(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-07
(45)【発行日】2024-05-15
(54)【発明の名称】複合加工機
(51)【国際特許分類】
B23B 3/16 20060101AFI20240508BHJP
B23P 23/02 20060101ALI20240508BHJP
B23B 11/00 20060101ALI20240508BHJP
B23Q 11/08 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
B23B3/16 A
B23P23/02 A
B23B11/00
B23Q11/08 A
(21)【出願番号】P 2019167448
(22)【出願日】2019-09-13
【審査請求日】2022-07-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000212566
【氏名又は名称】中村留精密工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114074
【氏名又は名称】大谷 嘉一
(72)【発明者】
【氏名】中野 達也
【審査官】中川 康文
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-099746(JP,A)
【文献】特開2007-069269(JP,A)
【文献】特開2003-245841(JP,A)
【文献】特開2010-253634(JP,A)
【文献】特開2006-297510(JP,A)
【文献】実開平05-031846(JP,U)
【文献】米国特許第04719676(US,A)
【文献】国際公開第2001/030522(WO,A1)
【文献】米国特許第04195538(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0045146(US,A1)
【文献】特開2004-025362(JP,A)
【文献】特開2010-284740(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 1/00-25/06
B23P 23/00-25/00
B23Q 11/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
NC装置にてNC制御された複合加工機であって、
同一軸線上に対向配置したL主軸とR主軸を有し、
前記L主軸とR主軸との同一軸線であるL・R主軸線に対して手前側に対向配置したLタレット刃物台とRタレット刃物台を有し、
前記L・R主軸線に対して奥側に配置したアッパー刃物台を有し、
前記Lタレット刃物台とRタレット刃物台はそれぞれX軸,Y軸方向に移動制御され、かつZ軸方向において相互に相手側のタレット刃物台の基準移動領域内まで相互にクロス移動可能であり、
前記NC装置において前記Lタレット刃物台はZ軸座標上、基準移動領域内を示す原点LZ
0及び前記原点LZ
0を超えたLZ
1まで移動可能に制御され、前記Rタレット刃物台はZ軸座標上、基準移動領域内を示す原点RZ
0及び前記原点RZ
0を超えたRZ
1まで移動可能に制御され、かつ前記Lタレット刃物台とRタレット刃物台とが干渉しないようにオーバートラベル値の検出及び制御手段を有し、
前記Lタレット刃物台とRタレット刃物台とを協働させて切削加工が可能であり、
前記Lタレット刃物台と前記Rタレット刃物台の間にZ軸方向に
全体として移動可能及び伸縮自在の
中央部ユニットカバーを有しており、
かつ、前記Lタレット刃物台又は前記Rタレット刃物台の後方側を覆う伸縮自在の側部ユニットカバーを有しており、
前記アッパー刃物台は垂直コラムに取り付けられ、上下、前後方向及びL主軸とR主軸との軸線方向に移動制御されていることを特徴とする複合加工機。
【請求項2】
前記アッパー刃物台は回転固定可能なスピンドルを有することを特徴とする請求項1記載の複合加工機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の刃物台を備えた2主軸対向旋盤からなる複合加工機に関する。
【背景技術】
【0002】
