(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-07
(45)【発行日】2024-05-15
(54)【発明の名称】カバー付電気コネクタ
(51)【国際特許分類】
H01R 13/52 20060101AFI20240508BHJP
【FI】
H01R13/52 301E
(21)【出願番号】P 2021079062
(22)【出願日】2021-05-07
【審査請求日】2023-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】390005049
【氏名又は名称】ヒロセ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100138140
【氏名又は名称】藤岡 努
(72)【発明者】
【氏名】柴原 敦
【審査官】▲高▼橋 杏子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-026764(JP,A)
【文献】特開2020-149874(JP,A)
【文献】特表2012-511804(JP,A)
【文献】特開2020-149870(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 13/40-13/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直状に延びる端子の長手方向を軸線方向、軸線方向に対し直角な一つの方向をコネクタ幅方向、軸線方向及びコネクタ幅方向の両方向に対して直角な方向をコネクタ高さ方向とし、軸線方向で相手コネクタに嵌合接続する電気コネクタにコネクタカバー体が取り付けられたカバー付電気コネクタであって、
軸線方向での一端部に相手コネクタに嵌合する嵌合部が設けられているとともに、軸線方向での他端部に端子に結線されたケーブルが延出するケーブル延出部が設けられているコネクタ本体と、
上記ケーブル延出部に取り付けられ外部に対し防水シールするシール部材と、
上記コネクタ本体から延出するケーブルの貫通を許容し上記シール部材をカバーするシールカバー体と、
上記コネクタ本体の少なくとも一部、上記シールカバー体の少なくとも一部、及び上記シールカバー体を貫通して延出するケーブルの一部を覆うコネクタカバー体とを有するカバー付電気コネクタにおいて、
上記コネクタ本体は、上記軸線方向で上記シールカバー体と係止する係止部を有し、
上記シールカバー体は、上記コネクタ本体の上記係止部により軸線方向に係止される爪状の被係止部と、コネクタ高さ方向に突出する突部とを有し、
上記コネクタカバー体は、上記シールカバー体の上記突部を収容する窓部と、上記コネクタ本体の上記ケーブル延出部から軸線方向に延出するケーブルをコネクタ幅方向での一方に変向させて収容する湾曲部とを有し、
上記コネクタカバー体に形成された上記窓部は、軸線方向で対向してコネクタ幅方向に延びる二つの窓内縁部を有し、
上記二つの窓内縁部のうち上記コネクタ本体の一端部側に位置する窓内縁部は、コネクタ幅方向で上記湾曲部の変向方向に位置する端部を含む領域の部分が、他の領域の部分よりも、軸線方向で上記突部から離間した離間部を形成していることを特徴とするカバー付電気コネクタ。
【請求項2】
上記離間部は、上記窓内縁部における上記変向方向位置の上記端部から中央部に及ぶ範囲に形成されていることとする請求項1に記載のカバー付電気コネクタ。
【請求項3】
上記シールカバー体の上記被係止部は、軸線方向で上記コネクタカバー体の上記窓部の範囲内に位置していることとする請求項1または請求項2に記載のカバー付電気コネクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コネクタカバー体が取り付けられた電気コネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
電気コネクタは、使用される環境に応じて、電気コネクタへの悪影響を軽減するための構造を有していることが多い。例えば、外部から電気コネクタへ水が浸入するおそれのある環境では、防水のためのシール部材が設けられることがある。
【0003】
シール部材を有する電気コネクタとしては、特許文献1に開示されているコネクタが知られている。このコネクタは、前後方向(特許文献1におけるY軸方向)に延びた軸線をもつ略円筒状の外形を有し、前端側(Y1側)から相手コネクタが接続され、後端側(Y2側)では複数のケーブルが後方へ向けて延出している。端子に結線されているケーブルの前端側部分は、シールカバー体としてのキャップ及びシール部材としての防水シールをこの順で後方から密着状態で貫通している。キャップは、コネクタ本体の一部である略円筒状のハウジングに防水シールが収納された状態で、該ハウジングに後方から取り付けられている。
