載のラインスタート同期リラクタンスモータの回転子の構造。
【請求項4】
複数の前記q軸かご形溝は、第1のq軸かご形溝(12)と、第2のq軸かご形溝(13)とを含み、
前記第1のq軸かご形溝(12)の第1の端は前記q軸に近接するように設けられ、前記第1のq軸かご形溝(12)の第2の端は前記q軸から離れるとともに前記回転子鉄心(10)のd軸に漸次近づくように設けられ、
前記第2のq軸かご形溝(13)の第1の端は、前記q軸に近接するように設けられ、且つ、前記第2のq軸かご形溝(13)の第1の端と前記第1のq軸かご形溝(12)の第1の端との間において前記第1の補強リブ(11)が形成されるように、前記第1のq軸かご形溝(12)の第1の端から距離を置くように設けられ、前記第2のq軸かご形溝(13)の第2の端は前記q軸から離れるとともに前記回転子鉄心(10)のd軸に漸次近づくように設けられ、
前記q軸は、前記第1の補強リブ(11)の長さ方向の幾何学的中心線を通り、前記第1のq軸かご形溝(12)と前記第2のq軸かご形溝(13)は、前記q軸に関して対称に設けられる
ことを特徴とする請求項3に記載のラインスタート同期リラクタンスモータの回転子の構造。
【請求項5】
前記第1のq軸かご形溝(12)の第2の端の端部と前記回転子鉄心(10)のシャフト穴(14)の中心との連結線と、前記第2のq軸かご形溝(13)の第2の端の端部と前記回転子鉄心(10)のシャフト穴(14)の中心との連結線とは、夾角θをなし、
ここで、θ≧0.25×180/pであり、pはモータの回転子の極対数である
ことを特徴とする請求項4に記載のラインスタート同期リラクタンスモータの回転子の構造。
【請求項6】
前記かご形溝(30)の第1の端は、前記スリット溝(20)に隣接して設けられ、前記かご形溝(30)の第2の端は、前記回転子鉄心(10)の径方向に沿って外側に向かって延びるとともに前記回転子鉄心(10)のd軸に漸次近づくように設けられる
ことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一項に記載のラインスタート同期リラクタンスモータの回転子の構造。
【請求項7】
前記スリット溝(20)内には非導電性の非磁性材料が充填されるか、又は、前記スリット溝(20)内には空気が入っている
ことを特徴とする請求項1ないし6のいずれか一項に記載のラインスタート同期リラクタンスモータの回転子の構造。
【請求項8】
前記q軸かご形溝および前記かご形溝(30)はいずれも内部に導電性の非磁性材料が注入され、
前記導電性の非磁性材料はアルミニウム又はアルミニウム合金である
ことを特徴とする請求項1ないし7のいずれか一項に記載のラインスタート同期リラクタンスモータの回転子の構造。
【請求項9】
前記かご形溝(30)内に充填される材料は、前記回転子鉄心(10)の両端に配置される導電性エンドリングによって短絡され、
前記導電性エンドリングの材質は、前記かご形溝(30)内に充填される材料の材質と同じである
ことを特徴とする請求項1ないし8のいずれか一項に記載のラインスタート同期リラクタンスモータの回転子の構造。
【請求項10】
隣接する2つの前記スリット溝(20)の間において形成される磁束通路の幅は、前記q軸から離れる方向に沿って漸次小さくなるように設けられる
ことを特徴とする請求項1ないし9のいずれか一項に記載のラインスタート同期リラクタンスモータの回転子の構造。
【請求項11】
各前記スリット溝(20)の端部と前記かご形溝(30)との間の距離は、すべて等しい
ことを特徴とする請求項1ないし10のいずれか一項に記載のラインスタート同期リラクタンスモータの回転子の構造。
【請求項12】
各前記スリット溝(20)内にはいずれも第2の補強リブ(40)が設けられ、
前記第1の補強リブ(11)の幅と前記第2の補強リブ(40)の幅とは同じである
ことを特徴とする請求項に記載のラインスタート同期リラクタンスモータの回転子の構造。
【請求項13】
前記第1の補強リブ(11)及び前記第2の補強リブ(40)は、前記q軸上に位置する
