(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-07
(45)【発行日】2024-05-15
(54)【発明の名称】発電素子、および発電素子を用いた装置
(51)【国際特許分類】
H02N 2/18 20060101AFI20240508BHJP
【FI】
H02N2/18
(21)【出願番号】P 2019103231
(22)【出願日】2019-05-31
【審査請求日】2022-04-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】宮内 裕一朗
(72)【発明者】
【氏名】森 正和
(72)【発明者】
【氏名】茅野 紀幸
【審査官】稲葉 礼子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/136364(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/157246(WO,A1)
【文献】特許第4905820(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02N 2/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁歪材料を含む第1の磁歪板及び第2の磁歪板と、
前記第1の磁歪板と前記第2の磁歪板の少なくとも一方に固定された、磁石を含む磁石部と、
前記第1の磁歪板及び前記第2の磁歪板の少なくとも一部を内包するコイルと、
を備え、
前記第1の磁歪板及び前記第2の磁歪板は、印加される応力の方向が互いに逆方向になるように配置され、且つ、前記磁石部は、前記第1の磁歪板及び前記第2の磁歪板に印加される磁場の方向が互いに逆方向になるように配置され、
外力を受けて振動する連結板を、前記第1の磁歪板と前記第2の磁歪板との間にさらに備え、
前記間において、前記連結板は前記第1の磁歪板および前記第2の磁歪板の一方の端部から他方の端部へ延在するとともに、前記連結板が有する穴に前記磁石部の一部が蔵されており、前記第1の磁歪板と前記第2の磁歪板は、前記連結板から応力を印加されることを特徴とする発電素子。
【請求項2】
前記磁石部は、前記第1の磁歪板と前記第2の磁歪板の間に固定されていることを特徴とする請求項1に記載の発電素子。
【請求項3】
前記磁石部は、第1の磁石と第2の磁石を含み、前記第1の磁石及び前記第2の磁石は、互いに異なる磁極面が前記第1の磁歪板と前記第2の磁歪板に固定されていることを特徴とする請求項2に記載の発電素子。
【請求項4】
前記コイルは、前記第1の磁石と前記第2の磁石の間に配置されていることを特徴とする請求項3に記載の発電素子。
【請求項5】
前記磁石部は、少なくとも2つ以上の磁石を含み、前記少なくとも2つ以上の磁石は前記第1の磁歪板と前記第2の磁歪板のいずれか一方に固定され、且つ、少なくとも1つ以上の前記磁石が前記第1の磁歪板及び前記第2の磁歪板のそれぞれに固定されていることを特徴とする請求項2に記載の発電素子。
【請求項6】
前記磁石部は、1つの磁石であって、前記コイルは、前記1つの磁石と前記連結板との間に配置されていることを特徴とする請求項2に記載の発電素子。
【請求項7】
前記連結板が非磁性材料、磁性材料もしくは弾性体のうち少なくともいずれか1つを含むことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の発電素子。
【請求項8】
前記第1の磁歪板と前記第2の磁歪板は、鉄‐ガリウム合金、鉄‐コバルト合金、鉄‐アルミニウム合金、鉄‐ガリウム‐アルミニウム合金もしくは鉄‐シリコン‐ホウ素合金のうち少なくともいずれか1つを含むことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の発電素子。
【請求項9】
前記印加される応力の方向が互いに逆方向とは、一方に圧縮応力が加わり、他方には引張応力が加わることである請求項1から8のいずれか1項に記載の発電素子。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか1項に記載の発電素子を有し、前記発電素子に力を印加する機構を有する発電装置。
