(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-07
(45)【発行日】2024-05-15
(54)【発明の名称】ポリスルホンを含むポリマー組成物およびそれから作製される物品
(51)【国際特許分類】
C08L 81/06 20060101AFI20240508BHJP
C08K 7/14 20060101ALI20240508BHJP
C08L 81/02 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
C08L81/06
C08K7/14
C08L81/02
(21)【出願番号】P 2018567916
(86)(22)【出願日】2017-06-28
(86)【国際出願番号】 EP2017066047
(87)【国際公開番号】W WO2018002167
(87)【国際公開日】2018-01-04
【審査請求日】2020-05-28
【審判番号】
【審判請求日】2022-06-01
(32)【優先日】2016-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】512323929
【氏名又は名称】ソルベイ スペシャルティ ポリマーズ ユーエスエー, エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ウォード, クリストファー
(72)【発明者】
【氏名】レオ, ヴィート
(72)【発明者】
【氏名】ウー, ユイホン
【合議体】
【審判長】▲吉▼澤 英一
【審判官】近野 光知
【審判官】海老原 えい子
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-43603(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0014144(KR,A)
【文献】特開昭58-98362(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 81/00~81/10
C08K 3/00~13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー組成物(C)であって、
- (C)の全重量に基づいて重量単位で25~50%の、ガラス繊維からなる成分(a);
- (C)の全重量に基づいて重量単位で75~50%の成分(b)であって、
- (b)の全重量に基づいて重量単位で
97~
80%のポリアリールスルホンポリマー(PAES)
および
- (b)の全重量に基づいて重量単位で
3~
20%の、GPCにより測定して30,000~70,000g/モルの重量平均分子量を有するポリアリーレンスルフィドポリマー(PAS)
からなる成分(b);
- (C)の全重量に基づいて重量単位で0~10%の少なくとも1種のガラス繊維以外の添加剤(AD)
を含み
、
PAES
は、PAESの繰り返し単位(R
PAES
)の少なくとも50モル%が、式(III)
のものであるポリスルホンポリマー(PSU)である、ポリマー組成物(C)。
【請求項2】
成分(a)の量が、(C)の全重量に基づいて重量単位で30~50%である、請求項1に記載のポリマー組成物(C)。
【請求項3】
PAESの量が、成分(b)の重量に基づいて重量単位で
93~
85%である、請求項1または2に記載のポリマー組成物(C)。
【請求項4】
前記PASが、繰り返し単位を含むポリ(フェニレンスルフィド)ポリマー[ポリマー(PPS)]であって、前記繰り返し単位の50モル%超は、式:
[式中、p-フェニレン基は、その2つの末端のそれぞれによって2個の硫黄原子に結合して、直接C-S結合によってスルフィド基を形成し、式中、R
1およびR
2は、互いに等しいかまたは異なり、水素原子、ハロゲン原子、C
1~C
12アルキル基、C
7~C
24アルキルアリール基、C
7~C
24アラルキル基、C
6~C
24アリーレン基、C
1~C
12アルコキシ基、およびC
6~C
18アリールオキシ基、ならびに置換または非置換アリーレンスルフィド基(そのアリーレン基は、それらの2つの末端のそれぞれによって2個の硫黄原子にまた結合して、直接C-S結合によってスルフィド基を形成し、それによって分岐または架橋ポリマー鎖をもたらす)からなる群から選択される]
のp-フェニレンスルフィド繰り返し単位(R
PPS)である、ポリマー(PPS)である、請求項1~3のいずれか一項に記載のポリマー組成物(C)。
【請求項5】
