IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ セイコーエプソン株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-プリントヘッド 図1
  • 特許-プリントヘッド 図2
  • 特許-プリントヘッド 図3
  • 特許-プリントヘッド 図4
  • 特許-プリントヘッド 図5
  • 特許-プリントヘッド 図6
  • 特許-プリントヘッド 図7
  • 特許-プリントヘッド 図8
  • 特許-プリントヘッド 図9
  • 特許-プリントヘッド 図10
  • 特許-プリントヘッド 図11
  • 特許-プリントヘッド 図12
  • 特許-プリントヘッド 図13
  • 特許-プリントヘッド 図14
  • 特許-プリントヘッド 図15
  • 特許-プリントヘッド 図16
  • 特許-プリントヘッド 図17
  • 特許-プリントヘッド 図18
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-07
(45)【発行日】2024-05-15
(54)【発明の名称】プリントヘッド
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/14 20060101AFI20240508BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20240508BHJP
   B41J 2/16 20060101ALI20240508BHJP
   H05K 1/14 20060101ALN20240508BHJP
【FI】
B41J2/14 611
B41J2/14 301
B41J2/01 301
B41J2/01 451
B41J2/16 503
H05K1/14 E
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018015782
(22)【出願日】2018-01-31
(65)【公開番号】P2019130825
(43)【公開日】2019-08-08
【審査請求日】2020-12-09
【審判番号】
【審判請求日】2022-08-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003177
【氏名又は名称】弁理士法人旺知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 陽一郎
【合議体】
【審判長】殿川 雅也
【審判官】藤本 義仁
【審判官】門 良成
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-150844(JP,A)
【文献】特開2017-7119(JP,A)
【文献】特開2012-250492(JP,A)
【文献】特表2007-536741(JP,A)
【文献】国際公開第2016/072361(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出するために1インチ当たり300個以上の密度で並べられた600個以上の複数の圧電素子と、第1基板と、を有する駆動モジュールと、
第1基板と平行に配置された第2基板と、
前記第1基板と前記第2基板とを接続するフレキシブル配線基板と、
を備え、
前記フレキシブル配線基板は、
導電性金属と非導電性樹脂とが積層され、前記非導電性樹脂が一括して圧着された多層基板であり、
前記導電性金属と前記非導電性樹脂とが、接着剤を用いずに積層され、
前記液体は、反応性インクであり、
前記フレキシブル配線基板は、
一方の端部を折り曲げられた状態で前記第1基板と接続し、他方の端部を折り曲げられた状態で前記第2基板と接続し、前記第1基板と前記第2基板とを、前記第2基板に設けられたスルーホールを介して接続するものであって、
前記スルーホールにおいては折り曲げない
ことを特徴とするプリントヘッド。
【請求項2】
前記フレキシブル配線基板は、
前記非導電性樹脂が熱により圧着された多層基板である
ことを特徴とする請求項1に記載のプリントヘッド。
【請求項3】
前記フレキシブル配線基板は、複数回折り曲げられている
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のプリントヘッド。
【請求項4】
前記第1基板は温度センサーを備え、
前記フレキシブル配線基板は、
前記温度センサーの情報を前記第2基板へ伝達する
ことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のプリントヘッド。
【請求項5】
前記第2基板は前記圧電素子を駆動するための電力を供給し、
前記フレキシブル配線基板は前記電力を伝達する
ことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のプリントヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばプリントヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
インクを吐出して画像や文書等を印刷するインクジェットプリンターには、圧電素子(例えばピエゾ素子)を用いたものが知られている。圧電素子は、プリントヘッドにおいて複数のノズルのそれぞれに対応して設けられ、それぞれが駆動信号にしたがって駆動されることにより、ノズルから所定のタイミングで所定量の液体(インク)が吐出され、ドットが形成される。圧電素子は、電気的にみればキャパシターのような容量性負荷であるので、各ノズルの圧電素子を動作させるためには十分な電流を供給する必要がある。
特許文献1には、ノズルが1インチ当たり300個以上列状に並べられるとともに、これらのノズルの各々に対応して圧電素子が設けられたプリントヘッドが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5861815号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように、ノズル密度が高められたプリントヘッドにおいては、ノズルの高密度化に合わせて、圧電素子の各々に駆動信号を供給する配線を高密度化しなければならない、という課題がある。この課題は、特に、ノズルが1インチあたり300個以上列状に、1インチ以上の長さにわたって並んだプリントヘッドにおいて顕著となる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題の一つを解決するために、本発明の一態様に係るプリントヘッドは、液体を吐出するために1インチ当たり300個以上の密度で並べられた600個以上の複数の圧電素子と、第1基板と、を有する駆動モジュールと、第2基板と、前記第1基板と前記第2基板とを接続するフレキシブル配線基板と、を備え、前記フレキシブル配線基板は、導電性金属と非導電性樹脂とが積層され、前記非導電性樹脂が圧着された多層基板であることを特徴とする。
上記一態様に係るプリントヘッドでは、フレキシブル配線基板を折り曲げたときの反力が低減されるとともに、折り曲げたときの形状が保持されるので、高い精度で組み上げることができる。また、圧電素子へ供給される駆動信号の波形精度等を高めることができる。したがって、上記一態様に係るプリントヘッドによれば、配線の高密度化が容易となるので、圧電素子を1インチ当たり300個以上の密度で600個以上並べるような高密度化が容易となる。
【0006】
上記一態様に係るプリントヘッドにおいて、前記フレキシブル配線基板は、前記導電性金属と前記非導電性樹脂とが、接着剤を用いずに積層された構成が好ましい。この構成によれば、液体の吐出の影響による接着剤の劣化を抑えることができる。また、接着層が存在しないので、良好な高周波特性を確保できるとともに、薄型化、厚さの均一化が図られる。
【0007】
上記一態様に係るプリントヘッドにおいて、前記フレキシブル配線基板は、前記非導電性樹脂が熱により圧着された多層基板である構成が好ましい。この構成によれば、導電性金属の腐食や、吐出される液体によって及ぼされる影響が低減されるので、広い用途での利用が可能となる。
【0008】
上記一態様に係るプリントヘッドにおいて、前記液体は、反応性インクであることが好ましい。反応性インクの吐出に伴い生じるミストの影響をうけにくくなるので、様々な種類の反応性インクを用いることができる一方で、インクが吐出される対象の媒体として、様々な種類を用いることが可能となる。なお、反応性インクについて後述する。
【0009】
上記一態様に係るプリントヘッドにおいて、前記フレキシブル配線基板は、折り曲げられた状態で前記第1基板と前記第2基板とを接続する構成が好ましい。この構成によれば、従来のポリイミドを用いた一般的なフレキシブル配線基板に比べて薄く、折り曲げたときの反力を抑え、微細な折り癖を付けることができるので、プリントヘッドの集密度を高めることが可能となる。
【0010】
上記一態様に係るプリントヘッドにおいて、複数回折り曲げられる構成としてもよい。
この構成によれば、複数回の折り曲げ癖を容易につけることができる。このため、第1基板と第2基板とフレキシブル配線基板を介して立体的に接続することが容易となるのでプリントヘッドの集密度を高めることが可能となる。
【0011】
上記一態様に係るプリントヘッドにおいて、前記第1基板は温度センサーを備え、前記フレキシブル配線基板は、前記温度センサーの情報を前記第2基板へ伝達する構成が好ましい。この構成によれば、フレキシブル配線基板に生じるインダクタンス等の影響が低減されるので、温度センサーによって検出された温度情報を正確に伝達することが可能となる。
【0012】
