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特許7483339電池用セパレーター、電池、及び電池用セパレーターの製造方法
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  • 特許-電池用セパレーター、電池、及び電池用セパレーターの製造方法 図1
  • 特許-電池用セパレーター、電池、及び電池用セパレーターの製造方法 図2
  • 特許-電池用セパレーター、電池、及び電池用セパレーターの製造方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-07
(45)【発行日】2024-05-15
(54)【発明の名称】電池用セパレーター、電池、及び電池用セパレーターの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/44 20210101AFI20240508BHJP
   H01M 50/489 20210101ALI20240508BHJP
   H01M 50/403 20210101ALI20240508BHJP
【FI】
H01M50/44
H01M50/489
H01M50/403 E
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019171115
(22)【出願日】2019-09-20
(65)【公開番号】P2021048100
(43)【公開日】2021-03-25
【審査請求日】2022-07-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野上 武男
(72)【発明者】
【氏名】國谷 繁之
(72)【発明者】
【氏名】安西 晋吾
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雄也
(72)【発明者】
【氏名】松井 隼司
【審査官】福井 晃三
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-338292(JP,A)
【文献】特開2014-157674(JP,A)
【文献】特開平06-076860(JP,A)
【文献】特開2020-140848(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/40-50/497
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池缶内に、正極と、負極と、水溶性電解液を備えるインサイドアウト型のアルカリ電池において、前記正極と前記負極とを隔離する有底筒状のセパレーターであって、
不織布からなり、
前記電池缶内において、前記電池缶の底部側に位置するセパレーター端部の第1領域と前記第1領域と対称端部に位置する第2領域と前記第1領域と前記第2領域の間に位置する中央領域とを有し、
前記第1領域及び前記第2領域における前記不織布の電解液に対する親液性と、前記中央領域における前記不織布の電解液に対する親液性とが異なっており、
前記第1領域と前記第2領域とが、前記中央領域に対して相対的に疎液性である、
電池用セパレーター。
【請求項2】
前記電池缶内に、環状に形成された前記正極と、当該正極の内径部分に、請求項1に記載の前記セパレーターを介して前記負極が配置されてなる発電要素が電解液とともに密封されてなるインサイドアウト型の電池。
【請求項3】
請求項1に記載の電池用セパレーターの製造方法であって、
疎液性を有する不織布からなる基材の一部を界面活性剤により親液処理することで、前記第1領域及び前記第2領域における前記不織布の電解液に対する親液性と、前記中央領域における前記不織布の電解液に対する親液性とを異ならせる、電池用セパレーターの製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の電池用セパレーターの製造方法であって、
疎液性を有する不織布からなる基材の全部を界面活性剤により親液処理するとともに、前記基材の一部を撥水剤により疎液処理することで、前記第1領域及び前記第2領域における電解液に対する親液性と、前記中央領域における電解液に対する親液性とを異ならせる、電池用セパレーターの製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載の電池用セパレーターの製造方法であって、