前記PASが、450g/10分未満の、ASTM D1238、手順Bに従って5kgの重量下316℃でのマスメルトフローレートを有する、請求項1~4のいずれか一項に記載のポリマー組成物(C)。
【請求項6】
PAES
は、PAESの繰り返し単位(R
PAES)の少なくとも
80
モル%
が、式(III)
のものであるポリスルホンポリマー(PSU)である、請求項1~5のいずれか一項に記載のポリマー組成物(C)。
【請求項7】
充填剤、無機顔料、UV/光安定剤、熱安定剤、可塑剤、潤滑剤、加工助剤、衝撃改質剤、難燃剤、帯電防止剤、およびそれらの混合物から選択される、(C)の全重量に基づいて重量単位で0.5%以上の
ガラス繊維以外の添加剤(AD)を含有する、請求項1~6のいずれか一項に記載のポリマー組成物(C)。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物(C)を含む部分を少なくとも含む、物品(A)。
【請求項9】
前記物品が、配管固定具、医療機器および携帯電子機器からなる群から選択される、請求項8に記載の物品(A)。
【請求項10】
物品または物品の部分の調製方法であって、前記方法は、
成分(a)および成分(b)、ならびに任意選択で(AD)および他の原料をブレンドすることによって、請求項1~7のいずれか一項に記載のポリマー組成物(C)を調製する工程と、押出しまたは成形によって、前記ポリマー組成物(C)を含む、前記物品またはその部分を形成する工程とを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2016年6月29日出願の米国仮特許出願第62/356,205号に対する優先権を主張するものであり、この出願の全ての内容は、あらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、ポリアリールエーテルスルホンポリマーおよびポリアリーレンスルフィドポリマーを含むポリマーブレンドを含む、組成物(C)、ならびに前記組成物を含む物品に関する。
【背景技術】
【0003】
ポリアリールエーテルスルホンは、優れた特性、例えば、強度、耐化学薬品性および耐熱性を有し、配管物品、電子部品、航空機および自動車部品、ならびに医療機器の範囲に及ぶ多くの用途で使用されている。ガラス繊維により強化されたポリアリールエーテルスルホンを含む組成物は、ここ数年間利用可能であったが、しかしながら、一部の分野におけるそれらの使用は、特にそれらの耐衝撃性および低引張り強度に関する、それらの全体的に不十分な機械的性能、ならびに成形性および繊維含有量を制限するそれらの高粘度により妨げられている。したがって、ポリアリールエーテルスルホンを含む利用可能なガラス繊維強化組成物は、一般に増強された延性を有する薄い壁部分のための組成物の成形に適さない。本発明の目的は、低下した粘度、増強された成形性、および改善された機械的特性、例えば、衝撃強度を有する組成物を提供することである。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、ポリマー組成物(C)であって、
- (C)の全重量に基づいて重量単位で15~60%の、ガラス繊維からなる成分(a);
- (C)の全重量に基づいて重量単位で85~40%の成分(b)であって、
- (b)の全重量に基づいて重量単位で99.5~70%のポリアリールエーテルスルホンポリマー(PAES)および
- (b)の全重量に基づいて重量単位で0.5~30%の、GPCにより測定して30,000~70,000g/モル の重量平均分子量を有するポリアリーレンスルフィドポリマー(PAS)
からなる成分(b);
- (C)の全重量に基づいて重量単位で0~10%の少なくとも1種の添加剤(AD)を含み、
ここで、PAESの繰り返し単位(R
PAES)の少なくとも50モル%は、以下の式(I):
(式中、(i)それぞれのR
kは、互いに等しいかまたは異なり、水素、ハロゲン、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、エーテル、チオエーテル、カルボン酸、エステル、アミド、イミド、アルカリまたはアルカリ土類金属スルホネート、アルキルスルホネート、アルカリまたはアルカリ土類金属ホスホネート、アルキルホスホネート、アミン、および第四級アンモニウムから選択され;(ii)それぞれのR’およびR’’は、互いに等しいかまたは異なり、水素、ハロゲン、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、エーテル、チオエーテル、カルボン酸、エステル、アミド、イミド、アルカリまたはアルカリ土類金属スルホネート、アルキルスルホネート、アルカリまたはアルカリ土類金属ホスホネート、アルキルホスホネート、アミン、および第四級アンモニウムから選択され;(iii)それぞれのkは、互いに等しいかまたは異なり、0~4の範囲の整数である)