ことを特徴とする請求項12に記載のラインスタート同期リラクタンスモータの回転子の構造。
【請求項14】
前記かご形溝(30)の第1の端は、前記スリット溝(20)と連通するように設けられ、
前記かご形溝(30)の第2の端は、前記回転子鉄心(10)の径方向に沿って外側に向かって延びるとともに前記回転子鉄心(10)のd軸に漸次近づくように設けられる
ことを特徴とする請求項13に記載のラインスタート同期リラクタンスモータの回転子の構造。
【請求項15】
d軸の一側に位置する前記かご形溝(30)の側壁は、前記d軸に対して第2の夾角をなすように設けられ、
前記第2の夾角の角度は、前記回転子鉄心(10)の径方向に沿って外側に向かって漸次大きくなるように設けられる
ことを特徴とする請求項14に記載のラインスタート同期リラクタンスモータの回転子の構造。
【請求項16】
ラインスタート同期リラクタンスモータの回転子の構造を備えるモータであって、
前記ラインスタート同期リラクタンスモータの回転子の構造は、請求項1~15のいずれか一項に記載のラインスタート同期リラクタンスモータの回転子の構造である
ことを特徴とするモータ。
【請求項17】
ラインスタート同期リラクタンスモータの回転子の構造を備える圧縮機であって、
前記ラインスタート同期リラクタンスモータの回転子の構造は、請求項1~15のいずれか一項に記載のラインスタート同期リラクタンスモータの回転子の構造である
ことを特徴とする圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、圧縮機設備の技術分野に関し、具体的には、ラインスタート同期リラクタンスモータの回転子の構造、モータ、および圧縮機に関する。本出願は、2019年6月19日に中国国家知的財産局に提出された出願番号が201910533726.4であり、発明の名称が「ラインスタート同期リラクタンスモータの回転子の構造、モータ、および圧縮機」である特許出願の優先権を主張する。
【背景技術】
【0002】
非同期始動の同期リラクタンスモータは、誘導モータおよびリラクタンスモータの構造上の特徴を兼備して、かご形誘導によるモーメントによって始動を実現し、回転子のインダクタンスの差によって発生するリラクタンストルクを利用して定回転数運転を実現し、電源に直接接続して始動運転を実現することができる。非同期始動の同期リラクタンスモータは、非同期始動の永久磁石モータに比べて、希土類の永久磁石材料を用いず、減磁の課題も存在しないため、モータのコストが低く、信頼性が高い。
【0003】
従来技術において、特許公開番号がCN1255925Cである特許により開示された、安価で始動しやすい同期誘導モータと同期誘導モータの製造装置及び製造方法によれば、回転子に、磁束の流れやすい方向であるd軸および磁束の流れにくい方向であるq軸が90度となる2極の磁極突起を形成する少なくとも一対のスリット部と、前記スリット部の外周側に配置された複数のスロット部とが設けられ、スリット部及び前記スロット部の内部に導電性材料が充填される。スリット部は直線状に作製され、スロット部は円周方向に沿って等間隔に放射状に配置される。しかしながら、スロット部が等間隔に放射状に配置されるため、スロット部間の磁束方向が回転子の表面に垂直で径方向に沿って流れて、磁束のd軸方向での流れがスロット部により阻害されてしまう。特に、q軸に近いスロット部ほど、d軸の磁束への阻害が顕著になるとともに、q軸の磁束の流れがよりスムーズになる。その結果、d軸とq軸は磁束量の差が小さくて突極比が大きくなく、モータの出力及び効率が足りない。
【0004】
