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特許7483154非水系二次電池用セパレータ及び非水系二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-02
(45)【発行日】2024-05-14
(54)【発明の名称】非水系二次電池用セパレータ及び非水系二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/451 20210101AFI20240507BHJP
   H01M 50/417 20210101ALI20240507BHJP
   H01M 50/434 20210101ALI20240507BHJP
   H01M 50/443 20210101ALI20240507BHJP
   H01M 50/446 20210101ALI20240507BHJP
   H01M 50/426 20210101ALI20240507BHJP
   H01M 50/423 20210101ALI20240507BHJP
【FI】
H01M50/451
H01M50/417
H01M50/434
H01M50/443 M
H01M50/446
H01M50/426
H01M50/423
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023552542
(86)(22)【出願日】2023-04-27
(86)【国際出願番号】 JP2023016770
(87)【国際公開番号】W WO2023210788
(87)【国際公開日】2023-11-02
【審査請求日】2023-08-30
(31)【優先権主張番号】P 2022075141
(32)【優先日】2022-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藏谷 理佳
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 真人
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 恵美
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】特表2022-517191(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103746087(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質基材と、
前記多孔質基材の片面又は両面に設けられ、樹脂及びバリウム化合物粒子を含む多孔質層と、を備え、
前記多孔質層に含まれるバリウム化合物粒子の平均一次粒径が0.30μm以上0.50μm未満であり、
前記多孔質層の空孔を除いた体積に占める前記バリウム化合物粒子の体積割合が5体積%超70体積%未満である、
非水系二次電池用セパレータ。
【請求項2】
前記バリウム化合物粒子が硫酸バリウム粒子を含む、
請求項1に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項3】
前記樹脂がポリフッ化ビニリデン系樹脂を含む、
請求項1に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項4】
前記樹脂が、全芳香族ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリ-N-ビニルアセトアミド、ポリアクリルアミド、共重合ポリエーテルポリアミド、ポリイミド及びポリエーテルイミドからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、
請求項1に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項5】
前記多孔質層の目付が、前記多孔質基材の両面合計で、2.0g/m以上20.0g/m以下である、
請求項1に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項6】
前記多孔質層に含まれる前記バリウム化合物粒子の単位面積重量が、前記多孔質基材の両面合計で、0.3g/m以上19.0g/m以下である、
請求項1に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項7】
前記多孔質層に含まれる前記バリウム化合物粒子の単位面積重量が、前記多孔質基材の両面合計で、1.5g/m 以上10.0g/m 以下である、
請求項1に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項8】
前記多孔質層の空孔を除いた体積に占める前記バリウム化合物粒子の体積割合が40体積%以上70体積%未満である、
請求項1に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項9】
前記多孔質層に含まれる前記バリウム化合物粒子の単位面積重量が、前記多孔質基材の両面合計で、1.5g/m 以上10.0g/m 以下である、
請求項8に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項10】
正極と、負極と、前記正極及び前記負極の間に配置された請求項1~請求項のいずれか1項に記載の非水系二次電池用セパレータと、を備え、リチウムイオンのドープ及び脱ドープにより起電力を得る非水系二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非水系二次電池用セパレータ及び非水系二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、硫酸バリウム粒子と有機合成樹脂成分とを含む耐熱性多孔層を有し、耐熱性多孔層に含まれる硫酸バリウム粒子の含有量が、硫酸バリウム粒子と有機合成樹脂成分の合計体積の70体積%以上96体積%以下であり、かつ1.8g/m以上19.8g/m以下である電池用セパレータが開示されている。
【0003】
特許文献2には、X線検出可能成分を含み、X線検出可能成分が金属、金属酸化物、金属リン酸塩、金属炭酸塩、X線蛍光物質、金属塩、金属硫酸塩、及びこれらの混合物からなる群から選ばれる少なくとも2つの成分の混合物を含む、リチウム二次電池用のセパレータが開示されている。
【0004】
特許文献3には、耐熱性多孔質層に含まれる硫酸バリウム粒子の平均一次粒径が0.01μm以上0.30μm未満である非水系二次電池用セパレータが開示されている。
【0005】
特許文献1:国際公開第2021/029397号
特許文献2:特開2021-093376号公報
特許文献3:国際公開第2019/146155号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電池内部での電極とセパレータの位置ずれは、電池の短絡及び発火の原因となる。電池の安全性の向上のために、電池の製造工程において、電極とセパレータの位置ずれを電池外部から検知する技術が求められている。
【0007】
電極の集電体は、一般的に金属箔でありX線を透過しない。X線を照射する撮像法(例えばX線CT(X-ray Computed Tomography))により、電池内部の電極の位置を電池外部から検知できる。さらにセパレータがX線透過性の低いセパレータであれば、X線を照射する撮像法により、電極とセパレータの位置ずれを電池外部から検知できる。
【0008】
電池の短絡及び発火を防止するには、電池が外部からの機械的な衝撃に耐えることも重要である。
【0009】
電池のサイクル寿命の長さは、二次電池に当然要求される性能である。
【0010】
本開示は、上記状況のもとになされた。
本開示は、電極との位置ずれをX線で検知可能であり、電池の耐衝撃性とサイクル特性とを向上させる非水系二次電池用セパレータを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するための具体的手段には、以下の態様が含まれる。
<1>
多孔質基材と、前記多孔質基材の片面又は両面に設けられ、樹脂及びバリウム化合物粒子を含む多孔質層と、を備え、
前記多孔質層に含まれるバリウム化合物粒子の平均一次粒径が0.30μm以上0.50μm未満であり、前記多孔質層の空孔を除いた体積に占める前記バリウム化合物粒子の体積割合が5体積%超70体積%未満である、非水系二次電池用セパレータ。