親液性を有する不織布からなる基材の一部を撥水剤により疎液処理することで、前記第1領域及び前記第2領域における前記不織布の電解液に対する親液性と、前記中央領域における前記不織布の電解液に対する親液性とを異ならせる、電池用セパレーターの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電池用セパレーター、電池、及び電池用セパレーターの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電池の構造として、インサイドアウト型と呼ばれるものがある。インサイドアウト型の電池としては、円筒形の電池缶を備えたアルカリ乾電池や、以下の特許文献1に記載されているボビン形非水電解液電池などがよく知られている。インサイドアウト型の電池は、有底筒状の電池缶内に、環状に成形された正極合剤が圧入された状態で収納されているとともに、その環状の正極合剤の内方に負極がセパレーターを介して配置されてなる。
【0003】
図1にインサイドアウト型の電池の一例として、LR6型のアルカリ乾電池1を示した。この図1では、円筒軸100の延長方向を上下(縦)方向としたときの縦断面図を示しており、アルカリ乾電池1は、有底筒状の金属製電池缶2、環状に成形された正極合剤3、この正極合剤3の内側に配設された有底円筒状のセパレーター4、亜鉛合金を含んでセパレーター4の内側に充填される負極ゲル5、この負極ゲル5中に挿入された金属製の負極集電子6、皿状の金属製負極端子板7、樹脂製の封口ガスケット8などにより構成される。この構造において、正極合剤3、セパレーター4、負極ゲル5が、電解液の存在下でアルカリ乾電池1の発電要素を形成する。
【0004】
なお図1を含めた以下の各図では、電池缶2の底部側を下方として上下方向を規定することとし、電池缶2の底部を下方にした状態を正立状態とする。また円筒軸100や上下の各方向についての規定、および正立と倒立の定義は、組み立て済みのアルカリ乾電池1や電池缶2だけではなく、アルカリ乾電池1を構成する部材(正極合剤3、セパレーター4など)に対しても採用することとする。
【0005】
電池缶2は、正極合剤3に直接接触することにより、正極集電体を兼ねる。また電池缶2の下端には正極端子9が下方に突出するように形成されている。皿状の負極端子板7は、フランジ状の縁がある皿状で、正極端子9を下方としたとき、その皿を伏せた状態で電池缶2の開口に封口ガスケット8を介してかしめられている。
【0006】
負極ゲル5中に挿入された棒状の負極集電子6は、上端に円板状の頭部61を備えて、その頭部61の下面に下方に延長する棒状の胴部62が一体的に形成されてなり、頭部61の上面63が皿状の負極端子板7の下面71に溶接されて電池缶2内に立設した状態で固定されている。なお負極端子板7、負極集電子6および封口ガスケット8は、封口体としてあらかじめ一体に組み合わせられており、封口ガスケット8が、電池缶2の開口縁部と、負極端子板7におけるフランジ状の縁とに挟持されて電池缶2が封口される。なお、以下の非特許文献1には一般的なアルカリ乾電池の構造や製造手順などが記載されている。
【0007】
ところで、上記のアルカリ乾電池1において、セパレーター4は所定の形状(例えば、矩形状)に裁断された不織布を熱溶着することで有底円筒状に成形したものであり、このセパレーター4の基本機能は、正負極間(3-5)を絶縁して内部短絡を防止するとともに、電解液を吸収することで、正負極間(3-5)でイオンを透過させることにある。
【0008】
なお、不織布を有底円筒状のセパレーター4に成形する手順の一例を図2に示した。図2(A)~(D)は矩形に裁断された1枚の不織布40を用いてセパレーター4に成形する手順を示しており、まず図2(A)に示したように、柱状の治具50を用いるなどして不織布40を円筒状に成形する。なお、図2に示した例では、円筒軸100周りに不織布を二回巻回した、所謂「二重巻き」になっている。
【0009】