特許公開番号がCN1726629Aである特許は、生産時間およびコストを減少させるラインスタートリラクタンスモータの回転子を提供したが、CN1255925Cに開示の技術案と同じ問題が存在しており、すなわち、スロット部が磁束のd軸方向での流れを阻害してしまい、回転子の外周におけるアルミキャスト溝(スロット部)の形状及び位置の設置が磁束の流れに影響を与えてしまって、モータの効率の発揮が影響されてしまう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ラインスタート同期リラクタンスモータの回転子の構造、モータ、および圧縮機を提供することによって、従来技術におけるモータの効率が低いという問題を解決することを目指す。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の1つの態様によれば、回転子鉄心を備え、回転子鉄心の外縁付近にq軸かご形溝が設けられ、q軸かご形溝と回転子鉄心のシャフト穴との間に複数のスリット溝が設けられ、各前記スリット溝の両端にはいずれも1つのかご形溝が設けられ、d軸の一側に位置するかご形溝の側壁がd軸に対して第1の夾角をなすように設けられ、第1の夾角の角度が回転子鉄心の径方向に沿って外側に向かって徐々に大きくなるように設けられるラインスタート同期リラクタンスモータの回転子の構造を提供する。
【0007】
さらに、q軸かご形溝は複数であり、隣接する2つのq軸かご形溝の間には第1の補強リブ(11)が設けられ、複数のq軸かご形溝は導電性の非磁性材料が充填されるように用いられる。
【0008】
さらに、複数のq軸かご形溝は、回転子鉄心のq軸に関して対称に設けられる。
【0009】
さらに、複数のq軸かご形溝は、第1のq軸かご形溝および第2のq軸かご形溝を含む。第1のq軸かご形溝の第1の端はq軸に近接するように設けられ、第1のq軸かご形溝の第2の端はq軸から離れるとともに回転子鉄心のd軸に漸次近づくように設けられる。第2のq軸かご形溝の第1の端は、q軸に近接するように設けられ、且つ、第1のq軸かご形溝の第1の端との間で第1の補強リブが形成されるように、第1のq軸かご形溝の第1の端から距離を置くように設けられる。第のq軸かご形溝の第2の端は、q軸から離れるとともに回転子鉄心のd軸に漸次近づくように設けられる。q軸は第1の補強リブの長さ方向の幾何学的中心線を通り、第1のq軸かご形溝と第2のq軸かご形溝とはq軸に関して対称に設けられる。
【0010】
さらに、第1のq軸かご形溝の第2の端の端部と回転子鉄心のシャフト穴の中心との連結線と、第2のq軸かご形溝の第2の端の端部と回転子鉄心のシャフト穴の中心との連結線とは、夾角θをなす。ここで、θ≧0.25×180/pであり、pはモータの回転子の極対数である。
【0011】
さらに、かご形溝の第1の端はスリット溝に隣接して設けられ、かご形溝の第2の端は、回転子鉄心の径方向に沿って外側に向かって延びるとともに回転子鉄心のd軸に漸次近づくように設けられる。
【0012】
さらに、スリット溝内には非導電性の非磁性材料が充填されるか、又はスリット溝内には空気が入っている。
【0013】
さらに、q軸かご形溝およびかご形溝の内部にはいずれも導電性の非磁性材料が注入され、導電性の非磁性材料はアルミニウム又はアルミニウム合金である。
【0014】
さらに、かご形溝内に充填される材料は、回転子鉄心の両端に配置される導電性エンドリングにより短絡され、導電性エンドリングの材質はかご形溝内に充填される材料の材質と同じである。
【0015】
さらに、隣接する2つのスリット溝の間に形成される磁束通路の幅は、q軸から離れる方向に沿って漸次小さくなるように設けられる。
【0016】
さらに、かご形溝は複数であり、複数のかご形溝は、回転子鉄心の周方向に沿って間隔をおいて設けられ、複数のかご形溝の端部から回転子鉄心の外縁までの距離は、すべて等しい。
【0017】
さらに、各スリット溝の端部とかご形溝との間の距離は、すべて等しい。
【0018】
さらに、いずれのスリット溝も内部に第2の補強リブが設けられ、第1の補強リブの幅と第2の補強リブの幅は同じである。
【0019】
さらに、第1の補強リブおよび第2の補強リブはq軸上に位置する。
【0020】
さらに、かご形溝の第1の端はスリット溝と連通するように設けられ、かご形溝の第2の端は、回転子鉄心の径方向に沿って外側に向かって延びるとともに回転子鉄心のd軸に漸次近づくように設けられる。
【0021】