【0004】
キャップは、ハウジングの後部に外嵌する筒部の内周面に、コネクタ幅方向(特許文献1におけるX軸方向)で対向する爪状の一対の被係止部としての被係合部(係止内側凸部)を有している。係止内側凸部は、キャップがハウジングに外嵌された際に、ハウジングの後部の外周面に設けられた突起状の係止部としての係止凸部に前後方向(コネクタの軸線方向)で係止し、これによって、キャップがハウジングから後方へ抜けることが防止されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
コネクタが外部から不用意な力(外力)を受けやすい悪条件の環境で使用される場合、コネクタの保護のために、コネクタカバー体が取り付けられることがある。コネクタ周辺の機器との位置関係等に起因して、コネクタ本体から延出するケーブルが前後方向(コネクタの軸線方向)からコネクタ幅方向へ屈曲変向して配索されている場合、コネクタカバー体には、その屈曲変向部分を覆うように湾曲した湾曲部が設けられる。
【0007】
仮に、特許文献1のコネクタに接続されたケーブルが上述のように屈曲変向して配索されていて、上記湾曲部を有するコネクタカバー体を上記コネクタに取り付ける場合、本来は、コネクタ本体にコネクタカバー体が取り付けられるのが好ましいが、コネクタ本体とは別個の部材であるシールカバー体にコネクタカバー体を取り付けることもあり得る。このようにコネクタカバー体がコネクタ本体ではなくシールカバー体に取り付けられていても、特許文献1では、コネクタ本体の係止凸部とシールカバー体の爪状の被係合部とで係止しているので、コネクタカバーがコネクタ本体から外れることはない。
【0008】
不用意な外力が前後方向(コネクタの軸線方向)でコネクタカバー体の湾曲部に作用する場合、その外力が前方(特許文献1であればY1方向)へ向けた力であれば、コネクタ本体の係止凸部とシールカバー体の被係合部との係止部分での係止力が減少するだけであり、係止凸部及び被係合部に強度上の問題は生じにくい。一方、上記外力が後方へ向けた力であれば、コネクタ本体の係止凸部とシールカバー体の被係合部との係止部分での係止力が増大し、その結果、係止凸部及び被係合部に強度上の問題が生じ得る。
【0009】
外力が前後方向でコネクタカバー体の湾曲部に作用している状況においては、この外力は、係止凸部と被係合部との係止部分に、前後方向の力のみならず、モーメントも生じさせる。具体的には、湾曲部に作用する外力は、コネクタ幅方向での両側に位置する二つの係止部分のうち、湾曲部が変向している側とは反対側に位置する一方の係止部分を支点として、前後方向及びコネクタ幅方向の両方向を含む面内で回転するようにシールカバー体を回転させようとする。このとき、外力の作用点となる他方の係止部分には、コネクタ幅方向における一方の係止部分(支点)から他方の係止部分までの距離に上記外力を乗じた大きさのモーメントが作用する。
【0010】
上記外力が後方へ向けて湾曲部に作用した場合、その外力が大きいときや、二つの係止部分同士の距離が長いときには、上記他方の係止部分に作用するモーメントが大きくなり、その結果、他方の係止部分が過大な負荷を受けることで損傷するおそれがある。
【0011】
本発明は、かかる事情に鑑み、コネクタ本体の係止部とシールカバー体の被係止部との係止部分における損傷が生じにくいカバー付電気コネクタを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るカバー付電気コネクタは、直状に延びる端子の長手方向を軸線方向、軸線方向に対し直角な一つの方向をコネクタ幅方向、軸線方向及びコネクタ幅方向の両方向に対して直角な方向をコネクタ高さ方向とし、軸線方向で相手コネクタに嵌合接続する電気コネクタにコネクタカバー体が取り付けられ、軸線方向での一端部に相手コネクタに嵌合する嵌合部が設けられているとともに、軸線方向での他端部に端子に結線されたケーブルが延出するケーブル延出部が設けられているコネクタ本体と、上記ケーブル延出部に取り付けられ外部に対し防水シールするシール部材と、上記コネクタ本体から延出するケーブルの貫通を許容し上記シール部材をカバーするシールカバー体と、上記コネクタ本体の少なくとも一部、上記シールカバー体の少なくとも一部、及び上記シールカバー体を貫通して延出するケーブルの一部を覆うコネクタカバー体とを有する。
