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特許7483227PD-1シグナル配列を有する抗腫瘍ペプチドおよびその利用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-07
(45)【発行日】2024-05-15
(54)【発明の名称】PD-1シグナル配列を有する抗腫瘍ペプチドおよびその利用
(51)【国際特許分類】
   C07K 19/00 20060101AFI20240508BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20240508BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240508BHJP
   C07K 14/00 20060101ALI20240508BHJP
   C07K 14/705 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
C07K19/00 ZNA
A61K38/16
A61P35/00
C07K14/00
C07K14/705
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019509932
(86)(22)【出願日】2018-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2018012565
(87)【国際公開番号】W WO2018181390
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2021-03-09
【審判番号】
【審判請求日】2022-12-14
(31)【優先権主張番号】P 2017070758
(32)【優先日】2017-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)研究成果展開事業(先端計測分析技術・機器開発プログラム)「LC-MS対応質量分析イメージング前処理装置の開発」委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000003034
【氏名又は名称】東亞合成株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(72)【発明者】
【氏名】澤田 誠
(72)【発明者】
【氏名】ベイリー小林 菜穂子
(72)【発明者】
【氏名】吉田 徹彦
【合議体】
【審判長】長井 啓子
【審判官】上條 肇
【審判官】天野 貴子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/152524(WO,A1)
【文献】国際公開第2004/004771(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/094697(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
CAPlus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一種の腫瘍細胞の増殖を抑制する合成ペプチドであって、
配列番号1に示すアミノ酸配列と、
細胞膜透過性ペプチド(CPP)として機能するアミノ酸配列と、
からなり、
前記CPPとして機能するアミノ酸配列は、ポリアルギニン、または、配列番号8~25のいずれかに示すアミノ酸配列である、合成ペプチド。
【請求項2】
配列番号26または配列番号27に示すアミノ酸配列を有する、請求項1に記載の合成ペプチド。
【請求項3】
少なくとも一種の腫瘍細胞の増殖を抑制する抗腫瘍組成物であって、
請求項1または2に記載の合成ペプチドと、
薬学上許容され得る少なくとも一種の担体と、
を備える、抗腫瘍組成物。
【請求項4】
少なくとも一種の腫瘍細胞の増殖を抑制する方法であって、
インビトロにおいて対象とする腫瘍細胞に対して請求項1または2に記載の合成ペプチドを少なくとも1回供給することを包含する、腫瘍細胞の増殖抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腫瘍細胞の増殖を抑制し得る人為的に合成された抗腫瘍性ペプチドとその利用に関する。詳しくは、PD-1のシグナルペプチドを構成するアミノ酸配列(以下「シグナル配列」ともいう。)と、膜透過性ペプチド配列とを備える人工ペプチドの利用に関する。
なお、本出願は2017年3月31日に出願された日本国特許出願第2017-070758号に基づく優先権を主張しており、当該日本国出願の全内容は本明細書中に参照として援用されている。
【背景技術】
【0002】