【請求項11】
請求項1乃至9のいずれか1項に記載の発電素子を有し、前記発電素子が地動加振から振動する機構を有する発電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書の開示は、発電素子、および発電素子を用いた装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、省エネルギー技術として環境中に存在する未利用エネルギーから電力を得る「環境発電」技術が注目されている。特に、振動から電力を得る振動発電は熱から電力を得る熱電発電と比べてエネルギー密度が高いため常時通信IoT(Internet of Things、モノのインターネット)向け電源や携帯機器の充電等への応用が提案されている。例えば、環境中の振動により磁石を振動させ、コイルに誘導起電力を発生させる磁石可動型の発電方式は様々な形態で応用されている。さらに近年では、磁石を振動させる代わりに力の変化で磁束密度を変化させる逆磁歪現象を利用した発電(以下、逆磁歪発電と記す)が提案されている。
【0003】
特許文献1には、逆磁歪発電素子の構成として、二つの磁歪棒が平行に配置されたバイモルフ構造が記載されている。
【0004】
また、非特許文献1には二つの逆磁歪発電素子が磁石を介して平行に並べて接着する構造が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】八田茂之、上野敏幸、山田外史、 「磁歪式振動発電スイッチを用いた電池フリーリモコンの実用化に関する研究」、日本AEM学会誌 Vol.23、No.1(2015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の複数の磁歪棒を用いた方式では、実際に利用する際、大きな電力を必ずしも取り出せないという課題があった。
【0008】
本明細書の開示は、上述の課題に鑑み、磁歪材料を用いた発電において、発電量を向上できる発電素子、および発電素子を用いた装置を提供することを目的の一つとする。なお、前記目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも本明細書の開示の他の目的の1つとして位置付けることができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本明細書に開示の発電素子は、歪材料を含む第1の磁歪板及び第2の磁歪板と、
前記第1の磁歪板と前記第2の磁歪板の少なくとも一方に固定された、磁石を含む磁石部と、前記第1の磁歪板及び前記第2の磁歪板の少なくとも一部を内包するコイルと、を備え、前記第1の磁歪板及び前記第2の磁歪板は、印加される応力の方向が互いに逆方向になるように配置され、且つ、前記磁石部は、前記第1の磁歪板及び前記第2の磁歪板に印加される磁場の方向が互いに逆方向になるように配置され、
外力を受けて振動する連結板を、前記第1の磁歪板と前記第2の磁歪板との間にさらに備え、前記間において、前記連結板は前記第1の磁歪板および前記第2の磁歪板の一方の端部から他方の端部へ延在するとともに、前記連結板が有する穴に前記磁石部の一部が蔵されており、前記第1の磁歪板と前記第2の磁歪板は、前記連結板から応力を印加されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本明細書の開示によれば、磁歪材料を用いた発電において、発電量を向上できる発電素子、および発電素子を用いた装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1実施形態の発電素子の構成の一例を説明する模式図。
【
図2】第1実施形態の発電素子の原理の一例を説明する模式図。
【
図3】第1実施形態の発電素子の製造方法の一例を説明する模式図。
【
図4】実施例2の発電素子の構成の一例を説明する模式図。
【
