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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-02
(45)【発行日】2024-05-14
(54)【発明の名称】スパークプラグ
(51)【国際特許分類】
   H01T 13/02 20060101AFI20240507BHJP
【FI】
H01T13/02
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2022002471
(22)【出願日】2022-01-11
(65)【公開番号】P2023102107
(43)【公開日】2023-07-24
【審査請求日】2022-12-23
【審判番号】
【審判請求日】2023-08-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】弁理士法人真明センチュリー
(72)【発明者】
【氏名】田中 一輝
(72)【発明者】
【氏名】小池 一輝
(72)【発明者】
【氏名】中川 智貴
(72)【発明者】
【氏名】酒井 隆生
【合議体】
【審判長】中屋 裕一郎
【審判官】小川 恭司
【審判官】吉田 昌弘
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-144448(JP,A)
【文献】特開2000-215963(JP,A)
【文献】特開2017-183163(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01T 13/02
H01T 13/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線に沿って先端から後端まで突き抜けた軸孔を有する絶縁体と、
前記軸孔の先端側に配置された中心電極と、
前記絶縁体の前記後端に配置された頭部と、前記頭部の先端に隣接し前記軸孔内に配置され前記頭部より細い軸部と、を有する端子金具と、
前記軸孔の中で前記中心電極と前記端子金具とを電気的に接続し少なくとも前記軸部の先端が接する接続部と、を備えるスパークプラグであって、
前記端子金具は、Feを97wt%以上、Cを0.20-0.28wt%含み、Crを0.03wt%以上0.22wt%以下含み、
前記軸部の前記軸線に沿う長さは60mm以下であるスパークプラグ。
【請求項2】
前記長さは20mm以上である請求項1記載のスパークプラグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は絶縁体に端子金具が配置されたスパークプラグに関する。
【背景技術】
【0002】
先端から後端まで突き抜けた軸孔を有する絶縁体と、軸孔の先端側に配置された中心電極と、軸孔の後端側に配置された端子金具と、軸孔の中で中心電極と端子金具とを電気的に接続する接続部と、を備えるスパークプラグは知られている(特許文献1)。特許文献1に開示された先行技術では、端子金具は、絶縁体の後端に配置された頭部と、頭部の先端に隣接し軸孔内に配置された軸部と、を備え、軸部は接続部に接している。端子金具の材料はC(炭素)の含有量が0.3wt%以下の低炭素鋼である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平10-144448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
炭素鋼はCの量が少なくなるにつれて延性は大きくなるが、降伏強さ(耐力)と引張強さは低下する。従って先行技術は、端子金具に含まれるCの量が少ない場合に、端子金具の軸部に加わる軸線方向の圧縮力が大きくなると、軸部に曲げ座屈が発生するおそれがある。
【0005】
