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特許7483223鉄の高選択的除去用の混紡繊維の製造方法及び適用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-07
(45)【発行日】2024-05-15
(54)【発明の名称】鉄の高選択的除去用の混紡繊維の製造方法及び適用
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/30 20060101AFI20240508BHJP
   B01J 20/26 20060101ALI20240508BHJP
   B01J 20/34 20060101ALI20240508BHJP
   B01D 15/00 20060101ALI20240508BHJP
   D01D 5/04 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
B01J20/30
B01J20/26 E
B01J20/34 G
B01D15/00 N
D01D5/04
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023180657
(22)【出願日】2023-10-20
【審査請求日】2023-10-20
(31)【優先権主張番号】202310288651.4
(32)【優先日】2023-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515190906
【氏名又は名称】南京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】523398558
【氏名又は名称】江蘇国創新材料研究中心有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100230086
【弁理士】
【氏名又は名称】譚 粟元
(74)【代理人】
【識別番号】100207561
【弁理士】
【氏名又は名称】柳元 八大
(72)【発明者】
【氏名】劉 福強
(72)【発明者】
【氏名】張 希
(72)【発明者】
【氏名】張 為国
(72)【発明者】
【氏名】荊 世超
(72)【発明者】
【氏名】李 正斌
(72)【発明者】
【氏名】産 慧芳
(72)【発明者】
【氏名】李 愛民
【審査官】目代 博茂
(56)【参考文献】
【文献】特開昭48-020776(JP,A)
【文献】特開平07-070231(JP,A)
【文献】国際公開第2012/036034(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0002309(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第116024810(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J20/00-20/34
B01D15/00-15/42
C02F1/28
D01D1/00-13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアクリロニトリル(PAN)とポリエチレングリコール(PEG)とを機械的に混合して、前駆体溶液を得るステップ1と、
ステップ1で得られた前駆体溶液をエレクトロスピニング装置により紡糸して得られた繊維を水溶液中に置いて撹拌して、ポリエチレングリコールで溶解して繊維の孔構造及び分布を制御し、完成後に引き上げ、凍結乾燥させた後、の高選択的除去用の混紡繊維を得て、保存して使用に備えるステップ2と、を含む、
ことを特徴とする鉄の高選択的除去用の混紡繊維の製造方法。
【請求項2】
ステップ1では、前記前駆体溶液中のPAN含有量は、5wt%~20wt%であり、PEG分子量は、600~20000であり、前記PANとPEGとの機械的混合の質量比は、12:1~12:12である、
