IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ マツダ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-運転者状態検出装置 図1
  • 特許-運転者状態検出装置 図2
  • 特許-運転者状態検出装置 図3
  • 特許-運転者状態検出装置 図4
  • 特許-運転者状態検出装置 図5
  • 特許-運転者状態検出装置 図6
  • 特許-運転者状態検出装置 図7
  • 特許-運転者状態検出装置 図8
  • 特許-運転者状態検出装置 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-07
(45)【発行日】2024-05-15
(54)【発明の名称】運転者状態検出装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 40/08 20120101AFI20240508BHJP
   B60W 40/04 20060101ALI20240508BHJP
   B60W 40/107 20120101ALI20240508BHJP
   B60W 40/09 20120101ALI20240508BHJP
   B60W 50/12 20120101ALI20240508BHJP
   B60W 30/16 20200101ALI20240508BHJP
【FI】
B60W40/08
B60W40/04
B60W40/107
B60W40/09
B60W50/12
B60W30/16
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020065819
(22)【出願日】2020-04-01
(65)【公開番号】P2021160627
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100059959
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100123630
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 誠
(72)【発明者】
【氏名】桑原 潤一郎
(72)【発明者】
【氏名】岩下 洋平
【審査官】藤村 泰智
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-154675(JP,A)
【文献】特開2019-209701(JP,A)
【文献】特開2018-144720(JP,A)
【文献】特開2008-230558(JP,A)
【文献】特開2019-151261(JP,A)
【文献】特開2018-185587(JP,A)
【文献】特開2013-063731(JP,A)
【文献】特開2018-147040(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/00 ~ 50/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者の異常を検出する運転者状態検出装置であって、
自車両の前方又は自車両の側方且つ前方を走行している車両を検出する前方車両検出センサと、
自車両の加減速度を検出する加減速度センサと、
上記前方車両検出センサによって検出された先行車両に追従するように自車両を走行させるための適正な加減速度を、目標速度を入力とし、アクセル操作量を出力とする伝達関数である加減速度モデルに基づいて算出する加減速度算出部と、
この加減速度算出部によって算出された加減速度と、上記加減速度センサによって検出された自車両の実際の加減速度と、を比較して、これらの間の一致度が所定の閾値よりも低いとき、運転者に異常があると判定する異常判定部と、
を有し、
上記加減速度算出部は、自車両の前方又は自車両の側方且つ前方を走行している前方車両が、上記前方車両検出センサによって複数検出されている場合には、上記各前方車両の走行状態に応じて、自車両が追従すべき仮想的な先行車両までの距離を算出し、上記適正な加減速度を算出し、
上記適正な加減速度は、前方車両が検出されていない場合と、仮想的な先行車両がある場合で、異なる伝達関数に基づいて算出されることを特徴とする運転者状態検出装置。
【請求項2】
上記加減速度算出部は、上記前方車両検出センサによって複数検出されている上記各前方車両について、自車両との間の距離に基づいて夫々重み付けし、この重みに基づいて上記仮想的な先行車両までの距離を算出する請求項1記載の運転者状態検出装置。
【請求項3】
さらに、運転者が健常な状態で先行車両を追従するときに実行する加減速操作を学習する加減速学習部を有し、上記加減速度算出部は、上記加減速学習部によって学習された健常な運転者の加減速操作に基づいて、算出する加減速度を補正する請求項1又は2に記載の運転者状態検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転者状態検出装置に関し、特に、運転者の異常を検出する運転者状態検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2019-123434号公報(特許文献1)には、ドライバ状態判定装置が記載されている。このドライバ状態判定装置においては、通常状態におけるドライバのアクセルペダルの操作特性モデルが予めメモリに記憶されている。さらに、操作特性モデルに基づいて設定された基準操作特性と、走行中におけるドライバの実際の操作特性を比較することにより、ドライバの異常の有無が判定される。具体的には、先行車両に追従する走行を行っている場合には、ドライバは、先行車両の加減速に応じて自車両を加減速させ、先行車両との間に適正な車間距離を維持しながら走行する。特許文献1記載の発明においては、先行車両が加減速を行った際に、先行車両との適切な車間距離を維持するためにドライバが自車両を加減速させる操作特性に基づいて、ドライバの異常の有無を判定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-123434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、通常の運転者は、自車両の走行車線の前方を走行している先行車両との間の車間距離を常に一定に維持しようとしているわけではないことが、本件発明者により見出された。即ち、実際の走行環境においては、運転者は、先行車両との間の車間距離を常に一定に維持しているのではなく、先行車両以外の他車両の走行状態をも考慮に入れて、自車両の加減速操作を行っていることが明らかとなった。例えば、自車両と先行車両との間に、隣の車線の他車両が割り込もうとしている状況では、通常の運転者は、自車両を減速させて予め先行車両との間の車間距離を広げておき、他車両が割り込んだ後に、車間距離が狭くなり過ぎないようにしている。