【0013】
かかるカバー付電気コネクタにおいて、本発明では、上記コネクタ本体は、上記軸線方向で上記シールカバー体と係止する係止部を有し、上記シールカバー体は、上記コネクタ本体の上記係止部により軸線方向に係止される爪状の被係止部と、コネクタ高さ方向に突出する突部とを有し、上記コネクタカバー体は、上記シールカバー体の上記突部を収容する窓部と、上記コネクタ本体の上記ケーブル延出部から軸線方向に延出するケーブルをコネクタ幅方向での一方に変向させて収容する湾曲部とを有し、上記コネクタカバー体に形成された上記窓部は、軸線方向で対向してコネクタ幅方向に延びる二つの窓内縁部を有し、上記二つの窓内縁部のうち上記コネクタ本体の一端部側に位置する窓内縁部は、コネクタ幅方向で上記湾曲部の変向方向に位置する端部を含む領域の部分が、他の領域の部分よりも、軸線方向で上記突部から離間した離間部を形成していることを特徴としている。
【0014】
かかる本発明のカバー付電気コネクタに対して外力が上記軸線方向でコネクタカバー体の湾曲部に作用すると、コネクタカバー体は、コネクタ高さ方向に見て、コネクタ幅方向で湾曲部が変向している側とは反対側の位置を支点として、上記軸線方向及びコネクタ幅方向を含む面内で回転する。その結果、コネクタカバー体の窓部の窓内縁部が、該窓部に収容されているシールカバー体の突部に当接する。この窓内縁部と突部との当接力は、上記軸線方向の力(軸線方向力)のみならずモーメントも生じさせ、この軸線方向力及びモーメントがシールカバー体に伝達される。
【0015】
シールカバー体に伝達された上記モーメントは、コネクタ本体の係止部とシールカバー体の被係止部との係止部分、すなわちコネクタ幅方向での両側に位置する二つの係止部分のうち、コネクタ幅方向で湾曲部が変向している側とは反対側に位置する一方の係止部分を支点として、上記軸線方向及びコネクタ幅方向の両方向を含む面内で回転するようにシールカバー体を回転させようとする。上記モーメントは、コネクタを上記コネクタ高さ方向に見たときに、支点の位置から作用点の位置(上記窓内縁部と上記突部との当接位置)までの距離に上記当接力を乗じた大きさで生じる。その結果、二つの係止部分のうち他方の係止部分には、上記モーメント及び上記軸線方向力が係止力として作用する。
【0016】
本発明では、上記作用点は、コネクタカバー体の窓内縁部とシールカバー体の突部との当接部分に位置する。上記外力が上記軸線方向での他端部側へ向けて湾曲部に作用した場合には、この外力は、コネクタカバー体の二つの窓内縁部のうち一端部側に位置する窓内縁部とシールカバー体の突部との当接部分を作用点としてモーメントを生ずる。
【0017】
本発明では、上記一端部側に位置する窓内縁部は、コネクタ幅方向で上記湾曲部の変向方向に位置する端部を含む領域の部分が、他の領域の部分よりも、軸線方向で上記突部から離間した離間部を形成しているので、上記外力を受けたコネクタカバー体が回転したとき、窓内縁部は、離間部に対して上記変向方向とは反対側に寄った位置で、上記突部に当接する。つまり、上記作用点は上記コネクタ幅方向で離間部よりも上記支点に寄って位置する。したがって、支点と作用点との距離が短くなり、モーメントもその分小さくなる。その結果、上記二つの係止部分のうち他方の係止部分に作用する係止力が小さくなり、係止部分が損傷しにくくなる。
【0018】
また、仮にコネクタカバー体に作用する外力が過大であるときは、上記係止部と上記被係止部よりも先にコネクタカバー体の方が損傷する。仮にコネクタカバー体が損傷しても、該コネクタカバー体は容易に交換可能であるので、コネクタ本体とシールカバー体との係止部分が破損する場合と比べて、メンテナンスに係る手間が大幅に改善される。
【0019】
本発明において、上記離間部は、上記窓内縁部における上記変向方向位置の上記端部から中央部に及ぶ範囲に形成されていてもよい。このような範囲に上記離間部を形成することにより、上記外力がコネクタカバー体に作用した際、上記一端部側に位置する窓内縁部は、シールカバー体の突部に対して、該突部におけるコネクタ幅方向での中央位置付近に当接するようになる。この結果、上記二つの上記係止部分にかかる負荷がほぼ均等になりやすくなるので、より確実に上記係止部分の損傷を防止できる。
【0020】
