IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ブロードビット バッテリーズ オーイーの特許一覧

特許7483375スーパーキャパシタおよび高出力バッテリ用の電解質
<>
  • 特許-スーパーキャパシタおよび高出力バッテリ用の電解質 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-07
(45)【発行日】2024-05-15
(54)【発明の名称】スーパーキャパシタおよび高出力バッテリ用の電解質
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0568 20100101AFI20240508BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20240508BHJP
   H01G 11/60 20130101ALI20240508BHJP
   H01G 11/62 20130101ALI20240508BHJP
【FI】
H01M10/0568
H01M10/0569
H01G11/60
H01G11/62
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019549518
(86)(22)【出願日】2018-03-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-04-23
(86)【国際出願番号】 FI2018050182
(87)【国際公開番号】W WO2018167365
(87)【国際公開日】2018-09-20
【審査請求日】2021-03-03
(31)【優先権主張番号】20175239
(32)【優先日】2017-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(73)【特許権者】
【識別番号】518111368
【氏名又は名称】ブロードビット バッテリーズ オーイー
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【弁理士】
【氏名又は名称】小菅 一弘
(72)【発明者】
【氏名】コヴァックス アンドラス
(72)【発明者】
【氏名】アラサーレラ タパニ
(72)【発明者】
【氏名】ロイド ダヴィド
(72)【発明者】
【氏名】ブラウン ダヴィド
【審査官】儀同 孝信
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-519842(JP,A)
【文献】特表2013-539245(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02881366(EP,A1)
【文献】国際公開第2015/072577(WO,A1)
【文献】特表2016-521006(JP,A)
【文献】特開昭49-105927(JP,A)
【文献】特公昭49-019055(JP,B1)
【文献】国際公開第2014/073702(WO,A1)
【文献】特開2015-035420(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0568
H01M 10/0569
H01G 11/60
H01G 11/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニトリル系溶剤ベースの電解質を備え、前記電解質は、電解質塩を含み、前記電解質塩は、NaClO4を備え、前記電解質塩は、放電状態において、1.5より大きいモル濃度を有しており、前記電解質塩は、放電状態での1.5より大きいモル濃度で最大の電解質導電率を有する、電気化学セル。
【請求項2】
前記電解質塩は、さらに共塩を含むナトリウムを備える、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項3】
前記ニトリル系溶剤は、アセトニトリルである、請求項1乃至2のいずれか一項に記載の電気化学セル。
【請求項4】
前記共塩は、NaPF6、NaTriflate、NaDFOB、またはそれらの任意の組み合わせである、請求項2に記載の電気化学セル。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の電気化学セルを含むデバイス。
【請求項6】
前記デバイスは、バッテリパックである、請求項5に記載のデバイス。
【請求項7】
