(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-07
(45)【発行日】2024-05-15
(54)【発明の名称】画像形成装置
(51)【国際特許分類】
G03G 15/16 20060101AFI20240508BHJP
【FI】
G03G15/16
(21)【出願番号】P 2020010051
(22)【出願日】2020-01-24
【審査請求日】2023-01-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 徹
【審査官】内藤 万紀子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-203901(JP,A)
【文献】特開平11-295948(JP,A)
【文献】特開2000-250375(JP,A)
【文献】特開2010-210779(JP,A)
【文献】特開2012-133217(JP,A)
【文献】特開2008-181071(JP,A)
【文献】特開平09-267946(JP,A)
【文献】特開2009-190812(JP,A)
【文献】特開2016-109976(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/16
G03G 21/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像を形成する画像形成手段と、
前記画像が転写される無端状のベルトと、
前記ベルトを張架する複数のベルト張架ローラと、
前記ベルトを搬送駆動する駆動手段と、
前記ベルト上の前記画像をシートに転写する転写手段と、
前記ベルトの搬送方向と直交する
幅方向のエッジの位置を検出する
ベルト位置検出手段と、
前記ベルトの前記エッジの形状に関するデータを記憶する記憶手段と、
前記記憶手段に記憶された前記データに基づき、前記ベルト位置検出手段の検出結果に含まれる前記エッジの形状による影響を除去する補正を行う補正手段と、
前記ベルトの前記エッジの形状の経時変化が原因の前記補正手段による前記補正の誤差を抑制するため、前記ベルトの回転周期で前記ベルト位置検出手段の検出結果に表れる変動を低減するノッチフィルタを用いて、フィルタ演算を実行する演算手段と、
前記ベルトの蛇行を抑制するように、前記複数のベルト張架ローラに含まれるステアリングローラの傾きを、前記補正手段による前記補正と前記演算手段による前記フィルタ演算とが実行された前記ベルト位置検出手段の検出結果に基づいて制御する制御手段と、を有することを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
前記演算手段は、前記補正手段による前記補正が実行された前記ベルト位置検出手段の検出結果に、前記ノッチフィルタを用いて、フィルタ演算を実行することを特徴とする請求項1記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記補正手段は、前記演算手段による前記フィルタ演算が実行された前記ベルト位置検出手段の検出結果を、前記記憶手段に記憶された前記データに基づき補正することを特徴とする請求項1記載の画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像形成装置における中間転写ベルトの幅方向の位置を補正する制御に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複写機やプリンタ等のタンデム型中間転写方式のカラー画像形成装置では、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)各色の画像を形成し、順次、無端状の中間転写ベルトに転写して記録材にカラー画像を形成している。画像形成中、中間転写ベルトは、感光体ドラムとともに周回駆動させられる。そのとき、中間転写ベルトの支持機構やベルト自身の機械的精度、トナー画像の転写や記録材の突入などの外乱によって、ベルトの寄りや蛇行が発生する。画像形成中、ベルトに寄りや蛇行が発生していると、YMCK各色間の転写位置ずれとなり、色ずれとなってしまう。これを抑制するために、ベルトのエッジ位置を検出するセンサ(エッジセンサ)を用いて、その検出結果に基づいてベルトを張架する複数あるローラの一部を傾動させ、ベルトの寄りや蛇行を補正する制御(ステアリング制御)が知られている。
