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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-07
(45)【発行日】2024-05-15
(54)【発明の名称】培養組織及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20240508BHJP
【FI】
C12N5/071
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021512049
(86)(22)【出願日】2020-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2020014222
(87)【国際公開番号】W WO2020203850
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2023-02-22
(31)【優先権主張番号】P 2019066417
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504205521
【氏名又は名称】国立大学法人 長崎大学
(73)【特許権者】
【識別番号】506137147
【氏名又は名称】エーザイ・アール・アンド・ディー・マネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100126653
【弁理士】
【氏名又は名称】木元 克輔
(72)【発明者】
【氏名】堺 裕輔
(72)【発明者】
【氏名】江口 晋
(72)【発明者】
【氏名】足立 智彦
(72)【発明者】
【氏名】黄 宇
(72)【発明者】
【氏名】新京 楽
(72)【発明者】
【氏名】相良 沙希
(72)【発明者】
【氏名】小野里 太智
【審査官】小林 薫
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/196668(WO,A1)
【文献】特開平06-284883(JP,A)
【文献】国際公開第2005/118781(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0369849(US,A1)
【文献】特開2013-226112(JP,A)
【文献】国際公開第2018/085615(WO,A1)
【文献】Cell Stem Cell,2017年,Vol.20,pp.41-55
【文献】Nat. Commun.,2018年,Vol.9,4216 (pp.1-13)
【文献】J. Biol. Chem.,2017年,Vol.292, No.14,pp.5957-5969
【文献】J. Vis. Exp.,2014年,Vol.89,e51725 (pp.1-8)
【文献】Development,2004年,Vol.132,pp.1223-1234
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-7/08
C12Q 1/00-3/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上皮細胞を培養して、上皮細胞で導管を形成させる工程、および
導管と腺細胞を、前記導管と前記腺細胞とが接触するように、共培養する工程、を含む、培養組織の製造方法であって、
前記腺細胞が肝細胞であり、前記上皮細胞が胆管上皮細胞である、培養組織の製造方法
【請求項2】
共培養が二次元培養で行われる、請求項に記載の製造方法。
【請求項3】
前駆細胞を上皮細胞に分化誘導する工程をさらに含む、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前駆細胞を上皮細胞に分化誘導する工程の前に、
成熟細胞を前駆細胞にリプログラミングする工程をさらに含む、請求項に記載の製造方法。
【請求項5】
腺細胞が、初代細胞である、請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
上皮細胞がげっ歯類の細胞である、請求項1~5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
腺細胞がヒトの細胞である、請求項1~6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
腺細胞がヒト肝細胞である、請求項1~7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
上皮細胞がげっ歯類の胆管上皮細胞である、請求項1~8のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、培養組織及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療への応用を目的として組織工学による人工臓器、移植材料等のバイオマテリアルの開発が求められており、インビトロでの組織構造形成を主眼とした研究が行われている。生体内の組織を模倣する組織モデルは、当該組織の基礎メカニズムの解明のために使用でき、また、治療薬の有効成分候補となる化合物の薬物動態又は安全性を、動物実験で評価する前に、インビトロの組織レベルで評価するために使用できる。そのため、これまでに様々な培養組織が組織モデルとして報告されている(例えば、特許文献1及び2)。
【0003】