近年、がんの免疫療法に関する研究が急速に進んでいる。そのなかでも注目を集めているものの一つとして、「免疫チェックポイント阻害療法」が挙げられる。この療法は、生体内において過剰な免疫反応を抑制する機能に関与するタンパク質として知られている「CTLA-4(Cytotoxic T-lymphocyte associated antigen-4)」、「PD-1(Programmed cell death-1)」等のいわゆる「免疫チェックポイントタンパク質」に関連する物質を免疫チェックポイント阻害薬として利用し、がん細胞が関与している「免疫系の攻撃を回避する機構(免疫逃避機構ともいう。)」を遮断することによって当該がん細胞に対する免疫系の攻撃を助長する或いは回復させる療法といえる。
例えば、免疫グロブリンスーパーファミリーに属する膜タンパク質であるPD-1に対する抗体(抗PD-1抗体)、或いは、腫瘍細胞を含む種々の細胞において日常的に発現しているPD-L1(Programmed cell death-1 ligand-1:B7-H1ともいう。)と呼ばれるPD-1のリガンドに対する抗体(抗PD-L1抗体)を、免疫チェックポイント阻害薬として患者に投与することにより、免疫逃避機構を遮断して免疫系細胞による抗腫瘍免疫活性を向上させ得ることが、一部の腫瘍に対して確認されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】WO2004/004771
【非特許文献】
【0004】
【文献】マイクロバイオロジー・アンド・イムノロジー(Microbiology and Immunology)、54巻、2010年、pp.291-298
【発明の概要】
【0005】
しかしながら、抗PD-1抗体や抗PD-L1抗体は、腫瘍のタイプによっては抗腫瘍免疫活性向上に及ぼす効果が実質無いか極めて低い場合もあり、免疫チェックポイント阻害薬に関して更なる開発が要求されている。また、このような抗体を薬効成分として用いる抗腫瘍剤は、たいへん高価であり、がん医療にかかるコストの問題が避けては通れない深刻な状況にある。
そこで本発明は、高価な抗PD-1抗体や抗PD-L1抗体のような抗体を使用する抗腫瘍剤とは異なる構成の新たな抗腫瘍性(抗がん性ともいえる。)の合成ペプチドを提供することを課題(目的)として創出されたものである。
【0006】
本発明者は、各生物種、特に哺乳類において発現されるPD-1のシグナルペプチド領域に着目した。そして、驚くべきことに、PD-1のシグナルペプチドを構成するアミノ酸配列と、従来知られた細胞膜透過性ペプチド(cell penetrating peptide:CPP)を構成するアミノ酸配列とを組み合わせた合成ペプチドが、種々の腫瘍細胞に対して優れた抗腫瘍性(抗がん性)を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、ここで開示される合成ペプチドは、少なくとも一種の腫瘍細胞の増殖を抑制し得る抗腫瘍ペプチドである。そして、該ペプチドは、以下の(1)および(2)に示すアミノ酸配列:
(1)膜タンパク質であるPD-1(Programmed cell death-1)のシグナルペプチドを構成するアミノ酸配列、または、該アミノ酸配列について1個、2個又は3個のアミノ酸残基が欠失、置換又は付加された改変アミノ酸配列;および
(2)細胞膜透過性ペプチド(CPP)として機能するアミノ酸配列;
をともに備えることを特徴とする。
好ましい一態様では、ここで開示される抗腫瘍ペプチドは、総アミノ酸残基数が100以下である。製造コスト、合成のし易さ、取扱い性の観点からは、総アミノ酸残基数が80以下(例えば70以下)であるものがさらに好ましい。
或いは、上記(1)に示すアミノ酸配列と(2)に示すアミノ酸配列とを合わせたアミノ酸残基数が、抗腫瘍ペプチド全体のアミノ酸残基数の80%以上(より好ましくは90%以上、例えば100%)を占めるような合成ペプチドは、ここで開示される抗腫瘍ペプチドのうちの特に好適な一態様である。
【0008】
ここで開示される抗腫瘍ペプチドの好適な他の一態様では、上記PD-1のシグナルペプチドを構成するアミノ酸配列が、配列番号1~7のいずれかに示すアミノ酸配列であることを特徴とする。
また、ここで開示される抗腫瘍ペプチドの好適な他の一態様では、上記CPPとして機能するアミノ酸配列が、ポリアルギニン(特に限定しないが、典型的には、5個以上9個以下のアルギニン残基から構成される)、または、配列番号8~25のいずれかに示すアミノ酸配列、または、該アミノ酸配列について1個、2個又は3個のアミノ酸残基が欠失、置換又は付加されたCPPとして機能する改変アミノ酸配列であることを特徴とする。
例えば、
(i)配列番号1~7のうちのいずれかに示すアミノ酸配列、または、該アミノ酸配列について1個または複数個(例えば2個又は3個)のアミノ酸残基が欠失、置換又は付加された改変アミノ酸配列;および
(ii)ポリアルギニン、または、配列番号8~25のうちのいずれかに示すアミノ酸配列、または、該アミノ酸配列について1個または複数個(例えば2個又は3個)のアミノ酸残基が欠失、置換又は付加されたCPPとして機能する改変アミノ酸配列;
をともに備える合成ペプチドが好適例として挙げられる。
【0009】