<2>
前記バリウム化合物粒子が硫酸バリウム粒子を含む、<1>に記載の非水系二次電池用セパレータ。
<3>
前記樹脂がポリフッ化ビニリデン系樹脂を含む、<1>又は<2>に記載の非水系二次電池用セパレータ。
<4>
前記樹脂が、全芳香族ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリ-N-ビニルアセトアミド、ポリアクリルアミド、共重合ポリエーテルポリアミド、ポリイミド及びポリエーテルイミドからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、<1>~<3>のいずれか1項に記載の非水系二次電池用セパレータ。
<5>
前記多孔質層の目付が、前記多孔質基材の両面合計で、2.0g/m以上20.0g/m以下である、<1>~<4>のいずれか1項に記載の非水系二次電池用セパレータ。
<6>
前記多孔質層に含まれる前記バリウム化合物粒子の単位面積重量が、前記多孔質基材の両面合計で、0.3g/m以上19.0g/m以下である、<1>~<5>のいずれか1項に記載の非水系二次電池用セパレータ。
<7>
正極と、負極と、前記正極及び前記負極の間に配置された<1>~<6>のいずれか1項に記載の非水系二次電池用セパレータと、を備え、リチウムイオンのドープ及び脱ドープにより起電力を得る非水系二次電池。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、電極との位置ずれをX線で検知可能であり、電池の耐衝撃性とサイクル特性とを向上させる非水系二次電池用セパレータが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本開示の実施形態について説明する。これらの説明及び実施例は実施形態を例示するものであり、実施形態の範囲を制限するものではない。
【0014】
本開示において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0015】
本開示において「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0016】
本開示において組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計量を意味する。
本開示において各成分に該当する粒子は複数種含んでいてもよい。組成物中に各成分に該当する粒子が複数種存在する場合、各成分の粒径は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の粒子の混合物についての値を意味する。
【0017】
本開示において、MD(Machine Direction)とは、長尺状に製造される多孔質基材及びセパレータにおいて長尺方向を意味し、TD(Transverse Direction)とは、多孔質基材及びセパレータの面方向においてMDに直交する方向を意味する。本開示において、TDを「幅方向」ともいう。
【0018】
本開示において、セパレータを構成する各層の積層関係について「上」及び「下」で表現する場合、多孔質基材に対してより近い層について「下」といい、多孔質基材に対してより遠い層について「上」という。
【0019】
本開示において、多孔質層の空孔を除いた体積を「固形分体積」という。
【0020】
<非水系二次電池用セパレータ>
本開示の非水系二次電池用セパレータ(本開示において単に「セパレータ」ともいう。)は、多孔質基材と、多孔質基材の片面又は両面に設けられた、樹脂及びバリウム化合物粒子を含む多孔質層とを備える。当該多孔質層は、多孔質基材の片面又は両面に設けられた、セパレータの最外層であることが好ましい。
【0021】
本開示における多孔質層についての説明は、多孔質基材の片面それぞれの多孔質層についての説明である。本開示のセパレータは、多孔質基材の少なくとも片面に、樹脂及びバリウム化合物粒子を含む多孔質層を有していればよい。本開示のセパレータの実施形態例として、下記の形態例(1)~(3)が挙げられる。
【0022】
(1)多孔質基材の両面に、樹脂及びバリウム化合物粒子を含む多孔質層を有するセパレータ。当該セパレータにおいて一方の面の多孔質層と他方の面の多孔質層とは、成分及び/又は組成において同じでもよく異なっていてもよい。
(2)多孔質基材の一方の面に、樹脂及びバリウム化合物粒子を含む多孔質層を有し、多孔質基材の他方の面に別の層を有するセパレータ。
(3)多孔質基材の一方の面に、樹脂及びバリウム化合物粒子を含む多孔質層を有し、多孔質基材の他方の面に層を有しない(つまり、多孔質基材の表面が露出している。)セパレータ。
【0023】
本開示のセパレータは、樹脂及びバリウム化合物粒子を含む多孔質層を有する。バリウム化合物はX線透過性が低いゆえ、バリウム化合物粒子を適切な量含む多孔質層は、X線を照射する撮像法(例えばX線CT)による検知が可能である。
多孔質層に含まれるバリウム化合物粒子としては、例えば、硫酸バリウム粒子、炭酸バリウム粒子、チタン酸バリウム粒子、酸化バリウム粒子、過酸化バリウム粒子、硝酸バリウム粒子などが挙げられる。バリウム化合物粒子は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0024】
本開示のセパレータは、樹脂及びバリウム化合物粒子を含む多孔質層を有し、当該多孔質層に含まれるバリウム化合物粒子の平均一次粒径が0.30μm以上0.50μm未満である。
【0025】
多孔質層に含まれるバリウム化合物粒子の平均一次粒径が0.30μm未満であると、電池がサイクル特性に劣る。電池のサイクル特性を上げる観点から、多孔質層に含まれるバリウム化合物粒子の平均一次粒径は、0.30μm以上であり、0.32μm以上が好ましく、0.35μm以上がより好ましく、0.38μm以上が更に好ましい。
【0026】
多孔質層に含まれるバリウム化合物粒子の平均一次粒径が0.50μm以上であると、電池が耐衝撃性に劣る。電池の耐衝撃性を上げる観点から、多孔質層に含まれるバリウム化合物粒子の平均一次粒径は、0.50μm未満であり、0.48μm以下が好ましく、0.45μm以下がより好ましく、0.42μm以下が更に好ましい。
【0027】
多孔質層に含まれるバリウム化合物粒子の平均一次粒径は、電池のサイクル特性と耐衝撃性とを両立する観点から、0.30μm以上0.50μm未満であり、0.32μm以上0.48μm以下が好ましく、0.35μm以上0.45μm以下がより好ましく、0.38μm以上0.42μm以下が更に好ましい。
【0028】
多孔質層に含まれるバリウム化合物粒子の平均一次粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察において無作為に選んだバリウム化合物粒子100個の長径を計測し、100個の長径を平均することで求める。SEM観察に供する試料は、多孔質層を形成する材料であるバリウム化合物粒子、又は、セパレータの多孔質層から取り出したバリウム化合物粒子である。セパレータの多孔質層からバリウム化合物粒子を取り出す方法に制限はない。当該方法は、例えば、セパレータから剥がした多孔質層を、樹脂を溶解する有機溶剤に浸漬して有機溶剤で樹脂を溶解させバリウム化合物粒子を取り出す方法;セパレータから剥がした多孔質層を800℃程度に加熱して樹脂を消失させバリウム化合物粒子を取り出す方法;などである。
【0029】
本開示のセパレータは、樹脂及びバリウム化合物粒子を含む多孔質層を有し、当該多孔質層の固形分体積に占めるバリウム化合物粒子の体積割合が5体積%超70体積%未満である。
【0030】
多孔質層の固形分体積に占めるバリウム化合物粒子の体積割合が5体積%以下であると、電池内部のセパレータを電池外部からX線によって検知することが難しく、また、電池の耐衝撃性に劣る。X線による検知を可能にし、また、電池の耐衝撃性を向上させる観点から、多孔質層の固形分体積に占めるバリウム化合物粒子の体積割合は、5体積%超であり、20体積%以上が好ましく、30体積%以上がより好ましく、40体積%以上が更に好ましい。
【0031】
多孔質層の固形分体積に占めるバリウム化合物粒子の体積割合が70体積%以上であると、電池がサイクル特性に劣る。電池のサイクル特性を上げる観点から、多孔質層の固形分体積に占めるバリウム化合物粒子の体積割合は、70体積%未満であり、68体積%以下が好ましく、65体積%以下がより好ましく、63体積%以下が更に好ましい。
【0032】