腺は、分泌を営む組織であり、血管又はリンパ管に分泌物を直接送り出す内分泌腺と、体表又は体腔内に導管を通じて分泌物を出す外分泌腺とがある。外分泌腺は、分泌物を分泌する腺細胞と、腺細胞から分泌された分泌物を一時貯めておく腺腔と、腺腔から体表又は体腔へ運ぶ導管とを有する。腺腔は腺細胞に囲まれて形成された管腔であり、腺細胞からの分泌物はまず腺腔へと分泌される。腺腔と導管とは連続しており、腺細胞からの分泌物を体表又は体腔に分泌するための流路を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-029611号公報
【文献】特開2018-166512号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これまで、インビトロで細胞を培養し、腺組織モデルを構築しても、腺腔と導管とを機能的に結合させることが困難であった。腺腔と導管が機能的に結合していないと、腺細胞から分泌された分泌物が導管に流れず、腺腔に留まってうっ滞し、場合によっては、腺細胞の壊死につながることもある。
【0006】
そこで本発明は、腺腔と導管とが機能的に結合し、腺細胞から腺腔に分泌された分泌物が導管へと流れる培養組織を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意研究を重ね、腺腔と導管とが機能的に結合した培養組織を作製する方法を見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明の一実施形態は、以下の通りである。
[1]
腺細胞、腺細胞から形成される腺腔、および
上皮細胞から形成される導管を含み、
腺腔と導管とが生体外で機能的に結合されている培養組織。
[2]
培養組織が、外分泌腺である、[1]に記載の培養組織。
[3]
腺細胞が肝細胞であり、上皮細胞が胆管上皮細胞である、[1]又は[2]に記載の培養組織。
[4]
腺細胞が膵腺房細胞であり、上皮細胞が膵管上皮細胞である、[1]又は[2]に記載の培養組織。
[5]
上皮細胞が、前駆細胞から誘導された上皮細胞である、[1]~[4]のいずれかに記載の培養組織。
[6]
前駆細胞が、成熟細胞からリプログラミングされた前駆細胞である、[5]に記載の培養組織。
[7]
腺細胞が、初代細胞である、[1]~[6]のいずれかに記載の培養組織。
[8]
腺細胞が初代肝細胞であり、胆管上皮細胞が、肝前駆細胞から誘導された胆管上皮細胞であり、ここで、肝前駆細胞は肝細胞からリプログラミングされた肝前駆細胞である、[3]に記載の培養組織。
[9]
上皮細胞がげっ歯類の細胞である、[1]~[8]のいずれかに記載の培養組織。
[10]
腺細胞がヒトの細胞である、[1]~[9]のいずれかに記載の培養組織。
[11]
腺細胞がヒト肝細胞である、[1]~[3]及び[5]~[10]のうちいずれかに記載の培養組織。
[12]
上皮細胞がげっ歯類の胆管上皮細胞である、[1]~[3]及び[5]~[11]のうちいずれかに記載の培養組織。
[13]
上皮細胞を培養して、上皮細胞で導管を形成させる工程、および
導管と腺細胞を、前記導管と前記腺細胞とが接触するように、共培養する工程、を含む、培養組織の製造方法。
[14]
共培養が二次元培養で行われる、[13]に記載の製造方法。
[15]
腺細胞が肝細胞であり、上皮細胞が胆管上皮細胞である、[13]又は[14]に記載の製造方法。
[16]
腺細胞が膵腺房細胞であり、上皮細胞が膵管上皮細胞である、[13]又は14]に記載の製造方法。
[17]
前駆細胞を上皮細胞に分化誘導する工程をさらに含む、[13]~[16]のいずれかに記載の製造方法。
[18]
前駆細胞を上皮細胞に分化誘導する工程の前に、
成熟細胞を前駆細胞にリプログラミングする工程をさらに含む、[17]に記載の製造方法。
[19]
腺細胞が、初代細胞である、[13]~[18]のいずれかに記載の製造方法。
[20]
上皮細胞がげっ歯類の細胞である、[13]~[19]のいずれかに記載の製造方法。
[21]
腺細胞がヒトの細胞である、[13]~[20]のいずれかに記載の製造方法。
[22]
腺細胞がヒト肝細胞である、[13]~[15]及び[17]~[21]のうちいずれかに記載の製造方法。
[23]
上皮細胞がげっ歯類の胆管上皮細胞である、[13]~[15]及び[17]~[22]のうちいずれかに記載の製造方法。
[24]
[1]~[12]のいずれかに記載の培養組織を用いる、被検物質の評価方法。
[25]
[1]~[12]のいずれかに記載の培養組織を含む、被検物質の評価キット。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、腺腔と導管とが機能的に結合し、腺細胞から腺腔に分泌された分泌物が導管へと流れる培養組織を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1A】ラットCLiP(rCLiP)からの胆管上皮細胞の誘導及び胆管形成の手順を説明する概念図である。
図1B】rCLiPからの胆管上皮細胞の誘導及び胆管形成の様子を示す位相差顕微鏡画像であり、左から、rCLiPをマウス胚性線維芽細胞(MEF)上に播種してから1日後、6日後、12日後の画像である。
図2A】rCLiPから形成した胆管とラット肝細胞との共培養の手順を説明する概念図である。
図2B】rCLiPから形成した胆管とラット肝細胞との共培養の様子を示す位相差顕微鏡画像である。左から、共培養を開始してから1日後、3日後の画像である。
図3A】肝細胞と共培養した胆管への胆汁酸蓄積を示す写真である。上図はそれぞれ位相差顕微鏡画像、下図はそれぞれ蛍光顕微鏡画像であり、左からそれぞれ、コリル-リシル-フルオレセイン(CLF)を培地に添加してから2時間後、24時間後、72時間後の写真である。