また、本発明は、ここで開示されるいずれかの合成ペプチド(抗腫瘍ペプチド)と、薬学上許容され得る少なくとも一種の担体とを備える、少なくとも一種の腫瘍細胞の増殖を抑制する抗腫瘍組成物を提供する。
かかる組成物は、ここで開示される抗腫瘍ペプチドを含むことにより、抗腫瘍剤(抗がん剤を包含する。以下同じ。)としての利用、或いは新たな抗腫瘍剤の開発のための材料として利用することができる。
【0010】
また、本発明は、ここで開示されるいずれかの合成ペプチド(抗腫瘍ペプチド)を、対象とする腫瘍細胞に対して(例えば生体外=インビトロにおいて、或いは、生体内=インビボにおいて)、少なくとも1回供給することを特徴とする、少なくとも一種の腫瘍細胞の増殖を抑制する方法を提供する。
かかる構成の方法では、ここで開示される抗腫瘍ペプチドを腫瘍細胞に供給することによって、該腫瘍細胞の増殖(ひいては腫瘍、癌組織の増大)を阻止若しくは抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。本明細書において特に言及している事項(例えばここで開示される合成ペプチドの一次構造や鎖長)以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えばペプチドの化学合成法、細胞培養技法、ペプチドを成分とする薬学的組成物の調製に関するような一般的事項)は、細胞工学、生理学、医学、薬学、有機化学、生化学、遺伝子工学、タンパク質工学、分子生物学、遺伝学等の分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。なお、以下の説明では、アミノ酸を1文字表記(但し配列表では3文字表記)で表す。
本明細書中で引用されている全ての文献の全ての内容は本明細書中に参照として組み入れられている。
【0012】
本明細書において「腫瘍」とは、広義に解釈される用語であり、癌腫及び肉腫或いは血液や造血組織の病変(白血病、リンパ腫等)を含む腫瘍一般(典型的には悪性腫瘍)をいう。また、「腫瘍細胞」とは、「がん細胞」と同義であり、そのような腫瘍を形成する細胞であって、典型的には周辺の正常組織とは無関係に異常に増殖を行うに至った細胞(所謂がん化した細胞)をいう。従って、特別に規定しない限り、正常細胞ではなく腫瘍細胞(がん細胞)に区分される細胞であれば、該細胞の起源や性状に関わりなく腫瘍細胞と呼称される。上皮性腫瘍(扁平上皮癌、腺癌等)、非上皮性腫瘍(各種の肉腫、骨肉腫等)、各種の細胞腫(神経芽細胞腫、網膜芽細胞腫等)、リンパ腫、メラノーマ等を構成する細胞は、ここでいう腫瘍細胞に包含される典型例である。
【0013】
また、本明細書において「合成ペプチド」とは、そのペプチド鎖がそれのみ独立して自然界に安定的に存在するものではなく、人為的な化学合成或いは生合成(即ち遺伝子工学に基づく生産)によって製造され、所定の組成物中で安定して存在し得るペプチド断片をいう。ここで「ペプチド」とは、複数のペプチド結合を有するアミノ酸ポリマーを指す用語であり、ペプチド鎖に含まれるアミノ酸残基の数によって限定されないが、典型的には全アミノ酸残基数が概ね100以下(好ましくは80以下、より好ましくは70以下、特に好ましくは50以下)のような比較的分子量の小さいものをいう。
また、本明細書において「アミノ酸残基」とは、特に言及する場合を除いて、ペプチド鎖のN末端アミノ酸及びC末端アミノ酸を包含する用語である。
なお、本明細書中に記載されるアミノ酸配列は、常に左側がN末端側であり右側がC末端側である。
【0014】
本明細書において所定のアミノ酸配列に対して「改変アミノ酸配列」とは、当該所定のアミノ酸配列が有する機能(例えば抗腫瘍活性や細胞膜透過性能)を損なうことなく、1個から数個(典型的には9個以下、好ましくは5個以下)のアミノ酸残基、例えば、1個、2個又は3個のアミノ酸残基が置換、欠失又は付加(挿入)されて形成されたアミノ酸配列をいう。例えば、1個、2個又は3個のアミノ酸残基が保守的に置換したいわゆる同類置換(conservative amino acid replacement)によって生じた配列(例えば塩基性アミノ酸残基が別の塩基性アミノ酸残基に置換した配列:例えばリジン残基とアルギニン残基との相互置換)、或いは、所定のアミノ酸配列について1個、2個又は3個のアミノ酸残基が付加(挿入)した若しくは欠失した配列等は、本明細書でいうところの改変アミノ酸配列に包含される典型例である。従って、ここで実施例として開示される抗腫瘍ペプチドには、各配列番号のアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列で構成される合成ペプチドに加え、各配列番号のアミノ酸配列において1個、2個又は3個のアミノ酸残基が置換(例えば、上記の同類置換)、欠失又は付加された改変アミノ酸配列であって、同様に抗腫瘍活性を示すアミノ酸配列からなる合成ペプチドを包含する。
【0015】
ここで開示される人為的に合成される抗腫瘍ペプチドは、天然には存在しない短鎖のペプチドであり、上記2種のアミノ酸配列、即ち、
