(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-07
(45)【発行日】2024-05-15
(54)【発明の名称】犠牲陽極モニタリングセンサおよびモニタリング方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/00 20060101AFI20240508BHJP
G01N 27/20 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
G01N27/00 L
G01N27/20 A
(21)【出願番号】P 2020065246
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2023-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114258
【氏名又は名称】福地 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100125391
【氏名又は名称】白川 洋一
(72)【発明者】
【氏名】江里口 玲
(72)【発明者】
【氏名】梅津 基宏
(72)【発明者】
【氏名】中崎 豪士
【審査官】吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-070774(JP,A)
【文献】特開2019-066300(JP,A)
【文献】特開2012-021212(JP,A)
【文献】特開2017-090421(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0024753(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00 - G01N 27/10
G01N 27/14 - G01N 27/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気防食工法に基づいて、コンクリート構造物内部に埋設された陽極をモニタリングする犠牲陽極モニタリングセンサであって、
鋼材の腐食を検出する腐食センサと、
前記腐食センサに接続された陽極部材と、を備えることを特徴とする犠牲陽極モニタリングセンサ。
【請求項2】
前記陽極部材は、鉄よりも卑な金属であることを特徴とする請求項1記載の犠牲陽極モニタリングセンサ。
【請求項3】
前記
陽極部材は、前記陽極と同種類の金属であることを特徴とする請求項1記載の犠牲陽極モニタリングセンサ。
【請求項4】
前記陽極部材の厚さまたは径は、1mm以上であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の犠牲陽極モニタリングセンサ。
【請求項5】
電気防食工法に基づいて、コンクリート構造物内部に埋設された陽極をモニタリングするモニタリング方法であって、
鋼材の腐食を検出する腐食センサと、前記腐食センサに犠牲陽極をケーブルで接続し、犠牲陽極モニタリングセンサを作製する工程と、
前記作製した犠牲陽極モニタリングセンサを前記コンクリート構造物に埋設する工程と、
鋼材の腐食を検出する腐食センサの抵抗変化もしくは静電容量値の変化によって、犠牲陽極の防食効果の低下をモニタリングする、または、前記犠牲陽極の電流密度の経時変化もしくは鋼材の腐食を検出する腐食センサの復極量の経時変化により、前記埋設された陽極の防食状況を推定する工程と、を少なくとも含むことを特徴とするモニタリング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物内部に埋めた陽極をモニタリングする犠牲陽極モニタリングセンサおよびモニタリング方法に関する。
【0002】
従来から、鉄筋コンクリート構造物、すなわち、RC(Reinforced-Concrete)構造物における鉄筋の腐食を防止するための有効な手段として、電気防食工法が知られている。電気防食工法は、鉄筋腐食対策の最終手段と言われる維持管理方法であり、防食電流を鉄筋に供給することで、鉄筋腐食を制御する工法である。電気防食工法は、外部の電源装置を用いて防食電流を流す外部電流方式と、犠牲陽極と鉄筋のイオン化傾向の差を使って防食電流を流す流電陽極方式に大別される。いずれの方式においても防食電流を安定的に供給することが重要であるため、外部電源方式は外部の電源装置が停止しないように維持する必要がある。また、流電(犠牲)陽極方式は、外部電源方式の電気防食に比べ、電源装置を必要としないため、設置後の管理労力やランニングコストが抑制できる。
