(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-07
(45)【発行日】2024-05-15
(54)【発明の名称】紫外線遮蔽コーティング組成物、及びその用途
(51)【国際特許分類】
C09D 183/08 20060101AFI20240508BHJP
C09D 183/06 20060101ALI20240508BHJP
C09D 5/33 20060101ALI20240508BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20240508BHJP
【FI】
C09D183/08
C09D183/06
C09D5/33
C09D7/61
(21)【出願番号】P 2020082619
(22)【出願日】2020-05-08
【審査請求日】2022-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003975
【氏名又は名称】日東紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中井 康英
(72)【発明者】
【氏名】土澤 健一
(72)【発明者】
【氏名】照内 洋子
【審査官】水野 明梨
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-299087(JP,A)
【文献】特開2008-111048(JP,A)
【文献】特開2015-034281(JP,A)
【文献】特開2016-003264(JP,A)
【文献】特開2011-012112(JP,A)
【文献】特表2003-531924(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-10/00
C09D 101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)成分、(b)成分、(d)成分、及び(e)成分を含有する、紫外線遮蔽コーティング組成物:
(a)下記式(I)で表わされるアミノ基を含むシラン化合物
R
4-n-Si-(OR’)
n -(I)
(式中、Rはアミノ基含有の有機基を表わし、R’はメチル基、エチル基またはプロピル基を表わし、nは1~3から選択される整数を表わす。);
(b)H
3BO
3及びB
2O
3からなる群から選択される少なくとも1種のホウ素化合物;
(d)酸化亜鉛;
(e)有機官能基含有シラン化合物(上記(a)成分に該当するものを除く)
であって、(e)有機官能基含有シラン化合物が、エポキシ基含有シラン化合物を含む、上記紫外線遮蔽コーティング組成物。
【請求項2】
(e)有機官能基含有シラン化合物が、アルコキシ基含有シラン化合物を含む、請求項1に記載の紫外線遮蔽コーティング組成物。
【請求項3】
更に(c)導電性金属酸化物を含む、請求項1
又は2に記載の紫外線遮蔽コーティング組成物。
【請求項4】
(d)酸化亜鉛が、平均粒径10~100nmの微粒子である、請求項1から
3のいずれか一項に記載の紫外線遮蔽コーティング組成物。
【請求項5】
更に(f)有機溶媒を含有する、請求項1から
4のいずれか一項に記載の紫外線遮蔽コーティング組成物。
【請求項6】
更に(g)エポキシ樹脂を含有する、請求項1から
5のいずれか一項に記載の紫外線遮蔽コーティング組成物。
【請求項7】
請求項1から
6のいずれか一項に記載のコーティング用組成物を塗布する工程を有する、紫外線遮蔽コーティング層の製造方法。
【請求項8】
波長280~380nmにおける光線透過率が20%以下、かつ、波長780~1100nmにおける光線透過率が80%以下であるコーティング層を形成する、請求項
7に記載のコーティング層の製造方法。
【請求項9】
透明基板上にコーティング層を形成する、請求項
7又は
8に記載のコーティング層の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線遮蔽コーティング組成物及びその用途に関し、より具体的には紫外線及び好ましくは赤外線を有効に遮蔽するとともに、可視光に対する透明性や基板への密着性にも優れた紫外線遮蔽コーティング組成物及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
建物、車窓等のガラス面またはフィルム面からは太陽光の紫外線や赤外線が侵入し、室内、車内などの内部の温度が上昇し、また紫外線による人体の日焼けや商品・展示物の劣化・損傷が発生するなどの問題があった。この防止対策として紫外線や好ましくは赤外線をも遮蔽でき、かつ、可視光の透過性が高いことによる高い視認性を有するコーティング剤が求められている。
【0003】
従来より、導電性金属酸化物を用いた赤外遮蔽コーティングが提案されている(例えば、特許文献1等参照)。赤外遮蔽コーティングを用いることで、太陽光中の熱効果に大きく寄与する赤外線を除去・減少し、なおかつ可視光を透過させることが可能であり、日射遮蔽材料として冷房効率等を向上させうるので、窓部材などへのコーティングとして好適に使用されている。しかし、紫外線遮蔽能は有していなかった。
【0004】
紫外線遮蔽材料としては、可視光透過性が高く耐久性に優れる超微粒子酸化亜鉛が知られていた(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、超微粒子酸化亜鉛は2次凝集によって粗大粒子になり易いため、溶液安定性の低下、可視光透過率の低下、基板密着性の低下等コーティング剤に不都合な現象を引き起こす懸念があった。このため超微粒子酸化亜鉛をコーティング剤に使用することは容易ではなく、特に赤外線遮蔽機能を有するコーティング剤において、同時に超微粒子酸化亜鉛を使用して紫外線遮蔽機能を実現したものは、実用レベルには達していなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-111048号公報