前記デバイスは、電気乗り物、無停電電源、バックアップ電源、パーソナル、ローカル、地域のまたはグリッドストレージ、またはグリッド安定化ユニット、またはエンジンスターターバッテリである、請求項5乃至6のいずれか一項に記載のデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、バッテリ、例えば高出力バッテリまたは高速チャージおよびスーパーキャパシタのようなリチャージャブル電気化学セルに関する。特に、この発明は、これらの電気化学セルのための電解質(electrolytes)の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
高性能および低価格のスーパーキャパシタ(supercapacitor)と高速バッテリは、例えば、スターターバッテリ(starter batteries)または高速充電電気自動車に対して利点がある。スーパーキャパシタ又は高出力又は高速充電バッテリに採用される電解質塩(electrolyte salts)は、一般に、1乃至1.5モル濃度範囲であり、現在使用される塩のイオン伝導率の最大値(ionic conductivity maxima)に相当する。
【0003】
可能な電解質塩としてNaClO4をアセトニトリル溶媒(acetonitrile solvent)と共に使用することは、この分野では以前より知られている。しかしながら、全ての関連出版物は、アセトニトリル溶媒中に1モル以下のNaClO4塩分濃度を採用する電解質製剤(electrolyte formulations)を記載する。より高い体積容量を有する(with ever higher volumetric capacitance)電気二重層スーパーキャパシタ電極(electric double-layer super capacitor electrodes)を作るための技術が進歩しているので、高濃度スーパーキャパシタ電解質の使用が必須になっている。例えば、出版物"Y. Tao et al, DOI: 10.1038/srep02975"は、アセトニトリル溶媒ベースの電解質を用いて170 F/cm3の体積キャパシタンスを達成する多孔質カーボンベースのスーパーキャパシタ電極を記載する。これらの電極は、70%のスペース充填、すなわち、電極体積のわずか30%が電解質のための空きスペースである。全ての電解質が対称電極体積内にある場合、出版物"Y. Tao et al, DOI: 10.1038/srep02975"のデータに基づいて、そのような対称スーパーキャパシタ(symmetric supercapacitor)を2.7Vの電圧まで充電するには、4モルの初期塩分濃度を必要とするであろう。既存の電解質製剤下では、このキャパシティを用いるために極めて過度の電解質が必要になる。そのような過度の電解質の必要性を最小限にすることによって増加した容積を可能にする新規な電解質製剤は、産業および商業に利益をもたらす。
【発明の概要】
【0004】
この発明において、高いイオン伝導率を有し、費用対効果が高く、広い電圧ウインドウをサポートする高濃度塩が開示される。従前に知られている高濃度電解質は、導電性が低く、高価である。アセトニトリルは、スーパーキャパシタにおける電解質溶媒としてしばしば採用される。また、ある種の高出力および/または高速充電バッテリにおける電解質溶媒としても使用することができ、この場合電極サイクリング電圧(electrode cycling voltages)は、その電圧ウインドウと互換性がある。
【0005】
この発明は、アセトニトリル溶媒ベースの電解質の伝導率、費用対効果および進歩した電極構造との互換性における大幅な改良を開示する。これらの改良は、唯一の電解質塩として、又は、窒化物系溶剤との組み合わせた、他の塩(共塩(co-salts))との組み合わせにおいて、電解質塩を含む高濃度NaClO4の使用を介して実現される。この発明は、これら用途および他の用途のためのスーパーキャパシタおよび高出力バッテリの最新技術を進歩させる。この改良は、電解質の伝導率、費用対効果、および進歩した電極構造の観点から実現される。従って、記載した発明は、産業および商業にとって有益である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1図1は、アセトニトリル溶媒における3モルNaClO4塩分濃度を採用する対称スーパーキャパシタの容量の進化を示す。両方の電極は、アルミニウム基板上の多孔質カーボンから作られる。スーパーキャパシタは、サイクル(cycling)の期間に2.7Vまで充電された。初期30サイクルが0.5 mA/cm2電流レートで実行され、次のサイクルは2mA/cm2電流レートで実行された。
【発明を実施するための形態】
【0007】
