(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-02
(45)【発行日】2024-05-14
(54)【発明の名称】非結晶性D-アルロースシロップ
(51)【国際特許分類】
A23L 29/30 20160101AFI20240507BHJP
【FI】
A23L29/30
(21)【出願番号】P 2023003690
(22)【出願日】2023-01-13
(62)【分割の表示】P 2019536510の分割
【原出願日】2018-01-05
【審査請求日】2023-02-10
(32)【優先日】2017-01-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】591169401
【氏名又は名称】ロケット フレール
【氏名又は名称原語表記】ROQUETTE FRERES
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【氏名又は名称】布施 行夫
(72)【発明者】
【氏名】バティスト ボワ
(72)【発明者】
【氏名】ジョフレ ラクロワ
【審査官】川崎 良平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/156117(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/012854(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 29/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
75%以上のD-アルロースに加えて、ガスクロマトグラフィー(GC)によって求められ
る1.8%を超える質量含有量のD-アルロース二量体を含むD-アルロースシロップ。
【請求項2】
前記D-アルロース二量体含有量は、1.9%~20
%の範囲であることを特徴とする、請求項1に記載のD-アルロースシロップ。
【請求項3】
その乾燥質量を基準として、
・75%~
98.1%のD-アルロース;
・0%~20%のD-フルクトース;
・0%~10%のグルコース;
・1.9%~20
%のD-アルロース二量体を含むことを特徴とする、請求項
1又は2に記載のD-アルロースシロップ。
【請求項4】
50%を超え
る乾燥物質含有量を有することを特徴とする、請求項1~
3のいずれか一項に記載のD-アルロースシロップ。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか一項に記載のD-アルロースシロップを製造する方法であって、
・
D-フルクトース溶液のエピマー化によって得られたD-アルロース及びD-フルクトースを含む組成物のクロマトグラフィーを行い、D-アルロース二量体を含むD-アルロース組成物を提供するステップ;
・前記D-アルロース組成物のナノ濾過のステップ;
・前記ナノ濾過
の保持液を回収するステップ;
・前記D-アルロースシロップを提供するために前記保持液を濃縮するステップ
を含むことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、D-アルロースシロップであって、その有利な性質の1つは、従来技術のシロップよりも結晶性が低いことである、D-アルロースシロップに関する。本発明の別の主題は、食品又は医薬品を製造するためのこのD-アルロースシロップの使用に関する。本発明の別の主題は、このD-アルロースシロップを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
D-アルロース(又はD-プシコース)は、スクロースの70%の甘味度を有する希少糖である。スクロースとは逆に、D-アルロースは、ヒトによって代謝されないため、体重増加を引き起こすことがない。これは、非常に低いカロリー含有量(0.2kcal/グラム)を有し、そのため体脂肪の増加が防止される。さらに、D-アルロースは、非齲蝕性又はさらに抗齲蝕性であることが研究によって示されている。したがって、これらの性質のため、最近では食品産業及び製薬産業から非常に高い関心が持たれている。
【0003】
D-アルロースは、一般に、例えば本出願人の名義における出願国際公開第2015/032761A1号パンフレットに記載のように、D-フルクトースの水溶液をD-プシコースエピメラーゼと反応させることによって酵素的に得られる。使用される酵素を問わず、この反応は、完全なものではなく、エピマー化後にD-アルロースに変換されるフルクトースの量は、30%未満である。
【0004】
したがって、エピマー化反応によって得られる組成物から開始すると、存在する別の成分、特にフルクトースから単離するためにD-アルロースを分離するステップを行う必要がある。この分離を行うために、エピマー化反応によって得られる組成物のクロマトグラフィーは、ごく一般的には、例えば擬似移動床型の連続クロマトグラフィーによって行われ、それによってD-アルロースに富む画分の単離が可能となる。
【0005】
文献特開2001-354690号公報は、フルクトースとD-アルロースとの混合物から出発するD-アルロース組成物を精製する方法であって、混合物の種々の生成物の特定の順序のサンプリングを用いる連続クロマトグラフィーのステップからなる分離ステップを含む方法を記載している。D-アルロースに富む画分(そのD-アルロースのリッチネスは、98%に到達し得る)と、フルクトースに富む画分とが回収される。D-アルロースに富む画分中の回収率は、96%である。
【0006】
上記の分離ステップの終了時、D-アルロースに富む液体組成物が得られる。例えば、一般にシロップと呼ばれるこれらの液体組成物は、食品又は医薬品の製造に使用される。例として、本出願人の名義における出願国際公開第2015/094342号パンフレットは、50%~98%のD-アルロースを含むD-アルロースシロップと天然タンパク質とを含む固形食品の製造を記載している。現在、種々の企業がD-アルロースの販売を発表しているのは、主としてこのシロップの形態である。
【0007】