【文献】特開2000-191490号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の紫外線及び好ましくは赤外線遮蔽機能をも有するコーティングに対する強い要求、及び従来技術の限界に鑑み、本発明の課題は、紫外線及び好ましくは赤外線の遮蔽機能を有するコーティング組成物であって、可視光透過性、基板密着性等のコーティング剤に求められる諸性能をも満足することができるコーティング組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討の結果、特定の構造を有するアミノ基を有する有機シラン化合物と特定の構造を有するホウ素化合物とから形成される基本構造に特定の界面活性剤で分散した酸化亜鉛及び/又はエポキシ基含有シラン化合物を組み合わせることで、酸化亜鉛(及び所望に応じて導電性金属酸化物)を安定的に分散して紫外線遮蔽機能及び好ましくは赤外線遮蔽機能を実現するとともに、可視光透過性、基板密着性等にも優れたコーティングを実現できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本願第1発明は、
[1]
下記(a)成分、(b)成分、及び(d)成分を含有する、紫外線遮蔽コーティング組成物:
(a)下記式(I)で表わされるアミノ基を含むシラン化合物
R4-n-Si-(OR’)n -(I)
(式中、Rはアミノ基含有の有機基を表わし、R’はメチル基、エチル基またはプロピル基を表わし、nは1~3から選択される整数を表わす。);
(b)H3BO3及びB2O3からなる群から選択される少なくとも1種のホウ素化合物;
(d)酸化亜鉛
であって、(d)酸化亜鉛が、リン酸エステル系又はアクリル系界面活性剤を含有する分散液の状態で添加される、上記紫外線遮蔽コーティング組成物、に関する。
【0008】
また、下記[2]から[4]は、いずれも本願第1発明の好ましい一態様又は一実施形態である。
[2]
更に(e)有機官能基含有シラン化合物(上記(a)成分に該当するものを除く)を含む、[1]に記載の紫外線遮蔽コーティング組成物。
[3]
(e)有機官能基含有シラン化合物が、アルコキシ基含有シラン化合物を含む、[1]又は[2]に記載の紫外線遮蔽コーティング組成物。
[4]
(e)有機官能基含有シラン化合物が、エポキシ基含有シラン化合物を含む、[1]から[3]のいずれか一項に記載の紫外線遮蔽コーティング組成物。
【0009】
更に、本願第2発明は、
[5]
下記(a)成分、(b)成分、(d)成分、及び(e)成分を含有する、紫外線遮蔽コーティング組成物:
(a)下記式(I)で表わされるアミノ基を含むシラン化合物
R4-n-Si-(OR’)n -(I)
(式中、Rはアミノ基含有の有機基を表わし、R’はメチル基、エチル基またはプロピル基を表わし、nは1~3から選択される整数を表わす。);
(b)H3BO3及びB2O3からなる群から選択される少なくとも1種のホウ素化合物;
(d)酸化亜鉛;
(e)有機官能基含有シラン化合物(上記(a)成分に該当するものを除く)
であって、(e)有機官能基含有シラン化合物が、エポキシ基含有シラン化合物を含む、上記紫外線遮蔽コーティング組成物、に関する。
【0010】
また、下記[6]から[7]は、いずれも本願第2発明の好ましい一態様又は一実施形態である。
[6]
(e)有機官能基含有シラン化合物が、アルコキシ基含有シラン化合物を含む、[5]に記載の紫外線遮蔽コーティング組成物。
[7]
(d)酸化亜鉛が、リン酸エステル系又はアクリル系界面活性剤を含有する分散液の状態で添加される、[5]又は[6]に記載の紫外線遮蔽コーティング組成物。
【0011】
更に、下記[8]から[14]は、いずれも本願第1発明及び/又は同第2発明の好ましい一態様又は一実施形態である。
[8]
更に(c)導電性金属酸化物を含む、[1]から[7]のいずれか一項に記載の紫外線遮蔽コーティング組成物。
[9]
(d)酸化亜鉛が、平均粒径10~100nmの微粒子である、[1]から[8]のいずれか一項に記載の紫外線遮蔽コーティング組成物。
[10]
更に(f)有機溶媒を含有する、[1]から[9]のいずれか一項に記載の紫外線遮蔽コーティング組成物。
[11]
更に(g)エポキシ樹脂を含有する、[1]から[10]のいずれか一項に記載の紫外線遮蔽コーティング組成物。
[12]
[1]から[11]のいずれか一項に記載のコーティング用組成物を塗布する工程を有する、紫外線遮蔽コーティング層の製造方法。
[13]
波長280~380nmにおける光線透過率が20%以下、かつ、波長780~1100nmにおける光線透過率が80%以下であるコーティング層を形成する、[12]に記載のコーティング層の製造方法。
[14]
透明基板上にコーティング層を形成する、[12]又は[13]に記載のコーティング層の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、紫外線遮蔽機能及び好ましくは赤外線遮蔽機能を実現するとともに、可視光透過性、基板密着性等にも優れたコーティングを実現できるコーティング組成物、及びコーティング層の製造方法等の該コーティング組成物の用途が提供される。
当該コーティング用組成物は、それから得られるコーティングの紫外線遮蔽機能及び好ましくは赤外線遮蔽機能を従来技術の限界を超えた高いレベルで実現でき、かつコーティングに求められる可視光透過性、基板密着性等への要求も満足することができるので、太陽光にさらされる一方で高い視認性が求められる部材、例えば建築物、自動車等の窓材等、に形成されるコーティングにおいて、特に好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
第1発明
本願第1発明は、下記(a)成分、(b)成分、及び(d)成分を含有する、紫外線遮蔽コーティング組成物である。
(a)下記式(I)で表わされるアミノ基を含むシラン化合物
R4-n-Si-(OR’)n -(I)
(式中、Rはアミノ基含有の有機基を表わし、R’はメチル基、エチル基またはプロピル基を表わし、nは1~3から選択される整数を表わす。)。
(b)H3BO3及びB2O3からなる群から選択される少なくとも1種のホウ素化合物。
(d)酸化亜鉛。
本願第1発明においては、(d)酸化亜鉛が、リン酸エステル系又はアクリル系界面活性剤を含有する分散液の状態で添加される。
【0014】