この発明の詳細な実施形態が添付した図面とともにここに開示される。電気化学セルは、少なくとも、アノード、カソード、および少なくとも部分的に、アノードとカソードとの間の電解質を備えることができる。電気化学セルは、さらに、アノードとカソードとの間にセパレータ(separator)を備えることができる。電気化学セルは、さらに1つまたは複数の電荷キャリアを備えることができる。電気化学セルは、さらにハウジングを備えることができる。電気化学セルの電解質は、ナトリウム系塩を備えることができる。電気化学セルの電解質は、ニトリル系溶剤を備えることができる。電解質のナトリウム系塩はNaClO4であり得る。電気化学セルは、対称であり得、その場合、アノード材料とカソード材料は両方とも、本質的に同じである。電気化学セルは、非対称であり得、その場合、アノード材料とカソード材料は、本質的に同じではない。電気化学セルは、スーパーキャパシタまたはバッテリであり得る。バッテリは、一次(単一使用)又は二次(リチャージャブル)バッテリであり得る。
【0008】
アセトニトリル溶媒を用いた場合のNaClO4電解質塩の最大イオン伝導率は、0.55モル濃度[1]で生じることを上で述べたが、出願人は、驚いたことに、他の一般的に使用される電解質塩と異なり、アセトニトリル溶媒中のNaClO4塩を含む電解質のイオン伝導率は高モル濃度で増大することを発見した。ある時点の後(after some point)、伝導率は、NaClO4濃度が過剰に集中すると(over concentrated)減少することが発見された。特に、電解質のイオン伝導率は、NaClO4濃度が増大すると増大し、およそ3モル濃度で最大伝導率に達する。
【0009】
1より大きい電解質塩モル濃度では、電解質塩は、高濃度であると考えることができる。1.25以上のモル濃度では、電解質塩は高濃度であると考えることができる。1.5を超えるモル濃度では、電解質塩は、高濃度であると考えることができる。1.75以上のモル濃度では、電解質塩は、高濃度であると考えることができる。2以上のモル濃度では、電解質塩は、高濃度であると考えることができる。2.25以上のモル濃度では、電解質塩は、高濃度であると考えることができる。2.5以上のモル濃度では、電解質塩は、高濃度であると考えることができる。2.75以上のモル濃度では、電解質塩は、高濃度であると考えることができる。およそ3以上のモル濃度では、電解質塩は、高濃度であると考えることができる。
【0010】
1以下のモル濃度では、電解質塩は、低濃度であると考えることができる。0.95を下回るモル濃度では、電解質塩は、低濃度であると考えることができる。0.7を下回るモル濃度では、電解質塩は、低濃度であると考えることができる。0.5を下回るモル濃度では、電解質塩は、低濃度であると考えることができる。0.35を下回る濃度では、電解質塩は、低濃度であると考えることができる。0.25を下回る濃度では、電解質塩は、低濃度であると考えることができる。0.2を下回る濃度では、電解質塩は、低濃度であると考えることができる。0.15を下回る濃度では、電解質塩は、低濃度であると考えることができる。
【0011】
電気化学セルのチャージ状態とディスチャージ状態との間の電解質塩分濃度の下限は、高濃度値であり得る。電解質モル濃度の上限は電解質溶剤における溶解限度またはその付近であり得る。電解質塩のモル濃度は低(高濃度)と上限(電解質溶剤における溶解限度)との間にあり得る。前記溶解限度は、存在する溶媒および塩によって変化する。溶融限界に関して、「近い」とは、ここでは、電解質溶剤における溶解限度の70%を超える電解質モル濃度を意味する。溶融限界に関して、「近い」とは、ここでは、電解質溶剤における溶解限度の85%を超える電解質モル濃度を意味する。
【0012】
溶融限界に関して、「近い」とは、ここでは、電解質溶剤における溶解限度の90%を超える電解質モル濃度を意味する。溶融限界に関して、「近い」とは、ここでは、電解質溶剤における溶解限度の95%を超える電解質モル濃度を意味する。溶融限界に関して、「近い」とは、ここでは、電解質溶剤における溶解限度の98%を超える電解質モル濃度を意味する。溶融限界に関して、「近い」とは、ここでは、電解質溶剤における溶解限度の99%を超える電解質モル濃度を意味する。電気化学セルがスーパーキャパシタである場合、モル濃度は、完全に放電された状態またはアセンブルされた状態(assembled state)における濃度を指し、チャージ/ディスチャージサイクルの最も高い濃度に相当する。スーパーキャパシタの場合、モル濃度は、充電の期間に増加し、完全に充電された状態(モル濃度は正確にはゼロまで落ちないか、または電解質は、もはや導電イオンではない)ではほぼゼロにまで落ちることができる。電解質セルがバッテリである場合、モル濃度は、充電状態と放電状態との間で本質的には変化せず、モル濃度は、本質的に一定のモル濃度を指す。記載した高濃度境界、溶解限度及び/又は範囲の任意の組み合わせが可能である。疑念を避けるために、電解質に共塩(co-salt)が存在する場合、以下に記載するように、電解質塩分濃度(または塩分濃度)は、結合NaClO4:共塩分濃度を指す。