文献国際公開第2016/135458号パンフレットは、その一部として、その乾燥質量を基準として少なくとも80%のアルロースを含むシロップを記載しており、それらの経時的な安定性を研究している。このシロップの製造プロトコルは、記載されていない。シロップの組成は、この種類のシロップの標準的な分析方法として示されている高速液体クロマトグラフィーによって分析される。前記出願に記載のシロップは、低温で結晶化可能であると示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、一部の用途では、非結晶性又はさらにより低い結晶性であり、低温でもそのようになるD-アルロースシロップを有することが利点となる場合がある。これは、特にD-アルロースを湿潤剤として使用する必要がある場合であり、なぜなら、化合物は、溶質の形態であり、したがって結晶化していない場合にのみ、その化合物がこの潤滑剤機能を示すからである。別の用途でも、所望の性質を得るために最終製品中で糖を結晶化しないことが必要となる。例えば、滑らかなテクスチャーを得るために、ソース、デンプンゼリー、ソフトキャラメル、ジャム又はフルーツフィリング中でD-アルロースが結晶化しないことが必要となる。同様に、ビネグレット又は飲料などの液体溶液中に結晶性析出物が存在しないことが好ましい。バーの形態の食品(栄養バー、シリアルバー、フルーツ及びナッツのバーなど)は、それらに関する限り、最終製品中で糖が結晶化しない場合により柔らかくなる。
【0009】
特に貯蔵が低温で行われる場合、経時的に懸濁液中に結晶が形成されることにより、シロップは、貯蔵不安定性を示す場合があることも確認されている。この場合、特にこれらの結晶が成長する場合、シロップの粘度が大幅に増加することがあり、再び容易に取り扱えるようにするために、懸濁液中の結晶が溶融するまでシロップを再加熱する必要が生じる場合がある。したがって、改善された貯蔵安定性を示し、低温でも結晶化がわずかであるか又は全く起こらない新規なシロップの提供への関心が持たれる場合がある。
【0010】
多くの調査を行うことにより、本出願人は、D-アルロースシロップの製造プロセスでは、このプロセス中に特定の不純物が形成されることを認識することができた。前記不純物は、本出願人の知る限り文献中に報告されていない。本出願人は、特定のガスクロマトグラフィー技術を用いることにより、それらがD-アルロース二量体であることを同定できた。本出願人は、グルコース又はフルクトースなどの別の不純物とは逆に、これらの二量体が非常に顕著な抗結晶化作用を有することも示すことができた。これらのD-アルロース二量体がプロセス中に形成され、D-アルロースシロップ中のそれらの存在は、系統的なものである。
【0011】
この観察以外に、本出願人は、特定の乾燥物質含有量及び特定のD-アルロース含有量の場合、従来技術のものよりも低い結晶性を示す新規なシロップを提供するための努力も続けてきた。このために、D-アルロース二量体の含有量が増加したシロップを提供できる方法を開発した。これにより、シロップの結晶性が低くなり、それにより特に低温における後の使用のためのそれらの貯蔵を容易にすることができる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
したがって、本発明の主題は、D-アルロースに加えて、ガスクロマトグラフィー(GC)によって求められる1.5%を超える質量含有量のD-アルロース二量体を含むD-アルロースシロップである。
【0013】
このシロップは、従来技術のシロップよりも結晶性が低いか又はさらにはある温度条件下で非結晶性であるという利点を有し、そのため貯蔵に関してより安定性であり得る。このシロップは、前述の用途に有利に使用することもできる。
【0014】
本発明の別の主題は、本発明のシロップを製造する方法に関する。この方法は、
・D-アルロース二量体を含むD-アルロース組成物を提供するステップ;
・前記D-アルロース組成物のナノ濾過のステップ;
・ナノ濾過保持液を回収するステップ;
・D-アルロースシロップを提供するためにこの保持液を濃縮するステップ
を含む。
【0015】
ナノ濾過ステップを使用することで、D-アルロース二量体に富む保持液を回収し、これによって濃縮後に本発明のシロップを得ることができる。
【0016】
前述のように、本出願人は、D-アルロースシロップの製造中、プロセス中に特定の不純物が系統的に形成されることを認識することができた。前記不純物は、本出願人の知る限り文献中に報告されていない。これは、D-アルロースの純度の測定に従来使用されている高速液体クロマトグラフィー技術を用いると、これらの不純物がクロマトグラム上に検出されない(
図4及び5を参照されたい)という事実によって説明される。本出願人は、ガスクロマトグラフィー技術により、それらの存在を検出することができた(
図6及び7を参照されたい)。
【0017】
文献国際公開第2015/094342号パンフレットに関して、この文献では、D-アルロースを含むシロップが使用される。しかし、このシロップを調製する方法は、示されていない。実際には、この記述の残りの部分に示されるように、調製、特に濃縮ステップの条件の選択は、形成されるD-アルロース二量体の量に本質的に影響し、これは、これまで報告されていない。したがって、上記の文献は、本発明のシロップを記載していない。同じことは、既に記載の文献国際公開第2016/135458号パンフレット、又はこのようなシロップが例示されてもいない文献である文献国際公開第2015/032761号パンフレットについても当てはまる。
【0018】
前述の文献特開2001-354690号公報に関して、これは、フルクトース及びアルロースの分離であって、これらの2つの成分を含む組成物からのクロマトグラフィーによる分離を記載している。しかし、D-アルロースシロップの調製は、記載されていない。実際には、このシロップの調製、特に後者の濃縮のステップの条件の選択は、D-アルロース二量体の量に本質的に影響するため、したがって、この文献は、本発明のシロップを記載していない。
【0019】
文献国際公開第2011/119004A2号パンフレット、国際公開第2016/064087号パンフレット、中国特許出願公開第104447888 A号明細書及び中国特許出願公開第103333935 A号明細書は、D-アルロースを含む結晶性組成物の製造を記載しているが、D-アルロースシロップの製造を記載していない。
【0020】
本発明は、本発明の方法によって得ることができるD-アルロースシロップにも関する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】非結晶性アルロースシロップを製造するための回路を示す。
【
図2】再循環ループを有する非結晶性アルロースシロップを製造するための回路を示す。
【
図3】体積濃度係数の関数としての、ナノ濾過ステップに関連する透過、すなわち流れの曲線を示す。
【
図4】ナノ濾過前の本発明の方法においてサンプリングしたD-アルロースに富む組成物のHPLCクロマトグラムを示す。