すなわち本願第1発明の紫外線遮蔽コーティング組成物は、上記(a)成分(アミノ基を含むシラン化合物)、及び(b)成分(ホウ素化合物)を含有する。本願第1発明の紫外線遮蔽コーティング組成物を硬化させて得られる紫外線遮蔽コーティング層は、通常、これら(a)成分及び(b)成分を反応させ得られる化学構造を、その少なくとも一部に含む化合物を含有する。また、本願第1発明のコーティング組成物は、硬化前においても(a)成分及び(b)成分が一部反応していてもよく、(a)成分及び(b)成分の反応生成物を一部含有していてもよい。
上述の(a)成分(アミノ基を含むシラン化合物)、及び(b)成分(ホウ素化合物)、並びに所望により他の成分、を反応させて得られる化学構造は、多くの場合、高分子構造を形成する。典型的には、(b)ホウ素化合物が、(a)アミノ基を含むシラン化合物中のアミノ基を介して架橋剤として働き、これらの成分を高分子化させて、(b)ホウ素化合物から導かれる構成単位と(b)ホウ素化合物から導かれる構成単位とを有する高分子構造が形成される。このような高分子構造は、(d)酸化亜鉛(及び所望により(c)導電性金属酸化物)を安定的に分散することができるという好ましい性質を有している。
この好ましい実施形態のコーティング組成物は、(a)成分と(b)成分とが、典型的には10~50℃の条件下で、高分子構造を有する反応生成物を形成可能な組み合わせとなっている。すなわち当該反応生成物は、(a)成分から導かれる構成単位、と(b)成分から導かれる構成単位とを有する高分子構造を有するものである。この高分子構造においては、(a)成分から導かれる構成単位と(b)成分から導かれる構成単位との比率が、(a)成分から導かれる構成単位1モルに対して(b)成分から導かれる構成単位0.02モル以上であることが好ましい。
【0015】
またこの実施形態においては、(a)成分から導かれる構成単位、と(b)成分から導かれる構成単位とを有する高分子構造中に、(d)酸化亜鉛(及び所望により(c)導電性金属酸化物)が安定的に分散した構造となっていることが好ましい。
【0016】
(a)アミノ基を含むシラン化合物
本願第1発明において用いられる(a)成分は、以下の式で表わされる特定の構造を有する、アミノ基を含むシラン化合物である。
R4-n-Si-(OR’)n
(式中、Rはアミノ基含有の有機基を表わし、R’はメチル基、エチル基またはプロピル基を表わし、nは1~3から選択される整数を表わす。)
【0017】
ここで、Rはアミノ基含有の有機基を表わすが、たとえば、モノアミノメチル、ジアミノメチル、トリアミノメチル、モノアミノエチル、ジアミノエチル、トリアミノエチル、モノアミノプロピル、ジアミノプロピル、トリアミノプロピル、モノアミノブチル、ジアミノブチル、トリアミノブチル、及びこれらよりも炭素数の多いアルキル基またはアリール基を有する有機基を挙げることができるが、それらに限定されない。γ―アミノプロピルや、アミノエチルアミノプロピルが特に好ましく、γ―アミノプロピルが最も好ましい。
【0018】
(a)成分中のR’はメチル基、エチル基またはプロピル基を表わす。その中でも、メチル基及びエチル基が好ましい。
【0019】
(a)成分中のnは1~3から選択される整数を表わす。その中でも、nは2~3であるのが好ましく、nは3であるのが特に好ましい。
したがって、(a)成分としては、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシランなどが特に好ましい。
【0020】
(b)ホウ素化合物
本願第1発明において用いられる(b)成分は、H3BO3及びB2O3からなる群から選択される少なくとも1種のホウ素化合物である。(b)成分は、好ましくは、H3BO3である。
【0021】
本実施形態のコーティング組成物における(a)成分と(b)成分との反応における両成分の使用量は、(a)成分1モルに対して(b)成分0.02モル以上の比率であることが好ましく、より好ましくは、(a)成分1モルに対して(b)成分0.02モル~8モルの比率、更に好ましくは、0.02モル~5モルの比率である。
(a)成分1モルに対し、(b)成分が0.02モル以上であることで、固化に要する時間が過度に長くなったり、充分に固化しなかったりする等の問題を効果的に抑制できる。また、(a)成分1モルに対し(b)成分が8モル以下であることで、(b)成分が(a)成分に溶解せず残ってしまう等の問題を効果的に抑制できる。
【0022】
(a)アミノ基を含むシラン化合物と(b)ホウ素化合物とを反応させる際の混合条件(温度、混合時間、混合方法など)は、適宜選択することができる。通常の室温条件では、数分から数十分で透明で粘稠な液体となり、固化する。固化する時間や得られる反応生成物の粘度や剛性はホウ素化合物の割合でも異なるため、(d)酸化亜鉛等のそれ以外の成分や、得るべき反応生成物やコーティングの物性や使用目的に応じて、これらの条件を適宜調節することが好ましい。
【0023】
前記ホウ素化合物(b)は、好ましくは、炭素数1~7のアルコールに溶解したホウ素化合物アルコール溶液の形態で用いることができる。炭素数1~7のアルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、各種プロピルアルコール、各種ブチルアルコール、及びグリセリンなどが挙げられるが、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコールが好ましい。当該アルコール溶液を使用することにより、(b)成分を(a)成分に溶解する時間を短縮できる。なお、取り扱い上アルコール中のホウ素化合物の濃度は高いほうが好ましい。
【0024】
前記好ましい態様における(a)成分と(b)成分との反応生成物は、水を添加して加水分解する工程を経ないで(a)成分と(b)成分を反応させて得られる反応生成物であることが好ましい。このとき、水を添加して加水分解する工程を要さないため、ゾル・ゲル形成等の複雑な工程を要せず、しかも、長時間を要することなく、上記反応生成物を製造することができる。
【0025】
(c)導電性金属酸化物
本願第1発明において好ましく用いられる(c)成分は、導電性金属酸化物である。(c)成分の導電性金属酸化物は、赤外線遮断材料であり、(c)成分を添加することにより、赤外線、特に近赤外線を効果的に遮断することができる。
【0026】