【0003】
しかし、エッジセンサの検出情報には、ベルト製造のカット誤差などに起因したベルトのエッジ形状成分が含まれる。このベルトエッジ形状成分は、実際にはベルトが蛇行せずに真っ直ぐ搬送されていて色ずれには影響がない状態であっても、ベルト位置変動が発生しているように検出される成分である。この検出誤差に基づいてステアリング制御を行うと、逆にベルト位置を変動させてしまう。
【0004】
そこで、ベルト交換時など予めベルトエッジ形状を測定してそのデータを記憶しておき、エッジセンサの検出結果からエッジ形状成分を除去する方法が知られている(特許文献1)。また、ベルト1周のベルト位置データを平均化した値に基づき、エッジ形状成分を抑えてステアリング制御する技術が開示されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平11-298948号公報
【文献】特開2016-008988号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ベルトのエッジ形状は、装置の設置環境や使用状況、温湿度の変化、長期使用による経時的な塑性変形、ベルトの摩耗や亀裂といった劣化等によって変化する。このため特許文献1に記載の記憶したエッジ形状データを用いて補正を行う方法を用いる場合は、エッジ形状の経時変化に合わせてデータを更新する必要があり、再取得を行う必要がある。エッジ形状データの取得は、ステアリング制御や画像形成時の外乱の影響をなくすために、ステアリング制御をオフにし、画像形成を中断する必要がある。画像形成を中断させるため、生産性が低下してしまう。
【0007】
また、特許文献2に記載の技術のベルト1周のデータを平均化することは、ローパスフィルタ処理を行うのと等価であり、ステアリング制御の応答性が低下し、ベルト蛇行を抑える制御性能が低下する。
【0008】
そこで、本発明の目的は、ベルトエッジ形状の経時変化によるベルト蛇行を抑えることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、請求項1記載の画像形成装置は、画像を形成する画像形成手段と、前記画像が転写される無端状のベルトと、前記ベルトを張架する複数のベルト張架ローラと、前記ベルトを搬送駆動する駆動手段と、前記ベルト上の前記画像をシートに転写する転写手段と、前記ベルトの搬送方向と直交する幅方向のエッジの位置を検出するベルト位置検出手段と、前記ベルトの前記エッジの形状に関するデータを記憶する記憶手段と、前記記憶手段に記憶された前記データに基づき、前記ベルト位置検出手段の検出結果に含まれる前記エッジの形状による影響を除去する補正を行う補正手段と、前記ベルトの前記エッジの形状の経時変化が原因の前記補正手段による前記補正の誤差を抑制するため、前記ベルトの回転周期で前記ベルト位置検出手段の検出結果に表れる変動を低減するノッチフィルタを用いて、フィルタ演算を実行する演算手段と、前記ベルトの蛇行を抑制するように、前記複数のベルト張架ローラに含まれるステアリングローラの傾きを、前記補正手段による前記補正と前記演算手段による前記フィルタ演算とが実行された前記ベルト位置検出手段の検出結果に基づいて制御する制御手段と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ベルトエッジ形状の経時変化によるステアリング制御の誤補正を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】画像形成装置の全体構成を説明する図である。
【
図2】画像形成装置の制御構成を説明する図である。
【
図4】ステアリングローラ近傍を拡大した図である。
【
図5】ステアリングローラの傾動動作とベルト補正方向について説明する斜視図である。
【
図8】ベルトエッジ形状の経時変化を説明する図である。
【
図9】ノッチフィルタを実現する信号処理のブロック図である。
【
図10】ノッチフィルタ有無によるステアリング傾動動作の違いを示す図である。
【
図11】ノッチフィルタ有無による色ずれ評価結果を説明する図である。
【
図12】ノッチフィルタと移動平均の一巡伝達特性を示す図である。
【
図13】ノッチフィルタと移動平均(ゲイン調整後)の一巡伝達特性を示す図である。
【
図14】ノッチフィルタと移動平均(ゲイン調整後)の感度関数を示す図である。
