(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-02
(45)【発行日】2024-05-14
(54)【発明の名称】放射線治療を計画および送達するためのコンピュータプログラム製品およびコンピュータシステムならびに放射線治療を計画する方法
(51)【国際特許分類】
A61N 5/10 20060101AFI20240507BHJP
A61B 34/10 20160101ALI20240507BHJP
【FI】
A61N5/10 P
A61N5/10 H
A61B34/10
(21)【出願番号】P 2022502418
(86)(22)【出願日】2020-07-08
(86)【国際出願番号】 EP2020069223
(87)【国際公開番号】W WO2021008962
(87)【国際公開日】2021-01-21
【審査請求日】2022-03-10
【審判番号】
【審判請求日】2023-03-23
(32)【優先日】2019-07-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】522454806
【氏名又は名称】レイサーチ ラボラトリーズ エービー
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】トラネウス,エリック
【合議体】
【審判長】内藤 真徳
【審判官】安井 寿儀
【審判官】後藤 泰輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-273785(JP,A)
【文献】特開2006-341010(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
各ビームがブラッグピーク内にエネルギを蓄積する荷電粒子の少なくとも1つのビームを備える、少なくとも1つの治療照射野により患者を治療するための放射線治療計画を
コンピュータにより作成す
る方法であって、前記方法は、コンピュータソフトウェアによって指令される
前記コンピュータにより自動的に実行され、前記方法は、各ビームのための、
・標的内に前記ビームのブラッグピークの所望の位置を決定する工程と、
・前記ビームが決定された所望の位置に到達するための所望の経路を決定する工程と、
・前記ビームの方向を制御して前記ビームが前記所望の経路を辿ること、およびそのブラッグピークが前記決定された所望の位置に配置されることを保証するために、前記ビームのためのエネルギレベルおよび方向ならびに前記患者の体内で前記ビームに印加される磁場の特性のセットを決定する工程と、
・前記荷電粒子のエネルギ、前記荷電粒子の初期の方向、および前記磁場の特性の組み合わせにより、前記荷電粒子のエネルギの主要部分を選択されたブラッグピーク位置に蓄積しながらもあらゆるリスク臓器を回避する経路を前記荷電粒子に辿らせる計画を提示する工程と、
を含む、方法。
【請求項2】
前記磁場の特性のセットは強度および方向ならびに前記磁場の空間的変動を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記磁場の特性のセットは前記ビームのエネルギレベルおよび方向の決定の前に決定され、かつ前記ビームのエネルギレベルおよび方向は前記磁場の特性に応じて決定される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記ビームのエネルギレベルおよび方向は前記磁場の特性の決定の前に決定され、かつ前記磁場の特性は前記ビームのエネルギレベルおよび方向に応じて決定される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記磁場の特性ならびに前記ビームのエネルギレベルおよび方向は同時最適化によって繰り返し決定される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
前記エネルギレベル、方向および特性のセットを含む放射線治療計画を作成する工程をさらに備える、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記コンピュータで実行されるときに、前記コンピュータに請求項1~6のいずれか1項に記載の方法を実行させる、放射線治療計画を作成するためのコンピュータプログラム製品。
【請求項8】
プロセッサおよびプログラムメモリを備えるコンピュータシステムであって、前記プログラムメモリは、請求項7に記載のコンピュータプログラム製品を備える、コンピュータシステム。
【請求項9】
送達装置から患者への放射線治療の送達を制御するためのコンピュータプログラム製品であって、前記治療は、各ビームがブラッグピーク内にエネルギを蓄積する荷電粒子の少なくとも1つのビームを前記患者に照射することを伴い、放射線治療を提供するための装置のプロセッサで実行されるときに、