上記一態様に係るプリントヘッドにおいて、前記第2基板は前記圧電素子を駆動するための電力を供給し、前記フレキシブル配線基板は前記電力を伝達する構成が好ましい。
一態様に係るプリントヘッドに適用されるフレキシブル配線基板では、従来のポリイミドを用いた配線基板に比較して、薄くすることができるとともに、折り曲げ等における反力が低減されるので、フレキシブル配線基板を折り曲げて用いる高密度のプリントヘッドを、高い精度で組み上げることが可能となる。さらに、フレキシブル配線基板での接合部における配線抵抗のばらつきが低減されるので、個々の圧電素子へ供給される電気信号の精度が高まり、高繊細の印字を行うことが可能となる。加えて、高密度のプリントヘッドにおいては、圧電素子が増加して、電流量も大きくなるが、配線数(導体断面積)を確保することできるので、大電流化の対応が容易となる。
【0013】
上記一態様に係るプリントヘッドにおいて、前記駆動モジュールは、前記圧電素子の各々に対応して設けられた圧力室とノズルとを含んだ吐出部を有し、前記圧力室では、前記圧電素子の駆動により圧力が変動し、前記ノズルは、シリコン結晶からなるノズルプレートに形成された開口部である構成としても良い。この構成によれば、ノズルの位置ズレが小さくなるので、プリントヘッドにおけるノズルの高密度化が可能となる。上記フレキシブル配線基板は、このように高密度化されたプリントヘッドにおいて特に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】第1実施形態に係る液体吐出装置の概略構成を示す平面図である。
図2】液体吐出装置の概略構成を示す側面図である。
図3】液体吐出装置におけるプリントヘッドのノズル面を平面図である。
図4】液体吐出装置の電気的な構成を示すブロック図である。
図5】プリントヘッドの構成を示す分解斜視図である。
図6】プリントヘッドにおける駆動モジュールの内部構造を示す断面図である。
図7】フレキシブル配線基板を示す斜視図である。
図8】フレキシブル配線基板における第1面を示す平面図である。
図9】フレキシブル配線基板における第2面を第1面から透視した平面図である。
図10】第1基板と第2基板とがフレキシブル配線基板で接続された状態を示す図である。
図11】実施形態におけるフレキシブル配線基板の構造等を示す断面図である。
図12】従来の配線基板の構造等を示す断面図である。
図13】応用例におけるフレキシブル配線基板の接続状態を示す図である。
図14】第2実施形態に係る液体吐出装置の構成を示す斜視図である。
図15】液体吐出装置におけるプリントヘッドの構成を示す斜視図である。
図16】プリントヘッドの構成を示す分解斜視図である。
図17】プリントヘッドにおける駆動モジュールの構成を示す分解斜視図である。
図18】駆動モジュールの内部構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。なお、各図において、各部の寸法および縮尺は、実際のものと異なる場合がある。また、以下に述べる実施の形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの形態に限られるものではない。
【0016】
図1は、第1実施形態に係る液体吐出装置1を模式的に示した平面図であり、図2は、液体吐出装置1の側面図である。
本実施形態に係る液体吐出装置1は、外部のホストコンピューターから供給された画像データに応じてインク(「液体」の一例である)を吐出させることによって、紙や捺染などの印刷媒体を搬送しつつ、インクドット群を形成し、これにより、当該画像データに応じた画像(文字、図形等を含む)を印刷する、いわゆるラインヘッド方式のインクジェットプリンターである。
【0017】
なお、液体吐出装置1の幅方向(図1において下から上へと向かう方向)を「X方向」と称し、第1従動ローラー43から第2搬送ローラー72へ向かう方向を「Y方向」と称する。また、X方向及びY方向の双方に交差し、液体吐出装置1の高さ方向(図1において紙面垂直方向)を「Z方向」と称する。
本実施形態では、X方向、Y方向及びZ方向は、互いに直交するものとするが、各構成の配置が必ずしも直交するものに限定されるものではない。
【0018】
液体吐出装置1は、複数のプリントヘッド32と、プリントヘッド32が搭載されたベース3と、インクを貯留したインクタンク等の液体貯留手段4と、第1搬送手段5と、第2搬送手段6と、装置本体(筐体)7と、を備えている。
なお、本実施形態では、インクとして、後述するような反応性インクを用いることもできる。
【0019】
プリントヘッド32は、図3に示されるように複数の駆動モジュール20(20-1~20-4)が、画像形成の対象である媒体Sの搬送方向と交差するX方向に並んでいる。なお、駆動モジュールについては、いずれかを特定して説明する場合には、符号20の後にハイフン付きの数字を付与し、いずれかを特定せずに一般化して説明する場合には、単に符号20と表記する。
【0020】
媒体Sは、典型的には用紙や、フィルム、布などである。また、各駆動モジュール20における媒体Sとの対向面であるZ方向には、駆動モジュール20に設けられたインクを吐出する多数のノズル122がX方向に所定の間隔おきに並んでいる。そして、後述するように、各ノズル122に対して、液体を吐出させるための圧電素子60(図4参照)が1つ設けられている。
特に、本実施形態における駆動モジュール20は、1インチ当たり300個以上の密度で並べられたノズル122(圧電素子60)を400個以上、本例では600個以上有している。詳細には、2列のノズル列の各列において1インチあたり300個以上の密度で1インチ以上の長さで設けられ、ノズル列の2列で計600個以上設けられる。
なお、このようにノズル列の各列にそれぞれ300個以上のノズル122(圧電素子60)が設けられてもよいし、駆動モジュール20が600個以上のノズル122(圧電素子60)が設けられた1列のノズルのみを有していてもよい。
【0021】
また、図3は、プリントヘッド32をZ方向から見たときの駆動モジュール20とノズル122の位置を仮想的に示している。Y方向で隣り合う駆動モジュール20(例えば、駆動モジュール20-1と駆動モジュール20-2)の端部のノズル122の位置は少なくとも一部が重複している。また、ノズル122は、媒体Sの方向Xにおける幅以上にわたってX方向に所定の間隔おきに並んでいる。すなわち、プリントヘッド32の下を停まることなく搬送される媒体Sに対して、プリントヘッド32がノズル122からインクを吐出することで、液体吐出装置1は、媒体Sに印刷を行う。
【0022】
なお、図3では、紙面の都合上、1個のプリントヘッド32に含まれる駆動モジュール20の個数を「4」(駆動モジュール20-1~20-4)としているが、この個数は「4」に限られるものではない。つまり、駆動モジュール20は4個より多くても少なくてもよい。また、図3の駆動モジュール20は、千鳥格子状に配置されているが、このような配置に限るものではない。
【0023】
図1および図2に戻り、ベース3は、Y方向に並設された2つのプリントヘッド32を保持している。
【0024】
液体貯留手段4は、プリントヘッド32にインクを供給する。本実施形態では、液体貯留手段4は、装置本体7に固定され、液体貯留手段4からチューブ等の供給管8を介してインクをプリントヘッド32に供給する。
第1搬送手段5は、プリントヘッド32のY方向の一方側に設けられている。第1搬送手段5は、第1搬送ローラー42と、第1搬送ローラー42に従動する第1従動ローラー43と、を備えている。第1搬送ローラー42は、媒体Sのインクが着弾する着弾面SP1とは反対側の裏面SP2側に設けられており、第1駆動モーター41によって駆動される。また、第1従動ローラー43は、媒体Sの着弾面SP1側に設けられており、第1搬送ローラー42との間で媒体Sを挟持する。このような第1従動ローラー43は、図示しないばね等の付勢部材によって媒体Sを第1搬送ローラー42側に向かって押圧している。
【0025】
第2搬送手段6は、第2駆動モーター71、第2搬送ローラー72、第2従動ローラー73、搬送ベルト74及びテンションローラー75を具備する。
第2搬送ローラー72は、第2駆動モーター71によって駆動される。搬送ベルト74は無端ベルトであり、第2搬送ローラー72と第2従動ローラー73との外周に掛けられている。このような搬送ベルト74は、媒体Sの裏面SP2側に設けられている。テンションローラー75は、第2搬送ローラー72と第2従動ローラー73との間に設けられて、搬送ベルト74の内周面に当接し、ばね等の付勢部材76の付勢力によって搬送ベルト74に張力を付与している。これにより、搬送ベルト74は、第2搬送ローラー72と第2従動ローラー73との間でプリントヘッド32に対向する面が平坦になっている。
【0026】
本実施形態の液体吐出装置1では、第1搬送手段5及び第2搬送手段6によって媒体Sが第2の方向Yに搬送される。そして、この搬送に合わせてプリントヘッド32からインクが吐出され、吐出されたインクが媒体Sの着弾面SP1に着弾することで、印刷が実行される。
【0027】
図4は、液体吐出装置1の電気的な構成を示すブロック図である。
なお、図4に示される液体吐出装置1はN個(Nは2以上の整数)のプリントヘッド32を有し、1個のプリントヘッド32はn個(nは2以上の整数)の駆動モジュール20を有するとして説明する。
【0028】
図4に示されるように、液体吐出装置1は、N個のプリントヘッド32と、各プリントヘッド32からの液体の吐出を制御する制御ユニット10と、制御ユニット10と各プリントヘッド32とを接続するn個のフレキシブルフラットケーブル190及びn個のフレキシブルフラットケーブル191とを備えている。
【0029】
制御ユニット10は、n個の吐出制御モジュール100を備えている。n個の吐出制御モジュール100は、それぞれ、制御信号生成部11と、制御信号変換部12と、制御信号送信部13と、駆動データ生成部14と、定電圧生成部15とを有する。