図3B】肝細胞と共培養しなかった胆管のみの培地にCLFを添加し、添加から2時間後の位相差顕微鏡画像(左図)と蛍光顕微鏡画像(右図)である。
図4A】rCLiPからの胆管上皮細胞の誘導及び胆管形成の手順を説明する概念図である。
図4B】rCLiPからの胆管上皮細胞の誘導及び胆管形成の様子を示す位相差顕微鏡画像であり、左から、rCLiPをマウス胚性線維芽細胞(MEF)上に播種してから1日後、6日後、12日後の画像である。
図5A】rCLiPから形成した胆管とヒト肝細胞との共培養の手順を説明する概念図である。
図5B】rCLiPから形成した胆管とヒト肝細胞との共培養の様子を示す位相差顕微鏡画像である。左から、共培養を開始してから1日後、3日後の画像である。
図6A】ヒト肝細胞と共培養した胆管への胆汁酸蓄積を示す写真である。上図はそれぞれ位相差顕微鏡画像、下図はそれぞれ蛍光顕微鏡画像であり、左からそれぞれ、CLF含有ハンクス平衡塩類溶液(HBSS)でインキュベーション後CLFを含まないHBSSにて細胞を洗浄した直後、4時間後、24時間後の写真である。
図6B】ヒト肝細胞と共培養しなかった胆管を示す写真である。上図はそれぞれ位相差顕微鏡画像、下図はそれぞれ蛍光顕微鏡画像であり、左からそれぞれ、CLF含有HBSSでインキュベーション後CLFを含まないHBSSにて細胞を洗浄した直後、4時間後、24時間後の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[培養組織]
本発明は、腺細胞、腺細胞から形成される腺腔、および上皮細胞から形成される導管を含み、腺腔と導管とが生体外で機能的に結合されている、培養組織を提供する。本明細書において、「培養組織」とは、ヒト又はヒトを除く動物の生体組織として機能しうる、生体外で人工的に培養された細胞集団のことをいう。
【0012】
[外分泌腺]
本発明の一実施形態においては、培養組織が、外分泌腺であることが好ましい。本明細書において「外分泌腺」とは、腺細胞がその分泌物を体表面又は腸管、気管のような体腔の内面に、導管を通じて排出する腺のことを指す。培養組織が外分泌腺である場合、「導管」から血管は除かれる。外分泌腺としては、例えば、消化腺、汗腺、皮脂腺、乳腺等が挙げられ、消化腺としては、例えば、肝臓、膵臓、唾液腺、胃腺、腸腺等が挙げられる。本発明の一実施形態においては、外分泌腺が、肝臓又は膵臓であることが好ましく、肝臓であることがより好ましい。
【0013】
[腺細胞、腺腔及び導管]
本明細書において、「腺細胞」は、分泌物を分泌する細胞のことをいう。本明細書において、「腺腔」とは、腺細胞から形成される腔所のことをいう。本明細書において、「導管」とは上皮細胞から形成され、分泌物を輸送する管のことをいう。本発明の一実施形態において、腺細胞は分泌物を分泌し、腺腔を形成できる細胞であればよく、上皮細胞は管腔形成能がある上皮細胞であればよい。構築する培養組織に合わせて、腺細胞及び上皮細胞を適宜選択することができる。
【0014】
本明細書において、「機能的に結合」、「機能的結合」とは、腺腔と導管が、分泌物が腺腔から導管に流れるように連結することを意味する。かかる結合において、腺腔と導管とが直接連続して連結していてもよいし、例えば、細胞外マトリックス等の細胞間物質を介して腺腔と導管とが連続して連結していてもよい。また、例えば、標識した分泌物又はそのアナログを腺細胞に取り込ませ、腺細胞から分泌された標識分泌物又はそのアナログが導管から検出できるか否かを確認し、当該導管から前記標識した分泌物又はそのアナログを確認することができた状態も含む。
【0015】
「腺腔と導管とが生体外で機能的に結合され」とは、腺腔と導管との機能的結合が生体外で行われることを意味する。したがって、生体から摘出した腺組織をそのまま培養した培養組織は本発明には含まれない。
【0016】
本発明の一実施形態において、本発明の培養組織に含まれる腺細胞として、初代細胞、株化細胞及び多能性幹細胞(例えば、iPS細胞及びES細胞)から誘導された腺細胞等が挙げられる。本明細書において「初代細胞」とは、生体から採取し、培養された細胞であって、株化されていない細胞のことを指す。したがって、本明細書における「初代細胞」には、生体から採取された細胞から数代継代培養された細胞も含みうる。腺細胞が初代細胞である場合、株化細胞よりも生体内の細胞の実際の機能を維持しているため、構築される培養組織をより生体に近い組織モデルとすることができる。また、初代細胞に代えて、多能性幹細胞からから誘導された腺細胞を使用することができる。かかる多能性幹細胞は、例えば、iPS細胞である。他の実施形態において、構築する培養組織が、癌に罹患した患者の腺組織の組織モデルである場合、癌細胞株の腺細胞を用いてもよい。
【0017】
[肝臓組織]
本発明の一実施形態において、培養組織は肝臓組織である。肝臓は、生体の代謝反応の中心を担う臓器である。肝臓では、食物から得られた糖、タンパク質、脂質の代謝;血漿タンパク質の合成;赤血球の分解;アルコール、薬物、毒素、老廃物の分解;胆汁の分泌等;様々な役割を担っている。
【0018】
培養組織が、肝臓組織である場合、腺細胞は肝細胞(肝実質細胞ともいう。)である。肝細胞は肝臓を構成する主要な細胞で、消化液である胆汁を分泌する腺細胞である。肝細胞は、胆汁の分泌の他に、肝臓で行われる代謝及び生合成等の役割を担っている。単一の肝細胞は、約25~30μmの多面体で、類洞と呼ばれる毛細血管に対する面と、肝細胞同士が接着する面とを有している。生体内で肝細胞は、類洞に沿って一列に並び、肝細胞索と呼ばれる柵状組織を形成している。肝細胞は肝細胞索の隣接する肝細胞間に、毛細胆管と呼ばれる腺腔を形成する。毛細胆管には、肝細胞で作られた胆汁が分泌される。本発明の一実施形態において、肝細胞はその細胞群の多くを肝細胞が占めていればよく、肝非実質細胞が含まれていても、肝細胞のみから構成されていてもよい。例えば、初代肝細胞は、その細胞群の多くが肝細胞から構成されているが、肝非実質細胞も含みうる。