図5】実施例2の発電素子の製造方法の一例を説明する模式図。
【
図6】実施例2の発電素子の起電力の時間変化の一例を示す図。
【
図7】実施例3の発電素子の構成の一例を説明する模式図。
【
図8】実施例3の発電素子の製造方法の一部の一例を説明する模式図。
【
図9】実施例4の発電素子の構成の一例を説明する模式図。
【
図10】比較例2の発電素子の構成の一例を説明する模式図。
【
図11】比較例3の発電素子の構成の一例を説明する模式図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の好適な実施形態について、添付図面を参照して詳細に説明する。なお、本明細書の開示は下記実施形態に限定されるものではなく、本明細書の開示の趣旨に基づき種々の変形(各実施例の有機的な組合せを含む)が可能であり、それらを本明細書の開示の範囲から除外するものではない。即ち、後述する各実施例及びその変形例を組み合わせた構成も全て本明細書に開示の実施形態に含まれるものである。
【0013】
<第1実施形態>
第1実施形態に係る発電素子は、磁石を振動させる代わりに力の変化で磁束密度を変化させる逆磁歪現象を利用して発電を行う発電素子である。本実施形態に係る発電素子は、バイモルフ型の逆磁歪発電素子であって、それぞれの磁歪材料に印加される磁場の方向を逆向きにすることにより、コイルの数を低減することを特徴とする。
【0014】
(発電素子の構成)
本実施形態の発電素子の構成を、
図1(a)、
図1(b)を参照して説明する。
図1(a)は本実施形態の発電素子の構成を説明する上面模式図、
図1(b)は本実施形態の発電素子の構成を説明する
図1(a)A-B線の断面模式図である。
【0015】
本実施形態の発電素子100は、保持部106によって保持されており、連結板101、磁歪板102aと磁歪板102bで構成される磁歪部102、磁石103aと磁石103bで構成される磁石部103、コイル104、非磁性領域105を有する。なお、下記において、ある部材とある部材との「固定」は、接するように固定されていてもよいし、異なる物質を介して固定されていてもよい。すなわち、物理的に2つの部材が固定されている状態であればよい。
【0016】
連結板101は、一端が磁歪部102に固定されており、圧縮応力や引張応力などの外力を受けて振動する。連結板101の連結方法は、磁歪部102と連結板101が強固に固定できればよく、特に限定されるものではないがレーザー溶接、接着剤による接着、はんだ接合、超音波接合もしくはボルト-ナットによる固定等が利用できる。また、連結板101は圧縮応力や引張応力などの外力が連続的に印加されるため、延性を有する材料が好ましい。さらに、連結板101の材料は磁歪部102との磁気回路構成によって選択される。そのため、磁気回路を構成する要素として連結板101を用いる場合は、例えば炭素鋼、フェライト系ステンレス等(SUS430等)もしくはマルテンサイト系ステンレス等(SUS420J2等)磁性材料が用いられる。一方、磁気回路を構成する要素として連結板101を用いない場合は、例えばオーステナイト系ステンレス等(SUS304やSUS303,SUS316等)の非磁性材料が用いられる。
【0017】
また、連結板101は、
図1(b)の上下方向に振動するように力が印加される。ここで、
図1(b)における上下方向の振動とは、紙面の面内方向の上下であり、
図1(a)でいうと、紙面に垂直な方向の振動となる。但し、連結版の振動は、結果として発電できるのであれば、
図1(b)における上下方向の振動に限定されるものではなく、たとえばねじり振動等も利用できる。連結板101には、振動の機械的な減衰を低減するためにばね材などの弾性体を用いてもよい。
図1(b)の上下方向の振動を誘起する力は、たとえば保持部106が上下に振動する振動源に固定されていることで生じる地動加振の印加、もしくは連結板101の接続部と逆の先端に力を印加し弾くといった動作によって生じることができる。なお、上記の力の印加方法はあくまで一例であり、磁歪部102に力が印加できるような方法であれば良い。さらに、上記の保持板101に用いられる材料は一例であってこれに限定されない。