次いで、図2(B)に示したように後に底部となる円筒の下端側43を内方に折り曲げる予備成形を行い、その上で図2(C)に示したように、加熱手段を備えた中空半球状の治具51の内面にその予備成形した領域を押し当てる。また、円筒状の胴部44を、加熱手段を備えた円環状の治具52に挿通しつつ、その治具52を上下方向に移動させる。円環状の治具52における加熱手段は、例えば、円環状の枠体の内面でセパレーター4の縁辺41を中心とした所定幅の領域にヒーターなどを配置することで構成すればよい。それによって図2(D)に示したように、不織布40における縁辺41を中心とした所定幅の範囲が上下方向に延長する帯状の領域42で胴部44に溶着され、不織布が溶融して半球状の底部45が形成されるとともに、胴部44における重複領域42も選択的に熱溶着される。このようにして上端に開口46を有して下端に半球状の底部45を有する有底円筒状のセパレーター4が完成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2001-273911号公報
【非特許文献】
【0011】
【文献】FDK株式会社、”アルカリ電池のできるまで”、[online]、[平成31年4月22日検索]、インターネット<URL:http://www.fdk.co.jp/denchi_club/denchi_story/arukari.htm>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
図1に示したように、インサイドアウト型の電池1におけるセパレーター4は、電池缶2内において、正負極間(3-5)を確実に絶縁するために、上端47が、正極合剤3の上端面31よりも上方となるように配置されている。しかしながら、インサイドアウト型の電池1では、セパレーター4において、正極合剤3と負極ゲル5とに対面している領域、あるいは対面していない領域における電解液に対する親和性に起因する問題が発生することがある。
【0013】
例えば、インサイドアウト型の電池がアルカリ乾電池などの水溶性電解液を備えた電池である場合、セパレーターを構成する不織布は、電解液を介した正負極間でのイオンの透過性を確保するために、親液性となっている。すなわち、水を溶媒とした電解液に対する親和性が高い「親水性」となっている。そして、不織布は、親水性を有する素材、あるいは親水性となるように加工された素材で構成されている。
【0014】
しかし、アルカリ乾電池1では、製造過程で電池缶2内にCuを含む異物が混入し、その異物が正極合剤3の上端面31に付着した場合、この異物が電解液によって溶解して銅イオンとなる。その銅イオンが電解液とともにセパレーター4を透過して負極側に移動すると、その銅イオンが負極側に達した時点で電子を受け取って金属の銅として析出する。析出した銅は、セパレーター4を貫通し、内部短絡を発生させる可能性がある。なお、銅は、負極集電子6を構成する真鍮に含まれており、アルカリ乾電池1の製造過程において、負極集電子6の表面が何かに擦れるなどして発生した真鍮の破片が、セパレーター4に対して正極合剤3側に混入する可能性がある。
【0015】
また、ボビン形のリチウム一次電池のように、非水系有機電解液を備えた電池では、セパレーターにおいて、正極合剤に対面する領域での親液性が災いし、正極合剤が過剰に電解液を吸収して膨潤し、合剤としての密度が低下する場合ある。正極合剤が形状を維持できず崩壊する可能性もある。そして、正極合剤の密度が低下したり崩壊したりすれば、正極と負極とが対向する領域における単位面積あたりの正極活物質の量が相対的に減り、放電性能が低下する。
【0016】
そこで本発明は、電解液に対する親和性に起因して発生する様々な問題を解決するための電池用セパレーター、そのセパレーターを備えた電池、および電池用セパレーターの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するための本発明の一態様は、電池缶内に、正極と、負極と、水溶性電解液を備えるインサイドアウト型のアルカリ電池において、前記正極と前記負極とを隔離する有底筒状のセパレーターであって、
不織布からなり、
前記電池缶内において、前記電池缶の底部側に位置するセパレーター端部の第1領域と前記第1領域と対称端部に位置する第2領域と前記第1領域と前記第2領域の間に位置する中央領域とを有し
前記第1領域及び前記第2領域における前記不織布の電解液に対する親性と、前記中央領域における前記不織布の電解液に対する親性とが異なっており
前記第1領域と前記第2領域とが、前記中央領域に対して相対的に疎液性である
電池用セパレーターである。また、上記電池用セパレーターを備えた電池も本発明の範囲としている。
【0018】
本発明のその他の態様は、上記電池用セパレーターの製造方法であって、