本発明において、上記シールカバー体の上記被係止部は、軸線方向で上記コネクタカバー体の上記窓部の範囲内に位置していてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明では、コネクタの軸線方向の外力がコネクタカバー体に作用して該コネクタカバー体が回転しても、支点と作用点との距離が短くなりモーメントが小さくなる分、コネクタ本体の係止部とシールカバー体の被係止部との係止部分における損傷を生じにくくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の一実施形態に係るカバー付電気コネクタの外観を示し、(A)は上斜視図、(B)は下斜視図である。
【
図2】
図1のカバー付電気コネクタを、コネクタカバー体をコネクタ本体から分離した状態で示す下斜視図である。
【
図3】
図1のカバー付電気コネクタを、コネクタカバー体をコネクタ本体から分離し、さらに電気コネクタの構成部材を分離した状態で示す上斜視図である。
【
図4】
図1のカバー付電気コネクタの底面図である。
【
図5】
図1のカバー付電気コネクタの電気コネクタについての横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1(A),(B)は、本発明の一実施形態に係るカバー付電気コネクタ1(以下、「カバー付コネクタ1」という)の外観を示し、
図1(A)は上斜視図、
図1(B)は下斜視図である。
図1(A),(B)では、方向性を理解しやすいように、直交立体座標軸X,Y,Zが設定されている。また、以下の図においてもこの直交立体座標軸X,Y,Zを設定することとする。
【0024】
カバー付コネクタ1は、後述のケーブル14が接続された電気コネクタ10(以下、「コネクタ10」という)と、コネクタ10に取り付けられたコネクタカバー体20とを有している。本実施形態では、カバー付コネクタ1が相手コネクタ(図示せず)へ嵌合する向きとなる前方をX1、そしてその逆向きである後方をX2とする軸線方向をXとし、ケーブル14がコネクタ10外で軸線方向Xに対し直角に延びる変向方向をY1、そしてその反対方向をY2とするコネクタ幅方向をYとし、上方をZ1、そして下方をZ2とするコネクタ高さ方向をZとしている。
【0025】
コネクタ10は、
図2及び
図3に見られるように、コネクタ本体11と、コネクタ本体11に接続されるケーブル14と、ケーブル14を覆う保護管15と、コネクタ本体11に取り付けられる前シール部材16、後シール部材17、シールカバー体18及びリテーナ19とを有している。
【0026】
コネクタ本体11は、
図3に見られるように、樹脂等の電気絶縁材製のハウジング12と、ハウジング12に収容される複数の端子13とを有している。ハウジング12は、
図1(A),(B)及び
図2に見られるように、相手コネクタ(図示せず)に嵌合する嵌合部12-1を軸線方向Xでの一端部としての前部(X1側の部分)に有している。嵌合部12-1には、前方X1に向け開口して相手コネクタの端子(相手端子)を受け入れる端子受入口12-1Aが形成されている。ハウジング12の詳細な内部構造は、本発明と係りないので、その説明を省略する。
【0027】
また、複数の端子13(
図3参照)は、ハウジング12内で軸線方向Xに延びるようにして保持されている。端子13の後端にはケーブル14が結線されており、ケーブル14は、ハウジング12の軸線方向Xでの他端部としての後部(X2側の部分)に設けられたケーブル延出部12-2(
図3参照)から後方(X2方向)へ延出している。ケーブル14は保護管15に挿通されている。本実施形態では、複数のケーブル14は、端子13に結線された後、1つの保護管15にまとめて収められる。保護管15は蛇腹状をなし方向を自在に変えられる可撓性を有している。
【0028】
ハウジング12は、
図3に見られるように、X軸方向に延びる軸線をもつ略四角筒外形をなす外筒部12Aと、この外筒部12A内に位置する略四角筒の内筒部12Bとを有している。外筒部12Aと内筒部12Bは、ともに軸線方向Xに延び、軸線方向Xの中間位置で連結された二重構造をなしている。内筒部12Bは、軸線方向Xにおける前方X1と後方X2とで、外筒部12Aよりも突出している。内筒部12Bの前方X1側部分をなす嵌合凸部12B-1と、外筒部12Aとの間の空間で、相手コネクタ(図示せず)の対応部分を受入可能となっている。また、ハウジング12には、後述のリテーナ19を挿入するためのリテーナ挿入孔12Cが、外筒部12Aと内筒部12Bとを貫通して下方Z2に向け開口して形成されている(
図2参照)。
【0029】