【0018】
磁歪部102を構成する磁歪板102aと磁歪板102bは、磁歪材料を含む部材である。磁歪部102は圧縮応力、引張応力が連続的に印加されるため、延性を有する磁歪材料が含まれることが好ましい。磁歪材料の種類は特に限定されるものではないが、好適には鉄‐ガリウム合金、鉄‐コバルト合金、鉄‐アルミニウム合金、鉄‐ガリウム‐アルミニウム合金もしくは鉄‐シリコン‐ホウ素合金等の既知の磁歪材料が用いられる。また、磁歪部102の形状は、連結板101と連結できる形であればよく、特に限定されるものではないが、好適には直方体、円柱等の形状が用いられる。
【0019】
磁石部103を構成する磁石103aと磁石103bは、磁歪板102aと磁歪板102bを逆方向に磁化するために取り付けられる。磁石103aと磁石103bには、特に限定されるものではないが、ネオジム磁石やサマリウムコバルト磁石等が用いられる。
【0020】
また、特に限定されるものではないが、磁石103aと103bの磁極の向きは
図1(b)の断面模式図に図示されているように、上下逆であるような構成が考えられる。ただし、
図1(b)の断面模式図の磁石の磁極の向きはあくまで一例であり、図示されたものとN極、S極が逆でもよい。すなわち、磁石103aと磁石103bは、互いに異なる磁極面が磁歪部102に固定されていればよい。さらに、磁石の配置や数は、磁歪板102aと磁歪板102bが逆方向に磁化されるのであれば特に上記に限定されるものではない。また、磁石として、特に限定されるものではないが、ネオジム磁石やサマリウムコバルト磁石等が用いられる。さらに、磁石の配置や数、磁歪板に固定される磁極面などは、磁歪板102aと磁歪板102bが逆方向に磁化されるのであれば特に上記に限定されるものではない。
【0021】
コイル104は、磁歪板102aと磁歪板102bのそれぞれ少なくとも一部を内包するように配置されており、電磁誘導の法則に従い、磁歪板102aと磁歪板102bとで生じる磁束の時間変化に応じて電圧を生じる。これにより、2つの磁歪板の間の距離に依らず、コイルの巻き数を増やすことができる。
【0022】
コイル104の材質は、特に限定されるものではないが、好適には銅線が用いられる。
【0023】
非磁性領域105は、特に限定されるものではないが、材質としては気体や固体が用いられる。好適には空気、または延性を有する非磁性金属、もしくはオーステナイト系ステンレス等(SUS304やSUS303,SUS316等)が用いられる。また、非磁性領域105は連結板101と一体でもよい。
【0024】
(作用)
本実施形態に係る発電素子100は、磁束の変化をコイル104によって電圧に変換する電磁誘導方式の発電素子である。電磁誘導では以下の(式1)に従い起電力Vが生じる。
V=N×ΔΦ/Δt・・・(式1)
【0025】
ここで、Nはコイル104の巻き数、ΔΦは時間Δtでの磁束の変化量である。なお、コイルの巻き数は多い方が起電力は大きくなるが、仮に同じ体積で巻き数を増やそうとするとコイルの線径を小さくする必要があり、結果として、コイルの抵抗が大きくなってしまう。この場合、実際に回路等で利用できる電力は小さくなる。すなわち、実際に回路等で利用できる電力を大きくするためには、コイルの体積を大きくできるような構成が重要である。
【0026】
本実施形態に係る発電素子100は、前記磁束の変化ΔΦを逆磁歪現象によって生じさせる発電素子である。逆磁歪現象とは、応力に応じて透磁率が変化する現象である。例えば、磁歪材料に圧縮応力が印加されると、透磁率は小さくなり、引張応力が印加されると透磁率は大きくなる。透磁率の大小は磁気回路における磁気抵抗の大小と関連するため、結果として磁歪材料への応力の印加は、磁歪材料中の磁束の変化を生じる。したがって、磁歪材料に時間変化する応力を印加することで、磁束の時間変化を生じ、(式1)に従い起電力を生じる。
【0027】
本発明者らは鋭意検討の結果、二つの磁歪板に応力が逆に印加される発電装置について、二つの磁歪板に逆方向の磁場を印加する構成をとることにより、一つのコイルで大きな起電力が得られることを見出した。