により表される、ポリマー組成物(C)に関する。
【0005】
別の態様では、本発明は、上で定義されたとおりの組成物(C)を含む部分を少なくとも含む、物品(A)を提供する。
【0006】
別の態様では、本発明は、物品または物品の部分を調製する方法であって、成分(a)および成分(b)、ならびに任意選択で(AD)および他の原料を溶融相中でブレンドすることによってポリマー組成物(C)を調製する工程と;押出しまたは成形によって、ポリマー組成物(C)を含む物品、またはその部分を形成する工程とを含む、方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0007】
ガラス繊維ならびに(i)ポリ(アリールエーテルスルホン)(「PAES」)ポリマーおよび(ii)ポリアリーレンスルフィド(「PAS」)ポリマーを有するポリマー部分を含む組成物が、本明細書で記載される。
【0008】
いくつかの実施形態では、本ポリマー組成物は、1種以上の添加剤を任意選択で含むことができる。意外なことに、前述のポリマー組成物は、具体的には成形性のための、特に衝撃強度、および加工性に関する、卓越した機械的特性を有することが見出された。一態様では、ポリマー組成物は、高い耐熱性および耐化学薬品性を有しなければならず、かつ中程度から重度の衝撃に耐え得る、薄い壁を有する部分が必要とされる用途で望ましく使用され得る。
【0009】
いくつかの実施形態では、ポリマー組成物は、物品、例えば、配管物品の構成要素、電子機器、医療機器、および自動車または航空機部品で望ましく使用され得る。
【0010】
特に断りのない限り、本発明の文脈において、組成物中の成分の量は、100を乗じた、成分の重量と組成物の全重量との比(また:「重量%」または「重量単位での%」)として示される。
【0011】
ポリアリールエーテルスルホンポリマー
本発明による組成物は、以下の式(I):
(式中、(i)それぞれのR
kは、互いに等しいかまたは異なり、水素、ハロゲン、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、エーテル、チオエーテル、カルボン酸、エステル、アミド、イミド、アルカリまたはアルカリ土類金属スルホネート、アルキルスルホネート、アルカリまたはアルカリ土類金属ホスホネート、アルキルホスホネート、アミン、および第四級アンモニウムから選択され;(ii)それぞれのR’およびR’’は、互いに等しいかまたは異なり、水素、ハロゲン、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、エーテル、チオエーテル、カルボン酸、エステル、アミド、イミド、アルカリまたはアルカリ土類金属スルホネート、アルキルスルホネート、アルカリまたはアルカリ土類金属ホスホネート、アルキルホスホネート、アミン、および第四級アンモニウムから選択され;(iii)それぞれのkは、互いに等しいかまたは異なり、0~4の範囲の整数である)
により表される少なくとも50モル%の繰り返し単位(R
PAES)を有する少なくとも1種のポリアリールエーテルスルホン(PAES)ポリマーを含む。
【0012】
いくつかの実施形態では、組成物(C)中、PAESは、少なくとも55モル%、少なくとも60モル%、少なくとも70モル%、少なくとも80モル%、少なくとも90モル%、少なくとも95モル%、少なくとも99モル%、または少なくとも99.9モル%の繰り返し単位(RPAES)を有し得る。
【0013】
いくつかの実施形態では、(R
PAES)は、以下の式:
により表すことができる。
【0014】
(R
PAES)が式(II)により表されるいくつかの実施形態では、それぞれのk=0である。(R
PAES)が式(II)により表されるいくつかの実施形態では、R’およびR’’は、C
1~C
8直鎖または分岐アルキル基、好ましくはC
1~C
8直鎖または分岐アルキル基から選択されるアルキル基であり、より好ましくはR’およびR’’の両方は、メチル基(-CH
3)である。本発明のいくつかの好ましい実施形態では、PAESは、ポリスルホン(PSU)ポリマーであり、それは、繰り返し単位(R
PAES)の少なくとも50%が、R’およびR’’がメチル基(-CH
3)であり、それぞれのk=0である、式(II)により表され、したがって、(R