図3に見られるように、外筒部12Aの後端位置から後方X2に突出する内筒部12Bの後端部には、コネクタ幅方向Yでの対向側面から突出する突起状の係止部12B-2が形成されている。また、外筒部12Aの後端の上部位置からは、板状のロック解除操作部12A-1が後方X2に延出して設けられている。ロック解除操作部12A-1は、カバー付コネクタ1と相手コネクタ(図示せず)とのロック状態を伴う嵌合状態にて、上方からの押圧操作(ロック解除操作)を受ける部分である。ロック解除操作部12A-1は、ロック解除操作を受けると下方へ弾性変位し、この結果、カバー付コネクタ1と相手コネクタとのロックが解除される。
【0030】
ハウジング12には、前シール部材16と後シール部材17とが取り付けられている。前シール部材16は、ゴム等の弾性部材で作られていて、ハウジング12の内筒部12Bの外面に接面する内周面と外筒部12Aの内面に囲まれる外周面とを有する略四角形環体をなしている。前シール部材16の内周面には環状の波状部16A、外周面には環状の波状部16Bが形成されている。前シール部材16は、波状部16Aが内筒部12Bに圧せられることで弾性圧縮している。一方、波状部16Bと外筒部12Aとの間には隙間が形成されている。この隙間には、相手コネクタ(図示せず)との嵌合状態にて、該相手コネクタの筒状部分が前方X1から挿入されるようになっている。このとき、該筒状部分に圧せられた波状部16Bが弾性圧縮し、その結果、ハウジング12内でのシール性が高められる。
【0031】
後シール部材17は、前シール部材16と同様にゴム等の弾性材料で作られていて、略直方体外形を有し、ハウジング12の内筒部12Bの後端面に当接して配置されるのに適合した形状のブロック体として形成されている。この後シール部材17は、各ケーブル14がそれぞれ挿通されるケーブル挿通孔17Aが形成されているとともに、外周面には、前シール部材16と同様の環状の波状部17Bが形成されている。後シール部材17は、後述のシールカバー体18に収められた状態で、ハウジング12の内筒部12Bの後端面へ圧せられることにより、弾性圧縮し、その結果、シール性が高められる。
【0032】
シールカバー体18は、軸線方向Xでの後シール部材17の厚みの一部を収容する凹部をなすシール部材収容部18Aが前方X1に向け開口して形成されている。また、シールカバー体18の上部には、コネクタ幅方向Yの両端位置で、シールカバー体18の上壁18Bから上方Z1に延び上端にてコネクタ幅方向Yで互いに近づくように屈曲された一対の規制腕18Cが設けられている。シールカバー体18の上壁18Bと一対の規制腕18Cで、ハウジング12のロック解除操作部12A-1を収める収容空間18Dを形成する。規制腕18Cは、ロック解除操作部12A-1に対して上方から当接可能に位置しており、ロック解除操作部12A-1が不用意な外力を受けて上方へ過大に変位することを防止する役割を担っている。シール部材収容部18Aの底壁をなす後壁18Eには、ケーブル挿通孔18E-1が形成されている。
【0033】
シールカバー体18の側壁18Fの内面には、ハウジング12の内筒部12Bに形成された係止部12B-2に軸線方向Xで係止する爪状の被係止部18F-1が形成されている。また、シールカバー体18の下壁18Gの下面には、下方Z2に突出しコネクタ幅方向Yに延びる突部18Hが設けられている。
【0034】
リテーナ19は、
図3に示されているように、ケーブル14の挿通保持のためのケーブル孔19Cがコネクタ幅方向Yに4つ並んで形成された下部19Aと、その上方でケーブル孔19Cが2つ並んで形成された上部19Bとが2段をなした片状をなしている。各ケーブル孔19Cは縦長の長方形をなして軸線方向Xに貫通形成されている。
【0035】
リテーナ19は、ハウジング12のリテーナ挿入孔12C内へ向けて下方Z2から二度押しすることで所定位置へ設置される。具体的には、リテーナ19を一度押しすると、リテーナ19がリテーナ挿入孔12C内で仮止め位置に支持され、この仮止め位置で、各端子付のケーブル14がそれぞれケーブル孔19Cへ後方X2から挿通可能となる。その際、ケーブル14の先端に結線されている端子13はケーブル孔19Cを貫通してリテーナ19よりも前方X1側に位置し、ケーブル孔19C内にはケーブル14が位置する。
【0036】
かかる状態でリテーナ19をもう一度押し込むと、リテーナ19は所定位置に設定され、この位置でケーブル14は保持される。リテーナ19は、上部19Bでは、ケーブル孔19Cが2つしか形成されていないので、上下2段に4つずつ配されている端子付のケーブル14は、上段の両端のケーブル14がケーブル孔19Cには挿通されずに、下部19Aと上部19Bとで形成される段部19Dに位置し、上部19Bの外面とハウジング12の内面との間で保持される。また、端子13は、リテーナ19よりも前方X1の位置で、リテーナ19の前面に係止可能な状態となっており、これによって、端子付のケーブル14のハウジング12からの抜けが防止される。