【0028】
以下に、
図2を参照して、本実施形態の発電素子100で大きな起電力が得られる原理について記載する。
【0029】
図2は、本実施形態の発電素子100の一時期における印加外部磁場、および印加応力の方向の一例を断面模式図に示した図である。
図2(a)が外部磁場の方向、
図2(b)が印加応力の方向である。外部磁場の方向は磁石の位置関係で決まるため、時間変化せずに一定の方向に定まる。さらに、本実施形態においては磁歪板102aと磁歪板102bに印加される外部磁場の方向はそれぞれ逆の方向になるように磁石の位置が調整されている。一方、印加応力の方向は時間変化する。すなわち、例えば、磁歪板102aに対して、引張応力が加わることもあれば、圧縮応力が加わることがある。また、磁歪板102bに対して、引張応力が加わることもあれば、圧縮応力が加わることがある。なお、磁歪板102aと磁歪板102bそれぞれに印加される応力の方向の関係については常に逆の方向となる。すなわち一方に引張応力が印加されている場合は一方は圧縮応力が印加される。
【0030】
ここで、
図2(b)において、磁歪板102aに引張応力、磁歪板102bに同じ大きさの圧縮応力がΔtの間に印加された場合を考える。
図2(a)の磁歪板102aの磁場の方向を正の方向とすると、磁歪板102aは引張応力により磁気抵抗が下がるため+ΔΦの磁束変化を生じる。一方、磁歪板102bは圧縮応力により磁気抵抗が上がるため磁歪板102bの磁場の方向に対して-ΔΦの磁束変化を生じる。しかしながら、磁歪板102bの磁場の方向は
図2(a)で図示している通り、磁歪板102aと逆の方向であるため、磁束の変化としては-(-ΔΦ)=+ΔΦとなる。結果として、磁歪板102aと磁歪板102bの磁束変化は同一の方向となり、磁歪板102aと磁歪板102bの合計の磁束変化はΔΦ+ΔΦ=2ΔΦとなる。すなわち、二つの磁歪板で構成される磁歪部102をコイル104が内包することにより、一つのコイルで二つの磁歪板において生じる磁束変化を起電力に変換することができる。なお、仮に本実施形態の発電素子100の特徴である、二つの磁歪板に応力が逆に印加される発電機において磁場の方向を逆にするという構成をとらない場合は、前記の磁歪板102bの磁束の変化が-ΔΦのままである。その場合は、磁歪板102aと磁歪板102bの合計の磁束変化はΔΦ-ΔΦ=0となり、一つのコイルでは二つの磁歪板に生じる磁束変化を起電力に変換できない、または一つの磁歪板により生じる起電力よりも小さくなる。
【0031】
上記によれば、本実施形態に基づく構成をとることにより発電素子の発電量を向上できる。具体的には磁歪板102a及び磁歪板102bを、印加される応力の方向が互いに逆方向になるように配置し、且つ、磁石部103を、磁歪板102a及び磁歪板bに印加される磁場の方向が互いに逆方向になるように配置する。この構成により、コイル104において生じる磁束変化を無駄なく起電力に変換することができるため、発電量が向上する。さらに、バイモルフ型の発電素子において、コイル104を、2つの磁歪板を内包するように配置することにより、コイル104の巻き数を、領域的な制限を受けずに増やすことができるため、発電量をさらに向上させることができる。また、本実施形態の発電素子100の構成によれば、磁歪棒にあらかじめコイルを巻く必要がないため、磁歪棒を溶接等で接着する際にコイルの断線や短絡といった製造上の問題を低減することができる。
【実施例】
【0032】
以下に、具体的な実施例をあげて本発明を詳しく説明する。なお、本発明は下記の実施例の構成や形態に限定されるものではない。
【0033】
[実施例1]
(発電素子の製造方法)
本実施例では、
図1に示す発電素子を作製した。以下で各製造工程について
図3(a)~(e)を参照して説明する。
【0034】
図3(a)~(e)の各図の上図はそれぞれ上面模式図、および下図は上面模式図で図示されているA-B線の断面模式図である。
【0035】