本発明はこの問題点を解決するためになされたものであり、軸部の曲げ座屈の発生を低減できるスパークプラグを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために本発明のスパークプラグは、軸線に沿って先端から後端まで突き抜けた軸孔を有する絶縁体と、軸孔の先端側に配置された中心電極と、軸孔の後端側に配置された端子金具と、軸孔の中で中心電極と端子金具とを電気的に接続する接続部と、を備える。端子金具は、絶縁体の後端に配置された頭部と、頭部の先端に隣接し軸孔内に配置される軸部と、を備え、軸部は頭部より細く、少なくとも軸部の先端が接続部に接する。端子金具は、Feを97wt%以上、Cを0.20-0.28wt%含み、軸部の軸線に沿う長さは60mm以下である。
【発明の効果】
【0007】
第1の態様によれば、端子金具はFeを97wt%以上、Cを0.20-0.28wt%含み、軸部の軸線に沿う長さは60mm以下である。圧縮力が加わる軸部の曲げ座屈の発生を低減できる。
【0008】
第2の態様によれば、第1の態様において、軸部の軸線に沿う長さは20mm以上である。軸部は短くなるにつれて座屈荷重が大きくなり曲げ変形し難くなるが、軸部の長さが20mm以上だから軸部の曲げ変形を確保できる。
【0009】
第3の態様によれば、第1又は第2の態様において、端子金具はCrを0.22wt%以下含む。端子金具の材料の加工性を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】一実施の形態におけるスパークプラグの片側断面図である。
図2】試験片の長さと試験片が降伏したときの荷重との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好ましい実施形態について添付図面を参照して説明する。図1は第1実施の形態におけるスパークプラグ10の軸線Oを境にした片側断面図である。図1では、紙面下側をスパークプラグ10の先端側、紙面上側をスパークプラグ10の後端側という。図1に示すようにスパークプラグ10は、絶縁体11、中心電極15及び端子金具20を備えている。
【0012】
絶縁体11は、機械的特性や高温下の絶縁性に優れるアルミナ等のセラミックスにより形成された略円筒状の部材である。絶縁体11は、絶縁体11の先端12から後端13まで突き抜けた軸孔14が、軸線Oに沿って設けられている。絶縁体11の軸孔14の先端12側に中心電極15が配置されている。中心電極15は、絶縁体11の先端12から突き出ている。
【0013】
中心電極15は、導電性を有する棒状の金属製の部材である。中心電極15は、例えばNiを主成分とする有底円筒状の母材が、銅を主成分とする芯材を覆っている。芯材を省略することは可能である。中心電極15は、導電性を有する第1の接続部16によって絶縁体11の軸孔14に固定されている。
【0014】
第1の接続部16は非晶質材料、及び、導電性粉末を含む。非晶質材料は例えばB-SiO系、BaO-B系、SiO-B-CaO-BaO系などが採用され得る。導電性粉末は例えば炭素粒子(カーボンブラック等)、TiC粒子、TiN粒子などの非金属導電性材料や、Al,Mg,Ti,Zr,Cu及びZn等の金属が採用され得る。
【0015】
抵抗体17は導電性を有し、第1の接続部16に接している。抵抗体17は、非晶質材料、セラミック粉末、及び、導電性粉末を含む。非晶質材料は例えばB-SiO系、BaO-B系、SiO-B-CaO-BaO系などが採用され得る。セラミック粉末は例えばTiO,ZrO等が採用され得る。導電性粉末は例えば炭素粒子(カーボンブラック等)、TiC粒子、TiN粒子などの非金属導電性材料や、Al,Mg,Ti,Zr及びZn等の金属が採用され得る。
【0016】
第2の接続部18は導電性を有し、抵抗体17に接している。第2の接続部18は、非晶質材料、及び、導電性粉末を含む。非晶質材料は例えばB-SiO系、BaO-B系、SiO-B-CaO-BaO系などが採用され得る。導電性粉末は例えば炭素粒子(カーボンブラック等)、TiC粒子、TiN粒子などの非金属導電性材料や、Al,Mg,Ti,Zr,Cu及びZn等の金属が採用され得る。
【0017】