本実施形態における(c)成分の導電性金属酸化物としては、導電性を有する金属酸化物であればよく、それ以外の制限はないが、例えば、Au,Ag,Ni,Cu、In、Sn、及びSbから選択される少なくとも1種の金属の酸化物を挙げることができ、好ましくは、ITO(インジウムスズオキサイド)及びATO(アンチモンスズオキサイド)から成る群から選択される少なくとも1種の酸化物である。
【0027】
コーティングが可視光に対して透明であるためには、可視光線に対し、反射及び吸収が十分に小さいことに加え、散乱ができるだけ少ないことが望ましい。したがって、散乱を小さくするためには可視光の波長の1/2、すなわち、平均粒径が200nmよりも小さい超微粒子であることが特に好ましい。
【0028】
コーティング組成物から得られる膜の可視光における透明性はヘイズ値(全透過光に占める散乱光成分の割合)により判断されるが、ヘイズ値が2%を超えると曇りを感じるため、透明性であるためには、ヘイズ値は2%以下とすることが好ましい。そのような2%以下のヘイズ値を達成するには、ITO(インジウムスズオキサイド)やATO(アンチモンスズオキサイド)の超微粒子などの屈折率が約2の粒子を使用する場合には、平均粒径を100nm以下に分散したものを使用するのが好ましい。ただし、平均粒径を小さくし過ぎた場合、透明性は高くなるものの、近赤外線の遮断性が減少してしまうことがあるので、近赤外線の一定レベルの遮断性を得るためには、当該超微粒子を適切に分散させながらも、分散粒径を10nm以上に保つことが好ましい。したがって、可視光における透明性と近赤外線遮断性とのバランスを考慮して、平均粒径を適切な範囲に調整して利用することが好ましい。
【0029】
本実施形態における(c)成分の導電性金属酸化物の使用量は、特に限定されないが、遮蔽コーティング組成物全体を100質量部として、好ましくは1~30質量部、より好ましくは5~25質量部、より更に好ましくは10~20質量部である。
【0030】
本実施形態においては、(c)成分の導電性金属酸化物に加えて、近赤外線吸収色素を併用してもよい。この場合の近赤外線吸収色素は、近赤外線吸収能を有する色素であれば特に限定されないが、例えば、アゾ系、アルミニウム系、アントラキノン系、シアニン系、ジイモニウム系、ジオール金属錯体系、ノスクアリリウム系及びフタロシアニン系の近赤外線吸収色素から選択される少なくとも1種の近赤外線吸収色素を挙げることができる。その中でも、ジイモニウム系及びフタロシアニン系の近赤外線吸収色素が好ましい。このよう近赤外線吸収色素としては、[ビス(4-t-ブチル-1,2-ジチオフェノレート)銅-テトラ-n-ブチルアンモニウム](住友精化社製BBT)、1,1,5,5-テトラキス[4-(ジエチルアミノ)フェニル]-1,4-ペンタジエン-3-イリウム-P-トルエンスルホナート(昭和電工社製Karenz IR-T)、フタロシアニン化合物(山本化成社製TKR-2040)などを挙げることができる。
【0031】
(d)酸化亜鉛
本願第1発明において用いられる(d)成分は、酸化亜鉛である。(d)成分の酸化亜鉛は、紫外線遮蔽材料であり、(d)成分を添加することにより、紫外線を有効に遮蔽することができる。
本願第1発明においては、(d)酸化亜鉛が、リン酸エステル系又はアクリル系界面活性剤を含有する分散液の状態で添加される。
(d)酸化亜鉛の形態には特に限定は無いが、可視光の透過性を維持する観点から、微粒子の形態であることが好ましく、超微粒子の形態であることが特に好ましい。
より具体的には、超微粒子状の酸化亜鉛は、紫外線遮蔽機能を有するものであるが、同時に可視光線に対して透過性が良好であるためには、200nm以下の平均粒子径を有することが好ましい。平均粒子径が200nm以下であることで、紫外線に対しては優れた遮蔽性能を示すと同時に、可視光線に対する十分な透過性を実現することができる。また、アクリル系分散剤や、リン酸エステル系分散剤等で分散させた状態での分散安定性も良好なものとなり、短時間の静置で酸化亜鉛が分離沈降するなどの現象を有効に抑制できる。
このように、上記の観点からは酸化亜鉛粉末の平均粒子径が小さいほど好ましいが、コスト等の観点から、その平均粒子径は1nm以上であることが好ましい。
実用性と、性能の両面を考慮してより一般的な(d)酸化亜鉛の平均粒子径は10~100nm、更に好ましくは20~50nmの範囲であることが好ましい。なお該酸化亜鉛自体は、どの様な方法で製造したものであってもよいが、粒子径が元々小さくて且つ粒径分布が比較的小さいフランス法、アメリカ法、湿式法等によって製造したものが好ましい。
【0032】
(d)酸化亜鉛の好ましい含有量は、コーティング組成物の使用態様、特に要求される紫外線遮蔽性能及びコーティング厚み等に応じて適宜設定されるので特に制限はないが、良好な分散性の観点からは(a)成分と(b)成分とを反応させて得られる反応生成物を含む高分子物質100質量部に対し、好ましくは0.1~20質量部、より好ましくは4~15質量部、より更に好ましくは7~12質量部である。また、遮蔽コーティング組成物全体を100質量部として、好ましくは0.5~10質量部、より好ましくは1~8質量部、より更に好ましくは2~5質量部である。
【0033】
(d)酸化亜鉛の分散状態を良好なものとする観点から、(d)酸化亜鉛を好適な溶媒、分散媒中に分散させて使用する(コーティング組成物に添加する)ことが好ましい。そのような溶媒、分散媒として、エタノール等のアルコール類、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル類、シクロペンタシロキサン等のシリコーン類、パルミチン酸エチルヘキシル、イソノナン酸イソトリデシル等のエステル類、1,3-ブチレングリコール、1,2-ペンタンジオール等の多価アルコール類と水との混合溶媒等が挙げられるがこれらには限定されない。
シリコーン類の様な疎水性溶媒を使用する場合には、(d)酸化亜鉛の表面を疎水化処理してもよい。特に、超微粒子状酸化亜鉛をシリコーン類中に均一に分散させようとする場合、超微粒子状の酸化亜鉛を相互に付着させることなく微分散状態でシリコーン類中に均一に分散させると共に、安定な分散状態を維持するには、超微粒子状酸化亜鉛の表面が疎水化処理されていることが好ましい。
【0034】
ここで使用される疎水化処理剤としては、例えばシロキサン類、高級脂肪酸類等を挙げることができ、これらは単独で使用してもよく、あるいは必要に応じて2種以上を併用することも有効である。
