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特許7483342寒天臭マスキング剤、並びにそれを含有する寒天及び寒天含有可食性組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-07
(45)【発行日】2024-05-15
(54)【発明の名称】寒天臭マスキング剤、並びにそれを含有する寒天及び寒天含有可食性組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 29/256 20160101AFI20240508BHJP
   A23L 27/00 20160101ALI20240508BHJP
【FI】
A23L29/256
A23L27/00 101Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019181587
(22)【出願日】2019-10-01
(65)【公開番号】P2020074757
(43)【公開日】2020-05-21
【審査請求日】2022-09-29
(31)【優先権主張番号】P 2018208843
(32)【優先日】2018-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000175283
【氏名又は名称】三栄源エフ・エフ・アイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 茜
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 潤
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-036334(JP,A)
【文献】特開平08-173063(JP,A)
【文献】特開2009-185228(JP,A)
【文献】特開平10-234331(JP,A)
【文献】特開2014-093980(JP,A)
【文献】特開2003-235476(JP,A)
【文献】特開平02-265558(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テビア抽出物、スクラロース、アスパルテーム、及びアセスルファムカリウムよりなる群から選択される少なくとも1種の甘味成分を含有する寒天臭マスキング剤。
【請求項2】
請求項1に記載する寒天臭マスキング剤を含有する寒天であって、
寒天中の寒天臭マスキング剤の含有量が、寒天臭マスキング剤の甘味の閾値以下であることを特徴とする寒天:
但し、セロオリゴ糖を下記の割合で含有する寒天を除く;
セロオリゴ糖:寒天=1:99~99.9:0.1(質量比)
【請求項3】
請求項1に記載する寒天臭マスキング剤及び寒天を含有する可食性組成物であって、
可食性組成物中の寒天臭マスキング剤の含有量が、寒天臭マスキング剤の甘味の閾値以下であることを特徴とする可食性組成物:
但し、セロオリゴ糖と寒天とを1:99~99.9:0.1の質量比で含有する可食性組成物を除く
【請求項4】
テビア抽出物、スクラロース、アスパルテーム、及びアセスルファムカリウムよりなる群から選択される少なくとも1種の甘味成分を寒天または寒天含有可食性組成物に配合することを特徴とする、寒天または寒天含有可食性組成物の寒天臭のマスキング方法
但し、下記の方法を除く;
(1)アセスルファムカリウム及びスクラロースを、寒天、クエン酸三ナトリウム、エリスリトール、L-アスコルビン酸、サトウキビ抽出物、グループフルーツエッセンス香料、赤色着色料、ムラサキイモ着色料、及び水を含む組成物に配合して、pH調整剤(クエン酸又はクエン酸ナトリウム)でpH3.7~3.8に調整する方法、
(2)寒天を含有する溶解液を、スクラロースが添加された可食性粉末からなるモールドに充填して加工成形することにより、ゼリー菓子表面にスクラロースを付着させる方法、
(3)ステビア抽出物、スクラロース、アスパルテーム、及びアセスルファムカリウムから選択される高甘味度甘味料を、セロオリゴ糖と寒天とを1:99~99.9:0.1の質量比で含有する組成物に配合する方法、
(4)水に寒天を加熱溶解させ、アスパルテームを加えて煮詰め、次いで生あんとアスパルテームとニゲロオリゴ糖シラップを添加した後、冷却しケーシングして水羊羹を調製する方法
【請求項5】
テビア抽出物、スクラロース、アスパルテーム、及びアセスルファムカリウムよりなる群から選択される少なくとも1種の甘味成分、その甘味の閾値以下の割合で寒天または寒天含有可食性組成物に配合する工程を有する、寒天臭が抑制された寒天または寒天含有可食性組成物の製造方法
但し、前記寒天含有可食性組成物から、セロオリゴ糖と寒天とを1:99~99.9:0.1の質量比で含有する寒天含有可食性組成物を除く
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は寒天臭マスキング剤に関する。また本発明は寒天臭マスキング剤を含有する寒天及び寒天含有可食性組成物に関する。さらに本発明は寒天臭が抑制されてなる寒天及び寒天含有可食性組成物の製造方法、並びに寒天及び寒天含有可食性組成物について寒天臭を抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
寒天はゲル化剤として食品に古くから用いられている食品多糖類である(非特許文献1)。寒天の原料はテングサ属(Gelidium)、オバクサ属(Pterocladia)、オゴノリ属(Gracilaria)、及びイタニソウ属(Ahnfeltia plicata)等の海藻であり、これらを単独または二種以上をブレンドして製造される。
【0003】