さらに、d軸の一側に位置するかご形溝の側壁は、d軸に対して第2の夾角をなすように設けられ、第2の夾角の角度は、回転子鉄心の径方向に沿って外側に向かって漸次大きくなるように設けられる。
【0022】
本発明のもう1つの態様によれば、ラインスタート同期リラクタンスモータの回転子の構造を備えるモータであって、当該ラインスタート同期リラクタンスモータの回転子の構造が上述したラインスタート同期リラクタンスモータの回転子の構造であるモータを提供する。
【0023】
本発明のもう1つの方面によれば、ラインスタート同期リラクタンスモータの回転子の構造を備える圧縮機であって、当該ラインスタート同期リラクタンスモータの回転子の構造が上述したラインスタート同期リラクタンスモータの回転子の構造である圧縮機を提供する。
【発明の効果】
【0024】
本発明の技術案を適用して、回転子鉄心の1つの磁極のq軸にq軸かご形溝を設けるとともに、d軸の一側に位置するかご形溝の側壁をd軸に対して第1の夾角をなすように設けることによって、導電性の非磁性材料を埋め込むことで誘導トルクを発生させて始動を実現し、且つ同期状態に引き込まれ、回転子鉄心上の磁気障壁の作用によって発生するリラクタンストルクを利用して同期で安定な運転を実現することができる。このように設けることにより、q軸のリラクタンスを増加させ、q軸のインダクタンスを低減させ、d軸とq軸の磁束量の差を増大させて、より大きいリラクタンストルクを発生させることができ、したがってモータの出力及び効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
本発明の一部をなす添付図面は、本発明に対するさらなる理解を与えるために用いられ、本発明の例示的な実施例及びその説明は、本発明を解釈するためのものに過ぎず、本発明に対する不当な限定を構成するものではない。図面は以下の内容を含む。
図1】本発明によるラインスタート同期リラクタンスモータの回転子の構造の第1の実施例を示す構造模式図である。
図2】本発明によるラインスタート同期リラクタンスモータの回転子の構造の第2の実施例を示す構造模式図である。
図3】本発明によるモータと従来技術によるモータとの出力比を示す対比模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
なお、本発明における実施例および実施例における構成は、矛盾しない限り、互いに組み合わせられてもよい。以下、図面を参照しながら実施例に基づいて本発明を詳しく説明する。
【0027】
また、ここで使用される用語は、具体的な実施形態を記述するためのものに過ぎず、本発明の例示的な実施形態を限定することを意図しない。ここで使用されるように、単数形は、文脈上別途明示されていない限り、複数形も含むことを意図する。なお、本明細書で「備える」及び/又は「含む」という用語を使用する場合、構成、ステップ、操作、デバイス、コンポーネント及び/又はそれらの組み合わせが存在することを明示することは理解されるべきである。
【0028】
なお、本発明の明細書、特許請求の範囲および図面における「第1の」、「第2の」等の用語は、類似する対象を区別するためのものであり、必ずしも特定の順序又は前後の順序を記述するためのものではない。このように使用される用語は、ここで記述される本発明の実施形態が例えばここで図示又は記述されていない順序でも実施可能にするように、適宜入れ替えられてもよい。なお、「含む」と「有する」という用語及びそれらの任意の変形は、非排他的に含むことをカバーするように用いられる。例えば、一連のステップ又はユニットを含むプロセス、方法、システム、製品又は機器は、必ずしも明記されているステップ又はユニットに限らず、明記されていないか又はそれらのプロセス、方法、製品又は機器に固有の他のステップ又はユニットを含んでもよい。
【0029】