(1)PD-1のシグナルペプチドを構成するアミノ酸配列、または、該アミノ酸配列について1個、2個又は3個のアミノ酸残基が欠失、置換又は付加されたが抗腫瘍活性を失っていない改変アミノ酸配列、および、
(2)CPPとして機能するアミノ酸配列、
をともに備えることで特徴付けられるペプチドである。
PD-1は、典型的には270~290程度のアミノ酸残基からなる免疫グロブリンスーパーファミリーに属する膜タンパク質であり、免疫チェックポイントタンパク質、換言すれば、生体内における免疫反応の負の制御に関与するタンパク質である。
しかしながら、PD-1のシグナルペプチド領域が、抗腫瘍活性を有することは見出されておらず、かかるシグナルペプチド領域のアミノ酸配列を合成し、該配列にCPPを付加することにより、人為的に合成された抗腫瘍ペプチドが得られることは、本願出願当時、全く想定されていないことであった。
【0016】
例えば、上記の非特許文献1にも記載されているように、PD-1をコードする遺伝子(cDNAである場合を包含する。)は、ヒト、チンパンジー、ウシ、マウス、ラット、ネコ、フェレット等の哺乳類、或いは、ニワトリ等の鳥類で見つかっている。そして、PD-1の遺伝子情報ならびにアミノ酸配列情報は、種々の公的な国際機関の知識ベース(データベース)にアクセスすることにより取得することができる。例えば、Universal Protein Resource (UniProt)において、種々の生物種由来のPD-1の全アミノ酸配列情報ならびにシグナルペプチド領域のアミノ酸配列情報を得ることができる。
【0017】
特に限定するものではないが、配列番号1~7にPD-1のシグナルペプチドを構成するアミノ酸配列の好適例を示す。具体的には、以下のとおりである。
配列番号1は、ヒト由来のPD-1に含まれる計20アミノ酸残基からなるシグナル配列である。
配列番号2は、マウス由来のPD-1に含まれる計20アミノ酸残基からなるシグナル配列である。
配列番号3は、ウシ由来のPD-1に含まれる計29アミノ酸残基からなるシグナル配列である。
配列番号4は、水牛由来のPD-1に含まれる計29アミノ酸残基からなるシグナル配列である。
配列番号5は、ネコ由来のPD-1に含まれる計24アミノ酸残基からなるシグナル配列である。
配列番号6は、サル(チンパンジー等)由来のPD-1に含まれる計20アミノ酸残基からなるシグナル配列である。
配列番号7は、ラット由来のPD-1に含まれる計20アミノ酸残基からなるシグナル配列である。
【0018】
ここで開示される抗腫瘍ペプチドを構築するために使用されるCPPとして機能するアミノ酸配列として、従来公知の種々のCPPを採用することができる。例えば、3個以上、好ましくは5個以上であって11個以下、好ましくは9個以下のアルギニン残基からなる、いわゆるポリアルギニン(Rn)は、ここで用いられるCPPとして好適である。その他、公知である種々のCPPを採用することができる。
【0019】
特に限定するものではないが、配列番号8~25にCPPの好適例を示す。具体的には、以下のとおりである。
配列番号8のアミノ酸配列は、FGF2(塩基性線維芽細胞増殖因子)由来の合計14アミノ酸残基から成るNoLS(核小体局在シグナル:Nucleolar localization signal)に対応する。
配列番号9のアミノ酸配列は、核小体タンパク質の1種(ApLLP)由来の合計19アミノ酸残基から成るNoLSに対応する。
配列番号10のアミノ酸配列は、HSV-1(単純ヘルペスウイルス タイプ1)のタンパク質(γ(1)34.5)由来の合計16アミノ酸残基から成るNoLSに対応する。
配列番号11のアミノ酸配列は、HIC(human I-mfa domain-containing protein)のp40タンパク質由来の合計19アミノ酸残基から成るNoLSに対応する。
配列番号12のアミノ酸配列は、MDV(Marek病ウイルス)のMEQタンパク質由来の合計16アミノ酸残基から成るNoLSに対応する。
配列番号13のアミノ酸配列は、アポトーシスを抑制するタンパク質であるSurvivin- deltaEx3由来の合計17アミノ酸残基から成るNoLSに対応する。
配列番号14のアミノ酸配列は、血管増殖因子であるAngiogenin由来の合計7アミノ酸残基から成るNoLSに対応する。
配列番号15のアミノ酸配列は、核リンタンパク質であってp53腫瘍抑制タンパク質と複合体を形成するMDM2由来の合計8アミノ酸残基から成るNoLSに対応する。
配列番号16のアミノ酸配列は、ベータノダウイルスのタンパク質であるGGNNVα由来の合計9アミノ酸残基から成るNoLSに対応する。
配列番号17のアミノ酸配列は、NF-κB誘導性キナーゼ(NIK)由来の合計7アミノ酸残基から成るNoLSに対応する。
配列番号18のアミノ酸配列は、Nuclear VCP-like protein由来の合計15アミノ酸残基から成るNoLSに対応する。
配列番号19のアミノ酸配列は、核小体タンパク質であるp120由来の合計18アミノ酸残基から成るNoLSに対応する。