【
図5】本発明の方法において、すなわちナノ濾過後にサンプリングした保持液のHPLCクロマトグラムを示す。
【
図6】ナノ濾過前の本発明の方法においてサンプリングしたD-アルロースに富む組成物の二量体に特徴的な区域におけるGCクロマトグラムを示す。
【
図7】本発明の方法において、すなわちナノ濾過後にサンプリングした保持液の二量体に特徴的な区域におけるGCクロマトグラムを示す。
【
図8】D-アルロース二量体含有量の関数としての、4℃及び15℃における1か月の保管後の上澄みの乾燥物質を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明のD-アルロースシロップは、D-アルロース二量体が少ない水溶液である。「水性組成物」又は「水溶液」という用語は、一般に、溶媒が水から本質的になる組成物又は溶液を意味することが意図される。「D-アルロース二量体」という用語は、少なくとも第2の同一又は異なる単糖と縮合したD-アルロースを含む化合物を意味することが意図される。これらの二量体は、例えば、D-アルロース-D-アルロース型の二量体である。
【0023】
前述のように、シロップ中に含まれるD-アルロース二量体の量が富化されている、すなわち乾燥質量として表されるその質量含有量が本発明により1.5%超であるという事実により、より結晶性の低いシロップを得ることが可能となる。
【0024】
図4~7に示されるように、これらの二量体は、GCによって検出でき、HPLC分析中に検出できない。このため、乾燥質量として表される種々の成分の質量は、本出願ではGCによって系統的に求められる。組成物中の各化学種の量を求めるために、試料に対して、一般に、存在する種々の化学種をメトキシ化(methoximated)トリメチルシリル誘導体に変換するための処理ステップが行われる。それぞれの化学種の質量は、本出願では、他に言及されない限り全乾燥質量を基準として表される。
【0025】
グルコース、フルクトース及びアルロースの量は、300℃に加熱されたインジェクターが取り付けられ、300℃に加熱された炎イオン化検出器(FID)が取り付けられ、0.18mmの内径及び0.4μmの膜厚を有する40メートルのDB1キャピラリーカラムが取り付けられたガスクロマトグラフ中で求めることができ、このカラム温度は、3℃/分の速度で200℃から260℃まで、次に15℃/分で260℃から300℃まで、300℃で5分間維持のようにプログラムされる。
【0026】
「D-アルロース二量体の量」という用語は、GCによって求められる試料中の二量体の総量と、マルトース及びイソマルトースなどのグルコース-グルコース二量体である、場合により存在する周知の二量体の量との間の差を意味することを意図している。これらのグルコース-グルコース二量体の量は、非常に少ないか又はさらには存在しないことが可能である。本発明のシロップ中のグルコース-グルコース二量体の質量は、一般に2%未満、多くの場合に1%未満、又はさらには0.2%未満、又は0.1%未満である。
【0027】
グルコース-グルコース二量体の可能な量は、グルコース、フルクトース及びD-アルロースに関して前述した条件と同じ条件下において、
・試料のグルコース-グルコース二量体の加水分解を行うこと;
・同じクロマトグラム中及び同じ条件下において、全グルコースの量を求めることであって、前記全グルコースは、遊離と呼ばれる初期グルコースと、グルコース-グルコース二量体の加水分解によって得られるグルコースとを含む、求めること;
・全グルコースのこの量から試料の初期グルコースの量を引くこと
によって求めることができる。
【0028】
二量体の総量の場合、その一部として、ガスクロマトグラフにおいて前述の条件と同じ条件で求めることができ、相違点は、使用されるカラムが、0.32mmの内径及び0.25μmの膜厚を有する30メートルのDB1キャピラリーカラムであり、カラム温度が、5℃/分の速度で200℃から280℃まで、280℃で6分間維持、次に5℃/分で
280℃から320℃まで、320℃で5分間維持のようにプログラムされることである。
【0029】
この方法は、実施例の項でより詳細に記載される。
【0030】
D-アルロースシロップは、D-アルロースに加えて、ガスクロマトグラフィー(GC)によって求められる1.5%を超える質量含有量のD-アルロース二量体を含む。
【0031】
これは、1.8%を超える、特に1.9%~20%、好ましくは2.0%~15%、例えば2.1%~8%又はさらには2.4%~5%の範囲であり得る。
【0032】
一変形形態では、本発明のシロップは、50/50~40/60のD-フルクトース/D-アルロースの質量比でD-フルクトース及びD-アルロースを含み、D-フルクトース、D-アルロース及びD-アルロース二量体から本質的になる。このシロップは、スクロースと同じ甘味度を有するという利点を有する。
【0033】
別の好ましい一変形形態では、本発明のシロップは、乾燥質量で表される75%以上のD-アルロース含有量を含む。本発明のシロップは、このD-アルロース含有量に到達する場合でもあまり高くない結晶性を示すことができるという利点を有する。より多くのある化合物(この場合にはD-アルロース)をシロップが主として含むほど、このシロップが結晶性を示す傾向が高くなることが知られているため、これは、特に驚くべきである。本発明によると、シロップ中の乾燥質量として表される1.5質量%を超えるところから始まるD-アルロース二量体の存在により、特に結晶性をより低くすることが可能となる。
【0034】
本発明のシロップは、乾燥質量として表される80%以上、例えば85%以上、特に90%以上のD-アルロース含有量を有することができる。
【0035】
D-アルロースシロップは、有利には、その乾燥質量を基準として、
・75%~99%のD-アルロース;
・0%~20%のD-フルクトース;
・0%~10%のグルコース;
・1.5%(境界値を含まない)~20%、特に1.9%~20%、好ましくは2.0%~15%、例えば2.1%~8%又はさらには2.4%~5%のD-アルロース二量体を含むことができる。
【0036】
D-アルロースシロップは、50%を超える、例えば65%~85%の範囲、特に70%~83%、例えば75%~82%の範囲の乾燥物質含有量を有することができる。乾燥物質含有量が多いほど、シロップは、より容易に結晶化可能となる。しかし、乾燥物質含有量が多い場合、シロップの粘度が増加することがあり、それによってその取り扱いが困難となる場合がある。
【0037】
D-アルロースシロップは、従来、
・D-アルロースを含む水性組成物を提供するステップ;
