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特許7483285片極性誘導加速セル、それを用いた荷電粒子ビームの誘導加速器及び誘導加速方法
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  • 特許-片極性誘導加速セル、それを用いた荷電粒子ビームの誘導加速器及び誘導加速方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-07
(45)【発行日】2024-05-15
(54)【発明の名称】片極性誘導加速セル、それを用いた荷電粒子ビームの誘導加速器及び誘導加速方法
(51)【国際特許分類】
   H05H 13/04 20060101AFI20240508BHJP
【FI】
H05H13/04 D
H05H13/04 M
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2023105523
(22)【出願日】2023-06-27
【審査請求日】2023-11-14
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504151365
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100194869
【弁理士】
【氏名又は名称】榎本 慎一
(72)【発明者】
【氏名】高山 健
【審査官】佐藤 海
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-310013(JP,A)
【文献】特開2007-165220(JP,A)
【文献】Ken Takayama,Evolution of induction synchrotrons,Reviews in Physics 10(2023) 100083,2023年05月13日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 13/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内筒である金属製のビームパイプ及び金属製の外筒からなる2重構造で、前記外筒の内に磁性体が挿入されてインダクタンスを作り、
荷電粒子ビームが通過する真空ダクトと接続された前記ビームパイプの一部は第一絶縁体でできており、
前記磁性体を取り囲む一次側の電気回路である一次側コイルにパルス電圧を発生させるスイッチング電源を接続し、前記スイッチング電源を外部からオン及びオフすることで、電場の発生が制御され、
前記一次側コイルに前記スイッチング電源から前記パルス電圧を印加すると1次電流が流れ、前記磁性体が励磁されトロイダル形状の前記磁性体を貫く磁束密度が時間的に増加し、
前記第一絶縁体を挟んで、前記ビームパイプの両方の端部である2次側にファラデーの誘導法則に従って電場が誘導され、加速電場となる加速ギャップを有し、
前記荷電粒子ビームを加速する正の誘導電圧を与えるセット電圧と、前記磁性体の飽和を解消するリセット電圧を印加する誘導加速セルにおいて、
更に、
前記ビームパイプの円周方向に帯状に設けられた前記第一絶縁体で切り離された前記ビームパイプの端部間を円周方向に等間隔に並列接続して配置された複数の第一ダイオードで構成される第一ダイオード群と、
前記外筒に前記ビームパイプを囲んで帯状に配置された第二絶縁体で切り離された前記外筒の端部間を等間隔に並列接続して配置された複数の第二ダイオードで構成される第二ダイオード群と、
を備え
前記第一ダイオード群は、前記一次側コイル端子間のセット電圧がオフになり負極性のリセット電圧が発生するタイミングでオンになるとともに、前記第二ダイオード群が自動的に開放になることを特徴とする片極性誘導加速セル。
【請求項2】
請求項1に記載の片極性誘導加速セル二台を用いて、蓄積リングに蓄積された直流の荷電粒子ビームを誘導加速することを特徴とする荷電粒子ビームの誘導加速器。
【請求項3】