ことを特徴とする請求項1に記載の鉄の高選択的除去用の混紡繊維の製造方法。
【請求項3】
ステップ2では、前記エレクトロスピニング装置の紡糸パラメータは、紡糸ニードルのサイズが12G~28Gであり、紡糸速度が0.5mL/h~5mL/hであり、正、負極間の距離が10cm~30cmであり、電圧が12kv~25kvである、
ことを特徴とする請求項1に記載の鉄の高選択的除去用の混紡繊維の製造方法。
【請求項4】
ステップ2では撹拌温度は、25℃~80℃であり、撹拌時間は、2h~8hであり、乾燥方式は、オーブン乾燥、真空乾燥又は凍結乾燥の任意の1つである
ことを特徴とする請求項1に記載の鉄の高選択的除去用の混紡繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重金属の分離及び精製の分野に関し、具体的には、鉄の高選択的除去用の混紡繊維の製造方法及び適用に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄(Fe)元素の含有量が豊富であり、地殻中の含有量の4.75%を占めており、酸素、ケイ素、アルミニウムに次いで地殻中の含有量の第4位にあり、自然条件下で様々な金属元素と鉱物中に共存することが多く、製錬法による鉄の製造過程に加えて、他の非鉄鉱物の製錬生産過程において、鉄は、いずれも不純物として広く存在し、製造プロセスに影響を与え、かつ目標鉱物元素の純度を低下させ、例えば、アルミニウム抽出過程において、鉄が酸浸漬過程において浸出されて酸浸漬液に入り、アルミニウム抽出プロセスの不純物除去分離工程を増加させるだけでなく、アルミニウム製品の純度と回収率にも影響を与える。次に、いくつかの特殊な工業(紡績、製紙、食品業界など)は、水中の鉄含有量に対する要求が高く、例えば、紡績業界において、鉄イオンの存在は、製造過程における酸化反応を抑制し、酸化反応の選択性に直接影響を与え、収率の低下、設備の腐食の加速をもたらし、更に後処理の困難をもたらす。また、鉄元素は、廃水処理過程に影響を与え、例えば、生化学処理用構築物中の微生物を毒し、活性汚泥の浄化効果、汚染吸着部の吸着剤に影響を与え、処理能力を低下させ、処理コストを増加させる。これから分かるように、鉄不純物の存在は、工業生産の各方面にいずれも影響を与える。
【0003】
登録特許CN103521098Bには、乾燥したポリアクリロニトリル粉末をポロゲンとしてのポリエチレングリコールと混合し、エタノールとメタノールの混合溶液で抽出して、高強度のポリアクリロニトリル中空糸膜を得るポリアクリロニトリル中空糸膜の製造方法が開示されており、この過程はポリエチレングリコールを利用して孔を形成するだけである。また、例えば、登録特許CN214192787Uには、フィルターエレメントとしてガラス繊維フィルター材料と活性分子膜を利用し、フィルターエレメントの交換が煩雑であるという問題を解決する新型繊維の鉄除去フィルターが報告されている。以上の特許は、いずれも繊維表面形態の制御に関するものではなく、重金属分離の分野に利用されておらず、現在、繊維の鉄イオンの分離及び精製に関する特許及び論文の報告もない。したがって、解決しようとする技術的課題は、多成分重金属溶液中で鉄イオンを高選択的に分離除去する能力を有し、かつ安価で再生しやすい吸着剤を製造することである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の材料の使用及び技術に存在する上記欠点を解消するために、本発明は、ポリエチレングリコールの溶解性を利用し、ポリアクリロニトリル繊維を骨格とし、異なる分子量のポリエチレングリコールで繊維表面形態を制御して、混紡繊維の鉄イオンに対する吸着能力を強化し、また、該混紡繊維を利用して、多成分重金属溶液から鉄を高選択的に分離精製する適用を提供し、複数のpH条件下で、多成分混合金属溶液における鉄の鉄イオンを高選択的、安価かつ簡便に分離精製するために解決手段を提供する、鉄の高選択的除去用の混紡繊維及びその製造方法と適用を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明は、以下の技術手段を提供する。鉄の高選択的除去用の混紡繊維の製造方法は、