端子金具20は、絶縁体11の後端13に配置された頭部21と、頭部21の先端22に隣接し軸孔14内に配置された軸部23と、を備えている。頭部21は、高圧ケーブル(図示せず)が接続される部位である。軸部23は断面が円形の棒状である。軸部23の先端24側の部分の直径は軸孔14の内径よりも小さいので、軸部23の先端24付近と軸孔14との間には隙間がある。端子金具20は、少なくとも一部にNiやZn等を含むめっきが施されていても良い。本実施形態では、頭部21の後端の中央が凹んでいる。
【0018】
軸部23は頭部21よりも細く、軸部23の軸線Oに沿う長さLは20mm以上60mm以下である。軸部23の先端24は、少なくとも第2の接続部18に接している。軸部23は第2の接続部18によって絶縁体11の軸孔14に固定されている。本実施形態では、軸部23の先端24が第2の接続部18に埋まっているから、軸部23の先端24と軸部23の先端24付近の外周とが第2の接続部18に接しており、軸部23と第2の接続部18との間の界面の面積が大きくなり、接合強度が大きくなる。端子金具20は、接続部16,18及び抵抗体17を介して中心電極15に電気的に接続されている。
【0019】
主体金具25は、導電性を有する金属材料(例えば低炭素鋼等)によって形成された略円筒状の部材である。主体金具25は絶縁体11の外周に配置されている。主体金具25に接地電極26が接続されている。接地電極26は導電性を有する金属製の部材である。接地電極26と中心電極15との間に火花ギャップが設けられる。
【0020】
スパークプラグ10は、例えば以下の方法により製造される。まず絶縁体11の軸孔14の外に中心電極15の先端が位置するように、軸孔14に中心電極15を配置する。次に第1の接続部16の原料粉末を軸孔14に入れて、中心電極15の後端部の周りに充填する。第1の接続部16の原料粉末はガラス粉末および導電性粉末を含む。第1の接続部16の原料粉末の充填後、圧縮用棒材(図示せず)を用いて軸孔14内の原料粉末を予備圧縮する。
【0021】
次いで抵抗体17の原料粉末を軸孔14に入れて、第1の接続部16の原料粉末の上に充填する。抵抗体17の原料粉末はガラス粉末、ガラス以外のセラミック粉末、及び、導電性粉末を含む。抵抗体17の原料粉末の充填後、圧縮用棒材(図示せず)を用いて軸孔14内の原料粉末を予備圧縮する。次に第2の接続部18の原料粉末を軸孔14に入れて、抵抗体17の原料粉末の上に充填する。第2の接続部18の原料粉末はガラス粉末および導電性粉末を含む。第2の接続部18の原料粉末の充填後、圧縮用棒材を用いて軸孔14内の原料粉末を予備圧縮する。
【0022】
溶着工程では、絶縁体11を加熱炉(図示せず)の中に入れ、例えば軸孔14内の各原料粉末に含まれるガラス粉末のガラス転移点より高い温度(800~1000℃)まで絶縁体11を加熱する。絶縁体11の後端13から軸孔14の中へ端子金具20の軸部23を挿入し、加熱によって軸孔14内で軟化した各原料粉末を軸線方向へ圧縮する。このときに端子金具20の軸部23には軸線方向の圧縮力が加わる。軸孔14内の各原料粉末を熱間で圧縮することにより、接続部16,18及び抵抗体17が形成される。
【0023】
加熱炉(図示せず)から取り出した絶縁体11が冷えると、軸孔14の中で非晶質材料が固化し、接続部16,18は抵抗体17を固定し、接続部16は中心電極15を絶縁体11の軸孔14に固定し、接続部18は端子金具20の軸部23を絶縁体11の軸孔14に固定する。絶縁体11に端子金具20を固定した後、接地電極26が接続された主体金具25を絶縁体11に組み付け、接地電極26を曲げ加工し、スパークプラグ10を得る。
【0024】
端子金具20の材料は、Cを0.20-0.28wt%含む低炭素鋼である。端子金具20の材料とは、端子金具20にめっきが施されている場合は、めっきを除く部分の材料である。本実施形態では、同一の材料によって頭部21及び軸部23が一体に成形されている。
【0025】