PAES)が以下の式(III)(R
PSU):
により表されるポリマーを意味することが意図される。
【0015】
一般に、PAESポリマーは、ホモポリマーまたはコポリマーであり得る。PAESポリマーがコポリマーである実施形態では、PAESは、以下の式の群:
[式中、
R
jのそれぞれは、互いに等しいかまたは異なり、ハロゲン、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、エーテル、チオエーテル、カルボン酸、エステル、アミド、イミド、アルカリまたはアルカリ土類金属スルホネート、アルキルスルホネート、アルカリまたはアルカリ土類金属ホスホネート、アルキルホスホネート、アミン、および第四級アンモニウムから選択され;jのそれぞれは、互いに等しいかまたは異なり、0~4の整数であり;Tは、結合、-CH
2-;-O-;-S-;-C(O)-;-C(CH
3)
2-;-C(CF
3)
2-;-C(=CCl
2)-;-C(CH
3)(CH
2CH
2COOH)-;-N=N-;-R
aC=CR
b-;(ここで、それぞれのR
aおよびR
bは、互いに独立して、水素、またはC
1~C
12-アルキル、C
1~C
12-アルコキシ、もしくはC
6~C
18-アリール基である);-(CH
2)
q-および-(CF
2)
q-(ここで、qは、1~6の範囲の整数である)、または6個までの炭素原子の、直鎖もしくは分岐の脂肪族二価基;ならびにそれらの混合物から選択される]
から選択される式により表される、繰り返し単位(R
PAES)とは区別される、繰り返し単位(R
PAES
*)をさらに含み得る。
【0016】
いくつかの実施形態では、繰り返し単位(R
PAES
*)は、以下の式の群:
およびそれらの混合物から選択される式により表すことができる。
【0017】
PAESポリマーがコポリマーである、いくつかの実施形態では、PAESは、少なくとも約1モル%、少なくとも約5モル%、または少なくとも約10モル%の繰り返し単位(RPAES
*)を有し得る。そのような実施形態では、PAESポリマーは、約50モル%以下、約40モル%以下、約30モル%以下、または約20モル%以下の繰り返し単位(RPES)を有し得る。
【0018】
PAESポリマーは、約20,000グラム/モル(g/モル)~約100,000g/モル、または約40,000g/モル~約80,000g/モルの重量平均分子量を有し得る。当業者は、明確に開示された範囲内にある追加的な重量平均分子量の範囲が企図されており、かつ本開示の範囲内にあることを認識する。重量平均分子量は、
(式中、M
iは、試料中のポリマー分子の分子量の離散値であり、N
iは、分子量M
iを有する試料中のポリマー分子の数である)
と決定することができる。重量平均分子量は、溶媒として塩化メチレン中で使用するゲル浸透クロマトグラフィーにより、ポリスチレン標準と比較して、測定され得る。
【0019】
本明細書で目的のPAESポリマーは、少なくとも約170℃、少なくとも約180℃、または少なくとも約185℃のガラス転移温度(“Tg”)を有してもよい。ガラス転移温度は、ASTM D3418標準に従って20℃/分のランプ速度を使用する示差走査熱量測定(「DSC」)を使用して測定され得る。
【0020】
好ましい実施形態では、本発明のポリマー組成物(C)中、PAESの量は、成分(b)の重量に基づいて重量単位で97~70%、好ましくは95~80%、より好ましくは93~85%または92~90%である。
当業者は、明確に開示された範囲内の追加的なPAES濃度範囲が企図され、かつ本開示の範囲内であることを認識する。
【0021】
ポリアリーレンスルフィドポリマー
本発明の目的において、用語「ポリアリーレンスルフィドポリマー[ポリマー(PAS)]」は、繰り返し単位を含む任意のポリマーであって、前記繰り返し単位の50モル%超は、式:
-(Ar-S)-
(式中、Arは、その2つの末端のそれぞれによって2個の硫黄原子と結合され、直接C-S結合によってスルフィド基を形成する、少なくとも1個の芳香族単核または多核環、例えば、フェニレンまたはナフチレン基、を含む芳香族部分を意味する)
の繰り返し単位(RPAS)である、ポリマーを意味することが意図される。
【0022】
繰り返し単位(RPAS)において、芳香族部分Arは、非置換(すなわち、フェニル基)であっても、またはハロゲン原子、C1~C12アルキル基、C7~C24アルキルアリール基、C7~C24アラルキル基、C6~C24アリーレン基、C1~C12アルコキシ基、およびC6~C18アリールオキシ基、ならびに置換もしくは非置換アリーレンスルフィド基(そのアリーレン基は、それらの2つの末端のそれぞれによって2個の硫黄原子にまた結合され、直接C-S結合によってスルフィド基を形成し、それによって、分岐または架橋ポリマー鎖をもたらす)を含むがそれらに限定されない、1個以上の置換基で置換されていてもよい。