ポリアクリロニトリル(PAN)とポリエチレングリコール(PEG)とを機械的に混合して、前駆体溶液を得るステップ1と、
ステップ1で得られた前駆体溶液をエレクトロスピニング装置により紡糸して得られた繊維を水溶液中に置いて撹拌して、ポリエチレングリコールで溶解して繊維の孔構造及び分布を制御し、完成後に引き上げ、凍結乾燥させた後、特殊な表面形態及び均一な表面を有する鉄の高選択的除去用の混紡繊維を得て、保存して使用に備えるステップ2と、を含む。
【0006】
好ましくは、ステップ1では、前記前駆体溶液中のPAN含有量は、5wt%~20wt%であり、PEG分子量は、600~20000であり、前記PANとPEGとの機械的混合の質量比は、12:1~12:12である。
【0007】
好ましくは、ステップ2では、前記エレクトロスピニング装置の紡糸パラメータは、紡糸ニードルのサイズが12G~28Gであり、紡糸速度が0.5mL/h~5mL/hであり、正、負極間の距離が10cm~30cmであり、電圧が12kv~25kvである。
【0008】
好ましくは、ステップ2では、前記混紡繊維の表面形態を制御する過程において、撹拌温度は、25℃~80℃であり、撹拌時間は、2h~8hであり、乾燥方式は、オーブン乾燥、真空乾燥又は凍結乾燥の任意の1つであってもよい。
【0009】
好ましくは、ステップ2では、制御した後、混紡繊維の表面の特殊な形態は、桂皮状の均一な亀裂である。
【0010】
本発明は、更に、当該鉄の高選択的除去用の混紡繊維の製造方法の、重金属の分離及び精製の分野での適用を開示する。
【0011】
好ましくは、該適用は、請求項1に記載の得られた混紡繊維を多成分重金属混合溶液と静的又は動的に接触させた後に濾過して分離し、鉄イオンを迅速に吸着する鉄リッチ繊維を得て、鉄脱着液で洗浄した後、鉄を脱着した液体を得るとともに、繊維の再生利用を実現する。
【0012】
好ましくは、前記静的接触時間は、8h~24hであり、動的接触流速は、1BV/h~10BV/hである。
【0013】
好ましくは、前記多成分重金属混合溶液は、鉄、アルミニウム、コバルト、マンガン、ニッケル、亜鉛、銅、カドミウムのうちの一種又は複数種の重金属を含み、前記重金属イオンの濃度範囲は、0.5mg/L~500mg/Lである。
【0014】
好ましくは、前記鉄脱着液は、塩酸、硝酸、硫酸のうちの任意の無機酸又は混合液であり、水素イオンの濃度は、0.5M~5Mである。
【発明の効果】
【0015】
1、本発明で製造された鉄の高選択的除去用の混紡繊維は、簡単で安価なポリアクリロニトリルとポリエチレングリコールを混合して紡糸して得られ、マトリックスとなるポリアクリロニトリルは、混紡繊維の主体部分であり、混合されたポリエチレングリコールは、親水性及び溶解性を有し、ポリアクリロニトリルと一定の比率で混合した後、マトリックス構造に影響を与えないとともに、混紡繊維の表面に均一な亀裂形態とより大きな孔径を付与することができ、比率と紡糸パラメータを簡単に制御すれば、安価で安定な吸着材料を得ることができ、該材料は、ポリアクリロニトリルの鉄に対する高選択性と、ポリエチレングリコールの親水性及び溶解性とを組み合わせて、異なる分子量のポリエチレングリコールを利用して繊維表面に桂皮状の均一な亀裂を形成するように制御し、孔径の大きさが182%向上し、吸着能力が最大で649%向上する。
【0016】
2、混紡繊維を利用して複数のpH条件下で、多成分重金属溶液における鉄イオンを処理し、本発明では、混紡繊維は、鉄と複数種類の重金属に対する選択係数が正の無限大に達することができ、鉄脱着液により脱着した後、鉄の脱着率が最高で100%に達することができ、即ち、複雑な溶液において他の金属元素を著しく損失することなく、鉄を簡単かつ深く除去することができ、異なる金属比率の重金属廃水を効果的に処理し、目標重金属の回収率を低減し、他の重金属の精製及び回収に利便性を与え、効果が顕著である。