標的内に前記ビームのブラッグピークの所望の位置を決定する工程と、
前記ビームが決定された所望の位置に到達するための所望の経路を決定する工程と、
前記荷電粒子の経路を曲げるように構成された第1の磁場を印加しながら前記少なくとも1つのビームを前記患者に照射し、それにより前記患者の体内で前記
少なくとも1つのビームのブラッグピークの位置を制御する工程と、
前記荷電粒子のエネルギ、前記荷電粒子の初期の方向、および前記磁場の特性の組み合わせにより、前記荷電粒子のエネルギの主要部分を選択されたブラッグピーク位置に蓄積しながらもあらゆるリスク臓器を回避する経路を前記荷電粒子に辿らせる工程と、
を前記装置に実行させるコンピュータ可読コード手段を備える、コンピュータプログラム製品。
【請求項10】
他の粒子の経路を曲げてそれらのブラッグピークを異なる位置に配置するために、前記第1の磁場とは異なる第2の磁場を印加することをさらに備える、請求項9に記載のコンピュータプログラム製品。
【請求項11】
患者に放射線治療を提供するための装置(80)であって、前記装置は、各ビームがブラッグピーク内にエネルギを蓄積する荷電粒子を備えるビームを放射するように構成された放射線源(85)、および前記ビームを成形するための手段を備え、前記装置は、
標的内に前記ビームのブラッグピークの所望の位置を決定する工程と、
前記ビームが決定された所望の位置に到達するための所望の経路を決定する工程と、
前記患者の体内で少なくとも1つの粒子の経路を修正するための磁場を発生させ、それにより前記患者の体内で前記
ビームのブラッグピークの位置を制御する工程と、
前記荷電粒子のエネルギ、前記荷電粒子の初期の方向、および前記磁場の特性の組み合わせにより、前記荷電粒子のエネルギの主要部分を選択されたブラッグピーク位置に蓄積しながらもあらゆるリスク臓器を回避する経路を前記荷電粒子に辿らせる工程と、
を行うように構成された機
器をさらに備える、装置。
【請求項12】
前記磁場を修正するような方法で前記機
器を制御するように構成された処理手段(91)をさらに備える、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
前記機
器はそれらのブラッグピークの近くで前記荷電粒子の経路を曲げる磁場を発生させるように構成されている、請求項11または12に記載の装置。
【請求項14】
前記機
器は時間と共に前記磁場の大きさおよび/または方向を変えるように構成されている、請求項11~13のいずれか1項に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線治療計画のための方法、コンピュータプログラム製品およびコンピュータシステムならびに放射線治療の送達のためのシステムおよびそのような送達を制御するためのコンピュータプログラム製品に関する。より具体的には、本発明は陽子または他の荷電粒子を伴う放射線治療に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線治療における陽子または他の荷電粒子の使用にはいくつかの利点がある。特に陽子は、その経路の末端に向かって(いわゆるブラッグピークに)そのエネルギの大部分を蓄積するため、その線量を患者の体内の標的に極めて正確に蓄積することができる。ブラッグピークの位置は、陽子のエネルギならびにそれらが横切る組織の密度によって決まる。腫瘍などの標的領域をカバーするために異なるエネルギレベルを有する陽子が照射されるため、それらのブラッグピークは腫瘍全体に分散される。
【0003】
放射線治療計画における共通する課題は、特にリスク臓器が損傷されないように周囲組織への線量を制限しながら標的への十分に高い線量を保証することである。場合によっては、患者ジオメトリに応じてリスク臓器が標的の近くに位置している場合またはさらには放射線源から標的までの経路にある場合に、これは難しいものとなり得る。
【発明の概要】
【0004】
本発明の目的は、陽子または他の荷電粒子を用いる放射線治療の効率、精度および柔軟性を高めることにある。
【0005】
この目的は、各ビームがブラッグピークにエネルギを蓄積する、陽子などの荷電粒子の少なくとも1つのビームを備える、少なくとも1つの治療照射野による患者の治療のための放射線治療計画を作成するコンピュータ実装方法であって、各ビームのための、
・典型的には標的内にビームのブラッグピークの所望の位置を決定する工程と、
・ビームが決定した所望の位置に到達するための所望の経路を決定する工程と、
・ビームの方向を制御してビームが所望の経路を辿ること、およびそのブラッグピークが決定した所望の位置に配置されることを保証するために、ビームのためのエネルギレベルおよび方向ならびに患者の体内でビームに印加される第1の磁場の特性のセットを決定する工程と、
を含む方法によって本発明に従って達成される。
【0006】