【
図15】ノッチフィルタの実装位置を変更した場合のステアリング制御のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて詳細に説明する。
【0013】
<実施例1>
まず、
図1を参照して、本発明の実施形態に係る画像形成装置の構成について説明する。
画像形成装置100は、ネットワークを介して外部から受信した画像データに応じて、記録材S上に画像を形成して出力する装置である。
【0014】
まずは、画像データに基づいて感光ドラム1Y、1M、1C、1K上にトナー画像を形成する。トナー画像は、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)に分けられて形成されるが、各色トナー画像の形成方法は色が異なる以外は実質的に同一に構成される。したがって以下では、イエロー(Y)のトナー画像形成方法について説明し、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)のトナー画像形成については、説明中の構成部材についた符号の末尾YをM、C、Kに読み替えて説明されるものとする。
イエロー(Y)のトナー画像形成は、感光ドラム1Y、帯電器2Y、レーザスキャナ3Y、現像器4Y、一次転写ローラ5Yによって行われる。
【0015】
画像データに基づいて生成される画像信号が、レーザスキャナ3Yに入力される。レーザスキャナ3Yは、半導体レーザ及びポリゴンミラーを含み、入力された画像信号によって変調されたレーザ光を、半導体レーザから出力する。半導体レーザから出力されたレーザ光が、ポリゴンミラー、及びミラーを経由して感光ドラム1Yの表面に照射されることで、感光ドラム1Yが露光される。帯電器2Yによって表面が一様に帯電した感光ドラム1Yが露光されることで、感光ドラム1Y上に静電潜像が形成される。感光ドラム1Y上に形成された静電潜像が、現像器4Yから供給されるトナーによって現像されることで、感光ドラム1Y上にイエローのトナー像が形成される。感光ドラム1Y上のトナー像は、感光ドラム1Yの回転に伴って一次転写ローラ5Yと対向する位置T1まで移動する。一次転写ローラ5Yは図示しないバイアス電圧供給手段によって、トナーの帯電極性と逆極性の一次転写バイアスが印加されていて、この一次転写バイアスによって、トナー像を中間転写ベルト6に転写する。ドラムクリーニング装置7Yは、感光ドラム1Yにクリーニングブレードを摺擦させて感光ドラム1Yに残った転写残トナーを回収する。
【0016】
以上の各色のトナー画像形成が、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)でも行われる。そして、各色のトナー画像が中間転写ベルト6に順次重ねて転写されることで、フルカラーのトナー画像が形成される。フルカラーのトナー画像は中間転写ベルト6の搬送によって、二次転写ローラ8と対向ローラ9によって形成される二次転写部T2に移動する。
【0017】
記録材カセット10から引き出された記録材Sは、給紙ローラ11によって搬送経路上に給紙され、レジストローラ12に送り出される。レジストローラ12は、停止状態で記録材Sを受け入れて待機させ、中間転写ベルト6のトナー像にタイミングを合わせて二次転写部T2へ記録材Sを送り出す。
【0018】
トナー像と重ねて記録材Sが二次転写部T2で挟持搬送される過程で、二次転写ローラ8にバイアス電圧が印加されることにより、フルカラートナー像が中間転写ベルト6から記録材Sへ転写される。転写されずに中間転写ベルト6の表面に残った転写残トナーは、ベルトクリーニング装置13によって回収される。
【0019】
トナー像が転写された記録材Sは定着装置14に搬送され、定着装置において加熱加圧され、トナー像は記録材に定着される。定着後の記録材Sは、排紙ローラ15によって、装置外部に排出される。
【0020】
以上が、中間転写ベルト6を用いたタンデム型中間転写方式のカラー画像形成プロセスである。
【0021】
中間転写ベルトを用いてトナー像を像担持体から記録材へ間接的に転写する中間転写ベルト方式の利点は、ベルト上で各色トナー像の重ね合わせを行うので、湿度の変化等に伴う記録材の抵抗値の変動の影響を受けにくいことである。また、記録材に各色トナー像を直接転写する方式と比較して、カラー画像を形成する際のトナー像の転写条件の制御が容易となる。記録材の搬送系も簡易なものとなり、シートジャムの発生を抑制することができる。