まず、連結板101として厚さ1.5mm、幅16mm、長さ35mmのばね用のオーステナイト系ステンレスであるSUS304-CSPを用い、保持用板301として、厚さ1.5mm、幅16mm、長さ5mmのSUS304を用いた。オーステナイト系ステンレスを用いた理由は非磁性金属であるため、磁歪板102aと磁歪板102bの磁気回路に影響を与えないためである。また、ばね材を用いた理由は発電性能に関連する発電素子の機械減衰が通常のステンレス材料を用いた場合よりも小さいことが検討の結果明らかになったためである[
図3(a)]。
【0036】
次に、磁歪板102a、磁歪板102bとして厚さ0.5mm、幅15mm、長さ25mmの鉄‐ガリウム合金を用い、エポキシ系の接着剤によって連結板101と保持用板301と接着した。そののち、磁歪板の稜線のうち、連結板101と保持用板301に接している稜線についてレーザー溶接を行い接合した[
図3(b)]。
【0037】
続いて、磁歪板、連結板に発電素子をボルトなどで固定するための保持用ネジ穴302を作製した。このネジ穴によって、様々な場所への設置が可能となる。本実施例の発電量評価では、光学定盤上にネジ穴の開いたスペーサーを設置し、前記スペーサーに前記保持用ネジ穴302を通してボルトで固定した[
図3(c)]。
【0038】
次に、磁石103aと磁石103bとして、厚さ1.5mm、幅12mm、長さ1.5mmのネオジム磁石を用いた。磁石103aと磁石103bはそれぞれ
図3(d)に示すように磁極の向きが逆になるように挿入し、挿入後エポキシ系接着剤によって磁歪板102aと磁歪板102bの間に接着し固定した[
図3(d)]。
【0039】
最後にコイル104として、線径0.2mmの銅線を用いた二千巻の空芯コイルを磁石103aと磁石103bの間の領域に、磁歪板102aと磁歪板bを内包するように挿入し、電気絶縁ワニスによって固定した[
図3(e)]。
【0040】
(発電素子の評価)
以上の様に作製した発電素子について、連結板の先端を弾き、コイル104に発生した開放電圧をオシロスコープで測定することにより発電性能の評価を行った。弾く際の印加力は、徐々に印加力を上げていった際に起電力が飽和する印加力を用いた。この印加力は発電素子構成によってさまざまな値となるが、発電素子の最大の発電性能といえるため採用した。また、発電性能の定量的な指標として、オシロスコープで測定した電圧波形から以下の(式2)により発電量Pを計算したものを用いた。
P=Σ(V(t))2/(4×R)×Δt・・・(式2)
【0041】
V(t)はオシロスコープで測定した時間tにおける開放電圧、Rはコイルの電気抵抗、Δtはオシロスコープの時間分解能、Σは時間tについて総和を取るという意味である。この発電量Pの式では、コイルのインダクタンスによる効果は除いているが、これは本実施例、および比較例では同様の寸法のコイルを用いるため、相対的な比較が可能であるためである。上記の方法による測定、評価の結果、コイルの電気抵抗は46Ω、開放電圧の最大値は12V、発電量Pは(式2)から1.2mJであった。
【0042】
[実施例2]
(発電素子の製造方法)
本実施例では、
図4に示す発電素子を作製した。本実施例のように磁歪板102aと102bの稜線の全体をばね性のある弾性体を含む連結板により支持することによって、機械的な減衰が低減されるため発電量が向上することが期待できる。
【0043】
以下で各製造工程について
図5(a)~(e)を参照して説明する。
【0044】
図5(a)~(e)の各図の上図はそれぞれ上面模式図、および下図は上面模式図で図示されているA-B線の断面模式図である。
【0045】
まず、連結板401として、厚さ1.5mm、幅16mm、長さ55mmのばね用のオーステナイト系ステンレスであるSUS304-CSPを用いた。本実施例の連結板401は保持部と非磁性部を兼ねている。また、連結板には磁石103a、磁石103bを内蔵するための穴402aと穴402b、および保持用のネジ穴403をあらかじめ開けておく[
図5(a)]。
【0046】
次に、磁歪板102bとして厚さ0.5mm、幅15mm、長さ25mmの鉄‐ガリウム合金を用い、エポキシ系の接着剤によって連結板401と接着した。そののち、連結板401と接している磁歪板の稜線についてレーザー溶接を行い接合した[