寒天の製造例としては、まず寒天原藻を水にて洗浄し、酢酸、硫酸、塩酸などの酸の存在下で、70~120℃で1~2時間熱水抽出し、その後、凝固性のゾル成分を抽出する。そして、高温状態のままで濾過して抽出成分と不溶物とを分離する。次に濾液を冷却してゲル化し、該ゲル化した抽出成分を凍結融解またはフィルタープレスして脱水を行う。さらに遠心分離機等により抽出成分から水分を除き、必要に応じて粉砕した後、乾燥する。また、一般にテングサ属、オバクサ属やイタニソウ属では行われることが少ないが、オゴノリ属原藻では熱水抽出の前処理として数%~20質量%、通常は4~10質量%の水酸化ナトリウム等を用いてアルカリ処理することによりゲル化能を高める処理もされている(特許文献1)。
【0004】
寒天は、菓子の材料に用いられる他、ほとんどカロリーがないことや、腸において油や糖分の吸収をさまたげることからダイエット食品として広く知られている。また、最近では、寒天摂取後、体内の胃酸によって分解生成するアガロオリゴ糖が、各種の生理的作用(抗炎症作用、抗関節炎作用、アトピー性皮膚炎抑制作用、解毒作用、発がん予防作用、美肌作用、腸管保護作用、網膜保護作用)を発揮することが報告されており、健康食品としても注目されている。
【0005】
しかし、その一方で、寒天には海藻臭といった特有の臭さ(寒天臭)があることが指摘されており、また経時的に臭いが劣化することも知られている。このため、寒天臭を抑制(マスキング)するための工夫が、料理方法や料理レシピも含めて種々提案されている。しかし、甘味成分を、甘味を呈さない量~甘味を呈する量で用いることで、寒天臭が抑制できることは従来知られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】「食品多糖類」(幸書房)p.113-125(2001年)
【文献】タカラバイオ株式会社ホームページの 健康食品事業「アガロオリゴ糖」のスクリーンショット画面https://agribio.takara-bio.co.jp/technology/kanten/
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、甘味成分を用いて、寒天または寒天含有可食性組成物について寒天臭を抑制(マスキング)するための技術を提供することを目的とする。より詳細には、第1に、本発明は寒天臭マスキング剤を提供することを目的とする。第2に、寒天臭が抑制されてなる寒天及び寒天含有可食性組成物を提供することを目的とする。第3に、寒天臭が抑制されてなる寒天及び寒天含有可食性組成物を製造する方法、換言すれば、寒天または寒天含有可食性組成物について寒天臭をマスキングする方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねていたところ、ラカンカ抽出物、ステビア抽出物、スクラロース、アスパルテーム、及びアセスルファムカリウムといった従来より甘味料として使用されている成分(以下、これらを総称して「甘味成分」と称する)に、寒天臭を抑制(マスキング)する作用があることを見出し、またその作用は甘味を呈さない量でも発揮することを確認した。これらの知見から、当該甘味成分を寒天臭マスキング剤として、寒天または寒天含有可食性組成物(例えば飲食物などの口腔用または経口用組成物)に配合することで、寒天臭が抑制された寒天、及び寒天含有可食性組成物が得られることを確認して本発明を完成した。
【0009】
本発明はかかる知見に基づいて、さらに研究を重ねて完成したものであり、下記の実施形態を有するものである。
【0010】
(I)寒天臭マスキング剤
(I-1)ラカンカ抽出物、ステビア抽出物、スクラロース、アスパルテーム、及びアセスルファムカリウムよりなる群から選択される少なくとも1種を含有する寒天臭マスキング剤。
(I-2)前記ラカンカ抽出物がモグロシドVを含有するものである(I-1)に記載する寒天臭マスキング剤。
(I-3)ステビア抽出物がレバウディオサイドAを含有するものである(I-1)または(I-2)に記載する寒天臭マスキング剤。
【0011】
(II)寒天、及びその製造方法
(II-1)(I-1)~(I-3)のいずれか1項に記載の寒天臭マスキング剤を含有する寒天。
(II-2)ラカンカ抽出物、ステビア抽出物、スクラロース、アスパルテーム、及びアセスルファムカリウムよりなる群から選択される少なくとも1種を、寒天に配合する工程を有する、寒天臭が抑制された寒天の製造方法。
【0012】
(III)寒天含有可食性組成物、及びその製造方法
(III-1)(I-1)~(I-3)のいずれか1項に記載の寒天臭マスキング剤及び寒天、または(II-1)に記載の寒天を含有する、可食性組成物。
(III-2)ラカンカ抽出物、ステビア抽出物、スクラロース、アスパルテーム、及びアセスルファムカリウムよりなる群から選択される少なくとも1種を、寒天を含有する可食性組成物に配合することを特徴とする、寒天臭が抑制された寒天含有可食性組成物の製造方法。
【0013】
(IV)寒天臭マスキング方法
(IV-1)ラカンカ抽出物、ステビア抽出物、スクラロース、アスパルテーム、及びアセスルファムカリウムよりなる群から選択される少なくとも1種を、寒天または寒天含有可食性組成物に配合することを特徴とする、寒天または寒天含有可食性組成物の寒天臭マスキング方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の寒天臭マスキング剤は、寒天、または寒天を含有する経口用または口腔用組成物(寒天含有可食性組成物)に対して用いられることで、これらの寒天臭を抑制(マスキング)することができる。特に寒天含有可食性組成物について寒天に起因して経時的に生じる臭い(劣化臭)を効果的にマスキングすることができる。つまり、本発明の寒天臭マスキング剤によれば、寒天、または寒天を含有する経口用または口腔用組成物に対して寒天臭(経時的に生じる劣化臭を含む)をマスキングする効果を発揮し、寒天臭が抑制されてなる寒天、または寒天を含有する経口用または口腔用組成物を調製し提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(I)寒天臭マスキング剤
本発明の寒天臭マスキング剤(以下、「本寒天臭マスキング剤」と称する)は、ラカンカ抽出物、ステビア抽出物、スクラロース、アスパルテーム、及びアセスルファムカリウムよりなる群から選択される少なくとも1種を含有することを特徴とする。