【0022】
一方で、中間転写ベルト上で複数色のトナー像の重ね合わせを行うので、色ずれの無い高品位なカラー画像形成を行うためには、ベルトの位置変動(蛇行)を極力ゼロにすることが重要となる。ベルトが位置変動していると、YMCK各色の一次転写部をベルトが通過するときに各色トナー画像の重ね合わせがずれてしまい、色ずれになってしまう。これを抑えるためにステアリング制御と呼ぶベルト位置の安定化制御を行っている。ステアリング制御については後ほど詳しく説明する。
【0023】
<画像形成装置の制御構成>
次に画像形成装置の制御構成について説明する。
【0024】
図2は、画像形成装置100の制御構成例を示すブロック図である。
図2に示すシステムコントローラ150は、CPU150a、ROM150b、及びRAM150cを備え、画像形成装置100全体を制御する。システムコントローラ150は、画像処理部151、操作部152、アナログ・デジタル(A/D)変換器153、高圧制御部155、モータ制御部157、センサ類159、及びACドライバ160と接続されている。システムコントローラ150は、接続された各ユニットとの間でデータの交換が可能である。
【0025】
CPU150aは、ROM150bに格納された各種プログラムを読み出して実行することによって、予め定められた画像形成シーケンスに関連する各種シーケンスを実行する。RAM150cは、揮発性の記憶デバイスであり、CPU150aは、各種プログラムを実行するためのワークエリアとして、または各種データが一時的に格納される一時記憶領域として使用される。RAM150cには、例えば、高圧制御部155に対する設定値、モータ制御部157に対する指令値、操作部152から受信される情報等のデータが格納される。
【0026】
システムコントローラ150は、ユーザが各種の設定を行うための操作画面を、操作部152に設けられた表示部に表示するよう、操作部152を制御することで、操作部152を介してユーザによる設定を受け付ける。システムコントローラ150は、操作部152を介したユーザによる設定の内容(複写倍率の設定値、濃度設定値等)を示す情報を、操作部152から受信する。また、システムコントローラ150は、画像形成装置の状態をユーザに知らせるためのデータを操作部152に送信する。操作部152は、システムコントローラ150から受信したデータに基づいて、画像形成装置の状態を示す情報を表示部に表示する。
【0027】
システムコントローラ150(CPU150a)は、画像処理部151に対して、画像処理部151における画像処理に必要となる、画像形成装置100内の各デバイスの設定値データを送信する。また、システムコントローラ150は、各デバイスからの信号(センサ類159からの信号)を受信して、受信した信号に基づいて高圧制御部155を制御する。高圧制御部155は、システムコントローラ150から出力される設定値に基づいて、高圧ユニット156を構成する帯電器2Y、2M、2C、2K、現像器4Y、4M、4C、4K、及び一次転写ローラ5Y、5M、5C、5K、及び二次転写ローラ8に対して、それぞれの動作に必要となる電圧を供給する。
【0028】
A/D変換器153は、定着ヒータ161の温度を検出するためのサーミスタ154から検出信号を受信し、検出信号をデジタル信号に変換してシステムコントローラ150に送信する。システムコントローラ150は、A/D変換器153から受信したデジタル信号に基づいてACドライバ160を制御することで、定着ヒータ161の温度を、定着処理のための所望の温度に制御する。なお、定着ヒータは、定着装置14に含まれる、定着処理に用いられるヒータである。
【0029】
また、システムコントローラ150は、モータ制御部157を介して、各モータの駆動を制御する。システムコントローラ150は、制御対象のモータの位置や速度などの指令信号を生成し、モータ制御部157に出力する。モータ制御部157は、CPU150aから与えられる指令信号に従って、モータを駆動制御する。
【0030】
本特許の特徴である中間転写ベルトの位置の安定化制御であるステアリング制御も同様に、
図2に示す制御構成で実施される。中間転写ベルトの幅方向の位置を検出するセンサ159から得た情報をもとにシステムコントローラ150内のCPU150aが制御演算を行い、モータ制御部157を介してベルト位置を補正する機構を動作させるモータ158を駆動させる。