【0019】
胆管上皮細胞は、肝細胞が分泌する胆汁の流量、イオン濃度、pH等を調整する役割を担っている。胆管上皮細胞は集まって管状構造を形成する。この管が胆汁を胆嚢及び十二指腸へと運ぶ導管、すなわち胆管である。
【0020】
一実施形態において、本発明の培養組織は、腺細胞が肝細胞であり、分泌物が胆汁であり、腺腔が毛細胆管であり、上皮細胞が胆管上皮細胞であり、導管が胆管である肝臓組織である。本発明の一実施形態に係る肝臓組織によれば、肝細胞から胆汁が毛細胆管へと分泌され、さらに、毛細胆管と胆管とが機能的に結合しているため、毛細胆管に胆汁がうっ滞せずに導管へと流れる。かかる肝臓組織は、肝臓における被検物質の薬効、毒性及び薬物動態等の評価に用いることができる。
【0021】
胆管を形成する胆管上皮細胞は、肝前駆細胞から誘導された胆管上皮細胞であることが好ましい。ここで、本明細書において「前駆細胞」とは、前記多能性幹細胞から特定の成熟細胞に分化する途中の段階にある細胞や、成熟細胞からより未分化な状態へと誘導された細胞も含む。したがって、本明細書において「肝前駆細胞」とは、肝幹細胞から肝細胞に分化する途中段階にある細胞であってもよく、または成熟細胞である肝細胞からより未分化な状態へと誘導された細胞であってもよい。また、本明細書にて「成熟細胞」とは、胚細胞又は生殖細胞由来でない体細胞をいい、肝臓を構成する肝細胞が挙げられる。前記肝前駆細胞から胆管上皮細胞への誘導は、二次元培養下で行うことが好ましい。また、二次元培養下で胆管を形成させた場合、後述する肝細胞と胆管とを接触させる共培養が行いやすい。
【0022】
胆管上皮細胞に誘導される肝前駆細胞は、成熟細胞である肝細胞から肝前駆細胞にリプログラミングされた細胞であることが好ましい。ここで、本明細書にて「リプログラミング」とは、成熟細胞に比べ発生能が高い状態の細胞になるように誘導する過程をいう、換言すれば、成熟細胞をより未分化な状態へ戻す過程をいう。本発明の一実施形態に係る培養組織では、所定の条件及び方法で肝細胞を培養することによって、肝細胞を肝前駆細胞にリプログラミングすることができる。肝細胞からリプログラミングされた肝前駆細胞はCLiP(Chemically-induced Liver Progenitor)として公知であり、そのようなリプログラミング条件及び方法は、例えば、Takeshi Katsudaら、Conversion of Terminally Committed Hepatocytes to Culturable Bipotent Progenitor Cells with Regenerative Capacity、Cell Stem Cell、2017年1月5日、第20巻、p.1-15(以下、「参考文献1」と称する)に詳述されている。
【0023】
肝前駆細胞は、生体から採取、同定及び単離することが難しいため、肝細胞からリプログラミングした肝前駆細胞を用いることにより、生体から採取、同定及び単離するよりも、純度の高い肝前駆細胞を効率良く入手することができる。
【0024】
以上のように、本発明の一実施形態によれば、毛細胆管と胆管とが機能的に結合し、肝細胞が毛細胆管に分泌した胆汁が、毛細胆管から胆管へと流れる培養組織が提供される。
【0025】
[膵臓組織]
別の実施形態では、本発明の培養組織は膵臓組織である。膵臓は、インスリン及びグルカゴン等の血糖調節ホルモンを血液中に分泌する内分泌腺であると同時に、外分泌腺として、食物から得られた糖、タンパク質、脂質を分解する各種消化酵素を含む膵液を分泌する。膵腺房細胞は、膵臓全体の90%以上を占める主要な細胞で、膵液を分泌する腺細胞である。膵腺房細胞は、十数個の細胞で腺房と呼ばれる腺腔を形成し、腺房に膵液を分泌する。
【0026】
膵管上皮細胞(膵導管細胞ともいう。)は複数集まって膵管と呼ばれる導管を形成し、膵管は腺房に分泌された膵液を十二指腸へと運ぶ。また、膵管上皮細胞自身が、炭酸水素イオンを含む水を分泌する。膵導管細胞から分泌された炭酸水素イオン溶液は、腺房からの膵液と共に、膵液の一部を構成し、膵管を通って、十二指腸に向かって流れる。
【0027】
本発明の培養組織の一実施形態においては、腺細胞が膵腺房細胞であり、分泌物が膵液であり、腺腔が腺房であり、上皮細胞が膵管上皮細胞であり、導管が膵管である膵臓組織である。本発明の膵臓組織は、腺房と膵管とが機能的に結合し、膵腺房細胞から腺房に分泌した膵液が腺房にうっ滞せずに膵管へと流れるため、外分泌腺としての膵臓の組織モデルとして使用することができる。
【0028】
[他の組織]
その他の実施形態において、本発明の培養組織は、耳下腺、顎下腺、舌下腺等の唾液腺;胃底腺、噴門腺、幽門腺等の胃腺;十二指腸腺、リーベルキューン腺等の腸腺;エクリン腺、アポクリン腺等の汗腺;皮脂腺又は乳腺等であってもよい。それぞれの腺組織を構成する腺細胞及び導管の組み合わせについては、当業者には公知であり、構築する培養組織に応じて適宜選択することができる。
【0029】
[培養組織の用途]
本発明の培養組織は、一つの実施形態において、被検物質の腺組織における薬効及び毒性並びに吸収、分布、代謝、排泄等の薬物動態の、生体外での評価に用いることができる。すなわち、本発明は、本発明の一実施形態に係る培養組織を用いたかかる被検物質の評価方法も提供する。
【0030】