本発明によれば、陽子ベースの放射線治療計画は、磁場、好ましくは可変磁場の印加によって陽子または他の荷電粒子の軌道に影響を与えることにより目的に合わせることができる。このようにして、ブラッグピークが必ずしも患者の体表の進入点を通って放射線源から直線に沿って位置しないように、患者の体内での陽子の方向に影響を与えることができる。代わりに当該粒子に好適な経路を辿らせて、ブラッグピークを所望の場所に位置決めさせることができる。好ましい実施形態では、ビームの1つの進入点を使用する。これにより1つの進入点に高い線量を与えるが、全ての周囲組織を温存させることもできる。
【0007】
各ビームの実際の経路は、そのエネルギおよび方向ならびに磁場の特性によって制御することができる。粒子は患者の体内に進入する際に最大エネルギを有し、患者の体内を通過するにつれてエネルギを失う。磁場は高いエネルギを有する粒子よりもより低いエネルギを有する粒子に影響を与えるので、ビームは標的体積内に配置されるべきブラッグピークのより近くで曲げられる。これによりビームを例えばいくつかの組織を直接通過させ、次いで方向を変えさせることができる。磁場の特性のセットは磁場の強度および方向ならびに任意に空間的変動を含む。
【0008】
いくつかの実施形態では、磁場の特性のセットはビームのエネルギレベルおよび方向の前に決定し、ビームのエネルギレベルおよび方向は磁場の特性に応じて決定する。あるいは、ビームのエネルギレベルおよび方向は磁場の特性の前に決定してもよく、磁場の特性はビームのエネルギレベルおよび方向に応じて決定する。最良の結果は、磁場の特性ならびにビームのエネルギレベルおよび方向を同時最適化によって繰り返し決定した場合に得ることができる。
【0009】
ビームのエネルギレベルおよび方向ならびに磁場の特性は、放射線治療計画の生成において使用してもよい。
【0010】
本発明は、コンピュータにおいて実行されるときに、コンピュータに先行する請求項のいずれか1項に記載の方法を実行させる放射線治療計画を作成するためのコンピュータプログラム製品にも関する。本コンピュータプログラム製品は非一時的メモリ機器などのメモリ機器に記憶されていてもよい。本発明は、プロセッサおよびプログラムメモリを備えるコンピュータシステムにも関し、プログラムメモリは、上に定義されているようなコンピュータプログラム製品を備える。
【0011】
本発明の態様は患者への放射線治療の送達にも関する。従って本発明は、送達装置から患者への放射線治療の送達を制御するためのコンピュータプログラム製品であって、前記治療は、陽子などの荷電粒子の少なくとも1つのビームを患者に照射することを伴い、放射線治療を提供するための装置のプロセッサで実行されるときに、上記装置に当該粒子の経路を曲げるように構成された第1の磁場を印加しながら少なくとも1つのビームを患者に照射させ、それにより患者の体内で当該粒子のブラッグピークの位置を制御させることができるコンピュータ可読コード手段を備えるコンピュータプログラム製品にも関する。上で考察されているように、磁場の特性は、強度および方向ならびに場合により磁場の一時的および/または空間的変動を含む。
【0012】
本方法は、他の粒子の経路を曲げてそれらのブラッグピークを異なる位置に配置するために、第1の磁場とは異なる第2の磁場を印加することをさらに備えることがある。
【0013】
本発明は、患者に放射線治療を提供するための装置であって、前記装置は、陽子などの荷電粒子を含むビームを放射するように構成された放射線源、および前記ビームを成形するための手段を備え、前記装置は、患者の体内で少なくとも1つの粒子の経路を修正するための磁場を発生させるように構成された機器、および好ましくは磁場を修正するような方法で前記機器を制御するように構成された処理手段をさらに備える装置にも関する。前記機器はそれらのブラッグピークの近くで当該粒子の経路を曲げる磁場を発生させるように構成されていてもよい。また前記機器は時間と共に磁場の大きさおよび/または方向を変えるように構成されていてもよい。
【0014】
磁場は、ビームが患者に向かって放射される前にそれらを成形および方向づけるために放射線治療の分野でよく使用されている。本発明は、患者の体内でビームを方向づけるために磁場を使用することを提案している。
【0015】
以下では、本発明を添付の図面を参照しながら例としてより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】本発明に従って達成することができるビームの可能な軌道を概略的に示す。
【
図3】本発明の実施形態に係る可能な陽子経路を例解する。
【
図4】本発明の実施形態に係る可能な陽子経路を例解する。
【
図6】本発明に係る治療方法のフローチャートである。
【
図7】本発明に係る治療計画方法のフローチャートである。
【
