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  • 特許-レンズ装置および撮像装置 図1
  • 特許-レンズ装置および撮像装置 図2
  • 特許-レンズ装置および撮像装置 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-07
(45)【発行日】2024-05-15
(54)【発明の名称】レンズ装置および撮像装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 7/08 20210101AFI20240508BHJP
   G02B 7/02 20210101ALI20240508BHJP
   G02B 7/04 20210101ALI20240508BHJP
   G02B 7/14 20210101ALI20240508BHJP
【FI】
G02B7/08 C
G02B7/02 F
G02B7/02 C
G02B7/04 E
G02B7/14 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020003660
(22)【出願日】2020-01-14
(65)【公開番号】P2021110870
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2022-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【弁理士】
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 亜希
(72)【発明者】
【氏名】保延 和博
【審査官】藏田 敦之
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-084501(JP,A)
【文献】特開2000-039642(JP,A)
【文献】特開2004-094148(JP,A)
【文献】特開2011-053512(JP,A)
【文献】特開2004-177919(JP,A)
【文献】特開2005-141056(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 7/02 - 7/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フランジバック調整のために可動の調整レンズ群と、該調整レンズ群を駆動する駆動部と有するレンズ装置であって、
前記調整レンズ群の位置を検出する位置検出部と、
前記レンズ装置の状態を検出する状態検出部と、
前記フランジバック調整時に前記状態検出部によって検出された第1状態と前記レンズ装置を用いた撮影時に前記状態検出部によって検出された第2状態との差分と、前記フランジバック調整後における前記調整レンズ群の位置補正量との関係を示す複数のデータテーブルを記憶する記憶部と、
前記複数のデータテーブルの中から前記第1状態に対応するデータテーブルを選択し、該選択したデータテーブル、前記第1状態、前記第2状態、及び前記位置検出部によって検出された前記調整レンズ群の位置基づいて前記駆動部を制御する制御部とを更に有することを特徴とするレンズ装置。
【請求項2】
前記状態検出部は、温度、気圧、及び前記レンズ装置の姿勢のうち少なくともつを検出することを特徴とする請求項1に記載のレンズ装置。
【請求項3】
光路に対する挿抜により焦点距離を変更する変倍レンズ群を有し、前記状態検出部は、前記変倍レンズ群の前記挿抜の状態を検出することを特徴とする請求項1またはに記載のレンズ装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記選択したデータテーブルに対応する前記前記第1状態前記第2状態との差分に基づいて前記調整レンズ群の位置補正量を求め、該位置補正量と前記位置検出部によって検出された前記調整レンズ群の位置とに基づいて前記駆動部を制御することを特徴とする請求項1ないし3のうちいずれか一項に記載のレンズ装置。
【請求項5】
光路に対する挿抜により焦点距離を変更する変倍レンズ群と、フランジバック調整のために可動の調整レンズ群と、該調整レンズ群を駆動する駆動部とを有するレンズ装置であって、
前記調整レンズ群の位置を検出する位置検出部と、
前記変倍レンズ群の前記挿抜の状態を検出する状態検出部と、
前記フランジバック調整時に前記状態検出部によって検出された第1状態を記憶する記憶部と、
前記第1状態、前記状態検出部によって検出された前記レンズ装置の第2状態、及び前記位置検出部によって検出された前記調整レンズ群の位置に基づいて前記駆動部を制御する制御部とを更に有することを特徴とするレンズ装置。