【0003】
流電陽極方式の電気防食工法には、様々な方法が提案されている。犠牲陽極となるパネルやシートをコンクリート構造物表面に設置する方法、溶射により表面に塗膜する方法のように表面に設置する方法、犠牲陽極となる金属をバックフィル材に包含した部品を鉄筋と接続しコンクリート内部に埋設する方法等である。
【0004】
犠牲陽極をコンクリート内部に埋設する方法は、表面に犠牲陽極を設置する方法に比べると、新設時に配筋作業と同時に施工できることから、施工労力を抑えることが可能である。また、断面修復等の補正時には、補修材にポリマー入りの電気抵抗が高い材料を用いても犠牲陽極を包含するバックフィル材であるモルタル材料により、一定の導電性保持することで防食電流を供給することが可能である。それらのことから、様々な適応事例がみられる。
【0005】
特許文献1では、コンクリートおよび鉄筋によって構成されたRC構造物において、鉄筋の近傍に腐食センサが設けられ、鉄筋に対して並列に腐食センサおよび陽極システムが接続された電気防食工法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
犠牲陽極をコンクリート内部に埋設する場合、犠牲陽極が消耗しながら防食電流を鉄筋に付与することから、犠牲陽極の消費状態をある程度把握できることが望ましいが直接的には確認できない。すなわち、犠牲陽極の防食効果の確認や犠牲陽極自身の更新時期の判定が困難という課題がある。
【0008】
また、特許文献1の電気防食工法では、腐食センサの大きさが鉄筋に比べ非常に小さいことや電気抵抗値が小さいため、腐食センサが陽極システムおよび鉄筋と直接接続されている場合、腐食センサが過防食の状態となり、陽極材による防食効果が鉄筋より腐食センサに過大に生じるため、陽極材の防食効果が一定以上、低下した後には鉄筋が先に腐食に至り、腐食センサが鉄筋の予防保全的なリスク検知を妨げる可能性が高い。
【0009】
本願発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、腐食センサに犠牲陽極を接続させ、腐食センサの電気防食を行い、鉄筋と接続せずに、コンクリート構造物内部の陽極や鉄筋の腐食発生状況を把握することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)上記目的を達成するために、本発明は、以下のような手段を講じた。すなわち、本発明の犠牲陽極モニタリングセンサは、電気防食工法に基づいて、コンクリート構造物内部に埋設された陽極をモニタリングする犠牲陽極モニタリングセンサであって、鋼材の腐食を検出する腐食センサと、前記腐食センサに接続された陽極部材と、を備えることを特徴としている。
【0011】
これにより、鉄筋に接続する必要もなく犠牲陽極モニタリングセンサをコンクリート構造物中に設置させるので、腐食センサの過防食を抑え、コンクリート構造物内部の陽極消費状況や鉄筋の腐食発生状況を把握することが可能となる。
【0012】
(2)また、犠牲陽極モニタリングセンサにおいて、前記陽極部材は、鉄よりも卑な金属であることを特徴としている。これにより、適切に腐食センサの電気防食が行われ、コンクリート構造物内部の陽極消費状況や鉄筋の腐食発生状況を把握することが可能となる。
【0013】
(3)また、犠牲陽極モニタリングセンサにおいて、前記犠牲陽極は、前記陽極と同種類の金属であることを特徴とする。これにより、適切に腐食センサの電気防食が行われ、コンクリート構造物内部の陽極消費状況や鉄筋の腐食発生状況を把握することが可能となる。
【0014】
(4)また、犠牲陽極モニタリングセンサにおいて、前記陽極部材の厚さまたは径は、1mm以上であることを特徴としている。これにより、犠牲陽極モニタリングセンサの陽極部が想定以上に早期に消耗し破損することを防ぐことが可能となる。
【0015】
(5)また、本発明のモニタリング方法は、電気防食工法に基づいて、コンクリート構造物内部に埋設された陽極をモニタリングするモニタリング方法であって、鋼材の腐食を検出する腐食センサと、前記腐食センサに犠牲陽極をケーブルで接続し、犠牲陽極モニタリングセンサを作製する工程と、前記作製した犠牲陽極モニタリングセンサを前記コンクリート構造物に埋設する工程と、鋼材の腐食を検出する腐食センサの抵抗変化もしくは静電容量値の変化によって、犠牲陽極の防食効果の低下をモニタリングする、または、前記犠牲陽極の電流密度の経時変化もしくは鋼材の腐食を検出する腐食センサの復極量の経時変化により、前記埋設された陽極の防食状況を推定する工程と、を少なくとも含むことを特徴としている。