そして、上記疎水化処理剤の作用を有効に発揮させるには、該疎水化処理剤を超微粒子状酸化亜鉛に対する比率で0.5重量%以上、より好ましくは2重量%以上含有させることが好ましい。しかし含有量が多くなり過ぎると、粉体表面と反応しないものが生じ、分散体内または化粧料内に余剰分の疎水化処理剤が残存して他の成分と反応し、他成分の劣化が促進されるといった問題が生じてくるので、好ましくは10重量%以下、より好ましくは6重量%以下に抑えることが望ましい。
上記疎水化処理はどの様な方法で行ってもよいが、最も一般的なのは、乾式法を採用し、酸化亜鉛粉末をミキサー等で攪拌しながら、この中に適当な溶媒で希釈した疎水化処理剤を加えて混合して溶媒を揮発除去し、必要により加熱処理する方法である。
【0035】
(d)酸化亜鉛の溶媒、分散媒中への分散状態を良好なものとする観点から、界面活性剤を使用してもよい。本願第2発明においては、界面活性剤の種類には特に制限はなく、酸化亜鉛の粒径、表面状態等の性状、溶媒、分散媒の種類等に応じて適宜選択することができるが、リン酸エステル系又はアクリル系界面活性剤を使用することが好ましく、より具体的には、アクリル系等を好ましく使用することができる。
本願第1発明においては、リン酸エステル系又はアクリル系界面活性剤が用いられる。
これらの界面活性剤の使用量は、(d)酸化亜鉛の量を基準として、0.1~40質量%であることが好ましく、0.2~30質量%であることが特に好ましい。
【0036】
(f)有機溶媒
本願第1発明のコーティング組成物は、反応の速度や均一性、コーティング塗工の容易性などの観点から、(f)有機溶媒を含むことが好ましい。
上記(f)有機溶媒には特に制限はなく、常温において液体であり、上記各成分、とりわけ(a)から(d)成分を溶解又は分散することができる有機溶媒を適宜使用することができる。
【0037】
一部極性基を有する上記各成分との親和性や、コーティングの被塗工物との親和性との観点からは、上記(f)有機溶媒が、一定の極性を有し水と相溶性を有する、いわゆる水溶性有機溶媒であることが好ましい。
(f)成分として好ましく用いられる水溶性有機溶媒は、希釈剤として働き、水溶性であれば特に限定されないが、例えばアルコール類を好ましく使用することができる。なかでも炭素数2から5のアルコールを含む有機溶媒を、(f)成分として用いることが好ましい。
また、メトキシメチルブタノール(MMB)等の、より高分子量のアルコールを使用又は併用することもできる。
【0038】
有機溶媒は1種類のみを使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合、あらかじめ混合溶媒を形成してから使用してもよいし、2種以上の溶媒それぞれに、上記各成分の一部を溶解又は分散させてから、それらを組み合わせてもよい。特に、上記(a)成分と(b)成分との反応を進行させるのに好適な溶媒と、上記(d)成分(又は所望による(c)成分)を分散させるのに好適な溶媒とは異なる場合があるので、そのような場合には後者の態様が好ましい。
【0039】
(d)有機溶媒の使用量には特に制限はなく、上記(a)成分及び(b)成分をはじめとする各成分間の反応効率や、コーティングの塗工における効率や作業性、得られるコーティングの品質等を考慮しながら適宜設定すればよい。
紫外線遮蔽コーティングの一般的な使用形態を前提とすれば、(d)有機溶媒の使用量が、コーティング組成物全体の30~90質量%であることが好ましく、40~75質量%であることがより好ましい。
【0040】
(e)有機官能基含有シラン化合物
本願第1発明の紫外線遮蔽コーティング組成物は、好ましくは更に(e)有機官能基含有シラン化合物((a)成分に該当するものを除く)を含有することができる。
したがって、本実施形態のコーティング組成物の反応により形成され得る高分子物質は、上記(a)成分及び(b)成分の反応生成物である高分子構造が、更に(e)有機官能基含有シラン化合物で変性された構造を有していてもよい。
すなわち、前記(a)成分及び(b)成分の反応に際して、あるいは、反応後、有機官能基含有シラン化合物((e)成分)を添加することができる。(e)有機官能基含有シラン化合物、好ましくは金属アルコキシド、を添加することにより、高分子構造を適宜調整したり、得られる反応生成物中の金属塩の含有率を高めるたりすることができ、機械特性、化学特性等をより向上させることができるとともに、(e)成分を用いない場合と同様の粘稠な液体の状態とすることができるので、コーティングの性状、物性を用途に応じて適宜調整することができる。
【0041】
本願第1発明においては、(e)有機官能基含有シラン化合物は、アルコキシ基含有シラン化合物(以下、「金属アルコキシド」ともいう。)又は、エポキシ基含有シラン化合物であることが好ましい。良好な基板密着性を実現する観点からは、エポキシ基含有シラン化合物であることが特に好ましい。
本願第2発明の紫外線遮蔽コーティング組成物は、エポキシ基含有シラン化合物である(e)有機官能基含有シラン化合物を含有する。
(e)成分として好ましく用いられる金属アルコキシドからは、上記(a)成分に該当する化合物(特定の構造を有する、アミノ基を含むシラン化合物)は除外されるが、それ以外の制限は適用されず、上記(a)成分に該当しない限り、一般に金属アルコキシドに分類される化合物、すなわち少なくとも1の金属原子と、少なくとも1のアルコキシ基を有する化合物を、金属アルコキシドとして使用することができる。
【0042】
(e)成分として好ましく用いられる金属アルコキシドの金属としては、Siに加えて、Ta、Nb、Ti、Zr、Al、Ge、B、Na、Ga、Ce、V、Ta、P、Sb、などを挙げることができるが、これらに限定されない。好ましくは、アルコキシドの形成の容易さなどから、Si、Ti、Zrであり、また、(e)成分は液体であることが好ましいため、これを実現する観点からSi、Tiが特に好ましい。金属アルコキシドのアルコキシド(アルコキシ基)としては、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ、及びそれ以上の炭素数を有するアルコキシ基を挙げることができる。メトキシ、エトキシ、プロポキシ、及びブトキシが好ましく、メトキシ及びエトキシがより好ましい。特に好ましい金属アルコキシドとしては、テトラメトキシシラン及びテトラエトキシシランなどを挙げることができる。