多孔質層の固形分体積に占めるバリウム化合物粒子の体積割合は、X線による検知と電池の耐衝撃性及びサイクル特性とを両立する観点から、5体積%超70体積%未満であり、20体積%以上68体積%以下が好ましく、30体積%以上65体積%以下がより好ましく、40体積%以上63体積%以下が更に好ましい。
【0033】
多孔質層の固形分体積に占めるバリウム化合物粒子の体積割合V(体積%)は、下記の式により求める。
V={(Xa/Da)/(Xa/Da+Xb/Db+Xc/Dc+…+Xn/Dn)}×100
ここに、多孔質層の構成材料のうち、バリウム化合物粒子がaであり、その他の構成材料がb、c、…、nであり、所定面積の多孔質層に含まれる各構成材料の質量がXa、Xb、Xc、…、Xn(g)であり、各構成材料の真密度がDa、Db、Dc、…、Dn(g/cm)である。
上記の式に代入するXa等は、所定面積の多孔質層の形成に使用する構成材料の質量(g)、又は、所定面積の多孔質層から取り出した構成材料の質量(g)である。
上記の式に代入するDa等は、多孔質層の形成に使用する構成材料の真密度(g/cm)、又は、多孔質層から取り出した構成材料の真密度(g/cm)である。
【0034】
多孔質層に含まれるバリウム化合物粒子の単位面積重量は、多孔質基材の両面合計で、0.3g/m以上であることが好ましい。バリウム化合物粒子の単位面積重量が0.3g/m以上であると、電池内部のセパレータを電池外部からX線によって検知しやすい。この観点から、多孔質層に含まれるバリウム化合物粒子の単位面積重量は、0.5g/m以上がより好ましく、1.0g/m以上が更に好ましく、1.5g/m以上が特に好ましい。
【0035】
多孔質層に含まれるバリウム化合物粒子の単位面積重量は、多孔質基材の両面合計で、19.0g/m以下であることが好ましい。バリウム化合物粒子の単位面積重量が19.0g/m以下であると、多孔質層を均一性高く形成することが容易であり、電池のサイクル特性が向上する。この観点から、多孔質層に含まれるバリウム化合物粒子の単位面積重量は、17.0g/m以下がより好ましく、15.0g/m以下が更に好ましく、10.0g/m以下が特に好ましい。
【0036】
多孔質層に含まれるバリウム化合物粒子の単位面積重量は、多孔質基材の両面合計で、0.3g/m以上19.0g/m以下が好ましく、0.5g/m以上17.0g/m以下がより好ましく、1.0g/m以上15.0g/m以下が更に好ましく、1.5g/m以上10.0g/m以下が特に好ましい。
【0037】
多孔質層に含まれるバリウム化合物粒子の単位面積重量(g/m)とは、多孔質層を平面視した状態の面積を単位にし、単位面積の多孔質層に含まれるバリウム化合物粒子の質量である。
【0038】
多孔質層に含まれるバリウム化合物粒子としては、硫酸バリウム粒子が好ましい。硫酸バリウム粒子は、電解液又は電解質を分解しにくく、ガス発生を起しにくい。したがって、多孔質層に含まれるバリウム化合物粒子が硫酸バリウム粒子であると、電池のサイクル特性に優れる。
【0039】
多孔質層に含まれる硫酸バリウム粒子の平均一次粒径は、電池のサイクル特性と耐衝撃性とを両立する観点から、0.30μm以上0.50μm未満が好ましく、0.32μm以上0.48μm以下がより好ましく、0.35μm以上0.45μm以下が更に好ましく、0.38μm以上0.42μm以下が特に好ましい。
【0040】
多孔質層の固形分体積に占める硫酸バリウム粒子の体積割合は、X線による検知と電池の耐衝撃性及びサイクル特性とを両立する観点から、5体積%超70体積%未満が好ましく、20体積%以上68体積%以下がより好ましく、30体積%以上65体積%以下が更に好ましく、40体積%以上63体積%以下が特に好ましい。
【0041】
多孔質層に含まれる硫酸バリウム粒子の重量は、多孔質基材の両面合計で、0.3g/m以上19.0g/m以下が好ましく、0.5g/m以上17.0g/m以下がより好ましく、1.0g/m以上15.0g/m以下が更に好ましく、1.5g/m以上10.0g/m以下が特に好ましい。
【0042】
以下、本開示のセパレータが有する多孔質基材及び多孔質層の詳細を説明する。
【0043】
[多孔質基材]
本開示において多孔質基材とは、内部に空孔ないし空隙を有する基材を意味する。このような基材としては、微多孔膜;繊維状物からなる、不織布、紙等の多孔性シート;これら微多孔膜又は多孔性シートに他の多孔性の層を1層以上積層した複合多孔質シート;などが挙げられる。本開示においては、セパレータの薄膜化及び強度の観点から、微多孔膜が好ましい。微多孔膜とは、内部に多数の微細孔を有し、微細孔が連結した構造となっており、一方の面から他方の面へと気体又は液体が通過可能となった膜を意味する。
【0044】
多孔質基材の材料としては、電気絶縁性を有する材料が好ましく、有機材料又は無機材料のいずれでもよい。
【0045】
多孔質基材は、多孔質基材にシャットダウン機能を付与するため、熱可塑性樹脂を含むことが好ましい。シャットダウン機能とは、電池温度が高まった際に、構成材料が溶解して多孔質基材の孔を閉塞することによりイオンの移動を遮断し、電池の熱暴走を防止する機能をいう。熱可塑性樹脂としては、融点200℃未満の熱可塑性樹脂が好ましい。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;などが挙げられ、中でもポリオレフィンが好ましい。
【0046】
多孔質基材としては、ポリオレフィンを含む微多孔膜(本開示において「ポリオレフィン微多孔膜」という。)が好ましい。ポリオレフィン微多孔膜としては、例えば、従来の電池用セパレータに適用されているポリオレフィン微多孔膜が挙げられ、この中から十分な力学特性及びイオン透過性を有するものを選択することが好ましい。
【0047】
ポリオレフィン微多孔膜は、シャットダウン機能を発現する観点から、ポリエチレンを含む微多孔膜が好ましく、ポリエチレンの含有量としては、ポリオレフィン微多孔膜全体の質量に対して95質量%以上が好ましい。
【0048】
ポリオレフィン微多孔膜は、高温に曝されたときに容易に破膜しない耐熱性を備える観点から、ポリプロピレンを含む微多孔膜が好ましい。
【0049】
ポリオレフィン微多孔膜は、シャットダウン機能と、高温に曝されたときに容易に破膜しない耐熱性とを備える観点から、ポリエチレン及びポリプロピレンを含むポリオレフィン微多孔膜が好ましい。ポリエチレン及びポリプロピレンを含むポリオレフィン微多孔膜としては、ポリエチレンとポリプロピレンが1つの層において混在している微多孔膜が挙げられる。該微多孔膜においては、シャットダウン機能と耐熱性の両立という観点から、95質量%以上のポリエチレンと5質量%以下のポリプロピレンとを含むことが好ましい。また、シャットダウン機能と耐熱性の両立という観点からは、2層以上の積層構造を備え、少なくとも1層はポリエチレンを含み、少なくとも1層はポリプロピレンを含む構造のポリオレフィン微多孔膜も好ましい。
【0050】
ポリオレフィン微多孔膜に含まれるポリオレフィンとしては、重量平均分子量(Mw)が10万~500万のポリオレフィンが好ましい。ポリオレフィンのMwが10万以上であると、微多孔膜に十分な力学特性を付与できる。一方、ポリオレフィンのMwが500万以下であると、微多孔膜のシャットダウン特性が良好であるし、微多孔膜の成形がしやすい。
【0051】
ポリオレフィン微多孔膜の製造方法としては、溶融したポリオレフィン樹脂をT-ダイから押し出してシート化し、これを結晶化処理した後延伸し、次いで熱処理をして微多孔膜とする方法:流動パラフィンなどの可塑剤と一緒に溶融したポリオレフィン樹脂をT-ダイから押し出し、これを冷却してシート化し、延伸した後、可塑剤を抽出し熱処理をして微多孔膜とする方法;などが挙げられる。
【0052】
繊維状物からなる多孔性シートとしては、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;全芳香族ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルイミド等の耐熱性樹脂;セルロース;などの繊維状物からなる、不織布、紙等の多孔性シートが挙げられる。
【0053】
本開示において耐熱性樹脂とは、融点が200℃以上の樹脂、又は、融点を有さず分解温度が200℃以上の樹脂を指す。つまり、本開示における耐熱性樹脂とは、200℃未満の温度領域で溶融及び分解を起こさない樹脂である。
【0054】