【0023】
ポリマー(PAS)は、好ましくは70モル%超、より好ましくは80モル%超、さらにより好ましくは90モル%超の繰り返し単位(RPAS)を含む。最も好ましくは、ポリマー(PAS)は、繰り返し単位(RPAS)以外の繰り返し単位をまったく含まない。
【0024】
繰り返し単位(R
PAS)において、芳香族部分Arは、好ましくは、以下の式(X-A)~式(X-K):
[式中、R
1およびR
2は、互いに等しいかまたは異なり、水素原子、ハロゲン原子、C
1~C
12アルキル基、C
7~C
24アルキルアリール基、C
7~C
24アラルキル基、C
6~C
24アリーレン基、C
1~C
12アルコキシ基、およびC
6~C
18アリールオキシ基、ならびに置換もしくは非置換アリーレンスルフィド基(そのアリーレン基は、それらの2つの末端のそれぞれによって2個の硫黄原子にまた結合される)からなる群から選択される]
のものからなる群から選択される。これは、直接C-S結合によりスルフィド基を形成し、それによって、分岐または架橋ポリマー鎖をもたらす。
【0025】
ポリマー(PAS)は、ホモポリマー、またはコポリマー、例えば、ランダムコポリマーもしくはブロックコポリマーであってもよい。
【0026】
ポリマー(PAS)は、典型的には、以下の式(X-L)~(X-N):
のものからなる群から選択される1つ以上の分岐または架橋繰り返し単位を含む。
【0027】
ポリマー(PAS)は、好ましくは、ポリフェニレンスルフィドポリマー[ポリマー(PPS)]である。
【0028】
好ましくは、ポリマーPASは、「ポリフェニレンスルフィドポリマー[ポリマー(PPS)]」であり、それは、繰り返し単位を含む任意のポリマーであって、前記繰り返し単位の50モル%超が、式:(R
PPS)
[式中、p-フェニレン基は、その2つの末端のそれぞれによって2個の硫黄原子に結合されて、直接C-S結合によってスルフィド基を形成し、式中、R
1およびR
2は、互いに等しいかまたは異なり、水素原子、ハロゲン原子、C
1~C
12アルキル基、C
7~C
24アルキルアリール基、C
7~C
24アラルキル基、C
6~C
24アリーレン基、C
1~C
12アルコキシ基、およびC
6~C
18アリールオキシ基、ならびに置換もしくは非置換アリーレンスルフィド基(そのアリーレン基は、それらの2つの末端のそれぞれによって2個の硫黄原子にまた結合して、直接C-S結合によってスルフィド基を形成し、それによって分岐または架橋ポリマー鎖をもたらす)からなる群から選択される]
のp-フェニレンスルフィド繰り返し単位であるポリマーを意味することが意図される。最も好ましくは、PASは、R
1およびR
2が水素原子である、PPSである。有利には、本発明の組成物中のPASの重量平均分子量(すなわち、相対的モル比)は、例えば、溶媒としてクロロナフタレン中220℃で、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定し、ポリスチレン標準と比較して、30,000~70,000g/モル、好ましくは35,000~60,000g/モルまたは40,000~50,000g/モルである。
【0029】
この範囲に含まれるMwを有するPPSは、100~500g/10分に含まれる、ASTM D1238、手順Bに従って5kgの重量下316℃でのメルトフローレートを有する。好ましくは、本発明のポリマー組成物(C)中、PASは、140g/10分よりも高い、好ましくは150g/10分よりも高い、ASTM D1238、手順Bに従って5kgの重量下316℃でのマスメルトフローレートを有する。
【0030】
好ましくは、本発明のポリマー組成物(C)中、PASは、450g/10分よりも低い、好ましくは300g/10分よりも低い、ASTM D1238、手順Bに従って5kgの重量下316℃でのマスメルトフローレートを有する。
【0031】
典型的には、本発明による組成物中のPASは、-SH末端基(酸形態)または-SM(中和形態)(Mは、アルカリ金属、例えば、Na、K、Liまたはアルカリ土類金属、例えば、Caである)の極端に低いレベル、例えば、多くても10マイクロ当量/g(多くても約0.03重量%に相当する)を有する。好ましい実施形態によれば、PASの-SH末端基の含有量は、0.5%未満、優先的には0.2%未満、さらにより優先的には0.1%未満である。