金属アルコキシドは多量体であってもよく、例えばテトラエトキシシランの5量体等を好適に使用することができる。単量体と5量体とを組み合わせて使用してもよい。
【0043】
(e)成分として好ましく用いられるエポキシ基含有シラン化合物にも特に制限はないが、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ等のアルコキシ基を有する化合物が好ましく、エポキシ基はとしては、グリシドキシプロピル基、エポキシシクロヘキシル基等のエポキシ基含有アルキル基の形態で存在することが好ましい。
より具体的には、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等が特に好ましく使用される。
【0044】
(e)有機官能基含有シラン化合物の使用量には特に制限はなく、得られるコーティングの用途、所望の特性等に応じて適宜設定することができるが、例えば(a)成分1モルに対して10モル以下の比率で用いることが好ましい。より好ましくは、(a)成分1モルに対して0.1モル~5モルの比率である。(a)成分1モルに対し、(e)成分が0.1モル以上とすることで、基板密着性の向上や、(d)成分(又は所望により(c)成分)を安定的に分散させる等の、(e)成分を添加する効果を十分に発現することができる。また、(e)成分を10モル以下とすることで、白濁の発生等を効果的に抑制することができる。
(e)成分がアルコキシ基含有シラン化合物である場合、その含有量は、コーティング組成物全体の質量を基準として、0.1~20質量%であることが好ましく、0.5~10質量%であることが特に好ましい。
【0045】
界面活性剤
本願第1発明のコーティング組成物には、平滑なコーティング層形成のためのレベリング性の向上や基板密着性の向上等を目的として、更に界面活性剤を添加してもよい。
界面活性剤の種類には特に制限はなく、コーティングの塗工形態や、他の成分、とりわけ(d)有機溶媒との親和性などに応じて適宜選択することができる。界面活性剤は、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両性界面活性剤、及び非イオン界面活性剤のいずれであってもよい。
【0046】
レベリング性や浸透性向上等の観点から、フッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、アルキルエーテル系界面活性剤等を使用することが特に好ましい。中でも、レベリング性等の観点から、シリコーン系界面活性剤を用いることが好ましい。
好ましいシリコーン系界面活性剤の具体例としては、DOW社製「VORASURF SZ-1919」、ビックケミー・ジャパン社製「BYK-307」等を、好ましいフッ素系界面活性剤の具体例としては、AGCセイミケミカル株式会社製「サーフロン」シリーズ、DIC株式会社製「メガファック」シリーズ、株式会社ネオス製「フタージェント」シリーズ等を挙げることができる。
【0047】
界面活性剤の添加量には特に制限はなく、コーティングの塗工形態や硬化後に求められる物性等に応じて適宜設定することができる。
コーティング組成物の一般的な使用形態を前提とすれば、界面活性剤の使用量が、コーティング組成物の0.01~5.0質量%であることが好ましく、0.1~1.0質量%であることが特に好ましい。
【0048】
合成樹脂
本願第1発明のコーティング組成物は、前記(e)金属アルコキシドの代わりにあるいはそれに加えて、合成樹脂を更に含むことができる。すなわち、前記(a)成分、及び(b)成分の反応に際して、あるいは、反応後、合成樹脂を添加することができる。合成樹脂を加えることで、得られるコーティングにクラック防止性等を付与することができ、本願第1発明のコーティング組成物から形成されるコーティング層の耐久性を向上させることができる。
【0049】
本実施形態において使用することができる合成樹脂は、特に限定されないが、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、アミノ樹脂、ウレタン樹脂、フラン樹脂を挙げることができ、様々な重合度(分子量)を有する合成樹脂を使用することができる。また、ビニルエステル樹脂、エポキシアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートなども好ましく使用することができる。その中でも、強度等の樹脂としての特性や、他の成分との反応性、安定性等の観点から、(g)エポキシ樹脂を使用することが好ましい。
【0050】
(g)エポキシ樹脂
本願第1発明のコーティング組成物は、各必須成分に加えて、(g)エポキシ樹脂を含有していてもよい。
(g)エポキシ樹脂は、硬化にあたって、上記(a)成分及び(b)成分で構成される高分子構造に取り込まれて高分子構造の一部を構成してもよく、また、該高分子構造を架橋するなどして、(a)成分及び(b)成分の反応生成物の化学構造や物性を変更したりすることができる。本態様のコーティング組成物は、この様に(g)エポキシ樹脂を含有することで、硬化後のコーティングを構成する反応生成物の化学構造や物性に影響を与え、コーティングの反応性や機械的性質等を制御することができる。
【0051】
本態様において好ましく使用することができる(g)エポキシ樹脂には特に限定はなく、当業界においてエポキシ樹脂に分類される樹脂、すなわち、高分子構造中のエポキシ基で架橋ネットワークを形成することで硬化することが可能な熱硬化性樹脂であればよく、様々な重合度(分子量)を有するエポキシ樹脂を使用することができる。その中でも、ビスフェノールAまたはビスフェノールFのグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、脂環族エポキシ樹脂、及び、ポリグリコール型エポキシ樹脂から成る群から選択される少なくとも1種のエポキシ樹脂などを好ましく使用することができる。
【0052】
(g)エポキシ樹脂の添加量には特に制限はなく、コーティングの塗工形態や硬化後に求められる物性等に応じて適宜設定することができる。