疎液性を有する不織布からなる基材の一部を界面活性剤により親液処理することで、前記第1領域及び前記第2領域における前記不織布の電解液に対する親性と、前記中央領域における前記不織布の電解液に対する親性とを異ならせる、電池用セパレーターの製造方法としている。

【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、電解液に対する親和性に起因して発生する様々な問題を解決するための電池用セパレーター、そのセパレーターを備えた電池、および電池用セパレーターの製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】一般的なアルカリ乾電池の構造を示す図である。
図2】アルカリ乾電池に用いられるセパレーターの製造手順を示す図である。
図3】実施例に係るセパレーターを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
実施例に係る電池用セパレーターについて、以下に添付図面を参照しつつ説明する。なお、以下の説明に用いた図面において、同一または類似の部分に同一の符号を付して重複する説明を省略することがある。ある図面において符号を付した部分について、不要であれば他の図面ではその部分に符号を付さない場合もある。
【0022】
===実施例===
実施例に係るセパレーターとしてアルカリ乾電池用のセパレーターを挙げる。実施例に係るセパレーター4は、図1に示した従来のアルカリ乾電池1に用いられるセパレーター4と同様に、不織布40を有底円筒状に成形したものである。しかし、実施例に係るセパレーター4は、アルカリ乾電池1の電池缶2内に配置された際に、正極合剤3と対向する領域とそれ以外の領域とで電解液に対する親和性が異なっている。
【0023】
図3に実施例に係るセパレーター104を示した。図3(A)は、実施例に係るセパレーター104を構成する不織布140を示しており、図3(B)は、図3(A)に示した不織布140を用いて作製した実施例に係るセパレーター104を示している。図3(A)に示したように、不織布140は、矩形状であり、図1に示したアルカリ乾電池1における上下方向と同様にしてセパレーター104の上下方向を規定すれば、不織布140は、セパレーター104として電池缶2内に配置された際に、正極合剤3と負極ゲル5とに狭持される上下中央の領域(以下、中央領域141と言うことがある)における電解液に対する親和性が、中央領域141に対して底部45側に位置することとなる領域(以下、第1領域142)と、正極合剤3の上端面31よりも上方となる領域(第2領域143と言うことがある)とにおける親和性と異なっている。なお、図2では、各領域(141、142、143)が異なる種類のハッチングで示されている。
【0024】
セパレーター104は、図2に示した手順と同様にして作製される。すなわち、セパレーター104は、図3(B)に示したように、不織布140が、電池缶2の円筒軸100周りに筒状に巻回されつつ、不織布140の縁辺41が胴部44に溶着され、さらに、下端側が筒の内方に折り曲げられた状態で溶着されて有底筒状に成形されたものである。なお、図3(B)に示したセパレーター104では、不織布140が、二重巻きされている。そして、実施例に係るセパレーター104がアルカリ乾電池1内に組み込まれた際、中央領域141では、親水性により、正負極間での放電反応が維持され、疎水性の第2領域143では、正極合剤3の上端面31に付着した金属製の異物に起因する内部短絡の発生を抑止する。また、実施例に係るセパレーター104は、正極合剤3と対面しておらず、放電反応に寄与しない底部を構成する第1領域142が疎水性となっている。そのため、実施例に係るセパレーター104は、正極合剤3と負極ゲル5とがセパレーター4を介して対面していない電池缶2内の底部側の領域で、電解液を吸収し難くなる。その結果、実施例に係るセパレーター104を備えたアルカリ乾電池1は、電解液が効率よく放電反応に供され、優れた放電性能を有するものとなる。
【0025】
===サンプル===
次に、実施例に係るセパレーター104の特性を評価するために、セパレーター4を構成する不織布40の種類が異なる各種LR6型アルカリ乾電池1をサンプルとして作製した。サンプルの構成や構造は、図1に示したアルカリ乾電池1と同じであるが、セパレーター4を構成する不織布40における、中央領域141、第1領域142、および第2領域143のそれぞれにおける電解液に対する親和性がサンプル毎に異なっている。そして、作製したサンプルの性能として、放電性能と、異物の混入による短絡の抑止性能とを評価した。