【0031】
以上のように、
図2に示すシステムコントローラ150が画像形成装置100を制御している。
【0032】
<ステアリング制御>
次に、本特許の特徴である中間転写ベルトの位置を制御するステアリング制御について説明する。
【0033】
画像形成時、中間転写ベルト6が蛇行していると、各色トナー画像をドラムからベルトに転写する際に位置ずれとなり、色ずれが発生してしまう。そこで、画像形成装置100では、中間転写ベルトの位置を安定化させるためにステアリング制御を行う。ステアリング制御は、ベルトを張架する複数のローラの内の一部のローラを傾動が可能なステアリングローラとして構成し、ベルトの位置を検出するセンサから得た位置情報をもとに、ステアリングローラの傾動方向及び傾動量を加減することによって、ベルトの幅方向の位置を補正する。
【0034】
具体的に、ステアリング制御を実現する中間転写ベルト駆動装置の構成について
図1を用いて説明する。駆動ローラ20、ステアリングローラ21、従動ローラ22・23、二次転写対向ローラ9、一次転写ローラ5Y、5M、5C、5Kが備えられており、これらのローラに対して中間転写ベルト6が回転可能に張架されている。駆動ローラ20は駆動モータ24と連結されており、図中矢印方向の駆動ローラ20の回転に従って中間転写ベルト6が搬送される。
【0035】
支持ローラ部材の一部である従動ローラ22・23は、ステアリングローラ21の傾動に伴う中間転写ベルト6の傾きの変化を遮断して、一次転写面を一定の水平状態に維持する。
【0036】
次にベルト位置検出手段について説明する。ベルト位置検出センサ25(エッジセンサ)を、ブラックの感光ドラム1Kと従動ローラ23の間に配置する。
図3(a)は中間転写ベルトをステアリングローラ21側から見たときの図である。また、
図3(b)はエッジセンサの詳細断面図である。スプリング25wの引張り力をもって接触子25xの一端側が中間転写ベルト6の端部に、圧接状態に保持されている。この場合、スプリング25wによる接触子25xの圧接力は、中間転写ベルト6を変形させない程度の適度な大きさに設定されている。また、接触子25xは、その中間部位を支軸25yにて回動自在に支持され、その支軸25yを境にした接触子25xの他端側に反射型フォトセンサである変位センサ25zが対向状態に配設されている。
【0037】
このエッジセンサ25においては、中間転写ベルト6の幅方向(図中のy方向)への位置変化が、そのベルトエッジに圧接する接触子25xの動き(揺動動作)に置き換えられる。このとき、接触子25xの動き(変位)に対応して変位センサ25zの出力レベルが変動するため、そのセンサ出力に基づいて中間転写ベルト6の幅方向の位置を連続的に検出することができる。
【0038】
次に、ステアリングローラ21の傾動動作について説明する。
図4は
図1のステアリングローラ21近傍を拡大した図である。ステアリングローラ21は、軸受ホルダ30によって回転自在に支持されている。また軸受ホルダ30はスライドレール31の可動側に固定されている。さらにスライドレール31の可動側の同じ面には、スライダ32が固定されている。一方、スライドレール31の固定側はステアリングアーム(支持部材)33に固定されている。また、スライダ32はステアリングアーム33にかけられたバネ(付勢部材)34によって矢印T方向に付勢されている。したがって、スライダ32はステアリングアーム33上をスライドし、この結果、ステアリングローラ21が矢印T方向に付勢され、中間転写ベルト6にテンションを与えている。
【0039】
一方、紙面手前側のステアリングアーム33は揺動軸35を中心に揺動可能に軸支されている。ステアリングアーム33上には、揺動軸35に対してステアリングローラ21とは対称の方向に、フォロワー36が軸支されている。また、フォロワー36に当接するようにカム37が設けられ、カム37はステアリングモータ(駆動手段)26によって回転可能に構成されている。ここで、カム37が
図3中の矢印A方向に回動すると、ステアリングアーム33のフォロワー36側は揺動軸35を中心に矢印C方向に回動し、この結果ステアリングローラ21側が矢印E方向に回動して、そのアライメントが変更される。これとは逆に、カム37が矢印B方向に回動すると、ステアリングアーム33のフォロワー36側は揺動軸35を中心に矢印D方向に回動し、この結果ステアリングローラ21側が矢印F方向に回動して、そのアライメントが変更される。