【0030】
制御信号生成部11は、ホストコンピューターから画像データ等の各種の信号が供給されたときに、各部を制御するための各種の制御信号等を出力する。
具体的には、制御信号生成部11は、ホストコンピューターからの各種の信号に基づき、吐出部600からの液体の吐出を制御する複数種類の原制御信号として、n個の原印刷データ信号sSI1~sSIn、n個の原ラッチ信号sLAT1~sLATn及びn個の原チェンジ信号sCH1~sCHnを生成し、パラレル形式で制御信号変換部12に出力する。なお、複数種類の原制御信号には、これら信号の一部が含まれていなくてもよいし、他の信号が含まれていてもよい。
【0031】
制御信号変換部12は、制御信号生成部11から出力される原印刷データ信号sSIi(iは1~nのいずれか)、原ラッチ信号sLATi、原チェンジ信号sCHiを、それぞれ1つのシリアル形式の原シリアル制御信号sSiに変換(シリアライズ)し、制御信号送信部13に出力する。
【0032】
制御信号送信部13は、制御信号変換部12から出力されるn個の原シリアル制御信号sS1~sSnをそれぞれ2つの信号で構成される差動信号dS1~dSnに変換し、差動信号dS1~dSnを、フレキシブルフラットケーブル191を介してプリントヘッド32に送信する。また、制御信号送信部13は、フレキシブルフラットケーブル191を介した差動信号dS1~dSnの高速シリアルデータ転送に用いられる差動クロック信号dClkを生成し、差動クロック信号dClkを、フレキシブルフラットケーブル191を介してプリントヘッド32に送信する。例えば、制御信号送信部13は、LVDS(Low Voltage Differential Signaling)転送方式の差動信号dS1~dSn及び差動クロック信号dClkを生成し、プリントヘッド32に送信する。LVDS転送方式の差動信号はその振幅が350mV程度であるため高速データ転送を実現することができる。なお、制御信号送信部13は、LVDS以外のLVPECL(Low Voltage Positive Emitter Coupled Logic)やCML(Current Mode Logic)等の各種の高速転送方式の差動信号dS1~dSn及び差動クロック信号dClkを生成し、プリントヘッド32に送信してもよい。
【0033】
駆動データ生成部14は、ホストコンピューターからの各種の信号に基づき、プリントヘッド32が備えるn個の駆動モジュール20(20-1~20-n)を駆動する駆動信号の元となるデジタルデータである2n個の駆動データdA1~dAn、dB1~dBnを生成する。
本実施形態では、駆動データdA1~dAn、dB1~dBnは、駆動信号の振幅を規定するデジタルデータである。ただし、駆動データdA1~dAn、dB1~dBnは、直近の駆動データに対する差分を示すデジタルデータであってもよいし、駆動波形において傾きが一定の各区間の長さとそれぞれの傾きとの対応関係を規定するデジタルデータであってもよい。
【0034】
n個の駆動回路50-a1~50-anは、それぞれ、駆動データ生成部14から出力される駆動データdA1~dAnに基づいて、プリントヘッド32が備える駆動モジュール20-1~20-nのそれぞれを駆動する駆動信号COM-A1~COM-Anを生成する。同様に、n個の駆動回路50-b1~50-bnは、それぞれ、駆動データ生成部14から出力される駆動データdB1~dBnに基づいて、駆動モジュール20-1~20-nのそれぞれを駆動する駆動信号COM-B1~COM-Bnを生成する。例えば、駆動回路50-a1~50-an、50-b1~50-bnは、それぞれ、駆動データdA1~dAn、dB1~dBnをアナログ変換した後にD級増幅して駆動信号COM-A1~COM-An、COM-B1~COM-Bnを生成してもよい。なお、2n個の駆動回路50(50-a1~50-an、50-b1~50-bn)は、入力される駆動データ、及び、出力する駆動信号が異なるのみであって、回路的な構成は同一であってもよい。
【0035】
定電圧生成部15は、一定電圧(例えば、42V)の高電源電圧信号HVDD、一定電圧(例えば、3.3V)の低電源電圧信号LVDD、一定電圧(例えば、6V)の基準電圧信号VBS及びグラウンド電圧(0V)のグラウンド電圧信号GNDを生成する。そして、制御信号生成部11、制御信号変換部12、制御信号送信部13及び駆動データ生成部14は、低電源電圧信号LVDD及びグラウンド電圧信号GNDの供給により動作する。また、駆動回路50-a1~50-anは、高電源電圧信号HVDD、低電源電圧信号LVDD、基準電圧信号VBS及びグラウンド電圧信号GNDの供給により動作する。
駆動信号COM-A1~COM-An、COM-B1~COM-Bn、高電源電圧信号HVDD、低電源電圧信号LVDD、基準電圧信号VBS及びグラウンド電圧信号GNDは、フレキシブルフラットケーブル190を介して、プリントヘッド32に転送される。
【0036】
なお、制御ユニット10は、上記の処理以外にも、第1駆動モーター41や第2駆動モーター71を駆動する処理を行う。これにより、媒体Sが所定の方向に搬送される。
【0037】
プリントヘッド32は、n個の駆動モジュール20(20-1~20-n)と、制御信号受信部24と、制御信号復元部25とを有する。制御信号受信部24及び制御信号復元部25は、低電源電圧信号LVDD及びグラウンド電圧信号GNDが供給されて動作する。
【0038】
制御信号受信部24は、制御信号送信部13から送信されたLVDS転送方式の差動信号dS1~dSnを受信し、受信した差動信号dS1~dSnをそれぞれ差動増幅してシリアル制御信号S1~Snに変換し、変換したシリアル制御信号S1~Snを制御信号復元部25に出力する。また、制御信号受信部24は、制御信号送信部13から送信されたLVDS転送方式の差動クロック信号dClkを受信し、受信した差動クロック信号dClkを差動増幅してクロック信号Clkに変換し、変換したクロック信号Clkを制御信号復元部25に出力する。
なお、制御信号受信部24は、LVDS以外のLVPECLやCML等の各種の高速転送方式の差動信号dS1~dSn及び差動クロック信号dClkを受信してもよい。
【0039】
制御信号復元部25は、制御信号受信部24が変換したシリアル制御信号S1~Snに基づいて、吐出部600からの液体の吐出を制御する複数種類の制御信号として、クロック信号Sck、n個の印刷データ信号SI1~SIn、n個のラッチ信号LAT1~LATn及びn個のチェンジ信号CH1~CHnを生成する。詳細には、制御信号復元部25は、制御信号受信部24から出力されるシリアル制御信号Si(iは1~nのいずれか)に含まれている原印刷データ信号sSIi、原ラッチ信号sLATi及び原チェンジ信号sCHiを復元(デシリアライズ)することにより、印刷データ信号SIi、ラッチ信号LATi及びチェンジ信号CHiを生成し、駆動モジュール20-iに出力する。また、制御信号復元部25は、制御信号受信部24から出力されるクロック信号Clkに対して所定の処理(例えば、所定の分周比で分周する処理)を行い、印刷データ信号SI1~SIn、ラッチ信号LAT1~LATn及びチェンジ信号CH1~CHnと同期したクロック信号Sckを生成し、n個の駆動モジュール20(20-1~20-n)に出力する。
【0040】
n個の駆動モジュール20(20-1~20-n)は、同じ構成であり、それぞれ、選択制御部220と、m個の選択部230と、m個の吐出部600とを有する。本実施形態では、mは600以上の整数である。選択制御部220は、低電源電圧信号LVDD及びグラウンド電圧信号GNDが供給されて動作する。また、選択部230は、高電源電圧信号HVDD及びグラウンド電圧信号GNDが供給されて動作する。
【0041】
駆動モジュール20-i(iは1~nのいずれか)において、選択制御部220は、選択部230のそれぞれに対して駆動信号COM-Ai、COM-Biのいずれを選択すべきか(または、いずれも非選択とすべきか)を、制御信号復元部25から出力されるクロック信号Sck、印刷データ信号SIi、ラッチ信号LATi及びチェンジ信号CHiによって指示する。
【0042】
選択部230のそれぞれは、選択制御部220の指示にしたがって、駆動信号COM-Ai、COM-Biを選択し、駆動信号Voutとして対応する吐出部600に出力し、吐出部600が有する圧電素子60の一端に印加される。また、すべての圧電素子60の他端には基準電圧信号VBSが共通に印加される。
圧電素子60は、吐出部600のそれぞれに対応して設けられており、駆動信号Vout(駆動信号COM-Ai、COM-Bi)が印加されることで変位する。そして、圧電素子60は、駆動信号Vout(駆動信号COM-Ai、COM-Bi)と基準電圧信号VBSとの電位差に応じて変位して液体(インク)を吐出させる。このように、駆動モジュール20-iは、圧電素子60の一端に駆動信号COM-Aiと駆動信号COM-Biとが排他的に選択されて印加され、圧電素子60の他端に基準電圧信号VBSが印加されて圧電素子60が駆動することにより、液体を吐出する。すなわち、駆動信号COM-Ai、COM-Biは、複数の圧電素子60のそれぞれを駆動して液体を吐出させるための信号である。
【0043】
なお、駆動信号COM-A1~COM-An、COM-B1~COM-Bnが、印刷データ信号SIi、ラッチ信号LATiおよびチェンジ信号CHiによって、圧電素子60の一端に、具体的にどのように印加されるかについては、本件の特徴ではないので、詳細については省略する。
【0044】
図5は、プリントヘッド32の構成を示す分解斜視図である。
図5に示されるように、プリントヘッド32は、液体としてインクを吐出するヘッド本体310と、ヘッド本体310に固定された流路部材370と、を備える。
【0045】