【0026】
<不織布>
各サンプルに用いられたセパレーター4は、セルロースおよびビニロンを主成分とした厚さ0.12mmの不織布を基材とし、その基材の全体、あるいは一部が親水性、あるいは疎水性となるように処理(以下、親和性処理と言うことがある)が施されたもの(以下、不織布40と言うことがある)からなる。なお、基材は、疎液性であり、一般的なアルカリ乾電池1は、この疎水性の基材に、界面活性剤(例えば、ポリオキシアルキルスルホン酸ナトリウム)を全面塗布して全体を親水性にした不織布40からなるセパレーター4を備えている。そして、界面活性剤を、基材の中央領域141、第1領域142、および第2領域143のそれぞれに部分的に塗布すれば、各領域における電解液に対する親和性を変えることができる。なお、各サンプルのセパレーター4は、二重巻きされた胴部44を有し、図2に示した作製手順と同様の手順で作製されたものである。
【0027】
<放電試験>
作製した各サンプルの放電性能を評価するために、各サンプルについて9個の個体を用意し、各個体について、1500mWの電力で2秒間放電させたのち、650mWの電力で28秒間放電する放電プロセスを1時間に10回行う放電試験を1サイクルとして、終止電圧1.05Vになるまでのサイクル数を調べた。そして、同じ種類のサンプルに属する9個の個体の平均サイクル数を求めた。
【0028】
<保存試験>
各サンプルについて20個の個体を用意し、サンプルの製造過程で、正極合剤3の上端面31に10gの真鍮を添加した。そして、作製したサンプルを20℃の温度で1ヶ月保存したのち、正負極間の電圧を測定し、各サンプルについて、電圧が所定の電圧(例えば、1.0Vなど)以下となる電圧不良が発生した個体の発生率を調べた。
【0029】
<試験結果>
以下の表1に,各サンプルが備えるセパレーター4を構成する不織布40の親和性処理条件と、放電試験および保存試験の結果とを示した。
【0030】
【表1】
表1において、サンプル1は、従来のアルカリ乾電池1に対応し、中央領域141、第1領域142、および第2領域143の全ての領域が親水処理された不織布40からなるセパレーター4を備えている。また、サンプル2~5のセパレーター4は、一部の領域(141、142、143)あるいは全部の領域(141~143)が疎液性(疎水性)となっている不織布40からなる。サンプル6は、サンプル1と同様に、基材の全体が親水処理された不織布40からなるセパレーター4を用いているが、不織布の坪量(g/m)が他のサンプルのものよりも大きい。すなわち、不織布40を構成する基材の密度が大きい。言い換えれば、サンプル6のセパレーター4の基材は、目が詰まった状態となっており、他のサンプルのセパレーター4に対し、電解液の吸収性が低い。すなわち、イオン透過性が低い。そして、サンプル7は、サンプル1と同じセパレーター4を用いつつ、正極合剤3の上端面31に疎水性の樹脂からなるリング状のカバーが配置されたアルカリ乾電池1である。
【0031】
表1に示したように、放電試験結果が、サンプル1の放電性能を100%としたときの相対値で示されている。サンプル2、4は、中央領域141が親水性で、第2領域143の親和性に拘わらず、第1領域142が疎水性となっている。そして、サンプル2、4では、サンプル1に対して放電性能が向上した。これは、図1に示したように、電池缶2内には、セパレーター4の底部45よりも下方に正極端子9などに対応する空間があり、第1領域142が親水性であると、この空間に放電反応に寄与しない電解液が吸収されてしまう。それによって放電反応に使われるべき電解液が無駄になってしまう。しかし、サンプル2、4では、セパレーター4の底部45となる不織布40の第1領域142が疎水性であるため、上述したように、電解液が効率的に放電反応に寄与し、放電性能が向上したものと考えることができる。
【0032】
しかし、サンプル2、4のうち、第2領域143が親水性の不織布40からなるセパレーター4を備えたサンプル4では、電圧不良発生率が80%となった。これは、正極合剤3の上端面31に添加した真鍮に由来するCuイオンが負極側に移動して金属銅として析出し、内部短絡が発生し易くなったものと考えることができる。一方、第2領域143が疎水性の不織布40からなるセパレーター4を備えたサンプル2では、保存試験において電圧不良が発生した個体がなかった。