【0040】
このようにして
図5(a)(b)(c)にあるようにステアリングローラ21が回動する。ステアリングローラ21のアライメントが矢印E方向に変移すると中間転写ベルト6は紙面奧側に移動し、矢印F方向に変移すると中間転写ベルト6は紙面手前側に移動する。これは、ステアリングローラ21が傾くと、中間転写ベルト6のステアリングローラ21に対する巻き付きの開始位置と終了位置がベルトの軸方向でずれるようになり、ベルト搬送に伴って、ベルト位置が補正されていく原理を用いている。
【0041】
<ステアリング制御演算>
次にステアリング制御の演算処理について説明する。この演算処理は、
図2で示したシステムコントローラ150の中にあるCPU150bによって行われる。
図6に示す制御ブロック図、
図7に示すフローチャートを用いて詳しく説明する。
【0042】
図6に示す通りステアリング制御は、制御プラント50と、制御コントローラ51、エッジセンサ25、モータドライバ52とステアリングモータ26で構成される。
図6の制御プラント50は、ステアリング制御の制御対象であり、制御情報処理を表す制御ブロック図上では、数式や数値データによって表される。制御プラント50は、中間転写ベルト寄りプラント54、寄り外乱55、エッジ形状56で構成される。中間転写ベルト寄りプラント54は、ステアリングローラの傾動位置を入力とし、その入力に応じたベルト位置の応答を出力する伝達システムである。中間転写ベルト寄りプラント54に、寄り外乱55が加わり、画像に影響を及ぼすベルト位置となる。ステアリング制御では、このベルト位置を安定させることを目的としている。寄り外乱55は、中間転写ベルトの支持機構やベルト自身の機械的精度、トナー画像の転写や記録材の突入などの寄り力によって発生する外乱である。そのベルト位置に対して、さらにベルト製造のカット誤差などに起因したベルトのエッジ形状成分56が加わって、制御プラント50から出力される。エッジセンサ25はベルトエッジ形状56が加わったベルト位置情報を検出して、制御コントローラ51に出力するように構成されている。
【0043】
次に制御コントローラ51の処理について
図6と
図7を用いて説明する。印刷ジョブが開始されて、中間転写ベルト6を搬送する駆動モータ24の駆動が開始されると、
図7に示すステアリング制御の処理が呼び出される。
【0044】
まずエッジセンサ25から検出データを取得する(S101)。
【0045】
次に、プロファイル補正を行う(S102)。これは、エッジセンサの検出値に、ベルト製造のカット誤差などに起因したベルトのエッジ形状成分56が含まれる影響を取り除くための補正である。このベルトエッジ形状成分56を含んだ状態でベルト位置補正してしまうと、それは誤補正となり、逆にベルト位置が変動させ色ずれを発生させてしまう。そこで、ベルトエッジ形状56を予め測定して記憶部57で記憶しておき、エッジセンサ25の検出結果からエッジ形状成分56の除去をする。
【0046】
次に、本特許の特徴であるベルト1周の周波数成分を除去するノッチフィルタ処理を行う(S103)。これはベルトエッジ形状の経時変化によるプロファイル補正の誤差に反応して誤補正をしてしまうことを抑えるための処理である。
【0047】
ノッチフィルタの必要性と実現方法についてもう少し詳しく説明する。制御プラント50内のベルトエッジ形状56と、制御コントローラ51内のエッジ形状記憶部57の情報が一致していれば、プロファイル補正により、ベルトエッジ形状による検出ノイズは抑えられ、制御に影響を及ぼすことはない。しかし実際には、無端ベルトのエッジ形状は、装置の設置環境や使用状況による温湿度の変化、長期使用による経時的な塑性変形、ベルトの摩耗や亀裂といった劣化等の要因により変化することが分かった。
図8(a)は経時変化前後のベルトエッジ形状データである。
図8(b)は経時変化の差分をとって拡大した図である。特にベルト1周成分で大きな変化がある。このようにエッジ形状が経時変化していると、ベルトエッジ形状56と、エッジ形状データ記憶部57の情報が不一致となり、その差分がプロファイル補正誤差となってしまう。
【0048】
ステアリング制御のベルト位置補正が応答しにくい高い周波数であれば、プロファイル補正誤差に反応した誤補正によるベルト位置変動は小さく色ずれ悪化はわずかとなる。しかし、ベルト1周成分は低い周波数であり、制御が働いて大きな位置変動を起こすことが分かった。