【0016】
(ラカンカ抽出物)
羅漢果(学名:Siraitia grosvenorii)は、中国を原産地とするウリ科ラカンカ属のつる性の多年生植物である。本発明が対象とするラカンカ抽出物は、産地の別を問わず、羅漢果の果実、好ましくは羅漢果の生果実から、水またはエタノール等の有機溶媒を用いて抽出されたモグロシドVを含有する抽出物である。モグロシドVは、ラカンカ抽出物に含まれているトリテルペン系配糖体であり、ショ糖(砂糖)の約300倍の甘味度を有していることが知られている甘味成分でもある。
【0017】
本寒天臭マスキング剤で用いられるラカンカ抽出物のモグロシドV含有量は、本発明の効果を奏することを限度として、特に制限されない。言い換えれば、本寒天臭マスキング剤において、モグロシドVは、ラカンカ抽出物から精製された状態で使用することもできるし、また、ラカンカ抽出物に含まれるモグロシドV以外のトリテルペン系配糖体(モグロール、モグロシドIE1、モグロシドIA1、モグロシドIIE、モグロシドIII、モグロシドIVa、モグロシドIVE、シメノシド、11-オキソモゴロシド、5α,6α-エポキシモグロシド)と混合した状態で使用することもできる。本発明において「ラカンカ抽出物」の用語には、これらの両方の意味が包含される。ラカンカ抽出物中のモグロシドVの含有量は、全体の10質量%以上であることが好ましい。より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上、よりさらに好ましくは40質量%以上であり、とりわけ好ましくは50質量%以上である。
【0018】
こうしたラカンカ抽出物は、羅漢果の果実から抽出し、さらに必要に応じて精製処理することで調製することも可能であるが、簡便には商業的に入手することができる。例えば、市販されているラカンカ抽出物として「FD羅漢果濃縮エキスパウダー」(7質量%又は15質量%モグロシドV含有物)、「サンナチュレ(登録商標) M30」(30質量%モグロシドV含有物)、「サンナチュレ(登録商標) M50」(50質量%モグロシドV含有品)[以上、いずれも三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製];並びに高純度ラカンカ抽出物(サラヤ株式会社製)等を例示することができる。
【0019】
(ステビア抽出物)
ステビアレバウディアナ・ベルトニ(Stevia Rebaudiana Bertoni)(本発明では「ステビア」と略称する)は、南米パラグアイを原産地とするキク科ステビア属に属する植物である。本発明が対象とするステビア抽出物は、産地の別を問わず、ステビアの葉又は茎などから、水またはエタノール等の有機溶媒を用いて抽出されたレバウディオサイドAを含有する抽出物である。レバウディオサイドAは、ステビア抽出物に含まれているステビオール配糖体であり、ショ糖(砂糖)の300~450倍の甘味度を有していることが知られている甘味成分でもある。
【0020】
本寒天臭マスキング剤で用いられるステビア抽出物のレバウディオサイドA含有量は、本発明の効果を奏することを限度として、特に制限されない。言い換えれば、本寒天臭マスキング剤において、レバウディオサイドAは、ステビア抽出物から精製された状態で使用することもできるし、また、ステビア抽出物に含まれるレバウディオサイドA以外のステビオール配糖体(ステビオサイド、レバウディオサイドB、レバウディオサイドC、レバウディオサイドD、レバウディオサイドE、レバウディオサイドM、ズルコサイドA、レブソサイド、ステビオールビオサイドなど)と混合した状態で使用することもできる。本発明において「ステビア抽出物」の用語には、これらの両方の意味が包含される。ステビア抽出物中のレバウディオサイドAの含有量は、制限されないが、全体の90質量%以上であることが好ましい。より好ましくは95質量%以上である。制限はされないが、より好ましい混合物として、レバウディオサイドAの含有量が全体の95質量%以上であり、その他の成分として他のステビオール配糖体の含有量が合計で1質量%以下、より好ましくはステビオサイド及びレバウディオサイドCの含有量が合計で0.2質量%以下であるステビア抽出物を例示することができる。なお、本発明が対象とするステビア抽出物には、α-グルコシルトランスフェラーゼ等を用いて、上記ステビア抽出物にグルコースやフルクトース等の糖を転移した酵素処理ステビア抽出物も含まれる。また、本発明で対象とするレバウディオサイドAには、α-グルコシルトランスフェラーゼ等を用いてレバウディオサイドAにグルコースやフルクトース等の糖を転移した酵素処理レバウディオサイドAも含まれる。好ましくは酵素非処理ステビア抽出物であり、また好ましくは酵素非処理レバウディオサイドAである。
【0021】
こうしたステビア抽出物は、ステビアの葉や茎等を原料として抽出し、さらに必要に応じて精製処理することで調製することも可能であるが、簡便には商業的に入手することができる。例えば、市販されているステビア抽出物として、「レバウディオJ-100」、及び「レバウディオAD」(以上、いずれも守田化学工業(株)製)などを挙げることができる。これらの製品はレバウディオサイドAを90質量%以上の割合で含有するレバウディオサイドA含有製品(ステビア抽出物)である。
【0022】
(スクラロース)
スクラロース(登録商標)(化学名: 1,6-Dichloro-1,6-dideoxy-β-D-fructofuranosyl-4-chloro-4-deoxy-α-D-galactopyranoside)は、ショ糖(砂糖)の約600倍の甘味度を有していることが知られている甘味成分である。水に溶けやすく、安定性に優れているため、甘味料としてだけでなく、従来より広く様々な用途で食品に使用されている成分である。ちなみにスクラロースの甘味の閾値は約5ppmである。これは商業的に入手することができ、例えば三栄源エフ・エフ・アイ株式会社から市販されている。
【0023】
(アスパルテーム)