記述の便宜上、ここでは、空間に関する相対的な用語を使用することができる。例えば、「……の上」、「……の上方」、「……の上面」、「上の」等は、図面に示されている1つのデバイス又は構成と他のデバイス又は構成との空間的な位置関係を記述するためのものである。なお、空間に関する相対的な用語は、図面に示されている方位以外に、使用中又は操作中にデバイスがなされる他の方位も含むことを意図する。例えば、図面によるデバイスがひっくり返された場合、「他のデバイス又は構造の上方」又は「他のデバイス又は構造の上」と記述されたデバイスは、「他のデバイス又は構造の下方」又は「他のデバイス又は構造の下」と位置決められるようになる。つまり、「……の上方」という例示的な用語は、「……の上方」と「……の下方」との2種類の方位を含んでもよい。このデバイスは別の方式で位置決められる(90度回転するか、又は他の方位にある)場合もあり、その場合に応じて、ここで使用される空間に関する相対的な記述を適宜解釈してもよい。
【0030】
これからは図面を参照しながら本発明に係る例示的な実施形態をより詳細に記述する。ただし、これらの例示的な実施形態は、複数の異なる形式で実施されてもよく、また、ここで記述された実施形態に限られるように解釈されてはならない。これらの実施形態は、本発明の開示を徹底的且つ完全なものにするとともに、これらの例示的な実施形態の思想を当業者に十分に伝えるために提供されるものである。図面において、明瞭にするために層および領域の厚さを拡大する可能性があり、また、同じ符号により同じデバイスを示すので、それらに対する記述を省略する。
【0031】
図1乃至図3に示すように、本発明による実施例は、ラインスタート同期リラクタンスモータの回転子の構造を提供する。
【0032】
図1に示すように、この回転子の構造は回転子鉄心10を備える。回転子鉄心10の外縁付近にはq軸かご形溝が設けられており、q軸かご形溝と回転子鉄心10のシャフト穴14との間には複数のスリット溝20が設けられている。各スリット溝20の両端にはいずれも1つのかご形溝30が設けられている。d軸の一側に位置するかご形溝30の側壁は、d軸に対して第1の夾角をなすように設けられ、第1の夾角の角度は、回転子鉄心10の径方向に沿って外側に向かって漸次大きくなるように設けられる。
【0033】
本実施例においては、回転子鉄心の1つの磁極におけるq軸に複数のq軸かご形溝を設けるとともに、d軸の一側に位置するかご形溝の側壁をd軸に対して第1の夾角をなすように設けることによって、導電性の非磁性材料を埋め込むことで誘導トルクを発生させて始動を実現し、且つ同期状態に引き込まれ、回転子鉄心上の磁気障壁の作用によって発生するリラクタンストルクを利用して同期で安定な運転を実現することができる。このように設けることにより、q軸のリラクタンスを増加させ、q軸のインダクタンスを低減させ、d軸とq軸の磁束量の差を増大させて、より大きいリラクタンストルクを発生させることができ、したがってモータの出力及び効率を向上させることができる。
【0034】
ここで、q軸かご形溝は複数であり、隣接する2つのq軸かご形溝の間には第1の補強リブ(11)が設けられており、複数のq軸かご形溝は、導電性の非磁性材料が充填されるように用いられる。複数のq軸かご形溝は、回転子鉄心10のq軸に関して対称に設けられる。このように設けることにより、回転子の構造の安定性及び信頼性をより一層向上させることができる。また、このように設けることにより、導電性の非磁性材料を埋め込むことで誘導トルクを発生させて始動を実現し、且つ同期状態に引き込まれ、回転子鉄心上の磁気障壁の作用によって発生するリラクタンストルクを利用して同期で安定な運転を実現することができる。
【0035】
好ましくは、図1に示すように、複数のq軸かご形溝は、第1のq軸かご形溝12と第2のq軸かご形溝13を含む。第1のq軸かご形溝12の第1の端はq軸に近接するように設けられる。第1のq軸かご形溝12の第2の端は、q軸から離れるとともに回転子鉄心10のd軸に漸次近づくように設けられる。第2のq軸かご形溝13の第1の端は、q軸に近接するように設けられ、且つ、第2のq軸かご形溝13の第1の端と第1のq軸かご形溝12の第1の端との間で第1の補強リブ11が形成されるように、第1のq軸かご形溝12の第1の端から距離を置くように設けられる。第のq軸かご形溝13の第2の端は、q軸から離れるとともに回転子鉄心10のd軸に漸次近づくように設けられる。q軸は、第1の補強リブ11の長さ方向の幾何学的中心線を通り、第1のq軸かご形溝12と第2のq軸かご形溝13は、q軸に関して対称に設けられる。このように設けることにより、この回転子の構造の性能を効果的に向上させることができる。