【請求項6】
請求項1ないしのうちいずれか項に記載のレンズ装置と、レンズ装置によって形成された像を撮る撮像素子とを有することを特徴とする撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズ装置および撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、レンズ装置と撮像装置本体とが分離可能な交換式である場合、レンズ装置と撮像装置本体との組み合わせによらず、フランジバック長が正しい値になるように設計されている。しかし、光学素子の物理特性のバラつきや構成部品の製造誤差等により、フランジバック長にずれが発生する場合がある。その場合、ズームレンズにおいては、焦点距離の変更に伴い、ピントずれが発生しうる。動画撮影用のズームレンズにおいては、ズームに伴うピントずれは、大きな支障となりうる。
【0003】
特許文献1は、レンズ群を光軸方向に移動させることによりフランジバック長のずれの補償(フランジバック調整)を行う光学機器を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平6-94966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
レンズ装置と撮像装置本体との組み合わせが同一である場合、一度フランジバック調整を行った後は、繰り返しの調整は行わずに撮影を継続することが多い。しかし、レンズ装置は、温度や湿度、気圧等の撮影環境が大きく変化した場合、光学素子等の構成部品の寸法変化や空気(レンズ前後の媒質)の屈折率の変化等により、バックフォーカス長が変化しうる。
【0006】
また、レンズ装置の仰角が大きく変化した場合も、重力の影響により構成部品間の間隔等が変化して、バックフォーカス長が変化しうる。バックフォーカス長が変化すると、フランジバック長がずれた場合と同様に、ズームに伴うピントずれが発生しうる。よって、特許文献1に開示された光学機器では、フランジバック調整後にバックフォーカス長が変化し、そのまま撮影を行ってしまう可能性がある。
本発明は、例えば、ピント合わせに有利なレンズ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明のレンズ装置は、フランジバック調整のために可動の調整レンズ群と、該調整レンズ群を駆動する駆動部と有するレンズ装置であって、前記調整レンズ群の位置を検出する位置検出部と、前記レンズ装置の状態を検出する状態検出部と、前記フランジバック調整時に前記状態検出部によって検出された第1状態と前記レンズ装置を用いた撮影時に前記状態検出部によって検出された第2状態との差分と、前記フランジバック調整後における前記調整レンズ群の位置補正量との関係を示す複数のデータテーブルを記憶する記憶部と、前記複数のデータテーブルの中から前記第1状態に対応するデータテーブルを選択し、該選択したデータテーブル、前記第1状態、前記第2状態、及び前記位置検出部によって検出された前記調整レンズ群の位置基づいて前記駆動部を制御する制御部とを更に有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、例えば、ピント合わせに有利なレンズ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の第1の実施形態におけるレンズ装置の構成概略図
図2】本発明の第1の実施形態におけるレンズ装置の処理のフローチャート
図3】本発明の第1の実施形態におけるレンズ装置の処理のフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の好ましい実施の形態を、図1図3に図示の実施例に基づいて説明する。
【実施例1】
【0011】
図1は本発明が適用されるレンズ装置の構成を表す概略図である。
レンズ装置1は複数のレンズ群2とレンズ群2を収容する鏡筒3を備える。レンズ群2の中には結像光学系2aと倍率変換光学系(変倍レンズ群)2bが構成される。
【0012】
結像光学系2aが結像鏡筒3aと一体的に光軸方向に可動であり、光軸方向に移動することでバックフォーカスが変化する。レンズ駆動部4は結像光学系2aと結像鏡筒3aを光軸方向に移動する。レンズ位置検出部5は結像鏡筒3aの位置を検出することで結像光学系2aの光軸方向の位置を検出する。レンズ駆動部4はレンズ位置検出部5の情報をもとに、制御情報6によって光軸方向の位置を調整する。倍率変換光学系2bを収容する倍率変換鏡筒3bは、倍率変換機構7により光路上への挿入・退避(挿抜)の切り替えを行うことでレンズ装置1の倍率(焦点距離範囲)を切り替える。倍率変換機構7には倍率の切り替えを検出する倍率検出部(状態検出部)8が備えられ、倍率変換光学系2bの位置(挿抜状態)を検出し、状態を制御部9に伝える。