複合多孔質シートとしては、微多孔膜や繊維状物からなる多孔性シートに、機能層を積層したシートが挙げられる。このような複合多孔質シートは、機能層によってさらなる機能付加が可能となる観点から好ましい。機能層としては、例えば耐熱性を付与するという観点からは、耐熱性樹脂からなる多孔性の層や、耐熱性樹脂及び無機フィラーからなる多孔性の層が挙げられる。耐熱性樹脂としては、全芳香族ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリエーテルケトン及びポリエーテルイミドから選ばれる1種又は2種以上の耐熱性樹脂が挙げられる。無機フィラーとしては、アルミナ等の金属酸化物;水酸化マグネシウム等の金属水酸化物;などが挙げられる。複合化の手法としては、微多孔膜や多孔性シートに機能層を塗工する方法、微多孔膜や多孔性シートと機能層とを接着剤で接合する方法、微多孔膜や多孔性シートと機能層とを熱圧着する方法等が挙げられる。
【0055】
多孔質基材の表面には、多孔質層を形成するための塗工液との濡れ性を向上させる目的で、多孔質基材の性質を損なわない範囲で、各種の表面処理を施してもよい。表面処理としては、コロナ処理、プラズマ処理、火炎処理、紫外線照射処理等が挙げられる。
【0056】
[多孔質基材の特性]
多孔質基材の厚さは、電池のエネルギー密度を高める観点から、25μm以下が好ましく、20μm以下がより好ましく、15μm以下が更に好ましく、セパレータの製造歩留り及び電池の製造歩留りの観点から、3μm以上が好ましく、5μm以上がより好ましく、8μm以上が更に好ましい。
【0057】
多孔質基材の厚さ(μm)は、接触式の厚み計(株式会社ミツトヨ、LITEMATIC VL-50S)にて10cm四方内の20点を測定し、これを平均することで求められる。測定端子には球の半径10mmの球面測定子(株式会社ミツトヨ)を用い、測定中に0.19Nの荷重が印加されるように調整する。
【0058】
多孔質基材のガーレ値(JIS P8117:2009)は、電池の短絡を抑制する観点から、20秒/100mL以上が好ましく、25秒/100mL以上がより好ましく、60秒/100mL以上が更に好ましく、65秒/100mL以上がより特に好ましい。
多孔質基材のガーレ値(JIS P8117:2009)は、イオン透過性の観点と、高温にさらされたときに多孔質基材と多孔質層との境界において多孔質構造が閉塞することを抑制する観点とから、220秒/100mL以下が好ましく、200秒/100mL以下がより好ましく、160秒/100mL以下が更に好ましく、150秒/100mL以下がより特に好ましい。
【0059】
多孔質基材のガーレ値(秒/100mL)は、JIS P8117:2009に従い、ガーレ式デンソメータ(東洋精機社、G-B2C)を用いて測定される。
【0060】
多孔質基材の空孔率は、適切な膜抵抗やシャットダウン機能を得る観点から、20%~60%が好ましい。多孔質基材の空孔率ε(%)は、下記の式により求める。
ε={1-Ws/(ds・t)}×100
ここに、Wsは多孔質基材の目付(g/m)、dsは多孔質基材の真密度(g/cm)、tは多孔質基材の厚さ(μm)である。目付とは、単位面積当たりの質量である。
【0061】
多孔質基材の平均孔径は、イオン透過性又は電池の短絡抑制の観点から、15nm~100nmが好ましい。多孔質基材の平均孔径は、パームポロメーター(PMI社製CFP-1500-A)を用いて、ASTM E1294-89に従って測定する。
【0062】
[多孔質層]
多孔質層は、内部に多数の微細孔を有し、微細孔が連結した構造となっており、一方の面から他方の面へと気体又は液体が通過可能な層である。
【0063】
多孔質層は、多孔質基材の片面のみにあってもよく、多孔質基材の両面にあってもよい。多孔質層が多孔質基材の両面にあると、セパレータにカールが発生しにくく、電池製造時のハンドリング性に優れる。多孔質層が多孔質基材の片面のみにあると、セパレータのイオン透過性がより優れる。また、セパレータ全体の厚さを抑えることができ、エネルギー密度のより高い電池を製造し得る。
【0064】
多孔質層は、少なくとも樹脂とバリウム化合物粒子とを含有する。多孔質層は、バリウム化合物粒子以外のその他の粒子を含有していてもよい。その他の粒子は、無機粒子、有機粒子のいずれでもよい。
【0065】
多孔質層に含まれる樹脂は、例えば、多孔質層に含まれる粒子どうしを結着させる作用、多孔質層を多孔質基材に接着させる作用、多孔質層を電極に接着させる作用、多孔質層の耐熱性を向上させる作用などを有する。
【0066】
-ポリフッ化ビニリデン系樹脂-
多孔質層に含まれる樹脂の一例として、ポリフッ化ビニリデン系樹脂が挙げられる。多孔質層に含まれる樹脂がポリフッ化ビニリデン系樹脂であると、多孔質層のイオン透過性が高く、電池のサイクル特性が良好である。
【0067】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂としては、例えば、フッ化ビニリデンの単独重合体(即ちポリフッ化ビニリデン);フッ化ビニリデンと、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニル、トリクロロエチレン等の含ハロゲン単量体との共重合体;フッ化ビニリデンと、含ハロゲン単量体以外のその他の単量体との共重合体;フッ化ビニリデンと、含ハロゲン単量体と、含ハロゲン単量体以外のその他の単量体との共重合体;これらの混合物;が挙げられる。ポリフッ化ビニリデン系樹脂は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0068】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂としては、電極に対する接着性の観点から、フッ化ビニリデン(VDF)とヘキサフルオロプロピレン(HFP)との共重合体(VDF-HFP共重合体)が好ましい。本開示においてVDF-HFP共重合体には、VDFとHFPのみを重合した共重合体、及び、VDFとHFPと他の単量体を重合した共重合体のいずれも含まれる。VDF-HFP共重合体は、HFP単位の含有量を増減することによって、当該共重合体の結晶性、耐熱性、電解液に対する耐溶解性などを適度な範囲に制御できる。
【0069】
多孔質層に含まれるポリフッ化ビニリデン系樹脂全体の重量平均分子量(Mw)は、電池の製造時に多孔質層に熱を印加した際に多孔質層の空孔の閉塞が起きにくい観点から、30万以上が好ましく、50万以上がより好ましく、65万以上が更に好ましく、75万以上がより特に好ましい。
多孔質層に含まれるポリフッ化ビニリデン系樹脂全体のMwは、電池の製造時に多孔質層に熱を印加した際にポリフッ化ビニリデン系樹脂が適度に軟化し、多孔質層と電極とが良好に接着する観点から、300万未満が好ましく、250万未満がより好ましく、200万未満が更に好ましく、100万未満がより特に好ましい。
【0070】
多孔質層に含まれるポリフッ化ビニリデン系樹脂全体のMwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography, GPC)により測定した、ポリスチレン換算の分子量である。多孔質層から抽出したポリフッ化ビニリデン系樹脂または多孔質層の形成に用いるポリフッ化ビニリデン系樹脂を試料にする。
【0071】
多孔質層がポリフッ化ビニリデン系樹脂を含む場合、ポリフッ化ビニリデン系樹脂の含有量は、多孔質層に含まれる全樹脂の全量に対して、85質量%~100質量%が好ましく、90質量%~100質量%がより好ましく、95質量%~100質量%が更に好ましい。
【0072】
多孔質層が多孔質基材の両面にある場合、一方の多孔質層に含まれるポリフッ化ビニリデン系樹脂の種類又は量と、他方の多孔質層に含まれるポリフッ化ビニリデン系樹脂の種類又は量とは、同じでもよく異なっていてもよい。
【0073】
-耐熱性樹脂-
多孔質層に含まれる樹脂の一例として、耐熱性樹脂が挙げられる。耐熱性樹脂は、200℃未満の温度領域で溶融及び分解を起こさない樹脂であれば、その種類は制限されない。多孔質層に含まれる樹脂が耐熱性樹脂であると、多孔質層の耐熱性が高く、電池の耐衝撃性が向上する。
【0074】
耐熱性樹脂としては、全芳香族ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリ-N-ビニルアセトアミド、ポリアクリルアミド、共重合ポリエーテルポリアミド、ポリイミド及びポリエーテルイミドからなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。これら樹脂は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。多孔質層に含まれる樹脂がこれら樹脂の少なくとも1種であると、多孔質層の耐熱性が高く、電池の耐衝撃性が向上する。