2主軸対向旋盤にタレット刃物台,スピンドル刃物台等の複数の刃物台を備えることで、ターニング加工,ミーリング加工,ドリル加工等の複合的な切削加工を可能にした各種複合加工機が知られている。
本出願人は、これまでに2主軸対向旋盤の手前側に2台のタレット刃物台を対向配置した複合NC旋盤を提案している(特許文献1)。
本発明は、さらにコンパクトで複数の刃物台による協働加工が容易になる目的で開発された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、高速,高精度でターニング加工やミーリング加工等が可能で、複数の刃物台による協働加工も可能な複合加工機の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る複合加工機は、同一軸線上に対向配置したL主軸とR主軸を有し、前記L・R主軸線に対して手前側に対向配置したLタレット刃物台とRタレット刃物台を有し、前記L・R主軸線に対して奥側に配置したアッパー刃物台を有し、前記Lタレット刃物台とRタレット刃物台は相互に相手側のタレット刃物台の基準移動領域内まで相互にクロス移動可能であることを特徴とする。
このようにすると、Lタレット刃物台はR主軸にチャック保持したワークの加工を実行することが可能であり、前記Rタレット刃物台はL主軸にチャック保持したワークの加工を実行することもできるようになる。
従来は、通常Lタレット刃物台はL主軸側のワークの加工を行い、Rタレット刃物台はR主軸側のワークの加工を行うようになっていたのに対して、本発明はタレット刃物台の移動範囲をクロス可能にしたので、加工範囲が広くなる。
【0006】
本明細書においては、オペレーター側から見て左側に配置した主軸をL主軸、右側に配置した主軸をR主軸と表現し、前後方向においてオペレーターに近い側が前方、遠い側を奥側と表現する。
L・R主軸線の手前に対向配置した2タレット刃物台のうち、左側に配置したタレット刃物台をLタレット刃物台と表現し、右側に配置したタレット刃物台をRタレット刃物台と表現する。
タレット刃物台は、複数の工具を旋回割出し可能なタレットを備えた刃物台をいい、本発明に係る複合加工機では、オペレーターから見て手前側が低くなる方向に所定の角度(30~45°)で傾斜したスラント型のベッドに、Lタレット刃物台とRタレット刃物台が対向配置されている。
【0007】
ここで、主軸線方向をZ軸、タレット刃物台の切り込み方向をX軸、このX軸とZ軸に直交する方向をY軸と定義する。
L及びRタレット刃物台は、X,Y,Z軸方向に移動制御されている。
必要に応じて、Z軸回りの角度をC軸、X軸回りの角度をA軸、Y軸回りの角度をB軸と表現する。
【0008】
本発明において、アッパー刃物台は垂直コラムに取り付けられ、上下、前後方向及びL主軸とR主軸との軸線方向に移動制御されているのが好ましい。
また、アッパー刃物台は回転固定可能なスピンドルを有するのが好ましい。
ここで、アッパー刃物台は縦型の垂直コラムに取り付けられ、上下方向の垂直軸に沿って移動制御され、前後方向の水平軸に沿って移動制御されている。
【0009】
Lタレット刃物台とRタレット刃物台を対向配置した場合に、相互に干渉しないように
図2に示すようにLタレット15aとRタレット16aは、それぞれZ軸方向の原点LZ
0,RZ
0が設定されている。
本発明は、NC装置にオーバートラベルと称される値が設定されており、
図3に示すようにRタレット16aが原点RZ
0を超えて、Z軸座標上、RZ
1までの距離R
1だけ移動可能に設定してあり、Lタレット15aの基準移動領域内まで移動可能に制御されている。
また、Lタレット15aは
図4に示すように、その原点LZ
0を超えてZ軸座標上、LZ
1までの距離L
1だけ移動可能に設定され、Rタレット16aの基準移動領域内まで移動可能制御されている。
この関係を本明細書では、相互にクロス移動可能(クロスオーバートラベル)と表現する。
なお、NC装置には、Lタレット15aとRタレット16aとが干渉しないように相互のオーバートラベル値が検出及び制御されている。
これにより、L主軸13側のワークに対してもRタレット刃物台が役割を担うことができ、逆にR主軸側のワークに対してもLタレット刃物台が役割を担うことができる。
【0010】
本発明においては、対向する2台のタレット,Lタレット刃物台とRタレット刃物台とがZ軸に沿って左右に移動するとともに、2台のタレット刃物台の間隔が変動する。