・D-アルロースシロップを形成するために前記水性組成物を濃縮するステップ
を含む方法によって得られる。
【0038】
本発明のシロップは、濃縮ステップ前にナノ濾過ステップを含む、以下に詳細に説明する方法により調製することができる。
【0039】
このナノ濾過ステップにより、本発明のシロップ中のD-アルロース二量体の量を増加させることが可能となる。このナノ濾過ステップは、D-アルロースに富む組成物を濃縮するステップの前に行われる。したがって、このステップにより、このナノ濾過ステップを用いずに同じ方法によって得られる場合よりもD-アルロース二量体含有量が豊富なD-アルロースシロップを提供することができる。
【0040】
本発明の方法に必須であるナノ濾過ステップでは、D-アルロースの組成物に対してナノ濾過を行うと、
・D-アルロース二量体の少ない透過液;
・さらにはD-アルロース二量体に富む保持液
の2つの画分が形成される。
【0041】
本発明のシロップを製造するための回路を示す
図1では、ストリーム6は、保持液を表し、ストリーム9は、透過液を表す。説明的であるが、非限定的な理由のため、他に記載がない限り、説明の残りに示されるストリームは、この
図1の製造回路のストリームを意味する。
【0042】
「D-アルロース二量体が少ない」及び「D-アルロース二量体に富む」という用語は、ナノ濾過される組成物のD-アルロースオリゴマーの含有量に明らかに関連している。
【0043】
ナノ濾過保持液は、本発明のD-アルロースシロップの製造を可能にする中間体である。
【0044】
したがって、本発明の主題は、シロップを製造する方法であって、
・D-アルロース二量体を含む水性D-アルロース組成物を提供するステップ;
・保持液及び透過液を提供するために前記D-アルロース組成物をナノ濾過するステップ;
・ナノ濾過保持液を回収するステップ;
・本発明のD-アルロースシロップを提供するためにこの保持液を濃縮するステップを含む方法に関する。
【0045】
本発明において使用されるナノ濾過ステップを行うために、ナノ濾過される組成物は、ナノ濾過膜に通される。これは、一般に5%~15%の乾燥物質含有量を有する。
【0046】
このナノ濾過される組成物の温度は、10~80℃の範囲、一般に15~50℃の範囲、多くの場合に約20℃であり得る。
【0047】
この分離に使用される膜の選択方法は、当業者に周知である。このナノ濾過膜は、300Da未満、好ましくは150~250Daの範囲のカットオフ閾値を有することができる。理想的には、この膜は、少なくとも98%のMgSO4除去率を有する。これは、特にGE(登録商標)製造のDairy DK又はDuracon NF1タイプの膜であり得る。
【0048】
膜に加えられる圧力も広範囲で変動させることができ、1~50bar、好ましくは5~40bar、最も優先的には15~35barの範囲であり得る。
【0049】
このナノ濾過ステップは、ダイアフィルトレーション段階を伴い得る。
【0050】
好ましくは、ナノ濾過の体積濃度係数(FCV)は、2~20の範囲である。この体積濃度係数は、当業者によって容易に調節される。
【0051】
このナノ濾過ステップは、連続的に行うことができる。
【0052】
このナノ濾過ステップの終了時、回収された保持液は、その乾燥質量を基準として0.8%~20%、例えば1.5%~15%、特に2%~5%のD-アルロース二量体を含むことができる。これは、例えば、乾燥質量を基準として、
・75%~99%のD-アルロース;
・0%~20%のD-フルクトース;
・0%~10%のグルコース;
・0.8%~20%、例えば1.5%~15%、特に2%~5%のD-アルロース二量体
を含むことができる。
【0053】
言うまでもなく、本発明による方法は、前述の従来の方法に見られかつ以下に詳細に記載される別のステップなどの別のステップを含むことができる。本発明による方法は、追加の精製ステップ、及びさらには乾燥物質含有量を調節するため、したがって最良の条件下で本発明の方法の種々のステップを行うための、中間体を希釈又は濃縮するステップも含むことができる。これらのステップのすべては、連続的に行うことができる。
【0054】
本発明のシロップは、一般に50%以上の乾燥物質含有量を有する。乾燥物質含有量を増加させるために(保持液は、50%未満の乾燥物質含有量を有する)、濃縮ステップを行う必要があり、その間にD-アルロース二量体含有量を増加させることができる。この濃縮ステップ中、特に温度が高い場合、D-アルロース二量体の形成も起こり得る。したがって、これらの二量体が形成される量が増加する可能性をさらに高める条件を選択することができる。濃縮ステップは、減圧下又は周囲温度において減圧下で行うことができる。減圧下のステップにより、蒸発に必要な温度を低下させ、この濃縮ステップの時間を短縮することができる。これは、30~100℃の範囲の温度で行うことができる。この濃縮ステップは、1段エバポレーター又は多段エバポレーター中、例えば2段エバポレーター中で行うことができる。濃縮ステップの終了時、本発明のD-アルロースシロップを得ることができる。これは、1.5%を超えるD-アルロース二量体含有量を含む。一般に、本発明のシロップ中のD-アルロース二量体の質量含有量は、1.8%を超える、特に1.9%~20%、好ましくは2.0%~15%、例えば2.1%~8%又はさらには2.4%~5%の範囲であり得る。
【0055】
本発明の方法は、D-アルロース二量体を含む水性D-アルロース組成物を提供するステップも含む。シロップの種々の成分(特に可能性のあるD-アルロース、D-フルクトース及びグルコース)の質量含有量は、主として、提供された水性D-アルロース組成物中に含まれるこれらの成分のそれぞれの含有量によって求められる。例えば、提供される水性D-アルロース組成物が高D-アルロース含有量を有する場合、透過液及びこの透過液から得られるシロップも高D-アルロース含有量を有する。
【0056】
D-アルロース二量体を含むD-アルロース組成物を製造する従来の方法は、
・D-フルクトース溶液を提供するステップ;
・D-フルクトース及びD-アルロースを含むD-アルロース組成物を形成するために前記溶液をエピマー化するステップ;
・任意選択的に、D-アルロース組成物のD-アルロースを富化させるためのクロマトグラフィーステップ;
・任意選択的に富化されたD-アルロース組成物を濃縮するステップ
を含む。
【0057】
したがって、本発明の方法によると、D-アルロース組成物を提供するために、D-アルロース及びD-フルクトースを含む組成物のクロマトグラフィーのステップを行うことができる。この場合、D-アルロース及びD-フルクトースを含むこの組成物は、有利には、D-フルクトース溶液のエピマー化によって得られる。