コーティング組成物の一般的な使用形態を前提とすれば、(g)エポキシ樹脂の使用量は、前記(a)成分1gに対し、0.01~5gであるのが好ましく、0.1~2gであるのが、より好ましい。すなわち、(g)エポキシ樹脂の添加量が過大でなければ、硬度の低下が抑制される傾向があり、逆に過小でなければ、化学的耐久性の維持が容易となる傾向がある。
【0053】
第2発明
本願第2発明は、
下記(a)成分、(b)成分、(d)成分、及び(e)成分を含有する、紫外線遮蔽コーティング組成物である。
(a)下記式(I)で表わされるアミノ基を含むシラン化合物
R4-n-Si-(OR’)n -(I)
(式中、Rはアミノ基含有の有機基を表わし、R’はメチル基、エチル基またはプロピル基を表わし、nは1~3から選択される整数を表わす。);
(b)H3BO3及びB2O3からなる群から選択される少なくとも1種のホウ素化合物;
(d)酸化亜鉛;
(e)有機官能基含有シラン化合物(上記(a)成分に該当するものを除く)
本願第2発明においては、(e)有機官能基含有シラン化合物は、エポキシ基含有シラン化合物を含む。
【0054】
すなわち、本願第2発明の紫外線遮蔽コーティング組成物は、(c)酸化亜鉛が特定の界面活性剤を含有する分散液の状態で添加されることを要しないこと、及び(e)有機官能基含有シラン化合物がエポキシ基含有シラン化合物を含むこと、を除くほか、本願第1発明の紫外線遮蔽コーティング組成物と同様である。
本願第2発明の紫外線遮蔽コーティング組成物は、紫外線遮蔽機能及び好ましくは赤外線遮蔽機能を実現するとともに、可視光透過性、基板密着性等にも優れたコーティングを実現できるコーティング組成物であって、特に優れた基板密着性を実現するものである。
上述の相違点を除き、本願第2発明の詳細、例えば紫外線遮蔽コーティング組成物の必須及び好ましい構成成分、及びそれらの構成成分等の詳細は、本願第1発明の紫外線遮蔽コーティング組成物に関して上記にて既に説明したものと同様である。
【0055】
コーティング層及びその製造方法
本発明(本願第1発明又は本願第2発明)のコーティング組成物を、基材上に塗布して硬化させることで、コーティング層を製造することができる。
すなわちこの実施形態のコーティング層の製造方法は、(d)酸化亜鉛(及び所望により(c)導電性金属酸化物)の存在下、下記(a)成分、及び(b)成分を反応させる工程を有する。
(a)下記式(I)で表わされるアミノ基を含むシラン化合物。
R4-n-Si-(OR’)n -(I)
式中、Rはアミノ基含有の有機基を表わし、R’はメチル基、エチル基またはプロピル基を表わし、nは1~3から選択される整数を表わす。
(b)H3BO3及びB2O3からなる群から選択される少なくとも1種のホウ素化合物。
【0056】
上記(a)成分、と(b)成分とを反応させる工程は、(f)有機溶媒中で実施されることが好ましく、(f)有機溶媒は、炭素数2から5のアルコールを、好ましくは20質量%以上含有することが好ましい。
ここで、(f)有機溶媒及びその好ましい態様の詳細は、本発明のコーティング組成物に関して上記にて説明したものと同様である。
【0057】
上記(d)酸化亜鉛(及び所望により(c)導電性金属酸化物)の存在下、(a)成分、及び(b)成分を反応させる工程においては、更に(e)有機官能基含有シラン化合物((a)成分に該当するものを除く。)、(g)エポキシ樹脂等の合成樹脂、界面活性剤等を併用することができる。
ここで、(e)有機官能基含有シラン化合物、好ましくは金属アルコキシド、(g)エポキシ樹脂等の合成樹脂、及び界面活性剤、並びにそれらの好ましい態様の詳細は、本願第1発明のコーティング組成物に関して上記にて説明したものと同様である。
【0058】
本態様の紫外線遮蔽コーティング層の製造方法においては、本発明の紫外線遮蔽コーティング組成物をディッピング、スプレー塗布、ロール塗布、刷毛塗り等の方法で基材の表面に塗布することができる。1回の塗布でコーティング層を形成してもよいし、2回以上の塗布を繰り返すことでコーティング層を形成してもよい。2回以上の塗布を繰り返すことでコーティング層を形成する場合には、塗布後にコーティング組成物を硬化させた後に、更に塗布を行ってもよいし、硬化させないまま塗布を繰り返し、全ての塗布が終了した後に、コーティング組成物を硬化させてもよい。
硬化にあたり加熱は必須ではないが、加熱することにより硬化時間を短縮することができる。
【0059】
紫外線遮蔽コーティング組成物の塗布量には特に制限は無いが、基材の面積100cm2あたり、1g~50gであることが好ましく、2g~40gであることが特に好ましく、5.0g以上であることがとりわけ好ましい。塗布量が基材の面積100cm2あたり、5g以上であることで、十分な厚さの紫外線遮蔽コーティング層を形成することができる。
【0060】
硬化後の紫外線遮蔽コーティング層の厚みには特に限定はなく、紫外線遮蔽コーティングの目的、要求物性、コーティング付き部材の使用態様等に応じて適宜設定することが可能であるが、0.1~20μmであることが好ましく、0.5~10μmであることが特に好ましい。
硬化後の紫外線遮蔽コーティング層は、良好な紫外線遮蔽能及び好ましくは良好な赤外線遮蔽能をも実現することが可能であり、例えば波長280~380nmにおける光線透過率が20%以下、より好ましくは15%以下、特に好ましくは10%以下、かつ、波長780~1100nmにおける光線透過率が80%以下であることが好ましい。
なお、高い遮熱効果を実現する観点からは、長波長側で1500nm程度までの赤外線を遮蔽することが好ましく、例えば、波長780~1500nmにおける光線透過率が60%以下であることが特に好ましい。
【0061】
本実施形態の紫外線遮蔽コーティング層が形成される基材は、特に限定されないが、紫外線遮蔽コーティングの特質を有効に発揮する観点からは、可視光の透過性が高い透明基材上に形成されることが好ましく、例えばガラス基材、透明プラスチック基材、透明セラミック基材上に形成することが特に好ましいが、これらには限定されない。
本発明の紫外線遮蔽コーティング組成物は、それから得られるコーティングの紫外線遮蔽機能及び好ましくは赤外線遮蔽機能を従来技術の限界を超えた高いレベルで実現でき、かつコーティングに求められる可視光透過性、基板密着性等への要求も満足することができるので、建築物の窓材、自動車等の輸送機械の窓材等の、太陽光にさらされる一方で高い視認性が求められる部材において特に好適に使用することができる。