配列番号20のアミノ酸配列は、HVS(ヘルペスウイルスsaimiri)のORF57タンパク質由来の合計14アミノ酸残基から成るNoLSに対応する。
配列番号21のアミノ酸配列は、細胞内情報伝達に関与するプロテインキナーゼの1種であるヒト内皮細胞に存在するLIMキナーゼ2(LIM Kinase 2)の第491番目のアミノ酸残基から第503番目のアミノ酸残基までの合計13アミノ酸残基から成るNoLSに対応する。
配列番号22のアミノ酸配列は、IBV(トリ伝染性気管支炎ウイルス:avian infectious bronchitis virus)のNタンパク質(nucleocapsid protein)に含まれる合計8アミノ酸残基から成るNoLSに対応する。
配列番号23のアミノ酸配列は、HIV(ヒト免疫不全ウイルス:Human Immunodeficiency Virus)のTATに含まれるタンパク質導入ドメイン由来の合計9アミノ酸配列から成る膜透過性モチーフに対応する。
配列番号24のアミノ酸配列は、上記TATを改変したタンパク質導入ドメイン(PTD4)の合計11アミノ酸配列から成る膜透過性モチーフに対応する。
配列番号25のアミノ酸配列は、ショウジョウバエ(Drosophila)の変異体であるAntennapediaのANT由来の合計18アミノ酸配列から成る膜透過性モチーフに対応する。
これらのうち、特にNoLSやTATに関連するアミノ酸配列(又はその改変アミノ酸配列)が好ましい。例えば、配列番号21や配列番号22に示すようなNoLS関連のCPP配列、或いは配列番号23~25のTATやANT関連のCPP配列は、ここで開示される抗腫瘍ペプチドを構築するために好適に用いることができる。
【0020】
ここで開示される抗腫瘍ペプチドのペプチド鎖(アミノ酸配列)は、上述したように、(1)PD-1のシグナルペプチドを構成するアミノ酸配列またはその改変アミノ酸配列(以下「PD-1SP関連配列」ともいう。)、および、
(2)CPPとして機能するアミノ酸配列(以下「CPP関連配列」ともいう。)を備えておればよく、PD-1SP関連配列とCPP関連配列のいずれが相対的にN末端側(C末端側)に配置されていてもよい。
PD-1SP関連配列とCPP関連配列とが、実質的に隣接して配置されていることが好ましい。具体的には、PD-1SP関連配列とCPP関連配列との間に、両配列部分に包含されないアミノ酸残基が存在しない、或いは、存在していても該アミノ酸残基数は10個以下(より好ましくは5個以下、例えば1個か2個のアミノ酸残基)程度が好ましい。
【0021】
少なくとも一種の腫瘍細胞の増殖を抑制し得る抗腫瘍活性を失わない限りにおいて、PD-1SP関連配列とCPP関連配列を構成するアミノ酸配列以外の配列(アミノ酸残基)部分を含み得る。
ここで開示される抗腫瘍ペプチドは、ペプチド鎖を構成する全アミノ酸残基数が100以下が適当であり、80以下が好ましく、70以下(例えば30前後から50前後程度のペプチド鎖)が好ましい。このような鎖長の短いペプチドは、化学合成が容易であり、容易に抗腫瘍ペプチドを提供することができる。特に限定されるものではないが、免疫原(抗原)になり難いという観点から直鎖状又はへリックス状のものが好ましい。このような形状のペプチドはエピトープを構成し難い。
【0022】
合成したペプチド全体のアミノ酸残基数に対するPD-1SP関連配列およびCPP関連配列を合わせたアミノ酸残基数の占める割合は、抗腫瘍活性を失わない限り特に限定されないが、当該割合は概ね80%以上が望ましく、90%以上が好ましい。なお、全てのアミノ酸残基がL型アミノ酸であるものが好ましいが、抗腫瘍活性を失わない限りにおいて、アミノ酸残基の一部又は全部がD型アミノ酸に置換されているものであってもよい。
【0023】
好ましくは、ここで開示される抗腫瘍ペプチドは、少なくとも一つのアミノ酸残基がアミド化されているものが好ましい。アミノ酸残基(典型的にはペプチド鎖のC末端アミノ酸残基)のカルボキシル基のアミド化により、合成ペプチドの構造安定性(例えばプロテアーゼ耐性)を向上させることができる。
【0024】
ここで開示される抗腫瘍ペプチドは、一般的な化学合成法に準じて容易に製造することができる。例えば、従来公知の固相合成法又は液相合成法のいずれを採用してもよい。アミノ基の保護基としてBoc(t-butyloxycarbonyl)或いはFmoc(9-fluorenylmethoxycarbonyl)を適用した固相合成法が好適である。
ここで開示される抗腫瘍ペプチドは、市販のペプチド合成機を用いた固相合成法により、所望するアミノ酸配列、修飾(C末端アミド化等)部分を有するペプチド鎖を合成することができる。
【0025】
或いは、遺伝子工学的手法に基づいて抗腫瘍ペプチドを生合成してもよい。すなわち、所望する抗腫瘍ペプチドのアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(ATG開始コドンを含む。)のポリヌクレオチド(典型的にはDNA)を合成する。そして、合成したポリヌクレオチド(DNA)と該アミノ酸配列を宿主細胞内で発現させるための種々の調節エレメント(プロモーター、リボゾーム結合部位、ターミネーター、エンハンサー、発現レベルを制御する種々のシスエレメントを包含する。)とから成る発現用遺伝子構築物を有する組換えベクターを、宿主細胞に応じて構築する。