【0013】
レンズ装置1には使用者がフランジバックを調整するフランジバック調整機構10が備えられている。フランジバック調整機構10はフランジバック調整モード切替部10a、フランジバック調整部10b、フランジバック調整操作量検出部10cで構成される。フランジバック調整モード切替部10aはフランジバック調整のための操作開始時に検出値がA、調整が完了した時の検出値がBになるように構成されている。フランジバック調整操作量検出部10cはフランジバック調整モード切替部10aの検出値がAの時に、フランジバック調整部10bの操作量を検出するように構成されている。フランジバック調整操作量検出部10cはレンズ装置1に備えられる制御部9に接続されている。制御部9はフランジバック調整操作量検出部10cの検出値に基づき結像光学系2aの移動量を算出し、レンズ駆動部4に制御情報6を送信する。
【0014】
レンズ装置1はレンズ装置内部の温度を検出する温度検出部11、レンズの姿勢を検出する姿勢検出部12、装着するアクセサリを検出するアクセサリ検出部13、装着する撮像装置を検出する撮像装置検出部14を備える。また、倍率検出部8の検出値、フランジバック調整操作量検出部10cの検出値、温度検出部11の検出値、姿勢検出部12の検出値、アクセサリ検出部13の検出値、撮像装置検出部14の検出値を記憶する記憶部15を備えている。記憶部15はテーブルリスト16を備える。テーブルリスト16は、レンズ装置1の状態が変化した時に、制御部9が制御情報6を作成するために使用する複数のデータテーブルを備える。さらに、レンズ装置1はバックフォーカスの距離が適切であるかを視覚的に表示できる表示部17を備える。
【0015】
本実施例のレンズ装置におけるデータ授受のフローを図2図3のフローチャートに基づいて説明する。
【0016】
本実施例において、温度検出部(状態検出部)11が温度T、姿勢検出部(状態検出部)12がレンズ姿勢P、アクセサリ検出部(状態検出部)13が装着アクセサリA、倍率検出部(状態検出部)8が倍率値E、撮像装置検出部(状態検出部)14が撮像装置Cを検出する。温度T、レンズ姿勢P、装着アクセサリA、倍率値E、撮像装置Cを総じてStatusと呼称する。
【0017】
図2において、レンズ装置1を撮像装置に装着した状態で電源を投入する(S101)と、記憶部15に記憶されている最新のフランジバック調整時の調整時検出値(第1状態)StatusおよびデータテーブルTableを制御部9が取得する(S102)。データテーブルTableには、フランジバック調整時の検出値Statusと撮影時の検出値(第2状態)Statusの差分と、結像光学系2aの位置(または、位置補正量)との関係を示すデータが格納され、前記差分に基づき結像光学系2aの位置(または、位置補正量)を算出するために必要なパラメータが格納されている。
【0018】
次に、各検出部の検出値Statusを制御部9が取得する(S103)。続いて、制御部9は検出値Statusに対応したデータテーブルTableを記憶部15に格納されたテーブルリスト16から取得する(S104)。計算に必要なパラメータは検出値Statusによって異なり、制御部9はテーブルリスト16にある複数のデータテーブルから検出値Statusに適切なデータテーブルTableを取得する。
【0019】
次に、フランジバック調整機構10のフランジバック調整モード切替部10aの検出値を制御部9が取得する(S105)。ここで、フランジバック調整モード切替部10aの検出値がAの場合(フランジバック調整を行う場合)、フランジバック調整部10bの位置Iをフランジバック調整操作量検出部10cが検出し、制御部9に伝える(S106)。
【0020】
制御部9は記憶部15に保存された前回調整時のフランジバック調整部10bの位置Iと現在の位置Iから操作量ΔI(=|I-I|)を算出する。続いて、制御部9は操作量ΔIとレンズ位置検出部5が検出するレンズ位置Lより、結像鏡筒3aの移動後の位置Lを算出し(S107)、制御情報6を発信する。レンズ駆動部4は制御情報6をもとに、結像鏡筒3aと一緒に結像光学系2aを光軸方向に移動する(S108)。
【0021】
移動後の結像鏡筒3aの位置Lをレンズ位置検出部5が検出する(S109)。
制御部9が結像鏡筒3aの実際の位置Lと算出した位置Lの誤差ΔL(=|L-L|)が閾値以下であるかを判定する(S110)。ΔLが閾値よりも大きい場合、制御部9は再びレンズ駆動部4に制御情報6を発信し、結像光学系2aを光軸方向に移動する(S108)。
【0022】