請求項1に記載の片極性誘導加速セル二台を用いて、蓄積リングに蓄積された直流の荷電粒子ビームを誘導加速することを特徴とする荷電粒子ビームの誘導加速方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性体のリセット電圧を荷電粒子ビームに影響させない片極性誘導加速誘導加速セル、さらに、それを用いて加速器のリング一周にわたって存在する直流の荷電粒子ビームを誘導加速する荷電粒子ビームの加速装置及び加速方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の誘導加速セル、誘導加速シンクロトロン技術は、特許文献1、非特許文献1-3に十分開示されている。
【0003】
従来の誘導加速セルは、図1(引用文献1の図2、引用文献2の図2)に示すように、従来の誘導加セル(閉込用誘導加速セル及び加速用誘導加速セル)はこれまで作られてきた線形誘導加速器用の誘導加速空洞と原理的には同じ構造である。
【0004】
引用文献1、2の誘導加速セルを、ここでは、改めて既存の誘導加速セル1として説明し直し、必要に応じて、符号及び符号の名称も形式的に変更した。
【0005】
既存の誘導加速セル1を用いて誘導電圧の発生原理を説明する。既存の誘導加速セル1は、内筒であるビームパイプ2及び外筒3からなる2重構造で、外筒3の内に磁性体3aが挿入されてインダクタンスを作る。荷電粒子ビーム4が通過する真空ダクト5と接続されたビームパイプ2の一部はセラミックなどの第一絶縁体2aでできている。既存の誘導加速セル1を高繰り返しで動作させると発熱することから、外筒3の内部には冷却用の絶縁オイルなどを循環させることがあり、外筒3とビームパイプ2の間にはプラスティックなどのシール3bを必要とする。
【0006】
既存の誘導加速セル1の1次側の電気回路にパルス電圧6aを発生させるスイッチング電源6を接続し、スイッチング電源6を外部からオン及びオフすることで、電場2cの発生を自由に制御することができる。
【0007】
すなわち、磁性体3aを取り囲む1次側の電気回路にスイッチング電源6からパルス電圧6aを印加すると1次電流3c(コア電流)が流れ、磁性体3aが励磁されるのでトロイダル形状の磁性体3aを貫く磁束密度が時間的に増加する。このとき第一絶縁体2aを挟んで、導体のビームパイプ2の両方の端部2b、2bである2次側にファラデーの誘導法則に従って電場2cが誘導される。この電場2cが加速電場となる。この加速電場が生じる部分を加速ギャップ2dという。
【0008】
既存の誘導加速セル1では、磁性体3aの磁気的飽和を解消するため、荷電粒子ビーム4を加速する電圧(正の誘導電圧(セット電圧))と逆向きの負の誘導電圧(リセット電圧)を印加しなければならなかった。そして、既存の誘導加速セル1は単一の加速ギャップ2dしか持たなかった。そのため、リセット電圧の印加時間帯に、加速ギャップ2dに荷電粒子ビーム4を存在させることはできなかった。したがって、加速器のリング一周にわって一様に蓄積された直流の荷電粒子ビームを誘導加速することは原理的に不可能であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2006-310013号公報(全種イオン加速器及びその制御方法)
【文献】特開2007-165220号公報(誘導加速装置及び荷電粒子ビームの加速方法)
【非特許文献】
【0010】
【文献】K. Takayama and R. J. Briggs, Induction Accelerators (Springer, 2011).
【文献】K. Takayama, ‘Evolution of Induction Synchrotrons”, Reviews in Physics 10, 100083 (2023).
【文献】高山 健 解説「誘導加速シンクロトロの進化と応用」日本物理学会誌 75, 666 (2020).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明は、磁性体のリセット電圧を荷電粒子ビームに影響させない片極性誘導加速誘導加速セル、さらに、それを用いて加速器のリング一周にわたって存在する直流の荷電粒子ビームを誘導加速する荷電粒子ビームの加速装置及び加速方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)
誘導加速セルにおいて、
更に、
金属製のビームパイプの円周方向に帯状に設けられた第一絶縁体で切り離された前記ビームパイプの端部間を円周方向に等間隔に並列接続して配置された複数の第一ダイオードで構成される第一ダイオード群と、
前記誘導加速セルの金属製の外筒に前記ビームパイプを囲んで帯状に配置された第二絶縁体で切り離された前記外筒の端部間を等間隔に並列接続して配置された複数の第二ダイオードで構成される第二ダイオード群と、