【0016】
これにより、腐食センサの過防食を抑え、コンクリート構造物内部の鉄筋の腐食進行状況を正確に把握することが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、腐食センサに犠牲陽極を接続させ、腐食センサの電気防食を行うことで、コンクリート構造物内部の陽極消費状況や鉄筋の腐食発生状況を把握することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1A】犠牲陽極モニタリングセンサの概略を示す図である。
【
図3】(a)~(c)は、犠牲陽極の設置例を示す図である。
【
図4】犠牲陽極モニタリングセンサの概略を示す図である。
【
図5】人工海水を用いた浸漬試験(ケース1)の概略を示す図である。
【
図6】犠牲陽極モニタリングセンサの電流密度の経時変化を示すグラフである。
【
図7】1mmΦの亜鉛線水準の腐食センサおよび亜鉛線の電位計測結果を示すグラフである。
【
図9】コンクリート模擬溶液を用いた浸漬実験(ケース2)の概略を示す図である。
【
図10】1mmΦの亜鉛線の電位変化を示すグラフである。
【
図11】腐食センサの抵抗変化を示すグラフである。
【
図12】浸漬試験ケース1の復極量の経時変化を示すグラフである。
【
図13】浸漬試験ケース2の復極量の経時変化を示すグラフである。
【
図14】各浸漬試験後の腐食センサの表面状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明者らは、電気防食において、コンクリート構造物内部に埋設されている場合に陽極部材の消費量が正確に把握できないこと、腐食センサが鉄筋の腐食進行状況を正確に把握できていない状況に着目し、腐食センサに犠牲陽極を接続させ、腐食センサの電気防食を行うことで、コンクリート構造物内部の鉄筋に対する電気防食を模擬して、電気防食の状況を正確に推定できることを見出し、本発明をするに至った。
【0020】
すなわち、本発明の犠牲陽極モニタリングセンサは、コンクリート構造物内部に埋めた陽極をモニタリングする犠牲陽極モニタリングセンサであって、鋼材の腐食を検出する腐食センサと、前記腐食センサに接続された陽極部材と、を備えることを特徴としている。
【0021】
これにより、腐食センサの過防食を抑え、コンクリート構造物内部の鉄筋の防食状況を正確に把握することが可能となる。以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。
【0022】
[犠牲陽極モニタリングセンサ]
図1Aは、犠牲陽極モニタリングセンサの概略を示す図である。
図1Bは、
図1AのA-Aにおける断面図である。犠牲陽極モニタリングセンサ1は、腐食センサ10と犠牲陽極20(以下、陽極部材20ともいう)とを備え、腐食センサ10と犠牲陽極20との間にはモルタル115が設けられている。腐食センサ10と犠牲陽極20は、ケーブル111が半田付され接続されている。
【0023】
図2は、腐食センサの概略を示す図である。腐食センサ10は、導電性を有しない材料で板状に成形された基材121と、鉄を圧延することにより作製した鉄箔材で形成された検知部123と、検知部の一部に設けられ貴金属(例えば、金)で形成された貴金属膜125を成膜している。
【0024】
通常、腐食センサ10は、コンクリート構造物のかぶり部に埋設し、腐食センサ近傍が腐食因子の侵入により鉄を腐食させる環境であるかを腐食センサ自身が腐食して断線することで腐食進行状況を評価する。腐食による腐食センサ10の断線を把握する計測項目としては電気抵抗を計測しており、健全な状態であれば数Ω~20Ωと極めて低い抵抗を示す。一方、腐食に至り断線することで、100Ω以上の抵抗を示すこととなる。
【0025】
腐食センサ10は、
図1Bに示すように、通常セラミックス製の筐体113内部に埋設されており、腐食センサ10の表面をモルタル115で被覆し、電気抵抗の計測には短距離無線技術であるRFIDを適用し、塩害や中性化が懸念される多くのコンクリート構造物に適用されている。
【0026】
犠牲陽極20は、亜鉛合金やアルミニウムなど、鉄よりも卑な金属で形成されている。犠牲陽極20は、陽極の防食状況を精度よく推定するために鉄筋に接続する陽極と同じ金属で構成することが望ましい。犠牲陽極20は、