アスパルテーム(化学名:N-(L-α-Aspartyl)-L-phenylalanine, 1-methyl ester)は、ショ糖(砂糖)の100~200倍の甘味度を有するアミノ酸に由来する甘味成分であり、フェニルアラニンのメチルエステルと、アスパラギン酸とがペプチド結合した構造を持つジペプチドのメチルエステルである。ちなみにアスパルテームの甘味の閾値は約28ppmである。これは商業的に入手することができ、例えば味の素株式会社から市販されている。
【0024】
(アセスルファムカリウム)
アセスルファムカリウムは、6-メチル-1,2,3-オキサチアジン-4(3H)-オン-2,2-ジオキシド(6-methyl-1,2,3-oxathiazine-4(3H)-one 2,2-dioxide) のカリウム塩であり、ショ糖(砂糖)の200倍もの甘味度を有する高甘味度甘味料である。ちなみにアセスルファムカリウムの甘味の閾値は約15ppmである。これは商業的に入手することができ、例えば「サネット」という商品名でがMCフーズスペシャリティー株式会社から市販されている。
【0025】
(本寒天臭マスキング剤)
本寒天臭マスキング剤は、前述するラカンカ抽出物、ステビア抽出物、スクラロース、アスパルテーム及びアセスルファムカリウムよりなる群から選択される少なくとも1種を含有するものであればよく、1種単独で含有するものであっても、また2種以上を組み合わせて含有するものであってもよい。なお、本寒天臭マスキング剤に含まれるラカンカ抽出物、ステビア抽出物、スクラロース、アスパルテーム又は/及びアセスルファムカリウムの割合は、寒天または寒天を含有する可食性組成物に添加配合することで、寒天臭を抑制するという目的に適うものであればよく、その限りにおいて、100質量%を限度として適宜設定することができる。
【0026】
2種以上を組み合わせる態様として、好ましくはラカンカ抽出物とステビア抽出物とが少なくとも含まれる組み合わせを例示することができる。ラカンカ抽出物とステビア抽出物との併用に用いるラカンカ抽出物及びステビア抽出物は、前述の通りである。ラカンカ抽出物として、好ましくはモグロシドVの含有量が30質量%以上、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上のものを用い、またステビア抽出物として好ましくは、レバウディオサイドAの含有量が90質量%以上、好ましくは95質量%以上のものである。このように、ラカンカ抽出物とステビア抽出物とを併用することで、ステビア抽出物を単独で使用する場合に生じ得るステビア抽出物特有の味質(苦味、後引き感)を抑えながらも、寒天臭マスキング作用を有する組成物を得ることができる。なお、ラカンカ抽出物とステビア抽出物との配合比は、本発明の効果を奏することを限度として特に制限されない。一例を挙げると、本寒天臭マスキング剤に含まれるレバウディオサイドAとモグロシドVとの配合比が質量比(以下、同じ)で50:50~99:1となるような組み合わせを挙げることができる。配合比はこの範囲で適宜設定することができ、例えば60:40~99:1、70:30~99:1、80:20~99:1、または90:10~99:1の範囲を例示することができる。
【0027】
本寒天臭マスキング剤は、寒天または寒天含有可食性組成物の寒天臭を抑制するために用いられる。その形態を問わないが、粉末状、顆粒状、タブレット状、およびカプセル剤状などの固体の形態、ならびにシロップ状、乳液状、液状、およびジェル状などの半固体または液体の形態を有することができる。また一剤の形態のほか、二剤の形態(例えば、ラカンカ抽出物を含有する製剤とステビア抽出物を含有する製剤との組み合わせ物など)を有するものであってもよい。
【0028】
本寒天臭マスキング剤は、本発明の効果を妨げないことを限度として、ラカンカ抽出物、ステビア抽出物、スクラロース、アスパルテーム及びアセスルファムカリウムよりなる群から選択される少なくとも1種を製剤形態に調製する際に、その形態に応じて、飲食品に配合可能な担体(基剤)や添加剤を適宜配合することもできる。かかる担体や添加剤としては、本寒天臭マスキング剤の作用効果に影響を与えない範囲で、イソマルトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖などのオリゴ糖類;デキストリン、セルロース、アラビアガム、およびでん粉(コーンスターチ等)などの多糖類;および水などの溶媒を挙げることができる。また本寒天臭マスキング剤の作用効果に悪影響を与えないことを限度として、乳糖、ブドウ糖、果糖、砂糖、果糖ブドウ糖液糖などの糖;ソルビトール、エリスリトール、ラクチトール、マルチトール、マンニトール、キシリトール、還元パラチノースなどの糖アルコール類などの糖類を配合することもできる。さらに本寒天臭マスキング剤の作用効果に悪影響を与えない範囲で、飲食品に通常使用されるような色素、または防腐剤などを配合することもできる。
【0029】
本寒天臭マスキング剤の寒天または寒天含有可食性組成物(以下、これを単に「可食性組成物」と称する場合がある)に対する使用量としては、本寒天臭マスキング剤の主成分である甘味成分に起因する甘味を考慮して、目的に応じて選択設定することができる。例えば、前述するように、モグロシドVの甘味度はショ糖の300倍、レバウディオサイドAの甘味度はショ糖の300~450倍、スクラロースの甘味度はショ糖の600倍、アスパルテームの甘味度はショ糖の100~200倍、アセスルファムKの甘味度はショ糖の200倍であり、また配合比が50:50~99:1のレバウディオサイドAとモグロシドVの混合物の甘味度はショ糖の300~450倍である。このため、例えば、本寒天臭マスキング剤を、寒天または寒天含有可食性組成物に対して、寒天臭を抑制するだけでなく甘味付与を目的として配合する場合は、本寒天臭マスキング剤の甘味成分を甘味を発揮する量(甘味の閾値以上の量)で配合することが好ましい。