図5(b)]。
【0047】
続いて、磁石103aと磁石103bとして、厚さ1.5mm、幅12mm、長さ1.5mmのネオジム磁石を用いた。磁石103aと磁石103bはそれぞれ
図5(c)に示すように磁極の向きが逆になるように挿入した。挿入の際、エポキシ系接着剤によって磁歪板102bと接着し固定した[
図5(c)]。
【0048】
次に、磁歪板102aとして厚さ0.5mm、幅15mm、長さ25mmの鉄‐ガリウム合金を用い、エポキシ系の接着剤によって連結板401、および磁石103a、磁石103bと接着した。そののち、連結板401と接している磁歪板の稜線についてレーザー溶接を行い接合した[
図5(d)]。
【0049】
最後にコイル104として、線径0.2mmの銅線を用いた二千巻の空芯コイルを磁石103aと103bの間の領域に磁歪板102aと磁歪板bを内包するように挿入し、電気絶縁ワニスによって固定した[
図5(e)]。
【0050】
(発電素子の評価)
以上の様に作製した発電素子について、実施例1と同様に発電性能の評価を行った。オシロスコープで測定した電圧波形の一例を
図6に示す。評価の結果、コイルの電気抵抗は46Ω、開放電圧の最大値は14V、発電量Pは3.2mJであった。
【0051】
[実施例3]
(発電素子の製造方法)
本実施例では、
図7に示す発電素子を作製した。本実施例のように磁石を磁歪板102a、磁歪板102bで挟まない構成にすることで、製造プロセスを簡易にできる。ただし、連結板701の厚さが2mm以下であるような場合は連結板が非磁性であっても、磁石103aと連結板702a、磁石103bと連結板702bの間で磁気回路が閉じてしまう。結果として磁歪板102aと磁歪板102bに磁場が印加されなくなり、発電量は小さくなってしまう。すなわち、本実施例3は連結板701が厚い場合に大きな発電量を得るための構成である。
【0052】
以下で各製造工程について
図8(a)~(c)を参照して説明する。
【0053】
まず連結板701として、厚さ1.5mm、幅16mm、長さ55mmのばね用のオーステナイト系ステンレスであるSUS304-CSPを用いた。本実施例の連結板701は保持部と非磁性部を兼ねている。また、連結板には保持用のネジ穴801をあらかじめ開けておく[
図8(a)]。
【0054】
次に、磁歪板102a、磁歪板102bとして厚さ0.5mm、幅15mm、長さ25mmの鉄‐ガリウム合金を用い、エポキシ系の接着剤によって連結板701と接着した。そののち、連結板701と接している磁歪板の稜線についてレーザー溶接を行い接合した[
図8(b)]。
【0055】
続いて、コイル104として、線径0.2mmの銅線を用いた二千巻の空芯コイルを磁歪板102aと磁歪板bを内包するように挿入し、電気絶縁ワニスによって固定した[
図8(c)]。
【0056】
最後に、磁石103aと磁石103b、連結板701aと連結板701bとして、厚さ1.5mm、幅12mm、長さ1.5mmのネオジム磁石を用いた。磁石はそれぞれ
図7に示すように磁歪板102aと磁歪板102b内の磁場の向きが逆になるようにコイルの両端の磁歪板上にエポキシ系接着剤を用いて接着した[
図7]。
【0057】
(発電素子の評価)
以上の様に作製した発電素子について、実施例1と同様に発電性能の評価を行った。評価の結果、コイルの電気抵抗は46Ω、開放電圧の最大値は10V、発電量Pは0.4mJであった。
【0058】
[実施例4]
(発電素子の製造方法)
本実施例では、
図9に示す発電素子を作製した。本実施例のように連結板101を磁性金属とすることで、磁石を一つに削減することができる。
【0059】
製造工程については、実施例1の
図3と同様であるが、磁石103bがないこと、および連結板の寸法、材質の違いが特徴である。連結板101は実施例1と異なり磁性金属である炭素鋼やフェライト系ステンレス等(SUS430等)、マルテンサイト系ステンレス等(SUS420J2等)を用いることができる。本実施例ではSUS420J2を用い、厚さ1.5mm、幅16mm、長さ56.5mmとした。