端子金具20の材料にはFe,Cの他、例えばSi,Mn,P,S,Cr,Cu,Ni,Mo,Al,Nb,Ti,V,Nから選ばれる少なくとも1種が含まれていても良い。端子金具20の成分分析はJIS G0321:2017に基づく。端子金具20の材料は、これらの元素の残部がFeであり、Feを97wt%以上含む。Cは端子金具20の耐力および引張強さを向上させる。Cが多すぎると延性が低下するので、Cの含有量は0.20-0.28wt%である。
【0026】
Siは脱酸剤として働く一方、フェライトに固溶して端子金具20の強さを上げる。Siの含有量は0.5wt%以下が好ましい。0.5wt%以下というのは下限値が定められておらず、0wt%を含む。0wt%はJIS G0321:2017に基づく分析の検出限界以下であることをいう。このことは下限値が定められていない他の元素においても同様である。
【0027】
Mnは脱酸剤として働く一方、パーライトを緻密にするので端子金具20の強さ及び硬さを上げる。Mnの含有量は0.3-1.65wt%が好ましい。PやSは偏析し易く端子金具20の靭性を低下させる。PやSの含有量はそれぞれ0.04wt%以下が好ましい。Crは端子金具20の耐酸化性や耐食性を向上させる。Crが多すぎると材料の加工性が低下するので、Crの含有量は0.22wt%以下が好ましい。
【0028】
Cu,Ni,Moは端子金具20の強度を増すのに有効である。Alは脱酸剤として働く一方、結晶粒を微細化し端子金具20の靭性を上げる。Nb,Ti,Vは結晶粒を微細化し端子金具20の靭性を上げる。NはNb,Ti,Vと窒化物を生成し、結晶粒を微細化し端子金具20の靭性を上げる。なお、Cu,Ni,Mo,Nb,Ti,Vの添加は端子金具20の品質が過剰になるおそれがあるので、Cu,Ni,Mo,Nb,Ti,Vの含有量の合計は0.5wt%以下が好ましい。
【0029】
溶着工程では、端子金具20の軸部23を使って絶縁体11の軸孔14内の原料粉末を軸線方向へ圧縮するときに、軸部23は軸線方向の圧縮荷重を受け、弾性変形する。圧縮荷重がある臨界値以上になると、軸部23は一様圧縮の弾性変形が不安定になり、曲げ変形が安定になる。軸孔14内の原料粉末のかさや充填密度にはばらつきがあるが、軸部23の曲げ変形(弾性変形)によって、軸孔14内の原料粉末のばらつきに関わらず、端子金具20の頭部21の先端22が絶縁体11の後端13に当たるまで、絶縁体11が破損することなく、端子金具20を軸孔14に押し込むことができる。これにより端子金具20の頭部21の絶縁体11からの突出し長さのばらつきを低減できる。
【0030】
これに対し軸部23の引張強さが小さいと、軸部23の曲げ変形によって座屈荷重を超え、軸部23に曲げ座屈が発生し、軸孔14内の原料粉末の圧縮不足が生じ、不完全な接続部16,18や抵抗体17が作られるおそれがある。一方、軸部23の引張強さが大きいと、軸部23の曲げ変形が小さいため、軸孔14内の原料粉末のかさや充填密度が大きい場合に、端子金具20の頭部21の先端22が絶縁体11の後端13に当たるまで端子金具20を軸孔14に押し込めずに頭部21の突出しが長くなったり、端子金具20と中心電極15との間で圧縮された原料粉末の圧力によって絶縁体11が破損したりする。また、軸部23は、軸線Oに沿う長さLが長くなるにつれて座屈荷重が小さくなり曲げ座屈が発生し易くなる。
【0031】
これらを防ぐため、端子金具20はFeを97wt%以上、Cを0.20-0.28wt%含み、軸部23の軸線Oに沿う長さLは60mm以下(ただし0mmは含まない)である。これによりNi,Mo,Nb,Ti,V等を含む合金鋼で端子金具20を作らなくても端子金具20の耐力、引張強さ及び座屈荷重を確保できるので、端子金具20の材料の原価を低減できる。また、溶着工程において端子金具20と中心電極15との間で原料粉末を圧縮するときに、軸部23に加わる圧縮力による軸部23の曲げ座屈を低減できるので、原料粉末が十分に圧縮された接続部16,18や抵抗体17が得られる。
【0032】