【0033】
サンプル3は、第2領域143が疎水性になっている不織布40からなるセパレーター4を備えており、全個体において、保存試験による電圧不良が発生しなかった。しかし、サンプル3は、中央領域141と第1領域142とについては、サンプル1と同様に親水性であったため、サンプル1と同等の放電性能となった。
【0034】
また、サンプル5、6、7は、サンプル1に対して放電性能が劣化した。サンプル5は、中央領域141が疎水性の不織布40からなるセパレーター4を用いており、正負極間(3-5)でのイオンの透過性が阻害され、放電性能が50%にまで劣化した。また、中央領域141が親水性であるものの、坪量が他のサンプルに対して大きい不織布40からなるセパレーター4を用いたサンプル6についても、イオンが円滑に透過せず、放電性能が80%となった。
【0035】
なお、サンプル1と同じセパレーター4を用いながら、正極合剤3の上端面31に疎水性のカバーを配置したサンプル7では、放電性能が80%であった。これは、正極合剤3において、カバーに覆われた上端面31に電解液が十分に接触せず、放電反応が阻害されたためと考えることができる。
【0036】
===その他の実施例===
上記実施例に係るセパレーター104を構成する不織布140は、基材全体が親水処理された後に一部が疎水処理されたものであってもよい。あるいは、親水性の基材の一部が疎水処理されたものであってもよい。親水性の基材としては、例えば、親水処理されたポリプロピレン繊維を用いた不織布などが考えられる。なお、疎水処理には、例えば、フッ素系の撥水剤を用いることが考えられる。
【0037】
当然のことながら、各領域(141~143)における電解液に対する親和性は相対的なものである。アルカリ乾電池1用のセパレーター104であれば、中央領域141が、第1領域及び第2領域に対して相対的に親水性であればよい。そして、各領域(141~143)における電解液に対する親和性の程度は、放電性能や短絡の抑止性能を勘案して適宜に設定すればよい。そして、各領域(141~143)における電解液に対する親和性は、疎水性の基材に塗布する親液処理用の薬液の量、あるいは全面が親水処理された基材に対して用いる疎液処理用の薬液の量を調整するなどして調整することができる。
【0038】
実施例に係るセパレーター104を、ボビン形のリチウム一次電池など、非水有機電解液を備えたインサイドアウト型の電池(以下、非水電解液電池と言うことがある)に適用する場合は、図3(A)に示した不織布140において、第1領域142と第2領域143とを親液性にするとともに、中央領域141を疎液性とすればよい。それによって、セパレーター104は、中央領域141では電解液が過剰に吸収されず、正極合剤の密度の低下や崩壊を抑制することができる。また、正極合剤と負極(リチウム箔など)とによって狭持される中央領域141が疎液性であっても、親液性の第2領域143と第1領域142とを介してイオンが透過する。そのため、中央領域141が疎液性になっている実施例に係るセパレーター104を備えた非水電解液電池は、正負極間でのイオンの透過性が維持されつつ、正極合剤の密度の低下や崩壊が抑止され、放電性能に優れたものになる。
【0039】
なお、非水電解液電池に用いられるセパレーター104の各領域(141、142、143)における電解液に対する親和性は、上述したアルカリ乾電池1用のセパレーター104と同様にして調整することができる。すなわち、アルカリ乾電池1用のセパレーター104に用いた基材に対し、第1領域と第2領域とに親液(親水)処理を施せばよい。あるいは、基材の全領域(141~143)を親水処理した後、中央領域141に対して疎水処理してもよい。親水性の基材の中央領域141を疎水処理してもよい。
【符号の説明】
【0040】
1 アルカリ乾電池、2 電池缶、3 正極合剤、4,104 セパレーター、
5 負極ゲル、6 負極集電子、7 負極端子板、8 封口ガスケット、
9 正極端子、31 正極合剤の上端面、40,140 不織布、41 不織布の縁辺、
42 不織布同士の重複領域、44 セパレーターの胴部、
45 セパレーターの底部、46 セパレーターの開口、141 不織布の中央領域、
142 不織布の第1領域、143 不織布の第2領域
図1
図2
図3