ヘッド本体310は、n個(ここでは4個)の駆動モジュール20と、n個の駆動モジュール20を保持するホルダー330と、ホルダー330に固定された第2基板340と、供給部材350と、複数の駆動モジュール20を固定する固定板360と、を備える。
【0046】
駆動モジュール20では、図3に示されるようにインクを吐出するノズル122がX方向に並設された列が、複数列、本実施形態では、2列設けられている。各駆動モジュール20のノズル122が設けられた面とはZ方向の反対側の面には、駆動モジュール20の内部に設けられた第1基板に接続されるフレキシブル配線基板400が導出されている。なお、第1基板の詳細については図6および図10において、また、フレキシブル配線基板400の詳細について図8乃至図11において、それぞれ後述する。
【0047】
ホルダー330は、Z方向の固定板360が設けられる側に、複数の駆動モジュール20を収容する不図示の収容部が設けられている。収容部は、Z方向の固定板360が設けられる側に開口する凹形状を有し、固定板360によって固定された複数の駆動モジュール20を収容し、さらに、収容部の開口は固定板360によって封止される。すなわち、収容部と固定板360とによって形成された空間の内部に駆動モジュール20が収容される。
【0048】
また、ホルダー330には、供給部材350から供給されたインクを駆動モジュール20に供給するための連通流路332が設けられている。連通流路332は、1つの駆動モジュール20に対して2つ設けられている。すなわち、1つの駆動モジュール20に設けられたノズル122の各列に対応して連通流路332が設けられている。
【0049】
さらに、ホルダー330には、収容部に設けられた駆動モジュール20と電気的に接続されるフレキシブル配線基板400を、Z方向の収容部が設けられた面と、Z方向の側において異なる面に挿通するための配線挿通孔333が設けられている。フレキシブル配線基板400は、ホルダー330の配線挿通孔333に挿通されることで、収容部と固定板360とによって形成された空間から導出される。
【0050】
ホルダー330のフレキシブル配線基板400が導出された側には、第2基板340が保持されている。第2基板340には、厚さ方向であるZ方向に貫通する駆動配線接続孔341を有し、フレキシブル配線基板400は、第2基板340の駆動配線接続孔341を挿通し、折り曲げられて、第2基板340と電気的に接続されている。
【0051】
また、第2基板340には、ホルダー330の連通流路332に対応した位置に挿入孔342が設けられている。挿入孔342は、供給部材350に設けられた突出部(不図示)を挿入する。突出部は、供給部材350とホルダー330の連通流路332とを接続することで、供給部材350からホルダー330にインクを供給する。
【0052】
さらに、第2基板340の、Y方向の両側のそれぞれに、制御信号コネクター280及び駆動信号コネクター290が設けられている。そして、第2基板340は、図4に示されるフレキシブルフラットケーブル190、191(図5では省略)を介して制御ユニット10と電気的に接続される。
第2基板340には、図4における制御信号受信部24および制御信号復元部25を含むIC(不図示)が搭載されており、制御信号コネクター280から入力されたシリアル制御信号S1~Sn及びクロック信号Clkは、第2基板340に設けられた配線を伝搬して当該ICの制御信号受信部24に入力される。また、当該ICの制御信号復元部25が復元した制御信号(クロック信号Sck、印刷データ信号SI1~SIn、ラッチ信号LAT1~LATn及びチェンジ信号CH1~CHn)は、第2基板340に設けられた配線を伝搬し、フレキシブル配線基板400を介して駆動モジュール20における第1基板に出力される。また、駆動信号コネクター290から入力された駆動信号COM-A1~COM-An、COM-B1~COM-Bn、高電源電圧信号HVDD、低電源電圧信号LVDD、基準電圧信号VBS及びグラウンド電圧信号GNDについても、第2基板340に設けられた配線を伝搬し、フレキシブル配線基板400を介して駆動モジュール20における第1基板に出力される。
【0053】
供給部材350は、ホルダー330とZ方向側で固定されている。また、供給部材350には、流路部材370から供給されたインクをホルダー330の連通流路332に供給するための、供給流路352が設けられている。供給流路352は、供給部材350のZ方向の両面に開口して設けられている。なお、供給流路352は、流路部材370の流路と、第2基板340の挿入孔342およびホルダー330の連通流路332との位置に応じてX方向又はY方向に延びる流路を有するものであってもよい。
【0054】
また、供給部材350には、制御信号コネクター280、駆動信号コネクター290のそれぞれに対応する位置にZ方向に貫通する貫通孔353が設けられている。すなわち、図4におけるフレキシブルフラットケーブル190、191は、図5における供給部材350の貫通孔353を挿通し、制御信号コネクター280、駆動信号コネクター290に接続される。
【0055】
ホルダー330の収容部の開口を塞ぐ固定板360には、各駆動モジュール20のノズル122を露出する開口部361が設けられている。本実施形態における開口部361は、駆動モジュール20毎に独立して設けられており、隣り合う駆動モジュール20の間は、固定板360によって封止されている。なお、固定板360は、開口部361の周縁部において、駆動モジュール20と固定されている。
【0056】
流路部材370は、Z方向の側においてヘッド本体310の供給部材350側に固定される。流路部材370は、複数のフィルターユニット390がY方向に積層されている。また、フィルターユニット390は、内部に複数の流路395が設けられており、インクに含まれる気泡や異物などを除去して、ヘッド本体310に設けられた供給部材350にインクを供給する。
【0057】
プリントヘッド32は、流路部材370から供給されたインクをヘッド本体310に設けられた供給流路352、連通流路332を介して駆動モジュール20に供給する。そして、前述の駆動信号COM-Ai、COM-Biに基づいて駆動モジュール20-iに設けられた圧電素子60を駆動することで、ノズル122からインクを吐出する。
【0058】
図6は、駆動モジュール20の内部構造を説明する断面図である。
図6に示されるように、駆動モジュール20は、電子デバイス114及び流路ユニット115が積層された状態でヘッドケース116に取り付けられている。
ヘッドケース116の内部には各圧力室(キャビティー)130にインクを供給するリザーバー118が形成されている。このリザーバー118は、複数並設された圧力室130に共通なインクが貯留される空間であり、2列に並設された圧力室130の列に対応して2つ形成されている。リザーバー118は、図5における連通流路332と連通しており、連通流路332を通ってリザーバー118にインクが供給される。また、ヘッドケース116の下面側には、連通基板124上に積層された電子デバイス114(駆動IC200、圧力室形成基板129、第1基板160等)が収容される収容空間117が形成されている。
【0059】
流路ユニット115は、連通基板124及びノズルプレート121を有している。この連通基板124には、リザーバー118と連通し、各圧力室130に共通なインクが貯留される共通液室125と、この共通液室125を介してリザーバー118からのインクを各圧力室130に個別に供給する個別連通路126とが形成されている。共通液室125は、ノズル列方向に沿った長尺な空部であり、2列に並設された圧力室130の列に対応して2列形成されている。個別連通路126は、共通液室125の薄板部において、圧力室130に対応して当該圧力室130の並設方向に沿って複数形成されている。この個別連通路126は、連通基板124と圧力室形成基板129とが接合された状態で、対応する圧力室130の長手方向における一側の端部と連通する。
【0060】
また、連通基板124の各ノズル122に対応する位置には、連通基板124の板厚方向を貫通したノズル連通路127が形成されている。すなわち、ノズル連通路127は、ノズル列に対応して当該ノズル列方向に沿って複数形成されている。このノズル連通路127によって、圧力室130とノズル122とが連通する。ノズル連通路127は、連通基板124と圧力室形成基板129とが接合された状態で、対応する圧力室130の長手方向における他側(個別連通路126とは反対側)の端部と連通する。
【0061】
ノズル122は、ノズルプレート121に形成された開口部である。ノズルプレート121は、連通基板124の下面(圧力室形成基板129とは反対側の面)に接合された基板である。ノズルプレート121は、シリコン単結晶、シリコン多結晶等のシリコン結晶を用いることが好ましい。これらの中でも、ノズルプレート121は、シリコン単結晶であることがより好ましい。ノズルプレート121がシリコン結晶からなる場合には、公知のエッチングプロセス(例えば、ウェットエッチングやドライエッチング)によって、精度良い加工が可能であり、これらの組み合わせによってノズル122が形成される。シリコン結晶からなるノズルプレート121では、パンチング等によってノズル122が形成された場合と比較して、ノズル122をより高密度(例えば、ノズル密度が1インチ当たり300個以上)に形成できる。
なお、シリコン結晶からなるノズルプレート121では、インクの吐出性能を高めるために、ノズルの開口径を段階的に変化させることが容易となる。
【0062】
このノズルプレート121により、共通液室125となる空間の下面側の開口が封止されている。また、ノズルプレート121には、複数のノズル122が直線状(列状)に開設されており、2列に形成された圧力室130の列に対応して、ノズル列が2列形成されている。この並設された複数のノズル122(ノズル列)は、一端側のノズル122から他端側のノズル122までドット形成密度に対応したピッチで、例えば1インチ当たり300個以上の密度に対応したピッチで、X方向に沿ってほぼ等間隔に設けられている。