【0075】
耐熱性樹脂の中でも、耐久性の観点から、全芳香族ポリアミドが好ましい。全芳香族ポリアミドとは、主鎖がベンゼン環とアミド結合のみから構成されているポリアミドを意味する。ただし、全芳香族ポリアミドには、少量の脂肪族単量体が共重合されていてもよい。全芳香族ポリアミドは、アラミドとも呼ばれる。
【0076】
全芳香族ポリアミドは、メタ型でもパラ型でもよい。全芳香族ポリアミドの中でも、多孔質層を形成しやすい観点および電極反応において耐酸化還元性に優れる観点から、メタ型全芳香族ポリアミドが好ましい。全芳香族ポリアミドは、具体的には、ポリメタフェニレンイソフタルアミド又はポリパラフェニレンテレフタルアミドが好ましく、ポリメタフェニレンイソフタルアミドがより好ましい。
【0077】
多孔質層が耐熱性樹脂を含む場合、耐熱性樹脂の含有量は、多孔質層に含まれる全樹脂の全量に対して、85質量%~100質量%が好ましく、90質量%~100質量%がより好ましく、95質量%~100質量%が更に好ましい。
【0078】
多孔質層が全芳香族ポリアミドを含む場合、全芳香族ポリアミドの含有量は、多孔質層に含まれる全樹脂の全量に対して、85質量%~100質量%が好ましく、90質量%~100質量%がより好ましく、95質量%~100質量%が更に好ましい。
【0079】
多孔質層が多孔質基材の両面にある場合、一方の多孔質層に含まれる耐熱性樹脂の種類又は量と、他方の多孔質層に含まれる耐熱性樹脂の種類又は量とは、同じでもよく異なっていてもよい。
【0080】
-その他の樹脂-
多孔質層は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂及び耐熱性樹脂以外のその他の樹脂を含有していてもよい。その他の樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂、フッ素系ゴム、スチレン-ブタジエン共重合体、ビニルニトリル化合物(アクリロニトリル、メタクリロニトリル等)の単独重合体又は共重合体、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリビニルピロリドン、ポリエーテル(ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド等)、ポリスルホン、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0081】
多孔質層に含まれるその他の樹脂の含有量は、多孔質層に含まれる樹脂の全量に対して、0質量%~15質量%が好ましく、0質量%~10質量%がより好ましく、0質量%~5質量%が更に好ましい。
【0082】
-バリウム化合物粒子-
多孔質層に含まれるバリウム化合物粒子としては、例えば、硫酸バリウム粒子、炭酸バリウム粒子、チタン酸バリウム粒子、酸化バリウム粒子、過酸化バリウム粒子、硝酸バリウム粒子などが挙げられる。バリウム化合物粒子は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0083】
多孔質層に含まれるバリウム化合物粒子は、シランカップリング剤等により表面修飾された粒子でもよい。
【0084】
多孔質層に含まれるバリウム化合物粒子の粒子形状に限定はなく、球形、楕円形、板状、針状、不定形のいずれでもよい。多孔質層に含まれるバリウム化合物粒子は、電池の短絡抑制の観点から、板状の粒子や、凝集していない一次粒子であることが好ましい。
【0085】
多孔質層に含まれるバリウム化合物粒子の含有量は、多孔質層に含まれる無機粒子の全量に対して、85質量%~100質量%が好ましく、90質量%~100質量%がより好ましく、95質量%~100質量%が更に好ましい。
【0086】
多孔質層が硫酸バリウム粒子を含む場合、硫酸バリウム粒子の含有量は、多孔質層に含まれる無機粒子の全量に対して、85質量%~100質量%が好ましく、90質量%~100質量%がより好ましく、95質量%~100質量%が更に好ましい。
【0087】
多孔質層が多孔質基材の両面にある場合、一方の多孔質層に含まれるバリウム化合物粒子の種類又は量と、他方の多孔質層に含まれるバリウム化合物粒子の種類又は量とは、同じでもよく異なっていてもよい。
【0088】
-バリウム化合物粒子以外のその他の無機粒子-
多孔質層は、バリウム化合物粒子以外のその他の無機粒子を含有していてもよい。ただし、多孔質層の固形分体積占めるその他の無機粒子の体積割合は、5体積%以下が好ましく、3体積%以下がより好ましく、1体積%以下が更に好ましく、実質的に含まれていないことが特に好ましい。
【0089】
その他の無機粒子としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化クロム、水酸化ジルコニウム、水酸化セリウム、水酸化ニッケル、水酸化ホウ素等の金属水酸化物の粒子;シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化マグネシウム等の金属酸化物の粒子;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩の粒子;硫酸カルシウム等の硫酸塩の粒子;ケイ酸カルシウム、タルク等の粘土鉱物;などが挙げられる。その他の無機粒子としては、電解液に対する安定性及び電気化学的な安定性の観点から、金属水酸化物の粒子又は金属酸化物の粒子が好ましい。その他の無機粒子は、シランカップリング剤等により表面修飾されたものでもよい。その他の無機粒子は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0090】
その他の無機粒子の粒子形状に限定はなく、球形、楕円形、板状、針状、不定形のいずれでもよい。多孔質層に含まれるその他の無機粒子は、電池の短絡抑制の観点から、板状の粒子や、凝集していない一次粒子であることが好ましい。
【0091】
その他の無機粒子の平均一次粒径は、0.01μm以上5.0μm以下が好ましく、0.1μm以上1.0μm以下がより好ましい。
【0092】
-有機粒子-
多孔質層は、有機粒子を含有していてもよい。有機粒子としては、例えば、架橋ポリ(メタ)アクリル酸、架橋ポリ(メタ)アクリル酸エステル、架橋ポリシリコーン、架橋ポリスチレン、架橋ポリジビニルベンゼン、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体架橋物、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ベンゾグアナミン-ホルムアルデヒド縮合物等の架橋高分子からなる粒子;ポリスルホン、ポリアクリロニトリル、アラミド、ポリアセタール等の耐熱性高分子からなる粒子;などが挙げられる。「(メタ)アクリル」との表記は「アクリル」及び「メタクリル」のいずれでもよいことを意味する。
有機粒子を構成する樹脂は、上記の例示材料の、混合物、変性体、誘導体、共重合体(ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体)又は架橋体であってもよい。
【0093】
有機粒子は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0094】
-その他の成分-
多孔質層は、界面活性剤等の分散剤、湿潤剤、消泡剤、pH調整剤などの添加剤を含んでいてもよい。分散剤は、多孔質層を形成するための塗工液に、分散性、塗工性又は保存安定性を向上させる目的で添加される。湿潤剤、消泡剤、pH調整剤は、多孔質層を形成するための塗工液に、例えば、多孔質基材とのなじみをよくする目的、塗工液へのエア噛み込みを抑制する目的、又はpH調整の目的で添加される。
【0095】
[多孔質層の特性]
多孔質層の厚さは、セパレータのX線による検知の容易さ及び電池の耐衝撃性の観点から、片面0.5μm以上が好ましく、片面1.0μm以上がより好ましく、片面1.5μm以上が更に好ましく、イオン透過性及び電池のエネルギー密度の観点から、片面10.0μm以下が好ましく、片面8.0μm以下がより好ましく、片面6.0μm以下が更に好ましい。
【0096】