【0060】
(発電素子の評価)
以上の様に作製した発電素子について、実施例1と同様に発電性能の評価を行った。評価の結果、コイルの電気抵抗は46Ω、開放電圧の最大値は4V、発電量Pは0.2mJであった。
【0061】
[比較例1]
(発電素子の製造方法)
本比較例では、
図4に示す実施例2において磁石の磁極の方向が同じ場合の発電素子を作製した。製造方法は
図5と同様であるが、
図5(c)において磁極の方向が実施例と異なり磁石103aと磁石103bで同じという点が異なる。
【0062】
(発電素子の評価)
以上の様に作製した発電素子について、実施例1と同様に発電性能の評価を行った。評価の結果、発電を観測することはできなかった。
【0063】
[比較例2]
(発電素子の製造方法)
本比較例では、
図10に示す発電素子を作製した。製造プロセスは
図8と同様であるが、磁石の位置が異なる。
図10のような磁石の位置とすることで磁歪板102aと磁歪板102bには同一方向の磁場が印加される。
【0064】
(発電素子の評価)
以上の様に作製した発電素子について、実施例1と同様に発電性能の評価を行った。評価の結果、発電を観測することはできなかった。
【0065】
[比較例3]
(発電素子の製造方法)
本比較例では、
図11に示す発電素子を作製した。製造プロセスを以下に記す。あらかじめコイル111aを巻いた磁歪板102a、コイル111b(厚さ0.5mm、幅15mm、長さ25mm)を巻いた磁歪板102bを準備する。準備した磁歪板102をSUS304-CSP製の連結板101(厚さ1.5mm、幅15mm、長さ35mm)にエポキシ系樹脂で接着、その後コイルの断線に注意しながら、レーザー溶接を行い接合する。磁石103aと磁石103bは
図11に示すように配置する。この配置により、磁歪板102aと磁歪板102bには同一の方向の磁場が印加される。また、前記コイルをそれぞれの磁歪板102aと磁歪板102bに巻くため、磁歪板102aと磁歪板102bの間の距離による制約から、0.2mmの銅線を用いたコイルでは百八十巻程度しか巻くことができなかった。
【0066】
(発電素子の評価)
以上の様に作製した発電素子について、実施例1と同様に発電性能の評価を行った。評価の結果、開放電圧の最大値は2V、発電量Pは0.1mJであった。
【0067】
以上の結果から、本発明では、磁歪棒を増やしてもコイルの設置領域が発電素子の構造に制限されることなくかつコイルを一つ設置するだけで発電量を向上できることが分かる。
【0068】
本発明の実施形態及び実施例について具体的に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。本発明は技術的思想に基づく各種の変形が可能である。例えば、上述の実施形態において挙げた数値、構成要素はあくまでも一例に過ぎない。必要に応じてこれと異なる数値、構成要素を用いても良い。例えば、本実施例ではコイルの巻き数は二千巻であったが、設置空間以外の制限はないためより大きな巻き数にしてもよい。その場合は、前記で説明した比較例との発電量の差はさらに大きくなる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
上述の実施形態及び実施例の発電素子を用いれば、既存の磁歪発電機よりも大きな発電量が得られるため、発電機の小型化が可能である。したがって、これまで設置が困難であったような大きさの機器の発電機として特に有効である。例えば、携帯機器等のための発電機として用いることができる。また、振動を発生するような産業機器や事務機、医療機、または自動車や鉄道車両、航空機、重機、船舶などの筐体に設置することで、IoT機器を含む各種機器の電力源として用いることも期待できる。なお本発明は、発電機の性能を向上することができるため、上記で記載した分野以外の幅広い分野での応用が可能である。
【符号の説明】
【0070】
101 連結板
102a 第一の磁歪板
102b 第二の磁歪板
103a 第一の磁石
103b 第二の磁石
104 コイル
105 非磁性領域
106 保持部