【実施例】
【0062】
以下、本発明を実施例/比較例を参照しながら更に詳細に説明するが、本発明は、これにより何ら限定されるものではない。
【0063】
以下の実施例/比較例において、物性/特性の評価は下記の方法で行った。
(試験片作製)
各実施例/比較例で得られたコーティング組成物を、ガラス板にローラで約40g/m2の塗布量になるように塗布して室温で自然硬化させることで試験片を作製し、紫外線及び赤外線遮蔽能、塗膜透明性、及び基板への密着性を評価した。
(紫外線遮蔽能)
上述の方法に従って作製した試験片を用いて、分光光度計で波長280nm~380nmの光線の透過率を測定し、紫外線遮蔽能を以下の基準に従い評価した。
〇:透過率が20%以下
×:透過率が20%を超える
(赤外線遮蔽能)
上述の方法に従って作製した試験片を用いて、分光光度計で波長780nm~1100nmの光線の透過率を測定し、赤外線遮蔽能を以下の基準に従い評価した。
〇:透過率が80%以下
×:透過率が80%を超える
(塗膜透明性)
上述の方法に従って作製した試験片を用いて、分光光度計で波長380nm~700nmの光線の透過率を測定し、塗膜透明性を以下の基準に従い評価した。
〇:透過率が80%以上
×:透過率が80%未満
(基板密着性)
上述にて作製した試験片を用いて、JIS K5600-5-6準拠によるクロスカット法にて、基板(ガラス板)への密着性を、以下の基準に従い評価した。
〇:クロスカット部分で影響を受けるのは20%未満
△:クロスカット部分で影響を受けるのは20%以上50%未満
×:クロスカット部分で影響を受けるのは50%以上
(溶液安定性)
各実施例/比較例で得られたコーティング組成物にて調製した試料の外観を目視観察し、溶液安定性を以下の基準に従い評価した。
〇:沈降物もゲルも認められず、問題のないもの
△:僅かな沈降物を生じたもの
×:明らかな沈降物やゲル化の生じたもの
【0064】
(実施例1)
表1に示す重量比で各成分を混合して試料を調製した。その際、ホウ素化合物((b)成分)にシラン化合物((a)成分、(e)成分)を十分に反応させた後、他の成分を添加した。
(a)成分として、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン液6質量%(コーティング組成物全体を100質量%とする。以下同じ。)に、(b)成分として、H3BO3粉末を0.4質量%加え、5分間攪拌後、(e)成分として、テトラエトキシシランを13質量%(平均5量体6.5質量%と、単量体6.5質量%との混合物)添加し、更に5分間攪拌し、放置した後、(f)成分として水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂を4.6質量%、(g)成分として、有機溶媒(メトキシメチルブタノール)を68質量%添加し、更に5分間攪拌し、放置した後、(d)成分として、酸化亜鉛分散液(アクリル系)を8質量%混合して、実施例1のコーティング組成物を調製した。
得られたコーティング組成物の溶液安定性を評価するとともに、これを用い、上記方法に従いコーティング被膜試験片を作製し、特性を評価した。結果を表1に示す。
【0065】
(実施例2)
(d)成分として、酸化亜鉛分散液(アクリル系)8質量%に代えて、酸化亜鉛分散液(分散媒:イソプロピルアルコール、界面活性剤:リン酸エステル系)5質量%を使用したこと、及びそれ以外の各成分の使用量を表1に示すもの(溶媒の割合を増やす方向)に変更したことを除くほか、実施例1と同様にしてコーティング組成物を調製し、溶液安定性及びコーティング特性を評価した。
結果を表1に示す。
【0066】
(実施例3)
更に(c)成分としてATO(アンチモンスズオキサイド)分散液(20%、分散媒:3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール)を68質量%添加し、(g)成分としての有機溶媒(メトキシメチルブタノール)を使用しなかったことを除くほか、実施例1と同様にしてコーティング組成物を調製し、溶液安定性及びコーティング特性を評価した。
結果を表1に示す。
【0067】
(実施例4)
(e)成分に3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン2.3質量%を追加し、(f)水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂の使用量を2.3質量%に減じたことを除くほか、実施例3と同様にしてコーティング組成物を調製し、溶液安定性及びコーティング特性を評価した。
結果を表1に示す。
【0068】
(比較例1)
(d)成分として、酸化亜鉛分散液(アクリル系)8質量%に代えて、酸化亜鉛分散液(ポリエーテル変性シリコーン系)5.5質量%を使用したこと、及び表1に示す様に溶媒の割合を増やしたことを除くほか、実施例1と同様にしてコーティング組成物を調製し、溶液安定性及びコーティング特性を評価した。
結果を表1に示す。
【0069】
(比較例2)
(d)成分として、酸化亜鉛分散液(ポリエーテル変性シリコーン系)5.5質量%に代えて、酸化亜鉛分散液(ポリヒドロキシステアリン酸系)4.8質量%を使用したこと、及びこれを補うべく(g)有機溶媒の使用量を増したこと、を除くほか、比較例1と同様にしてコーティング組成物を調製し、溶液安定性及びコーティング特性を評価した。
結果を表1に示す。
【0070】
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の紫外線遮蔽コーティング組成物は、それから得られるコーティングの紫外線遮蔽機能及び好ましくは赤外線遮蔽機能を従来技術の限界を超えた高いレベルで実現でき、かつコーティングに求められる可視光透過性、基板密着性等への要求も満足することができるので、建築物、自動車等の窓材等の、太陽光にさらされる一方で高い視認性が求められる部材において特に好適に使用することができ、建築、建設、自動車等の輸送機械、電気電子機器等の産業の各分野において、高い利用可能性を有する。