多孔質層の厚さは、多孔質層が多孔質基材の両面にある場合、多孔質基材の両面の合計として、1.0μm以上が好ましく、2.0μm以上がより好ましく、3.0μm以上が更に好ましく、20.0μm以下が好ましく、16.0μm以下がより好ましく、12.0μm以下が更に好ましい。
【0097】
多孔質層が多孔質基材の両面にある場合、一方の多孔質層の厚さと他方の多孔質層の厚さとの差(μm)は、小さいほど好ましく、両面合計の厚さ(μm)の20%以下であることが好ましい。
【0098】
多孔質層の目付(単位面積当たりの質量)は、多孔質層が多孔質基材の片面にある場合も両面にある場合も、セパレータのX線による検知の容易さ及び電池の耐衝撃性の観点から、多孔質基材の両面の合計として、2.0g/m以上が好ましく、2.5g/m以上がより好ましく、3.0g/m以上が更に好ましく、3.4g/m以上が更により好ましい。
多孔質層の目付(単位面積当たりの質量)は、多孔質層が多孔質基材の片面にある場合も両面にある場合も、イオン透過性、電池のエネルギー密度及びサイクル特性の観点から、多孔質基材の両面の合計として、20.0g/m以下が好ましく、18.0g/m以下がより好ましく、15.0g/m以下が更に好ましく、10.0g/m以下が更により好ましい。
【0099】
多孔質層が多孔質基材の両面にある場合、一方の多孔質層の目付と、他方の多孔質層の目付との差(g/m)は、セパレータのカールを抑制する観点又は電池のサイクル特性を良好にする観点から、小さいほど好ましく、多孔質基材の両面の合計量(g/m)の20%以下であることが好ましい。
【0100】
多孔質層の空孔率は、イオン透過性の観点から、30%以上が好ましく、35%以上がより好ましく、40%以上が更に好ましく、多孔質層の力学的強度の観点から、70%以下が好ましく、65%以下がより好ましく、60%以下が更に好ましい。多孔質層の空孔率ε(%)は、下記の式により求める。
【0101】
【数1】


ここに、多孔質層の構成材料1、構成材料2、構成材料3、…、構成材料nについて、各構成材料の単位面積当たりの質量がW、W2、、…、W(g/cm)であり、各構成材料の真密度がd、d、d、…、d(g/cm)であり、多孔質層の厚さがt(cm)である。
【0102】
多孔質層の平均孔径は、10nm~200nmが好ましい。平均孔径が10nm以上であると、多孔質層に電解液を含浸させたとき、多孔質層に含まれる樹脂が膨潤しても孔の閉塞が起きにくい。平均孔径が200nm以下であると、多孔質層におけるイオン移動の均一性が高く、電池のサイクル特性及び負荷特性に優れる。
【0103】
多孔質層の平均孔径(nm)は、すべての孔が円柱状であると仮定し、以下の式により算出する。
d=4V/S
式中、dは多孔質層の平均孔径(直径)、Vは多孔質層1m当たりの空孔体積、Sは多孔質層1m当たりの空孔表面積を表す。
多孔質層1m当たりの空孔体積Vは、多孔質層の空孔率から算出する。
多孔質層1m当たりの空孔表面積Sは、以下の方法で求める。
まず、多孔質基材の比表面積(m/g)とセパレータの比表面積(m/g)とを、窒素ガス吸着法にBET式を適用することにより、窒素ガス吸着量から算出する。これらの比表面積(m/g)にそれぞれの目付(g/m)を乗算して、それぞれの1m当たりの空孔表面積を算出する。そして、多孔質基材1m当たりの空孔表面積をセパレータ1m当たりの空孔表面積から減算して、多孔質層1m当たりの空孔表面積Sを算出する。目付とは、単位面積当たりの質量である。
【0104】
[セパレータの特性]
セパレータの厚さは、セパレータの機械的強度の観点から、8μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましく、12μm以上が更に好ましく、電池のエネルギー密度の観点から、25μm以下が好ましく、22μm以下がより好ましく、20μm以下が更に好ましい。
【0105】
セパレータのガーレ値(JIS P8117:2009)は、電池の短絡を抑制する観点から、50秒/100mL以上が好ましく、60秒/100mL以上がより好ましく、70秒/100mL以上が更に好ましく、80秒/100mL以上がより特に好ましい。
セパレータのガーレ値(JIS P8117:2009)は、イオン透過性の観点から、200秒/100mL以下が好ましく、180秒/100mL以下がより好ましく、150秒/100mL以下が更に好ましく、130秒/100mL以下がより特に好ましい。
【0106】
セパレータの膜抵抗は、電池の負荷特性の観点から、1Ω・cm~10Ω・cmが好ましい。セパレータの膜抵抗とは、セパレータに電解液を含浸させた状態での抵抗値であり、電解液として1mol/L LiBF-プロピレンカーボネート:エチレンカーボネート(質量比1:1)を用いて、温度20℃にて交流法にて測定される値である。セパレータの膜抵抗値が低いほど、セパレータのイオン透過性が優れる。
【0107】
[セパレータの製造方法]
本開示のセパレータは、例えば、多孔質基材上に多孔質層を湿式塗工法又は乾式塗工法で形成することにより製造できる。本開示において、湿式塗工法とは、塗工層を凝固液中で固化させる方法であり、乾式塗工法とは、塗工層を乾燥させて固化させる方法である。以下に、湿式塗工法の実施形態例を説明する。
【0108】
湿式塗工法は、樹脂及びフィラーを含有する塗工液を多孔質基材上に塗工し、凝固液に浸漬して塗工層を固化させ、凝固液から引き揚げ水洗及び乾燥を行う方法である。
【0109】
多孔質層形成用の塗工液は、樹脂及びバリウム化合物粒子を溶媒に溶解又は分散させて作製する。塗工液には、必要に応じて、樹脂及びバリウム化合物粒子以外のその他の成分を溶解又は分散させる。
【0110】
塗工液の調製に用いる溶媒は、樹脂を溶解する溶媒(以下、「良溶媒」ともいう。)を含む。良溶媒としては、N-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等の極性アミド溶媒が挙げられる。
【0111】
塗工液の調製に用いる溶媒は、良好な多孔質構造を有する多孔質層を形成する観点から、相分離を誘発させる相分離剤を含んでいてもよい。したがって、塗工液の調製に用いる溶媒は、良溶媒と相分離剤との混合溶媒であってもよい。相分離剤は、塗工に適切な粘度が確保できる範囲の量で良溶媒と混合することが好ましい。相分離剤としては、水、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、ブタンジオール、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリプロピレングリコール等が挙げられる。
【0112】
塗工液の調製に用いる溶媒が良溶媒と相分離剤との混合溶媒である場合、良好な多孔質構造を形成する観点から、良溶媒を60質量%以上含み、相分離剤を5質量%~40質量%含む混合溶媒が好ましい。
【0113】
塗工液の樹脂濃度は、良好な多孔質構造を形成する観点から、1質量%~20質量%であることが好ましい。塗工液のバリウム化合物粒子濃度は、良好な多孔質構造を形成する観点から、0.5質量%~50質量%であることが好ましい。
【0114】
塗工液は、界面活性剤等の分散剤、湿潤剤、消泡剤、pH調整剤等を含有していてもよい。これらの添加剤は、非水系二次電池の使用範囲において電気化学的に安定で電池内反応を阻害しないものであれば、多孔質層に残存するものであってもよい。
【0115】
多孔質基材への塗工液の塗工手段としては、マイヤーバー、ダイコーター、リバースロールコーター、ロールコーター、グラビアコーター等が挙げられる。多孔質層を多孔質基材の両面に形成する場合、塗工液を両面同時に多孔質基材へ塗工することが生産性の観点から好ましい。
【0116】
塗工層の固化は、塗工層を形成した多孔質基材を凝固液に浸漬し、塗工層において相分離を誘発しつつ樹脂を固化させることで行われる。これにより、多孔質基材と多孔質層とからなる積層体を得る。
【0117】
凝固液は、塗工液の調製に用いた良溶媒及び相分離剤と、水とを含むことが一般的である。良溶媒と相分離剤の混合比は、塗工液の調製に用いた混合溶媒の混合比に合わせるのが生産上好ましい。凝固液中の水の含有量は40質量%~90質量%であることが、多孔質構造の形成及び生産性の観点から好ましい。凝固液の温度は、例えば20℃~50℃である。
【0118】
凝固液中で塗工層を固化させた後、積層体を凝固液から引き揚げ、水洗する。水洗することによって、積層体から凝固液を除去する。さらに、乾燥することによって、積層体から水を除去する。水洗は、例えば、積層体を水浴中で搬送することによって行う。乾燥は、例えば、積層体を高温環境中で搬送すること、積層体に風をあてること、積層体をヒートロールに接触させることによって行う。乾燥温度は40℃~80℃が好ましい。