【0037】
コネクタカバー体20は、
図1(A),(B)に見られるように、コネクタ本体11及びシールカバー体18を覆う本体部21と、コネクタ本体11から延出するケーブル14を変向して湾曲した状態で収める湾曲部22とを有している。このコネクタカバー体20は、
図2及び
図3に見られるように、コネクタ高さ方向Zで(上下に)分割され、カバー上半体20Aとカバー下半体20Bとが組まれることで形成されている。カバー上半体20Aは、本体上半部21Aと湾曲上半部22Aとを有し、カバー下半体20Bは、本体下半部21Bと湾曲下半部22Bとを有している。このカバー上半体20Aとカバー下半体20Bは、
図2にて下斜視図として、
図3にて上斜視図として、分離した状態で示されている。
【0038】
カバー上半体20Aの本体上半部21Aは、コネクタ本体11とシールカバー体18の上半部を覆う半角筒状をなし、上壁部21A-1とコネクタ幅方向Yでの端部位置から垂下する側壁上半部21A-2とを有し、側壁上半部21A-2からは係止片21A-3が下方へ延びて設けられている。係止片21A-3はその板厚方向(Y軸方向)に弾性を有し、軸線方向Xでの中央位置に係止窓21A-3Aが形成されている。
【0039】
カバー上半体20Aでは、湾曲上半部22Aがコネクタ幅方向Yへ変向して延びている。湾曲上半部22Aの上壁22A-1の内面には、
図2に見られるように、保護管15の蛇腹状の環状溝の上半部に係止する係止凸部22A-1Aが形成されている。側壁上半部22A-2からは、係止片21A-3と同様な形状の係止片22A-3が下方に延びており、係止片22A-3には、係止窓22A-3Aが形成されている。
【0040】
カバー下半体20Bの本体下半部21Bは、コネクタ本体11とシールカバー体18の下半部を覆う半角筒状をなし、下壁部21B-1とコネクタ幅方向Yでの端部位置から垂立する側壁下半部21B-2とを有している。側壁下半部21B-2には、該側壁下半部21B-2の外側面から突出する被係止突起21B-3が設けられている。被係止突起21B-3は、上述したカバー上半体20Aの係止片21A-3の係止窓21A-3Aに進入し、係止片21A-3と係止する。
【0041】
カバー下半体20Bでは、湾曲下半部22Bがコネクタ幅方向Yへ変向して延びている。湾曲下半部22Bの下壁22B-1の内面には、
図3に見られるように、保護管15の蛇腹状の環状溝の下半部に係止する係止凸部22B-1Aが形成されている。側壁下半部22B-2の外側面からは、被係止突起21B-3と同様な形状の被係止突起22B-3が突出して設けられている。被係止突起22B-3は、上述したカバー上半体20Aの係止片22A-3の係止窓22A-3Aに進入し、係止片22A-3と係止する。
【0042】
下壁部21B-1には、コネクタ幅方向Yに向け延びる窓部24が形成されている。この窓部24には、シールカバー体18の突部18Hが収められる。
【0043】
図4は、カバー付コネクタ1の底面図である。
図5は、カバー付コネクタ1のコネクタ10についての横断面図であり、コネクタ高さ方向(Z軸方向)におけるハウジング12の係止部12B-2及びシールカバー体18の被係止部18F-1の位置における、コネクタ高さ方向に対して直角な面での断面を示している。また、
図5では、シールカバー体18の突部18Hの外形、コネクタカバー体20の外形、コネクタカバー体20の後述の窓部24の外形のそれぞれが、二点鎖線で示されている。
【0044】
窓部24は、
図2及び
図4に見られるように、軸線方向Xで互いに対向しコネクタ幅方向Yに延びる二つの窓内縁部24A,24B、すなわち前方X1に位置する前窓内縁部24A及び後方X2に位置する後窓内縁部24Bを有している。カバー下半体20Bの軸線方向Xでの移動は、窓内縁部24A,24Bが突部18Hに当接することにより規制される。
【0045】
前窓内縁部24Aでは、コネクタ幅方向YでのY1側、すなわち湾曲下半部22Bが変向している側に位置する端部を含む領域の部分が、他の領域の部分よりも、軸線方向Xで突部18Hから離間した離間部24A-1として形成されている。離間部24A-1は、
図4に見られるように、前窓内縁部24Aを角形状に切り欠いたような切欠部(凹部)として形成されている。本実施形態では、離間部24A-1は、コネクタ幅方向Yで窓部24のY1側の端部位置から中央位置にわたる範囲に形成されている。