具体的には、例えばモグロシドVの配合量としては0.002質量%以上、レバウディオサイドAの配合量としては0.002質量%以上、スクラロースの配合量としては0.001質量%以上、アスパルテームの配合量としては0.006質量%以上、またはアセスルファムKの配合量としては0.003質量%以上となるような範囲で適宜調整することができる。また本寒天臭マスキング剤がレバウディオサイドAとモグロシドVとの配合比が50:50~99:1のラカンカ抽出物とステビア抽出物の混合物である場合、レバウディオサイドAとモグロシドVの合計量が全体の0.002質量%以上になるように、最終の寒天または寒天含有可食性組成物に対して配合することができる。一方、本寒天臭マスキング剤を、寒天または寒天含有可食性組成物に対して、寒天臭を抑制するだけで、甘味付与を目的としないで配合する場合は、本寒天臭マスキング剤の甘味成分を甘味を呈さない量(甘味の閾値以下の量)で配合する。具体的には、モグロシドVの配合量としては0.002質量%未満、レバウディオサイドAの配合量としては0.002質量%未満、スクラロースの配合量としては0.001質量%未満、アスパルテームの配合量としては0.006質量%未満、またはアセスルファムKの配合量としては0.003質量%未満となるような範囲で適宜調整することができる。また本寒天劣化臭マスキング剤がレバウディオサイドAとモグロシドVとの配合比が50:50~99:1のラカンカ抽出物とステビア抽出物の混合物である場合、レバウディオサイドAとモグロシドVの合計量が全体の0.002質量%未満になるように、最終の寒天または寒天含有可食性組成物に対して配合することができる。なお、実際の甘味の閾値(認知閾値)は、適用する寒天または寒天含有可食性組成物毎に個別に設定することが好ましく、閾値の設定は極限法に従って行うことが好ましい。
【0030】
本発明において「寒天臭」とは寒天に起因する臭いを意味し、海藻臭及び経時的に生じる劣化臭が含まれる。特に、本発明が対象とする寒天臭は、寒天を用いて調製される飲食物(寒天含有可食性組成物)について経時的に生じる劣化臭である。臭いには、鼻で直接感じる臭い臭い(オルソネーザルアロア)と、口に含んだとき、または飲み込んだときに、喉の奥から鼻腔内で感じる臭い(レトロネーザルアロア)の2種類がある。本発明で対象とする寒天臭は、いずれも対象とするが、好ましくは寒天を用いて調製される飲食物を口に含んだとき、または飲み込んだときに、喉の奥から鼻腔内で感じる臭い(レトロネーザルアロア)である。また本発明において、寒天臭を「抑制」または「マスキング」するとは、前述する寒天臭を消失することに限定されるものではなく、臭いの強さを減弱(低減)することを包含する意味である。つまり、「寒天臭抑制」または「寒天臭マスキング」とは、寒天または寒天含有可食性組成物に寒天臭マスキング剤を添加することにより、得られた寒天または寒天含有可食性組成物の寒天臭が、添加前の寒天または寒天含有可食性組成物の寒天臭と比較して減弱(低減)したと感じさせる作用効果である。こうした作用効果は、通常、訓練された専門パネルによる官能試験によって評価判定することができる。具体的には、対象とする寒天を含む可食性組成物に寒天臭マスキング剤(候補物を含む)を添加した場合に、添加する前の寒天含有可食性組成物の寒天臭と比較して、その寒天臭が低減したと感じられる場合には、当該寒天臭マスキング剤(候補物)は、本発明の寒天臭マスキング剤(本寒天臭マスキング剤)に該当すると判断することができる。
【0031】
(II)本寒天、及びその製造方法
本発明の寒天(以下、これを「本寒天」と称する)は、前述する本寒天臭マスキング剤を含有する寒天(寒天製品)である。当該本寒天は、最終の寒天製品に本寒天臭マスキング剤が含まれていればよく、その限りにおいて、その製造方法は特に制限されない。好ましくは寒天製造の最終工程(乾燥または粉砕)またはその後に本寒天臭マスキング剤を添加配合することで調製することができる。なお、以下、本寒天臭マスキング剤を配合する対象の寒天、つまり本寒天臭マスキング剤を配合する前の寒天を「被寒天」とも称する。本寒天には、粉末寒天、フレーク寒天、固形寒天、角寒天及び糸寒天等の形態の寒天が含まれるが、好ましくは水浸けや裏ごしが不要で、可食性組成物の製造に際してそのまま使用される粉末寒天、フレーク寒天、及び固形寒天である。本寒天は、好ましくは飲食品などの口腔用または経口用組成物に添加配合して用いられる食用寒天である。
【0032】
被寒天に対する本寒天臭マスキング剤の配合割合は、これを配合することによって調製される本寒天が、本発明の効果を奏し、また本発明の目的のために使用できるものであればよく、その限りにおいて特に制限されない。本寒天の使用濃度や被寒天に配合する本寒天臭マスキング剤の種類によって異なるが、例えば飲食物(水を含む)に0.005~5質量%濃度で溶解して使用する寒天の場合、本寒天中における本寒天臭マスキング剤の割合としては、制限されないものの、以下を例示することができる:
・本寒天臭マスキング剤がラカンカ抽出物または/およびステビア抽出物である場合:
本寒天中のモグロシドVまたは/およびレバウディオサイドAの総濃度として0.00005~0.5質量%
・本寒天臭マスキング剤がスクラロースである場合:
本寒天中のスクラロースの濃度として0.00005~0.5質量%
・本寒天臭マスキング剤がアスパルテームである場合:
本寒天中のアスパルテームの濃度として0.00005~0.5質量%
・本寒天臭マスキング剤がアセスルファムKである場合:
本寒天中のアセスルファムKの濃度として0.00005~0.5質量%
【0033】
斯くして調製される本寒天は、ラカンカ抽出物、ステビア抽出物、スクラロース、アスパルテーム、及びアセスルファムKよりなる群から選択される少なくとも1種を含む本寒天臭マスキング剤を含有していることで、これらをいずれも含有しない寒天(配合前の被寒天)と比較して寒天臭が抑制(マスキング)されてなることを特徴とする。
【0034】