【0017】
3、混紡繊維を吸着剤として利用して溶液中の鉄イオンを除去することにより、沈殿、抽出などの方法を利用する欠点を解消し、かつ鉄イオン濃度以外、処理前後で溶液の性質が変わらず、余分な処理需要を減少させ、プロセスが簡単で、コストが低く、処理効果が良く、サイクル安定性が高く、大規模な製造に適するなどの特徴を有し、適用の見通しが広い。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】PAN繊維と混紡繊維Cのフーリエ変換赤外スペクトルの比較図である。
図2】PAN繊維、混紡繊維A~Dの走査型電子顕微鏡写真である。
図3】PAN繊維(a)と混紡繊維C(b)の吸脱着曲線図である。
図4】PAN繊維と混紡繊維Cの即時吸着量の経時変化の比較図である。
図5】混紡繊維Cが5回サイクル再生して吸着する吸着量の比較図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら本発明の具体的な実施形態を説明するが、本発明を限定するものではない。
【0020】
本発明により得られた混紡繊維を利用して、本発明は、更に、多成分重金属溶液から鉄を高選択的に分離して精製する適用を提供し、即ち、本発明の混紡繊維を吸着剤とし、pHが2~4であり、その中に含有可能な重金属イオンが鉄とアルミニウム、コバルト、マンガン、ニッケル、亜鉛、銅、カドミウムなどの一種又は多種の重金属であり、重金属イオンの濃度範囲が0.5~500mg/Lであり、前記混紡繊維と重金属イオン含有溶液を一定時間混合接触させた後に分離する。
【0021】
鉄の付与形態及び実験過程における溶液の状況を組み合わせると、pHが4である場合、鉄イオンは、上記濃度範囲内で沈殿が発生せず、主な形態は、Fe3+、Fe(OH) であるが、pH又は濃度を更に高くすると、顕著な沈殿が発生する。
【0022】
前記接触方式は、反応器において重金属イオン含有溶液と本発明の前記混紡繊維とを混合することであってもよく、本発明の混紡繊維をカラムに装填し、重金属イオン含有溶液を通過させ、重金属イオンを吸着除去することであってもよい。
【0023】
(実施例1)
鉄の高選択的除去用の混紡繊維の製造と吸着測定(1)
【0024】
本発明の方法によれば、以下のステップa)~d)で混紡繊維を合成する。
【0025】
a)12gのポリアクリロニトリルと、4gの分子量がそれぞれ600、2000、8000、20000のポリエチレングリコールとを4つのビーカーで混合した後、均一に撹拌し、透明で粘稠な前駆体溶液を得る。
【0026】
b)上記前駆体溶液をエレクトロスピニング装置にかけて紡糸し、紡糸ニードルのサイズが20Gであり、紡糸速度が1mL/hであり、正、負極間の距離が16cmであり、電圧が18kVであり、安定して運転した後に繊維を得る。
【0027】
c)上記いくつかの繊維を水溶液中に置いて、60℃で4h撹拌して繊維の表面形態を制御する。完成後に引き上げ、凍結乾燥(一般的には、凍結乾燥は24h以上であり、凍結温度は40℃以下であり、全ての実施例の基準はいずれも一致する)させた後、鉄の高選択的除去性能を有する混紡繊維を得て、保存して使用に備える。ステップ(a)では、異なるポリエチレングリコールの分子量で製造された混紡繊維をそれぞれA、B、C、Dと表記する。
【0028】
d)上記ステップを繰り返し、ステップa)では、ポリエチレングリコールを混合せず、即ち、前駆体溶液は、ポリアクリロニトリル溶液のみであり、他のステップは、同じであり、比較用のPAN繊維を得る。
【0029】
混紡繊維を用いて金属イオンの吸着性能を測定する。
【0030】