【0036】
ここで、第1のq軸かご形溝12の第2の端の端部と回転子鉄心10のシャフト穴14の中心との連結線と、第2のq軸かご形溝13の第2の端の端部と回転子鉄心10のシャフト穴14の中心との連結線とは、夾角θをなす。ここで、θ≧0.25×180/pであり、pはモータの回転子の極対数である。q軸かご形溝と回転子鉄心10のシャフト穴14との間には複数のスリット溝20が設けられ、各スリット溝20の両端にはいずれも1つのかご形溝30が設けられている。かご形溝30の第1の端はスリット溝20に隣接して設けられ、すなわち、かご形溝30の第1の端は、スリット溝20との間で補強リブ構造が形成されるように、スリット溝20から距離を置くように設けられる。かご形溝30の第2の端は、回転子鉄心10の径方向に沿って外側に向かって延びるとともに回転子鉄心10のd軸に漸次近づくように設けられる。このように設けることにより、この回転子の構造を備えたモータの効率を効果的に向上させることができる。
【0037】
さらに、d軸の一側に位置するかご形溝30の側壁は、d軸に対して第1の夾角をなすように設けられ、第1の夾角の角度は、回転子鉄心10の径方向に沿って外側に向かって漸次大きくなるように設けられる。図1に示すように、この回転子鉄心の極数は2極であり、2極の磁極はd軸に関して対称に設けられる。各磁極における、d軸の一側に位置するかご形溝30の側壁をd軸に対して第1の夾角をなすように設けることにより、この回転子の構造の性能を向上させることができる。図1に示すように、スリット溝20は4つあり、4つのスリット溝20はそれぞれ、その両端にあるかご形溝30と1つの磁気障壁層を構成する。4層の磁気障壁層におけるかご形溝は、径方向に沿って外側に向かってd軸となす角度が順次にθ1、θ2、θ3、θ4となり、ここで、θ1<θ2<θ3<θ4である。
【0038】
ここで、スリット溝20の中に非導電性の非磁性材料を充填することができる。又は、スリット溝20の中には空気が入ってもよく、すなわちスリット溝が空気溝となる。
【0039】
さらに、q軸かご形溝およびかご形溝30の内部にはいずれも導電性の非磁性材を注入し、導電性の非磁性材はアルミニウム又はアルミニウム合金である。このように設けることにより、回転子の構造の性能を効果的に向上させることができる。ここで、かご形溝30内に充填される材料は、回転子鉄心10の両端に配置される導電性エンドリングによって短絡され、導電性エンドリングの材質は、かご形溝30内に充填される材料の材質と同じである。
【0040】
隣接する2つのスリット溝20の間において形成される磁束通路の幅は、q軸から離れる方向に沿って漸次小さくなるように設けられる。すなわち、図1に示すように、q軸の両側に位置する磁束通路の幅は、q軸の中部に近接する磁束通路の幅より小さい。
【0041】
かご形溝30は複数であり、複数のかご形溝30は、回転子鉄心10の周方向に沿って離間して設けられる。複数のかご形溝30の端部から回転子鉄心10の外縁までの距離は、すべて等しい。各スリット溝20の端部とかご形溝30との間の距離は、すべて等しい。このように設けることにより、回転子の構造の安定性を向上させることができる。
【0042】
図2に示すように、本発明のもう1つの実施例によれば、各スリット溝20内にはいずれも第2の補強リブ40が設けられ、第1の補強リブ11の幅と第2の補強リブ40の幅とは同じである。このように設けることにより、回転子の構造の強度を向上させることができる。なお、第1の補強リブ11および第2の補強リブ40はq軸上に位置する。
【0043】