そこで本発明は、Lタレット刃物台とRタレット刃物台の間にユニットカバーを有し、前記ユニットカバーはL・Rタレット刃物台の移動に追随可能で、且つZ軸方向に伸縮自在になっているのが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る複合加工機にあっては、2主軸を対向配置し、この主軸線の手前であって下側に2台のタレット刃物台を配置したロア2タレット旋盤に、主軸線の奥側に配置した縦型のコラムを有し、これにアッパー刃物台を設けたので、ターニング加工,ミーリング加工等の複合的な加工が高速で高精度に実行することが可能になる。
また、対向配置した2台のタレット刃物台のZ軸方向の移動領域を相互にクロスオーバートラベル可能になっているので、アッパー刃物台と合せて複数の刃物台による協働加工も可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図3】Rタレットのオーバートラベル値の設定例を示す。
【
図4】Lタレットのオーバートラベル値の設定例を示す。
【
図5】ワークをL主軸にチャックし、RタレットでセンターサポートしながらLタレットとアッパー刃物台でターニング加工する例を示す。
【
図6】ワークをR主軸にチャックし、LタレットでセンターサポートしながらRタレットとアッパー刃物台でターニング加工する例を示す。
【
図7】L主軸にワークをチャックし、Lタレットにてワークを振れ止め支持しつつ、Rタレットとアッパー刃物台にて外径,内径のターニング加工を協働して実行する例を示す。
【
図8】左右のタレット刃物台にユニットカバーを取り付けた例を示す。
【
図9】
図8における中央のユニットカバーと右側のユニットカバーを取り外した状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1に本発明に係る複合加工機の構造例を示す。
図1は、オペレーター側を手前にした斜視図である。
オペレーターから見た左右方向のZ軸方向に沿って、左側のL主軸台13aにL主軸13を取り付け、右側のR主軸台14aにR主軸14を設けてある。
本実施例では、L主軸13とR主軸14との間でワークの引き渡しが可能になるように、R主軸台14aがZ軸方向のレール18a,18aに沿って移動可能に制御されている。
【0014】
L・R主軸線の手前側は、スラント型のベッド11になっていて、Z軸方向に左側のLタレット刃物台15と右側のRタレット刃物台16が対向配置されている。
Lタレット刃物台15には旋回割出し可能なLタレット15a、Rタレット刃物台16には同様にRタレット16aが取り付けられている。
それぞれのタレット刃物台15,16は、レール18b,18bに沿ってZ軸方向に移動制御され、レール18dに沿ってX軸方向に移動制御される。
また、図示を省略したがY軸方向に沿って移動制御されている。
L・R主軸線の奥側には、水平型のベッド部11aを形成し、縦型(垂直)のコラム12を設けて、スピンドルを有するアッパー刃物台17を取り付けてある。
コラム12は、レール18cに沿ってZ軸方向、レール18eに沿って前後方向の水平軸に移動制御されている。
アッパー刃物台17は、コラム12に設けたレール12a,12aに沿った垂直軸方向に上下移動制御可能になっていて、スピンドルは回転を止めた状態に固定可能になっている。
【0015】
刃物台の移動範囲を
図2~
図4に説明する。
NC装置の制御プログラムにてZ軸座標上、Lタレット15aの原点LZ
0とRタレット16aの原点RZ
0が設定され、その間に間隔Dを設けることで2台のタレットが相互に干渉しないように基準移動領域が設定されている。
これにより、Lタレット15aの基準移動領域はLZ
0とLZ
Lとの間となり、Rタレット16aの基準移動領域はRZ
0とRZ
Rとの間となる。
アッパー刃物台17は、中央の原点UZ
0に対して、左側のUZ
L,右側のUZ
Rの間が基準移動領域に設定される。
【0016】
本発明は、対向する2台のタレット刃物台に相互にクロスさせたオーバートラベル値を設定してある。
図3にRタレット16aのオーバートラベル値の設定例を示す。
Rタレット16aは、原点RZ
0を超えた距離R
1までの座標RZ
1まで移動可能に設定してあり、