【0119】
本開示のセパレータは、乾式塗工法でも製造し得る。乾式塗工法は、塗工液を多孔質基材に塗工し、塗工層を乾燥させて溶媒を揮発除去することにより、多孔質層を多孔質基材上に形成する方法である。
【0120】
本開示のセパレータは、多孔質層を独立したシートとして作製し、この多孔質層を多孔質基材に重ねて、熱圧着や接着剤によって複合化する方法によっても製造し得る。多孔質層を独立したシートとして作製する方法としては、上述した湿式塗工法又は乾式塗工法を適用して、剥離シート上に多孔質層を形成する方法が挙げられる。
【0121】
<非水系二次電池>
本開示の非水系二次電池は、リチウムイオンのドープ及び脱ドープにより起電力を得る非水系二次電池であり、正極と、負極と、本開示の非水系二次電池用セパレータとを備える。ドープとは、吸蔵、担持、吸着、又は挿入を意味し、正極等の電極の活物質にリチウムイオンが入る現象を意味する。
【0122】
本開示の非水系二次電池は、例えば、負極と正極とがセパレータを介して対向した電池素子が電解液と共に外装材内に封入された構造を有する。本開示の非水系二次電池は、非水電解質二次電池、特にリチウムイオン二次電池に好適である。
【0123】
以下、本開示の非水系二次電池が備える正極、負極、電解液及び外装材の形態例を説明する。
【0124】
正極の実施形態例としては、正極活物質及びバインダ樹脂を含む活物質層が集電体上に成形された構造が挙げられる。活物質層は、さらに導電助剤を含んでもよい。正極活物質としては、例えば、リチウム含有遷移金属酸化物が挙げられ、具体的にはLiCoO、LiNiO、LiMn1/2Ni1/2、LiCo1/3Mn1/3Ni1/3、LiMn、LiFePO、LiCo1/2Ni1/2、LiAl1/4Ni3/4等が挙げられる。バインダ樹脂としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、スチレン-ブタジエン共重合体等が挙げられる。導電助剤としては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛粉末等の炭素材料が挙げられる。集電体としては、例えば厚さ5μm~20μmの、アルミニウム箔、チタン箔、ステンレス箔等が挙げられる。
【0125】
負極の実施形態例としては、負極活物質及びバインダ樹脂を含む活物質層が集電体上に成形された構造が挙げられる。活物質層は、さらに導電助剤を含んでもよい。負極活物質としては、リチウムイオンを電気化学的に吸蔵し得る材料が挙げられ、具体的には例えば、炭素材料;ケイ素、スズ、アルミニウム等とリチウムとの合金;ウッド合金;などが挙げられる。バインダ樹脂としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、スチレン-ブタジエン共重合体等が挙げられる。導電助剤としては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛粉末、極細炭素繊維等の炭素材料が挙げられる。集電体としては、例えば厚さ5μm~20μmの、銅箔、ニッケル箔、ステンレス箔等が挙げられる。また、上記の負極に代えて、金属リチウム箔を負極として用いてもよい。
【0126】
電解液は、リチウム塩を非水系溶媒に溶解した溶液である。リチウム塩としては、例えば、LiPF、LiBF、LiClO等が挙げられる。非水系溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、ジフルオロエチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の環状カーボネート;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、及びそのフッ素置換体等の鎖状カーボネート;γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン等の環状エステル;などが挙げられ、これらは単独で用いても混合して用いてもよい。電解液としては、環状カーボネートと鎖状カーボネートとを質量比(環状カーボネート:鎖状カーボネート)20:80~40:60で混合し、リチウム塩を0.5mol/L~1.5mol/Lの範囲にて溶解した溶液が好適である。
【0127】
外装材としては、アルミニウムラミネートフィルム製パック、金属缶などが挙げられる。電池の形状は角型、円筒型、コイン型等があるが、本開示のセパレータはいずれの形状にも好適である。
【0128】
本開示の非水系二次電池は、正極と負極との間に本開示のセパレータを配置した積層体を製造した後、この積層体を用いて、例えば下記の(1)~(3)のいずれかにより製造できる。以下の説明において、セパレータに電解液を含浸させて熱プレス処理を行うことを「ウェットヒートプレス」といい、セパレータに電解液を含浸させずに熱プレス処理を行うことを「ドライヒートプレス」という。
【0129】
(1)積層体にドライヒートプレスして電極とセパレータとを接着した後、外装材(例えばアルミニウムラミネートフィルム製パック。以下同じ)に収容し、そこに電解液を注入し、外装材内を真空状態にした後、外装材の上からさらに積層体をウェットヒートプレスし、電極とセパレータとの接着と、外装材の封止とを行う。
【0130】
(2)積層体を外装材に収容し、そこに電解液を注入し、外装材内を真空状態にした後、外装材の上から積層体をウェットヒートプレスし、電極とセパレータとの接着と、外装材の封止とを行う。
【0131】
(3)積層体にドライヒートプレスして電極とセパレータとを接着した後、外装材に収容し、そこに電解液を注入し、外装材内を真空状態にした後、外装材の封止を行う。
【0132】
上記の製造方法におけるウェットヒートプレスの条件としては、プレス温度は70℃~110℃が好ましく、プレス圧は0.5MPa~2MPaが好ましい。上記の製造方法におけるドライヒートプレスの条件としては、プレス温度は20℃~100℃が好ましく、プレス圧は0.5MPa~9MPaが好ましい。プレス時間は、プレス温度及びプレス圧に応じて調節することが好ましく、例えば0.5分間~60分間の範囲で調節する。
【0133】
正極と負極との間にセパレータを配置した積層体を製造する際において、正極と負極との間にセパレータを配置する方式は、正極、セパレータ、負極をこの順に少なくとも1層ずつ積層する方式(所謂スタック方式)でもよく、正極、セパレータ、負極、セパレータをこの順に重ね、長さ方向に捲き回す方式でもよい。
【実施例
【0134】
以下に実施例を挙げて、本開示のセパレータ及び非水系二次電池をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理手順等は、本開示の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本開示のセパレータ及び非水系二次電池の範囲は、以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきではない。
【0135】
以下の説明において、合成、処理、製造などは、特に断りのない限り、室温(25℃±3℃)で行った。
【0136】
<測定方法、評価方法>
実施例及び比較例に適用した測定方法及び評価方法は、以下のとおりである。
【0137】
[多孔質基材の厚さ]
多孔質基材の厚さ(μm)は、接触式の厚み計(株式会社ミツトヨ、LITEMATIC VL-50S)にて10cm四方内の20点を測定し、これを平均することで求めた。測定端子には球の半径10mmの球面測定子(株式会社ミツトヨ)を用い、測定中に0.19Nの荷重が印加されるように調整した。
【0138】
[多孔質基材の空孔率]
多孔質基材の空孔率ε(%)は、下記の式により求めた。
ε={1-Ws/(ds・t)}×100
ここに、Wsは多孔質基材の目付(g/m)、dsは多孔質基材の真密度(g/cm)、tは多孔質基材の厚さ(μm)である。目付とは、単位面積当たりの質量である。
【0139】
[多孔質基材のガーレ値]
多孔質基材のガーレ値(秒/100mL)は、JIS P8117:2009に従い、ガーレ式デンソメータ(東洋精機社、G-B2C)を用いて測定した。
【0140】
[無機粒子の平均一次粒径]
多孔質層の形成に用いる無機粒子を試料にしてSEM観察を行い、平均一次粒径を求めた。より詳細には以下の通りである。