上記PAN繊維及び混紡繊維を0.6g秤量し、それぞれ100mlのガラス瓶に入れて、初期濃度が1.0mmol/Lで、pH=4.0のFe(III)溶液を加え、298Kの恒温振盪器において160r/minで24h振盪させて、吸着をバランスにし(吸着量がバランス吸着量の90%に達し、図4から明らかなように、10h後で吸着バランスに達し、10h後に吸着量がほぼ安定したため、吸着時間を24hに設定し、吸着がバランス状態に達することを確保でき、全ての実施例の基準はいずれも一致する)、初期及びバランス時の溶液中のFe(III)の濃度を測定し、かつ対応する乾燥重量吸着量(mmol/g)を算出する。
【0031】
(実施例2)
鉄の高選択的除去用の混紡繊維の製造と吸着測定(2)
【0032】
本発明の方法によれば、以下のステップa)~d)で混紡繊維を合成する。
【0033】
a)12gのポリアクリロニトリルと、それぞれ1g、2g、4g、6g、12gの分子量が8000のポリエチレングリコールとを5つのビーカーで混合した後、均一に撹拌し、透明で粘稠な前駆体溶液を得る。
【0034】
b)上記前駆体溶液をエレクトロスピニング装置にかけて紡糸し、紡糸ニードルのサイズが20Gであり、紡糸速度が1mL/hであり、正、負極間の距離が16cmであり、電圧が18kVであり、安定して運転した後に繊維を得る。
【0035】
c)上記いくつかの繊維を水溶液中に置いて、60℃で4h撹拌して繊維の表面形態を制御する。完成後に引き上げ、凍結乾燥させた後、鉄の高選択的除去性能を有する混紡繊維を得て、保存して使用に備える。ステップ(a)では、異なるポリエチレングリコールの含有量で製造された混紡繊維をそれぞれE、F、G、H、Iと表記する。
【0036】
d)上記ステップを繰り返し、ステップa)では、ポリエチレングリコールを混合せず、即ち、前駆体溶液は、ポリアクリロニトリル溶液のみであり、他のステップは、同じであり、比較用のPAN繊維を得る。
【0037】
混紡繊維を用いて金属イオンの吸着性能を測定する方法は、実施例1における操作と同じである。
【0038】
(実施例3)
鉄の高選択的除去用の混紡繊維の製造と吸着測定(3)
【0039】
本発明の方法によれば、以下のステップa)~d)で混紡繊維を合成する。
【0040】
a)12gのポリアクリロニトリルと、4gの分子量が8000のポリエチレングリコールとを4つのビーカーで混合した後、均一に撹拌し、透明で粘稠な前駆体溶液を得る。
【0041】
b)上記前駆体溶液をエレクトロスピニング装置にかけて紡糸し、紡糸ニードルのサイズが16G、18G、20G、24Gであり、紡糸速度が1mL/hであり、正、負極間の距離が16cmであり、電圧が18kVであり、安定して運転した後に繊維を得る。
【0042】
c)上記いくつかの繊維を水溶液中に置いて、60℃で4h撹拌して繊維の表面形態を制御する。完成後に引き上げ、凍結乾燥させた後、鉄の高選択的除去性能を有する混紡繊維を得て、保存して使用に備える。ステップ(a)では、異なるニードルのサイズで製造された混紡繊維をそれぞれJ、K、L、Mと表記する。
【0043】
d)上記ステップを繰り返し、ステップa)では、ポリエチレングリコールを混合せず、即ち、前駆体溶液は、ポリアクリロニトリル溶液のみであり、他のステップは、同じであり、比較用のPAN繊維を得る。
【0044】
混紡繊維を用いて金属イオンの吸着性能を測定する方法は、実施例1における操作と同じである。
【0045】
(実施例4)
鉄の高選択的除去用の混紡繊維の製造と吸着測定(4)
【0046】
本発明の方法によれば、以下のステップa)~d)で混紡繊維を合成する。
【0047】
a)12gのポリアクリロニトリルと、4gの分子量が8000のポリエチレングリコールとをビーカーで混合した後、均一に撹拌し、透明で粘稠な前駆体溶液を得る。
【0048】
b)上記前駆体溶液をエレクトロスピニング装置にかけて紡糸し、紡糸ニードルのサイズが20Gであり、紡糸速度が1mL/hであり、正、負極間の距離が18cmであり、電圧が18kVであり、安定して運転した後に繊維を得る。
【0049】