一般的な技法によって、この組換えベクターを所定の宿主細胞(例えばイースト、昆虫細胞、植物細胞)に導入し、所定の条件で当該宿主細胞又は該細胞を含む組織や個体を培養する。このことにより、目的とするペプチドを細胞内で発現、生産させることができる。そして、宿主細胞(分泌された場合は培地中)からペプチドを単離し、必要に応じてリフォールディング、精製等を行うことによって、目的の抗腫瘍ペプチドを得ることができる。
なお、組換えベクターの構築方法及び構築した組換えベクターの宿主細胞への導入方法等は、当該分野で従来から行われている方法をそのまま採用すればよく、かかる方法自体は特に本発明を特徴付けるものではないため、詳細な説明は省略する。
【0026】
或いは、無細胞タンパク質合成システム用の鋳型DNA(即ち抗腫瘍ペプチドのアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含む合成遺伝子断片)を構築し、ペプチド合成に必要な種々の化合物(ATP、RNAポリメラーゼ、アミノ酸類等)を使用し、いわゆる無細胞タンパク質合成システムを採用して目的のポリペプチドをインビトロ合成することができる。無細胞タンパク質合成システムについては、例えばShimizuらの論文(Shimizu et al., Nature Biotechnology, 19, 751-755(2001))、Madinらの論文(Madin et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 97(2), 559-564(2000))が参考になる。これら論文に記載された技術に基づいて、本願出願時点において既に多くの企業がポリペプチドの受託生産を行っており、また、無細胞タンパク質合成用キット(例えば、日本の(株)セルフリーサイエンスから入手可能)が市販されている。
【0027】
ここで開示される抗腫瘍ペプチドをコードするヌクレオチド配列及び/又は該配列と相補的なヌクレオチド配列を含む一本鎖又は二本鎖のポリヌクレオチドは、従来公知の方法によって容易に製造(合成)することができる。すなわち、設計したアミノ酸配列を構成する各アミノ酸残基に対応するコドンを選択することによって、抗腫瘍ペプチドのアミノ酸配列に対応するヌクレオチド配列が容易に決定され、提供される。そして、ひとたびヌクレオチド配列が決定されれば、DNA合成機等を利用して、所望するヌクレオチド配列に対応するポリヌクレオチド(一本鎖)を容易に得ることができる。さらに得られた一本鎖DNAを鋳型として用い、種々の酵素的合成手段(典型的にはPCR)を採用して目的の二本鎖DNAを得ることができる。また、ポリヌクレオチドは、DNAの形態であってもよく、RNA(mRNA等)の形態であってもよい。DNAは、二本鎖又は一本鎖で提供され得る。一本鎖で提供される場合は、コード鎖(センス鎖)であってもよく、それと相補的な配列の非コード鎖(アンチセンス鎖)であってもよい。
こうして得られるポリヌクレオチドは、上述のように、種々の宿主細胞中で又は無細胞タンパク質合成システムにて、抗腫瘍ペプチド生産のための組換え遺伝子(発現カセット)を構築するための材料として使用することができる。
【0028】
ここで開示される抗腫瘍ペプチドは、腫瘍細胞の増殖を抑制(或いは阻害)する用途の組成物(即ち、抗腫瘍剤等の薬学的な抗腫瘍組成物)の有効成分として好適に使用し得る。なお、抗腫瘍ペプチドは、抗腫瘍活性を失わない限りにおいて塩の形態であってもよい。例えば、常法に従って通常使用されている無機酸又は有機酸を付加反応させることにより得られ得る合成ペプチドの酸付加塩を使用することができる。従って、本明細書及び特許請求の範囲に記載の「ペプチド」は、かかる塩形態のものを包含する。
【0029】
ここで開示される抗腫瘍組成物は、有効成分である抗腫瘍ペプチドの抗腫瘍活性を失わない限りにおいて、使用形態に応じて薬学(医薬)上許容され得る種々の担体を含み得る。例えば、希釈剤、賦形剤等としてペプチド医薬において一般的に使用される担体を適用し得る。
ここで開示される抗腫瘍組成物の用途や形態に応じて適宜異なり得るが、典型的には、水、生理学的緩衝液、種々の有機溶媒が挙げられる。適当な濃度のアルコール(エタノール等)水溶液、グリセロール、オリーブ油のような不乾性油であり得る。或いはリポソームであってもよい。また、抗腫瘍組成物に含有させ得る副次的成分としては、種々の充填剤、増量剤、結合剤、付湿剤、表面活性剤、色素、香料等が挙げられる。
抗腫瘍組成物(抗腫瘍剤)の典型的な形態として、液剤、懸濁剤、乳剤、エアロゾル、泡沫剤、顆粒剤、粉末剤、錠剤、カプセル、軟膏、水性ジェル剤等が挙げられる。また、注射等に用いるため、使用直前に生理食塩水又は適当な緩衝液(例えばPBS)等に溶解して薬液を調製するための凍結乾燥物、造粒物とすることもできる。