【0005】
一方、特許文献1記載のドライバ状態判定装置では、通常の運転者による上記のような加減速操作が考慮されていない。従って、特許文献1記載のドライバ状態判定装置では、運転者が上記のような加減速操作を行った場合、運転者に異常がある、と誤判定してしまう虞がある。
【0006】
従って、本発明は、自車両の様々な走行環境において、運転者の異常の誤判定を抑制することができる運転者状態検出装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために、本発明は、運転者の異常を検出する運転者状態検出装置であって、自車両の前方又は自車両の側方且つ前方を走行している車両を検出する前方車両検出センサと、自車両の加減速度を検出する加減速度センサと、前方車両検出センサによって検出された先行車両に追従するように自車両を走行させるための適正な加減速度を、目標速度を入力とし、アクセル操作量を出力とする伝達関数である加減速度モデルに基づいて算出する加減速度算出部と、この加減速度算出部によって算出された加減速度と、加減速度センサによって検出された自車両の実際の加減速度と、を比較して、これらの間の一致度が所定の閾値よりも低いとき、運転者に異常があると判定する異常判定部と、を有し、加減速度算出部は、自車両の前方又は自車両の側方且つ前方を走行している前方車両が、前方車両検出センサによって複数検出されている場合には、各前方車両の走行状態に応じて、自車両が追従すべき仮想的な先行車両までの距離を算出し、適正な加減速度を算出し、適正な加減速度は、前方車両が検出されていない場合と、仮想的な先行車両がある場合で、異なる伝達関数に基づいて算出されることを特徴としている。
【0008】
このように構成された本発明においては、加減速度算出部は、自車両の前方又は自車両の側方且つ前方を走行している車両を検出する前方車両検出センサによって検出された先行車両に追従するように自車両を走行させるための適正な加減速度を、加減速度モデルに基づいて算出する。また、異常判定部は、加減速度算出部によって算出された加減速度と、加減速度センサによって検出された自車両の実際の加減速度と、を比較して、これらの間の一致度が所定の閾値よりも低いとき、運転者に異常があると判定する。ここで、加減速度算出部は、自車両の前方又は自車両の側方且つ前方を走行している前方車両が、前方車両検出センサによって複数検出されている場合には、各前方車両の走行状態に応じて、自車両が追従すべき仮想的な先行車両までの距離を算出し、適正な加減速度を算出する。
【0009】
先行車両に追従するように運転を行っている健常な運転者は、例えば、隣接する車線を走行している他車両が、自車両と先行車両の間に進出しようとしていることに気づくと、自車両を減速させ、自車両と先行車両の車間距離を広くとるようにする。即ち、先行車両に追従して走行を行っている場合であっても、先行車両以外の他車両の挙動に対応して加減速度を調整する運転を行っている。このように、運転者が他車両の挙動に対応した加減速を行った場合、自車両と、自車両と同一の車線を走行している先行車両との間の車間距離は、他車両が存在しない場合における適正な車間距離とは異なるものとなる。
【0010】
上記のように構成された本発明によれば、自車両の前方又は自車両の側方且つ前方を走行している前方車両が、複数検出されている場合には、各前方車両の走行状態に応じて、自車両が追従すべき仮想的な先行車両までの距離を算出し、適正な加減速度を算出する。このため、自車両の前方を走行している前方車両が複数存在する場合であっても、走行状況に応じた適正な加減速度を加減速度モデルにより算出することができ、運転者の異常の誤判定を抑制することができる。
【0011】
本発明において、好ましくは、加減速度算出部は、前方車両検出センサによって複数検出されている各前方車両について、自車両との間の距離に基づいて夫々重み付けし、この重みに基づいて仮想的な先行車両までの距離を算出する。
【0012】
このように構成された本発明によれば、複数検出されている各前方車両について、自車両との間の距離に基づいて夫々重み付けし、この重みに基づいて仮想的な先行車両までの距離を算出するので、簡単な演算で仮想的な先行車両までの距離を算出することができる。
【0013】
本発明において、好ましくは、さらに、運転者が健常な状態で先行車両を追従するときに実行する加減速操作を学習する加減速学習部を有し、加減速度算出部は、加減速学習部によって学習された健常な運転者の加減速操作に基づいて、算出する加減速度を補正する。
【0014】
このように構成された本発明によれば、加減速度算出部が、加減速学習部によって学習された健常な運転者の加減速操作に基づいて、算出する加減速度を補正するので、運転者ごとの加減速操作の癖等を、算出された加減速度に反映させることができる。これにより、加減速度モデルに基づいて算出される加減速操作と、健常な状態における運転者の加減速操作を良く一致させることができ、算出された加減速度と、自車両の実際の加減速度との一致度を正確に判定することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の運転者状態検出装置によれば、自車両の様々な走行環境において、運転者の異常の誤判定を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態による運転者状態検出装置の全体構成を示すブロック図である。
図2】本発明の実施形態による運転者状態検出装置において、先行車両に追従するために適正な加減速度の算出に使用される加減速度モデルを説明するための図である。
図3】本発明の実施形態による運転者状態検出装置において、先行車両に追従するために適正な加減速度の算出に使用される加減速度モデルを説明するための図である。
図4】本発明の実施形態による運転者状態検出装置において、先行車両に追従するために適正な加減速度の算出に使用される加減速度モデルを説明するための図である。
図5】本発明の実施形態による運転者状態検出装置において、先行車両に追従するために適正な加減速度の算出に使用される加減速度モデルを説明するための図である。
図6】本発明の実施形態による運転者状態検出装置における異常判定の原理を説明する図である。
図7】本発明の実施形態による運転者状態検出装置において、複数の前方車両が存在する場合における仮想的な先行車両の算出を説明するための図である。
図8】本発明の実施形態による運転者状態検出装置において、電子制御ユニットによって実行される処理を示すフローチャートである。