かご形溝30の第1の端は、スリット溝20と連通するように設けられ、かご形溝30の第2の端は、回転子鉄心10の径方向に沿って外側に向かって延びるとともに回転子鉄心10のd軸に漸次近づくように設けられる。このように設けることにより、同様にこの回転子の構造の安定性及び信頼性を向上させることができる。
【0044】
d軸の一側に位置するかご形溝30の側壁は、d軸に対して第2の夾角をなすように設けられ、第2の夾角の角度は、回転子鉄心10の径方向に沿って外側に向かって漸次大きくなるように設けられる。図2に示すように、この第2の夾角の設置方式は、上述した第1の夾角の設定設置と同じであってもよい。
【0045】
以上の実施例に係るラインスタート同期リラクタンスモータの回転子の構造は、モータ設備の技術分野において適用されることもできる。つまり、本発明のもう1つの態様はモータを更に提供する。当該モータは、ラインスタート同期リラクタンスモータの回転子の構造を備えており、当該ラインスタート同期リラクタンスモータの回転子の構造は上述の実施例に係るラインスタート同期リラクタンスモータの回転子の構造である。
【0046】
以上の実施例に係るラインスタート同期リラクタンスモータの回転子の構造は、さらに、電気自動車設備の技術分野において適用されることもできる。つまり、本発明のもう1つの態様は圧縮機を提供する。当該圧縮機は、ラインスタート同期リラクタンスモータの回転子の構造を備えており、当該ラインスタート同期リラクタンスモータの回転子の構造は、上述したラインスタート同期リラクタンスモータの回転子の構造である。
【0047】
具体的に、モータに当該構造を有する回転子の構造を適用することによって、非同期モータの効率が悪く、回転速度が低いという問題を解決し、効率的な定回転数運転を実現し、モータの出力パワー及び効率を向上させることができる。本発明は、モータの回転子の機械的強度を高めてモータの信頼性を向上させることができるラインスタート同期リラクタンスモータの回転子の構造を提供する。
【0048】
図1に示すように、回転子鉄心は、特定の構造を有する回転子打ち抜き板が積層圧着されて形成されるものである。回転子打ち抜き板には、複数セットのスリット溝とかご形溝との組、および回転シャフトに合致するシャフト穴が設けられている。回転子打ち抜き板の外周のq軸方向にはq軸かご形溝が設けられ、q軸かご形溝は回転子の縁部の一部となる。q軸かご形溝は、q軸方向のリラクタンスを効果的に増加させ、q軸の磁束およびq軸のインダクタンスを低減させる。各セットの磁気障壁層の間にはq軸に平行な方向において補強リブが設けられて、回転子の機械的強度を高める。
【0049】
q軸かご形溝の外周の幅が占める角度はθであり、前記角度θは、θ≧0.25×180/pを満たし、pはモータの回転子の極対数である。適切な角度範囲を選択することにより、q軸方向のリラクタンスを増加させ、q軸の磁束およびq軸のインダクタンスを低減させるとともに、モータの始動能力を確保することができる。
【0050】
かご形溝は、回転子の内部から回転子の外部に向かいながらd軸方向に傾斜し、かご形溝の間の磁束通路は、d軸方向へ傾斜する。かご形溝とd軸とがなす角度はそれぞれ、θ1、θ2、θ3、θ4である。かご形溝は、d軸に近づくほど、d軸に対する夾角が小さくなり、すなわちθ1<θ2<θ3<θ4である。これにより、磁束をd軸方向へ集中させ、d軸の磁束を増加させ、モータのd軸とq軸の磁束量の差を拡大させ、モータのリラクタンストルクを向上増加させる。かご形溝とスリット溝は互いに分割されて独立しており、スリット溝又はかご形溝とスリット溝との組み合わせは磁束の流れを阻害する磁気障壁層を形成して、磁束のd軸の軸方向における流れを阻害する。d軸とq軸のリラクタンス差を増大させるために、スリット溝には、空気又は非導電性の非磁性の材料が埋め込まれる。
【0051】
ここで、かご形溝およびq軸かご形溝にはいずれも導電性の非磁性の材料が注入され、好ましく、導電性の非磁性の材料はアルミニウム又はアルミニウム合金である。モータの通電時に、かご形溝は、非同期トルクを発生させてモータの始動に協力する。かご形溝は対応するスリット溝と組み合わせて磁気障壁層を構成し、磁気障壁層は、回転子の径方向において少なくとも2層以上配置され、対となる極を形成して、磁束がd軸に近づくようにして、モータの出力を向上させる。図3に示すように、本発明は従来技術に比べて、平均出力が大きく且つトルク脈動が小さい。