【0058】
エピマー化ステップの終了時に得られる組成物よりも高いD-アルロース含有量を有する、クロマトグラフィーステップ後に得られるD-アルロース組成物は、D-アルロース二量体を含む。このD-アルロース組成物に加えて、D-フルクトース又は「ラフィネート」に富む組成物もこのクロマトグラフィーステップ中に形成される。
【0059】
エピマー化ステップを行うために提供されるD-フルクトースの組成物(ストリーム1)は、D-フルクトース結晶を水中に溶解させることによって得ることができるD-フルクトースシロップ又はグルコース/D-フルクトースシロップであり得る。優先的には、この組成物は、乾燥重量基準で少なくとも90%のD-フルクトース、優先的には少なくとも94%のD-フルクトースを含むグルコース/D-フルクトースシロップを含む。
【0060】
図2に示される1つの方式では、後のエピマー化ステップを行うために提供されるD-フルクトース組成物は、このD-フルクトースシロップと、ラフィネート(すべてのラフィネート又は一部)であり得る少なくとも1つの再循環された画分(ストリーム10又は12)との混合物(ストリーム1’)であり、この再循環された画分は、より多い量のD-アルロースを含むことができる。
【0061】
エピマー化ステップが行われるD-フルクトース組成物は、
・0%~10%のD-アルロース;
・70%~100%のD-フルクトース;
・0%~10%のグルコース;
・0%~15%のD-アルロース二量体
を含むことができる。
【0062】
エピマー化ステップは、先に提供されたD-フルクトース組成物を用いて、任意選択的に乾燥物質含有量の調節後に行われる。このステップは、一般に、30%~60%、多くの場合に45%~55%の範囲の乾燥物質含有量で行われる。D-プシコースエピメラーゼ型の酵素又はこの酵素を含む組成物がこの組成物中に導入される。この酵素を含む組成物は、D-プシコースエピメラーゼを合成する宿主微生物の凍結乾燥物であり得、前記微生物は、場合によりバチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)であり、特に出願国際公開第2015/032761A1号パンフレットに記載のものである。pHは、使用される酵素により、例えば5.5~8.5の範囲のpHに調節される。反応は、40~70℃の範囲、多くの場合に45~60℃の範囲の温度に加熱することによって行うことができる。反応は、0.1~100時間、例えば0.2~60時間続けることができる。この反応は、例えば、酵素カラム上で行うことができ、したがってこのステップで連続的に行うためにも有利である。連続的に運転するために、数個の反応器を用いて順次行うこともできる。このエピマー化ステップを行うために、特に文献国際公開第2015/032761A1号パンフレットの教示を用いることができる。
【0063】
この反応の終了時、一般に85/15~55/45の範囲のD-フルクトース/D-アルロース重量比により、多くの場合に80/20~60/40の範囲のD-フルクトース/D-アルロース重量比により、D-フルクトース及びD-アルロースを含む組成物が形成される。この比率は、使用されるエピマー化パラメーターに依存し、エピマー化ステップに提供されるD-フルクトース組成物中のD-アルロース及びD-フルクトースの量に非常に明らかに依存し、この組成物中のD-アルロースの量は、再循環の場合に特に多く
なり得る。
【0064】
このエピマー化ステップの終了時、必要に応じて、特に宿主微生物の凍結乾燥物が使用される場合、場合により存在する細胞の破片を回収するために濾過ステップを行うことができる。このステップは、精密濾過ステップからなることができる。精密濾過された組成物は、ストリーム3に対応し、細胞の破片は、ストリーム8中に回収される。
【0065】
本発明の方法では、さらなる精製ステップを行うこともできる。一般に行われるのは、クロマトグラフィーステップ前の、D-フルクトース及びD-アルロースを含む組成物(ストリーム3)の脱塩のステップであり、これは、1つ以上の陽イオン交換樹脂(例えば、Dowex 88タイプの陽イオン樹脂)、陰イオン交換樹脂(例えば、Dowex 66タイプの陰イオン樹脂)及び陽イオン性-陰イオン性の混合物に組成物を通すことによって行うことができる。
図3では、この組成物は、ストリーム4に対応する。得られたD-フルクトース及びD-アルロースを含む組成物は、次に脱塩されて、一般に100kΩ・cm
-1を超える抵抗率を有する。この脱塩ステップ前に、例えば活性炭を含むカラムにそれを通すことによる、D-フルクトース及びD-アルロースを含む組成物の脱色ステップを行うこともできる。
【0066】
クロマトグラフィーステップが行われる組成物は、その乾燥質量を基準として、
・22%~45%、一般に23%~37%のD-アルロース;
・45%~75%、一般に46%~70%のD-フルクトース;
・0%~10%のグルコース;
・2%~10%のD-アルロース二量体
を含むことができる。
【0067】
このクロマトグラフィーステップを行うために、あらゆる種類の連続クロマトグラフィー、特に擬似移動床(SMB)型、改良擬似移動床(ISMB)型、分配改良擬似移動床(DISMB)型、連続擬似移動床(SSMB)型又は日本三菱クロマトグラフィー改良(NMCI)型クロマトグラフィーを使用することができる。水が一般に溶離液として使用される。クロマトグラフには、直列の数本のカラム、例えば4~8本のカラムを取り付けることができる。これらのカラムは、イオン交換樹脂、例えばカルシウムイオンを交換するための陽イオン樹脂を含む。D-フルクトース及びD-アルロースを含む組成物の乾燥物質含有量は、40%~70%の範囲であり得、一般に約50%である。クロマトグラフィー中の組成物の温度は、一般に40~80℃の範囲、好ましくは55~65℃の範囲である。このクロマトグラフィーは、十分な分離が行われるのに必要な時間続けられ、数時間続けることができる。
【0068】
このステップの終了時、その乾燥物質含有量を基準として少なくとも80%のD-アルロース、有利には少なくとも90%のD-アルロースを含むことができるD-アルロースに富む組成物(ストリーム5)が得られる。このD-アルロースに富む組成物は、5%~15%の範囲の乾燥物質含有量を有することができる。このステップの終了時、一般に、その乾燥物質含有量を基準として少なくとも75%のD-フルクトース、多くの場合に少なくとも80%のD-フルクトースを含むラフィネート(ストリーム10)も得られる。このラフィネートは、一般に約15%~30%の範囲の乾燥物質含有量を有する。