また、本発明は、一つの実施形態において、生体外でのかかる被検物質の評価のためのキットも提供する。かかるキットによれば、生体外での被検物質の評価を簡便に行うことができる。評価キットは、本発明の一実施形態に係る培養組織を含み、さらに、培地、当該培養組織における薬効、毒性及び/又は薬物動態が既知であるポジティブコントロールの化合物、所定の検査に用いる試薬、材料、用具及び装置、並びに取扱説明書の少なくとも1つを含んでいてもよい。
【0031】
また、別の実施形態において、本発明の培養組織は、生体における腺組織の基礎研究及び評価を生体外で行うための用途として用いることができる。
【0032】
また、別の実施形態において、本発明の培養組織は、腺組織における癌細胞の挙動、抗癌剤の代謝、排泄を評価するための用途に用いることができる。
【0033】
また、別の実施形態において、本発明の培養組織は、移植医療のための移植片として用いることができる。
【0034】
本発明の一実施形態において、腺細胞と上皮細胞は、同じ種の動物に由来してもよく、異なる種の動物に由来していてもよい。生体外での被検物質の評価の目的においては、腺細胞はヒトの細胞でも、ヒト以外の動物(例えば、マウス及びラット等のげっ歯類)の細胞であってもよい。一つの実施態様において、腺細胞はヒトの腺細胞であり、ヒトの腺細胞としてヒト肝細胞が挙げられる。上皮細胞は、導管誘導がしやすい上皮細胞が好ましい。かかる上皮細胞としては、マウス及びラット等のげっ歯類の上皮細胞が挙げられる。ある実施形態では、本発明の一実施形態に係る培養組織は、ヒトの腺細胞と、げっ歯類の上皮細胞が用いられる。本発明の一実施形態に係る培養組織が移植片を目的とする場合、腺細胞と上皮細胞はいずれも移植先の動物と同じ種の動物に由来する細胞であることが好ましい。
【0035】
[培養組織の製造方法]
本発明の培養組織の製造方法は、上皮細胞を培養して導管を形成させる工程と、導管と腺細胞とを、導管と腺細胞とが接触するように、共培養する工程と、を含む。各工程においては、上述した上皮細胞及び腺細胞を用いることができる。
【0036】
上皮細胞を培養し、導管を形成させる工程は、公知の種々の方法によって行うことができる。例えば、細胞外マトリックス又はフィーダー細胞等の上皮細胞の培養に適切な足場材料上に上皮細胞を播種し、適切な培地を加えて培養すると、上皮細胞は極性を持つため、細胞の頂端面側が管腔に面し、側面側が隣り合う上皮細胞に面し、底面側が足場材料に面するように、上皮細胞で管状構造、すなわち導管を形成する。
【0037】
足場材料として用いることができる細胞外マトリックスとしては、例えば、後述する実施例で用いたマトリゲルの他に、コラーゲンゲル、フィブロネクチン、ラミニン等が挙げられ、フィーダー細胞としては、例えば、実施例で用いたマウス胚性線維芽細胞(MEF)の他に、ヒト間葉系幹細胞、ヒト線維芽細胞等が使用できる。上述の細胞外マトリックス及びフィーダー細胞は、1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0038】
導管形成に使用できる培地としては、例えば、実施例で用いたBIM-1培地及びBIM-2培地の他に、mTeSR(商標)1培地、肝細胞培養培地、胆管上皮細胞培養培地、膵島細胞培養培地、小腸細胞培養培地、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、イーグル最小必須培地(EMEM)、イーグル最小必須培地α改変型(α-MEM)、グラスゴー最小必須培地(GMEM)、栄養混合物F-12ハム(Ham’s F-12)、ダルベッコ改変イーグル培地/栄養混合物F-12ハム(D-MEM/Ham’s F-12)、イスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)、RPMI-1640培地、ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(D-PBS)、ハンクス平衡塩類溶液(HBSS)等が挙げられ、これらの培地は1種又は2種以上を組み合わせて用いることができ、適宜改変することができる。培地は、培養期間及び細胞数に応じて、適宜新しい培地、新しい組成に交換、変更することができる。
【0039】
上皮細胞を培養する培養温度及び培養時間は、培養する上皮細胞及び形成させる導管の種類に応じて、当業者が適宜設定できる。例えば、ヒト又はげっ歯類由来胆管上皮細胞から胆管を形成させる場合、培養温度は、例えば、30~39℃、又は36~38℃でありうる。培養時間は、例えば、4~720時間、120~336時間、又は168~288時間でありうる。
【0040】
また、播種する上皮細胞の密度は、例えば、5×10~5×10細胞/cm、又は5×10~5×10細胞/cmでありうる。
【0041】
上記工程に続いて、又は上記工程と同時に、形成された導管と、腺細胞とを、導管と腺細胞とが接触するように、共培養する工程を行う。本明細書において、「導管と腺細胞とが接触する」とは、導管と腺細胞とが直接接触する態様、及び細胞外マトリックス等の細胞間物質を介して導管と腺細胞とが接触する態様の両方を含む。形成された導管と腺細胞とを接触させて共培養することによって、腺腔と導管とが機能的に結合した構造となり、腺細胞から腺腔に分泌された分泌物が、導管に流れるようになる。このように腺腔と導管とが機能的に結合する理由は明らかではないが、導管を形成する上皮細胞と腺腔を形成する腺細胞とが接触して細胞間シグナル伝達が行われることが、腺腔と導管との機能的結合に必要と考えられる。
【0042】
導管と腺細胞との共培養は、導管と腺細胞とを接触させられるのであれば、培養方法は、平面培養等の二次元培養でもよく、三次元培養でもよいが、二次元培養で行うことが好ましい。共培養を二次元培養で行うと、導管と腺細胞との接触が容易になるため、腺腔と導管とが機能的に結合した構造を形成させやすくなる。