c)上記繊維を3つの部分に分けて水溶液中に置いて、60℃で2h、4h、8h撹拌して繊維の表面形態を制御する。完成後に引き上げ、凍結乾燥させた後、鉄の高選択的除去性能を有する混紡繊維を得て、保存して使用に備える。ステップ(c)では、異なる撹拌時間で製造された混紡繊維をそれぞれN、O、Pと表記する。
【0050】
d)上記ステップを繰り返し、ステップa)では、ポリエチレングリコールを混合せず、即ち、前駆体溶液は、ポリアクリロニトリル溶液のみであり、他のステップは、同じであり、比較用のPAN繊維を得る。
【0051】
混紡繊維を用いて金属イオンの吸着性能を測定する。
【0052】
上記PAN繊維及び混紡繊維を0.3g秤量し、それぞれ50mlのガラス瓶に入れて、初期濃度が1.0mmol/Lで、pH=4.0のFe(III)溶液を加え、298Kの恒温振盪器において160r/minで24h振盪させて、吸着をバランスにし、初期及びバランス時の溶液中のFe(III)の濃度を測定し、かつ対応する乾燥重量吸着量(mmol/g)を算出する。
【0053】
(実施例5)
鉄の高選択的除去用の混紡繊維の製造と吸着測定(5)
【0054】
本発明の方法によれば、以下のステップa)~d)で混紡繊維を合成する。
【0055】
a)12gのポリアクリロニトリルと、4gの分子量が8000のポリエチレングリコールとをビーカーで混合した後、均一に撹拌し、透明で粘稠な前駆体溶液を得る。
【0056】
b)上記前駆体溶液をエレクトロスピニング装置にかけて紡糸し、紡糸ニードルのサイズが20Gであり、紡糸速度が1mL/hであり、正、負極間の距離が18cmであり、電圧が18kVであり、安定して運転した後に繊維を得る。
【0057】
c)上記繊維を4つの部分に分けて水溶液中に置いて、常温、40℃、60℃、80℃でで4h撹拌して繊維の表面形態を制御する。完成後に引き上げ、凍結乾燥させた後、鉄の高選択的除去性能を有する混紡繊維を得て、保存して使用に備える。ステップ(c)では、異なる温度で製造された混紡繊維をそれぞれQ、R、Sと表記する。
【0058】
d)上記ステップを繰り返し、ステップa)では、ポリエチレングリコールを混合せず、即ち、前駆体溶液は、ポリアクリロニトリル溶液のみであり、他のステップは、同じであり、比較用のPAN繊維を得る。
【0059】
混紡繊維を用いて金属イオンの吸着性能を測定する方法は、実施例4における操作と同じである。
【0060】
多成分溶液において、吸着剤は、各吸着質との親和性が異なり、また、表面の吸着サイトが限られているため、特定の吸着質を優先的に捕捉し、選択的な吸着挙動を示す。このような選択性を定量的に説明するために、本発明は、選択係数を算出する方式を用いて、吸着材料の異なる吸着質に対する吸着能力の差を説明し、吸着質の選択係数が高いほど、吸着剤のAに対する親和力が高いことを示す。具体的な算出方法は、以下のとおりである。
【数1】
【数2】
ここで、Qはバランス吸着量(mmol/g)であり、Vは反応溶液の体積(L)であり、C及びCはそれぞれ吸着質の初期濃度及びバランス濃度(mmol/L)であり、mは吸着剤の添加量(g)である。
【0061】
実施例1~5で製造されたPAN繊維と19種類の混紡繊維の重金属Fe(III)に対する乾燥重量吸着量を表1に示しており、混紡繊維は、その独特な構造により、Fe(III)に対する吸着量がPAN繊維よりも明らかに強化され、混紡繊維Cの性能が相対的に最適である。
【0062】
【表1】
【0063】
(実施例6)
サンプルの成分分析
【0064】
フーリエ変換赤外スペクトルにおいて(図1)、101及び102に対応する波長は、2923及び2244cm-1であり、それぞれPANマトリックスの炭素骨格及びシアノ基(-C≡N)の伸縮振動吸収に対応し、103、104、105、106に対応する波長は、1342、1103、963、841cm-1であり、混紡繊維CにPEG分子内-CH-面内屈曲振動及びC-O-C、N-O官能基が依然として存在することを表す。いくつかの繊維の走査型電子顕微鏡(図2)の比較から分かるように、混紡繊維A~Dの表面には、桂皮状の均一な亀裂が顕著に現れる。PAN繊維と混紡繊維Cの吸脱着曲線(図3)、比表面積及び空隙率(表2)によって表面を分析比較すると、PAN繊維に比べて、混紡繊維Cは、表面形態が明らかに変化し、吸脱着曲線に明らかなヒステリシスループが現れ、孔径が明らかに増大する(ここで、孔広げ率=(混紡繊維CのD値-PANのD値)/PANのD値×100%)。