【0046】
前窓内縁部24Aにおける上記他の領域の部分は、離間部24A-1よりも軸線方向Xで突部18Hに近接する近接部24A-2として形成されている。カバー下半体20Bの軸線方向Xでの後方(X2方向)への移動は、近接部24A-2が突部18Hに当接することにより規制されている。
図5では、離間部24A-1と突部18Hとの間隔δ1が、近接部24A-2と突部18Hとの間隔δ2よりも大きいことが示されている。
【0047】
本実施形態では、離間部24A-1は、
図5に見られるように、ハウジング12の係止部12B-2及びシールカバー体18の被係止部18F-1を軸線方向X及びコネクタ幅方向Yで窓部24の範囲内に位置させるような寸法で形成されている。
【0048】
このように構成される本実施形態のカバー付コネクタ1は、次の要領で組み立てられる。
【0049】
まず、先端に端子13を圧着した各ケーブル14をシールカバー体18のケーブル挿通孔18E-1、後シール部材17のケーブル挿通孔17Aに順次挿通する。後シール部材17は、シールカバー体18の後壁18Eに前方X1から接面するようにシール部材収容部18Aに収められる。
【0050】
また、ハウジング12のリテーナ挿入孔12Cへリテーナ19が下方から一度押しで仮止め位置へ挿入される。次に、このリテーナ19のケーブル孔19Cそして段部19Dへ、対応するケーブル14が挿通あるいは配置され、端子13がリテーナ19よりも前方X1に位置するとともに、ケーブル孔19Cにはケーブル14が位置するようになる。この状態で、端子13はハウジング12の端子受入口12-1Aに収まり支持される。また、後シール部材17をハウジング12内に後方X2から収め、シールカバー体18をハウジング12に後方X2から取り付ける。このとき、
図5に見られるように、シールカバー体18の被係止部18F-1がハウジング12の係止部12B-2に係止し、シールカバー体18の後方X2への抜けが防止される。
【0051】
次に、リテーナ19をさらに押し込むことで、ケーブル14はリテーナ19により保持され、後方への抜けが防止される。
【0052】
また、ハウジング12に対して、ハウジング12へ前シール部材16を前方X1から奥部まで押し込む。このようにして、前シール部材16と後シール部材17により、ハウジング12内にて外部に対するシール性が確保される。次に、複数(本実施形態では8本)のケーブル14を保護管15に収容する。本実施形態では、保護管15には、その半径方向でケーブル14を収容する内部空間にまで達するスリット(図示せず)が保護管15の長手方向に延びて形成されており、複数のケーブル14はそのスリットを経て上記内部空間に収容される。
【0053】
以上の組立工程を経てコネクタ10が完成する。なお、完成したコネクタ10については、コネクタカバー体20が取り付けられる前に、電気的な導通状態が正常であるかどうかを確認するための作業が行われる。
【0054】
次に、コネクタ10に対してコネクタカバー体20を取り付ける。具体的には、コネクタカバー体20を、カバー上半体20Aとカバー下半体20Bとで、ハウジング12、シールカバー体18、保護管15の前端側部分(軸線方向XでのX1側部分)を上下から覆うように配置し、さらに、カバー上半体20Aの係止片21A-3,22A-3をカバー下半体20Bの被係止突起21B-3、22B-3とそれぞれ係合させて、カバー上半体20Aとカバー下半体20Bとを一体的に結合させる。その結果、ハウジング12、シールカバー体18そして保護管15の一部がコネクタカバー体20により覆われて保護されるとともに、ケーブル14が軸線方向Xからコネクタ幅方向YでのY1側へ変向した状態で保持される。
【0055】
このようにして得られたカバー付コネクタ1は、装置(図示せず)内の所定位置に配置されて使用される。カバー付コネクタ1が悪条件の環境下で使用された場合には、外部から不用意な力(外力)を受けやすい。カバー付コネクタ1においては、コネクタ周辺の機器との位置関係等に起因して、コネクタ10から延出するケーブル14が軸線方向Xからコネクタ幅方向YでのY1側へ屈曲変向して配索されており、コネクタカバー体20には、その湾曲部22に軸線方向Xの外力が作用することが多い。
【0056】