【0063】
電子デバイス114は、各圧力室130内のインクに圧力変動を生じさせるアクチュエーターとして機能する薄板状のデバイスである。この電子デバイス114は、圧力室形成基板129、振動板131、圧電素子60、第1基板160及び駆動IC200が積層されてユニット化されている。駆動IC200には、選択制御部220とm個の選択部230(図4参照)が含まれている。
【0064】
圧力室形成基板129には、圧力室130となるべき空間がノズル列方向に沿って複数並設されている。この空間は、下方が連通基板124により区画され、上方が振動板131により区画されて、圧力室130を構成する。この圧力室130は、2列に形成されたノズル列に対応して2列に形成されている。各圧力室130は、ノズル列方向に直交する方向に長尺な空部であり、長手方向の一側の端部に個別連通路126が連通するとともに、他側の端部にノズル連通路127が連通する。
【0065】
振動板131は、弾性を有する薄膜状の部材であり、圧力室形成基板129の上面(連通基板124側とは反対側の面)に積層されている。この振動板131によって、圧力室130となるべき空間の上部開口が封止されている。この振動板131における圧力室130の上部開口に対応する部分は、圧電素子60の撓み変形に伴ってノズル122から遠ざかる方向あるいは近接する方向に変位する変位部として機能する。すなわち、振動板131における圧力室130の上部開口に対応する領域が、撓み変形が許容される駆動領域135となる。一方、振動板131における圧力室130の上部開口から外れた領域が、撓み変形が阻害される非駆動領域136となる。
【0066】
駆動領域135には、圧電素子60がそれぞれ積層されている。各圧電素子60は、ノズル列方向に沿って2列に並設された圧力室130に対応して、当該ノズル列方向に沿って2列に形成されている。圧電素子60は、例えば、振動板131上に、下電極137(個別電極)、圧電体層138及び上電極139(共通電極)が順次積層されてなる。このように構成された圧電素子60において、個別電極である下電極137に駆動信号Voutが供給され、共通電極である上電極139に基準電圧信号VBSが供給されることによって、下電極137と上電極139との間に両電極の電位差に応じた電界が付与されると、ノズル122から遠ざかる方向あるいは近接する方向に撓み変形する。
【0067】
下電極137の他側(圧電素子60の長手方向における外側)の端部は、駆動領域135から圧電体層138が積層された領域を超えて、非駆動領域136まで延設されている。一方、上電極139の一側(圧電素子60の長手方向における内側)の端部は、駆動領域135から圧電体層138が積層された領域を超えて、圧電素子60の列間における非駆動領域136まで延設されている。
【0068】
第1基板160は、振動板131(または圧電素子60)に対して間隔を開けて配置された平板状の基板である。第1基板160は、各種の信号を中継する中継基板として機能するとともに、振動板131(または圧電素子60)を保護する保護基板として機能する。この第1基板160の振動板131側の面である第1の面141(下面)とは反対側の第2の面142(上面)には、圧電素子60を駆動する駆動IC200が配置されている。すなわち、第1基板160の第1の面141には、圧電素子60が積層された振動板131が接続され、第2の面142には、駆動IC200が接続されている。
【0069】
第1基板160の第1の面141には、駆動IC200からの駆動信号を圧電素子60側に出力する複数のバンプ電極140が形成されている。このバンプ電極140は、一方の圧電素子60の外側まで延設された一方の下電極137(個別電極)に対応する位置、他方の圧電素子60の外側まで延設された他方の下電極137(個別電極)に対応する位置、及び、両方の圧電素子60の列間に形成された複数の圧電素子60に共通の上電極139(共通電極)に対応する位置に、それぞれノズル列方向に沿って複数形成されている。そして、各バンプ電極140は、それぞれ対応する下電極137及び上電極139に接続されている。
【0070】
バンプ電極140は、少なくとも一部が、弾性を有する樹脂層148の表面に設けられている。この樹脂層148は、第1基板160の第1の面141においてノズル列方向に沿って突条に形成されている。下電極137(個別電極)に導通するバンプ電極140は、ノズル列方向に沿って並設された圧電素子60に対応して、当該ノズル列方向に沿って複数形成されている。各バンプ電極140は、樹脂層148上から圧電素子60側又は圧電素子60側とは反対側の何れか一方に延びて、下面側配線147となる。そして、下面側配線147のバンプ電極140とは反対側の端部は、貫通配線145に接続されている。
【0071】
上電極139に対応するバンプ電極140は、ノズル列方向に沿って、第1基板160の第1の面141に埋め込まれた下面側埋設配線151上に複数形成されている。そして、バンプ電極140は、この樹脂層148上から当該樹脂層148の幅方向の両側にはみ出て下面側配線147となり、下面側埋設配線151と導通するように形成されている。このバンプ電極140は、ノズル列方向に沿って複数形成されている。
【0072】
このような第1基板160と圧力室形成基板129とは、バンプ電極140を介在させた状態で、感光性接着剤143により接合されている。この感光性接着剤143は、ノズル列方向に対して直交する方向における各バンプ電極140の両側に形成されている。また、各感光性接着剤143は、バンプ電極140に対して離間した状態でノズル列方向に沿って帯状に形成されている。
【0073】
第1基板160の第2の面142には、ノズル列方向に延びる複数の上面側埋設配線150が形成されている。上面側埋設配線150には、フレキシブル配線基板400(図5参照)から、各種の定電圧信号(高電源電圧信号HVDD、低電源電圧信号LVDD、グラウンド電圧信号GND、基準電圧信号VBS)及び駆動信号COM-Ai、COM-Biが供給される。各上面側埋設配線150上には、ノズル列方向に沿って複数のバンプ電極156が形成されている。バンプ電極156は、少なくとも一部が、弾性を有する樹脂層146の表面に設けられている。この樹脂層146は、第1基板160の第2の面142においてノズル列方向に沿って突条に形成されている。各バンプ電極156は、駆動IC200の端子(不図示)を介して、駆動IC200の内部の配線(不図示)と導通する。なお、第1基板160の第2の面142には、フレキシブル配線基板400から各種の制御信号(クロック信号Sck1~CHn)が供給される複数の配線(不図示)も形成されており、この複数の配線も駆動IC200の端子を介して、駆動IC200の内部の配線と導通する。
【0074】
さらに、第1基板160の第2の面142における両端側の領域には、駆動IC200からの出力信号(駆動信号)が入力されるバンプ電極157が形成されている。バンプ電極157は、少なくとも一部が、弾性を有する樹脂層154の表面に設けられている。この樹脂層154は、第1基板160の第2の面142においてノズル列方向に沿って突条に形成されている。そして、バンプ電極157は、貫通配線145を介して、対応する下面側配線147と接続されている。
【0075】
貫通配線145は、第1基板160の第1の面141と第2の面142との間を中継する配線である。この貫通配線145により、バンプ電極157と、これに対応するバンプ電極140から延設された下面側配線147とが電気的に接続され、駆動IC200からの駆動信号が圧力室形成基板129へと伝達する。このように、第1基板160は、駆動IC200からの駆動信号を圧力室形成基板129へ中継する中継基板として機能する。
【0076】
駆動IC200は、圧電素子60を駆動するためのICチップであり、接着剤159を介して第1基板160の第2の面142上に積層されている。この駆動IC200の第1基板160側の面には、各バンプ電極156と接続される入力端子(不図示)が複数形成されており、各入力端子には、第1基板160に設けられた上面側埋設配線150からバンプ電極156を介して各種の定電圧信号及び駆動信号COM-Ai、COM-Biが伝達し、あるいは、不図示の複数の配線から各種の制御信号が伝達する。また、駆動IC200の第1基板160側の面には、各バンプ電極157と接続される出力端子(不図示)が複数形成されており、各出力端子からの信号(各圧電素子60を駆動する個別の駆動信号)が各バンプ電極157に伝達する。
【0077】
この駆動IC200は、ノズル列方向に長尺なチップであり、例えば、各入力端子に伝達した駆動信号COM-Ai、COM-Biは、駆動IC200の内部の、厚みや幅が小さくかつ非常に長い配線を伝達し、各圧電素子60を駆動する個別の駆動信号Voutを出力する各選択部230(図4参照)に供給されることになる。そのため、駆動IC200の各内部配線の両端間の抵抗値が非常に大きく、各内部配線を伝達する駆動信号COM-Ai、COM-Biは、配線抵抗による電圧降下の影響を受けて減衰(電圧レベルが低下)し、その結果、末端に近い選択部230ほど誤動作しやすくなる。そこで、駆動IC200の内部配線よりも厚みや幅が十分大きい上面側埋設配線150が、駆動IC200の各内部配線の補強配線としても利用されている。すなわち、各上面側埋設配線150は、駆動IC200の各内部配線と並行して設けられており、各信号は、各上面側埋設配線150及び各上面側埋設配線150上にノズル列方向に沿って形成された複数のバンプ電極156を介して、駆動IC200の各入力端子に伝達するようになっている。これにより、例えば、各選択部230に供給される駆動信号COM-Ai、COM-Biの電圧降下が低減され、駆動IC200の末端に近い選択部230も誤動作しにくくなっている。