【0065】
【表2】
【0066】
(実施例7)
吸着速度の評価試験
【0067】
実施例1~5で製造された最適性能を有する混紡繊維Cを選択して、その吸着動力学的挙動を研究し、PAN繊維を比較材料とする。混紡繊維CとPAN繊維を0.3g秤量し、それぞれ60mlのガラス瓶に入れて、50mlのpH=2.6、初期濃度が1.0mmol/LのFe(III)溶液を加え、298Kの恒温振盪器において160r/minで24h振盪させ、一定の時間(0min、5min、10min、20min、30min、40min、50min、60min、1.5h、2h、2.5h、3h、4h、6h、8h、10h、12h、24h)ごとに溶液をサンプリングし、当該時点で溶液中の重金属イオンの即時濃度を測定し、かつその即時乾燥重量吸着量を算出することにより、繊維の即時乾燥重量吸着量の経時変化関係を確立し、実験結果を図4に示しており、PAN繊維に比べて、混紡繊維Cは、Fe(III)に対するバランス吸着量と吸着動力学的挙動がいずれも明らかに改善する。
【0068】
(実施例8)
溶液pH値の吸着性能に対する影響評価
【0069】
実施例1~5で製造された最適性能を有する混紡繊維Cを選択して、それがpH範囲が2~4の溶液においてFe(III)に対する吸着量を研究し、PAN繊維を比較材料とする。PAN繊維、混紡繊維Cを0.3g秤量し、それぞれ60mlのガラス瓶に入れて、50mlのpH値を調整した(それぞれ2.0、3.0、4.0に調整した)、重金属の初期濃度が1.0mmol/LのFe(III)溶液を加えて、298Kの恒温振盪器において160r/minで24h振盪させて吸着をバランスにし、初期とバランス時の溶液における各重金属の濃度を測定し、かつ対応する乾燥重量吸着量(mmol/g)を算出する。
【0070】
実験結果は表3に示すように、PAN繊維に比べて、混紡繊維Cは、Fe(III)に対していずれも大きな吸着量(>0.5mmol/g)を有し、かつ異なるpH条件下で混紡繊維Cの吸着量はそれぞれ649%、120%及び80%向上し、当該混紡繊維が複数のpH条件下で鉄イオンを効率的に吸着できることを示している。
【0071】
【表3】
【0072】
(実施例9)
複数のpH値、多成分重金属条件下でのFe(III)に対する選択的影響評価
【0073】
実施例1~5で製造された最適性能を有する混紡繊維Cを選択して、それがpH範囲が2~4の溶液においてFe(III)に対する選択的吸着能力を研究し、商用繊維とPAN繊維を比較材料とする。商用繊維、PAN繊維、混紡繊維Cを0.3g秤量し、それぞれ60mlのガラス瓶に入れて、50mlのpH値に調整した(それぞれ2.0、4.0に調整した)、重金属の初期濃度が1.0mmol/LであるFe(III)、Al(III)、Co(II)、Mn(II)、Ni(II)、Zn(II)、Cu(II)、Cd(II)溶液を加え、298Kの恒温振盪器において160r/minで24h振盪させて吸着をバランスにし、初期とバランス時の溶液におけるFe(III)の濃度を測定し、かつ対応する乾燥重量吸着量(mmol/g)を算出する。
【0074】
実験結果を表4、表5に示しており、結果によって示すように、商用繊維とPAN繊維に比べて、混紡繊維Cは、pHが2~4で、八成分重金属溶液において、Fe(III)に対していずれも良好な選択吸着性を有し、特にpHが4である場合、混紡繊維Cは、Fe(III)とAl(III)、Mn(II)、Ni(II)、Zn(II)、Cu(II)、Cd(II)に対する選択係数が正の無限大に達することができ、多成分重金属溶液における鉄の高選択的除去を実現することができる。