図8】治療計画のためにも使用することができる一般的な線量送達システムの例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は患者11の断面と、停止してそのエネルギの大部分をブラッグピークに蓄積するまで実質的に直線に沿って患者の体を通過する陽子などの荷電粒子を備えるビーム13とを概略的に示す。当該技術分野でよく知られているように、患者の体内のビームの経路長およびそれによるブラッグピークの位置は患者ジオメトリ、特に当該粒子が横切る組織の密度に応じて当該粒子のエネルギを制御することにより制御することができる。これは当該経路に沿ってブラッグピーク15のための3つの可能な点をxにより印すことにより
図1に示されている。これらの位置は標的の位置に応じて所望どおりに選択することができる。
【0018】
図2は患者21の同じ概略断面と、実線で示されている
図1と同じビーム23とを示す。
図2は、第1もしくは第2の磁場をビームに印加した場合に当該粒子が取り得る第1および第2の他の経路23’、23’’も示す。前述のとおり、経路長は当該粒子のエネルギおよびある程度は上で言及した患者ジオメトリによって決まる。同じ経路長に対応する異なる経路上の点は、破線で示されている円弧25により示されている。実線の直線23からの当該粒子の軌道の逸脱は、磁場の強度および他の特性を制御することにより決定してもよい。典型的には磁場は均一ではない。好ましい実施形態では、当該経路の3次元での変動を可能にするために磁場の方向も変えることができる。
図2から分かるように、当該粒子は当該経路に沿ってエネルギを失うにつれて磁場によってより影響を受けるので、他の経路23’、23’’は当該経路に沿って徐々に益々曲がる。3つの他のブラッグピーク位置15、15’および15’’は3つの異なる軌道23、23’、23’’の同じ経路長に対応して示されている。
【0019】
図3は、本発明に係る方法を使用することができる状況を概略的に示す。ここでも、少なくとも最小の線量を受けるべき標的37ならびに可能な限り少ない線量を受けるべき第1のリスク臓器38および第2のリスク臓器39を含む患者31の断面が示されている。従来の治療を用いた場合、リスク臓器を通過せずに進める放射線源から標的37までの直線の経路が存在しないので、これは問題になるであろう。本発明によれば、当該粒子の初期のエネルギおよび方向と組み合わせて、進入する粒子をリスク臓器38、39の両方を回避する患者の体内を通る特定の軌道を辿らせ、かつそれらのブラッグピークを標的37に配置させることができる磁場を印加することができる。1つのそのような軌道が
図3に示されている。
【0020】
図4は、より強力な磁場を印加することによりビーム軌道をさらにより大きく変えることができる状況を示す。この場合、xで印されているブラッグピークが標的47に配置されるように、ビーム43を
図3ではより大きく曲げさせ、陽子ビームにリスク臓器49を超え、かつそれを回り込む経路を取らせることができる。当然ながら、標的全体をブラッグピークによってカバーすることができるように治療中に異なるビームのために異なる磁場を印加してもよい。
【0021】
本発明に係る方法が有利となる別の状況は、腫瘍が不規則な形状を有し、従って従来の治療法を用いた場合には周囲組織に影響を与えることなくカバーすることが難しい場合である。
【0022】
図5は、本発明の方法が特に有用になり得る状況の若干理想化されているがより現実的な例を例解する。患者の前立腺および寛骨を含む患者の断面が示されている。通常は前立腺への放射線治療は、寛骨を通る破線によって例解されているように寛骨を通る2つの対向する方向から行われる。これは直腸および膀胱などの他の敏感な組織への損傷を回避するために行われるが、多くの場合に放射線治療から数年後に股関節に問題を引き起こす。本発明によれば放射線治療は、股関節の片側の1つまたは好ましくは2つの進入点から行うことができる。ビームは股関節の傍から大腿骨頸部に平行に進入し、前立腺に到達するために磁場によって曲げられる。図から分かるように、前立腺の良好なカバレッジのために好ましくは上で説明されているように2つのビームを使用する。患者の両側から2つのビームを使用すること、または3つ以上のビームを使用することも可能であろう。
【0023】
図6は、1つの可能な工程順序を示す本発明に係る治療方法のフローチャートである。当然のことながら、各磁場を印加する工程および磁場を印加しない工程の順序は適宜変えてもよい。第1の工程S51では、荷電粒子のビームを照射する。第2の工程S52では、ビーム経路を直線から逸脱させる磁場を発生させる。工程S53は、治療を継続する前に磁場を変えるべきか否かを確認するための決定工程である。そうすべき場合は、当該手順は磁場設定を変える工程S54を続けて工程S52に戻る。この決定は典型的には治療計画に従ってなされる。そうすべきでない場合は、当該手順は停止する。
【0024】