図9】仮想的な先行車両を設定するために、図8に示すフローチャートから呼び出されるサブルーチンである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、添付図面を参照して、本発明の実施形態による運転者状態検出装置を説明する。
図1は、本発明の実施形態による運転者状態検出装置の全体構成を示すブロック図である。図2乃至図5は、本発明の実施形態による運転者状態検出装置において、先行車両に追従するために適正な加減速度の算出に使用される加減速度モデルを説明するための図である。
【0018】
図1に示すように、本発明の実施形態による運転者状態検出装置1は、前方車両検出センサである車外カメラ2及びレーダ4と、加減速度センサである車速センサ6、ブレーキペダルセンサ8a、及びアクセルペダルセンサ8bと、を有する。さらに、運転者状態検出装置1は、これらのセンサからの検出信号が入力される電子制御ユニット(ECU)10と、電子制御ユニット10からの指令信号に基づいて作動する警報装置12及び自動運転制御部14と、を有する。
【0019】
車外カメラ2は、自車両の前方を走行している車両を検出するように、車両に取り付けられたカメラである。なお、車外カメラ2は、自車両の前方又は自車両の側方且つ前方を走行している車両を検出するように構成されており、本明細書において「自車両の前方」とは、「自車両の前方又は自車両の側方且つ前方」を意味している。この車外カメラ2によって撮影された画像は、順次電子制御ユニット10に送られ、そこで画像解析され、自車両の走行車線の前方を走行している先行車両が検出される。また、車外カメラ2は、自車両の走行車線に隣接する走行車線等を走行している前方車両も撮影可能に構成され、画像解析により複数の前方車両を検出することができる。従って、車外カメラ2は、自車両の前方又は自車両の側方且つ前方を走行している車両を検出する前方車両検出センサとして機能する。また、画像解析により先行車両が検出された場合には、車外カメラ2によって取得された画像を解析することにより、自車両と先行車両や前方車両との間の車間距離(車間時間)や、相対速度等が計算される。
【0020】
レーダ4は、自車両の前方に向けてマイクロ波等の電磁波を射出すると共に、自車両前方に存在する物体により反射された電磁波を検出することにより、先行車両や、自車両に隣接する走行車線等を走行する前方車両を検出するように構成されている。レーダ4の検出信号は、電子制御ユニット10に送られ、そこで、自車両から先行車両や、前方車両までの車間距離(車間時間)や、相対速度等を算出するように構成されている。従って、レーダ4は、自車両の前方又は自車両の側方且つ前方を走行している車両を検出する前方車両検出センサとして機能する。前方車両検出センサとしては、1又は複数の任意のセンサを使用することができる。また、本実施形態においては、電磁波を使用したレーダ4が使用されているが、これに代えて、又はこれと共に、超音波を使用した超音波センサを使用することもできる。
【0021】
車速センサ6は、自車両の走行速度を検出するように構成されている。また、車速センサ6によって検出された車速に基づいて、自車両の加減速度を算出することもできる。従って、車速センサ6は、自車両の加減速度を検出する加減速度センサとして機能する。車速センサ6として、任意のセンサを使用することができる。
【0022】
ブレーキペダルセンサ8aは、自車両のブレーキペダル(図示せず)の踏込量を検出するように構成されている。このブレーキペダルの踏込量に基づいて、自車両の減速度を算出することができる。また、アクセルペダルセンサ8bは、自車両のアクセルペダル(図示せず)の踏込量を検出するように構成されている。このアクセルペダルの踏込量に基づいて、自車両の加速度を算出することができる。従って、ブレーキペダルセンサ8a及びアクセルペダルセンサ8bは、自車両の加減速度を検出する加減速度センサとして機能する。ブレーキペダルセンサ8a、アクセルペダルセンサ8bとして、ロータリーエンコーダ等、任意のセンサを使用することができる。
【0023】
電子制御ユニット10は、車両に搭載されたマイクロプロセッサ、メモリ、インターフェイス回路、これらを作動させるソフトウェア等(以上、図示せず)により構成されている。本実施形態の運転者状態検出装置1においては、電子制御ユニット10に備えられたマイクロプロセッサ、メモリ、インターフェイス回路、及びソフトウェアにより、加減速度算出部10a、異常判定部10b、及び加減速学習部10cの機能が実現される。
【0024】
加減速度算出部10aは、車外カメラ2等の前方車両検出センサによって検出された先行車両に追従するように自車両を走行させるための適正な加減速度を、加減速度モデルに基づいて算出するように構成されている。さらに、加減速度算出部10aは、自車両の前方を走行している前方車両が複数検出されている場合には、各前方車両の走行状態に応じて、自車両が追従すべき仮想的な先行車両までの距離を算出し、適正な加減速度を算出するように構成されている。
【0025】
また、異常判定部10bは、加減速度算出部によって算出された加減速度と、車速センサ6等の加減速度センサによって検出された自車両の実際の加減速度と、を比較して、これらの間の一致度が所定の閾値よりも低いとき、運転者に異常があると判定するように構成されている。
【0026】
加減速学習部10cは、運転者が健常な状態で先行車両に追従したときに行った加減速操作を学習するように構成されている。即ち、運転者が健常な状態で加減速操作を行う場合であっても、加減速度算出部10aに備えられた加減速度モデルに基づいて算出される加減速操作とは異なるものとなる。加減速学習部10cは、健常な状態における個々の運転者の加減速操作の癖を学習する。さらに、加減速度算出部10aは、加減速学習部10cによって学習された健常な運転者の加減速操作に基づいて、算出する加減速度を補正し、算出される加減速操作を健常な運転者の加減速操作に一致させる。加減速度算出部10a、異常判定部10b、及び加減速学習部10cによる処理の詳細については後述する。
【0027】
警報装置12は、電子制御ユニット10の異常判定部10bによって、運転者に異常があると判定された場合に、警報音声及び/又は表示により、運転者に異常が検出されたことを運転者に報知するように構成されている。例えば、異常が検出された旨のメッセージを音声で報知するスピーカ(図示せず)や、異常が検出された旨を表示するディスプレイ(図示せず)を、警報装置12として使用することができる。
【0028】