を備えたことを特徴とする片極性誘導加速セル。
(2)
(1)に記載の片極性誘導加速セル二台を用いて、蓄積リングに蓄積された直流の荷電粒子ビームを誘導加速することを特徴とする荷電粒子ビームの誘導加速器。
(3)
(1)に記載の片極性誘導加速セル二台を用いて、蓄積リングに蓄積された直流の荷電粒子ビームを誘導加速することを特徴とする荷電粒子ビームの誘導加速方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、磁性体のリセット電圧を荷電粒子ビームに影響させない片極性誘導加速誘導加速セル、さらに、それを用いて加速器のリング一周にわたって存在する直流の荷電粒子ビームを誘導加速する荷電粒子ビームの加速装置及び加速方法を提供することが可能になった。
【0014】
第一絶縁体で切り離されたビームパイプの端部間及び第二絶縁体で切り離された外筒の端部間をダイオードで接続することで、受動的に短絡が可能で、負極性のリセット電圧を荷電粒子ビームが受けることがない。また、能動素子であるパワー半動体素子を使用して強制的短絡・開放も可能で、ダイオードと同様に、負極性のリセット電圧を荷電粒子ビームは受けない。
【0015】
現時点での最も注目すべき応用はEUV CW自由電子レーザーであろう。特にVLSI半導体製造のEUVリソグラフィー用の光源として自由電子レーザーが着目される。現在世界では13.5 nm EUV光源を供給するのはオランダのAMSLのみであるが、供給するレーザー駆動光源の産業用としては極端に低い電力効率(0,1%)、高額な装置コスト(200億円)、液体錫標的照射チャンバー周囲・EUV光学系のメンテナンス経費、余りに膨大な部品数(2万点)、高熟練の運転員の必要性と比較するなら、誘導加速蓄積リング駆動EUV CW自由電子レーザーの下記優位性が特筆できる。
(1)FELの出力は偏光している
(2)高効率 (~20%)
(3)大きな平均パワー(~kW)
(4)相対的低コスト(~50億円)
(5)13.5nmを越えたより短波長化への可能性
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】既存の誘導加速セル1の断面模式図である。
図2】本願の片極性誘導加速セル1aの断面模式図である。
図3】ギャップの説明図である。(A)がビームパイプの斜視図模式図で、第一絶縁体及び第一ダイオード群の説明であり、(B)が片極性誘導加速セルの正面模式図で第二絶縁体及び第二ダイオード群の説明である。
図4図4(A)は片極性誘導加速セルのダイオード動作シーケンスである。図4(B)は、上段が片極性誘導加速セルの一次コイル両端間の発生電圧パターンであり、下段が周回する荷電粒子ビームが受ける加速電圧パターンである。縦軸が電圧値、横軸が時間である。
図5】片極性誘導加速セルを二台用いた荷電粒子ビームの加速パターンである。(A)が第一の片極性誘導加速セルの動作シーケンス、(B)が第二の片極性誘導加速セルの動作シーケンスである。いずれも、上段が片極性誘導加速セルの一次コイル両端間の発生電圧パターンであり、下段が周回する荷電粒子ビームが受ける加速電圧パターンである。(C)が二台の片極性誘導加速セルの加速電圧の総和であり、実効的に直流の荷電粒子ビームに印加する加速電圧である。縦軸が電圧値、横軸が時間である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付の図面を参照し、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、本発明は下記形態例に限定されるものではない。
【0018】
図2,3に示すように、本発明である片極性誘導加速セル1aは、図1に示すような既存の誘導加速セル1において、第二絶縁体3dを外筒3に設け、さらに第一絶縁体2aを跨いで第一ダイオード群7と、第二絶縁体3dを跨いで第二ダイオード群8を備える。片極性誘導加速セル1aは、既存の誘導加速セル1と同じスイッチング電源6による印加制御にて駆動する。
【0019】
第一ダイオード群7は、金属製のビームパイプ2の円周方向に帯状に設けられた第一絶縁体2aで切り離されたビームパイプ2の端部2b、2b間を円周方向に等間隔に並列接続して配置された複数の第一ダイオード7aで構成される。
【0020】