【0013】
表1は、共塩のないシステムにおけるNaClO4濃度についての電解質伝導率の依存度を示す。他の溶剤が可能であり、最も好ましくは、ニトリル系溶剤が可能である。
【表1】
【0014】
塩分組成がNaClO4である場合に、アセトニトリル溶媒中の電解質塩混合物を使用することにより、さらに高い電解質塩分濃度で同じ最大38.5 mS/cm伝導率を維持することが可能である。例として、表2は、アセトニトリル溶媒中のNaClO4:NaPF6の4:1の比の混合物で得られた電解質伝導率の進展(development)を示す。最大38.5 mS/cmイオン伝導率は、3.5モル合計電解質塩分濃度で達成される。NaPF6以外の共塩を含む他のナトリウムが可能である。 適切な共塩の非限定例は、ナトリウムトリフラート(Sodium-triflate)(NaTriflateとして示されるCF3SO3Na)またはナトリウムジフルオロ(オキサラト)ボレート(NaDFOBとして示される、C2O4BF2Na)を含む。NaClO4対共塩を含むナトリウムの比が可能である。NaClO4対共塩を含むナトリウムの比は、0.5:1および32:1の間であり得る。NaClO4対共塩を含むナトリウムの比は、1:1および16:1の間であり得る。NaClO4対共塩を含むナトリウムの比は2:1および8:1の間であり得、さらに望ましくは、3:1と6:1の間であり、最も望ましいのは、約4:1である。記載したNaClO4対共塩を含むナトリウムの比の、記載した上限および下限の任意の組み合わせが可能である。
【表2】
【0015】
上記の電解質製剤は、アセトニトリル溶剤の全電圧ウインドウと互換性のある、高濃度キャパシタ及び/又はバッテリ電解質の費用対効果の高い製造を可能にする。これらの電解質製剤はさらに、図1に示す安定したサイクリングキャパシティ(cycling capacity)に証明されるように、アルミニウム電流コレクタ基板と互換性がある。高い体積容量を有する電気二重層スーパーキャパシタのサイクリングの期間に、理想的な電解質塩分濃度は、高濃度(例えば、放電状態で3-3.5モル)とび低濃度(例えば、充電状態で0.2-0.5モル)との間で強力に変化することができる。それゆえ、ここに記載された高濃度電解質塩の使用は、必要とされる過度の電解質を最小にし、したがって、デバイスレベルのエネルギー密度を最大にするために、高い堆積静電容量スーパーキャパシタのための重要な考察となる。それゆえ、ここに開示された電解質製剤の使用は、そのような電解質が、充電状態と放電状態との間に存在するかもしれない広範囲のモル塩分濃度(例えば、0.5モル濃度から3.5モル濃度)にわたって>30mS/cm伝導率を配送することができるので特に利点がある。
【0016】
一実施形態において、電気化学セルは、ニトリル系電解質を備え、電解質塩は、NaClO4を備え、電気化学セルの充電の任意のステージにおいて、電解質塩は、放電状態で高いモル濃度を有する。一実施形態において、電気化学セルは、ニトリル系ベースの電解質を備え、前記電解質塩は、NaClO4を備え、前記電解質塩は、放電状態において1より大きいモル濃度を有する。一実施形態において、ニトリル系溶剤は、アセトニトリルである。一実施形態において、電解質塩は、さらに共塩を含むナトリウムを含む。一実施形態において、共塩は、NaPF6、NaTriflate、NaDFOBまたはそれらの任意の組み合わせである。一実施形態において、電気化学セルの充電の任意のステージにおいて、電解質塩は、電解質溶剤の溶解限度またはその近辺にある。
【0017】
この発明の電気化学セルは、デバイスに使用することができる。この発明の1つまたは複数の電気化学セルは、バッテリパックに使用することができる。バッテリパックは、直列、並列またはそれらの任意の組み合わせにおける複数の個々のセルを含むことができる。セル及び/又はバッテリパックは、バッテリ管理システムと一緒に使用することができる。この発明の電気化学セル及び/又はバッテリパックは、例えば、車、トラック、自転車、オートバイ、スクーター、ドローン、有人または無人飛行機、無停電電源装置、バックアップ電源、個人の、ローカルの、地域の、又はグリッドストレージまたはグリッド安定化ユニット、またはエンジンスターターバッテリに使用することができる。この発明の電気化学セル及び/又はバッテリパックは、他のデバイスに使用することができる。
図1