図1に示すように棒状の形状を有していてもよいが、これに限定されない。板状、線状または網状であっても良い。犠牲陽極20の大きさは、質量を基準に予め算出された耐用寿命(供用期間)に基づき、設計する。犠牲陽極20の好ましい太さは、直径1mm以上の線材もしくは、厚み1mm以上の板材、網状の鋼材とすることが好ましい。
【0027】
腐食センサは、セラミックスの筐体内部に設置され、2mm厚のモルタル層を通じて、犠牲陽極20である亜鉛線より防食電流が供給される。犠牲陽極20である亜鉛線は設計供用期間に応じて任意の長さで調整することや、複数の亜鉛線で構成することも可能である。なお、腐食センサは、静電容量型腐食センサであってもよい。静電容量センサの場合は、鉄箔材で形成された検知部と検知部に対向する位置に対向電極と、鉄箔部および対向電極の間に誘電体を設けて、鉄箔部の腐食による生じる静電容量等の電気特性の変化を計測する。モルタル115は、従来の腐食センサと同様に腐食因子や浸透できるよう、例えば水セメント比50%以上のセメントモルタルとすることができる。
【0028】
図3(a)~(c)は、犠牲陽極20の設置例を示す図である。
図3(a)は、モルタル周囲に線状の陽極部材20を這わせ設置する一例である。
図3(a)の設置例の場合、陽極部材20の線の太さや設置本数の変更、線の長さを調整し、供用期間を設計する。2本の1本が断線したとしても使用可能である。
図3(b)は、板状の陽極部材20を設置する一例である。
図3(b)の設置例の場合、板材の厚さを変更することで、供用期間を設計する。板材と接続するリード線はチタン等の耐食性金属で構成されており、リード線を板材の内部にリング状に埋設することで、陽極材が縞状に消費されても、電気的導通は維持される。
図3(c)は、陽極部材をセラミックス製の筐体113の表面に塗布し設置する一例である。
図3(c)の設置例の場合、塗布面積や厚さを変更することで、供用期間を設計する。さらに広範囲に陽極部材を配置し、メッシュ状にすることで、島状に陽極部材が腐食した際でも接続が保たれる。
【0029】
犠牲陽極モニタリングセンサは、コンクリート構造物内部に埋設されている鉄筋やコンクリートの表面との位置関係が同じになるように設置する。設置は専用の治具やバンド、番線を用いて鉄筋に固定すれば容易である。なお、この際に鉄筋と犠牲陽極モニタリングセンサの鋼材や陽極部材とが接触しないようにする。埋設は新設時であっても補修時であって構わない。
【0030】
モニタンリングは、犠牲陽極モニタリングセンサの犠牲陽極や鋼材の電気特性値の変化を計測する。犠牲陽極モニタリングセンサの犠牲陽極の電流密度の低下度合いを計測することで、電気防食工法の陽極の損傷度合いも推定される。さらに犠牲陽極モニタリングセンサの鋼材の抵抗値の上昇度合いや静電容量値の低下度合いを計測することで、鉄筋が腐食する状況に至ったかを推定できる。
【0031】
[実施例]
図4は、犠牲陽極モニタリングセンサ100の概略を示す図である。犠牲陽極モニタリングセンサ100は、腐食センサ310と犠牲陽極である亜鉛線320が、半田付けされたケーブル411で接続されている。本実施例で用いる亜鉛線320は、99.99%の純度のものを使用し、海中における防食時の陽極必要量を、以下に示す式(1)を用いて計算し、0.5mmΦと1mmΦの2水準とした。また、式(1)中の計画防食電流密度(Ii)は、軟鉄系に用いられる100mA/m
2を代入し、陽極の有効電気量(C)は、780A・h/kgとした。
【0032】
亜鉛線320は、露出部を6mmに調整し、それ以外の露出部を樹脂でコーティングし防水処理を実施した。
【0033】
なお、式(1)で計算した防食期間の設計値は、1mmΦの亜鉛線で288時間、0.5mmΦの亜鉛線320で72時間の防食期間である。
【0034】
【0035】
上述した犠牲陽極モニタリングセンサ100を用いて、以下、2つの浸漬試験を行った。表1は、2つの浸漬試験に用いた溶液の種類を示す表である。ケース1では、人工海水を用いた浸漬試験を実施し、ケース2では、コンクリート模擬溶液を用いた浸漬実験を実施した。
【0036】
【0037】
[1.人工海水を用いた浸漬試験]
図5は、人工海水を用いた浸漬試験(ケース1)の概略を示す図である。浸漬試験ケース1として、人工海水中における腐食センサ310と亜鉛線320の接続状態の防食効果について、腐食促進試験を実施した。試験方法として、溶液槽に3%塩分濃度に調整したイオン交換水(pH:7.7)に空気をポンプで投入し、腐食センサ310単体(無防食)と亜鉛線320を接続した犠牲陽極付き腐食センサ(犠牲陽極モニタリングセンサ100)を、それぞれ3つずつ(n=3)で浸漬した。
【0038】