図7は、本発明に係る治療計画方法のフローチャートである。第1の工程S61では、標的の位置を決定し、標的内での1つ以上のブラッグピークの所望の位置を決定する。理想的には、ブラッグピークは標的全体に均一な線量を保証するように位置決めしなければならない。第2の工程S62では、所望のブラッグピーク位置の1つを選択し、選択したブラッグピーク位置への患者の体内を通る可能な経路を決定する。第3の工程S63では、選択したブラッグピーク位置に到達するために必要とされる粒子エネルギならびに当該粒子を選択したブラッグピーク位置に到達させる磁場の大きさおよび方向を決定する。上で考察されているように、粒子エネルギ、当該粒子の初期の方向および磁場の特性の組み合わせにより、そのエネルギの主要部分を選択したブラッグピーク位置に蓄積しながらもあらゆるリスク臓器を回避する経路を当該粒子に辿らせなければならない。工程S64は、別のブラッグピーク位置のために計画工程を繰り返すべきか否かを決定する決定工程である。そうすべき場合は、当該手順は新しいブラッグピーク位置の選択のために工程S62に戻り、そうすべきでない場合は、当該手順は終了する。
【0025】
磁場は少なくともその強度および方向を含む特性のセットによって特徴づけられる。典型的には磁場は均一ではない。その場合、特性のセットは典型的には3Dベクトル場の形態の磁場の空間的変動に関する情報も含む。また磁場は時間と共に変わるように構成されていてもよい。
【0026】
図8は、放射線治療および/または治療計画のためのシステム80の概略である。当然のことながら、そのようなシステムは任意の好適な方法で設計してもよく、
図8に示されている設計は単に一例である。患者81を治療台83の上に位置決めする。本システムは、治療台83の上に位置決めした患者に向かって放射線を放射するためのガントリー87に取り付けられた放射線源85を有するイメージング/治療ユニットを備える。典型的には、治療台83およびガントリー87は、可能な限り柔軟かつ正確に患者に放射線を与えるために互いに対していくつかの次元で移動可能である。これらの部品およびそれらの機能は当業者に周知である。ビームを側方および奥行き方向に成形するために提供されているいくつかの機器が典型的に存在し、それについては本明細書ではより詳細に考察しない。この例では本システムは、患者の体内でビームの粒子の経路に影響を与える磁場を発生させるための手段89および磁場を修正するための手段も備える。磁場を発生させるための手段89は、1つ以上の磁石または1つ以上のコイルなどの任意の好適な手段であってもよい。修正する手段は、例えば磁石またはコイルの位置および方向を修正し、かつコイルを通る電流を制御するように構成された任意の種類の手段であってもよい。本システムは、放射線治療計画のため、および/または放射線治療を制御するために使用することができるコンピュータ91も備える。当然のことながら、コンピュータ91はイメージング/治療ユニットに接続されていない別個のユニットであってもよい。
【0027】
コンピュータ91はプロセッサ93、データメモリ94およびプログラムメモリ95を備える。好ましくは、キーボード、マウス、ジョイスティック、音声認識手段または任意の他の入手可能なユーザ入力手段の形態の1つ以上のユーザ入力手段98、99も存在する。またユーザ入力手段は外部メモリユニットからデータを受信するように構成されていてもよい。
【0028】
本システムを計画のために使用する場合、データメモリ94は治療計画を得るために使用される臨床的データおよび/または他の情報を備える。典型的には、データメモリ94は治療計画で使用される1つ以上の患者画像を備える。例えばデータメモリ94において可能な磁場を示している磁場マップが入手可能でなければならない。磁場マップは、線量の計算の一部である粒子輸送シミュレーションに入力される。プログラムメモリ95は
図7に従ってプロセッサに治療計画方法を実行させるように構成された少なくとも1つのコンピュータプログラムを保持している。プログラムメモリ95は、コンピュータに
図6に関連して考察されている方法工程を実行させてコンピュータに患者の放射線治療を制御させるように構成されたコンピュータプログラムも保持している。プログラムメモリ95は、例えば電流および/または磁場発生手段89の位置を制御することにより磁場を制御するように構成されたコンピュータプログラムも保持していてもよい。
【0029】
当然のことながら、データメモリ94およびプログラムメモリ95は概略的にのみ図示および考察されている。それぞれが1つ以上の異なる種類のデータを保持しているか1つのデータメモリが好適に構造化された方法で全てのデータを保持しており、かつプログラムメモリを保持しているいくつかのデータメモリユニットが存在してもよい。1つ以上のメモリが他のコンピュータ上に設けられていてもよい。例えば、コンピュータは本方法のうちの1つのみを実行するように構成されていてもよく、最適化を実行するための別のコンピュータが存在する。