一方、ΔLが閾値以下である場合、表示部17にフランジバック調整が完了したことを表示し(S111)、記憶部15に保存されたStatusをStatusに、TableをTableに、IをIに更新する(S112)。
【0023】
記憶部15の値を更新した後は、再び各検出部の検出値を取得する処理(S103)に戻る。
処理(S105)において、フランジバック調整モード切替部10aの検出値がBの場合(フランジバック調整を行わない場合)を図3に示す。
【0024】
撮影時の検出値Statusの値をStatusとする(S113)。続いて、撮影時の検出値Statusと調整時の検出値Status、データテーブルTableから結像鏡筒3aの新規レンズ位置Lを算出する(S114)。制御部9は新規レンズ位置Lをもとにレンズ駆動部4に制御情報6を発信する。レンズ駆動部4は制御情報6をもとに結像光学系2aを光軸方向に移動する(S115)。
【0025】
移動後の結像鏡筒3aの位置Lをレンズ位置検出部5が検出し(S116)、制御部9が結像鏡筒3aの実際の位置Lと算出した位置Lの誤差ΔL’(=|L-L|)が閾値以下であるかを判定する(S117)。ΔL’が閾値よりも大きい場合、制御部9は再びレンズ駆動部4に制御情報6を発信する。レンズ駆動部4は制御情報6をもとに結像光学系2aを光軸方向に移動する(S115)。一方、ΔL’が閾値以下である場合、検出部の検出値Statusを制御部9が取得する処理(S103)に戻り、撮像装置の電源がOFFになるまでの間、上記フローの処理が繰り返し実行される(S118)。
【0026】
以上のレンズ装置の使用時における挙動について、以下に説明する。
レンズ装置1を撮像装置に装着し正しくフランジバック調整を行った時と、環境温度、レンズ姿勢、レンズ装置1に装着されたアダプタ、倍率変換光学系の位置、装着する撮像装置が同一条件であればバックフォーカスの変化は無い状態である。電源を再投入した場合においても、記憶部15に記憶したフランジバック調整時の条件と同一であれば、バックフォーカスの変化は無い状態である。
【0027】
フランジバック調整を実施した条件から温度、レンズの姿勢、装着アダプタの有無や種類、倍率変換光学系の位置などのレンズ状態の中から、少なくとも1つの条件が変化するとバックフォーカスの変化が生じる可能性がある。バックフォーカスの変化が生じると、レンズ駆動部4により結像鏡筒3aと一緒に結像光学系2aを光軸方向に移動し、適正なフランジバックの状態を維持する。
【0028】
上述のように本実施例のレンズ装置によれば、温度環境やレンズ姿勢の著しい変化、装着アダプタの変化や倍率変換光学系の位置の変化が発生しても、撮影者がフランジバックの再調整を行わずに適正なフランジバックの状態を維持することが可能になる。これにより、撮影者がバックフォーカスの変化によるピントずれに気付かずに撮影を行うことによる撮影機会の損失を防止することができる。
【0029】
また、フランジバック調整の精度を上げることができるため、より高品位な映像の撮影が可能になる。さらに、撮像装置検出部を備え、撮像装置に応じた最新のフランジバック調整値を記憶することで、撮像装置を付け替えた際のフランジバック調整を省略することができる。
【0030】
なお、本実施例では、レンズ装置のバックフォーカスの変化に影響を与える撮影条件として、温度、レンズ姿勢、アダプタ、倍率変換光学系をあげ、それぞれの検出部を備えているが、本発明の適用可能な検出部はこれに限らない。湿度や気圧の変化によってもレンズ装置のバックフォーカスは変化するため、検出部は湿度の変化や気圧の変化を検出する検出部でも構わない。
【0031】
上記の実施例で説明した本発明のレンズ装置と、該レンズ装置によって形成された像を撮る撮像素子とを有する撮像装置により、本発明の効果を有する撮像装置を実現することができる。
【0032】
(その他の実施例)
本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワークまたは記憶媒体を介してシステムまたは装置に供給し、そのシステムまたは装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサーがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【0033】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形および変更が可能である。
【符号の説明】
【0034】
1 : レンズ装置
2a: 結像光学系
4 : レンズ駆動部
5 : レンズ位置検出部
7 : 倍率検出部
9 : 制御部
11: 温度検出部
12: 姿勢検出部
15: 記憶部
図1
図2
図3