【0032】
添加剤
いくつかの実施形態では、ポリマー組成物は、1種以上の添加剤を含み得る。添加剤には、限定されないが、充填剤、無機顔料、UV/光安定剤、熱安定剤、可塑剤、潤滑剤、加工助剤、衝撃改質剤、難燃剤、および帯電防止剤が含まれ得る。
【0033】
いくつかの実施形態では、ポリマー組成物は、ガラス繊維以外の充填剤を含む。望ましい充填剤には、限定されないが、炭素繊維、グラファイト繊維、炭化ケイ素繊維、アラミド繊維、珪灰石、タルク、マイカ、二酸化チタン、チタン酸カリウム、シリカ、カオリン、チョーク、アルミナ、窒化ホウ素、および酸化アルミニウムが含まれる。充填剤は恐らくは、特に機械的強度(例えば、曲げモジュラス)および/または寸法安定性ならびに/または耐摩擦性および耐摩耗性を改善する。本明細書で目的の実施形態のために、ポリマー組成物は、約1重量%~約40重量%以下、約30重量%以下、約25重量%以下、または約20重量%以下の全充填剤濃度を有し得る。当業者は、明確に開示された範囲内の追加的な充填剤濃度が企図され、かつ本開示の範囲内であることを認識する。
【0034】
いくつかの実施形態では、充填剤のクラスには、粘土鉱物充填剤が含まれ得る。
【0035】
いくつかの実施形態では、ポリマー組成物は、1種以上の無機顔料を任意選択で含み得る。一般に、無機顔料は、波長選択的な吸収の結果として反射したまたは透過した光の色を変化させることによりポリマー組成物の選択された外観を得るために添加される。望ましい無機顔料には、限定されないが、二酸化チタン、硫化亜鉛、硫酸バリウム、カーボンブラック、リン酸コバルト、チタン酸コバルト、硫セレン化カドミウム、セレン化カドミウム、フタロシアニン銅、ウルトラマリン、ウルトラマリンバイオレット、亜鉛フェライト、マグネシウムフェライト、および酸化鉄が含まれる。本明細書での目的のポリマー組成物は、約0.1重量%~約20重量%、好ましくは1重量%~10重量%または2重量%~5重量%の全無機顔料濃度を任意選択で有し得る。当業者は、明確に開示された範囲内の追加的な顔料濃度が企図され、かつ本開示の範囲内であることを認識する。
【0036】
ガラス繊維
本発明の組成物は、成分(a)としてガラス繊維を含有する。
【0037】
好ましくは、本発明による組成物では、成分(a)の量は、(C)の全重量に基づいて重量単位で20~60%、より好ましくは25~50%である。
【0038】
ガラス繊維は、様々な組成を有して生成され、それらの一般的な用途は、文字指定によって識別される。文字指定は、意図された用途における最終使用者に許容される性能を提供してきたガラスのファミリーを表す。ガラス繊維ストランドのための標準的な仕様は、ASTM標準D578-05、およびその同等物で提供される。本発明の文脈では、非限定的な例として、ガラス繊維は、Cガラス、Eガラス、Sガラス、またはそれらの混合物から作られていることができる。好ましくは、本発明の集合体中のガラス繊維は、Eガラスから作られている。
【0039】
本発明の集合体中のガラス繊維の長さおよび直径は、特に限定されない。非限定的な例として、平均繊維直径は、5~20マイクロメートル、例えば、8または10~15マイクロメートルであり得、標準的な切断長さは、3~10mm、例えば、4、4.5、5または6から8mmまで変わり得る。
【0040】
本発明の集合体中のガラス繊維の機械的特性は、特に限定されない。非限定的な例として、それらの引張り強度は、75~200MPa、例えば、80、90または100~150または180MPaまでであり得、それらの引張り伸び(%)は、1~5、例えば、2または3~4.5または4%までであり得、それらの衝撃強度(シャルピー、ISO 179、非ノッチ付き)は、40~80kJ/m2、例えば、50または60または65~70または75kJ/m2までである。
【0041】
物品
上で概略されたとおり、本発明のポリマー組成物は、卓越した延性および、特に耐衝撃性に関して、機械的特性を有する。
【0042】
したがって、それらは、上で定義されたとおりの組成物(C)を含む部分を少なくとも含む、物品(A)の調製に特に適する。好ましくは、物品は、配管固定具、医療機器および携帯電子機器からなる群から選択される。
【0043】
本明細書に記載される物品は、限定されないが、射出成形、ブロー成形、圧縮成形、およびそれらの任意の組み合わせを含めて、当技術分野で周知の技術を使用して形成することができる。
【0044】