なお、抗腫瘍ペプチド(主成分)及び種々の担体(副成分)を材料にして種々の形態の組成物(薬剤)を調製するプロセス自体は従来公知の方法に準じればよく、かかる製法自体は本発明を特徴付けるものでもないため詳細な説明は省略する。処方に関する詳細な情報源として、例えばComprehensive Medicinal Chemistry, Corwin Hansch監修,Pergamon Press刊(1990)が挙げられる。この書籍の全内容は本明細書中に参照として援用されている。
【0030】
ここで開示される抗腫瘍組成物(抗腫瘍ペプチド)の適用対象細胞は、腫瘍細胞(がん細胞)であれば特に制限されず、ヒト又はヒト以外の哺乳動物に発生する種々のタイプの腫瘍細胞に対して適用可能である。例えば、多くの種類の扁平上皮がんや腺がんが含まれる。例えば、乳がん、すい臓がん、前立腺がん、肺がん(非小細胞肺がんおよび小細胞肺がん)等のがん細胞、或いはまた、メラノーマ、基底細胞がん等の皮膚がん、神経芽細胞腫(神経芽腫)、網膜芽細胞腫、褐色細胞腫その他の細胞腫を構成する細胞が挙げられる。
【0031】
ここで開示される抗腫瘍組成物は、従来のペプチド製剤と同様、その形態及び目的に応じた方法や用量で使用することができる。例えば、液剤として、静脈内、筋肉内、皮下、皮内若しくは腹腔内への注射によって患者(即ち生体)の患部(典型的には悪性腫瘍組織)に所望する量だけ投与することができる。或いは、錠剤等の固体形態のものや軟膏等のゲル状若しくは水性ジェリー状のものを、直接所定の組織(即ち腫瘍細胞を含む組織や器官等の患部)に投与することができる。或いは、錠剤等の固体形態のものは経口投与することができる。経口投与の場合は、消化管内での消化酵素分解を抑止すべくカプセル化や保護(コーティング)材の適用が好ましい。
或いは、生体外(インビトロ)において培養している腫瘍細胞(生体から摘出された細胞塊又は組織又は器官である場合を包含する。)に対し、ここで開示される抗腫瘍組成物の適当量(即ち抗腫瘍ペプチドの適当量)を、少なくとも1回、対象とする培養細胞(組織等)の培地に供給するとよい。1回当たりの供給量及び供給回数は、培養する腫瘍細胞の種類、細胞密度(培養開始時の細胞密度)、継代数、培養条件、培地の種類、等の条件によって異なり得るため特に限定されないが、培地中の抗腫瘍ペプチド濃度が概ね5μM以上100μM以下の範囲内、好ましくは10μM以上50μM以下(例えば12.5μM以上25μM以下)の範囲内となるように、1回~複数回添加することが好ましい。
【0032】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0033】
【表1】
【0034】
<試験例1:ペプチド合成>
表1に示す計5種のペプチドを市販のペプチド合成機を用いて製造した。具体的には次のとおりである。
サンプル1は、一実施例として設計されたものであり、ヒトのPD-1のシグナル配列(配列番号1)のC末端側に、CPP関連配列として配列番号21のアミノ酸配列(LIMキナーゼ2のNoLS)を含む合成ペプチドである。
サンプル2は、一実施例として設計されたものであり、ヒトのPD-1のシグナル配列(配列番号1)のC末端側に、CPP関連配列として配列番号23のアミノ酸配列(HIVのTAT)を含む合成ペプチドである。
サンプル3は、比較対象として設計されたものであり、ヒトのPD-L1のシグナル配列のC末端側に、CPP関連配列として配列番号21のアミノ酸配列(LIMキナーゼ2のNoLS)を含む合成ペプチドである。
サンプル4は、比較対象として設計されたものであり、ヒトのPD-1のシグナル配列をばらばらにしてアミノ酸配列を並び換えたもののC末端側に、CPP関連配列として配列番号21のアミノ酸配列(LIMキナーゼ2のNoLS)を含む合成ペプチドである。
サンプル5は、比較対象として設計されたものであり、CPP関連配列である配列番号21のアミノ酸配列(LIMキナーゼ2のNoLS)のみからなる合成ペプチドである。
【0035】
上記サンプル1~5のペプチドはいずれも市販のペプチド合成機を用いてマニュアルどおりに固相合成法(Fmoc法)を実施して合成した。なお、ペプチド合成機の使用態様自体は本発明を特徴付けるものではないため、詳細な説明は省略する。なお、全ての合成ペプチドにおいて、C末端アミノ酸のカルボキシル基(-COOH)はアミド化(-CONH)されている。
合成した各サンプルのペプチドは、DMSO(ジメチルスルホキシド)に溶かし、各サンプルペプチドのストック液(濃度2.5mM)を調製した。
【0036】
<試験例2:各合成ペプチドの抗腫瘍活性の評価試験>
上記試験例1で合成した各サンプルペプチドの幾つかについて、数種類の培養腫瘍細胞を対象として抗腫瘍活性を評価した。
具体的には、供試腫瘍細胞として現在市場において入手可能な、ヒト非小細胞肺がん細胞株(NCI-H2444)、ヒト非小細胞肺がん細胞株(HCC827)、ヒト肺胞基底上皮腺がん細胞株(A549)、ヒト小細胞肺がん細胞株(NCI-H446)、ヒトメラノーマ細胞株(A2058)、ヒト乳線がん細胞株(MDA-MB-231)を使用した。また、比較対象として、市販される正常ヒト乳腺上皮細胞の培養株(MCF-12F)を使用した。