【0043】
二次元培養での導管と腺細胞との共培養は、例えば、まず、細胞培養用プレート等の二次元培養装置上で、上皮細胞から導管を形成させ、該形成された導管と接触するように導管上に直接、腺細胞を播種し、そのまま導管と腺細胞とを培養することによって行うことができる。したがって、導管を形成させる工程と、導管と腺細胞とを共培養する工程とは、同じ二次元培養装置で、続けて又は同時に行うことができる。腺細胞との共培養を開始するタイミングは、導管が形成されていればどのタイミングでもよいが、例えば、導管誘導から4~720時間後、120~336時間後、又は168~288時間後でありうる。
【0044】
播種する腺細胞の密度は、二次元培養の場合、例えば、3×10~6×10細胞/cm、1×10~1×10細胞/cm、又は3×10~6×10細胞/cmでありうる。
【0045】
導管と腺細胞とを共培養する温度は、例えば、30~39℃、又は36~38℃でありうる。共培養する時間は、例えば、4~720時間、24~168時間、又は48~72時間でありうる。
【0046】
共培養における腺細胞の細胞数は、導管に誘導する前の上皮細胞の細胞数に対して、例えば、0.001~1000倍、0.01~100倍、又は0.05~10倍でありうる。ただし、培養温度、培養時間、腺細胞と上皮細胞との細胞数の比率は、共培養する導管及び腺細胞の種類に応じて、当業者が適宜設定できる。
【0047】
導管と腺細胞とを共培養する培地は、共培養する導管及び腺細胞の種類に応じて、当業者が適宜選択することができる。例えば、実施例で用いたBIM-1培地の他に、上述の導管形成に使用できる培地として挙げた培地を1種又は2種以上組み合わせて使用することができ、適宜改変することができる。培地は、培養期間及び細胞数に応じて、適宜新しい培地、新しい組成に交換、変更することができる。
【0048】
導管上に播種する腺細胞は、播種する時点で、単離細胞でもよく、腺細胞同士ですでに集合し腺腔構造を形成している細胞集団でもよい。播種する際に単離細胞であっても、共培養中に腺細胞同士で集合し、腺腔を形成することができる。腺腔を形成した腺細胞は導管と接触し、腺腔と導管とが機能的に結合することとなる。また、導管上に播種する腺細胞がヒト肝細胞である場合、当該ヒト肝細胞の形態は特に限定されず、例えば懸濁液状に調整したものも挙げられる。かかる場合、当該懸濁液を前記導管上に播種する。当該ヒト肝細胞の調整方法は公知の種々の方法によって行うことができる。
【0049】
本発明の別の実施形態に係る方法は、前駆細胞を、上記導管を形成する上皮細胞に分化誘導する工程をさらに含んでいてもよい。そのような工程は例えば、製造する培養組織が肝臓組織の場合、肝前駆細胞から胆管上皮細胞に分化誘導する工程である。共培養する工程だけでなく、前駆細胞を上皮細胞に分化誘導する工程及び導管を形成させる工程も、二次元培養で行うことが好ましい。これらの工程を二次元培養で行う場合、同じ二次元培養装置で、前駆細胞を上皮細胞に分化誘導する工程、導管を形成させる工程及び共培養する工程を、続けて又は同時に、行うことができる。同じ二次元培養装置でこれらの工程を行うことで、共培養工程で導管と腺細胞とを効率良く接触させることができ、製造される培養組織において、腺腔と導管とがより機能的に結合しやすくなる。
【0050】
本発明の別の実施形態に係る方法は、上述の前駆細胞から上皮細胞に分化誘導する工程の前に、成熟細胞を上記前駆細胞にリプログラミングする工程をさらに含むものであってもよい。成熟細胞を前駆細胞にリプログラミングする工程は、公知の方法を用いることができる。リプログラミングされる成熟細胞は、初代細胞であっても、株化細胞であってもよい。例えば、目的の培養組織が肝臓組織であって、上皮細胞が胆管上皮細胞である場合、上記リプログラミングされる成熟細胞は肝細胞であってよく、前駆細胞は肝前駆細胞であってよい。肝細胞を肝前駆細胞にリプログラミングする工程は、例えば、上述の参考文献1に記載の条件及び方法に従って、行うことができる。目的の培養組織が肝臓組織である場合、リプログラミングされる成熟細胞と腺細胞はいずれも肝細胞となることもありうる。
【0051】
上述の方法により製造された培養組織において、腺腔と導管とが機能的に結合していることを、標識化合物を利用した種々の方法により確認することができる。例えば、確認対象となる腺腔と導管における挙動が既知である化合物に標識を付した化合物を用いることができる。具体的には、標識した分泌物又はそのアナログを腺細胞に取り込ませ、腺細胞から分泌された標識分泌物又はそのアナログが導管から検出できるか否かで確認することができる。例えば、腺細胞が肝細胞、腺腔が毛細胆管、導管が胆管である場合、そのような標識分泌物又はそのアナログとして、蛍光標識した胆汁酸アナログである、コリル-リシル-フルオレセイン(CLF)を用いることができる。胆管と共培養した肝細胞にCLFを取り込ませ、胆管からCLFの蛍光が検出された場合、肝細胞から毛細胆管にCLFが分泌され、分泌されたCLFが胆管へと移動したこと、すなわち、毛細胆管と胆管とが機能的に結合していることを確認することができる。標識化合物としては、蛍光ラベルのほかに、放射性同位体による標識化合物も使用することができる。また、腺腔と導管とが機能的に結合していることを、当該腺腔と導管における挙動が既知である、標識されていない化合物を用いて確認することもできる。この場合、培地中あるいは細胞中の当該化合物を、高速液体クロマトグラフ(HPLC)と質量分析計を用いて測定することにより確認することができる。標識又は標識されていない、対象となる腺腔と導管における挙動が既知である化合物は、本発明の一実施形態に係るキットにおいて、ポジティブコントロールとして任意で含まれうる。