上記外力が軸線方向Xでコネクタカバー体20の湾曲部22に作用すると、コネクタカバー体20は、コネクタ高さ方向(Z軸方向)に見て、コネクタ幅方向Yで湾曲部22が変向している側(Y1側)とは反対側(Y2側)の位置を支点として、軸線方向X及びコネクタ幅方向Yを含む面内で回転する。その結果、コネクタカバー体20の窓部24の窓内縁部24A,24Bが、該窓部24に収容されているシールカバー体18の突部18Hに当接する。この窓内縁部24A,24Bと突部18Hとの当接力は、軸線方向Xの力(軸線方向力)のみならずモーメントも生じさせ、この軸線方向力及びモーメントがシールカバー体18に伝達される。
【0057】
シールカバー体18に伝達された上記モーメントは、コネクタ本体11の係止部12B-2とシールカバー体18の被係止部18F-1との係止部分、すなわちコネクタ幅方向Yでの両側に位置する二つの係止部分のうち、コネクタ幅方向YでY2側に位置する一方の係止部分を支点として、軸線方向X及びコネクタ幅方向Yの両方向を含む面内で回転するようにシールカバー体18を回転させようとする。上記モーメントは、カバー付コネクタ1をコネクタ高さ方向Zに見たときに、支点の位置から作用点の位置(窓内縁部24A,24Bと突部18Hとの当接位置)までの距離に上記当接力を乗じた大きさで生じる。その結果、コネクタ幅方向YでY1側に位置する他方の係止部分には、上記モーメント及び上記軸線方向力が係止力として作用する。
【0058】
このとき、軸線方向Xで湾曲部22に作用する外力が前方X1へ向けた力であれば、コネクタ本体11の係止部12B-2とシールカバー体18の被係止部18F-1との間での係止力が減少するだけであり、係止部12B-2及び被係止部18F-1に強度上の問題は生じにくい。一方、上記外力が後方X2へ向けた力であれば、係止部12B-2と被係止部18F-1との間での係止力が増大しやすくなる。
【0059】
上記外力が後方X2へ向けた力である場合、本実施形態では、上記作用点は、コネクタカバー体20の前窓内縁部24Aとシールカバー体18の突部18Hとの当接部分に位置する。したがって、上記外力は上記当接部分を作用点とするモーメントを生ずる。
【0060】
本実施形態では、前窓内縁部24Aには、コネクタ幅方向YにおいてY1側の端部を含む領域の部分が離間部24A-1として形成されているので、後方X2へ向けた上記外力を受けてコネクタカバー体20が回転したとき、前窓内縁部24Aは、離間部24A-1よりもY2側の位置で突部18Hに当接する。つまり、上記作用点はコネクタ幅方向Yで離間部24A-1よりも上記支点に寄って位置する。したがって、支点と作用点との距離が短くなり、モーメントもその分小さくなる。その結果、上記二つの係止部分のうちY2側に位置する上記他方の係止部分に作用する係止力が小さくなり、該係止部分が損傷しにくくなる。
【0061】
また、仮にコネクタカバー体20に作用する外力が過大であるときは、係止部12B-2と被係止部18F-1よりも先にコネクタカバー体20の方が損傷する。仮にコネクタカバー体20が損傷しても、コネクタカバー体20は容易に交換可能であるので、コネクタ本体11とシールカバー体18との係止部分が破損する場合と比べて、メンテナンスに係る手間が大幅に改善される。
【0062】
本実施形態では、前窓内縁部24Aの離間部24A-1は、前窓内縁部24AのY1側の端部位置から中央位置にわたる範囲に形成されている。したがって、既述の外力がコネクタカバー体20に作用した際、前窓内縁部24Aは、シールカバー体18の突部18Hに対して、該突部18Hにおけるコネクタ幅方向での中央位置付近に当接するようになる。この結果、二つの上記係止部分に作用する負荷がほぼ均等になりやすくなるので、より確実に上記係止部分の損傷を防止できる。また、上記二つの係止部分にかかる負荷が過大にならないのであれば、前窓内縁部24Aは、前窓内縁部24AのY1側の端部位置から中央位置にわたる範囲に限られず、窓部24のY1側の端部位置を含む範囲に形成されていればよい。
【0063】
本実施形態では、前窓内縁部24Aの離間部24A-1は、角形状の切欠部(凹部)をなしていることとしたが、離間部24A-1の形状は、これに限られず、例えば、窓部24のY1側の端部へ向かうにつれて、軸線方向Xにおけるシールカバー体18の突部18Hとの距離を大きくする直状あるいは湾曲状の傾斜縁をもって形成されていてもよい。
【符号の説明】
【0064】
1 カバー付コネクタ
10 コネクタ
11 コネクタ本体
12-1 嵌合部
12-2 ケーブル延出部
12B-2 係止部
17 後シール部材
18 シールカバー体
18H 突部
18F-1 被係止部
20 コネクタカバー体
24 窓部
24A 前窓内縁部
24B 後窓内縁部
22 湾曲部
X 軸線方向
Y コネクタ幅方向
Z コネクタ高さ方向