自動運転制御部14は、電子制御ユニット10の異常判定部10bによって、運転者に異常があると判定された場合に、自動運転により自車両を安全な場所に停車させるように構成されている。即ち、自動運転制御部14は、車両の操舵装置、エンジン制御装置、アクセル制御装置、ブレーキ制御装置等(以上、図示せず)に制御信号を送り、自車両を自動運転するように構成されている。なお、自動運転制御部14は、電子制御ユニット10に備えられたマイクロプロセッサ等(図示せず)により実現されても良く、或いは、電子制御ユニット10とは別の装置により実現されても良い。
【0029】
次に、図2及び図3を参照して、電子制御ユニット10の加減速度算出部10aに備えられている加減速度モデルを説明する。
図2は、本発明の実施形態の運転者状態検出装置1において、電子制御ユニット10の加減速度算出部10aに備えられている加減速度モデルの概念図である。図3は、本発明の実施形態の運転者状態検出装置1において、電子制御ユニット10の加減速度算出部10aに備えられている加減速度モデルのブロック線図である。
【0030】
図2に示すように、加減速度モデルは、運転者が、前方車両に関する情報のみを参照して、アクセルペダル(図示せず)の操作(加減速操作)を行うドライバのペダル操作モデルである。自車両の前方を走行する車両が、自車両と同一の車線を走行する1つの前方車両のみである場合には、その前方車両が先行車両として処理される。また、自車両の前方を走行する車両が、自車両と同一の車線を走行する車両の他、隣接する車線等に複数検出されている場合には、まず、それらの前方車両について重みが計算される。次に、この重みに基づいて複数の前方車両が統合され、制御目標として追従すべき仮想的な先行車両が計算される。
【0031】
具体的には、車外カメラ2及びレーダ4によって取得された先行車両に関する情報(又は複数の前方車両を統合した仮想的な先行車両に関する情報)が、加減速度モデル(ドライバモデル)に入力される。この入力情報に基づいて、自車両と先行車両(又は仮想的な先行車両)の相対速度、及び車間距離が算出される。次いで、算出された相対速度には相対速度ゲインHvが乗じられ、車間距離には車間距離ゲインHgが乗じられ、これらが加算される。この加算値に、運転者の反応時間に相当する時間遅れ要素τpが施され、これがアクセルペダル(図示せず)に対する操作量として出力される。このように、加減速度算出部10aに備えられている加減速度モデルによれば、自車両の走行車線の前方を走行する1又は複数の前方車両に関する情報のみに基づいて、アクセルペダル(図示せず)の操作が決定される。
【0032】
次に、図3を参照して、加減速度算出部10aに備えられた加減速度モデルのブロック線図を説明する。このブロック線図に示すモデルは、ポンサトーンにより提唱されたモデルであり、図2における「ドライバモデル」の部分に対応しており、アクセルペダル操作モデルが含まれている。また、図2に記載されている複数の前方車両に関する情報を統合して仮想的な先行車両を計算する処理については後述する。
【0033】
加減速度モデルは、先行車両(又は仮想的な先行車両)の検出時と非検出時とのそれぞれにおいて、目標速度Vpを入力とし、アクセル操作量Pgm(加減速度)を出力とし、目標速度Vpとアクセル操作量Pgmとの対応関係を伝達関数で表すモデルである。加減速度モデルによりアクセル操作量Pgmが出力されると、これが自車両に入力され、アクセル操作量Pgmの入力に応答した自車両の速度Vmが加減速度モデルにフィードバックされる。
【0034】
加減速度モデルは、減算器51,52、加算器53、積分要素61、比例要素62,63、一次遅れ要素64、及び比例要素65を備えている。加減速度モデルにおいて、Rm’は自車速度Vmと目標速度Vpとの速度偏差を示し、RmはRm’の積分で表される車間距離を示し、Th*は先行車との目標車間時間を示し、Rm*は目標車間距離を示し、Gvは車速ゲインを示し、Grは車間距離ゲインを示し、τpは操作遅れを示す。また、sはラプラス演算子を示す。なお、車速ゲインGvは、図2における相対速度ゲインHvに相当し、車間距離ゲインGrは、図2における車間距離ゲインHgに相当し、操作遅れτpは、図2における時間遅れ要素τpに相当する。
【0035】
自車速度Vmはフィードバックループを介して加減速度モデルにフィードバックされ、減算器51によって目標速度Vpから減じられ、速度偏差Rm’が算出される。速度偏差Rm’は比例要素62によって車速ゲインGvが乗じられて加算器53に入力される。また、自車速度Vmはフィードバックループを介して加減速度モデルにフィードバックされ、比例要素65によって目標車間時間Th*が乗じられ、目標車間距離Rm*が算出され、減算器52に入力される。
【0036】
速度偏差Rm’は積分要素61により積分され、車間距離Rmが算出され、減算器52に入力される。減算器52は、車間距離Rmと目標車間距離Rm*との距離偏差(=Rm-Rm*)を算出する。この距離偏差(=Rm-Rm*)は比例要素63によって車間距離ゲインGrが乗じられ、加算器53に入力される。加算器53は、Rm’・GvとGr・(Rm-Rm*)とを加算し、加算値A1を算出する。加算値A1は一次遅れ要素64によって、操作遅れτpだけ遅延され、アクセル操作量Pgmが出力される。
【0037】
このように、加減速度モデルは、速度偏差Rm’と、目標車間距離Rm*に対する車間距離Rmの距離偏差とに応じた加算値A1を、操作遅れτpからなる一次遅れ要素64により遅延させてアクセル操作量Pgmを算出するモデルである。ここで、加減速度モデルは、先行車両(及び仮想的な先行車両)の非検出時には車間距離ゲインGr=0に設定される。したがって、先行車両等の非検出時の操作特性は、車速ゲインGvと操作遅れτpによって表される。一方、先行車両等の検出時の操作特性は、車速ゲインGvと操作遅れτpと車間距離ゲインGrとによって表される。
【0038】
加減速度モデルによって算出されたアクセル操作量Pgmは、車両に入力される。自車両は、アクセル操作量Pgmの入力に応答して自車速度Vmが定まり、この自車速度Vmが加減速度モデルにフィードバックされる。なお、自車両は、比例要素、一次遅れ要素、及び積分要素(図示せず)を含む二次遅れ系の伝達関数で表すことができる。
【0039】
ここで、先行車両(又は仮想的な先行車両)が存在するときの運転者の加減速操作は以下のように算出される。まず、先行車両等の検出時においては、目標速度Vpとして、レーダ4によって検出された先行車両等の車速が採用される。本実施形態において、電子制御ユニット10の加減速度算出部10aに備えられた加減速度モデルは、目標速度Vpが入力として与えられた場合に、先行車両に追従するように自車両を走行させるための適正な加減速度が得られるように各パラメータが設定されている。具体的には、加減速度モデルに含まれる車速ゲインGv、車間距離ゲインGr、及び操作遅れτpが調整され、適正な値に設定されている。