【0049】
エッジ形状の経時変化に対応する方法として、エッジ形状データの再取得を行う方法が考えられるが、エッジ形状データ取得時は、不要な外乱を抑えるために、ステアリング制御をオフにし、画像形成していない状態で所得する必要があるため、画像形成装置の生産性低下となる。
【0050】
そこで本特許では、エッジ形状の再取得をせずに、ベルト形状の経時変化によるベルト蛇行発生を抑えるために、ベルト1周の周波数成分を除去するノッチフィルタを用いる。ノッチフィルタはある特定の周波数だけを通さず、それ以外の周波数を通すフィルタである。ノッチフィルタは
図9に示すようなIIRフィルタによる信号処理で実現できる。
図9の1/zは遅延器であり情報を保持するメモリである。
図9のゲインa1、a2、b0、b1、b2を調整することにより、所望の周波数帯を除去するノッチフィルタを実現することができる。
【0051】
フィードバックループ内にベルト1周成分の周波数帯を除去するノッチフィルタを用いることにより、ベルトエッジ形状56のベルト1周成分の経時変化によって生じたプロファイル補正誤差を、後段の処理であるPI制御器53に伝わることを抑え、ステアリング制御の誤補正を抑えることが可能となる。
【0052】
ノッチフィルタの処理の後は、一般のフィードバック制御の演算処理を行う。まず目標位置refと検出値を比較して偏差eを算出する(S104)。次に偏差eに基づいてPI制御器53を用いてステアリングモータ26の動作量を算出するPI制御演算を行う(S105)。これは一般的に良く用いられる比例制御と積分制御であり、PI制御器53の出力str_posは式(1)で表される。
【0053】
【数1】
式(1)のKpは比例ゲイン、Kiは積分ゲインである。
【0054】
str_posはステアリングモータの回転位置指令であり、制御コントローラ51はこの情報をモータドライバ52に出力する(S106)。モータドライバはこの指令に基づきステアリングモータ53を動作させる。ステアリングモータ26が回転すると、ステアリングローラ21の傾動動作になり、中間転写ベルト6の寄り位置が補正される。
【0055】
このS101~S106の処理は、中間転写ベルト6を搬送させる駆動モータ24が駆動している間は継続して繰り返し行われる(S107)。以上の処理により、印刷ジョブ中など中間転写ベルトの搬送駆動中にベルト位置を安定化させることができる。
【0056】
<ノッチフィルタの効果>
次に、本特許の特徴であるベルト1周の周波数成分を除去するノッチフィルタを用いた場合の効果について説明していく。
【0057】
図10は、ベルト1周の周波数成分をカットするノッチフィルタの有無によるステアリング制御動作の違いを表した図である。条件はどちらもベルト形状が経時変化している状態である。
図10の細線がノッチフィルタ無しの結果で、太線がノッチフィルタ有りの結果である。ノッチフィルタが無い場合はエッジ形状の経時変化に反応して、ベルト1周のステアリングローラの傾動動作が起きている。
【0058】
図11は、
図10で示したノッチフィルタの有無の制御状態での色ずれを評価した結果である。
図10同様に、細線がノッチフィルタ無しの結果で、太線のノッチフィルタ有りの結果である。ノッチフィルタが無い場合は、エッジ形状に反応して逆補正を行った結果色ずれが悪化している。ノッチフィルタがある場合は、ベルト1周のエッジ形状に対する反応を抑えているため、色ずれ発生を抑えている。
【0059】
このように、ベルト1周の周波数成分をカットするノッチフィルタをステアリング制御のフィードバックループ内に導入することで、ベルトエッジ形状の変化に起因した色ずれ発生を抑えることができる。
【0060】
ここで、ベルト1周成分を抑えの影響を抑えるために、ノッチフィルタではなくベルト1周の平均化(移動平均処理)する方法も考えられる。この場合もベルト1周成分の経時変化によるプロファイル補正誤差の影響を抑制することができる。しかし移動平均を用いた場合、低い周波数から位相が変化してしまい、制御安定性が悪化してしまう。詳しく説明する。
【0061】
図12はノッチフィルタを導入した場合と、ベルト1周の移動平均を行った場合の制御の一巡伝達特性である。ノッチフィルタを用いた場合を実線、移動平均を用いた場合を破線で表している。ベルト1周の周波数は4.8secであり、その周波数0.21Hzにおいて、どちらも伝達を遮断している。よって、どちらもベルト1周のプロファイル経時変化による影響を抑えることができる。