さらに、軸部23の長さLが20mm以上であると、溶着工程において端子金具20と中心電極15との間で原料粉末を圧縮するときに、軸部23に加わる圧縮力による軸部23の弾性変形を確保できる。よって端子金具20の頭部21の絶縁体11からの突出し長さのばらつきや、圧縮された原料粉末の圧力による絶縁体11の破損を低減できる。
【実施例
【0033】
本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0034】
試験者は、化学組成が異なる材料(低炭素鋼)を用いて種々の試験片を作成し、材料の加工性を評価すると共に試験片の熱間曲げ強度を測定した。材料はCを0.07-0.30wt%、Crを0.03-0.25wt%、Siを0.1-0.35wt%、Mnを0.30-0.60wt%、Pを0.03wt%未満、Sを0.035wt%未満含み、残部がFeであった。
【0035】
(加工性)
試験者は、C及びCrの含有量が異なる直径6mm、長さ10mmの円柱をなす種々の材料各50個を、鍛造時間が異なるプレス加工(冷間鍛造)によって、直径3mmの円柱の試験片に成形し、試験片の外周を目視観察した。加工性は、鍛造時間が2.5秒のときに50個全ての試験片にキズが付かなかった材料をA、鍛造時間が3.0秒のときに50個全ての試験片にキズが付かなかった材料をB、鍛造時間が3.0秒のときも試験片にキズが付いた材料をCと評価した。材料のC及びCrの含有量と評価との関係を表1に示した。
【0036】
【表1】
表1に示すとおり、Cを0.07-0.28wt%含み、Crを0.03-0.20wt%含む材料は、加工性の評価がAであった。
【0037】
(熱間曲げ試験1)
曲げ試験(3点曲げ試験)は、試験片が、C及びCrの含有量が異なる種々の材料で作った直径3mmの丸棒、支点間距離が70mm、雰囲気温度が900℃、圧子が試験片を押し曲げる試験速度が5mm/秒であった。試験者は、試験片が降伏したときの強度(熱間曲げ強度)を試験片3本について測定した。強度の測定値の平均が0.5kN以上をA、0.4kN以上0.5kN未満をB、0.4kN未満をCと評価した。材料のC及びCrの含有量と評価との関係を表2に示した。
【0038】
【表2】
表2に示すとおり、Cを0.20-0.30wt%含み、Crを0.03-0.25wt%含む材料は、熱間曲げ強度の評価がAであった。加工性および熱間曲げ強度の評価を総合すると、Cを0.20-0.28wt%含み、Crを0.03-0.20wt%含む材料は、加工性および熱間曲げ強度の評価がAであった。
【0039】
(熱間曲げ試験2)
試験者は、実施例1,2、比較例1,2における各材料を用いて、直径が3mmの丸棒からなる種々の試験片を作成した。試験者は、支点間距離を20mm、30mm、40mm、50mm、60mmに設定した以外は、熱間曲げ試験1と同様に、試験片が降伏したときの荷重を試験片3本について測定した。図2は、試験片の長さ(すなわち支点間距離)と荷重(n=3の平均値)との関係を、試験片の材料ごとにプロットした図である。
【0040】
図2において、実施例1における材料は、Cを0.22wt%、Crを0.03wt%、Siを0.19wt%、Mnを0.40wt%、Pを0.007wt%、Sを0.01wt%、Cuを0.01wt%、Niを0.01wt%含み、残部がFeであった。実施例2における材料は、Cを0.28wt%、Crを0.25wt%、Siを0.20wt%、Mnを0.38wt%、Pを0.007wt%、Sを0.01wt%、Cuを0.01wt%、Niを0.01wt%含み、残部がFeであった。
【0041】
図2において、比較例1における材料は、Cを0.07wt%、Crを0.25wt%、Siを0.10wt%、Mnを0.60wt%、Pを0.007wt%、Sを0.01wt%、Cuを0.01wt%、Niを0.01wt%含み、残部がFeであった。比較例2における材料は、Cを0.36wt%、Crを1.09wt%、Siを0.24wt%、Mnを0.77wt%、Pを0.013wt%、Sを0.01wt%、Cuを0.01wt%、Niを0.02wt%含み、残部がFeであった。
【0042】