【0040】
また、電子制御ユニット10は、運転者が健常な状態で自車両を運転したときの目標速度Vpと、この目標速度Vpに対するアクセル操作量Pgmをデータとして保存している。さらに、電子制御ユニット10に内蔵された加減速学習部10cは、電子制御ユニット10に保存された目標速度Vpとアクセル操作量Pgmのデータに基づいて、車速ゲインGv、車間距離ゲインGr、及び操作遅れτpを逆算する。これらのパラメータが、運転者が健常な状態で先行車両に追従したときに行った加減速操作として、加減速学習部10cによって学習される。
【0041】
このように、加減速学習部10cによって学習された車速ゲインGv、車間距離ゲインGr、及び操作遅れτpは、加減速度算出部10aに備えられた加減速度モデルの各パラメータに反映される。これにより、加減速度算出部10aによって算出される加減速度が、加減速学習部10cによって学習された健常な運転者の加減速操作に基づいて補正される。このため、運転者ごとの加減速操作の癖等を、加減速度算出部10aによって算出される加減速度に反映させることができる。
【0042】
次に、図4及び図5を参照して、運転者が、先行車両に追従するように自車両を走行させた場合における車両の挙動を説明する。
図4は、運転者が、先行車両に追従するように自車両を走行させたときの自車両の速度を模式的に示す時系列波形のグラフである。図5は、運転者が、先行車両に追従するように自車両を走行させたときの自車両の加速度を模式的に示す時系列波形のグラフである。
【0043】
図4において、実線は、健常な運転者が、先行車両に追従するように自車両を走行させたときの速度を示している。図4の実線に示すように、時刻t0において先行車両が加速すると、これに追従するように運転者も加速を開始し、自車両の速度を上昇させている。また、図5は、図4に示す走行における加速度を示すものであり、実線は、健常な運転者による自車両の加速度を示している。図5の実線に示すように、時刻t0において先行車両が加速すると、これに応じて運転者は比較的急速に加速度を上昇させている。
【0044】
また、電子制御ユニット10の加減速度算出部10aに備えられた加減速度モデルによって算出される加減速度も、先行車両が加速を行った場合には、図4及び図5の実線とほぼ同等のものになることが確認されている。このように、先行車両に追従するように自車両を走行させるための適正な加減速度を、加減速度モデルに基づいて算出することができ、この加減速度は、健常な運転者が運転を行った場合における加減速度とほぼ一致する。
【0045】
一方、図4及び図5の破線は、機能低下状態に陥った運転者が運転した場合における自車両の速度及び加速度の一例を示している。図4及び図5の破線に示すように、機能低下状態に陥った運転者(患者)では、時刻t0において先行車両が加速した後、自車両が加速を開始するまでの時間が長く、先行車両の加速から大きく遅れて自車両の速度を上昇させている。このため、図5に示す実線と同等の加速度を加減速度モデルに基づいて算出し、この加減速度と、運転者の運転に基づく自車両の実際の加減速度を比較することにより、運転者の異常(機能低下状態等)の有無を検出することが可能である。
【0046】
次に、図6を参照して、加減速度の時系列波形に基づく運転者の異常検出を説明する。
図6は、本発明の実施形態による運転者状態検出装置における異常判定の原理を説明する図である。
まず、上述したように、加減速度算出部10aに備えられた加減速度モデルによって算出された加減速度と、機能低下状態にある運転者では、先行車両に追従する際の加減速度の時系列波形に差異が表れる(図5の実線と破線)。このような、加減速度モデルによって算出された加減速度(推定値)と、運転者の運転による実際の加減速度(実操作)との差を、図6の左欄に示すように「推定誤差」とする。本実施形態の運転者状態検出装置1においては、一定時間の推定誤差分布に基づいて、運転者の異常度(加減速度モデルによる加減速度と運転者の運転による実際の加減速度の一致度)を計算し、これに基づいて異常の有無を判定している。
【0047】
即ち、加減速度モデルによる加減速度波形と、運転者の運転による実際の加減速度波形との間に所定の推定誤差が表れる確率は、図6の右側に模式的に示すような確率密度分布を示す。ここで、運転者が健常な状態であっても、加減速度モデルによる加減速度波形と実際の加減速度波形との間には推定誤差が存在し、その推定誤差の分布は或る確率密度分布を示す。しかしながら、運転者が機能低下状態となると、加減速度モデルによる加減速度波形と実際の加減速度波形との間の推定誤差の確率密度分布が、健常時とは異なったものとなる。
【0048】
なお、健常な運転者の運転にも個人差があり、健常な運転者であっても、加減速度モデルによる加減速度波形とは異なる加減速操作が行われる。しかしながら、健常な運転者の場合と、機能低下状態にある運転者の場合で、加減速度モデルによる加減速度と運転者の運転による実際の加減速度の一致度に有意な差が存在することが本件発明者の実験により確認されている。即ち、機能低下状態にある複数の患者について、ドライブシミュレータを使用して加減速度モデルによる加減速度と、患者の運転による実際の加減速度の一致度を算出した。さらに、各患者がリハビリを行い、健常者に復帰した後、ドライブシミュレータにより同一の実験を実施した。その結果、患者がリハビリを行う前後における一致度の相違は、各患者(及びリハビリ後の各健常者)間のバラツキよりも十分に大きなものとなった。これにより、加減速度モデルによる加減速度と運転者の運転による実際の加減速度の一致度に基づいて、運転者の異常を検出できることが確認された。
【0049】
本実施形態においては、電子制御ユニット10の異常判定部10bに、健常な運転者において発生する推定誤差の確率密度分布が記憶されており、記憶されている確率密度分布と、運転者の実際の運転に基づいて取得された推定誤差の確率密度分布の一致度に基づいて、運転者の異常の有無が判定される。具体的には、記憶されている健常な運転者の確率密度分布と、運転者の実際の運転に基づいて計算された確率密度分布の間のカルバックライブラー情報量を計算することができる。さらに、このカルバックライブラー情報量を所定の閾値と比較することにより、運転者の異常の有無を判定することができる。カルバックライブラー情報量は、2つの確率密度分布の間の差異を表す指標として知られており、2つの確率密度分布の情報量の差の期待値として計算される。
【0050】