【0078】
バンプ電極157は、2列に並設された圧電素子60の列に対応して、バンプ電極156の両側に2列形成されており、バンプ電極157の列内において、隣り合うバンプ電極157の中心間距離(すなわち、ピッチ)(駆動IC200の出力端子のピッチ)は、バンプ電極140のピッチ(ノズル122のピッチ)よりも小さく形成されている。すなわち、第1基板160は、駆動IC200の出力端子のピッチとノズル122のピッチとの差を吸収する役割も果たしており、これにより、駆動IC200を小型化することができる。
【0079】
そして、上記のように形成された駆動モジュール20は、液体貯留手段4からのインクをインク導入路、リザーバー118、共通液室125及び個別連通路126を介して圧力室130に導入する。この状態で、駆動IC200からの駆動信号を、第1基板160に形成された各配線を介して圧電素子60に供給することで、圧電素子60を駆動させて圧力室130に圧力変動を生じさせる。この圧力変動を利用することで、駆動モジュール20は、ノズル連通路127を介してノズル122からインクを吐出させる。
【0080】
なお、図4における吐出部600は、図6における圧電素子60と、振動板131と、圧力室130と、個別連通路126と、ノズル連通路127と、ノズル122とにより構成される。
【0081】
次に、図7乃至図10を参照してフレキシブル配線基板400の構成について説明する。図7は、フレキシブル配線基板400の斜視図である。図8は、フレキシブル配線基板400の第1面400aの平面図である。また、図9は、フレキシブル配線基板400の第2面400bを第1面400a側から透視した平面図である。また、図10は、フレキシブル配線基板400とプリントヘッド32の第2基板340(図5参照)及び駆動モジュール20の第1基板160(図6参照)とが接続された状態を示す図である。
【0082】
図7に示されるように、フレキシブル配線基板400は、高い可撓性を有し、容易に折り曲げられるとともに、折り曲げられた形状を保持できる。フレキシブル配線基板400には、後述するように基材として例えば液晶ポリマーが用いられ、第1面400aと第2面400bとの両面に配線が設けられた両面基板である。
なお、図7では省略されているが、フレキシブル配線基板400は、第1面400aと第2面400bとを電気的に接続するスルーホール(ビア)を有しており、第1面400aに設けられた一部の配線と第2面400bに設けられた一部の配線とはスルーホールを介して電気的に接続されている。このように、フレキシブル配線基板400は両面に配線が設けられることにより、片面配線の基板よりも小さなサイズにすることが可能であり、プリントヘッド32の小型化に有利となっている。
【0083】
また、図7では視認できないが、第1面400aには、図8に示されるように入力端子群410及び出力端子群420が設けられており、第1面400a側が第2基板340及び駆動モジュール20の第1基板160と接続される。
【0084】
図8に示されるように、フレキシブル配線基板400の平面視において、フレキシブル配線基板400の第1面400aには、フレキシブル配線基板400の長辺Q2に沿って入力端子群410が設けられている。入力端子群410は、高電源電圧信号HVDDが入力される入力端子411a、411bと、基準電圧信号VBSが入力される入力端子412a、412bと、駆動信号COM-Ai(iは1~nのいずれか)が入力される入力端子413a、413bと、駆動信号COM-Biが入力される入力端子414a、414bと、グラウンド電圧信号GNDが入力される入力端子415とを含む。また、入力端子群410は、各種の制御信号(クロック信号Sck、印刷データ信号SI1~SIn、ラッチ信号LAT1~LATn及びチェンジ信号CH1~CHn)が入力される入力端子416と、低電源電圧信号LVDDが入力される入力端子417とを含む。入力端子群410に含まれる各入力端子は、第1面400aの領域R1において、第2基板340に設けられている各出力端子(不図示)と接続される(図10参照)。
【0085】
また、図8に示されるように、フレキシブル配線基板400の第1面400aには、高電源電圧信号HVDDを転送する高電源電圧信号転送配線431a、431bと、基準電圧信号VBSを転送する基準電圧信号転送配線432a、432bと、駆動信号COM-Aiを転送する第1駆動信号転送配線433a、433bと、駆動信号COM-Biを転送する第2駆動信号転送配線434a、434bとが設けられている。また、フレキシブル配線基板400の第1面400aには、グラウンド電圧信号GNDを転送するグラウンド電圧信号転送配線435と、各種の制御信号を転送する制御信号転送配線436と、低電源電圧信号LVDDを転送する低電源電圧信号転送配線437とが設けられている。
【0086】
高電源電圧信号転送配線431aは入力端子411aと電気的に接続され、高電源電圧信号転送配線431bは入力端子411bと電気的に接続されている。基準電圧信号転送配線432aは入力端子412aと電気的に接続され、基準電圧信号転送配線432bは入力端子412bと電気的に接続されている。第1駆動信号転送配線433aは入力端子413aと電気的に接続され、第1駆動信号転送配線433bは入力端子413bと電気的に接続されている。第2駆動信号転送配線434aは入力端子414aと電気的に接続され、第2駆動信号転送配線434bは入力端子414bと電気的に接続されている。グラウンド電圧信号転送配線435は入力端子415と電気的に接続され、制御信号転送配線436は入力端子416と電気的に接続され、低電源電圧信号転送配線437は入力端子417と電気的に接続されている。
【0087】
また、図8に示されるように、フレキシブル配線基板400の平面視において、フレキシブル配線基板400の第1面400aには、入力端子群410が設けられている長辺Q2とは異なる短辺P2に沿って出力端子群420が設けられている。すなわち、入力端子群410と出力端子群420とは、フレキシブル配線基板400の同じ面に配置されている。出力端子群420は、高電源電圧信号HVDDを出力する出力端子421a、421bと、基準電圧信号VBSを出力する出力端子422a、422bと、駆動信号COM-Aiを出力する出力端子423a、423bと、駆動信号COM-Biを出力する出力端子424a、424bと、グラウンド電圧信号GNDを出力する出力端子425とを含む。また、出力端子群420は、各種の制御信号(クロック信号Sck、印刷データ信号SI1~SIn、ラッチ信号LAT1~LATn及びチェンジ信号CH1~CHn)を出力する出力端子426と、低電源電圧信号LVDDを出力する出力端子427とを含む。出力端子群420に含まれる各出力端子は、第1面400aの領域R2において、駆動モジュール20の第1基板160に設けられている各入力端子(不図示)と接続される(図10参照)。
【0088】
このように、入力端子群410と出力端子群420とは、フレキシブル配線基板400の同じ面に配置されていることにより、第2基板340と第1基板160とが積層されているプリントヘッド32において、入力端子群410と第2基板340とが接続され、かつ、出力端子群420と第1基板160とが接続されるので、接続に必要な空間が小さくなり、フレキシブル配線基板400のサイズが小さくなる。これにより、プリントヘッド32の小型化が実現される。
【0089】
出力端子421aは、高電源電圧信号転送配線431aと電気的に接続され、駆動モジュール20に高電源電圧信号HVDDを出力する。また、出力端子421bは、高電源電圧信号転送配線431bと電気的に接続され、駆動モジュール20に高電源電圧信号HVDDを出力する。出力端子422aは、基準電圧信号転送配線432aと電気的に接続され、駆動モジュール20に基準電圧信号VBSを出力する。また、出力端子422bは、基準電圧信号転送配線432bと電気的に接続され、駆動モジュール20に基準電圧信号VBSを出力する。出力端子423aは、第1駆動信号転送配線433aと電気的に接続され、駆動モジュール20に駆動信号COM-Aiを出力する。また、出力端子423bは、第1駆動信号転送配線433bと電気的に接続され、駆動モジュール20に駆動信号COM-Aiを出力する。出力端子424aは、第2駆動信号転送配線434aと電気的に接続され、駆動モジュール20に駆動信号COM-Biを出力する。また、出力端子424bは、第2駆動信号転送配線434bと電気的に接続され、駆動モジュール20に駆動信号COM-Biを出力する。出力端子425は、グラウンド電圧信号転送配線435と電気的に接続され、駆動モジュール20にグラウンド電圧信号GNDを出力する。出力端子426は、制御信号転送配線436と電気的に接続され、駆動モジュール20に各種の制御信号を出力する。出力端子427は、低電源電圧信号転送配線437と電気的に接続され、駆動モジュール20に低電源電圧信号LVDDを出力する。
【0090】
出力端子421aから出力される高電源電圧信号HVDD、出力端子423aから出力される駆動信号COM-Ai及び出力端子424aから出力される駆動信号COM-Biは、駆動モジュール20が備える2列のノズル列のうちの一方(第1ノズル列)に含まれる各ノズル(吐出部600)に対応する選択部230に供給される。また、出力端子421bから出力される高電源電圧信号HVDD、出力端子423bから出力される駆動信号COM-Ai及び出力端子424bから出力される駆動信号COM-Biは、駆動モジュール20が備える2列のノズル列のうちの他方(第2ノズル列)に含まれる各ノズル(吐出部600)に対応する選択部230に供給される。すなわち、出力端子423a、424aは、第1ノズル列に対応して設けられた各吐出部600が有する圧電素子60の一端と電気的に接続され、出力端子423b、424bは、第2ノズル列に対応して設けられた各吐出部600が有する圧電素子60の一端と電気的に接続される。