ある態様では、本発明は、物品または物品の部分の調製方法であって、前記方法は、成分(a)および成分(b)、ならびに任意選択で(AD)および他の原料をブレンドすることによって上で定義されたとおりのポリマー組成物(C)を調製する工程と、押出しまたは成形によって、ポリマー組成物(C)を含む、物品またはその部分を形成する工程とを含む、方法を提供する。参照により本明細書に組み込まれる特許、特許出願、および刊行物のいずれかの開示が用語を不明瞭にさせ得る程度まで本出願の記載と矛盾する場合は、本記載が優先するものとする。以下の実施例は、その範囲を限定する意図なしに、本発明の実際の実施形態を例証するために提供される。
【実施例】
【0045】
出発材料
PAES:
Solvay Specialty Polymers USA, L.L.C.により製造された、Udel(登録商標)P1700 NT11(PAES 1)またはUdel(登録商標)P3703 NT11(PAES 2)。
他のポリエリールエーテルスルホン:
Solvay Specialty Polymers USA, L.L.C.により製造された、Radel(登録商標)R5800(PPSU)およびVeradel(登録商標)3300(PES)。
PAS:
Solvay Specialty Polymers USA, L.L.C.により製造された、Mw=46,000g/モルを有するRyton(登録商標)QC220N(PAS 1)、Mw=40,000g/モルおよび325g/10分のフローレートを有するRyton(登録商標)QA250N(PAS 2)またはMw=47,000g/モルおよび160g/10分のフローレートを有するRyton(登録商標)(登録商標)QA220N(PAS 3)。
Dainippon Ink and Chemicals(DIC International L.L.C.)により製造された、Mw=35,000g/モルを有するDSP T-4G(PAS 4)。
【0046】
分析方法
GPC法による分子量測定
PAESの場合、サイズ排除クロマトグラフィー(SECまたはGPC)は、移動相として塩化メチレンを使用して行った。Agilent Technologiesからのガードカラム付きの2つの5ミクロン混合Dカラムを分離のために使用した。254nmの紫外線検出器を、クロマトグラムを得るために使用した。1.5ml/分のフローレート、および移動相中20マイクロリットルの0.2重量/体積%溶液の注入体積を選択した。
【0047】
較正は、Agilent Technologiesから入手したポリスチレンの10の狭い較正標準(ピーク分子量範囲:371,000~580g/モル)を用いて行った。
較正曲線:1)タイプ:相対的な、狭い較正標準較正2)フィット:3次回帰。
積分および計算:Waters製のEmpower Pro GPC ソフトウェアを使用して、データ、較正および分子量計算を取得する。ピーク積算開始点および終了点は、ベースライン全体上の有意な差から手作業で決定する。
【0048】
PASの場合、1-クロロナフタレンを移動相および溶媒として220°Cで使用し、較正は、2つの10ミクロン混合BカラムおよびRI検出器を使用して、ポリスチレンの9つの狭い較正標準(ピーク分子量範囲:758,500~1280g/モル)を使用して行った。
【0049】
ガラス繊維:
Saint-Gobainにより供給されたVetrotex(登録商標)910A
コンパウンディング
すべての化合物を、市販ガラス充填グレードのポリスルホンと同様に生じさせた。プレブレンドはまったく用いず、正味材料を、押出し中に混合される押出機にすべて別個に添加したことを意味する。すべてのコンパウンディングをZSK-26 R&D押出機で行った。
【0050】
押出し条件
バレル条件は、PASまたは任意の添加剤を分解し始めないために360℃~380℃、好ましくは360℃~370℃の溶融温度を達成するように指定した。スクリュー速度は、160RPM~200RPMに設定した。供給速度は、それぞれの処方物の望ましい組成に従って設定した。PASおよびPAESを、溶融ブレンドPAES/PASに対して押出機の始めに、およびガラス繊維を押出機にその後に導入した。
【0051】
成形:
すべての化合物を、伝統的ASTMタイプI引張りバーおよびASTM曲げバーに成形した。
【0052】
試験
すべての成形物品を、機械的特性(引張りおよび衝撃)ならびに熱的特性(キャピラリーフロー、メルトフロー)について試験した。引張り特性は、ASTMタイプI引張りバーを使用してASTM D638に従って試験した。衝撃特性は、ノッチ付きアイゾット試験(ASTM D256)を使用し、ASTM曲げバーを用いて試験した。メルトフローは、ASTM D1238を使用して測定した。