【0069】
本発明による方法は、ナノ濾過透過液(
図2のストリーム9)及び/又はラフィネート(
図2のストリーム10)の少なくとも一部を再循環させるステップを含むことができる。
【0070】
シロップは、食品又は医薬品の製造に使用することができる。したがって、本発明のシ
ロップは、D-アルロースの周知の用途、一般に甘味料に使用することができる。本発明のシロップは、有利には、結晶化しないことが好ましい用途に使用される。したがって、本発明のシロップは、有利には、飲料、キャラメル、デンプンゼリー、ソース、ビネグレット、ジャム、フルーツフィリング、栄養バー、シリアルバー、ピザ、フルーツ及びナッツのバー、ヨーグルトもしくはアイスクリームなどの乳製品もしくはシャーベットの製造に使用されるか、又は湿潤剤として使用される。
【0071】
ここで、本発明を以下の実施例の項で説明する。これらの実施例は、本発明を限定するものではないことに留意されたい。
【実施例】
【0072】
分析方法
ガスクロマトグラフィー
使用されるガスクロマトグラフは、Varian 3800タイプであり、
- スプリット-スプリットレスインジェクター(ディバイダーを有する又は有さない);
- 炎イオン化検出器(FID);
- 検出器からの信号を処理するためのコンピューターシステム;
- 自動サンプラー(タイプ8400)
が取り付けられる。
【0073】
種々の量がガスクロマトグラフィーによってメトキシ化トリメチルシリル誘導体の形態で求められ、次に内部較正法によって定量される。
【0074】
D-アルロース、D-フルクトース及びグルコースの含有量の測定
使用される応答係数は、D-アルロース及びD-フルクトースの場合に1.25であり、グルコースの場合に1.23である。他の単糖は検出されない。
【0075】
試料の調製
風袋の皿内において、試験される試料100~300mgと、ピリジン中0.3mg/mlのメチルα-D-グルコピラノシドからなる10mlの内部標準溶液とを秤量する。風袋の皿から0.5mlを取り出し、2mlのポット中に入れ、窒素ストリーム下で蒸発乾固させる。20mgのメトキシルアミン塩酸塩及び1mlのピリジンを加える。栓をして、70℃のReacti-therm(登録商標)インキュベーションシステム中に40分間入れる。0.5mlのN,O-ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミド(BSTFA)を加える。70℃で30分間加熱する。
【0076】
クロマトグラフィー条件
カラム:DB1キャピラリー40メートル、内径0.18mm、膜厚0.4μm、100%がジメチルポリシロキサンで構成される、非極性(J&W Scientific参照番号:121-1043)
カラム温度:プログラミングにより3℃/分の速度で100℃から260℃まで、次に15℃/分で300℃まで、300℃で5分間維持。
インジェクター温度:300℃
検出器温度:300℃(レンジ10-12)
圧力:40psi(一定流量)
ベクターガス:ヘリウム
注入モード:スプリット(スプリット流量:100ml/分)
注入体積:1.0μl
【0077】
D-アルロース、D-フルクトース及びグルコースをこの順序で検出した。未知であったD-アルロースは、これらの条件下で39.5~40分の保持時間を有する。
【0078】
D-アルロース二量体及びグルコース-グルコース二量体の含有量の測定
使用される応答係数は、D-アルロース二量体及びマルトースの場合に1.15であり、イソマルトースの場合に1.08である。他のグルコース二量体は検出されなかった。
【0079】
試料の調製:
風袋の皿内において、試験される試料100~300mgと、ピリジン中0.3mg/mlのフェニルβ-D-グルコピラノシドからなる10mlの内部標準溶液とを秤量する。
【0080】
風袋の皿から0.5mlを取り出し、2mlのポット中に入れ、窒素ストリーム下で蒸発乾固させる。
【0081】
ピリジン中40g/lのヒドロキシルアミン塩酸塩の溶液0.5mlを採取し、栓をして撹拌し、70℃で40分間維持する。
【0082】
0.4mlのBSTFA及び0.1mlのN-トリメチルシリルイミダゾール(TSIM)を加える。70℃で30分間加熱する。
【0083】
クロマトグラフィー条件
カラム:DB1キャピラリー30メートル、内径0.32mm、膜厚0.25μm(J&W Scientific参照番号:123-1032)
カラム温度:プログラムにより5℃/分の速度で200℃から280℃まで(6分間維持)、次に5℃/分で320℃まで、320℃で5分間維持。
インジェクター温度:300℃
検出器温度:300℃(レンジ10-12)
圧力:14psi(一定流量)
ベクターガス:ヘリウム
注入モード:スプリット(スプリット流量:80ml/分)
注入体積:1.2μl
【0084】
結果の表示:
種々の成分の含有量は、粗生成物100g当たりのgの単位で表され、以下の式:
【数1】
(式中、
Si=成分iのピークの表面積であり、
Se=内部標準ピークの表面積であり、
Pe=ビーカー中に導入された内部標準の重量(単位mg)であり、
P=秤量した試料の重量(単位mg)であり、
Ki=成分iの応答係数である)
によって求められる。
【0085】
成分の1つで得られるパーセント値(本明細書では未精製物基準で表される)が20%を超える場合、20%未満の質量を得るために、試料を希釈してGC分析を再開する。
【0086】
未精製物基準で表される質量は、次に、試験される試料の乾燥物質含有量で割ることにより、乾燥基準で表される。
【0087】
特性ピークが共溶出することはないため、D-アルロース、D-フルクトース及びグルコースの質量は容易に求められる。
【0088】
マルトース及びD-アルロース二量体のピークは、共溶出する場合がある。しかし、本発明のシロップ及び以下の実施例に記載のシロップ中にマルトースが決して存在しないことに留意されたい。
【0089】
マルトースの特性ピークが検出されない場合、D-アルロース二量体の表面積Siは、10~17分の未知のピークの積分によって求められる。マルトースの特性ピークが検出される場合(本発明のシロップの場合であり得る)、マルトースの量が求められ、この量が二量体の総量から引かれる。
【0090】
グルコース-グルコース二量体の総量を求めるために、試料に対して以下のプロトコルが行われる。
・塩化水素加水分解