【0052】
同様の方法で、腺組織における被検物質の評価を、蛍光又は放射性同位体による標識がされた被検物質、または標識されていない被検物質を用いて行うことができる。被検物質の検出、測定は、当業者が被検物質及びその標識の有無、種類に応じて、蛍光の検出、放射線の検出、およびHPLCと質量分析の組み合わせ等、公知の方法から適宜選択することができる。
【実施例
【0053】
以下、実施例を用いて本発明をさらに説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定して解釈されない。
【0054】
実施例1.ラット肝細胞を用いた培養組織の作製
<ラットCLiPの調製>
ラット肝細胞から肝前駆細胞へのリプログラミングを、上述の参考文献1に記載の方法に従って行った。
具体的には、7週齢の雄ウィスターラットから摘出した肝臓を、二段階コラゲナーゼ灌流法により灌流し、初代肝細胞を分離した。コラーゲンコートディッシュに初代肝細胞を1×10細胞/cmの密度で播種した。培地として、以下のSHM(Small Hepatocyte culture Medium)+YAC培地を用いた。
SHM+YAC培地:基礎培地(NaHCO及びL-グルタミン含有DMEM/F12培地)並びに以下をさらに含む培地。5mM HEPES、30mg/L L-プロリン、0.05%BSA、10ng/mL 上皮成長因子(EGF)、インスリン-トランスフェリン-亜セレン酸ナトリウム(ITS)-Xサプリメント(Gibco社製)、10-7M デキサメタゾン、10mM ニコチンアミド、1mM アスコルビン酸-2リン酸(Asc2P)、100ユニット/mL ペニシリン、100μg/mL ストレプトマイシン、10μM Y-27632、0.5μM A-83-01、3μM CHIR99021。
【0055】
2日に1回培地交換して、細胞がコンフルエントになるまで、12~14日間培養を行い、rCLiPを作製した。
TrypLE(商標)Express(Thermo Fisher Scientific製)で10分間処理して細胞を解離し、作製したrCLiPの継代を行った。
【0056】
<rCLiPからの胆管上皮細胞の誘導及び胆管形成>
以下、図1Aに示すように、rCLiPからの胆管上皮細胞の誘導及び胆管形成を行った。
コラーゲンコートディッシュにマイトマイシン処理済みマウス胚性線維芽細胞(MEF)を、5.3×10細胞/cmの密度で播種し、1日間培養した。MEF播種時の培地は、低グルコースDMEM培地及び10%ウシ胎児血清(FBS)を含む培地を用いた。
【0057】
MEF播種から1日後、継代したrCLiPを1.3×10細胞/cmの密度でMEF上に播種した。rCLiP播種時の培地は、上述のSHM+YAC培地及び5%FBSを含む培地を用いた。
【0058】
rCLiP播種から1日後、以下のBIM(Bile duct Inducing Medium)-1培地に培地を交換した後、6日間培養し、胆管上皮細胞を得た。培養中は、2日毎に1回BIM-1培地を新しく交換した。
BIM-1培地:mTeSR(商標)1(STEMCELL(商標) Technologies製)並びに、10μM Y-27632、0.5μM A-83-01及び3μM CHIR99021を含む培地。
【0059】
BIM-1培地で胆管上皮細胞を6日間培養した後、以下のBIM-2培地に培地を交換し、さらに6日間培養した。培養中は、2日毎に1回BIM-2培地を新しく交換した。BIM-2培地で6日間培養後、胆管上皮細胞から形成された胆管が観察された(図1Bの最右図)。
BIM-2培地:BIM-1培地及び2%マトリゲルを含む培地。
【0060】
<rCLiP胆管と初代肝細胞との共培養>
以下、図2Aに示すように、rCLiPから形成した胆管と初代肝細胞との共培養を行った。
rCLiPから上述のようにして胆管上皮細胞を誘導し、胆管が形成された培地(BIM-1培地及びBIM-2培地でそれぞれ6日間培養後)に、二段階コラゲナーゼ灌流法により灌流し、分離したラット初代肝細胞を5.3×10細胞/cmの密度で播種した。初代肝細胞播種時の培地は、肝細胞培養培地を用いた。
初代肝細胞播種から1日後、培地をBIM-2培地に交換した。初代肝細胞播種から3日後、肝細胞-毛細胆管-胆管の機能的結合を評価するために、CLF溶液を培地に添加した。CLF溶液添加から2時間後、24時間後、72時間後の細胞の様子を、位相差顕微鏡及び蛍光顕微鏡で観察した(図3A)。蛍光顕微鏡で観察する励起波長は480nmとした。
【0061】
ネガティブコントロールとして、rCLiPから同じように胆管上皮細胞を誘導し、胆管が形成された培地(BIM-1培地及びBIM-2培地でそれぞれ6日間培養後)に、初代肝細胞を播種せずに、CLF溶液を添加した。CLF溶液添加から2時間後の様子を位相差顕微鏡及び蛍光顕微鏡で観察した(図3B)。
【0062】
図3Aのとおり、胆管から蛍光が検出され、初代肝細胞に取り込まれたCLFが毛細胆管に分泌され、毛細胆管から胆管へと移動したことが示された。すなわち、作製された培養組織において、毛細胆管と胆管とを機能的に結合させることができた。一方、図3Bのとおり、胆管のみの培地にCLFを添加しても、蛍光は検出されなかった。
【0063】
実施例2.ヒト肝細胞を用いた培養組織の作製
さらに、ラット肝細胞ではなくヒト肝細胞を用いた実施例を用いて本発明をさらに説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定して解釈されない。
【0064】
<ラットCLiPの調製>
ラット肝細胞から肝前駆細胞へのリプログラミングを、上述の参考文献1に記載の方法に従って行った。