【0062】
次に、同じく
図12を用いて、安定性の指標となる位相余裕を比較する。位相余裕は、ゲインが0dBとなる周波数における位相が、-180degに対してあと何度余裕があるかを示した値であり、この値が小さいほど制御が不安定になる。ノッチフィルタを用いた場合のゲイン0dBにおける位相はP1で、位相余裕は60degある。一方、移動平均を用いた場合のゲイン0dBにおける位相はP2で、位相余裕は14degとなる。このように移動平均を用いた場合は、制御安定性が低くなってしまっている。制御安定性が低いと、ベルト位置に対する外乱が入力されたときに、大きな振動を繰り返す挙動となり、色ずれ悪化の原因となってしまう。
【0063】
そこで、移動平均を行った制御の安定性確保のためにPI制御器のゲインを下げることを考える。しかし、ゲインを下げると、制御応答性が落ちてしまい本来落としたい外乱を十分に抑えることができなってしまう。詳しく説明する。
【0064】
図13はノッチフィルタを用いた場合と、移動平均を行いかつゲインを調整した場合の一巡伝達特性である。安定性の指標となる位相余裕は、
図13のP1、P3に示すように、60degとなるようにゲイン調整した。その場合、応答性を表すゲイン0dBの周波数は、ノッチフィルタを用いた場合は約0.9Hzに対して、移動平均を用いた場合は約0.3Hzとなり、同じ安定性を確保した場合に移動平均を用いた場合は低くなってしまう。応答性が低くなる分だけ、ベルト寄り外乱に対する制御性能が落ちている。
【0065】
より明確に外乱抑制性能を見る方法として感度関数がある。感度関数は外乱が入ったときに制御が働くことでどれだけの値に抑えることができるかを表現した特性図である。たとえば
図6に示す寄り外乱55の変動が入力されたときに、制御が作用することによってベルト位置において変動がどのようになるかを表している。
図14に、ノッチフィルタを用いた場合と、移動平均を用いた場合の感度関数の比較を示す。一例として0.02Hzの周波数で100umの振幅の外乱が入ったときに、ノッチフィルタの場合は
図14のP4にあるように-12.8dBで87%低減の23umに抑えられるのに対し、移動平均を用いた場合は
図14のP5にあるように-2.8dBで28%低減の72umまでしか抑えられない。
【0066】
このように、ベルト1周の周波数成分をターゲットとしたノッチフィルタを用いることによって、ベルト1周の移動平均を用いた場合に比べて、制御安定性や外乱抑圧性能を落とすことなく、ベルト形状の経時変化に対応することができる。
【0067】
最後にプロファイル補正用のベルト形状データ取得とノッチフィルタの関係について述べる。ベルトの製造時のカット段差はステアリングローラの大きな動作となり、ベルト位置変動に影響を与える場合がある。その場合はノッチフィルタの使用とともに、ベルト1周成分以外についてはベルトエッジ形状データによる補正も同時に行うとよい。
【0068】
ベルトエッジ形状データ取得は、ベルトが寄り切らない程度に真っ直ぐ搬送されている状態でステアリング制御をオフにしてから、
図6に示すSWをオンして取得する。このとき
図6のように、データ取得をノッチフィルタ57の処理前の情報を用いて行う場合は、画像形成中のプロファイル補正もノッチフィルタの処理前に行う必要がある。これは、ノッチフィルタの前後でデータの多少なりとも位相ズレがあり、ベルト形状データ取得時と補正時でノッチフィルタの有無が一致してないと、補正誤差になってしまうからである。また、
図15に示すように、ベルト形状データ取得を、ノッチフィルタの処理後のデータに基づいて行う構成の場合は、プロファイル補正もノッチフィルタの処理後に行う必要がある。
【0069】
このように構成することで、プロファイル補正とノッチフィルタの効果を両立させることができる。
【符号の説明】
【0070】
S 記録材
6 中間転写ベルト
20 駆動ローラ
21 ステアリングローラ
22 従動ローラ(上流)
23 従動ローラ(下流)
24 駆動モータ
25 エッジセンサ
26 ステアリングモータ
53 PI制御器
54 中間転写ベルト寄りプラント
55 寄り外乱
56 ベルトエッジ形状
57 エッジ形状データ記憶部
58 ノッチフィルタ
100 画像形成装置