Teflon製のねじ蓋付の15mlの加水分解管中において、ほぼ正確に50~500mgの試料を秤量し(予想される糖含有量により秤量を調節する)、2つの目盛線のピペットを用いて2mlの内部標準溶液(浸透水中5mg/mlのガラクチトール)を加え、3mlの水及び5mlの4NのHCl溶液を加える。
【0091】
栓で密閉して、ボルテックススターラーで1分間撹拌する。管を、100℃に調節された恒温ドライバス中に1時間入れ、時々ボルテックスで撹拌する。
【0092】
・脱塩及び濃縮
冷却後、加水分解物全体を50mlのビーカー中に入れる。陰イオン樹脂のAG4 X
4及びAG50 W 8の50/50混合物6~8gを加える。5分間磁気撹拌する。濾紙で濾過する。リカーを回収し、水に近いpHが得られるまでこの脱塩ステップを繰り返す。
【0093】
・試料の調製
風袋の皿内において、試験される試料100~300mgと、ピリジン中0.3mg/mlのメチルα-D-グルコピラノシドからなる10mlの内部標準溶液とを秤量する。風袋の皿から0.5mlを取り出し、2mlのポット中に入れ、窒素ストリーム下で蒸発乾固させる。20mgのメトキシルアミン塩酸塩及び1mlのピリジンを加える。栓をして、70℃のReacti-therm(登録商標)中に40分間入れる。0.5mlのBSTFA絵を加える。70℃で30分間加熱する。
【0094】
溶液の全グルコース量(「遊離」と呼ばれる初期グルコースと、加水分解によって得られ、特にルトース及びイソマルトースの存在に関連するグルコースとを含む)は、グルコースのGC分析によって求められる。マルトースの量と、10~17分のピークに帰属する二量体の総量からの差によるD-アルロース二量体の量とは、それより容易に推定される。
【0095】
実施例1:D-アルロースシロップの連続工業的製造方法の実施
実施例1は、非結晶性D-アルロースシロップの連続製造方法からなる。使用される方法のステップは、
図1に詳細に示されている。ステップ1~5のストリームの組成及び流量は、表1aに示されている。
【0096】
ステップ1:
50%の乾燥物質含有量(DM)で95%のD-フルクトースを含む17.3メートルトンのFructamyl D-フルクトースシロップ(Tereos)(ストリーム1)を、14m3の作業容積を有する撹拌バッチ反応器中に導入する。ストリーム1を55℃に維持する。特許国際公開第2015/032761号パンフレットに詳細に記載されるD-プシコース3エピメラーゼ酵素のバチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)宿主株の凍結乾燥物を、反応器中で3.3×107単位の活性を有するのに十分な量でタンク中に導入する。360kg/hの流量でフルクトース及びアルロースから本質的に構成されるシロップ(ストリーム2)を連続的に提供するように、3つの反応器が連続的に使用される。
【0097】
反応条件は、以下の通りである。
・温度:55℃
・pH=7
・反応時間48h
【0098】
反応終了時、得られたストリーム2は、約25%のD-アルロースのリッチネス及び約75%のD-フルクトースのリッチネスを含む。
【0099】
ステップ2:
バッチ作業中にストリーム2を精密濾過膜に通す。細胞の破片を含まないストリーム3が得られ、これとともにバチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)凍結乾燥物由来の破片を含む精密濾過保持液(ストリーム8)が得られ、これは、回路から流し出される。精密濾過のパラメーターは、以下の通りである。
・膜間差圧:0~3bar
・細孔径:0.1μm
・温度:50℃
・平均流量:15L/h/m2
・膜:Sepro PS35
・体積濃度係数:33
【0100】
ステップ3:
Dowex 88強陽イオン樹脂、続いてDowex 66弱陰イオン樹脂上、2BV/hの平均流量でストリーム3を脱塩する。カルボイを45℃の温度に維持すると、脱塩終了時のストリーム4の抵抗率は、出口(ストリーム4)で依然として100kΩ・cm-1を超える。これが該当しない場合、樹脂の再生を行う。
【0101】
ステップ4:
ストリーム4は、回路の連続クロマトグラフィー(8本のカラムを取り付けたSCC ARI(登録商標))に供給される。平均供給流量は、50%DMにおいて348kg/hである。
【0102】
クロマトグラフィーのパラメーターは、以下のように規定される。
・体積/カラム:2m3
・樹脂:Dowex Monosphere 99Ca/320
・温度:60℃
・流量 水/ストリーム4(vol./vol.):2.4
・負荷:0.09h-1
【0103】
ラフィネート(ストリーム10)と、ステップ5に進むD-アルロースに富む画分(ストリーム5)との2つの画分が抽出される。ストリーム10は、流し出される。
【0104】
ステップ5:
ストリーム5は、バッチ方式でナノ濾過膜に通される。そのパラメーターは、以下の通りである。
・膜間差圧:30bar
・温度:20℃
・膜:GE Duracon NF1 8040C35
・体積濃度係数VCF:10
【0105】
アルロース二量体は、保持液(ストリーム6)中に濃縮される。透過液(ストリーム9)は、流し出される。
図6は、VCFの関数としてのシロップの透過の詳細を示す。
【0106】
ステップ6:
ストリーム6は、エバポレーターに通される。第2段で77%の乾燥物質に到達する。このステップの終了時にD-アルロースシロップ(ストリーム7)が得られる。
【0107】
本発明のシロップ(ストリーム7)の特性が表1bに再現される。
【0108】
【0109】
【0110】
得られるシロップは、周囲温度において非結晶性である。
【0111】
同一のプロセスでナノ濾過ステップが行われないと、得られるD-アルロースシロップは、同様であるが、乾燥質量で表されるD-アルロース二量体の量が1.5%となることが異なる。
【0112】
実施例2:種々のD-アルロースシロップの結晶性の評価
実施例2は、77%の乾燥物質含有量及び約95%のD-アルロースのリッチネスを有する種々のD-アルロースシロップの調製を含む。
【0113】
これらのシロップの調製は、種々のジアルロース含有量が得られるようにナノ濾過ステップ5の体積濃度係数を調節することにより、又はシロップを調製し、得られた透過液又は保持液をD-アルロース結晶又はD-フルクトース結晶と混合することにより、及び/又はより小さい排除閾値ナノ濾過膜を用いることにより行われる。これにより、D-アルロース含有量を約95%に維持しながら、種々の成分の含有量を調節することができる。シロップの乾燥物質の組成は、表2に見られる。
【0114】