多孔質層に含まれるバリウム化合物粒子の平均一次粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察において無作為に選んだバリウム化合物粒子100個の長径を計測し、100個の長径を平均することで求める。SEM観察に供する試料は、多孔質層を形成する材料であるバリウム化合物粒子、又は、セパレータの多孔質層から取り出したバリウム化合物粒子である。セパレータの多孔質層からバリウム化合物粒子を取り出す方法に制限はない。
【0141】
[無機粒子の体積割合]
多孔質層の固形分体積に占める無機粒子の体積割合V(体積%)は、下記の式により求めた。
V={(Xa/Da)/(Xa/Da+Xb/Db+Xc/Dc+…+Xn/Dn)}×100
ここに、多孔質層の構成材料のうち、無機粒子がaであり、その他の構成材料がb、c、…、nであり、所定面積の多孔質層に含まれる各構成材料の質量がXa、Xb、Xc、…、Xn(g)であり、各構成材料の真密度がDa、Db、Dc、…、Dn(g/cm)である。上記の式に代入するXa等は、所定面積の多孔質層の形成に使用する構成材料の質量(g)である。上記の式に代入するDa等は、多孔質層の形成に使用する構成材料の真密度(g/cm)である。
【0142】
[バリウム化合物粒子の単位面積重量]
多孔質層に含まれるバリウム化合物粒子の単位面積重量(g/m)とは、多孔質層を平面視した状態の面積を単位にし、単位面積の多孔質層に含まれるバリウム化合物粒子の質量である。
【0143】
[ポリフッ化ビニリデン系樹脂の重量平均分子量]
多孔質層に含まれるポリフッ化ビニリデン系樹脂全体の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography, GPC)により測定した、ポリスチレン換算の分子量である。多孔質層から抽出したポリフッ化ビニリデン系樹脂または多孔質層の形成に用いるポリフッ化ビニリデン系樹脂を試料にする。
【0144】
[X線CT]
-負極の作製-
負極活物質である人造黒鉛300質量部、バインダ樹脂であるスチレン-ブタジエン共重合体の変性体を40質量%含有する水溶性分散液7.5質量部、増粘剤であるカルボキシメチルセルロース3質量部、及び適量の水を双腕式混合機にて攪拌して混合し、負極用スラリーを作製した。負極用スラリーを厚さ10μmの銅箔の両面に塗布し、乾燥後プレスして、負極活物質層を両面に有する負極を得た。
【0145】
-正極の作製-
正極活物質であるコバルト酸リチウム粉末89.5質量部、導電助剤であるアセチレンブラック4.5質量部、バインダ樹脂であるポリフッ化ビニリデン6質量部、及び適量のN-メチル-2-ピロリドンを双腕式混合機にて攪拌して混合し、正極用スラリーを作製した。正極用スラリーを厚さ20μmのアルミニウム箔の両面に塗布し、乾燥後プレスして、正極活物質層を両面に有する正極を得た。
【0146】
-観察用サンプルの作製-
正極を30mm×50mmの長方形に切り出し、負極を30mm×50mmの長方形に切り出し、セパレータを34mm×54mmの長方形に切り出した。正極、セパレータ、負極、セパレータの順に積層し、正極及び負極をそれぞれ3層有し、セパレータを5層有する積層体を作製した。積層体をアルミニウムラミネートフィルム製のパック中に挿入し、真空シーラーを用いてパック内を真空状態にして封止し、観察用サンプルを得た。
【0147】
-X線CT-
X線CTには、株式会社島津製作所製のマイクロフォーカスX線CTシステム(inspeXio SMX-225CT FPD HR)を用いた。X線管電圧220kV、X線管電流100μA、露光
時間1secにて、観察用サンプルの端部において積層体の厚さ方向断面を撮像した。X線CT画像からセパレータのグレイバリュー(GV)を測定し、GVを下記のとおり分類した。GVの値は、大きいほど望ましい。
【0148】
レベル5:GVが37301以上
レベル4:GVが36501以上、37300以下
レベル3:GVが35701以上、36500以下
レベル2:GVが35251以上、35700以下
レベル1:GVが35250以下
【0149】
[電池の耐衝撃性(圧縮破壊強度)]
後述の試験用二次電池を10個用意した。温度20℃の環境下、試験用二次電池に定電流定電圧充電を行った。具体的には、0.1Cで4.2Vまで充電し、4.2Vで3時間保持した。次いで、試験用二次電池を、正極側を上にして水平な台に置き、粘着テープで固定した。直径5mmの球状端子を試験用二次電池の上の中央部に置き、速度100mm/minで徐々に下降させ、試験用二次電池に荷重をかけた。試験用二次電池の電圧が低下して3.5Vに達した瞬間の荷重の値(単位:N)を求め、電池10個の平均を算出した。
【0150】
[電池のサイクル特性(容量維持率)]
後述の試験用二次電池を10個用意した。温度40℃の環境下、試験用二次電池に500サイクルの充放電を行った。充電は1C且つ4.2Vの定電流定電圧充電を行い、放電は1C且つ2.75Vカットオフの定電流放電を行った。500サイクル目の放電容量を初回の放電容量で除算し、電池10個の平均を算出し、得られた値(%)を容量維持率とした。
【0151】
<セパレータ及び電池の作製>
[実施例1]
-セパレータの作製-
ポリフッ化ビニリデン系樹脂を樹脂濃度が5.0質量%となるようにジメチルアセトアミド(DMAc)に溶解し、さらに硫酸バリウム粒子を攪拌分散し、塗工液(1)を得た。マイヤーバーに塗工液(1)を適量のせ、ポリエチレン微多孔膜の両面に塗工液(1)を塗工した。その際、ポリエチレン微多孔膜の表裏の塗工量が等量になるように塗工した。これを、凝固液(DMAc:水=50:50[質量比]、液温40℃)に浸漬し塗工層を固化させ、次いで、水温40℃の水洗槽で洗浄し、乾燥した。こうして、ポリエチレン微多孔膜の両面に多孔質層が形成されたセパレータを得た。
【0152】
-負極の作製-
負極活物質である人造黒鉛300質量部、バインダ樹脂であるスチレン-ブタジエン共重合体の変性体を40質量%含有する水溶性分散液7.5質量部、増粘剤であるカルボキシメチルセルロース3質量部、及び適量の水を双腕式混合機にて攪拌して混合し、負極用スラリーを作製した。負極用スラリーを厚さ10μmの銅箔の片面に塗布し、乾燥後プレスして、負極活物質層を片面に有する負極を得た。
【0153】
-正極の作製-
正極活物質であるコバルト酸リチウム粉末89.5質量部、導電助剤であるアセチレンブラック4.5質量部、バインダ樹脂であるポリフッ化ビニリデン6質量部、及び適量のN-メチル-2-ピロリドンを双腕式混合機にて攪拌して混合し、正極用スラリーを作製した。正極用スラリーを厚さ20μmのアルミニウム箔の片面に塗布し、乾燥後プレスして、正極活物質層を片面に有する正極を得た。
【0154】
-電池の作製-
正極を30mm×50mmの長方形に切り出し、負極を30mm×50mmの長方形に切り出して、それぞれにリードタブを溶接した。セパレータを34mm×54mmの長方形に切り出した。正極、セパレータ、負極の順に積層した。積層体をアルミニウムラミネートフィルム製のパック中に挿入し、パック内に電解液(1mol/L LiPF-エチレンカーボネート:エチルメチルカーボネート[質量比3:7])を注入し、積層体に電解液をしみ込ませた。次いで、真空シーラーを用いてパック内を真空状態にして仮封止し、パックごと積層体の積層方向に熱プレス機を用いて熱プレスを行い、電極とセパレータとの接着を行った。熱プレスの条件は、温度90℃、荷重1MPa、プレス時間2分間とした。次いで、真空シーラーを用いてパック内を真空状態にして封止し、試験用二次電池を得た。
【0155】
[実施例2~13、比較例1~12]
実施例1と同様にして、但し、材料の種類及び量を表1に記載の仕様に変更して、各セパレータを作製した。そして、各セパレータを用いて実施例1と同様にして試験用二次電池を作製した。
【0156】
実施例1~13及び比較例1~12の各セパレータの材料、組成、物性及び評価結果を表1に示す。
表1の「PVDF」は、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンの2元共重合体であって、重量平均分子量80万のポリフッ化ビニリデン系樹脂である。
表1の「メタ型アラミド」は、ポリメタフェニレンイソフタルアミドである。
【0157】
【表1】

【0158】
2022年4月28日に出願された日本出願特願2022-075141の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。