具体的には、8週齢の雄ウィスターラットの肝臓を、二段階コラゲナーゼ灌流法により灌流し、初代肝細胞を分離した後に、コラーゲンコートディッシュに1×10細胞/cmの密度で初代肝細胞を播種した。培地には、以下のSHM(Small Hepatocyte culture Medium)+YAC培地を用いた。
SHM+YAC培地:基礎培地(DMEM/F12培地)に以下を含んだ培地。5mM HEPES、30mg/L L-プロリン、0.05%BSA、10ng/mL 上皮成長因子(EGF)、1%インスリン-トランスフェリン-亜セレン酸ナトリウム(ITS)-Xサプリメント(Thermo Fisher Scientific製)、10μM デキサメタゾン、10mM ニコチンアミド、1mM アスコルビン酸-2リン酸(Asc2P)、100ユニット/mL ペニシリン - 100μg/mL ストレプトマイシン - 250ng/mL アンホテリシンB(Antibiotic-Antimycotic)、10μM Y-27632、0.5μM A-83-01、3μM CHIR99021。
【0065】
ラット初代肝細胞播種から1日後、SHM+YAC培地に培地を交換した後、2~3日に1回培地交換して、細胞がコンフルエントになるまで、12~15日間培養を行い、rCLiPを作製した。
TrypLE(商標)Express(Thermo Fisher Scientific製)で10~15分間処理してrCLiPをディッシュから剥離し、継代を行った。
【0066】
<rCLiPからの胆管上皮細胞の誘導及び胆管形成>
以下、図4Aに示すように、rCLiPからの胆管上皮細胞の誘導及び胆管形成を行った。
コラーゲンコート12ウェルプレートにマイトマイシン処理済みマウス胚性線維芽細胞(MEF)を、5.3×10細胞/cmの密度で播種し、1日間培養した。MEF播種時の培地は、10%ウシ胎児血清(FBS)を含む高グルコースDMEM培地を用いた。
【0067】
MEF播種から1日後、継代したrCLiPを1.3×10細胞/cmの密度でMEF上に播種した。rCLiP播種時の培地は、以下のBIM(Bile duct Inducing Medium)-1培地に5%FBSを添加した培地を用いた。
BIM-1培地:mTeSR(商標)1(STEMCELL(商標) Technologies製)並びに、10μM Y-27632、0.5μM A-83-01及び3μM CHIR99021を含む培地。
【0068】
rCLiP播種から1日後、BIM-1培地に培地を交換した後、6日間培養し、胆管上皮細胞を得た。培養中は、2~3日毎に1回BIM-1培地を新しく交換した。
【0069】
BIM-1培地で胆管上皮細胞を6日間培養した後、以下のBIM-2培地に培地を交換し、さらに6日間培養した。培養中は、2~3日毎に1回BIM-2培地を新しく交換した。BIM-2培地で6日間培養後、胆管上皮細胞から形成された胆管が観察された(図4Bの最右図)。
BIM-2培地:BIM-1培地及び2%マトリゲルを含む培地。
【0070】
<rCLiP胆管とヒト肝細胞との共培養>
以下、図5A及び図5Bに示すように、rCLiPから形成した胆管とヒト肝細胞との共培養を行った。
(ヒト凍結肝細胞に基づくヒト肝細胞懸濁溶液の調整)
ヒト凍結肝細胞をCryopreserved Hepatocytes Recovery Medium(CHRM(登録商標))(Thermo Fisher Scientific製)を用いて融解し、細胞を遠心分離して上清を除去した。その後ヒト肝細胞に、Primary Hepatocyte Thawing and Plating supplement (Thermo Fisher Scientific製)を含有するWilliam’s Medium Eを添加し、ヒト肝細胞懸濁溶液を調製した。
【0071】
rCLiPから上述のようにして胆管上皮細胞を誘導して形成された胆管(BIM-1培地及びBIM-2培地でそれぞれ6日間培養後)の培養ウェルから培地を除去し、上述のヒト肝細胞を5.3×10細胞/cmの密度で播種した。
ヒト肝細胞播種から1日後、培地をBIM-2培地に交換した。ヒト肝細胞播種から3日後、肝細胞-毛細胆管-胆管の機能的結合を評価するために、培地をCLFを含んだハンクス平衡塩類溶液(Hanks’ Balanced Salt Solution(HBSS))(Thermo Fisher Scientific製)に交換し、30分間インキュベーションした。インキュベーション後、CLFを含まないHBSSにて細胞を洗浄し、洗浄終了直後及び4時間後、24時間後の細胞の様子を、位相差顕微鏡及び蛍光顕微鏡で観察した(図6A)。蛍光顕微鏡で観察する励起波長は470nmとした。
【0072】
ネガティブコントロールとして、rCLiPから同じように胆管上皮細胞を誘導し、胆管が形成されたウェルに、ヒト肝細胞を播種せずに、CLFを含んだHBSSに交換し、30分間インキュベーションした。インキュベーション後、CLFを含まないHBSSにて細胞を洗浄し、洗浄終了直後及び4時間後、24時間後の細胞の様子を位相差顕微鏡及び蛍光顕微鏡で観察した(図6B)。
【0073】
図6Aのとおり、胆管から蛍光が検出され、ヒト肝細胞に取り込まれたCLFが毛細胆管に分泌され、毛細胆管から胆管へと移動したことが示された。すなわち、作製された培養組織において、毛細胆管と胆管とを機能的に結合させることができた。一方、図6Bのとおり、ヒト肝細胞を播種せずに、胆管のみの培地を、CLFを含んだHBSSに交換してインキュベーションしても、蛍光は検出されなかった。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B