各細胞株の培養には、以下の培地を使用した。即ち、
(1)ヒト非小細胞肺がん細胞株(NCI-H2444)、ヒト非小細胞肺がん細胞株(HCC827)、ヒト肺胞基底上皮腺がん細胞株(A549)およびヒト小細胞肺がん細胞株(NCI-H446):
2mMのL-グルタミン、1mMのピルビン酸ナトリウム、10mMのHEPES、4500mg/mLのグルコース、50ユニット/mLのペニシリン、50μg/mLのストレプトマイシン、および10%のウシ胎児血清(FBS)を含むRPMI-1640培地(和光純薬(株)製品)。
(2)ヒトメラノーマ細胞株(A2058)およびヒト乳線がん細胞株(MDA-MB-231):
2mMのL-グルタミン、0.1mMの非必須アミノ酸(non-essential amino acids)、50ユニット/mLのペニシリン、50μg/mLのストレプトマイシン、および10%のFBSを含むDMEM培地(和光純薬(株)製品)。
(3)正常ヒト乳腺上皮細胞の培養株(MCF-12F):
20ng/mLのリコンビナントEGF、10μg/mLのインスリン、0.5μg/mLのヒドロコルチゾン、および10%のFBSを含むDMEM/F12培地(和光純薬(株)製品)。
試験の詳細は以下のとおりである。
【0037】
上記6種の細胞株を、それぞれ上記指定の培地で培養し、96穴(ウェル)プレートの1ウェルあたりの細胞数が約5×10個となるように調整した。このときの培地量はウェルあたり100μLとした。
次いで、当該96穴(ウェル)プレートを、COインキュベータ内に配置し、37℃、5%CO条件下で約1日間(21時間~24時間)のプレインキュベーションを実施した。
その後、評価対象とするいずれかのサンプルペプチドの濃度が12.5μMおよび25μMのいずれかとなるように、濃度別にペプチド含有試験培地をそれぞれ調製し、1ウェルあたり90μLとなるように評価対象とする細胞が培養されているウェル(即ち、上記プレインキュベーション後のウェル)に供給した。そして、当該96穴(ウェル)プレートを、COインキュベータ内に戻し、37℃、5%CO条件下で48時間のインキュベーションを実施した。
なお、各ペプチド添加試験区の各ペプチド濃度における試験ウェル数(n)は、いずれも3に設定した。従って、以下の表に示す結果の値は、試験ウェル数3のそれぞれで得た結果の平均値である。細胞生存率(%)は以下のように決定した。
【0038】
上記48時間のインキュベーション終了後、各ウェルの培地をペプチドを含まないフレッシュな培地100μLと交換し、さらに、発色試薬として「水溶性テトラゾリウム塩(WST-8)」を含有する細胞増殖測定用試薬「Cell Counting Kit-8」((株)同仁化学研究所製品)を各ウェルに10μLずつ添加した。その後、当該96穴(ウェル)プレートを、COインキュベータ内に再び戻し、37℃、5%CO条件下で1.5時間~2時間のインキュベーションを実施した。
インキュベーション終了後、上記試薬を添加した細胞培養液を回収するとともにテトラゾリウム塩の還元に基づく波長450nmの吸光度(波長650nmの吸光度で補正した値:A450-A650)を測定する比色法により、細胞生存率(%)を評価した。具体的には、ペプチドを含有しない培地のみで上記48時間のインキュベーションを行った比較試験区の測定値(測定吸光度)を細胞生存率100%とした相対値で、各試験細胞株の細胞生存率(%)を測定吸光度から算出した。結果を表2に示す。
【0039】
【表2】
【0040】
表2に示す結果から明らかなように、比較対象とするサンプル3~5と比較して、上記PD-1SP関連配列およびCPP関連配列を両方備えるサンプル1およびサンプル2の合成ペプチドは、いずれも本試験例で供試した各腫瘍細胞に対して優れた抗腫瘍活性(腫瘍細胞増殖阻害活性)を有することが認められた。特に、小細胞肺がんに対して優れた抗腫瘍性が認められた。このことは、ここで開示される抗腫瘍ペプチドが、ヒトの腫瘍細胞の増殖を抑制し得ることを示している。
なお、詳細なデータは示していないが、PD-1SP関連配列として、ヒト以外の数種哺乳類(ウシ、マウス等)由来のPD-1SP関連配列をCPP関連配列とともに含む合成ペプチドについてもプライマリーなインビトロ培養試験において同様の抗腫瘍性が認められており、PD-1SP関連配列およびCPP関連配列を両方備える合成ペプチドの抗腫瘍性ペプチドとしての有用性が示された。
【産業上の利用可能性】
【0041】
上述したように、ここで開示される抗腫瘍ペプチドによると、腫瘍細胞の増殖を抑制する(または阻害する)ことができる。このため、本発明によって提供される抗腫瘍ペプチドを使用することによって、少なくとも一種の腫瘍細胞の増殖を抑制する抗腫瘍組成物(抗腫瘍剤)を提供することができる。
【配列表フリーテキスト】
【0042】
配列番号1~30 合成ペプチド
【配列表】
0007483227000001.app