【0052】
すべてのかご形溝は、回転子の両端にある導電性エンドリングによって短絡され、エンドリング材料は、かご形溝充填材料と一致し、閉回路を形成し、通電時に非同期トルクを発生させてモータの始動をサポートし、モータが同期で運転している間には損失が発生しない。回転子におけるすべてのかご形溝から回転子の外縁までの距離は等しく、すべてのかご形溝から対応する層におけるスリット溝までの距離は等しい。隣接する2つのスリット溝の間において形成される通路は、q軸の軸方向から離れるにつれて、その通路幅が漸次に縮小し、すなわちd1>d2>d3である。回転子のスリット溝の円弧曲率は、回転子鉄心の回転シャフトに近い箇所から回転子の外縁に向かって順次に小さくなって、回転子の空間を合理的に利用し、磁束の分布をより合理的にする。回転子のかご形溝とスリット溝は、いずれもd軸とq軸に関して対称するため、回転子の加工が容易になる。無論、図2に示すように、スリット溝とかご形溝との間には補強リブが設けられなくてもよく、各層のスリット溝の間においては、q軸に関して対称するように、q軸かご形溝と同じ幅を有する補強リブが設けられてもよい。
【0053】
上述の構造を有する回転子の構造を採用することにより、非同期モータの効率が低く、回転速度が低いという問題を解決し、従来技術に存在する課題を克服し、モータの効率的な定回転数運転を実現し、従来技術におけるアルミキャスト溝(スロット部)による回転子のd軸の磁束への阻害を低減させ、d軸とq軸の磁束量の差を拡大させ、モータの出力パワー及び効率を向上させる。本発明の技術案を採用することにより、アルミキャスト溝(スロット部)と磁気障壁(スリット部)の合理的な配置を実現して、モータが優れた始動性能を持つ。アルミキャスト溝と磁気障壁との組み合わせ設計によって、アルミキャスト溝は誘導トルクを発生させて始動を実現し、且つ同期状態に引き込まれ、磁気障壁の作用によって発生するリラクタンストルクを利用して同期で安定な運転を実現する。合理的な磁気障壁占有率を設定しつつ、磁気障壁間の磁束通路が過飽和になって磁束の流れを阻害しないようにすることを確保し、回転子の空間を効果的に利用して、d軸とq軸の磁束量の差をできる限り拡大させる。q軸におけるq軸かご形溝を長い弧状に設計することによって、q軸のリラクタンスを更に増加させ、q軸のインダクタンスを低減させ、d軸とq軸の磁束量の差を増大させ、より大きいリラクタンストルクを発生させて、モータの出力及び効率を向上させる。
【0054】
上述したこと以外に、本明細書で述べられた「1つの実施例」、「もう1つの実施例」、「実施例」等は、当該実施例に記載の具体的な構成、構造又は特徴が本発明で概括的に記述される少なくとも1つの実施例に含まれることを意味する。明細書において複数の箇所で同じ表現が使用されているが、これは、必ずしも同一の実施例を指すものではない。さらに、1つの具体的な構成、構造又は特徴がいずれかの実施例において記述される場合、このような構成、構造又は特徴が他の実施例において実現されることも本発明の範囲に属することを主張する。
【0055】
上述の実施例においては、各実施例の記述にはそれぞれの重点が置かれており、1つの実施例に詳述されていない部分については、他の実施例での関連記述を参照してよい。
【0056】
以上に記載したものは、本発明の好ましい実施例に過ぎず、本発明を限定するものではなく、当業者にとって、本発明は様々な変更および変化が可能である。本発明の精神および原則の内であれば、なされる任意の修正、均等置換、改良などは、いずれも本発明の保護範囲に属するべきである。
【符号の説明】
【0057】
10 回転子鉄心
11 第1の補強リブ
12 第1のq軸かご形溝
13 第2のq軸かご形溝
14 シャフト穴
20 スリット溝
30 かご形溝
40 第2の補強リブ
図1
図2
図3