【0053】
1.30%ガラス繊維を含有する組成物
以下の実施例は、組成物の全重量に基づいて重量単位で70%のポリマー成分(b)(主要ポリマーとしてPAES 1、非主要ポリマーとしてPAS 1)、成分(a)として30%のガラス繊維を含む。
【0054】
成分(b)の組成((b)の全重量に基づいて重量%単位で:
実施例1c-比較(E1c):100%PAES 1
実施例2(E2):97%PAES 1、3%PAS 1
実施例3(E3):95%PAES 1、5%PAS 1
実施例4(E4):93%PAES 1、7%PAS 1
実施例5(E5):90%PAES 1、10%PAS 1
実施例6(E6):85%PAES 1、15%PAS 1
実施例7(E7):80%PAES 1、20%PAS 1
【0055】
【0056】
意外なことに、すべての試料において、PAS 1の添加は、レオロジー特性に正に影響を与え、メルトフローを劇的に増加させ(170%まで)ならびにすべての引張り特性(引張り強度、引張りモジュラス)および同時に、同様に衝撃強度を増加させる。
【0057】
特に、ノッチ付きアイゾット耐衝撃性に好都合な増加がある(22%まで)。
【0058】
留意すべき興味深い事実は、20%PAS 1(E7)において、処方物のメルトフローは、ガラス繊維をまったく有しない正味PAES 1のものと同様であり、ノッチ付きアイゾット衝撃値は、PASをまったく含有しない比較実施例1cのものよりも依然として高いことである。
【0059】
2.50%ガラス繊維を含有する組成物
ガラス充填PAESにPASを添加する場合に観察されたフロー増強および繊維長さ保持を考慮して、ガラス含有量を、30%~50%まで増加させて、機械的特性をさらにより高く増加させた。通常、PASの使用なしでは、このガラスの量を有する、PSUのタイプのPAES処方物は、フローのために加工することが困難であり、繊維は、都合のよい特性をもたらさないほど損傷する。この実験は、PAES相としてPAES 1およびPAES 2の両方、PAS相としてPAS2、ならびにガラス繊維を用いた。
【0060】
表2中の実施例の重量組成:(b)の全重量に基づいて重量%単位でのPAES(PSU)比:
実施例8c-比較-(E9c):(b)=50%(100%PAES 1)、(a)=50%
実施例9(E9):(b)=50%(86%PAES 1、14%PAS 2)、(a)=50%
実施例10c-比較-(E10c):(b)=50%(100%PAES 2)、(a)=50%
実施例11(E11):(b)=50%(86%PAES 2、14%PAS 2)、(a)=50%
【0061】
【0062】
引張り特性における非常に注目すべき増加が、PASが存在する場合の本発明による組成物について得られる。
【0063】
PASがPAESに添加される場合、引張り強度およびモジュラスにおける大きな増加がある。
【0064】
さらに、意外なことに、ノッチ付きアイゾット衝撃値は、再び増加する。要約すると、本発明の組成物は、50%のガラス繊維を含有する高度に充填された組成物についてさえもより高い機械的特性を達成する一方で、大量のガラス繊維を使用する場合に通常遭遇されるコンパウンディング問題を減少させる(加工困難性を減少させる)。
【0065】
本発明のPAESと、異なるポリアリールエーテルスルホンPPSUおよびPESとの比較
以下の実施例は、組成物の全重量に基づいて重量単位で70%のポリマー成分(b)(主要ポリマーとしてPAES 1、PPSU、またはPES、非主要ポリマーとしてPAS 4)、および成分(a)として30%のガラス繊維を含む。
【0066】
成分(b)の組成((b)の全重量に基づいて重量%単位での):
実施例12-比較-(E12c):100%PAES 1
実施例13(E13):90%PAES 1、10%PAS 4
実施例14-比較-(E14c):100%PPSU
実施例15-比較-(E15c):90%PPSU、10%PAS 4
実施例16-比較-(E16c):100%PES
実施例17-比較-(E17c):90%PES、10%PAS 4
【0067】
【0068】
PAES 1へのPASの添加によって,耐衝撃性および引張り特性の両方で増加がある。意外なことに、これは、PAES 1によってのみ起こる。PPSUまたはPESのいずれかへのPASの添加によって、耐衝撃性の低下、および引張り特性の中程度からまったくなしの増加がある。組成物E13は、比較実施例E16cのPES化合物と同様の引張り強度およびモジュラスを示すが、それはより高い耐衝撃性を与え、これは、用途に非常に重要である妥協点である。