第二絶縁体3dは、既存の誘導加速セル1の金属製の外筒3において、ビームパイプ2を囲んで帯状に配置される。第二ダイオード群8は、第二絶縁体3dで切り離された外筒3の端部3e、3e間を等間隔に並列接続して配置された複数の第二ダイオードで構成される。第二絶縁体3dは、図2のような側面だけでなく、外筒3の円周部に設けてもよい。
【0021】
第一ダイオード7a、第二ダイオード8aは、例えば、SiCダイオードなど、セット電圧9、リセット電圧9aより大きな耐圧をもつ高耐圧ダイオードであれば特に限定されない。また、第一ダイオード7a、第二ダイオード8aは、トポロジカルには閉回路上に直列する加速ギャップ2d(第一ギャップ)、第二ギャップ3fの端部間に逆向きにそれぞれ配置される。
【0022】
第二ダイオード8aは、外筒3の端部3eを接続すれば、外筒3の内部に設置してもよい。
【0023】
図2,3のようにしてなる、片極性誘導加速セル1aは、図4(A)に示す、加速ギャップ2d(第一ギャップ)の電圧状態になるよう第一ダイオード7a及び第二ダイオード8aによって受動的に制御、維持される。そのときに、図4上段のリセット電圧9aを荷電粒子ビーム4が受けることなく、図4下段の加速電圧10のみを荷電粒子ビーム4は受けることになる。
【0024】
すなわち、図4(A)に示すように、使用する第一ダイオード群7は、一次側コイル端子間のセット電圧9がオフになり負極性のリセット電圧9aが発生するタイミング(t=0)でオンになる。それにより加速ギャップ2dは短絡する。この結果、加速ギャップ2dは周回する直流の荷電粒子ビーム4への影響は消失する(図4(B)下段)、すなわち、磁性体3aのリセット時間帯では荷電粒子ビーム4は減速されない。
一方、このタイミング(t=0)で第二ダイオード群8は自動的に開放になる。この結果、一次側コイルには逆電流が流れ、リセット電圧9aにより磁性体3aはリセットされ、動作点はB-Hカーブ上の初期値に戻る。
【0025】
連続的にセット電圧9、リセット電圧9aを発生させる結果、蓄積リング滞在時間の半分は、周回する直流の荷電粒子ビーム4に片極性の加速電圧10が印加されることになり、図4(B)下段に示すように周回する荷電粒子ビーム4が受ける加速電圧10のパターンとなる。図4(A)のt=0がダイオードのオンタイミングで、その右に示す縦着色帯は、ダイオードのターンオン時間(~5nsec)を示す。+Vが順電圧状態、-Vが逆電圧状態である。
【0026】
図5に示すように、片極性誘導加速セル1aを二台(第一の片極性誘導加速セル1a、第二の片極性誘導加速セル1a)用いることで、蓄積リングに蓄積された直流の荷電粒子ビーム4を誘導加速することができる。
【0027】
具体的には、片極性誘導加速セル1aを二台、図5(A)と(B)のように、動作位相を180度ずらして連続運転を行えば、蓄積リング滞在の全時間帯にわって正極性のセット電圧9、即ち連続的加速電圧10を、図5(C)に示すように、直流の荷電粒子ビーム4に印加することができる。
【符号の説明】
【0028】
1 既存の誘導加速セル
1a 片極性誘導加速セル
2 ビームパイプ
2a 第一絶縁体
2b 端部
2c 電場
2d 加速ギャップ
3 外筒
3a 磁性体
3b シール
3c 1次電流
3d 第二絶縁体
3e 端部
3f 第二ギャップ
4 荷電粒子ビーム
5 真空ダクト
6 スイッチング電源
6a パルス電圧
7 第一ダイオード群
7a 第一ダイオード
8 第二ダイオード群
8a 第二ダイオード
9 セット電圧
9a リセット電圧
10 加速電圧
【要約】
【課題】磁性体のリセット電圧を荷電粒子ビームに影響させない片極性誘導加速誘導加速セル、さらに、それを用いて加速器のリング一周にわたって存在する直流の荷電粒子ビームを誘導加速する荷電粒子ビームの加速装置及び加速方法を提供する。
【解決手段】本発明は、
誘導加速セルにおいて、
更に、
金属製のビームパイプの円周方向に帯状に設けられた第一絶縁体で切り離された前記ビームパイプの端部間を円周方向に等間隔に並列接続して配置された複数の第一ダイオードで構成される第一ダイオード群と、
前記誘導加速セルの金属製の外筒に前記ビームパイプを囲んで帯状に配置された第二絶縁体で切り離された前記外筒の端部間を等間隔に並列接続して配置された複数の第二ダイオードで構成される第二ダイオード群と、
を備えたことを特徴とする片極性誘導加速セル
の構成とした。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5