熱間曲げ試験2における試験片の長さ(支点間距離)は、スパークプラグ10における端子金具20の軸部23の長さLに相当する。経験則により、試験片の曲げ荷重が0.5kN以上であると、スパークプラグ10の溶着工程において端子金具20を使って絶縁体11の軸孔14内の原料粉末を軸線方向へ圧縮するときに、軸部23に曲げ座屈が生じないことが分かっている。また、試験片の曲げ荷重が0.9kN以下であると、スパークプラグ10の溶着工程において圧縮力が加わった軸部23に曲げ変形(弾性変形)が生じることが分かっている。
【0043】
図2によれば、Cを0.07wt%含む比較例1における試験片は、長さが35mmを超えるものが、荷重が0.5kN未満であった。比較例1における材料からなる端子金具によれば、軸部の長さLが35mmを超えると、溶着工程において軸部に曲げ座屈が生じ、接続部や抵抗体が不完全になることがあると推察される。
【0044】
また、Cを0.36wt%含む比較例2における試験片は、長さが35mm未満のものが、荷重が0.9kNを超えた。比較例2における材料からなる端子金具によれば、軸部の長さLが35mmを超えると、溶着工程において頭部の突出しが長くなったり絶縁体が破損したりすることがあると推察される。
【0045】
これに対し、Cを0.22wt%含む実施例1における試験片およびCを0.28wt%含む実施例2における試験片は、長さが60mm以下のものが、荷重が0.5kN以上であった。実施例1,2における材料からなる端子金具によれば、軸部の長さLが60mm以下のときに、溶着工程において軸部に曲げ座屈が生じないものと推察される。また、実施例1,2における試験片は、長さが20mm以上のものが、荷重が0.9kN以下であった。実施例1,2における材料からなる端子金具によれば、軸部の長さLが20mm以上のときに、溶着工程において軸部に曲げ変形が生じるものと推察される。
【0046】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。例えば、端子金具20の形状は一例であり適宜設定できる。
【0047】
実施形態では、頭部21の後端の中央が凹んでいる場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。頭部21の後端の凹みを省略したり頭部21の後端の中央を突き出したりすることは当然可能である。
【0048】
実施形態では、端子金具20の頭部21の全体が軸部23よりも太い場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。頭部21に鍔を設け、軸部23よりも鍔を太くし、頭部のうち鍔以外の部分(以下「ピン」と称す)を鍔より細くし、絶縁体11の後端13に鍔を配置することは当然可能である。軸部23、鍔およびピンは一体成形される。この場合、ピンにローレットやおねじを設けても良いし、頭部の一部となるキャップをピンに被せても良い。
【0049】
ピンにキャップを被せる場合には、ピンに被せたキャップを塑性変形してキャップが外れないようにしたり、ピンに設けたおねじが嵌るめねじをキャップに設けてキャップを着脱自在にしたりすることは当然可能である。キャップの材料は、軸部23、鍔およびピンの材料と違う材料であっても良いし同じ材料であっても良い。軸部23、鍔およびピンとキャップを一体成形しても良い。
【0050】
実施形態では、絶縁体11の軸孔14に抵抗体17が配置される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。抵抗体17を省略することは当然可能である。抵抗体17を省略する場合には、第2の接続部18を省略して、中心電極15を軸孔14に溶着する第1の接続部16に軸部23が接するようにする。これにより中心電極15と端子金具20とが電気的に接続する。
【符号の説明】
【0051】
10 スパークプラグ
11 絶縁体
12 先端
13 後端
14 軸孔
15 中心電極
18 第2の接続部(接続部)
20 端子金具
21 頭部
22 頭部の先端
23 軸部
24 軸部の先端
L 軸部の長さ
O 軸線
図1
図2