即ち、運転者が健常である状態(通常)と、機能低下に陥っている状態(異常)では、加減速度モデルによって算出された加減速度に対する推定誤差の確率密度分布が異なったものとなる。図6の右側に示すように、2つの確率密度分布の差分が、健常時における加減速操作に対する操作逸脱度に相当する。このため、両者の確率密度分布の一致度を、カルバックライブラー情報量を使用して計算し、これを所定の閾値と比較することにより異常の有無を判定することができる。即ち、2つの確率密度分布の差分が小さいほど各確率密度分布の一致度が高いこととなり、この状態では、加減速度算出部10aに備えられた加減速度モデルに基づいて算出された加減速度と、自車両の実際の加減速度との一致度も高くなる。このように、本実施形態において、電子制御ユニット10の異常判定部10bは、加減速度モデルに基づく加減速度と、自車両の実際の加減速度との一致度を所定の閾値と比較して運転者の異常の有無を判定している。
【0051】
このように、自車両前方の車両が、自車両と同一の車線を走行する先行車両のみである場合には、加減速度モデルに基づく加減速度と、自車両の実際の加減速度との一致度を所定の閾値と比較して運転者の異常の有無を判定することができる。しかしながら、自車両前方の車両が複数存在する場合には、健常な運転者による加減速操作が、加減速度モデルに基づく加減速とは異なるものとなる場合がある。例えば、隣接する車線を走行している前方車両が、自車両が走行する車線に進出しようとしている場合には、運転者は、進出しようとしている前方車両をも考慮に入れて、加減速操作を行う。このため、このような場合には健常な運転者の行う加減速操作が、加減速度モデルに基づく加減速とは異なるものとなり、これらの間の一致度が低下するため、正確な運転者の異常判定が困難となる。
【0052】
この問題を解決するために、本実施形態の運転者状態検出装置1においては、車外カメラ2等の前方車両検出センサによって、前方車両が複数検出されている場合には、各前方車両の情報を統合して仮想的な先行車両を算出する。電子制御ユニット10に備えられた加減速度算出部10aは、算出された仮想的な先行車両を追従すべき先行車両として設定し、仮想的な先行車両までの距離を算出する。さらに、加減速度算出部10aに備えられた加減速度モデルにより、仮想的な先行車両に追従するように適正な加減速度が算出される。
【0053】
次に、図7を参照して、複数の前方車両が存在する場合において算出される仮想的な先行車両を説明する。図7は、複数の前方車両が存在する場合における仮想的な先行車両の算出を説明するための図である。
まず、図7において、自車両Sは、自車両の走行車線の前方を走行している先行車両Pに追従するように走行している。さらに、図7に示すように、自車両Sの前方には、隣接する走行車線に他車両Qが走行しており、この他車両Qが、追従している先行車両Pと自車両Sとの間に進出してくる可能性がある場合には、健常な運転者は、他車両Qをも考慮に入れて加減速操作を行う。
【0054】
即ち、図7に示すような状況において、隣接する車線を走行している他車両Qが、追従している先行車両Pと自車両Sとの間に進出しようとしていることに気付くと、健常な運転者は自車両Sを減速させる。このように、健常な運転者は、自車両Sと先行車両Pの間への他車両Qの進出が予想されると、先行車両Pと自車両Sの間を広くし、他車両Qが間に入った後の車間距離が適正になるように自車両Sを減速させる。このような健常な運転者による加減速操作は、常に先行車両Pに追従するように加減速度を計算する加減速度モデルでは算出できない。
【0055】
そこで、本実施形態において、加減速度算出部10aは、複数の前方車両である先行車両P及び他車両Qを統合して、仮想的な先行車両Pvを算出する。まず、2つの前方車両である先行車両P及び他車両Qを統合するために、各車両に対する現在の時刻tにおける重みri(t)が数式(1)により計算される。
【0056】
数式(1)において、iは、自車両の前方に存在する前方車両を識別する番号であり、例えば、先行車両Pをi=1とし、他車両Qをi=2とすることができる。また、ciは、i番目の前方車両の自車線への侵入率を表している。図7の例では、先行車両Pの全体が、自車両Sが走行する車線内に入っているので、先行車両Pの侵入率c1(t)=1である。また、先行車両Pは直進を続けているので、2秒後にも侵入率は変化しないと考えられるので、先行車両Pの2秒後における侵入率c1(t+2)=1となる。一方、他車両Qは、現在(=時刻t)隣接する車線内を走行しているので、他車両Qの現在の侵入率c2(t)=0である。しかしながら、他車両Qは、現在、自車両Sが走行する車線内に近づきつつあるので、2秒後には、車体の一部が、自車両Sが走行する自車線内に侵入するものと考えられる。例えば、2秒後に他車両Qの車体の半分が自車線内に侵入すると予想されれば、他車両Qの侵入率c2(t+2)=0.5となる。
【0057】
次に、数式(1)において、diは、i番目の前方車両と、自車両Sとの間の進行方向距離を表している。従って、自車両Sと先行車両Pとの間の2秒後の進行方向の距離は、d1(t+2)と表すことができる。同様に、自車両Sと他車両Qとの間の2秒後の進行方向の距離は、d2(t+2)と表すことができる。数式(1)において、重みri(t)は、侵入率ciを進行方向距離di(t+2)の2乗で除することにより計算されるため、重みri(t)が進行方向距離の2乗に反比例するものとなり、人間が感じる危険感に符合する値になる。
このように、数式(1)を使用して、各前方車両(図7では先行車両P及び他車両Q)に対する重みr1(t)、r2(t)が夫々計算される。
【0058】
次いで、数式(2)、数式(3)を使用して、自車両Sと仮想的な先行車両Pvとの間の相対速度V及び相対距離Xを夫々計算する。


数式(2)において、riは、数式(1)により計算された各前方車両に対する重みである。また、viは、自車両Sと各前方車両との間の相対速度であり、図7においては、自車両Sと先行車両Pとの間の相対速度がv1、自車両Sと他車両Qとの間の相対速度がv2で表される。
【0059】
従って、数式(2)によれば、自車両Sと仮想的な先行車両Pvとの間の相対速度Vは、各前方車両(図7では先行車両P及び他車両Q)に対する重みriと、各前方車両との間の相対速度viを夫々乗じた値の合計を、各前方車両に対する重みriの合計で除することにより計算される。同様に、数式(3)によれば、自車両Sと仮想的な先行車両Pvとの間の相対距離Xは、各前方車両(図7では先行車両P及び他車両Q)に対する重みriと、各前方車両との間の相対距離xiを夫々乗じた値の合計を、各前方車両に対する重みriの合計で除することにより計算される。
【0060】
さらに、数式(2)及び数式(3)を使用して夫々計算された仮想的な先行車両Pvとの間の相対速度V、及び相対距離Xを、図2におけるドライバモデルの「相対速度」、「車間距離」として夫々入力することにより、加減速度モデルを使用して、運転者による加減速操作を算出することができる。(なお、数式(2)及び数式(3)により算出された相対速度V及び相対距離Xは、図3における「速度偏差」及び「車間距離」に夫々対応する。)