【0091】
出力端子422aから出力される基準電圧信号VBSは、第1ノズル列に含まれる各ノズルから液体を吐出させる吐出部600に供給される。また、出力端子422bから出力される基準電圧信号VBSは、第2ノズル列に含まれる各ノズルから液体を吐出させる吐出部600に供給される。すなわち、出力端子422aは、第1ノズル列に対応して設けられた各吐出部600が有する圧電素子60の他端と電気的に接続され、出力端子422bは、第2ノズル列に対応して設けられた各吐出部600が有する圧電素子60の他端と電気的に接続される。
【0092】
出力端子425から出力されるグラウンド電圧信号GND、出力端子426から出力される各種の制御信号及び出力端子427から出力される低電源電圧信号LVDDはすべての選択制御部220に共通に供給される。
【0093】
各転送配線は、例えば、銅メッキにより形成された配線(銅メッキ配線)であり、レジスト(保護膜)で覆われている。また、入力端子群410に含まれる各入力端子及び出力端子群420に含まれる各入力端子は、レジストで覆われておらず、例えば、銅メッキにより形成された転送配線の一部がさらに金メッキされることにより形成されている。このように、各転送配線、各入力端子及び各出力端子は、ニッケルのような硬い金属を材料としていないため、高い可撓性を有しており、第2基板340と駆動モジュール20とを省スペースで接続することに貢献している。
【0094】
図9に示されるように、フレキシブル配線基板400の第2面400bには、駆動信号COM-Aiを転送する第1駆動信号転送配線433a、433bと、駆動信号COM-Biを転送する第2駆動信号転送配線434a、434bと、グラウンド電圧信号GNDを転送するグラウンド電圧信号転送配線435と、低電源電圧信号LVDDを転送する低電源電圧信号転送配線437とが設けられている。
【0095】
第2面400bに設けられた第1駆動信号転送配線433a、433bは、第1面400aに設けられた第1駆動信号転送配線433a、433bと、それぞれ、スルーホール443a、443bを介して接続されている。したがって、第2面400bに設けられた第1駆動信号転送配線433aと第1面400aに設けられた入力端子413a及び出力端子423aとはスルーホール443aを介して電気的に接続され、第2面400bに設けられた第1駆動信号転送配線433bと第1面400aに設けられた入力端子413b及び出力端子423bとはスルーホール443bを介して電気的に接続されている。同様に、第2面400bに設けられた第2駆動信号転送配線434a、434bは、第1面400aに設けられた第2駆動信号転送配線434a、434bと、それぞれ、スルーホール444a、444bを介して接続されている。したがって、第2面400bに設けられた第2駆動信号転送配線434aと第1面400aに設けられた入力端子414a及び出力端子424aとはスルーホール444aを介して電気的に接続され、第2面400bに設けられた第2駆動信号転送配線434bと第1面400aに設けられた入力端子414b及び出力端子424bとはスルーホール444bを介して電気的に接続されている。
同様に、第2面400bに設けられたグラウンド電圧信号転送配線435及び低電源電圧信号転送配線437は、第1面400aに設けられたグラウンド電圧信号転送配線435及び低電源電圧信号転送配線437と、それぞれ、スルーホール445、447を介して接続されている。したがって、第2面400bに設けられたグラウンド電圧信号転送配線435と第1面400aに設けられた入力端子415及び出力端子425とはスルーホール445を介して電気的に接続され、第2面400bに設けられた低電源電圧信号転送配線437と第1面400aに設けられた入力端子417及び出力端子427とはスルーホール447を介して電気的に接続されている。
【0096】
図8及び図9に示されるように、スルーホール443aは入力端子413a又は出力端子423aの近傍に設けられ、スルーホール443bは入力端子413b又は出力端子423bの近傍に設けられている。
同様に、スルーホール444aは入力端子414a又は出力端子424aの近傍に設けられ、スルーホール444bは入力端子414b又は出力端子424bの近傍に設けられている。同様に、スルーホール445は入力端子415又は出力端子425の近傍に設けられ、スルーホール447は入力端子417又は出力端子427の近傍に設けられている。すなわち、各スルーホールは、入力端子群410又は出力端子群420の近傍に設けられ、フレキシブル配線基板400の中央付近には設けられていない。これにより、フレキシブル配線基板400の第2面400bに設けられる第1駆動信号転送配線433a、433b、第2駆動信号転送配線434a、434b、グラウンド電圧信号転送配線435及び低電源電圧信号転送配線437のそれぞれの面積が大きくなり、これらの各転送配線の配線インピーダンスが低減される。
【0097】
図10に示されるように、フレキシブル配線基板400では、入力端子群410が第2基板340に接続されるとともに、出力端子群420が第1基板160と接続された状態において、入力端子群410及び出力端子群420がそれぞれ接続される領域R1、R2(図8参照)に近い部分が折れ曲がっている。本実施形態では、フレキシブル配線基板400に設けられている各スルーホールは、フレキシブル配線基板400の折れ曲がっていない領域(図10において破線で示される領域)に設けられているので、各スルーホールに対して、折れ曲がりに起因する外的負荷が掛からない。したがって、各スルーホールにおける導体の断線や短絡等の導通不良が生じることによる吐出不良等の故障が生じるおそれが低減される。
【0098】
また、上述したように、本実施形態に適用されるフレキシブル基板400は、折り曲げられても、復元せずに、その折り曲げの形状を保持する。このため、微細な折り曲げ状態が保持された状態で、フレキシブル配線基板400を第1基板160および第2基板340にそれぞれ接合することができるので、高い精度で組み上げることができる。
特に、本実施形態に適用されるフレキシブル基板400では、図10に示されるように、第1基板160との接続部分付近と、第2基板340との接続部分付近との2箇所で折り曲げられるので、立体的な接続が容易となり、プリントヘッド32の集密度を高めることができる。なお、折り曲げ箇所は、「2」以外であってもよい。
【0099】
図11は、フレキシブル配線基板400の構造等について製造行程を含めて示す断面図である。本実施形態に適用されるフレキシブル配線基板400は、図11の(a)および(b)に示されるようにして製造される。具体的には、図11の(a)に示されるように、基材472と、基材472に一方の面にパターニングされた配線474とが複数枚重ねた状態で、一括してプレス(熱圧着)される。このプレスにより(b)に示されるように、基材472と配線474とが交互に重ねられた構造となる。フレキシブル配線基板400における基材(「非導電性樹脂」の一例)472には、誘電率が低く、誘電正接も低い非導電性の樹脂シートが用いられる。なお、このような基材472としては、例えば液晶ポリマーが好適である。また、配線(「導電性金属」の一例)474は、基材472における面に形成された銅などの導電層を例えばフォトリソグラフィを用いてエッチングしたものである。
【0100】
本実施形態に適用されるフレキシブル配線基板400では、製造工程において、薬品等を用いずに熱圧着によって積層されるので、配線474の腐食や、吐出されるインク等による影響を受けにくくすることができる。
【0101】
図12は、基材482にポリイミドを用いた従来の配線基板480の構造等について製造行程を含めて示す断面図である。従来の配線基板480は、図12の(a)、(b)および(c)に示されるようにして製造される。具体的には、図12の(a)に示されるように、一方の面に配線474がパターニングされ、他方の面に接着剤を含む接着層486が設けられた基材482を、複数枚重ねて接着する(一次積層)。次に、図12の(b)に示されるように、このような積層が必要な枚数となるまで、複数回繰り返される(二次積層)。
これにより、従来の配線基板480の構造は、図12の(c)に示されるように、基材482と配線474とは、接着層486を介在させて積層された構造となる。
【0102】
従来の配線基板480では、基材482と配線474との間に接着層486が存在するので、その分、厚みが増すとともに、高周波特性を悪化させる。また、従来の配線基板480では、プレスが不均一であると、接着層486の厚みにバラツキが生じてしまう場合もある。さらに、従来の配線基板480では、接着層486がインクの吐出により生じるインクミストの影響を受けやすいという欠点もある。
【0103】
これに対して、本実施形態に適用されるフレキシブル配線基板400には、従来の配線基板480のような接着層486が存在しないので、薄型化、厚さの均一化が図られる、高周波特性が良好となる、インクミストの影響を受けにくくなる、という利点がある。
薄型化が図られる、という点は、逆にいえば、配線層の厚みをそれだけ確保することができる、ということに繋がる。ノズル122が高密度で並べられたプリントヘッド32においては、吐出部600の増加に比して圧電素子60も増えるので、プリントヘッド32の第1基板160に供給する駆動信号COM-Ai、COM-Biの電流量(電力)も増加する。配線層に厚みがないと、配線抵抗が大きくなり、損失が発生しまうが、本実施形態に適用されるフレキシブル配線基板400では、配線層の厚み(導体断面積)が確保できるので、配線抵抗を小さく抑えることができる。