寒天について寒天臭が抑制(マスキング)されているか否かは、本寒天臭マスキング剤が配合された寒天(被験寒天)の寒天臭を、本寒天臭マスキング剤が配合されていない以外は前記被験組成物と同じ方法で製造される寒天(比較寒天)の寒天臭と比較することで評価することができる。なお、この評価は、制限されないものの、被験寒天または比較寒天を用いて試験食(例えば、ゼリー食品)を調製し、それを訓練された専門パネルによる官能試験により食べ比べることで実施することができる。こうした評価において、比較寒天と比較して被験寒天のほうが寒天臭が低減している場合に、被験寒天について本寒天臭マスキング剤の配合により寒天臭が抑制(マスキング)されていると判断することができる。
【0035】
このように、本寒天臭マスキング剤を添加配合するという簡便な方法により寒天の海藻臭や経時的に生じる劣化臭(寒天臭)を抑制することができ、それによって、寒天を飲食物を始めとする口腔用または経口用組成物(可食性組成物)の製造に使用した場合でも、寒天臭によって可食性組成物の風味が損なわれるといった問題を事前に解消することが可能になる。
【0036】
(III)本寒天含有可食性組成物、及びその製造方法
本発明の可食性組成物(以下、「本可食性組成物」とも称する)は、寒天に加えて、前述する本寒天臭マスキング剤を含有する可食性組成物である。当該本可食性組成物は、寒天を含む可食性組成物に本寒天臭マスキング剤を添加配合することで調製することができる。以下、本寒天臭マスキング剤を配合する対象の可食性組成物(つまり本寒天臭マスキング剤を配合する前の可食性組成物)を「被可食性組成物」とも称する。また本可食性組成物は、寒天として前述する本寒天を用いることで調製することもできる。
【0037】
本発明が対象とする被可食性組成物は、具体的にはゲル状の口腔用または経口用組成物であり、例えば飲食品、経口医薬品、口腔用医薬品、歯磨きや洗口液などのオーラルケア製品(医薬品または医薬部外品を含む)を挙げることができる。これらには甘味を有する組成物及び甘味を有しない組成物のいずれもが含まれる。好ましくは飲食品である。
【0038】
飲食品としては、ゲル状を有するものが挙げられる。制限されないものの、具体的に、ゲル状飲料またはゲル化物を含む飲料;まんじゅう、その他種々の和菓子;パイ、バタークリーム、カスタードクリーム、シュークリーム、チョコレート、チョコレート菓子、キャラメル、キャンディー、チューインガム、ゼリー、その他種々の洋菓子;ヨーグルト、プリン、ババロア等の乳製品;飴;チューインガムや風船ガムなどのガム類;アイスクリーム、アイスキャンディー、シャーベット、その他種々の氷菓;フラワーペースト、ピーナッツペースト、フルーツペースト、その他種々のペースト類;ソース、ドレッシング、その他種々の調味料類を挙げることができる。
【0039】
また経口医薬品としては、ドリンク剤、顆粒剤、錠剤、およびカプセル剤等を、口腔用医薬品としては、スプレー剤、軟膏剤、パスタ剤等を、またオーラルケア製品としては、練り歯磨き、口中洗浄剤、および口臭除去剤などを挙げることができる。
【0040】
被可食性組成物に対する本寒天臭マスキング剤の配合割合は、これを配合することによって調製される本可食性組成物が、本発明の効果を奏するものであればよく、その限りにおいて特に制限されない。配合する本寒天臭マスキング剤の種類によって異なるが、例えば被可食性組成物にラカンカ抽出物または/およびステビア抽出物を配合して本可食性組成物を調製する場合、本可食性組成物中のラカンカ抽出物または/およびステビア抽出物の含有量は、モグロシドVまたは/およびレバウディオサイドAの総濃度に換算して5ppm以上の範囲を例示することができる。好ましくは10ppm以上を例示することができる。上限は特に制限されないが、ラカンカ抽出物または/およびステビア抽出物を甘味を呈さない量で使用する場合は、甘味の閾値以下になるように調整することが好ましい。実際の甘味の閾値(認知閾値)は、適用する寒天含有可食性組成物毎に個別に設定することが好ましく、閾値の設定は極限法に従って行うことができる。また、一般にモグロシドVは20ppm、レバウディオサイドAは20ppmを超えると甘味を呈するようになるため、これを基準とすることもできる。ラカンカ抽出物または/およびステビア抽出物を甘味を呈する量で使用する場合は、前記量に拘泥されることなく上限値を設定することができる。この場合でも、例えば本可食性組成物中のラカンカ抽出物または/およびステビア抽出物の総濃度が750ppm以下になるように調整することができる。また、被可食性組成物にスクラロースを配合して本可食性組成物を調製する場合、本可食性組成物中のスクラロースの含有量としては3ppm以上の範囲を例示することができる。好ましくは10ppm以上を例示することができる。なお、上限は特に制限されないが、スクラロースを甘味を呈さない量で使用する場合は、前記と同様に甘味の閾値(認知閾値)以下で調整することが好ましい。また、一般にスクラロースは濃度が5ppmを超えると甘味を呈するようになるため、これを基準とすることもできる。スクラロースを甘味を呈する量で使用する場合は、前記量に拘泥されることなく上限値を設定することができる。この場合でも、例えば本可食性組成物中のスクラロースの濃度が500ppm以下になるように調整することができる。また、被可食性組成物にアスパルテームを配合して本可食性組成物を調製する場合、本可食性組成物中のアスパルテームの含有量としては10ppm以上の範囲を例示することができる。好ましくは20ppm以上を例示することができる。なお、上限は特に制限されないが、アスパルテームを甘味を呈さない量で使用する場合は、前記と同様に甘味の閾値(認知閾値)以下で調整することが好ましい。また、一般にアスパルテームは濃度が28ppmを超えると甘味を呈するようになるため、これを基準とすることもできる。アスパルテームを甘味を呈する量で使用する場合は、前記量に拘泥されることなく上限値を設定することができる。この場合でも、例えば本可食性組成物中のアスパルテームの濃度が1500ppm以下になるように調整することができる。さらに被可食性組成物にアセスルファムKを配合して本可食性組成物を調製する場合、本可食性組成物中のアセスルファムKの含有量としては10ppm以上の範囲を例示することができる。好ましくは15ppm以上を例示することができる。なお、上限は特に制限されないが、アセスルファムKを甘味を呈さない量で使用する場合は、前記と同様に甘味の閾値(認知閾値)以下で調整することが好ましい。また、一般にアセスルファムKは濃度が15ppmを超えると甘味を呈するようになるため、これを基準とすることもできる。アセスルファムKを甘味を呈する量で使用する場合は、前記量に拘泥されることなく上限値を設定することができる。この場合でも、例えば本可食性組成物中のアセスルファムKの濃度が400ppm以下になるように調整することができる。なお、ラカンカ抽出物、ステビア抽出物、スクラロース、アスパルテームまたは/及びアセスルファムKは、本可食性組成物の製造過程の任意の段階で添加することができる。