【0061】
このように、数式(1)乃至数式(3)を使用して仮想的な先行車両Pvを計算することにより、健常な運転者による加減速操作を、加減速度モデルを使用して再現することができる。即ち、先行車両Pの他に前方車両が存在しない場合、及び他車両Qが存在しても自車線に進出してくることが予想されない場合には、仮想的な先行車両Pvは、先行車両Pと一致し、通常の加減速度モデルにより加減速度が計算される。また、先行車両Pの他に前方車両(他車両Q)が存在し、その他車両Qが2秒後に自車線に侵入することが予想される場合には、先行車両P及び他車両Qに夫々重みriが割り当てられる。これにより、仮想的な先行車両Pvが先行車両Pと他車両Qの間に設定され、加減速度モデルは、この仮想的な先行車両Pvに追従するのに適正な加減速度を計算する。
【0062】
また、他車両Qに対する重みr2は、他車両Qの侵入率c2が大きいほど大きくなり、また、自車両Sと他車両Qの距離d2が短いほど大きくなる。他車両Qに対する重みr2が大きくなると、仮想的な先行車両Pvは、他車両Qに近い位置に設定される。このように仮想的な先行車両Pvを設定することにより、隣接する車線の他車両Qが自車線に侵入し始めると、最初は先行車両Pに近い位置に仮想的な先行車両Pvが設定され、侵入が進むと(侵入率c2が大きくなると)次第に他車両Qに近い位置に仮想的な先行車両Pvが設定されるようになる。そして、他車両Qが自車線に完全に侵入する(侵入率c2=1)と、仮想的な先行車両Pvは他車両Qと一致し、自車両Sは他車両Qに追従するようになる。これにより、複数の前方車両が存在する場合における健常な運転者の加減速操作を、加減速度モデルにより算出することが可能になる。
【0063】
次に、図1図7乃至図9を参照して、本発明の実施形態による運転者状態検出装置1の作用を説明する。
図8は、本発明の実施形態による運転者状態検出装置1において、電子制御ユニット10によって実行される処理を示すフローチャートである。図9は、仮想的な先行車両を設定するために、図8に示すフローチャートから呼び出されるサブルーチンである。図8に示すフローチャートは、自車両Sの走行中、所定の時間間隔で繰り返し実行される。
【0064】
まず、図8のステップS1においては、前方車両検出センサである車外カメラ2及びレーダ4(図1)の検出信号が、電子制御ユニット10に入力される。
次に、ステップS2においては、ステップS1において入力された検出信号に基づいて、前方車両(先行車両P又は他車両Q)が存在するか否かが判断される。即ち、車外カメラ2によって撮影された画像を画像解析すると共に、レーダ4から入力された検出信号を解析することにより、前方に車両が存在するか否かが判断される。本実施形態においては、自車両Sの前方を、自車両Sが走行している車線と同一の車線上を走行していると共に、自車両Sとの車間時間約3秒以内にある車両が先行車両Pとして認識される。なお、車間時間3秒とは、先行車両Pが現在走行している位置まで、3秒後に自車両Sが到達する状態を意味しており、高速道路上の通常の走行速度では100~150m程度の車間距離に相当する。また、自車線に隣接する車線を走行している前方の車両が他車両Qとして認識される。
【0065】
ステップS2において、前方車両が存在しないと判断された場合には、図8に示すフローチャートの1回の処理を終了する。一方、前方車両が存在する場合には、ステップS3以下の処理が実行される。
ステップS3においては、仮想的な先行車両Pvを設定するために、図9に示すサブルーチンのフローチャートが呼び出される。なお、図9に示すフローチャートの処理は、電子制御ユニット10に内蔵された加減速度算出部10aにより実行される。
【0066】
まず、図9のステップS11においては、先行車両Pに関する情報が取得される。図7に示す例においては、2秒後に予測される先行車両Pの侵入率c1(t+2)=1、及び自車両Sと先行車両Pとの間の進行方向の距離d1(t+2)が取得される。なお、先行車両Pが存在しない場合には、先行車両Pの侵入率c1(t+2)=0とされ、先行車両Pに関する重みr1(t)はゼロにされる。
【0067】
次いで、ステップS12においては、他車両Qに関する情報が取得される。図7に示す例においては、2秒後に予測される他車両Qの侵入率c2(t+2)、及び自車両Sと他車両Qとの間の進行方向の距離d2(t+2)が取得される。なお、2秒後に予測される他車両Qの侵入率c2(t+2)は、他車両Qの走行方向θ(図7)、及び他車両Qの速度に基づいて計算される。なお、他車両Qが存在しない場合、又は他車両Qが自車線に侵入して来ないと予想される場合には、他車両Qの侵入率c2(t+2)=0とされ、他車両Qに関する重みr2(t)はゼロにされる。また、図7に示す例では、自車両の前方車両は先行車両P及び他車両Qのみであるが、他車両が複数存在する場合には、各他車両について侵入率及び自車両Sとの間の進行方向の距離が取得される。
【0068】
さらに、ステップS13においては、ステップS11及びS12において取得された先行車両P及び他車両Qに関する情報に基づいて、数式(1)を使用して、重みri(t)が夫々計算される。また、上述したように、先行車両Pが存在しない場合、他車両Qが存在しない又は自車両Sの車線に侵入してくる可能性がない場合には、対応する重みはゼロにされる。なお、図7に示す例では、先行車両Pに対する重みr1(t)及び他車両Qに対する重みr2(t)が夫々計算されるが、他車両が複数ある場合には、それらの他車両についても夫々重みr3(t)、r4(t)...が計算される。また、先行車両Pが存在せず、自車両Sの車線に侵入してくる可能性のある他車両Qも存在しない場合には、図8及び図9に示すフローチャートの1回の処理を終了する。即ち、この場合には、自車両Sが追従すべき仮想的な先行車両Pvを設定することができないため、運転者の異常検出を実行することなく、処理を終了する。
【0069】
次に、ステップS14においては、ステップS13において算出された各重みriに基づいて、数式(2)及び数式(3)を使用して、自車両Sと仮想的な先行車両Pvとの間の相対速度V及び相対距離Xが夫々計算される。これにより、先行車両Pと他車両Qの間に、仮想的な先行車両Pvが設定される。また、重みが設定された車両が1つだけである場合には、その車両が仮想的な先行車両Pvとして設定され、仮想的な先行車両Pvは重みが設定された1つの車両と同一になる。ステップS14において仮想的な先行車両Pvが設定されると、電子制御ユニット10における処理は、図8に示すフローチャートのステップS4に復帰する。