【0075】
【表4】
【0076】
【表5】
【0077】
(実施例10)
再生性能評価
【0078】
実施例1~5で製造された最適性能を有する混紡繊維Cを選択して、その再生性能を研究する。混紡繊維Cを0.3g秤量し、60mlのガラス瓶に入れて、50ml、pH=4、重金属の初期濃度が1.0mmol/LであるFe(III)溶液を加え、298Kの恒温振盪器中で160r/minで24h振盪させて、吸着をバランスにし、初期とバランス時の溶液中のFe(III)の濃度を測定し、かつ対応する乾燥重量吸着量(mmol/g)を算出する。吸着後の繊維を取り出して洗浄して乾燥させ、異なる濃度の酸溶液に入れて脱着させ、298Kの恒温振盪器において160r/minで24h振盪させて脱着を完了させ(脱着率が80%以上になる)、バランス時の溶液中のFe(III)の濃度を測定して対応する脱着率を算出し、実験結果を表6に示す。
【0079】
【表6】
【0080】
(実施例11)
サイクル特性評価
【0081】
実施例1~5で製造された最適性能を有する混紡繊維Cを選択し、1Mの塩酸を脱着剤として選択して、そのサイクル吸着性能を研究する。混紡繊維Cを0.3g秤量し、60mlのガラス瓶に入れて、50ml、pH=4、重金属の初期濃度が1.0mmol/LであるFe(III)溶液を加え、298Kの恒温振盪器で160r/minで24h振盪させて、吸着をバランスにし、初期とバランス時の溶液中のFe(III)の濃度を測定し、かつ対応する乾燥重量吸着量(mmol/g)を算出する。吸着後の繊維を取り出して洗浄して乾燥させ、1Mの塩酸溶液に入れて脱着させ、298Kの恒温振盪器で160r/minで24h振盪させ、バランス時の溶液中のFe(III)の濃度を測定して対応する脱着率を算出する。脱着後の繊維を取り出して洗浄乾燥させ、引き続き吸着過程に使用する。上記実験を5回繰り返す。実験結果を図5に示す。5回サイクルした後の吸着量は、1回目の0.95mmol/gから5回目の0.85mmol/gまで低下するだけであり、本発明の繊維は、高いサイクル安定性を有することが実証される。
【0082】
本発明の混紡繊維は、好ましい実施では、従来技術における商用繊維及びポリエチレングリコールを混合していないポリアクリロニトリル繊維と比較して、鉄イオンに対する選択吸着性、吸着動力学的挙動に差異が明らかであり、特に吸着量において優位性があることが示されている。
【0083】
以上、本発明及びその実施形態について概略的に説明した。当該説明は限定的なものではなく、得られたデータも本発明の実施形態による結果に過ぎず、実際に適用されるデータは、これに限定されない。本発明で論じられていない事項は、当業者の技術常識に属する。したがって、当業者が本発明に触発され、本発明の要旨を逸脱することなく、当該技術手段と類似する実施形態及び実施例を創造性なしに設計する場合、それらはいずれも本発明の保護範囲に含まれるものとする。

【要約】      (修正有)
【課題】本発明は、鉄の高選択的除去用の混紡繊維の製造方法及び適用を提供する。
【解決手段】方法は、ポリアクリロニトリル(PAN)とポリエチレングリコール(PEG)とを機械的に混合して、透明で粘稠な前駆体溶液を得て、次いで、前駆体溶液をエレクトロスピニング装置にかけて紡糸して繊維を得て、繊維を水溶液中に置いて撹拌して、鉄の高選択的除去用の混紡繊維を得るステップを含む。異なる分子量のポリエチレングリコールを利用して混紡繊維の表面形態を制御し、混紡繊維の表面に桂皮状の均一な亀裂と大きな孔径を付与することにより、比較的広いpH範囲内で、多成分重金属イオン含有溶液において、鉄を高選択的に吸着除去することができ、他の繊維に比べて、鉄に対する選択的除去能力が顕著に向上する。本発明で製造された鉄の高選択的除去用の混紡繊維は、制御することによって特殊な形態及び均一な表面を得ることができる。
【選択図】図4
図1
図2
図3
図4
図5