浸漬試験ケース1では、飽和銀塩化銀電極を用いて腐食センサ310と亜鉛線320の自然電位と復極量を定期的に計測するとともに亜鉛線-腐食センサ間に発生する防食電流を計測した。なお、防食電流は、無抵抗電流計を用いて計測した。また、腐食センサ310が腐食を判定する抵抗値に達した時点の表面状態を目視で確認した。試験期間中における水溶液の環境変化についても、定期的に溶存酸素濃度とpHを計測して変化がないことを確認している。
【0039】
(試験結果)
[1-1.電流密度の挙動]
図6は、犠牲陽極モニタリングセンサ100の亜鉛線-腐食センサ間で計測した電流密度の経時変化を示すグラフである。電流密度は、計測した電流値を腐食センサの検知部分の表面積で除した値、すなわち防食対象面積における電流密度とした。
【0040】
図6に示す通り、電流密度の挙動としては水溶液浸漬直後が最も高く時間経過に伴い低下傾向を示した。1mmΦの亜鉛線については、60時間程度まで試験開始時の電流密度を保ち、その後低下傾向を示し、130時間以降で最低値を示した。0.5mmΦの亜鉛線は、試験開始直後から急速に低下傾向となり45~60時間でほぼ最低値を示した。0.5mmΦについては、この亜鉛線の電位変化に併せ試験開始直後から電流密度も急速に低下していることから、防食環境を安定的に維持できていないと推察される。
【0041】
[1-2.腐食センサ・亜鉛線の電位変化]
図7は、1mmΦの亜鉛線水準の腐食センサおよび亜鉛線の電位計測結果を示すグラフである。腐食センサの電位は約100時間程度まで開始直後と同様、-600mV vs SHEを示し、その後、卑下傾向となった。亜鉛線の電位は開始直後から100時間まで徐々に貴化傾向に上昇し、その後は大きな変化はなく、横ばいとなった。また、
図7に示す0.5mmΦと比較すると、各個体差によるバラツキが少ない結果であったことから防食環境を安定的に維持できていると考えられる。
【0042】
0.5mmΦ、1mmΦのどちらの結果においても防食設計時間である72時間、288時間を大きく下回る結果であった。この理由としては、ポンプから水溶液中に投入した空気により溶液内に流速が発生したことが影響して腐食速度が促進されたと推察される。
【0043】
[1-3.腐食センサの抵抗変化]
図8は、腐食センサの抵抗変化を示すグラフである。
図7に示した0.5mmΦ、1mmΦの亜鉛線を接続した腐食センサの抵抗変化は、腐食センサ単体(無防食)においては数時間から35時間の間にすべてのセンサが腐食状態を示し、0.5mmΦの亜鉛線防食については50~100時間で腐食に至った。1mmΦの亜鉛線水準は、140~160時間ですべてのセンサが腐食に至った。
【0044】
防食有無に関わらず、腐食検知時期はいずれの試料においても各個体によるバラツキは認められる結果ではあるが、無防食→0.5mmΦ亜鉛線防食→1mmΦ亜鉛線防食の順番で100Ωを超える抵抗値を示すまでの経時時間が長時間となっており、1mmΦについては無防食に比して約3倍の時間を要している。つまり、腐食効果が得られたと考えられる。
【0045】
[1-4.亜鉛線による腐食センサの防食効果]
電流密度、電位変化、腐食センサの抵抗変化のそれぞれの計測結果の関係性について、以下考察した。
【0046】
人工海水中において、無防食の腐食センサは、およそ40時間以内で腐食状態に至る。0.5mmΦの亜鉛線で防食した腐食センサは、50~100時間で腐食を示しており、無防食の腐食センサの腐食検知時間を引くと、10~60時間程度防食効果となる。1mmΦの亜鉛線を用いた防食効果としては、90~120時間の防食効果が得られたこととなる。それぞれの防食時間である10~60時間、90~120時間の時点での電流密度と亜鉛の電位に着目すると、表2に示す結果となる。
【0047】
【表2】
電流密度で85~130mA/m
2以下および亜鉛電位が初期値より150mV程度貴化したところが防食終了の時点と予測される。
【0048】
[2.コンクリート模擬溶液を用いた浸漬実験]
図9は、コンクリート模擬溶液を用いた浸漬実験(ケース2)の概略を示す図である。浸漬試験ケース2として、コンクリート模擬溶液を用いた防食効果の確認試験を行った。試験環境は、塩分濃度を10%に調整した飽和水酸化カルシウム溶液(pH:12.3)内にポンプで飽和水酸化カルシウム溶液を通じて二酸化炭素を除去した空気を混入させ、溶液に腐食センサ単体と、0.5mmΦ、1mmΦの亜鉛線を接続した犠牲陽極付き腐食センサ(犠牲陽極モニタリングセンサ100)を、それぞれ3つずつ(n=3)を浸漬した。なお、亜鉛線については、図示しない。
【0049】