図4に示すようにLタレット15aは、原点LZ
0から距離L
1を超えた座標LZ
1までの相互にクロスさせたオーバートラベル値を設定した例になっている。
【0017】
相互にクロスさせたオーバートラベル値を設定したことにより、複数の刃物台を協働させて、いろいろな切削加工が可能になる。
NC装置の加工プログラムは、制御系統毎にプログラミングされている。
複数の刃物台を有している場合、刃物台毎の系統制御と複数の刃物台を同時に制御する多軸多系統制御等がある。
これらの系統を切り換え選択使用することで、刃物台の移動範囲をクロスさせることができる。
図5に示した例は、L主軸13に丸棒状のワークWをチャック及び回転保持する際に、Rタレット16aにてワーク先端部を心押え工具16
T1にてセンターサポートし、Lタレット15aに装着した工具15
T1と、アッパー刃物台17に装着した工具17
Tにて加工を実行することができる。
また、Rタレット16aの心押え工具16
T1を他の工具に割出し、ボーリング加工等も実行できる。
図6に示した例は
図5とは逆に、R主軸14に丸棒状のワークWをチャック保持し、Lタレット15aに装着した工具15
T2にて、ワーク端面をセンターサポートし、Rタレット16aに装着した工具16
T2と、アッパー刃物台17に装着した工具17
Tにて切削加工を実行することができる。
この場合も、Lタレット15aに各種工具を装着、あるいは割出し、R主軸14側のワークを加工することもできる。
図5,6では、アッパー刃物台のスピンドルの回転を固定して、バイトを取り付けた例を示したが、スピンドルに回転工具を装着することで、各種ミーリング加工を実行することができる。
図7は、L主軸13側にワークをチャック及び回転制御し、Lタレット15aに振れ止め具15
T3を装着し、ワークWを回転支持しつつ、Rタレット16aに装着した工具16
T3で内径ボーリング、アッパー刃物台に装着した工具17
Tにて外径旋削をする例を示す。
このように、対向タレットを相互にクロスさせてオーバートラベル値を設定したことにより、2つ又は3つの刃物台を協働させて各種加工を実行することができる。
【0018】
複合加工機に2台のタレット刃物台を対向配置した際に、X,Y,Z軸方向の移動制御や、タレットをC軸制御するための各種駆動部が必要となる。
これらの駆動部に切粉等がかからないように、各種カバーを設けることが行われている。
例えば
図8に示すように、Lタレット刃物台を覆うカバー15b、Rタレット刃物台を覆うカバー16bを有し、Lタレット刃物台とRタレット刃物台のベッド11側に設けた駆動部を覆う中央部のユニットカバー19と、Rタレット刃物台16の後方側を覆う右側のユニットカバー20を有する。
図9は、この中央部のユニットカバー19と右側のユニットカバー20を取り外した状態を示す。
内部に駆動部16c,16d等を有している。
【0019】
中央部のユニットカバー19は、Lタレット刃物台15とRタレット刃物台16のZ軸方向の移動に伴って、ユニットカバー19全体が移動することになり、且つLタレット刃物台15とRタレット刃物台16との間の間隔も広くなったり、狭くなったりする。
また、右側のユニットカバー20は、Rタレット刃物台16の移動により伸縮する必要がある。
そのユニットカバーの動きを
図10に示す。
図10は、ユニットカバーのオペレーター側の側面の断面図を模式的に示す。
中央部のユニットカバー19は、複数のスライド部材19a~19dが相互にスライド伸縮自在であり、Z軸方向長さL
1が伸縮を繰り返しながら左右のタレット刃物台15,16とともに、ユニットカバー19全体が左右移動可能になっている。
右側のユニットカバー20は、最も右側のスライド部材20dが複合加工機の加工領域を覆う側壁部22に固定され、最も左側のスライド部材20aがRタレット刃物台16の後部側に固定され、その間の複数のスライド部材20b,20cを介してスライド伸縮する。
また、本実施例では、Lタレット刃物台15の後部側を開放するために、左側の側壁部21とカバー15bとがスライドする例になっている。
【符号の説明】
【0020】
11 ベッド
12 コラム
13 L主軸
13a L主軸台
14 R主軸
14a R主軸台
15 Lタレット刃物台
15a Lタレット
16 Rタレット刃物台
16a Rタレット
17 アッパー刃物台