また、厚さの均一化が図られる、という点は、第1基板160および第2基板340の配線抵抗、特に接合部での配線抵抗のばらつきを低減することができる。このため、個々の圧電素子60に供給される駆動信号のバラツキが低減される結果、精度が高まるので、高精細な印刷が可能となる。
高周波特性が良好となる、という点について詳述すれば、各圧電素子60に供給される駆動信号の波形精度が高まる結果、高精細の印刷が可能となる。
インクミストの影響を受けにくくなる、という点について詳述すれば、本実施形態では、インクとして、様々な反応性インクを用いることができる。ここで、反応性インクとは、媒体Sが塩化ビニールやポリエチレンなどのようにインク受容層を有さない場合に、インク自体に媒体Sを溶かす成分を混ぜ込んで、媒体Sと反応させることでインクに含まれる色材を定着させるインクをいう。従来の接着層486を有する配線基板480を用いた場合、吐出に伴い生じるインクミストの影響で接着剤が溶解して接着面が剥離してしまう等の弊害があるが、本実施形態に適用されるフレキシブル配線基板400には、接着層(接着剤)が含まれないので、従来の配線基板480を用いた場合と比較して、幅広い反応性インクを用い、幅広い種類の媒体Sに対する印刷が可能となる。
【0104】
なお、図5、および、図7乃至図10に示されるフレキシブル配線基板400は、第1面400aと第2面400bとの両面に配線が設けられた両面基板であるが、折り曲げられた状態を保持するという効果を得ることができる。また、フレキシブル配線基板400の配線層が3層以上となる場合には、接着層がないことによる効果を享受できる。
【0105】
図13は、フレキシブル基板400の応用例を示す図である。
図13においては、フレキシブル配線基板400において、入力端子群410が第2基板340に接続され、出力端子群420が第1基板160と接続された点については、図10と同様であるが、第1基板160に温度センサーTMが実装されている点において図10と異なる。温度センサーTMは、例えば温度変化によって内部抵抗値が変化するサーミスタであり、第1基板160の周辺温度を、具体的には、吐出部600(特に圧電素子60、圧力室130に充填されたインク)近傍の温度を検出する。
温度センサーTMの出力信号は、第1基板160およびフレキシブル配線基板400を介して第2基板340に供給され、さらに第2基板340から例えばフレキシブルフラットケーブル190(または191)を介して制御ユニット10に供給される。
【0106】
制御ユニット10における駆動データ生成部14は、該温度センサーTMの出力信号に基づいて、圧電素子60の温度特性の変化や、温度によって生じたインクの物性の変化等をキャンセルするように、駆動信号COM-Ai、COM-Biを規定する駆動データを補正して生成する。この補正により、吐出部600からのインクの吐出精度を高めることができる。
また、上述したように、フレキシブル配線基板400では、良好な周波数特性で配線抵抗や相互インダクタンスの影響を低減することができるので、温度センサーTMの出力信号を、従来の配線基板480と比較して、正確に制御モジュールに供給することができる。
【0107】
上述した第1実施形態では、液体吐出装置として、ラインヘッド方式のインクジェットプリンターを例示したが、液体吐出装置についてはラインヘッド方式に限定されない。そこで次に、プリントヘッドを、X方向に沿って往復動するキャリッジに搭載した、いわゆるシリアル方式のインクジェットプリンターについて説明する。
【0108】
図14は、第2実施形態に係る液体吐出装置2の構成を示す斜視図である。
この図に示されるように、液体吐出装置2では、プリントヘッド711を搭載したキャリッジ710が、媒体Sが搬送される副走査方向(Y方向)とほぼ直交する主走査方向(X方向)に往復動するとともに、この主走査に合わせてインクが吐出される。
【0109】
図15は、液体吐出装置2に適用されるプリントヘッド711の斜視図であり、図16は、プリントヘッド711の分解斜視図である。
図16に示されるように、プリントヘッド711は、5個の駆動モジュール20を有する。また、図15および図16に示されるように、プリントヘッド711は、ホルダー部材800と、第2基板900とを備えている。
ホルダー部材800には、5個の駆動モジュール20に対応して10個のインク導入路810が形成されている。また、第2基板900には、インク導入路810を通すための孔910が形成されている。第2基板900は、インク導入路810を孔910に通した状態で、ホルダー部材800の片側から、ホルダー部材800に嵌め込まれている。
【0110】
また、駆動モジュール20は、ケースヘッド1500と、COF(Chip On Film)技術によりICチップ470gが実装されたフレキシブル配線基板470とを有する。ICチップ470gは、選択制御部220や選択部230等の機能を含む。
プリントヘッド711は、第2基板900の嵌め込まれた側とは反対側から、ホルダー部材800に差し込まれている。ホルダー部材800には、開口部としてのスリット820が、差し込まれるプリントヘッド711に対応して5ヵ所に形成され、第2基板900には、開口部としてのスリット920が5ヵ所に形成されている。
一対のフレキシブル配線基板470は、スリット820およびスリット920に通され、フレキシブル配線基板470における配線470bが、第2基板900の端子930にそれぞれ接合されている。
【0111】
図17は、第2実施形態における駆動モジュール20の部分分解斜視図であり、ホルダー部材800および第2基板900に組み込まれる前の状態を示している。図18は、図15におけるプリントヘッド711のA-A概略断面図である。
【0112】
図17に示されるように、駆動モジュール20は、流路形成基板1100とノズルプレート2000と保護基板1200とコンプライアンス基板1400とICチップ470g(図16および図17の例では2個)が実装された一対のフレキシブル配線基板470とを備えている。
流路形成基板1100は、ノズルプレート2000と保護基板1200とで挟まれるように積み重ねられ、保護基板1200上には、コンプライアンス基板1400が設けられている。
なお、第2実施形態におけるノズルプレート2000についても、第1実施形態におけるノズルプレート121と同様に、シリコン単結晶、シリコン多結晶等のシリコン結晶を用いることが好ましい。
【0113】
フレキシブル配線基板470は、第1の端部475と、第1の端部475の反対に位置する第2の端部476とを備えている。フレキシブル配線基板470の第1の端部475は保護基板1200に差し込まれる一方、第2の端部476は、第2基板900に接続されている。
【0114】
流路形成基板1100には、隔壁によって区画された複数の圧力室1120が、その幅方向に並設された列として2列設けられている。ここで圧力室1120は対をなして設けられている。なお、圧力室1120には、特に図示しないが、インク導入路810を介して供給されたインクが充填される。
【0115】
流路形成基板1100の開口面とは反対側(図18において上側)には、弾性膜1150が形成され、この弾性膜1150上には、絶縁膜1155が形成されている。さらに、この絶縁膜1155上には、下電極(個別電極)137、圧電体層138及び上電極(共通電極)139が順次積層されて、圧電素子60が構成されている。
リード電極Lの一端は上電極139に接続され、リード電極Lの他端は、保護基板1200に形成された開口部Apの底部において露出している。
また、圧電素子60における下電極137は、図18では省略されているが、パターニングによって開口部Apまで延設されて、開口部Apの底部においてリード電極Lとともに露出している。
開口部Apに露出したリード電極Lおよび各圧電素子60における下電極137は、開口部Apに挿入されたフレキシブル配線基板470の配線470c、詳細には、第1の端部475に形成された配線470cと、例えば異方性接着剤(図示省略)によりそれぞれ電気的に接続される。これによってフレキシブル配線基板470に実装されたICチップ470gによって、各圧電素子60が駆動される。
このように、流路形成基板1100には、圧電素子60が形成されるとともに、当該圧電素子60に導かれるリード電極Lと下電極137とに、フレキシブル配線基板470の配線470aがそれぞれ接合される。したがって、第2実施形態では、流路形成基板1100が第1基板として機能することになる。
【0116】
一方、フレキシブル配線基板470の第1の端部475とは反対側に位置する第2の端部476は、ホルダー部材800のスリット820および第2基板900のスリット920に通され、第2の端部476における配線470bが第2基板900の端子930に接合されている。
【0117】
第2実施形態に適用されるフレキシブル配線基板470における基材472についても、第1実施形態に適用されるフレキシブル配線基板400と同様に、例えば液晶ポリマーが用いられる。フレキシブル配線基板470では、第1の端部475および第2の端部476においてそれぞれL字状に折り曲げられるが、反力が抑えられるので、第2基板900における端子930との接合、および、第2基板として機能する流路形成基板1100におけるリード電極Lと下電極137との接合に際して、容易に位置決めすることができる。このため、プリントヘッド711を高い精度で組み上げることができる。
また、フレキシブル配線基板470についても、フレキシブル配線基板400と同様に、薄型化、厚さの均一化が図られる、高周波特性が良好となる、インクミストの影響を受けにくくなる、という利点がある。
【符号の説明】
【0118】
1、2…液体吐出装置、32、711…プリントヘッド、60…圧電素子、160…第1基板、340、900…第2基板、400、470…フレキシブル配線基板、1100…流路形成基板(第1基板)、TM…温度センサー。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18