計測項目は浸漬試験ケース1と同様の項目を計測し、陽極電位の変化と腐食センサの腐食判定時間に着目した。
【0050】
(試験結果)
[2-1.亜鉛線の電位変化]
図10は、1mmΦの亜鉛線の電位変化を示すグラフである。
【0051】
1mmΦの亜鉛線は、試験期間中、継続的に安定した状態を保ち、浸漬試験ケース1と同様に、緩やかに電位が貴化する傾向を示しているが、270時間付近より1mmΦBの亜鉛線のみ大きく貴化傾向を示した。
【0052】
[2-2.腐食センサの抵抗変化]
図11は腐食センサの抵抗変化を示すグラフである。無防食と0.5mmΦの亜鉛線はほぼ同時期に腐食を判定している。0.5mmΦの亜鉛線については、試験途中の150時間経過時点で亜鉛線の消費と水酸化カルシウムの固着に伴い亜鉛線自身が接続ケーブルから脱落し、その後は防食効果が極端に低下したと推察される。無防食の腐食センサについては、約300~350時間で腐食に至り、浸漬試験ケース1の10倍程度の腐食判定時間が必要であったが、1mmΦの亜鉛線の防食については、350時間経過時点においても、表面的には腐食箇所が現れてきているものの、腐食を判定する抵抗値に至っておらず、防食効果が持続できているといえる。
【0053】
[3.復極量の計測結果]
0.5mmΦの亜鉛線においては安定的な防食効果を得ることができなかったため、1mmΦの亜鉛線における浸漬試験ケース1および浸漬試験ケース2の復極量を評価した。
図12は、浸漬試験ケース1の復極量の経時変化を示すグラフである。
図13は、浸漬試験ケース2の復極量の経時変化を示すグラフである。どちらの浸漬試験においても開始後から復極量は低下していき、陽極消費に伴う復極量の低下が確認された。また、鋼材の水素脆化が懸念される1000mVを超えていないことがわかる。
【0054】
浸漬試験ケース1においては、120時間経過後から急速に低下しており、前述した防食効果の低下時期とほぼ同時期であり、亜鉛電位の貴化に伴う防食電流の低下による復極量の低下が現れた結果となった。
【0055】
浸漬試験ケース2については、コンクリート中の防食基準である100mVを超えた値を維持し続けていることがわかる。さらに、完全防食の値である850mV付近を示した後、徐々に低下傾向を示した。また、270時間付近から1mmΦBの亜鉛線のみ復極量が低下しており、コンクリートの防食基準である100mV以下となった。一方、1mmΦA、1mmΦCについては、350時間を経過した時点でも、100mV以上を維持できているが、明らかに低下傾向であることから、防食効果は低下していると判断できる。
【0056】
図14は、浸漬試験ケース1および浸漬試験ケース2における腐食センサの腐食判定後の表面状態と、同時期の1mmΦの亜鉛線で腐食した腐食センサCの状態を示す図である。
【0057】
浸漬試験ケース1においては、腐食範囲が広く腐食センサ表面の全体に錆が発生している。一方、浸漬試験ケース2では、腐食センサの一部が局所的に孔食し、その箇所の腐食が進行している。
【0058】
1mmΦの亜鉛線で防食した腐食センサは、細かい孔食が確認されるものの、無防食の腐食センサより明らかに腐食箇所が少ない状態である。
【0059】
[4.実構造物への適用方法の検討]
腐食センサを犠牲陽極のモニタリングに適用することを検討する場合、実際に鉄筋に取り付ける犠牲陽極と腐食センサを直接接続することが、容易であると考えられる。しかし、実構造物に設置する犠牲陽極は一定の厚みのバックフィル材を通じて腐食センサより抵抗の大きい鉄筋に腐食電流を供給する仕組みである。そのため、腐食センサと実際に用いる犠牲陽極を接続すると、過大な防食電流を供給する可能性が想定される。犠牲陽極の予防保全的観点で考えると、設置する犠牲陽極の防食効果が低下する直前に何らかの判定ができることが望ましく、実構造物に設置される犠牲陽極とは分離・独立した形で、防食効果をモニタリングすることが望ましい。また、犠牲陽極のサイズ・設置個数は、対象コンクリート面積や鉄筋量、塩分濃度等の条件により異なることから、モニタリングセンサにおいても、犠牲陽極の量を任意にコントロールできることが望ましい。
【0060】
以上説明したように、本発明によれば、腐食センサに犠牲陽極を接続させ、腐食センサの電気防食を行うことで、コンクリート構造物内部の鉄筋の腐食進行状況を正確に把握することが可能となる。
【符号の説明】
【0061】
1、100 犠牲陽極モニタリングセンサ
10 腐食センサ
20 犠牲陽極、陽極部材
111 ケーブル
113 筐体
115 モルタル
121 基材
123 検知部
125 貴金属膜
310 腐食センサ
320 亜鉛線
411 ケーブル