シロップの結晶性を評価するために、70μmの平均粒度を有するふるい分けしたD-アルロース結晶開始剤をそれぞれのシロップ中に0.3%(開始剤の質量/乾燥物質の質量)の比率で導入する。
【0115】
こうして開始されるそれぞれのシロップを次に4℃又は15℃の冷蔵庫に4週間入れる。
【0116】
この期間の終了時、カール・フィッシャー法を用いて試料の上澄み(又は母液)の乾燥物質を測定する。シロップの結晶化が多くなるほど、上澄みの乾燥物質が少なくなる(シロップの乾燥物質は、D-アルロース結晶中に濃縮されているからである)。
【0117】
この試験中に行われる開始により、加速された方法で特に低温における貯蔵安定性の研究が可能となる。
【0118】
【0119】
【0120】
これらの試験は、例えば、グルコース又はフルクトースとは逆に、D-アルロースの二量体が、それを含むD-アルロースシロップの結晶性に顕著な影響を与える化合物であることを示す。
【0121】
したがって、D-アルロースの量が依然として同様であるとしても、シロップ中のD-アルロース二量体の量が多いほど、D-アルロースシロップの結晶性が低くなる。
【0122】
これらの試験は、1.5%を超えるD-アルロース二量体を含むシロップが低温において非常に改善された貯蔵安定性を示すことを実証している。これは、利点であり、なぜなら、これにより、シロップは、少なくとも部分的に再溶融させるためにシロップを再加熱する必要なしに(又はより少ない程度で再加熱することにより)使用前の取り扱いがより容易になり得るからである。
【0123】
実施例3.短いテクスチャーを有するキャラメルの製造
発明によるD-アルロースシロップ(試料10)を含む短い(柔らかい)テクスチャーを有するキャラメル組成物を製造した。
【0124】
表3は、配合したキャラメルの組成を示す。
【0125】
【0126】
本発明のシロップから得られたソフトキャラメルは、優れた非常に短いテクスチャーを有する。
【0127】
実施例4.ケチャップソースの製造
本発明によるD-アルロースシロップ(試料10)を含むケチャップソースを基準ケチャップソースとともに製造した。
【0128】
【0129】
2つのソースの乾燥重量基準の糖類の量は、同じであるが、本発明のソースを用いるとカロリー量が43%減少する。本発明のソースは、甘味が減少し、より光沢があり、これは、この種類のソースの場合に利点となる。
【0130】
本発明のシロップから製造されたケチャップは、凝集物がなく滑らかなテクスチャーを有し、これは、D-アルロースの非結晶化と同じことを意味する。
【0131】
さらに、本発明のシロップから製造されたケチャップは、優れた流動性を示し、これは、冷蔵庫中で1週間貯蔵した後でもソースが結晶化しないという事実のためである。
【0132】
実施例5.バーベキューソースの製造
本発明によるD-アルロースシロップ(試料10)を含むバーベキューソースを基準バーベキューソースとともに製造した。
【0133】
【0134】
方法
乾燥形態の成分を秤量し、互いに混合する。トマトソース及び水をミキサー中で混合し、次に乾燥形態の成分を加える。乾燥形態のこれらの成分を混合した後、シロップ及び酢を加え、十分に混合する。混合物を皿に入れ、含水量が約74%になるまで加熱する。
【0135】
【0136】
【0137】
本発明のソースは、カロリー量が57%減少するが、同量の糖類を含む。
【0138】
粘稠ではあるが、本発明のソースは、非常に滑らかなテクスチャーを有し、これは、D-アルロースの非結晶化と同じことを意味する。
【0139】
実施例6.ジャムの製造
本発明によるD-アルロースシロップ(試料10)を含むジャムを基準ジャムとともに製造した。
【0140】
【0141】
イチゴを洗い、押しつぶして種を取り除く。イチゴピューレ、シロップ及びペクチンを混合し、耐熱皿中で加熱する。数分間の煮沸後、約57%の乾燥物質が得られるように耐熱皿の加熱を止め、クエン酸を加え、混合物を冷却する。
【0142】
【0143】
【0144】
観察:
D-アルロースシロップから作製したジャムは、加熱中に色が濃くならない。これは、pHが酸性であり、未変性のタンパク質を含まないためと推測される。本発明のジャムのカロリー量は、カロリー量が74%減少するという利点を有する。本発明のジャムの色は、基準ジャムよりもわずかに色が濃く(より赤く)、これは、ジャムの利点となる。
【0145】
本発明のシロップから製造されたジャムは、非常にわずかに結晶性のシロップ(これは、実質的に同等の量のグルコース及びフルクトースの混合物を含む)を用いる基準ジャムと同様の滑らかなテクスチャーを有するという利点も有する。
【0146】
実施例7.冷凍ピザのトッピングの接着剤としてのシロップの使用
この実施例では、本発明によるD-アルロースシロップ(試料10)を使用した。
【0147】
一般に、冷凍ピザのトッピングのチーズは、ピザから外れる傾向がある。したがって、グルコース-フルクトースシロップであり得る接着剤層が接着性を改善するために用いられる。しかし、この接着剤の結晶化が速すぎると、接着させるのではなくチーズをピザから分離する原因となり得る。この接着剤は、甘味が少ないことが有利となる。
【0148】
プロトコル
ピザ生地を伸ばし、次に245℃のオーブン中に8分間入れる。
【0149】
焼けた後に生地を冷まし、次にピザソースで覆う。次に、任意選択的にピザに4gのシロップ(又は水)を吹き付け、50gの粉モツァレラチーズを振り掛け、次に任意選択的にピザに4gのシロップ(又は水)を再び吹き付ける。
【0150】
アルミニウム箔で覆ったピザを冷凍庫に4日間入れる。次に、アルミニウム箔を前記ピザから取り外す。第1の試験は、冷凍ピザをひっくり返すことを含み、ピザから落下した
チーズを回収する。第2の試験は、同様に行うことを含み、解凍してからピザをひっくり返す。
【0151】
次に、ピザを焼いて官能分析を行う。
【0152】
【0153】
本発明のシロップから得られた接着剤を用いたピザ(解凍あり又はなし)からのチーズの落下は観察されず、HFCS 42と同様であるが、HFCS 42自体は、基準ピザよりも甘味が強い。基準ピザの場合、解凍し、次にひっくり返すと32%のチーズが落下する。同じ試験によると、接着剤として水を用いると28%のチーズが落下する。
【0154】
実施例8.アイスクリーム組成物
以下の処方により糖分の少ないアイスクリーム組成物を作製した。
脱脂粉乳 400g
水 1801.2g
安定剤 12g
スクロース 160g
アルロース 440g
バニラ 28g
全乳 1160g
合計 4000g
【0155】
得られたアイスクリームは、口内においてクリーミーで滑らかなテクスチャーを有した。