【0070】
次に、図8のフローチャートのステップS4においては、電子制御ユニット10に内蔵された加減速度算出部10aにより、ステップS3において設定された仮想的な先行車両Pvに追従するように自車両Sを走行させるための適正な加減速度が、加減速度モデルに基づいて算出される。即ち、数式(2)及び数式(3)によって算出された仮想的な先行車両Pvとの間の相対速度V、及び車間距離Xが、図2に示す加減速度モデルに相対速度V、車間距離Xとして入力され、自車両を走行させるための適正なペダル操作(加減速度)が算出される。
【0071】
次いで、ステップS5においては、加減速度センサである車速センサ6、ブレーキペダルセンサ8a、及びアクセルペダルセンサ8bの検出信号に基づいて、自車両Sの実際の加減速度が計算される。なお、ブレーキペダルセンサ8aや、アクセルペダルセンサ8bは、直接的に車両の加減速度を検出するセンサではないが、これらの検出信号に基づいて、車両の加減速度を計算することができる。本明細書においては、このようなセンサも、「加減速度センサ」に含まれるものとする。
【0072】
さらに、ステップS6においては、ステップS4において加減速度モデルに基づいて算出された加減速度と、ステップS5において計算された自車両Sの実際の加減速度が比較され、これらの加減速度の一致度が、所定の閾値よりも高いか否かが判断される。一致度が所定の閾値よりも高い場合には、ステップS7に進み、そこで、電子制御ユニット10の異常判定部10bにより、運転者は健常な状態であると判断され、図8のフローチャートによる1回の処理を終了する。即ち、加減速度モデルによって算出された仮想的な先行車両Pvに追従するため加減速度と、運転者の加減速操作による加減速度が良く一致する場合には、運転者は健常であると判断される。
【0073】
これに対して、自車両Sの実際の加減速度と、加減速度モデルに基づいて算出された加減速度の一致度が、所定の閾値以下である場合には、ステップS8に進み、そこで、異常判定部10bにより、運転者に異常がある(機能低下状態にある)と判断される。即ち、先行車両Pのみが存在する場合には、この先行車両Pが仮想的な先行車両Pvとして設定され、この仮想的な先行車両Pvに追従するための加減速度が加減速度モデルに基づいて算出される。この加減速度と、運転者の加減速操作による加減速度の間に乖離がある場合には、運転者が先行車両Pに適正に追従する運転をしていないと考えられるため、運転者に異常があると判断することができる。
【0074】
一方、先行車両P及び1又は複数の他車両Qが存在する場合には、これらの前方車両が、数式(1)によって計算される重みri(t)によって統合され、仮想的な先行車両Pvが設定される。さらに、設定された仮想的な先行車両Pvに追従するための加減速度が加減速度モデルに基づいて算出される。この加減速度と、運転者の加減速操作による加減速度の間に乖離がある場合には、運転者が先行車両Pの他、他車両Qを考慮した運転をしていないと考えられるため、運転者に異常があると判断することができる。
【0075】
次いで、ステップS9においては、運転者の支援が実行され、図8のフローチャートによる1回の処理を終了する。具体的には、電子制御ユニット10から警報装置12(図1)に制御信号が送られ、スピーカ(図示せず)から、運転者に安全な場所に自車両を停車させるよう促す音声が出力される。また、これと同時に、運転者が機能低下状態に陥っている虞があるため、安全な場所に自車両を停車させるよう促すメッセージがディスプレイ(図示せず)に表示される。また、運転者状態検出装置1により、運転者に異常があると繰り返し判断されている場合には、電子制御ユニット10は自動運転制御部14(図1)に信号を送り、自動運転により自車両を安全な場所に停車させる。また、スピーカからの音声及びディスプレイの表示により、運転者が機能低下状態に陥っている虞があるため、自車両が自動運転に切り替えられた旨が報知される。
【0076】
本発明の実施形態の運転者状態検出装置1によれば、自車両の前方を走行している前方車両(先行車両P及び他車両Q)が、複数検出されている場合には、各前方車両の走行状態に応じて、自車両Sが追従すべき仮想的な先行車両Pvまでの距離を算出し(図9のステップS14、数式(3))、適正な加減速度を算出する。このため、自車両Sの前方を走行している前方車両が複数存在する場合であっても、走行状況に応じた適正な加減速度を加減速度モデルにより算出することができ、運転者の異常の誤判定を抑制することができる。
【0077】
また、本実施形態の運転者状態検出装置1によれば、複数検出されている各前方車両(先行車両P及び他車両Q)について、自車両Sとの間の距離に基づいて夫々重み付けし(図9のステップS13、数式(1))、この重みri(t)に基づいて仮想的な先行車両Pvまでの距離(数式(3))を算出するので、簡単な演算で仮想的な先行車両Pvまでの距離を算出することができる。
【0078】
さらに、本実施形態の運転者状態検出装置1によれば、加減速度算出部10aが、加減速学習部10c(図1)によって学習された健常な運転者の加減速操作に基づいて、算出する加減速度を補正するので、運転者ごとの加減速操作の癖等を、算出された加減速度に反映させることができる。これにより、加減速度モデルに基づいて算出される加減速操作と、健常な状態における運転者の加減速操作を良く一致させることができ、算出された加減速度と、自車両の実際の加減速度との一致度を正確に判定することができる。
【0079】
以上、本発明の実施形態を説明したが、上述した実施形態に種々の変更を加えることができる。特に、上述した実施形態においては、加減速度モデルとして、図3に示したものが使用されているが、健常な運転者の加減速操作をモデル化した任意のモデルを使用することができる。また、上述した実施形態においては、加減速度算出部10aによって算出された加減速度と、自車両の実際の加減速度との一致度が、カルバックライブラー情報量を計算することにより判定されていたが、任意の評価指標を使用して一致度を判定することができる。
【符号の説明】
【0080】
1 運転者状態検出装置
2 車外カメラ(前方車両検出センサ)
4 レーダ(前方車両検出センサ)
6 車速センサ(加減速度センサ)
8a ブレーキペダルセンサ(加減速度センサ)
8b アクセルペダルセンサ(加減速度センサ)
10 電子制御ユニット
10a 加減速度算出部
10b 異常判定部
10c 加減速学習部
12 警報装置
14 自動運転制御部
51 減算器
52 減算器
53 加算器
61 積分要素
62 比例要素
63 比例要素
64 一次遅れ要素
65 比例要素
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9