【0041】
斯くして調製される本可食性組成物は、ラカンカ抽出物、ステビア抽出物、スクラロース、アスパルテーム、及びアセスルファムKよりなる群から選択される少なくとも1種を含む本寒天臭マスキング剤を含有することで、これらをいずれも含有しない可食性組成物(配合前の被可食性組成物)と比較して寒天臭が抑制(マスキング)されてなることを特徴とする。
【0042】
可食性組成物について寒天臭が抑制(マスキング)されているか否かは、寒天臭マスキング剤が配合された可食性組成物(被験組成物)の寒天臭を、寒天臭マスキング剤が配合されていない以外は前記被験組成物と同じ組成の可食性組成物(比較組成物)の寒天臭と比較することで評価することができる。この評価において、比較組成物と比較して被験組成物のほうが寒天臭が減弱(低減)している場合に、被験組成物について本寒天臭マスキング剤の配合により寒天臭が抑制(マスキング)されていると判断することができる。寒天臭のうち、とくに経時的に生じる(または増悪する)劣化臭の抑制(マスキング)効果を評価する場合は、前記被験組成物及び比較組成物を一定期間保存した後に、上記の官能評価を実施する。この場合、制限されないものの、後述する実施例の記載に従って評価することもできる。
【0043】
このように、本寒天臭マスキング剤を添加配合するという簡便な方法で、被可食性組成物の寒天臭を抑制(マスキング)することができ、その結果、寒天臭が消失または低減した本可食性組成物を調製し提供することができる。
【0044】
(IV)寒天または寒天含有可食性組成物の寒天臭マスキング方法
本発明の寒天または寒天含有可食性組成物の寒天臭マスキング方法は、上記(II)で説明した被寒天または上記(III)で説明した被可食性組成物に、前述するラカンカ抽出物、ステビア抽出物、スクラロース、アスパルテーム、及びアセスルファムKよりなる群から選択される少なくとも1種を添加配合することによって実施することができる。ここでは、被寒天及び被可食性組成物を総称して「被対象組成物」と称する。ラカンカ抽出物、ステビア抽出物、スクラロース、アスパルテーム、及びアセスルファムKは、被対象組成物に対するそれらの配合割合を含めて、前記(I)~(III)で説明した通りであり、前記の記載はここに援用することができる。また被対象組成物も前記(II)及び(III)で説明した通りであり、前記の記載はここに援用することができる。
【0045】
被対象組成物について、それにラカンカ抽出物、ステビア抽出物、スクラロース、アスパルテーム、又は/及びアセスルファムK(以下、「ラカンカ抽出物等」と略称する)を配合することで寒天臭が抑制(マスキング)されたか否かは、ラカンカ抽出物等が配合された寒天及び寒天含有可食性組成物(被験組成物)の寒天臭を、ラカンカ抽出物等が配合されていない以外は前記被験組成物と同じ組成の寒天及び寒天含有可食性組成物(比較組成物)の寒天臭と比較することで評価することができる。この評価において、比較組成物と比較して被験組成物のほうが寒天臭が減弱(低減)している場合に、被験組成物についてラカンカ抽出物等の配合により寒天臭が抑制(マスキング)されていると判断することができる。
【0046】
このように、ラカンカ抽出物等を配合するという簡便な方法により被対象組成物の寒天臭(経時的に生じるか増悪する劣化臭を含む)を抑制(マスキング)することができ、その結果、寒天臭が消失または減弱(低減)した寒天または寒天含有可食性組成物を調製し提供することができる。
【0047】
なお、本明細書において、「含む」や「含有する」という用語には、「から実質的になる」及び「からなる」の意味が包含される。
【実施例
【0048】
本発明の内容を以下の実験例や実施例を用いて具体的に説明する。しかし、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。下記において、特に言及する場合を除いて、実験は大気圧及び常温条件下で行っている。また各実験例で採用したパネルは飲食品の味質の官能評価に従事し訓練して社内試験に合格した官能評価適格者である。また特に言及する場合を除いて、「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」を意味する。
【0049】
以下の実験例に使用した原料は下記の通りである。
(1)ラカンカ抽出物
(1-1)サンナチュレ(登録商標)M50(乾燥粉末製品、三栄源エフ・エフ・アイ(株)製)。羅漢果の生果実(未乾燥果実)を水で抽出した後、濾過して回収した水抽出液を脱色及び濃縮した後、スプレードライにより乾燥粉末としてモグロシドVを50%の割合で含むように調製された、ショ糖の約300倍の甘味度を有する高甘味度甘味料。
(1-2)サンナチュレ(登録商標)M30(乾燥粉末製品、三栄源エフ・エフ・アイ(株)製)。羅漢果の生果実(未乾燥果実)を水で抽出した後、濾過して回収した水抽出液を脱色及び濃縮した後、スプレードライにより乾燥粉末としてモグロシドVを30%の割合で含むように調製された、ショ糖の約150倍の甘味度を有する高甘味度甘味料。
【0050】
(2)ステビア抽出物
レバウディオJ-100(乾燥粉末製品、守田化学工業(株)製)。レバウディオサイドA 95%以上含有品。ショ糖の約300倍の甘味度を有する高甘味度甘味料。
【0051】
(3)ステビア抽出物とラカンカ抽出物の混合物
前記ステビア抽出物と前記ラカンカ抽出物(サンナチュレ(登録商標)M50)とを95:5(質量比)の割合で混合した組成物。ショ糖の約400倍の甘味度を有する。
【0052】
(4)スクラロース
三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製。ショ糖の600倍の甘味度を有する高甘味度甘味料。
【0053】
(5)アスパルテーム
パルスイート(登録商標)(味の素株式会社製)。ショ糖の約200倍の甘味度を有する高甘味度甘味料。
【0054】
(6)アセスルファムカリウム
サネット(MCフーズスペシャリティー株式会社製)。ショ糖の約200倍の甘味度を有する高甘味度甘味料。
【0055】
実験例1 寒天臭マスキング剤の寒天臭抑制作用の評価(その1)
パネル5名に、各種の寒天臭マスキング剤(実施例1-1~1-7)を用いて調製したゼリー食1を食べてもらい、その寒天臭を評価してもらった。なお、これらのゼリー食1の寒天臭の評価はいずれもその品温を約25℃に調整したうえで実施した。
【0056】
(1)寒天含有可食性組成物の調製
<ゼリー食1の処方:カロリー233kcal/100g>
砂糖 25(質量%)
水飴 40
ぶどう5倍濃縮果汁・清澄1)
ぶどう濃縮果汁HA2) 0.15
クエン酸(無水) 0.05
クエン酸三ナトリウム 0.05
寒天3)
香料4) 0.2
寒天臭マスキング剤(表1)5) 表1参照
水 残 部
合 計 100.0(質量%)
1)コンコード種
2)三栄源エフ・エフ・エフ株式会社製
3)ゲルアップ(商標登録)J-1630:三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製
4)グレープフレーバーNO.20-5662(OA):三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製
5)各寒天臭マスキング剤の甘味倍率(理論値)から、各寒天臭マスキング剤の甘味度が0.6なるように設定。
【0057】
【表1】
【0058】
ゼリー食1(被験食)は、寒天臭マスキング剤を表1に記載する割合で添加配合して調製した。なお、各寒天臭マスキング剤の添加量は、当該寒天臭マスキング剤に基づく甘味度がいずれも、ショ糖の甘味度1に換算して0.6(甘味を呈さない量)になるように設定した。一方、比較のゼリー食として、上記処方において寒天臭マスキング剤を配合しないゼリー食(陰性対照食)を調製した。
<製造方法>
1)水と水飴を攪拌しながら砂糖、クエン酸三ナトリウム、寒天、寒天臭マスキング剤の粉体混合物を加え、90℃10分間攪拌溶解する。
2)残り原料を添加し、蒸発水を補正する。
3)容器に充填し、85℃30分間殺菌後、水冷する。
【0059】
(2)寒天臭の評価
評価は、前記被験食及び陰性対照食をいずれも調製後冷蔵保存(4℃で1週間)、及び室温保存(25℃で1週間)し、その後、試食して、その臭いと味質(レトルネーザルアロマ)を比較することで評価した。その結果、冷蔵保存品も室温保存品のいずれも、寒天臭マスキング剤を配合した被験食は陰性対照食と比較して海藻臭さ及びその劣化臭(寒天臭)(レトルネーザルアロマ)が低減しており、寒天臭マスキング剤を配合することで、寒天臭が抑制(マスキング)できることが確認された。寒天臭マスキング剤のなかでも最も効果が高かったのはスクラロースであった。
【0060】
実験例2 寒天臭マスキング剤の寒天臭抑制作用の評価(その2)
実験例1と同様に、パネル5名に、各種の寒天臭マスキング剤(実施例2-1~2-6)を用いて調製したゼリー食2を食べてもらい、その寒天臭を評価してもらった。なお、これらのゼリー食2の寒天臭の評価はいずれもその品温を約25℃に調整したうえで実施した。
【0061】
(1)寒天含有可食性組成物の調製
<ゼリー食2の処方:カロリー4kcal/100g>
エリスリトール 10
ぶどう濃縮果汁HA1) 0.15
クエン酸(無水) 0.09
クエン酸三ナトリウム 0.05
食塩 0.03
寒天2) 0.45
香料3) 0.2
寒天臭マスキング剤(表2)4) 表1参照
水 残 部
合 計 100.0(質量%)
1)三栄源エフ・エフ・エフ株式会社製
2)ゲルアップJ-1630:三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製
3)グレープフレーバーNO.20-5662(OA):三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製
4)各寒天臭マスキング剤の甘味倍率(理論値)から、各寒天臭マスキング剤の甘味度が約8なるように設定。
【0062】
【表2】
【0063】
ゼリー食2(被験食)は、前述するように寒天臭マスキング剤を表2に記載する割合で添加配合して調製した。なお、各寒天臭マスキング剤の添加量は、当該寒天臭マスキング剤に基づく甘味度がいずれもショ糖の甘味度1に換算して約8(甘味を呈する量)になるように設定した。一方、比較のゼリー食として、上記処方において寒天臭マスキング剤を配合しないゼリー食(陰性対照食)を調製した。
<製造方法>
1)水を攪拌しながらエリスリトール、クエン酸三ナトリウム、寒天、寒天臭マスキング剤の粉体混合物を加え、90℃10分間攪拌溶解する。
2)残り原料を添加し、蒸発水を補正する。
3)容器に充填し、85℃30分間殺菌後、水冷する。
【0064】
(2)寒天臭の評価
評価は、実験例1と同様に、前記被験食及び陰性対照食をいずれも調製後冷蔵保存(4℃で1週間)、及び室温保存(25℃で1週間)し、その後、試食して、その臭いと味質(レトルネーザルアロマ)を比較することで評価した。その結果、冷蔵保存品も室温保存品のいずれも、寒天臭マスキング剤を配合した被験食は陰性対照食と比較して海藻臭さ及びその劣化臭(寒天臭)(レトルネーザルアロマ)が低減しており、寒天臭マスキング剤を配合することで、寒天臭が抑制(マスキング)できることが確認された。寒天臭マスキング剤のなかでも最も効果が高かったのはスクラロースであった。